以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
図1は本発明を適用する車両の一例を示すが略構成図(スケルトン図)である。
この例の車両は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式を基本とするスタンバイ四輪駆動方式を採用したハイブリッド車両HVであって、車両走行用の駆動力を発生するエンジン1、主に発電機として機能する第1モータジェネレータMG1、主に電動機として機能する第2モータジェネレータMG2、動力分割機構2、変速機3、トランスファ4、リアプロペラシャフト5、リアデファレンシャル装置6、駆動輪(後輪)7、フロントプロペラシャフト8、フロントファレンシャル装置(図示せず)、及び、従動輪(前輪:図示せず)などを備えている。また、制御系として、ハイブリッドECU(Electronic Control Unit)100、エンジンECU200、及び、MG_ECU300などを備えている。これら、ハイブリッドECU100と、エンジンECU200と、MG_ECU300とは互いに通信可能に接続されている。
なお、上記モータジェネレータMG1,MG2、動力分割機構2、及び、変速機3については、軸心に対して略対称的に構成されているので、図1のスケルトン図では下側半分を省略している。
次に、エンジン1、モータジェネレータMG1,MG2、動力分割機構2、変速機3、トランスファ4、及び、ECU100,200,300などの各部について以下に説明する。
−エンジン−
エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、例えば、吸気通路に設けられたスロットルバルブ(図示せず)のスロットル開度(吸気空気量)、燃料噴射量、点火時期などの運転状態を制御できるように構成されている。エンジン1の運転状態はエンジンECU200によって制御される。エンジンECU200はハイブリッドECU100からの出力要求に応じて、上記した吸入空気量制御、燃料噴射量制御、及び、点火時期制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。
エンジン1の出力は、クランクシャフト11及びダンパ(図示せず)を介して動力分割機構2の入力軸2Aに伝達される。上記ダンパは、例えばコイルスプリング式トランスアクスルダンパであってエンジン1のトルク変動を吸収する。エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11の回転数はエンジン回転数センサ101によって検出される。
−モータジェネレータ−
第1モータジェネレータMG1は、動力分割機構2の入力軸2Aに対して回転自在に支持された永久磁石からなるロータMG1Rと、3相巻線が巻回されたステータMG1Sとを備えた交流同期発電機であって、発電機(ジェネレータ)として機能するとともに電動機(電動モータ)としても機能する。また、第2モータジェネレータMG2も同様に、永久磁石からなるロータMG2Rと、3相巻線が巻回されたステータMG2Sとを備えた交流同期発電機であって、電動機(電動モータ)として機能するとともに発電機(ジェネレータ)としても機能する。
これらの第1モータジェネレータMG1及び第2モータジェネレータMG2には、それぞれ、ロータMG1R,MG2Rの回転角度(電動機回転軸の回転角度)を検出するMG1回転数センサ(レゾルバ)107及びMG2回転数センサ(レゾルバ)108(図2参照)が設けられている。これら回転数センサ107,108は、各モータジェネレータMG1,MG2の各回転角度を高精度かつ高い応答性で検出することができ、その各回転数センサ107,108にて検出された回転角度から、各モータジェネレータMG1,MG2の回転数[rpm]を得ることができる。これら回転数センサ107,108の出力信号(回転角度検出値)は、ハイブリッドECU100に入力され、各モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御などに用いられる。
図2に示すように、第1モータジェネレータMG1、及び、第2モータジェネレータMG2は、それぞれ、インバータ301を介してバッテリ(蓄電装置)302に接続されている。インバータ301はMG_ECU300によって制御される。
インバータ301は、各モータジェネレータMG1,MG2のそれぞれの制御用のIPM(Intelligent Power Module:インテリジェントパワーモジュール)を備えている。その各IPMは、複数(例えば6個)の半導体スイッチング素子(例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などによって構成されている。
MG_ECU300は、ハイブリッドECU100からの出力要求に応じてインバータ301を制御して、各モータジェネレータMG1,MG2の力行または回生を制御する。具体的には、例えば、バッテリ302からの直流電流を、モータジェネレータMG1,MG2を駆動する交流電流に変換する一方、エンジン1の動力により第1モータジェネレータMG1で発電された交流電流、及び、回生ブレーキにより第2モータジェネレータMG2で発電された交流電流を、バッテリ302を充電するための直流電流に変換する。また、第1モータジェネレータMG1で発電された交流電流を走行状態に応じて、第2モータジェネレータMG2の駆動用電力として供給する。
−動力分割機構−
動力分割機構2は、図1に示すように、外歯歯車のサンギヤS0と、このサンギヤS0に対して同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤR0と、これらサンギヤS0とリングギヤR0とに噛み合う複数のピニオンギヤP0と、この複数のピニオンギヤP0を自転かつ公転自在に保持するプラネタリキャリアCA0とを備え、これらプラネタリキャリアCA0(第1回転要素)、サンギヤS0(第2回転要素)、及び、リングギヤR0(第3回転要素)を回転要素として差動作用を行う遊星歯車機構である。
図1の動力分割機構において、プラネタリキャリアCA0は入力要素であって、このプラネタリキャリアCA0は入力軸2A及び上記ダンパを介してエンジン1のクランクシャフト11に連結されている。また、サンギヤS0は反力要素であり、このサンギヤS0には第1モータジェネレータMG1のロータMG1R(回転軸)が回転一体に連結されている。そして、リングギヤR0が出力要素となっており、このリングギヤR0にリングギヤ軸2Bが連結されている。リングギヤ軸2Bは、変速機3の入力軸3Aに回転一体に連結されている。
図3(a)に動力分割機構2の共線図を示す。この図3(a)の共線図において、各縦軸(3本)は、図中左から順に、それぞれ、サンギヤS0(MG1)の回転速度、プラネタリキャリアCA0(エンジン1)の回転速度、リングギヤR0(出力)の回転速度を表す軸であり、そのS0軸とCA0軸との間隔を「1」としたとき、CA0軸とR0軸との間隔がギヤ比ρ0(サンギヤS0の歯数ZS0/リングギヤR0の歯数ZR0)となるように設定されている。
そして、このような構成の動力分割機構2において、プラネタリキャリアCA0に入力されるエンジン1の出力トルクに対して、第1モータジェネレータMG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素であるリングギヤR0には、エンジン1から入力されたトルクより大きいトルクが現れる。この場合、第1モータジェネレータMG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度(出力軸回転数)が一定であるとき、第1モータジェネレータMG1の回転速度を上下に変化させることにより、エンジン1の回転速度を連続的に(無段階に)変化させることができる。
