(実施形態1)
本発明の1つの実施形態について、図面を参照しながら以下に詳述する。
図1は、本実施形態における固体電解コンデンサの製造方法により製造可能な固体電解コンデンサの1つの例を示す概略断面図である。図1に示すように、この固体電解コンデンサ10は、誘電体被覆弁作用金属シート1が複数積層され(図示する例においては、6枚の誘電体被覆弁作用金属シート1を示すが、これに限定されない)、これら誘電体被覆弁作用金属シート1が接合部X、Yにて接合されて成る積層体3と、積層体3を構成する誘電体被覆弁作用金属シート1間の隙間を充填し、かつ積層体3の外表面を被覆する固体電解質層5とを備える。固体電解質層5は、誘電体被覆弁作用金属シート1間の隙間を充填し、かつ積層体3の外表面を被覆するように連続層として形成されるものである。しかし、微視的に見た場合、誘電体被覆弁作用金属シート1間の隙間が充填されていない部分や、積層体3の外表面が被覆されていない部分が不可避的に存在することがあるが、固体電解コンデンサの電気的および機械的な特性が許容可能なレベルにある限り、固体電解質層5にこのような部分が存在していても問題ない。加えて、本実施形態の固体電解コンデンサ10は、固体電解質層5の外表面を被覆する陰極引出層7(カーボン含有層7aおよび銀含有層7b)を更に備えるが、これは本発明に必須でない。
誘電体被覆弁作用金属シート1の各々は、弁作用金属基体と、少なくとも1つの開口部を有しつつ弁作用金属基体の表面を被覆する誘電体皮膜とを含んで成る。そして、積層された複数の誘電体被覆弁作用金属シート1において隣接する弁作用金属基体同士が、この開口部を通じて接合されて、積層体3が形成されている。この積層体3において、弁作用金属基体同士が接合部を介して電気的に接合されている。
本実施形態において、積層体3は、その一部が固体電解質層5により充填および被覆されていない。具体的には、積層体3は絶縁部9によって2つの部分に分画されている。より詳細には、積層体3を構成している誘電体被覆弁作用金属シート1の一部(以下、第1部分と言う)1aは、陽極リード部として、固体電解質層5で被覆されずに、絶縁部9によって固体電解質層5および陰極引出層7から電気的に絶縁された状態で露出している。他方、第1部分1aから絶縁部9によって分画された誘電体被覆弁作用金属シート1の部分(以下、第2部分と言う)1bは、固体電解質層被覆部として、固体電解質層5で被覆されている。これらの間の部分(以下、第3部分と言う)1cは、第1部分1aと第2部分1bとを離間する離間部であり、絶縁部9が形成される部分である。
接合部の位置および数は特に限定されず、製造する固体電解コンデンサに求められる要件に応じて適宜設定できる。本実施形態において、1つの接合部Xが、誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分(陽極リード部)1aに存在し、別の1つの接合部Yが、誘電体被覆弁作用金属シート1の第2部分(固体電解質層被覆部)1bに存在するが、本発明はこれに限定されない。
次に、本実施形態における固体電解コンデンサの製造方法について説明する。なお、図2に示す固体電解コンデンサ10’においては、例示的に4枚の誘電体被覆弁作用金属シート1を示すが、図1の固体電解コンデンサ10と本質的に同じものと考えて差し支えない。また、図3〜9においては、例示的に1つの位置において上面および下面に形成される開口部について拡大して示すものとする。
・工程(a)
まず、図2(a)に示すように、弁作用金属基体11と、開口部13a、13bを有しつつ弁作用金属基体11の表面を被覆する誘電体皮膜13とを含む誘電体被覆弁作用金属シート1を作製する。具体的には、誘電体被覆弁作用金属シート1は以下のようにして作製され得る。
弁作用金属基体11を準備する。弁作用金属基体11は、いわゆる弁作用を示す金属材料から実質的に構成される。かかる金属材料は、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム、およびこれらの2種以上の合金からなる群より選択され、好ましくは、アルミニウムまたはアルミニウムを含む合金である。
弁作用金属基体11は、シート状(または平板状、例えば箔など)の形態を有し得る。弁作用金属基体11の厚さは、特に限定されないが、例えば50〜200μm、好ましくは90〜130μmである。弁作用金属基体11の幅および長さは、製造する固体電解コンデンサのサイズに応じて適宜選択され得る。
特に、弁作用金属基体11は、その表面に凹凸を有するものが好ましく、例えばその表層部が多孔質であるものがより好ましい。弁作用金属基体11は、固体電解コンデンサにおいて陽極として機能するため、同じ占有面積であっても、弁作用金属基体11の表面積、すなわち実効面積が大きいほどコンデンサの静電容量が大きくなるからである。表面に凹凸を有する、または表層部が多孔質である弁作用金属基体11は、予め粗面化処理に付すことにより得ることができる。粗面化処理は、一般的に、エッチング処理により実施される。
・工程(a)の前工程
本実施形態に必須ではないが、エッチング処理は、工程(a)の前に、例えば以下のようにして実施され得る。
図3(a)に示すように、未処理の弁作用金属基体11’を準備する。次に、図3(b)に示すように、開口部に対応する領域(換言すれば、後の工程において開口部が形成されるべき領域)をマスク15で保護する。得られたマスク15付きの弁作用金属基体11’をエッチング液に浸漬してエッチング処理に付す。これにより、図3(c)に示すように、未処理の弁作用金属基体11’のマスク15で保護されていない領域では、その表層部のみに多孔質部分11aが形成される。なお、処理後の弁作用金属基体11に関して、理解を助ける目的で模式的に、多孔質部分11aと、多孔質化していないバルク部分11bとを区分して図示しているが、実際にはこれらを明確に区分することは困難である。その後、マスク15を除去して、エッチング処理された弁作用金属基体11が得られる。図3(d)に示すように、弁作用金属基体11は、開口部に対応する領域に非エッチング部分11cを有し、非エッチング部分11cは、マスク15で保護されていたため、比較的平坦な表面状態を維持することができる。
このように、開口部に対応する領域をマスク15で保護して非エッチング部分11cを残すことが、後の工程において弁作用金属基体同士の接合性を向上させ得るので好ましい。非エッチング部分11cは、接合される2つの弁作用金属基体のうち、少なくとも一方の接合面に残されていることが好ましく、両方の接合面に残されていることがより好ましい。しかし、エッチング処理に際してマスク15で保護することは必ずしも要しない。
