JP5681847B2 - マイクロ波装置 - Google Patents

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Description

マイクロ波を照射して加熱や化学反応促進などの処理を物質に施すための装置に関する技術が以下に開示される。
近年、マイクロ波が物質の化学反応を促進することが見出され、バイオケミストリーなどの分野において、マイクロ波を利用した化学反応装置への関心が高まっている。このような化学反応促進や加熱のためのマイクロ波装置は、試験管やフラスコ等に被処理物を収容して処理する、いわゆる電子レンジタイプのバッチ式装置が現在主流である。しかし、バッチ式では処理能力に限界があるため、流通路を形成してこれに被処理物を流しながらマイクロ波を照射して処理するフロー式の装置が検討されている(特許文献1参照)。
特許文献1のマイクロ波装置は、方形導波管内に流通路を配設したものであるが、空胴共振器を用いたほうがマイクロ波の吸収が高まり、結果として処理の効率は良い。特に、シングルモードの空胴共振器に流通路を形成した装置とすると、反応の再現性に優れ、また、共振時に空胴共振器内に発生する電磁界が強いので処理時間を短縮することができる。ただし、空胴共振器を用いたマイクロ波装置の場合、空胴共振器とマイクロ波の同調をとる仕組みが難しいとされている。
特開2006−272055号公報
シングルモードの空胴共振器では、電磁界が強いことが逆に災いとなって、被処理物の吸収するマイクロ波が大きすぎることが、同調を難しくしている原因と言える。すなわち、空胴共振器に蓄えられるマイクロ波エネルギーに対し、被処理物に吸収される単位時間当りのエネルギーが大きすぎ、これら2つの量の比に角周波数を乗じた式で定義される共振の“Q”が低くなってしまう。Qが低くなると、共振器としての特長を失うばかりか、共振を維持するために必要な共振周波数に対して同調を取ること自体、難しくなる。
現状では、流通路の断面積をできるだけ小さくし、空胴共振器内に存在する被処理物の容積が、空胴容積に比較して極力小さくなるようにして、被処理物に吸収される単位時間当りのエネルギーを減らす、といった対処で回避が図れている。すなわち、一般的に円筒管である流通路の径を極力小さくして、被処理物の流量を抑えるということである。この対処法でQを適切な値に留めるためには、現在一般的なマイクロ波の周波数2,450MHzで動作する空胴共振器の場合、流通路は、径が1.5mm以下の細いものにせざるを得ない。これでは、実用化に向けて十分な処理能力があるとは言い難い。
このような背景に鑑みて本発明は、シングルモードの空胴共振器を使用したマイクロ波装置に関し、被処理物の流量を多くして均一に効率良く処理可能にする手段を提案する。
上記課題に対して提案するマイクロ波装置の一態様は、底面が正方形且つ側面が長方形の正四角柱状空胴の照射室と、前記照射室側面を形成する側面壁の1つに設けられ、前記照射室底面の中心どうしを結んだ中心軸と平行に長軸が伸延する矩形開口のアイリスと、を有する空胴共振器を含んで構成される。その空胴共振器は、前記アイリスから前記照射室内にマイクロ波が導入されるTM110モード空胴共振器である。
本マイクロ波装置は、前記照射室内において、被処理物を流動させる流通路を、前記中心軸を取り巻いて伸延する螺旋状に設けてある。そして、好ましくは、前記照射室底面のなす正方形の1辺が、当該照射室に導入される周波数2.4〜2.5GHzのマイクロ波の波長の75%以下に設計される。
上記課題に対して提案するマイクロ波装置の別の態様は、円柱状空胴の照射室と、該照射室の側面を形成する側面壁に1箇所設けられ、前記照射室の両底面の中心を互いに結んだ中心軸と平行に長軸が伸延する矩形開口のアイリスと、を有する空胴共振器を含んで構成される。その空胴共振器は、前記アイリスから前記照射室内にマイクロ波が導入されるTM010モード空胴共振器である。
本マイクロ波装置は、前記照射室内において、被処理物を流動させる流通路を、前記中心軸を取り巻いて伸延する螺旋状に設けてある。そして、好ましくは、前記照射室底面のなす円形の直径が、当該照射室に導入される周波数2.4〜2.5GHzのマイクロ波の波長の80%以下に設計される。
