図1は、この実施例に係る無段変速機の滑り検知装置を概略的に示す全体図である。
図1において符号1は車両を示し、車両1には自動変速機(具体的には無段変速機CVT。以下「CVT」という)10が搭載される。CVT10はエンジン(原動機)12の出力を変速し、ディファレンシャル機構Dを介して左右の駆動輪(前輪)WL,WRに伝達する。エンジン12は例えばガソリンを燃料とする火花点火式の4気筒の内燃機関からなる。
CVT10は互いに平行に設けられた入力軸14と出力軸16と中間軸18を有し、ディファレンシャル機構Dと共にCVTケース10a内に収容される。入力軸14はエンジン12、より具体的にはエンジン12の出力軸(クランク軸)12bにカプリング機構CPを介して接続される。入力軸14にはCVT10のドライブプーリ(入力軸要素)20が設けられる。
ドライブプーリ20は、入力軸14に相対回転不能で軸方向移動不能に設けられた固定プーリ半体20aと、入力軸14に相対回転不能で固定プーリ半体20aに対して軸方向移動自在に設けられた可動プーリ半体20bからなる。可動プーリ半体20bの側方には、供給された油圧(作動油の圧力)に応じてドライブプーリ20のプーリ幅(換言すれば側圧)を調整するドライブプーリ幅調整機構22が設けられる。
ドライブプーリ幅調整機構22は、可動プーリ半体20bの側方に設けられたシリンダ壁22aと、シリンダ壁22aと可動プーリ半体20bとの間に形成されたシリンダ室22bと、シリンダ室22b内に設けられて可動プーリ半体20bを常時固定プーリ半体20aに近づける方向に付勢するリターンスプリング22cとを有する。
シリンダ室22b内の油圧が上昇されると、可動プーリ半体20bが固定プーリ半体20aに近づき、ドライブプーリ20のプーリ幅が狭められ(側圧が増加)、作動油の圧力が低下されると、可動プーリ半体20bが固定プーリ半体20aから離れてプーリ幅は広げられる(側圧が減少)。
出力軸16にはドリブンプーリ(出力軸要素)24が設けられる。ドリブンプーリ24は、出力軸16に相対回転不能で軸方向移動不能に設けられた固定プーリ半体24aと、出力軸16に相対回転不能で固定プーリ半体24aに対して軸方向移動自在に設けられた可動プーリ半体24bからなる。可動プーリ半体24bの側方には、供給された油圧に応じてドリブンプーリ24のプーリ幅(側圧)を調整するドリブンプーリ幅調整機構26が設けられる。
ドリブンプーリ幅調整機構26は、可動プーリ半体24bの側方に設けられたシリンダ壁26aと、シリンダ壁26aと可動側ドリブンプーリ半体24bとの間に形成されたシリンダ室26bと、シリンダ室26b内に設けられて可動プーリ半体24bを常時固定プーリ半体24aに近づける方向に付勢するリターンスプリング26cとを有する。
シリンダ室26b内の油圧が上昇されると、可動プーリ半体24bが固定プーリ半体24aに近づき、ドリブンプーリ24のプーリ幅が狭められ(側圧が増加され)、作動油の圧力が低下されると、可動プーリ半体24bが固定プーリ半体24aから離れてプーリ幅は広げられる(側圧が減少される)。
ドライブプーリ20とドリブンプーリ24との間には金属製のV字形状のベルト(動力伝達要素)30が巻き掛けられる。ベルト30は多数のエレメントが図示しないリング状部材により連結され、各エレメントに形成されたV字面がドライブプーリ20とドリブンプーリ24のプーリ面と接触し、両側から強く押圧された状態でエンジン12などの動力をドライブプーリ20からドリブンプーリ24に伝達する。
このようにCVT10においてエンジン12に接続される入力軸14と駆動輪WL,WRに接続される出力軸16、即ち、ドライブプーリ20とドリブンプーリ24の間にはベルト30からなる動力伝達要素が配置される。
入力軸14上には遊星歯車機構32が設けられる。遊星歯車機構32は、入力軸14にスプライン嵌合されて入力軸14と一体に回転するサンギヤ34と、ドライブプーリ20の固定プーリ半体20aと一体に形成されたリングギヤ36と、入力軸14に対して相対回転自在に設けられたプラネタリキャリヤ40と、プラネタリキャリヤ40に回転自在に支承された複数のプラネタリギヤ42とを有する。
