以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)について図面を参照しながら説明する。
〈第1の実施の形態〉
[GaN系ショットキーバリアダイオード]
第1の実施の形態によるGaN系ショットキーバリアダイオードを図1に示す。
図1に示すように、このGaN系ショットキーバリアダイオードにおいては、絶縁基板11上にアクセス層12および活性層13が順次積層されている。必要に応じて、絶縁基板11上に、絶縁基板11とアクセス層12および活性層13との間の格子定数の相違による歪みの影響を緩和するためのバッファ層が積層され、その上にアクセス層12および活性層13が順次積層される。アクセス層12の上部および活性層13はメサ形状を有する。活性層13の平面形状は特に限定されないが、例えば、円形、多角形(正方形など)、楕円あるいはそれらを変形した形状である。活性層13上に所定の平面形状を有するアノード電極14が設けられ、活性層13とショットキー接触している。活性層13の外部のアクセス層12上に活性層13を囲むようにカソード電極15が設けられ、アクセス層12とオーミック接触している。
絶縁基板11は、特に限定されず、必要に応じて選ぶことができるが、例えば、サファイア基板、半絶縁性SiC基板、半絶縁性GaAs基板などである。
バッファ層は、絶縁基板11、アクセス層12および活性層13の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、低温AlNバッファ層や低温GaNバッファ層などである。
アクセス層12および活性層13は、n型GaN系半導体(GaN、GaInN、AlGaN、AlGaInNなど)からなる。より具体的には、アクセス層12は、アクセス抵抗の低減を図るため、好適には、ドナー濃度が十分に高い低抵抗のn+ 型GaN系半導体、例えばn+ 型GaNからなる。活性層13は、アノード電極14がショットキー接触することができるものであり、典型的にはn型GaN系半導体、例えばn型GaNからなり、そのドナー濃度は所望のダイオード特性によって決まる。活性層13の大きさ(最大寸法)は必要に応じて選ばれるが、例えば1μm以上100μm以下である。アクセス層12および活性層13の厚さは必要に応じて選ばれる。
アノード電極14は、活性層13上にこの活性層13と接触して設けられたTiN層と、このTiN層上にこのTiN層と接触して設けられた、活性層13とショットキー接触可能な金属、具体的には、例えばNi、Pd、PtおよびIrからなる群より選ばれた少なくとも一種類の金属からなる密着層と、この密着層上にこの密着層と接触して設けられた、この密着層を構成する金属よりも抵抗率が小さい金属からなる抵抗低減用金属層とからなる。TiN層の厚さは、例えば、1原子層の厚さ以上100nm以下、典型的には5nm以上20nm以下である。密着層の厚さは、例えば、1nm以上100nm以下、典型的には1nm以上20nm以下である。抵抗低減用金属層の厚さは、アノード電極14全体の抵抗が十分に小さくなるように選ばれ、具体的には、例えば、0.3μm以上3μm以下、典型的には0.5μm以上2μm以下である。図2にこのアノード電極14の具体的な構成例を示す。図2に示すように、このアノード電極14は、下から順にTiN層14a、密着層14b、抵抗低減用金属層14cおよび抵抗低減用金属層14dからなる。図3にこのアノード電極14の他の具体的な構成例を示す。図3に示すように、このアノード電極14は、下から順にTiN層14a、密着層14b、抵抗低減用金属層14cおよび抵抗低減用金属層14dからなるが、TiN層14a、密着層14b、抵抗低減用金属層14cは翼状に形成され、その上に抵抗低減用金属層14dが形成されている結果、全体としてT型形状を有する。アノード電極14の大きさ(最大寸法)は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、1μm以上100μm以下である。
カソード電極15は、アクセス層12とオーミック接触することができるオーミック金属からなる。オーミック金属は、アクセス層12を構成するGaN系半導体に応じて、従来公知のものの中から適宜選ばれる。カソード電極15は、アノード電極14を囲むように設けられる。
[GaN系ショットキーバリアダイオードの製造方法]
このGaN系ショットキーバリアダイオードの製造方法について説明する。
まず、所定の成長基板上にアクセス層12および活性層13を順次エピタキシャル成長させる。成長基板はアクセス層12および活性層13を構成するGaN系半導体に応じて選ばれ、絶縁基板11そのものを用いてもよい。エピタキシャル成長方法としては、例えば、有機金属化学気相成長(MOCVD)法や分子線エピタキシー(MBE)法などを用いることができる。成長温度は、アクセス層12および活性層13を構成するGaN系半導体に応じて適宜選ばれる。
次に、リソグラフィーにより、活性層13上に、所定部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成した後、このレジストパターンをマスクとしてドライエッチングすることにより活性層13およびアクセス層12の上部をメサ形状にパターニングする。この後、レジストパターンを除去する。
次に、再びリソグラフィーにより、活性層13およびこの活性層13の外周部のアクセス層12上に、活性層13の外周部上の部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成した後、このレジストパターンをマスクとしてドライエッチングすることによりアクセス層12をパターニングし、アイソレーション(素子分離)を行う。この後、レジストパターンを除去する。
次に、リソグラフィーにより、カソード電極15の形成部に対応する部分が開口した所定形状のレジストパターンを形成した後、スパッタリング法などにより全面にオーミック金属を堆積させる。次に、リフトオフ法により、レジストパターンをその上に堆積したオーミック金属膜とともに除去する。こうして、アクセス層12に接触して、オーミック金属からなるカソード電極15が形成される。この後、必要に応じて、アニールを行うことによりカソード電極15のオーミック接触特性を改善する。
次に、リソグラフィーにより、活性層13の中央部に対応する部分が開口した所定の平面形状を有するレジストパターンを形成した後、TiN、密着層形成用の金属および抵抗低減用金属層形成用の金属を途中で大気に晒すことなく順次、全面に堆積させる。この場合、例えば、TiNは窒素を含むガス中でのTiの反応性スパッタリングにより堆積させ、その後、同一のスパッタリング装置の真空チャンバー内で密着層形成用の金属および抵抗低減用金属層形成用の金属を順次スパッタリングにより堆積させる。次に、レジストパターンを、その上に堆積したTiN層、密着層および抵抗低減用金属層とともに除去する。必要に応じて、抵抗低減用金属層上にさらに、電気メッキなどにより厚く抵抗低減用金属層を形成する。これによって、活性層13上に、TiN層、密着層および抵抗低減用金属層からなるアノード電極14が形成される。
以上により、図1に示す、目的とするGaN系ショットキーバリアダイオードが製造される。
〈実施例1〉
図4に示す構造を有するGaN系ショットキーバリアダイオードを製造した。図4に示すように、この実施例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料1)においては、c面サファイア基板21上に低温AlNバッファ層22を介して、アクセス層としてのn+ 型GaN層23および活性層としてのn型GaN層24が順次積層されている。n+ 型GaN層23の厚さは3μm、シート抵抗は約25Ω/□である。n型GaN層24の厚さは0.4μm、不純物濃度は3×1017cm-3である。n+ 型GaN層23の上部およびn型GaN層24はメサ形状を有する。n型GaN層24の平面形状は円形である。n型GaN層24上に、下から順に厚さ10nmのTiN層、厚さ5nmのNi層および厚さ5nmのAu層からなるTiN/Ni/Au層25が積層され、その上に厚さ1μmのAu層26が積層されており、これらのTiN/Ni/Au層25およびAu層26によりT型形状アノード電極が構成されている。このアノード電極の平面形状は円形であり、n型GaN層24との接触部の直径は50μmである。n型GaN層24の外部のn+ 型GaN層23上に、n型GaN層24を囲むように、下から順に厚さ50nmのTi層、厚さ200nmのAl層、厚さ40nmのTi層および厚さ40nmのAu層からなるカソード電極27が設けられ、n+ 型GaN層23とオーミック接触している。カソード電極27上には、下から順に厚さ30nmのTi層および厚さ70nmのAu層からなるカソード電極カバー層28が設けられている。カソード電極カバー層28上には、TiN/Ni/Au層25およびAu層26が順次積層されている。
