ところが、上記特許文献1の場合には、二つの巻線部材のうち一方の巻線部材を90°だけその巻線軸の周りに回転させるとともに半分のターン分だけ他方の巻線部材の方向に進めるという工程を繰り返し行う必要があり、編み込み工程に相当の時間を要する。また、巻線部材が長手方向に長い場合には、巻線部材の保持や回転などを行う製造装置が大型化するという問題も生じる。これらの理由により、編み込み工程により固定子巻線を製造する場合には、製造コストの増大化を招き、量産性に優れないという課題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、編み込み工程を不要として、製造コストを低減しつつ量産性に優れる回転電機の固定子を提供することを解決すべき課題とするものである。
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、前記固定子コアに巻回される複数の導線からなる固定子巻線と、を備えた回転電機の固定子において、前記導線は、少なくとも、前記スロットに収容される第1スロット収容部と、前記第1スロット収容部から周方向に離間した前記スロットに収容される第2スロット収容部と、前記第2スロット収容部から周方向に離間した前記スロットに収容される第3スロット収容部と、前記固定子コアの一端側における前記スロットの外部で前記第1スロット収容部と前記第2スロット収容部を接続する第1ターン部と、前記固定子コアの他端側における前記スロットの外部で前記第2スロット収容部と前記第3スロット収容部を接続する第2ターン部とを有し、前記固定子巻線は、前記第1スロット収容部、前記第2スロット収容部および前記第3スロット収容部の前記固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次大きく又は順次小さくなるよう配置した前記導線を周方向に複数有し、前記導線の一端部に形成された引出し部と前記導線の最も一端側に位置する前記スロット収容部との間に設けられるターン部、および前記導線の他端部に形成された引出し部と前記導線の最も他端側に位置する前記スロット収容部との間に設けられるターン部のうちの少なくとも一方の前記ターン部は、ストレート状に形成されていることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、導線は、第1スロット収容部、第2スロット収容部および第3スロット収容部の固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次大きく又は順次小さくなる。即ち、第1スロット収容部が固定子コアのスロットの外径側に配置されている場合には、第2スロット収容部および第3スロット収容部の固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次小さくなるようにされる。逆に、第1スロット収容部が固定子コアのスロットの内径側に配置されている場合には、第2スロット収容部および第3スロット収容部の固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次大きくなるようにされる。そして、このように第1スロット収容部から第3スロット収容部が配置される導線を周方向に複数有する構成であれば、上記特許文献1のように、複数の導線を複雑に編み込む工程を必要としない。よって、製造コストを低減しつつ量産性に優れる回転電機の固定子を実現することができる。また、請求項1に記載の発明によれば、導線の両端部に設けられるターン部のうちの少なくとも一方のターン部は、段部等を形成することなく、ストレート状に形成することで、段部の形成箇所を減らすことができる。
なお、第1スロット収容部、第2スロット収容部および第3スロット収容部の固定子コアの中心軸線からの半径距離を異ならせるようにするために、例えば、ターン部の1箇所にクランク部や湾曲部を設けるようにしてもよい。この場合、各スロット収容部の径方向へのずれ量(半径距離の変化量)は、ターン部に設けられるクランク部や湾曲部の径方向への変位量により適宜設定することができる。
請求項2に記載の発明は、前記導線は、前記第1スロット収容部から順に周方向に離間した前記スロットにそれぞれ収容される前記第2スロット収容部、前記第3スロット収容部、・・・、第n(nは4以上の自然数)スロット収容部と、前記固定子コアの一端側における前記スロットの外部と前記固定子コアの他端側における前記スロットの外部とで交互に前記スロット収容部同士を接続する前記第1ターン部、前記第2ターン部、・・・、前記第(n−1)スロット収容部と前記第nスロット収容部を接続する第(n−1)ターン部を有し、前記固定子巻線は、前記第1スロット収容部から前記第nスロット収容部の前記固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次大きく又は順次小さくなるよう配置した前記導線を周方向に複数有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、導線は、第1スロット収容部から第nスロット収容部の固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次大きく又は順次小さくなる。即ち、第1スロット収容部が固定子コアの外径側に配置されている場合には、第nスロット収容部に向かうにつれて、固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次小さくなるようにされる。逆に、第1スロット収容部が固定子コアの内径側に配置されている場合には、第nスロット収容部に向かうにつれて、固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次大きくなるようにされる。なお、ここでnは4以上の自然数であり、nは4の場合に限らず、nが5、6、7、8、・・・、12の場合であっても良い。特に、nが偶数の場合は、第1スロット収容部に接続される引出し部と第nスロット収容部に接続される引出し部が固定子コアの同じ端面から突出することになるため、引出し部の接続が容易となる。
そのため、第1スロット収容部から第nスロット収容部までの全てのスロット収容部に対して、請求項1と同様の作用および効果を得ることができるので、より一層、加工コストの増加を抑制することが可能となる。なお、各スロット収容部の半径距離の変化量は、第1スロット収容部から第nスロット収容部の全てにおいて必ずしも同一にする必要はなく、任意のスロット収容部に対して半径距離の変化量が異なるようにして変則的にすることも可能である。
請求項3に記載の発明は、前記第1スロット収容部と前記第nスロット収容部は、いずれか一方が前記スロットの最も外径側に配置され、いずれか他方が前記スロットの最も内径側に配置されることを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、例えば、各導線の第1スロット収容部がスロットの最も外径側に配置される場合には、各導線の第nスロット収容部はスロットの最も内径側に配置される。逆に、各導線の第1スロット収容部がスロットの最も内径側に配置される場合には、各導線の第nスロット収容部はスロットの最も外径側に配置される。このようにすれば、導線の両端が、最も外径側と最も内径側に位置するようになるので、各導線の接続を容易に行うことが可能となる。
