JP2012117474A - 火花点火式内燃機関 - Google Patents
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Abstract
【課題】有段変速機の変速動作中及び変速完了後におけるドライバビリティの悪化を抑制することができる内燃機関を提供する。
【解決手段】火花点火式内燃機関は、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構Aと、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構Bと、スロットル開度を変更可能なスロットル弁17とを具備する。機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度との組合せに対して侵入禁止領域X1、X2が設定され、これらの組合せを示す動作点は侵入禁止領域内に侵入せずに要求吸入空気量に応じた動作点へ移動するように制御される。内燃機関に連結された有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比が、要求吸入空気量に応じて設定される通常目標機械圧縮比よりも低い値であって、目標機械圧縮比、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度の組合せを示す目標動作点が侵入禁止領域外となるような値とされる。
【選択図】図21
【解決手段】火花点火式内燃機関は、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構Aと、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構Bと、スロットル開度を変更可能なスロットル弁17とを具備する。機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度との組合せに対して侵入禁止領域X1、X2が設定され、これらの組合せを示す動作点は侵入禁止領域内に侵入せずに要求吸入空気量に応じた動作点へ移動するように制御される。内燃機関に連結された有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比が、要求吸入空気量に応じて設定される通常目標機械圧縮比よりも低い値であって、目標機械圧縮比、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度の組合せを示す目標動作点が侵入禁止領域外となるような値とされる。
【選択図】図21
Description
本発明は、火花点火式内燃機関に関する。
機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構とを具備し、機関負荷にかかわらず実圧縮比をほぼ一定に維持するようにした火花点火式内燃機関が公知である(例えば、特許文献1を参照)。特に、特許文献1に記載の火花点火式内燃機関では、内燃機関の運転中において、機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比を増大させると共に吸気弁の閉弁時期を吸気上死点に向けて遅角させることで、実圧縮比を一定に維持している。
ところで、可変圧縮比機構、可変バルブタイミング機構及びスロットル弁を用いて機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度を制御する場合、機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度とでは変化させることのできる速度が異なる。一般的には、機械圧縮比を変化させる場合の方が吸気弁閉弁時期を変化させるよりも時間を要し、吸気弁閉弁時期を変化させる場合の方がスロットル開度を変化させるよりも時間を要する。
一方、内燃機関に有段変速機を設けた場合、その変速動作中には内燃機関の出力トルクを一時的に低下させることが必要になる。このため、有段変速機の変速動作中には一時的に機関負荷が低い状態となり、その結果、上記内燃機関では上述したように機械圧縮比を増大させると共に吸気弁の閉弁時期を吸気上死点に向けて遅角させることになる。
ところが、上述したように機械圧縮比の変化速度は遅い。このため、有段変速機の変速動作中に、機関負荷に対応した機械圧縮比まで到達しない可能性がある。また、通常、機械圧縮比は変速完了後には再び変速完了後の機関負荷に対応した機械圧縮比にまで低下せしめられることになるが、このときにも機械圧縮比の変化速度が遅いことにより変速完了後の機関負荷に対応した機械圧縮比に到達するのに時間がかかる場合がある。その結果、有段変速機の変速動作中及び変速完了後におけるドライバビリティの悪化を招く。
一方、上述したように、機械圧縮比の変化速度が遅いことから、有段変速機の変速動作中に機械圧縮比を変更しないようにすることも考えられる。しかしこの場合でも、スロットル開度を低下させ且つ吸気弁閉弁時期を遅角させて吸入空気量を減少させることが必要になるが、このように吸入空気量が減少したときに機械圧縮比が低いと、燃焼室内における圧縮端圧力が低くなり、燃焼悪化や失火の発生に伴うドライバビリティの悪化が生じる可能性がある。
そこで、上記課題に鑑みて、本発明の目的は、有段変速機の変速動作中及び変速完了後におけるドライバビリティの悪化を抑制することができる火花点火式内燃機関を提供することにある。
上記課題を解決するために、第1の発明では、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構と、スロットル開度を変更可能なスロットル弁とを具備し、機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度との組合せに対して侵入禁止領域が設定され、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度はこれらの組合せを示す動作点が上記侵入禁止領域内に侵入することなく要求吸入空気量に応じて設定された通常目標機械圧縮比、通常目標吸気弁閉弁時期及び通常目標スロットル開度へと移動するように可変圧縮比機構、可変バルブタイミング機構及びスロットル弁が制御される火花点火式内燃機関において、当該火花点火式内燃機関に連結された有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比が、上記要求吸入空気量に応じて設定される通常目標機械圧縮比よりも低い値であって、目標機械圧縮比、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度の組合せを示す目標動作点が侵入禁止領域外となるような値とされる。
第2の発明では、第1の発明において、上記有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比は、変速前の機械圧縮比以上とされる。
第3の発明では、第2の発明において、上記有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比は、変速前の機械圧縮比以上であって目標動作点が予め設定された侵入禁止領域外となるような圧縮比のうち最も低い圧縮比とされる。
第4の発明では、第1〜第3のいずれか一つの発明において、上記有段変速機における変速動作中にも、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度は、それぞれ上記要求吸入空気量に応じて設定される通常目標吸気弁閉弁時期及び通常目標スロットル開度とされる。
第5の発明では、第4の発明において、上記侵入禁止領域は、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せを示す動作点が侵入すると異常燃焼又はトルク変動が発生する領域である。
第6の発明では、第4の発明において、上記侵入禁止領域は、上記有段変速機における変速動作中に点火遅角が行われた場合に、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せを示す動作点が侵入すると異常燃焼又はトルク変動が発生する領域である。
本発明によれば、有段変速機の変速動作中及び変速完了後におけるドライバビリティの悪化を抑制することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火プラグ、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11にはそれぞれ対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火プラグ、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11にはそれぞれ対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いたエアフロメータ18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。
