以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火プラグ、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11にはそれぞれ対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いたエアフロメータ18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。なお、以下の説明では、スロットル弁17から吸気弁7までの吸気枝管11、サージタンク12、吸気ダクト14等の部分を吸気管部分と称する。
一方、図1に示される実施形態ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施形態ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
図1に示されるようにクランクケース1とシリンダブロック2にはクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置関係を検出するための相対位置センサ22が取付けられており、この相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。また、可変バルブタイミング機構Bには吸気弁7の閉弁時期を示す出力信号を発生するバルブタイミングセンサ23が取付けられており、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。なお、本実施形態では、現在の機械圧縮比を検出するための機械圧縮比検出装置として相対位置センサ22が用いられるが、機械圧縮比検出装置としては相対位置センサ22以外の検出装置を使用することも可能である。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。エアフロメータ18、空燃比センサ21、相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23およびスロットル開度センサ24の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火プラグ6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内にはそれぞれ断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔ててそれぞれ対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にもそれぞれ断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示されるように一対のカムシャフト54、55が設けられており、各カムシャフト54、55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54、55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54、55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示されるようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54、55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心軸57は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)にはそれぞれの状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。すなわち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、したがって各カムシャフト54、55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示されるように各カムシャフト54、55をそれぞれ反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸にはそれぞれ螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61、62が取付けられており、これらウォーム61、62と噛合するウォームホイール63、64がそれぞれ各カムシャフト54、55の端部に固定されている。この実施形態では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側にはそれぞれ進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76、77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76、77にそれぞれ連結された油圧ポート79、80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83、84と、各ポート79、80、82、83、84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。したがって可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。したがって吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、したがって吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A)、(B)、(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A)、(B)、(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。すなわち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。したがって実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A)、(B)、(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。すなわち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、すなわち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、すなわち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。したがって通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見出されたのである。すなわち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。したがって膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、したがって実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、したがって機関運転時における熱効率を向上させるためには、すなわち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、したがってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。したがって本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ運転制御全般について概略的に説明する。
図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比およびスロットル弁17の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC、COおよびNOxを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。したがって図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
一方、図9において実線で示されるように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、したがって機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、したがって燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。すなわち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。したがってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示される例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる最大限界機械圧縮比に達する。機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に保持される。したがって低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時にはすなわち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
一方、図9に示される実施形態では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施形態ではこのとき、すなわち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。したがって、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施形態では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。このように吸入空気量は吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させても制御することができるし、破線に示すように変化させても制御することができるが、以下本発明について吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させた場合を例にとって説明する。
ところで前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。したがって本発明では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
次に図10から図12を参照しつつ侵入禁止領域と、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期に対する基準動作線について説明する。
