従来、ムーブメント制御だけを実施する装置、あるいはジレンマ感応制御だけを実施する装置は存在していたものの、両者を実施することができる装置は存在していなかった。これは、ムーブメント制御は主に渋滞緩和を目的とするのに対し、ジレンマ感応制御は安全性向上を目的とする点で相違するので、両者で競合動作をする場合の信号制御が困難であったからである。例えば、ムーブメント制御とジレンマ感応制御とを任意の交差点で行う場合、ジレンマ感応制御は、交差点へ流入する流入路毎に行うが、ジレンマ感応制御を自由に実施したときには、ムーブメント制御で時差現示を行って青信号の表示時間を長くしようとした際にジレンマ感応制御により当該青信号を短くするという、相反する動作が生じる場合がある。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、渋滞緩和と安全性向上の両者を実現することができる交通信号制御装置及び交通信号制御方法を提供することを目的とする。
第1発明に係る交通信号制御装置は、交差点で対向する流入路のうちの一の流入路に対して時差現示を行うことができる交通信号制御装置において、前記流入路の交通情報に基づいて時差現示を行うか否かを判定する時差現示判定手段と、前記流入路の交通情報に基づいて該流入路が混雑しているか否かを判定する混雑判定手段と、前記交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御を行うジレンマ感応制御手段とを備え、該ジレンマ感応制御手段は、前記混雑判定手段で流入路の少なくともいずれか一方向が混雑していないと判定した場合に、前記時差現示判定手段で時差現示を行わないと判定したときは、混雑していない方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行い、前記時差現示判定手段で時差現示を行うと判定したときは、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うように構成してあることを特徴とする。
第2発明に係る交通信号制御装置は、交差点で対向する流入路のうちの一の流入路に対して時差現示を行うことができる交通信号制御装置において、前記流入路の交通情報に基づいて時差現示を行うか否かを判定する時差現示判定手段と、前記流入路の交通情報に基づいて該流入路が混雑しているか否かを判定する混雑判定手段と、前記交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御を行うジレンマ感応制御手段とを備え、前記ジレンマ感応制御手段は、前記混雑判定手段で流入路の両方向が混雑していないと判定した場合に、前記時差現示判定手段で時差現示を行わないと判定したときは、前記両方向へ走行する車両に対してジレンマ感応制御を行い、前記混雑判定手段で流入路のいずれか一方向が混雑していないと判定した場合、前記時差現示判定手段で時差現示を行うと判定したときは、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うように構成してあることを特徴とする。
第3発明に係る交通信号制御装置は、第1発明又は第2発明において、前記ジレンマ感応制御手段は、前記時差現示判定手段で時差現示を行うと判定した場合に、時差現示を行う方向の対向方向の信号灯器の青信号の表示時間を短縮する範囲で青信号を切り替えるようにしてあることを特徴とする。
第4発明に係る交通信号制御装置は、第1発明又は第2発明において、前記ジレンマ感応制御手段は、前記時差現示判定手段で時差現示を行うと判定した場合に、時差現示を行う方向の信号灯器の青信号の表示時間が所定値以上になるように、時差現示を行う方向の対向方向の信号灯器の青信号を切り替えるようにしてあることを特徴とする。
第5発明に係る交通信号制御装置は、交差点で対向する流入路のうちの一の流入路に対して時差現示を行うことができる交通信号制御装置において、前記流入路の交通情報に基づいて前記対向する流入路のうち一方向の流入路のすべての車両の進行を停止させる時差現示を行うか否かを判定する時差現示判定手段と、前記流入路の交通情報に基づいて前記対向する流入路それぞれが混雑しているか否かを判定する混雑判定手段と、前記交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御を行うジレンマ感応制御手段とを備え、該ジレンマ感応制御手段は、前記時差現示判定手段で時差現示を行わないと判定した場合に、前記混雑判定手段で前記対向する流入路の両方向が混雑していないときは、前記両方向へ走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うように構成してあることを特徴とする。
第6発明に係る交通信号制御装置は、第5発明において、前記ジレンマ感応制御手段は、前記混雑判定手段で流入路のいずれか一方向が混雑していないと判定した場合に、前記時差現示判定手段で時差現示を行うと判定したときは、ジレンマ感応制御を行わないように構成してあることを特徴とする。
第7発明に係る交通信号制御装置は、第2発明、第5発明又は第6発明のいずれか1つにおいて、前記ジレンマ感応制御手段は、前記混雑判定手段で流入路のいずれか一方向が混雑していないと判定した場合に、前記時差現示判定手段で時差現示を行わないと判定したときは、ジレンマ感応制御を行わないように構成してあることを特徴とする。
