以下、本発明の回転電機の固定子の実施形態について具体的に説明する。なお、説明する実施形態はあくまでも実施形態の例にすぎず、本発明は下記の実施形態に限定解釈されるものではない。本発明の回転電機の固定子は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る回転電機の構成を模式的に示す軸方向断面図である。図2は、本実施形態に係る回転電機の固定子の全体斜視図であり、図3はその固定子の平面図、図4はその固定子の側面図である。
本実施形態の回転電機1は、例えば車両の電動機および発電機を兼ねる回転電機として使用されるものであって、略有底筒状の一対のハウジング部材10a,10bが開口部同士で接合されてなるハウジング10と、ハウジング10に軸受け11,12を介して回転自在に支承される回転軸13に固定された回転子14と、ハウジング10の内部で回転子14を包囲する位置でハウジング10に固定された固定子20と、を備えている。
回転子14は、永久磁石により磁性が周方向に交互に異なる磁極を、固定子20の内周側と向き合う外周側に複数形成している。回転子14の磁極の数は、回転電機により異なるため限定されるものではない。本実施形態においては、8極(N極:4、S極:4)の回転子が用いられている。
固定子20は、図2〜図4に示すように、固定子コア30と、複数(本実施形態では48本)の導線50から形成される三相の固定子巻線40とを備えている。なお、固定子コア30と固定子巻線40との間には、絶縁紙を配してもよい。
図5は、本実施形態に係る固定子コアの平面図である。図6は、本実施形態に係る分割コアの平面図である。
固定子コア30は、図5に示すように、内周に複数のスロット31を形成された円環状を呈している。複数のスロット31は、その深さ方向が径方向と一致するように周方向に設けられている。固定子コア30に形成されたスロット31の数は、回転子の磁極数(8磁極)に対し、固定子巻線40の一相あたり2個の割合で形成されている。本実施形態では、8×3×2=48より、スロット数は48個とされている。
固定子コア30は、図6に示す分割コア32を所定の数(本実施形態では24個)を周方向に連結して形成されている。分割コア32の外周には、外筒37が嵌合されている(図2〜4参照)。分割コア32は、一つのスロット31を区画するとともに、周方向で隣接する分割コア32との間で一つのスロット31を区画する形状を呈している。具体的には、分割コア32は、径方向内方に伸びる一対のティース部33と、ティース部33を径方向外方で連結するバックコア部34とを有している。
固定子コア30を構成する分割コア32は、複数枚の電磁鋼板を積層させて形成されている。積層された電磁鋼板の間には、絶縁薄膜が配置されている。分割コア32は、この電磁鋼板の積層体からだけでなく、従来公知の金属薄板および絶縁薄膜を用いて形成してもよい。
図7は、本実施形態に係る固定子巻線の全体斜視図であり、図8は、その固定子巻線の側面図、図9は、その固定子巻線の平面図、図10は、その固定子巻線の底面図である。
固定子巻線40は、図7〜図10に示すように、複数の導線50により円筒形状に形成されており、固定子コア30のスロット31内に収容される直状部41と、この直状部41の両端においてスロット31外に配置されるコイルエンド部42を有する。一方のコイルエンド部42の端面において、出力線および中性点が軸方向に突出するとともに、内径側から突出した導線50の端部を外径側から突出した導線50の端部に接続する渡り部70が設けられている。
固定子巻線40を構成する導線50は、図11(A)に示すように、銅製の導体67と、導体67の外周を覆い導体67を絶縁する内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68とから形成されている。内層68aおよび外層68bを合わせた絶縁被膜68の厚みは、100μm〜200μmの間に設定されている。このように、内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68の厚みが厚いので、導線50同士を絶縁するために導線50同士の間に絶縁紙等を挟み込む必要がなくなっているが、導線50同士の間あるいは固定子コア30と固定子巻線40との間に絶縁紙を配設してもよい。
外層68bはナイロン等の絶縁材で形成され、内層68aは外層68bよりもガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂またはポリアミドイミド等の絶縁材で形成されている。これにより、回転電機100に発生する熱により外層68bは内層68aよりも早く結晶化するため、外層68bの表面硬度が高くなり、導線50に傷がつきにくくなる。このため、後述するターン部52に段部を形成する加工を施した導線50の絶縁を確保することができる。
さらに、導線50は、図11(B)に示すように、内層68aおよび外層68bからなる絶縁被膜68の外周をエポキシ樹脂等からなる融着材69で被覆してもよい。これにより、融着材69は、回転電機に発生する熱により絶縁被膜68よりも早く溶融するので、同じスロット31に収容されている複数の導線50同士が融着材69同士により熱接着する。その結果、同じスロット31に収容されている複数の導線50が一体化し導線50同士が硬化することで、スロット31内の導線50の機械的強度が向上する。なお、絶縁被膜68の外層68bには、ポリフェニレンサルファイド(PPS)よりなる被膜を用いてもよい。
図12は、導線50を平面上に展開した場合の展開図である。導線50は、図12に示すように、固定子コア30のスロット31内に収容される複数のスロット収容部51と、スロット31から固定子コア30の外に突出し、周方向に異なるスロットに収容されているスロット収容部51同士を接続している複数のターン部52とを有する。具体的には、複数のスロット収容部51は、少なくとも、スロット31に収容される第1スロット収容部51Aと、第1スロット収容部51Aから周方向に離間したスロット31に収容される第2スロット収容部51Bと、第2スロット収容部51Bから周方向に離間したスロット31に収容される第3スロット収容部51Cを含む。また、複数のターン部52は、少なくとも、固定子コア30の一端側におけるスロット31の外部で第1スロット収容部51Aと第2スロット収容部52Bを接続する第1ターン部52Aと、固定子コア30の他端側におけるスロット31の外部で第2スロット収容部51Bと第3スロット収容部51Cを接続する第2ターン部52Bを含む。なお、本実施形態においては、図12に示すように、各導線50は、12個のスロット収容部51A〜51Lと、11個のターン部52A〜52Kを備えている。