エッチング処理の条件、例えばエッチング液、エッチングの温度および時間、マスク15を使用する場合にはマスクの材料などは、使用する弁作用金属基体の金属材料や、所望される電気特性(実効面積を含む)などに応じて適宜選択され得る。例えば、エッチング液には、塩酸などが用いられ得る。マスク15には、使用するエッチング液に対するレジストとして一般的に知られているものが用いられ、例えば感光性樹脂などが用いられ得る。その他の条件は、製造する固体電解コンデンサに求められる静電容量、耐電圧等に応じて、予め実験により確認し適当な値に設定することができる。
図2(a)を再び参照して、かかる弁作用金属基体11の表面に、開口部13a、13bを有する誘電体皮膜13を形成する。このような開口部を有する誘電体皮膜13は、次の第1の方法(a1)および第2の方法(a2)のいずれによっても形成できる。
・工程(a)を実施するための第1の方法(a1)
図4(a)に示すように、弁作用金属基体11を準備する。次に、図4(b)に示すように、開口部に対応する領域(換言すれば、本工程において開口部が形成されるべき領域)をマスク17で保護する。得られたマスク17付きの弁作用金属基体11を電解液に浸漬して陽極酸化処理(化成処理とも言われ、以下も同様である)に付す。これにより、図4(c)に示すように、弁作用金属基体11のマスク17で保護されている領域は、陽極酸化されず、一方、弁作用金属基体11のマスク17で保護されていない領域は、陽極酸化され、その表面に誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)13が形成される。その後、マスク17を弁作用金属基体11から除去する。これにより、図4(d)に示すように、開口部13cを有する誘電体皮膜13が得られる。
この第1の方法(a1)による場合、陽極酸化の間、弁作用金属基体11の開口部に対応する領域は、マスク17で保護されて、陽極酸化に曝されず、誘電体皮膜が形成されないので、誘電体皮膜13に開口部13cを確実に形成することができる。
上記第1の方法(a1)による場合、マスク17で保護しながら、その周囲に誘電体皮膜13を形成しているので、これにより得られる誘電体被覆弁作用金属シート1では、開口部13cにおいて露出している弁作用金属基体11の表面と、その周囲の誘電体皮膜13の表面とは、誘電体被覆弁作用金属シート1の厚さ方向において互いに略平坦な状態となる。
・工程(a)を実施するための第2の方法(a2)
図5(a)に示すように、弁作用金属基体11を準備する。この弁作用金属基体11を電解液に浸漬して陽極酸化処理に付す。これにより、図5(b)に示すように、弁作用金属基体11の表面に誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)13が形成される。次に、図5(c)に示すように、開口部に対応する領域(換言すれば、本工程において開口部が形成されるべき領域)における誘電体皮膜を除去する(図5(c)において、除去操作を外力19によって示す)。これにより誘電体皮膜13は、図5(d)に示すように、開口部13dを有する状態となる。
この第2の方法(a2)による場合、弁作用金属基体11の開口部に対応する領域を、そのまま陽極酸化に曝して、誘電体皮膜13を一旦形成し、その後、上記領域から誘電体皮膜を除去しているので、上記第1の方法(a1)のように上記領域をマスクする煩雑さに比べて、誘電体皮膜に開口部を容易に形成することができる。
上記第2の方法(a2)による場合、誘電体皮膜13を一旦形成してから、その周囲を残して除去しているので、これにより得られる誘電体被覆弁作用金属シート1では、開口部13dにおいて露出している弁作用金属基体11の表面は、その周囲の誘電体皮膜13の表面よりも窪んだ状態となる。
上記第2の方法(a2)において、誘電体皮膜の除去は、例えばブラスト処理、ドライエッチング、研磨などによって実施できる。ブラスト処理には、サンドブラスト、ウェットブラストなどを利用できる。ドライエッチングには、塩素系ガス、アルゴンガスなどを利用できる。研磨には、バフ研磨、化学機械式研磨(CMP)などを利用できる。これらのうち、ドライエッチングは、高精度で誘電体皮膜を除去できるので好ましい。
上記第1の方法(a1)および第2の方法(a2)のいずれにおいても、陽極酸化処理の条件、例えば電解液、陽極酸化の温度、時間、電流密度および電圧、マスク17を使用する場合にはマスクの材料などは、使用する弁作用金属基体の金属材料や、所望される電気特性などに応じて適宜選択され得る。例えば、電解液には、ホウ酸、リン酸、アジピン酸、それらのナトリウム塩およびアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液などが用いられ得る。マスク17には、使用する電解液に対するレジストとして一般的に知られているものが用いられ、例えばノボラック樹脂系レジストなどが用いられ得る。その他の条件は、製造する固体電解コンデンサに求められる静電容量、耐電圧等に応じて、予め実験により確認し適当な値に設定することができる。
なお、誘電体被覆弁作用金属シートに関し、弁作用金属基体をエッチング処理により粗面化した後、陽極酸化により誘電体皮膜(酸化皮膜)を形成したものが、固体電解コンデンサ向けに市販されている。上記第2の方法(a2)による場合には、誘電体被覆弁作用金属シートとして、このような市販のものを使用してもよい。
以上のようにして、弁作用金属基体11と、開口部13a、13bを有しつつ弁作用金属基体11の表面を被覆する誘電体皮膜13とを含む誘電体被覆弁作用金属シート1が作製される。誘電体被覆弁作用金属シート1の厚さ、幅および長さは、使用する弁作用金属基体11の厚さ、幅および長さにほぼ等しく(通常、誘電体皮膜の厚さは、ナノメートルオーダーであり、弁作用金属基体11のサイズに比較して無視し得る程度である)、製造する固体電解コンデンサのサイズに応じて適宜選択され得る。
本実施形態においては、このような誘電体被覆弁作用金属シート1を、図2(a)に示すように、絶縁部9によって第1部分1aと第2部分1bとに分画する。絶縁部9は、誘電体被覆弁作用金属シート1の第3部分1cを被覆するように形成される。
絶縁部9は、絶縁性樹脂から形成することができる。具体例としては、ポリフェニルスルホン(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、シアン酸エステル樹脂、フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等)、低分子量ポリイミド、ならびにそれらの誘導体および前駆体などが挙げられ、特に低分子量ポリイミド、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂およびそれらの前駆体が挙げられる。