第8発明に係る交通信号制御装置は、第1発明、第2発明、第5発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、前記ジレンマ感応制御手段は、前記混雑判定手段で流入路の両方向が混雑していると判定した場合、ジレンマ感応制御を行わないように構成してあることを特徴とする。
第9発明に係る交通信号制御方法は、交差点で対向する流入路のうちの一の流入路に対して時差現示を行うことができる交通信号制御装置による交通信号制御方法において、前記流入路の交通情報に基づいて時差現示を行うか否かを時差現示判定手段が判定するステップと、前記流入路の交通情報に基づいて該流入路が混雑しているか否かを混雑判定手段が判定するステップと、前記交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御をジレンマ感応制御手段が行うステップとを含み、該ジレンマ感応制御手段が行うステップは、前記流入路の少なくともいずれか一方向が混雑していないと判定した場合に、時差現示を行わないと判定したときは、混雑していない方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行い、時差現示を行うと判定したときは、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うことを特徴とする。
第10発明に係る交通信号制御方法は、交差点で対向する流入路のうちの一の流入路に対して時差現示を行うことができる交通信号制御装置による交通信号制御方法において、前記流入路の交通情報に基づいて時差現示を行うか否かを時差現示判定手段が判定するステップと、前記流入路の交通情報に基づいて該流入路が混雑しているか否かを混雑判定手段が判定するステップと、前記交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御をジレンマ感応制御手段が行うステップとを含み、該ジレンマ感応制御手段が行うステップは、前記流入路の両方向が混雑していないと判定した場合に、時差現示を行わないと判定したときは、前記両方向へ走行する車両に対してジレンマ感応制御を行い、前記流入路のいずれか一方向が混雑していないと判定した場合、時差現示を行うと判定したときは、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うことを特徴とする。
第11発明に係る交通信号制御方法は、交差点で対向する流入路のうちの一の流入路に対して時差現示を行うことができる交通信号制御装置による交通信号制御方法において、前記流入路の交通情報に基づいて前記対向する流入路のうち一方向の流入路のすべての車両の進行を停止させる時差現示を行うか否かを時差現示判定手段が判定するステップと、前記流入路の交通情報に基づいて前記対向する流入路それぞれが混雑しているか否かを混雑判定手段が判定するステップと、前記交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御をジレンマ感応制御手段が行うステップとを含み、該ジレンマ感応制御手段が行うステップは、時差現示を行わないと判定した場合に、前記対向する流入路の両方向が混雑していないときは、前記両方向へ走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うことを特徴とする。
第1発明及び第9発明にあっては、時差現示判定手段は、流入路(交差点に流入する道路)の交通情報に基づいて時差現示を行うか否かを判定する。すなわち、時差現示判定手段は、交差点で対向する流入路のそれぞれの方向(交差点へ流入する方向)の交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、対向する流入路のいずれかの方向に対して時差現示を行うか否かを判定する。時差現示は、例えば、交通需要の多い方向の流入路に対して行うと判定することができ、交通需要の多いE方向(一方向)の流入路に対して時差現示を行う場合、一方向の対向方向(交通需要の少ない方、例えば、W方向)の信号灯器の灯色をすべて赤として、W方向への車両の進行を停止させた上で、E方向(直進、左折、右折を含む)への車両を進行させる。混雑判定手段は、流入路(道路)の交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、流入路が混雑しているか否かを判定する。例えば、車両が停止状態で渋滞又は遅い速度で走行しつつ渋滞している場合、規制速度程度で走行しつつも短い車間距離で複数の車両が連続して走行する場合には、渋滞であると判定することができる。ジレンマ感応制御手段は、交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御を行う。
そして、ジレンマ感応制御手段は、流入路の少なくともいずれか一方向が混雑していないと判定した場合に、時差現示を行わないと判定したときは、混雑していない方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。例えば、対向する流入路の方向を東西方向とした場合に、西方向に混雑がなく、時差現示を行わないときには、混雑していない西方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。また、ジレンマ感応制御手段は、流入路の少なくともいずれか一方向が混雑していないと判定した場合に、時差現示を行うと判定したときは、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。例えば、対向する流入路の方向を東西方向とした場合に、西方向に混雑がなく、東方向に対して時差現示を行うときは、時差現示を行う方向の対向方向(西方向)の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。これにより、交差点で対向する流入路の任意の方向に対しての交通需要等に応じて時差現示を行うムーブメント制御と、当該交差点に向かって走行する車両の安全性を確保するジレンマ感応制御とを両立させることができ、渋滞緩和と安全性向上の両者を実現することができる。