具体的には、本実施形態におけるスロット収容部51は、図12の左端に位置する第1スロット収容部51Aから順に、固定子コア30の周方向に離間したスロット31にそれぞれ収容される第2スロット収容部51B、第3スロット収容部51C、・・・、第12スロット収容部51Lの12個からなる。また、ターン部52は、固定子コア30の一端側におけるスロット31の外部と固定子コア30の他端側におけるスロット31の外部とで交互にスロット収容部51同士を接続する第1ターン部52A、第2ターン部52B、・・・、第10ターン部52J、および第11スロット収容部51Kと第12スロット収容部51Lを接続する第11ターン部52Kの11個からなる。
この導線50の隣り合うスロット収容部51同士の周方向(矢印Y方向)の離間距離Xは、全ての箇所で異なるようにされている。この場合、離間距離Xは、導線50の第1スロット収容部51A側から第12スロット収容部51L側に向かうにつれて、徐々に短くなるようにされている。即ち、離間距離Xは、X1>X2>X3>X4>X5>X6>X7>X8>X9>X10>X11となっている。なお、離間距離Xは、固定子コア30の周方向において隣り合うスロット31同士の離間距離(スロットピッチ)を考慮して適宜設定される。
導線50の両端には、他の導線50等と接続するための引出し部53a、53bが設けられている。一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aの端末から内側(図12の右側)へ戻るように、スロット収容部51間にあるターン部52の略半分の長さに形成されたターン部52Mを介して形成されている。よって、一方の引出し部53aは、第1スロット収容部51Aからターン部52Mの長さだけ内側(図11の右側)へ寄った所に位置している。他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lの端末から内側(図12の左側)へ戻るように、スロット収容部51間にあるターン部52の略半分の長さに形成されたターン部52Nを介して形成されている。よって、他方の引出し部53bは、第12スロット収容部51Lからターン部52Nの長さだけ内側(図12の左側)へ寄った所に位置している。他方の引出し部53bとターン部52Nとの間には、固定子巻線40の軸方向端面上で固定子コア30の径方向外方へ折り曲げられて配置される渡り部70が設けられている。
なお、図12に示す導線50は、それぞれのターン部52に対して成形加工が施されることにより、図13に示すように、周方向に略1周半する渦巻き状の巻回体に成形される。即ち、導線50のそれぞれのターン部52は、固定子コア30の周方向に沿って延びる円弧形状に成形される。このとき、円弧形状のターン部52は、両端部に曲率が変化する変曲点57a、57bを有するように成形される(図14(A)参照)。この変曲点57a、57bに関しては後で詳述する。
図14(A)は、導線のターン部の形状を示す斜視図であり、図14(B)は、隣接する複数のターン部を示す斜視図である。図14(A)に示すように、ターン部52の略中央部には、ターン部52の両端に接続するスロット収容部51の径方向での位置をずらすためのクランク部54が設けられている。具体的には、クランク部54は、第1〜第12スロット収容部51A〜51Lのそれぞれを、導線50の長手方向およびスロット収容部51の長手方向に対して直交する方向(固定子コア30の径方向)に順次変位させるようにクランク状に形成されている。その結果、導線50は、図12(A)に示すように階段状の形状を有することになる。
クランク部54は、固定子コア30の径方向に変位して固定子コア30の端面30aに沿って延びるようにクランク形状に形成されている。クランク部54のクランク形状によるずれ量(固定子コア30の径方向への変位量)は、ターン部52の径方向厚み分である。これにより、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、ターン部52の径方向厚み分だけ変位している。このようにクランク部54がターン部52に設けられていることにより、図14(B)に示すように、周方向に隣接している導線50のターン部52同士を密に巻回できる。また、図14(B)に示すように周方向に隣接するターン部52は互いに同じ形状であり、ターン部52同士が干渉するのを防止している。
また、スロット31から固定子コア30の外に突出するターン部52の突出箇所に、導線50がまたがって設置されているスロット同士に向けて固定子コア30の軸方向両側の端面30aに沿って段部55が形成されている。これにより、スロット31から突出している導線50のターン部52の突出箇所の間隔、言い換えればターン部52が形成する三角形状部分の底辺の長さは、導線50がまたがって設置されているスロット同士の間隔よりも狭くなっている。その結果、コイルエンド部42の高さが低くなる。ターン部52の突出箇所に形成された段部55は、屈曲加工が施されることによりスロット収容部51に対して略直角に屈曲されており、屈曲部およびその近傍部は、屈曲加工により硬化している。
また、固定子コア30の端面30aに沿った段部55の長さをd1、周方向に隣接するスロット31同士の間隔をd2とすると、d1≦d2になっている。これにより、導線50の段部55が周方向に隣り合うスロット31から突出する導線50と干渉することを防止できる。これにより、周方向に隣接するスロット31から突出する導線50(ターン部52)同士が互いに干渉することを避けるために、コイルエンド部42の高さが高くなったり、あるいはコイルエンド部42の径方向の幅が大きくなったりすることを防止できる。その結果、コイルエンド部42の高さが低くなる。さらに、コイルエンド部42の径方向の幅が小さくなるので、固定子巻線40が径方向外側に張り出すことを防止する。
