JP5714830B2 - 変異アルカリセルラーゼ - Google Patents

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Description

本発明は、再汚染防止能を有する変異アルカリセルラーゼに関する。
衣料品等の効果的な洗浄には、被洗浄物から汚れ物質を十分離脱させることや酵素分解等により汚れ物質を迅速に除去することが重要であるが、更に、被洗浄物から一旦離脱させた汚れ物質の再付着を防止すること(再汚染防止)も大変重要である。特にすすなどの微小な汚れ物質は、洗浄液中に一旦拡散してから被洗浄物に再付着すると、それを除去することが大変困難であることが知られている。
そのため、例えば衣料用洗剤には、従来、様々な再汚染防止剤が配合されてきた。再汚染防止剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース等のセルロース系化合物、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のノニオン性高分子、アミノ酸ポリマー等が使用されているが、更に高い効果を有する再汚染防止剤の開発が望まれていた。
一方、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ等の加水分解酵素を洗浄補助剤として洗浄剤に配合することは古くから行われてきた。加水分解酵素の1つであるセルラーゼは、もともと中酸性領域で作用する酵素として知られ、通常アルカリ性の衣料用洗浄剤への配合には適さないとされていた。しかし近年では好熱性又は好アルカリ性バチルス属細菌を始めとする複数の生物種からアルカリセルラーゼやその変異体等が得られており、アルカリ性衣料用洗剤にも配合されるようになっている(例えば特許文献1〜6)。
ところで、セルラーゼは、セルロースを始めとするβ1,4-グルカン中のグリコシド結合を加水分解する酵素である。セルラーゼは主として細菌や植物によって生産され、生物界に広く存在している。セルラーゼは、セルロースを分子内部から切断するエンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)と、糖鎖の還元末端又は非還元末端からセルロースを分解し、セロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ)(EC 3.2.1.91)とに分類されている。一方、セルラーゼを始めとする糖質加水分解酵素は、糖質加水分解酵素ファミリーとして1つにまとめられ、それが現在では1〜108のサブファミリーに分類されている。セルラーゼは、その構造に基づき、糖質加水分解酵素ファミリーのファミリー5、6、7、8、9、10、12、44、45、48、51、61、74に分類されているが、それらファミリー間のアミノ酸配列同一性は非常に低いことも知られている。
しかし近年、アミノ酸配列や立体構造の解析などから、セルラーゼが、リンカーを介して互いに連結された触媒活性のあるドメイン(触媒領域;CD)と他の機能ドメインとを共通に有していることが分かってきた。上記他の機能ドメインの代表例が、セルロースへの結合性を有するセルロース結合領域(CBM;セルロース結合モジュールとも呼ばれる)である(図1A参照)。セルラーゼは通常複数のCBMを有している。セルロースは基本的に水不溶性であるため、セルラーゼは、そのCBMを介してセルロース表面に結合することにより、基質濃度を相対的に高めているものと考えられている。CBMも、アミノ酸配列同一性に基づいて40を超えるファミリーに分類されている。このCBMについてはセルロース結合に直接関与するアミノ酸残基の同定も行われている(非特許文献1)。
上記特許文献1には、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株から、高い耐熱性を有するアルカリセルラーゼを単離したことが記載され、特許文献2には、最適pHをpH10.5付近に高めた変異アルカリセルラーゼが記載され、特許文献3には、生産性を高めた変異アルカリセルラーゼが記載されている。そして、特許文献4及び6には、これらの一部のセルラーゼについて、再汚染防止作用を有することが記載されている。
しかしながら、セルラーゼの再汚染防止機構の詳細はなお不明であり、より高い再汚染防止能を有するセルラーゼを取得する方法については、まだ知られていない。
特許第3512981号明細書 特開2003−310270号公報 特開2004−140号公報 特表2004−536593号公報 特表2006−509850号公報 特開2002−265998号公報
Boraston A.B. et al., Biochem. J., (2002) 361, p.35-40
本発明は、より高い再汚染防止能を有するアルカリセルラーゼを提供することに関する。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、アルカリセルラーゼのセルロース結合性を弱めるように、セルロース結合領域内のセルロース結合に関与する領域か又はその近傍のアミノ酸残基を置換することにより、そのアルカリセルラーゼの再汚染防止能をさらに向上させることができることを見出した。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアルカリセルラーゼのアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の418位、419位、420位、421位、422位、453位、454位、455位、457位、458位、459位、494位、495位、496位、500位、501位、502位、503位、504位、550位、551位、552位、604位、605位、606位、607位、608位、640位、641位、642位、644位、645位、646位、683位、684位、685位、690位、691位、692位、693位、694位、739位、740位及び741位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列からなる変異アルカリセルラーゼ。
(2)1以上のアミノ酸残基が、配列番号2で示されるアミノ酸配列の419位、421位、454位及び501位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる、上記(1)の変異アルカリセルラーゼ。
(3)前記アミノ酸残基の置換が、トリプトファンからチロシンへの置換、又はトリプトファン以外のアミノ酸残基からアラニンへの置換である、上記(1)又は(2)の変異アルカリセルラーゼ。
(4)さらに配列番号2で示されるアミノ酸配列の1〜30位のアミノ酸残基又は当該アミノ酸残基に相当するアミノ酸残基からなるシグナル配列が欠失している、上記(1)〜(3)の変異アルカリセルラーゼ。
(5)上記(1)〜(4)の変異アルカリセルラーゼをコードする遺伝子。
(6)上記(5)の遺伝子を含有する組換えベクター。
(7)上記(6)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(8)微生物である上記(7)の形質転換体。
(9)上記(1)〜(4)の変異アルカリセルラーゼを含む再汚染防止剤。
(10)上記(1)〜(4)に記載の変異アルカリセルラーゼを含む酵素組成物。
(11)プロテアーゼ、セルラーゼ、β−グルカナーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、キシログルカナーゼ、キシラナーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、マンナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びトランスグルタミナーゼ、並びにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの酵素をさらに含む上記(10)の酵素組成物。
(12)上記(1)〜(4)の変異アルカリセルラーゼ、(9)の再汚染防止剤、又は(10)若しくは(11)の酵素組成物を含む洗浄剤組成物。
(13)上記(5)の変異アルカリセルラーゼをコードする遺伝子から、該変異アルカリセルラーゼを発現させることを含む、変異アルカリセルラーゼを製造する方法。
(14) 配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアルカリセルラーゼのアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の418位、419位、420位、421位、422位、453位、454位、455位、457位、458位、459位、494位、495位、496位、500位、501位、502位、503位、504位、550位、551位、552位、604位、605位、606位、607位、608位、640位、641位、642位、644位、645位、646位、683位、684位、685位、690位、691位、692位、693位、694位、739位、740位及び741位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換することによる、アルカリセルラーゼの再汚染防止能を向上させる方法。
本発明に係る再汚染防止能を向上させた変異アルカリセルラーゼ、及びそれを含む再汚染防止剤は、例えば洗浄プロセスにおいて、高い再汚染防止促進効果をもたらすことができる。また本発明に係る酵素組成物は、それを配合することにより洗浄剤組成物等に再汚染防止効果を付与することができる。さらに本発明に係る洗浄剤組成物は、洗浄の際に高い再汚染防止効果を発揮することができる。そして本発明に係る変異アルカリセルラーゼの製造方法を用いれば、再汚染防止能が向上したアルカリセルラーゼを製造することが可能になる。
図1は、S237セルラーゼの構造(A)及びセルラーゼによる再汚染防止効果の推定メカニズム(B)の概略図である。図1Aに示したシグナル配列は、通常、S237セルラーゼの成熟タンパク質においては切断除去されている。 図2は、S237セルラーゼ添加による再汚染防止促進効果を他の酵素と比較した図である。図2AはS237セルラーゼと他の加水分解酵素とを比較した結果であり、図2BはS237セルラーゼと他のセルラーゼとを比較した結果である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.変異アルカリセルラーゼ及びその製造
本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、基準となる任意のアルカリセルラーゼのセルロース結合領域内のセルロース結合に直接関与する領域か又はそれに隣接するアミノ酸残基を置換することにより、再汚染防止能を向上させたものである。
より具体的には、本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株などのバチルス属細菌由来のアルカリセルラーゼや該アルカリセルラーゼと高いアミノ酸配列の同一性を有するアルカリセルラーゼからなる任意のアルカリセルラーゼのアミノ酸配列にアミノ酸置換を導入して得られる変異アルカリセルラーゼであって、アルカリセルラーゼのセルロース結合領域内のセルロース結合に直接関与する領域か又はその近傍にあるアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、再汚染防止能を向上させたものである。
更に具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアルカリセルラーゼのアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の418位、419位、420位、421位、422位、453位、454位、455位、457位、458位、459位、494位、495位、496位、500位、501位、502位、503位、504位、550位、551位、552位、604位、605位、606位、607位、608位、640位、641位、642位、644位、645位、646位、683位、684位、685位、690位、691位、692位、693位、694位、739位、740位及び741位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、再汚染防止能を向上させたものである。
本発明においてアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr及びValを意味する。
本明細書において、基準となるアルカリセルラーゼ、すなわちアミノ酸置換前の任意のアルカリセルラーゼを「基準アルカリセルラーゼ」、そのアミノ酸配列を「基準アミノ酸配列」、そのアルカリセルラーゼをコードする遺伝子を「基準アルカリセルラーゼ遺伝子」と称する。