なお、絶縁部9は、誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分1a(陽極リード部)が、固体電解質層5および陰極引出層7から電気的に絶縁された状態で、固体電解コンデンサ10’の外部に露出する限り、任意の適切なタイミングで形成すればよく、いくつかの段階に分けて形成してもよい。
・工程(b)
上記のようにして作製した複数の誘電体被覆弁作用金属シート1を、図2(b)に示すように積層する。積層は、これら誘電体被覆弁作用金属シート1間に隙間を有し、かつ各誘電体被覆弁作用金属シート1の開口部13a、13bの位置が少なくとも部分的に重なるように(換言すれば、積層した状態で厚さ方向において、これら開口部の少なくとも一部が直線上に位置するように)行う。
本実施形態のように各誘電体被覆弁作用金属シート1が、異なる位置において複数の開口部13a、13bを有する場合、積層は、開口部13a同士の位置および開口部13b同士の位置が、積層した状態で厚さ方向において少なくとも部分的に重なるように行う。
複数の誘電体被覆弁作用金属シート1を積層した種々の例を図6〜9に示す。図6は、上記第1の方法(a1)によって両主面(すなわち上面および下面)に開口部13cを形成した誘電体被覆弁作用金属シート1を複数重ね合わせた例を示す。図7は、上記第2の方法(a2)によって両主面に開口部13dを形成した誘電体被覆弁作用金属シート1を複数重ね合わせた例を示す。図8は、上記第1の方法(a1)によって両主面に開口部13cを形成した誘電体被覆弁作用金属シート1と、上記第2の方法(a2)によって両主面に開口部13dを形成した誘電体被覆弁作用金属シート1とを、交互に重ね合わせ、これにより、開口部13cおよび13dを隣接させた例を示す。図9は、上記第1の方法(a1)によって一方主面(すなわち上面)に開口部13cを形成し、上記第2の方法(a2)によって他方主面(すなわち下面)に開口部13dを形成した誘電体被覆弁作用金属シート1を、これら開口部13cおよび13dが隣接するように重ね合わせた例を示す。図9の誘電体被覆弁作用金属シート1は、片側の面の開口部に対応する領域をマスク17でマスクし、陽極酸化して両主面に誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)を形成し、マスク17を除去して一方主面(すなわち上面)に開口部13cを形成した後、他方主面(すなわち下面)の開口部に対応する領域における誘電体皮膜を外力19によって除去して開口部13dを形成することによって作製できる。なお、図9の誘電体被覆弁作用金属シート1は、上下を逆転させてもよい。
積層された誘電体被覆弁作用金属シート1間(より詳細には誘電体皮膜13間)の隙間は、後述の工程(d)において固体電解質層を成す導電性高分子の原料溶液が浸入し得る大きさであればよい。
上述のエッチング処理などにより弁作用金属基体11の表面が粗面化(凹凸形成)されている(好ましくは表層部が多孔質である)場合、単に誘電体被覆弁作用金属シート1を重ね合わせるだけで、これら誘電体被覆弁作用金属シート1間に隙間が自然に形成される。
また、図2(b)に示すように、絶縁部9が、複数の誘電体被覆弁作用金属シート1間に位置する場合、絶縁部9によって、誘電体被覆弁作用金属シート1間に隙間が自然に形成される。更にこの場合、絶縁部9を利用して複数の誘電体被覆弁作用金属シート1を相互に固定(後の工程において接合部を形成する前に仮固定)することができる。より詳細には、複数の誘電体被覆弁作用金属シート1のそれぞれに絶縁性樹脂を別個に塗布し、これらを重ね合わせ、絶縁性樹脂を加熱などによって固化または硬化させて絶縁部9を形成し、この絶縁部9により複数の誘電体被覆弁作用金属シート1を相互に固定することができる。
本実施形態において、積層された複数の誘電体被覆弁作用金属シート1は、実質的にほぼ等しい長さを有し、これらの第1部分1aおよび第2部分1bもそれぞれほぼ等しい長さを有することが好ましい。
以上のようにして、複数の誘電体被覆弁作用金属シート1を、これらの間に隙間を有し、かつ各々の開口部の位置が少なくとも部分的に重なるように積層して成る誘電体被覆弁作用金属シートの積層体が得られる。
・工程(c)
上記のようにして積層した複数の誘電体被覆弁作用金属シート1において隣接する弁作用金属基体11同士を、図2(c)に示すように、開口部13a、13bを通じて接合して接合部X、Yをそれぞれ形成し、これによって接合された積層体3を得る。より詳細には、積層体を任意の適切な処理に付して、開口部の弁作用金属基体を溶融させ(より詳細には、誘電体被覆弁作用金属シート1の開口部の少なくとも部分的に重なっている領域が溶融すればよい)、これにより、隣接する弁作用金属基体に由来する溶融金属同士が開口部を通じて直接接触し、表面張力などにより一体化し、その後、溶融金属が一体化した状態で固化することによって、接合部X、Yが形成される。
弁作用金属基体11同士を開口部13a、13bを通じて接合すると、弁作用金属基体11の露出部同士が直接接合される。これにより、接合部X、Yに誘電体皮膜13が介在することがなく、積層体を構成する弁作用金属基体11同士を電気的に安定して接合することができる。
上記接合部を形成するための処理は、弁作用金属基体を溶融させ得る限り特に限定されず、例えば積層体の加熱(または開口部が少なくとも部分的に重なっている領域の加熱)などであってもよいが、隣接する弁作用金属基体11同士を電気的かつ機械的に接合できる溶接によって行うことが好ましい。溶接は、例えば、抵抗溶接、レーザー溶接、超音波溶接などのいずれか1種を単独で、またはそれらの2種以上を併用して、実施することができる。
図3を参照して上述したように、工程(a)の前にエッチング処理を行う際に、弁作用金属基体11の開口部13a、13bに対応する領域に非エッチング部分11cを残しておいた場合、開口部13a、13bにおける弁作用金属基体11の露出部は、エッチングされておらず、比較的平坦な元の表面状態を維持することができるので、弁作用金属基体11同士を接合させ易く、上記露出部がエッチングにより粗面化されている場合に比べて、弁作用金属基体11同士の接合性を向上させることができる。このことは、特に、超音波溶接により接合する場合に適している。
また、図8および9を参照して上述したように、工程(b)において、上記第1の方法(a1)によって形成された誘電体皮膜の開口部13cと、上記第2の方法(a2)によって形成された誘電体皮膜の開口部13dとを隣接させて重ね合わせた場合、露出状態の異なる2つの弁作用金属基体を補完的に接触させることができるので、例えば、図7のように上記(a2)によって形成された誘電体皮膜の開口部同士を隣接させて重ね合わせる場合に比べて、弁作用金属基体11同士の接合性を向上させることができる。