さらに、導線50には、ターン部52の略中央部のクランク部54と、ターン部52の突出箇所に形成した段部55との間に、それぞれ2個の段部56が形成されている。つまり、固定子コア30の一方の軸方向の端面30a側の導線50のターン部52には、1個のクランク部54と合計6個の段部55、56が形成されている。これにより、クランク部54や段部55、56を形成しない三角形状のターン部の高さに比べ、ターン部52の高さが低くなる。クランク部54のクランク形状も、段部55、56と同様に、固定子コア30の端面30aに沿って形成されている。したがって、導線50のターン部52は、クランク部54を挟んで両側が階段状に形成されている。
そして、本実施形態では、上述したように、図12に示す導線50は、それぞれのターン部52に対して成形加工が施されることにより、周方向に略1周半する渦巻き状の巻回体に成形される(図13参照)。このとき、ターン部52は、固定子コア30の周方向に沿って延びる円弧形状に成形され、図14(A)に示すように、その両端部の2箇所に、曲率が変化する変曲点57a、57bを有するように成形されている。この変曲点57a、57bは、ターン部52のスロット収容部51に隣接する段部55の周方向中間部に設けられている。即ち、変曲点57a、57bは、段部55の両端の、屈曲加工により硬化した屈曲加工近傍部を回避した位置に設定されている。これにより、ターン部52を円弧形状に成形する成形加工を施す際に、ターン部52を目的の円弧形状に容易に成形することができるとともに、スプリングバックの発生を小さく抑制することができるので、スロット収容部51の捩れ発生が抑制される。
本実施形態の場合、変曲点57a、57bよりも固定子コア30の周方向の内側に位置しターン部52の大部分を占める中央部は、クランク部54を除き、一定の曲率の円弧形状に成形されている。即ち、クランク部54の両側の円弧形状部は、同じ曲率で成形されている。変曲点57a、57bよりも固定子コア30の周方向の外側に位置する部分(ターン部52の両端部)は、固定子コア30の周方向にストレートに延びるストレート部58a、58bとされている。このストレート部58a、58bは、固定子コア30の径方向内方側へ向かって変曲点57a、57bで曲げられている。また、本実施形態では、ストレート部58a、58bのストレート長さは、全てのストレート部58a、58bが同等にされている。なお、導線50に設けられている11個のターン部52A〜52Kは、固定子巻線40の内周側に位置するものほど、円弧形状の曲率が徐々に小さくなるようにされている。
固定子巻線40は、図12に示した導線50を48本用いて形成されている。ただし、固定子巻線40に出力線や中性点などを設けるために、渡り部70を設けていない導線50を適宜混在させても良い。したがって、本実施形態では、48本の導線50の全ては、各導線50の両端部に形成された引出し部53a、53bの間において同じ形状に成形されている。
この固定子巻線40を構成する導線50は、ターン部52の略中央部に、ターン部52の径方向厚み分だけ径方向にずれたクランク部54が設けられていることにより、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、固定子コア30の中心軸線からの半径距離が、スロット収容部51の径方向厚み分だけ異なっている。また、導線50は、隣り合うスロット収容部51同士の離間距離Xが、導線50の第1スロット収容部51A側から第12スロット収容部51L側に向かうにつれて、徐々に短くなるようにされており、全ての箇所で実質的に異なっている(図12(B)参照)。これらのことから、固定子巻線40は、径方向に重なり合うスロット収容部51が、周方向に位置ずれすることなく径方向一列にストレートな状態に整列するようになるので、真円筒形状により近い形状にすることができる(図7および図8参照)。
また、導線50のターン部52は、固定子コア30の周方向に沿って延びる円弧形状に成形され、その両端部の2箇所に曲率が変化する変曲点57a、57bを有するように成形されている。そのため、ターン部52を円弧形状に成形加工する際に、スプリングバック発生時の変位量が低減され、スロット収容部51の捩れ発生が抑制されるので、スロット収容部51およびターン部52の整列精度が向上する。これにより、固定子巻線40のコイルエンド部42においては、図15に示すように、固定子コア30の径方向に複数並んだ状態に配置されているターン部52を密な状態に配置することができ、互いに干渉することなくコンパクトに配置することが可能となる。
図15は、固定子巻線40のコイルエンド部42での導線50の配置状態を模式的に示す説明図である。ここでは、コイルエンド部42において固定子コア30の径方向に複数並んだ状態で配置されているターン部52のうち、外層側(最外層)に位置するターン部52Pとそのターン部52Pの内層側に隣接するターン部52Qとの干渉を例にとり説明する。この場合、外層側ターン部52Pと内層側ターン部52Qとの最も干渉し易い干渉ポイントは、本実施形態の固定子巻線40の構造上、外層側ターン部52Pの一端と接続するスロット収容部51Pの内エッジと内層側ターン部52Qの外エッジとなる。
図15において、D:スロット収容部51間の隙間、W:導線の周方向幅、L1:外層側ターン部52Pのストレート部58a、のストレート長さ、L2:内層側ターン部52Qのストレート部58bのストレート長さ、R1:外層側ターン部52Pの内エッジ半径寸法、R2:内層側ターン部52Qの外エッジ半径寸法、R1’:外層側スロット収容部51Pの内エッジ半径寸法、R2’:内層側スロット収容部51Qの外エッジ半径寸法、をそれぞれ示している。
この場合、外層側ターン部52Pと内層側ターン部52Qとの不干渉の成立条件は、R2≦R1’…(式1)となる。但し、R1’=√(R12 −(L1+W/2)2 )…(式2)である。したがって、(式1)を満足するように、W、L1、R1、R2、R1’のそれぞれの値を適宜設定することにより、コイルエンド部42におけるターン部52同士の干渉を回避しつつ、ターン部52の整列精度を向上させることが可能となる。
また、本実施形態では、ストレート部58a、58bのストレート長さL1、L2は、全てのストレート部58a、58bが同等にされている。このように設定されていれば、固定子巻線40の仕様により、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51同士の間に形成される隙間Dが同等となっている場合に、ターン部52の配置をよりコンパクトにすることが可能となる。