一方、図1に示した実施形態ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、さらに実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示した実施形態ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
図1に示したようにクランクケース1とシリンダブロック2にはクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置関係を検出するための相対位置センサ22が取付けられており、この相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。また、可変バルブタイミング機構Bには吸気弁7の閉弁時期を示す出力信号を発生するバルブタイミングセンサ23が取付けられており、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。なお、本実施形態では、現在の機械圧縮比を検出するための機械圧縮比検出装置として相対位置センサ22が用いられるが、機械圧縮比検出装置としては相対位置センサ22以外の検出装置を使用することも可能である。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35及び出力ポート36を具備する。エアフロメータ18、空燃比センサ21、相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23及びスロットル開度センサ24の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。さらに入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火プラグ6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構A及び可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内にはそれぞれ断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔ててそれぞれ対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にもそれぞれ断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示したように一対のカムシャフト54、55が設けられており、各カムシャフト54、55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54、55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54、55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示したようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示したようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54、55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示したように互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示したように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示した方向に回転させると図3(C)に示したように偏心軸57は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)にはそれぞれの状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)を比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。すなわち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、したがって各カムシャフト54、55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示したように各カムシャフト54、55をそれぞれ反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸にはそれぞれ螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61、62が取付けられており、これらウォーム61、62と噛合するウォームホイール63、64がそれぞれ各カムシャフト54、55の端部に固定されている。この実施形態では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転し且つ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側にはそれぞれ進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76、77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76、77にそれぞれ連結された油圧ポート79、80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83、84と、各ポート79、80、82、83、84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示した中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。したがって可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。したがって吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、したがって吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1及び図4に示した可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A)、(B)、(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A)、(B)、(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示した例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。すなわち、図6(B)に示したように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。したがって実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示した例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示した例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7及び図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A)、(B)、(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。すなわち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、すなわち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、すなわち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。したがって通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見出されたのである。すなわち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。したがって膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、したがって実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構A及び可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示した通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示した場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、したがって機関運転時における熱効率を向上させるためには、すなわち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示した超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、したがってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。したがって本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ運転制御全般について概略的に説明する。
