しかしながら、例えば特許文献1、2のHMDでは、HMDの装着のずれ防止用にイヤパッドが設けられているため、装着が煩雑で装着時のユーザの負担感が大きいという課題がある。このような課題を解決するために、弾性部材によりユーザの後頭部を左右から挟み込んでHMDを装着する手法も考えられるが、この手法だけでは、ユーザが頭を上下に振った場合に、装着状態にずれが生じ、接眼窓の安定保持を実現できない。また特許文献3は、HMDではなくヘッドホーン装置の従来技術であるため、接眼窓の安定保持などの課題自体が存在しない。
本発明の幾つかの態様によれば、主要な電子部品を内蔵させながら接眼窓の安定保持等を実現できるヘッドマウントディスプレイ等を提供できる。
本発明の一態様は、ユーザの右耳及び左耳の一方の耳の付け根により支持される第1の被支持部分を有し、前記ユーザの頭部を左右から挟み込むように前記ユーザの後頭部に沿って装着される装着部と、前記装着部の前記第1の被支持部分側である一端側から前記ユーザの一方の側頭部に沿って前方側に延在形成され、延在形成された前方側の一端に、前記ユーザの右眼及び左眼の一方の眼に対向する接眼窓が設けられるアーム部とを含み、前記接眼窓の表示画像を生成する表示部の駆動装置を少なくとも有する電子部品が、前記アーム部の筺体内部に設けられるヘッドマウントディスプレイに関係する。
本発明の一態様によれば、装着部の第1の被支持部分がユーザの一方の耳の付け根により支持されて、ユーザの頭部を左右から挟み込むようにユーザの後頭部に沿って装着部が装着される。また、装着部の第1の被支持部分側である一端側から前方側に延在形成されたアーム部の一端には、ユーザの一方の眼に対向する接眼窓が設けられる。
そして本発明の一態様では、表示部の駆動装置などの電子部品が、アーム部の筐体内部に設けられる。このようにすれば、装着部の一端から前方側に延在形成されて、その長さを確保できるアーム部を有効利用して、その内部に電子部品を実装することが可能になる。従って、例えばコンパクトなフォルムのヘッドマウントディスプレイに、主要な多くの電子部品を内蔵させることが可能になる。また電子部品をアーム部に内蔵させることで、例えば重心の水平方向の位置を前方側に設定することなどが可能になり、接眼窓の安定保持等を実現できるようになる。
また本発明の一態様では、前記アーム部は、前記装着部側の第1の筐体と前記接眼窓側の第2の筐体を有し、前記電子部品は、前記第1の筐体の内部に設けられ、前記表示部からの表示画像光を前記接眼窓に導光する光学部品は、前記第2の筐体の内部に設けられてもよい。
このようにすれば、第1の筐体に電子部品を内蔵させ、電子部品の1つである駆動装置が表示部を駆動することで、表示部に表示画像を表示させ、その表示画像光を、第2の筐体に設けられる光学部品を介して接眼窓に導光することなどが可能になる。
また本発明の一態様では、前記第1の筐体は、前記アーム部のうち、前記一方の側頭部に沿った部分に設けられ、前記第2の筐体は、前記アーム部のうち、前記第1の筐体の一端から前記接眼窓に至る部分に設けられてもよい。
このようにすれば、アーム部の各部分の形状に合わせた効率的な電子部品及び光学部品の部品配置を実現できる。
また本発明の一態様では、前記第1の筐体の内部には、前記電子部品が実装される回路基板が設けられ、前記回路基板は、その面の方向が前記一方の側頭部に沿った方向になるように、前記第1の筐体の内部に配置されてもよい。
このようにすれば、頭部を上方から見下ろした場合に略直線状になっているユーザの側頭部の横の領域を利用して、アーム部の筐体内部に回路基板を配置できるようになり、回路基板の長さを十分に確保することが可能になる。これにより、より多くの電子部品を回路基板に実装できるようになる。
また本発明の一態様では、前記第1の筐体の位置での前記アーム部の縦断面の形状は、前記回路基板の面の方向に沿った方向を底辺とする三角状の形状であってもよい。
このようにアーム部の縦断面の形状を三角状の形状にすれば、三角状の形状の底辺が一方の側頭部に沿うことでアーム部と側頭部の接触面積が増えるようになり、ヘッドマウントディスプレイの装着安定性の向上等を実現できる。
また本発明の一態様では、前記回路基板には、前記電子部品として無線モジュールが実装され、前記無線モジュールは、前記回路基板において、前記三角状の形状の頂点に対応する位置に実装されてもよい。
このようにすれば、例えば背の高い無線モジュールであっても、三角状の形状の頂点に対応する位置でのスペースを有効利用して、回路基板に実装できるようになる。
また本発明の一態様では、前記アーム部の筺体内部には、前記電子部品が実装される回路基板が設けられ、前記回路基板は、その面の方向が前記一方の側頭部に沿った方向になるように、前記アーム部の筐体内部に配置されてもよい。
このようにすれば、頭部を上方から見下ろした場合に略直線状になっているユーザの側頭部の横の領域を利用して、回路基板を配置し、より多くの電子部品を回路基板に実装できるようになる。
また本発明の一態様では、前記第1の筐体の位置での前記アーム部の縦断面の形状は、前記一方の側頭部に沿った方向を底辺とする三角状の形状であってもよい。
このようにアーム部の縦断面の形状を三角状の形状にすれば、三角状の形状の底辺が一方の側頭部に沿うことでアーム部と側頭部の接触面積が増えるようになり、ヘッドマウントディスプレイの装着安定性の向上等を実現できる。
また本発明の一態様では、前記アーム部の筐体内部には、前記電子部品として、前記表示部の前記駆動装置と、無線モジュールと、二次電池が設けられてもよい。
このようにすれば、駆動装置、無線モジュール、二次電池などの主要な電子部品を、アーム部に内蔵できるようになり、コンパクトなフォルムのヘッドマウントディスプレイを実現できる。
また本発明の一態様では、前記一方の側頭部側から見て、前記第1の被支持部分から前記装着部の後端部に向かう方向を第1の方向とし、前記第1の被支持部分から前記アーム部の前記接眼窓に向かう方向を第2の方向とした場合に、前記第1の方向と前記第2の方向とのなす角度θが、θ≧145度であってもよい。