本実施形態においては、2つの接合部X、Yが形成される。2つ以上の接合部を形成する場合、その形成箇所は適宜配置され得るが、弁作用金属基体11が、それらの箇所においてほぼ均等な力で接合されるように配置されることが好ましい。
接合部Xは、誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分1a(陽極リード部)に形成される。誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分1aに接合部を形成する場合、第1部分1aの幅を二等分する線上またはその近傍に形成することが、誘電体被覆弁作用金属シート全体への応力を均等化でき、より電気的かつ機械的に安定した固体電解コンデンサを作製できるので好ましい。具体的には、この接合部Xの面積は、第1部分1aと第2部分1bとの面積比にもよるが、第1部分1aの面積の好ましくは0.1%以上、より好ましくは1%以上である。接合部Xの面積が、第1部分1aの面積の0.1%以上であれば、必要かつ十分な機械的接合強度と電気伝導性(導通)を得ることができる。誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分1aに2つ以上の接合部を形成する場合、これら接合部の各々の面積が、第1部分1aの面積の好ましくは0.1%以上、より好ましくは1%以上である。
他方、接合部Yは、誘電体被覆弁作用金属シート1の第2部分1b(固体電解質層被覆部、より詳細には、後の工程において固体電解質層により充填および被覆される部分)に形成される。誘電体被覆弁作用金属シート1の第2部分1bに接合部を形成する場合、第2部分1bの幅を二等分する線上またはその近傍に形成することが、誘電体被覆弁作用金属シート全体への応力を均等化でき、より電気的かつ機械的に安定した固体電解コンデンサを作製でき、かつ、等価直列抵抗(ESR)の増大を防止できるので好ましい。本実施形態では、弁作用金属基体11が、複数の接合部X、Yにおいてほぼ均等な力で接合されるように、接合部Xは第2部分1bの長さ方向中央部から陽極リード部に対して遠位側にずれて配置されている。誘電体被覆弁作用金属シート1の第2部分1bに接合部を形成する場合、かかる部分に接合部を形成しない場合に比べて、接合部に相当する分の静電容量が失われる。特に、接合部もエッチングにより粗面化されて実効面積が増大している場合と比較すると、接合部を形成することによって凹凸がなくなる(多孔質部分が潰れる)ので、同じ接合面積であってもより多くの静電容量が失われることになる。よって、接合部の面積は、電気的な接続を確保しつつも、極力小さくすることがより好ましい。具体的には、この接合部Yの面積は、第2部分1bの面積の好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上であり、および好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。接合部Yの面積が、第2部分1bの面積の1%以上であれば、隣接する弁作用金属基体11同士を電気的かつ機械的に安定して接合することができ、よって、電気的接続を確保しつつ、後の工程において固体電解質層を形成する際に接合部が離れることを回避できる。他方、接合部Yの面積が、第2部分1bの面積の30%以下であれば、固体電解コンデンサの静電容量を過度に失うことがなく、よって、静電容量の損失分を補償するために誘電体被覆弁作用金属シート1の積層枚数を増やさなくてよい。誘電体被覆弁作用金属シート1の第2部分1bに2つ以上の接合部を形成する場合、これら接合部の各々の面積が、第2部分1bの面積の好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上であり、および、これら接合部の合計の面積が、第2部分1bの面積の好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
接合部の位置、数および大きさに関する上記説明は、開口部に関する説明として、そのまま当て嵌まるものである。開口部の形状は、接合部の形状に応じて決定され、円形、楕円形、矩形、正方形など、任意の適切な形状を有し得る。
以上のようにして、積層された複数の上記誘電体被覆弁作用金属シート1において隣接する弁作用金属基体11同士が開口部13a、13bを通じて接合された積層体3が得られる。
かかる積層体3において、誘電体被覆弁作用金属シート1の側面や、図2(c)に示すように、積層体3の両主面(すなわち上面および下面)ならびに誘電体被覆弁作用金属シート1間の隙間において弁作用金属基体11が露出することがある。特に誘電体被覆弁作用金属シート1の第2部分1bにおいて、露出した弁作用金属基体11と固体電解質層5が接触すると固体電解コンデンサがショートする可能性があるため、露出した弁作用金属基体11が誘電体皮膜で被覆されるように、積層体3の形成後に少なくとも第2部分1bを陽極酸化処理に付すことが好ましい。かかる追加の陽極酸化処理の条件は、工程(a)にて上述した陽極酸化処理の条件と同様とし得る。
・工程(d)
以上のようにして得られた積層体3に対して、固体電解質層5を、積層体3における誘電体被覆弁作用金属シート1間の隙間(より詳細には、誘電体皮膜13間の隙間)を充填し、かつ積層体3の外表面を被覆するように連続層として形成する。
本実施形態において、積層体3を構成する全ての誘電体被覆弁作用金属シート1の第2部分1bが固体電解質層5により充填および被覆され、積層体3を構成する誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分1aは固体電解質層5により充填および被覆されずに露出したまま残される(以下、説明を簡素化するために、それぞれ積層体3の第1部分1aおよび第2部分1bとも言う)。固体電解質層5は連続層を成す。かかる固体電解質層5は、積層体3の第1部分1a側を保持して吊り下げた状態で、積層体3の第2部分1bを導電性高分子の原料溶液に、例えば絶縁部9の手前まで浸漬し、誘電体被覆弁作用金属シート1の隙間および外表面に導電性高分子の連続層を生じさせることによって形成できる。
固体電解質層5を成す導電性高分子としては、例えば、チオフェン骨格を有する化合物、多環状スルフィド骨格を有する化合物、ピロール骨格を有する化合物、フラン骨格を有する化合物、アニリン骨格を有する化合物等で示される構造を繰り返し単位として含むものなどが挙げられるが、これらに限定されない。
導電性高分子の原料溶液には、任意の適切な溶液が用いられ得る。例えば、モノマーを含む溶液と、重合酸化剤および必要に応じて別途用いられるドーパントを含む溶液との2種を用いてよく、積層体3の第2部分1bを、これら溶液に順次、必要に応じて繰り返して、浸漬してよい。しかし、本発明はこれに限定されず、例えば、モノマー、重合酸化剤および使用する場合にはドーパントを含む1種の溶液を用いて、積層体3の第2部分1bをこれに浸漬してもよい。