図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比及びスロットル弁17の開度(スロットル開度)の各変化が示されている。なお、図9は、触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC、CO及びNOxを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基づいて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比及びスロットル弁17の開度(スロットル開度)の各変化が示されている。なお、図9は、触媒コンバータ20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC、CO及びNOxを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基づいて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示した通常のサイクルが実行される。したがって図9に示したようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示したように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
一方、図9において実線で示したように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、したがって機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、したがって燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。すなわち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。したがってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示した例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
機関負荷がさらに低くなると機械圧縮比はさらに増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる最大限界機械圧縮比に達する。機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が最大限界機械圧縮比に保持される。したがって低負荷側の機関中負荷運転時及び機関低負荷運転時には、すなわち機関低負荷運転側では、機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
一方、図9に示した実施形態では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示した実施形態ではこのとき、すなわち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。したがって、図9において実線で示した場合と破線で示した場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施形態では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。このように吸入空気量は吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させても制御することができるし、破線に示すように変化させても制御することができるが、以下本発明について吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させた場合を例にとって説明する。
ところで前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。したがって本発明では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
次に図10から図13を参照しつつ侵入禁止領域と、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期に対する基準動作線について説明する。
図10は要求されている機関負荷を得るのに必要な吸入空気量、すなわち要求吸入空気量と、機械圧縮比と、吸気弁閉弁時期とを示している。なお、図10において要求吸入空気量は原点0から離れるにしたがって増大し、機械圧縮比は原点0から離れるにしたがって増大する。また、図10において吸気弁閉弁時期は吸気下死点後(ABDC)のクランク角で表されており、したがって吸気弁閉弁時期は原点0から離れるにしたがって遅角される。
一方、図10においてQ1、Q2、Q3、Q4、Q5はそれぞれ同一吸入空気量面を表している。また、θmaxはスロットル弁17が全開しているスロットル全開面を表しており、図10からわかるようにこのスロットル全開面θmaxは上に凸の湾曲面からなる。このスロットル全開面θmaxの下方の領域では下方にいくほどスロットル開度が小さくなる。
この様子を図11に示す。図11の曲面θ1、θ2はそれぞれスロットル開度がθ1、θ2となっているときを示す同一吸気管負圧面であり、図11からわかるように各吸気管負圧面θ1、θ2は上に凸の湾曲面からなる。また、スロットル開度θmax、θ2、θ1の関係はθmax>θ2>θ1となっており、スロットル開度が小さいほど、同一機械圧縮比及び同一吸気弁閉弁時期における吸入空気量が少なくなる。
図10においてハッチングで示した領域は各同一吸入空気量面Q1、Q2、Q3、Q4、Q5内における侵入禁止領域を示している。一方、図12は図10の上からみたところを示しており、図13(A)は図10における左側面S1を矢印方向からみたところを示しており、図13(B)は図10における右側面S2を矢印方向からみたところを示しており、これら図12及び図13(A)、(B)においてもハッチングで示した領域は侵入禁止領域を示している。
図10、図12、図13(A)、(B)から侵入禁止領域は3次元的に広がっており、さらにこの侵入禁止領域は高負荷側の領域X1と低負荷側の領域X2との2つの領域からなることがわかる。なお、図10、図12、図13(A)、(B)からわかるように高負荷側侵入禁止領域X1は要求吸入空気量が多く、吸気弁閉弁時期が進角側で機械圧縮比が高い側に形成され、低負荷側侵入禁止領域X2は要求吸入空気量が少なく、吸気弁閉弁時期が遅角側で機械圧縮比が低い側に形成される。
さて、図9は要求吸入空気量に対して最小燃費の得られる、吸気弁閉弁時期と機械圧縮比と実圧縮比とスロットル開度の関係を示しており、これらの関係を満たす線が図10及び図12において実線Wで示されている。図10からわかるようにこの線Wは同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が多い側ではスロットル全開面θmax上を延びており、同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が少ない側では右側面S2上を延びている。この同一吸入空気量面Q3は図9の負荷L1に対応している。
すなわち、図9においてL1よりも機関負荷が高い領域では機関負荷が高くなるほど、すなわち要求吸入空気量が増大するほどスロットル弁17が全開に保持された状態で吸気弁閉弁時期が進角され、このとき機械圧縮比は実圧縮比が一定となるように要求吸入空気量が増大するほど低下せしめられる。このときの機械圧縮比と吸気弁閉弁時期との関係が図10のスロットル全開面θmax上における線Wで表されている。すなわち、図10に示したように同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が多い側では要求吸入空気量が増大するほどスロットル弁17が全開に保持された状態で吸気弁閉弁時期が進角され、このとき機械圧縮比は実圧縮比が一定となるように要求吸入空気量が増大するほど低下せしめられる。
一方、図9においてL1よりも機関負荷が低い領域では機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期が一定に保持され、機関負荷が低くなるほど、すなわち要求吸入空気量が減少するほどスロットル弁17の開度が減少せしめられる。このときの機械圧縮比と吸気弁閉弁時期との関係が図10の右側面S2上における線Wで表されている。すなわち、図10に示したように同一吸入空気量面Q3よりも吸入空気量が少ない側では機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期が一定に保持され、機関負荷が低くなるほど、すなわち要求吸入空気量が減少するほどスロットル弁17の開度が減少せしめられる。
