JP5692080B2 - 環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
こうした観点から、処理液中にも6価クロムを含まないようにするため、皮膜やめっき自体からのクロム除去の検討、あるいはクロムの代替皮膜、代替メッキを検討するクロムフリー化が注目されるようになった。
また、フッ素、ホウ素、硝酸性窒素などに関しても、これらの物質の使用は、環境への負荷の面からは好ましくなく、将来的に排出基準が強化される方向にある。したがって、容器用金属材料の処理液中にも、上記物質が含まれないことが望ましい。
本発明の他の目的は、上記特性に優れたクロムフリーの容器材料用鋼板を容易、かつ、安定して製造可能な方法を提供することにある。
すなわち、本発明は、クロム化合物、フッ素、硝酸性窒素を含まない処理液中で、すずめっき鋼板を陰極電解皮膜処理する容器材料用鋼板の製造方法において;陰極電解皮膜処理前のすずめっき鋼板上に存在する酸化すず層を、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを含む水溶液中における陰極電解処理、または、硫酸水溶液浸漬処理によって、電解剥離法による測定で0mC/cm2以上、3.5mC/cm2以下まで除去し、その後;電気伝導度0.2S/m以上6.0S/m以下、pH1.5以上2.5以下のジルコニウム化合物を含むアルカリ金属硫酸塩水溶液中で、陰極電解皮膜処理してジルコニウム換算皮膜付着量で0.1mg/m2以上20mg/m2以下の皮膜を形成させることを特徴とする環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法である。
本発明によれば、更に、すずめっき鋼板上に存在する酸化すず層が0mC/cm2以上、3.5mC/cm2以下であり、その上にジルコニウム換算皮膜付着量で0.1mg/m2以上20mg/m2以下であるジルコニウム化合物皮膜が形成されていることを特徴とする環境への負荷の少ない容器材料用鋼板が提供される。
本発明者の知見によれば、特許文献3に示される発明において、皮膜付着量を適正範囲に保つために電解条件を細かく調整しなければならなかったのは、該文献の電解処理においては、電流密度に対して皮膜付着量が急激に増える傾向があったためである(後述する図2および図3を参照)。このような皮膜付着量の変化は、電解用の電極近傍において、水素ガス放出に伴うpH変化(すなわち、pHの上昇)が生じ、該pH変化に基づき、皮膜付着量の変化(すなわち、皮膜付着量の増大)が生じていたものと推定される。加えて、皮膜付着処理の進行(すなわち、ジルコニウムの消費)自体によっても、pHが上昇し、該上昇により、上記pH変化が加速されていたものと推定される。
これらの現象の結果、従来技術においては、上記「皮膜付着量の急激な増大」傾向を適正にコントロールして皮膜付着量を適正範囲に保つために、製造条件(板幅、ラインスピード、液温等)の変動に合わせて、電解条件を細かく調整することが不可欠であったものと推定される。
これに対して、本発明者らは、電解液中でNa+、K+等のアルカリ金属イオンが大量に存在すると陰極周辺のOH−と中和するため、陰極周辺の局部的pHの変動が緩和(ないし減少)される傾向が生じ、この傾向に基づき、酸化ジルコニウムイオン(ZrO2+)が安定化することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、電解用の電極近傍のpH変化に対応する「ジルコニウム換算皮膜付着量の変化」のカーブを、(例えば、後述する図2および図3のグラフに示すように)滑らかにすることができる。従って、本発明によれば、安定して「ジルコニウム換算皮膜付着量」をコントロールすることができ、これにより、安定した皮膜付着処理を行うことが可能となるものと推定される。
すなわち電気分解し易い「アルカリ金属硫酸塩水溶液を主体」とし、めっき表面に付着させるZrO2+を添加(実際は、硫酸ジルコニウムで添加)することが、本発明の特徴である。
本発明は、例えば、以下の態様を含むことができる。
[1] クロム化合物、フッ素、硝酸性窒素を含まない処理液中で、すずめっき鋼板を陰極電解皮膜処理する容器材料用鋼板の製造方法において、
陰極電解皮膜処理前のすずめっき鋼板上に存在する酸化すず層を、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを含む水溶液中における陰極電解処理、または、硫酸水溶液浸漬処理によって、電解剥離法による測定で0mC/cm2以上、3.5mC/cm2以下まで除去し、その後、
電気伝導度0.2S/m以上6.0S/m以下、pH1.5以上2.5以下のジルコニウム化合物を含むアルカリ金属硫酸塩水溶液中で、陰極電解皮膜処理してジルコニウム換算皮膜付着量で0.1mg/m2以上20mg/m2以下の皮膜を形成させることを特徴とする環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