このような角度設定にすれば、ユーザが頭を振った場合にも、装着部が後ろの首と干渉しないようになり、接眼窓をユーザの視軸の前方に安定して保持することが可能になる。
また本発明の一態様では、前記角度θが、145度≦θ<220度であってもよい。
このような角度設定にすれば、例えば重心の水平方向の位置が前方側にあった場合にも、ユーザの耳元を中心に接眼窓が下側にずれてしまう事態を抑止できるようになる。
また本発明の一態様では、前記角度θが、145度≦θ<180度であってもよい。
このような角度設定にすれば、例えばヘッドマウントディスプレイの重心の鉛直方向の位置を、第1の被支持部分よりも下方側に設定することが可能になり、装着安定性等を向上できる。
また本発明の一態様では、前記装着部は、前記一方とは異なる他方の耳の付け根により支持される第2の被支持部分を有してもよい。
このようにすれば、一方の耳と他方の耳の両方の耳の付け根により装着部を支持することが可能になり、装着安定性を向上できる。
また本発明の一態様では、前記装着部の前記第2の被支持部分の頭部側側面、前記装着部の前記第1の被支持部分の頭部側側面、及び前記アーム部の前記第1の被支持部分側の頭部側側面の少なくとも1つの側面に、突起部が設けられてもよい。
このような突起部を設けることで、装着部が滑って後頭部側にずれてしまう事態を抑止できる。
また本発明の一態様では、前記装着部の前記第2の被支持部分の頭部側側面に設けられる第1の突起部と、前記装着部の前記第1の被支持部分の頭部側側面又は前記アーム部の前記第1の被支持部分側の頭部側側面に設けられる第2の突起部と、前記装着部の前記第2の突起部の後方側の頭部側側面に設けられる第3の突起部とを有してもよい。
このような第1、第2の突起部を設ければ、装着部が滑って後頭部側にずれてしまう事態を抑止できると共に、ヘッドマウントディスプレイの全体を回転させることで眼幅調整等が可能になる。更に第3の突起部を設けることで、ヘッドマウントディスプレイのピッチ方向でのずれを、より強く規制できるようになる。
また本発明の一態様では、前記装着部の前記第2の被支持部分の頭部側側面に設けられる第1の突起部と、前記装着部の頭部側側面又は前記アーム部の頭部側側面に設けられる第2の突起部と、前記装着部の頭部側側面に設けられる第3の突起部とを有し、前記第2の突起部と前記第3の突起部は、各々、前記第1の被支持部分を挟んで前方側と後方側に設けられていてもよい。
このような第1、第2、第3の突起部を設けることで、ユーザの頭部を確実に押さえることができ、ヘッドマウントディスプレイの全体の前後へのずれを、より強く規制できるようになる。
また本発明の一態様では、前記装着部は、前記ユーザの頭部を左右から挟み込む弾性部材により形成されてもよい。
このようにすれば、装着部を形成する弾性部材による内側方向への附勢力により、ヘッドマウントディスプレイがユーザの頭部に安定して保持されるようになり、接眼窓の安定保持を実現できる。
また本発明の一態様では、ヘッドマウントディスプレイの折りたたみ用の第1の関節部が、前記装着部の一端と他端の中間部に設けられ、ヘッドマウントディスプレイの折りたたみ用の第2の関節部が、前記装着部と前記アーム部の連結部に設けられてもよい。
このような第1、第2の関節部を設ければ、これらの第1、第2の関節部で分離されたそれぞれの部分が、ほぼ同じ長さになり、ヘッドマウントディスプレイをコンパクトな形状に折りたたんで収納することが可能になる。
また本発明の一態様では、前記第2の関節部は、前記第1の関節部が屈曲した状態において、前記第2の関節部から前記第1の関節部へと向かう方向に対して、前記第2の関節部から前記接眼窓へと向かう方向が揃う方向側に、屈曲してもよい。
このようにすれば、ヘッドマウントディスプレイを折りたたんだ状態での収納幅を小さくすることができ、コンパクトな収納が可能になる。
また本発明の一態様では、前記第2の関節部は、前記第1の関節部の屈曲時における前記装着部を含む面に沿って屈曲してもよい。
このようにすれば、ヘッドマウントディスプレイを折りたたんだ状態での高さ方向での幅を小さくすることができ、更にコンパクトな収納が可能になる。
また本発明の一態様では、前記アーム部の一端には、前記一方の眼のプロテクト部が設けられ、前記プロテクト部は、弾性透明部材により形成されると共に、ヘッドマウントディスプレイの装着時において前記一方の眼と前記接眼窓の間に位置するように設けられてもよい。
このようなプロテクト部を設けることで、ユーザの一方の眼を保護できると共に、弾性透明部材のプロテクト部を透過させて表示画像光をユーザの一方の眼に入射させることが可能になる。
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.構成例
図1〜図3に本実施形態のヘッドマウントディスプレイHMD(頭部装着型表示装置、眼鏡型表示装置)の構成例を示す。図1はHMDの斜視図であり、図2は右方側からHMDを見た右側面図であり、図3は後方側からHMDを見た背面図である。この本実施形態のHMDは装着部10とアーム部20を含む。
装着部10は、HMDの全体をユーザの頭部に保持するための部材であり、ユーザの後頭部に沿って装着される。具体的には装着部10は、その外形は湾曲した棒状であり、その装着時に、ユーザの一方の耳の上から後頭部を通り、他方の耳の上へまたがって、ユーザの頭部を左右から挟み込む。
装着部10は、第1の被支持部分11を有する。第1の被支持部分11は、ユーザの右耳及び左耳の一方の耳の付け根(例えば耳の付け根の上部)により支持される部分である。装着部10は更に望ましくは第2の被支持部分12を有する。第2の被支持部分12は、上述の一方とは異なる他方の耳の付け根(例えば耳の付け根の上部)により支持される部分である。図1〜図3の例では、第1の被支持部分11がユーザの右耳により支持され、第2の被支持部分12が左耳により支持される。なお、接眼窓22がユーザの左眼の前方に位置する場合には、第1の被支持部分11が左耳により支持され、第2の被支持部分12がユーザの右耳により支持されることになる。また、装着部10による内側方向への附勢力によりHMDが安定して支持される場合等には、装着部10に第2の被支持部分12を設けない構成も可能である。