請求項4に記載の発明は、前記スロットは、径方向一列にm(mは4以上の自然数)個の前記スロット収容部を収容するものであって、前記導線は、前記第1スロット収容部から前記第nスロット収容部を有するとき、m=nの関係であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明によれば、第1スロット収容部と第nスロット収容部は、いずれか一方がスロットの最も外径側に配置され、いずれか他方がスロットの最も内径側に配置されることになり、導線の両端が、最も外径側と最も内径側に位置するようになるので、各導線の接続を容易に行うことが可能となる。
請求項5に記載の発明は、前記ターン部によって接続された前記スロット収容部同士の前記固定子コアの中心軸線からの半径距離は、前記スロット収容部の径方向厚み分異なることを特徴とする。
請求項5に記載の発明によれば、各スロットにおいて、径方向に隣り合うスロット収容部同士の間に隙間が形成されることなく、径方向一列にスロット収容部を収容させることができるので、占積率(スロット内でのスロット収容部の占める割合)の向上を図ることができる。
請求項6に記載の発明は、前記固定子巻線は、複数の前記導線の前記第1スロット収容部同士を周方向に連続する前記スロットに配置するとともに、前記第1スロット収容部同士の前記固定子コアの中心軸線からの半径距離が等しくなるよう配置したことを特徴とする。
請求項6に記載の発明によれば、複数の導線の第1スロット収容部同士を周方向に連続するスロットに配置するとともに、第1スロット収容部同士の固定子コアの中心軸線からの半径距離が等しくなるよう配置しているので、固定子巻線の径方向寸法を周方向で均一化することができる。
請求項7に記載の発明は、前記固定子巻線は、複数の前記導線の前記第1スロット収容部同士、前記第2スロット収容部同士、・・・、前記第nスロット収容部同士をそれぞれ周方向に連続する前記スロットに配置するとともに、前記第1スロット収容部同士、前記第2スロット収容部同士、・・・、前記第nスロット収容部同士の前記固定子コアの中心軸線からの半径距離がそれぞれ等しくなるよう配置したことを特徴とする。
請求項7に記載の発明によれば、第1スロット収容部同士、第2スロット収容部同士、・・・、第nスロット収容部同士の固定子コアの中心軸線からの半径距離をそれぞれ等しくすることができ、固定子巻線の外径寸法および内径寸法を周方向で均一化することができる。
請求項8に記載の発明は、前記導線は、前記スロットの数と同じ本数であることを特徴とする。
請求項8に記載の発明によれば、スロット収容部が1スロットずつ周方向にずれた状態で、全ての導線を規則的に配置することができるので、真円筒形状により近い固定子巻線を形成することが可能となる。これにより、回転電機の出力特性の向上やトルクリップルの低減、損失の低減等を図ることができる。
請求項9に記載の発明は、前記ターン部によって接続された前記スロット収容部同士は、所定のスロットピッチだけ離間して配置されていることを特徴とする。
請求項9に記載の発明によれば、ターン部によって接続されたスロット収容部同士を、所定のスロットピッチだけ離間して配置するようにすることで、所望の相数の多相固定子巻線を形成することができる。なお、所定のスロットピッチは、固定子巻線の相数および各相の個数により決定される。
請求項10に記載の発明は、前記導線は、前記ターン部によって接続された前記スロット収容部同士の周方向離間距離が全ての箇所で実質的に異なっていることを特徴とする。
複数の導線を巻回してなる固定子巻線の場合、導線のスロット収容部のスロット内での位置は、導線の第1スロット収容部側から第nスロット収容部側に向かうにつれて、固定子コアの径方向に順次変化することから、ターン部によって接続されたスロット収容部同士の周方向離間距離は、固定子コアの径方向内方側に向かうにつれて短くなる。
そのため、請求項10に記載の発明によれば、ターン部によって接続されたスロット収容部同士の周方向離間距離が全ての箇所で実質的に異なるようにすることで、上記のスロット収容部同士の周方向離間距離の変化に対応することができる。これにより、一つのスロット内において、径方向に重なり合うように配置されるスロット収容部を、周方向に位置ずれすることなく径方向一列にストレートに整列した状態に配置することが可能となるため、固定子巻線の形状を真円筒形状により近い形状にすることができる。また、スロット収容部同士を接続しているターン部が固定子コアの軸方向に突出したり凹んだりするのを防止することができるため、ターン部の軸方向のバラツキを抑制することができる。
請求項11に記載の発明は、前記周方向離間距離は、前記導線の一端側から他端側に向かうにつれて、徐々に短くまたは徐々に長くなっていることを特徴とする。
請求項11に記載の発明によれば、ターン部によって接続されたスロット収容部同士の周方向離間距離を、導線の一端側から他端側に向かうにつれて、徐々に短くまたは徐々に長くすることによって、スロット収容部同士の周方向離間距離が全ての箇所で確実に異なるようにすることができる。なお、導線の一端側が他端側よりも固定子巻線の外径側に位置する場合には、周方向離間距離が徐々に短くされる。逆に、導線の一端側が他端側よりも固定子巻線の内径側に位置する場合には、周方向離間距離が徐々に長くされる。
請求項12に記載の発明は、前記固定子巻線は、周方向に隣接する前記ターン部の形状が互いに同じ形状であることを特徴とする。
請求項12に記載の発明によれば、周方向に隣接するターン部の形状が互いに同じ形状であるため、ターン部同士が干渉することを防止でき、コイルエンドの形状が大きくなることを防止でき、固定子巻線を小型化することができる。
請求項13に記載の発明は、前記導線は、断面形状が矩形状の導体部と、該導体部の外周を覆う絶縁被膜部とからなることを特徴とする。
請求項13に記載の発明によれば、断面形状が矩形状の導体部を有する導線を用いることで、固定子コアのスロット内に配置される導線のスロット収容部をより密な状態に配置することができるため、占積率を向上させることができる。また、ターン部もより密な状態に配置することができる。
請求項14に記載の発明は、前記固定子巻線は、複数の前記導線を接続して形成される各相巻線を有することを特徴とする。
請求項14に記載の発明によれば、各相巻線を構成する各導線の長さを短くすることができる。
請求項15に記載の発明は、複数の前記導線の全ては、各前記導線の両端部に形成された引出し部の間において同じ形状に成形されていることを特徴とする。
請求項15に記載の発明によれば、全ての導線が、引出し部の間において同じ形状に成形されているため、導線を成形して形成する際に成形工程の簡略化を図ることができる。
請求項16に記載の発明は、複数の前記導線の各々は、前記固定子コアの軸線の回りを渦巻き状に延伸するように設けられていることを特徴とする。
請求項16に記載の発明によれば、各々の導線が、固定子コアの軸線の回りを、徐々に径が大きくなるような渦巻き状に延伸するように設けられているので、固定子巻線の径方向寸法を大きくさせることなく、導線を密に配置することができる。
請求項17に記載の発明は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、前記固定子コアに巻回される複数の導線からなる固定子巻線と、を備えた回転電機の固定子において、前記導線は、少なくとも、前記スロットに収容される第1スロット収容部と、前記第1スロット収容部から周方向に離間した前記スロットに収容される第2スロット収容部と、前記第2スロット収容部から周方向に離間した前記スロットに収容される第3スロット収容部と、前記固定子コアの一端側における前記スロットの外部で前記第1スロット収容部と前記第2スロット収容部を接続する第1ターン部と、前記固定子コアの他端側における前記スロットの外部で前記第2スロット収容部と前記第3スロット収容部を接続する第2ターン部とを有し、前記固定子巻線は、前記第1スロット収容部、前記第2スロット収容部および前記第3スロット収容部の前記固定子コアの中心軸線からの半径距離が順次大きく又は順次小さくなるよう配置した前記導線を周方向に複数有し、前記固定子巻線の最も外径側に位置する前記ターン部は、前記スロットの最も外径側に収容された前記スロット収容部よりも外径側に突出していないことを特徴とする。