[2] 前記アルカリ金属硫酸塩水溶液中に含まれるジルコニウムの濃度が10mg/L以上2000mg/L以下であることを特徴とする[1]記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
[3] 前記アルカリ金属硫酸塩が硫酸ナトリウムであることを特徴とする[1]または[2]記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
[4] 前記アルカリ金属硫酸塩が硫酸カリウムであることを特徴とする[1]または[2]記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
[5] 前記アルカリ金属硫酸塩水溶液中のアルカリ金属硫酸塩の濃度が0.1質量%以上8.0質量%以下であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
本発明は、特に、陰極電解皮膜が、クロム化合物、フッ素、硝酸性窒素を含まないジルコニウム化合物を含むアルカリ金属硫酸塩水溶液中で陰極電解皮膜処理して得られることを特徴とする、環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法に関する。
以下、発明を実施するための最良の形態について述べる。
本発明に用いる鋼板の種類は特に限定されるものではなく、従来から容器用材料に用いられている鋼板と同じのもので構わない。
本発明の陰極電解皮膜処理に用いる鋼板の種類は限定されるものではないが、缶詰用途における使用実績が高く食品安全衛生性上問題がなく、耐食性に優れていること、成形性に優れること、他のめっきに比べて比較的安価であること、等の理由から、本発明の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の鋼板としては、すずめっき鋼板が最も適している。
本発明の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板は、必ずしもめっき鋼板である必要はないが、容器用材料として十分な内容物耐食性を確保するのであれば、少なくとも缶にした際、内容物側になる面は、すずめっき、または、鉄−すず合金めっきであるのが好ましい。すずめっき鋼板の表面に、酸化すず層が厚く存在していると、その上にジルコニウム化合物皮膜を形成させても、酸化すず層が脆弱なため、酸化すず層ごと塗装がはがれ、塗装密着性が悪くなる恐れがある。このため、陰極電解皮膜処理をする直前に酸化すず層を除去するのが好ましい。
本発明の陰極電解皮膜処理は、陰極電解皮膜処理液中のジルコニウム濃度が10mg/L以上2000mg/L以下、処理液の電気伝導度が0.2S/m以上6.0S/m以下であり、かつ、処理液のpHが1.5以上2.5以下であることを特徴とするクロム化合物、フッ素、硝酸性窒素を含まず、ジルコニウム化合物を含むアルカリ金属硫酸塩水溶液中で、すずめっき鋼板または鉄−すず合金めっき鋼板を陰極電解皮膜処理するものである。
しかしながら、硫酸化合物の陰極電解皮膜処理で皮膜を形成させる方法の場合、ジルコニウム水和酸化物の析出が電流密度によって大きく変動する特徴があるため、ジルコニウム水和酸化物の付着量を適正な範囲に保つのが困難である。ジルコニウム水和酸化物皮膜の付着量が変動すると、塗装密着性やフィルム密着性がばらつく原因となるので、好ましくない。
また、硫酸ジルコニウム水溶液は、貯蔵安定性に課題があり、ジルコニウム濃度が高い液を高温環境下(40℃以上)で長期保存する場合、ジルコニウム水和酸化物の沈殿が生じ易いという課題があった。
硫酸ナトリウム水溶液中ではジルコニウムは、ZrO2+として存在していると考えられ、低pH領域では安定しているが、pHが高くなるとZrO2+の安定性が低下し、水和酸化物として析出すると考えられる。
硫酸ナトリウムを陰極電解処理すると陰極のすずめっき鋼板側で液との界面に水素ガスが発生し、その結果、界面近傍の水酸化物イオン濃度が上昇(pH上昇)する。界面のpHが高くなると、ZrO2+が水和酸化物として析出するようになり、すずめっき鋼板上にジルコニウム水和酸化物の皮膜が生成するものと考えられる。
前述したように硫酸ジルコニウム水溶液中ですずめっき鋼板を陰極電解すると界面pHの上昇によって水酸化ジルコニウム皮膜が生成する。水溶液中でのイオンの拡散速度は遅いため、界面近傍にかなり厚い高pHの層が形成されると考えられ、界面pHが水酸化ジルコニウムが析出する条件に達すると急激にジルコニウム水和酸化物皮膜が発達すると考えられる。このため、硫酸ジルコニウム単体からなる陰極電解処理液では、電流密度変動やpH変動によって、水酸化ジルコニウム皮膜の付着量が大きく変動してしまうのではないかと考えられる。
アルカリ金属硫酸塩水溶液をベース溶液とする効果としては、まず、第一にアルカリ金属硫酸塩が電解質として作用し、液の電気抵抗を下げる効果がある。これにより、整流器の負荷を低減させる効果がある。
