GaN、AlGaN、GaInN、AlGaInNなどの窒化物半導体は、AlGaInAs系半導体やAlGaInP系半導体に比べてバンドギャップEgが大きく、かつ直接遷移の半導体材料であるという特徴を有している。このため、これらの窒化物半導体は、紫外線から緑色に当たる短波長の光の発光が可能な半導体レーザや、紫外線から赤色まで広い発光波長範囲をカバーできる発光ダイオードなどの半導体発光素子を構成する材料として注目されており、高密度光ディスクやフルカラーディスプレー、さらには環境・医療分野など、広く応用が考えられている。
この他、この窒化物半導体は、高温動作可能な高出力の高周波電子素子を構成する材料として期待されている。また、熱伝導性がGaAs系半導体などよりも高く、高温・高出力動作の素子の応用に期待される。さらに、AlGaAs系半導体における砒素(As)、ZnCdSSe系半導体におけるカドミウム(Cd)などに相当する材料及びその原料(アルシン(AsH3))などを使用しないため、環境への負荷が小さい化合物半導体材料として期待される。しかしながら、従来、窒化物半導体発光素子の一つである窒化物半導体レーザ素子などの製造において、1ウエーハ上に作製された窒化物半導体レーザ素子の数に対して、得られる良品の素子数の割合を示す歩留まりの値が、非常に低いという問題がある。歩留まりを落としている原因の一つとして、クラックの発生が挙げられる。クラックの発生は、基板が原因で発生する場合と、基板上に積層させる窒化物半導体成長層が原因で発生する場合と、がある。
本来、GaNなどの窒化物半導体成長層はGaN基板上に成長させ、形成するのが望ましい。しかし、現在、GaNに格子整合する高品質のGaN単結晶基板がまだ開発されていない。このため、格子定数差が比較的に少ないSiC基板を使用する場合、SiC基板は高価で大口径化が困難であるとともに、引っ張り歪が発生するため、結果的に、クラックが発生しやすい。さらに、窒化物半導体の基板材料に求められる条件として、約1000℃の高い成長温度に耐えうること、そして原料のアンモニアガス雰囲気で変色・腐食されないことが求められる。
以上の理由により、窒化物半導体成長層を積層する基板としては、通常、サファイア基板が使用されている。しかし、サファイア基板は、GaNとの格子不整合が大きい(約13%)。このため、サファイア基板上に低温成長によりGaNやAlNからなるバッファ層を形成し、当該バッファ層上に窒化物半導体成長膜を成長させている。しかし、歪を完全には除去することは困難であり、組成や膜厚の条件によっては、クラックが発生していた。
そこで、欠陥密度の少ないGaN基板の製造方法として、以下に述べる方法が報告されている(非特許文献1参照)。MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により、サファイア基板上に2.0μm厚のGaN層を成長させ、その上に0.1μmの膜厚の周期的なストライプ状の開口部(周期:11μm)をもつSiO2マスクパターンを形成し、再びMOCVD法により20μm厚のGaN層を形成し、ウエーハを得る。これは、ELO法(Epitaxial Lateral Overgrowth)と呼ばれる技術であり、ラテラル成長の利用により欠陥を低減する手法である。
そして、HVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy)により200μm厚のGaN層を形成し、下地であるサファイア基板を除去することで150μm厚のGaN基板を作製した後、その表面を平坦に研磨する。このようにして得られたGaN基板において、その欠陥密度が106cm−2以下と、低い値を示すことが知られている。
しかし、クラックの発生は、基板だけが原因というわけではない。即ち、窒化物半導体レーザ素子を作製するとき、基板上に窒化物半導体成長層が積層され、窒化物半導体成長層は、GaN、AlGaN、InGaNなど異なる種類の膜から構成される。これら窒化物半導体成長層を構成する各膜は、格子定数が異なり、格子不整合が生じる。このことにより、クラックが発生していた。そこで、凹部である溝及び凸部である丘が形成された基板を用い、その上に窒化物半導体成長層を成長した後、窒化物半導体成長層の表面を平坦化せず、くぼみを形成することで窒化物半導体成長層中の歪みを開放し、クラックを低減する方法を本発明者は開発した。この方法を使用することで、基板が原因で発生するクラックと、基板上に形成される窒化物半導体成長層を構成する各膜の格子不整合が原因で発生するクラックとを、抑制することができる。
上述した基板に溝と丘を形成し、加工された基板を用いて窒化物半導体レーザ素子を作製する際、例えば、窒化物半導体成長層が図7のように構成される。
即ち、エッチングが行われたn型GaNなどから成る加工基板61(図6参照)表面に形成された窒化物半導体成長層4は、例えば、加工基板61の表面に、層厚1.0μmのn型GaN層701と、層厚1.5μmのn型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層702と、層厚0.2μmのn型Al0.1Ga0.9N第2クラッド層703と、層厚0.1μmのn型Al0.062Ga0.938N第3クラッド層704と、層厚0.1μmのn型GaNガイド層705と、層厚4nmのInGaN井戸層が3層及び層厚8nmのGaN障壁層が4層から成る多重量子井戸活性層706と、層厚20nmのp型Al0.3Ga0.7N蒸発防止層707と、層厚0.05μmのp型GaNガイド層708と、層厚0.5μmのp型Al0.062Ga0.938Nクラッド層709と、層厚0.1μmのp型GaNコンタクト層710と、が順に積層され構成されている。尚、多重量子井戸活性層706は、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順序で形成される。
尚、結晶の面や方位を示す指数が負の場合、絶対値の上に横線を付して表記するのが結晶学の決まりであるが、以下において、そのような表記ができないため、絶対値の前に負号「−」を付して負の指数を表す。
又、本明細書に記載の「異種基板」とは、窒化物半導体基板以外の基板を意味する。具体的な異種基板としては、サファイア基板、SiC基板、又はGaAs基板などが用いられる。
又、「加工基板」は、窒化物半導体基板、もしくは、窒化物半導体基板又は異種基板表面に積層された窒化物半導体成長層表面上に、少なくとも一つの凹状の溝から構成される掘り込み領域と丘が形成された基板であるとする。更に、p型Al0.3Ga0.7N蒸発防止層707、p型GaNガイド層708、p型Al0.062Ga0.938Nクラッド層709、p型GaNコンタクト層710、が積層されて得られる窒化物半導体層を、以下では「p層」とする。