請求項17に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様に、編み込み工程を不要として、製造コストを低減しつつ量産性に優れる回転電機の固定子を実現することができる。また、固定子巻線の最も外径側に位置するターン部は、スロットの最も外径側に収容されたスロット収容部よりも外径側に突出していない構成とすることで、固定子巻線のコイルエンドの外径寸法を小さくできる。
以下、本発明に係る回転電機の固定子の実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。
〔実施形態1〕
以下、本発明に係る回転電機の固定子の実施形態について図1〜図17を参照しつつ具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る回転電機の固定子の全体斜視図である。図2は、その固定子の平面図である。図3は、その固定子の側面図である。
本実施形態の固定子20は、例えば車両の電動機及び発電機を兼ねる回転電機に使用されるものであって、内周側に回転子(図示せず)を回転自在に収容する。回転子は、永久磁石により周方向に磁性が交互に異なる磁極を固定子20の内周側と向き合う外周側に複数形成している。固定子20は、図1〜図3に示すように、固定子コア30と、複数(本実施形態では48本)の導線50から形成される三相の固定子巻線40とを備えている。なお、固定子コア30と固定子巻線40との間には、絶縁紙を配してもよい。
図4および図5を用いて固定子コア30を説明する。図4は、本実施形態に係る固定子コアの平面図である。図5は、本実施形態に係る分割コアの平面図である。
固定子コア30は、図4に示すように、内周に複数のスロット31が形成された円環状を呈している。複数のスロット31は、その深さ方向が径方向と一致するように形成されている。固定子コア30に形成されたスロット31の数は、回転子の磁極数(8磁極)に対し、固定子巻線40の一相あたり2個の割合で形成されている。本実施形態では、8×3×2=48より、スロット数は48個とされている。
固定子コア30は、図5に示す分割コア32を所定の数(本実施形態では24個)を周方向に連結して形成されている。分割コア32の外周には、外筒37が嵌合されている(図1〜4参照)。分割コア32は、一つのスロット31を区画するとともに、周方向で隣接する分割コア32との間で一つのスロット31を区画する形状を呈している。具体的には、分割コア32は、径方向内方に伸びる一対のティース部33と、ティース部33を径方向外方で連結するバックコア部34とを有している。
固定子コア30を構成する分割コア32は、複数枚の電磁鋼板を積層させて形成されている。積層された電磁鋼板の間には、絶縁薄膜が配置されている。分割コア32は、この電磁鋼板の積層体からだけでなく、従来公知の金属薄板および絶縁薄膜を用いて形成してもよい。
次に、図6〜図9を用いて固定子巻線40を説明する。図6は、本実施形態に係る固定子巻線の全体斜視図であり、図7は側面図、図8は平面図、図9は底面図である。固定子巻線40は、図6〜図9に示すように、複数の導線50により円筒形状に形成されており、固定子コア30のスロット31内に収容されるストレート部41と、このストレート部41の両端においてスロット31外に配置されるコイルエンド部42を有する。一方のコイルエンド部42の端面において、出力線および中性点が軸方向に突出するとともに、内径側から突出した導線50の端部を外径側から突出した導線50の端部に接続する渡り部70が設けられている。
固定子巻線40を構成する導線50は、図10(A)に示すように、銅製の導体67と、導体67の外周を覆い導体67を絶縁する内層68a及び外層68bからなる絶縁被膜68とから形成されている。内層68aおよび外層68bを合わせた絶縁被膜68の厚みは、100μm〜200μmの間に設定されている。このように、内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68の厚みが厚いので、導線50同士を絶縁するために導線50同士の間に絶縁紙等を挟み込む必要がなくなっているが、導線50同士の間あるいは固定子コア30と固定子巻線40との間に絶縁紙を配設してもよい。
外層68bはナイロン等の絶縁材で形成され、内層68aは外層68bよりもガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂またはポリアミドイミド等の絶縁材で形成されている。これにより、回転電機100に発生する熱により外層68bは内層68aよりも早く結晶化するため、外層68bの表面硬度が高くなり、導線50に傷がつきにくくなる。このため、後述するターン部52に段部を形成する加工を施した導線50の絶縁を確保することができる。
さらに、導線50は、図10(B)に示すように、内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68の外周をエポキシ樹脂等からなる融着材69で被覆してもよい。これにより、融着材69は、回転電機に発生する熱により絶縁被膜68よりも早く溶融するので、同じスロット31に収容されている複数の導線50同士が融着材69同士により熱接着する。その結果、同じスロット31に収容されている複数の導線50が一体化し導線50同士が硬化することで、スロット31内の導線50の機械的強度が向上する。なお、絶縁被膜68の外層68bには、ポリフェニレンサルファイド(PPS)よりなる被膜を用いてもよい。
図11に、導線50を平面上に展開した場合の図を示す。導線50は、図11に示すように、固定子コア30のスロット31内に収容される複数のスロット収容部51と、スロット31から固定子コア30の外に突出し、周方向に異なるスロットに収容されているスロット収容部51同士を接続している複数のターン部52とを有する。具体的に、複数のスロット収容部51は、少なくとも、スロット31に収容される第1スロット収容部51Aと、第1スロット収容部51Aから周方向に離間したスロット31に収容される第2スロット収容部51Bと、第2スロット収容部51Bから周方向に離間したスロット31に収容される第3スロット収容部51Cを含む。また、複数のターン部52は、少なくとも、固定子コア30の一端側におけるスロット31の外部で第1スロット収容部51Aと第2スロット収容部52Bを接続する第1ターン部52Aと、固定子コア30の他端側におけるスロット31の外部で第2スロット収容部51Bと第3スロット収容部51Cを接続する第2ターン部52Bを含む。なお、本実施形態においては、図11に示すように、各導線50は、12個のスロット収容部51A〜51Lと、11個のターン部52A〜52Kを備えている。
具体的に、本実施形態におけるスロット収容部51は、図11の左端に位置する第1スロット収容部51Aから順に、固定子コア30の周方向に離間したスロット31にそれぞれ収容される第2スロット収容部51B、第3スロット収容部51C、・・・、第12スロット収容部51Lの12個からなる。また、ターン部52は、固定子コア30の一端側におけるスロット31の外部と固定子コア30の他端側におけるスロット31の外部とで交互にスロット収容部51同士を接続する第1ターン部52A、第2ターン部52B、・・・、第10ターン部52J、および第11スロット収容部51Kと第12スロット収容部51Lを接続する第11ターン部52Kの11個からなる。