この実施例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料1)の製造方法を図5〜図7に示す。
図5Aに示すように、c面サファイア基板21上に、MOCVD法により、まず低温AlNバッファ層22を成長させてから、n+ 型GaN層23およびn型GaN層24を順次成長させた。
次に、図5Bに示すように、リソグラフィーにより、n型GaN層24上に、所定部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとして、SiCl4 ガスを用いた誘導結合プラズマ(ICP)エッチングによりドライエッチングを行い、メサ形成を行った。このエッチングにおいては、n型GaN層24をエッチングした後、n+ 型GaN層23が深さ0.2μmエッチングされるまでオーバーエッチングを行った。この後、レジストパターンを除去した。
次に、図5Cに示すように、リソグラフィーにより、n型GaN層24上に、所定部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとして、SiCl4 ガスを用いたICPエッチングによりドライエッチングを行い、アイソレーションを行った。このエッチングは、c面サファイア基板21が露出するまで行った。この後、レジストパターンを除去した。
次に、図6Aに示すように、リソグラフィーにより、n型GaN層24およびn+ 型GaN層23上に所定部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成し、スパッタリング法により厚さ50nmのTi層、厚さ200nmのAl層、厚さ40nmのTi層および厚さ40nmのAu層を順次形成した後、レジストパターンをその上に形成されたTi層、Al層、Ti層およびAu層とともに除去した(リフトオフ)。こうして、Ti層、Al層、Ti層およびAu層からなるカソード電極27を形成した。この後、カソード電極27をn+ 型GaN層23に良好にオーミック接触させるために、N2 ガス雰囲気中において850℃で1分間アニールを行った。
次に、図6Bに示すように、リソグラフィーにより、カソード電極27に対応する部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成し、スパッタリング法により厚さ30nmのTi層および厚さ70nmのAu層を順次形成した後、レジストパターンをその上に形成されたTi層およびAu層とともに除去した(リフトオフ)。こうして、Ti層およびAu層からなるカソード電極カバー層28を形成した。
次に、図6Cに示すように、リソグラフィーにより、n型GaN層24のアノード電極形成部およびカソード電極カバー層28に対応する部分が開口したレジストパターン29を形成した。
次に、アルゴン(Ar)と窒素(N2 )とからなる混合ガス(Arの流量は15sccm、N2 の流量は3sccm)雰囲気中で反応性スパッタリングにより厚さ10nmのTiN層を全面に形成した後、引き続いて同一のスパッタリング装置の真空チャンバー内で厚さ5nmのNi層および厚さ5nmのAu層を全面に順次形成する。こうして、図7Aに示すように、レジストパターン29の表面およびレジストパターン29の開口部のn型GaN層24の表面およびカソード電極カバー層28の表面の全面にTiN層、Ni層およびAu層からなるTiN/Ni/Au層25を形成した。
次に、図7Bに示すように、リソグラフィーにより、アノード電極形成部およびカソード電極カバー層28に対応する部分が開口したレジストパターン30を形成した。
次に、厚さ1μmのAu層26を電気メッキで堆積させた。Au層26は、TiN/Ni/Au層25の最上層のAu層およびカソード電極カバー層28の最上層のAu層を下地金属としてその上にのみ選択的に堆積する。
この後、レジストパターン30を除去し、さらにレジストパターン29をその上に形成されたTiN/Ni/Au層25とともに除去する(リフトオフ)。こうして、図7Cに示すように、n型GaN層24上にTiN/Ni/Au層25およびその上のAu層26からなるT型形状のアノード電極が形成されるとともに、カソード電極カバー層28上にTiN/Ni/Au層25およびAu層26が形成された。
この後、N2 雰囲気中で300℃、10分間のポストアニールを行った。
以上により、図4に示す、目的とするGaN系ショットキーバリアダイオードが製造された。
〈実施例2〉
実施例2によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料3)は、n型GaN層24の厚さが1.0μm、不純物濃度が1×1017cm-3であることを除いて、実施例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料1)と同様な構造を有し、製造方法も実施例1と同様である。
〈実施例3〉
実施例3によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料5)は、アノード電極が2μm×50μmのサイズのフィンガー型であることを除いて、実施例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料1)と同様な構造を有し、製造方法も実施例1と同様である。
〈実施例4〉
実施例4によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料7)は、アノード電極が2μm×50μmのサイズのフィンガー型であることを除いて、実施例2によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料3)と同様な構造を有し、製造方法は実施例1と同様である。
〈比較例1〉
比較例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料2)は、TiN/Ni/Au層25の代わりに厚さ10nmのNi層およびその上の厚さ10nmのAu層からなるNi/Au層を用いたことを除いて、実施例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料1)と同様な構造を有し、製造方法は実施例1と同様である。
〈比較例2〉
比較例2によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料4)は、n型GaN層24の厚さが1.0μm、不純物濃度が1×1017cm-3であり、TiN/Ni/Au層25の代わりに厚さ10nmのNi層およびその上の厚さ10nmのAu層からなるNi/Au層を用いたことを除いて、実施例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料1)と同様な構造を有し、製造方法も実施例1と同様である。
〈比較例3〉
比較例3によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料6)は、アノード電極が2μm×50μmのサイズのフィンガー型であることを除いて、比較例1によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料2)と同様な構造を有し、製造方法は実施例1と同様である。
〈比較例4〉
比較例4によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料8)は、アノード電極が2μm×50μmのサイズのフィンガー型であることを除いて、比較例2によるGaN系ショットキーバリアダイオード(試料4)と同様な構造を有し、製造方法は実施例1と同様である。
図8に実施例1(試料1)、実施例2(試料3)、比較例1(試料2)および比較例2(試料4)のGaN系ショットキーバリアダイオードの電流−電圧特性の測定結果から得られたショットキー障壁高さφb および理想因子nを示す。図8に示すように、アノード電極にTiN/Ni/Au層25を用いた試料1、3のショットキー障壁高さφb および理想因子nはそれぞれ約0.5eVおよび1.1である。これに対し、アノード電極にNi/Au層を用いた試料2、4のショットキー障壁高さφb および理想因子nはそれぞれ約0.9eVおよび1.14〜1.30である。試料1、3のショットキー障壁高さは試料2、4のショットキー障壁高さに比べて約1/2と低いことが判る。加えて、試料1、3のショットキー障壁高さφb および理想因子nの均一性は、試料2、4のショットキー障壁高さφb および理想因子nに比べて極めて良好であることが判る。また、試料1〜4について容量(C)−電圧(V)測定を行った結果、試料1、3のショットキー障壁高さφb は約0.42eV、試料2、4のショットキー障壁高さφb は1.12eVであった。このことからも、試料1、3のショットキー障壁高さφb が低いことが確認された。