加工基板61表面上に、窒化物半導体成長層4をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて積層することで図6のように、窒化物半導体成長層4表面に窪みのある窒化物半導体ウエーハが形成される。尚、図6には面方位も併せて表示する。
図6に示す加工基板61として用いられたのがn型GaN基板であり、[1−100]方向に向かって、RIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチング技術を用いて、ストライプ状に掘り込み領域62と丘63が形成されている。当該掘り込み領域62の開口幅が30μmとし、深さは5μmとするとともに、隣接する掘り込み領域62との周期が300μmとする。このようなエッチングが行われた加工基板61上に、図7のような積層構造の窒化物半導体成長層4をMOCVD法などの成長方法で作製する。
しかしながら、上述した本発明者が開発した技術で、加工基板61としてn型GaN基板を用い、このn型GaN基板上に窒化物半導体成長層4をMOCVD法などを用いエピタキシャル成長させることで、窒化物半導体レーザ素子を作製したところ、クラックの低減には効果があったが、歩留まりは大きく向上しなかった。即ち、上述の技術を用い、窒化物半導体レーザ素子を複数作製し、FFP(Far Field Pattern)の水平方向の角度のばらつきを評価した。目標角度9°に対して、±1.5°以内の窒化物半導体レーザ素子を良品としたところ、作製した窒化物半導体レーザ素子の内、規格を満たしている窒化物半導体レーザ素子の割合は、50%と非常に低い歩留まり結果となった。
この窒化物半導体レーザ素子を作製する際、掘り込み領域62と丘63を備えた加工基板61上に窒化物半導体成長層4を積層させたところ、図6に示すように、掘り込み領域62においては凹部が形成され、丘63上においては表面平坦性が良好な表面が得られなかった。このように良好な表面平坦性が得られないのは、窒化物半導体成長層4内の各窒化物半導体薄膜の膜厚がウエーハの位置によって大きく異なるためである。即ち、窒化物半導体成長層4を構成する各窒化物半導体薄膜を成長させる前の成長面の平坦性が悪ければ、引き続き成長させる窒化物半導体薄膜の層厚がばらつくとともに、成長させた窒化物半導体薄膜の表面の平坦性も、更に悪化することとなり、それが次に積層する窒化物半導体薄膜の膜厚と表面平坦性に悪影響を与えるため、良好な表面平坦性をもつ窒化物半導体成長層4を得ることができない。その結果、作製された窒化物半導体レーザ素子ごとの特性が異なり、規格の範囲内の特性を満たす素子が減少する。よって、歩留まりを向上させるのは、クラックの低減だけではなく、窒化物半導体薄膜の成長面の表面平坦性も向上させる必要がある。
即ち、掘り込み領域62の端部から[11−20]方向と平行な方向で100μm離れた位置における窒化物半導体成長層4を形成した後のp層の層厚(設計値:0.67μm)を、数十箇所において測定し、その標準偏差を求めたところ0.1μmとなり、非常に大きなばらつきを示した。このp層厚は窒化物半導体レーザ素子の特性に大きく影響する。
又、窒化物半導体レーザ素子を作製する際、電流狭窄構造であるリッジ構造の作製において、ストライプ状のリッジ部を残し、ICP(Inductively Coupled Plasma)装置などを用いたドライエッチング技術を用いてエッチングされる。よって、上述したようにエッチング前のp層の層厚がウエーハの面内位置によって異なれば、窒化物半導体レーザ素子に大きな影響を与えるエッチング後のp層の残り層厚も、ウエーハ面内で大きく異なることとなる。これらのことが原因で、窒化物半導体レーザ素子同士の間で層厚が異なるばかりか、一つの窒化物半導体レーザ素子内においても、p層の残り層厚がほとんど無い部分と、大幅に残ってしまう部分が混在することになる。このp層の残り層厚がばらつくと、上述したようにFFP、及び、閾値電流値、スロープ効率などの窒化物半導体レーザ素子の諸特性のばらつきが大きくなる。
このようにウエーハ面内で大きな層厚分布が存在するのは、加工基板61の丘63の上にエピタキシャル成長する膜の膜厚が、掘り込み領域62の影響で変化し、そのウエーハ面内で均一性が悪化したためであると考えられる。
即ち、図8のように、掘り込み領域62が形成された加工基板61に対して、エピタキシャル成長を開始させると、成長の始めた初期段階では、図8(a)のように、掘り込み領域62の底面部84及び側面部86上に成長した窒化物半導体薄膜から成る掘り込み領域内成長部82が、掘り込み領域62の部分の一部しか埋めていない。このとき、丘63の上面部83表面で成長する窒化物半導体薄膜から成る上面成長部81は、窒化物半導体薄膜表面が平坦な状態で成長が進行する。
上述の図8(a)の状態から、窒化物半導体薄膜のエピタキシャル成長が進行していくと、図8(b)のように、掘り込み領域62の底面部84及び側面部86上に成長した窒化物半導体薄膜から成る掘り込み領域内成長部82が掘り込み領域62をほとんど埋めてしまい、丘63の上面部83表面で成長した窒化物半導体薄膜から成る上面成長部81と成長部85を介して連結した状態になる。このような状態になると、丘63の上面部83上で成長した窒化物半導体薄膜表面に付着した原料となる原子・分子(Ga原子など)が、熱エネルギーによりマイグレーションなどをおこし、成長部85や掘り込み領域内成長部82に移動してしまう。逆に、掘り込み領域内成長部82に付着した窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子が成長部85を介して丘63の上面部83上の上面成長部81にマイグレーションして、移動する。このようなマイグレーションによる原子・分子の移動はウエーハ面内で非常に不均一に発生し、又、その移動距離もウエーハ面内で異なる値をとる。その結果、図8(b)のように、上面成長部81表面の平坦性が悪化する。