第2発明及び第10発明にあっては、時差現示判定手段は、流入路(道路)の交通情報に基づいて時差現示を行うか否かを判定する。すなわち、時差現示判定手段は、交差点で対向する流入路のそれぞれの方向(交差点へ流入する方向)の交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、対向する流入路のいずれかの方向に対して時差現示を行うか否かを判定する。時差現示は、例えば、交通需要の多い方向の流入路に対して行うと判定することができ、交通需要の多いE方向(一方向)の流入路に対して時差現示を行う場合、一方向の対向方向(交通需要の少ない方、例えば、W方向)の信号灯器の灯色をすべて赤として、W方向の流入路の車両の進行を停止させた上で、E方向(直進、左折、右折を含む)の流入路の車両を進行させる。混雑判定手段は、流入路(道路)の交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、流入路が混雑しているか否かを判定する。例えば、車両が停止状態で渋滞又は遅い速度で走行しつつ渋滞している場合、規制速度程度で走行しつつも短い車間距離で複数の車両が連続して走行する場合には、渋滞であると判定することができる。ジレンマ感応制御手段は、交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御を行う。
そして、ジレンマ感応制御手段は、混雑判定手段で流入路の両方向が混雑していないと判定した場合に、時差現示判定手段で時差現示を行わないと判定したときは、両方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。対向する流入路の両方向が混雑していないと判定し、かつ時差現示を行わないと判定した場合に、流入路の両方向に対してジレンマ感応制御を行うので、ジレンマ感応制御を有効に実施することができる。
また、ジレンマ感応制御手段は、混雑判定手段で流入路のいずれか一方向が混雑していないと判定した場合に、時差現示判定手段で時差現示を行うと判定したときは、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。対向する流入路のずれか一方向が混雑していないと判定し、かつ時差現示を行うと判定した場合に、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うので、ジレンマ感応制御を有効に実施することができる。
第3発明にあっては、ジレンマ感応制御手段は、時差現示判定手段で時差現示を行うと判定した場合に、時差現示を行う方向の対向方向の信号灯器の青信号の表示時間を短縮する範囲で青信号を切り替える。例えば、対向する流入路の方向を東西方向とした場合に、東方向の流入路に対して時差現示を行うときは、時差現示を行う方向の対向方向(西方向)の流入路の信号灯器の青信号の表示時間を基準青秒数から短縮する範囲で、青信号から、例えば黄色へ切り替える。すなわち、従来のジレンマ感応制御のように青信号の表示時間を基準青秒数から延長又は短縮するのではなく、短縮のみを行うようにするので、時差現示を行う東方向の信号灯器の青信号の表示時間は、ジレンマ感応制御が行われた場合でも短縮されることはなく、時差現示を行う際の時差時間を確実に保証することができる。
第4発明にあっては、ジレンマ感応制御手段は、時差現示判定手段で時差現示を行うと判定した場合に、時差現示を行う方向の信号灯器の青信号の表示時間が所定値以上になるように、時差現示を行う方向の対向方向の信号灯器の青信号を切り替える。例えば、対向する流入路の方向を東西方向とした場合に、東方向の流入路に対して時差現示を行うときは、時差現示を行う方向の信号灯器の青信号(例えば、右折青信号)の表示時間を所定値(例えば、最小表示時間)以上になるように、時差現示を行う方向の対向方向(西方向)の信号灯器の青信号を切り替える。すなわち、時差現示を行う東方向の信号灯器の青信号の表示時間は、ジレンマ感応制御が行われた場合でも所定値以上となるので、時差現示を行う際の時差時間を確実に保証することができる。
第5発明及び第11発明にあっては、時差現示判定手段は、流入路(道路)の交通情報に基づいて時差現示を行うか否かを判定する。すなわち、時差現示判定手段は、交差点で対向する流入路のそれぞれの方向(交差点へ流入する方向)の交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、対向する流入路のいずれかの方向に対して時差現示を行うか否かを判定する。時差現示は、例えば、交通需要の多い方向の流入路に対して行うと判定することができ、交通需要の多いE方向(一方向)の流入路に対して時差現示を行う場合、一方向の対向方向(交通需要の少ない方、例えば、W方向)の信号灯器の灯色をすべて赤として、W方向の流入路の車両の進行を停止させた上で、E方向(直進、左折、右折を含む)の流入路の車両を進行させる。混雑判定手段は、流入路(道路)の交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、流入路が混雑しているか否かを判定する。例えば、車両が停止状態で渋滞又は遅い速度で走行しつつ渋滞している場合、規制速度程度で走行しつつも短い車間距離で複数の車両が連続して走行する場合には、渋滞であると判定することができる。ジレンマ感応制御手段は、交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替えるジレンマ感応制御を行う。