本願明細書では、要求吸入空気量が変化したときに機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とが辿る線を動作線と称しており、特に図10に示した線Wは基準動作線と称されている。なお、前述したようにこの基準動作線は最小燃費の得られる最小燃費動作線を示している。
前述したようにこの基準動作線W上では実圧縮比が一定とされている。実圧縮比はスロットル弁17の開度とは無関係であって機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期のみによって定まるので図10において基準動作線Wを通り垂直方向に延びる曲面上では同一実圧縮比となる。この場合、この曲面よりも機械圧縮比の高い側では実圧縮比が高くなり、この曲面よりも機械圧縮比の低い側では実圧縮比が低くなる。すなわち、大雑把に言うと、高負荷側侵入禁止領域X1は基準動作線W上における実圧縮比よりも実圧縮比の高い領域に位置しており、低負荷側侵入禁止領域X2は基準動作線W上における実圧縮比よりも実圧縮比の低い領域に位置している。
さて、燃費を向上するために実圧縮比を高くするとノッキングが発生し、ノッキングの発生を阻止するために点火時期を遅角させると燃焼が不安定となってトルク変動を生ずる。高負荷側侵入禁止領域X1はこのようなトルク変動を生ずる運転領域であり、したがって機関運転時には機関の運転状態がこのようなトルク変動を生ずる運転領域内に入らないようにする必要がある。一方、吸入空気量が少なく実圧縮比が低くなると燃焼しづらくなり、スロットル弁17の開度が小さくなって圧縮端圧力が低くなると燃焼が悪化してトルク変動を生ずる。低負荷側侵入禁止領域X2はこのようなトルク変動を生ずる運転領域であり、したがって機関運転時にはこの運転領域にも機関の運転状態が入らないようにする必要がある。
一方、実圧縮比が高くなるほど燃費が向上し、したがってノッキングやトルク変動を生ずることなく最小の燃費が得られる最小燃費動作線は図10及び図12においてWで示したように高負荷側侵入禁止領域X1の外部において高負荷側侵入禁止領域X1の外縁に沿いつつ延びている。前述したように本発明による実施形態ではこの最小燃費動作線が基準動作線Wとされており、基本的には要求吸入空気量に応じて機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期との組合せを示す動作点がこの基準動作線W上を移動するように機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル弁17の開度が制御される。なお、現在の動作点は相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23及びスロットル開度センサ24により常時検出されている。
次に本発明による機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル弁17の開度の制御の仕方について基本的な制御の仕方から説明する。この基本的な制御の仕方が図14から図16に示されている。
すなわち、図14は機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せが基準動作線W上のm点における値に維持されているときに要求吸入空気量が増大せしめられた場合を示している。ところで本発明による実施形態では例えば予め定められた時間毎に要求吸入空気量が算出されており、この予め定められた時間毎に算出される要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の動作点が順次算出される。この要求吸入空気量を満たす動作点(すなわち、目標機械圧縮比、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度の組合せ。以下、「目標動作点」という)の一例が図14においてa1、a2、a3、a4、a5、a6で示されている。すなわち、この例では要求吸入空気量が増大せしめられた後に最初に検出された要求吸入空気量を満たす目標動作点がa1であり、次に検出された要求吸入空気量を満たす目標動作点がa2であり、次に検出された要求吸入空気量を満たす目標動作点がa3である。
目標動作点が変化すると機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せを示す動作点は新たな目標動作点に向けて変化する。すなわち、図14に示した例では現在の動作点は目標動作点がa1とされるとm点からa1点に向けて変化し、目標動作点がa2とされると現在の動作点はa2に向けて変化する。この場合、目標動作点が変化する前に機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度がそれぞれ目標機械圧縮比、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度に到達すれば機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度は何の問題もなく目標動作点の変化に追従して変化する。しかしながら目標動作点が変化する前に機械圧縮比や吸気弁閉弁時期等が目標機械圧縮比や目標吸気弁閉弁時期に到達しない場合には問題を生ずる場合がある。
すなわち、図14において機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期が点mにあるときに目標動作点a1となったときには機械圧縮比及び吸気弁時期は変化せず、このとき要求吸入空気量を満たすべくスロットル開度が増大せしめられる。アクチュエータ16によるスロットル開度変化の応答性は極めて早く、したがって目標動作点がa1になると機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を示す動作点はm点からa1点にただちに移る。
次いで目標動作点がa2になると機械圧縮比がわずかばかり低下せしめられ且つ吸気弁閉弁時期がわずかばかり進角されつつスロットル開度が全開にされる。このとき機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期は次の目標動作点a3が算出される頃には目標動作点a2の近くまで到達する。このとき到達する機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期が図14の上方からみたところを示す図15において動作点b2で示されている。
目標動作点a3が算出されると機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期は動作点b2から目標動作点a3に向けて移動を開始する。すなわち、スロットル開度が全開の状態で機械圧縮比は低下せしめられ、吸気弁閉弁時期は進角せしめられる。ところが可変圧縮比機構Aによる機械圧縮比変化の応答性及び可変バルブタイミング機構Bによる吸気弁7の閉弁時期変化の応答性はそれほど早くなく、特に可変圧縮比機構Aによる機械圧縮比変化の応答性はかなり遅い。したがって要求吸入空気量の増大速度が速い場合には目標動作点と機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期の現在の値を示す動作点とが次第に離れていくことになる。例えば図15において目標動作点がa6まで移動したときに機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期の現在の値を示す動作点が依然としてb2付近に位置するような状態が生ずる。
本発明の実施形態では、吸入空気量が変化したときに機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期が現在の動作点から吸入空気量を満たす目標動作点に向けて侵入禁止領域X1、X2内に侵入することなく一定時間後に到達可能な目標動作点を算出し、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期をこの目標動作点に向けて変化させるようにしている。
次にこの本発明を具体化した一実施形態についてスロットル全開面θmaxを示す図15を参照しつつ説明する。前述したように図15は目標動作点がa3になったときに機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を示す動作点がb2である場合を示している。この場合において矢印R2は機械圧縮比が目標動作点a3に向けて予め定められた一定時間で到達可能な量を表しており、矢印T2は吸気弁閉弁時期が目標動作点a3に向けて予め定められた一定時間で到達可能な量を表している。また、図15においてc2は現在の動作点b2から吸入空気量を満たす目標動作点a3に向けて侵入禁止領域X1内に侵入することなく一定時間後に到達可能な目標動作点を示している。
図15に示したように要求吸入空気量が増大せしめられ且つ動作点b2及び目標動作点a3がスロットル全開面θmax上にあるときにはこの目標動作点c2は基準動作線W上に、図15に示した例では最小燃費動作線W上に位置する。すなわち、図15に示した例では、スロットル開度が全開に維持されているときには目標動作点は侵入禁止領域X1の外部であって侵入禁止領域X1の外縁に沿って延びる最小燃費動作線W上を移動せしめられる。