この導線50の隣り合うスロット収容部51同士の周方向(矢印Y方向)の離間距離Xは、全ての箇所で異なるようにされている。この場合、離間距離Xは、導線50の第1スロット収容部51A側から第12スロット収容部51L側に向かうにつれて、徐々に短くなるようにされている。即ち、離間距離Xは、X1>X2>X3>X4>X5>X6>X7>X8>X9>X10>X11となっている。なお、離間距離Xは、固定子コア30の周方向において隣り合うスロット31同士の離間距離(スロットピッチ)を考慮して適宜設定される。
導線50の両端には、他の導線50等と接続するための引出し部53a、53bが設けられている。一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aの端末から内側(図11の右側)へ戻るように、スロット収容部間のターン部の略半分の長さに形成されたターン部52Mを介して形成されている。よって、一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aからターン部52Mの長さだけ内側(図11の右側)へ寄った所に位置している。他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lの端末から内側(図11の左側)へ戻るように、スロット収容部間のターン部の略半分の長さに形成されたターン部52Nを介して形成されている。よって、他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lからターン部52Nの長さだけ内側(図11の左側)へ寄った所に位置している。他方の引出し部53bとターン部52Nとの間には、固定子巻線40の軸方向端面上で固定子コア30の径方向外方へ折り曲げられて配置される渡り部70が設けられている。
ターン部52の略中央部には、第1スロット収容部51A、第2スロット収容部51B、第3スロット収容部51C、・・・、第12スロット収容部51Lを導線50の長手方向およびスロット収容部51の長手方向に直交する方向に順次段差が生じるようにクランク部54(図12参照)が形成されている。その結果、導線50は図11(A)に示すように階段状の形状を有することになる。
図12に、図11に示す導線50を用いて円筒形状の固定子巻線40を形成した場合のターン部52の形状を示す斜視図を示す。図12(A)に示すように、ターン部52は、固定子コア30の径方向に変位して固定子コア30の端面30aに沿って延びるクランク部54を有する。クランク部54のクランク形状によるずれ量(径方向への変位量)は、ターン部52の径方向厚み分である。これにより、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、ターン部52の径方向厚み分だけ変位している。このようにクランク部54がターン部52に設けられていることにより、図12(B)に示すように周方向に隣接している導線50のターン部52同士を密に巻回できる。また、図12(B)に示すように周方向に隣接するターン部52は互いに同じ形状であり、ターン部52同士が干渉するのを防止している。
また、スロット31から固定子コア30の外に突出するターン部52の突出箇所に、導線50がまたがって設置されているスロット同士に向けて固定子コア30の軸方向両側の端面30aに沿って段部55が形成されている。これにより、スロット31から突出している導線50のターン部52の突出箇所の間隔、言い換えればターン部52が形成する三角形状部分の底辺の長さは、導線50がまたがって設置されているスロット同士の間隔よりも狭くなっている。その結果、コイルエンドの高さが低くなる。
また、固定子コア30の端面30aに沿った段部55の長さをd1、周方向に隣接するスロット同士の間隔をd2とすると、d1≦d2になっている。これにより、導線50の段部55が周方向に隣り合うスロットから突出する導線50と干渉することを防止できる。これにより、周方向に隣接するスロットから突出する導線50同士が互いに干渉することを避けるために、コイルエンドの高さが高くなったり、あるいはコイルエンドの径方向の幅が大きくなったりすることを防止できる。その結果、コイルエンドの高さが低くなる。さらに、コイルエンドの径方向の幅が小さくなるので、固定子巻線40が径方向外側に張り出すことを防止する。
さらに、導線50には、ターン部52の略中央部のクランク部54と、ターン部52の突出箇所に形成した段部55との間に、それぞれ2個の段部56が形成されている。つまり、固定子コア30の一方の軸方向の端面30a側の導線50のターン部52には、1個のクランク部54と合計6個の段部55、56が形成されている。これにより、クランク部54や段部55、56を形成しない三角形状のターン部の高さに比べ、ターン部52の高さが低くなる。クランク部54のクランク形状も、段部55、56と同様に、固定子コア30の端面30aに沿って形成されている。したがって、導線50のターン部52は、クランク部54を挟んで両側が階段状に形成されている。
固定子巻線40は、図11に示した導線50を48本用いて形成されている。ただし、固定子巻線40に出力線や中性点などを設けるために、渡り部70を設けていない導線50を適宜混在させても良い。したがって、本実施形態では、48本の導線50の全ては、各導線50の両端部に形成された引出し部53a、53bの間において同じ形状に成形されている。
この固定子巻線40を形成するには、先ず、48本の導線50を、それぞれの第1スロット収容部51Aが固定子コア30の隣接するスロット31の周方向距離(1スロットピッチ)だけ導線50の長手方向にずれるようにして順次積み重ねる。これにより、図13(A)(B)に示すように、長手方向両端部に階段状に傾斜した傾斜面45aを有する帯状の導線集積体45を形成する。なお、図13(A)において、積み重ね最初の導線50aは左側端部の最下方に位置しており、積み重ね最後の導線50bは右側端部の最上方に位置している。このように導線50を積み重ねることで、上記の導線50を固定子巻線40において周方向に複数有する構成となる。
そして、その導線集積体45を、長手方向一端側から巻き付けて、径方向の厚みが全周で一定となるように円筒形状に成形する。本実施形態では、図13(A)において、積み重ね最初の導線50aが内側となるようにして、導線集積体45の左端側から反時計回り方向(矢印Z方向)に巻き付けを開始し、導線集積体45の長手方向両端部の傾斜面45a同士が互いに面接触した状態に巻き付けられている。これにより、円筒形状に成形された導線集積体45の各導線50は、図13(C)に示すように、周方向に略1周半する渦巻き状に巻き付けられている。即ち、各導線50は、固定子コア30の中心軸線Oの回りを渦巻き状に延伸するように成形されている(図16参照)。
その後、48本の導線50のうち所定の導線50の引出し部53a、53bを溶接で接続することにより、図6〜図9に示す固定子巻線40が得られる。ここで、固定子巻線40の最も外径側に位置するターン部52は、スロット31の最も外径側に収容されたスロット収容部51よりも外径側に突出していないので、固定子巻線40のコイルエンド42の外径寸法を小さくできる。