装着部10(保持部)は、ユーザの頭部(耳の部分等)を左右から挟み込むようにユーザの後頭部に沿って装着される。具体的には、装着部10は、例えば半円環形状であり、ユーザの頭部を左右から挟み込む弾性部材(バネ性を有する金属部材又は樹脂部材)により形成される。即ち装着部10は形状の径の拡縮方向にバネ性を有する。この弾性部材による内側方向(半径方向)への附勢力により、ユーザの頭部にHMDが固定されて装着されるようになる。なお半円環形状は、真円の半円形状である必要はなく、楕円形状など頭部に沿って装着できる形状であればどのような形状でもよく、略半円形状であってもよい。
アーム部20は、電子部品、光学部品、接眼窓22、プロテクト部24等を保持するためのアーム形状の部材であり、このアーム部20も外形は棒状の形状になっている。具体的には、アーム部20には、後述するように、表示部の駆動装置、無線モジュール、ビデオコンバータ、表示部などの電子部品や、接眼光学系などの光学部品が内蔵されている。またアーム部20の先端には、表示画像光(映像光)を射出する接眼窓22やプロテクト部24が設けられている。
アーム部20は、装着部10の第1の被支持部分11側である一端側(JT2の位置)から、ユーザの一方の側頭部に沿って前方側に延在形成される。図1〜図3の例ではユーザの右側頭部に沿うように延在形成されている。そして延在形成されたアーム部20の前方側(装着時における前方側)の一端に、ユーザの右眼及び左眼の一方の眼に対向する接眼窓22(表示窓)が設けられる。図1〜図3の例では、ユーザの右眼に対向するように接眼窓22が設けられている。但し、接眼窓22は、ユーザの左眼に対向するものであってもよい。
具体的にはアーム部20は、装着部10の一端に連結し、主要な電子部品(電装系部品)や、接眼光学系の一部又は全部を内蔵し、その先端に接眼窓22を有する。そして、装着時に、アーム部20は、右又は左の耳元から側頭部に沿って前方に伸びるように形成され、接眼窓22は、ユーザの眼球の視軸をよぎるように位置している。更に具体的には、後述するようにアーム部20の筺体内部には、電子部品が実装される回路基板が設けられる。そして、この回路基板は、その面の方向(面に沿った方向)がユーザの一方の側頭部(例えば右側頭部)に沿った方向になるように配置される。またアーム部20の縦断面の形状は、例えばユーザの一方の側頭部に沿った方向を底辺とする三角状の形状になっている。
また図1〜図3のHMDでは、HMDの折りたたみ用の第1の関節部JT1と第2の関節部JT2が設けられている。第1の関節部JT1は、装着部10の一端(第1の被支持部分11側)と他端(第2の被支持部分12側)の中間部(例えば中央部)に設けられる。一方、第2の関節部JT2は、装着部10とアーム部20の連結部に設けられる。これらの第1、第2の関節部JT1、JT2は、図示しない公知の関節機構により屈曲自在になっている。
このように、第1の関節部JT1を装着部10の中間に設け、第2の関節部JT2を、装着部10とアーム部20の連結部に設ければ、装着部10の端部からJT1までの長さと、JT1からJT2までの長さと、JT2からアーム部20の先端までの長さを、ほぼ同じ長さにすることが可能になる。従って、第1、第2の関節部JT1、JT2で折りたたむことで、HMDのコンパクトな収納が可能になる。
図4は、HMDを折りたたんだ状態を示す平面図である。第1、第2の関節部JT1、JT2が屈曲することで、図4のような折りたたみ状態になる。例えば第1の関節部JT1は、装着部10の第1の部分13と第2の部分14が接近する方向である内側方向に屈曲する。また第2の関節部JT2も、装着部10(13、14)とアーム部20が接近する方向である内側方向に屈曲する。
更に具体的には第2の関節部JT2は、第1の関節部JT1が屈曲した状態(内側方向に屈曲した状態)において、第2の関節部JT2から第1の関節部JT1へと向かう方向に対して、第2の関節部JT2から接眼窓22へと向かう方向が揃う方向であるDR1方向側に屈曲する。即ち第2の関節部JT2は、JT2からJT1への方向とJT2から接眼窓22への方向が同じ方向に近づくように、DR1方向側に屈曲する。こうすることで、HMDの折りたたみ時において、図4の幅WDを小さくすることができ、コンパクトな収納が可能になる。
また第2の関節部JT2は、第1の関節部JT1の屈曲時における装着部10を含む面に沿って屈曲する。即ち装着部10の第1、第2の部分13、14を含む面に沿って屈曲する。つまり第2の関節部JT2は、図4の紙面に平行な方向で屈曲する。こうすることで、HMDの折りたたみ時において、図4の紙面に垂直な高さ方向での幅を小さくすることができ、更にコンパクトな収納が可能になる。
なお図1ではHMDに第1、第2の関節部JT1、JT2を設けているが、このような関節部を設けない変形実施も可能であり、例えば装着部10とアーム部20を一体形成するようにしてもよい。また3つ以上の関節部を設ける変形実施も可能である。
また図1〜図3のHMDには、ユーザの眼を保護するためのプロテクト部24が設けられている。具体的には、ユーザの一方の眼(例えば右眼)を保護するプロテクト部24が、アーム部20の一端(接眼窓22側)に設けられており、アーム部20の先端がユーザの眼に直接的に接触してしまう事態を防止している。
このプロテクト部24は、例えば弾性透明部材(弾性透過部材)により形成されており、例えば平板形状になっている。そして図3に示すように、HMDの装着時においてユーザの一方の眼(例えば右眼)と接眼窓22の間に位置するように、プロテクト部24が設けられる。即ち、接眼窓22からの表示画像光が透明なプロテクト部24を透過してユーザの一方の眼に入射される位置に、プロテクト部24が設けられている。