このような窒化物半導体薄膜の平坦性は、オフ角度のウエーハ面内分布や基板曲率のウエーハ面内分布などの窒化物半導体基板自体の不均一性、またはエピタキシャル成長速度の基板面内の不均一性、掘り込みプロセスの基板面内の不均一性などが影響して、[1−100]方向においても悪化する。即ち、掘り込み領域62が埋まるまでの時間が[1−100]方向によって異なり、早く埋まってしまった部分は、上述したように丘63の上面部83上の上面成長部81からマイグレーションなどにより、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子が成長部85又は掘り込み領域内成長部82に移動するとともに、逆に、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子が掘り込み領域内成長部82から丘63の上面部83上の上面成長部81へのマイグレーションなどにより移動する。このような窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子のマイグレーションによる掘り込み領域62への移動、及び、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子のマイグレーションによる掘り込み領域62からの移動は、同様に発生するのではなく、非常に不均一に発生する。そして、埋め込み領域62が早く埋まってしまった部分付近では、上述した窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子のマイグレーションなどによる移動する時間が長く、結果、丘63の上面部83上の上面成長部81における表面平坦性が、より悪化する。
一方、掘り込み領域62が埋まりきらなかった部分では、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子が丘63の上面部83上の上面成長部81から掘り込み領域内成長部82内に移動しない、もしくは移動しても窒化物半導体薄膜を形成する時間が短い。又、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子が掘り込み領域内成長部82から丘63の上面部83上の上面成長部81へ移動しない、もしくは移動しても窒化物半導体薄膜を形成する時間が短い。この結果、掘り込み領域62が埋もりきらなかった部分付近では、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子のマイグレーションなどによる表面平坦性の悪化の進行具合が、掘り込み領域62が早く埋まってしまった部分付近と異なることとなり、結果、ウエーハ全体としてみると、丘63の上面成長部81の表面平坦性が悪化することとなる。
上述したようなことが原因となり、丘63の上面部83上の上面成長部81の層厚がウエーハ面内で異なり、結果、窒化物半導体薄膜表面の平坦性が悪化することになる。即ち、平坦性を向上させるには、丘63の上面部83上の上面成長部81と掘り込み領域内成長部82との間において、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子がマイグレーションなどによる移動で行き来して窒化物半導体薄膜を形成することを、抑制する必要がある。
このような問題を鑑みて、本発明は、少なくとも表面が窒化物半導体から構成される窒化物半導体基板上に、複数の窒化物半導体薄膜から成る窒化物半導体成長層を積層し窒化物半導体レーザ素子などの窒化物半導体発光素子を作製するに際し、クラックの発生を防止し、併せて、丘表面の上面成長部と掘り込み領域との間において、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子がマイグレーションなどによる移動で行き来して窒化物半導体薄膜を形成することを抑制することにより、各窒化物半導体薄膜の各膜厚が均一で、表面平坦性が良好な成長面を得ることで、諸特性にばらつきが無く、歩留まり良く作製できる窒化物半導体発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、少なくとも表面が窒化物半導体で構成される窒化物半導体基板表面に少なくとも1つの凹部から成る掘り込み領域と掘り込まれていない領域である丘部とを備える加工基板の、前記掘り込み領域及び前記丘部表面の双方に、少なくとも1種類以上の窒化物半導体薄膜が積層される窒化物半導体層を形成する、窒化物半導体発光素子の製造方法であって、前記凹部から成る掘り込み領域は、開口幅が5μm以上50μm以下、中央部における深さが2μm以上20μm以下であり、前記加工基板上に形成される前記窒化物半導体成長層は、前記凹部から成る掘り込み領域内において、掘り込み領域底面に底面凸状成長部を有し、掘り込み領域側面に側面成長部を有するように成長することにより、前記窒化物半導体成長層表面に、前記凹部の底面部と側面部の境界部分で窪みを有して形成されることを特徴とする。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記加工基板上に積層される前記窒化物半導体成長層は、前記丘部の両端部に突起部を有して形成されるものとしても構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第1ステップにおいて、前記掘り込み領域を構成する前記凹部の底面部の両端部双方に、前記凹部の底面部の中央部より深く掘り込まれている底面窪みを形成するものとしても構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、少なくとも1種類の前記窒化物半導体薄膜を成膜するときの前記加工基板の表面温度を1020℃以上1100℃以下とするものとしても構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、少なくとも1種類の前記窒化物半導体薄膜を成膜する際、III族である原子を含む原料の単位時間当たり供給される流量のモル数に対する、V族である原子を含む原料の単位時間当り供給される流量のモル数の比を500以上2000以下とするものとしても構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜がGaNであるものとしても構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜をGaNとし、前記加工基板に前記GaNを成膜するときの前記加工基板の表面温度を1020℃以上1100℃以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜をGaNとし、前記GaNを成膜する際、III族である原子を含む原料の単位時間当たり供給される流量のモル数に対する、V族である原子を含む原料の単位時間当り供給される流量のモル数の比を500以上2000以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜がAlGaNであるものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜をAlGaNとし、前記加工基板に前記AlGaNを成膜するときの前記加工基板の表面温度を1020℃以上1100℃以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜をAlGaNとし、前記AlGaNを成膜する際、III族である原子を含む原料の単位時間当たり供給される流量のモル数に対する、V族である原子を含む原料の単位時間当り供給される流量のモル数の比を500以上2000以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記窒化物半導体成長層において、AlGaNが前記加工基板表面から1.0μm以下の位置に形成されるものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜から前記AlGaNまでを前記加工基板上に成膜するときの前記加工基板の表面温度を1020℃以上1100℃以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第2ステップにおいて、前記加工基板に接する前記窒化物半導体薄膜から前記AlGaNまでを前記加工基板上に成膜する際、III族である原子を含む原料の単位時間当たり供給される流量のモル数に対する、V族である原子を含む原料の単位時間当り供給される流量のモル数の比を500以上2000以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第1ステップにおいて、前記凹部から成る前記掘り込み領域を形成する際、前記凹部の開口幅を5μm以上50μm以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第1ステップにおいて、前記凹部から成る前記掘り込み領域を形成する際、前記凹部の前記底面部の前記中央部における深さを2μm以上20μm以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第1ステップにおいて、前記凹部から成る前記掘り込み領域を形成する際、隣接する前記掘り込み領域に挟まれた前記丘部の幅を20μm以上1000μm以下とするものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第1ステップと前記第2ステップを備えるとともに、前記丘部上に積層された前記窒化物半導体成長層の表面に発光領域を形成する第3ステップを備えるものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第3ステップにおいて、前記発光領域としてレーザ導波路を形成するものとして構わない。
又、このような窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記第3ステップにおいて、前記レーザ導波路の中心部と前記掘り込み領域の端部との間隔を20μm以上500μm以下とするものとして構わない。
更に、本発明の窒化物半導体発光素子は、上述したいずれかに記載の前記窒化物半導体発光素子の製造方法によって製造されることを特徴とする。
本発明によると、掘り込み領域を構成する凹部の底面部と側面部の境界部分に窪みを形成するとともに、隣接する掘り込み領域に挟まれた丘部の両端部に突起部を形成することによって、加工基板に窒化物半導体薄膜を成膜する際、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子が掘り込み領域と丘部との間で移動して行き来することが抑制され、結果、丘部上に平坦性が良好な窒化物半導体成長層を形成できる。
まず、本明細書において、いくつかの用語の意味を予め明らかにしておく。まず、「掘り込み領域」とは窒化物半導体基板又は異種基板表面でストライプ状に加工された凹部を意味する。又、掘り込み領域の断面形状は、必ずしも矩形状である必要はなく、台形の形状などでも構わなく、凹凸の段差を生じさせるものであれば良い。又、掘り込み領域は必ずしも単独の凹部でなくても、複数の凹部と当該凹部に挟まれた狭い平坦部からなるものとしても構わない。
又、「丘」は、同様にストライプ状に加工された凸部である。掘り込み領域が一方向に延在してストライプ状に形成されると丘も1方向に沿って加工されたストライプ配列となるが、掘り込み領域又は丘が互いに交差し合った桝目配列であっても構わない。また、一つの基板上に異なる形状の掘り込み領域、掘り込み深さ、幅が異なる掘り込み領域が存在していても良い。また、一つの基板上で掘り込み領域が形成される周期が異なっても構わない。
「窒化物半導体基板」は、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)から成る基板を意味する。ただし、窒化物半導体基板の窒素元素のうちで、その約10%以下がAs、P、またはSbの元素で置換されても構わない(但し、基板の六方晶系が維持されている。)。又、窒化物半導体基板中に、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg、またはBeがドーピングされても構わない。更に、n型窒化物半導体としては、これらのドーピング材料のうちでも、Si、O、およびClが特に好ましい。窒化物半導体基板の主面方位としては、C面{0001}、A面{11−20}、R面{1−102}、M面{1−100}、または{1−101}面が好ましく用いられ得る。また、これらの結晶面方位から2°以内のオフ角度を有する基板主面であれば、その表面モホロジーが良好であり得る。
<第1の実施形態>
次に、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の各実施形態において、窒化物半導体発光素子の一例として窒化物半導体レーザの説明を行うが、本発明は他の窒化物半導体発光素子にも適用可能である。図1は、本実施形態における窒化物半導体レーザ素子の概略断面図である。図2(b)は、本発明の実施形態の、窒化物半導体薄膜を成長させる前の加工基板1の概略断面図であり、図2(a)は図2(b)の上面図である。図1及び図2において、面方位も併せて表示する。図2に示した加工基板1上に、例えば、図7のような構成の窒化物半導体成長層4を積層させるなどして、図1の窒化物半導体レーザ素子を得る。