そして、ジレンマ感応制御手段は、時差現示を行わないと判定した場合に、流入路の両方向が混雑していないときは、当該両方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。対向する流入路の両方向が混雑していないと判定し、かつ時差現示を行わないと判定した場合に、流入路の両方向に対してジレンマ感応制御を行うので、ジレンマ感応制御を有効に実施することができるとともに、渋滞緩和と安全性向上の両者を実現することができる。
第6発明にあっては、ジレンマ感応制御手段は、流入路のいずれか一方向が混雑していない場合に、時差現示を行うと判定したときは、ジレンマ感応制御を行わない。例えば、西方向の流入路に混雑がなく東方向の流入路に混雑があり、東方向に対して時差現示を行う場合には、ジレンマ感応制御を行わないことにより、対向する流入路のうち、混雑が生じている流入路が必要とする青時間の確保を優先して、青時間の短縮が行われるおそれのあるジレンマ感応制御を行わないので、混雑が生じている流入路における混雑がさらに助長されることを防止することができる。
第7発明にあっては、ジレンマ感応制御手段は、流入路のいずれか一方向が混雑していない場合は、時差現示を行わないと判定したときは、ジレンマ感応制御を行わない。例えば、西方向の流入路に混雑がなく東方向の流入路に混雑があり、時差現示を行わない場合には、ジレンマ感応制御を行わないことにより、対向する流入路のうち、混雑が生じている流入路が必要とする青時間の確保を優先して、青時間の延長がなされるおそれのあるジレンマ感応制御を行わないので、混雑が生じている流入路における混雑がさらに助長されることを防止することができる。
第8発明にあっては、ジレンマ感応制御手段は、流入路の両方向が混雑している場合は、ジレンマ感応制御を行わない。これにより、効果の期待できないジレンマ感応制御を行わないので、無駄なジレンマ感応制御を行うことを防止することができる。
本発明によれば、交差点で対向する流入路の任意の方向に対しての交通需要等に応じて時差現示を行うムーブメント制御と、当該交差点に向かって走行する車両の安全性を確保するジレンマ感応制御とを両立させることができ、渋滞緩和と安全性向上の両者を実現することができる。
以下、本発明に係る交通信号制御装置の実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る交通信号制御装置10の構成の一例を示すブロック図である。交通信号制御装置10は、装置全体を制御するCPU11、交通情報取得部12、車両情報取得部13、灯色制御部14、混雑判定手段としての混雑判定部15、時差現示判定手段としての時差現示判定部16、ジレンマ感応制御手段としてのジレンマ感応制御部17などを備える。
本実施の形態の交通信号制御装置10は、交差点で対向する流入路(交差点に流入する道路)の任意の方向に対しての交通需要等に応じて時差現示を行うムーブメント制御と、当該交差点に向かって走行する車両の安全性を確保するジレンマ感応制御との両立を図るものである。なお、以下の説明では、流入路は、交差点に流入する道路であって交差点の方向へ車両が走行する道路をいう。
交通情報取得部12は、交差点で対向する流入路の混雑を判定するための及び時差現示を行うか否かを判定するための交通情報を取得する。交通情報は、例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要であり、例えば、流入路の適宜の箇所に設置した光ビーコン、画像式の車両感知器などの路上装置から交通情報を取得することができる。光ビーコン等で収集した車両のアップリンク情報に基づいて、光ビーコン間の旅行時間を算出し、この旅行時間に基づいて、流入路の混雑を判定することができる。また、超音波式の車両感知器等で計測した単位時間当たりの交通量や占有率などに基づいて、渋滞長を推定することもできる。また、流入路の適宜の箇所に設置した画像式の車両感知器で車両を撮像して渋滞長又は信号待ち台数などを計測することもできる。
車両情報取得部13は、ジレンマ感応制御を行うための情報として、交差点の上流の所定地点(例えば、150m、200m上流地点)に設置した画像式の車両感知器、超音波式の速度感知器(超音波のヘッドが2つ)、またはループコイル式の速度感知器(ループコイルが2つ)等により車両の速度を取得する。
灯色制御部14は、CPU11の指令に基づいて、交差点に設置された信号灯器へ灯色信号を出力する。これにより、信号灯器の灯色は、所定の順序及び表示時間で切り替わる。
混雑判定部15は、交通情報取得部12で取得した交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、交差点で対向する流入路のそれぞれの方向が混雑しているか否かを判定し、判定結果をジレンマ感応制御部17へ出力する。混雑しているか否かの判定は、例えば、速度が閾値(例えば、20km/h)以上か否か、あるいは、渋滞長が閾値(例えば、200m)以上であるか否かで行うことができる。
