JP5720427B2 - 三塩化チタン溶液の製造方法、三塩化チタン溶液、および三塩化チタン溶液の保存方法 - Google Patents
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特許文献1には、アルゴン雰囲気下において四塩化チタン溶液を電解還元することにより三塩化チタン溶液が得られることが示されている。アルゴン雰囲気下において電解還元する理由は、三塩化チタンの酸化により酸化チタン(TiO2)が生成されることを抑制するためである。
三塩化チタン溶液は、図1に示す電解還元装置1を用いて四塩化チタン溶液を電解還元することにより製造する。
イオン交換膜6は塩素イオンを透過するものが採用される。イオン交換膜6としては、例えば、炭化水素系イオン交換膜「セレミオン(登録商標)AMV」(AGCエンジニアリング株式会社製)を用いることができる。
第1溶液10は、四塩化チタンと塩酸と酸化抑制剤とを含む水溶液である。
第1溶液10は、市販の四塩化チタン水溶液と塩酸と酸化抑制剤とを混合することにより得られる。塩酸は、第1溶液中の塩素イオン濃度を高くするためのもの(塩素イオン源)である。
例えば、塩酸のモル濃度は、チタンイオンのモル濃度(三価のチタンイオンのモル濃度と四価のチタンイオンのモル濃度との和)に対して2倍以上の所定値に設定される。塩酸濃度の設定値の上限は塩酸の溶解度の限界値に対応する値である。具体的には、塩酸のモル濃度の上限は10mol/lである。
第2溶液20としては、種々の電解液を用いることができるが、電解還元反応における電流密度を高めるため、塩素イオンが含まれることが好ましい。例えば、第2溶液20として、塩化アンモニウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、塩化チタン水溶液等を用いることができる。
陽極5と陰極4との間に2Vの電圧を印加し、電流密度を6mA/cm2とする。
陰極4上において四価のチタンイオンの還元反応が進行する。これにより、三価のチタンイオンが生成される。四価のチタンイオンの還元反応により、陰極室2内電位が低くなる。このため、陽極室3から陰極室2に向う方向に電流が流れる。すなわち、陰極室2から陽極室3に向って陰イオンが移動する。両室はイオン交換膜6により仕切られているため、塩素イオンのみが移動する。陽極5においては塩素イオンの酸化反応が進行し、塩素ガスが生成される。
次に、陽極室3と陰極室2との間の浸透圧の調整について説明する。
三塩化チタン溶液の製造効率を上げるために、陰極室2内の四塩化チタンの濃度および塩酸の濃度を高くする。陰極室2の塩酸の濃度が高いときすなわち水素イオンの濃度が高いとき、陰極室2から陽極室3に水が浸透する逆浸透現象が生じる。この現象を放置すると、陰極室2の容液量が少なくなり、三塩化チタンの精確なモル濃度を定量的に測定することができなくなる。すると、四塩化チタンから三塩化チタンへの変換率を把握することができなくなり、三塩化チタンの生産管理が困難となる。
三価のチタンイオンの量は滴定等により濃度を測定することはできるが、四価のチタンイオンの濃度を測定することは困難である。
陰極室2の容液量が少なくなると三塩化チタンの濃度が高く。しかし、陰極室2の容液量の減少量を精確に把握することができなければ、容液量に起因して三塩化チタンの濃度が高くなったのか、還元反応の反応速度の増大に起因するものであるか、判別することは困難である。このようなことから陰極室2の容液量が変動するとき、四塩化チタンから三塩化チタンへの変換率を精確に把握することが困難となる。
次に、三塩化チタン溶液の保存方法について説明する。
(A)上記方法により製造した場合、生産物である三塩化チタン溶液内に酸化抑制物が含まれるため、上記製造方法により生成した溶液を容器に入れ密封するだけで、長期保存することができる。例えば、密封容器にいれた場合は、5箇月以上の期間保存しても酸化チタンの沈殿は生じない。
アルゴン雰囲気下で四塩化チタン溶液を電解還元することにより、三塩化チタン溶液を生成することができる。この場合、容器に入れて長期保存したとき、内部に残存する酸素により、酸化チタンが生成される。
酸化抑制剤を添加していない三塩化チタン溶液(比較例の溶液)と、酸化抑制剤を添加したい三塩化チタン溶液(実施例の溶液)とを比較して、効果を確認した。
比較の試料および保存条件について以下に示す。
・試料 :三塩化チタンと塩酸とを含む水溶液
・三塩化チタンのモル濃度:0.50mol/l
・塩酸のモル濃度 :1.25mol/l
・酸化抑制剤の添加量 :なし
・保存量 :100ml