本実施形態の窒化物半導体レーザ素子では、凹部となる掘り込み領域2を備えた窒化物半導体基板より成る加工基板1に窒化物半導体成長層4を成長させることで作製される。このような窒化物半導体レーザ素子において、まず、加工基板1の作製方法について、図面を参照して説明する。尚、本実施形態では加工基板1としてn型GaN基板を用いるものとする。まず、n型GaN基板の全面に膜厚1μmのSiO2などをスパッタ蒸着し、引き続き、一般的なフォトリソグラフィ工程において、2本の幅3μmの開口部に挟まれた幅24μmのストライプ形状のフォトレジストパターンを、当該フォトレジストパターンのストライプ中心部と隣接する幅24μmのフォトレジストパターンのストライプ中心部との[11−20]方向と平行な方向での間隔(以下、周期)が300μmとなるように、[1−100]方向に形成する。次に、RIE(Reactive Ion Etching)技術などのドライエッチング技術を用い、SiO2及びn型GaN基板をエッチングすることで、掘り込み深さAを6μm、開口幅Bを3μmとする2本の溝を形成する。この2本の溝は後述する底面窪み9に相当する。又、このとき同時に、この2本の溝に挟まれた幅24μmの狭平坦部が形成されている。更に、ウエーハ上に残存するフォトレジストをアッシング処理を行うなどして除去し、上述した幅24μmの狭平坦部を開口部とするストライプ状のフォトレジストパターンを、周期300μmで、[1−100]方向に形成する。更に、RIE(Reactive Ion Etching)技術などのドライエッチング技術を用い、SiO2及びn型GaN基板をエッチングすることで、掘り込み深さCを5μm、開口幅Dを24μmとする溝を形成する。その後、エッチャントとしてHF(フッ酸)などを用いてSiO2を除去し、図2に示すような、その表面に窒化物半導体成長層4が積層される前の加工基板1を得る。
このようにして形成された加工基板1が備える掘り込み領域2は、底面の中心部に凸状の[11−20]方向と平行な方向の幅が24μmの底面凸部8が形成され、その両脇双方には[11−20]方向と平行な方向の幅が3μmの底面窪み9が形成されており、底面凸部8の表面と底面窪み9との間には1μmの段差が形成されている。又、掘り込み領域2の開口幅Eは30μmであるとともに、丘3の表面から[11−20]方向と平行な方向に伸張した線と掘り込み領域2内に底面凸部8表面との間隔(深さC)は5μmであり、同じく丘3の表面から[11−20]方向と平行な方向に伸張した線と掘り込み領域2内に底面窪み9表面との間隔(深さA)は6μmである。
尚、上述したSiO2の蒸着方法はスパッタ蒸着に限定されるものではなく、電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法などの方法を用いても構わない。又、掘り込み領域2についても、その周期は上述の300μmに限定されるものではなく、作製する窒化物半導体レーザ素子の幅によって、変化させても構わない。
又、このとき隣接する掘り込み領域2に挟まれた丘3の[11−20]方向と平行な方向の幅については、1000μmより大きいと窒化物半導体成長層4内でクラックが発生することを防止する効果が失われる。又、丘3の[11−20]方向と平行な方向の幅が20μmより小さいと、丘3上に窒化物半導体レーザ素子を作製することが困難となる。よって、丘3の[11−20]方向と平行な方向の幅は、20μm以上1000μm以下が好ましい。
又、掘り込み領域2の開口幅Eについては、5μm未満であると加工基板1に窒化物半導体成長層4を形成する際、掘り込み領域2が窒化物半導体成長層4で容易に埋まってしまい、窒化物半導体成長層4に内包する歪みが開放されず、好ましくない。又、開口幅Eが50μmより大きいと、窒化物半導体レーザ素子は掘り込み領域2内ではなく丘3上に形成されるため(図1参照)、一枚のウエーハから作製される窒化物半導体レーザ素子の数が少なくなってしまい、好ましくない。よって、掘り込み領域2の開口幅Eは、5μm以上50μm以下が好ましい。
又、掘り込み領域2の深さCについては、2μm未満であると加工基板1に窒化物半導体成長層4を形成する際、掘り込み領域2が窒化物半導体成長層4で容易に埋まってしまい、窒化物半導体成長層4に内包する歪みが開放されず、好ましくない。又、掘り込み領域2の深さCが20μmより大きいと、窒化物半導体レーザ素子を作製する際、後工程のチップ分割工程において、ウエーハの厚みが100μm程度になるまで研磨するため、このときウエーハが割れることがある。よって、掘り込み領域2の深さCは、2μm以上20μm以下が好ましく、更に好ましくは、4μm以上12μm以下である。
又、加工基板1に掘り込み領域2を作製する際のエッチング方法として、ドライエッチング技術、もしくはウエットエッチング技術を用いて構わない。又、加工基板1は、上述のようにn型GaN基板表面に直接、掘り込み領域2を掘り込むことで形成しても構わないし、n型GaN基板の表面に、GaN、InGaN、AlGaN、InAlGaNなどの窒化物半導体薄膜を成長させた後に、掘り込むことで形成しても構わない。
上述のようにして得られた加工基板1上に、III族原子の材料としてTMAl(トリメチルアルミニウム)、TMIn(トリメチルインジウム)、TMGa(トリメチルガリウム)などを用い、又、V族原子の材料としてNH3(アンモニア)を用いて、MOCVD法などの周知の技術を適宜適用し、例えば、図7で示したような窒化物半導体成長層4をエピタキシャル成長させることで、図1に示された窒化物半導体レーザ素子を作製する。
このような掘り込み領域2と丘3を備える加工基板1に窒化物半導体成長層4を積層するために、窒化物半導体薄膜を成長させた場合のウエーハの概略断面図を図3に示す。図3に示すように、窒化物半導体薄膜が、丘3の上面部301の中央部には上面成長部310として、丘3の上面部301の両端部で掘り込み領域2の近傍には突起部305として、掘り込み領域2内の側面部302上には側面成長部311として、掘り込み領域2内の底面凸部8及び底面窪み9上には底面凸状成長部306として、それぞれ成長している。又、突起部305と側面成長部311は成長部303を介して結合している。又、更に、掘り込み領域2内において、側面成長部311と底面凸状成長部306との間には窪み307が形成されている。