その後、図2(d)に示すように、固体電解質層5の外表面を被覆する陰極引出層7を形成する。陰極引出層7は、一般的に、固体電解質層5の外表面を被覆するようにカーボンペーストを塗布および乾燥させてカーボン含有層7aを形成し、そして、カーボン含有層7aの外表面を被覆するように銀ペーストを塗布および乾燥させて銀含有層7bを形成することによって形成され得る。
この結果、誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分1aが、絶縁部9によって固体電解質層5および陰極引出層7から電気的に絶縁された状態で、固体電解質層5および陰極引出層7の外部に露出する。第1部分1aは、陽極リード部として用いられて、陽極端子(図示せず)に接続され得る。他方、陰極引出層7は、陰極端子(図示せず)に接続され得る。陽極端子および陰極端子は、例えば、リードフレームなどを用いることができる。
以上により、固体電解コンデンサ10’が得られる。固体電解コンデンサ10’は、その全体が、陽極端子および陰極端子(いずれも図示せず)の少なくとも一部を露出した状態で、エポキシ樹脂等の絶縁性樹脂(図示せず)にて封止されていてよい。
本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法によれば、積層体に対して固体電解質層を連続層として一度に充填および被覆することができる。更に、積層体の誘電体被覆弁作用金属シート間(より詳細には誘電体皮膜間)に、陰極引出層が存在しないので、その分の空間を有効利用でき、単位体積当りの静電容量がより大きな固体電解コンデンサを製造することができる。
(実施形態2)
本実施形態は、実施形態1の改変例であって、2種の改変例を示すものである。図10(a)および(b)において、実施形態1にて説明したものと同様の部材には同様の符号を付し、以下、実施形態1と異なる点を中心に説明し、特に断りのない限り、実施形態1と同様の説明が当て嵌まる。
図10(a)に示す固体電解コンデンサ20において、積層体3’は、誘電体被覆弁作用金属シート1および1’が複数積層され(図示する例においては、合計7枚の誘電体被覆弁作用金属シート1および1’を示すが、これに限定されない)、これら誘電体被覆弁作用金属シート1および1’が接合部Y’にて接合されて成る。複数の誘電体被覆弁作用金属シート1および1’のうち、1つの誘電体被覆弁作用金属シート1のみが比較的長くなっており、第1部分1a(陽極リード部)、第2部分1b(固体電解質層被覆部)およびそれらの間の第3部分1c(離間部)を有している。この第1部分1a(陽極リード部)は、固体電解質層5で被覆されずに、絶縁部9によって固体電解質層5および陰極引出層7から電気的に絶縁された状態で露出している。残りの誘電体被覆弁作用金属シート1’は、実質的にほぼ等しい長さを有し、その全体が、固体電解質層被覆部、より詳細には、後の工程において固体電解質層により充填および被覆される部分となり、絶縁部9から離れている点を除いて、実施形態1における第2部分1bと同様の説明が当て嵌まる。
図示する態様においては、第1部分1a(陽極リード部)を有する長い誘電体被覆弁作用金属シート1が、残りの短い弁作用金属シート1’の間に(より詳細には、積層体3’の中央に配置されるように)挟まれている(図示する例においては、1枚の長い誘電体被覆弁作用金属シート1が、その上下に各3枚の短い誘電体被覆弁作用金属シート1’で挟まれている)が、本実施形態はこれに限定されない。なお、第1部分1aを有する長い誘電体被覆弁作用金属シート1が、積層体3’の中央に配置される方が、誘電体被覆弁作用金属シート全体への応力が均等化でき、接合性が安定する。
接合部Y’は、実施形態1における接合部Yと同様であり得る。但し、本実施形態において接合部は接合部Y’の1つのみであるため、接合部Y’は、第2部分1b(固体電解質層被覆部)の幅を二等分する線上またはその近傍、かつ、第2部分1bの長さ方向中央部に形成することが、接合性が電気的かつ機械的に安定するので好ましい。
かかる固体電解コンデンサ20は、1つの長い誘電体被覆弁作用金属シート1と、残りの短い誘電体被覆弁作用金属シート1’を作製し、これらを適切に積層した後に接合部Y’にて接合している点、接合された積層体を固体電解質層5により充填および被覆した後に、1つの長い誘電体被覆弁作用金属シート1の第1部分1a(陽極リード部)を残して固体電解質層5に接触させて絶縁部9を形成し、その後、固体電解質層5の外表面を被覆する陰極引出層7を形成して、誘電体被覆弁作用金属シートの第1部分1aが、絶縁部9によって固体電解質層5および陰極引出層7から電気的に絶縁された状態で、固体電解コンデンサ20の外部に露出するように形成される点を除いて、実施形態1と同様にして製造することができる。
図10(b)に示す固体電解コンデンサ20’においては、1つの長い誘電体被覆弁作用金属シート1に加えて、残りの誘電体被覆弁作用金属シート1’の一端も、絶縁部9に埋設されている。その他の点は、図10(a)に示す固体電解コンデンサ20と同様である。
かかる固体電解コンデンサ20’は、固体電解コンデンサ20と同様にして製造することができるが、実施形態1と同様に、接合部Y’を形成する前に、絶縁部9を利用して複数の誘電体被覆弁作用金属シート1および1’を相互に固定(後の工程において接合部を形成する前に仮固定)することが好ましい。より詳細には、1つの長い誘電体被覆弁作用金属シート1と、残りの短い誘電体被覆弁作用金属シート1’を適切に積層した後、これら誘電体被覆弁作用金属シートにまたがって絶縁性樹脂を塗布し、そして、絶縁性樹脂を加熱などによって固化または硬化させて、絶縁部9を形成し、この絶縁部9により複数の誘電体被覆弁作用金属シート1および1’を相互に固定することができる。
本実施形態の固体電解コンデンサ20、20’においては、第1部分1a(陽極リード部)を、複数の誘電体被覆弁作用金属シート1および1’のうち、1つの誘電体被覆弁作用金属シート1のみに設けている。第1部分1a(陽極リード部)は静電容量形成に寄与しない。すなわち、本実施形態によれば、静電容量形成に寄与しない第1部分1a(陽極リード部)が占める領域を、実施形態1の固体電解コンデンサより小さくすることができるので、単位体積当りの静電容量がより大きな固体電解コンデンサを製造することができる。
(実施形態3)
本実施形態は、実施形態1の別の改変例である。図11において、実施形態1にて説明したものと同様の部材には同様の符号を付し、以下、実施形態1と異なる点を中心に説明し、特に断りのない限り、実施形態1と同様の説明が当て嵌まる。