・容器内の残存空気量 :20ml
・保存温度 :室温(15℃〜25℃)
<比較例の長期保存後の状態>
長期保存(保存開始後3600時間)経過後の状態について以下に示す。
・三塩化チタンのモル濃度:0.457mol/l
・初期モル濃度に対する三価のチタンイオンのモル濃度(変化率):91%
・長期保存後の状態 :酸化チタン(TiO2)の沈殿物が生成された。
試料は次の点以外は比較例と同様である。
・酸化抑制剤 :クエン酸三ナトリウム
・酸化抑制剤のモル濃度 :0.10mol/l
・三価のチタンイオンのモル濃度に対する酸化抑制剤のモル濃度比:0.2
<実施例1の長期保存後の状態>
長期保存(保存開始後3600時間)経過後の状態について以下に示す。
・三塩化チタンのモル濃度:0.484mol/l
・初期モル濃度に対する三価のチタンイオンのモル濃度(変化率):97%
・長期保存後の状態:酸化チタン(TiO2)の沈殿物は生成されなかった。
試料は次の点以外は比較例と同様である。
・酸化抑制剤 :クエン酸三ナトリウム
・酸化抑制剤のモル濃度 :0.20mol/l
・三価のチタンイオンのモル濃度に対する酸化抑制剤のモル濃度比:0.4
<実施例2の長期保存後の状態>
長期保存(保存開始後3600時間)経過後の状態について以下に示す。
・三塩化チタンのモル濃度:0.486mol/l
・初期モル濃度に対する三価のチタンイオンのモル濃度(変化率):97%
・長期保存後の状態:酸化チタン(TiO2)の沈殿物は生成されなかった。
・実施例1と実施例2では、酸化チタン(TiO2)は生成されないが、三価のチタンイオンのモル濃度が保存開始時に比べて低下している。この低下の割合は、比較例よりも小さい。三価チタンイオンの酸化の度合いが小さいことは、酸化抑制剤による効果であると考えられる。
実施例1は、実施例2よりも酸化抑制剤のモル濃度は低いが、保存開始から3600時間経過後の三価のチタンイオンの変化率は略同じであった。すなわち、0.2mol以上では、酸化抑制効果は、三塩化チタン溶液に加える酸化抑制剤のモル濃度の大きさに依存しない。
三塩化チタン溶液の用い方について説明する。
従来、還元剤として三塩化チタン溶液を用いる場合、目的物の収率を挙げるため、不活性ガス雰囲気で当該三塩化チタン溶液を用いていた。しかし、三塩化チタン溶液を用いる反応系に不活性ガスを流し続ける必要があること、当該反応系を密封する必要があることなど、生産上の不便があった。これに対して、上記構成の三塩化チタン溶液すなわち酸化抑制剤を含む三塩化チタン溶液は、酸化が抑制されるため、空気雰囲気でも用いることができる。したがって、三塩化チタン溶液を用いるとき、従来のように反応系を不活性ガス雰囲気にする必要がない。このため、生産ラインを簡易なものとすることができる。
(1)上記実施形態の三塩化チタン溶液の製造方法では、陰極側の電解液として、四塩化チタンと、酸化抑制剤と、塩素イオンとを含む第1溶液10を用い、第1溶液10を電気還元することにより、三塩化チタンを含む水溶液を形成する。このように酸化抑制剤を陰極側の第1溶液10に加えるため、三価のチタンイオンの酸化を抑制することができる。これにより、従来方法よりも簡易な方法で三塩化チタン溶液を製造することができる。
すなわち、陰極側の第1溶液10に酸化抑制剤を加えて陰極室2と陽極室3との間における酸化抑制剤の濃度差を形成することにより、陰極室2の塩酸濃度が高いことに起因して生じる陰極室2から陽極室3への逆浸透を抑制することができる。
なお、本発明の実施態様は上記実施例にて示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。
三塩化チタンと、塩素イオンとを含む水溶液を第3溶液とし、塩素イオンを溶解する電解液を第4溶液とする。陰極側の電解液として第3溶液を用いるとともに陽極側の電解液として第4溶液を用いて電気還元する。これにより、三塩化チタンを含む水溶液を形成する。そして、三塩化チタンを含む水溶液に上記酸化抑制剤を加える。すなわち、三塩化チタンを含む水溶液を形成した後に、酸化抑制剤を加える。これにより、本実施形態に準じた効果を奏する。
上記製造方法の第1変形例では、三塩化チタンを含む水溶液を電解還元法により形成しているが、三塩化チタンを含む水溶液を当該方法以外の製造方法により製造してもよい。例えば、チタンと塩酸との反応により生成したものを純水に溶解することにより、三塩化チタンを含む水溶液を形成することができる。
Claims (11)
- 四塩化チタンと、三価のチタンイオンの酸化を抑制する酸化抑制剤と、塩素イオンとを含む水溶液を第1溶液とし、
塩素イオンを溶解する電解液を第2溶液として、