このように掘り込み領域2内の底面部において段差を形成することで、掘り込み領域2内の底面部において凸形状の底面凸状成長部306が形成され、側面成長部311との間に窪み307が形成される。又、このとき、丘3の上面部301の両端部で掘り込み領域2近傍において、突起部305が形成される。このような形態で結晶成長すると、結果的に、窪み307に窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子がトラップされ、掘り込み領域2内に付着した窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子の実効的なマーグレーション長が短くなる。又、実効的なマイグレーション長が短くなると、結果的に、窪み307は維持される。即ち、このような形態の成長モードの場合、掘り込み領域2内に付着した窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子の掘り込み領域2内から丘3の上面部301上の上面成長部310へのマイグレーションなどによる移動が抑制される。又、丘3の上面部301の両端部で掘り込み領域2近傍において、突起部305が形成されることにより、掘り込み領域2内の成長部303、側面成長部311及び底面凸状成長部306と、丘3の上面部301上の上面成長部310との間で、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子のマイグレーションによって移動し、行き来することが抑制される。よって、丘3の上面部301上の上面成長部310に付着した窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子は上面成長部310上でのみマイグレーションすることとなり、結果、上面成長部310の表面の平坦性が向上し、均一な膜厚の窒化物半導体薄膜が形成される。
このように底面部に底面凸部8及び底面窪み9が形成された掘り込み領域2を備えた加工基板1上に窒化物半導体薄膜を成長させ、側面成長部311と底面凸状成長部306との間に窪み307が形成されるとともに、丘3の上面部301の両端部で掘り込み領域2近傍となる領域に突起部305が形成されることで、丘3の上面部301上の上面成長部310において、良好な表面平坦性が得られる。この表面平坦性が良好な上面成長部310上に、複数の窒化物半導体薄膜を順次積層し、例えば、図7で示したような窒化物半導体成長層4をエピタキシャル成長させることで、図1に示された窒化物半導体レーザ素子を作製する。又、窒化物半導体成長層4は、MOCVD法などの周知の技術を適宜用いることで形成されるので、その詳細な説明は省略する。
又、図1に示すように、上述の掘り込み領域2を備える加工基板1の丘3上に形成された窒化物半導体成長層4の表面にはレーザ光導波路であるレーザストライプ12と、レーザストライプ12を挟むように設置されて、電流狭窄を目的としたSiO2膜10とが形成される。そして、このレーザストライプ12及びSiO2膜10それぞれの表面には、p側電極11が形成され、又、加工基板1の裏面にはn側電極13が形成される。又、掘り込み領域2内の底面部に形成された底面窪み9及び底面凸部8上には、凸形状の底面凸状成長部6が形成され、掘り込み領域2の側面部との間に窪み7が形成されている。又、丘3の両端部で掘り込み領域2の近傍において、凸形状の突起部5が形成されている。
このような、リッジ構造を備えた窒化物半導体レーザ素子は、加工基板1上に窒化物半導体成長層4を積層した後、周知の技術を適宜用いて作製されるので、その詳細な作製方法などの説明は省略する。そして、この窒化物半導体成長層4が積層されることで、加工基板1(ウエーハ)上に構成された複数の窒化物半導体レーザ素子を、個々の素子に分割する。このとき、まず、加工基板1の一部を除去し、ウエーハの厚みを100μm程度まで薄くする。その後、n側電極13として加工基板1の裏面側に、加工基板1に近い側から、Hf/Alを形成する。引き続いて、ウエーハを[11−20]方向(図1参照)と平行な方向に沿って劈開することで共振器端面を形成し、複数の窒化物半導体レーザ素子を備えたバー状のものにする。この共振器端面にはSiO2及びTiO2から成る誘電体膜を電子ビーム蒸着法などを用いて交互に蒸着し、誘電体多層反射膜を形成する。尚、この誘電体多層膜を形成する誘電体材料としては、SiO2/TiO2に限定されるものではなく、例えば、SiO2/Al2O3などを用いても構わない。又、n側電極13に用いる材料は上述の材料に限定されるものではなく、Hf/Al/Mo/Au、Hf/Al/Pt/Au、Hf/Al/W/Au、Hf/Au、Hf/Mo/Au、などを用いても構わない。
又、図1のような窒化物半導体レーザ素子において、p側電極11は、窒化物半導体成長層4に近い側から、Mo/Au、又は、Mo/Pt/Au、もしくはAu単層のみ、などから形成される。また、本実施形態では、電流狭窄のための絶縁膜としてSiO2膜10を用いているが、絶縁膜材料として、ZrO、TiO2などを用いても構わない。
このようにして得られたバーをチップ分割することで個々の窒化物半導体レーザ素子を得る。この分割工程は、周知の技術を用いて実施されるので、その詳細な説明は省略する。
上述のようにして図1の窒化物半導体レーザ素子が得られる。ここで、レーザストライプ12の中央部と掘り込み領域2の端部との距離をdとする。本実施形態ではd=40μmとする。尚、後述するように、このdの値は20μm以上が好ましい。
このようにして作製された窒化物半導体レーザ素子において、クラックの発生は見られなかった。又、窒化物半導体成長層4表面の平坦性を評価した。即ち、掘り込み領域2の端部から[11−20]方向と平行な方向で100μm離れた位置において、窒化物半導体成長層4を形成した後、レーザストライプ12を形成する前のp層の層厚(設計値:0.67μm)を、数十箇所において測定し、その標準偏差を求めたところ0.008μmとなり、従来技術(0.1μm)と比較して非常にばらつきが小さく、良好な結果となった。尚、このp層厚は窒化物半導体レーザ素子の特性に大きく影響する。
又、本実施形態における複数の窒化物半導体レーザ素子を複数作製し、FFP(Far Field Pattern)の水平方向の角度のばらつきを評価した。目標角度9°に対して、±1.5°以内の窒化物半導体レーザ素子を良品としたところ、作製した窒化物半導体レーザ素子の内、規格を満たしている窒化物半導体レーザ素子の割合は、95%と非常に高い歩留まり結果となった。
即ち、上述のようにして、底面部に底面凸部8及び底面窪み9が形成された掘り込み領域2を備えた加工基板1上に窒化物半導体薄膜を成長させて窒化物半導体成長層4を形成することで、p層厚のばらつきが抑えられ窒化物半導体薄膜の平坦性が良好で、更に、クラックの発生が抑えられた窒化物半導体レーザ素子が歩留まり良く作製できた。