また、図15において目標動作点がa6であるときに現在の動作点がbiであったとすると、この場合にも目標動作点は基準動作線W上の点ciとされる。なお、図15において矢印Riは同様に機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量を表しており、矢印Tiは吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量を表している。
このように図15に示した例では動作点がb2であるときに目標動作点c2が算出されると一定時間後に機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を示す動作点は目標動作点c2に到達する。このとき現在の動作点c2から吸入空気量を満たす目標動作点に向けて侵入禁止領域X1内に侵入することなく一定時間後に到達可能な次の新たな目標動作点が算出され、動作点は一定時間後にこの新たな目標動作点に到達する。この場合、本発明による実施形態では機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度はPID(比例積分微分)制御によって目標動作点に到達せしめられる。
このように図15に示した例では機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を示す動作点は基準動作線Wに沿って停滞することなく滑らかに移動する。すなわち、図14において機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期がm点に維持されているときに吸入空気量が増大せしめられると機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期は図16において矢印で示されるように基準動作線Wに沿って停滞することなく滑らかに変化せしめられる。その結果、吸入空気量の変化に対して良好な機関の応答性を確保することができることになる。
この場合、吸入空気量に対する機関の応答性を更に向上するためには目標動作点c2、ciをそれぞれ対応する現在の動作点b2、biからできる限り離すことが好ましい。したがって本発明による実施形態では目標動作点c2、ciは対応する現在の動作点b2、biから吸入空気量を満たす目標動作点に向けて侵入禁止領域X1内に侵入することなく一定時間後に到達可能な動作点のうちで現在の動作点b2、biから最も離れた動作点とされている。
すなわち、現在の動作点がb2の場合には動作点b2からの機械圧縮比の到達限界が目標動作点c2とされ、吸気弁閉弁時期についてはこの目標動作点c2は動作点b2からの吸気弁閉弁時期の到達限界よりも手前となる。したがってこのときには機械圧縮比は可能な最大速度でもって低下せしめられ、吸気弁閉弁時期は可能な最大速度よりもゆっくりとした速度で進角される。これに対し、現在の動作点がbiの場合には動作点biからの吸気弁閉弁時期の到達限界が目標動作点ciとされ、機械圧縮比についてはこの目標動作点ciは動作点biからの吸気弁閉弁時期の到達限界よりも手前となる。したがってこのときには吸気弁閉弁時期は可能な最大速度でもって進角され、機械圧縮比は可能な最大速度よりもゆっくりとした速度で減少せしめられる。
次に図17及び図18を参照しつつ吸入空気量がゆっくりと減少せしめられた場合について説明する。なお、図18は図15と同様なスロットル全開面θmaxを示している。
図18はこの場合における現在の動作点と目標動作点との関係を示している。すなわち、図18には現在の動作点がeiであるときの目標動作点がdiで示されており、このとき機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量がRiで示されており、このとき吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量がTiで示されている。さらに図18には現在の動作点がejであるときの目標動作点がdjで示されており、このとき機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量がRjで示されており、このとき吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量がTjで示されている。
この場合には目標動作点diは機械圧縮比の到達限界の手前となり、吸気弁閉弁時期の到達限界の手前となるので目標動作点diが目標動作点となる。同様に目標動作点djは機械圧縮比の到達限界の手前となり、吸気弁閉弁時期の到達限界の手前となるので目標動作点djが目標動作点となる。したがってこの場合には動作点は基準動作線Wに沿って移動する。すなわち、吸入空気量がゆっくりと減少するときにはスロットル弁17が全開に保持された状態で吸気弁閉弁時期が徐々に遅角され、実圧縮比が一定となるように機械圧縮比が徐々に増大される。
ところで、上述したように要求吸入空気量がゆっくり減少した場合には、動作点を基準動作線Wに沿って移動させることができる。しかしながら、要求吸入空気量が急激に減少した場合には、可変圧縮比機構Aによる機械圧縮比変化の応答性及び可変バルブタイミング機構Bによる吸気弁7の閉弁時期変化の応答性が遅いことから、動作点を基準動作線Wに沿って移動させると現在の吸入空気量を要求吸入空気量まで減少させるのに時間がかかってしまう。
したがって、この場合、まず現在の吸入空気量が要求吸入空気量にまで減少するようにスロットル開度を減少させ、その後、動作点が基準動作線W上の目標動作点に到達するように、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を制御することが考えられる。
例として、図19及び図20を参照して、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期が基準動作線W上のn点における値に維持されているときに要求吸入空気量がQ1にまで急激に減少せしめられた場合について説明する。図19は図17と同様な図であり、図20は、要求吸入空気量がQ1である同一吸入空気量平面を示している。
この場合、要求吸入空気量Q1を満たす基準動作線W上の目標動作点はd1となる。このため、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期は動作点nから動作点d1に向けて移動せしめられる。この場合、まず機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量と吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量から侵入禁止領域X1、X2内に侵入することなく目標動作点d1に最も近い機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期が算出される(すなわち、目標動作点e1に対応する目標機械圧縮比及び目標吸気弁閉弁時期が算出される)。
しかしながら、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を変更するだけでは、一定時間後に吸入空気量Q1を満たすことはできない。このため、一定時間後に吸入空気量Q1を満たすべく、スロットル開度が小さくせしめられる。このときのスロットル開度は、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を上記目標動作点e1に対応する目標機械圧縮比及び目標吸気弁閉弁時期とした場合に吸入空気量が吸入空気量Q1となるような開度とされ、その結果、目標動作点e1は図19及び図20に示したように同一吸入空気量平面Q1上の点となる。
その後、動作点が同一吸入空気量平面Q1上を移動せしめられる。すなわち、図20に示したように、同一吸入空気量平面Q1上において機械圧縮比が一定時間後に到達可能な量と吸気弁閉弁時期が一定時間後に到達可能な量から目標動作点d1に最も近い各目標動作点e2、e3、e4、e5、e6、e7、e8、e9、e10が順次算出される。この場合、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を最大速度で変化させると目標動作点が侵入禁止領域X2に侵入してしまうような場合には、目標動作点が侵入禁止領域X2に侵入しないように、機械圧縮比又は吸気弁閉弁時期の変化量が一定時間後に到達可能な量よりも少ない量とされる。例えば、図20における目標動作点e4〜e6は、動作点が侵入禁止領域X2に侵入するのを回避すべく、吸気弁閉弁時期の変化量が一定時間後に到達可能な量よりも少ない量とされている。
ところで、上述したような火花点火式内燃機関の出力軸が有段式自動変速機(図示せず)に連結されている場合、変速機における変速動作中には火花点火式内燃機関の出力トルクを一時的に低下させ、その後変速完了後に出力トルクを再度高めることが必要になる。従って、変速機における変速動作中には、機関負荷(すなわち、要求吸入空気量)が一時的に減少し、その後再び元の機関負荷と同程度まで戻ることになる。