この固定子巻線40を構成する導線50は、ターン部52の略中央部に、ターン部52の径方向厚み分だけ径方向にずれたクランク部54が設けられていることにより、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、固定子コア30の中心軸線からの半径距離が、スロット収容部51の径方向厚み分だけ異なっている。また、導線50は、隣り合うスロット収容部51同士の離間距離Xが、導線50の第1スロット収容部51A側から第12スロット収容部51L側に向かうにつれて、徐々に短くなるようにされており、全ての箇所で実質的に異なっている(図8参照)。これらのことから、固定子巻線40は、径方向に重なり合うスロット収容部51が、周方向に位置ずれすることなく径方向一列にストレートな状態に整列するようになるので、真円筒形状により近い形状にすることができる(図6および図7参照)。
この固定子巻線40は、複数の導線の第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士をそれぞれ周方向に連続するスロットに配置するとともに、第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士の固定子コアの中心軸線Oからの半径距離がそれぞれ等しくなるよう配置されているので、固定子巻線40の外径寸法および内径寸法を周方向で均一化することができる。この固定子巻線40は、図14に示すように、それぞれの相が16本の導線50を直列に接続した各相巻線43(U、V、W)をY結線した三相巻線として形成されている。
図15において、各導線50のスロット収容部51は、12個の破線円と放射方向に延びる破線とが交差する位置に配置されており、最外径側と最内径側のみが矩形断面形状で表されている。また、放射方向に1列に並んだスロット収容部51の外側には、それぞれ対応する1〜48のスロット番号が付されている(以後、図16においても同じ)。また、スロット番号の外側には、それぞれのスロットの最外径側(第12層)に、巻回の始端側となる第1スロット収容部51Aが配置される導線の番号が付されている。
各相の巻線を構成する16本の導線50は、8個の同一のスロット31にスロット収容部51が収容される8本の導線50と、それら8個のスロット31とは別の8個の同一のスロット31にスロット収容部51が収容される8本の導線50とに分かれている。例えばU相の場合には、8本の導線(U1−1)〜(U1−4)および(U1−1’)〜(U1−4’)は、外径側から内径側に向かって反時計回りに巻回されて、それぞれのスロット収容部51が、1番スロット、7番スロット、13番スロット、19番スロット、25番スロット、31番スロット、37番スロットおよび43番スロットに収容される。また、他の8本の導線(U2−1)〜(U2−4)および(U2−1’)〜(U2−4’)は、外径側から内径側に向かって反時計回りに巻回されて、それぞれのスロット収容部51が、2番スロット、8番スロット、14番スロット、20番スロット、26番スロット、32番スロット、38番スロットおよび44番スロットに収容される。
なお、図15には、代表として導線(U1−1)の軌跡が示されている。図15において、黒四角で示された部分は導線(U1−1)のスロット収容部51が配置されていることを示し、導線(U1−1)の周方向に延びる太線は、固定子コア30の軸方向一方側(図14の紙面手前側)に位置するターン部52を示し、導線(U1−1)の周方向に延びる二点鎖線は、固定子コア30の軸方向他方側(図14の紙面後側)に位置するターン部52を示す(以後、図16においても同じ)。
この固定子巻線40は、図15に示すように、各スロット31において、8本の導線50のスロット収容部51が径方向に12層、積層された状態になっている。導線(U1−1)は、始端側の第1スロット収容部51Aが1番スロットの最外層(第12層)に位置し、終端側の第12スロット収容部51Lが19番スロットの最内層(第1層)に位置している。
また、固定子巻線40を構成する48本の導線50は、長手方向(周方向)に1スロットピッチずつずれて配置されているので、各導線50の始端側となる第1スロット収容部51Aが、48個の各スロット31の最外層(第12層)に順に収容されている。下記の表1は、1番〜48番の各スロット31において、最外層に位置する導線の番号と、最内層に位置する導線の番号をまとめたものである。
固定子巻線40を構成する導線50は、各導線50の一端側(第1スロット収容部51A側)から他端側(第12スロット収容部51L側)に向かうにつれて、スロット収容部51の固定子コア30の中心軸線Oからの半径距離が順次小さくなっている。本実施形態の場合、各導線50は、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士の固定子コア30の中心軸線Oからの半径方向距離がスロット収容部51の径方向厚み分異なっている。
図16は、固定子巻線40を図15の裏側から見た場合の、1本の導線(U1−4’)の軌跡を示す図である。この導線(U1−4’)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが43番スロットの第12層(最外層)に配置され、第2スロット収容部51Bが1番スロットの第11層に配置され、第3スロット収容部51Cが7番スロットの第10層に配置され、第4スロット収容部51Dが13番スロットの第9層に配置され、最終の第12スロット収容部51Lが13番スロットの第1層(最内層)に配置されている。即ち、導線(U1−4’)は、始端側(外径側)から終端側(内径側)に向かうにつれて、スロット収容部51の固定子コア30の中心軸線Oからの半径距離が順次小さくなっている。
よって、固定子コア30の中心軸線Oから、第1スロット収容部51Aまでの半径距離r43と、第2スロット収容部51Bまでの半径距離r1と、第3スロット収容部51Cまでの半径距離r7と、第4スロット収容部51Dまでの半径距離r13は、順次スロット収容部51の径方向厚み分小さくなっており、以後同様に、第12スロット収容部51Lに至るまで、半径距離が順次スロット収容部51の径方向厚み分小さくなっている。すなわち、第1スロット収容部51Aから第12スロット収容部51Lに至るまで、半径距離が順次小さくなるのみで、途中で半径距離が大きくなることはない。
次に、16本の導線50を直列に接続してなる各相巻線43(U、V、W)のうち、代表としてV相の各相巻線43の接続状態を、図14、図17および上記の表1を参照して説明する。なお、U相、W相の各相巻線もV相と同様の接続となっている。図14において出力線Vの始端に位置する導線(V1−1)は、表1および図17に示すように、始端側の第1スロット収容部51Aが5番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが23番スロットの最内層(第1層)に配置されている。導線(V1−1)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが17番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが35番スロットの第1層に配置された導線(V1−2)の始端側が接続されている。