尚、窒化物半導体成長層4の表面にレーザストライプ12を形成するとき、レーザストライプ12の中央部と掘り込み領域2の端部との距離をdが20μmより小さいと、窒化物半導体成長層4を構成する各窒化物半導体薄膜の膜厚がばらつくため、作製した窒化物半導体レーザ素子の特性がばらつき、高い歩留まりが得られなかった。よって、dの値は、20μm以上が好ましく、更に好ましくは30μm以上である。又、dの値の上限については、dの値が500μmより大きくなると、窒化物半導体レーザ素子は丘3の上に作製されるので、一枚のウエーハから作製される窒化物半導体レーザの数が少なくなり好ましくない。よって、dの値は500μm以下が好ましい。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。図4は、本実施形態において、加工基板400上に窒化物半導体薄膜を成長させたウエーハの一部の概略断面図である。第1の実施形態と異なり、掘り込み領域402の底面部に底面凸部8及び底面窪み9(図1参照)が形成されておらず、従来技術と同様な、断面形状が矩形の掘り込み領域402を備える加工基板400上に窒化物半導体薄膜を成長させている。又、図4には面方位も併せて表示する。又、第1の実施形態と同様、加工基板400に複数の窒化物半導体薄膜からなる窒化物半導体成長層4を形成することで、窒化物半導体レーザ素子が作製される。
まず、窒化物半導体薄膜を成長させる前の加工基板400の形成方法について、図面を参照して説明する。尚、本実施形態では加工基板400としてn型GaN基板を用いるものとする。
まず、n型GaN基板の全面に膜厚1μmのSiO2などをスパッタ蒸着してSiO2膜を形成し、引き続き、一般的なフォトリソグラフィ工程において、ストライプ形状のフォトレジストパターンを、レジスト開口部の幅30μm、ストライプ中心部と隣接するストライプ中心部との[11−20]方向と平行な方向での間隔(以下、周期)が300μmとなるように、[1−100]方向に形成する。次に、RIE(Reactive Ion Etching)技術などのドライエッチング技術を用い、SiO2膜及びn型GaN基板をエッチングすることで、掘り込み深さYを5μm、開口幅Xを30μmとする掘り込み領域402を形成する。その後、エッチャントとしてHF(フッ酸)などを用いてSiO2を除去することで、図5に示すような、その表面に窒化物半導体薄膜を成長させる前の、掘り込み領域402と丘403を備えた加工基板400を得る。
尚、本実施形態ではSiO2を蒸着してSiO2膜をn型GaN基板表面に形成するものとするが、これに限定されるものではなく、他の誘電体膜などをn型GaN基板表面に形成するものとして構わない。又、上述したSiO2膜の形成方法はスパッタ蒸着に限定されるものではなく、電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法などの方法を用いても構わない。又、レジストパターンについても、その周期は上述の300μmに限定されるものではなく、作製する窒化物半導体レーザ素子の幅によって、変化させても構わない。更に、本実施形態では、掘り込み領域402を形成するのにドライエッチング技術を用いるものとしたが、この方法に限定されるものではなく、ウエットエッチング技術などを用いても構わない。
又、このとき隣接する掘り込み領域402に挟まれた丘403の[11−20]方向と平行な方向の幅については、1000μmより大きいと、窒化物半導体成長層4内でクラックが発生することを防止する効果が失われる。又、丘403の[11−20]方向と平行な方向の幅が20μmより小さいと、丘403上に窒化物半導体レーザ素子を作製することが困難となる。よって、丘403の[11−20]方向と平行な方向の幅は、20μm以上1000μm以下が好ましい。
又、掘り込み領域402の開口幅Xについては、5μm未満であると加工基板400に窒化物半導体成長層4を形成する際、掘り込み領域402が窒化物半導体成長層4で容易に埋まってしまい、窒化物半導体成長層4に内包する歪みが開放されず、好ましくない。又、開口幅Xが50μmより大きいと、窒化物半導体レーザ素子は掘り込み領域402内ではなく丘403上に形成されるため、一枚のウエーハから作製される窒化物半導体レーザ素子の数が少なくなってしまい、好ましくない。よって、掘り込み領域402の開口幅Xは、5μm以上50μm以下が好ましい。
又、掘り込み領域402の深さYについては、2μm未満であると加工基板400に窒化物半導体成長層4を形成する際、掘り込み領域402が窒化物半導体成長層4で容易に埋まってしまい、窒化物半導体成長層4に内包する歪みが開放されず、好ましくない。又、掘り込み領域402の深さYが20μmより大きいと、窒化物半導体レーザ素子を作製する際、後工程のチップ分割工程において、ウエーハの厚みが100μm程度になるまで研磨するため、このときウエーハが割れることがある。よって、掘り込み領域402の深さYは、2μm以上20μm以下が好ましく、更に好ましくは、4μm以上12μm以下である。
又、このようにして形成される加工基板400は、上述のようにn型GaN基板表面に直接、掘り込み領域402を掘り込むことで形成しても構わないし、n型GaN基板やn型GaN基板以外の窒化物半導体基板、又は、異種基板の表面に、GaN、InGaN、AlGaN、InAlGaNなどの窒化物半導体薄膜を成長させた後に、掘り込むことで形成しても構わない。
このような掘り込み領域402を備えた加工基板400に、窒化物半導体薄膜を成長させた場合のウエーハの一部の概略断面図を図4に示す。図4に示すように、窒化物半導体薄膜が、丘403の上面部401の中央部には上面成長部406として、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402の近傍には突起部407として、掘り込み領域402内の側面部404上には側面成長部409として、底面部405上には底面凸状成長部410として、それぞれ成長している。又、突起部407と側面成長部409は成長部408を介して結合している。又、更に、掘り込み領域402内において、側面成長部409と底面凸状成長部410との間には窪み411が形成されている。
図4に示すように、本実施形態では掘り込み領域402の底面部に底面凸部8及び底面窪み9が形成されておらず、掘り込み領域402内において、底面凸状成長部410と側面成長部409との間に窪み411が形成されるとともに、又、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において突起部407が形成されている。このような形態の成長モードは、加工基板400に窒化物半導体薄膜を成長させる際、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子のマーグレーション長が短くなるような条件で成膜を行えば、実現される。窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子のマーグレーション長が短くなると第1の実施形態の場合と同様に、掘り込み領域402内において、側面成長部409と底面凸状成長部410との間に窪み411が形成、維持される。又、このとき、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において、突起部407が形成される。