図11に示す固体電解コンデンサ30において、積層体3’’は、誘電体被覆弁作用金属シート1が複数積層され(図示する例においては、6枚の誘電体被覆弁作用金属シート1を示すが、これに限定されない)、これら誘電体被覆弁作用金属シート1が接合部Xのみにて接合されて成る。複数の誘電体被覆弁作用金属シート1は、実施形態1における複数の誘電体被覆弁作用金属シート1と同様の説明が当て嵌まる。
かかる固体電解コンデンサ30は、接合部Yにおける接合を行わない点を除いて、実施形態1と同様にして製造することができる。
本実施形態の固体電解コンデンサ30においては、静電容量形成に寄与する第2部分1b(固体電解質層被覆部)に接合部を設けていない。すなわち、本実施形態によれば、静電容量形成に寄与する第2部分1b(固体電解質層被覆部)の全体を静電容量形成に用いることができるので、単位体積当りの静電容量がより大きな固体電解コンデンサを製造することができる。
以上、本発明をいくつかの実施形態により説明したが、これら実施形態は種々の改変がなされ得る。例えば、開口部(ひいては接合部)の数、位置、配置などは、製造する固体電解コンデンサに求められる要件に応じて適宜設定してよい。
また、本発明は、その基本的概念を逸脱しない範囲で種々の改変がなされ得るであろう。例えば、工程(c)および(d)を実施する順序は、開口部の位置に応じて異なり得る。少なくとも1つの開口部が誘電体被覆弁作用金属シートの第2部分(固体電解質層被覆部)に存在する場合には、工程(c)を実施してから工程(d)を実施する。しかし、全ての開口部が誘電体被覆弁作用金属シートの第1部分(陽極リード部)に存在する場合には、工程(c)を実施してから工程(d)を実施しても、工程(d)を実施してから工程(c)を実施してもよい。
本発明の固体電解コンデンサの製造方法を例示する目的で、いくつかの実施例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
(実施例1)
本実施例は、実施形態1の固体電解コンデンサの製造方法であって、工程(a)を第2の方法(a2)により実施した例である。
厚さ110μmのアルミニウム箔をエッチング処理に付して粗面化し、更に、陽極酸化処理(化成処理)に付してその表面が誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)で被覆された、市販のいわゆる化成アルミニウム箔を準備した。この化成アルミニウム箔から、幅3.5mmおよび長さ13mmの箔片1枚と、幅3.5mmおよび長さ6.5mmの箔片1枚とを切断して得た(これら箔片は、図5(b)に示す誘電体皮膜(酸化皮膜)13で被覆された弁作用金属基体11に相当するが、得られた箔片の側面(切断面)は誘電体皮膜(酸化皮膜)で被覆されていない点で相違する)。
図12(a)を参照して、得られた2枚の箔片のうち長さが13mmの箔片は、仮想的に、その長手方向の一端側から他端側にかけて(図中、一端部からの距離を片矢印に示す)、固体電解質層被覆部1b(幅3.5mm×長さ4.5mmの領域)、離間部1c(幅3.5mm×長さ0.8mmの領域)、陽極リード部1a(幅3.5mm×長さ1.2mmの領域)および固定部1d(幅3.5mm×長さ6.5mmの領域)に分けることができる。得られた2枚の箔片のうち長さが6.5mmの箔片は、固定部1dがない点を除き、長さが13mmの箔片と同様である。
これら箔片の各々に対して、図12(a)に示すように、その長手方向に平行な中心線(図中、一点鎖線にて示す)上にて、一端から2mmおよび5.9mmの位置をそれぞれ中心とする直径0.8mmの円形の開口部13bおよび13aを誘電体皮膜にサンドブラストにより形成して、2つの開口部13bおよび13aを有する誘電体被覆弁作用金属シート1を作製した。なお、図12の縮尺は理解し易いように一部変更しており、必ずしも実際の寸法比率と一致しない。
次に、以上で得られた2枚の箔片(誘電体被覆弁作用金属シート)のうち長さが13mmの箔片を、図12(b)に示すように、その固定部1dにて金属製ガイド50に溶接により固定し、この箔片の両主面(すなわち上面および下面)に対して、離間部1c(一端から4.9mmの位置を中心とする幅0.8mmの領域)にポリイミド樹脂(宇部興産株式会社製)を塗布した。そして、この長さが13mmの箔片の一方主面(図12における上面)上に、長さが6.5mmの箔片を、これらの一端が揃うようにして重ね、長さが6.5mmの箔片の両主面(上面および下面)に同様にポリイミド樹脂を塗布した。その後、180℃で1時間乾燥させてポリイミド樹脂を硬化させ、これにより、図12(c)に示すように、2枚の箔片(誘電体被覆弁作用金属シート)1がポリイミド樹脂の絶縁部9で相互に固定されて積層された積層体を得た。
次いで、積層体を構成している箔片のアルミニウムを、これを被覆する誘電体皮膜に形成した開口部13aおよび13bを通じて、抵抗溶接により接合し、これによって、接合された積層体を得た。抵抗溶接には、直径1mmの円形の電極を使用した。固体電解質層被覆部1bにおける接合部の面積は、固体電解質層被覆部の面積の3%であった。
接合された積層体を金属製ガイド50から吊り下げた状態で、箔片の一端から絶縁部9の半ばまでを、陽極酸化処理に付し(9質量%アジピン酸アンモニウム水溶液中、電流密度5mA/cm2、電圧3.5V、温度65℃で10分間)、その後、水洗、乾燥した。これにより、箔片の側面(切断面)および存在する場合には接合部のアルミニウム露出部が、誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)で被覆された。
そして、この積層体を引き続き金属製ガイド50から吊り下げた状態で、固体電解質層被覆部1b(箔片の一端から絶縁部の手前まで、即ち、幅3.5mm×長さ4.5mmの領域)を、3,4−エチレンジオキシチオフェンを含むイソプロパノール溶液(溶液1)に浸漬し、その後、引き上げて放置した。次に、同様にして、過硫酸アンモニウムを含む水溶液(溶液2)に浸漬し、その後、引き上げて乾燥させた。溶液1に浸漬してから溶液2に浸漬し、乾燥を行なう操作を20回繰り返した。得られた積層体を、50℃の温水で洗浄した後、100℃で乾燥させた。これによって、ポリエチレンジオキシチオフェンから成る固体電解質層5が、積層体3の固体電解質層被覆部1b(箔片の一端から絶縁部の手前まで)を充填および被覆する連続層として形成された。
その後、図12(d)に示すとおり、固体電解質層5の表面に、カーボンペーストを塗布し、乾燥させてカーボン含有層7aを形成し、更にその上に銀ペーストを塗布し、乾燥させて銀含有層7bを形成し、これによって、陰極引出層7を形成した。その後、金属製ガイドに固定された箔片を、一端から6.5mmの位置で切断して固定部1dを除去した。
次に、陰極引出層7を陰極リードフレーム(図示せず)に接合し、陽極リード部1aを陽極リードフレーム(図示せず)に接合し、陰極リードフレームおよび陽極リードフレームを露出させながら、エポキシ樹脂(図示せず)にて封止し、135℃で2Vの電圧を印加してエージングした。
