以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
図1は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す断面図である。図4は、実施形態の超音波探触子における圧電部の背面図である。図5は、実施形態の超音波探触子における圧電部の要部を拡大した正面図である。図6は、実施形態の超音波探触子における圧電部の、図5に示すI−I線における断面図である。
実施形態における超音波診断装置Sは、図1に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信すると共に、この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して第1超音波信号を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体内から来た第2超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備える。
この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波は、被検体内における音響インピーダンスの不整合によって被検体内で第1超音波信号が反射した反射波(エコー)だけでなく、例えば微小気泡(マイクロバブル)等の超音波造影剤(コントラスト剤)が用いられている場合には、第1超音波信号に基づいて超音波造影剤の微小気泡で生成される超音波もある。超音波造影剤では、超音波の照射を受けると、超音波造影剤の微小気泡は、共振もしくは共鳴し、さらに一定の閾値以上の音圧では崩壊、消失する。超音波造影剤では、微小気泡の共振によって、あるいは微小気泡の崩壊、消失によって、超音波が生じている。
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像処理部14と、表示部15と、制御部16とを備えている。
操作入力部11は、例えば、診断開始等を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボードやマウス等である。
送信部12は、制御部16の制御に従って、超音波探触子2に第1超音波信号を発信(送信)させる制御信号を生成するインターフェース回路である。送信部12の制御信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2へ供給される。
受信部13は、制御部16の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信するインターフェース回路であり、この受信信号を画像処理部14へ出力する。受信部13は、例えば、ケーブル3の伝送損失(伝送ロス)を補償するべく、受信信号を予め設定された所定の増幅率で増幅する増幅器等を備えている。
画像処理部14は、制御部16の制御に従って、受信部13で受信された、第1超音波信号に基づく被検体内から来た第2超音波信号における所定の周波数成分に基づいて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。前記所定の周波数成分は、例えば、基本波成分、ならびに、例えば2次高調波成分、3次高調波成分および4次高調波成分等の高調波成分を挙げることができる。画像処理部14は、複数の周波数成分を用いて超音波画像を形成するように構成されてもよい。画像処理部14は、例えば、受信部13の出力に基づいて被検体の超音波画像を生成するDSP(Digital Signal Processor)、および、表示部15に超音波画像を表示すべく、前記DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)等を備えて構成される。前記DSPは、例えば、Bモード処理回路、ドプラ処理回路およびカラーモード処理回路等を備え、いわゆるBモード画像、ドプラ画像およびカラーモード画像の生成が可能とされている。
表示部15は、制御部16の制御に従って、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する装置である。表示部15は、例えば、CRTディスプレイ、LCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
制御部16は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備え、これら超音波探触子2、操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14および表示部15を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
また、超音波探触子(超音波プローブ)2は、被検体内に第1超音波信号を送信しこの第1超音波信号に基づく被検体内から来た第2超音波信号を受信する装置である。超音波探触子2は、例えば、図3に示すように、信号処理回路421を搭載した平板状の信号処理部42と、信号処理部42上に積層された平板状の音響制動部材(音響吸収部材、バッキング層、ダンパ層)43と、この音響制動部材43上に積層された圧電部5と、この圧電部5上に積層された保護層41とを備えている。このように本実施形態の超音波探触子2は、信号処理部42から音軸方向に沿って超音波送受信面に向かって、音響制動部材43、圧電部5および保護層41の順で順次に積層されている。