第2の効果としては、陰極電解処理によってすずめっき鋼板と陰極電解処理液の界面に生成する水酸化物イオンをアルカリ金属イオンが中和し、適正な厚みの高pH層を界面に形成させることが可能となり、電流密度変動やpH変動による水酸化ジルコニウム皮膜の付着量変動を抑制する効果がある(特に、Na+やK+などが、電極周辺に大量に存在する場合)。
図2からわかるように、硫酸ジルコニウムのみの処理液中で陰極電解皮膜処理したものは、低電流密度域ではジルコニウム化合物皮膜の付着量の増加率は小さいが、特定の電流密度を境に急激にジルコニウム化合物皮膜の付着量増加率が増す傾向がある。これに対し、ジルコニウム化合物を添加した硫酸ナトリウム処理液では、電流密度の変動に対するジルコニウム化合物付着量の変動が小さい(電流密度の増加に対するジルコニウム化合物皮膜付着量の増加の程度が緩やか)ので、操業安定性が高く好ましいといえる。
アルカリ金属硫酸塩は、硫酸ナトリウムでも、硫酸カリウムでも同様の効果が得られるので、適宜選択すれば良い。
図3からわかるように、硫酸ジルコニウムのみの処理液中で陰極電解皮膜処理したものは、pHが変動すると極端にジルコニウム化合物皮膜の付着量が変動するのに対し、ジルコニウム化合物を含む硫酸ナトリウム水溶液では、pHが変動しても、ジルコニウム化合物皮膜の付着量の変化は小さく、連続で陰極電解皮膜処理してpHが下がった場合でも、ジルコニウム化合物皮膜の付着量が急激に減少することがなく、安定しているといえる。
陰極電解皮膜処理によりジルコニウム化合物皮膜を施したすずめっき鋼板の塗料密着性はジルコニウム化合物皮膜の付着量によって変化するため、ジルコニウム化合物皮膜の適正付着量範囲を明確にしておくことは重要である。
図4は、硫酸ジルコニウム水溶液中で陰極電解皮膜処理したすずめっき鋼板のジルコニウム量換算したジルコニウム化合物皮膜量と塗装後の塗料密着性の関係を示した図である。なお、塗料密着性は、後述するTピール強度によって評価した。
図4からわかるように、ジルコニウム量換算付着量で0.1mg/m2から20mg/m2の範囲でTピール強度が60N/10mm以上となり安定しているが、この範囲を外れたジルコニウム化合物皮膜量では、Tピール強度が安定せず、十分な塗装後の加工密着性が得られない。
図5に示すように、本発明の陰極電解皮膜処理液に含まれるジルコニウムの濃度が10mg/L未満の場合、例えば電流密度2A/dm2のような低電流密度の場合では、陰極電解皮膜処理した後のジルコニウム化合物皮膜の付着量が、上述したジルコニウム量換算付着量下限の0.1mg/m2を下回るため好ましくない。
従って、ジルコニウム化合物を含むアルカリ金属硫酸塩水溶液のジルコニウム濃度は、10mg/L以上であることが好ましい。
また、陰極電解皮膜処理液に含まれるジルコニウムの濃度が2000mg/Lを超えると、鋼板表面にジルコニウム化合物皮膜のムラが発生しやすくなることと、電解時にスラッジが発生しやすくなることから好ましくない。また、硫酸ジルコニウム水溶液の濃度が濃いと、連続通板時の液持ち出し量が多くなり経済的でない。
以上の理由から、本発明の陰極電解皮膜処理液に含まれるジルコニウムの濃度は10mg/L以上、2000mg/L以下であるのが好ましい。
現行の電解クロメート設備を電極長、電解パス数を変更しないでそのまま利用する場合を考えると、実機の整流器の電圧上限は一般に25V前後なので、操業時の電圧は最大でも25V程度になるようにする必要がある。
一方、電流密度の設定値を下げれば、電圧を下げることは可能であるが、電流密度をあまり低くするのはジルコニウム化合物の析出性が不安定になるので好ましくなく、最低1A/dm2程度とするのが好ましい。よって、図7から示唆されるように電解液の電気伝導の下限は0.2S/m以上とするのが好ましい。
本発明の陰極電解皮膜処理液においてアルカリ金属硫酸塩水溶液の濃度を上げて電導度を上げていくと、整流器の負荷が小さくなり、電流密度を上げることが可能となるが、電気伝導度が高くなり過ぎるとかえってジルコニウム化合物皮膜の付着量が下がる傾向がみられ、外観むらも発生するようになり好ましくない。
アルカリ金属イオンが存在しない場合の陰極側での反応は、まず、水素イオンが電子を受け取り水素ガスとなって放散され、界面の水酸化物イオン濃度が上昇(pH上昇)し、結果として、酸化ジルコニウムイオン(ZrO2+)が酸化ジルコニウム水和物として析出する。これに対し、アルカリ金属イオンが存在すると陰極界面でNaイオンも電子授受に関わる(析出した金属Naはすぐに溶解解離する)ので、アルカリ金属を添加しない場合に比べて、界面で生成する水酸化物イオンの濃度が低くなり、結果として酸化ジルコニウム水和物の析出が抑制されると考えられる。
このように、アルカリ金属イオンを添加により電気伝導度を過剰に高めると、陰極側の界面pHが上昇し難くなり、ジルコニウム水酸化物が析出し難くなってしまうので、液の電気伝導度は6.0S/m以下とするのが好ましい。
まず、本発明の陰極電解皮膜処理液のpHの下限についてであるが、図9に示すようにpHが低くなるとジルコニウム化合物皮膜付着量が下がる傾向であり、pHが1.5未満では、ジルコニウム換算付着量下限目標の0.1mg/m2に達しなくなる場合があるので、好ましくない。