プロテクト部24は、エラストマー(透明柔軟性ポリマー)などの弾性透明部材により形成される。従って、外力による割れが生じにくく、肉厚を薄くできると共に、その縁が眼を傷つけるような事態が生じにくい。また、このようなプロテクト部24は、軽量且つ安全であり、接眼窓22を汚さないという利点もある。更にプロテクト部24は、ユーザの眼に対向する面等が平坦面でるため、清掃が容易であり、収納時の破損のおそれが少ないという利点もある。
ところで、HMDに求められる理想的装着機能と装着性能は以下の事項である。
第1に、ユーザが頭を上下左右に振っても接眼窓が視軸の前方に安定して保持されること。第2に、デザインが美しいこと。第3に、収納時にコンパクトであること。第4に、付け外しが容易で持ち運びが楽であること。第5に、顔の形状(眼幅、眼の高さ)の個人差に応じて接眼窓の位置調整(アライメント)が可能であること。第6に、眼鏡の上からでも装着可能であること、第7に、簡素な構成で堅牢であること。第8に防塵・防水設計が容易であること。
この点、本実施形態のHMDによれば、後に詳述するように、ユーザが頭を上下左右に振っても接眼窓22をユーザの視軸の前方に安定して保持することができる。また図1〜図3に示すように、そのデザインが美しく、図4に示すように、コンパクトな収納が可能である。また本実施形態のHMDは、付け外しが容易であり、持ち運びも楽であるという利点がある。即ち図5に示すように、HMDを首に掛けて持ち運ぶことができ、ユーザが使いたいと思うときに直ぐに使うことが可能である。また、後に詳述するように、顔の形状(眼幅、眼の高さ)の個人差に応じて接眼窓の位置の調整(アライメント)が可能である。また本実施形態のHMDは、眼鏡の上からでも装着が可能であり、簡素な構成で堅牢である。更に防塵・防水設計も容易である。即ち図1〜図3に示すように、HMDの装着部10、アーム部20は、滑らかな面で一体的に形成されており、連結部分は第1、第2の関節部JT1、JT2だけになる。従って、堅牢であり、防塵・防水設計も容易になる。例えば、後述するように関節部JT2に配線等を通す必要がないため、防塵・防水設計を容易化できる。
更に本実施形態のHMDでは装着部10が半円環状になっている。このため、円環の中心軸を回転軸に任意の位置でユーザの頭部に取り付けることができ、顔を正面から見て接眼光学系(接眼窓)の位置を左右にアライメントすることが可能になる。
また本実施形態のHMDは、片方の耳からもう片方の耳へと後頭部を通って装着部10がまたがるように装着される。従って、装着部10の上下規定位置が2つの支点で支えられており、この支点を通る軸を回転軸に任意の位置でHMDを頭部に取り付けることができる。これにより顔を正面から見て接眼光学系を上下にアライメントすることが可能になる。
またアーム部20は、全体としてアーム形状になっており、ユーザの耳元から眼の正面又は側面まで伸びる形状になっている。従って、アーム部20は、細型筐体ではあるが、その長さを十分に取れるため、電子部品(電装系)の収容容積を確保できると共に光学部品も収納できる。そして、装置全体のフォルムが美しく、接眼窓22をユーザの眼の瞳の直前に保持することが可能になる。
また、半円環状の装着部10の中央付近に第1の関節部JT1を設け、装着部10とアーム部20の連結部に第2の関節部JT2を設けることで、HMDの装置全体を2つの関節部JT1、JT2を用い略均等に3等分することが可能になる。従って、折りたたんだ時の寸法をコンパクトにすることができ、コンパクトな収納が可能になる。また装着部10とアーム部20の連結部に第2の関節部JT2を設けることで、電子部品の筐体に関節部がかからないようになる。従って、伝送系をリジッドな回路基板(電子基板)で構成できる。即ち、関節部JT2に電子部品の配線が通る構造であると、フレキシブルケーブルでの結線が必要になり、断線を避けるために屈曲Rを大きくしなければならなくなり、関節部分の形状が大きくなってしまうという問題がある。また、ケーブルを筐体に引き込む開口の披露で防塵・防水対策が困難になるという問題もある。本実施形態のHMDによればこのような問題を解消できる。
また本実施形態のHMDによれば、装着部10の一端にアーム部20が取り付けられ、アーム部20の先端部に接眼窓22が設けられている。従って、全体フォルムとして閉ループではなくなり、その切れ目を使って図5に示すように首にかけたり外したりすることが容易になる。
以上のように本実施形態のHMDによれば、HMDに求められる理想的装着機能と装着性能を実現できる。
2.電子部品等の実装
本実施形態のHMDでは、アーム部20の内部に電子部品や光学部品を実装している。例えば図6(A)に示すように、接眼窓22の表示画像を生成する表示部32(OLED、LCD等)の駆動装置35を少なくとも有する電子部品が、アーム部20の筺体内部に設けられる。具体的には、アーム部20の筐体内部には、主要な電子部品として、例えば表示部32の駆動装置35や無線モジュール38や二次電池42などが設けられる。なお、これらの全ての電子部品を実装する必要はなく、その構成要素の一部を省略してもよい。
例えば、アーム部20は、装着部10側の第1の筐体30と、接眼窓22側の第2の筐体50を有する。これらの第1、第2の筐体30、50は中空のケース状の領域になっており、表示部32(表示素子)の駆動装置35(表示ドライバ)等の電子部品は、第1の筐体30の内部に設けられる。一方、表示部32からの表示画像光を接眼窓22に導光する光学部品52(導光部)は、第2の筐体50の内部に設けられる。
ここで、第1の筐体30は、アーム部20のうち、ユーザの一方の側頭部(図8(A)では右側頭部)に沿った部分に設けられる。即ち、図8(A)のA1に示す方向に沿った部分に第1の筐体30が設けられる。例えば後述の図14(A)のH3に示すように、ユーザの側頭部は略直線状になっており、本実施形態では、この略直線状の側頭部に沿って第1の筐体30を設け、この第1の筐体30の内部に電子部品を実装している。このようにすることで電子部品の実装を容易化できる。