以上により、固体電解コンデンサ10’’が得られた。同様の操作により、合計10個の固体電解コンデンサを製造した。
これら10個の固体電解コンデンサについて、素子特性として固体電解コンデンサにおける固体電解電解質層が形成された誘電体被覆弁作用金属シート1枚あたりの厚さ(以下、「素子厚」と言う。本実施例の固体電解コンデンサ10’’では2枚の誘電体被覆弁作用金属シート1を用いているため、固体電解電解質層5の全体厚さを2で除したもの、図12(d)中、厚さtにて示される)を測定し、また、初期特性として、120Hzにおける静電容量と100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)を測定した。それぞれの平均値を表1に示す。また、容量出現率として、素子厚当りの静電容量を算出した結果を表1に併せて示す。
(実施例2)
本実施例は、実施形態1の固体電解コンデンサの製造方法であって、工程(a)を第1の方法(a1)により実施した例である。以下、実施例1と異なる点を中心に説明し、特に断りのない限り、実施例1と同様とした。
本実施例では、厚さ110μmのアルミニウム箔をエッチング処理に付して粗面化したアルミニウム箔であって、誘電体皮膜で被覆されていないものを用いた。このアルミニウム箔から、幅3.5mmおよび長さ13mmの箔片1枚と、幅3.5mmおよび長さ6.5mmの箔片1枚とを切断して得た(これら箔片は、図4(a)に示す弁作用金属基体11に相当する)。
以上で得られた2枚の箔片のうち長さが13mmの箔片は、仮想的に、その長手方向の一端側から他端側にかけて、固体電解質層被覆部(幅3.5mm×長さ4.5mmの領域)、離間部(幅3.5mm×長さ0.8mmの領域)、陽極リード部(幅3.5mm×長さ1.2mmの領域)および固定部(幅3.5mm×長さ6.5mmの領域)に分けることができる。得られた2枚の箔片のうち長さが6.5mmの箔片は、固定部がない点を除き、長さが13mmの箔片と同様である。
これら箔片の各々に対して、その長手方向に平行な中心線上にて、一端から2mmおよび5.9mmの位置をそれぞれ中心とする直径0.8mmの円形のマスクを形成した。マスクには、ノボラック樹脂系レジストを用いた。これら箔片をマスクで保護した状態で、陽極酸化処理に付し(9質量%アジピン酸アンモニウム水溶液中、電流密度5mA/cm2、電圧3.5V、温度65℃で10分間)、その後、水洗、乾燥し、マスクをアセトンにより除去した。箔片のマスクで保護された領域には誘電体皮膜が形成されず、その他の領域は誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)で被覆され、これにより、2つの開口部(実施例1に関して図12(a)に示した開口部13bおよび13aに相当する)を有する誘電体被覆弁作用金属シートが作製された。
以上で得られた2枚の箔片(誘電体被覆弁作用金属シート)を用いて、以下、実施例1と同様にして、箔片がポリイミド樹脂の絶縁部で相互に固定されて積層された積層体を得、抵抗溶接により接合して、上記2つの開口部を通じて接合された積層体を得た。固体電解質層被覆部における接合部の面積は、固体電解質層被覆部の面積の3%であった。
以下、実施例1と同様にして、固体電解質層を形成し、陰極引出層を形成し、エポキシ樹脂にて封止、エージングして、最終的に、合計10個の固体電解コンデンサを製造した。
本実施例において得られた10個の固体電解コンデンサについて、実施例1と同様に電気特性を調べた。結果を表1に示す。
(実施例3)
本実施例は、実施形態2の固体電解コンデンサの製造方法であって、工程(a)を第2の方法(a2)により実施した例である。以下、実施例1と異なる点を中心に説明し、特に断りのない限り、実施例1と同様とした。
実施例1と同じく、厚さ110μmのアルミニウム箔をエッチング処理に付して粗面化し、更に、陽極酸化処理(化成処理)に付してその表面が誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)で被覆された、市販の化成アルミニウム箔を用いた。この化成アルミニウム箔から、幅3.5mmおよび長さ13mmの箔片1枚と、幅3.5mmおよび長さ4.3mmの箔片1枚とを切断して得た。
得られた2枚の箔片のうち長さが13mmの箔片は、仮想的に、その長手方向の一端側から他端側にかけて、固体電解質層被覆部(幅3.5mm×長さ4.5mmの領域)、離間部(幅3.5mm×長さ0.8mmの領域)、陽極リード部(幅3.5mm×長さ1.2mmの領域)および固定部(幅3.5mm×長さ6.5mmの領域)に分けることができる。得られた2枚の箔片のうち長さが4.3mmの箔片は、離間部、陽極リード部および固定部がない点を除き、長さが13mmの箔片と同様である(換言すれば、固体電解質層被覆部のみから成る)。
これら箔片の各々に対して、その長手方向に平行な中心線上にて、一端から2mmの位置を中心とする直径0.8mmの円形の開口部を誘電体皮膜にサンドブラストにより形成して、1つの開口部のみを有する誘電体被覆弁作用金属シートを作製した。
次に、以上で得られた2枚の箔片(誘電体被覆弁作用金属シート)のうち長さが13mmの箔片を、その固定部にて金属製ガイドに溶接により固定し、そして、この長さが13mmの箔片の一方主面に、長さが4.3mmの箔片を、これらの一端が揃うようにして重ねた。これにより、2枚の箔片が積層された積層体を得た。得られた積層体のうち、突出している長さが13mmの箔片の両主面(すなわち上面および下面)に対して、離間部(一端から4.9mmの位置を中心とする幅0.8mmの領域)にポリイミド樹脂を塗布し、180℃で1時間乾燥させてポリイミド樹脂を硬化させ絶縁部を形成した。
次いで、積層体を構成している箔片のアルミニウムを、これを被覆する誘電体皮膜に形成した開口部を通じて、抵抗溶接により接合し、これによって、接合された積層体を得た。抵抗溶接には、直径1mmの円形の電極を使用した。固体電解質層被覆部における接合部の面積は、固体電解質層被覆部の面積の3%であった。
以下、実施例1と同様にして、陽極酸化処理に付し、固体電解質層を形成し、陰極引出層を形成し、エポキシ樹脂にて封止、エージングして、最終的に、合計10個の固体電解コンデンサを製造した。
本実施例において得られた10個の固体電解コンデンサについて、実施例1と同様に電気特性を調べた。結果を表1に示す。
(実施例4)
本実施例は、実施形態3の固体電解コンデンサの製造方法であって、工程(a)を第2の方法(a2)により実施した例である。以下、実施例1と異なる点を中心に説明し、特に断りのない限り、実施例1と同様とした。