本発明に係る変異アルカリセルラーゼのアミノ酸配列は、任意のアルカリセルラーゼのアミノ酸配列を基準として設計することができる。そのような基準アミノ酸配列としては、例えば、糖質加水分解酵素ファミリーのファミリー5に属する各種アルカリセルラーゼのアミノ酸配列を挙げることができる。また基準アミノ酸配列としては、例えばバチルス属細菌、クロストリジウム属細菌、アシドサーマス属細菌等のアルカリセルラーゼを産生する任意の生物由来のアルカリセルラーゼのアミノ酸配列が挙げられ、このうち、バチルス属細菌由来のアルカリセルラーゼのアミノ酸配列を有利に使用することができる。
バチルス属細菌のアルカリセルラーゼとしては、好適には、バチルス・エスピーKSM-S237株由来アルカリセルラーゼ[S237セルラーゼ]が挙げられる。
バチルス・エスピーKSM-S237株由来のアルカリセルラーゼは、N末端シグナル配列(配列番号2の1位〜30位;MMLRKKTKQLISSILILVLLLSLFPAALAA[アミノ酸1文字表記])を含む前駆体タンパク質としては配列番号2で示されるアミノ酸配列を、成熟タンパク質としてはそのシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を有する。
従って、本発明に係る変異アルカリセルラーゼの基準アミノ酸配列としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列の他、配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、なお好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列が挙げられ、これらはオープンリーディングフレーム(ORF)にコードされたアミノ酸配列であってもよいし、その配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列であってもよい。
ここで、アミノ酸配列間の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。
S237セルラーゼ以外のバチルス属細菌のアルカリセルラーゼとしては、例えば、バチルス・エスピーDSM12648株由来アルカリセルラーゼ(配列番号4)[S237セルラーゼ(シグナル配列を含む)とのアミノ酸配列同一性は約98.2%]、バチルス・エスピー1139株由来アルカリセルラーゼ(配列番号6)[S237セルラーゼ(シグナル配列を含む)とのアミノ酸配列同一性は約91.3%]、バチルス・エスピーKSM-64株由来アルカリセルラーゼ(配列番号8)[S237セルラーゼ(シグナル配列を含む)とのアミノ酸配列同一性は91.6%]、バチルス・エスピーKSM-635株由来アルカリセルラーゼ(配列番号10)[S237セルラーゼ(シグナル配列を含む)とのアミノ酸同一性は71.0%]、及びバチルス・エスピーN-4株由来アルカリセルラーゼ(配列番号12)[S237セルラーゼ(シグナル配列を含む)とのアミノ酸配列同一性は64.0%の他、バチルス・エスピー KSM-N131株由来(特開2001-231569号)のN131a及びN131bの2種類のアルカリセルラーゼ[S237セルラーゼ(シグナル配列を含む)とのアミノ酸同一性はそれぞれ87.9%及び97.1%]などの様々なバチルス菌株由来のアルカリセルラーゼが報告されており、これらは、互いに高いアミノ酸配列同一性及び類似性を有している。
従って、本発明に係る変異アルカリセルラーゼの基準アミノ酸配列としては、バチルス・エスピーDSM12648株由来のアルカリセルラーゼ(配列番号4)、バチルス・エスピー1139株由来のアルカリセルラーゼ(配列番号6)、バチルス・エスピーKSM-64株由来のアルカリセルラーゼ(配列番号8)、バチルス・エスピーKSM-635株由来のアルカリセルラーゼ(配列番号10)、若しくはバチルス・エスピーN-4株由来のアルカリセルラーゼ(配列番号12)のアミノ酸配列、又はそれに対して90%以上、更に好ましくは95%以上、なお好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列が包含される。
更に本発明における基準アミノ酸配列は、配列番号2、4、6、8、10、12の各アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。ここで、1若しくは数個とは、例えば1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、なお好ましくは1〜5個を指す。そのような基準アミノ酸配列の一例としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列の10位に相当する位置をグルタミン、アラニン、プロリン又はメチオニンに置換した変異アルカリセルラーゼ、16位に相当する位置をアスパラギン又はアルギニンに置換した変異アルカリセルラーゼ、22位に相当する位置をプロリンに置換した変異アルカリセルラーゼ、33位に相当する位置をヒスチジンに置換した変異アルカリセルラーゼ、39位に相当する位置をアラニン、スレオニン又はチロシンに置換した変異アルカリセルラーゼ、76位に相当する位置をヒスチジン、メチオニン、バリン、スレオニン又はアラニンに置換した変異アルカリセルラーゼ、109位に相当する位置をイソロイシン、ロイシン、セリン又はバリンに置換した変異アルカリセルラーゼ、242位に相当する位置をアラニン、フェニルアラニン、バリン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、チロシン、スレオニン、メチオニン又はグリシンに置換した変異アルカリセルラーゼ、263位に相当する位置をイソロイシン、ロイシン、プロリン又はバリンに置換した変異アルカリセルラーゼ、308位に相当する位置をアラニン、セリン、グリシン又はバリンに置換した変異アルカリセルラーゼ、462位に相当する位置をスレオニン、ロイシン、フェニルアラニン又はアルギニンに置換した変異アルカリセルラーゼ、466位に相当する位置をロイシン、アラニン又はセリンに置換した変異アルカリセルラーゼ、468位に相当する位置をアラニン、アスパラギン酸、グリシン又はリジンに置換した変異アルカリセルラーゼ、552位に相当する位置をメチオニンに置換した変異アルカリセルラーゼ、564位に相当する位置をバリン、スレオニン又はロイシンに置換した変異アルカリセルラーゼ、608位に相当する位置をイソロイシン又はアルギニンに置換した変異アルカリセルラーゼ、又は上記のアミノ酸残基の置換を1以上組み合わせ変異アルカリセルラーゼ等の特許文献2及び3記載の変異アルカリセルラーゼが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明では、上記のような基準アミノ酸配列中、セルロース結合領域内のセルロース結合に直接関与する領域か又はそれに隣接するアミノ酸残基が置換の対象となる。具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアルカリセルラーゼのアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の418位、419位、420位、421位、422位、453位、454位、455位、457位、458位、459位、494位、495位、496位、500位、501位、502位、503位、504位、550位、551位、552位、604位、605位、606位、607位、608位、640位、641位、642位、644位、645位、646位、683位、684位、685位、690位、691位、692位、693位、694位、739位、740位及び741位に相当する位置のアミノ酸残基の少なくとも1つが、アミノ酸置換の対象となりうる。
上記「配列番号“X”で示されるアミノ酸配列の“Y”位に相当する位置」という表現は、配列番号“X”で示されるアルカリセルラーゼのアミノ酸配列(例えば配列番号2で示されるS237セルラーゼのアミノ酸配列)を参照配列として、任意のアルカリセルラーゼのアミノ酸配列中の所定のアミノ酸残基の位置を指定するために使用される。例えば「配列番号“X”で示されるアミノ酸配列の“Y”位に相当する位置のアミノ酸残基」とは、配列番号“X”で示されるアミノ酸配列については、その配列の1番目のアミノ酸残基から数えてY番目に出現するアミノ酸残基を意味する。
一方、配列番号“X”以外のアルカリセルラーゼのアミノ酸配列(“Z”)については、「配列番号“X"で示されるアミノ酸配列の“Y”位に相当する位置のアミノ酸残基」は、そのアミノ酸配列“Z”を配列番号“X”のアミノ酸配列とアラインメントしたときに、配列番号“X”のアミノ酸配列の1番目のアミノ酸残基から数えてY番目のアミノ酸残基に対してアラインされる(すなわち、アラインメントにおいて同じ縦列に整列される)、アミノ酸配列“Z”中のアミノ酸残基を意味する。なお配列番号“X”のアミノ酸配列と他のアミノ酸配列とのアラインメントは、手作業で行うこともできるが、例えばClustal W マルチプルアラインメントプログラム(Thompson, J.D. et al, (1994) Nucleic Acids Res. 22, p.4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより作成することができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute : EBI、http://www.ebi.ac.uk/index.html)や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ、http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)のウェブサイトから利用することができる。
当業者であれば、得られたアラインメントを、必要に応じて最適なアラインメントとなるように更に微調整することできる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニン及びリジン;グルタミン酸及びアスパラギン酸;セリン及びトレオニン;グルタミン及びアスパラギン;バリン、ロイシン及びイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
参考のため、後述の表5には、基準アミノ酸配列として用いられうる配列番号2(バチルス・エスピーKSM-S237株由来)、4(DSM12648株由来)、6(1139株由来)、8(KSM-64株由来)、10(KSM-635株由来)、12(N-4株由来)の各アミノ酸配列について、配列番号2の上記位置に各々対応するアミノ酸残基を示した。
本発明に係る変異アルカリセルラーゼについて、置換対象のアミノ酸残基から他のアミノ酸残基への置換は、例えば、トリプトファン(非極性アミノ酸)からチロシン(極性アミノ酸)への置換であってもよいし、トリプトファン以外のアミノ酸残基[すなわち、非極性アミノ酸としてはバリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、及びプロリン;極性アミノ酸としてはグリシン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、及びチロシン;酸性アミノ酸としてはアスパラギン酸及びグルタミン酸;並びに塩基性アミノ酸としてはアルギニン、ヒスチジン、及びリジン]からアラニン(非極性アミノ酸)への置換であってもよい。そのような置換は、本発明に係る変異アルカリセルラーゼに対し顕著に高い再汚染防止能を付与する。
一実施形態において、本発明に係る好ましい変異アルカリセルラーゼとして、配列番号2で示されるアミノ酸配列の419位、421位、454位及び501位(これらはセルロース結合に直接関与するアミノ酸残基とその好適な隣接部位(640位)の位置である)に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された変異アルカリセルラーゼが挙げられる。このような置換は、置換したアミノ酸残基付近のセルロース結合性を低下させ、その結果、得られる変異アルカリセルラーゼの部分的なセルロースへの結合性低下をもたらし、且つ顕著に高い再汚染防止能を付与する。