時差現示判定部16は、交通情報取得部12で取得した交通情報(例えば、交通量、渋滞長、信号待ち台数などの交通需要)に基づいて、交差点で対向する流入路のいずれか一方向に対して時差現示を行うか否かを判定する。時差現示は、例えば、交通需要の多い方向の流入路に対して行うと判定することができ、交通需要の多いE方向(一方向)の流入路に対して時差現示を行う場合、一方向の対向方向(交通需要の少ない方、例えば、W方向)の信号灯器の灯色をすべて赤として、W方向の流入路の車両の進行を停止させた上で、E方向(直進、左折、右折を含む)の流入路の車両を青信号で進行させる。
ジレンマ感応制御部17は、交差点へ向かって走行する車両が所定の危険ゾーンに存在するか否かの判定結果に応じて信号灯器の灯色を切り替える。
CPU11は、混雑判定部15での判定結果、及び時差現示判定部16での判定結果に基づいて、ジレンマ感応制御部17で行うジレンマ感応制御及び現示表示を行うムーブメント制御の両立を図り、灯色制御部14へ指令を出力する。なお、詳細は後述する。
図2は本実施の形態の交通信号制御装置10による信号制御が行われる交差点の一例を示す模式図である。交差点は、4つの流入路が交差し、便宜上交差点で対向する流入路の一方の方向を東方向とし、対向する方向を西方向とする。なお、対向する方向は東西方向に限定されない。東方向の流入路を走行する車両に対する(東方向に対する)信号灯器をE灯器と称し、西方向の流入路を走行する車両に対する(西方向に対する)信号灯器をW灯器と称する。
E灯器、W灯器は、それぞれG、Y、R、左折の青矢、直進の青矢、右折の青矢の各灯色を有する。Gは青の灯色を示し、Yは黄の灯色を示し、Rは赤の灯色を示す。なお、常時左折が許可されるような交差点では、左折の青矢がないので、そのような場合には、直進の青矢に左折の青矢が含まれるものとすることができる。
交差点の上流の所定地点(例えば、150m、200m上流)には、車両の速度を検出することができる画像式の車両感知器、超音波式の速度感知器(超音波のヘッドが2つ)、またはループコイル式の速度感知器(ループコイルが2つ)等の路上装置20を設置してある。路上装置20で検出した車両の速度は、交通信号制御装置10へ送信される。
次に、時差現示について説明する。図3は本実施の形態の交通信号制御装置10による時差現示を行う場合の現示階梯の一例を示す説明図である。図3の例は、時差現示判定部16で、例えば、E方向の流入路の交通需要がW方向の流入路の交通需要よりも多いとしてE方向に対して時差現示を設定する(すなわち、W方向の流入路の車両を時差現示の間、全赤で停止させる)場合の例を示す。図3において、二重線は赤信号(R)を示し、斜線(波線)は黄信号(Y)を示す。また、図3はデュアルリング方式を用いたムーブメント制御の場合を示す。
図3に示すように、リング1がステップ1、リング2がステップ1の場合、E灯器は、左(左折青)、直(直進青)、R(赤)が点灯状態となり、W灯器は、左(左折青)、直(直進青)、R(赤)が点灯状態となる。すなわち、東西両方向とも、直進と左折が可能となる。
次に、リング1がステップ1、リング2がステップ2の場合、E灯器は、左(左折青)、直(直進青)、R(赤)が点灯状態となり、W灯器は、Y(黄)が点灯状態となる。すなわち、西方向の流入路を走行する車両に対して直進青及び左折青が消灯し、黄信号が点灯する。
次に、リング1がステップ1、リング2がステップ3の場合、E灯器は、左(左折青)、直(直進青)、R(赤)が点灯状態となり、W灯器は、R(赤)が点灯状態となる。これにより、西方向の流入路での走行を停止させる。
次に、リング1がステップ1、リング2がステップ4の場合、E灯器は、左(左折青)、直(直進青)、R(赤)、右(右折青)が点灯状態となり、W灯器は、R(赤)が点灯状態となる。このリング1がステップ1、リング2がステップ4の状態が時差現示であり、E方向の流入路の車両は、左折、直進、右折をすることができ、W方向の流入路の車両は赤で停止する。
次に、リング1がステップ2、リング2がステップ4の場合、E灯器は、Y(黄)、右(右折青)が点灯状態となり、W灯器は、R(赤)が点灯状態となる。すなわち、東方向の流入路を走行する車両に対して直進青及び左折青が消灯し、黄信号が点灯する。
次に、リング1がステップ3、リング2がステップ4の場合、E灯器は、R(赤)、右(右折青)が点灯状態となり、W灯器は、R(赤)が点灯状態となる。これにより、東方向の流入路での直進及び左折走行を停止させる。
次に、リング1がステップ4、リング2がステップ4の場合、E灯器は、R(赤)、右(右折青)が点灯状態となり、W灯器は、R(赤)、右(右折青)が点灯状態となる。すなわち、東西両方向の流入路とも右折走行をさせる。
次に、リング1がステップ5、リング2がステップ5の場合、E灯器は、Y(黄)が点灯状態となり、W灯器は、Y(黄)が点灯状態となる。
次に、リング1がステップ6、リング2がステップ6の場合、E灯器は、R(赤)が点灯状態となり、W灯器は、R(赤)が点灯状態となる。これにより、東西方向の流入路の車両をすべて停止させる。以降は、例えば、南北方向の流入路に対して同様の灯色制御を行い、同様の点灯制御を繰り返す。