このような形態で結晶成長すると、第1の実施形態と同様に、掘り込み領域402内に付着した窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子が窪み411にトラップされ、掘り込み領域402内から丘403の上面部401上の上面成長部406へのマイグレーションなどによる移動が抑制される。又、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において、突起部407が形成されることにより、掘り込み領域402内の成長部408、側面成長部409及び底面凸状成長部410と、丘403の上面部401上の上面成長部406との間で、窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子がマイグレーションによって移動して行き来することが抑制される。よって、丘403の上面部401上の上面成長部406に付着した窒化物半導体薄膜の原料となる原子・分子は上面成長部406上でのみマイグレーションすることとなり、結果、上面成長部406の表面の平坦性が向上し、均一な膜厚の窒化物半導体薄膜が形成される。
このような成長モードを実現する窒化物半導体薄膜の成長条件について、以下に説明する。掘り込み領域402を備えた加工基板400に、例えば、GaNを成長させる際、加工基板400を設置する成長炉内のサセプタの温度、原料のV/III比(III族であるGaの原料となるTMGaの単位時間当たり供給される流量のモル数に対する、V族であるNの原料となるNH3の単位時間当たり供給されるモル数の比)などを制御することで、上述のような成長モードが実現される。尚、サセプタの温度は加工基板400の表面温度とほぼ等しくなる。
通常、加工基板400上にn型GaN層701(図7参照)を成長させる際、加工基板400(ウエーハ)を載せるサセプタ温度は1125℃であり、この場合、n型GaNの原料となる原子・分子がマイグレーションし、掘り込み領域402内と、丘403の上面部401上の上面成長部406との間で移動して行き来する。その結果、丘403の上面部401上の上面成長部406において、良好な表面平坦性を得ることができない。そこで、サセプタ温度を1075℃と通常のサセプタ温度より50℃低い温度に設定し、その温度でn型GaNを成長させた場合に、図4に示すように、掘り込み領域402内において、底面凸状成長部410と側面成長部409との間に窪み411が形成されるとともに、又、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において突起部407が形成された。これは、サセプタ温度を下げることで、加工基板400表面の温度が低下し、結果、n型GaNの原料となる原子・分子(Ga原子やN原子など)のマイグレーションが抑制されたためと考えられる。
又、上述した成長モードを実現するには、サセプタ温度は1075℃に限定されるものではない。このような成長モードを実現するには、サセプタ温度は1020℃以上1100℃以下が好ましく、さらに好ましくは、1030℃以上1080℃以下である。この際、V/III比は500以上2000以下が好ましいことが分かっており、さらに好ましくは800以上1300以下である。このような成長条件で、且つ、成膜速度を3〜8μm/h程度に調節すると、掘り込み領域402内において、底面凸状成長部410と側面成長部409との間に窪み411が形成されるとともに、又、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において突起部407が形成されるような成長モードが実現された。
上述したように、加工基板400上に複数の窒化物半導体薄膜からなる窒化物半導体成長層4(図7参照)を積層する際、n型GaN層701を成膜することで掘り込み領域402内において窪み411が形成されるとともに、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において突起部407を形成するには、まず、n型GaN層701を上述した条件(サセプタ温度1075℃など)で成膜する。引き続き、同様な条件でn型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層702〜n型GaNガイド層705を成膜する。多重量子井戸活性層706については、サセプタ温度が1075℃ではInの蒸気圧が高くなりInが膜中に取り込まれないため、サセプタ温度を700℃〜800℃で成膜する。また更に、p型Al0.3Ga0.7N蒸発防止層707〜p型GaNコンタクト層710のp層はサセプタ温度1030℃程度で成膜する。尚、n型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層702〜n型GaNガイド層705を成膜する条件は、n型GaN層701を成膜する条件と同じでも構わないし、同じでなくとも構わない。
又、このような成長モードにおいて、加工基板400表面に直接形成する膜は、n型GaNでなく、n型AlGaNでも構わない。即ち、上述したn型GaNを成膜する条件と同様な条件でn型AlGaNを加工基板400表面に直接形成することで、掘り込み領域402内において窪み411が形成されるとともに、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において突起部407を形成しても構わない。又、n型AlGaNの形成は、加工基板400表面に直接成膜する場合だけではなく、加工基板400表面から1μm以下の位置において形成するのが好ましく、更に好ましくは、加工基板400表面から0.5μm以下の位置に形成することで、掘り込み領域402内において窪み411が形成されるとともに、丘403の上面部401の両端部で掘り込み領域402近傍において突起部407が形成される。
このように上述した成長モードで、加工基板400上に複数の窒化物半導体薄膜からなる窒化物半導体成長層4を積層すると、丘403上において良好な表面平坦性をもつ成長面を得ることができる。第1の実施形態と同様に、この表面平坦性が良好な部分において、窒化物半導体レーザ素子が作製される。