図9は、アノード電極が2μm×50μmのサイズのフィンガー型の形状を有する試料5、6のGaN系ショットキーバリアダイオードの電流−電圧特性の測定結果を示す。また、図10は、アノード電極が2μm×50μmのサイズのフィンガー型の形状を有する試料7、8のGaN系ショットキーバリアダイオードの電流−電圧特性の測定結果を示す。図9および図10より、アノード電極にTiN/Ni/Au層25を用いた試料5、7のオン電圧(順方向立ち上がり電圧VF )は0.5V、アノード電極にNi/Au層を用いた試料6、8のオン電圧は1.2Vであり、試料6、8に比べて試料5、7の方がオン電圧が1/2以下と大幅に減少していることが判る。また、n型GaN層24の不純物濃度が3×1017cm-3の試料5、6のオン抵抗は15.0Ω、n型GaN層24の不純物濃度が1×1017cm-3の試料7、8のオン抵抗は27.3Ωであり、この結果から、オン抵抗に関してはアノード電極にTiN/Ni/Au層25を用いた場合もNi/Au層を用いた場合も差がなかった。図11は試料5、6のGaN系ショットキーバリアダイオードの逆方向電流−電圧特性の測定結果を示す。また、図12は試料7、8のGaN系ショットキーバリアダイオードの逆方向電流−電圧特性の測定結果を示す。図11および図12に示すように、試料5、6では約40Vの破壊電圧が得られているが、試料7、8では100V以上の破壊電圧が得られている。これらの結果から、破壊電圧はアノード電極にTiN/Ni/Au層25を用いるかNi/Au層を用いるかによって変わらないが、オン電圧についてはアノード電極にTiN/Ni/Au層25を用いたものはアノード電極にNi/Au層を用いたものに比べて約1/2と低いことが判る。
以上のように、この第1の実施の形態によるGaN系ショットキーバリアダイオードによれば、アノード電極14が、活性層13と接触して設けられたTiN層と、このTiN層上にこのTiN層と接触して設けられた、n型GaN層14とショットキー接触可能な金属、具体的には、例えばNi、Pd、PtおよびIrからなる群より選ばれた少なくとも一種類の金属からなる密着層と、この密着層と接触して設けられた抵抗低減用金属層とを有することにより、アノード電極としてNi/Au電極を用いた従来のGaN系ショットキーバリアダイオードに比べて、オン電圧が例えば約1/2程度と十分に低く、しかも同等の低オン抵抗および高耐圧を得ることができる。さらに、このGaN系ショットキーバリアダイオードによれば、抵抗低減用金属層はTiN層と接触せず、密着層と接触して形成されるため、抵抗低減用金属層としてAuなどをメッキする際にも均一にメッキすることができる。また、TiN層にピンホールなどの穴が形成されても、TiN層と接触しているものはn型GaN層14とショットキー接触可能な金属からなる密着層であるため、たとえこの密着層を構成する金属がTiN層に形成された穴を通ってTiN層とn型GaN層14との界面に到達してもショットキー接触特性が劣化しない。さらに、抵抗低減用金属層は密着層上に形成されるため、この密着層により、抵抗低減用金属層を構成する金属がTiN層に到達するのを防止することができ、ひいてはこの抵抗低減用金属層を構成する金属がTiN層に形成された穴を通ってTiN層とn型GaN層14との界面に到達するのを防止することができる。このGaN系ショットキーバリアダイオードは、マイクロ波整流回路の整流素子として用いて好適なものであり、それによりRF/DC変換効率の向上を図ることができる。
〈第2の実施の形態〉
[マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオード]
第2の実施の形態においては、GaN系半導体層の片側に第1の実施の形態と同様な構成のアノード電極およびカソード電極を有し、アノード電極は複数に分割され、分割された各アノード電極は金属配線により相互に接続され、分割された各アノード電極はカソード電極により囲まれ、分割された各アノード電極は縦横比が5以下の形状を有するマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードについて説明する。このような特徴的構成は、以下の検討に基づいて導かれたものである。
既に述べたように、マイクロ波の整流用ダイオードは、逆方向耐圧、オン抵抗、オフ容量が重要な性能指標である。逆方向耐圧が指定されれば、単純な1次元ポテンシャル分布理論でドナー濃度、半導体層の厚さが決まり、アノード電極単位面積あたりのオン抵抗、オフ容量は決定する。但し、以上はダイオード活性部の話であり、実際には活性層とカソード電極との間のアクセス層による抵抗(アクセス抵抗)が加わる。アクセス抵抗はできるだけ小さいことが望ましい。
絶縁基板上にダイオードを構成する半導体層を形成し、アノード電極およびカソード電極を表面から取り出すタイプのダイオードでは、アノード電極を最上面に置き、カソード電極は、低抵抗のアクセス層を横側に引き出し、アノード電極から離れた位置でこのアクセス層にコンタクトさせる。この場合、アクセス層のうち横に引き出す部分の抵抗は寄生抵抗となる。
本発明者は、絶縁基板上のダイオードのアクセス部での寄生抵抗増大を抑制するためには、アノード電極を複数に分割することにより全体としてアノード電極の周囲長を増やすこと、および、同心円状の電極間で内側電極が小さい場合の広がり抵抗による抵抗の低減を利用することが有効であると考えた。
今、ダイオードの電気的仕様から決められたアノード電極の面積をSとする。このアノード電極の周囲に距離bを置いてカソード電極がこのアノード電極を囲むように置かれ、その間をシート抵抗rS のn+ 層で接続した場合のアクセス抵抗を計算する。
図13に示すように、アノード電極Aが円形であり、その周りを取り囲むようにカソード電極Bが形成された構造のアクセス抵抗を計算すると
となる。ただし、aはアノード電極Aの半径、bはアノード電極Aとカソード電極Bとの間の距離(アノード−カソード間距離)である。
アクセス抵抗低減のためには、図45に示すように、フィンガー型のアノード電極がよく用いられる。フィンガー型では、アクセス抵抗を減らすためにフィンガー幅を製造技術上あるいはデバイス動作上の最小線幅を用いて周囲長を大きく取るようにする。フィンガー型のもともとの目的は、アノード電極端から離れた活性層へのアクセス抵抗の低減であるが、製造技術上の目合わせ(アライメント)工程の関係でアノード電極とカソード電極との間の距離がアノード電極内部のアクセス部の距離より数倍大きくなるので、以下ではアノード電極、カソード電極間のアクセス層の抵抗で議論する。
フィンガー数はマスク設計で任意に変えられるが、通常はアノード電極を正方形と仮定して、それをストライプ状に分割する。そこで、1フィンガー長Lは
とする。線幅を2aとするとフィンガー数nは
となる。伝導度G
F は
となる。ここで、フィンガー端部では広がり抵抗も考慮している。
一方、同じ面積のアノード電極を多数の円形に分割する場合は、アノード電極の半径をaとして分割数nはn=S/πa
2 であり、伝導度G
D は
となる。いずれも、2aがアノード電極の最小パターン寸法(フィンガー型では太さ、ドット型では直径)であり、bはアノード−カソード間距離で、代表的にはa=1μm、b=4μm程度である。
図14は、最小パターン寸法2aを元に分割数を計算し、フィンガー型およびドット型のアクセス抵抗を比較した図である。アノード電極の総面積は104 μm2 、アノード−カソード間距離bは4μm一定、シート抵抗rS は25Ωとしている。また、比較のために、図14にはb=0.04μmとした場合も載せている。ドット型はいずれの場合も円形であるが、フィンガー型では総面積を正方形とした場合の1辺の長さをフィンガー長とし、分割数を変えて幅を変えている。
図14から判るように、最小パターン寸法が小さくなれば、分割数が増え、アノード電極の周囲長が増大し、アクセス抵抗は周囲長に逆比例するのでその分低下する。アノード−カソード間距離bが最小パターン寸法より十分小さい場合は、広がり抵抗効果は無いので、分割数に逆比例して減少する。ドット型の場合は分割数は最小パターン寸法の2乗に逆比例して増えるので、周囲長はストライプ型の横のエッジに縦のエッジが加わり、それだけで周囲長が2倍程度になり、アクセス抵抗も半分程度になる。さらに、アノード−カソード間距離bが4μmの場合、最小パターン寸法がその大きさを切るとドット型の抵抗減少率は大きくなり、最小パターン寸法が2μmでは1/4となる。このように、ドット型を採用すると、とりわけ最小パターン寸法が小さいところで従来法のフィンガー型より大幅に低いアクセス抵抗を実現することができる。
さらに、コンタクト抵抗についても同様な効果がある。ショットキーバリアダイオードで問題となるコンタクト抵抗は、低抵抗オーミック抵抗であるカソード電極のコンタクト抵抗である。このコンタクト抵抗の値をrC [Ωmm]とする。このコンタクト抵抗rC はカソード電極の周囲長に逆比例するが、アノード−カソード間距離が最小パターン寸法より大きい場合は、カソード電極の幅はアノード電極の幅より大きくなるので、低抵抗化が起こる。
一方、ドット型の場合は、アノード電極の半径をaとして分割数nはn=S/πa