一例を、図21及び図22に示す。図21は、各動作点における要求吸入空気量、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を示す図10と同様な図である。また、図22は要求吸入空気量がQ1である同一吸入空気量平面を示す図であり、図中、黒丸は同一吸入空気量平面Q1上の点を、白丸は同一吸入空気量平面Q1以外の平面上の点を示している。図21及び図22に示した例では、変速機における変速直前の要求吸入空気量がQ4であり、変速動作中には要求吸入空気量がQ1まで減少し、変速完了後には要求吸入空気量が再びQ4まで戻る。
従って、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度を上述したように制御しようとした場合、以下のような手順で制御が行われる。なお、以下の説明では、内燃機関の通常運転時に要求吸入空気量に基づいて設定される基準動作線W上の目標動作点を、通常動作点又は通常目標動作点と称する。
まず、変速開始前においては機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せを示す動作点は、要求吸入空気量Q4を満たす基準動作線W上の通常動作点f1(機械圧縮比εf1、吸気弁閉弁時期IVCf1、スロットル開度θf1)にあるとする。変速機における変速が開始されると、要求吸入空気量はQ1まで減少されるため、目標動作点は要求吸入空気量Q1を満たす基準動作線W上の通常動作点f2(機械圧縮比εf2、吸気弁閉弁時期IVCf2、スロットル開度θf2)へと変化する。これに伴って、実際の動作点が目標動作点f2に向けて上述したように変化せしめられる。
ところが、上述したように特に機械圧縮比の変化速度は遅いため、実際の機械圧縮比が通常目標動作点f2に対応する通常目標機械圧縮比εf2に到達する前に、或いは通常目標機械圧縮比εf2に到達した直後に、変速機における変速が完了し、これにより要求吸入空気量が再びQ4まで戻される。
また、変速機の変速完了に伴って要求吸入空気量が再びQ4まで戻されると、目標動作点は要求吸入空気量Q4を満たす基準動作線W上の通常動作点f1へと変化する。これに伴って、実際の動作点が目標動作点f1に向けて変化せしめられることになるが、このときも機械圧縮比の変化速度が遅いため、実際の機械圧縮比が目標動作点f1に対応する目標機械圧縮比εf1に到達するまでには或る程度の時間を要する。
このように、実際の機械圧縮比が目標機械圧縮比εf1に到達するのが遅くなると、変速機の変速完了後に実際の吸入空気量が要求吸入空気量に到達するのが遅くなるため、ドライバビリティの悪化を招くことになる。また、可変圧縮比機構Aによる機械圧縮比の変更にもエネルギが必要であるため、機械圧縮比の変更に伴う燃費の悪化を招くことになる。
このため、斯かる燃費やドライバビリティの悪化を抑制する方法の一つとして、変速機の変速動作中には吸気弁閉弁時期及びスロットル開度のみを変更し、機械圧縮比は変速前の機械圧縮比をそのまま維持することが提案されている。この場合、例えば、図21に示した例を参照すると、変速機の変速開始に伴って要求吸入空気量がQ4からQ1へと変化した場合、目標動作点はf1からf2ではなくf3へと変化せしめられることになる。ここで、f3は、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度が上述した通常目標動作点f2における目標吸気弁閉弁時期IVCf2及び目標スロットル開度θf2と同一であり、且つ目標機械圧縮比が上述したf1における目標機械圧縮比εf1と同一である動作点である。この場合、目標動作点がf1からf3に変更されても、機械圧縮比はほとんど変化しないため、実際の動作点を比較的早く目標動作点f3に到達させることができる。
その後、変速機の変速完了に伴って要求吸入空気量が再びQ4まで戻されると、目標動作点は要求吸入空気量Q4を満たす基準動作線W上の通常動作点f1へと変化する。これに伴って、実際の動作点が目標動作点f1に向けて変化せしめられることになるが、このときも機械圧縮比をほとんど変化させる必要がないため、実際の動作点を比較的早く目標動作点f1に到達させることができる。
このように変速機の変速動作中に目標動作点をf3とすることにより、変速機の変速完了後に実際の動作点を迅速に目標動作点f1に到達させることができ、よって吸入空気量を迅速に要求吸入空気量に到達させることができるようになり、その結果、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。また、変速機の変速動作中に機械圧縮比はほとんど変更されないため、機械圧縮比の変更に伴う燃費の悪化を抑制することもできる。
しかしながら、図21及び図22に示した例では、動作点f3が低負荷側侵入禁止領域X2内に位置している。したがって、上述したような制御を行うと、変速機の変速動作中に燃焼の悪化に伴うトルク変動が生じてドライバビリティの悪化を招くだけでなく、場合によっては内燃機関の失火を招くことになる。
そこで、本発明の実施形態では、変速動作中に上述したような動作点f3が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入するような場合、変速動作中には、動作点f3を低負荷側侵入禁止領域X2外へ機械圧縮比増大方向に移動させた動作点f4を目標動作点とするようにしている。すなわち、本発明の実施形態では、上述したような動作点f3が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入するような場合、変速動作中には、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度はそれぞれ変速動作中の要求吸入空気量Q1を満たす基準動作線W上の通常動作点f2における通常吸気弁閉弁時期IVCf2及び通常スロットル開度θf2とされ、目標機械圧縮比は目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度を通常動作点f2における通常吸気弁閉弁時期IVCf2及び通常スロットル開度θf2としたときに目標動作点が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入しない範囲で最も低い機械圧縮比εf4とされる。
したがって、本発明によれば、変速機における変速動作中の目標動作点をこのような動作点に設定することで、変速機の変速完了後に動作点を迅速に目標動作点に到達させることができ、且つ変速機の変速動作中及び変速完了後の機械圧縮比の変更が防止され、その結果、ドライバビリティの悪化抑制や燃費の悪化を抑制することができるだけでなく、変速動作中の動作点が低負荷側侵入禁止領域内に侵入するのを防止することによってドライバビリティの悪化や失火を抑制することができる。
一方、本発明の実施形態では、上述したような動作点f3が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入しないような場合(すなわち、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度をそれぞれ変速動作中の要求吸入空気量Q1を満たす基準動作線W上の通常動作点f2における吸気弁閉弁時期IVCf2及びスロットル開度θf2とし、目標機械圧縮比を変速前の目標動作点f1における機械圧縮比εf1としても目標動作点が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入しないような場合)には、変速機における変速動作中においても目標機械圧縮比は増大されることなくそのままεf1とされる。
以上をまとめると、上記実施形態では、変速機における変速動作中において上述したような動作点f3が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入しない場合には、変速動作中の目標動作点はそのままf3とされ、一方、変速機における変速動作中において動作点f3が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入する場合には、変速動作中の目標動作点は動作点f3に対して機械圧縮比が高められたf4とされる。
なお、変速機における変速動作中の目標動作点は、必ずしも上述したような動作点でなくてもよい。例えば、上述した実施形態では、変速動作中の目標動作点における目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度は、変速動作中の要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の通常動作点における吸気弁閉弁時期及びスロットル開度とされる。しかしながら、要求吸入空気量を達成することができれば、変速動作中の目標動作点における目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度は、必ずしも変速動作中の要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の通常動作点における吸気弁閉弁時期及びスロットル開度とされなくてもよい。