図10は要求されている機関負荷を得るのに必要な吸入空気量、すなわち要求吸入空気量と、機械圧縮比と、吸気弁閉弁時期とを示している。なお、図10において要求吸入空気量は原点0から離れるにしたがって増大し、機械圧縮比は原点0から離れるにしたがって増大する。また、図10において吸気弁閉弁時期は吸気下死点後(ABDC)のクランク角で表されており、したがって吸気弁閉弁時期は原点0から離れるにしたがって遅角される。
一方、図10においてQ1、Q2、Q3、Q4、Q5はそれぞれ同一吸入空気量面を表しており、Q6はスロットル弁17が全開しているスロットル全開面を表している。図10からわかるようにこのスロットル全開面Q6は上に凸の湾曲面からなる。このスロットル全開面Q6の下方の領域では下方にいくほどスロットル開度が小さくなる。
図10においてハッチングで示される領域は各同一吸入空気量面Q1、Q2、Q3、Q4、Q5内における侵入禁止領域を示している。一方、図11は図10の上からみたところを示しており、図12(A)は図10における左側面S1を矢印方向からみたところを示しており、図12(B)は図10における右側面S2を矢印方向からみたところを示しており、これら図11および図12(A)、(B)においてもハッチングで示される領域は侵入禁止領域を示している。
図10、図11、図12(A)、(B)から侵入禁止領域は3次元的に広がっており、さらにこの侵入禁止領域は高負荷側の領域X1と低負荷側の領域X2との2つの領域からなることがわかる。なお、図10、図11、図12(A)、(B)からわかるように高負荷側侵入禁止領域X1は要求吸入空気量が多く、吸気弁閉弁時期が進角側で機械圧縮比が高い側に形成され、低負荷側侵入禁止領域X2は要求吸入空気量が少なく、吸気弁閉弁時期が遅角側で機械圧縮比が低い側に形成される。
さて、図9は要求吸入空気量に対して最小燃費の得られる、吸気弁閉弁時期と機械圧縮比と実圧縮比とスロットル開度の関係を示しており、これらの関係を満たす線が図10および図11において実線Wで示されている。図10からわかるようにこの線Wは同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が多い側ではスロットル全開面Q6上を延びており、同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が少ない側では右側面S2上を延びている。この同一吸入空気量面Q3は図9の負荷L1に対応している。
すなわち、図9においてL1よりも機関負荷が高い領域では機関負荷が高くなるほど、すなわち要求吸入空気量が増大するほどスロットル弁17が全開に保持された状態で吸気弁閉弁時期が進角され、このとき機械圧縮比は実圧縮比が一定となるように要求吸入空気量が増大するほど低下せしめられる。このときの機械圧縮比と吸気弁閉弁時期との関係が図10のスロットル全開面Q6上における線Wで表されている。すなわち、図10に示されるように同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が多い側では要求吸入空気量が増大するほどスロットル弁17が全開に保持された状態で吸気弁閉弁時期が進角され、このとき機械圧縮比は実圧縮比が一定となるように要求吸入空気量が増大するほど低下せしめられる。
一方、図9においてL1よりも機関負荷が低い領域では機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が一定に保持され、機関負荷が低くなるほど、すなわち要求吸入空気量が減少するほどスロットル弁17の開度が減少せしめられる。このときの機械圧縮比と吸気弁閉弁時期との関係が図10の右側面S2上における線Wで表されている。すなわち、図10に示されるように同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が少ない側では機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が一定に保持され、機関負荷が低くなるほど、すなわち要求吸入空気量が減少するほどスロットル弁17の開度が減少せしめられる。
本願明細書では、要求吸入空気量が変化したときに機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とが辿る線を動作線と称しており、特に図10に示される線Wは基準動作線と称されている。なお、前述したようにこの基準動作線は最小燃費の得られる最小燃費動作線を示している。
前述したようにこの基準動作線W上では実圧縮比が一定とされている。実圧縮比はスロットル弁17の開度とは無関係であって機械圧縮比および吸気弁閉弁時期のみによって定まるので図10において基準動作線Wを通り垂直方向に延びる曲面上では同一実圧縮比となる。この場合、この曲面よりも機械圧縮比の高い側では実圧縮比が高くなり、この曲面よりも機械圧縮比の低い側では実圧縮比が低くなる。すなわち、大雑把に言うと、高負荷側侵入禁止領域X1は基準動作線W上における実圧縮比よりも実圧縮比の高い領域に位置しており、低負荷側侵入禁止領域X2は基準動作線W上における実圧縮比よりも実圧縮比の低い領域に位置している。
さて、燃費を向上するために実圧縮比を高くするとノッキングが発生し、ノッキングの発生を阻止するために点火時期を遅角させると燃焼が不安定となってトルク変動を生ずる。高負荷側侵入禁止領域X1はこのようなトルク変動を生ずる運転領域であり、したがって機関運転時には機関の運転状態がこのようなトルク変動を生ずる運転領域内に入らないようにする必要がある。一方、吸入空気量が少なく実圧縮比が低くなると燃焼しづらくなり、スロットル弁17の開度が小さくなって圧縮端圧力が低くなると燃焼が悪化してトルク変動を生ずる。低負荷側侵入禁止領域X2はこのようなトルク変動を生ずる運転領域であり、したがって機関運転時にはこの運転領域にも機関の運転状態が入らないようにする必要がある。
一方、実圧縮比が高くなるほど燃費が向上し、したがってノッキングやトルク変動を生ずることなく最小の燃費が得られる最小燃費動作線は図10および図11においてWで示されるように高負荷側侵入禁止領域X1の外部において高負荷側侵入禁止領域X1の外縁に沿いつつ延びている。前述したように本発明による実施形態ではこの最小燃費動作線が基準動作線Wとされており、基本的には要求吸入空気量に応じて機械圧縮比および吸気弁閉弁時期との組合せを示す動作点がこの基準動作線W上を移動するように機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度が制御される。なお、現在の動作点は相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23およびスロットル開度センサ24により常時検出されている。
次に本発明による機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度の制御の仕方について基本的な制御の仕方から説明する。この基本的な制御の仕方が図13から図15に示されている。
すなわち、図13は機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が基準動作線W上のm点における値に維持されているときに要求吸入空気量が増大せしめられた場合を示している。ところで本発明による実施形態では例えば予め定められた時間毎に要求吸入空気量が算出されており、この予め定められた時間毎に算出される要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の動作点が順次算出される。この要求吸入空気量を満たす動作点、すなわち要求動作点の一例が図13においてa1、a2、a3、a4、a5、a6で示されている。すなわち、この例では要求吸入空気量が増大せしめられた後に最初に検出された要求吸入空気量を満たす要求動作点がa1であり、次に検出された要求吸入空気量を満たす要求動作点がa2であり、次に検出された要求吸入空気量を満たす要求動作点がa3である。
要求動作点が変化すると機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点は新たな要求動作点に向けて変化する。すなわち、図13に示される例では機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点は要求動作点がa1とされるとm点からa1点に向けて変化し、要求動作点がa2とされると機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点はa2に向けて変化する。この場合、要求動作点が変化する前に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が要求動作点に到達すれば機械圧縮比および吸気弁閉弁時期は何の問題もなく要求動作点の変化に追従して変化する。しかしながら要求動作点が変化する前に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が要求動作点に到達しない場合には問題を生ずる場合がある。
すなわち、図13において機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が点mにあるときに要求動作点a1となったときには機械圧縮比および吸気弁時期は変化せず、このとき要求吸入空気量を満たすべくスロットル弁17の開度が増大せしめられる。アクチュエータ16によるスロットル弁17の開度変化の応答性は極めて早く、したがって要求動作点がa1になると機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点はm点からa1点にただちに移る。
次いで要求動作点がa2になると機械圧縮比がわずかばかり低下せしめられかつ吸気弁閉弁時期がわずかばかり進角されつつスロットル弁17が全開にされる。このとき機械圧縮比および吸気弁閉弁時期は次の要求動作点a3が算出される頃には要求動作点a2の近くまで到達する。このとき到達する機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が図13の上方からみたところを示す図14において動作点b2で示されている。
要求動作点a3が算出されると機械圧縮比および吸気弁閉弁時期は動作点b2から要求動作点a3に向けて移動を開始する。すなわち、スロットル弁17が全開の状態で機械圧縮比は低下せしめられ、吸気弁閉弁時期は進角せしめられる。ところが可変圧縮比機構Aによる機械圧縮比変化の応答性および可変バルブタイミング機構Bによる吸気弁7の閉弁時期変化の応答性はそれほど早くなく、特に可変圧縮比機構Aによる機械圧縮比変化の応答性はかなり遅い。したがって要求吸入空気量の増大速度が速い場合には要求動作点と機械圧縮比および吸気弁閉弁時期の実際の値を示す動作点とが次第に離れていくことになる。例えば図14において要求動作点がa6まで移動したときに機械圧縮比および吸気弁閉弁時期の実際の値を示す動作点が依然としてb2付近に位置するような状態が生ずる。