導線(V1−2)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが29番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが47番スロットの第1層に配置された導線(V1−3)の始端側が接続されている。導線(V1−3)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが41番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが11番スロットの第1層に配置された導線(V1−4)の始端側が接続されている。導線(V1−4)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが6番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが24番スロットの第1層に配置された導線(V2−1)の始端側が接続されている。
導線(V2−1)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが18番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが36番スロットの第1層に配置された導線(V2−2)の始端側が接続されている。導線(V2−2)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが30番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが48番スロットの第1層に配置された導線(V2−3)の始端側が接続されている。導線(V2−3)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが42番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが12番スロットの第1層に配置された導線(V2−4)の始端側が接続されている。
導線(V2−4)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが48番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが18番スロットの第1層に配置された導線(V2−4’)の終端側が接続されている。導線(V2−4’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが36番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが6番スロットの第1層に配置された導線(V2−3’)の終端側が接続されている。導線(V2−3’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが24番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが42番スロットの第1層に配置された導線(V2−2’)の終端側が接続されている。導線(V2−2’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが12番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが30番スロットの第1層に配置された導線(V2−1’)の終端側が接続されている。
導線(V2−1’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが47番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが17番スロットの第1層に配置された導線(V1−4’)の終端側が接続されている。導線(V1−4’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが35番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが5番スロットの第1層に配置された導線(V1−3’)の終端側が接続されている。導線(V1−3’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが23番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが41番スロットの第1層に配置された導線(V1−2’)の終端側が接続されている。導線(V1−2’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが11番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが29番スロットの第1層に配置された導線(V1−1’)の終端側が接続されている。なお、導線(V1−1’)の始端側は、中性点Vに接続されている。
次に、表1、図11および図17を参照して各導線50の接続状態を説明する。ここでは、代表として2本の導線(V1−1)(V1−2)の接続状態を説明する。一方の導線(V1−1)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが5番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側となる第12スロット収容部51Lが23番スロットの最内層(第1層)に配置されている。この導線(V1−1)の終端側に設けられた引出し部53b(内周側端部)は、第12スロット収容部51Lが配置されている23番スロットからターン部52Nの長さ分だけ戻った所(20番スロット付近)に位置している。
そして、他方の導線(V1−2)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが17番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側となる第12スロット収容部51Lが35番スロットの最内層(第1層)に配置されている。この導線(V1−2)の始端側に設けられた引出し部53a(外周側端部)は、第1スロット収容部51Aが配置されている17番スロットからターン部52Mの長さ分だけ戻った所(20番スロット付近)に位置している。図6〜図9に示すように、この導線(V1−1)の引出し部53b(内周側端部)は、径方向外方側へ略直角に折り曲げられた後、その先端が、固定子巻線40の外周端部に位置する導線(V1−2)の引出し部53a(外周側端部)の先端部に溶接接合されることにより接続されている。
この溶接接合は、固定子巻線40の最も外径側に位置するターン部52よりも外径側において溶接により接続されている。この場合、導線(V1−1)の引出し部53b(内周側端部)の折り曲げ部は、固定子巻線40の軸方向端面(ターン部52の軸方向外面)上を通る渡り部70を形成しており、2本の導線(V1−1)(V1−2)は、渡り部70を介して接続されている。これにより、内径側に位置する第12スロット収容部51Lの径方向内方への膨出をより効果的に防止することができるので、内径側に位置する回転子との干渉を回避することが可能となる。
なお、渡り部70は、図2および図8に示すように、渡り部70の径方向両端部が、固定子コア30(固定子巻線40)の中心軸線Oから放射方向に延びる直線に沿って延びるように形成されている。渡り部70の形状をこのようにすることによって、導線の折り曲げを容易にするとともに、溶接接合を容易にすることができる。
また、この渡り部70は、図2および図8に示すように、固定子巻線40の軸方向端面上において、周方向に略3/4周する範囲の領域に設けられている。そして、固定子巻線40の軸方向端面上の残り1/4周する範囲の領域には、中性点V、出力線W、中性点U、出力線V、中性点Wおよび出力線Uの引出し部が順番に並んで設けられている。即ち、固定子巻線40の軸方向端面において、中性点U、V、Wの引出し部と同じ領域に出力線U、V、Wの引出し部が設けられているとともに、渡り部70が設けられる領域と中性点U、V、Wおよび出力線U、V、Wの引出し部が設けられる領域が分離されている。