このように、動力分割機構2が差動機構として機能し、その差動作用によって、エンジン1からの動力の主部を駆動輪7に機械的に伝達し、そのエンジン1からの動力の残部を第1モータジェネレータMG1から第2モータジェネレータMG2への電気パスを用いて電気的に伝達することにより、電気的に変速比が変更される変速機(電気式無段変速機)としての機能が発揮されるようになっている。これにより、駆動輪7に要求される駆動力を得ながらも、燃料消費率が最適化されたエンジン1の運転状態(最適燃費動作ライン上での運転状態)を得ることが可能となる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
−変速機−
変速機3は、図1に示すように、エンジン1と駆動輪4との間(動力分割機構とトランスファ4との)の動力伝達経路に設けられている。変速機3は、動力分割機構2から入力軸3Aに入力される回転動力を変速して出力軸3Bに出力する。変速機3の出力軸3Bはトランスファ4、リアプロペラシャフト5、及び、リアデファレンシャル装置6等を介して駆動輪7に連結されている。変速機3の出力軸3Bの回転数は出力軸回転数センサ102によって検出される。この出力軸回転数センサ102の各出力信号はハイブリッドECU100(図2参照)に入力される。
変速機3は、第1遊星歯車機構31、第2遊星歯車機構32、第1〜第3クラッチC1〜C3、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2、ワンウェイクラッチF1などによって構成されている。
第1遊星歯車機構31は、シングルピニオン型の歯車式遊星機構であって、サンギヤS1、互いに噛み合う複数のピニオンギヤP1、これら複数のピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持するプラネタリキャリアCA1、及び、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備えている。
第2遊星歯車機構32も同様に、シングルピニオン型の歯車式遊星機構であって、サンギヤS2、互いに噛み合う複数のピニオンギヤP2、これら複数のピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持するプラネタリキャリアCA2、及び、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。
第1遊星歯車機構31のプラネタリキャリアCA1は第2遊星歯車機構32のリングギヤR3に連結されており、そのリングギヤR2と一体的に回転駆動可能となっている。リングギヤR1は第2遊星歯車機構32のプラネタリキャリアCA2に連結されており、そのプラネタリキャリアCA2と一体的に回転駆動可能となっている。
第1遊星歯車機構31のサンギヤS1は第3クラッチC3介して上記動力分割機構2のリングギヤ軸2B(入力軸3A)に選択的に連結されており、その第3クラッチC3が係合状態になるとサンギヤS1はリングギヤ軸2Bと一体的に回転する。第3クラッチC3が解放状態になると、サンギヤS1はリングギヤ軸2Bに対して相対回転可能な状態になる。
また、サンギヤS1は、第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース30に選択的に連結されており、その第1ブレーキB1が係合状態になるとサンギヤS1の回転が停止され、第1ブレーキB1が解放状態になるとサンギヤS1は回転可能な状態になる。
第1遊星歯車機構31のプラネタリキャリアCA1は第2クラッチC2を介して上記動力分割機構のリングギヤ軸2B(入力軸3A)に選択的に連結されており、その第2クラッチC2が係合状態になるとプラネタリキャリアCA1はリングギヤ軸2Bと一体的に回転する。第2クラッチC2が解放状態になると、プラネタリキャリアCA1はリングギヤ軸2Bに対して相対回転可能な状態になる。
第2遊星歯車機構32のサンギヤS2は、第1クラッチC1介して上記動力分割機構のリングギヤ軸2B(入力軸3A)に選択的に連結されており、その第1クラッチC1が係合状態になるとサンギヤS2はリングギヤ軸2Bと一体的に回転する。第3クラッチC3が解放状態になると、サンギヤS2はリングギヤ軸2Bに対して相対回転可能な状態になる。
第2遊星歯車機構32のリングギヤR2は、第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース30に選択的に連結されており、その第2ブレーキB2が係合状態になるとリングギヤR2の回転が停止され、第2ブレーキB2が解放状態になるとリングギヤR2は回転可能な状態になる。さらに、このリングギヤR2及び第1遊星歯車機構31のプラネタリキャリアCA1はワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース30に連結されており、これらリングギヤR2及びプラネタリキャリアCA1の逆回転が阻止されている。
そして、第2遊星歯車機構32のプラネタリキャリアCA2が出力軸3Bに連結されており、そのプラネタリキャリアCA2と出力軸3bとが一体的に回転する。
以上の第1〜第4クラッチC1〜C4、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2は、いずれも油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)によって摩擦係合させられる湿式多板摩擦係合装置(摩擦係合要素)であって、これらクラッチC1〜C4及びブレーキB1,B4の係合または解放は、油圧回路500及びハイブリッドECU100(図1及び図2参照)によって制御される。
図4は、第1〜第3クラッチC1〜C3、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2、ワンウェイクラッチF1における係合状態または解放状態と各変速段(1st〜4th,Rev,N)との関係を示す係合表である。図4の係合表において、○印は「係合状態」を示し、空白は「解放状態」を示している。
この図4の係合表及び図3(b)の共線図を参照して変速機3の各変速段について説明する。なお、図3(b)の共線図において、各縦軸(4本)は、図中左から順に、それぞれ、サンギヤS2(入力)の回転速度、プラネタリキャリアCA2とリングギヤR1(出力)の回転速度、プラネタリキャリアCA1(入力)の回転速度、リングギヤR2とサンギヤS1の回転速度を表す軸である。
・第1変速段(1st)
この変速段(前進1速)においては、第1クラッチC1及びワンウェイクラッチF1のみが係合状態とされる。第1クラッチC1が係合状態になると、第2遊星歯車機構32のサンギヤS2に動力分割機構のリングギヤ軸2Bの回転が伝動される。また、第2遊星歯車機構32のプラネタリギヤCA2にあっては、ワンウェイクラッチF1によりリングギヤR2の逆回転が止められることにより、サンギヤS2からの入力回転が減速されて、プラネタリキャリアCA2の回転として出力される。
・第2変速段(2nd)