しかしながらこのような場合、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を侵入禁止領域X1内に侵入することなく要求動作点に向けてフィードバック制御により移動させるようにすると機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が要求動作点に達するまでに時間を要することになる。すなわち、この場合、吸気弁閉弁時期を進角させることにより動作点が侵入禁止領域X1内に侵入しそうになったときには吸気弁閉弁時期の進角作用が停止され、次いで機械圧縮比が一定量だけ減少せしめられる。機械圧縮比が一定量だけ減少せしめられると吸気弁閉弁時期が再び進角され、動作点が侵入禁止領域X1内に侵入しそうになると吸気弁閉弁時期の進角作用が停止される。以下、これが繰返される。
すなわち、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を要求動作点に向けてフィードバック制御により移動させるようにすると機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点が侵入禁止領域X1の外縁に沿ってジグザグ状に移動することになり、斯くして機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が要求動作点に達するまでに時間を要することになる。その結果、要求吸入空気量の変化に対して良好な機関の応答性が得られないことになる。
そこで本発明では要求吸入空気量が変化したときに機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が現在の動作点から要求吸入空気量を満たす要求動作点に向けて侵入禁止領域X1、X2内に侵入することなく一定時間後に到達可能な目標動作点を算出し、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期をこの目標動作点に向けて変化させるようにしている。
次にこの本発明を具体化した一実施形態についてスロットル全開面Q6を示す図14を参照しつつ説明する。前述したように図14は要求動作点がa3になったときに機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点がb2である場合を示している。この場合において矢印R2は機械圧縮比が要求動作点a3に向けて予め定められた一定時間で到達可能な量を表しており、矢印T2は吸気弁閉弁時期が要求動作点a3に向けて予め定められた一定時間で到達可能な量を表している。また、図14においてc2は現在の動作点b2から要求吸入空気量を満たす要求動作点a3に向けて侵入禁止領域X1内に侵入することなく一定時間後に到達可能な目標動作点を示している。
図14に示されるように要求吸入空気量が増大せしめられかつ動作点b2および要求動作点a3がスロットル全開面Q6上にあるときにはこの目標動作点c2は基準動作線W上に、図14に示される例では最小燃費動作線W上に位置する。すなわち、図14に示される例では、スロットル弁17が全開状態に維持されているときには目標動作点は侵入禁止領域X1の外部であって侵入禁止領域X1の外縁に沿って延びる最小燃費動作線W上を移動せしめられる。
また、図14において要求動作点がa6であるときに機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点がbiであったとするとこの場合にも目標動作点は基準動作線W上の点ciとされる。なお、図14において矢印Riは同様に機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量を表しており、矢印Tiは吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量を表している。
このように図14に示される例では動作点がb2であるときに目標動作点c2が算出されると一定時間後に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点は目標動作点c2に到達する。このとき現在の動作点c2から要求吸入空気量を満たす要求動作点に向けて侵入禁止領域X1内に侵入することなく一定時間後に到達可能な次の新たな目標動作点が算出され、動作点は一定時間後にこの新たな目標動作点に到達する。この場合、本発明による実施形態では機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度はPID(比例積分微分)制御によって目標動作点に到達せしめられる。
このように図14に示される例では機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点は基準動作線Wに沿って停滞することなく滑らかに移動する。すなわち、図13において機械圧縮比および吸気弁閉弁時期がm点に維持されているときに要求吸入空気量が増大せしめられると機械圧縮比および吸気弁閉弁時期は図15において矢印で示されるように基準動作線Wに沿って停滞することなく滑らかに変化せしめられる。その結果、要求吸入空気量の変化に対して良好な機関の応答性を確保することができることになる。
この場合、要求吸入空気量に対する機関の応答性を更に向上するためには目標動作点c2、ciをそれぞれ対応する現在の動作点b2、biからできる限り離すことが好ましい。したがって本発明による実施形態では目標動作点c2、ciは対応する現在の動作点b2、biから要求吸入空気量を満たす要求動作点に向けて侵入禁止領域X1内に侵入することなく一定時間後に到達可能な動作点のうちで現在の動作点b2、biから最も離れた動作点とされている。
すなわち、現在の動作点がb2の場合には動作点b2からの機械圧縮比の到達限界が目標動作点c2とされ、吸気弁閉弁時期についてはこの目標動作点c2は動作点b2からの吸気弁閉弁時期の到達限界よりも手前となる。したがってこのときには機械圧縮比は可能な最大速度でもって低下せしめられ、吸気弁閉弁時期は可能な最大速度よりもゆっくりとした速度で進角される。これに対し、現在の動作点がbiの場合には動作点biからの吸気弁閉弁時期の到達限界が目標動作点ciとされ、機械圧縮比についてはこの目標動作点ciは動作点biからの吸気弁閉弁時期の到達限界よりも手前となる。したがってこのときには吸気弁閉弁時期は可能な最大速度でもって進角され、機械圧縮比は可能な最大速度よりもゆっくりとした速度で減少せしめられる。
次に図16から図31を参照しつつ要求吸入空気量が減少せしめられた場合について説明する。なお、図16から図31のうちで図16および図17は要求吸入空気量がゆっくりと減少せしめられた場合を示しており、図18から図25は要求吸入空気量が比較的速く減少せしめられた場合を示しており、図26から図31は要求吸入空気量が急激に減少せしめられた場合を示している。なお、図16から図31は機械圧縮比および吸気弁閉弁時期の組合せを示す動作点が基準動作線W上のn点にあるときに要求吸入空気量の減少作用が開始された場合を示している。
まず初めに図16および図17を参照しつつ要求吸入空気量がゆっくりと減少せしめられた場合について説明する。なお、図17は図14と同様なスロットル全開面Q6を示している。
図17はこの場合における現在の動作点と要求動作点との関係を示している。すなわち、図17には現在の動作点がeiであるときの要求動作点がdiで示されており、このとき機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量がRiで示されており、このとき吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量がSiで示されている。更に図17には現在の動作点がejであるときの要求動作点がdjで示されており、このとき機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量がRjで示されており、このとき吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量がSjで示されている。
この場合には要求動作点diは機械圧縮比の到達限界の手前となり、吸気弁閉弁時期の到達限界の手前となるので要求動作点diが目標動作点となる。同様に要求動作点djは機械圧縮比の到達限界の手前となり、吸気弁閉弁時期の到達限界の手前となるので要求動作点djが目標動作点となる。したがってこの場合には動作点は基準動作線Wに沿って移動する。すなわち、要求吸入空気量がゆっくりと減少するときにはスロットル弁17が全開に保持された状態で吸気弁閉弁時期が徐々に遅角され、実圧縮比が一定となるように機械圧縮比が徐々に増大される。
次に図18から図25を参照しつつ要求吸入空気量が比較的速く減少せしめられた場合について説明する。前述したように本発明による実施形態では例えば予め定められた時間毎に要求吸入空気量が算出されており、順次算出される要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の要求動作点が図18においてd1、d2、d3、d4、d5で示されている。
なお、本発明による制御を容易に理解しうるように図18は要求動作点d1における要求吸入空気量がQ5であり、要求動作点d2における要求吸入空気量がQ5とQ4の中間値であり、要求動作点d3における要求吸入空気量がQ4であり、要求動作点d4における要求吸入空気量がQ4とQ3との中間値であり、要求動作点d5における要求吸入空気量がQ3であった場合を示している。すなわち、順次算出された要求吸入空気量がQ6(n点)から、Q5、Q5とQ4の中間値、Q4、Q4とQ3の中間値、Q3に変化した場合を示している。
また図19はスロットル全開面Q6を示しており、図20は吸入空気量がQ5の同一吸入空気量面を示しており、図21は吸入空気量がQ5とQ4の中間値の同一吸入空気量面を示しており、図22は吸入空気量がQ4の同一吸入空気量面を示しており、図23は吸入空気量がQ4とQ3の中間値の同一吸入空気量面を示しており、図24は吸入空気量がQ3の同一吸入空気量面を示している。
さて、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が図18に示される動作点nに保持されているときに要求吸入空気量がQ6からQ5に変化し、その結果要求動作点がd1になったとすると、まず初めに図19に示されるようにスロットル全開面Q6上において目標動作点e1が算出される。この目標動作点e1の算出方法はこれまで述べてきた算出方法と同じであって、機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量と吸気弁閉弁時期が一定時間に到達可能な量から侵入禁止領域X1内に侵入することなく要求動作点d1に最も近い目標動作点e1が算出される。図19に示される例ではこの目標動作点e1は基準動作線W上に位置している。