この固定子巻線40は、複数の導線の第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士をそれぞれ周方向に連続するスロットに配置するとともに、第1スロット収容部51A同士、第2スロット収容部51B同士、・・・、第12スロット収容部51L同士の固定子コアの中心軸線Oからの半径距離がそれぞれ等しくなるよう配置されているので、固定子巻線40の外径寸法および内径寸法を周方向で均一化することができる。この固定子巻線40は、図16に示すように、それぞれの相が16本の導線50を直列に接続した各相巻線43(U、V、W)をY結線した三相巻線として形成されている。
図17は、本実施形態において各スロットの最外径側に配置される各導線の第1スロット収容部の配置位置を示す説明図である。図17において、各導線50のスロット収容部51は、12個の破線円と放射方向に延びる破線とが交差する位置に配置されており、最外径側と最内径側のみが矩形断面形状で表されている。また、放射方向に1列に並んだスロット収容部51の外側には、それぞれ対応する1〜48のスロット番号が付されている(以後、図18においても同じ)。また、スロット番号の外側には、それぞれのスロットの最外径側(第12層)に、巻回の始端側となる第1スロット収容部51Aが配置される導線の番号が付されている。
各相の巻線を構成する16本の導線50は、8個の同一のスロット31にスロット収容部51が収容される8本の導線50と、それら8個のスロット31とは別の8個の同一のスロット31にスロット収容部51が収容される8本の導線50とに分かれている。例えばU相の場合には、8本の導線(U1−1)〜(U1−4)および(U1−1’)〜(U1−4’)は、外径側から内径側に向かって反時計回りに巻回されて、それぞれのスロット収容部51が、1番スロット、7番スロット、13番スロット、19番スロット、25番スロット、31番スロット、37番スロットおよび43番スロットに収容される。また、他の8本の導線(U2−1)〜(U2−4)および(U2−1’)〜(U2−4’)は、外径側から内径側に向かって反時計回りに巻回されて、それぞれのスロット収容部51が、2番スロット、8番スロット、14番スロット、20番スロット、26番スロット、32番スロット、38番スロットおよび44番スロットに収容される。
なお、図17には、代表として導線(U1−1)の軌跡が示されている。図17において、黒四角で示された部分は導線(U1−1)のスロット収容部51が配置されていることを示し、導線(U1−1)の周方向に延びる太線は、固定子コア30の軸方向一方側(図17の紙面手前側)に位置するターン部52を示し、導線(U1−1)の周方向に延びる二点鎖線は、固定子コア30の軸方向他方側(図17の紙面後側)に位置するターン部52を示す(以後、図18においても同じ)。
この固定子巻線40は、図17に示すように、各スロット31において、8本の導線50のスロット収容部51が径方向に12層、積層された状態になっている。導線(U1−1)は、始端側の第1スロット収容部51Aが1番スロットの最外層(第12層)に位置し、終端側の第12スロット収容部51Lが19番スロットの最内層(第1層)に位置している。
また、固定子巻線40を構成する48本の導線50は、長手方向(周方向)に1スロットピッチずつずれて配置されているので、各導線50の始端側となる第1スロット収容部51Aが、48個の各スロット31の最外層(第12層)に順に収容されている。下記の表1は、1番〜48番の各スロット31において、最外層に位置する導線の番号と、最内層に位置する導線の番号をまとめたものである。
固定子巻線40を構成する導線50は、各導線50の一端側(第1スロット収容部51A側)から他端側(第12スロット収容部51L側)に向かうにつれて、スロット収容部51の固定子コア30の中心軸線Oからの半径距離が順次小さくなっている。本実施形態の場合、各導線50は、ターン部52によって接続されたスロット収容部51同士の固定子コア30の中心軸線Oからの半径方向距離がスロット収容部51の径方向厚み分異なっている。
図18は、固定子巻線40を図17の裏側から見た場合の、1本の導線(U1−4’)の軌跡を示す図である。この導線(U1−4’)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが43番スロットの第12層(最外層)に配置され、第2スロット収容部51Bが1番スロットの第11層に配置され、第3スロット収容部51Cが7番スロットの第10層に配置され、第4スロット収容部51Dが13番スロットの第9層に配置され、最終の第12スロット収容部51Lが13番スロットの第1層(最内層)に配置されている。即ち、導線(U1−4’)は、始端側(外径側)から終端側(内径側)に向かうにつれて、スロット収容部51の固定子コア30の中心軸線Oからの半径距離が順次小さくなっている。
よって、固定子コア30の中心軸線Oから、第1スロット収容部51Aまでの半径距離r43と、第2スロット収容部51Bまでの半径距離r1と、第3スロット収容部51Cまでの半径距離r7と、第4スロット収容部51Dまでの半径距離r13は、順次スロット収容部51の径方向厚み分小さくなっており、以後同様に、第12スロット収容部51Lに至るまで、半径距離が順次スロット収容部51の径方向厚み分小さくなっている。すなわち、第1スロット収容部51Aから第12スロット収容部51Lに至るまで、半径距離が順次小さくなるのみで、途中で半径距離が大きくなることはない。
次に、16本の導線50を直列に接続してなる各相巻線43(U、V、W)のうち、代表としてV相の各相巻線43の接続状態を、図16、図19および上記の表1を参照して説明する。なお、U相、W相の各相巻線もV相と同様の接続となっている。
図16において出力線Vの始端に位置する導線(V1−1)は、表1および図19に示すように、始端側の第1スロット収容部51Aが5番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが23番スロットの最内層(第1層)に配置されている。導線(V1−1)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが17番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが35番スロットの第1層に配置された導線(V1−2)の始端側が接続されている。