この変速段(前進2速)においては、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1のみが係合状態とされる。第1クラッチC1が係合状態になると、第2遊星歯車機構32のサンギヤS2に動力分割機構のリングギヤ軸2Bの回転が伝動される。また、第1ブレーキB1が係合状態になることにより、第1遊星歯車機構31サンギヤS1の回転が止められる。このサンギヤS1の回転停止により、第2遊星歯車機構32のサンギヤS2からの入力回転が減速されて、第2遊星歯車機構32のキャリアCA2の回転として出力される。この状態における減速比は、上記第1変速段より小さくなる。
・第3変速段(3rd)
この変速段(前進3速)においては、第1クラッチC1及び第2クラッチC2のみが係合状態とされる。第1クラッチC1が係合状態になると、第2遊星歯車機構32のサンギヤS2に動力分割機構のリングギヤ軸2Bの回転が伝動される。また、第2クラッチC2が係合状態になると、第2遊星歯車機構32のサンギヤS2とリングギヤR2との回転速度が同じとなるため、この第2遊星歯車機構32は固定状態となる。これにより、動力分割機構のリングギヤ軸2B(入力軸3A)の回転がそのまま出力軸3Bに伝達される、いわゆる直結状態となる。
・第4変速段(4th)
この変速段(前進4段)においては、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1のみが係合状態とされる。第2クラッチC2が係合状態になると、第1遊星歯車機構31のプラネタリキャリアCA1に動力分割機構のリングギヤ軸2Bの回転が伝動される。また、第1ブレーキB1が係合状態になることにより、第1遊星歯車機構31サンギヤS1の回転が止められる。このサンギヤS1の回転停止により、プラネタリキャリアCA1からの入力回転が増速されて、リングギヤR1の回転として出力される。
・リバース段(Rev)
この後進段においては、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2のみが係合状態とされる。第3クラッチC3が係合状態になると、第1遊星歯車機構31のサンギヤS1に動力分割機構のリングギヤ軸2Bの回転が伝動される。また、第2ブレーキB2が係合状態になることにより、第1遊星歯車機構31のプラネタリキャリアCA1の回転が止められる。このプラネタリキャリアCA1の回転停止により、サンギヤS1からの入力回転が逆回転されて、リングギヤR1の回転として出力される。
・ニュートラルレンジ(N)
ニュートラルレンジでは、クラッチC1〜第4クラッチC3及びブレーキB1,B2の全てが解放状態とされ、動力伝達が遮断される。また、パーキングレンジにおいても、クラッチC1〜第4クラッチC3及びブレーキB1,B2の全てが解放状態とされる。ただし、パーキングレンジにおいては、例えばパーキングロック機構(図示せず)によって出力軸3Bの回転が機械的に固定される。
ここで、本実施形態に適用する変速機3は、図4の係合表に示すように、変速比が最も大きな前進変速である第1変速段(前進1速:1st)の変速比が、リバース段(Rev)の変速比よりも大きな変速機である。
−トランスファ−
次に、トランスファ4について図5を参照して説明する。
トランスファ4は、図1に示すように、上記変速機3とリアデファレンシャル装置6との間の動力伝達経路に設けられている。トランスファ4の入力軸4Aは変速機3の出力軸3Bに回転一体に連結されており、出力軸4Bはリアプロペラシャフト5に回転一体に連結されている。
トランスファ4は、副変速部41及び駆動モード切替部42などを備えている。副変速部41及び駆動モード切替部42について以下に説明する。
(副変速部)
まず、上記トランスファ4の副変速部41について説明する。
副変速部41は、変速モード切替スイッチ121(図2参照)の操作(運転者による操作)に応じて、通常走行に用いる通行走行変速段(以下、Hiレンジともいう)と、その通常変速段よりも変速比が大きな低速側変速段(以下、Loレンジともいう)とを選択的に切り替えるための変速機構部である。
この例の副変速部41は、遊星歯車機構41A及び変速モード切替部41Bなどによって構成されている。
遊星歯車機構41Aは、図5に示すように、外歯歯車のサンギヤS3と、このサンギヤS3に対して同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤR3と、これらサンギヤS0とリングギヤR0とに噛み合う複数のピニオンギヤP3と、この複数のピニオンギヤP3を自転かつ公転自在に保持するプラネタリキャリアCA3とを備え、これらプラネタリキャリアCA3、サンギヤS3、及び、リングギヤR3を回転要素(第1〜第3の回転要素)として差動作用を行う遊星歯車機構である。
遊星歯車機構41AのサンギヤS3は入力軸4Aに連結されており、その入力軸4Aを一体的に回転する。リングギヤR3は、トランスファケース40に一体的に固定されており、回転不能である。
変速モード切替部41Bは、図5に示すように、ローギヤピース(内歯歯車)411、ハイギヤピース(外歯歯車)412、クラッチスリーブ413、連結ギヤピース(外歯歯車)414、及び、変速モード切替アクチュエータ410(図2参照)などによって構成されている。ローギヤピース411は遊星歯車機構41AのプラネタリキャリアCA3に一体回転可能に連結されている。ハイギヤピース412は入力軸4Aに一体回転可能に連結されている。
クラッチピース413は、出力軸4Bの軸方向にスライド自在に設けられている。クラッチピース413には、ハイギヤピース412及び連結ギヤピース414の両方または連結ギヤピース414のみに噛み合うことが可能なロングギヤ(内歯歯車)413aが設けられている。また、クラッチピース413には、ローギヤピース411のみに噛み合うことが可能なショートギヤ(外歯歯車)413bが設けられている。
そして、クラッチピース413は、変速モード切替アクチュエータ410によって、図5に示す「Hi」位置と「Lo」位置の間においてスライド移動され、クラッチピース413が「Hi」の位置(図中の実線で示す位置)に配置されると、ロングギヤ413aがハイギヤピース412及び連結ギヤピース414の両方に噛み合い、ショートギヤ413bはローギヤピース411とは噛み合わない位置に配置される。この状態(Hiレンジ)では、入力軸4Aと出力軸4Bが直結状態(変速比=1)となり、入力軸4Aの回転つまり変速機3の出力軸3Bの回転がそのままトランスファ4の出力軸3Bに伝達される。
一方、クラッチピース413が「Lo」の位置(図中の破線で示す位置)に移動されると、ロングギヤ413aが連結ギヤピース414のみに噛み合うとともに、ショートギヤ413bがローギヤピース411と噛み合って、変速比が「1」よりも大きな値(Loレンジ)になる。
このようなクラッチピース413の移動を行う変速モード切替アクチュエータ410の駆動制御は、上記変速モード切替スイッチ121による切替信号に応じてハイブリッドECU100が実行する。なお、変速モード切替アクチュエータ410としては、電動式のソレノイドやモータ等を駆動源するアクチュエータを挙げることができる。
(駆動モード切替部)
次に、上記トランスファ4の駆動モード切替部42Aについて説明する。
駆動モード切替部42Aは、駆動モード切替スイッチ(2WD/4WD切替スイッチ)122(図2参照)の操作(運転者による操作)に応じて、2WDモード(二輪駆動走行モード)と4WD(四輪駆動走行モード)とを選択的に切り替えるための機構部である。