図3に示すような時差現示は、信号サイクルの毎サイクルで交通需要等の変化に応じて、例えば、交通需要の多い方向の流入路に対して行われる。なお、サイクル毎の時差現示を実現するムーブメント制御(可変フェーズ制御、可変現示制御ともいう)は、例えば、デュアルリング方式、現示頁選択方式などを用いることができる。デュアルリング方式を用いたムーブメント制御に限定されるものではなく、現示ページ選択方式を用いたムーブメント制御を用いてもよい。
図4は本実施の形態の交通信号制御装置10による時差現示を行う場合の現示階梯の他の例を示す説明図である。図4の例は、現示頁選択方式(現示ページ選択方式)を用いたムーブメント制御の場合の例を示す。なお、各階梯の順序は図3の例と同様であるので説明は省略する。
次に、ジレンマ感応制御について説明する。ジレンマ感応制御では、交差点に向かって走行する車両に対する信号灯器の青信号を打ち切った場合(黄信号に切り替えた場合)、当該車両が、いわゆる危険走行領域にあるか否かを判定し、当該車両が危険走行領域に入らないように信号灯器の青信号を打ち切るべく制御するものである。
図5は危険走行領域の概念を示す説明図である。図中、横軸は交差点(例えば、停止線位置)からの距離を示し、縦軸は車両の速度を示す。危険走行領域は、車両が危険走行状態である(危険走行領域内にある)ことを車両の速度と交差点までの距離とにより表すことができる領域である。危険走行領域は、ジレンマ領域とオプション領域とを含む。ジレンマ領域は、車両が黄信号表示後に停止しようとしても交差点の手前に停止できず、かつ黄信号の終了時点までに交差点に進入できない状態であり安全に停止又は進入できない状態である。また、オプション領域は、車両が黄信号表示後に停止しようとして交差点の手前に停止でき、かつ黄信号の終了時点までに交差点に進入できる状態であり、運転者の特性により車両が停止するのか又は進入するのかが異なる不安定な状態である。
図5において、交差点を基準とした車両の現在位置をX、現在速度をV、黄信号開始となるまでの時間をt(0<t<信号周期)とする。黄信号開始時刻での車両の位置Xyは、車両の速度が変化しないとすれば(Vy=V)、t=(X−Xy)/V(式1)で求めることができる。式1は、現在の車両の走行状態に基づいた判定条件Eである。車両の現在位置Xは、例えば、車両を感知する車両感知器の位置とすることができる。
一方、車両が交差点の手前で安全に停止し、信号待ちになる停止条件Cは、V2 ≦2×g×(Xy−α×V)で求められる(式2)。ここで、gは、車両の標準減速度であり、αは黄信号になってから運転者がブレーキを踏むまでの時間遅れである。すなわち、停止条件Cは、黄信号開始時に車両が標準減速度で減速したならば、車両が交差点で停止することができる車両の速度と交差点までの距離の限界を示す曲線である。
車両が黄信号の終了時点で交差点に進入し、交差点への進入条件Lは、V×Ty≧Xyで求められる(式3)。ここで、Tyは黄信号時間である。すなわち、進入条件Lは、車両が走行中に黄信号になった場合、その黄信号時間内(赤信号になる前)に交差点まで到達することができる車両の速度と交差点までの距離の限界を示す直線である。
図中、式2曲線の下側の領域は交差点停止領域であり、交差点手前に安全に停止することができる領域である。式3直線の上側の領域は交差点通過領域であり、安全に交差点に進入(通過)することができる領域である。ジレンマ領域は、式2及び式3の両者とも満足しない領域(停止できないし、進入もできない領域)であり、オプション領域は式2及び式3の両者とも満足する領域(停止できるし、進入もできる領域)である。
ジレンマ感応制御は、所定の危険ゾーン(例えば、図5で示す危険走行領域)に車両が存在しない場合には、青信号を打ち切り、車両が危険ゾーンに存在する場合には、車両が危険ゾーンに存在しなくなるまで青信号を延長する。
図6は本実施の形態の交通信号制御装置10によるジレンマ感応制御の実施の様子を示す模式図である。ジレンマ感応制御は、信号灯器の青信号を打ち切って黄信号に切り替えるので、ジレンマ感応制御の実施の可否の判定は、黄信号への切替時点よりもジレンマ感応判定に要する時間だけ早い時点又は当該時点より前のタイミングで行われる。
図6Aは、今の時点で青信号を打ち切った場合(黄信号に切り替えた場合)、車両C1は安全に交差点に進入することができ、車両C3は安全に交差点手前で停止することができる位置にあるものの、車両C2は、ジレンマ領域に位置すると判定された場合を示す。この場合には、ジレンマ領域内にある車両が存在するので、ジレンマ感応制御部17は、青信号の打ち切りを実施しない。
図6Bは、今の時点で青信号を打ち切った場合(黄信号に切り替えた場合)、車両C4は安全に交差点手前で停止することができる位置にあると判定された場合を示す。この場合には、ジレンマ領域内にある車両が存在しないので、ジレンマ感応制御部17は、青信号を打ち切る。
次に、ムーブメント制御(時差現示)とジレンマ感応制御との両立を図る方法について説明する。上述のように、CPU11は、混雑判定部15での判定結果、及び時差現示判定部16での判定結果(ジレンマ感応制御を行うための条件)に基づいて、ジレンマ感応制御部17で行うジレンマ感応制御の実施を制御する。
図7は本実施の形態の交通信号制御装置10によるジレンマ感応制御を行うための条件の一例を示す説明図である。なお、図7の例では、交差点で対向する流入路を東西方向としているが、これに限定されるものではない。