上記提案に係るマイクロ波装置は、空胴共振器の照射室(共振空胴)において、中心軸に平行な電界が発生する。そして、この照射室内で流通路は、照射室の中心軸を取り巻く螺旋状に設けられているので、当該流通路を流れる被処理物は、電界を横切る方向に流動する。この構造により、被処理物、つまり誘電体の境界が電界を横切る方向となるので、単位時間当りに被処理物に吸収されるエネルギーが少なくなり、Qの低下が抑制される。したがって、従来よりも太い流通路を使用して被処理物の流量を多くしても、Qの低下は格段に緩やかとなって適切値に留めることができる。また、流通路を螺旋状としたことにより、直管式流通路の場合に比べて、照射室内での被処理物流動距離が長くなって、被処理物の受けるマイクロ波の強さを一定に保ちつつ照射室内滞留時間を稼ぐことができる。以上の結果、シングルモード空胴共振器による均一で効率の良い処理が可能となる。
マイクロ波装置の全体構成例を示すブロック図。 空胴共振器の第1実施形態を示し、(A)は図1と同じ側面から見た正面図、(B)は左側面図、(C)は平面図。 図2の空胴共振器における流通路配置状態を示し、(A)は側面壁を取り外して照射室内を見せた正面図、(B)は上側の底面壁を取り外して照射室内を見せた平面図、(C)は下側の底面壁を取り外して照射室内を見せた底面図。 螺旋状の流通路及びこれを巻き付ける支持棒の第1例を示す図。 螺旋状の流通路及びこれを巻き付ける支持棒の第2例を示す図。 流通路及び支持棒の治具を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図、(D)は平面図、(E)は底面図。 空胴共振器の第2実施形態を示し、(A)は図1と同じ側面から見た正面図、(B)は左側面図、(C)は平面図。 第1実施形態に係る空胴共振器内の電界に関して中心軸周りの円周方向電界変化シミュレーション結果を示す図。 被処理物の流動方向と電界の関係を説明する図。 第2実施形態(又は第1実施形態)に係る空胴共振器内の電界に関して中心軸方向のシミュレーション結果を示す図。 流通路に被処理物を流す流動機構の一例を示す図。
まず、図1に、マイクロ波装置の全体構成に関して一例を示す。図示のマイクロ波装置は、空胴共振器10に導波管20及びマイクロ波発生器30を組み付け、パーソナルコンピュータ等による制御器40で制御するようにした構成である。
マイクロ波発生器30は、可変周波数発振器31及び可変増幅器32を含んでいる。可変周波数発振器31により周波数が可変(例えば2.4GHz〜2.5GHz)のマイクロ波が出力され、可変増幅器32により該マイクロ波のパワーが可変増幅される。可変周波数発振器31の周波数と可変増幅器32のパワーは、制御器40に従い制御される。マイクロ波発生器30から出力されたマイクロ波は、同軸ケーブルでつながったアイソレータ33、方向性結合器34などを介して同軸導波管変換器21に送られる。同軸導波管変換器21を経て導波管20により導波されるマイクロ波は、図2に示すアイリス11を通して、空胴共振器10内に形成された照射室12へ導入される。
照射室12にマイクロ波が導入されると、中心軸方向へ離間設置した2本のアンテナ50(例えばループ形のアンテナ)により電界又は磁界の強度が検知され、該検知結果が制御器40へ入力される。また、後述の図11に示すように被処理物の温度を計測した結果も制御器40へ入力され得る。制御器40は、これら入力に従ってマイクロ波発生器30を制御する。
マイクロ波照射開始の操作が行われると、制御器40は、マイクロ波発生器30によりマイクロ波出力を開始し、周波数制御過程を実行する。周波数制御過程は、アンテナ50による検知結果に従って、マイクロ波発生器30から出力されるマイクロ波の周波数を、照射室12の共振周波数に同調させる制御である。周波数制御過程を実行する制御器40は、可変周波数発振器31の周波数を掃引しつつアンテナ50による検出結果から同調周波数を判断する。このとき、制御器40は、可変増幅器32によるパワーについて、アンテナ50による検出に支障ない範囲で最低限の微弱パワーにするとよい。照射室12へ導入するマイクロ波の出力パワーを弱くすることで、周波数制御過程の実行中に被処理物へ与え得る影響を抑制することができる。
この場合の微弱パワーは、例えば次の値とする。可変増幅器32は、一般的に可変減衰部+増幅部の組み合わせで構成されるので、その可変減衰部の減衰率を最大値(99%等)としたときの可変増幅器32の出力パワーを、微弱パワーとすることができる。一例としては、微弱パワーは100mW以下とすることが可能である。