一方、第2の筐体50は、アーム部20のうち、第1の筐体30の一端(表示部32の位置)から接眼窓22に至る部分に設けられる。即ち、図6(A)のA2に示す方向に沿った部分に第2の筐体50が設けられる。
このように本実施形態では、頭部を上方から見下ろした場合に略直線状となる側頭部の横のA1に沿った領域に、第1の筐体30を設けて、電子部品の実装を容易化する。一方、第1の筐体30の一端から接眼窓22に至る曲線状のA2に沿った領域に、第2の筐体50を設けて、この第2の筐体50内に、表示部32からの表示画像光を導光する導光部などの光学部品52を設ける。このようにすることでアーム部20の各部分の形状に応じた最適な実装形態で、電子部品や光学部品を配置できるようになる。
第1の筐体30の内部には、電子部品が実装される回路基板31が設けられる。具体的には、この回路基板31には、フレキシブルケーブル33を介して表示部32に接続されるフレキシブルケーブルコネクタ34や、表示部32の駆動装置35や、ビデオコンバータ36や、無線モジュール38や、二次電池42(バッテリー)などが実装されている。
そして図6(A)に示すように、回路基板31は、その面の方向(面に沿った方向)がユーザの一方の側頭部(例えば右側頭部)に沿った方向(A1に示す方向)になるように、第1の筐体30の内部に配置される。例えばユーザがHMDを装着した状態で、鉛直方向に沿った面の方向になるように、回路基板31が第1の筐体30の内部に配置される。このようにすれば、略直線状になっている側頭部の横の領域を有効活用して、平板形状の細長い回路基板31を第1の筐体30内に配置できるようになる。
即ち、回路基板31に多くの電子部品を実装するためには、図6(A)のA1に示す方向での回路基板31の長さを、より長くできることが望ましい。この点、本実施形態では、略直線状になっている側頭部の横の領域にアーム部20の第1の筐体30が位置するようにし、この第1の筐体30内に回路基板31を設けている。従って、A1に示す方向での回路基板31の長さを十分に確保することができ、より多くの電子部品を回路基板31に実装できるようになり、アーム部20の内部スペースの使用効率を向上できる。従って、コンパクトな形状のアーム部20に、より多くの電子部品を実装することが可能になる。
一方、表示部32からの表示画像光を導光する導光部材については、回路基板31のように直線状の領域に設ける必要は特にない。そこで本実施形態では、図6(A)のA2に示す折れ曲がった領域には、第2の筐体50が配置されるようにして、第2の筐体50内に導光部等の光学部品52を設ける。このようにすれば、アーム部20の各部分の形状に合わせた効率的な部品配置を実現できる。
図6(B)は、図6(A)のA−A断面図である。同図に示すように、第1の筐体30の位置でのアーム部20の縦断面の形状は、三角状の形状になっている。具体的には、回路基板31の面の方向に沿ったA3に示す方向を底辺とする三角状の形状になっている。そして、この回路基板31に対して図6(B)に示すように表示部32の駆動装置35や無線モジュール38が実装されている。
この場合に、無線モジュール38は、回路基板31において、三角状の形状のA4に示す頂点に対応する位置に実装される。即ちA4に示す頂点の場所では、A5に示す方向での高さが高くなっている。そして、IC(集積回路装置)により実現される駆動装置については、A5に示す方向での高さはそれほど確保する必要ない。しかし、無線モジュール38は、無線IC以外にも、無線に必要な各種の部品(アンテナ用のインダクタ素子等)が内蔵されるため、A5に示す方向での高さを確保する必要がある。
この点、図6(B)では、三角状の形状のA4に示す頂点に対応する位置に無線モジュール38が実装されるため、背が高い無線モジュール38についても、回路基板31に容易に実装することが可能になる。
また断面を三角状にすることで、横方向から見た時のHMDのデザインフォルムも美しくできる。またHMDの装着時に図6(B)のA3に示す平面が側頭部に沿うようになるため、アーム部20と側頭部の接触面積が増え、HMDの装着安定性も向上できる。なお、三角状の形状は、通常の三角形のように頂点が鋭角である必要はなく、図6(B)のように頂点が曲線状であってもよい。
図7にHMDに内蔵される電子部品の接続構成例を示す。表示部32は、例えば有機ELディスプレイ(OLED)や液晶ディスプレイ(LCD)などである。この表示部32は、例えば複数のデータ線と、複数の走査線と、各走査線と各データ線の交差位置に設けられる画素(表示素子)により構成される。
駆動装置35は、表示部32を駆動するドライバ(有機ELドライバ、LCDドライバ)であり、表示部32のデータ線や走査線を駆動する。具体的にはビデオコンバータ36からの映像データ(画像データ)に基づいてデータ線等を駆動し、これにより表示部32に表示画像が表示される。
ビデオコンバータ36は各種の映像処理(画像データの変換処理)を行うものであり、表示コントローラなどにより実現される。処理部37は、HMDの全体的な制御や各回路ブロックの制御処理などを行うものであり、CPU等の各種プロセッサやASICなどにより実現される。
無線モジュール38は、例えばユーザが所持する携帯型電子機器(情報処理装置)からの映像データ等のデータを無線により受信したり、各種データを携帯型電子機器に無線により送信するモジュールである。HMDには、この携帯型電子機器により生成された映像が表示されるようになる。この無線モジュール38は、無線ICや、インダクタ素子などのアンテナなどを含む。電源回路40は、二次電池42からの電源を受けて、HMDの各回路ブロックに各種電源電圧を供給する。
図8(A)、図8(B)に本実施形態のHMDの変形例を示す。図8(B)は、図8(A)のB−B断面図である。図8(A)のHMDでは、図8(B)に示すようにアーム部20での縦断面の形状が三角状の形状ではなく、扁平断面形状になっている。そして、ユーザのHMDの装着時に、その面の方向が横方向になるようにアーム部20の筐体内部に回路基板31が配置され、この回路基板31上に駆動装置35や無線モジュール38等の電子部品が実装される。