2 であり、伝導度は
となる。コンタクト抵抗r
C を0.2Ωmmとした場合の分割に応じた最小パターン寸法とコンタクト抵抗との関係を図15に示す。図15より、アクセス抵抗と同様に、アノード−カソード間距離に対し、最小パターン寸法が小さい場合には、ドット型は従来法のフィンガー型より急速にコンタクト抵抗が下がることが判る。
アクセス抵抗を下げるためにフィンガータイプのダイオードが報告されているが、通常はアノード−カソード間は目合わせマージンが必要なためフィンガー幅やドット径などのパターン寸法よりは大きくなり、このような場合はアノード電極を細かく分割し、広がり抵抗の効果を利用することでアクセス抵抗とコンタクト抵抗共に大幅に低減できる。
広がり抵抗を利用するためには、アノード電極をできるだけ細かく分割することが重要で、そのためには、縦横とも最小パターン寸法の正方形や円形が望ましい。図16に示すように、アノード電極Aが、陸上トラックのように長方形部およびその両端の半円形部からなる形状を有すると仮定する。ここで、アノード電極Aの半円形部の半径をa、アノード−カソード間距離をb、長方形部の長さをdとする。今、アノード電極の最も離れた2点間の距離とその2点を結ぶ直線に垂直な方向で最も太い幅の比をアノード電極の縦横比と定義する。図16に示す形状を有するアノード電極Aの縦横比は(2a+d)/2aになる。アノード電極Aの半円形部の半径を1μmとし、アノード電極Aが縦横比無限大の完全なフィンガー型である場合のアクセス抵抗に対するアクセス抵抗の比、すなわち規格化抵抗を上記の半円形部に広がり抵抗を仮定し、アノード−カソード間距離bを変えて計算した結果を図17に示す。図17において、縦横比1はアノード電極Aが真円の形状を有する場合であり、この場合の規格化抵抗は、図14におけるフィンガー型に対する円形の場合の抵抗比に対応する。図17に示すように、アノード−カソード間距離b=0であっても分割による周囲長の増大で抵抗は低減するが、縦横比が1よりも大きければ分割数が減るので周囲長の増大の効果は減り、抵抗減少の効果も減少する。図17から判るように、b=0の場合には、縦横比1の真円では50%抵抗が低減するのに対し、縦横比5では減少量は15%となる。図17で仮定した半円形部の半径1μmはフィンガー太さで2μmであり、これが最小パターン寸法に対応するとすれば、bは通常2〜4μmである。その場合の規格化抵抗も図17に示した。b=4μmの場合、縦横比1の真円で80%の抵抗低減が縦横比5では40%の抵抗低減に減少する。このことから、アノード電極の形状が真円である場合に近い効果を得るためには、アノード電極の縦横比はほぼ5以下であることが必要であることが判る。
第2の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードを図18および図19に示す。ここで、図18は平面図、図19は図18のX−X’線に沿っての断面図である。
図18および図19に示すように、このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードにおいては、絶縁基板11上にアクセス層12および活性層13が順次積層されている。アクセス層12の上部および活性層13はメサ形状を有し、この構造がマトリクス状に縦横に複数設けられている。各活性層13の平面形状は特に限定されないが、例えば、円形、多角形(正方形など)、楕円あるいはそれらを変形した形状である。図18においては、各活性層13の平面形状が円形である場合が示されている。各活性層13上に所定の平面形状を有するドット状のアノード電極14が設けられ、各活性層13にショットキー接触している。ここで、各アノード電極14は、本来は一つのアノード電極が複数に分割されたものである。分割された各アノード電極14の平面形状は特に限定されないが、例えば、円形、多角形(正方形など)、楕円あるいはそれらを変形した形状である。図18においては、各アノード電極14の平面形状が円形である場合が示されている。各アノード電極14は、第1の実施の形態と同様な構成を有している。各活性層13の外周部から側面および各活性層13の間の部分のアクセス層12上に延在してカソード電極15が設けられ、アクセス層12とオーミック接触している。カソード電極15は、各アノード電極14を含む大きさの開口15aを有し、平面的に見て各アノード電極14を囲むように設けられている。図示は省略するが、活性層13の境界は開口15aの内側でも外側でも構わない。各アノード電極14間は金属配線であるエアブリッジ配線16により接続されている。一列の各アノード電極14間を接続する各エアブリッジ配線16はその一端で互いに接続されていて全体としてくし形をなし、したがって全てのアノード電極14間はエアブリッジ配線16により互いに接続されている。エアブリッジ配線16は、例えば金メッキからなる。
既に述べたように、この場合、分割された各アノード電極14は縦横比が5以下の形状を有する。各アノード電極14の大きさ(最大寸法)は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、1μm以上10μm以下である。
このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの上記以外の構成は、第1の実施の形態によるGaN系ショットキーバリアダイオードと同様である。
図20にこのマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの各ダイオード部における抵抗分布を示す。図20に示すように、抵抗は、活性層13の真性部の抵抗RINT 、アクセス層12のアクセス抵抗R1 およびアクセス層12とカソード電極15との間のコンタクト抵抗rC (単位Ωmm)からなる。アクセス層12は一般的には高ドナー濃度で低抵抗に形成されるが、余り厚くすることは成長技術的にも難しく、またこの上に形成されるアノード電極14やカソード電極15のボンディングパッド(図示せず)をエッチングなどで分断する必要があるので、厚さはせいぜい数μmである。そこで、その抵抗はシート抵抗rS (単位Ω)で与えられるとする。
[マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの製造方法]
このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの製造方法について説明する。
まず、所定の成長基板上にアクセス層12および活性層13を順次エピタキシャル成長させる。成長基板はアクセス層12および活性層13を構成するGaN系半導体に応じて選ばれ、絶縁基板11そのものを用いてもよい。エピタキシャル成長方法としては、例えば、MOCVD法やMBE法などを用いることができる。成長温度は、アクセス層12および活性層13を構成するGaN系半導体に応じて適宜選ばれる。
次に、リソグラフィーにより、活性層13上に、所定部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成した後、このレジストパターンをマスクとしてドライエッチングすることにより活性層13およびアクセス層12の上部を所定の形状にパターニングする。この後、レジストパターンを除去する。
次に、リソグラフィーにより、所定部分が開口したレジストパターンを形成した後、スパッタリング法などにより全面にオーミック金属を堆積させる。次に、リフトオフ法により、レジストパターンをその上に堆積したオーミック金属膜とともに除去する。こうして、アクセス層12に接触してオーミック金属からなるカソード電極15が形成される。この後、必要に応じて、アニールを行うことによりカソード電極15のオーミック接触特性を改善する。
次に、リソグラフィーにより、活性層13の中央部に対応する部分が開口した所定の平面形状を有するレジストパターンを形成した後、全面にTiN、密着層形成用の金属および抵抗低減用金属層形成用の金属を順次、スパッタリング法などにより全面に堆積させる。次に、レジストパターンをその上に堆積したTiN層、密着層および抵抗低減用金属層とともに除去する。こうして、活性層13上にTiN層、密着層および抵抗低減用金属層からなるドット形状のアノード電極14が形成される。
次に、従来公知の方法により、一列の各ダイオード部のアノード電極14間を接続するように金属配線であるエアブリッジ配線16を形成する。
以上により、図18および図19に示す、目的とするマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードが製造される。
ここで、アノード電極をマルチドット型に構成することにより得られる効果を検証するために行ったマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの小信号特性の測定結果について説明する。