この例の駆動モード切替部42Aは、出力軸4B(リアプロペラシャフト5)に対して回転自在に配置されたドライブスプロケット421と、フロントプロペラシャフト8が回転一体に連結されたドリブンスプロケット422とを備えている。これらドライブスプロケット421とドリブンスプロケット422との間にチェーン43が架け渡されており、ドライブスプロケット421の回転力がチェーン423及びドリブンスプロケット422を介してフロントプロペラシャフト8に伝達されるようになっている。なお、フロントプロペラシャフト8はフロントデファレンシャル装置(図示せず)に連結されている。
また、駆動モード切替部42Aは、ドライブスプロケット421にスリーブ425を介して回転一体に連結された四輪駆動用ギヤピース(外歯歯車)424、出力軸4Bに回転一体に連結された連結用ギヤピース(外歯歯車)426、連結用スリーブ427、及び、駆動モード切替アクチュエータ420などを備えている。
連結用スリーブ427は出力軸4Bの軸方向にスライド自在に設けられている。また、連結用スリーブ427の内周面には、四輪駆動用ギヤピース424及び連結用ギヤピース426の両方、または、連結用ギヤピース426のみに噛み合うことが可能なスプライン(内歯歯車)が形成されている。
そして、連結用スリーブ427は、駆動モード切替アクチュエータ420によって、図5に示す「2WD」位置と「4WD」位置の間においてスライド移動され、連結用ギヤピース426が「2WD」の位置(図中の実線で示す位置)にある場合、連結用スリーブ427は連結用ギヤピース426のみに噛み合う状態となる。この状態では、連結用ギヤピース426と四輪駆動用ギヤピース424とが連結されないので、トランスファ4の出力軸4Bの回転は四輪駆用ギヤピース424に伝達されない(二輪駆動状態)。
一方、連結用スリーブ427が「4WD」の位置(図中の破線で示す位置)に移動されると、連結用スリーブ427は、四輪駆動用ギヤピース424及び連結用ギヤピース426の両方に噛み合う状態となり、連結用ギヤピース426と四輪駆動用ギヤピース424とが連結される。これにより、トランスファ4の出力軸4とドライブスプロケット421とが回転一体に連結され、その出力軸4Bの回転が、ドライブスプロケット421、チェーン423及びドリブンスプロケット422を介してフロントプロペラシャフト8に伝達されて四輪駆動状態となる、
このような連結用スリーブ427の移動を行う駆動モード切替アクチュエータ420の駆動制御は、上記駆動モード切替スイッチ122による切替信号に応じてハイブリッドECU100が実行する。なお、駆動モード切替アクチュエータ420としては、電動式のソレノイドやモータ等を駆動源するアクチュエータを挙げることができる。
−油圧回路−
次に、油圧回路500の一部を構成するリバース油圧回路510及びDレンジ油圧回路520について図6及び図7を参照して説明する。
(リバース油圧回路)
リバース油圧回路510は、図6に示すように、マニュアルバルブ511、D−Rリレーバルブ512、C3リレーバルブ513、B2リレーバルブ514、C3用リニアソレノイドバルブ515、及び、SDソレノイドバルブ(N/C)516などを備えている。
マニュアルバルブ511は、軸方向に変位可能なスプール511aを有する。このスプール511aは、シフト操作装置9のシフトレバー91に連動しており、そのシフトレバー91が、パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、または、ドライブレンジDに配置された場合に、このシフトレバー91の動きに応じてマニュアルバルブ511のスプール511aが図6に示すP、R,N,Dの各位置に移動するようになっている。シフトレバーの操作位置(P、R,N,Dポジション)は、シフトポジションセンサ105によって検出される。このシフトポジションセンサ105の出力信号はハイブリッドECU100(図2参照)に入力される。
この例のリバース油圧回路510において、マニュアルバルブ511には、ライン圧PLが供給される。ライン圧PLは、オイルポンプ(図示せず)から圧送されたオイル(作動油)の油圧をライン圧コントロールバルブにて調圧することによって生成される。
マニュアルバルブ511と、C3リレーバルブ513及びB2リレーバルブ514との間にD−Rリレーバルブ512が設けられている。D−Rリレーバルブ512は、後述するように、マニュアルバルブ511のRポート(後進段ポート)511bに、Rレンジ形成油路510a及びDレンジ形成油路520aのいずれか一方の油路を選択的に接続するための切替バルブである。
D−Rリレーバルブ512はSDソレノイドバルブ(N/C)516によって切替制御され、そのSDソレノイドバルブ(N/C)516がソレノイド圧SDを出力していないときには、D−Rリレーバルブ512は図中上側の状態となり、マニュアルバルブ511のRポート511bにRレンジ形成油路510aが接続される。この接続状態で、マニュアルバルブ511のスプール511aがR位置である場合には、マニュアルバルブ511のRポート511bから出力されたリバースレンジ圧PRがD−Rリレーバルブ512及びRレンジ形成油路510aを通じてC3リレーバルブ513及びB2リレーバルブ514に供給される。
C3リレーバルブ513は、通常時はR用ソレノイド圧(SR)によって図中左側のバルブ状態となっており、この状態でC3用リニアソレノイドバルブ515と第3クラッチC3とが繋がっている。これにより、C3用リニアソレノイドバルブ513によってC3用油圧(係合圧)を直接制御して第3クラッチC3を係合させることができる。また、B2リレーバルブ514は図中左側の状態となっているので、リバースレンジ圧PRがそのまま第2ブレーキB2に供給されて、第2ブレーキB2が係合する。そして、これら第3クラッチC3及び第2ブレーキB2が係合することによってリバース段(Rev)が形成される(図4参照)。
また、上記D−Rリレーバルブ512には連結油路523が接続されている。この連結油路523はDレンジ油圧回路520のDレンジ形成油路520aに繋がっている。連結油路523は、D−Rリレーバルブ512が図中上側の状態である場合は閉鎖される。
一方、D−Rリレーバルブ512が図中下側の状態である場合(SDソレノイドバルブ(N/C)516がソレノイド圧SDを出力している場合)は、マニュアルバルブ511のRポート511bと連結油路523(つまり、Dレンジ形成油路520q)とが連通する。この状態で、マニュアルバルブ511のスプール511aがR位置である場合には、マニュアルバルブ511のDポート511cからDレンジ圧PD(ライン圧PL)が出力され、そのDレンジ圧PDがD−Rリレーバルブ512及び連結油路523を通じてDレンジ油圧回路520(Dレンジ形成油路520a)に供給される。
Dレンジ油圧回路520は、図7に示すように、C1用リニアソレノイドバルブ521、C2用リニアソレノイドバルブ522、及び、これらリニアソレノイドバルブ521,522にDレンジ圧PDを供給するためのDレンジ形成油路520aなどによって構成されている。Dレンジ形成油路520aは、上記したように連結油路523に接続されている。
上記C1用リニアソレノイドバルブ521は第1クラッチC1に接続されている。また、C2用リニアソレノイドバルブ522は第2クラッチC2に接続されており、これらリニアソレノイドバルブ521,522の作動制御により、C1用リニアソレノイドバルブ521及びC2用リニアソレノイドバルブ522にDレンジ圧PDを供給して、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を係合させることにより第1変速段(前進1速:1st)が形成される。
(電動機リバース、変速機リバースについて)