各プラネタリギヤ42は、サンギヤ34とリングギヤ36の双方と常時噛合する。サンギヤ34とリングギヤ36との間にはFWD(前進)クラッチ44が設けられ、プラネタリキャリヤ40とケース10aとの間にはRVS(後進)ブレーキクラッチ46が設けられる。
FWDクラッチ44は、シリンダ室44aに作動油が供給されるとき、クラッチピストン44bをリターンスプリング44cのばね力に抗して図1で左方に移動させることにより、サンギヤ34側の摩擦板とリングギヤ36側の摩擦板とを係合させてサンギヤ34とリングギヤ36とを結合することで係合(インギヤ)され、車両1を前進走行可能にする。
RVSブレーキクラッチ46は、シリンダ室46aに作動油が供給され、ブレーキピストン46bをリターンスプリング46cのばね力に抗して図1で左方に移動させることにより、ケース10a側の摩擦板とプラネタリキャリヤ40側の摩擦板とを係合させてケース10aとプラネタリキャリヤ40とを結合することで係合(インギヤ)され、車両1を後進走行可能にする。
出力軸16には、中間軸ドライブギヤ50と共に、発進(スタート)クラッチ52が設けられる。発進クラッチ52はシリンダ室52aに作動油が供給され、クラッチピストン52bをリターンスプリング52cのばね力に抗して移動させることにより、出力軸16側の摩擦板と中間軸ドライブギヤ50側の摩擦板とを係合させて出力軸16と中間軸ドライブギヤ50とを結合する。
中間軸18には、中間軸ドリブンギヤ54とDF(ディファレンシャル)ドライブギヤ56とが設けられる。中間軸ドリブンギヤ54とDFドライブギヤ56は共に中間軸18上に固定して設けられ、中間軸ドリブンギヤ54は中間軸ドライブギヤ50と常時噛合する。DFドライブギヤ56はケースDcに固定されたDFドリブンギヤ60と常時噛合する。
ディファレンシャル機構Dには左右のアクスルシャフトASL,ASRが固定されると共に、その端部には左右の駆動輪WL,WRが取り付けられる。DFドリブンギヤ60はDFドライブギヤ56と常時噛合し、中間軸18の回転に伴ってケースDc全体が左右のアクスルシャフトASL,ASRまわりに回転するように構成される。
上記したプーリの両シリンダ室22b,26bに供給される作動油の圧力を制御し、ベルト30の滑りが発生しない側圧をドライブプーリ20のシリンダ室22bとドリブンプーリ24のシリンダ室26bとに与えた状態で入力軸14にエンジン12の回転を入力すると、その回転は、入力軸14→ドライブプーリ20→ベルト30→ドリブンプーリ24→出力軸16と伝達される。
このとき、ドライブプーリ20とドリブンプーリ24の両プーリの側圧を増減させることによってプーリ幅を変化させ、ベルト30の両プーリ20,24に対する巻き掛け半径を変化させることにより、巻き掛け半径の比(プーリ比)に応じた所望の変速比を無段階で得ることができる。
上記したドライブプーリ20とドリブンプーリ24のプーリ幅とFWDクラッチ44とRVSブレーキクラッチ46と発進クラッチ52の係合・非係合は、油圧制御装置62を介してそれらのシリンダ室22b,26b,44a,46a,52aに供給される作動油の圧力(油圧)を制御することで行われる。
油圧制御装置62はエンジン12で駆動されてリザーバ62aから作動油を汲み上げて油路62bに吐出する油圧ポンプ62cと、油路62bに配置されて作動油の流れと圧力を切り替える一群の電磁制御バルブ62dを備える。
一群の電磁制御バルブ62dは、ドライブプーリ幅調整機構22とドリブンプーリ幅調整機構26のシリンダ室22b,26bへの供給油圧をそれぞれ制御する(ノーマルオープン型の)リニアソレノイドバルブと、FWDクラッチ44とRVSブレーキクラッチ46のシリンダ室44a,46aへの供給油圧を制御するシフトソレノイドバルブと、発進クラッチ52のシリンダ室52aへの供給油圧を制御するリニアソレノイドバルブを含む。
エンジン12の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席床面に配置されたアクセルペダルとの機械的な接続が絶たれてDBW(Drive By Wire)機構64に接続され、そのアクチュエータ(ステッピングモータ)64aによって開閉される。