このために、マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードのドット型のアノード電極14のサイズを2μm×2μm、3μm×3μm、4μm×4μmの三水準に変えたアノード電極評価用デバイスを作製した。加えて、2μm×50μmのサイズのフィンガー型のアノード電極14を用いたGaN系ショットキーバリアダイオードからなるアノード電極評価用デバイスを作製した。そして、これらのアノード電極評価用デバイスの2.45GHzでの小信号特性を測定した。その結果を図21および図22に示す。ここで、図21は順方向での伝導度、図22は逆方向でのリアクタンスから求めた容量値である。
伝導度のピーク値の逆数がオン抵抗RONに対応すると考えられる。そこで、伝導度のピーク値Gmax およびCave (印加電圧0〜20Vの範囲の容量の平均値)をダイオード面積に対してプロットした。その結果を図23に示す。アノード面積としては、マスク設計上の面積を用いた。また、ドット型のアノード電極評価用デバイスは4つのドットで構成されるので、アノード面積は4倍している。例えば、一つのアノード電極14の面積が2μm×2μm=4μm2 とすると、アノード面積は4×4μm2 =16μm2 とした。
図23から、容量Cave はほぼアノード面積に比例していることが判る。一方、Gmax は、ドット型ではほぼアノード面積と比例の関係があるが、フィンガー型はその延長とは異なる抵抗値を持つ。ドット型、フィンガー型のいずれでも、オン抵抗はアノード面積に比例する真性部分とアクセス部分とに分けられるが、ドット型の方がGmax が高く(オン抵抗RONは低く)、容量が小さいことが判る。
容量Cave はほぼアノード面積に比例すると述べたが、ドットが小さいと若干高くなる傾向が見られる。これはT型形状のアノード電極のひさし部分による寄生容量のためである。その結果、今回の実験では、時定数τ(=RONCave )はアノード電極のサイズが2μm×2μmのものが0.41psであるのに対し、3μm×3μmのものでは0.36ps、4μm×4μmのものでは0.35psと、小さければ良いという結果ではないものの、いずれもフィンガー型の0.46psに対して小さく、優れていることが確認された。
この第2の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードによれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードでは、分割された各アノード電極14はエアブリッジ配線16により相互に接続され、各アノード電極14はカソード電極15により囲まれ、各アノード電極14の縦横比が5以下であることにより、アクセス抵抗R1 の大幅な低減を図ることができる。このため、オン抵抗RONの低減を図ることができ、良好な周波数特性を得ることができる。また、このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードは、フィールドプレート構造を用いなくとも高耐圧化を図ることができる。また、各アノード電極14の面積を小さくしても、時定数τを小さくすることができ、かつ、優れた高周波特性を維持することができる。
〈第3の実施の形態〉
[マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオード]
第3の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードを図24AおよびBに示す。ここで、図24Aは平面図、図24Bは図24AのX−X’線に沿っての断面図である。
図14AおよびBに示すように、このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードにおいては、絶縁基板11上にアクセス層12および活性層13が順次積層されている。アクセス層12の上部および活性層13はメサ形状を有し、この構造が一列に複数設けられており、各ドット型GaN系ショットキーバリアダイオードのアノード電極14間が金属配線であるエアブリッジ配線16により接続されている。エアブリッジ配線16は、例えば金メッキからなる。また、各ドット型GaN系ショットキーバリアダイオードのカソード電極15は一体に形成され、全体として細長い長方形の形状を有する。さらに、このカソード電極15の長辺に沿ってカソード金属配線17がこのカソード電極15に電気的に接続されている。このカソード金属配線17により、ドット型GaN系ショットキーバリアダイオードを並列接続することによる抵抗の増大を防止することができる。カソード金属配線17は、例えば金メッキからなる。
この第3の実施の形態によれば、第1および第2の実施の形態と同様な利点に加えて、カソード電極15にカソード金属配線17が接続されているため、カソード電極15のシート抵抗による抵抗の増大を防止することができるという利点を得ることができる。
〈第4の実施の形態〉
[マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオード]
マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの真性部分での耐圧、オン抵抗、オフ容量は、使用する周波数や最大電圧を決めれば半導体の持つ物性値、すなわち破壊電界強度とキャリア移動度とで決まってしまう。しかしながら、実際の破壊は、各アノード電極14の端部の電極金属と半導体表面とが接するところでの電界で決まることが多い。なぜなら、この部分は加工ダメージや汚染の影響を受け、その周囲が正に帯電すれば逆バイアス時に電子を引きつけて電子濃度を高め、空乏層の拡大を制約するために、電界が上昇するからである。一般に半導体表面は不純物汚染などにより状態が制御できず、正に帯電したり負に帯電した状態になる。さらに表面にできる表面準位はデバイスの動作によって正に帯電したり負に帯電したりする。そのため、耐圧はアノード電極14のエッジで決まり、単純な1次元ポテンシャル分布理論で求められるドナー濃度で決まる耐圧が得られるとは限らない。
図25Aに表面電荷が無い理想状態での空乏層31の形状を示す。もし、図25Bに示すように、表面に半導体中のドナー以外に正の電荷、例えば表面準位32が存在すれば、空乏層31の幅は狭まり、電界強度が強くなり破壊電圧が低下する。そこで、この第4の実施の形態においては、これを防止するために、アノード電極14の外側の部分の活性層13の表面に積極的に負電荷を置く。すなわち、図25Cに示すように、活性層13の表面付近に負電荷層33を形成する。これにより、初めから活性層13の表面では空乏層31が広がるため、汚染などにより発生する正電荷がこの負電荷を上回らない限り空乏層31は広く電界は低い。結果としてアノード電極14のエッジ表面での破壊電圧の低下を防ぐことができる。また、この負電荷層33はアノード電極14の直下には置かないので、オン抵抗の増大はほとんど無い。
負電荷層33を形成するためには、例えば、活性層13の表面にp型層を形成する。例えば、活性層13の表面に例えば3×1018cm-3のMgドープGaN層(例えば、厚さ10nm)を成長させる。MgドープGaN層のMgの面密度は3×1012cm-2である。このMgドープGaN層を、アノード電極14の形成用のフォトレジストパターンをマスクに用いて、例えばSiCl4 を用いたICPエッチングによりエッチング除去し、さらにその開口部にアノード電極14を形成する。こうすることで、アノード電極14の周囲にアノード電極14に対してセルフアライン(自己整合)的にMgドープGaN層からなる負電荷層33を形成することができる。
負電荷層33は、次のような方法によっても形成することができる。すなわち、六方晶GaNでは、ヘテロ接合を用いるだけで自発分極やピエゾ効果で固定電荷が発生する。例えば、活性層13としてGa極性を持つc面n型六方晶GaN層を用い、その表面にInGaN層を形成し、このInGaN層をアノード電極14の形成用のフォトレジストパターンをマスクに用いてエッチング除去し、さらにその開口部にアノード電極14を形成する。こうすることで、アノード電極14の周囲にアノード電極14に対してセルフアライン(自己整合)的にGaN/InGaNヘテロ接合を形成することができ、このGaN/InGaNヘテロ接合により負電荷層33を形成することができる。例えば、In組成が10%で厚さが10nmのInGaN層を用いることにより自発分極で負の電荷が発生し、負電荷層33を形成することができる。あるいは、活性層13として窒素(N)極性を持つc面n型六方晶GaN層を用い、その表面にAlGaN層を形成し、このAlGaN層をアノード電極14の形成用のフォトレジストパターンをマスクに用いてエッチング除去し、さらにその開口部にアノード電極14を形成する。こうすることで、アノード電極14の周囲にアノード電極14に対してセルフアライン(自己整合)的にGaN/AlGaNヘテロ接合を形成することができ、このGaN/AlGaNヘテロ接合により負電荷層33を形成することができる。例えば、Al組成が5%で厚さが10nmのAlGaN層を用いることにより自発分極で負の電荷が発生し、負電荷層33を形成することができる。
