JP5708231B2 - 還元性硫黄成分を含有する廃水の処理方法 - Google Patents
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Description
野積みされた鉄鋼スラグに雨水等の水が接触すると、鉄鋼スラグ中の成分が水中に溶出する。このようなスラグ中の成分が溶出した水をスラグ浸出水というが、高炉スラグや脱硫スラグ等のように、1〜2質量%の硫黄を含有するスラグのスラグ浸出水では、CODとして計測される硫黄化合物(「還元性硫黄成分」または「硫黄系COD成分」という。)が高濃度で含有される。
このような高濃度の硫黄系CODを含有するスラグ浸出水は、CODの排水基準である160mg/Lを満たさず、そのまま放流することができない。そのため、還元性硫黄成分を酸化処理して硫酸イオン(SO4 2−)として、カルシウムイオン(Ca2+)と反応させて石膏(CaSO4)として回収したり、または、酸化処理後、無害な硫酸イオン(SO4 2−)としてから放流したりする必要がある。
また、製鉄工場等から排出される還元性硫黄成分を含有する廃水は、鉄鋼スラグ浸出水だけではなく、例えば、排ガスから除去された硫黄酸化物(SOx)などを含有する排煙脱硫水などもある。
例えば、特許文献1には、pH4〜5で硫黄細菌を用いる高炉スラグ浸漬水CODの処理方法が記載されている。
また、特許文献2には、硫黄酸化細菌を固定化し、pHを4.0〜7.5の範囲に管理・制御した固定床型バイオリアクターで処理することを特徴とする還元性硫黄化合物を含む廃水の生物学的処理方法が記載されている。
また、特許文献3には、pHが中性の条件で硫黄酸化機能を有する、シュードモナス属の細菌を用いることを特徴とする、微生物による還元性硫黄化合物含有排水の処理方法が記載されている。
(1)還元性硫黄成分を含有する廃水と、高炉吹製水と、を混合し、
前記廃水と前記高炉吹製水との混合液を、酸素存在下で、15〜80℃の範囲内の温度に維持する、還元性硫黄成分を含有する廃水の処理方法。
(2)前記混合液を、さらに、撹拌する、上記(1)に記載の処理方法。
(3)前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露した高炉吹製水である、上記(1)または(2)に記載の処理方法。
(4)前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露し、そのpHがpH8.0未満に低下した高炉吹製水である、上記(1)または(2)に記載の処理方法。
(5)前記高炉吹製水が、還元性硫黄化合物および/または培地成分を添加し、酸素存在下で、15〜80℃の範囲内の温度に保持した高炉吹製水である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の処理方法。
(6)前記還元性硫黄成分が、硫化物イオン、チオ硫酸イオン、ジチオン酸イオン、亜硫酸イオンおよび重亜硫酸イオンならびにこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の処理方法。
(7)前記還元性硫黄成分を含有する廃水が、鉄鋼スラグ浸出水または排煙脱硫水を含む、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の処理方法。
以下、本発明について詳細に説明する。
S2O3 2−+2O2+H2O→2SO4 2−+2H+
2S2O6 2−+O2+2H2O→4SO4 2−+4H+
SO3 2−+H2O→SO4 2−+2H+
本発明の処理方法で使用する高炉吹製水(以下、単に「吹製水」ともいう。)は、高炉水砕スラグ製造工程において、高炉溶融スラグを急冷するために使用され、高炉水砕スラグと分離された冷却水、または、これに以下に記載するような還元性硫黄成分を酸化する能力を向上させるための処理をしたものである。さらに、これら冷却水や処理された冷却水のpHを調節したものも含む。
空気に曝露することによって、高炉吹製水の還元性硫黄成分を酸化する能力を向上させられるからである。