導線(V1−2)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが29番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが47番スロットの第1層に配置された導線(V1−3)の始端側が接続されている。導線(V1−3)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが41番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが11番スロットの第1層に配置された導線(V1−4)の始端側が接続されている。導線(V1−4)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが6番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが24番スロットの第1層に配置された導線(V2−1)の始端側が接続されている。
導線(V2−1)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが18番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが36番スロットの第1層に配置された導線(V2−2)の始端側が接続されている。導線(V2−2)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが30番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが48番スロットの第1層に配置された導線(V2−3)の始端側が接続されている。導線(V2−3)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが42番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが12番スロットの第1層に配置された導線(V2−4)の始端側が接続されている。
導線(V2−4)の終端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが48番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが18番スロットの第1層に配置された導線(V2−4’)の終端側が接続されている。導線(V2−4’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが36番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが6番スロットの第1層に配置された導線(V2−3’)の終端側が接続されている。導線(V2−3’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが24番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが42番スロットの第1層に配置された導線(V2−2’)の終端側が接続されている。導線(V2−2’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが12番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが30番スロットの第1層に配置された導線(V2−1’)の終端側が接続されている。
導線(V2−1’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが47番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが17番スロットの第1層に配置された導線(V1−4’)の終端側が接続されている。導線(V1−4’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが35番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが5番スロットの第1層に配置された導線(V1−3’)の終端側が接続されている。導線(V1−3’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが23番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが41番スロットの第1層に配置された導線(V1−2’)の終端側が接続されている。導線(V1−2’)の始端側には、始端側の第1スロット収容部51Aが11番スロットの第12層に配置され、終端側の第12スロット収容部51Lが29番スロットの第1層に配置された導線(V1−1’)の終端側が接続されている。なお、導線(V1−1’)の始端側は、中性点Vに接続されている。
次に、表1、図12および図19を参照して各導線50の接続状態を説明する。ここでは、代表として2本の導線(V1−1)(V1−2)の接続状態を説明する。一方の導線(V1−1)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが5番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側となる第12スロット収容部51Lが23番スロットの最内層(第1層)に配置されている。この導線(V1−1)の終端側に設けられた引出し部53b(内周側端部)は、第12スロット収容部51Lが配置されている23番スロットからターン部52Nの長さ分だけ戻った所(20番スロット付近)に位置している。
そして、他方の導線(V1−2)は、始端側となる第1スロット収容部51Aが17番スロットの最外層(第12層)に配置され、終端側となる第12スロット収容部51Lが35番スロットの最内層(第1層)に配置されている。この導線(V1−2)の始端側に設けられた引出し部53a(外周側端部)は、第1スロット収容部51Aが配置されている17番スロットからターン部52Mの長さ分だけ戻った所(20番スロット付近)に位置している。図7〜図10に示すように、この導線(V1−1)の引出し部53b(内周側端部)は、径方向外方側へ略直角に折り曲げられた後、その先端が、固定子巻線40の外周端部に位置する導線(V1−2)の引出し部53a(外周側端部)の先端部に溶接接合されることにより接続されている。