ところでこの目標動作点e1における吸入空気量はQ6とQ5の中間値であって要求吸入空気量Q5よりも大きい状態にある。しかしながら吸入空気量はできる限り要求吸入空気量に一致させることが好ましい。ところが要求吸入空気量が減少せしめられる場合にはスロットル弁17の開度を変化させることによって吸入空気量を調整することができる。そこで目標動作点e1における吸入空気量が要求吸入空気量Q5よりも大きい状態にある場合には機械圧縮比および吸気弁閉弁時期に対する目標値は変化させることなく吸入空気量を要求吸入空気量Q5とするのに必要な目標開度までスロットル弁17を閉弁させるようにしている。
すなわち、図18において、図19に示されるスロットル全開面Q6上の目標動作点e1の真下に位置する同一吸入空気量面Q5上の点が最終的な目標動作点e1とされる。この同一吸入空気量面Q5上の最終的な目標動作点e1が図18および図20に示されており、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度はこの最終的な目標動作点e1に向けて変化せしめられることになる。すなわち、このときには機械圧縮比は増大せしめられ、吸気弁閉弁時期は遅角され、スロットル弁17の開度は全開状態から小さくされる。
次いで要求吸入空気量がQ5とQ4の中間値になって要求動作点がd2になると、今度は図20に示されるように現在の吸入空気量Q5における同一吸入空気量面上において目標動作点e2が算出される。この目標動作点e2の算出方法もこれまで述べてきた算出方法と同じであって、機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量と吸気弁閉弁時期が一定時間に到達可能な量から侵入禁止領域X1内に侵入することなく要求動作点d2に最も近い目標動作点e2が算出される。図20に示される例ではこの目標動作点e2は同一吸入空気量面Q5内における基準動作線W上に位置している(なお、このときの基準動作線Wは図10に示した基準動作線Wとは異なるものであり、同一吸入空気量面Q5内における最小燃費動作線を示している)。
ところでこの場合にも目標動作点e2における吸入空気量は要求吸入空気量よりも大きい状態にある。したがってこの場合にも、図18において、図20に示される同一吸入空気量面Q5上の目標動作点e2の真下に位置する同一吸入空気量面(Q5とQ4の中間値)上の点が最終的な目標動作点e2とされる。この同一吸入空気量面(Q5とQ4の中間値)上の最終的な目標動作点e2が図18および図21に示されており、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度はこの最終的な目標動作点e2に向けて変化せしめられることになる。このときにも機械圧縮比は増大せしめられ、吸気弁閉弁時期は遅角され、スロットル弁17の開度は全開状態から小さくされる。
次いで要求吸入空気量がQ4となり、次いでQ4とQ3の中間値となり、次いでQ3になると同様なことが順次繰返される。すなわち、要求吸入空気量がQ4になると図22に示されるように同一吸入空気量面Q4上における最終的な目標動作点e3が算出され、要求吸入空気量がQ4とQ3の中間値になると図23に示されるように同一吸入空気量面(Q4とQ3との中間値)上における最終的な目標動作点e4が算出され、次いで要求吸入空気量がQ3になると図24に示されるように同一吸入空気量面Q3上における最終的な目標動作点e5が算出される。
この間、すなわち機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度が順次最終的な目標動作点e3、e4、e5に向けて変化せしめられている間、機械圧縮比は増大せしめられ、吸気弁閉弁時期は遅角され、スロットル弁17の開度は小さくされる。
要求吸入空気量がQ3になると図24に示されるように同一吸入空気量面Q3上において順次最終的な目標動作点e6、e7、e8、e9、e10が算出され、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度は順次これら最終的な目標動作点e6、e7、e8、e9、e10を経て要求動作点d5まで変化せしめられることになる。この間、機械圧縮比は増大せしめられ、吸気弁閉弁時期はe8に達するまで遅角され、スロットル弁17の開度は徐々に大きくされてe8に達すると全開せしめられる。
図25は図18に示されるように目標吸入空気量がQ6(n点)からQ3(目標動作点d5)まで比較的速く減少せしめられた場合の吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、実圧縮比、スロットル開度の変化を示している。図25からこの場合には要求吸入空気量が最終的な目標値Q3となった後(動作点e4)、吸気弁閉弁時期の遅角動作が完了し(動作点e8)、次いで機械圧縮比の増大作用が完了する(目標動作点d5)ことがわかる。一方、実圧縮比は吸気弁閉弁時期の遅角作用が完了するまで(動作点d8)徐々に減少し、その後徐々に上昇する。また、スロットル開度は動作点が同一吸入空気量面Q3上の動作点e5となるまで全開状態から徐々に低下せしめられ、次いで吸気弁閉弁時期の遅角動作が完了するまで(動作点e8)まで全開状態まで徐々に開弁せしめられる。
図18から図25に示されるように要求吸入空気量が比較的速く減少せしめられたときには機械圧縮比および吸気弁閉弁時期の制御に加えてスロットル開度も制御される。本発明ではこのときには機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度との組合せに対し3次元的侵入禁止領域X1、X2が設定されており、機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度との組合せを示す動作点がこの3次元的侵入禁止領域X1、X2内に侵入するのが禁止される。
なお、この場合にも要求吸入空気量が変化したときに機械圧縮比および吸気弁閉弁時期については現在の動作点から要求吸入空気量を満たす動作点に向けて3次元的侵入禁止領域X1、X2内に侵入することなく一定時間後に到達可能な目標動作点が算出されると共に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が算出された目標動作点に向けて変化せしめられる。更にこの場合、要求吸入空気量が変化したときにスロットル開度は3次元的侵入禁止領域X1、X2に侵入しないように要求吸入空気量に応じて変化せしめられる。
なお、この場合でも機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル開度ができる限り早く要求吸入空気量を満たす要求動作点に達するように、目標動作点は、現在の動作点から要求吸入空気量を満たす動作点に向けて3次元的侵入禁止領域X1、X2内に侵入することなく一定時間後に到達可能な動作点のうちで現在の動作点から最も離れた動作点とされる。
またこの場合、本発明による実施形態では、要求吸入空気量が減少したときに、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期については現在の動作点から要求吸入空気量を満たす動作点に向けて現在の吸入空気量における侵入禁止領域X1、X2内に侵入することなく一定時間後に到達可能な目標動作点が算出されると共に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が算出された目標動作点に向けて変化せしめられる。一方、この場合、スロットル開度については算出された目標動作点において要求吸入空気量を満たす目標開度が算出されると共に目標開度が3次元的侵入禁止領域X1、X2でない限りはスロットル開度が目標開度まで変化せしめられる。
次に図26から図31を参照しつつ要求吸入空気量が急激に最小吸入空気量Q1まで減少せしめられた場合について説明する。前述したように本発明による実施形態では例えば予め定められた時間毎に要求吸入空気量が算出されており、順次算出される要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の要求動作点が図26においてd1、d2、d3で示されている。
なお、この場合にも本発明による制御を容易に理解しうるように図26は要求動作点d1における要求吸入空気量がQ4であり、要求動作点d2における要求吸入空気量がQ2とQ3の中間値であり、要求動作点d3における要求吸入空気量がQ1であった場合を示している。すなわち、順次算出された要求吸入空気量がQ6(n点)から、Q4、Q3とQ2の中間値、Q1に変化した場合を示している。
また図27はスロットル全開面Q6を示しており、図28は吸入空気量がQ4の同一吸入空気量面を示しており、図29は吸入空気量がQ3とQ2の中間値の同一吸入空気量面を示しており、図30は吸入空気量がQ1の同一吸入空気量面を示している。
さて、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が図26に示される動作点nに保持されているときに要求吸入空気量がQ6からQ4に変化し、その結果要求動作点がd1になったとすると、まず初めに図27に示されるようにスロットル全開面Q6上において目標動作点e1が算出される。この目標動作点e1の算出方法は図19に示される算出方法と同じであって、機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量と吸気弁閉弁時期が一定時間に到達可能な量から侵入禁止領域X1内に侵入することなく要求動作点d1に最も近い目標動作点e1が算出される。図27に示される例ではこの目標動作点e1は基準動作線W上に位置している。
一方、このとき図18に示される場合と同様に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期に対する目標値は変化させることなく吸入空気量を要求吸入空気量Q4とするのに必要な目標開度までスロットル弁17が閉弁せしめられる。
すなわち、図26において、図27に示されるスロットル全開面Q6上の目標動作点e1の真下に位置する同一吸入空気量面Q4上の点が最終的な目標動作点e1とされる。この同一吸入空気量面Q4上の最終的な目標動作点e1が図26および図28に示されており、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度はこの最終的な目標動作点e1に向けて変化せしめられることになる。このときには機械圧縮比は増大せしめられ、吸気弁閉弁時期は遅角され、スロットル弁17の開度は全開状態から小さくされる。
次いで要求吸入空気量がQ3とQ2の中間値になって要求動作点がd2になると、今度は図28に示されるように現在の吸入空気量Q4における同一吸入空気量面上において目標動作点e2が算出される。この目標動作点e2の算出方法もこれまで述べてきた算出方法と同じであって、機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量と吸気弁閉弁時期が一定時間に到達可能な量から侵入禁止領域X1内に侵入することなく要求動作点d2に最も近い目標動作点e2が算出される。この場合にも、図26において、図28に示される同一吸入空気量面Q4上の目標動作点e2の真下に位置する同一吸入空気量面(Q3とQ2の中間値)上の点が最終的な目標動作点e2とされる。この同一吸入空気量面(Q3とQ2の中間値)上の最終的な目標動作点e2が図26および図29に示されている。