図8(B)の断面形状では、HMDの装着時でのアーム部20の横方向での幅が大きくなってしまうが、図6(B)の三角状の断面形状では、図8(B)に比べて横方向での幅を小さくできるという利点がある。
3.重心位置の設定
本実施形態では、HMDの重心の水平方向の位置を、ユーザの一方の側頭部側から見て、図1〜図3の第1の被支持部分11よりも前方側、或いは第1の被支持部分11(第1の被支持部分付近)に設定することが望ましい。更に好ましくは、HMDの重心の鉛直方向の位置を、ユーザの一方の側頭部側から見て、第1の被支持部分11よりも下方側、或いは第1の被支持部分11(第1の被支持部分付近)に設定する。
例えば図9において、PSは、第1の被支持部分11の位置でありユーザの耳(右耳)の付け根の上部に対応する位置を、ユーザの一方の側頭部側(図9では右側頭部側)から見て投影した位置になる。同様に、PE、PB、PGは、各々、接眼窓22の位置、装着部10の後端部の位置、重心位置を、ユーザの一方の側頭部から見て投影した位置になる。
また図9では、ユーザの一方の側頭部側から見て、第1の被支持部分11(PS)から装着部10の後端部(PB)に向かう方向を第1の方向D1(第1の直線)としている。また第1の被支持部分11(PS)からアーム部20の接眼窓22(PE)に向かう方向を第2の方向D2(第2の直線)としている。そして第1の方向D1と第2の方向D2のなす角度をθとしている。
ここで角度θは、ユーザの耳の付け根の上部と装着部10の後端部(後頭部接触面)を結ぶ直線と、耳の付け根の上部と眼球の中心を結ぶ直線とのなす角度に相当する。その理由は、第1の被支持部分11は耳の付け根に接しており、第1の被支持部分11の位置PSと耳の付け根の位置は同じ位置と見なすことができるからである。また接眼窓の位置PEは、眼球中心を抜ける視軸上にあり、PSと眼球中心を結ぶ直線上にほぼ位置しているからである。また角度θは、第1の方向D1と第2の方向D2のなす角度(図9の劣角であるθと、優角である360度−θ)のうちユーザを基準として下方側の角度である。例えばθ<180度の場合には、第1の方向D1と第2の方向D2のなす角度のうち、θは劣角になり、180度<θ≦220度の場合には、θは優角になる。別の言い方をすれば、図9のようにユーザの右眼の前方に接眼窓22が設けられる場合には、角度θは、右側頭部側から見て、第1の方向D1から第2の方向D2へ反時計回りに測った角度になる。一方、ユーザの左眼の前方に接眼窓22が設けられる場合には、角度θは、左側頭部側から見て、第1の方向D1から第2の方向D2へ時計回りに測った角度になる。
そして図9に示すように本実施形態では、HMDの重心PGの水平方向の位置が、ユーザの一方の側頭部側(右側頭部側)から見て、第1の被支持部分11の位置PSよりも前方側(或いは第1の被支持部分11の位置)に設定される。即ちユーザの耳元よりも前方側(或いは耳元付近)に重心PGの水平方向の位置が設定される。例えば、重量が重い電子部品や光学部品をアーム部20に内蔵させることで、HMDの重心PGの水平方向の位置を第1の被支持部分11よりも前方側に設定できる。
例えば図9のように水平方向DHRに沿った軸をX軸とすると、重心PGの水平方向の位置はPGのX座標になる。従って、前方方向をX軸の正方向とすると、重心PGの水平方向の位置が、第1の被支持部分11の位置PSよりも前方側に設定されるとは、PGのX座標の方がPSのX座標よりも大きいことを意味する。また重心PGの水平方向の位置が位置PSに設定されるとは、PGのX座標がPSのX座標と一致する(ほぼ一致する場合を含む)ことを意味する。
図9のように重心PGを設定することで、装着部10の後端部側は、重力によって下側には、ずれないようになる。即ち重心PGの水平方向の位置がHMDの前方側にあることで、装着部10の後端部側は、図9のB1に示すように上側にずれようとする。従って、図9のように重心PGを設定すれば、後頭部とHMDの接触場所をB2に示す場所よりも下側に設定する必要がなくなる。
例えば図9のB3は、ユーザの耳元の位置PSを中心として描いた、後頭部断面に対する内接円である。またB2は、この内接円と後頭部とが接触する場所である。後述の図11(A)で詳述するように、ユーザの耳元からB2の位置に伸びる線分と、耳元から眼球中心に伸びる線分とのなす角度は、標準的な人体の頭部形状で約145度になる。従って、B2の位置は、図9の第1の方向D1と第2の方向D2のなす角度θが145度になる位置に相当する。
そして重心PGの水平方向の位置がPSよりも後ろ側にある場合には、後頭部とHMDの接触場所をB2の位置よりも下側に設定する必要がある。接触場所をB2よりも下側に設定すれば、HMDの後端部が重力によって下側に引っ張られても、首筋により支えられてHMDの後端部がずれ落ちないからである。
一方、図9のように重心PGの水平方向の位置がPSよりも前方側に設定される場合には、重力によってHMDの後端部が下側に引っ張られることはない。従って、後頭部とHMDの接触場所をB2の位置よりも下側に設定する必要がない。そして接触場所をB2の位置よりも上側に設定すれば、ユーザが頭を上下に振った場合にも、装着部10の後端部がユーザの首筋に引っかからないようになり、接眼窓22の位置がずれるのを防止できる。
そこで本実施形態では、重心PGの水平方向の位置をPSよりも前方側に設定し、第1の方向D1と第2の方向D2のなす角度θを、θ≧145度にする。具体的にはθ≧145度になるように角度θが例えば構造的(機械的)に固定される。前述のように図9のB2の位置はθ=145度となる位置であるため、θ≧145度に設定することで、後頭部とHMDの接触場所がB2の位置よりも上側に設定される。また重心PGの水平方向の位置をPSよりも前方側に設定することで、HMDの後端部はB1に示すように重力によって上側に引っ張られ、HMDが安定して保持されるようになる。従って、ユーザが頭を上下に振った場合にも接眼窓22の位置がずれるのを効果的に防止できる。