制御器40は、周波数制御過程による同調に続いて、マイクロ波のパワーを制御するパワー制御過程を実行する。パワー制御過程は、マイクロ波照射開始前にオペレーターにより設定された条件に従ってマイクロ波発生器30の可変増幅器32を制御し、マイクロ波のパワーを制御する過程である。パワー制御過程において制御器40は、アンテナ50による検知結果(又は被処理物の温度計測結果)に従って、マイクロ波発生器30から出力されるマイクロ波のパワーを調整する。正確性を追求したければ、アンテナ50の検知結果及び温度計測結果の両方を使用するのがよい。
制御器40は、一例として、マイクロ波の照射開始にあたって最初に周波数制御過程を実行した後、パワー制御過程を実行し、当該パワー制御過程実行中に一定の間隔で周波数制御過程を割り込ませ、実行する。そして、その周波数制御過程において制御器40は、可変増幅器32を制御して上述の微弱パワーでマイクロ波を出力させつつ、可変周波数発振器31を制御して周波数の同調を図る。
以上のようなマイクロ波装置における空胴共振器10の第1実施形態が図2に示されている。
第1実施形態の空胴共振器10は、図中では上下に示す2枚の対向する底面壁13,14が正方形で、当該正方形の底面壁13,14の各辺に、長方形の側面壁15,16,17,18をボルト等で固定することにより、構成されている。第1実施形態の場合、4枚の側面壁15,16,17,18のうち、図2Bに示す1枚の側面壁15は、導波管20を接続するために、導波管20のフランジ22に対応させて面積が広げられており、その拡張部分が底面壁13,14の端からはみ出している。また、4枚の側面壁15,16,17,18のうち、図2Aに示す1枚の側面壁18は、底面壁13,14へ当接する端部に開けられた流通路挿通口18a,18bを有する。
これら底面壁13,14及び側面壁15,16,17,18を組み立てて形成される直方体の空胴共振器10の中には、底面壁13,14による正方形の底面及び側面壁15,16,17,18による長方形の側面を有した正四角柱状空胴の照射室12が形成される。この照射室12にマイクロ波を導入するアイリス11は、照射室側面を形成する側面壁15の中央部位に、矩形開口として開けられる。第1実施形態のアイリス11は長方形で、その長軸が、照射室底面の中心どうし、すなわち第1実施形態では底面壁13,14の中心どうしを結んだ中心軸Cと平行に伸延する。
導波管20から結合スリットであるアイリス11を通して正四角柱状空胴の照射室12に導入されたマイクロ波は、共振時、中心軸Cの方向に沿ったシングルモードの電界を発生する。厳密に言えば、空胴共振器10内に何も入っていなければ、TM110モードの電磁界が励起される。したがって、おおよそTM110モードの電磁界分布に従った分布の電磁界が照射室12に発生することになる。
照射室12に関し、その底面のなす正方形の1辺の長さをLとする。なお、Lについての±数%程度の寸法差は許容され得る。加熱等に一般的なマイクロ波の周波数2,450MHzの場合、照射室12内に何も無いときのLは86.5mmである。しかし実際には、照射室12には誘電体となる被処理物が存在するので、その影響を受けて照射室12の共振周波数は下がる。そこで、照射室12のLは、空のときの寸法より小さく設計し、照射室12内に被処理物が有って共振周波数が下がったときに共振できる値とするのがよい。また、Lを長めにとった場合、予定したシングルモードでの共振に加えて、その近傍の周波数において高次モードで共振する、モード競合のような不具合を生じ得る。これらの条件を勘案してシミュレーションなどの試行を重ねた結果、照射室12において底面のなす正方形の1辺の長さLは、照射室12に導入するマイクロ波の波長の75%以下に設計するのが適している。なお、照射室12において各側面のなす長方形の長辺の長さH(正四角柱の高さ)は、電界が中心軸Cの方向に生じることから、適宜、必要な長さを設計すればよい。