エンジン12においてスロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ66から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブが開放されたときに燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室で混合気は点火されて燃焼し、ピストンを駆動して出力軸12bを回転させた後、排気となってエンジン12の外部に放出される。
エンジン12のカム軸(図示せず)付近にはクランク角センサ68が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流には絶対圧センサ70が設けられて吸気管内圧力(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
エンジン12の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ72が設けられて冷却水温TWに応じた出力を生じると共に、スロットルバルブの上流の適宜位置は吸気温センサ74が設けられて吸気温TAに応じた出力を生じる。DBW機構64のステッピングモータ64aの付近にはスロットル開度センサ76が設けられてスロットル開度THに比例した信号を出力する。
油圧制御装置62においてリザーバ62aの内部などには油温センサ78が設けられてCVT10に供給される作動油(ATF)の温度を示す出力を生じる。
CVT10においてドライブプーリ20の付近の適宜位置にはNDRセンサ80が設けられてドライブプーリ20の回転数、即ち、CVTの入力回転数NDRに応じたパルス信号を出力すると共に、ドリブンプーリ24の付近の適宜位置にはNDNセンサ82が設けられ、ドリブンプーリ24の回転数、即ち、CVTの出力回転数NDNを示すパルス信号を出力する。
NDRセンサ80とNDNセンサ82は磁気ピックアップなどの磁電変換素子からなると共に、ドライブプーリ20とドリブンプーリ24の軸回りには64個の突起が形成されており、センサ80,82は1回転当たり64個の出力を生じる。即ち、センサ80,82は所定のプーリ回転角度(5.625度)ごとに出力を生じる。
中間軸18の中間軸ドリブンギヤ54の付近には車速センサ84が設けられ、中間軸ドリブンギヤ54の回転数を通じて車速(車両1の走行速度)Vを示すパルス信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ86が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APを示す信号を出力する。
上記したクランク角センサ68などの出力はECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)90に送られる。ECU90はマイクロコンピュータ90aを備え、上記したセンサ出力はそのマイクロコンピュータ90aに入力される。ECU90においてマイクロコンピュータ90aはセンサ出力に基づいてエンジン12と、CVT10と、FWDクラッチ44と、RVSブレーキクラッチ46と、発進クラッチ52の動作を制御する。
図2は上記したECU90のマイクロコンピュータ90aの動作のうちのCVT10の制御動作をソフトウエア的に示すブロック図である。図示の如く、マイクロコンピュータ90aは側圧目標値算出部90a1と、制御目標電流値決定部90a2と、滑り検知部90a3を備える。
即ち、マイクロコンピュータ90aは側圧目標値算出部90a1においてセンサ出力に基づいてCVT10のプーリ20,24の側圧目標値(供給油圧制御値)を算出して制御目標電流値決定部90a2に出力する。
側圧目標値は、ドライブ/ドリブンプーリ20,24のうちの低圧側についてエンジン12の出力トルクに基づいてベルト30が滑らない程度の力で押圧する押圧値を算出すると共に、高圧側について低圧側の値に(車速とアクセル開度から算出される)目標レシオを保持するに必要な圧力比を乗じて積を求め、それに目標回転F/B項を加算することで算出する。
制御目標電流値決定部90a2では側圧目標値から通電指令値(F/B制御値)を算出し、油圧制御装置62では算出された通電指令値に基づいて油圧制御装置62の電磁制御バルブ62dのうちの該当するリニアソレノイドバルブに通電してPWM制御によって駆動する。