本実施形態にあっては、変速機3の変速段を前進1速に設定して第2モータジェネレータMG2の逆回転によって後進走行を行う電動機リバース(電動機後進モード)と、変速機3の変速段をリバース段に設定して後進走行を行う変速機リバース(変速機後進モード)との選択が可能である。この点について以下に説明する。
まず、本実施形態で用いる上記SDソレノイドバルブ516は、非通電時においてソレノイド圧SDを出力しない、いわゆるノーマルクローズタイプ(N/C)のバルブであって、このSDソレノイドバルブ516が非通電状態であるときには、このSDソレノイドバルブ516からD−Rリレーバルブ512にソレノイド圧SDが出力されないので、上記したようにD−Rリレーバルブ512は図6に示す上側の状態となる。一方、SDソレノイドバルブ516に通電を行って、このSDソレノイドバルブ516からD−Rリレーバルブ512にソレノイド圧SDを出力すると、上記したようにD−Rリレーバルブ512は図6に示す下側の状態となる。
そして、運転者によるシフトレバー操作によりリバースレンジ(Rレンジ)が選択され、マニュアルバルブ511のスプール511aが上記R位置にある場合に、SDソレノイドバルブ516の通電ONの状態(ソレノイド圧SD出力ONの状態)にすると、図8(a)に示すように、[マニュアルバルブ511のRポート511b]→[D−Rリレーバルブ512]→[連結油路523]→[Dレンジ形成油路520a]の油路が形成される。これにより第1クラッチC1及び第2クラッチC2が係合して変速機2の変速段が第1変速段(前進1速)となる。
一方、マニュアルバルブ511のスプール511aが上記R位置にある場合に、SDソレノイドバルブ516の通電OFFの状態(ソレノイド圧SD出力OFFの状態)にすると、図8(b)に示すように、[マニュアルバルブ511のRポート511b]→[D−Rリレーバルブ512]→[Rレンジ油路510a]の油路が形成される。これにより第3クラッチC3及び第2ブレーキB2が係合して変速機3の変速段がリバース段となる。
このように、本実施形態では、シフトレバー91にてリバースレンジが選択されている状態において、SDソレノイドバルブ516の出力(ソレノイド圧SD出力)をON/OFすることにより、変速機3の変速段を、第1変速段(前進1速)及びリバース段のいずれか一方に選択的に切り替えることが可能である。
そして、本実施形態では、図9に示すように、シフトレンジがリバースレンジ(Rレンジ)であるときに、上記したトランスファ(T/F)4(副変速部41)がHiレンジである場合に、SDソレノイドバルブ516を出力ONとして変速機3の変速段を前進1速とした状態で、第2モータジェネレータMG2を逆回転してトルク出力を行うことにより後進走行を行う場合(以下、電動機リバースともいう)と、トランスファ(T/F)4がLoレンジである場合に、SDソレノイドバルブ516を出力OFFとして変速機3の変速段をリバース段とした状態で後進走行を行う場合(以下、変速機リバースともいう)とを選択することができる。なお、変速機リバースのときには第2モータジェネレータMG2から正回転トルクを出力するようにしてもよい。
(ソレノイドフェール時)
まず、上記SDソレノイドバルブ516のソレノイドを含む、車両に搭載の全てのソレノイドに電流を供給できないフェール(例えば、ECUと変速機3との間のハーネス部の断線やコネクタ外れ等によるフェール)が発生する場合がある。
ここで、SDソレノイドバルブ516は、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブであるので、電流が供給されないフェール時には、図6の上側に示す状態となる。つまりマニュアルバルブ511のRポート511bがRレンジ形成油路510aのみに連通し、Dレンジ形成油路520aに繋がる連結油路523は遮断された状態に固定されるので、電動機リバース(リバースレンジにおける前進1速での第2モータジェネレータMG2の逆回転走行)は形成されなくなる。これにより、ECUと変速機3との間のハーネス部の断線やコネクタ外れ等によるフェール時で、シフトレンジ接点信号等についても異常の可能性があり、リバースレンジを電気的に判定できない可能性がある場合には、電動機リバースを機械的に禁止することができる。
ただし、本実施形態では、マニュアルバルブ511のDポート511cにDレンジ形成油路520aが接続されているので、図10(a)に示すように、シフトレバー91の操作によりマニュアルバルブ511のスプール511aをD位置(図6参照)に移動させることにより、[マニュアルバルブ511のDポート511c]→[Dレンジ形成油路520a]の油路が形成される。これにより、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が係合して変速機3において第1変速段(前進1速)が形成されるので、ハイブリッド車両HVの前進走行が可能になる。また、シフトレバー91操作によりマニュアルバルブ511をスプール511aをR位置(図6参照)に移動させることにより、図10(b)に示すように、[マニュアルバルブ511のRポート511b]→[D−Rリレーバルブ512]→[Rレンジ油路510a]の油路が形成される。これにより、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2が係合して変速機3においてリバース段が形成されるので、ハイブリッド車両HVの後進走行が可能になる。
このように本実施形態では、ソレノイドのフェール時であっても、シフトレバー91の操作によりハイブリッド車両の前後進走行を確保することができる。
以上のC3リレーバルブ513、B2リレーバルブ514、C1用リニアソレノイドバルブ521、C2用リニアソレノイドバルブ522、及び、SDソレノイドバルブ(N/C)516などの油圧回路500を構成するソレノイドバルブの作動は、ハイブリッドECU100によって制御される。
−ECU−
ハイブリッドECU100は、エンジン1の運転を制御するエンジンECU200と、モータジェネレータMG1,MG2の駆動を制御するMG_ECU300との間で制御信号やデータ信号を送受信し、エンジン1の運転制御、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御、並びに、エンジン1及びモータジェネレータMG1,MG2の協調制御などを含む各種制御を実行する電子制御装置である。
ハイブリッドECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びバックアップRAMなどを備えている。
ROMには、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAMはCPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMはエンジン1の停止時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
なお、エンジンECU200及びMG_ECU300においても、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAMなどを備えている。