更に別の実施形態では、本発明に係る変異アルカリセルラーゼとして、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列について、配列番号2のアミノ酸配列の418位、419位、420位、421位、422位、453位、454位、455位、457位、458位、459位、494位、495位、496位、500位、501位、502位、503位、504位、550位、551位、552位、604位、605位、606位、607位、608位、640位、641位、642位、644位、645位、646位、683位、684位、685位、690位、691位、692位、693位、694位、739位、740位及び741位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列、又はその配列から更にシグナル配列(配列番号2の1位〜30位の配列に相当)が除去されたアミノ酸配列を含む、変異アルカリセルラーゼが挙げられる。
更に別の好ましい態様として、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列について、配列番号4のアミノ酸配列の389位、390位、391位、392位、393位、424位、425位、426位、428位、429位、430位、465位、466位、467位、471位、472位、473位、474位、475位、521位、522位、523位、523位、575位、576位、577位、578位、579位、611位、612位、613位、615位、616位、617位、654位、655位、656位、661位、662位、664位、665位、710位、711位及び712位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列、又はその配列から更にシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、変異アルカリセルラーゼが挙げられる。
更に別の好ましい態様として、例えば、配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列について、配列番号6のアミノ酸配列の418位、419位、420位、421位、422位、452位、453位、454位、456位、457位、458位、493位、494位、495位、499位、500位、501位、502位、503位、548位、549位、550位、602位、603位、604位、605位、606位、638位、639位、640位、642位、643位、644位、681位、682位、683位、688位、689位、690位、691位、692位、737位、738位及び739位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列、又は当該配列から更にシグナル配列が除去されたアミノ酸配列(1139株由来セルラーゼは30アミノ酸のシグナル配列を含む)を含む、変異アルカリセルラーゼが挙げられる。
更に別の好ましい態様として、例えば、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列について、配列番号8のアミノ酸配列の417位、418位、419位、420位、421位、451位、452位、453位、455位、456位、457位、492位、493位、494位、498位、499位、500位、501位、502位、547位、548位、549位、601位、602位、603位、604位、605位、637位、638位、639位、641位、642位、643位、680位、681位、682位、687位、688位、689位、690位、691位、736位、737位及び738位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列、又はその配列から更にシグナル配列が除去されたアミノ酸配列(KSM-64株由来セルラーゼは29アミノ酸のシグナル配列を含む)を含む、変異アルカリセルラーゼが挙げられる。
更に別の好ましい態様としては、例えば、配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列について、配列番号10のアミノ酸配列の598位、599位、600位、601位、602位、633位、634位、635位、637位、638位、639位、674位、675位、676位、680位、681位、682位、683位、684位、729位、730位、731位、783位、784位、785位、786位、787位、819位、820位、821位、823位、824位、825位、862位、863位、864位、869位、870位、871位、872位、873位、919位、920位及び921位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列、又はその配列から更にシグナル配列が除去されたアミノ酸配列(KSM-635株由来セルラーゼは29アミノ酸のシグナル配列を含む)を含む、変異アルカリセルラーゼが挙げられる。
更に別の好ましい態様として、例えば、配列番号12で示されるアミノ酸配列又は当該配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列について、配列番号12のアミノ酸配列の451位、452位、453位、454位、455位、486位、487位、488位、490位、491位、492位、527位、528位、529位、533位、534位、535位、536位、537位、583位、584位、585位、639位、640位、641位、642位、643位、675位、676位、677位、679位、680位、681位、720位、721位、722位、727位、728位、729位、730位、731位、775位、776位、及び777位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列、又はその配列から更にシグナル配列が除去されたアミノ酸配列(N-4株由来セルラーゼは28アミノ酸のシグナル配列を含む)を含む変異アルカリセルラーゼが挙げられる。
本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、そのセルロース結合領域におけるセルロース結合性の低下に基づいて再汚染防止能を発揮するので、単に再汚染防止効果を得ることを目的とする場合には、セルラーゼ活性を有してもよいが、有していなくてもよい。しかし、セルロースを含む糖類の分解作用も同時に得られるという点では、本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、セルラーゼ活性を有していることがより好ましい。本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、そのN末端にシグナル配列を有していてもよいし、シグナル配列が除去された成熟タンパク質形態であってもよい。
本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、当技術分野で公知の各種の変異導入技術を使用して製造することができる。例えば、本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、その基準アミノ酸配列をコードするアルカリセルラーゼ遺伝子(基準アルカリセルラーゼ遺伝子)内の置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、置換後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させ、更にその変異遺伝子から変異アルカリセルラーゼを発現させることにより、製造することができる。
基準アルカリセルラーゼ遺伝子への目的の変異導入は、基本的には基準アルカリセルラーゼ遺伝子を鋳型DNAとして用いるPCR増幅や各種DNAポリメラーゼによる複製反応に基づき、当業者には周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法など(村松ら編、「改訂第4版 新 遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p.82-88)の任意の手法により行うことができる。必要に応じてStratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等の各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用することもできる。
本発明ではまた、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つの変異プライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Horton R.M. et al., Gene (1989) 77(1), p.61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。このSOE-PCR法を用いた変異導入手順については、後述の実施例にも詳述している。
基準アルカリセルラーゼ遺伝子を含む鋳型DNAは、アルカリセルラーゼを産生する生物から、常法により、ゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって調製することができる。アルカリセルラーゼを産生する生物は、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属細菌、クロストリジウム属細菌、アシドサーマス属細菌を含む細菌の他、植物や動物でも報告されているが、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属細菌についての研究が最も進んでおり、それら生物は当業者であれば容易に入手することができる。例えば、バチルス・エスピーのKSM-S237株(受託番号FERM BP-7875)、KSM-64株(受託番号FERM BP-2886)、KSM-635株(受託番号FERM BP-1485)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、それぞれ併記した受託番号に基づいて寄託されている。
これらバチルス属菌株からのゲノムDNAの調製は、例えば、Pitcher et al., Lett. Appl. Microbiol., 1989, 8: p.151-156に記載の方法などを用いて行うことができる。基準アルカリセルラーゼ遺伝子を含む鋳型DNAは、調製したcDNA又はゲノムDNAから切り出した基準アルカリセルラーゼ遺伝子を含むDNA断片を任意のベクター中に挿入した形で調製してもよい。なお、バチルス・エスピーKSM-S237由来アルカリセルラーゼ(配列番号2)、DSM12648株由来アルカリセルラーゼ(配列番号4)、1139株由来アルカリセルラーゼ(配列番号6)、KSM-64株由来アルカリセルラーゼ(配列番号8)、KSM-635株由来アルカリセルラーゼ(配列番号10)、及びN-4株由来のアルカリセルラーゼ(配列番号12)をコードする塩基配列を含む既報のDNA配列(GenBank登録配列)を、それぞれ配列番号1(GenBankアクセッション番号AB018420)、3、5(GenBankアクセッション番号D00066)、7(GenBankアクセッション番号M84963)、9(GenBankアクセッション番号M27420)、及び11(GenBankアクセッション番号M25500)に示した。
基準アルカリセルラーゼ遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異プライマーを用いて行うことができる。そのような変異プライマーは、基準アルカリセルラーゼ遺伝子内の置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて置換後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有する塩基配列を含むように設計すればよい。
置換対象及び置換後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。例えば、S237セルラーゼ(配列番号2)の419位のアスパラギンをアラニンに置換する場合には、そのアスパラギンに対応するコドンAAT(配列番号1の1827位〜1829位)をアラニンのコドンGCTに変更した配列を含むプライマー5'-AGGATTTGGAGTGGCTTCGGATTCTCCAAA-3'(N419A-FW(配列番号18))と、その相補配列を有するプライマー(N419A-RV)を、変異プライマーとして使用することができる。