信号処理部42は、例えば、前記信号処理回路421を搭載した基板等を備えている。この信号処理回路421は、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1と接続され、圧電部5に第1超音波信号を送信させるための送信信号の生成や、圧電部5で受信された第2超音波信号に基づく受信信号の生成等の、信号処理を行う回路である。
より具体的には、信号処理回路421は、送信部12からケーブル3を介して送られてくる前記制御信号に基づいて圧電部5に第1超音波信号を送信させる電気信号の送信信号を生成する回路であり、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えている。そして、超音波探触子2の圧電部5が複数の圧電素子を備える場合には、信号処理回路421は、超音波探触子2を構成する複数の圧電素子によって所定方向(所定方位)にメインビーム(主ビーム)を形成した送信ビームの第1超音波信号を被検体内へ送信すべく、例えば、高圧パルス発生器で生成されるパスルに遅延回路で遅延時間を付与することによって駆動信号を生成する送信ビームフォーマ等も備えてよい。この信号処理回路421で生成された駆動信号は、複数の圧電素子のそれぞれに対し適宜に遅延時間を個別に設定した、パルス状の複数の信号であり、超音波探触子2における前記複数の圧電素子のそれぞれに供給される。この複数の駆動信号によって超音波探触子2は、各圧電素子から放射された超音波の位相が特定方向(特定方位、方向制御)(あるいは、特定の送信フォーカス点、深度制御)において一致し、その特定方向にメインビームを形成した送信ビームの第1超音波信号を発生する。前記所定方向は、前記複数の圧電素子によって形成される超音波信号の送受信面における法線方向を基準(0度)とした角度によって表される。このような電子走査方式には、リニア走査方式、セクタ走査方式およびコンベックス方式等がある。
そして、信号処理回路421は、信号処理に適した信号レベルに増幅するべく、圧電部5で受信された第2超音波信号に基づく受信信号を所定の増幅率で増幅する回路である。信号処理回路421には、送信時の送信ビームの形成と同様に、受信時もいわゆる整相加算することによって受信ビームが形成されてよい。すなわち、超音波探触子2における前記複数の圧電素子のそれぞれから出力される複数の出力信号に対し適宜に遅延時間が個別に設定され、これら遅延された複数の出力信号を加算することによって、各出力信号の位相が特定方向(特定方位)(あるいは、特定の受信フォーカス点)において一致し、その特定方向にメインビームが形成される。このような場合において、信号処理回路421は、例えば、前記増幅された各受信信号が入力される受信ビームフォーマ等を備えてよい。
このような信号処理回路421は、超音波診断装置本体1内に備えられても良いが、本実施形態のように超音波探触子2内に備えられることによって、超音波診断装置Sは、ケーブル3の線数を低減することができ、ケーブル3が曲げ易くなり、この結果、超音波探触子2の操作性を向上することができる。あるいは、超音波診断装置Sは、ケーブル3の線数を低減することができ、超音波内視鏡に好適な超音波探触子2を提供することができる。
音響制動部材43は、超音波を吸収する材料(超音波吸収材)から構成され、主に、圧電部5から音響制動部材43方向へ放射される超音波を吸収するものである。音響制動部材43は、超音波を充分に減衰することによって圧電部5の音響的特性を良好に保つべく、使用される超音波の波長に対して充分な厚みを有していることが好ましい。また、音響制動部材43は、圧電部5を機械的に支持するものであり、また、第1超音波信号のパルス波形を短くすべく音響的に制動をかけるものである。音響制動部材43は、一般に、音響負荷部材、バッキング層、ダンパ層あるいは音響吸収部材とも呼ばれる。音響制動部材43の材料として、例えばエポキシ樹脂等の樹脂に音響散乱粉体を混ぜた材料が挙げられる。このような材料では音響散乱粉体によって超音波の減衰率を大きくすることができる。音響散乱粉体は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、銀(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、インジウム(In)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびタンタル(Ta)等を挙げることができるが、コストや入手の容易性から、タングステンが用いられることが好ましい。音響制動部材43には、信号処理部42と圧電部5とを電気的に接続するための貫通配線が圧電部5の圧電素子の個数に応じた個数で形成されている。
圧電部5は、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる圧電素子を備えている。圧電部5は、単体の圧電素子を備えて構成されても良いが、2次元超音波画像や3次元超音波画像を形成するべく、複数の圧電素子を備えて構成されて良い。これら複数の圧電素子は、例えば、互いに所定の間隔を空けて直線的に配列され、1次元リニアアレイ型超音波振動子を構成してもよく、また例えば、これら複数の圧電素子は、互いに所定の間隔を空けて平面視にて互いに線形独立な2方向に、例えば、互いに直交する2方向にj行×k列で配列され、2次元アレイ状に構成された2次元アレイ型超音波振動子を構成してもよい(j、kは、正の整数である)。これら複数の圧電素子間には、相互干渉を低減するために、超音波を吸収する超音波吸収材が充填されてもよい。圧電部5の構造等について、さらに後述する。
保護層41は、圧電部5を外部の環境から保護するとともに、診断に際して例えば生体等の被検体と当接し、圧電部5の音響インピーダンスと前記被検体の音響インピーダンスとの整合をとる部材である。そして、好ましくは、保護層41は、被検体が生体である場合には、前記当接の際に、生体に不快感を与えることがない部材である。保護層41は、例えば、人体に近い音響インピーダンスを持つ比較的柔軟なシリコーンゴム等から形成される。