またマイクロコンピュータ90aは滑り検知部90a3を備え、そこでドライブプーリ20とドリブンプーリ24の間の滑り(滑り量)を検知し、制御値の補正値を算出して制御目標電流値決定部90a2に出力する。制御目標電流値決定部90a2は補正値で通電指令値を補正して油圧制御装置62に出力する。
図3は図2に示す、マイクロコンピュータ90aの側圧目標値算出部90a1と制御目標電流値決定部90a2の動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは所定の時間間隔で実行される。
以下説明すると、S10において車両状態を検出する。即ち、図2に示すようなセンサ群の出力を読み込み、車両1の状態を検出する。
次いでS12に進み、CVT10のドライブプーリ20とドリブンプーリ24の側圧目標値(油圧供給制御値)を上記したように算出する。
次いでS14に進み、ドライブプーリ20とドリブンプーリ24がそれぞれ1回転(360度)したときの周期(時間)をそれぞれ算出する。
次いでS16に進み、ドリブンプーリ24の周期からドライブプーリ20の周期を減算して差(周期差)を算出してドライブ/ドリブンプーリ20,24の周期に差があるか、換言すれば滑りが生じているか否か判断する。
ここで、ドリブンプーリ24の周期からドライブプーリ20の周期を減算したときの差が正値、即ち、ドライブプーリ20の周期<ドリブンプーリ24の周期であれば、ドリブンプーリ24とベルト30の間に滑りが生じていると判断する。
他方、ドリブンプーリ24の周期からドライブプーリ20の周期を減算したときの差が負値、即ち、ドライブプーリ20の周期>ドリブンプーリ24の周期であれば、ドライブプーリ20とベルト30の間に滑りが生じていると判断する。
尚、ドリブンプーリ24の周期からドライブプーリ20の周期を減算したときの差が零のときはプーリ20,24とベルト30の間に滑りが生じていないと判定できるので、S16の判断は否定されて以降の処理をスキップする。
次いでS18に進み、図4に示す特性に従い、S16で算出された周期差によって滑っている側のプーリについてF/B制御のPI(比例積分)項(PI係数)を算出する。
次いでS20に進み、頭出しの基準位置を合わせながら、即ち、NDRセンサ80とNDNセンサ82の64個の出力がそれぞれ1番目、2番目、3番目・・・と対応させながら両者の出力をsin波、cos波上の値(周波数)に変換し、その周波数の面積ZS,ZC、より具体的にはその差分を図示の式を用いて算出する。この周波数の面積ZS,ZC(および後述するその合計値であるスカラー量Z)が請求項でいう「周波数の面積」を示す。
式中、ASn,ACnはsin波,cos波についてのドライブプーリ20側の所定のプーリ回転角度当たりの時間、BSn,BCnはドリブンプーリ24側の所定のプーリ回転角度当たりの同様な時間、CSn,CCnはそれらの中間値を示す角度のsin値とcos値である(n=1から64)。
このように所定角度ごとに生じるセンサ出力(時間軸上の値)を0と±1の間の値として離散化(正規化)することは、プーリ回転の角速度を周波数として検出することに相当する。尚、CSn,CCnは+1から−1の間の正負の値をとるが、ここでは絶対値を用いる。
次いでS22に進み、図示の式に従い、算出されたドライブ/ドリブンプーリ20,24の周波数成分ZS,ZCを合計してスカラー量Zを算出する。即ち、S20で算出された所定のプーリ回転角度ごとの周波数の成分(面積)の差分の合計値をスカラー量Zとして算出する。
周波数成分ZS,ZCを合計してなるスカラー量Zがプーリ20,24の間の滑り量、より具体的にはプーリ20,24の少なくともいずれかとベルト30の間の滑り量を示す。このようにこの実施例にあってはドライブ/ドリブンプーリ20,24の周波数の成分、より具体的には周波数の成分の差から滑り量を検知するようにした。
ここで、図5以降を参照してこの発明の課題を説明すると、この発明は特許文献1記載の技術が回転数を用いることで滑り量を精度良く検知できない不都合に鑑み、時間信号を周波数領域で算出すると共に、その周波数の成分(面積)を求めることで滑り量を検知し、よって入出力軸要素(プーリ20,24)と動力伝達要素(ベルト30)の間に滑りが生じて回転に差異が生じたとき、その差異を拡大して検出することで滑り量を精度良く検知するように構成した。