空気に曝露してpHを低下させることによって、高炉吹製水の還元性硫黄成分を酸化する能力を向上させられるからである。
本発明の処理方法で処理される廃水(以下、単に「廃水」ともいう。)は、還元性硫黄成分を含有する、工場等から排出された廃水であれば特に限定されない。
廃水と吹製水とを混合する方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いて、混合することができる。混合の方法としては、例えば、吹製水を収容する容器に廃水を加えて混合したり、吹製水を、廃水を収納する容器に加えて混合したり、または吹製水と廃水とをそれらを収容する容器とは異なる容器で混合したりする方法が挙げられる。また、混合の際には、撹拌をしながら混合してもよい。
本発明の処理方法を実施するために好適な処理装置の一例を、図1を参照しながら説明する。
1.高炉吹製水の馴養
高炉吹製水に、5mM硝酸カリウム(KNO3)、0.1g/Lリン酸水素カリウム(K2HPO4)、50μM塩化マグネシウム(MgCl2)、および微量金属を添加し、pHを11に調整した(濃度は終濃度を表す)。
次に、この高炉吹製水(1000mL)を、曝気しながら、7日間、約50℃に維持した。
廃水として、脱硫スラグ浸出水(初期pH=12)を用いた。
この廃水(500mL)と、上記のとおり馴養した高炉吹製水(500mL)とを、反応槽内で混合した。混合後、廃水と高炉吹製水との混合液を、曝気しながら、14日間、約50℃に維持した。
混合液のpHを、処理開始時(0日)、処理中(3日、7日)および処理終了時(14日)に測定した。測定結果を、第1表(測定値)および図2(グラフ)に示す。
また、混合液中の硫酸イオン濃度(mM)を処理開始時(0日)、処理中(7日、13日)に測定した。測定結果を、第2表(測定値)および図3(グラフ)に示す。
処理開始時(0日)および処理終了時(14日)に採取した混合液サンプルについて、混合液中の硫酸イオン(SO4 2−)、亜硫酸イオン(SO3 2−)、チオ硫酸イオン(S2O3 2−)、硫化物イオン(S2−)およびその他硫黄成分の濃度を測定した。測定結果を、第3表(測定値)および図4(グラフ)に示す。
還元性硫黄成分のほとんどは硫酸イオンに酸化され、硫黄系COD成分の濃度は排水基準(160mg/L)を下回った。
処理中に硫化水素ガスの発生は認められなかった。また、処理中にpHを管理または調節をする必要はなく、高炉吹製水を補充する必要もなかった。
高炉吹製水に代えて、好酸性硫黄酸化細菌(培養pH=2)の培養液を用いた他は、実施例1と同様にしてスラグ浸出水の処理および測定を行った。
反応液のpH測定結果を表1(測定値)および図2(グラフ)に、反応液中の硫酸イオン濃度の測定結果を表2(測定値)および図3(グラフ)に、それぞれ示す。
pH12という高アルカリ環境下では、好酸性硫黄酸化細菌の生物活性が低下するため、硫酸生成は曝気した酸素含有ガスによる自然酸化のみであり、それに伴うpH低下もわずかであった(pHは12から11に低下)。
実施例1ではpHが約7.4まで低下したが、硫化水素ガスの発生はなかった。これは、pHがそこまで低下する間に、H2SやS2−等が酸化されて消費され尽くしたためと考えられる。
また、実施例1では廃液処理剤を補充しなくとも廃液処理を行うことができた。これは、pH9.0以上、特にpH10.0以上で生育することができる耐アルカリ性細菌によって反応液のpHが下げられることによって、pH8〜10の間で細菌叢が大きく変化し、そのpH域で働く硫黄酸化細菌に切り替わっていったため、全体として生物活性が低下しなかったことによると思われる。
本発明者らは、高炉吹製水中に還元性硫黄成分を酸化する能力を有する細菌が存在することを検証すべく、以下の実験例により検証を行った。
(1)高炉吹製水中に還元性硫黄成分を酸化して硫酸を生成し、高炉吹製水のpHを低下させる細菌が存在することを本実験例により検証した。
(2)方法
高炉吹製水を3ロット準備した(高炉吹製水1〜3)。
各高炉吹製水に、終濃度10mMとなるようにチオ硫酸ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いてpHを約10〜11に調整した。