例えば図10(A)は、θ<145度の場合の例である。θ<145度であると、図10(A)に示すようにユーザが頭を上下に振った場合に、C1に示すように装着部10の後端部がユーザの首筋に引っかかってしまい、接眼窓22の位置がずれてしまう。従って、ユーザが頭を振った場合にも接眼窓22をユーザの視軸の前方に安定して保持できるという上述の課題を達成できない。
一方、図10(B)は、θ≧145度の場合の例である。θ≧145度であると、図10(B)に示すようにユーザが頭を上下に振った場合にも、C2に示すように装着部10の後端部がユーザの首筋に引っかからず、接眼窓22の位置がずれてしまうことを防止できる。従って、ユーザが頭を振った場合にも接眼窓22をユーザの視軸の前方に安定して保持できるという上述の課題を達成できる。
また本実施形態では、角度θは、145度≦θ<220度であることが望ましい。例えば146度≦θ<220度となるようにθを構造的(機械的)に固定する。図11(B)で詳述するように、θ<220度であれば、HMDの後端部(PB)が後頭部に引っかかって、図9のB1の方向へのずれを止める作用を持たせることができるが、θ≧220度ではこのような作用を持たせることができないからである。
更に本実施形態では、角度θは、145度≦θ<180度であることが望ましい。θ<180度であれば、重心PGの鉛直方向での位置を、第1の被支持部分11の位置PSよりも下方側に設定できる。支点として機能する位置PSの下方側に重心PGが設定されることで、いわゆるヤジロベエの原理から理解されるように、HMDの装着安定性を向上できる。
なお図9のように鉛直方向DVEに沿った軸をY軸とすると、重心PGの鉛直方向の位置はPGのY座標になる。従って、下方向をY軸の正方向とすると、重心PGの鉛直方向の位置が、第1の被支持部分11の位置PSよりも下方側に設定されるとは、PGのY座標の方がPSのY座標よりも大きいことを意味する。また重心PGの鉛直方向の位置が位置PSに設定されるとは、PGのY座標がPSのY座標と一致する(ほぼ一致する場合を含む)ことを意味する。
図11(A)、図11(B)は、統計により得られた平均的な頭部形状を示す図である。図11(A)のE1は後頭部断面に対する内接円であり、E2はこの内接円と後頭部との接点である。このように平均的な頭部形状における内接円と後頭部が接する場合に、耳元からE2の接点に伸びる線と耳元から眼球中心に伸びる線とのなす角度はα=145度になる。このαは図6のθに対応するため、θ≧145度にすれば、HMDの後端部と後頭部が接するようになり、HMDの後端部が上側にずれるのが抑止される。従って、例えば耳元の位置PSの前方側に重心位置を設定することで、接眼窓22をユーザの視軸の前方に安定して保持できるようになる。つまり、θ≧145度にすれば、接眼窓22が視軸前方に位置した状態でHMDを装着した時に、装着部10がユーザの後ろの首筋よりも上側に位置するようになる。従って、ユーザが顔を上下に振ったときにも、装着部10が首の後ろと干渉せず、接眼窓20が顔に対して安定して保持され続けるようになる。
図11(B)のE3は後頭部断面における外接円であり、E4はこの外接円と後頭部との接点である。このように平均的な頭部形状における外接円と後頭部が接する場合に、耳元からE4の接点に伸びる線と耳元から眼球中心に伸びる線とのなす角度はβ=220度になる。このβは図9のθに対応するものである。そして、HMDの装着部10の後端部の位置が、E4に示す位置よりも上側にあると、重心位置が耳元の位置PSよりも前方側にある場合に、耳元を中心にアーム部20の先端の接眼窓22が、下方向にずれやすくなる。このため接眼窓22をユーザの視軸の前方に安定して保持するのが難しくなる。即ち、β=220度は、前方側に重心位置があっても後頭部が支えとなってHMDがずれ落ちない限界値ということができる。従って、βに対応する角度θは、145度≦θ<220度であることが望ましい。
更に、θ<180度とすれば、前述のように重心PGの鉛直方向の位置を位置PSよりも下方側に設定することが可能になるため、HMDが安定して保持されるようになり、装着安定性を向上できる。従って、更に望ましくは角度θは、145度≦θ<180度であることが望ましい。
なお、以上では、HMDの重心PGの水平方向の位置が第1の被支持部分11よりも前方側(HMDの装着時のユーザを基準として前方側)に設定される場合について説明した。しかしながら、図12(A)に示すように重心PGの水平方向の位置が第1の被支持部分11の位置に設定されていてもよい。即ち、ユーザの耳元付近に重心PGが設定されていてもよい。
そして、このように重心PGが耳元付近に設定されている場合には、図12(A)のF1に示す回転方向での回転モーメントは小さい。従って、HMDと頭部の間で生じる摩擦力により、F1の回転方向での回転は十分に抑止される。
即ち、図12(B)のF2、F3に示すように、装着部10の半円環形状の内側方向に、弾性部材による附勢力が働くことで、ユーザの側頭部が両側から押さえ込まれ、HMDと頭部との間に摩擦力が発生する。このような摩擦力が発生することで、F1に示す回転方向での回転が抑止されるため、図12(A)のF4や図12(B)のF5に示すように、装着部10の後端部がユーザの後頭部に接触している必要はなくなる。そして、装着部10の後端部がユーザの後頭部に接触しないような形状にすることで、髪型の影響を受けにくくなるという利点が得られる。
また本実施形態のHMDによれば、図13(A)のG1に示すように、ユーザの耳元付近(第1の被支持部分11)を支点にして、接眼窓22(接眼光学系)の位置を上下に調整することができる。即ち、ピッチ方向での調整が容易になる。
また図12(B)のF6、F7に示すように、ユーザの耳元よりも後ろ側での後頭部の形状は略円形であるため、F8に示すように、接眼窓22の位置を左右に調整(眼幅方向での調整)することも可能になる。