この溶接接合は、固定子巻線40の最も外径側に位置するターン部52よりも外径側において溶接により接続されている。この場合、導線(V1−1)の引出し部53b(内周側端部)の折り曲げ部は、固定子巻線40の軸方向端面(ターン部52の軸方向外面)上を通る渡り部70を形成しており、2本の導線(V1−1)(V1−2)は、渡り部70を介して接続されている。これにより、内径側に位置するス第12ロット収容部51Lの径方向内方への膨出をより効果的に防止することができるので、内径側に位置する回転子との干渉を回避することが可能となる。
なお、渡り部70は、図3および図9に示すように、渡り部70の径方向両端部が、固定子コア30(固定子巻線40)の中心軸線Oから放射方向に延びる直線に沿って延びるように形成されている。渡り部70の形状をこのようにすることによって、導線の折り曲げを容易にするとともに、溶接接合を容易にすることができる。
また、この渡り部70は、図3および図9に示すように、固定子巻線40の軸方向端面上において、周方向に略3/4周する範囲の領域に設けられている。そして、固定子巻線40の軸方向端面上の残り1/4周する範囲の領域には、中性点V、出力線W、中性点U、出力線V、中性点Wおよび出力線Uの引出し部が順番に並んで設けられている。即ち、固定子巻線40の軸方向端面において、中性点U、V、Wの引出し部と同じ領域に出力線U、V、Wの引出し部が設けられているとともに、渡り部70が設けられる領域と中性点U、V、Wおよび出力線U、V、Wの引出し部が設けられる領域が分離されている。
上記のように構成された固定子巻線40は、外周側から分割コア32のティース部33が挿入されることによって固定子コア30と組み付けられている(図2〜図4参照)。これにより、固定子巻線40を構成する導線50は、固定子コア30の内周側で周方向に沿って波巻きされた状態に組み付けられている。導線50のターン部52によって接続されたスロット収容部51同士は、所定のスロットピッチ(本実施形態では、3相×2個=6スロットピッチ)だけ離間したスロット31に収容されている。隣り合うスロット収容部51同士を接続するターン部52は、固定子コア30の軸方向の両端面からそれぞれ突出しており、その突出しているターン部52の集合体によりコイルエンド部42が形成されている。
次に、上記のように構成された本実施形態の固定子20の製造方法について説明する。本実施形態の固定子20の製造方法は、図20に示すように、導線形成工程101と、成形工程102と、固定子巻線形成工程103と、コア組付工程104とからなる。
最初の導線形成工程101では、図21および図22に示すように、治具を用いて、線材50aに対して、スロット31に収容されるスロット収容部51と、周方向に異なるスロット31に収容されるスロット収容部51同士を接続するターン部52とを形成し、図12に示す導線50を作製する。ここで用いられる治具は、線材50aの幅に相当する距離を隔てて対向配置された第1および第2固定治具81、82と、支軸83aに回転可能に取着され、第1および第2固定治具81、82の間に挟持された線材50aを第1固定治具81側へ屈曲させる回転治具83とを備えている。第1固定治具81は、線材50aが屈曲される際に屈曲部が当接する略直角のコーナ部81aを有する。コーナ部81aは、所定の大きさのアール形状とされている。
この治具により、ターン部52を形成するには、図22(A)に示すように、第1および第2固定治具81、82の間に、線材50aのスロット収容部51となる部分を挟持させて、支軸83aを中心にして回転治具83を第1固定治具81側へ回転させる。なお、第1固定治具81と第2固定治具82の対向方向は、固定子コア30の周方向に相当する(図21参照)。これにより、図22(B)に示すように、回転治具83が線材50aを第1固定治具81のコーナ部81aに押し付け、コーナ部81aのアール形状に沿って屈曲させる。
これにより、スロット31から突出するターン部52の突出箇所(スロット収容部51の延長線上の部位)が、スロット収容部51に対して略直角に屈曲され、ターン部52の突出箇所に、固定子コア30の端面に沿った段部55が形成される。
また、上記の治具を上記と同様に操作して、各ターン部52に、固定子コア30の端面と平行な段部56からなる階段部を形成する。
次の成形工程102では、導線形成工程101で作製した導線50の各ターン部52に対し成形加工を施して塑性変形させることにより、導線50を渦巻き状に巻回して巻回体とする。本実施形態では、図23に示すように、導線50が周方向に略1周半する渦巻き状に成形される。
成形工程102は、図24に示すように、ターン部52の円弧形状内周面に当接する押圧面92を有するダイ91と、ターン部52の円弧形状外周面に当接する押圧面96を有するパンチ95とを備えた成形装置を用いて行われる。なお、図24は、導線50の一端側から第1番目にあるターン部52Aを円弧形状に成形加工する状態を示している。この場合、ダイ91の押圧面92には、ターン部52Aの両端部とそれぞれ対応する所定位置に、円弧形状の曲率が変化する変曲点93a、93bが設けられている。また、パンチ95の押圧面96には、変曲点93a、93bとそれぞれ対向する所定位置に、円弧形状の曲率が変化する変曲点97a、97bが設けられている。なお、ダイ91の押圧面92およびパンチ95の押圧面96の略中央部は、ターン部52Aの略中央部に設けられたクランク部54のクランク形状と符合する形状に形成されている。
そして、ダイ91の押圧面92とパンチ95の押圧面96との間に配置されたターン部52Aを、ダイ91とパンチ95で両側から押圧することにより、円弧形状に塑性変形させる。これにより、ターン部52Aは、その両端部に曲率が変化する変曲点57a、57bを有する円弧形状に成形される。即ち、スロット収容部51Aと接続するターン部52Aの一端部には、スロット収容部51Aから変曲点57aまでストレートに延びるストレート部58aが形成されるとともに、スロット収容部51Bと接続するターン部52Aの他端部には、スロット収容部51Bから変曲点57bまでストレートに延びるストレート部58bが形成される。両ストレート部58a、58bのストレート長さは、同等にされている。また、両ストレート部58a、58bは、固定子コア30の径方向内方側へ向けて変曲点57a、57bで曲げられた状態に形成されている。