各高炉吹製水を2つに分け、一方をそのまま、他方を最終的に孔径0.22μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、供試サンプルとした。
ろ過しなかった供試サンプルを、それぞれ、未ろ過1〜3、ろ過した供試サンプルを、それぞれ、ろ過1〜3とした。各供試サンプルのアラビア数字部分は、高炉吹製水1〜3に対応する。
各供試サンプルを、曝気しながら、70℃で1週間保持した。
保持開始時(0日)、保持中および保持終了時(7日)に、それぞれ、少なくとも1回ずつ、供試サンプルのpHを測定した。
(3)結果
各供試サンプルのpH測定結果を第4表(測定値)および図5(グラフ)に示す。
ろ過した供試サンプル(ろ過1〜3)は、保持終了時(7日)にpH8.0以上であったが、ろ過しなかった供試サンプル(未ろ過1〜3)は、保持終了時にpH8.0未満であった。
ろ過しなかった供試サンプルでは、ろ過した供試サンプルでみられる自然酸化によるpH低下を大きく超えるpH低下が観察された。
この結果から、高炉吹製水中に還元性硫黄成分を酸化する能力を有する細菌が存在することが推定される。
(1)実験例1から、高炉吹製水中には微生物が存在することがわかった。また、本発明者らは、高炉吹製水を空気に曝気しておくと、pHが経時的に低下し、約6以下にまで低下することを知見している。そこで、pH11からpH6までの数点において、高炉吹製水を試料としてPCR−DGGE解析を行い、微生物叢の解明を試みた。
(2)方法
(馴養高炉吹製水の調製)
高炉吹製水に、終濃度10mMとなるようにチオ硫酸ナトリウムを添加し、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いてpHをpH11に調整した。その後、曝気しながら、70℃で1週間保持し、馴養した。
(非馴養高炉吹製水の調製)
水砕スラグと分離されたばかりの新鮮な高炉吹製水を採取し、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いて、pHをpH11に調整した。
(PCR−DGGE解析)
馴養高炉吹製水および非馴養高炉吹製水を、それぞれ、曝気しながら、70℃で2週間保持した。保持中、高炉吹製水のpHを経時的に測定し、馴養高炉吹製水においては、pHが11、10、8、7および6の時に、非馴養高炉吹製水においては、pHが10.5、9、8.5、7.5および6.5の時に、それぞれ、サンプリングを行った。
サンプリングした高炉吹製水を試料として、プライマー341F(配列番号1)およびプライマー907R−GC(配列番号2;プライマー907R(配列番号3)の5’末端にGCクランプを付加したもの)を用いてPCR反応を行い、得られたPCR産物をDGGE解析(例えば、Ishii and Fukui, 2001, Applied and Environmental Microbiology, 67(8): 3753-3755 を参照)に供した。
(3)結果
DGGE解析の結果を図5に示す。
馴養高炉吹製水(図5(A))のpH11および10でサンプリングした試料からは、ほぼ同一のバンドパターンが確認されたが、非馴養高炉吹製水(図5(B))のpH10.5および9でサンプリングした試料からは、バンドが検出されなかった。これは、馴養したことによって、pH11またはpH10で生育する微生物が増殖したことによるものと考えられる。
馴養高炉吹製水および非馴養高炉吹製水のいずれにおいても、pH9未満でサンプリングした試料からは、複数のバンドパターンが確認された。
この結果は、高炉吹製水中には、複数種類の微生物(細菌)が存在することを強く示唆する。
微生物(細菌)の種類を同定するためには、16S rRNA遺伝子(以下、「16S rDNA」ともいう。)塩基配列は有用な情報である。
(1)方法
実験例2で行った、pH11の馴養高炉吹製水から採取した試料のPCR−DGGE解析で得られたゲルから、バンドを切り出し、PCR産物を分離精製した。
このPCR産物を、プライマー341F(配列番号1)またはプライマー907R(配列番号3)を用いてダイレクトシークエンシングすることによって、16S rDNA部分塩基配列(配列番号4)を得た。