また、上述した実施形態では、動作点f3が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入するような場合、目標機械圧縮比は目標動作点が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入しない範囲で最も低い機械圧縮比εf4とされる。しかしながら、この場合の目標機械圧縮比は、低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入せず且つ要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の通常動作点における機械圧縮比よりも低ければ、必ずしも目標動作点が低負荷側侵入禁止領域X2内に侵入しない範囲で最も低い機械圧縮比εf4でなくてもよい。
図23は、変速機における変速動作中の機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の制御の流れを示すフローチャートである。
図23に示したように、まずステップS11では、車両状態及び機関運転状態が検出される。車両状態としては、例えば、車速、変速機のシフト等が挙げられ、機関運転状態としては、例えば、機関負荷(アクセルペダル開度)、機関回転数、機関水温等が挙げられる。これら車両状態及び機関運転状態は、負荷センサ41等に基づいて直接的に計測されてもよいし、検出された他のパラメータの値に基づいて算出されてもよい。
次いで、ステップS12では、変速要求の有無が判定される。変速要求は、例えば車速、変速機の現在のシフト、機関負荷、機関回転数等に応じて発せられる。例えば、機関回転数が高く、機関負荷が低く且つ車速が速いような場合にはシフトアップするように変速要求が発せられ、逆に機関回転数が低く、機関負荷が高く且つ車速が遅いような場合にはシフトダウンするように変速要求が発せられる。ステップS12において変速要求が発せられていないと判定された場合には変速機の変速を行う必要がなく、よって制御が終了せしめられる。一方、ステップS12において、変速要求が発せられていると判定された場合にはステップS13へと進む。
ステップS13では、変速動作中の要求吸入空気量が算出される。一般に、変速機における変速動作中は内燃機関と変速機との間の動力の伝達が遮断されるため、変速動作中に内燃機関によって大きなトルクが発生すると、機関回転数の急激な上昇を招くことになる。したがって、変速動作中には出力トルクを低く抑えることが必要であり、これに伴って変速動作中の要求吸入空気量も低いものとされる。
次いで、ステップS14では、ステップS13で算出された要求吸入空気量に基づいて暫定目標動作点が算出される。この暫定目標動作点は、図21及び図22におけるf3に対応する動作点であり、具体的には目標機械圧縮比が現在の機械圧縮比(すなわち、変速開始前における機械圧縮比)であり、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度が上記要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の通常動作点における吸気弁閉弁時期及びスロットル開度である動作点である。
次いで、ステップ15では、ステップS14で算出された暫定目標動作点が上述した侵入禁止領域X1、X2外の動作点であるか否かが判定される。ステップS15において、暫定目標動作点が侵入禁止領域X1、X2外の動作点であると判定された場合には、ステップS16へと進む。ステップS16では、変速機における変速動作中の最終的な目標動作点が、上述した暫定目標動作点と同一の動作点とされる。次いで、ステップS17では、実際の動作点がステップS16において算出された最終的な目標動作点に到達するように、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17が制御される。なお、この場合、機械圧縮比は変更されないため、可変圧縮比機構Aはそのままの状態で維持される。
次いで、ステップS18では、変速機における変速動作が完了したか否かが判定される。変速機における変速動作が完了していないと判定された場合には、ステップS18が繰り返される。すなわち、実際の動作点がステップS16で算出された最終的な目標動作点に維持されたままとなる。その後、変速機における変速動作が完了すると、ステップS19へと進む。ステップS19では、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の制御が通常の制御(すなわち、図10〜図20を参照して説明した制御)に戻される。
一方、ステップS15において、暫定目標動作点が侵入禁止領域X1、X2内の動作点であると判定された場合には、ステップS20へと進む。ステップS20では、侵入禁止領域X1、X2から出るように暫定目標動作点を機械圧縮比の増大方向に変更させた動作点を最終的な目標動作点として算出する。次いで、ステップS21では、実際の動作点がステップS20において算出された最終的な目標動作点に到達するように、可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17が制御される。
次いで、ステップS22では、ステップS18と同様に変速機における変速動作が完了したか否かが判定される。変速機における変速動作が完了したと判定されると、ステップS19へと進む。
なお、上記実施形態では、変速機における変速動作中の目標動作点の設定方法について説明しているが、実際の動作点を設定された目標動作点へ制御する方法は図10〜図20に示した方法と同様に行われる。
また、上記実施形態では、変速機として有段式自動変速機(有段式オートマチック・トランスミッション)を用いた場合を示しているが、変速機として手動変速機(マニュアル・トランスミッション)を用いても良い。この場合、上述したステップS12の変速要求の有無は運転者がクラッチ(図示せず)を踏み込んだか否かで判断されることになる。
次に、本発明の第二実施形態について説明する。本発明の第二実施形態の構成は基本的に第一実施形態の構成と同様である。しかしながら、第二実施形態では、変速機の変速動作中に点火時期の遅角が行われる。
すなわち、変速機における変速動作中に、スロットル開度を小さくしても機関吸気通路内に吸気負圧が発生しない場合がある。この場合には実際の吸入空気量は要求吸入空気量よりも多くなる。このため、燃焼室内において混合気を通常通り燃焼させると、出力トルクが大きく成りすぎてしまう。そこで、斯かる場合には、変速動作中に点火時期を遅角することにより、出力トルクを制御するようにしている。
ところが、このように点火時期の遅角を行った場合、低負荷側侵入禁止領域X2が拡大することになる。すなわち、一般に点火時期の遅角を行うと、混合気への着火時期(実質的な燃焼開始時期)が圧縮上死点よりも遅れる。このため、実圧縮比が低下すると、着火時期における燃焼室内の混合気の温度及び圧力が低下し、よって、十分な燃焼が行われなくなる可能性が高くなる。その結果、点火時期の遅角を行うと、実圧縮比がそれほど低下していなくてもトルク変動が生じ、これに伴って低負荷側侵入禁止領域X2が拡大することになる。
この様子を図24及び図25に示す。図24は、要求吸入空気量、機械圧縮比及び吸気弁閉弁時期を示す図21と同様な図であり、図25は要求吸入空気量がQ2である同一吸入空気量平面を示す図である。図24及び図25から分かるように、点火時期の遅角が行われていないときの低負荷側侵入禁止領域、すなわち点火時期の遅角が行われていないときにトルク変動等の発生する領域がX2であるのに対して、点火時期の遅角が行われているときの低負荷側侵入禁止領域、すなわち点火時期の遅角が行われているときにトルク変動等の発生する領域はX2’であり、点火時期の遅角が行われている場合の方が低負荷側侵入禁止領域が拡大される(以下、X2’を「低負荷側拡大侵入禁止領域」という)。
また、上述したように点火時期の遅角が行われるときには、スロットル開度を小さくしても機関吸気通路内に吸気負圧が発生しない場合である。このため、実際の吸入空気量が要求吸入空気量になるように吸気弁閉弁時期やスロットル開度を制御しても、実際の吸入空気量は要求吸入空気量よりも多くなってしまう。例えば、変速機における変速動作中の目標動作点が図24に示したf3であって、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度をこの目標動作点f3に対応した機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度にした場合であっても、実際の吸入空気量はQ1ではなく、Q2となっている場合がある。
この場合、機械圧縮比と吸気弁閉弁時期との組合せは、同一吸入空気量平面Q1上の拡大侵入禁止領域X2’ではなく、同一吸入空気量平面Q2上の拡大侵入禁止領域X2’内に侵入しなければ、トルク変動等の発生はほとんど生じない。
そこで、本実施形態では、変速機における変速動作中に点火時期を遅角させる場合には、低負荷側侵入禁止領域を、点火時期の遅角が行われているときにトルク変動が発生する領域X2’に設定するようにしている。また、本実施形態では、変速機における変速動作中に点火時期を遅角させる場合には、目標機械圧縮比が、実際の吸入空気量に対応する同一吸入空気量平面において、拡大侵入禁止領域X2’内に侵入しない範囲で最も低い機械圧縮比とされる。