なお、超音波探触子2は、超音波の波長帯域の波にレンズ作用を及ぼし、被検体に向けて送信される超音波を収束する部材である音響レンズをさらに保護層41上に積層形成されてもよい。このような音響レンズは、円弧状に膨出した形状とされる。例えば、1次元リニアアレイ型超音波振動子において、この音響レンズは、走査面に対し直交する方向で第1超音波信号を収束する。なお、このような音響レンズは、保護層41と一体に形成されてもよい。
圧電部5は、上述したように、単体の圧電素子を備えて構成されても良いが、本実施形態では、図4に示すように、複数の圧電素子66を備えている。そして、圧電部5は、上述したように、1次元リニアアレイ型超音波振動子となるように構成されても良いが、本実施形態では、これら複数の圧電素子66は、互いに直交する2方向にj行×k列で2次元アレイ状に配列されている。
これら複数の圧電素子66のそれぞれは、複数の圧電セル6(6A、6B)を備えており、図4では、個々の圧電素子66は、便宜的に二点破線で示されている。圧電セル6は、超音波探触子2の診断部位に応じた周波数に対応した周波数で共振するように設計され、その形状や1個の圧電素子66での個数等が適宜に決定される。図4に示す例では、1個の圧電素子66は、4個の圧電セル6を備えており、これら4個の圧電セル6は、互いに直交する2方向に2行×2列で2次元アレイ状に配列されており、これら4個の圧電セル6は、後述の各第1電極62(62A、62B)が共通接続されるとともに各第2電極63(63A、63B)が共通接続され、さらに、同時に駆動されるように信号処理部42の信号処理回路421と電気的に接続されている。これによって、これら4個の圧電セル6は、1個の圧電素子66として機能する。
本実施形態の圧電セル6は、ペロブスカイト型強誘電体から形成された圧電部材61と、圧電部材61に所定の電圧を印加するための一対の第1および第2電極62、63とを備え、圧電部材61は、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向膜および(100)面の極点図がリング状に分布した(111)配向膜のうちのいずれか一方である。
極点図は、試料の配向状態を記述した図であり、球(投影球)の中心に試料を置いた場合に、その試料に含まれる特定の結晶面の法線ベクトルが前記球の球面を貫く位置に点(前記法線ベクトルと前記球の球面との交点)を打ち、その点(極)の分布を表した図あるいはその分布を平面(ポーラネット)に射影することによって得られた図、または、その点の分布を球面上の等高線によって表した図、または、その前記球面上の等高線を平面に投影することによって得られた図である。
このような極点図は、X線回折装置を用い、入射X線の入射方向を走査しつつ、測定したい結晶面のフラッグ角2θに配置されたX線検出器で、前記入射X線の回折X線を検出することによって得られる。極点図を得る極点測定方法は、例えば、特開2001−56304号公報や特開2006−71377号公報等に開示されている。
より具体的には、圧電セル6の第1態様として圧電セル6Aは、図5および図6に示すように、圧電部材61Aと、第1電極62Aと、第2電極63Aとを備えている。圧電部材61Aは、例えばPZT(チタン酸ジルコニウム酸鉛)や、その他ABO3型のPZT−PMN等のペロブスカイト型強誘電体から層状(薄膜状)に形成される。このため、本実施形態における圧電セル6Aは、PZTまたはPZT系の効果を享受することができる。
ここで、Aサイト元素をAとし、Bサイト元素をBとした場合に、前記Aには少なくともPbを含み、前記Bには少なくともZrおよびTiを含み、さらに前記AにはBa,La、Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg、Kからなる集合と、前記BにはV,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Cd,Fe,Niからなる集合の少なくとも1つ以上を含むものである。
そして、第1電極62Aおよび第2電極63Aは、圧電部材61Aの一方面上に配置され、圧電部材61Aに所定の電圧を印加するために一対で機能する。そして、圧電部材61Aならびに第1および第2電極62A、63Aは、圧電部材61Aが、第1および第2電極62A、63Aに所定の電圧を印加した場合に第1および第2電極62A、63Aによって生じた電界の方向に略沿った方向に分極して33モードで駆動されるように、それらの形状および配置が適宜に設計される。
例えば、図5および図6に示す例では、第1電極62Aは、相対的に大径の略環形状(略リング形状)とされる第1電極本体621Aと、配線を行うために第1電極本体621Aから引き出された第1電極引出線622Aとを備え、圧電部材61Aの一方面上に形成される。第2電極63Aは、相対的に小径の略環形状(略リング形状)とされる第2電極本体631Aと、配線を行うために第2電極本体631Aから引き出された第2電極引出線632Aとを備え、第2電極本体631Aが第1電極本体621Aの径内側に同心となるように、圧電部材61Aの一方面上に形成される。したがって、第1電極本体621Aは、第2電極本体631Aより大きな直径で形成されている。そして、第1電極本体621Aは、第2電極引出線632Aが圧電部材61Aの前記一方面上でその外部へ引き出されるように、その一部が切り欠かれ、切り欠き部が形成されている。なお、第2電極引出線632Aが立体的に引き出される場合には、第1電極本体621Aには、このような切り欠き部は、不要である。第1電極62Aは、プラス極の外側電極とされ、第2電極63Aは、マイナス極の内側電極とされる。これら第1および第2電極62A、63Aは、例えば、金(Au)または白金(Pt)(それらの合金も含む)等で形成される。