本発明で用いるプライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids Research, 17, 7059-7071, 1989)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて作製することもできる。変異プライマーを含むプライマーセットを使用し、基準アルカリセルラーゼ遺伝子を鋳型DNAとして上記のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異が導入された変異アルカリセルラーゼ遺伝子を得ることができる。本発明はこのようにして得られる変異アルカリセルラーゼ遺伝子にも関する。
なお本発明において「変異アルカリセルラーゼ遺伝子」とは、変異アルカリセルラーゼのアミノ酸配列をコードする任意の核酸断片(DNA、mRNA、及び人工核酸等を含む)を意味する。本発明に係る「遺伝子」は、オープンリーディングフレームに加えて非翻訳領域(UTR)などの他の塩基配列を含んでもよい。
得られた変異アルカリセルラーゼ遺伝子を常法により任意のベクター中に挿入し連結することにより、組換えベクターを作製することができる。本発明で用いるベクターは特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。
そのようなベクターとしては、限定するものではないが、細菌内、とりわけバチルス属細菌内で増幅可能なベクターがより好ましく、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターであることが更に好ましい。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、変異アルカリセルラーゼを組換え生産する上で特に好適に用いることができる。
好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Ishikawa, H. and Shibahara, H., Jpn. J. Genet, (1985) 60, p.235-243)、pAC3(Moriyama, H. et al., Nucleic Acids Res. (1988) 16, p.8732)等のシャトルベクター、pUB110(Gryczan, T. J. et al., J. Bacteriol. (1978) 134, p.318-329)、pTA10607(Bron, S. et al., Plasmid, 18 (1987) p.8-15)等のバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミド、分泌シグナルを組換えタンパク質に付与可能な分泌ベクター(山根他,「枯草菌分泌ベクターによる融合タンパク質」 澱粉科学, 34. (1987), p.163-170)等が挙げられる。また大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)を用いることもできる。
変異アルカリセルラーゼを組換え生産する目的では、ベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターは、転写プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必須な各種エレメントの他、選択マーカー遺伝子やポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等の有用な配列を必要に応じて含みうる。
変異アルカリセルラーゼ遺伝子を含む組換えベクターを用いて、形質転換体を作製することができる。本発明では、本発明に係る変異アルカリセルラーゼ遺伝子を含む組換えベクター(具体的には組換え発現ベクター)を宿主細胞に導入することにより形質転換体(形質転換細胞)を作製し、それを組換えタンパク質の発現が誘導される条件下で培養することにより、変異アルカリセルラーゼを産生させることができる。
本発明は、そのようにして作製された形質転換体、及びその形質転換体を用いた変異アルカリセルラーゼの製造方法にも関する。組換えベクターを導入する宿主細胞としては、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞を始めとする微生物の他、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等の任意の細胞を使用することができる。本発明においては、特に、枯草菌等のバチルス属細菌を使用することが好ましい。
形質転換には、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等の周知の形質転換技術を適用することができる。例えばバチルス属細菌に適用可能な形質転換法としては、コンピテントセル形質転換法(Bott. K.F. and Wilson, G.A., J. Bacteriol. (1967) 93, 1925)、エレクトロポレーション法(Brigidi. P. et al., FEMS Microbiol. Lett. (1990) 55, 135)、プロトプラスト形質転換法(Chang, S. and Cohen, S.N., Mol. Gen. Genet., (1979) 168, p.111-115)、Tris-PEG法(Takahashi W. et al., J. Bacteriol. (1983) 156, p.1130-1134)などが挙げられる。
組換えタンパク質生産のための上記形質転換体の培養は、当業者には一般的な方法に従って行うことができる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物宿主に基づく形質転換体を培養する培地としては、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、薬剤選択マーカーの種類に対応してアンピシリンやテトラサイクリン等を添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のものを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した細菌等を培養するときにはイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加することができる。
培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主生物に適した条件下で行われる。例えば、組換えタンパク質を生産するための枯草菌形質転換体の培養には、例えば、LB培地、2xYT培地、2xL-マルトース培地、又はCSL発酵培地等を用いることができる。
本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、無細胞翻訳系を使用して変異アルカリセルラーゼ遺伝子又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
発現された変異アルカリセルラーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養液、細胞破砕液、又は無細胞翻訳系から取得することができる。しかし遠心分離や限外濾過型フィルター等を用いて分離又は濃縮したその培養上清や溶菌液上清等の溶液は、粗酵素液としてそのまま使用することもできる。発現された変異アルカリセルラーゼが細胞内から分泌されない場合には、その細胞を破砕してからタンパク質の分離精製を行えばよい。以上のようにして製造した変異アルカリセルラーゼについては、後述の再汚染防止能評価法により、再汚染防止能の向上を確認することができる。
なお本発明において用いるmRNAの調製、cDNAの作製、PCR、RT-PCR、ライブラリーの作製、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換、DNAの塩基配列の決定、核酸化学合成、タンパク質のN末端側のアミノ酸配列決定、突然変異誘発、タンパク質の抽出等の実験は、通常の実験書に記載の方法によって行うことができる。そのような実験書としては、例えば、SambrookらのMolecular Cloning, A laboratory manual, (2001) 3rd Ed., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。特に、枯草菌の遺伝子組換え実験については例えば、吉川博文著“7.2 枯草菌系”「続生化学実験講座1.遺伝子研究法II」, (1986) 東京化学同人社(東京), p.150-169等の枯草菌の遺伝子操作に関する一般的な実験書を参照することができる
2.変異アルカリセルラーゼのセルロース結合性及び再汚染防止能の評価
上記1に従って得られる変異アルカリセルラーゼにおいては、その基準アルカリセルラーゼと比較して、セルロース結合性が低下し、かつ再汚染防止能が向上する。
本発明に係る変異アルカリセルラーゼにおけるセルロース結合性の低下は、後述の再汚染防止能評価法に類似した方法によって確認することができる。具体的には、洗浄剤組成物を溶解した使用水に所定量のアルカリセルラーゼ、及び洗浄液総量に対し5%量の塩化ナトリウムを添加して調製した洗浄液中で、20℃にてかき混ぜ式洗浄力試験機を用いて評価布(木綿白布)を洗浄し、洗浄後の白布を取り出して軽く絞り、素早く2000mLの水道水中に投入した後に取り出して濯ぎを行わずに脱水し、クマシーブリリアントブルーで染色し、布を軽く絞ってから脱色液に浸漬し、それを水洗いしてアイロン仕上げを行った後、分光測色計を用いて明度(L値)を測定する。対照実験は洗浄液に野性型アルカリセルラーゼを添加すること以外は同様の手順で行う。得られた洗浄後の評価布の明度(L値)を比較する。このL値は、評価布へのタンパク質の吸着量の増加に伴って低下する。従って野性型アルカリセルラーゼ添加によって得られるL値と比較してL値が高いほど、変異アルカリセルラーゼの評価布への吸着量は低減しており、すなわちセルロース結合性が低下していることが示される。
一方、本発明においてアルカリセルラーゼ(変異アルカリセルラーゼ又は基準アルカリセルラーゼ)の「再汚染防止能」とは、水溶液中に添加されたアルカリセルラーゼが、水溶液中に分散した疎水性(親油性)の汚れ物質の、水溶液中に存在する布などの基質への再付着を阻止する能力を意味する。一方、「再汚染防止効果」とは、アルカリセルラーゼ(変異アルカリセルラーゼ又は基準アルカリセルラーゼ)存在下において、水溶液中に分散した疎水性(親油性)の汚れ物質の、水溶液中の布などの基質への再付着が阻止されること、及びその阻止レベルを意味する。
再汚染防止能の評価は、好ましくは、洗浄剤組成物を溶かした使用水に疎水性すす汚れのモデルとしてカーボンブラックを加えて分散させた分散液に変異アルカリセルラーゼを添加して調製した洗浄液中で、20℃にてかき混ぜ式洗浄力試験機を用いて評価布(木綿白布)を洗浄し、洗浄後の白布の550nmでの反射率を測定して未洗浄の木綿白布の同反射率と比較することにより、行うことができる。再汚染防止能評価法の手順の詳細は後述の実施例に記載されている。なお、本発明の再汚染防止能評価で用いる使用水は、脱イオン水1Lに対してCaCl2とMgCl2・6H2 Oを適宜溶解させることにより調製することができる。
再汚染防止能評価では、各試験系で得られた再汚染防止率を、洗浄前及び洗浄後の木綿白布の反射率に基づき次式により算出することができる。
(数1)
再汚染防止率(%)
=[(試験後の木綿の白布の反射率)/(試験前の木綿の白布の反射率)] × 100
この再汚染防止率が100%に近いほど、カーボンブラックによる再汚染量が少ないことを示す。
更に、変異アルカリセルラーゼを添加した洗浄液(酵素添加群)及び添加しない洗浄液(酵素無添加群)を用いた試験系について算出した再汚染防止率に基づき、変異アルカリセルラーゼ添加による再汚染防止促進度(%)を次式に基づいて算出することができる。
(数2)
酵素添加による再汚染防止促進度(%)
=[(酵素添加群の再汚染防止率)−(酵素無添加群の再汚染防止率)]/[100−(酵素無添加群の再汚染防止率)] × 100
この再汚染防止促進度(%)が上昇するほど、変異アルカリセルラーゼ添加により再汚染防止効果が大きく改善されることを示す。
また、個々の変異アルカリセルラーゼにおいて、再汚染防止能向上度(%)を次式によって算出した。なお次式中の「変異酵素」は、変異アルカリセルラーゼであり、対照酵素とは、基準アルカリセルラーゼ、すなわち野性型アルカリセルラーゼ又は変異導入前のアルカリセルラーゼである。
(数3)
変異アルカリセルラーゼにおける再汚染防止能向上度(%)
=[(変異酵素添加群の再汚染防止率)−(対照酵素添加群の再汚染防止率)]
/[100−(対照酵素添加群の再汚染防止率)] × 100
この再汚染防止能向上度(%)が上昇するほど、その変異アルカリセルラーゼの再汚染防止能が変異導入前と比較して大きく向上したことを示す。