負電荷層33は正電荷のホールを誘起するため、p型のチャネルを形成する可能性がある。そのため、負電荷層33の他端を図24Bに示すようにカソード電極15とオーバーラップさせた場合は、負電荷層33がアノード電極14とカソード電極15との間のリークパスとなるが、通常はホールの移動度が極めて低いためその抵抗は高く、また負電荷層20のアクセプタ濃度などを適切に制御することにより、回路動作に支障の無い抵抗値にすることが可能である。また、負電荷層33に電流を流して表面の電位降下を起こさせることにより、より確実にアノード電極14端での電界集中を抑えることができるという効果もある。
この第4の実施の形態によれば、第1および第2の実施の形態と同様な利点に加えて、アノード電極14のエッジ表面での破壊電圧の低下を防止することができるため、耐圧のより一層の向上を図ることができるという利点を得ることができる。
〈第5の実施の形態〉
[マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオード]
第5の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの一つのダイオード部の構造を図26に示す。
図26に示すように、このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードにおいては、絶縁基板11上に、Ga極性面を有するGaN層41およびAlGaN層42が順次積層されている。ここで、GaN層41は好適にはi型または低ドナー濃度のn型、AlGaN層42は好適にはn型である。AlGaN層42にはGaN層41の上部に達する深さの開口部43が設けられ、この開口部43の内部にアノード電極14が埋め込まれている。アノード電極14の外側の部分のAlGaN層42上にカソード電極15がオーミック接触している。
Ga極性面を有するGaN層41上にAlGaN層42を形成するとその中に固定の正電荷が発生するので、このAlGaN層42とGaN層41とのヘテロ界面近傍のGaN層41中に2次元電子ガス(2DEG)44が形成される。この2次元電子ガス44は不純物散乱を受けないので、高キャリア移動度でオン抵抗の低抵抗化に利用できる。この場合、アノード電極14と2次元電子ガス44とがショットキー接触し、アノード電極14と2次元電子ガス44との界面にショットキー接合が線状に形成される。
このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの上記以外のことについては、第2の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードと同様である。
この第5の実施の形態によれば、HEMT(高移動度トランジスタ)構造のマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードにおいて、第1および第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
〈第6の実施の形態〉
[マイクロ波電力伝送システム]
第6の実施の形態においては、マイクロ波電力伝送システムについて説明する。
図27はこのマイクロ波電力伝送システムを示す。図27に示すように、このマイクロ波電力伝送システムは、直流をマイクロ波に変換するDC/RF変換を行う送電回路51およびマイクロ波を直流に変換するRF/DC変換を行う受電回路52を有する。送電回路51は、直流をマイクロ波に変換するF級増幅器53を有する。F級増幅器53としては、例えば、AlGaN/GaN HFETが用いられる。受電回路52は、整流用ダイオード54を含むマイクロ波整流回路を有する。この場合、整流用ダイオード54としては、例えば、第1〜第5の実施の形態のいずれかによるGaN系ショットキーバリアダイオードが用いられる。また、AlGaN/GaN HFETとしては、第1の実施の形態によるGaN系ショットキーバリアダイオードのアノード電極14と同様にTiN層、密着層および抵抗低減用金属層からなるゲート電極を用いたものを用いることができる。
送電回路51のアンテナ54からDC/RF変換により得られたマイクロ波55が送信される。このマイクロ波55は受電回路52のアンテナ56で受信され、RF/DC変換により直流に変換される。こうして、送電回路51から受電回路52にマイクロ波電力伝送が行われる。
アンテナ54、56としては、例えば、オープンリング共振器を用いることができる(例えば、非特許文献6参照。)。図28Aに示すように、λ/2(λは波長)の長さの線路を有する半波長共振器61は、ダイポールアンテナとして用いることができる。図28Bに示すように、この半波長共振器61をリング状に構成して両端部を互いに接近させることにより、オープンリング共振器を得ることができる。このオープンリング共振器のリング部の直径はD=λ/2πである。このオープンリング共振器では、両端部が互いに接近しているため、放射を抑えることができる。
このオープンリング共振器に対するマイクロ波による共振器結合について説明する。
マイクロ波の伝送媒体の誘電率εr が1(空気を想定)および10の場合を考える。
オープンリング共振器が受信する周波数fに対する直径Dは次の通りである。
f(GHz) λ(mm) D(mm)
εr =1 εr =10
1 300 47.7 15.1
2.45 122 19.5 6.2
10 30 4.8 1.51
60 5 0.80 0.25
100 3 0.48 0.15
図29に示すように、二つのオープンリング共振器71、72を互いに接近させる。そして、これらのオープンリング共振器71、72間の共鳴によりエネルギー交換、言い換えると電力伝送を行う。
図30は、オープンリング共振器71、72の共振器間距離と共振周波数および結合係数との関係を示す。図30に示すように、共振器間距離が大きいときの共振周波数はf0 であるが、共振器間距離が小さくなると共振周波数はf1 、f2 の二つに分離する。この場合、結合係数はk=2×(f2 −f1 )/(f2 +f1 )である。オープンリング共振器71、72はバンドパスフィルターを形成する。
図31は、マイクロ波電力伝送システムの具体例を示す。このマイクロ波電力伝送システムは、携帯電子機器81とこの携帯電子機器81をセットして電力伝送を行う充電器82とからなる。携帯電子機器81は受電回路52を有し、充電器82は送電回路51を有する。携帯電子機器81を充電器82にセットすることによりその送電回路51から携帯電子機器81の受電回路52に例えば周波数2.45GHzのマイクロ波55が送信されて携帯電子機器81に内蔵された充電電池に充電が行われる。携帯電子機器81は、特に限定されないが、例えば、携帯電話(スマートフォンを含む)、タブレット端末、ノート型パーソナルコンピュータなどである。
このマイクロ波電力伝送システムの電力伝送用の回路の一例を図32に示す(例えば、非特許文献7参照。)。図32に示すように、充電器82の送電回路51は、高周波電源83およびこの高周波電源83に接続されたオープンリング共振器71を有する。携帯電子機器81は、マイクロ波整流回路84およびこのマイクロ波整流回路84に接続されたオープンリング共振器72を有する。マイクロ波整流回路84は、整流用ダイオード85を有する。整流用ダイオード85としては、例えば、第1〜第5の実施の形態のいずれかによるGaN系ショットキーバリアダイオードが用いられる。整流用ダイオード85は、λ/4線路86を介して平滑用キャパシタ87に接続されている。λ/4線路86は、例えば、長さ16.1mmの50Ωマイクロストリップラインチップである。平滑用キャパシタ87の容量は例えば100pFである。平滑用キャパシタ87に並列に負荷抵抗88が接続されている。この負荷抵抗88を通る電流をiDC、負荷抵抗88の抵抗値をRLOADとすると、DC出力電圧VDCはiDC×RLOADとなる。
この第6の実施の形態によれば、受電回路52のマイクロ波整流回路の整流用ダイオードとして、第1〜第5の実施の形態のいずれかによる高性能のGaN系ショットキーバリアダイオードを用いていることにより、高性能のマイクロ波電力伝送システムを実現することができる。
〈第7の実施の形態〉
[電源線用無線接続コネクタ]
第7の実施の形態による電源線用無線接続コネクタを図33に示す。図33に示すように、この電源線用無線接続コネクタは、直流電源91に接続される送電回路92と、直流電源を必要とする機器93に接続される受電回路94とにより構成される。送電回路92においては、直流電源91から発振回路95に直流電源が供給され、発振回路95の出力が増幅回路96で増幅され、増幅回路96に接続されたオープンリング共振器97から電力がマイクロ波として伝送される。受電回路94においては、送電回路92のオープンリング共振器97から伝送されたマイクロ波がオープンリング共振器98で受信され、マイクロ波整流回路99で整流されて直流電圧が出力され、機器93に供給される。