導波管20から空胴共振器10へマイクロ波を結合するアイリス11は、照射室12に励起される電磁界を、予定したシングルモード(TM110、あるいは後述のTM010)のみとすることに関与する。図2Bに示すアイリス11においては、その長辺(側縁)においてマイクロ波による電流が中心軸Cの方向に流れ、当該電流に起因して、中心軸Cを囲繞する磁界と中心軸Cに平行な電界が発生する。アイリス11の幅(中心軸Cと直交する方向)は、シミュレーション及び実験により最適値を求めることができる。空胴共振器10はTEモードを発生する可能性があるが、TEモードが発生すると想定外の現象が起き得るので、TEモードは極力抑制する必要がある。図2の導波管20及びアイリス11の関係においては、中心軸Cに関し構造的対称性が保たれる限り、図中の横方向の電界が存在しないので、TEモードを抑制することが可能である。
図3に、このような照射室12に設ける流通路60の実施形態を示す。
図3Aは、正面の側面壁18を取り外して照射室12の中を示した図、図3Bは、上側の底面壁13を取り外して照射室12の中を示した図、そして、図3Cは、下側の底面壁14を取り外して照射室12の中を示した図である。
流通路60は、1本のフレキシブル管を螺旋状に巻いて形成され、その材料には、マイクロ波の吸収が少なく比誘電率(実数部)が小さいもの、例えばPTFEやPPが使用される。螺旋状に巻いた流通路60の巻き径の中心は、照射室12の中心軸Cにほぼ一致(見た目に一致している程度でよい)させてある。したがって、被処理物を流動させる流通路60は、中心軸Cを取り巻いて延伸する螺旋状に設けられている。螺旋状に巻いた流通路60は、図2に示す流通路挿通口18a,18bから両端が取り出され、被処理物の流動機構に接続される。この流通路60を螺旋状に設けるために使用する支持棒の第1例について、図4に示す。
第1例に係る支持棒61は、流通路60と同じくPTFEやPPなどのマイクロ波吸収し難い素材からなる円柱で、その軸を中心軸Cに沿わせて照射室12内に配置される。図3の場合、支持棒61の中心軸が照射室12の中心軸Cにほぼ一致するようにして配置されている。この支持棒61の周面に螺旋溝61aが一筋、全長にわたり凹設されており、該螺旋溝61aをガイドにして、流通路60が支持棒61の周囲に巻き付けられる。螺旋溝61aの形成により、流通路60を一定のピッチpで巻き付けることができ且つ巻き付けた流通路60のずれが防止される。
図5に、第2例の支持棒61’を示す。第2例に係る支持棒61’も第1例と同じくPTFEやPPからなる円柱であり、第1例同様に照射室12内へ配置されるが、その周面に形成される螺旋溝61a’のピッチが第1例よりも大きく、流通路60のピッチpが第1例に比べて広くなる設計である。流通路60のピッチpが違えば、被処理物が照射室12内に留まる時間が変わり、したがってマイクロ波の照射時間が変わる。また、ピッチpの違いにより、図中右に示すように、流通路60の螺旋の傾きが変化し、照射室12内の軸方向の電界に対する被処理物流動方向の軸方向成分が増減する。すなわち、マイクロ波中の誘電体である被処理物の誘電体境界の向きが、電界の方向に対し、直交と平行の間で変化する。これにより、被処理物のマイクロ波エネルギー吸収を変化させることができる(後述)。
支持棒61,61’は、マイクロ波損失が少なく且つ熱伝導特性に優れたアルミナ(酸化アルミニウム)で形成することもできる。アルミナ製の支持棒61,61’とした場合、その熱伝導の良さから、流通路60下流の被処理物の熱を上流の被処理物へ伝えることが可能で、流通路60を流れる被処理物の均温性を向上させることができる。マイクロ波照射に伴う加熱で、被処理物の温度は下流へ行くほどに高くなるが、その熱を支持棒61,61’を介して上流側へ伝導することにより、化学反応に要求される均温性を改善することができる。第2例の支持棒61’の場合、さらに、軸方向に貫通する流路61b’が形成され、ここに冷媒として気体や液体を流すことができるようにしてある。マイクロ波吸収の少ない冷媒として、例えばフロリナート(登録商標)などのフッ素系不活性液体があげられる。冷媒は、被処理物の流動方向とは逆向きに流し、例えば、図5中で下から上に被処理物が流れる場合は、冷媒を上から下へ(矢示)流す。これにより、均温性をより向上させられる。また、マイクロ波による熱反応処理では、強いマイクロ波を照射しながら、被処理物の温度は許容レベル内に抑えることを要求される場合がある。この場合、従来の装置では、被処理物の温度が上がるとマイクロ波出力を下げることにより対応していたが、支持棒61,61’の熱伝導や冷媒作用を利用すれば、マイクロ波出力を従来ほど下げずに済むこととなる。