即ち、同図に示す如く、連続な関数f(t)に対する一般的なフーリエ変換の定義式に窓関数ω(s)=(s−t)e−iωsを乗じて表現される、いわゆるウェーブレット変換と呼ばれる式を用いてプーリ20,24の回転角速度を周波数で表現すると共に、sin波(実数)とcos波(虚数)で表わすようにした。
図6と図7を参照してより具体的に説明すると、磁気ピックアップはドライブプーリ20とドリブンプーリ24の回転軸の回りに64個配置されることから、NDRセンサ80とNDNセンサ82から5.625度(所定のプーリ回転角度)ごとに出力が生じるが、それをsin波(実数)とcos波(虚数)上の値(周波数)に変換し、それらの面積を算出する。
尚、前記した如く、図6に示すようにsin波についてはドライブプーリ20側の所定のプーリ回転角度当たりの時間をASn、ドリブンプーリ24側の所定のプーリ回転角度の時間をBSn、該当角度のsin値、より具体的にはBSの中間値を示す角度のsin値をCSnとすると共に、図7に示すようにcos波についてはドライブプーリ20側の所定のプーリ回転角度当たりの時間をACn、ドリブンプーリ24側の所定のプーリ回転角度当たりの時間をBCn、該当角度のcos値、より具体的にはBCの中間値を示す角度のcos値をCCnとする。
例えば、図6に示す如く、ドリブン側のsin波について最初の割り込みにおいて角度5.625の半分、即ち最初の割り込み時間BS1の中間値を示す角度は2.8125なので、そのsin値(CS1)は(sin2.8125度=0.049067674)となり、面積はBS1×CS1で求めることができる。尚、図示の便宜から図6と図7において角度5.625を誇張して示す。
また、図7に示す如く、ドリブン側のcos波について最初の割り込みにおいて、角度5.625の半分、即ち最初の割り込み時間BC1の中間値を示す角度は2.8125なので、そのcos値(CC1)は(cos2.8125度=0.998795456)となり、面積はBC1×CC1で求めることができる。
より具体的には、図示の如く、ドリブンプーリ24側が滑っているので、まずドリブン側の値BS1,BC1からドライブ側の値AS1,AC1を減じて両者の差を求め、それにsin値,cos値を乗じて面積を算出するようにして演算を簡易化する。
さらに、センサ出力が64個、即ち、2のn乗だけ得られるので、実際にバタフライ型などのフーリエ変換手法を用いて算出するとき、乗算回数を減少させて、演算を一層簡易化することとする。
上記を前提として図3フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS24に進み、算出されたスカラー量(所定のプーリ回転角度ごとの周波数の面積の合計値)Zから図8にその特性を示すテーブルを検索し、F/B制御係数のD(微分)項(D係数)を算出する。
即ち、算出されたスカラー量Z、換言すればプーリ20,24とベルト30の間の滑り量に基づいてプーリ20,24に供給される油圧の制御値を補正する補正値を算出する。図8に示す如く、微分項はスカラー量Zが増加するほど増加するように設定される。
図3フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS26に進み、S12で算出された側圧目標値に基づき、F/B制御則に従って現在のレシオ(実レシオ)と目標レシオの偏差が減少するように通電指令値(F/B制御値)を算出する。このとき、S18あるいはS24でPI項あるいはD項が算出されるときは、その値を用いて通電指令値(F/B制御値)を補正する。
尚、図3の処理においてドライブ/ドリブンプーリ20,24の回転角速度の周波数の成分(面積)の差からドライブ/ドリブンプーリ20,24とベルト30の間の滑り量を検知するようにしたが、ドライブ/ドリブンプーリ20,24の回転角速度の周波数の成分(面積)の比に基づいて滑り量を検知しても良い。