ジルコニウム化合物皮膜の析出機構は、陰極電解処理時の水素ガス発生による界面の水酸化物イオン濃度の上昇(pHの上昇)による酸化ジルコニウム水和物の析出であり、陰極電解皮膜処理液のpHが低いと陰極側の水酸化物イオン濃度が高まらないため、結果として、酸化ジルコニウム水和物の皮膜が生成し難くなると考えられる。
酸化ジルコニウム水和物の析出量が少なくなると、良好な塗料密着性を得られる下限ジルコニウム化合物皮膜量(ジルコニウム換算付着量0.1mg/m2以上)が得られなくなるので、好ましくない。
よって、本発明の陰極電解処理液のpHの下限は、1.5以上であるのが好ましい。
図10は、ジルコニウム化合物を含む硫酸ナトリウム水溶液と硫酸ジルコニウムのみの水溶液の保存安定性(40℃で2週間静置した液の沈殿発生有無から判定)を示した図であるが、図10からわかるように、硫酸ジルコニウムのみの水溶液ではpHが2.1を超えると液の保存安定性が低下することがわかる。
硫酸ジルコニウム水溶液中でジルコニウムはZrO2+として存在しているが、pHが高くなるとZrO2+が水和酸化物として析出し易くなり、高pHの硫酸ジルコニウム水溶液では長期保存や高温下で保存すると、溶解していたZrO2+が酸化ジルコニウム水和物として析出し白色沈殿物となると考えられる。
ジルコニウム化合物を含む硫酸ナトリウム水溶液の場合、pH2.5を上限として白色沈殿が生じるようになるので、pHは2.5以下であるのが好ましい。
また、pHの高い液を使用して連続で電解するとスラッジが多量に生成するので、操業性および製品の品質の点からもpHは2.5以下とすることが好ましい。
図12は、ジルコニウム化合物を含む硫酸ナトリウム水溶液(ジルコニウム濃度2000mg/L)の硫酸ナトリウム濃度(質量%)と電気伝導度の関係を示した図である。(液pHは硫酸を添加してpH1.5、および、2.5に調整した。)
液温が高くなると陰極界面への水素イオン供給速度が上がり界面pHが上昇し難くなりジルコニウム化合物が析出し難くなるので、適正なジルコニウム皮膜付着量を得るためには、電流密度を高くする必要がある。その結果、整流器負荷が過大となるので、液温は50℃以下とするのが好ましい。
また、液温が高いと液の安定性が低下し、酸化ジルコニウム水和物が沈積しやすくなるので、この点からも液温の上限は50℃以下とするのが好ましい。
<容器材料用ラミネート鋼板>
上記した本発明の容器材料用鋼板は、容器材料用ラミネート鋼板の製造にも、好適に使用可能である。このような、本発明の容器材料用鋼板を用いた容器材料用ラミネート鋼板の構成は特に制限されないが、例えば、該容器材料用鋼板と、その上に配置されたラミネートフィルムとを少なくとも含む容器材料用ラミネート鋼板とすることが好ましい。
<容器材料用塗装プレコート鋼板>
上記した本発明の容器材料用鋼板は、容器材料用塗装プレコート鋼板の製造にも、好適に使用可能である。このような、本発明の容器材料用鋼板を用いた容器材料用塗装プレコート鋼板の構成は特に制限されないが、例えば、該容器材料用鋼板と、その上に配置された有機樹脂被膜とを少なくとも含む容器材料用塗装プレコート鋼板とすることが好ましい。
1.酸化すず層厚測定
以下、実施例および比較例で示す酸化すず層厚は、すずめっき鋼板を陽極として、0.01%のHBr水溶液中で1mAで定電流電解剥離した時の酸化すず層が除去されるまでの電解剥離時間から電気量を算出し、単位面積当りの電解剥離に要した電気量(mC/cm2)として表示した。
循環型の縦型セル(循環液量15L)に陰極電解皮膜処理液を入れ、Pt溶射Ti板を電極として酸化すず除去したすずめっき鋼板を電解処理した後、水洗、熱風乾燥して、陰極電解皮膜処理すずめっき鋼板を得た。
皮膜外観の良否については、目視で判定した。
下地処理後の下地剤付着量の測定は、蛍光X線吸収スペクトル測定により、ジルコニウム化合物皮膜中のジルコニウム量を測定し、単位面積当りの量として表示(mg/m2)した。
調剤後良く攪拌した陰極電解皮膜処理液1Lをガラスビーカーに入れ、ポリラップで蓋をしてから、40℃の恒温槽内で2週間静置保管した後、室温(20〜25℃)に戻し、ビーカー内の陰極電解皮膜処理液が白濁、あるいは、沈殿が生じていないか、また、アルカリ金属硫酸塩が析出していないかどうか目視確認した。
実施例および比較例で下地処理まで行った鋼板の表面に、バーコーターを使用して、缶用エポキシ塗料(大日本インキ化学工業(株)製のサイジングニスPG−800−88)を片面25g/m2塗布した後、焼付乾燥炉で180℃、10分間焼付処理を行った。
2枚のプレコート鋼板の塗装面どうしをエチレンアクリル酸(EAA)系接着フィルム(0.1mm厚)を介してホットプレスで熱圧着(200℃、60秒、1MPa)し、熱圧着後、試験片を冷却してから、幅10mm、長さ150mmの接着試験片を切り出し、接着試験片長の約50mm分を予め引張試験時の掴み代として剥離させ、Tピール試験片を作製した。
予め剥離しておいた掴み代部を引張り試験機の掴み部に挟み込み、接着部100mm分を室温下、引張り速度200mm/分でTピール強度を測定し、塗料密着性を評価した。