このような支持棒61,61’に巻回した螺旋状流通路60を、照射室12内の定位置へ配置するための治具62について、図6に示す。治具62は、やはりPTEFやPPにより形成され、照射室12の底面に相当する正方形(1辺がほぼL)で互いに同形状の2枚の底面板62aと、照射室12の側面の長辺に相当する長さ(ほぼH)の4本の支柱62bと、を含み、対向する底面板62aの四隅に支柱62bを固定して組み立てられている。支柱62bの固定は、例えばエンジニアリングプラスチック製のネジによるねじ止めで行える。底面板62aは板厚が5mm程度で、正方形の中心部位に、支持棒61,61’の端部6b,6c’を嵌め込むための嵌合孔62cが開けられている。ここに支持棒61,61’を嵌め込んで固定することで、治具62を照射室12に挿入すると、中心軸Cに沿って支持棒61,61’が配置され、且つ中心軸Cの周りに螺旋状流通路60が配置されることになる。
底面板62aには、さらに、治具62を照射室12に対し出し入れするときに取っ手となる把持孔62dが2箇所に開けられている。また、底面板62aには、空胴共振器10の側面壁18に開けられた流通路挿通口18a,18bに対応する部位に、流通孔60を引き出すための切欠62eが形成される。このような治具62は、支持棒61(又は支持棒61’)の端部6(又は62c’)を嵌合孔62cに嵌め込んで固定し、当該支持棒61に流通路60を巻き付けてその端を切欠62eを介し引き出した状態にして、照射室12に挿入される。治具62を使用して流通路60を巻回した支持棒61を照射室12に挿入する方式とすることにより、照射室12内において流通路60を常に定位置に配置することが可能であり、処理の再現性に優れる。
図7に、空胴共振器の第2実施形態を示す。
第2実施形態の空胴共振器10’は、円柱状空胴の照射室12’を有し、照射室12’の直径がLとされる。
円柱状空胴の照射室12’は、正四角柱状の胴部材を円形にくりぬき(削り出し)、その両端に正方形の底面壁13’,14’をボルト止めすることで形成される。そして、照射室12’の側面(つまり胴部材内周面)を形成する側面壁の1箇所、第2実施形態の場合、胴部材の外側面15’,16’,17’,18’のうちの外側面15’に、第1実施形態同様のアイリス11’が開口する。すなわち、このアイリス11’も、照射室12’の両底面の中心を互いに結んだ中心軸C’と平行に長軸が伸延する矩形開口である。さらに、外側面15’,16’,17’,18’のうち、図7Aに示す1つの外側面18’は、底面壁13’,14’へ当接する端部に開けられた流通路挿通口18a’,18b’を有する。また、アイリス11’を介してマイクロ波を結合する導波管20のフランジ22を固定するために、外側面15’に対して鍔部15a’が拡張形成されている。
このような円柱状空胴の照射室12’の中に、上記同様の流通路60及び支持棒61(61’)が配置される。第1実施形態同様に、螺旋状に巻いた流通路60の巻き径の中心は、照射室12’の中心軸C’にほぼ一致させてあり、したがって流通路60は、中心軸C’を取り巻いて延伸する螺旋状に設けられる。また支持棒61も、その軸を中心軸Cに沿わせて照射室12’内に配置される。
導波管20からアイリス11’を通して照射室12’に導入されたマイクロ波は、共振時、中心軸C’の方向に沿ったシングルモードの電界を発生する。照射室12’が円柱状空胴なので、第2実施形態の場合、空胴共振器10’内に何も入っていなければTM010モードの電磁界が励起される。共振するマイクロ波の周波数を2,450MHzとする場合、照射室12’内に何も無いときの直径Lは93.7mmである。なお、第1実施形態同様、Lについての±数%程度の寸法差は許容され得る。
第1実施形態と同様に、照射室12’には誘電体となる被処理物が存在するので、その影響を受けて照射室12’の共振周波数は下がる。そこで、照射室12’のLも、空のときの寸法より小さく設計する。また、上述したように、Lを長めにとった場合は高次モードで共振するモード競合のような不具合を生じ得るので、これらの条件を勘案して、照射室12’において底面のなす円形の直径Lは、照射室12’に導入するマイクロ波の波長の80%以下に設計するのが適している。なお、照射室12’の側面の軸方向長さH(円柱の高さ)は、電界が中心軸C’の方向に生じることから、適宜、必要な長さを設計すればよい。