上記のように構成された固定子巻線40は、外周側から分割コア32が挿入されることによって固定子コア30と組み付けられている(図1〜図3参照)。これにより、固定子巻線40を構成する導線50は、固定子コア30の内周側で周方向に沿って波巻きされた状態に組み付けられている。導線50のターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、所定のスロットピッチ(本実施形態では、3相×2個=6スロットピッチ)だけ離間したスロット31に収容されている。隣り合うスロット収容部51同士を接続するターン部52は、固定子コア30の軸方向の両端面からそれぞれ突出し、その突出している部分によりコイルエンドが形成されている。
以上のように構成された本実施形態の回転電機の固定子によれば、固定子巻線40を構成する各導線50において、固定子コア30の中心軸線Oからスロット収容部51までの半径距離rが、始端側の第1スロット収容部51Aから終端側の第12スロット収容部51Lに向かうにつれて順次小さくなるようにされている。そのため、導線50を積み重ねた導線集積体45を円筒形状に形成することで固定子巻線を得ることができるので、上記特許文献1において行われていた編み込み工程を不要とすることができる。その結果、製造コストを低減しつつ量産性に優れる回転電機の固定子を提供できる。また、各導線50は、固定子コア30の中心軸線Oの回りを渦巻き状に延伸するように設けられているので、固定子巻線40の径方向寸法を大きくさせることなく、導線50を密に配置することができる。
また、固定子巻線40を構成する導線50は、始端側の第1スロット収容部51Aがスロット31の最も外径側に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lがスロット31の最も内径側に配置されている。これにより、導線50の両端が、最も外径側と最も内径側に位置するようになるので、導線50の接続を容易に行うことができる。
また、本実施形態では、一つのスロット31に径方向一列に収容されるスロット収容部51の個数(12個)と、導線50に設けられたスロット収容部51の個数(12個)が等しくなるようにされている。これにより、第1スロット収容部51Aがスロット31の最も外径側に配置され、第12スロット収容部51Lがスロット31の最も内径側に配置されることになるので、各導線の接続を容易に行うことが可能となる。
また、固定子巻線40を構成する複数の導線50は、第1スロット収容部51A同士を周方向に連続するスロットに配置するとともに、第1スロット収容部51A同士の固定子コア30の中心軸線からの半径距離が等しくなるよう配置されているので、固定子巻線の径方向寸法を周方向で均一化することができる。
また、固定子巻線40は、複数の導線の第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士をそれぞれ周方向に連続するスロットに配置するとともに、第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士の固定子コアの中心軸線からの半径距離がそれぞれ等しくなるよう配置されているので、固定子巻線40の外径寸法および内径寸法を周方向で均一化することができる。
また、固定子巻線40を構成する導線50の本数(48本)は、スロット31の個数(48個)と同じであるため、スロット収容部51が1スロットずつ周方向にずれた状態で、全ての導線50を規則的に配置することができる。そのため、真円筒形状により近い形状の固定子巻線40を形成することが可能となる。これにより、回転電機の出力特性やトルクリップル、損失等の性能の安定化を図ることができる。さらに、48本の導線50の全てが、引出し部53a、53bの間において同じ形状に成形されているため、導線50を成形して形成する際に成形工程の簡略化を図ることができる。
また、本実施形態では、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士が、所定のスロットピッチ(6スロットピッチ)だけ離間して配置されているので、所望の相数の多相固定子巻線を形成することができる。
また、本実施形態では、導線50は、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士の周方向離間距離Xが全ての箇所で実質的に異なるようにされている。これにより、一つのスロット31内において、径方向に重なり合うように配置されるスロット収容部51を、周方向に位置ずれすることなく径方向一列にストレートに整列した状態に配置することが可能となるため、固定子巻線40の形状を真円筒形状により近い形状にすることができる。また、スロット収容部同士51を接続しているターン部52が固定子コア30の軸方向に突出したり凹んだりするのを防止することができるため、ターン部52の軸方向のバラツキを抑制することができる。
本実施形態では、周方向離間距離Xが、導線50の第1スロット収容部51A側から第12スロット収容部51L側に向かうにつれて、徐々に短くなるようにされているので、周方向離間距離Xが全ての箇所で確実に異なるようにすることができる。これにより、上記の作用および効果をより確実に得ることができる。
また、ターン部52は、固定子コア30の端面に平行な段部を固定子コア30の軸方向に複数有する階段形状に形成されているため、固定子コア30の端面から突出しているターン部52(コイルエンド)の突出高さを低くすると共に、径方向幅を小さくすることができるので、固定子巻線40を小型化することができる。
また、固定子巻線40は、周方向に隣接するターン部52の形状が互いに同じ形状であるため、ターン部52同士が干渉することを防止でき、コイルエンド42の形状が大きくなることを防止でき、固定子巻線40を小型化することができる。なお、固定子巻線40において、すべてのターン部52の形状が同一である必要はなく、一部に異なる形状が存在していたとしても、周方向に隣接するターン部52の形状が互いに同じであれば良い。
また、固定子巻線40の最も外径側に位置するターン部52は、スロット31の最も外径側に収容されたスロット収容部51よりも実質的に外径側に突出しておらず、固定子巻線40のコイルエンド42の外径寸法を小さくできる。
また、ターン部52は、固定子コア30から最も離れた位置に形成されたクランク部54を有するため、各導線50のターン部52同士の干渉を回避することができる。さらに、クランク部54は、ターン部52の径方向厚み分だけ固定子コア30の径方向にずれているので、導線50の隣り合うターン部52同士を径方向にターン部52の厚み分ずらして隙間なく巻回して多相固定子巻線を形成することができる。これにより、固定子巻線40の径方向の幅を小さくすることができるので、小型化することが可能となる。
また、固定子巻線40は、断面形状が矩形状の導体部67を有する導線50を用いていることから、固定子コア30のスロット31内に配置される導線50(スロット収容部51)をより密な状態に配置することができるため、占積率の向上を図ることができる。さらに、ターン部52もより密な状態に配置することができる。
次に、本実施形態における回転電機の固定子の製造方法について説明する。本実施形態の製造方法は、導線形成工程と、導線積層工程と、固定子巻線成形工程と、コア組付工程とを順に行って、上記固定子20を製造するものである。