図2に示すように、ハイブリッドECU100には、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11の回転数(エンジン回転数)を検出するエンジン回転数センサ101、出力軸42の回転数を検出する出力軸回転数センサ102、エンジン1のスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ103、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ104、シフトポジションセンサ105、ハイブリッド車両HVの車速を検出する車速センサ106、MG1回転数センサ107、MG2回転数センサ108、バッテリ302の充放電電流を検出する電流センサ109、バッテリ温度センサ110、ブレーキペダルに対する踏力(ブレーキ踏力)を検出するブレーキペダルセンサ111、並びに、上記変速モード切替スイッチ121及び駆動モード切替スイッチ122などが接続されている。さらに、ハイブリッドECU100には、エンジン冷却水温を検出する水温センサ、吸入空気量を検出するエアフロメータなどのエンジン1の運転状態を示すセンサなどが接続されており、これらの各センサからの信号がハイブリッドECU100に入力される。
そして、ハイブリッドECU100は、バッテリ302を管理するために、上記電流センサ108にて検出された充放電電流の積算値や、上記バッテリ温度センサ109にて検出されたバッテリ温度などに基づいて、バッテリ302の充電状態(SOC:State of Charge)や、バッテリ302の入力制限(充電制限)Win及び出力制限(放電制限)Woutなどを演算する。
なお、SOCとは、バッテリ302の満充電状態を基準にしたときの充電量(残存電荷量)を示すものである。また、入力制限Win及び出力制限Woutは、上記バッテリ温度センサ109により検出されたバッテリ302のバッテリ温度と残容量SOCとに基づいて要求されるとともに、その入力制限Winの範囲(充電許容範囲)及び出力制限Woutの範囲(放電許容範囲)が設定される。
また、ハイブリッドECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジンECU200及びMG_ECU300に出力要求を送信して駆動力を制御する。具体的には、例えば、アクセル操作量Acc及び車速V等に基づいて運転者の要求駆動力Trを算出し、その要求駆動力Trが得られるように、エンジンECU200及びMG_ECU300に出力要求を送信して、エンジン1、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2の駆動を制御する。
具体的には、例えば、(1)エンジン1を最適燃費曲線上で作動させて駆動力を発生させるとともに、要求駆動力Trに対する不足分を第2モータジェネレータMG2でアシストするアシスト走行モード、(2)要求駆動力Trの増大時つまり発進時や加速時にエンジン1の出力トルク及び第1モータジェネレータMG1の回生制動トルクを共に増加させせるとともに、第2モータジェネレータMG2の力行トルクを増大させる発進・加速モード、(3)エンジン1を停止した状態で第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行モード(EV走行モード)、(4)エンジン1の動力で第1モータジェネレータMG1により発電を行いながら第2モータジェネレータMG2を動力源として走行する充電走行モード、(5)エンジン1の動力を機械的に駆動輪7L,7Rに伝えて走行するエンジン走行モードなどの走行モードを、車両の走行状態に応じて切り替える。
また、ハイブリッドECU100は、エンジン1が最適燃費曲線上で作動するように第1モータジェネレータMG1によってエンジン回転速度を制御する。
さらに、ハイブリッドECU100は変速機3の変速制御を実行する。具体的には、例えば、車速センサ106の出力信号から得られる車速Vと、アクセル開度センサ104の出力信号から得られるアクセル開度Accとに基づいて変速マップを参照して目標変速段を求め、その目標変速段と現状変速段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。その判定結果により、変速の必要がない場合(目標変速段と現状変速段とが同じで、変速段が適切に設定されている場合)には、油圧回路500に変速指令を出力せずに現状変速段を維持する。一方、目標変速段と現状変速段とが異なる場合には、目標変速段となるように油圧回路500に変速指令を出力して変速を行う。
なお、変速マップは、例えば、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、適正な変速段(最適な効率となる変速段1st〜4th)を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、ハイブリッドECU100のROM内に記憶されている。変速マップには、各領域を区画するための複数の変速線(1st〜4thの各変速領域を区画するためのアップシフト線及びダウンシフト線)が設定されている。
さらに、ハイブリッドECU100は、下記の[後進モード選択制御]を実行する。
−後進モード選択制御−
まず、上記した電動機リバース(リバースレンジにおける前進1速での第2モータジェネレータMG2の逆回転走行モード)での後進直後は、第2モータジェネレータMG2の回転数が低いため、バッテリ302の出力制限Woutの影響がなく、第2モータジェネレータMG2は最大トルクを出力することが可能であり、大きな駆動力を得ることができる。しかしながら、車速の上昇に伴ってバッテリ302の出力制限Woutにより第2モータジェネレータMG2の出力トルクは低下(駆動力低下)する。
一方、変速機リバース(変速機3の変速段をリバース段に設定するモード)の場合、バッテリ302の入力制限Winによってエンジン2の直達トルクが使えない発進直後、つまり、第1モータジェネレータMG1による反力をとることができず、第2モータジェネレータMG2の駆動力しか使うことができない発進直後は、電動機リバースの場合と比較して駆動力が低下する。ただし、車速の増加に伴って第2モータジェネレータMG2による消費電力が増加すると(第1モータジェネレータMG1にて反力トルクを出せるようになると)、直達トルクも増加するので駆動力を大きくすることができる。
以上のように、電動機リバースは後進直後の駆動力は大きいが、後進車速の増加に伴って駆動力が不足する。これに対し、変速リバースは、発進直後の駆動力は小さいが、後進車速の増加に伴って駆動力を大きくすることは可能である。
このような点を考慮して、本実施形態では、車両の後進時に適切な駆動力が得られるように電動機リバースまたは変速機リバースを適切に選択する制御を実行する。
その具体的な制御(後進モードの選択制御)の一例について図11のフローチャートを参照して説明する。図11の制御ルーチンはハイブリッドECU100において所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返して実行される。
この図11の制御ルーチンが開始されると、まずは、ステップST101において、シフトポジションセンサ105の出力信号に基づいて、シフト操作装置9のシフトレバー91がリバースレンジ(リバースポジション)に操作されたか否かを判定する。ステップST101の判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST101の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST102に進む。