このような構成の圧電セル6Aでは、第1および第2電極62A、63Aに所定の電圧が印加されると、第1および第2電極62A、63A間に径方向に略沿った方向に電界が生じる。このように第1電極62Aと第2電極63Aとによって区画されたリング状領域が電界領域となっている。そして、この電界によって、圧電部材61Aは、この電界の方向に略沿った方向に分極して33モードで駆動する。このため、本実施形態の圧電セル6Aは、より効率よく駆動され得る。また、このような構成の圧電セル6Aでは、第1および第2電極62A、63Aは、圧電部材61Aの一方面上に配置されるため、これら第1および第2電極62A、63A間隔をより長く(大きく)設定することが容易であり、高感度化(単位圧力に対する出力電圧の向上化)を図り易い。
そして、本実施形態の圧電素子66は、厚さが他の領域より薄い薄肉領域81を持つ基板8を備え、圧電セル6Aは、この基板8の薄肉領域81上に形成されている。本実施形態における圧電セル6Aは、いわゆるpMUT型である。このため、本実施形態における圧電セル6Aは、pMUTの効果を享受することができる。
より具体的には、基板8は、板状体であり、下部基板82と、上部基板83とを備えている。上部基板83上には、圧電セル6Aが積層形成されており、上部基板83は、下部基板82によって支持される。下部基板82には、圧電セル6Aの第1電極本体621Aに対応する位置に、第1電極本体621Aの直径よりやや小さな直径の円筒形状の貫通孔821が形成されている。すなわち、貫通孔821では、上部基板83が臨んでいる。この貫通孔821が形成されている領域に対応した上部基板83の領域が前記薄肉領域81となっている。上部基板83は、圧電部材61Aにより良好な電位分布を生じさせるために、電気的な絶縁性を有する絶縁材料で形成され、例えば、二酸化シリコン(SiO2)や窒化シリコン(SiN)等から形成される。下部基板82は、いわゆるMEMS技術によって圧電セル6Aおよび圧電素子66を形成するべく、例えばシリコン(Si)等から形成される。
このような構成の圧電素子66では、圧電セル6Aが送信信号によって駆動されると、薄肉領域81が太鼓のように振動し、これによって超音波が放射され、一方、超音波が受信されると、薄肉領域81が太鼓のように振動し、これによって圧電セル6Aに受信信号として電圧が誘起される。ここで、第2電極63Aの第2電極本体631Aの径内側領域に対応する圧電部材61Aは、存在していても良いが、より効率よく薄肉領域81を振動させるために、本実施形態では、図5および図6に示すように、第2電極本体631Aの径内側領域に対応する圧電部材61Aは、除去されており、上部基板83が臨んでいる。
このように圧電素子66は、圧電セル6Aと、振動板となる薄肉領域81とから成るユニモルフ構造のダイヤフラム構造となっており、圧電部材61Aの歪みを効率よく薄肉領域81の撓み変形に変換することができる。ダイヤフラム構造は、その実効的な音響インピーダンスが被検体(例えば生体)の音響インピーダンスに整合するように設計されることによって、超音波探触子2は、超音波を効率よく被検体へ伝えることができる。より具体的には、ダイヤフラム構造におけるその剛性が最適化される。さらに、ダイヤフラム構造における、共振周波数、送信特性(例えば送信感度、送信周波数帯域)および受信特性(例えば受信感度、受信周波数帯域)に応じて、振動板(薄肉領域81)の材料および厚さ、ダイヤフラム構造の直径、圧電部材61Aの厚さ、第1および第2電極62A、63A間の間隔、第1および第2電極62A、63Aの直径等が適宜に設計される。
このような圧電素子66および圧電セル6Aは、次の各工程(各製造プロセス)を経ることによって形成される。図7は、圧電部の結晶を模式的に示す模式図およびその極点図である。図7(A)は、圧電部の結晶を模式的に示す模式図であり、図7(B)は、極点図である。図8は、参考例として示す、単結晶の場合における結晶の模式図およびその極点図である。図8(A)は、結晶の模式図であり、図8(B)は、極点図である。
まず、シリコン基板、例えば厚さ400μm程度の単結晶シリコンウェハ(単結晶Siウェハ)が用意される。単結晶Siウェハは、その厚さが300μm〜725μmであって直径が3インチ〜8インチ等の標準的なウェハであってよい。単結晶Siウェハの表面は、平滑性がよいので、この上に成膜することによって、結晶性の優れた誘電体膜が得られ、振動板の加工が容易である。はじめに、この単結晶Siウェハが熱酸化法によって熱酸化され、単結晶Siウェハに熱酸化膜(シリコン酸化膜、SiO2膜)が1μm程度形成される。次に、このシリコン酸化膜と応力のバランスを取るために、このシリコン酸化膜上にシリコン窒化膜(SiN)が化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)によって1μm程度形成される。これらシリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のそれぞれの各厚さは、成膜されるシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との膜応力のバランスを取りながら、前記ダイヤフラム構造の振動板として必要な厚さとなるように調整される。この熱酸化法では、単結晶Siウェハが配置されたウェット酸化用熱炉内に酸素雰囲気(不活性ガスを含んでもよい)または水蒸気が導入され、前記酸素雰囲気または前記水蒸気の気体雰囲気中で単結晶Siウェハが、前記ウェット酸化用熱炉内を加熱することで高温に加熱され、その表面に所定の厚さ(例えば約1μm等)のシリコン酸化膜が形成される。シリコン窒化膜は、原料ガスに例えばSiH4およびNH3を用いたCVD法によって成膜される。なお、これらシリコン酸化膜およびシリコン窒化膜は、例えばスパッタ法等の他の成膜法によって形成されてもよい。したがって、シリコン酸化膜は、単結晶Siウェハの一部を改質することによって形成されてもよく、また、単結晶Siウェハ上に積層形成されてもよい。