次いで要求吸入空気量がQ1になって要求動作点がd3になると図29に示されるように同一吸入空気量面(Q3とQ2の中間値)上において目標動作点e3が算出され、次いで図30に示されるように同一吸入空気量面Q1上における最終的な目標動作点e3が算出される。最終的な目標動作点e3が算出されると機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度はこの最終的な目標動作点e3に向けて変化せしめられる。このときにも機械圧縮比は増大せしめられ、吸気弁閉弁時期は遅角され、スロットル弁17の開度は全開状態から小さくされる。
ところでこのように要求吸入空気量が小さくなると同一吸入空気量面内に低負荷側侵入禁止領域X2が現われてくる。この同一吸入空気量面内に現われる低負荷側侵入禁止領域X2は吸入空気量が小さくなるほど大きくなり、この同一吸入空気量面に現われる低負荷側侵入禁止領域X2は図30に示されるように要求吸入空気量が最小Q1になったときに最大となる。なお、本発明による実施形態ではこの低負荷側侵入禁止領域X2の周りには低負荷側侵入禁止領域X2からわずかな間隔を隔てて、低負荷侵入禁止領域X2内への動作点の侵入を防止するための侵入阻止面が予め設定されており、この侵入阻止面と同一吸入空気量面との交線である侵入阻止線が図30においてWXで示されている。
さて、本発明による実施形態では吸入空気量が要求吸入空気量Q1になると図30に示されるように同一吸入空気量面Q1上において機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量と吸気弁閉弁時期が一定時間に到達可能な量から要求動作点d3に最も近い各目標動作点e4、e5、e6、e7、e8、e9、e10、e11、e12が順次算出される。この場合、目標動作点e4のように要求動作点d3に最も近い算出された目標動作点が侵入阻止線WXに対し侵入禁止領域X2と反対側に位置するときには算出された目標動作点が目標動作点e4とされる。これに対し、要求動作点d3に最も近い算出された目標動作点が侵入阻止線WXよりも侵入禁止領域X2に近い側にあるときには機械圧縮比および吸気弁閉弁時期のいずれかの到達限界となる侵入阻止線WX上の点が目標動作点e5、e6、e7、e8、e9とされる。
すなわち、要求吸入空気量がQ1になると機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度は同一吸入空気量面Q1上において順次最終的な目標動作点e4、e5、e6、e7、e8、e9、e10、e11、e12を経て要求動作点d3まで変化せしめられることになる。この間、機械圧縮比は増大せしめられ、吸気弁閉弁時期はe10に達するまで遅角され、スロットル弁17の開度は徐々に大きくされてe10に達すると全開せしめられる。
図31は図26に示されるように目標吸入空気量がQ6(n点)からQ1(目標動作点d3)まで急激に減少せしめられた場合の吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、実圧縮比、スロットル開度の変化を示している。図31からこの場合には要求吸入空気量が最終的な目標値Q1となった後(動作点e2)、吸気弁閉弁時期の遅角作用が完了し(動作点e10)、次いで機械圧縮比の増大作用が完了する(目標動作点d3)ことがわかる。一方、実圧縮比は吸気弁閉弁時期の遅角作用が完了するまで(動作点e10)徐々に減少し、その後徐々に上昇する。また、スロットル開度は動作点が同一吸入空気量面Q1上の動作点e3となるまで全開状態から低下せしめられ、次いで吸気弁閉弁時期の遅角作用が完了するまで(動作点e10)まで徐々に開弁せしめられる。
なお、要求吸入空気量が変化したときに要求吸入空気量を満たすスロットル弁17の開度が3次元侵入禁止領域内、すなわち低負荷側侵入禁止領域X2内となる場合がある。この場合にはスロットル弁17の開度は前述した侵入阻止面まで、すなわち3次元侵入禁止領域内に侵入する手前まで変化せしめられ、次いで機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度との組合せを示す動作点は要求吸入空気量を満たす動作点に向けて3次元侵入禁止領域内に侵入することなく変化せしめられる。
図32は現在の動作点から予め定められた一定時間後に到達可能な目標動作点を算出するための、すなわち機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル開度の目標値を算出するためのルーチンを示している。
このルーチンでは予め定められた一定時間後に到達可能な目標動作点がこの予め定められた一定時間毎に算出される。したがって図32に示されるルーチンはこの予め定められた時間毎の割込みによって実行される。この予め定められた時間は任意に定めることができるが本発明による実施形態ではこの予め定められた一定時間は8msecとされている。したがって本発明による実施形態では図32に示される目標値の算出ルーチンは8msec毎に実行され、現在の動作点から8msec後に到達可能な目標動作点が8msec毎に算出されることになる。
図32を参照するとまず初めにステップ100において要求吸入空気量GXが算出される。この要求吸入空気量GXは例えばアクセルペダル40の踏込み量および機関回転数の関数として予めROM32内に記憶されている。次いでステップ101では要求吸入空気量GXに応じた基準動作線W上の要求動作点が算出される。次いでステップ102では現在の動作点が要求動作点であるか否かが判別され、現在の動作点が要求動作点であるときには処理サイクルを完了する。これに対し、現在の動作点が要求動作点でないときにはステップ103に進んで要求吸入空気量GXが現在の動作点における吸入空気量GAよりも大きいか否かが判別される。
GX>GAのとき、すなわち吸入空気量を増大すべきときにはステップ104に進み、図13から図15に基づいて説明したようにして目標動作点が決定される。すなわち、ステップ104では要求吸入空気量GXに応じた目標スロットル開度が算出される。この目標スロットル開度は要求動作点がスロットル全開面Q6上に位置すると通常は全開となる。次いでステップ105では一定時間後に到達可能な吸気弁閉弁時期が算出され、次いでステップ106では一定時間後に到達可能な機械圧縮比が算出される。
次いでステップ107では図14に基づき説明した方法でもって目標動作点が決定される。次いでステップ108では決定した目標動作点から機械圧縮比の目標値および吸気弁閉弁時期の目標値が算出される。スロットル開度の目標値はステップ104において既に目標スロットル開度として算出されている。
一方、ステップ103においてGX≦GAであると判別されたとき、すなわち吸入空気量を減少すべきかまたは吸入空気量が要求吸入空気量となっているときにはステップ109に進み、図16から図31に基づいて説明したようにして目標動作点が決定される。すなわち、ステップ109では一定時間後に到達可能な吸気弁閉弁時期が算出され、次いでステップ110では一定時間後に到達可能な機械圧縮比が算出される。
次いでステップ112では要求吸入空気量を満たす目標スロットル開度が算出され、この目標スロットル開度がスロットル開度の目標値とされる。ただし、要求吸入空気量GXを満たすスロットル開度が侵入禁止領域内となるときには目標スロットル開度は前述した侵入阻止面上の値とされ、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が要求動作点に近づくにしたがって目標スロットル開度は侵入阻止面に沿って変化せしめられる。
なおこれまで説明していなかったが要求吸入空気量が増大する場合にも同様なことが生じうる。例えば、動作点が図13において高負荷側侵入禁止領域X1の下方領域に位置するときに要求吸入空気量が増大すると目標スロットル開度が高負荷側侵入禁止領域X1内になる場合がある。このときには目標スロットル開度は各同一吸入空気量面に対し予め設定されている各基準動作線Wを含む基準動作面上の値とされ、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が要求動作点に近づくにしたがって目標スロットル開度はこの基準動作面に沿って変化せしめられる。
図33はPID制御を用いて機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル開度が図32に示されるルーチンにおいて算出された目標値になるように可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構Bおよびスロットル弁17を駆動するための駆動ルーチンを示している。このルーチンは機関の運転が開始されると繰返し実行される。
図33を参照するとステップ200では吸気弁閉弁時期の目標値IT0と現在の吸気弁閉弁時期ITとの差ΔIT(=IT0−IT)が算出され、機械圧縮比の目標値CR0と現在の機械圧縮比CRとの差ΔCR(=CR0−CR)が算出され、スロットル開度の目標値θ0と現在のスロットル開度θとの差Δθ(θ0−θ)が算出される。
次いでステップ201ではΔITに比例定数Kp1を乗算することによって可変バルブタイミング機構Bに対する駆動電圧の比例項Ep1が算出され、ΔCRに比例定数Kp2を乗算することによって可変圧縮比機構Aに対する駆動電圧の比例項Ep2が算出され、Δθに比例定数Kp3を乗算することによってスロットル弁17に対する駆動電圧の比例項Ep3が算出される。
次いでステップ202ではΔITに積分定数Ki1を乗算してこの乗算結果(Ki1・ΔIT)を積算することにより可変バルブタイミング機構Bに対する駆動電圧の積分項Ei1が算出され、ΔCRに積分定数Ki2を乗算してこの乗算結果(Ki2・ΔCR)を積算することにより可変圧縮比機構Aに対する駆動電圧の積分項Ei2が算出され、Δθに積分定数Ki3を乗算してこの乗算結果(Ki3・Δθ)を積算することによりスロットル弁17に対する駆動電圧の積分項Ei3が算出される。
次いでステップ203では現在のΔITと前回算出されたΔIT1との差(ΔIT−ΔIT1)に微分定数Kd1を乗算することにより可変バルブタイミング機構Bに対する駆動電圧の微分項Ed1が算出され、現在のΔCRと前回算出されたΔCR1との差(ΔCR−ΔCR1)に微分定数Kd2を乗算することにより可変圧縮比機構Aに対する駆動電圧の微分項Ed2が算出され、現在のΔθと前回算出されたΔθ1との差(Δθ−Δθ1)に微分定数Kd3を乗算することによりスロットル弁17に対する駆動電圧の微分項Ed3が算出される。
次いでステップ204では比例項Ep1と積分項Ei1と微分項Ed1とを加算することにより可変バルブタイミング機構Bに対する駆動電圧E1が算出され、比例項Ep2と積分項Ei2と微分項Ed2とを加算することにより可変圧縮比機構Aに対する駆動電圧E2が算出され、比例項Ep3と積分項Ei3と微分項Ed3とを加算することによりスロットル弁17に対する駆動電圧E3が算出される。
これら駆動電圧E1、E2、E3にしたがってそれぞれ可変バルブタイミング機構B、可変圧縮比機構Aおよびスロットル弁17が駆動されると吸気弁閉弁時期、機械圧縮比およびスロットル開度はそれぞれ順次変化する目標値に向けて変化することになる。