第1実施形態の空胴共振器10と第2実施形態の空胴共振器10’とを比べると、第1実施形態の方が、6枚の板材を互いに組み付けるだけで制作でき、導波管20の取り付けもより容易なため、作りやすいという利点をもつ。
いずれの実施形態においても、支持棒61(61’)の断面直径は、流通路60の螺旋巻き径d1を決める要素であるが、そのd1は、次のように設定する。
第1実施形態に係る空胴共振器10の場合、照射室12の横断面が正方形なので、電界は、中心軸Cを中心に回る円周方向において場所により変化する。つまり、流通路60の流れの方向に沿って電界は変化する。この様子をシミュレーションしたのが図8である。図8のグラフは、横軸に円周方向の角度をとって示した電界変化のグラフであり、同図を参照すると分かる通り、Lに対してd1が大きくなるほど、すなわち、中心軸Cから流通路60の中心(内径中心)までの距離(d1/2)が長くなるほど、流通路60に沿った電界の変化は大きくなる。したがって、処理の均一性を考えると、d1は、その変化の影響を受けない程度の大きさまでに抑えた方がよい。シミュレーション結果から考えると、d1/L≦0.5であれば電界はほぼ一定とみなすことができるので、d1は、照射室12の底面のなす正方形の1辺Lの50%以下に設定、すなわち、中心軸Cから流通路60の中心までの距離であるd1/2は、25%以下に設定するのが好ましい。
照射室12(12’)内を流れる被処理物に対する電界の方向に関し、図9及び図10を参照して説明する。図9Aは、流通路60の流動方向が照射室12の中心軸Cと平行な場合を示し、図9Bは、本実施形態のように、流通路60の流動方向が中心軸Cを横切る方向である場合を示す。電界の向きは、上述のように、照射室12において中心軸Cと平行である。流通路60を流れる被処理物は誘電体と見なせるので、図9Aの場合は誘電体境界が電界と平行であり、図9Bの場合は誘電体境界が電界を横切ることになる。電界と誘電体境界が平行な場合、誘電体の内外で電界の強さが同じになる。一方、電界を誘電体境界が横切る場合、電界の強さは、誘電体の中で比誘電率分の1(厳密には1/εr′)に弱まる。すなわち、被処理物の流動方向によって、被処理物内で電界が変化する。
誘電体が吸収するマイクロ波電力(単位時間当りのエネルギー)は次式で与えられる。
=(1/2)・∫ωεε″Edv
式中、ωは角周波数、εは真空の誘電率で8.854×10−12(Coulomb/m)である。比誘電率(複素数)εrは、εr=εr′−jεr″で定義される。
水を例にとると、水のεr′は80(常温)、εr″は10程度であるから、図9Bの場合は、図9Aの場合に比べて電界が1/80になる。
すなわち、流通路60に水を流したとすると、中心軸Cに沿って水が流れる図9Aの場合はマイクロ波の吸収が非常に多いが、中心軸Cを螺旋状に取り巻いて水が流れる図9Bの場合は、マイクロ波の吸収は大幅に減少する。
水を流す「直管」の流通路60を中心軸Cに配設(管の軸=中心軸C)して第1実施形態の空胴共振器10により実験を行った結果、当該直管の内径を1.5mmと細くしても、Qが100程度に下がってしまうことが実測された。Qが小さいと、共振をとることが難しくなり、また、たとえ共振がとれたとしても、照射室12内に蓄えられるマイクロ波のエネルギーが少なくなって強い電界を発生できなくなり、共振器としての利点を失ってしまう。
第2実施形態(又は第1実施形態)の空胴共振器10’の照射室12’における電界をシミュレーションした結果を図10に示す。照射室12’には、支持棒61に巻き付けた螺旋状の流通路60が配置されていると仮定している(図中の○)。ただし、計算の都合上、流通路60はそれぞれ直径d1の環状になっているものとした。また、被処理物として水を想定し、流通路60自体の誘電率は水の誘電率に比較して十分に小さいので省略した。図10の縦軸が中心軸C’の方向の距離、横軸が中心軸C’から半径方向(中心軸直交方向)への距離である。なお、図10に示す領域は、図3A中に示す1/4領域Wに相当する。