すずめっき鋼板の塗装後の加工密着性は、Tピール強度で60N/10mm以上程度必要であることが当業者間で経験上わかっており、ジルコニウム化合物皮膜処理をしたすずめっき鋼板についても、60N/10mm以上の塗料密着性(Tピール)を満たす必要がある。
実施例および比較例で調整した鋼板の表裏面をすずの融点より7℃低い225℃に加熱し、両面に20μm厚の無延伸共重合ポリエステル(融点220℃)フィルムを、ラミネートロール温度150℃、通板速度150m/分で熱ラミネートし直ちに、水冷することにより、フィルムラミネート鋼板を得た。
フィルムラミネート鋼板の両面にワックス系潤滑剤を塗布し、プレスにより直径155mmの円板を打抜き、浅絞りカップを得る。次いでこの浅絞りカップを、ストレッチアイアニング加工を行いカップ径52mm、カップ高さ138mm、缶側壁部の平均板厚減少率18%のカップを得た。このカップを、フィルム歪取りのために215℃にて熱処理を行った後、さらに印刷焼付相当の200℃の熱処理を行い、缶特性評価用の試料を作製した。
製缶品の缶底から75mm高さの位置の外周にカッターナイフで全周疵を入れてから、缶をレトルト処理用の蒸気釜に入れ、125℃で90分間レトルト殺菌処理を行った。
レトルト処理後の缶のカッターナイフ疵を入れた部分のフィルムが収縮して剥離しているかどうか目視で良否判定を行った。(剥離した場合を×、剥離していない場合を○として判定した。)
表1のbは、すずめっき鋼板を40℃の炭酸水素ナトリウム水溶液中で陰極電解処理することにより酸化すず除去処理を行った鋼板であり、電解剥離法で測定した残存酸化すず量が0.9(mC/cm2)の鋼板である。
表1のcは、すずめっき鋼板を40℃の2%硫酸中で10秒間浸漬処理することにより酸化すず除去処理を行った鋼板であり、電解剥離法で測定した残存酸化すず量が1.0(mC/cm2)の鋼板である。
表1のdは、すずめっき鋼板を40℃の1%硫酸中で5秒間浸漬処理することにより酸化すず除去処理を行った鋼板であり、電解剥離法で測定した残存酸化すず量が3.5(mC/cm2)の鋼板である。
表1のeは、すずめっき鋼板を40℃の1%硫酸中で1秒間浸漬処理することにより酸化すず除去処理を行った鋼板であり、電解剥離法で測定した残存酸化すず量が3.8(mC/cm2)の鋼板である。
表1のfは、酸化すず除去処理を行っていないすずめっき鋼板であり、電解剥離法で測定した残存酸化すず量が4.4(mC/cm2)の鋼板である。
実施例2は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度1.3質量%、ジルコニウム濃度10mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.9の例である。
実施例3は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度1.0質量%、ジルコニウム濃度2000mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.9の例である。
実施例4は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度0.1質量%、ジルコニウム濃度10mg/L、電気伝導度0.20S/m、pH2.5の例である。
実施例5は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度5.9質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度6.0S/m、pH1.9の例である。
実施例6は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度0.9質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.5の例である。
実施例7は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度1.6質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH2.5の例である。
実施例9は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度1.1質量%、ジルコニウム濃度10mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.9の例である。
実施例10は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度0.9質量%、ジルコニウム濃度2000mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.9の例である。
実施例11は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度0.1質量%、ジルコニウム濃度10mg/L、電気伝導度0.2S/m、pH2.5の例である。