本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、限定するものではないが、例えば1〜25%、通常は2〜15%、より一般的には3〜12.5%の再汚染防止能向上度(%)を示しうる。
3.変異アルカリセルラーゼの用途
本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、水溶液中の疎水性汚染物質に対して高い再汚染防止能を有する。従って本発明に係る変異アルカリセルラーゼは、再汚染防止剤として有利に使用することができる。再汚染防止剤には、変異アルカリセルラーゼの他、不活性担体、pH調整剤、分散剤、緩衝剤、防腐剤等の任意の添加剤を含んでもよい。そのような再汚染防止剤を、被洗浄物を含む水溶液中に加えることにより、被洗浄物の再汚染を有利に防止することができる。例えば本発明に係る再汚染防止剤は、衣料用洗剤や家庭用洗剤等の洗剤、柔軟剤等に配合して用いることができる。
本発明はまた、本発明に係る変異アルカリセルラーゼを含む酵素組成物も提供する。本発明に係る酵素組成物とは、変異アルカリセルラーゼを活性成分として含む酵素製剤を意味する。本発明に係る酵素組成物は、変異アルカリセルラーゼに加えて、プロテアーゼ、セルラーゼ、β−グルカナーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、キシログルカナーゼ、キシラナーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、マンナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びトランスグルタミナーゼ等を始めとする加水分解酵素、並びにそれらのうち2種以上の混合物をさらに含んでもよい。
本発明に係る酵素組成物はまた、変異アルカリセルラーゼ及び他の酵素に加えて、pH調整剤、緩衝剤、防腐剤、塩、アルコール、糖類、培地成分等の他の成分を含んでいてもよい。本発明に係る酵素組成物は、粉末、顆粒、凍結乾燥物等の任意の形態であってよい。
本発明はまた、本発明に係る変異アルカリセルラーゼ、再汚染防止剤、及び酵素組成物のうち少なくとも1つを含有する洗浄剤組成物も提供する。本発明に係る洗浄剤組成物は、変異アルカリセルラーゼ、再汚染防止剤、及び/又は酵素組成物に加えて、界面活性剤をさらに含む、洗浄用の組成物である。
本発明に係る洗浄用組成物に含める界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び陽イオン性界面活性剤等の任意の界面活性剤を1種で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。より好ましい界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤である。
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8〜20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。例えば、アルキル鎖の炭素数が10〜14、より好ましくは12〜14の、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキル硫酸塩は本発明における陰イオン性界面活性剤として好適に使用できる。これらの塩の対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、特にナトリウム、カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。例えば、ポリオキシエチレン(EO平均付加モル数6)アルキル(炭素数12〜14)エーテルは、本発明における非イオン性界面活性剤として好適に使用できる。
本発明に係る洗浄剤組成物中の界面活性剤の合計量は、当業者であれば適宜設定することができるが、洗浄力及び溶解性の点からは、洗浄剤組成物の質量に対して10〜60質量%が好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜45質量%が更に好ましい。そのうち陰イオン性界面活性剤の含有量は洗浄剤組成物の質量に対して1〜60質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、3〜40質量%が特に好ましい。また非イオン性界面活性剤の含有量は洗浄剤組成物の質量に対して1〜45質量%が好ましく、1〜35質量%がより好ましく、4〜25質量%が特に好ましい。陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤は単独で用いることもできるが、好ましくは、混合して用いるのが良い。また、両性界面活性剤や陽イオン性界面活性剤を目的に合わせ併用することもできる。
本発明に係る洗浄剤組成物は、ビルダーをさらに含んでもよい。ビルダーとは、それ自身に洗浄力は無いか又はごく弱い洗浄力しか有しないにもかかわらず、界面活性剤と共に配合されるとその洗剤能力を著しく向上させることができる化合物のことである。ビルダーの作用としては、例えば、多価金属陽イオン捕捉作用、汚れ分散作用、若しくはアルカリ緩衝作用、又はそれらの2種以上の組み合わせなどが挙げられる。かかるビルダーには、水溶性無機化合物、水不溶性無機化合物、有機化合物等がある。
水溶性無機化合物のビルダーとしては、リン酸塩(トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、リン酸三ナトリウム等)、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩等が挙げられる。中でも上記3種の作用を全て有する点でリン酸塩が好ましい。水不溶性無機化合物のビルダーとしては、アルミノケイ酸塩(A型ゼオライト、P型ゼオライト、X型ゼオライト、非晶質アルミノ珪酸塩等)、結晶性珪酸塩等が挙げられる。有機化合物のビルダーとしては、カルボン酸塩(アミノカルボン酸塩、ヒドロキシアミノカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、シクロカルボン酸塩、マレイン酸誘導体、シュウ酸塩等)、有機カルボン酸(塩)ポリマー(アクリル酸ポリマー及びコポリマー、多価カルボン酸(例えばマレイン酸等)ポリマー及びコポリマー、グリオキシル酸ポリマー、多糖類及びこれらの塩等)等が挙げられる。中でも有機カルボン酸(塩)ポリマーが好ましい。ビルダーの塩において、対イオンとしては、アルカリ金属塩、アミン類が好ましく、特にナトリウム、カリウム、モノエタノールアミン、又はジエタノールアミンが好ましい。本発明に係る洗浄剤組成物に含めるビルダーは、上記水溶性無機化合物を含むことが好ましく、上記水溶性無機化合物及び有機化合物の組み合わせであることがより好ましく、水溶性無機化合物、有機化合物及び水不溶性無機化合物の組み合わせであることが更に好ましい。
本発明に係る洗浄剤組成物中のビルダーの合計量は、当業者であれば適宜設定することができるが、洗浄剤組成物の質量に対して20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましく、35〜60質量%が更に好ましい。そのうち水溶性無機化合物ビルダーは、洗浄剤組成物の質量に対して10〜50質量%が好ましく、15〜45質量%がより好ましく、20〜40質量%が更に好ましい。そのうち水不溶性無機化合物ビルダーは洗浄剤組成物の質量に対して5〜50質量%が好ましく、10〜45質量%がより好ましく、15〜40質量%が更に好ましい。そのうち有機化合物ビルダーは洗浄剤組成物の質量に対して0.1〜20質量%が好ましく、0.3〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量%が更に好ましい。
本発明に係る洗浄剤組成物の具体的な好ましい組成として、以下の組成A〜Eなどが挙げられる。
・組成A:直鎖アルキル(炭素数12〜14)ベンゼンスルホン酸塩ナトリウム20重量%、非イオン性界面活性剤(炭素数12〜16、平均エチレンオキシド付加モル数6.0のポリオキシエチレンアルキルエーテル)4重量%、炭酸ナトリウム30重量%、硫酸ナトリウム10重量%、ゼオライト(4A型ゼオライト(東ソー(株)製))30重量%、アクリル酸マレイン酸コポリマー2重量%、結晶性シリケート(粉末SKS-6(ヘキストトクヤマ(株)製))4重量%
・組成B:直鎖アルキル(炭素数12〜14)ベンゼンスルホン酸塩ナトリウム24重量%、直鎖アルキル(炭素数10〜13)硫酸エステルナトリウム5%、脂肪酸(炭素数14〜18)ナトリウム塩6%、非イオン性界面活性剤(炭素数12〜16、平均エチレンオキシド付加モル数6.0のポリオキシエチレンアルキルエーテル)7重量%、トリポリリン酸ナトリウム12%、炭酸ナトリウム12重量%、硫酸ナトリウム6重量%、ゼオライト(4A型ゼオライト(東ソー(株)製))14重量%、ポリアクリル酸ナトリウム(平均分子量10000)6重量%、結晶性シリケート(粉末SKS-6(ヘキストトクヤマ(株)製))8重量%
・組成C:直鎖アルキル(炭素数12〜14)ベンゼンスルホン酸塩ナトリウム12重量%、非イオン性界面活性剤(炭素数12〜16、平均エチレンオキシド付加モル数6.0のポリオキシエチレンアルキルエーテル)11重量%、炭酸ナトリウム28重量%、硫酸ナトリウム11重量%、ゼオライト(4A型ゼオライト(東ソー(株)製))28重量%、ポリアクリル酸ナトリウム(平均分子量10000)8重量%、結晶性シリケート(粉末SKS-6(ヘキストトクヤマ(株)製))2重量%
・組成D:直鎖アルキル(炭素数12〜14)ベンゼンスルホン酸塩ナトリウム14重量%、脂肪酸(炭素数14〜18)ナトリウム塩2%、非イオン性界面活性剤(炭素数12〜16、平均エチレンオキシド付加モル数6.0のポリオキシエチレンアルキルエーテル)10重量%、トリポリリン酸ナトリウム23%、炭酸ナトリウム29重量%、硫酸ナトリウム6重量%、ゼオライト(4A型ゼオライト(東ソー(株)製))11重量%、ポリアクリル酸ナトリウム(平均分子量10000)3重量%、結晶性シリケート(粉末SKS-6(ヘキストトクヤマ(株)製))2重量%
・組成E:非イオン性界面活性剤(炭素数12〜16、平均エチレンオキシド付加モル数12.0のポリオキシエチレンアルキルエーテル)20重量%、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド(アルキル基炭素数8〜18)1重量%、ソフタノール70H(日本触媒性)20重量%、アクリル酸マレイン酸コポリマー1.5重量%、モノエタノールアミン1.5重量%、クエン酸1.15重量%、ブチルジグリコール5重量%、エタノール2重量%、亜硫酸ナトリウム0.2重量%、水47.65重量%
本発明に係る洗浄剤組成物は、水、pH調整剤、緩衝剤、分散剤、防腐剤、酸化防止剤、賦形剤、蛍光染料等の染料、消臭剤、防臭剤、香料、柔軟剤、植物エキス等の他の成分をさらに含んでいてもよい。本発明に係る洗浄剤組成物は、粉末、顆粒、圧縮成型錠剤、液状等の任意の形態であってよい。本発明に係る洗浄剤組成物は、携帯性や簡便性の点で、一回の使用量を分包包装しても良く、その場合、包装材料が水溶性であることが好ましい。
本発明に係る洗浄剤組成物は、限定するものではないが、好ましくは衣料用、又は布製品(シーツ、カーテン、カーペット、壁クロス等)用のものである。。本発明に係る洗浄剤組成物は、高い再汚染防止能を有する変異アルカリセルラーゼを含有することから、良好な再汚染防止効果を発揮することができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、下記において共通に用いた実験手順及び試薬等を最初に記載する。
1) DNA断片の増幅
DNA断片の増幅は、GeneAmp PCRシステム(アプライドバイオシステムズ)を使用し、Pyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)と付属の試薬類を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行った。PCRの反応液組成は、適宜希釈した鋳型DNAを1μL、センスプライマー及びアンチセンスプライマーを各々20pmol、及びPyrobest DNAポリメラーゼを2.5U混合し、水を加えて反応液総量を50μLに調整した。PCR反応は、98℃で10秒間、55℃で30秒間及び72℃で1〜5分間(目的増幅産物に応じて調整した。目安は1kb当たり1分間)の3段階の温度変化を30サイクル繰り返した後、72℃で5分間反応させる条件で行った。
後述のDNA断片増幅に使用したプライマーを表1に示す。