次に、シリコン窒化膜上に厚さ20nm程度のチタン膜(Ti膜)が例えばスパッタ法によって形成される。チタン膜成膜のスパッタ条件は、例えばアルゴン(Ar)流量20sccm、圧力0.4Pa、ターゲットに印加するRFパワー200W、単結晶Siウェハの温度530℃である。次に、チタン膜成膜後に、RTA炉(急速加熱炉)で酸素雰囲気中で700℃程度に単結晶Siウェハを加熱することによってルチル構造を持つ酸化チタンが形成された。このように形成されたシリコン酸化膜、シリコン窒化膜および酸化チタン膜の部分は、上部基板83の一例に相当し、単結晶Siウェハの部分は、下部基板82の一例に相当する。
次に、単結晶Siウェハの酸化チタン上に、ペロブスカイト型強誘電体膜であるPZT膜が形成された。このPZT膜は、圧電部材61Aの一例に相当する。このペロブスカイト型強誘電体膜の形成方法は、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向膜または(100)面の極点図がリング状に分布した(111)配向膜を形成することが可能であれば、所定の成膜法であってもよい。ペロブスカイト型強誘電体膜の形成方法は、例えば、スパッタ法、パルスレーザーデポジッション(PLD)法やイオンプレーティング法等の物理成膜法、あるいは、MOCVD法やゾルゲル法等の化学成膜法であってもよい。
例えば、本実施形態では、ペロブスカイト型強誘電体膜の形成方法には、スパッタ法が用いられた。スパッタ法は、例えばゾルゲル法の場合よりも量産性に優れ、また、得られる強誘電体の結晶性も優れたものとなる。このスパッタ法のターゲットには、Zi/Ti比がMPB(モロフォトロピック相境界)組成である52/48である部材が用いられた。このターゲットのPb組成は、鉛(Pb)が高温成膜時に再蒸発し易く、形成された薄膜が鉛不足に成り易いため、ペロブスカイト結晶の化学量論比よりも多めに添加され、その添加量は、成膜温度に依るが、ターゲットのPb量は、化学量論比よりも10〜30%増やすことが望ましい。そして、PZT膜成膜のスパッタ条件は、Ar流量25sccm、酸素(O2)流量0.4sccm、圧力0.4Pa、基板温度500℃およびRFパワー500Wである。この条件によって、厚さ5μmのPZT膜が形成された。
このようなスパッタ条件によって成膜したPZT膜をX線回折装置で測定したところ、PZT膜は、(100)主配向であり、その配向度は、90%であった。そして、その極点図で確認したところ、(111)面は、図7(B)に示すように、リング状に観測された。すなわち、PZT膜は、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向膜であった。したがって、PZT膜は、図7(A)に模式的に示すように、1軸配向回転であって、面内方向には配向していないと、推察される。すなわち、PZT膜は、基板8に垂直な方向に配向しており、そして、基板8の表面に平行な面内では、無配向である。
なお、参考例として、単結晶では、図8(A)に模式的に示すように、結晶は、完全配向しており、その(111)面の極点図は、図8(B)に示すように、4回対称のスポットとなる。
続いて、第1および第2電極62A、63AとなるTi/Au層(Ti/Au膜)が成膜される。このTiに代え、亜鉛(Zn)やニッケル(Ni)であってもよく、また、金(Au)に代え、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等であってもよい。次に、このTi/Au層が例えばエッチングやリフトオフ等のフォトリソグラフィー技術を用いることによってパターニングされ、上述の形状の第1および第2電極62A、63Aが形成される。
次に、第2電極63Aの第2電極本体631Aにおける径内側に対応するPZT膜が例えばエッチングによって除去される。
次に、第1電極62Aの第1電極本体621Aに対応する位置に、第1電極本体621Aの直径よりやや小さな直径の円筒形状で単結晶Siウェハが例えばエッチングによって除去され、上述の貫通孔821が形成される。
次に、PZT膜の分極方向を電界印加方向に揃えるために、電気接続を行った後、第2電極63A−第1電極62A間に、数V/μm以上の強度の電界が印加され、分極処理が行われる。
これによってダイヤフラム構造のpMUT型の圧電セル6Aおよび圧電素子66が形成される。
このような圧電セル6A、圧電素子66および超音波探触子2を備える超音波診断装置Sでは、診断の際に、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部16の制御によって送信部12で制御信号が生成される。この生成された制御信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2へ供給される。
超音波探触子2では、この制御信号によって信号処理部42の信号処理回路421は、前記制御信号に基づいて圧電部5に第1超音波信号を送信させる電気信号の送信信号を生成し、この送信信号によって圧電部5は、第1超音波信号を送信する。例えば、本実施形態では、圧電部5では、各パルス信号が前記複数の圧電素子66のそれぞれへ所定の遅延時間でそれぞれ供給される。圧電部5の圧電素子66では、このパルス信号が供給されることによって各圧電セル6Aの各圧電部材61Aが同期して径方向にそれぞれ歪み、その径方向の各歪みによって各薄肉領域81が厚さ方向に同期してそれぞれ撓み変形して、各薄肉領域81がそれぞれ同期して太鼓状に超音波振動する。