このようにターン部52Aを所定の円弧形状に成形する成形加工が終了した後、ターン部52Aに施された成形加工と同様の成形加工を、ターン部52Bからターン部52Kまで順に施す。但し、導線50の11個のターン部52A〜52Kは、固定子巻線40の内周側に位置するものほど、即ち、ターン部52K側に向かうほど、円弧形状の曲率が徐々に小さくなるように成形する。そして、ターン部52Mは、ターン部52Aの半部分と同様の円弧形状に成形し、片方の端部にストレート部58aを有するようにする。また、ターン部52Nは、ターン部52Kの半部分と同様の円弧形状に成形し、片方の端部にストレート部58bを有するようにする。このようにして、全てのターン部52A〜K、M、Nを所定の円弧形状に成形加工することにより、図23に示すように、導線50が周方向に略1周半する渦巻き状に巻回された巻回体が得られる。
この巻回体は、ターン部52A〜K、M、Nに設けられたストレート部58a、58bが、固定子コア30の径方向内方側へ向けて変曲点57a、57bで曲げられた状態に形成されている。そのため、例えば図25に示すように、一端がターン部52Aと接続し、他端がターン部52Bと接続したスロット収容部51Bは、スプリングバック発生時における一端部の戻り方向と他端部の戻り方向とのなすずれ角度を小さくすることができるので、スロット収容部51Bの捩れ発生がより確実に抑制されている。
なお、本実施形態では、固定子巻線40の仕様により、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51同士の間に形成される隙間が同等となっていることから、ターン部52A〜K、M、Nに設けられたストレート部58a、58bは、ストレート長さが全て同等にされている。
次の固定子巻線形成工程103では、成形工程102で渦巻き状に成形された48本の導線50を互いに軸方向に相対移動させて組み付け、円筒状の固定子巻線40を形成する。この工程での導線50の組付けは、例えば図26に示すように、複数の導線50を所定の状態に組み付けてなる1つの導線集合体50bに対して1本の導線50を軸方向に相対移動させることにより行う。この場合、導線50および導線集合体50bは、弾性変形範囲内において径方向に変形させた状態にされており、それらを軸方向に相対移動させる際に、導線50の干渉が少なくなるようにして軸方向への相対移動がより円滑且つ容易になるようにされている。
以上のようにして48本の導線50の組付けを行った後、所定の導線50の引出し部53a、53bを溶接で接続することにより、図7〜図10に示す固定子巻線40が得られる。この固定子巻線40は、48本の導線50を互いに軸方向に相対移動させることにより組み付けられているので、スロット収容部51の位置ずれや固定子巻線40の形くずれ等の発生が回避されている。
次のコア組付工程104では、固定子巻線形成工程103で形成された固定子巻線40と固定子コア30との組付けを行う。この場合、円筒状に形成された固定子巻線40に対して、所定数の分割コア32のティース部33を外周側から挿入して円環状に組み付け、その外周側に外筒37を嵌合固定することで、図2〜図4に示す固定子20が完成する。
以上のように、本実施形態の固定子20によれば、固定子巻線40を構成する導線50のターン部52は、固定子コア30の周方向に沿って延びる円弧形状に成形され、その両方の端部に曲率が変化する変曲点57a、57bを有する。そのため、導線50のターン部52を円弧形状に成形加工する際に、変曲点57a、57bを有することによって目的とする加工形状(円弧形状)に成形し易くなり、スプリングバック発生時の変位量を低減することが可能となる。これにより、導線50のスロット収容部51の捩れ発生を抑制することができるので、固定子巻線40を構成する導線50のスロット収容部51の整列精度を向上させ、占積率の低下や損失悪化を回避することができる。また、ターン部52の整列精度を向上させてターン部52を密な状態に配置することができるため、固定子巻線40の大型化を回避することができる。
また、ターン部52は、変曲点57a、57bよりも固定子コア30の周方向の外側に位置する部分(ストレート部58a、58b)が固定子コア30の径方向の内方側へ向けて変曲点57a、57bで曲げられている。これにより、変曲点57a、57bよりも固定子コア30の周方向の外側に位置するストレート部58a、58bと接続するスロット収容部51も、固定子コア30の径方向の内方側へ変位した状態にすることができる。そのため、スプリングバック発生時におけるスロット収容部51の一端部の戻り方向と他端部の戻り方向とのなすずれ角度を小さくすることができるので、スロット収容部51の捩れ発生をより確実に抑制することができる。
さらに、ターン部52は、スロット収容部51と接続する両方の端部にストレート部58a、58bを有する。これにより、ターン部52を円弧形状に成形する成形加工を施す際に、屈曲加工されて硬化しているターン部52とスロット収容部51との接続部近傍部に対して、円弧形状の成形加工を施さないようにされている。そのため、ターン部52を目的の円弧形状に成形し易くなり、且つスプリングバックの発生を小さく抑制することができる。
また、各ターン部52に設けられたストレート部58a、58bは、ストレート長さが同等にされている。これにより、固定子巻線40の仕様により、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51同士の間に形成される隙間が同等となっている場合に、それらのスロット収容部51と接続して固定子コア30の径方向に並んだ状態で配置されている複数のターン部52を、互いに干渉することなく整列させた状態に配置することができる。そのため、固定子巻線40のコイルエンド部42においてターン部52をコンパクトに配置することができるので、コイルエンド部42の外径をより小さくすることができる。
そして、本実施形態では、ターン部52は、固定子コア30の軸方向端面と平行な複数の段部55、56を有する階段状に形成されていることから、固定子コア30の端面30aから外方に突出したターン部52の突出高さを低くすることができる。