さらに、実施例3〜5においてS237セルラーゼ又は変異S237セルラーゼに目的のアミノ酸変異を導入するために用いた上流側領域増幅用及び上流側領域増幅用のプライマーセットを表2に示す(詳細は後述の実施例を参照)。
2) 枯草菌への遺伝子導入
S237セルラーゼ又は変異S237セルラーゼをコードする遺伝子の枯草菌への導入は、コンピテントセル形質転換法(J. Bacteriol. 93, 1925 (1967))、エレクトロポレーション法(FEMS Microbiol. Lett. 55, 135 (1990))、プロトプラスト形質転換法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))のいずれかによって行った。
コンピテントセル形質転換法では、まず、枯草菌(Bacillus subtilis Marburg No.168株(Nature, 390, (1997) p.249))をSPI培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.02% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.25μM 塩化マンガン、50μg/mL トリプトファン)において37℃で、生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養した。振盪培養後、培養液の一部を9倍量のSPII培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.01% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.40μM 塩化マンガン、5μg/mL トリプトファン)に接種し、更に生育度(OD600)の値が0.4程度になるまで振盪培養することにより、枯草菌細胞をコンピテントセルとして調製した。次いで調製したコンピテントセル懸濁液(SPII培地におけるコンピテントセル培養物)100μLに、S237セルラーゼ又は変異S237セルラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドベクター含有溶液2μLを添加し、37℃で1時間振盪培養後、その全量を、適切な選択薬剤を含むLB寒天培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、1.5% 寒天)上に塗沫した。37℃における静置培養の後、生育したコロニーを形質転換体として分離した。
プロトプラスト形質転換法では、まず、枯草菌株(Bacillus subtilis Marburg No.168株(Nature, 390, (1997) p.249))を、50mLのLB培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl)中で37℃にて約2時間振盪培養し、600nmにおける吸光度が0.4となった時点で、室温で遠心分離(7000rpm、15分間)により菌体を集めた。集めた菌体を5mLのSMMP[0.5M シュークロース、20mM マレイン酸二ナトリウム、20mM 塩化マグネシウム6水塩、35%(w/v)Antibiotic Medium 3(Difco)]に懸濁後、SMMP溶液に溶解した500μLのリゾチーム溶液(30mg/mL)を加え、37℃で1時間保温して菌体をプロトプラスト化した。保温終了後、室温で遠心分離(2800rpm、15分間)によりプロトプラストを集め、5mLのSMMPに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。0.5mLのプロトプラスト溶液に、10μLのプラスミド溶液(S237セルラーゼ又はS237セルラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むプラスミドベクターを含む)と1.5mLの40%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG8000、Sigma)を加え、緩やかに攪拌して室温で2分間放置した後、直ちに5mLのSMMP溶液を混和し、室温で遠心分離(2800rpm、15分間)によりプロトプラストを集め、1mLのSMMP溶液に再懸濁した。プロトプラスト懸濁液を、37℃で90分間振盪(120rpm)した後、テトラサイクリン(15μg/mL、Sigma)を含むDM3再生寒天培地[0.8%(w/v)寒天(和光純薬)、0.5% コハク酸2ナトリウム6水塩、0.5% カザミノ酸テクニカル(Difco)、0.5% 酵母エキス、0.35% リン酸1カリウム、0.15% リン酸2カリウム、0.5% グルコース、0.4% 塩化マグネシウム6水塩、0.01% 牛血清アルブミン(Sigma)、0.5% カルボキメチルセルロース、0.005% トリパンブルー(Merck)及びアミノ酸混液(トリプトファン、ロイシン、メチオニン各10μg/mL)]上に塗布し、30℃で72時間培養して、生育したコロニーを形質転換体として分離した。
後述の実施例での組換えタンパク質生産のための形質転換体の培養には、種培養培地としてLB培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl)を、主培養培地として2xYT培地(1.6% トリプトン、1% 酵母エキス、0.5% NaCl)、2xL-マルトース培地(2% トリプトン、1% 酵母エキス、1% NaCl、7.5% マルトース、7.5ppm硫酸マンガン4-5水和物)を用いた。
3) 洗浄剤組成物の調製
再汚染防止能の評価には、洗浄剤組成物として、上記の好ましい組成C又はE、又は組成Fの洗浄剤を用いた。組成Fの洗浄剤は、Wfk Testgewebe GmbH(D-41379, Gemany)より提供されるIEC-A洗剤を用いた。
4) 再汚染防止能評価
再汚染防止能の評価は、JIS K3362:1998記載の洗浄力評価方法に基づいて以下のように行った。洗浄剤組成物0.33gを使用水(4°DHの場合はCaCl2:55.42mg/L、MgCl2・6H2O:43.51mg/L、12°DHの場合はCaCl2:166.26mg/L、MgCl2・6H2O:130.53mg/L)50mLに溶解し、これに疎水性すす汚れのモデルであるカーボンブラック(旭カーボン社製の旭洗浄用カーボンブラック、又は三菱化学製カーボンブラック#4000B、MA100、若しくは#40)0.125gを添加し、使用水(CaCl2:55.42mg/L、MgCl2・6H2O:43.51mg/L)50mLを加えた後、26±1.5KHzの超音波を5分間照射して成分を均一に分散させた。その分散液に更に20℃の使用水(CaCl2:55.42mg/L、MgCl2・6H2O:43.51mg/L)400mLを加え、アルカリセルラーゼ(S237セルラーゼ又は変異S237セルラーゼ)を所定の酵素量となるように添加して、それを洗浄液とした。調製した洗浄液は、20℃にてかき混ぜ式洗浄力試験機(ターゴトメータ:Terg-O-To meter)の試料カップに移した。評価布として6cm x 6cmの木綿の白布(#2003白色織製100%綿、谷頭商店(大阪府大阪市東淀川区小松4-11-15)供給)5枚を試料カップに入れ、更に溶液に対する布量(浴比)を調節するため、綿メリヤス白布[シル付晒布(谷頭商店供給)を洗濯後、充分に濯いだもの]を適宜投入して、回転速度80±4rpmで10分間攪拌した。次いで綿メリヤス白布と共に木綿の白布を取り出し、軽く絞った後、素早く2000mLの水道水中に投入した。そこから木綿の白布のみを取り出し、更に水道流水にて3分間濯ぎを行った後、脱水・アイロン仕上げを行って、分光測色計CM-3500d(コニカミノルタ)を用いて550nmにおける反射率を測定した(以上を、酵素添加群と称する)。木綿の白布については、洗浄試験前に、分光測色計CM-3500d(コニカミノルタ)を用いて550nmにおける反射率を予め測定しておいた。対照実験は、上記分散液にアルカリセルラーゼを添加しないこと以外は同様の手順で行った(酵素無添加群)。
得られた反射率に基づき、次式によって各洗浄試験での再汚染防止率を算出した。
(数4)
再汚染防止率(%)
=[(試験後の木綿の白布の反射率)/(試験前の木綿の白布の反射率)] × 100
次いで、算出した再汚染防止率に基づき、再汚染防止に対する酵素添加の効果、すなわちアルカリセルラーゼ酵素添加による再汚染防止促進度を、次式に基づいて算出した。後述の実施例では、この再汚染防止促進度(%)を指標として、添加したアルカリセルラーゼの再汚染防止能を評価した。
(数5)
酵素添加による再汚染防止促進度(%)
=[(酵素添加群の再汚染防止率)−(酵素無添加群の再汚染防止率)]/[100−(酵素無添加群の再汚染防止率)] × 100
更に、アルカリセルラーゼへの変異導入がその再汚染防止能に対して及ぼす効果、すなわち変異アルカリセルラーゼにおける再汚染防止能向上度を、次式によって算出した。なお変異酵素とは目的のアミノ酸置換が導入された変異アルカリセルラーゼであり、対照酵素とは、基準アルカリセルラーゼ、すなわち野性型アルカリセルラーゼ又はアミノ酸置換前のアルカリセルラーゼである。
(数6)
変異アルカリセルラーゼにおける再汚染防止能向上度(%)
=[(変異酵素添加群の再汚染防止率)−(対照酵素添加群の再汚染防止率)]
/[100−(対照酵素添加群の再汚染防止率)] × 100
[実施例1]バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株由来のアルカリセルラーゼ(S237セルラーゼ)の再汚染防止能の評価
1. S237セルラーゼの組換え生産
バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株(FERM BP-7875)由来のS237セルラーゼ(配列番号2)をコードするアルカリセルラーゼ遺伝子[以下、S237セルラーゼ遺伝子とも称する;塩基配列はGenBankアクセッション番号AB18420(配列番号1)に基づき入手可能;Hakamada et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11), (2000) p.2281-2289;特開2000-210081号公報]を含む核酸断片(3.1 kb)を、上述の表1に示すプライマー237UB1(配列番号13)とS237RV(配列番号14)からなるプライマーセットを用い、上記「1)DNA断片の増幅」に従って増幅した。鋳型DNAとしては、上記KSM-S237株から常法により抽出したゲノムDNAを用いた。
増幅断片は、シャトルベクターpHY300PLK(ヤクルト本社;Ishiwa, H. & Shibahara, H., Jpn. J. Genet. (1985) 60, p.235-243)のSmaI制限酵素切断部位に挿入し、組換えプラスミドpHY-S237を構築した。プラスミド中に挿入されたS237セルラーゼ遺伝子断片については、3100 DNAシーケンサー(Applied Biosystems)を用いて配列決定することにより、配列番号1に示す塩基配列を有することを確認した。次いで上記「2)枯草菌への遺伝子導入」に従って、プロトプラスト形質転換法により、枯草菌(Bacillus subtilis Marburg No.168株(Nature, 390, (1997) p.249))を組換えプラスミドpHY-S237を用いて形質転換した。これによって得られた形質転換体を10 mLのLB培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl)で30℃にて一夜振盪培養を行い、更にこの培養液0.05 mLを50 mLの2xL-マルトース培地(2% トリプトン、1% 酵母エキス、1% NaCl、7.5% マルトース、7.5 ppm硫酸マンガン4-5水和物、15 ppmテトラサイクリン)に接種し、30℃にて3日間振盪培養を行った。遠心分離によって菌体を除いた培養液上清を、脱イオン水にて10倍希釈した後、20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したDEAE-Toyopearl 650C(東ソー)カラム(1cm x 3cm)に添着した。