図34および図35はマイクロ波整流回路99の具体的な構成例を示す。図34はシングルシャント(SS)型レクテナ回路であり、例えば第1〜第5の実施の形態のいずれかによるGaN系ショットキーバリアダイオード100、λ/4線路101および平滑用キャパシタ102により構成される。図35はデュアルダイオード(DD)型レクテナ回路であり、例えば第1〜第5の実施の形態のいずれかによるGaN系ショットキーバリアダイオード100、103および平滑用キャパシタ102により構成される。図示は省略するが、図34に示すSS型レクテナ回路および図35に示すDD型レクテナ回路の出力側には、図32と同様に負荷抵抗が接続される。ここで、図35に示すDD型レクテナ回路の最も大きな利点は、GaN系ショットキーバリアダイオード100、103の一方に印加される電圧に対して他方が保護ダイオードとして働くことである。図34に示すSS型レクテナ回路において過電圧保護を図るには保護ダイオードの追加が必要となるが、寄生容量の低減の要請からこの保護ダイオードの追加は好ましくない。これに対し、図35に示すDD型レクテナ回路では、GaN系ショットキーバリアダイオード100、103が保護ダイオードとして機能するため、保護ダイオードの追加が不要であり、寄生容量の増加は発生しない。図35に示すDD型レクテナ回路のもう一つの利点は、後述のように、図35に示すDD型レクテナ回路に比べて出力電圧が2倍になることである。
上述のSS型レクテナ回路をプリント基板上に実現する場合を考えると、例えば5.8GHzの周波数を用いれば、誘電率10のプリント基板(例えば、ポリテトラフルオロエチレン製)上でλ/4線路101は長さ5mm程度であり、オープンリング共振器98の直径Dは3.5mm程度である。このため、例えば1mm角程度のGaN系ショットキーバリアダイオード100および平滑用キャパシタ102と組み合わせて、1cm角程度の小型のプリント基板上にSS型レクテナ回路を実現することができる。また、上述のDD型レクテナ回路をプリント基板上に実現する場合には、GaN系ショットキーバリアダイオード103を用いることによりλ/4線路101が不要となるので、DD型レクテナ回路より小型化が可能である。
一方、送電回路92では、例えばAlGaN/GaN HFETからなるF級増幅器を用いることにより80%以上の高効率を実現することができ、この送電回路92もトランジスタチップとλ/4以下のスタブ数本で構成することができ、やはり1cm角程度に収まる。電力はプラスチック板を通して送電できるので、送電側、受電側共に、完全にプラスチック膜などで覆うことができ、防水、防塵のコネクタを実現することができる。
ここで、図34に示すSS型レクテナ回路と図35に示すDD型レクテナ回路との等価性について説明する。本発明者らは、図34に示すSS型レクテナ回路と図35に示すDD型レクテナ回路とが一定の変換則の下で等価であることを見出した。すなわち、図35に示すDD型レクテナ回路において、GaN系ショットキーバリアダイオード100、103として、図34に示すSS型レクテナ回路におけるGaN系ショットキーバリアダイオード100のサイズを半分としたもの2個を用い、かつ負荷抵抗を4倍にしたものでは、出力電圧が2倍になり、RF/DC変換効率や入力反射効率は全く同じであることを見出した。ただし、入力マイクロ波は正弦波とする。この変換則を実証した結果について説明する。
そのために、図36Aに示すSS型レクテナ回路および図36Bに示すDD型レクテナ回路をプリント基板上に作製した。GaN系ショットキーバリアダイオード100、103としては、サファイア基板上のGaN系ショットキーバリアダイオードで、活性層は不純物濃度1×1017cm-3、厚さ1μmのn型GaN層、アノード電極はフィンガーNi/Au電極で、フィンガーサイズは2μm×50μmである。フィンガー数は、SS型レクテナ回路のGaN系ショットキーバリアダイオード100では8本、DD型レクテナ回路のGaN系ショットキーバリアダイオード100、103では4本を用いた。図36AおよびBに示すように、入力側に高周波遮断フィルター(LPF)104を設け、2本のスタブ105、106により反射の調整を行う。実験では、ネットワークアナライザ(Agilent E8364B) の信号を増幅器(Mini-Circuits ZHL-16W-43-S+)で増幅し、方向性結合器(Agilent 772D) を通してレクテナ回路にキャパシタ107を介して入力する。方向性結合器で反射波を取り出し、ネットワークアナライザでモニタして、プリント基板上のスタブ105、106を動かして反射の調整を行う。負荷抵抗108としては、USBモジュラソース(Agilent U2722A) をプログラム制御する電子負荷を用いた。マイクロ波電力はパワーメータ(Agilent E4419B) で測定した。
測定結果について説明する。入力電力を250mW(24dBm)とし、負荷抵抗108を変化させた場合の特性を図37に示す。ここでは、スタブ105、106による反射調整を全く行っていない。両回路の比較のために、DD型レクテナ回路の負荷抵抗108の抵抗値は1/4、出力電圧は1/2にしてプロットしている。図37の横軸および右側の縦軸の括弧内の数値はDD型レクテナ回路用である(図38においても同様。)。図37から明らかなように、両者は必ずしも一致しているとは言えない。そこで、負荷抵抗108を、SS型レクテナ回路で100Ω、DD型レクテナ回路で400Ωとした場合に反射がゼロとなるようにスタブ105、106を用いて調整を行った。その結果、図38に示すように、両者の特性は変換則に従い、良く一致した。実装時のボンディングワイヤの影響は必ずしも一致していないが、反射調整でその影響がキャンセルされたものと考えられる。以上のように、SS型レクテナ回路とDD型レクテナ回路とは、上記の変換則を用いることで全く同じ特性となることが、実験的に確認できた。
第7の実施の形態によれば、従来の一般的なコネクタのように機械的な結合が不要でしかも高効率に電源を供給することができる新規の電源線用無線接続コネクタを実現することができる。
〈第8の実施の形態〉
[マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオード]
第8の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードを図39AおよびBに示す。ここで、図39Aはアノード電極14の配列方向に平行な断面図、図39Bは図39AのX−X’線に沿っての断面図である。
図39AおよびBに示すように、このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードにおいては、アクセス層12の一方の面に活性層13が積層されている。活性層13はドット状のメサ形状を有し、この活性層13が一列に複数設けられている。各活性層13の平面形状は特に限定されないが、例えば、円形、多角形(正方形など)、楕円あるいはそれらを変形した形状である。各活性層13上に所定の平面形状を有するドット状のアノード電極14が設けられ、各活性層13にショットキー接触している。ここで、各アノード電極14は、本来は一つのアノード電極が複数に分割されたものである。分割された各アノード電極14の平面形状は特に限定されないが、例えば、円形、多角形(正方形など)、楕円あるいはそれらを変形した形状である。各アノード電極14は、第1の実施の形態と同様な構成を有する。各アノード電極14間は金属配線であるエアブリッジ配線16により接続されている。エアブリッジ配線16は、例えば金メッキからなる。アクセス層12の他方の面にカソード電極15が設けられ、アクセス層12にオーミック接触している。この場合、カソード電極15は全面電極である。必要に応じて、アクセス層12が導電性半導体基板(例えば、SiC基板、n型GaAs基板、n型InP基板など)上に積層され、この導電性半導体基板の裏面にカソード電極15が設けられてもよい。この場合、アクセス層12と導電性半導体基板との全体をアクセス層として考えることができる。
アクセス層12は、各活性層13の直下の個別アクセス層12aと各活性層13に共通の共通アクセス層12bとからなる。
第2の実施の形態と同様に、この場合、分割された各アノード電極14は縦横比が5以下の形状を有する。各アノード電極14の大きさ(最大寸法)は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、1μm以上10μm以下である。
アクセス層12および活性層13を構成するGaN系半導体については第1の実施の形態と同様である。
このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの上記以外のことについては、第2の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードと同様である。
[マルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの製造方法]
このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの製造方法について説明する。
まず、所定の成長基板上にアクセス層12および活性層13を順次エピタキシャル成長させる。成長基板はアクセス層12および活性層13を構成するGaN系半導体に応じて適宜選ばれる。エピタキシャル成長方法としては、例えば、MOCVD法やMBE法などを用いることができる。成長温度は、アクセス層12および活性層13を構成するGaN系半導体に応じて適宜選ばれる。
次に、リソグラフィーにより、活性層13上に所定部分が開口したレジストパターン(図示せず)を形成した後、このレジストパターンをマスクとしてドライエッチングすることにより活性層13を所定の形状にパターニングする。この後、レジストパターンを除去する。
次に、アクセス層12から成長基板を除去する。このためには、例えば、成長基板を裏面側から研磨したり、レーザ剥離法などによりアクセス層12から成長基板を剥離したりする。また、成長基板をアクセス層12と同種の高濃度n型半導体からなる基板とした場合には基板の除去工程は無くても構わない。
次に、成長基板の除去により露出したアクセス層12の裏面の全面にスパッタリング法などによりオーミック金属を堆積させてカソード電極15を形成する。この後、必要に応じて、アニールを行うことによりカソード電極15のオーミック接触特性を改善する。
次に、活性層13をリソグラフィーおよび塩素ガスなどを用いたプラズマエッチングによりエッチングし、所定の形状にパターニングする。
次に、リソグラフィーにより、活性層13の中央部に対応する部分が開口した所定の平面形状を有するレジストパターンを形成した後、スパッタリング法などにより全面にTiN層、密着層形成用の金属および抵抗低減用金属層形成用の金属を順次堆積させる。次に、レジストパターンをその上に堆積したTiN層、密着層および抵抗低減用金属層とともに除去する。こうして、活性層13上にTiN層、密着層および抵抗低減用金属層からなるドット形状のアノード電極14が形成される。
次に、従来公知の方法により、一列の各ダイオード部のアノード電極14間を接続するように金属配線であるエアブリッジ配線16を形成する。
以上により、図39AおよびBに示すような目的とするマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードが製造される。
次に、このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードにおけるアクセス抵抗の低減について3次元的な広がり抵抗を考慮して考察する。このマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードの実際の断面構造は図40Aに示す通りであるが、アクセス抵抗の計算のために図40Bに示すモデルを考える。アクセス抵抗部が活性層13の下部の半球状の部分であると考えると、図13に示したアノード−カソード間距離bに相当する距離は互いに隣接する活性層13間の距離(あるいは互いに隣接するアノード電極14間の距離)の半分と考えることができる。図40Bに示すように、アクセス抵抗は、半径aの半球から半径a+bの半球までの部分の抵抗と近似して計算する。これに対して、アノード電極14の平面形状がフィンガー型である場合は、半径aの半円柱から半径a+bの半円柱までの部分の抵抗と近似して計算する。
アノード電極14の平面形状がフィンガー型である場合のフィンガー長をLとすると、円柱座標を用いてアクセス抵抗は次式のように求められる。
一方、アノード電極14の平面形状がドット状である場合は、球座標を用いてアクセス抵抗を計算すると
となる。
アノード電極14の総面積を同じとして、アノード電極を円形に分割する場合とフィンガー状に分割する場合とを比較する。
アノード電極14の総面積をSとし、アノード電極を半径aの円形に分割する場合、ドット型では
となる。
フィンガー型では、アノード電極を長さ
で幅2aのストライプ状に分割するとすると、分割数は
となる。
上記の式を用いて行った計算結果を図41に示す。ここでは、アノード電極14の総面積Sを10000μm2 とし、アクセス部の比抵抗をGaNなどで実現可能な最小抵抗の10mΩcmとした。カソード電極15は、第2の実施の形態によるマルチドット型ショットキーバリアダイオードと異なり、アクセス層12の下面(アクセス層12が導電性半導体基板上に設けられる場合には導電性半導体基板の裏面)に設けられているが、仮想的に表面の活性層13とアクセス層12との境界からa+bの深さにあり、それより遠い部分は有限の抵抗のn型層でつながっていると考えられる。
図41から判るように、フィンガー型に比べてドット型は常に抵抗が小さく、最小パターン寸法が2μmの場合、ドット間距離が8μm(b=4μm)の場合で57%、40μmで40%程度と小さくなる。
また、ドットの形状を長円形の縦横比で規定した場合の長いフィンガーに比べた単位アノード面積あたりの抵抗(規格化抵抗)で比較した図を図42に示す。図42から判るように、b、すなわちアノード電極14間距離の半分を大きくすると、真円での抵抗は大きく下がるが、その効果は縦横比5でほぼ半減する。このことから、この場合も、縦横比は5以下であることが望ましいことが判る。
次に、このマルチドット型ショットキーバリアダイオードにボンディングパッドを設ける方法としては、例えば次のような方法がある。一つの方法では、エアーブリッジ配線16の上にさらにパッシベーション層を設け、その上にボンディングパッドを設ける。もう一つの方法では、図43に示すように、マルチドット型ショットキーバリアダイオードのエアーブリッジ配線16側をパッケージ基板111に載せ、カソード電極15上にボンディングパッドを設ける。
この第8の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードによれば、第1および第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
〈第9の実施の形態〉
[GaN系ショットキーゲート電界効果トランジスタ]
第9の実施の形態においては、GaN系ショットキーゲート電界効果トランジスタについて説明する。
図44はこのGaN系ショットキーゲート電界効果トランジスタを示す。図44に示すように、このGaN系ショットキーゲート電界効果トランジスタにおいては、絶縁基板121上にバッファ層122を介してGaN系半導体層123およびこのGaN系半導体層123よりもバンドギャップが大きいGaN系半導体層124が順次積層されている。絶縁基板121としては、例えばc面サファイア基板が用いられる。GaN系半導体層123は例えば真性(i型)GaN層、GaN系半導体層124は例えばi型AlGaN層である。i型GaN層の厚さは例えば3μmである。i型AlGaN層の厚さは例えば24nm、Al組成比は24%である。GaN系半導体層123とGaN系半導体層124との界面の近傍の部分のGaN系半導体層123中には2DEG125が形成されている。GaN系半導体層124上にはこのGaN系半導体層124とショットキー接触してゲート電極126が設けられている。ゲート電極126は、第1の実施の形態によるGaN系ショットキーバリアダイオードのアノード電極14と同様な構成を有する。また、GaN系半導体層124上のゲート電極126の両側の部分にはそれぞれソース電極127およびドレイン電極128がGaN系半導体層124とオーミック接触して設けられている。ソース電極127およびドレイン電極128は、例えば、Ti/Al/Ti/Au電極からなる。
この第9の実施の形態によれば、ゲート電極126としてTiN/Ni/Au電極を用いているので、ゲート電極としてNi/Au電極を用いた従来のGaN系ショットキーゲート電界効果トランジスタに比べてしきい値電圧が例えば1/2程度と低い高性能のGaN系ショットキーゲート電界効果トランジスタを実現することができる。
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の第1〜第9の実施の形態において挙げた数値、材料、構造、形状などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、構造、形状などを用いてもよい。また、例えば、必要に応じて、上述の第1〜第5の実施の形態のうちの二以上を組み合わせてもよい。さらに、第6の実施の形態によるマイクロ波電力伝送システムにおける整流用ダイオード34あるいは第7の実施の形態による電源線用無線接続コネクタにおけるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオード100、103として第8の実施の形態によるマルチドット型GaN系ショットキーバリアダイオードを用いてもよい。