この撓み変形に際し、本実施形態では、圧電部材61Aは、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向膜であるため、等方的に変形する。すなわち、薄肉領域81における厚さ方向に沿った任意の断面(静止状態の薄肉領域81の平面をxy平面とした場合にz軸に沿って前記z軸を含む任意の断面)は、略同一となる。したがって、前記超音波振動による超音波は、より等方的に放射される。すなわち、rθφ球座標(静止状態の薄肉領域81の平面をxy平面とし音軸方向をz軸としたxyz座標系に対し、θをz軸となす角とし、φをx軸となす角としたrθφ球座標)において、θが同じであれば、任意のφの放射方向で、前記超音波振動による超音波は、略同一の強度となる。
そして、本実施形態では、圧電部材61Aがペロブスカイト型強誘電体であって、(100)配向膜であるので、音軸に沿った方向に配向させることによって、高い圧電定数を持った部材となり、変換効率が高く、より強い強度の音波を放射することができる。
また、本実施形態では、圧電素子66の圧電セル6Aは、上述のように、電界の方向と同じ方向(33方向)の歪みを利用する33モードで駆動されるため、より効率よく駆動され得る。
そして、上記超音波振動によって、圧電部5は、第1超音波信号を放射する。圧電部5から音響制動部材43方向へ放射された第1超音波信号は、音響制動部材43によって吸収される。また、圧電部5から保護層41方向へ放射された第1超音波信号は、保護層41を介して放射される。超音波探触子2が被検体に例えば当接されていると、これによって超音波探触子2から被検体に対して第1超音波信号が送信される。
なお、超音波探触子2は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
この被検体に対して送信された超音波は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波となる。あるいは超音波造影剤が被検体内に注入されている場合には、第1超音波信号に起因して超音波造影剤によって超音波が生成される。この超音波には、送信された第1超音波信号の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍等の2次高調波成分、3次高調波成分および4次高調波成分等も含まれる。この超音波は、超音波探触子2で受信される。より具体的には、この超音波は、保護層41を介して圧電部5における圧電素子66で受信される。すなわち、この超音波は、圧電部5で受信され、圧電素子66の圧電セル6Aで機械的な振動が電気信号に変換されて受信信号として取り出される。
そして、圧電部5で取り出されたこの電気信号の受信信号は、信号処理部42の信号処理回路421で受信処理され、ケーブル3を介して制御部16で制御される受信部13で受信される。受信部13は、この入力された受信信号を増幅等の処理を行い、画像処理部14へ出力する。
ここで、上述において、方位およびフォーカス深度(観察点)を変えながら電子走査を行うべく、圧電部5から順次に第1超音波信号が被検体に向けて送信され、被検体で反射した第2超音波信号が圧電部5で受信される。
そして、画像処理部14は、制御部16の制御によって、受信部13で処理された受信信号に基づいて、送信から受信までの時間や受信強度等から被検体の超音波画像を生成する。例えば、画像処理部14では、フィルタ法によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基づいてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。また例えば、画像処理部14では、位相反転法(パルスインバージョン法)によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基づいてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。そして、表示部15は、制御部16の制御によって、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する。
なお、上述の実施形態において、圧電部材61Aは、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向膜であったが、図9に示すように、(100)面の極点図がリング状に分布した(111)配向膜であってもよい。図9は、圧電部の他の結晶を模式的に示す模式図およびその極点図である。図9(A)は、圧電部の結晶を模式的に示す模式図であり、図9(B)は、極点図である。このような(100)面の極点図がリング状に分布した(111)配向膜の圧電部材61Aは、上述の製造プロセスにおいて、前記酸化チタンに代え、前記シリコン酸化膜上に酸化マグネシウム膜(MgO膜)を成膜することによって、形成される。このような製造プロセスでは、MgO膜が(111)配向であるため、MgO膜状に形成されるPZT膜もMgO膜の(111)配向を引き継ぎ、(111)配向のPZT膜となるものと、発明者は、推察している。
一方、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向のPZT膜を成膜する前述の製造プロセスでは、表面がより平らであって結晶性がより良い下地を形成すると、(100)配向のPZT膜が形成され易い。(100)配向膜は、PZT膜において、表面エネルギーが最も小さい状態である。このため、下地の影響が少ない状態では、このエネルギー的に最も安定している(100)配向のPZT膜が形成されるものと、発明者は、推察している。