0.075M NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)10mLでカラムを洗浄した後、0.4M NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)10mLによりカラムからタンパク質を溶出させた。目的とする組換えS237セルラーゼは、電気泳動的にほぼ単一な成分として溶出された。溶出サンプルを、1mM CaCl2を含む10mM トリス塩酸塩緩衝液(pH7.5)に対して透析し、脱塩処理を行った後、以下の方法によりアルカリセルラーゼ含有量を測定した。すなわち、1/7.5M リン酸緩衝液(pH7.4、和光純薬)で適宜希釈した上記サンプル溶液50μLに0.4mM p-ニトロフェニル-β-D-セロトリオシド(生化学工業)を50μL加えて混和し、30℃にて反応を行った際に遊離するp-ニトロフェノール量を420nmにおける吸光度(OD420)の変化に基づいて定量した。1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1Uとした。またPROTEIN ASSAY RAPID KIT(和光純薬工業製)を用い、キット添付の牛血アルブミンを標準としてタンパク質量を測定した。
このようにして得た組換えS237セルラーゼ(野性型S237セルラーゼ)を含むサンプルを、後述のように再汚染防止能評価に供した。その際、500mLの洗浄系に対し、26.4mU、52.8mU、106mU、211mU、及び264mU相当の酵素タンパク質量を添加して評価を行った。
2. 各種カーボンブラックを用いた再汚染防止能評価
S237セルラーゼの再汚染防止能を、各種カーボンブラックを用いて評価した。カーボンブラックとしては、旭カーボン社製の旭洗浄用カーボンブラック、又は三菱化学社製カーボンブラック#4000B、MA100、若しくは#40の4種類を用いた。
再汚染防止能評価に先立ち、それぞれのカーボンブラックの特性(疎水性、及び酸性官能基含量)を以下のようにして調べた。すなわち、0.1%(w/v)ポリオキシエチレン(EO平均付加モル数6)アルキル(炭素数12〜14)エーテル水溶液100mLを100mL容ビーカー(IWAKI)に取り、各カーボンブラックの粉末0.1gを水溶液表面に10cmの高さから落とし、粉末全体が沈降するまでの時間を計測した。3回の計測の結果、#4000Bは4.9±0.6秒、MA100は14.1±1.0秒、#40は60.5±4.6秒で沈降した。旭洗浄用カーボンブラックは10分間以上経過しても一部が水溶液表面に留まっていたが、全体が濡れるまでの時間は78.8±9.1秒であった。これらの結果より各カーボンブラックのうち疎水性は#4000Bが最も低く、次いでMA100、#40の順であり、旭洗浄用カーボンブラックが最も疎水性が高いことが分かった。次にそれぞれのカーボンブラック懸濁液に26±1.5KHzの超音波を5分間照射して分散させ、良く攪拌しながらpH測定を行った。カーボンブラックを含まない0.1%(w/v)ポリオキシエチレン(EO平均付加モル数6)アルキル(炭素数12〜14)エーテル水溶液のpHは4.75であり、そこに各カーボンブラックを分散させると、#4000Bでは4.97、MA100では4.69、#40では4.81、旭洗浄用カーボンブラックでは4.86となった。このようにMA100は、その添加により分散液のpHが低下したことから、最も多くの酸性官能基(大部分はカルボキシル基であると考えられる)を含むと考えられた。一方、#4000Bは酸性官能基含量が調べた中で最も少ないと考えられた。
以上のような各カーボンブラックの特性を踏まえた上で、上述の「4) 再汚染防止能の評価」に従い、再汚染防止能の評価を行った。上記組成Aの洗浄剤を用い、0mU、106mU、又は264mU相当の酵素量のS237セルラーゼを添加した際の結果を表3(再汚染防止率)及び表4(再汚染防止促進度)に示した。
表4に示されるように、S237セルラーゼの添加により、いずれのカーボンブラックに対する再汚染防止をも促進する効果が認められた。最も顕著な再汚染防止促進効果は旭洗浄用カーボンブラックに対して示され、僅差ながらMA100、#40、#4000Bがこの順で続いた。
更に比較のため、S237セルラーゼに代えて、他の種類の加水分解酵素としてプロテアーゼ、アミラーゼ、又はリパーゼ、また他の種類のセルラーゼとしてエンドラーゼ(ノボザイム社)及びケアザイム(ノボザイム社)をそれぞれ用いて、上記と同様の方法で再汚染防止能評価を行った。各酵素は26.4mU、52.8mU、211mUに相当するタンパク質量で用いた。カーボンブラックは旭カーボン社製の旭洗浄用カーボンブラックを用いた。対照実験として、S237セルラーゼを用いて同条件で再汚染防止能評価を行った。その結果を図2に示す。
その結果、プロテアーゼ、アミラーゼ、又はリパーゼを用いた場合には、酵素添加群と酵素無添加群の再汚染防止率はいずれも52%前後で差異がなく、これらの酵素の添加による再汚染防止促進効果は認められなかった。一方、S237セルラーゼを用いた場合には酵素添加量の増加に伴って再汚染防止率の上昇が認められたことから、再汚染防止促進効果が確認された。
エンドラーゼ(ノボザイム社)及びケアザイム(ノボザイム社)をそれぞれ使用した場合には、酵素添加量の増加に伴って再汚染防止率は徐々に上昇した。しかし、S237セルラーゼと比較するとその上昇の程度は小さく、再汚染防止促進効果はわずかであった。一方、S237セルラーゼを用いた場合には、ケアザイムよりも高い再汚染防止促進効果を示したエンドラーゼの2倍又はそれ以上の再汚染防止促進効果が認められた。
この結果から、S237セルラーゼは、他の酵素を使用した場合には認められない、高い再汚染防止促進効果をもたらすことが示された。
[実施例2]アルカリセルラーゼのセルロースへの吸着力と再汚染防止能の関係の検討、及び再汚染防止能を向上させる置換対象アミノ酸残基の決定
以下のようにして、「4) 再汚染防止能の評価」に類似の方法により、アルカリセルラーゼのセルロースへの吸着が塩化ナトリウム添加により促進されることを示した。
バチルス・エスピー KSM-635株由来のアルカリセルラーゼ(635セルラーゼ)を既報(Agric. Bio. Chem., 55, 2387, 1991)に従って調製した。次いで、洗浄剤組成物0.33gを使用水(CaCl2:55.42mg/L、MgCl2・6H2O:43.51mg/L)500mLに溶解し、そこに2110mUの635セルラーゼ、及び洗浄液総量に対し5%量の塩化ナトリウムを添加して、洗浄液とした。調製した洗浄液は、20℃にてかき混ぜ式洗浄力試験機(ターゴトメータ:Terg-O-To meter)の試料カップに移した。評価布として6cm x 6cmの木綿の白布(#2003白色織製100%綿、谷頭商店供給)5枚を試料カップに入れ、綿メリヤス白布(シル付晒布(谷頭商店供給)を洗濯後、充分に濯いだもの)40gを投入して、回転速度80±4rpmで10分間攪拌した。次いで綿メリヤス白布と共に木綿の白布を取り出し、軽く絞った後、素早く2000mLの水道水中に投入した。そこから木綿の白布のみを取り出し、濯ぎを行わずに脱水した後、クマシーブリリアントブルーG染色液(クマシーブリリアントブルーG250(Merck)2.5g、メタノール4g、酢酸90mLを脱イオン水910mLに溶解して調製)に投入した。30分間の浸漬後、布を軽く絞ってから脱色液(脱イオン水50mL、メタノール50mL、酢酸10mLを混合して調製)に移し、30分間の浸漬を2回繰り返した。その後、布は水洗いしてアイロン仕上げを行った後、分光測色計CM-3500d(コニカミノルタ)を用いて明度(L値)を測定した。対照実験は、洗浄液に塩化ナトリウムを添加しないこと以外は同様の手順で行った。
その結果、塩化ナトリウム無添加の場合のL値は92であるのに対し、5%量の塩化ナトリウムを添加した場合のL値は71であった。L値は布へのタンパク質の吸着に伴って低下することから、このL値の低下は、635セルラーゼの木綿の白布への吸着量の増加を意味していた。すなわち、塩化ナトリウムの添加によりアルカリセルラーゼのセルロースへの吸着が促進されることが示された。
続いて、5%量の塩化ナトリウムを添加した洗浄液を用いて、上述の「4) 再汚染防止能の評価」に従って、塩化ナトリウム存在下での635セルラーゼの再汚染防止能を評価した。上記組成Bの洗浄剤、及び1000mUの635セルラーゼを使用した。カーボンブラックとしては旭洗浄用カーボンブラックを用いた。対照実験として、洗浄液に塩化ナトリウムを添加しない場合及びセルラーゼを添加しない場合についても、同様に評価を行った。
その結果、塩化ナトリウムを添加した場合の再汚染防止率は、セルラーゼ無添加の洗浄液では47%、セルラーゼ添加の洗浄液では30%であり、セルラーゼ存在下での再汚染防止率の低下が認められた。一方、塩化ナトリウムを添加しなかった場合の再汚染防止率は、セルラーゼ無添加の洗浄液では72%、セルラーゼ添加の洗浄液では82%であり、逆にセルラーゼ存在下で再汚染防止率の上昇が認められた。上記実験結果を併せて考慮すれば、塩化ナトリウム存在下ではアルカリセルラーゼのセルロースへの吸着が促進されることにより、むしろ再汚染促進効果を示してしまうものと考えられた。
アルカリセルラーゼはその内部のセルロース結合領域(CBM)を介してセルロースに吸着する。そこで、アルカリセルラーゼのセルロース結合領域におけるセルロース結合性を低減させれば、セルロースへより吸着されにくくなるため、例えばセルロース吸着促進条件下でもより高い再汚染防止効果を発揮することができると考えられた(図1B参照)。
635セルラーゼやS237セルラーゼのセルロース結合領域(CBM)は、CBM17ファミリー及びCBM28ファミリーに属する2種のCMBからなる。それらCBM17及びCBM28ファミリーメンバーに含まれる、セルロースへの結合に直接関与するアミノ酸残基については、既に報告がなされている(Biochem. J., 361, 35, 2002)。例えば、S237セルラーゼのCBM17においては、配列番号2で示すアミノ酸配列で419位のアスパラギン、421位のアスパラギン酸、454位のトリプトファン、458位のアルギニン、495位のグルタミン、501位のトリプトファン、503位のアスパラギン、551位のアスパラギン、CBM28においては605位のアラニン、607位のグルタミン酸、641位のアラニン、645位のアルギニン、684位のグルタミン、691位のトリプトファン、693位のグルタミン、及び740位のイソロイシンがセルロース結合に関与する。従ってこれらのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することによりアルカリセルラーゼのセルロースへの結合性を弱めることができると考えられた。さらにこれらのアミノ酸残基に隣接したアミノ酸残基(特にその前後のアミノ酸残基)も直接的ではないにせよセルロース結合に関与すると考えられる。従って、上記のセルロース結合に直接関与するアミノ酸残基に隣接したアミノ酸残基を置換若しくは欠失させるか又はその残基にさらに隣接した位置にアミノ酸残基を挿入することによっても、セルロースへの結合性を弱めることができると考えられた。このような検討に基づき、アルカリセルラーゼのセルロースへの結合性を弱めるための置換対象としうる45個のアミノ酸残基を表5にまとめた。
表5の「S237」の列には、S237セルラーゼのセルロース結合領域内の置換対象としうる45個のアミノ酸残基を示した。更に表5には、S237セルラーゼに対し高いアミノ酸配列同一性を示す他のアルカリセルラーゼであるバチルス・エスピーDSM12648株由来のアルカリセルラーゼ(DSM12648セルラーゼ;配列番号4)、バチルス・エスピー1139株由来のアルカリセルラーゼ(1139セルラーゼ;配列番号6)、バチルス・エスピーKSM-64株由来のアルカリセルラーゼ(エンド-1,4-β-グルカナーゼ)(64セルラーゼ;配列番号8)、バチルス・エスピーKSM-635株由来のアルカリセルラーゼ(KSM-635セルラーゼ;配列番号10)、及びバチルス・エスピーN-4株由来のアルカリセルラーゼ(エンドグルカナーゼ)(N4セルラーゼ;配列番号12)について、それらのアミノ酸配列とS237セルラーゼのアミノ酸配列とのアラインメントを作製したときにS237セルラーゼの上記45個のアミノ酸残基に対してアラインされる(すなわち、それら残基に相当する位置の)アミノ酸残基をそれぞれ示した。なお、各アミノ酸残基の位置は、それぞれの配列番号で示されるアルカリセルラーゼのアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の番号で示している。
下記実施例では、このようなセルロース結合に関与するアミノ酸残基のうち数個のアミノ酸残基(表5中、下線を引いたもの)を別のアミノ酸残基に置換した変異S237セルラーゼの作製を行った。
[実施例3]変異S237セルラーゼの作製-1
以下のようにして、S237セルラーゼ遺伝子にヌクレオチド変異を導入し、それを組換え発現させることにより、S237セルラーゼ(配列番号2)の242位のグルタミンをセリンに置換した変異S237セルラーゼを作製した。