図10中に表された縦線が電気力線で、電界の包絡線であり、電界はこの線に沿っている。電気力線や電界は水(○で示す)の近傍で僅かながら乱れるが、ほぼ中心軸C’に平行な直線になる。すなわち、電界は、中心軸C’に平行であり、軸方向において変化しない。図中に示すように、L=93.7mmで計算しているので、空胴共振器10’は、照射室12’に何も入っていなければ2,450MHzで共振するが、螺旋状の水が入ると、共振周波数が36MHzだけ低下する。しかし、この低下程度は、中心軸C’上に直径1mmの水柱がある場合に比べても小さい。また、これと同じ内径の螺旋状流通路60を照射室12’に入れた場合、照射室12’内に滞留する水の量は40倍になる。
上式から分かるように、螺旋状の流通路60を照射室12’に配置した場合、被処理物の単位体積当りのマイクロ波エネルギー吸収量が大幅に低下するので、総合的なマイクロ波エネルギーの吸収量は、中心軸C’に沿った「直管」の流通路60のときに比べて十分に少なく、したがって、高いQを得ることができる。
以上のように、上記に示したマイクロ波装置は、空胴共振器の照射室において中心軸に平行な電界が発生し、そして、螺旋状の流通路を流れる被処理物は、電界を横切る方向に流動する。この構造により、被処理物、つまり誘電体の境界が電界を横切る方向となるので、単位時間当りに被処理物に吸収されるエネルギーが少なくなり、Qの低下が抑制される。したがって、従来よりも径d2の太い流通路(一例としてd2=3mm)を使用して被処理物の流量を多くしても、Qの低下は格段に緩やかとなって適切値に留めることができる。また、流通路を螺旋状としたことにより、直管式流通路の場合に比べて、照射室内での被処理物流動距離が長くなって、被処理物の受けるマイクロ波の強さを一定に保ちつつ照射室内滞留時間を稼ぐことができる。これらの結果、シングルモード空胴共振器による均一で効率の良い処理が可能となる。
流通路60に被処理物を流す流動機構の一例を図11に示している。
第1実施形態の空胴共振器10が設置されており、その照射室12中に螺旋状の流通路60が上記の通り収められている。流通路挿通口18a,18bから引き出された流通路60の両端は、下側から引き出された方が処理前の被処理物を貯留した容器70へ、上側から引き出された方が処理後の被処理物を貯留する容器80へ、それぞれ接続される。処理前の容器70は、注出口に流量制御コック71を備え、また、上下位置を調整可能になっている。処理後の容器80は、下端部位から被処理物が流入し、上端部位の注出口に達すると、ビーカー等へ処理後の被処理物が排出される。この流動機構は、照射室12内の流通路60において下から上へ被処理物を流す仕組みで、容器70の高さ及び流量制御コック71を調整することにより、被処理物の流れを制御する。処理前の容器70中の液面高さまで、処理後の被処理物を容器80内に溜めることができる。
流通路挿通口18a,18bから引き出された流通路60内の被処理物温度を計測する非接触式温度計を設けて処理前と処理後の温度計測を行い、図1の制御器40へ提供することができる。
10,10’ 空胴共振器
11,11’ アイリス
12,12’ 照射室
20 導波管
60 流通路
61,61’ 支持棒
C,C’ 中心軸

Claims (5)

  1. 底面が正方形且つ側面が長方形の正四角柱状空胴の照射室と、
    前記照射室側面を形成する側面壁の1つに設けられ、前記照射室底面の中心どうしを結んだ中心軸と平行に長軸が伸延する矩形開口のアイリスと、
    を有し、前記アイリスから前記照射室内にマイクロ波が導入されるTM110モード空胴共振器、
    を含んで構成されるマイクロ波装置であって、
    前記照射室内において、被処理物を流動させる流通路を、前記中心軸を取り巻いて伸延する螺旋状に設けてある、マイクロ波装置。
  2. 前記照射室底面のなす正方形の1辺が、前記照射室内に導入される周波数2.4〜2.5GHzのマイクロ波の波長の75%以下に設計される、請求項1に記載のマイクロ波装置。
  3. 前記中心軸から前記流通路の中心までの距離が、前記照射室底面のなす正方形の1辺の25%以下に設定される、請求項記載のマイクロ波装置。
  4. 前記流通路が、前記中心軸に沿って配置した支持棒の周囲に巻き付けられている、請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ波装置。
  5. 前記支持棒は、軸方向に貫通する流路を有する、請求項5記載のマイクロ波装置。
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