また、図3のS24の処理においてスカラー量Z、即ち、ドライブ/ドリブンプーリ20,24とベルト30の間の滑り量に応じてF/B制御のD(微分)項を算出したが、P(比例)項あるはI(積分)項を算出しても良い。さらに、制御値もF/B制御則を用いて算出した値に止まるものではなく、スライディングモード制御則などを用いて算出した値であっても良い。
上記した如く、この実施例に係るCVT(無段変速機)10の滑り検知装置にあっては、エンジン(駆動源)12の駆動力によって回転する入力軸14に接続される入力軸要素(ドライブプーリ)20と、前記入力軸要素にベルト(動力伝達要素)30を介して接続されると共に、駆動輪WRに連結される出力軸に接続される出力軸要素(ドリブンプーリ)24とからなり、前記入力軸から入力される回転を変速して前記出力軸に伝達するCVT(無段変速機)10において、前記入力軸要素と出力軸要素の回転角速度をそれぞれ周波数で検出する周波数検出手段(ECU90、マイクロコンピュータ90a,S14)と、前記検出された前記入力軸要素と出力軸要素についての周波数の成分(面積)ZS,ZC,Z)をそれぞれ算出する周波数成分算出手段(ECU90、マイクロコンピュータ90a,S16からS22)と、前記算出された前記入力軸要素と出力軸要素についての周波数の成分に基づいて前記入力軸要素と前記出力軸要素の少なくともいずれかと前記動力伝達要素の間の滑り量を検知する滑り検知手段(ECU90、マイクロコンピュータ90a,S22)とを備える如く構成したので、ドライブ/ドリブンプーリ(入出力軸要素)20,24とベルト30の間に滑りが生じて回転に差異が生じたとき、その差異を拡大して検出することができ、よって滑り量を精度良く検知することができる。
また、周波数検出時に局所的にノイズが発生した場合にあってもノイズの影響を受け難くなる、換言すればノイズによる影響が小さくなるため、滑り量を精度よく検知することができる。即ち、周波数を検出して算出するので、低周波でも高周波でも容易にフィルタリングすることができてノイズの影響を受け難くすることができる。
また、前記滑り検知手段は、前記算出された前記入力軸要素と出力軸要素についての周波数の成分(面積)の差または比に基づいて前記入力軸要素と前記出力軸要素の少なくともいずれかと前記動力伝達要素の間の滑り量を検知する(ECU90、マイクロコンピュータ90a,S22)如く構成したので、上記した効果に加え、滑り量を精度良く、かつ簡易に検知することができる。
また、前記周波数成分算出手段は、所定のプーリ回転角度(例えば5.625度)ごとに前記検出された前記入力軸要素と出力軸要素についての周波数の成分(面積)を算出する(ECU90、マイクロコンピュータ90a,S14からS22)如く構成したので、上記した効果に加え、所定のプーリ回転角度を算出に要する時間と算出精度の間で適宜設定することが可能となり、滑り量を一層精度良く検知することができる。
また、前記所定のプーリ回転角度は360度を2nで分割して得られる値である如く構成したので、例えばファーストフーリエ変換(FTT)などの手法を用いて算出するとき、乗算回数を減らすことができ、滑り量の算出を一層簡易にすることができる。
また、前記CVT(無段変速機)10が油圧作動であると共に、前記検知された前記入力軸要素と前記出力軸要素の少なくともいずれかと前記動力伝達要素の間の滑り量(スカラー量Z)に基づいて前記入力軸要素と出力軸要素に供給される油圧の制御値を補正する油圧制御値補正手段(ECU90、マイクロコンピュータ90a,S12,S18,S24,S26)を備える如く構成したので、上記した効果に加え、CVT(無段変速機)10の動力伝達効率を向上できると共に、ベルト(動力伝達要素)30などの耐久性を向上させることができる。また、駆動源がエンジン12であるとき、その燃費性能を向上させることができる。
尚、上記において駆動源としてエンジン12を示したが、この発明はそれに限られるものではなく、駆動源は電動機あるいはエンジン12と電動機のハイブリッドであっても良い。
また、CVT10の動力伝達要素としてベルト30を用いたが、チェーンであっても良く、CVT10の構造も図示のものに限られるものではなく、トロイダル式などであっても良い。
また、図1に示すCVT10の構成において発進クラッチ52を除去しても良い。