ところで、多くの内燃機関では燃費向上等を目的として機関運転状態に応じて燃焼室5への燃料供給を停止する燃料カット制御が行われる。燃料カット制御を行う場合としては、例えば機関負荷が低下して減速運転が行われる場合、機関回転数や内燃機関を搭載した車両の車速が過剰に上昇して機関回転数や車速の低下が必要とされる場合、内燃機関を搭載した車両のオートマチックトランスミッションにおいてシフトアップが行われる際に機関回転数を低下させる場合等が挙げられる。
このような燃料カット制御を実行する場合には、機関回転数を低下させること、すなわち内燃機関を減速させることが必要となる。燃料カット制御中に内燃機関が減速する程度は内燃機関に発生するポンピング損失が大きくなるほど大きくなる。したがって、特に、機関減速運転時等、内燃機関を大きく減速させる必要があるときには、燃料カット制御中に内燃機関に大きなポンピング損失を発生させることが必要になる。
燃料カット制御中に内燃機関にポンピング損失を発生させる一つの方法としては、吸気弁閉弁時期を遅角させて燃焼室5内に供給される吸入空気量を減少させることが挙げられる。この場合、膨張行程中に燃焼室5内が負圧になることによりポンピング損失が発生する。しかしながら、この方法によって発生させることのできるポンピング損失の大きさには限界があり、例えば機関減速運転時等、大きなポンピング損失を発生させること必要な場合には十分なポンピング損失を発生させることができない。
燃料カット制御中に内燃機関にポンピング損失を発生させる別の方法としては、スロットル弁17の開度を小さくすると共に吸気弁閉弁時期を吸気下死点に向けて進角させることが挙げられる。スロットル弁17の開度を小さくするとスロットル弁17を通って流れる空気の量が減少すると共に、吸気弁閉弁時期を吸気下死点に向けて進角させると燃焼室5内に吸引される空気の量が多くなることから、スロットル弁17から吸気弁7までの間の吸気通路(サージタンク12、吸気枝管11、吸気ポート8内の通路)内の負圧が大きくなる。これにより吸気行程中に燃焼室5内に負圧が発生し、その結果ポンピング損失が発生することになる。この方法によれば大きなポンピング損失を発生させることができ、例えば機関減速運転時等、大きなポンピング損失を発生させることが必要な場合にも十分なポンピング損失を発生させることができる。
ここで、燃料カット制御中にも図10〜図33を参照して説明した吸気弁閉弁時期および機械圧縮比の制御を実行した場合について考える。この場合、例えば機関減速運転時には、機関負荷(アクセルペダル40の踏込み量)が低下し、よって要求吸入空気量が少なくなる。このため、この要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の動作点は機械圧縮比が高く且つ吸気弁閉弁時期が遅角側の点(例えば、図26、図29および図30に示した点d3)となる。
したがって、減速運転時における燃料カット制御中に図10〜図33に示された制御を行った場合、機械圧縮比は限界機械圧縮比まで増大せしめられ、吸気弁閉弁時期が限界閉弁時期まで遅角せしめられる。しかしながら、上述したように、吸気弁閉弁時期を遅角させることによってポンピング損失を発生させると、発生させうるポンピング損失の大きさに限界があり、十分なポンピング損失を発生させることができず、適切に内燃機関を減速させることができない。
そこで、本発明による実施形態では、燃料カット制御が実行されるときには、機械圧縮比が要求機関負荷に応じた機械圧縮比となるように可変圧縮比機構Aを制御すると共に、吸気弁閉弁時期が要求機関負荷に応じた目標閉弁時期よりも進角側の閉弁時期となるように可変バルブタイミング機構Bを制御することとしている。
以下では、機関負荷が低下して機関減速運転を行う場合における燃料カット制御を例にとって、本発明による実施形態における燃料カット制御を実行する際の機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度の制御について説明する。
本実施形態では、燃料カット制御を実行する際には、吸気弁閉弁時期の目標値が予め定められた一定の時期IVC1とされる。この一定の時期IVC1は、比較的進角側の時期、すなわち吸気下死点近傍の時期とされる。ここで、燃料カット制御中のスロットル弁17下流の吸気通路内の負圧を大きくし過ぎると、吸気行程中に燃焼室5内の負圧が大きくなり過ぎて、ピストン4を介して燃焼室5内に内燃機関の作動油が侵入することになる。したがって、この一定の時期IVC1は、燃焼室5内の負圧が大きくなり過ぎることによる燃焼室5内への作動油の侵入を防止できる範囲内で最も進角側の時期とされるのが好ましい。
一方、燃料カット制御を実行する際の機械圧縮比の目標値は、燃料カット制御を実行する際の機関負荷、すなわち要求吸入空気量に応じて変化する。具体的には、燃料カット制御を実行する際の機械圧縮比は、燃料カット制御中の要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の動作点における機械圧縮比とされる。
図34は、図11と同様な図であり、図34中の実線W’は燃料カット制御が実行される際に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点が辿る燃料カット時基準動作線を示している。燃料カット時基準動作線W’は吸気弁閉弁時期が吸気下死点近傍の一定の閉弁時期IVC1である直線となっている。したがって、燃料カット制御が実行される際には吸気弁閉弁時期がIVC1でほぼ一定とされ、機関負荷に応じて機械圧縮比のみが変化することがわかる。
なお、機関減速運転に伴う燃料カット制御は、通常、アクセル踏込み量が0のとき、すなわち機関負荷が0のときに行われる。このためこのときの要求吸入空気量は最小であり、図10におけるQ1となっている。したがって、通常、機関減速運転に伴う燃料カット制御実行の際には、機械圧縮比は、要求吸入空気量Q1を満たす基準動作線W上の動作点における機械圧縮比、すなわち最大限界機械圧縮比となる。このため、機関減速運転に伴う燃料カット制御実行中には、通常、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点は図34のf点に維持されることになる。
一方、上述したように燃料カット制御中に発生するポンピング損失は、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度に応じて変化するが、それに加えて機関回転数によっても変化する。すなわち、機関回転数が高いほど全ての燃焼室5内に供給される吸入空気量が多くなるため、スロットル弁17下流側の吸気通路内の負圧が大きくなり、よって発生するポンピング損失が大きくなる。
また、燃料カット制御中に発生させるべき要求ポンピング損失は機関運転状態に応じて変化する。たとえば、機関減速運転に伴う燃料カット制御では、ブレーキペダル(図示せず)の踏込み量が0であるときには、内燃機関を大きく減速させる必要がないため、要求ポンピング損失は小さい。一方、ブレーキペダルの踏込み量が大きくなると、内燃機関を大きく減速させる必要があるため、要求ポンピング損失は大きくなる。
そこで、本実施形態では、燃料カット制御中の機関回転数および要求ポンピング損失に応じてスロットル弁17の開度を変化させることとしている。すなわち、機関回転数が高いときにはスロットル弁17の開度を大きくすることでスロットル弁17下流側の吸気通路内の負圧の増大を抑制し、逆に機関回転数が低いときにはスロットル弁17の開度を小さくすることでスロットル弁17下流側の吸気通路内の負圧の低下を抑制することとしている。また、要求ポンピング損失が小さいときにはスロットル弁17の開度を大きくすることで、スロットル弁17下流側の吸気通路の負圧の低下を抑制し、発生させるべきポンピング損失が大きいときにはスロットル弁17の開度を小さくすることで、スロットル弁17下流側の吸気通路内の負圧を大きくすることとしている。
以上を考慮すると、上記実施形態では、機関減速運転に伴う燃料カット制御中には、吸気弁閉弁時期がIVC1になるように可変バルブタイミング機構Bが制御され、機械圧縮比が最大限界機械圧縮比になるように可変圧縮比機構Aが制御され、スロットル弁17の開度が機関回転数および要求ポンピング損失に応じた開度となるように制御され、よって機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロット弁17の開度を示す動作点は図35に示された直線F上を動くことになる。なお、図10に示した三次元空間の機械圧縮比が最大限界機械圧縮比である面を示している。
なお、図34および図35からわかるように、燃料カット制御中には、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度を示す動作点が高負荷側侵入禁止領域X1内に侵入することになる。しかしながら、高負荷側侵入禁止領域X1は、燃焼室5内での混合気の燃焼を行ったときにノッキングが発生する領域であり、燃料カット制御中にはノッキングは発生しえない。このため、燃料カット制御中に動作点が高負荷側侵入領域X1内に侵入しても内燃機関の運転には悪影響が及ぼされない。したがって、燃料カット制御中には動作点が侵入禁止領域X1内に侵入することが許可される。
ところで、図34からわかるように、燃料カット制御中の動作線W’は通常運転時(燃料カット制御を実行していない時)の動作線Wと大きく異なる。このため、本実施形態では、燃料カット制御の開始に伴って要求動作点が基準動作線W上の動作点から燃料カット時基準動作線W’上の動作点に移ると、現在の動作点が燃料カット時基準動作線W’上の動作点になるように機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が変更せしめられる。
図36は、現在の動作点が要求吸入空気量Q5を満たす基準動作線W上の点mにあるときに、要求吸入空気量がQ5からQ1へ低下し、これに伴って燃料カット制御が行われた場合の動作点の変化の様子を示している。要求吸入空気量Q1を満たす基準動作線W上の動作点はg1であり、上述したように燃料カット制御中の要求動作点は燃料カット時基準動作線W’上であって機械圧縮比が動作点g1と同一の点となる。このため、要求吸入空気量がQ1へ低下して燃料カット制御が行われたときの要求動作点は、図36に示される点g2となる。
機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す現在の動作点がmであるときに要求動作点がg2となると、機械圧縮比および吸気弁閉弁時期はそれぞれ要求動作点g2に対応する機械圧縮比および吸気弁閉弁時期となるように変更せしめられる。図36に示される例では、燃料カット制御が行われると、動作点mから要求動作点g2に向けて、機械圧縮比が増大せしめられると共に、吸気弁閉弁時期が進角せしめられる。機械圧縮比の変更速度よりも吸気弁閉弁時期の変更速度の方が速いことから、図36に示される例では、機械圧縮比が要求動作点g2に対応する機械圧縮比に到達するよりも先に吸気弁閉弁時期が要求動作点に対応する吸気弁閉弁時期(すなわちIVC1)となり、動作点が点hとなる。その後、機械圧縮比のみが増大せしめられ、最終的に要求動作点g2に到達することになる。