また、上述の実施形態において、圧電部5の圧電セル6Aの構造は、上述した図5および図6に示す構造だけでなく、図10および図11に示す構造の第2態様の圧電セル6Bであってもよい。図10は、実施形態の超音波探触子における他の構成の圧電部の要部を拡大した正面図である。図11は、実施形態の超音波探触子における圧電部の、図10に示すII−II線における断面図である。
図10および図11に示す構造の圧電セル6Bは、薄肉領域81の直径よりも若干小さな直径である。この圧電セル6Bは、ペロブスカイト型強誘電体から形成された圧電部材61Bと、圧電部材61Bに所定の電圧を印加するための一対の第1および第2電極62B、63Bとを備え、圧電部材61Bは、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向膜および(100)面の極点図がリング状に分布した(111)配向膜のうちのいずれか一方である。
より具体的には、図10および図11に示すように、圧電セル6Bは、圧電部材61Bと、第1電極62Bと、第2電極63Bとを備えている。圧電部材61Bは、例えばPZTや、PZT系等のペロブスカイト型強誘電体から層状(薄膜状)に形成され、そして、平面視にて、薄肉領域81の直径よりも若干小さな直径の円形形状で形成されている。第1電極62Bおよび第2電極63Bは、圧電部材61Bの一方面上に配置され、圧電部材61Bに所定の電圧を印加するために一対で機能する。そして、圧電部材61Bならびに第1および第2電極62B、63Bは、圧電部材61Bが、第1および第2電極62B、63Bに所定の電圧を印加した場合に第1および第2電極62B、63Bによって生じた電界の方向に略沿った方向に分極して33モードで駆動されるように、それらの形状および配置が適宜に設計される。
例えば、図10および図11に示す例では、第1電極62Bは、相対的に大径の略環形状(略リング形状)とされる第1電極本体621Bと、配線を行うために第1電極本体621Bから引き出された第1電極引出線622Bとを備え、圧電部材61Bの一方面上に形成される。第2電極63Bは、相対的に小径の円形状とされる第2電極本体631Bと、配線を行うために第2電極本体631Bから引き出された第2電極引出線632Bとを備え、第2電極本体631Bが第1電極本体621Bの径内側に同心となるように、圧電部材61Bの一方面上に形成される。したがって、第1電極本体621Bは、第2電極本体631Bより大きな直径で形成されている。そして、第1電極本体621Bは、第2電極引出線632Bが圧電部材61Bの前記一方面上でその外部へ引き出されるように、その一部が切り欠かれ、切り欠き部が形成されている。なお、第2電極引出線632Bが立体的に引き出される場合には、第1電極本体621Bには、このような切り欠き部は、不要である。第1電極62Bは、プラス極の外側電極とされ、第2電極63Bは、マイナス極の内側電極とされる。これら第1および第2電極62B、63Bは、例えば、金(Au)または白金(Pt)(それらの合金も含む)等で形成される。
このような構成の圧電セル6Bでは、第1および第2電極62B、63Bに所定の電圧が印加されると、第1および第2電極62B、63B間に径方向に略沿った方向に電界が生じる。このように第1電極62Bと第2電極63Bとによって区画されたリング状領域が電界領域となっている。そして、この電界によって、圧電部材61Bは、この電界の方向に略沿った方向に分極して33モードで駆動する。このため、本実施形態の圧電セル6Aは、より効率よく駆動され得る。また、このような構成の圧電セル6Bでは、第1および第2電極62B、63Bは、圧電部材61Bの一方面上に配置されるため、これら第1および第2電極62B、63B間隔をより長く(大きく)設定することが容易であり、高感度化(単位圧力に対する出力電圧の向上化)を図り易い。
そして、本実施形態の圧電素子66は、厚さが他の領域より薄い薄肉領域81を持つ基板8を備え、圧電セル6Bは、この基板8の薄肉領域81上に形成されている。本実施形態における圧電素子66は、いわゆるpMUT型である。このため、本実施形態における圧電セル6Aは、pMUTの効果を享受することができる。
このような構成の圧電セル6Bも圧電セル6Aと同様な作用効果を奏する。
また、上述の実施形態において、圧電素子66の複数の圧電セル6A、6Bは、それぞれ、平面視で任意の位置に配置されてよいが、圧電部5の複数の圧電セル6A、6Bは、これら複数の圧電セル6A、6Bにおける第1および第2電極62A、63A;62B、63Bに所定の電圧をそれぞれ印加した場合に放射される該圧電素子66としての音波が等方的に放射されるように、配置されることが好ましい。
図12は、1個の圧電素子における複数の圧電セルの第1配置態様を示す正面図である。図13は、1個の圧電素子における複数の圧電セルの第2配置態様を示す正面図である。