この塩基配列をクエリー配列として、GenBankデータベースに対してBLAST検索を行った。
(2)結果
BLAST検索の結果、Thermus scotoductusの16S rDNAの該当部分と100%の配列一致をした。
したがって、16S rRNA遺伝子塩基配列に基づき、高炉吹製水中に存在する細菌として、Thermus scotoductusが同定された。
なお、Thermus scotoductusは、好気性、混合栄養性のグラム染色陰性桿菌であり、生育至適温度65℃、生育至適pH7.5、pH10.5でも生育すると報告されている(Kristjansson et al., 1994, Systematic and Applied Microbiology, 17(1): 44-50)。また、本菌種は硫黄酸化性であることも報告されている(Skirnisdottir et al., 2001, Extremophiles, 5: 45-51)。
(1)方法
実験例2と同様にして馴養した馴養高炉吹製水にDNA抽出操作を行い、得られたDNAを鋳型として、プライマー8F(配列番号5)およびプライマー1541R(配列番号6)を用いてPCR増幅を行い、このPCR産物のDNAシークエンシングをプライマー8Fまたはプライマー1541Rを用いて行い、16S rDNA部分塩基配列(配列番号7)を得た。この塩基配列をクエリー配列として、DDBJデータベースに対してBLAST検索を実行した。
(2)結果
BLAST検索の結果、この塩基配列を有する細菌は、Hydrogenobacter sp.と同定された。
配列番号1は、プライマー341Fの塩基配列である。
配列番号2は、プライマー907R−GC(907Rの5’末端にGCクランプを付加したものである)の塩基配列である。
配列番号3は、プライマー907Rの塩基配列である。
配列番号4は、配列決定されたThermus scotoductusの16S rRNA遺伝子部分塩基配列である。
配列番号5は、プライマー8Fの塩基配列である。
配列番号6は、プライマー1541Rの塩基配列である。
配列番号7は、配列決定されたHydrogenobacter sp.の16S rRNA遺伝子部分塩基配列である。
2 廃水貯槽
3 反応槽
4 高炉吹製水前処理槽
5 曝気装置
6 撹拌装置
Claims (7)
- 還元性硫黄成分を含有する廃水と、高炉溶融スラグから高炉水砕スラグを製造する際に前記高炉溶融スラグを急冷するために使用され、前記高炉水砕スラグと分離された水である高炉吹製水と、を混合し、
前記廃水と前記高炉吹製水との混合液を、酸素存在下で、15〜80℃の範囲内の温度に維持する、還元性硫黄成分を含有する廃水の処理方法。
- 前記混合液を、さらに、撹拌する、請求項1に記載の処理方法。
- 前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露した高炉吹製水である、請求項1または2に記載の処理方法。
- 前記高炉吹製水が、高炉溶融スラグに接触させた後、少なくとも1回はpH8.0以上で空気に曝露し、そのpHがpH8.0未満に低下した高炉吹製水である、請求項1または2に記載の処理方法。
- 前記高炉吹製水が、還元性硫黄化合物および/または培地成分を添加し、酸素存在下で15〜80℃の範囲内の温度に保持した高炉吹製水である、請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
- 前記還元性硫黄成分が、硫化物イオン、チオ硫酸イオン、ジチオン酸イオン、亜硫酸イオンおよび重亜硫酸イオンならびにこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法。
- 前記還元性硫黄成分を含有する廃水が、鉄鋼スラグ浸出水または排煙脱硫水を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の処理方法。
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