ステップST102では、変速モード切替スイッチ121(図2参照)の出力信号に基づいて、トランスファ(T/F)4(副変速部41)がHiレンジであるか否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合はステップST106に進む。ステップST102の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST103に進む。
ステップST103では、バッテリ302の入力制限Winの要求があるか否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はステップST106に進む。ステップST103の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST104に進む。
ここで、ステップST103においてバッテリ302の入力制限Winが厳しい状態(入力制限Winの範囲(放電許容範囲)が所定値以下の状態)であるか否かを判定し、入力制限Winが厳しい場合はステップST104に進むようにしてもよい。具体的には、後進時に変速機リバースを行った場合、第1モータジェネレータMG1による発電によって入力制限Winを超える状況になると予測される場合は電動機リバースを選択するためにステップST104に進むようにしてもよい。なお、バッテリ302の入力制限Winの要求がない場合(ステップST103の判定結果が否定判定(NO)である場合)、変速機リバースでも後進発進時に直達トルクにより電動機リバースに近い駆動力が得られるので、変速リバースを選択する(ステップST106)。
ステップST104では、変速機3の変速を制御する油圧回路500を構成するソレノイドバルブ(リレーバルブ等も含む)がフェールしているか否かを判定し、その判定結果が判定結果が否定判定(NO)である場合はステップST106に進む。ステップST104の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST105に進む。
なお、油圧回路500を構成するソレノイドバルブ等のフェールは、例えば、エンジン1や第2モータジェネレータMG2の吹き(回転数の異常上昇)検出によって判定することができる。
ステップST105では、図6のRレンジ油圧回路510のSDソレノイドバルブ(N/C)516の通電(ソレノイド圧SD出力ON)を行って変速機3の変速段を前進1速に設定するとともに、第2モータジェネレータMG2を逆回転し、逆回転トルクを駆動輪7に出力することにより、電動機リバースにてハイブリッド車両HVの後進走行を行う。
一方、上記ステップST102、ステップST103またはステップST104のいずれかのステップの判定結果が否定判定(NO)である場合は、ステップST106において、図6のRレンジ油圧回路510のSDソレノイドバルブ(N/C)516を非通電状態(ソレノイド圧SD出力OFFの状態)として、変速機3の変速段をリバース段とし、第2モータジェネレータMG2を正回転状態として、変速機リバースにてハイブリッド車両HVの後進走行を行う。
なお、変速機リバースを選択している場合には、エンジン1の動力及び第2モータジェネレータMG2の動力のいずれか一方もしくは双方の動力で後進走行を行う。
本実施形態によれば、第2モータジェネレータMG2は低回転域から高トルク(駆動力)を出力することが可能であるという特性を利用し、トランスファ4がHiレンジであり、後進時に第2モータジェネレータMG2の回転数が高くならない場合には、電動機リバースを選択して、後進発進時に必要な駆動力を確保することにより発進性の向上を図る。
一方、トランスファ4がLoレンジである場合(変速比が大きい場合)は、駆動輪7への駆動力を大きくすることができるので、変速機リバースを選択しても、発進時に十分な駆動力を得ることができ、発進性を確保することができる。しかも、変速機リバースは、例えばエンジン1の動力により車速増加時においても大きな駆動力を得ることができるので、走破性の向上を図ることができる。
[実施形態2]
上記した[実施形態1]では、2つのモータジェネレータMG1,MG2が搭載されたハイブリッド車両HVに本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、1つのモータジェネレータが搭載されたハイブリッド車両にも適用可能である。その一例について図12を参照して説明する。
この例の車両は、FR方式を基本とするスタンバイ四輪駆動方式を採用したハイブリッド車両700であって、エンジン701、発進クラッチK0、モータジェネレータMG、変速機703、トランスファ4、リアデファレンシャル装置(図示せず)、及び、駆動輪(図示せず)など備えており、また、モータジェネレータMGを駆動するインバータ(図示せず)、モータジェネレータMGを駆動する電力を供給するとともに、モータジェネレータMGで発電された電力を蓄電するバッテリ(図示せず)、及び、ECU(図示せず)などを備えている。
この例のエンジン701も、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置(内燃機関)であって、吸気通路に設けられたスロットルバルブのスロットル開度(吸入空気量)、燃料噴射量、点火時期などの運転状態を制御できるように構成されている。また、燃焼後の排気ガスは排気通路(図示せず)を経て図示しない酸化触媒による浄化が行われた後に外気に放出される。
発進クラッチK0は、モータジェネレータMGのロータMGRに連結された入力軸ISと、駆動輪に連結された出力軸OSとの間に配設されている。この発進クラッチK0は油圧式のクラッチであって、解放状態では、入力軸ISと出力軸OSとの間を遮断する。つまり、モータジェネレータMGのロータMGRと駆動輪(図示せず)との間での動力伝達を遮断する。一方、係合状態では、入力軸ISと出力軸OSとの間での動力伝達を可能にする。つまり、モータジェネレータMGのロータMGRと駆動輪との間での動力伝達を可能にする。
第1モータジェネレータMG1は、入力軸ISに対して回転自在に支持された永久磁石からなるロータMGRと、3相巻線が巻回されたステータMGSとを備えた交流同期発電機であって、発電機(ジェネレータ)として機能するとともに電動機(電動モータ)としても機能する。
変速機703は、エンジン701及びモータジェネレータMGから入力軸ISに入力される回転動力を変速し、出力軸OS及びトランスファ4を介して駆動輪に出力するものである。
変速機703は、主として、第1プラネタリ731、第2プラネタリ732、第3プラネタリ733、クラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、ワンウェイクラッチF0〜F3等を含んで構成されており、前進6段、後進1段の変速が可能になっている。
第1プラネタリ731は、ダブルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギヤS1と、リングギヤR1と、複数個のインナーピニオンギヤP1Aと、複数個のアウターピニオンギヤP1Bと、キャリアCA1とを含む構成となっている。
サンギヤS1は、クラッチC3を介して入力軸ISに選択的に連結される。このサンギヤS1は、ワンウェイクラッチF2及びブレーキB3を介してハウジングに選択的に連結され、逆方向(入力軸ISの回転と反対方向)の回転が阻止される。キャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジングに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。リングギヤR1は、第2プラネタリ732のリングギヤR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジングに選択的に連結される。