以下、図24及び図25を参照して、変速機における変速直前の要求吸入空気量がQ4であり、変速動作中には要求吸入空気量がQ1まで減少し、変速完了後に要求吸入空気量が再びQ4まで戻る場合の具体的な制御について説明する。この場合、図21及び図22を参照して説明した例と同様に、変速開始前には機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せを示す動作点はf1に位置する。
その後、変速機における変速が開始されると、要求吸入空気量がQ1まで減少するため、これに伴って目標スロットル開度が小さくされ且つ目標吸気弁閉弁時期が遅角せしめられる。ところが、上述したように吸気負圧が発生しない場合、スロットル開度及び吸気弁閉弁時期を図24の同一吸入空気量平面Q1上のスロットル開度及び吸気弁閉弁時期の組合せにしても実際の吸入空気量はQ1まで減少せず、例えばQ2程度となる。
そこで、本実施形態では、同一吸入空気量平面Q2上(すなわち、図25に示した平面上)において、拡大侵入禁止領域X2’に侵入しないように、目標吸気弁閉弁時期及び目標機械圧縮比が設定される。特に、本実施形態では、目標吸気弁閉弁時期は、要求吸入空気量Q1を満たす基準動作線W上の動作点f2における吸気弁閉弁時期と同一の閉弁時期とされる。また、目標機械圧縮比は、原則、変速機における変速開始前の機械圧縮比と同一の機械圧縮比とされる。ただし、このようにして設定された目標吸気弁閉弁時期と目標機械圧縮比との組合せが、例えば図25にf5で示したように拡大侵入禁止領域X2’内に侵入する場合には、目標機械圧縮比は、拡大侵入禁止領域X2’内に侵入しない範囲で最も低い機械圧縮比とされる(結果的に、目標吸気弁閉弁時期と目標機械圧縮比との組合せは図25にf6で示した点となる)。
目標機械圧縮比、目標吸気弁閉弁時期等をこのように設定することにより、点火時期の遅角に伴ってトルク変動が生じる領域が拡大されても、また吸気管負圧が発生しないことにより実際の吸入空気量が増大しても、トルク変動の発生やドライバビリティの悪化を生じさせることなく機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度を適切に制御することができるようになる。
図26は、本発明の第二実施形態における、変速動作中の機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の制御の流れを示すフローチャートである。
ステップS31〜S33は図23のステップS11〜S13と同様であるので説明を省略する。ステップS34では、変速動作中の実際の吸入空気量が予測される。ここで、変速動作中の実際の吸入空気量は、例えばサージタンク12内の圧力を検出する圧力センサ(図示せず)等の出力に基づいて予測される。次いで、ステップS35では、要求吸入空気量と実際の吸入空気量の誤差等に基づいて、点火時期の遅角量が算出される。これにより、実際の吸入空気量が要求吸入空気量よりも多くても、出力トルクをほぼ同一とすることができる。
次いで、ステップS36では、ステップS33、S34で算出された要求吸入空気量及び実際の吸入空気量に基づいて暫定目標動作点が算出される。この暫定目標動作点は、図24及び図25におけるf5に対応する動作点であり、具体的には目標機械圧縮比が現在の機械圧縮比(すなわち、変速開始前における機械圧縮比)であり、目標吸気弁閉弁時期が上記要求吸入空気量を満たす基準動作線W上の動作点における吸気弁閉弁時期である、実際の吸入空気量と同一の吸入空気量平面上の動作点である。
次いで、ステップS37では、ステップS36で算出された暫定目標動作点が上述した拡大侵入禁止領域X2’外の動作点であるか否かが判定される。ステップS37において、暫定目標動作点が拡大侵入禁止領域X2’外の動作点であると判定された場合には、ステップS38へと進む。ステップS38では、変速機における変速動作中の最終的な目標動作点が、上述した暫定目標動作点と同一の動作点とされる(正確には、スロットル開度は暫定目標動作点に対応するスロットル開度よりも小さい開度とされる)。次いで、ステップS39では、ステップS35で算出された点火遅角量だけ点火時期の遅角が行われ、ステップS40では、実際の動作点がステップS38において算出された最終的な目標動作点に到達するように、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17が制御される。なお、この場合、機械圧縮比は変更されないため、可変圧縮比機構Aはそのままの状態で維持される。ステップS41及びS42は、図23のステップS18及びS19と同様であるため、説明を省略する。
一方、ステップS37において、暫定目標動作点が拡大侵入禁止領域X2’内の動作点であると判定された場合には、ステップS43へと進む。ステップS43では、拡大侵入禁止領域X2’から出るように暫定目標動作点を機械圧縮比の増大方向に変更させた動作点を最終的な目標動作点として算出する(この場合も、正確には、スロットル開度は暫定目標動作点に対応するスロットル開度よりも小さい開度とされる)。次いで、ステップS44では、ステップS35で算出された点火遅角量だけ点火時期の遅角が行われる。ステップS45では、実際の動作点がステップS43において算出された最終的な目標動作点に到達するように、可変圧縮比機構A、可変バルブタイミング機構B及びスロットル弁17が制御される。ステップS46は、ステップS22と同様であるため、説明を省略する。
1 クランクケース
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 ピストン
5 燃焼室
7 吸気弁
17 スロットル弁
A 可変圧縮比機構
B 可変バルブタイミング機構
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 ピストン
5 燃焼室
7 吸気弁
17 スロットル弁
A 可変圧縮比機構
B 可変バルブタイミング機構
Claims (6)
- 機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、吸気弁の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構と、スロットル開度を変更可能なスロットル弁とを具備し、機械圧縮比と吸気弁閉弁時期とスロットル開度との組合せに対して侵入禁止領域が設定され、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度はこれらの組合せを示す動作点が上記侵入禁止領域内に侵入することなく要求吸入空気量に応じて設定された通常目標機械圧縮比、通常目標吸気弁閉弁時期及び通常目標スロットル開度へと移動するように可変圧縮比機構、可変バルブタイミング機構及びスロットル弁が制御される火花点火式内燃機関において、
当該火花点火式内燃機関に連結された有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比が、上記要求吸入空気量に応じて設定される通常目標機械圧縮比よりも低い値であって、目標機械圧縮比、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度の組合せを示す目標動作点が侵入禁止領域外となるような値とされる、火花点火式内燃機関。 - 上記有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比は、変速前の機械圧縮比以上とされる、請求項1に記載の火花点火式内燃機関。
- 上記有段変速機における変速動作中には、目標機械圧縮比は、変速前の機械圧縮比以上であって目標動作点が予め設定された侵入禁止領域外となるような圧縮比のうち最も低い圧縮比とされる、請求項2に記載の火花点火式内燃機関。
- 上記有段変速機における変速動作中にも、目標吸気弁閉弁時期及び目標スロットル開度は、それぞれ上記要求吸入空気量に応じて設定される通常目標吸気弁閉弁時期及び通常目標スロットル開度とされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の火花点火式内燃機関。
- 上記侵入禁止領域は、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せを示す動作点が侵入すると異常燃焼又はトルク変動が発生する領域である、請求項4に記載の火花点火式内燃機関。
- 上記侵入禁止領域は、上記有段変速機における変速動作中に点火遅角が行われた場合に、機械圧縮比、吸気弁閉弁時期及びスロットル開度の組合せを示す動作点が侵入すると異常燃焼又はトルク変動が発生する領域である、請求項4に記載の火花点火式内燃機関。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2014174969A1 (ja) * | 2013-04-23 | 2014-10-30 | 日産自動車株式会社 | 内燃機関の制御装置及び制御方法 |
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-
2010
- 2010-12-02 JP JP2010269408A patent/JP2012117474A/ja not_active Withdrawn
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