一方、燃料カット制御が終了せしめられると、要求動作点が燃料カット時基準動作線W’上の動作点から基準動作線W上の動作点に移る。このため、燃料カット制御が終了せしめられて通常制御に復帰するときには、現在の動作点が基準動作線W上の動作点になるように機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が変更せしめられる。
図37は、燃料カット制御中に動作点がn点にあるときに燃料カット制御が終了する場合の動作点の変化の様子を示している。この場合、要求動作点は図37に示される基準動作線W上の点iとなる。上述したように、燃料カット制御中には機械圧縮比が、要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の動作点(すなわち、点i)に対応する機械圧縮比となっている。したがって、燃料カット制御中の動作点nにおける機械圧縮比と、燃料カット制御終了時の要求動作点iの機械圧縮比はほぼ同一である。したがって、燃料カット制御が終了せしめられて通常制御に復帰するときには、機械圧縮比はほとんど変更されず、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度のみが変更されることになる。
図37に示された例では、燃料カット制御が終了せしめられて要求動作点が燃料カット時基準動作線W’の動作点から基準動作線W上の動作点に変化したときには、機械圧縮比は最大限界機械圧縮比に維持されたまま、吸気弁閉弁時期が遅角せしめられる。
また、燃料カット制御の終了に伴って要求動作点が燃料カット時基準動作線W’上の動作点から基準動作線W上の動作点に変更されたときには、スロットル弁17の開度も変更せしめられる。すなわち、燃料カット制御中にはスロットル弁17の開度は機関回転数および要求ポンピング損失に応じて最適な開度に設定されているが、燃料カット制御が終了せしめられるとスロットル弁17の開度は要求吸入空気量を満たす動作点に対応するスロットル弁17の開度に変更せしめられる。図36および図37に示された例では、燃料カット制御終了時の要求吸入空気量はQ1であるため、燃料カット制御が終了せしめられると、スロットル弁17の開度は最小となるように変更せしめられる。
このように本発明による実施形態では、燃料カット制御が実行されるときには、吸気弁閉弁時期が吸気下死点近傍の時期とされ、よって基本的に吸気弁閉弁時期が要求吸入空気量(要求機関負荷)に応じた目標閉弁時期よりも進角側の閉弁時期となるように可変バルブタイミング機構Bが制御される。このように燃料カット制御中に吸気弁閉弁時期を進角側の時期とすることにより、大きなポンピング損失を発生させることができるようになり、よって適切に内燃機関を減速させることができるようになる。
また、燃料カット制御が実行されるときには、機械圧縮比が要求吸入空気量(要求機関負荷)に応じた機械圧縮比となるように可変圧縮比機構Aが制御されることにより、燃料カット制御が終了せしめられるときに、動作点を迅速に基準動作線W上の動作点に移動させることができる。ここで、上述したように可変圧縮比機構Aによる機械圧縮比変化の応答性はかなり遅い。このため、燃料カット制御が終了せしめられて要求動作点が変化したときに機械圧縮比を変更する必要があると、動作点が要求動作点まで到達するのに時間がかかり、燃焼室5内での燃焼の再開の遅延を招いたり、場合によっては動作点が侵入禁止領域X1内にあるうちに燃焼室5内での混合気の燃焼を開始しなければいけなくなる。本実施形態では、動作点を迅速に基準動作線W上の動作点に移動させることができるため、燃焼再開の遅延や侵入禁止領域内での燃焼再開を抑制することができる。
図38は、図36および図37に示される燃料カット制御を実行する際の、点火時期、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比およびスロットル開度等のタイムチャートを示している。図38に示された例では、時刻t0において燃料カット制御(FC制御)の実行条件が成立している。機関減速運転に伴う燃料カット制御の実行条件が成立する場合とは、例えばアクセルペダル40の踏込み量が0であって且つ機関回転数が所定回転数(例えば2000rpm)以上である場合である。図36および図37に示した例では、要求吸入空気量がQ5からQ1に変更されたときに燃料カット制御の実行条件が成立することになる。
時刻t0において燃料カット制御の実行条件が成立すると、点火プラグ6による点火時期を遅角する点火時期遅角制御が開始される。点火時期遅角制御は、燃料を供給している状態から燃料の供給を停止する燃料カット制御を開始したときに発生しうるトルクショックを抑制するために行われる。すなわち、一般に、点火時期を遅角すると、燃料の燃焼によって発生するトルクが小さくなる。したがって、燃料カット制御の実行開始前に点火時期を徐々に遅角して燃料の燃焼によって発生するトルクを小さくしておけば、燃料カット制御の開始直前にはトルクが小さくなっており、よって燃料カット制御の開始によるトルクショックを小さくすることができる。
この点火時期遅角制御によって点火時期が遅角せしめられて、時刻t3において燃料の供給を停止しても大きなトルクショックが発生しないような予め定められた基準点火時期に到達すると、燃料の供給が停止せしめられて燃料カット制御が開始される。
一方、本発明による実施形態では、基準動作線Wから燃料カット時基準動作線W’への変更も燃料カット制御の実行条件成立時に行われる。したがって、図36に示された例では、時刻t0において、要求動作点が基準動作線W上の点g1から燃料カット時基準動作線W’上の点g2へと変更される。このため、時刻t0において、要求動作点g2に対応する目標機械圧縮比(すなわち、最大限界機械圧縮比)へ向けて機械圧縮比の変更が開始され、動作点g2に対応する吸気弁7の目標閉弁時期(すなわち、図34、35に示される閉弁時期IVC1)へ向けて吸気弁閉弁時期の変更が開始される。さらに、時刻t0において、現在の機関回転数および要求ポンピング損失からスロットル弁17の目標開度を求めることができるため、時刻t0においてこの目標開度に向けてスロットル弁17の開度の変更が開始せしめられる。
その後、図38に示された例では、時刻t1においてスロットル弁17が上記目標開度に到達し、次いで時刻t2において吸気弁閉弁時期が上記目標閉弁時期に到達する。このとき機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点は図36の点hに到達している。その後、スロットル弁17の開度および吸気弁閉弁時期は目標開度および目標閉弁時期に維持されたまま機械圧縮比が増大せしめられ、時刻t4において、機械圧縮比が上記目標機械圧縮比に到達する。このとき機械圧縮比および吸気弁閉弁時期を示す動作点は図36のg2点に到達している。
このように、本発明による実施形態では、点火時期遅角制御の実行開始と同時に、燃料カット時基準動作線W’上の動作点へ向けて機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度の変更が開始される。これにより、機械圧縮比等の変更に伴うトルク変動を抑制することができると共に、内燃機関の減速を早期に行うことができるようになる。
すなわち、点火時期遅角制御の実行中には点火時期の遅角に伴って多少のトルク変動が発生する。一方、燃料カット制御の実行中に機械圧縮比等を変更することによっても多少のトルク変動が発生する。したがって、点火時期遅角制御と機械圧縮比等の変更とを別々のタイミングで行うとトルク変動が2回発生することになる。これに対して、点火時期遅角制御と機械圧縮比等の変更とを同時に行えば、トルク変動の発生回数を減らすことができる。
また、点火時期遅角制御の終了後に燃料カット制御が開始されてから機械圧縮比等の変更を行うと、その分だけポンピング損失の発生タイミングが遅くなり、これに伴って内燃機関の減速も遅くなる。これに対して、点火時期遅角制御と機械圧縮比等の変更とを同時に行えば、内燃機関の減速を早期に行うことができるようになる。
なお、点火時期遅角制御中に機械圧縮比等の変更を行うと、未だ燃焼室5内で燃焼が行われているときに、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度を示す動作点が、高負荷側侵入禁止領域X1内に侵入してしまう場合がある。しかしながら、点火時期を遅角すると燃焼室5内ではノッキングが発生しにくくなるため、たとえ動作点が高負荷側侵入禁止領域X1内に侵入してもノッキングはほとんど発生しない。
なお、機械圧縮比等の変更の開始は必ずしも点火時期遅角制御の実行開始と同時である必要はなく、点火時期遅角制御実行期間と機械圧縮比等の変更期間が重なっていればよい。したがって、機械圧縮比等の変更は点火時期遅角制御の開始以降であって燃料カット制御開始前に開始されるか、或いは燃料カット実行条件成立以降であって燃料カット制御開始前に開始されればよい。
一方、燃料カット制御により内燃機関が減速されて、時刻t6において燃料カット制御終了条件が成立すると、燃料カット制御が終了せしめられる。燃料カット制御終了条件が成立する場合としては、例えば機関回転数が復帰回転数(例えば1300rpm)以下となった場合等が挙げられる。
ところで、上述したように燃料カット制御を終了する際には、要求動作点が燃料カット時基準動作線W’上の動作点から基準動作線W上の動作点に移り、その結果、吸気弁閉弁時期が遅角せしめられると共にスロットル弁17の開度が小さくされる。ここで、燃料カット制御が終了した時点で吸気弁閉弁時期の遅角とスロットル弁17の開度の縮小を開始すると、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度を示す動作点が基準動作線W上の要求動作点に到達するのは燃料カット制御の終了から或る程度の時間が経過した後になる。
このため燃料カット制御の終了から或る程度の時間が経過するまでは、場合によっては機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度を示す動作点が高負荷側侵入禁止領域X1内を移動することになる。したがって、燃料カット制御終了直後から燃焼室5内への燃料供給を開始すると、ノッキングの発生を招いてしまうことになる。
一方、ノッキングの発生を防止するために、燃料カット制御が終了してから動作点が基準動作点W上の要求動作点に到達するまで燃焼室5内への燃料供給を遅延させると、燃料カット制御の終了条件が成立しているにも関わらず直ぐに燃料の燃焼を再開させることができない。
そこで、本発明による実施形態では、燃料カット制御を終了する復帰時期を予測すると共に、予測された復帰時期に吸気弁閉弁時期が基準動作線W上の要求動作点に対応する吸気弁閉弁時期に到達するように、燃料カット制御終了前から吸気弁閉弁時期を変更することとしている。
図39を参照して具体的に説明する。図39は、燃料カット制御実行中の現在の動作点がn点であり、現在の要求吸入空気量(すなわち、機関負荷またはアクセルペダル40の踏込み量)を満たす基準動作線W上の動作点がi点にある場合を示している。動作点nの吸気弁閉弁時期はIVC1となっており、動作点iの吸気弁閉弁時期はIVC2となっている。