まず、導線形成工程において、少なくとも、スロットに収容される第1スロット収容部51Aと、第1スロット収容部51Aから周方向に離間したスロットに収容される第2スロット収容部51Bと、第2スロット収容部51Bから周方向に離間したスロットに収容される第3スロット収容部51Cと、固定子コア30の一端側におけるスロット31の外部で第1スロット収容部51Aと第2スロット収容部51Bを接続する第1ターン52A部と、固定子コア30の他端側におけるスロット31の外部で第2スロット収容部51Bと第3スロット収容部51Cを接続する第2ターン部52Bとを有する導線50を成形することにより形成する。このとき、第1スロット収容部51A、第2スロット収容部51Bおよび第3スロット収容部51Cを導線50の長手方向およびスロット収容部51の長手方向に直交する方向に順次段差が生じるように導線50を形成する。
次に、導線積層工程において、導線形成工程で得られた複数(48本)の導線50を積み重ねて導線集積体45を形成する(図13(A)(B)参照)。この導線積層工程は、上記特許文献1において行われていた編み込み工程が不要であり、複数の導線50を積み重ねるだけで良いため、従来の編み込み工程と比較して格段に製造が容易となっている。
その後、固定子巻線成形工程において、導線集積体45を円筒形状に成形して固定子巻線40とし、次のコア組付工程において、固定子巻線40を固定子コア30に組み付けることで回転電機の固定子20を得る。
本実施形態の製造方法によれば、上記特許文献1において行われていた編み込み工程を不要とすることができるので、製造コストを低減しつつ量産性に優れる回転電機の固定子の製造方法とすることができる。また、導線50の両端に設けられた引出し部53a、53bは、両端に位置するスロット収容部51A、51Lの端末からそれぞれターン部52M、52Nの長さ分だけ内側へ寄った位置に設けられている。そのため、2本の導線50が接続される際には、図17に示すように、一方の導線(V1−3’)の最内層に位置する引出し部53bと、他方の導線(V1−4’)の最外層に位置する引出し部53aとの間の距離を、短くすることができる。
〔他の実施形態〕
導線50の両端に設けられた引出し部53a、53bの形状の変形例を説明する。導線50の両端に設けられる引出し部53a、53bは、例えば図18(A)(B)および図19(A)(B)に示す変形例1〜4のように設けることができる。図18(A)に示す変形例1の場合には、両方の引出し部53a、53bは、両端に位置する第1および第12スロット収容部51A、51Lの端末からそれぞれ外側へ向かって延びるように、スロット収容部間のターン部の略半分の長さに形成されたターン部52M、52Nを介して形成されている。図18(B)に示す変形例2の場合には、一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aの端末から外側へ向かって延びるように、スロット収容部間のターン部の略半分の長さに形成されたターン部52Mを介して形成され、他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lの端末から内側へ戻るように、スロット収容部間のターン部の略半分の長さに形成されたターン部52Nを介して形成されている。
そして、図19(A)に示す変形例3の場合には、一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aの端末から内側へ戻るように、スロット収容部間のターン部の略半分の長さに形成されたターン部52Mを介して形成され、他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lの端末から外側へ向かって延びるように、スロット収容部間のターン部の略半分の長さに形成されたターン部52Nを介して形成されている。
また、図19(B)に示す変形例4の場合には、両方の引出し部53a、53bは、両端に位置する第1および第12スロット収容部51A、51Lの端末からそれぞれ直接、延長するように形成されている。
また、実施形態1では、図12に示したように、ターン部52の略中央部のクランク部54と、ターン部52の突出箇所に形成した段部55との間に、それぞれ2個の段部56が形成されていたが、ターン部52の形状を図20に示す形状に変更した変形例5のようにすることもできる。変形例5では、ターン部52の略中央部のクランク部54と、ターン部52の突出箇所に形成した段部55との間に、段部56が形成されていない。このようなターン部52の形状とすることで、ターン部52の形状および加工を簡易なものにすることができる。
なお、ターン部52の形状は、図12や図20の形状に限らず、種々の形状を採用することができる。例えば、ターン部52の略中央部のクランク部54のクランク形状によるずれ量(径方向への変位量)がスロット収容部51の径方向厚み分であるものを、スロット収容部51の径方向厚みの0.5倍や1.5倍あるいは2倍としても良い。このようにクランク形状を変更した場合、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士の固定子コア30の中心軸線Oからの半径距離rも同様に、スロット収容部51の径方向厚みの0.5倍や1.5倍あるいは2倍異なるものになる。
また、実施形態1では、図11に示したように、導線50の両端部にそれぞれ形成された引出し部53a、53bと、それら引出し部53a、53bに最も近い所に位置するスロット収容部51A、51Lとの間にそれぞれ設けられた略半分のターン部52M、52Nは、曲げ加工により段部が形成されているが、図21に示す変形例6のように、ターン部52M、52Nに段部を形成することなく、ストレート状にしてもよい。このようにターン部52M、52Nをストレート状にすることで、引出し部53a、53bを所定の位置に精度良く設けることができる。なお、変形例6では、両方のターン部52M、52Nがストレート状に形成されているが、両方のターン部52M、52Nのうちのいずれか一方のみをストレート状にするようにしてもよい。
また、実施形態1では、固定子コア40の中心軸線Oからスロット収容部51までの半径距離rが、始端側の第1スロット収容部51Aから終端側の第12スロット収容部51Lに向かうにつれて順次小さくなる構成であったが、逆に、始端側の第1スロット収容部51Aから終端側の第12スロット収容部51Lに向かうにつれて順次大きくなる構成としても良い。
また、実施形態1では、第1スロット収容部51Aがスロット31の最も外径側に配置され、第12スロット収容部51Lがスロット31の最も内径側に配置される構成であったが、導線50の両端が最も外径側と最も内径側に位置していない場合や、一つのスロット31に径方向一列に収容されるスロット収容部51の個数と、導線50に設けられたスロット収容部51の個数が異なる場合であっても、導線50の接続さえできれば、固定子巻線として用いることができる。
また、実施形態1では、複数の導線の第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第nスロット収容部51n同士をそれぞれ周方向に連続するスロットに配置する構成であったが、周方向に連続するスロットに配置する場合に限らず、周方向のスロットに間欠的に配置しても固定子巻線40として用いることができる。
また、実施形態1では、固定子巻線40を構成する導線50の本数(48本)は、スロット31の個数(48個)と同じ構成であったが、複数の導線50を共通の連続導線としたり、導線50を途中で分割するなどにより、導線50の本数とスロット31の個数が異なる場合であっても、固定子巻線40として用いることができる。