実施例12は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度5.0質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度6.0S/m、pH1.9の例である。
実施例13は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度0.8質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.5の例である。
実施例14は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度1.4質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH2.5の例である。
実施例16は、鋼板が表1中のbであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度2.4質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度1.2S/m、pH1.9の例である。
実施例17は、鋼板が表1中のcであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度2.4質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度1.2S/m、pH1.9の例である。
実施例18は、鋼板が表1中のdであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度2.4質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度1.2S/m、pH1.9の例である。
比較例2は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度1.2質量%、ジルコニウム濃度8mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.9の例である。
比較例3は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度1.0質量%、ジルコニウム濃度2050mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.9の例である。
比較例4は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度0.09質量%、ジルコニウム濃度10mg/L、電気伝導度0.18S/m、pH2.5の例である。
比較例5は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度6.0質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度6.2S/m、pH1.9の例である。
比較例6は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度6.2質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度6.6S/m、pH1.9の例である。
比較例7は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度0.9質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.4の例である。
比較例8は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度1.6質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH2.6の例である。
比較例10は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度0.9質量%、ジルコニウム濃度2050mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.9の例である。
比較例11は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度0.09質量%、ジルコニウム濃度10mg/L、電気伝導度0.18S/m、pH2.5の例である。
比較例12は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度5.1質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度6.2S/m、pH1.9の例である。
比較例13は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度5.3質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度6.6S/m、pH1.9の例である。