個々の圧電セル6A、6Bは、上述したように、圧電部材61A、61Bが、(111)面の極点図がリング状に分布した(100)配向膜および(100)面の極点図がリング状に分布した(111)配向膜のうちのいずれか一方であるため、従来に較べてより等方的に音波が放射される。第2電極引出線622A、632Bが例えばワイヤーボンディング等のように立体的に配線される場合には、第1および第2電極本体621A、631Bは、これらの同心点を中心にn回対称(nは2以上の任意の整数)であり、音波が等方的に放射される。しかしながら、図5および図6に示す圧電セル6Aならびに図10および図11に示す圧電セル6Bは、第1および第2電極62A、63A;62B、63Bを圧電部材61A、61Bの同一面上に形成しているため、第1および第2電極本体621A、631Bが第1および第2電極引出線622A、632Bを引き出すための前記切り欠き部を有し、その対称性が崩れている。このため、圧電セル6A、6Bは、音波の放射の点で、若干の異方性を有し、完全な等方性ではない。すなわち、圧電セル6A、6Bは、音波の放射の点で、その第1および第2電極本体621A、621Bの平面視での非対称性に起因する若干の異方性を有している。そこで、前記若干の異方性を見かけ上無くし、1個の圧電素子66全体として、音波が等方的に放射されるように、当該圧電素子66における複数の圧電セル6A、6Bが配置されることが好ましい。このように、このような構成の圧電素子66は、個々の圧電セル6A、6Bに異方性が残っている場合でも、圧電素子66としての音波が等方的に放射されるように各圧電セル6A、6Bが配置されるので、圧電素子66全体として、より等方的に音波を放射することができる。
圧電セル6Aおよび圧電セル6Bは、同様に構成することができるが、ここでは、圧電セル6Aの場合について、図12および図13を用いて、より具体的に説明する。
より具体的には、例えば、第1配置態様では、図12に示すように、1個の圧電素子66における複数の圧電セル6Aが、互いに直交する2方向に2l行×2m列で2次元アレイ状に配列されている場合に、1個の圧電素子66における複数の圧電セル6Aのうちの互いに隣接する2個の圧電セル6A、6Aにおいて、これら2個の圧電セル6A、6Aは、音波の放射の点で前記異方性を有する箇所を互いに対向させて配置される。すなわち、互いに隣接する2個の圧電セル6A、6Aにおける一方の圧電セル6Aの第1電極本体621Aの前記切り欠き部と、その他方の圧電セル6Aの第1電極本体621Aの前記切り欠き部とが、互いに向き合うように、これら互いに隣接する2個の圧電セル6A、6Aは、配置される。
図12に示す例では、1個の圧電素子66は、互いに直交する2方向に2行×2列で2次元アレイ状に配列された4個の圧電セル6A−11、6A−12、6A−21、6A−22を備え、互いに隣接する2個の圧電セル6A−11、6A−12における一方の圧電セル6A−11の第1電極本体621A−11の前記切り欠き部と、その他方の圧電セル6A−12の第1電極本体621A−12の前記切り欠き部とが、互いに向き合うように、これら互いに隣接する2個の圧電セル6A−11、6A−12は、配置され、互いに隣接する2個の圧電セル6A−21、6A−22における一方の圧電セル6A−21の第1電極本体621A−21の前記切り欠き部と、その他方の圧電セル6A−22の第1電極本体621A−22の前記切り欠き部とが、互いに向き合うように、これら互いに隣接する2個の圧電セル6A−21、6A−22は、配置される。そして、互いに隣接する2個の圧電セル6A−11、6A−12における第2電極引出線632A−11と第2電極引出線632A−12とは、一直線となるように配置され、互いに隣接する2個の圧電セル6A−21、6A−22における第2電極引出線632A−21と第2電極引出線632A−22とは、一直線となるように配置される。このように1個の圧電素子66における複数の圧電セル6Aが第1配置態様で配置されることによって、圧電素子66は、全体として、さらにより等方的に音波を放射することができる。
また、例えば、第2配置態様では、図13に示すように、1個の圧電素子66における複数の圧電セル6Aが、複数の圧電セル6Aおける各第1および第2電極62A、63Aの各同心点を、正多角形の各頂点位置にそれぞれ一致させて配列されている場合において、これら複数の圧電セル6Aは、音波の放射の点で前記異方性を有する箇所を前記正多角形の重心位置(外接円の中心位置)に向けて配置される。すなわち、これら複数の圧電セル6Aおける各第1電極本体621Aの前記各切り欠き部が前記正多角形の重心位置(外接円の中心位置)に向くように、これら複数の圧電セル6Aは、配置される。言い換えれば、複数の圧電セル6Aおける各第1および第2電極62A、63Aの各同心点を、同一円周上に周方向に等間隔で配置するとともに、これら複数の圧電セル6Aおける各第1電極本体621Aの前記各切り欠き部が前記円の中心に向くように、これら複数の圧電セル6Aは、配置される。
図13に示す例では、1個の圧電素子66は、正方形の各頂点位置に各第1および第2電極62A、63Aの各同心点を一致させて配列された4個の圧電セル6A−11、6A−12、6A−21、6A−22を備え、各圧電セル6A−11、6A−12、6A−21、6A−22における第1電極本体621A−11、621A−12、621A−21、621A−22の前記各切り欠き部が、前記正方形の重心位置(外接円の中心位置)に向くように、これら4個の圧電セル6A−11、6A−12、6A−21、6A−22は、配置される。そして、対角で配置されている2個の圧電セル6A−11、6A−22における第2電極引出線632A−11と第2電極引出線632A−22とは、一直線となるように配置され、対角で配置される2個の圧電セル6A−12、6A−21における第2電極引出線632A−12と第2電極引出線632A−21とは、一直線となるように配置され、これら4個の圧電セル6A−11、6A−12、6A−21、6A−22における第2電極引出線632A−11、632A−12、632A−21、632A−22は、一点で交差している。このように1個の圧電素子66における複数の圧電セル6Aが第2配置態様で配置されることによって、圧電素子66は、全体として、さらにより等方的に音波を放射することができる。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。