実施例1と同じく、厚さ110μmのアルミニウム箔をエッチング処理に付して粗面化し、更に、陽極酸化処理(化成処理)に付してその表面が誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)で被覆された、市販の化成アルミニウム箔を用いた。この化成アルミニウム箔から、幅3.5mmおよび長さ13mmの箔片1枚と、幅3.5mmおよび長さ6.5mmの箔片1枚とを切断して得た。
得られた2枚の箔片のうち長さが13mmの箔片は、仮想的に、その長手方向の一端側から他端側にかけて、固体電解質層被覆部(幅3.5mm×長さ4.5mmの領域)、離間部(幅3.5mm×長さ0.8mmの領域)、陽極リード部(幅3.5mm×長さ1.2mmの領域)および固定部(幅3.5mm×長さ6.5mmの領域)に分けることができる。得られた2枚の箔片のうち長さが6.5mmの箔片は、固定部がない点を除き、長さが13mmの箔片と同様である。
これら箔片の各々に対して、その長手方向に平行な中心線上にて、一端から5.9mmの位置を中心とする直径0.8mmの円形の開口部を誘電体皮膜にサンドブラストにより形成して、1つの開口部のみを有する誘電体被覆弁作用金属シートを作製した。
次に、以上で得られた2枚の箔片(誘電体被覆弁作用金属シート)を実施例1と同様にして積層し、これにより、箔片がポリイミド樹脂の絶縁部で相互に固定されて積層された積層体を得た。
次いで、積層体を構成している箔片のアルミニウムを、これを被覆する誘電体皮膜に形成した開口部を通じて、抵抗溶接により接合し、これによって、接合された積層体を得た。抵抗溶接には、直径1mmの円形の電極を使用した。本実施例では、固体電解質層被覆部に接合部を形成しなかった。
以下、実施例1と同様にして、陽極酸化処理に付し、固体電解質層を形成し、陰極引出層を形成し、エポキシ樹脂にて封止、エージングして、最終的に、合計10個の固体電解コンデンサを製造した。
本実施例において得られた10個の固体電解コンデンサについて、実施例1と同様に電気特性を調べた。結果を表1に示す。
(比較例1)
この比較例は、実施例1に対する比較例であって、従来の積層型固体電解コンデンサの製造方法を実施した例である。
図13を参照して、この比較例は、2つの固体電解コンデンサ素子60が積層された固体電解コンデンサ70を製造するものである。各々の固体電解コンデンサ素子60において、誘電体被覆弁作用金属シート61は陽極リード部61a、離間部61cおよび固体電解質層被覆部61bに分けて理解され、その固体電解質層被覆部61bが、固体電解質層65で被覆され、更に、カーボン含有層67aおよび銀含有層67bから成る陰極引出層67で被覆され、誘電体被覆弁作用金属シート61の陽極リード部61aが、離間部61cに設けられた絶縁部69によって固体電解質層65および陰極引出層67から電気的に絶縁された状態で露出している。これら2つの固体電解コンデンサ素子60は、それらの間に、互いに離間した陽極コム端子63aおよび陰極コム端子63bを挟んで積層され、陽極リード部61は陽極コム端子63aに溶接され、他方、陰極引出層67が陰極コム端子63bに溶接される。
以下、この比較例を、実施例1と異なる点を中心に説明し、特に断りのない限り、実施例1と同様とした。
実施例1と同じく、厚さ110μmのアルミニウム箔をエッチング処理に付して粗面化し、更に、陽極酸化処理(化成処理)に付してその表面が誘電体皮膜(より詳細には酸化皮膜)で被覆された、市販の化成アルミニウム箔を用いた。この化成アルミニウム箔から、幅3.5mmおよび長さ13mmの箔片2枚を切断して得た。
得られた2枚の箔片は、いずれも、仮想的に、その長手方向の一端側から他端側にかけて、固体電解質層被覆部61b(幅3.5mm×長さ4.5mmの領域)、離間部61c(幅3.5mm×長さ0.8mmの領域)、陽極リード部61a(幅3.5mm×長さ1.2mmの領域)および固定部(図示せず)(幅3.5mm×長さ6.5mmの領域)に分けることができる。
これら箔片の全部を、金属製ガイドに溶接により並べて固定し、各箔片の両主面(すなわち上面および下面)に対して、離間部61c(一端から4.9mmの位置を中心とする幅0.8mmの領域)にポリイミド樹脂を塗布した。そして、180℃で1時間乾燥させてポリイミド樹脂を硬化させた。
これら箔片を個々に金属製ガイドから吊り下げた状態で、箔片の一端から絶縁部69の半ばまでを、実施例1と同様に、陽極酸化処理に付し、その後、水洗、乾燥した。これにより、箔片の側面(切断面)が、酸化皮膜で被覆された。
そして、これら箔片を引き続き個々に金属製ガイドから吊り下げた状態で、固体電解質層被覆部61b(箔片の一端から絶縁部69の手前まで、即ち、幅3.5mm×長さ4.5mmの領域)を、実施例1と同様に、溶液1に浸漬してから溶液2に浸漬し、乾燥を行なう操作を20回繰り返し、得られた箔片を、50℃の温水で洗浄した後、100℃で乾燥させた。これによって、ポリエチレンジオキシチオフェンから成る固体電解質層65が、これら箔片の固体電解質層被覆部61b(箔片の一端から絶縁部の手前まで)を個別に被覆して形成された。
その後、これら箔片の固体電解質層65の表面に、各々、カーボンペーストを塗布し、乾燥させてカーボン含有層67aを形成し、更にその上に銀ペーストを塗布し、乾燥させて銀含有層67bを形成し、これによって、陰極引出層67を形成した。その後、金属製ガイドに固定された全ての箔片を、一端から6.5mmの位置で切断して固定部を除去し(図13を参照のこと)。
これにより分離された箔片(外表面に陰極引出層が形成されている)は、その各々が固体電解コンデンサ素子60を成すものであった。これら2つの固体電解コンデンサ素子60を、図13に示すように、それらの間に、互いに離間した陽極コム端子63aおよび陰極コム端子63bを挟んで積層し、陽極リード部61aを陽極コム端子63aに溶接し、他方、陰極引出層67を陰極コム端子63bに溶接した(このとき、陽極リード部61aを必要に応じて屈曲または湾曲させる)。
次に、陰極コム端子63bを陰極リードフレーム(図示せず)に接合し、陽極コム端子63aを陽極リードフレーム(図示せず)に接合し、その後、実施例1と同様に、陰極リードフレームおよび陽極リードフレームを露出させながら、エポキシ樹脂(図示せず)にて封止し、135℃で2Vの電圧を印加してエージングした。
以上により、固体電解コンデンサが得られた。同様の操作により、合計10個の固体電解コンデンサを製造した。
この比較例において得られた10個の固体電解コンデンサについて、実施例1と同様に電気特性を調べた。結果を表1に示す。
表1から理解されるように、実施例1〜4によって製造された固体電解コンデンサでは、比較例1によって製造された従来の積層型固体電解コンデンサに比べ、ESRを実質的に増加させることなく、容量出現率(素子厚あたりの静電容量)を大きくすることができた。