また本実施形態のHMDによれば、図13(B)のG2に示すように、ユーザが掛ける眼鏡のツルとの干渉が耳元部分だけとなる。従って、ユーザが眼鏡を掛けた状態で、その上からHMDを装着することが可能になる。この時、耳元部分での干渉は、ツルを一点で頭部に押圧する作用となるため、眼鏡のフレームの変形や眼鏡の装着位置のずれを抑止することが可能になる。
以上のように本実施形態のHMDによれば、ユーザが頭を上下左右に振っても接眼窓が視軸の前方に安定して保持できると共に、顔の形状の個体差に応じて接眼窓の位置の調整も可能になり、更に眼鏡の上からの装着も容易になる。
4.突起部
本実施形態ではHMDの頭部側側面(内側側面)に突起部(コブ)を設けることが望ましい。例えば装着部10の第2の被支持部分12の頭部側側面、装着部10の第1の被支持部分11の頭部側側面、及びアーム部20の第1の被支持部分11側の頭部側側面の少なくとも1つの側面に、突起部を設ける。ここで頭部側側面は、HMDの側面のうちユーザの頭部の面に正対する側面である。また突起部は、例えばその突起部分が曲面形状を有するコブ状の形状を有する。
図14(A)に示すように、ユーザの眼、耳をよぎる平面での頭部断面形状は、H1に示すように、耳を境にして後頭部側は略円形となり、H2の円の中心Cは両耳の中間付近に位置する。また、H3、H4に示すように、耳を境にして前方側の側頭部は、頭部を上方から見下ろした場合に左右共に略直線状になる。
そして図14(A)では、HMDに対して第1の突起部15、第2の突起部16が設けられている。第1の突起部15は、装着部10の第2の被支持部分12の頭部側側面に設けられる。例えば図14(A)では、HMDの装着時にユーザの右眼の前方に接眼窓22が配置されるため、第1の突起部15は、ユーザの左の耳元付近に設けられる。ユーザの左眼の前方に接眼窓22が設けられる場合には、第1の突起部15は、ユーザの右の耳元付近に設けられることになる。
また第2の突起部16は、装着部10の第1の被支持部分11の頭部側側面に設けられる。図14(A)では、右眼の前方に接眼窓22が配置されるため、第2の突起部16は、右の耳元付近に設けられる。左眼の前方に接眼窓22が設けられる場合には、第2の突起部16は、ユーザの左の耳元付近に設けられることになる。
なお第2の突起部16をアーム部20の頭部側側面に設けてもよい。具体的には、第1の被支持部分11側の頭部側側面の位置(H5に示す位置)に第2の突起部16を設けてもよい。
図14(A)のように装着部10の左右の耳元付近に第1、第2の突起部15、16を設ければ、第1、第2の突起部15、16がH2の円の中心Cをはさむようになるため、装着部10が滑って後頭部側にずれてしまう事態を抑止できる。また図14(B)に示すように、H2の円の中心Cを軸としてHMDを回転させることができ、H6、H7に示すような眼幅調整が可能になり、個人差に応じたアライメントが可能になる。なお図14(A)、図14(B)では、2つの突起部を設けているが、1つの突起部だけを設ける変形実施も可能である。
図15(A)では、第1、第2の突起部15、16に加えて、第3の突起部17が設けられている。即ち図14(A)と同様に、第1の突起部15は装着部10の第2の被支持部分12(左の耳元付近)の頭部側側面に設けられ、第2の突起部16は、装着部10の第1の被支持部分11(右の耳元付近)の頭部側側面(又はアーム部20の第1の被支持部分11側の頭部側側面)に設けられる。
そして第3の突起部17は、装着部10の第2の突起部16の後方側(後頭部側)の頭部側側面に設けられる。即ち、図15(A)のようにユーザの右眼の前方に接眼窓22が配置される場合には、HMDの左側の頭部側側面に1つの突起部15が設けられ、HMDの右側の頭部側側面に2つの突起部16、17が設けられる。なおユーザの左眼の前方に接眼窓22が配置される場合には、HMDの右側の頭部側側面に1つの突起部を設け、HMDの左側の頭部側側面に2つの突起部を設ければよい。
このように第3の突起部17を設けた場合にも、図14(A)、図14(B)と同様に、装着部10が滑って後頭部側にずれてしまう事態を抑止できると共に、図15(B)に示すように眼幅調整も可能になる。更に、第2、第3の突起部16、17が頭部を押圧することで、HMD全体のピッチ方向でのずれを、図14(A)、図14(B)に比べて、より強く規制することが可能になる。従って、ユーザの視軸に対して上下方向で接眼窓22がずれるのを抑止できる。
また図16では、HMDが、装着部10の第2の被支持部分12の頭部側側面に設けられる第1の突起部15と、装着部10の頭部側側面(又はアーム部20の頭部側側面)に設けられる第2の突起部18と、装着部10の頭部側側面に設けられる第3の突起部19を有する。そして第2の突起部18と第3の突起部19は、各々、第1の被支持部分11(ユーザの耳元)を挟んで前方側と後方側に設けられる。即ち、前方側に第2の突起部18が設けられ、後方側に第3の突起部19が設けられる。
図16の構成によれば、J1に示す円の中心Cが、第1、第2、第3の突起部15、18、19を頂点とするJ2の三角形の内部に位置する。従って、第1、第2、第3の突起部15、18、19がユーザの頭部を確実に押さえるようになり、HMD全体の前後へのずれを、より強く規制できるようになる。また、第2、第3の突起部18、19の働きでHMD全体のピッチ方向でのずれも、より強く規制できるようになる。また第2の突起部18等の働きで、HMDのヨー方向での回転ずれも規制できるようになる。なお図16の構成では、眼幅調整が難しくなるが、ユーザが自分の眼幅に合ったHMDを選ぶことで、ユーザにとっては、装着のたびに眼幅調整を行う手間を省けるという利点がある。
以上のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。またヘッドマウントディスプレイの構成、構造等も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。