燃料カット制御中には燃料カット制御を終了する復帰時期が常に予測され、これと共に予測された復帰時期までの時間ΔTが算出される。さらに燃料カット制御中にはこれと並行して現在の吸気弁閉弁時期IVC1と、現在の要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の動作点に対応する吸気弁閉弁時期IVC2との閉弁時期の差ΔIVCが算出されると共に、可変バルブタイミング機構Bを最大速度で動作させたときに吸気弁閉弁時期を上記閉弁時期の差ΔIVCだけ変化させるのにかかる時間Tivcを算出する。
燃料カット制御開始直後は、復帰時期までの時間ΔTは比較的長いため、時間Tivcよりも復帰時期までの時間ΔTの方が長い。その後、燃料カット制御が進むと、復帰時期までの時間ΔTが徐々に短くなり、ついには時間Tivcが復帰時期までの時間ΔTと等しくなる。そして、このように時間Tivcが上記予測された復帰時間ΔTと等しくなると、基準動作線W上の動作点iに対応する吸気弁閉弁時期IVC2へ向けた吸気弁閉弁時期の変更が開始され、その後、吸気弁閉弁時期が最大速度で遅角せしめられる。これにより、燃料カット制御終了時には、吸気弁閉弁時期は、基準動作線W上の要求動作点iに対応する吸気弁閉弁時期IVC2に到達することになる。
燃料カット制御を終了する復帰時期の予測は、たとえば現在の機関回転数と復帰回転数との差や、現在の機関回転数の減少速度等に基づいて行われる。すなわち、現在の機関回転数と終了基準回転数との差が大きいほど復帰時期は遅くなり、また現在の機関回転数の減少速度が遅いほど復帰時期は遅くなる。したがって、本実施形態では、現在の機関回転数と復帰回転数との差や、現在の機関回転数の減少速度等と、機関回転数が復帰回転数に到達するまでにかかる時間との関係を予め計算によりまたは実験により求め、マップとしてECU30のROM32に保存すると共に、このマップを用いて現在の機関回転数と現在の機関回転数の減少速度とに基づいて復帰時期を算出することとしている。
本発明による実施形態によれば、燃料カット制御終了前から、燃料カット終了後の要求動作点に対応する吸気弁閉弁時期に向けて吸気弁閉弁時期が変更せしめられることにより、燃料カット終了時には吸気弁閉弁時期が燃料カット終了後の要求動作点に対応する吸気弁閉弁時期IVC2に到達することになる。このため、燃料カット終了直後からノッキングの発生を招くことなく燃料の燃焼を再開させることができる。
なお、上記実施形態では、燃料カット制御を終了する際に、予測された復帰時期に吸気弁閉弁時期が基準動作線W上の要求動作点に対応する吸気弁閉弁時期に到達するように、燃料カット制御終了前から吸気弁閉弁時期を変更することとしているが、必ずしもこのように吸気弁閉弁時期を変更する必要はなく、予測された復帰時期に機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とを示す動作点が侵入禁止領域X1外に位置するように(例えば、図39の点i’に位置するように)燃料カット制御終了前から吸気弁閉弁時期を変更すればよい。
ところで、上記実施形態では、燃料カット制御実行時には、吸気弁閉弁時期の目標値は予め定められた一定の時期IVC1とされている。しかしながら、燃料カット制御実行中の吸気弁閉弁時期の目標値は一定でなくてもよく、たとえば機関回転数や要求ポンピング損失に基づいて変動するものであってもよい。この場合、吸気弁閉弁時期の目標値は、機関回転数が低くなるほどスロットル弁17下流の吸気通路内に負圧が発生しにくいことから進角せしめられ、また要求ポンピング損失が大きくなるほどスロットル弁17下流の吸気通路内に大きな負圧を発生させるべく進角せしめられる。
或いは、燃料カット制御実行時には吸気弁閉弁時期とスロットル弁17の開度とを相互に関連させて制御してもよい。内燃機関に発生するポンピング損失は図40に示されるように吸気弁閉弁時期とスロットル弁17の開度とによって変化する。図40からわかるように、スロットル弁17の開度と吸気弁閉弁時期とを変化させても発生するポンピング損失が一定になる場合が存在し、例えば吸気弁閉弁時期がIVC3でスロットル弁17の開度がθ3であるときと、吸気弁閉弁時期がIVC4でスロットル弁17の開度がθ4であるときとは、発生するポンピング損失は同一となる。
そこで、燃料カット制御中には、要求ポンピング損失が発生する吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度のうち、燃料カット制御終了時に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度を示す動作点が最も速く燃料カット制御終了後の要求動作点に到達するような吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度となるようにしてもよい。これにより、燃料カット制御実行時に要求ポンピング損失を発生させつつ、燃料カット制御終了時に機械圧縮比および吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度を示す動作点を迅速に燃料カット制御終了後の要求動作点に到達させることができる。
図41は、燃料カット制御を考慮した、内燃機関の運転制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。このルーチンは、予め定められた一定時間毎の割込みによって実行される。
図41を参照すると、まずステップ300では、燃料カットフラグ(FCフラグ)Xfcが0であるか否かが判定される。燃料カットフラグXfcは、燃料カット制御の実行条件が成立すると1とされ、その後、燃料カット制御の終了条件が成立すると0にリセットされるフラグである。前回のルーチンまでに燃料カット制御の実行条件が成立していないときには燃料カットフラグXfcは0とされており、ステップ301へと進む。
ステップ301では、燃料カット制御の実行条件が成立したか否かが判別される。燃料カット制御の実行条件が成立する場合とは、例えばアクセルペダル40の踏込み量が0であって、機関回転数が所定回転数以上である場合が挙げられる。ステップ301において燃料カット制御の実行条件が成立したと判定された場合にはステップ302へと進む。ステップ302では、燃料カットフラグXfcが1とされる。
このように燃料カット制御の実行条件が成立して燃料カットフラグXfcが1とされると、次回のルーチンでは、ステップ300において燃料カットフラグXfcが0ではないと判定されてステップ303へと進む。ステップ303では、点火時期遅角制御の実行条件が成立しているか否かが判別される。点火時期遅角制御の実行条件は、たとえば燃料カット制御の実行条件が成立してから所定時間が経過するまでの間に成立し、所定時間経過後に不成立となる。
ステップ303で点火時期遅角制御の実行条件が成立していると判定された場合には、ステップ304へと進む。ステップ304では、点火時期遅角制御が実行され、徐々に点火時期が遅角される。次いで、ステップ305では、アクセルペダル40の踏込み量等から要求吸入空気量GXが算出され、ステップ306では、図36を用いて説明したように要求吸入空気量GXに基づいて燃料カット時基準動作線W’上の目標動作点が決定せしめられる。
その後、所定時間に亘って点火時期遅角制御が実行されて、点火時期が十分に遅角されると、次のルーチンでは、ステップ303において点火時期遅角制御の実行条件が成立していないと判定され、ステップ307へと進む。ステップ307では、燃料カット制御が実行される。すなわち、燃焼室5内への燃料の供給が停止せしめられる。次いで、ステップ308では、燃料カット制御の終了条件が成立したか否かが判定される。燃料カット制御の終了条件が成立する場合とは、たとえば機関回転数が復帰回転数以下となった場合や、アクセルペダル40が踏み込まれた場合等が挙げられる。
ステップ308において燃料カット制御の終了条件が成立していないと判定されると、次いでステップ309へと進む。ステップ309では、吸気弁閉弁時期を上述した閉弁時期の差ΔIVCだけ変化させるのにかかる時間Tivcと、現在から燃料カット制御を終了する復帰時期までの時間ΔTとが算出される。次いで、ステップ310では、吸気弁7の変化にかかる時間Tivcが復帰時期までの時間ΔT以下であるか否かが判別される。吸気弁7の変化にかかる時間Tivcが復帰時間までの時間ΔTよりも長いと判定された場合には、ステップ305、306へ進んで、燃料カット時基準動作線W’上の目標動作点が決定せしめられる。
その後、燃料カット制御が進んで、ステップ310において吸気弁7の変化にかかる時間Tivcが復帰時期までの時間ΔT以下になると、ステップ311へと進む。ステップ311では、ステップ305と同様に要求吸入空気量GXが算出され、次いでステップ322では図37を用いて説明したように要求吸入空気量GXに基づいて基準動作線W上の目標動作点が決定せしめられる。これにより、動作点が要求吸入空気量GXを満たす基準動作線W上の目標動作点に向かって変更されることになる。
その後、燃料カット制御の終了条件が成立すると、次のルーチンではステップ308からステップ313へと進む。ステップ313では、燃料カットフラグXfcが0とされる。燃料カットフラグXfcが0とされると、次のルーチンでは、ステップ300からステップ301へと進み、ステップ301においても燃料カット制御の実行条件が成立していないことから、ステップ314へと進む。ステップ314では、通常制御が行われ、図32に示したルーチンによって機械圧縮比等の目標値が算出される。
次に、本発明の第二実施形態について説明する。上記では、減速運転時の燃料カット制御についてのみ説明しているが、上記実施形態では、減速運転に伴う燃料カット制御時以外にも、機関回転数や車速が過剰に上昇して機関回転数や車速を低下させることが必要とされる場合、オートマチックトランスミッションにおいてシフトアップが行われる際に機関回転数を低下させる場合等の燃料カット制御時にも上述した機械圧縮比、吸気弁閉弁時期およびスロットル弁17の開度の制御が行われる。
しかしながら、例えばシフトアップが行われる際の燃料カット制御等は短時間のみしか行われない。このため、このような燃料カット制御時にはポンピング損失を大きくすることが必要とされず、よって吸気弁閉弁時期等を上述したように制御しても十分な効果を得ることができない。そればかりか、可変圧縮比機構Aの駆動モータ59、可変バルブタイミング機構Bの作動油供給制御弁78の作動頻度を高め、これらアクチュエータの耐久性の低下を招いてしまう。
そこで、本実施形態では、シフトアップ時の燃料カット制御等、燃料カット制御が一定時間よりも短い時間しか行われないような場合には、上述したような動作線の切替を行わないこととしている。したがって、このような場合には燃料カット制御中であっても機械圧縮比および吸気弁閉弁時期が要求機関負荷に応じた目標機械圧縮比および吸気弁の目標閉弁時期となるように可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bが制御されることになる。これにより、アクチュエータの耐久性低下を抑制ことができる。