また、ターン部52を円弧形状に成形する際に設定される変曲点57a、57bは、スロット収容部51に隣接する段部55の周方向中間部に設定されている。そのため、段部55の両端部の屈曲加工により硬化した部位を回避した位置に変曲点57a、57bを設定することができる。これにより、ターン部52を円弧形状に成形する成形加工を施す際に、ターン部52を目的の円弧形状に容易に成形することができ、且つスプリングバックの発生を小さく抑制することができる。
そして、本実施形態の固定子20の製造方法によれば、固定子巻線40を構成する導線50の整列精度を向上させて、占積率の低下や損失悪化を回避し得るとともに、固定子巻線40の大型化をも回避し得るようにした固定子20を容易に製造することができる。
なお、本実施形態では、変曲点57a、57bおよびストレート部58a、58bは、ターン部52の両方の端部に設けられていたが、固定子巻線40の仕様等により、ターン部52の何れか一方の端部にのみ設けるようにしてもよい。
〔実施形態2〕
実施形態2に係る回転電機の固定子について図27を参照して説明する。なお、実施形態2においては、上記実施形態1で説明した構成要素と同一または同等の構成要素には同一符号を付して、その説明を省略または簡略化する。
図27は、実施形態2における固定子巻線40のコイルエンド部42での導線50の配置状態を模式的に示す説明図である。実施形態2の固定子20では、図27に示すように、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51とそれぞれ接続して固定子コア30の径方向に並んだ状態で配置されている複数のターン部52は、固定子コア30の周方向に沿って延びる円弧形状に成形され、その両方の端部に変曲点57a、57bおよびストレート部58a、58bが設けられている点で、実施形態1と同じである。
しかし、実施形態1では、図15に示すように、ストレート部58a、58bのストレート長さL1、L2が同等にされていたのに対して、実施形態2では、ストレート部58a、58bのストレート長さL1、L2が、固定子コア30の径方向の外方側から内方側に向かうにつれて長くされている点で、実施形態1と異なる。
また、実施形態1の固定子巻線40は、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51同士の間に形成される隙間Dが同等となる仕様であるのに対して、実施形態2の固定子巻線40は、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51同士の間に形成される隙間Dが、固定子コア30の径方向の外方側から内方側に向かうにつれて広くなる仕様になっている点で、実施形態1と異なる。
そのため、実施形態2の固定子20によれば、ターン部52に設けられるストレート部58a、58bのストレート長さL1、L2を、固定子コア30の径方向の外方側から内方側に向かうにつれて長くなるようにすることで、複数のターン部52を互いに干渉することなく整列させた状態に配置することができる。これにより、固定子巻線40のコイルエンド部42においてターン部52をコンパクトに配置することができるので、コイルエンド部42の外径をより小さくすることが可能となる。
なお、実施形態2において、ターン部52を互いに干渉することなく整列させた状態でコンパクトに配置するためには、実施形態1の場合と同様に、前記の(式1)を満足するように、W、L1、R1、R2、R1’のそれぞれの値を適宜設定すればよい。
また、実施形態2の固定子20は、ターン部52の両方の端部に変曲点57a、57bおよびストレート部58a、58bが設けられていることにより、実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。
〔実施形態3〕
実施形態3に係る回転電機の固定子について図28を参照して説明する。なお、実施形態3においては、上記実施形態1で説明した構成要素と同一または同等の構成要素には同一符号を付して、その説明を省略または簡略化する。
図28は、実施形態3における固定子巻線40のコイルエンド部42での導線50の配置状態を模式的に示す説明図である。実施形態3の固定子20では、図28に示すように、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51とそれぞれ接続して固定子コア30の径方向に並んだ状態で配置されている複数のターン部52は、固定子コア30の周方向に沿って延びる円弧形状に成形され、その両方の端部に変曲点57a、57bおよびストレート部58a、58bが設けられている点で、実施形態1(図15参照)と同じである。
しかし、実施形態1では、図15に示すように、ストレート部58a、58bのストレート長さL1、L2が同等にされていたのに対して、実施形態3では、ストレート部58a、58bのストレート長さL1、L2が、固定子コア30の径方向の内方側から外方側に向かうにつれて長くされている点で、実施形態1と異なる。
また、実施形態1の固定子巻線40は、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51同士の間に形成される隙間Dが同等となる仕様であるのに対して、実施形態3の固定子巻線40は、同一のスロット31に収容された複数のスロット収容部51同士の間に形成される隙間Dが、固定子コア30の径方向の内方側から外方側に向かうにつれて広くなる仕様になっている点で、実施形態1と異なる。
そのため、実施形態3の固定子20によれば、ターン部52に設けられるストレート部58a、58bのストレート長さL1、L2を、固定子コア30の径方向の内方側から外方側に向かうにつれて長くなるようにすることで、複数のターン部52が互いに干渉することなく整列した状態に配置することができる。これにより、固定子巻線40のコイルエンド部42においてターン部52をコンパクトに配置することができるので、コイルエンド部42の外径をより小さくすることが可能となる。
なお、実施形態3において、ターン部52を互いに干渉することなく整列させた状態でコンパクトに配置するためには、実施形態1の場合と同様に、前記の(式1)を満足するように、W、L1、R1、R2、R1’のそれぞれの値を適宜設定すればよい。
また、実施形態3の固定子20は、ターン部52の両方の端部に変曲点57a、57bおよびストレート部58a、58bが設けられていることにより、実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。