図7に示すように、時差現示判定部16で時差現示をしないと判定した場合に、混雑判定部15で東西両方向の流入路に混雑なしと判定されたとき、ジレンマ感応制御部17は、東西両方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。すなわち、対向する流入路の両方向が混雑していないと判定し、かつ時差現示を行わないと判定した場合に、両方向の流入路に対してジレンマ感応制御を行うので、ジレンマ感応制御を有効に実施することができるとともに、渋滞緩和と安全性向上の両者を実現することができる。
また、時差現示判定部16で時差現示をしないと判定した場合に、混雑判定部15で西方向の流入路に混雑ありと判定されたとき、ジレンマ感応制御部17は、混雑していない方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。同様に、時差現示判定部16で時差現示をしないと判定した場合に、混雑判定部15で東方向の流入路に混雑ありと判定されたとき、ジレンマ感応制御部17は、混雑していない方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。これにより、交差点で対向する流入路の任意の方向に対しての交通需要等に応じて時差現示を行うムーブメント制御と、当該交差点に向かって走行する車両の安全性を確保するジレンマ感応制御とを両立させることができ、渋滞緩和と安全性向上の両者を実現することができる。
また、時差現示判定部16で西方向の流入路に対して時差現示をすると判定した場合に、混雑判定部15で西方向の流入路に混雑ありと判定されたとき、ジレンマ感応制御部17は、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。同様に、時差現示判定部16で東方向の流入路に対して時差現示をすると判定した場合に、混雑判定部15で東方向の流入路に混雑ありと判定されたとき、ジレンマ感応制御部17は、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行う。これにより、交差点で対向する流入路の任意の方向に対しての交通需要等に応じて時差現示を行うムーブメント制御と、当該交差点に向かって走行する車両の安全性を確保するジレンマ感応制御とを両立させることができ、渋滞緩和と安全性向上の両者を実現することができる。
また、混雑判定部15で東西両方向の流入路に混雑ありと判定した場合には、時差現示判定部16での判定結果にかかわらず、ジレンマ感応制御部17は、ジレンマ感応制御を行わない。これにより、ジレンマ感応制御による効果が期待できない場合に、ジレンマ感応制御が行われることを抑制し、無駄な労力が費やされることを防止することができる。
図8は本実施の形態の交通信号制御装置10によるジレンマ感応制御を行うための条件の他の例を示す説明図である。図7の例との違いは、時差現示をしない場合に、西方向の流入路に混雑があるときは、ジレンマ感応制御を行わない点、同様に時差現示をしない場合に、東方向の流入路に混雑があるときは、ジレンマ感応制御を行わない点である。これにより、対向する流入路のうち、混雑が生じている流入路が必要とする青時間の確保を優先して、青時間の短縮が行われるおそれのあるジレンマ感応制御を行わないので、混雑が生じている流入路における混雑がさらに助長されることを防止することができる。
図9は本実施の形態の交通信号制御装置10によるジレンマ感応制御を行うための条件の他の例を示す説明図である。図8の例との違いは、西方向の流入路に対して時差現示をする場合に、西方向の流入路に混雑があるときは、ジレンマ感応制御を行わない点、同様に東方向の流入路に対して時差現示をする場合に、東方向の流入路に混雑があるときは、ジレンマ感応制御を行わない点である。これにより、対向する流入路のうち、混雑が生じている流入路が必要とする青時間の確保を優先して、青時間の延長がなされるおそれのあるジレンマ感応制御を行わないので、混雑が生じている流入路における混雑がさらに助長されることを防止することができる。
次に、時差現示が行われる場合にジレンマ感応制御による青信号の打ち切りタイミング(黄信号への切り替えタイミング)について説明する。図10は本実施の形態の交通信号制御装置10による時差現示とジレンマ感応制御による信号切替タイミングの一例を示す説明図である。図10Aは、図3で示す時差現示を行う場合の現示階梯の一部(青信号の部分)に対応する東西方向の流れ図を示す。図10において、右方向の矢印はE方向(東方向)の流れ図を示し、左方向の矢印はW方向(西方向)の流れ図を示す。
図10Aに示すように、時間T1の間では、E方向及びW方向ともに直進青及び左折青が点灯し、車両は直進と左折が可能である。時間T2では、W方向の車両は赤信号で停止となり、E方向は直進青、左折青に加えて右折青が点灯し、車両は直進、左折、右折が可能である。時間T2がE方向に対する時差現示の時間となる。また、時間T3では、E方向の右折青とW方向の右折青とが点灯し、E方向及びW方向とも右折車のみ走行可能である。
図10Aで示すようにE方向(東方向)の流入路に対して時差現示が行われる場合に、ジレンマ感応制御を行うときには、図6に示すように、W方向(西方向)の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うことになる。