比較例14は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度0.8質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH1.4の例である。
比較例15は、鋼板が表1中のaであり、陰極電解処理液が、硫酸カリウム濃度1.4質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度2.0S/m、pH2.6の例である。
比較例17は、鋼板が表1中のeであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度2.4質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度1.2S/m、pH1.9の例である。
比較例18は、鋼板が表1中のfであり、陰極電解処理液が、硫酸ナトリウム濃度2.4質量%、ジルコニウム濃度400mg/L、電気伝導度1.2S/m、pH1.9の例である。
評価内容は、以下の通りである。
1)すずめっき鋼板を4A/dm2、および、6A/dm2で1秒間陰極電解した時の下地処理皮膜のジルコニウム換算付着量。
2)ジルコニウム化合物皮膜の外観良否。(ジルコニウム化合物皮膜外観にむらのない状態を○で合格、濃淡がみられる場合は△で不合格、明瞭なむらがある場合は×で不合格、と判定した。)
3)表2のすずめっき鋼板と陰極電解皮膜処理液の組合せで、4A/dm21秒間すずめっき鋼板を陰極電解処理した鋼板の塗装密着性。(塗装板のTピール強度で評価し、60以上を合格とした。)
4)表2のすずめっき鋼板と陰極電解皮膜処理液の組合せで、4A/dm21秒間すずめっき鋼板を陰極電解処理した鋼板を用いたラミネート鋼板のフィルム密着性をみるために製缶品の耐レトルト剥離性を評価した。(缶外周に入れたカッターナイフ疵がレトルト処理で剥離する場合を×で不合格、剥離しない場合は○で合格とした。)
5)液の保存安定性の目視判定結果。(良好なものは○で合格、やや白濁したが沈殿は生じていないものは△で合格、白色沈殿物が生じたものは×で不合格と判定した。)
6)低温液中でのアルカリ金属硫酸塩の溶解安定性。(液を5℃にした時に、溶解させていたアルカリ金属硫酸塩が析出してこない場合を○で合格、アルカリ金属硫酸塩が析出してくる場合を×で不合格とした。)
7)整流器負荷の程度。(整流器負荷の負荷の程度としては、電流密度4A/dm2、および、6A/dm2で電解処理した時、整流器の電圧が20V未満の場合を○として合格、20V以上25V以下の場合を△、25Vを超える場合を×として不合格、と判定した。)
これに対し、比較例17、比較例18からわかるように、酸化すず量が、3.5mC/cm2を超える場合は、塗料密着性が悪くなることがわかる。
Claims (5)
- クロム化合物、フッ素、硝酸性窒素を含まない処理液中で、すずめっき鋼板を陰極電解皮膜処理する容器材料用鋼板の製造方法において、
陰極電解皮膜処理前のすずめっき鋼板上に存在する酸化すず層を、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムを含む水溶液中における陰極電解処理、または、硫酸水溶液浸漬処理によって、電解剥離法による測定で0mC/cm2以上、3.5mC/cm2以下まで除去し、その後、
電気伝導度0.2S/m以上6.0S/m以下、pH1.5以上2.5以下のジルコニウム化合物を含むアルカリ金属硫酸塩水溶液中で、陰極電解皮膜処理してジルコニウム換算皮膜付着量で0.1mg/m2以上20mg/m2以下の皮膜を形成させることを特徴とする環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。 - 前記アルカリ金属硫酸塩水溶液中に含まれるジルコニウムの濃度が10mg/L以上2000mg/L以下であることを特徴とする請求項1記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
- 前記アルカリ金属硫酸塩が硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1または2記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
- 前記アルカリ金属硫酸塩が硫酸カリウムであることを特徴とする請求項1または2記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
- 前記アルカリ金属硫酸塩水溶液中のアルカリ金属硫酸塩の濃度が0.1質量%以上8.0質量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の環境への負荷の少ない容器材料用鋼板の製造方法。
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