陰極側の電解液として前記酸化抑制剤が2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸またはこのカルボン酸の塩である前記第1溶液を用い、陽極側の電解液として前記第2溶液を用いて電気還元することにより三塩化チタンを含む水溶液を生成する
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。 - 四塩化チタンと、塩素イオンとを含む水溶液を第3溶液とし、
塩素イオンを溶解する電解液を第4溶液として、
陰極側の電解液として前記第3溶液を用い、陽極側の電解液として前記第4溶液を用いて電気還元することにより、三塩化チタンを含む水溶液を生成し、当該三塩化チタンを含む水溶液に、三価のチタンイオンの酸化を抑制する酸化抑制剤として2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸またはこのカルボン酸の塩を加える
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。 - 請求項2に記載の三塩化チタン溶液の製造方法において、
前記陰極側と前記陽極側とが陰イオン交換膜により隔てられており、
前記陰極側から前記陽極側への第1浸透圧と、前記陽極側から前記陰極側への第2浸透圧とを均衡させるための浸透圧調整剤を前記陰極側の溶液に加えることにより、前記陽極側から前記陰極側への浸透を引き起こし、前記陰極側から前記陽極側への浸透圧の増大を抑制する
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。 - 請求項3に記載の三塩化チタン溶液の製造方法において、
前記浸透圧調整剤は、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、若しくはこれらの塩、またはこれら酸およびこれら塩の混合物である
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。 - 請求項1〜4のいずれか一項に記載の三塩化チタン溶液の製造方法において、
前記酸化抑制剤は、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、若しくはこれらの塩、またはこれらの混合物である
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。 - 請求項1〜5のいずれか一項に記載の三塩化チタン溶液の製造方法において、
前記酸化抑制剤のモル濃度は前記陰極側の溶液中の三価のチタンイオンおよび四価のチタンイオンのモル濃度の和に対して0.1倍以上である
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。 - 請求項1〜6のいずれか一項に記載の三塩化チタン溶液の製造方法において、
陰極側の溶液中の塩素イオン源として塩酸を用い、
前記塩酸のモル濃度を、10mol/l以下かつ三価のチタンイオンおよび四価のチタンイオンのモル濃度の和に対して2倍以上とする
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の製造方法。 - 溶媒としての水と、三塩化チタンと、三価のチタンイオンの酸化を抑制する酸化抑制剤とを含み、この酸化抑制剤は2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸またはこのカルボン酸の塩であることを特徴とする三塩化チタン溶液。
- 請求項8に記載の三塩化チタン溶液において、
前記酸化抑制剤は、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、若しくはこれらの塩、またはこれらの混合物である
ことを特徴とする三塩化チタン溶液。 - 3価のチタンイオンを含む三塩化チタン溶液に、酸化抑制剤として2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸またはこのカルボン酸の塩を加え、密封することを特徴とする三塩化チタン溶液の保存方法。
- 請求項10に記載の三塩化チタン溶液の保存方法において、
前記酸化抑制剤は、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、若しくはこれらの塩、またはこれらの混合物である
ことを特徴とする三塩化チタン溶液の保存方法。
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