図10Bに示すように、W方向の流入路を走行する車両に対するジレンマ感応制御では、時差現示を行う方向(E方向)の対向方向(W方向)の信号灯器の青信号の表示時間を短縮する範囲で青信号を切り替える。例えば、対向する流入路の方向を東西方向とした場合に、東方向の流入路に対して時差現示を行うときは、時差現示を行う方向の対向方向(西方向)の信号灯器の青信号の表示時間を基準青秒数から短縮する範囲で、青信号から、例えば黄色へ切り替える。図10の例では、W方向の青信号の表示時間T1がT4に短縮されている。すなわち、従来のジレンマ感応制御のように青信号の表示時間を基準青秒数から延長又は短縮するのではなく、短縮のみを行うようにするので、時差現示を行う東方向の信号灯器の青信号の表示時間は、ジレンマ感応制御が行われた場合でも短縮されることはなく、時差現示を行う際の時差時間を確実に保証することができる。
図11は本実施の形態の交通信号制御装置10による時差現示とジレンマ感応制御による信号切替タイミングの他の例を示す説明図である。図11の例では、ジレンマ感応制御部17は、時差現示を行うと判定した場合に、時差現示を行う方向の信号灯器の青信号の表示時間が所定値以上になるように、時差現示を行う方向の対向方向の信号灯器の青信号を切り替える。図11Aは、図10Aと同様に、図3で示す時差現示を行う場合の現示階梯の一部(青信号の部分)に対応する東西方向の流れ図を示す。図11において、右方向の矢印はE方向(東方向)の流れ図を示し、左方向の矢印はW方向(西方向)の流れ図を示す。
図11Aに示すように、時間T1の間では、E方向及びW方向ともに直進青及び左折青が点灯し、車両は直進と左折が可能である。時間T2では、W方向の車両は赤信号で停止となり、E方向は直進青、左折青に加えて右折青が点灯し、車両は直進、左折、右折が可能である。時間T2がE方向に対する時差現示の時間となる。また、時間T3では、E方向の右折青とW方向の右折青とが点灯し、E方向及びW方向とも右折車のみ走行可能である。図11Aにおいて、時間T2より短い時間を所定値(例えば、最小表示時間)としている。
図11Aで示すようにE方向(東方向)の流入路に対して時差現示が行われる場合に、ジレンマ感応制御を行うときには、図6に示すように、W方向(西方向)の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行うことになる。
図11Bに示すように、対向する流入路の方向を東西方向とした場合に、東方向の流入路に対して時差現示を行うときは、時差現示を行う方向の信号灯器の青信号(例えば、右折青信号)の表示時間を所定値(例えば、最小表示時間)以上になるように、時差現示を行う方向の対向方向(西方向)の信号灯器の青信号を切り替える。図11の例では、時差現示を行う方向の信号灯器の青信号(例えば、右折青信号)の表示時間T8が所定値より短くならない様子を示している。図11Bに示すように、ジレンマ感応制御を行って青信号の表示時間を延長したときでも、時差現示を行う際の時差時間はT2からT8(所定値以上)となるので、最小表示時間以上の時差現示を行うことができる。すなわち、時差現示を行う東方向の信号灯器の青信号の表示時間は、ジレンマ感応制御が行われた場合でも所定値以上となるので、時差現示を行う際の時差時間を確実に保証することができる。
次に、本実施の形態の交通信号制御装置10の動作について説明する。図12は本実施の形態の交通信号制御装置10による処理手順を示すフローチャートである。CPU11は、交通情報を取得し(S11)、交差点で対向する流入路の一方向で混雑があるか否かを判定する(S12)。
流入路の一方向で混雑があると判定した場合(S12でYES)、CPU11は、時差現示があるか否かを判定する(S13)。時差現示があると判定した場合(S13でYES)、CPU11は、時差現示を行う方向の対向方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行い(S14)、処理を終了する。なお、ジレンマ感応制御は、危険走行領域に車両が存在しないか否かを判定し、危険走行領域に車両が存在しないように青信号の打ち切りを決定する。
時差現示がない場合(S13でNO)、CPU11は、混雑していない方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行い(S15)、処理を終了する。なお、ジレンマ感応制御は、危険走行領域に車両が存在しないか否かを判定し、危険走行領域に車両が存在しないように青信号の打ち切りを決定する。
対向する流入路の一方向で混雑がない場合(S12でNO)、CPU11は、両方向の流入路で混雑があるか否かを判定し(S16)、両方向の流入路で混雑がない場合(S16でNO)、時差現示があるか否かを判定する(S17)。
時差現示がない場合(S17でNO)、CPU11は、両方向の流入路を走行する車両に対してジレンマ感応制御を行い(S18)、処理を終了する。なお、ジレンマ感応制御は、危険走行領域に車両が存在しないか否かを判定し、危険走行領域に車両が存在しないように青信号の打ち切りを決定する。
両方向の流入路で混雑がある場合(S16でYES)、あるいは時差現示がある場合(S17でYES)、CPU11は、ジレンマ感応制御を行わず(S19)、処理を終了する。
上述の実施の形態の交通信号制御装置10は、交通信号制御機でもよく、交通信号制御機を制御する制御装置又は上位装置等であってもよい。
上述の実施の形態では、流入路の対向する方向を、それぞれE方向、W方向として説明したが、これに限定するものではない。また、交差点は、十字状に交差するものに限定されるものではなく、三叉路、五叉路など、時差現示を行い得る交差点であればどのような構造の交差点においても本実施の形態の交通信号制御装置10を用いることができる。
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。