第2プラネタリ732は、シングルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギヤS2と、リングギヤR2と、複数個のピニオンギヤP2と、キャリアCA2とを含む構成となっている。
サンギヤS2は、第3プラネタリ733のサンギヤS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸ISに選択的に連結される。このサンギヤS2は、ワンウェイクラッチF0及びクラッチC1を介して入力軸ISに選択的に連結され、その入力軸ISに対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。キャリアCA2は、第3プラネタリ733のリングギヤR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸ISに選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジングに選択的に連結される。このキャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3により、常に逆方向の回転が阻止される。
第3プラネタリ733は、シングルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギヤS3と、リングギヤR3と、複数個のピニオンギヤP3と、キャリアCA3とを含む構成である。キャリアCA3は、出力軸OSに一体的に連結されている。
クラッチC1〜C4及びブレーキB1〜B4は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置(摩擦係合要素)により構成されている。
油圧制御装置4は、変速機構部30におけるクラッチC1〜C4ならびにブレーキB1〜B4を個別に係合、解放させることにより適宜の変速段(前進1〜6速段、後進段)を成立させるものである。この油圧制御装置4の基本構成は公知であるので、ここでは詳細な図示や説明を割愛する。
ここで、上述した変速機703における各変速段を成立させる条件について、図13を用いて説明する。
図13は、変速機構部30の変速段毎でのクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4及びワンウェイクラッチF0〜F3の係合状態または解放状態を示す係合表である。この係合表において、○印は「係合」、空白は「解放」、(○)印は「エンジンブレーキ時に係合」、●印は「動力伝達を行わない係合」を示す。
なお、クラッチC1は、前進クラッチ(入力クラッチ)と呼ばれ、図13の係合表に示すように、パーキングポジション(P)、リバースポジション(R)、ニュートラルポジション(N)以外であって車両が前進するための変速段を成立させる際に係合状態で使用される。
この実施形態の変速機703においても、図13の係合表に示すように、変速比が最も大きな前進変速である第1変速段の変速比が、リバース段(Rev)の変速比よりも大きな変速機である。
以上の変速機703と駆動輪(図示せず)との間にトランスファ4が設けられている。トランスファ4の構成は上記した[実施形態1]と同じであるので、その詳細な説明は省略する。
そして、この実施形態においても、リバースレンジが選択されているときに、変速機703の変速段を第1変速段(前進1速)に設定してモータジェネレータMGの逆回転によって後進走行を行う電動機リバース(電動機後進モード)と、変速機703の変速段をリバース段に設定して後進走行を行う変速機リバース(変速機後進モード)との選択が可能となるように構成し、図11に示したフローチャートと同様な制御を実行するようにしてもよい。
具体的には、シフトレバー91(図6参照)がリバースレンジ(リバースポジション)に操作されており、上記トランスファ(T/F)4がHiレンジである場合、ソレノイドのフェールが発生していないことを条件に電動機リバースを選択する。一方、トランスファ4がLoレンジである場合は変速機リバースを選択するようにすればよい。
このように実施形態においても、トランスファ4がHiレンジであり、後進時にモータジェネレータの回転数が高くならない場合には、電動機リバースを選択して、後進発進時に必要な駆動力を確保することにより発進性の向上を図ることができる。
一方、トランスファ4がLoレンジである場合(変速比が大きい場合)は、駆動輪への駆動力を大きくすることができるので、変速機リバースを選択しても、後進発進時に十分な駆動力を得ることができ、発進性を確保することができる。しかも、変速機リバースは、例えばエンジン701の動力により車速増加時においても大きな駆動力を得ることができる。これによって走破性の向上を図ることができる。
−他の実施形態−
以上の[実施形態1]では、変速モード切替スイッチ121の出力信号に基づいてトランスファ4がHiレンジであるか、またはLoレンジであるのかを判定し、その判定がHiレンジである場合は電動機リバースを選択し、Loレンジである場合は変速機リバースを選択しているが、これに限定されない。
例えば、後進の際の第2モータジェネレータMG2と駆動輪7との間の変速比に基づいて、その変速比が小さい場合(電動機リバースでの後進時に第2モータジェネレータMG2の回転数が所定値(例えば、実験・計算等によって適合した上限値)よりも高くならない変速比である場合)は、後進時に第2モータジェネレータMG2の回転数が所定値よりも高くならないと予測して電動機後進モードを選択し、上記変速比が大きい場合(電動機後進モードでの後進時に第2モータジェネレータMG2の回転数が上記所定値よりも高くなる変速比である場合)は、後進時に第2モータジェネレータMG2の回転数が所定値よりも高くなると予測して変速機後進モードを選択するようにしてもよい。なお、このような選択処理については、[実施形態2]に適用してもよい。
以上の[実施形態1]では、FF方式のハイブリッド車両HVに本発明を適用する例を示したが、これに限らず、FR方式または4WD方式のハイブリッド車両に本発明を適用してもよい。
以上の[実施形態1]では、2個のモータジェネレータMG1,MG2と動力分割機構3とを備えた、いわゆるスプリット方式のハイブリッド車両HVに本発明を適用する例を示したが、これに限らず、いわゆるシリーズ方式またはパラレル方式のハイブリッド車両に本発明を適用してもよい。なお、シリーズ方式のハイブリッド車両とは、エンジンが発電機による発電のみに用いられ、駆動輪がモータのみにより駆動されるハイブリッド車両であり、パラレル方式のハイブリッド車両とは、エンジン及びモータにより駆動輪が駆動されるハイブリッド車両である。
以上の[実施形態1]または[実施形態2]では、2つのモータジェネレータまたは1つのモータジェネレータが搭載されたハイブリッド車両の制御に、本発明を適用した例を示したが、3つ以上のモータジェネレータを備え、そのうちの少なくとも1つが車両の走行駆動力のアシストを行うハイブリッド車の制御にも本発明は適用可能である。
以上の[実施形態1]及び[実施形態2]では、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式を基本とするスタンバイ四輪駆動方式を採用したハイブリッド車両の制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両や、2輪駆動方式のハイブリッド車両の制御にも適用できる。