バチルス エスピーKSM-S237株(FERM BP-7875)から常法により抽出したゲノムDNAを鋳型とし、上記表1及び2に示した237UB1(配列番号13)とQ242S-RV(配列番号15)からなるプライマーセット、及びQ242S-FW(配列番号16)とS237RV(配列番号14)からなるプライマーセットを用いて、上記「1)DNA断片の増幅」に従ってPCR増幅を行った。その結果、S237セルラーゼ遺伝子の242位のアミノ酸残基に対応する位置に導入されたヌクレオチド変異を3'末端付近に含み、かつその変異位置から主に上流側の領域を含む1.3kbのDNA増幅断片と、そのヌクレオチド変異を5'末端付近に含み、かつその変異位置から主に下流側の領域を含む1.9kbのDNA増幅断片とを得た。用いたプライマーQ242S-RV(配列番号15)の塩基配列は、S237セルラーゼの242位のグルタミンをセリンに置換するヌクレオチド変異を含むようにS237セルラーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたものである。プライマーQ242S-FW(配列番号16)の塩基配列は、プライマーQ242S-RV(配列番号15)の相補配列である。
次いで、得られた2つの断片を混合して鋳型とし、上記「1)DNA断片の増幅」に従って、表1に示した237UB1(配列番号13)とS237RV(配列番号14)からなるプライマーセットを用いてSOE(splicing by overlap extension)-PCR(Horton R.M. et al., Gene (1989) 77(1), p.61-68)を行い、それら2つの断片が相補配列を介して連結した3.2kbのDNA断片を得た。
得られた3.2kbのDNA断片(変異S237セルラーゼ遺伝子)をシャトルベクターpHY300PLKのSmaI制限酵素切断点に挿入し、組換えプラスミドpHY-S237(Q242S)を構築した。プラスミド中に挿入された変異S237セルラーゼ遺伝子の塩基配列は、3100 DNAシーケンサー(Applied Biosystems)を用いて配列決定することにより確認した。次いで実施例1と同様に、上記「2)枯草菌への遺伝子導入」に従い、組換えプラスミドpHY-S237(Q242S)を枯草菌に導入し、得られた形質転換体を培養した。得られた培養物からは、実施例1と同様の方法により、組換え生産されたタンパク質を単離精製し、定量を行った。この組換えタンパク質は、S237セルラーゼのアミノ酸配列(配列番号2)の242位のグルタミンがセリンに置換された変異S237セルラーゼ(以下、S237_Q242Sとも称する)である。
こうして得られた変異S237セルラーゼS237_Q242Sを含む酵素サンプルを、後述の再汚染防止能評価に用いた。
[実施例4]変異S237セルラーゼの作製-2
S237セルラーゼ遺伝子に目的のアミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を導入し、それを組換え発現させることにより、セルロース結合に関与するアミノ酸残基を置換した3種の変異S237セルラーゼを作製した。具体的には、S237セルラーゼ(配列番号2)の421位のアスパラギン酸をアラニンに、454位のトリプトファンをチロシンに、501位のトリプトファンをチロシンに置換した変異S237セルラーゼ(それぞれS237_D421A、S237_W454Y、S237_W501Y)を、実施例3の記載と同様の方法で作製した。すなわち、目的の変異を導入するための各々2組のプライマーセット(表1及び2参照)を用いて、目的のヌクレオチド変異を含むS237セルラーゼ遺伝子の上流側領域(変異位置付近から上流側の領域)と、目的のヌクレオチド変異を含むS237セルラーゼ遺伝子の下流側領域(変異位置付近から下流側の領域)とをPCR増幅し、得られた2つのDNA断片を鋳型として目的の変異S237セルラーゼ遺伝子を含むDNA断片を増幅し、それをシャトルベクターpHY300PLKに挿入して組換えプラスミドを構築し、プラスミドに挿入された変異S237セルラーゼ遺伝子の塩基配列を確認し、上記「2)枯草菌への遺伝子導入」に従ってその組換えプラスミドを枯草菌に導入し、得られた形質転換体を培養し、得られた培養物から組換えタンパク質(すなわち、各変異S237セルラーゼ)を単離精製して、定量を行った。得られた各変異S237セルラーゼを含む酵素サンプルを、後述の再汚染防止能評価に用いた。
[実施例5]変異S237セルラーゼの作製-3
実施例3で作製した変異S237セルラーゼS237_Q242Sに対して、さらに、セルロース結合に関与するアミノ酸残基を置換した変異S237セルラーゼを作製した。具体的には、変異S237セルラーゼS237_Q242Sのアミノ酸配列の419位のアスパラギンをアラニンに置換したS237セルラーゼ二重変異体(QS_N419A)を、基本的には実施例3及び4の記載と同様にして作製した。すなわち、上記で作製したpHY-S237(Q242S)を鋳型DNAとし、目的の変異を導入するための各々2組のプライマーセット(表1及び2参照)を用いて、目的のヌクレオチド変異を含む変異S237セルラーゼS237_Q242S遺伝子の上流側領域(変異位置付近から上流側の領域)と、目的のヌクレオチド変異を含む変異S237セルラーゼS237_Q242S遺伝子の下流側領域(変異位置付近から下流側の領域)とをPCR増幅し、得られた2つのDNA断片を鋳型として目的の変異S237セルラーゼ遺伝子を含むDNA断片を増幅し、それをシャトルベクターpHY300PLKに挿入して組換えプラスミドを構築し、プラスミドに挿入された変異S237セルラーゼ遺伝子の塩基配列を確認し、上記「2)枯草菌への遺伝子導入」に従った方法によりその組換えプラスミドを枯草菌に導入し、得られた形質転換体を培養し、得られた培養物から組換えタンパク質(すなわち、各変異S237セルラーゼ)を単離精製して、定量を行った。得られた各変異S237セルラーゼを含む酵素サンプルを、後述の再汚染防止能評価に用いた。
[実施例6]変異S237セルラーゼの再汚染防止能評価-1
実施例4で作製した変異S237セルラーゼS237_D421A、S237_W454Y及びS237_W501Yの再汚染防止能を、上述の「4) 再汚染防止能の評価」に従って評価した。尚、評価に際しては綿メリヤス白布[シル付晒布(谷頭商店供給)を洗濯後、充分に濯いだもの]を50g投入し、溶液に対する布量(浴比)を10L/kgになる様調節した。上記組成Bの洗浄剤を使用し、各変異S237セルラーゼについて野生型S237セルラーゼ活性52.8mUに相当する酵素量を用いた。本評価においては野性型S237セルラーゼを対照酵素として用いた。カーボンブラックとしては旭洗浄用カーボンブラックを用い、使用水の硬度は12°DHとした。得られた結果を表6に示した。いずれの変異S237セルラーゼについてもS237セルラーゼと比較して再汚染防止能の向上が認められた。従って、アルカリセルラーゼのセルロース結合領域中のセルロース結合に関与するアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、変異S237セルラーゼの再汚染防止能を向上させることができることが裏付けられた。そのようなアミノ酸置換は、上記で推定した通り、アルカリセルラーゼのセルロース結合性を低下させる結果、より高い再汚染防止効果をもたらしたものと考えられた。
[実施例7]変異S237セルラーゼの再汚染防止能評価-2
実施例5でS237_Q242Sをベースに作製した変異S237セルラーゼQS_N419Aの再汚染防止能を、上述の「4) 再汚染防止能の評価」に従って評価した。尚、評価に際しては綿メリヤス白布[シル付晒布(谷頭商店供給)を洗濯後、充分に濯いだもの]を45g投入し、溶液に対する布量(浴比)を11L/kgになる様調節した。上記組成Cの洗浄剤を使用し、QS_N419Aについて野生型S237セルラーゼ活性52.8mUに相当する酵素量を用いた。本評価においてはS237_Q242Sを対照酵素として用いた。カーボンブラックとして旭洗浄用カーボンブラックを用い、使用水の硬度は4°DHとした。また評価に際しては皮脂汚れ成分の共存を想定し、6cm x 6cmの汚染布wfk10D(Wfk Testgewebe GmbH(D-41379, Gemany))3枚を添加した。得られた結果を表7に示す。QS_N419Aでは対照酵素(S237_Q242S)と比較して高い再汚染防止効果が得られ、変異導入により再汚染防止能が向上したことが認められた。すなわち、アルカリセルラーゼのセルロース結合領域中のセルロース結合に関与するアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、変異S237セルラーゼの再汚染防止能を向上させることができることが裏付けられた。そのようなアミノ酸置換は、上記で推定した通り、アルカリセルラーゼのセルロース結合性を低下させる結果、より高い再汚染防止効果をもたらしたものと考えられた。

Claims (12)

  1. 配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアルカリセルラーゼのアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の419位、421位、454位、501位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列からなる変異アルカリセルラーゼであって、
    前記419位に相当する位置のアミノ酸残基の置換がアスパラギンからアラニンへの置換であり、
    前記421位に相当する位置のアミノ酸残基の置換がアスパラギン酸からアラニンへの置換であり、
    前記454位及び501位に相当する位置のアミノ酸残基の置換がトリプトファンからチロシンへの置換である、アルカリアセルラーゼの再汚染防止能が向上した変異アルカリセルラーゼ
  2. さらに配列番号2で示されるアミノ酸配列の1〜30位のアミノ酸残基又は当該アミノ酸残基に相当するアミノ酸残基からなるシグナル配列が欠失している、請求項1に記載の変異アルカリセルラーゼ。
  3. 請求項1又は2に記載の変異アルカリセルラーゼをコードする遺伝子。
  4. 請求項に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  5. 請求項に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
  6. 微生物である請求項に記載の形質転換体。
  7. 請求項1又は2に記載の変異アルカリセルラーゼを含む再汚染防止剤。
  8. 請求項1又は2に記載の変異アルカリセルラーゼを含む酵素組成物。
  9. プロテアーゼ、セルラーゼ、β−グルカナーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、クチナーゼ、ペクチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、ペクチン酸リアーゼ、キシログルカナーゼ、キシラナーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ラムノガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、マンナナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びトランスグルタミナーゼ、並びにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの酵素をさらに含む請求項に記載の酵素組成物。
  10. 請求項1又は2に記載の変異アルカリセルラーゼ、請求項に記載の再汚染防止剤、又は請求項若しくはに記載の酵素組成物を含む洗浄剤組成物。
  11. 請求項に記載の変異アルカリセルラーゼをコードする遺伝子から、該変異アルカリセルラーゼを発現させることを含む、変異アルカリセルラーゼを製造する方法。
  12. 配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアルカリセルラーゼのアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の419位、421位、454位、501位に相当する位置のアミノ酸残基から選ばれる1以上のアミノ酸残基他のアミノ酸残基に置換することによる、アルカリセルラーゼの再汚染防止能を向上させる方法であって、
    前記419位に相当する位置のアミノ酸残基の置換がアスパラギンからアラニンへの置換であり、
    前記421位に相当する位置のアミノ酸残基の置換がアスパラギン酸からアラニンへの置換であり、
    前記454位及び501位に相当する位置のアミノ酸残基の置換がトリプトファンからチロシンへの置換である、方法
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