JP5677792B2 - 織編物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、織編物の製造方法に関する。
従来から、染色性の異なる2種類の糸条を混繊して得られた混繊糸を用いることにより、織編物に杢外観を発現させることが知られている。さらに、織編物に対して、杢外観とともに所望の質感、風合いなどを付与することが検討されている。例えば、特許文献1には、サイドバイサイド型または芯鞘型のポリエステル系複合繊維とポリアミド繊維とからなる混繊糸が開示されている。特許文献1には、このような混繊糸を用いることで、織編物に杢外観とともにストレッチ性を付与することができると記載されている。
また、特許文献2には、互いに染色性の異なる2種類のポリエステル糸条からなり、一方の糸条がポリエステルシックアンドシンヤーンである混繊糸が開示されている。特許文献2には、このような混繊糸を用いることで、織編物に、杢外観とともに独特のスパナイズ感を付与することができると記載されている。
特許文献1や特許文献2から明らかなように、織編物を構成する糸条を特定のものとすることで、杢外観、所望の質感、風合いなどを織編物に付与することができる。
特開2008−285786号公報 特開2004−285501号公報
しかしながら、上述のような杢外観、質感、風合いなどの特性は、織編物を構成する糸条(構成糸条)を、織編物となすことで初めて表現されるものであり、構成糸条は製織編工程に付されることが必要である。製織編工程には、糸条の巻き取り工程や引き出し工程といった複数の工程が存在し、各工程において該構成糸条がガイドを通過するに伴い摩擦を受ける。ここで、特許文献1や2記載の混繊糸を構成糸条として用いた場合には、摩擦を受けることにより、繊維同士が絡みあっている部位(混繊部)が解け、すなわち開繊してしまうという問題があった。
構成糸条における混繊部が開繊することなく混繊状態が適正に維持されている場合は、織編物はピッチの比較的短い杢外観を示す。しかしながら、構成糸条における混繊部が開繊している場合は、杢外観のピッチが長くなり、いわゆる流れ杢となり、織編物の商品価値が大幅に低下するという問題があった。
加えて、織編物の質感、風合いは、混繊糸の混繊状態など、全体構造に由来するところが大きい。よって、混繊部が開繊することで混繊状態が適正に維持されない場合は、杢外観のみならず、織編物に所望の質感、風合いを付与することができなくなるという問題があった。
このような問題を改善するために、製織編工程における構成糸条の張力を適正に調整し、混繊部の開繊を抑制することが考えられる。しかしながら、かかる場合は、張力を調整するための設備が必要となるため、コストの観点からは好ましいものではない。
また、混繊条件を適宜調製すること(例えば、繊維を絡ませるための空気流の量を増やす、空気流によって長い時間繊維を絡ませる)などの手段により混繊状態をより強固にすることで、開繊を抑制することが考えられる。しかしながら、混繊状態を強くすると、他の部位にも混繊の効果が波及し、構成糸条が互いに密着するため、織編物の中に空気を溜め込むことが困難になる。結果として、このような混線糸から得られた織編物は、ふくらみ感、ソフト感に乏しいものとなり、織編物の風合いの観点からは、好ましいものではない。
従って、本発明の目的は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、製織編工程を通じて良好な混繊状態を維持することで、コストを増加させることなく、ナチュラル感に富む杢外観、所望の質感や風合いを兼備するトップ杢調の織編物を提供しようとすることである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、融着成分を用いて混繊部を一体化することで、ガイドなどを通過させても混繊状態を良好に維持できる混繊糸が得られることを見出した。さらにこのような混繊糸を用いることにより、コストを増加させることなく、フィラメント数や単糸繊度によらず、織編物にナチュラル感に富む杢外観、優れた質感や風合いを与えることができることを見出し、本発明に到達した。
より具体的には、芯鞘型繊維糸条と、セルロース系繊維糸条とを混繊し、後に前記芯鞘型繊維糸条を構成する繊維の鞘成分に配される融着成分の熱融着作用を発現させて、混繊部の少なくとも一部分を一体化させることで融着混繊糸を得、そして、この融着混繊糸を用いてなる予備的な織編物に対し、必要により乾熱処理し、後にアルカリ剤とアルカリ減量促進剤を併用したアルカリ減量処理を施せば、前記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)織編物の製造方法であって、繊維形成成分が芯部に配されるとともに前記繊維形成成分よりも低融点である融着成分が鞘部に配された繊維からなる芯鞘型繊維糸条Aと、セルロース系繊維糸条Bとを混繊することで混繊部を導入した後に、該混繊部の少なくとも一部分を前記融着成分の熱融着作用により一体化させることで融着混繊糸を得、しかる後に、この融着混繊糸を用いて予備的な織編物を製造し、この予備的な織編物にアルカリ剤とアルカリ減量促進剤とを併用したアルカリ減量処理を施して融着成分の少なくとも一部を除去することを特徴とする織編物の製造方法
本発明では、芯鞘型繊維糸条を構成する繊維の鞘成分に配された融着成分の熱融着作用を利用し、混繊部の少なくとも一部分が一体化した融着混繊糸を用いる。この一体化により、該混繊糸においてガイド通過に伴う摩擦から混繊部を守ることができ、コストを増加させることなく混繊部の開繊を大幅に抑制することができる。そして、このような融着混繊糸から構成された織編物を、乾熱処理、およびアルカリ剤とアリカリ減量促進剤とを併用したアルカリ減量処理に付することで、該織編物を染色した場合に、フィラメント数や単糸繊度によらず、ナチュラル感に富む杢外観、所望の質感を与えることができる。すなわち、商品価値が非常に高い織編物を得ることができる。
さらに、本発明の製造方法によれば、アルカリ剤とアリカリ減量促進剤とを併用したアルカリ減量処理に付することで、アルカリに対し強度低下の著しいセルロース系繊維糸条を用いていても、その強力低下を抑えつつ、繊維同士をつなぐ融着成分を効率よく除去できるという効果を奏する。従って、最終的に得られる織編物において、品位、物性の他、風合い、質感等の向上が期待できるようになる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の織編物の製造方法では、まず、繊維形成成分が芯部に配され、かつ繊維形成成分よりも低融点の融着成分が鞘部に配された繊維からなる芯鞘型繊維糸条Aと、セルロース系繊維糸条Bと用いて融着混繊糸を作製する。
まず、芯鞘型繊維糸条A(以下、単に「糸条A」と称する場合がある)について以下に説明する。
糸条Aを構成する繊維は、断面が芯鞘構造を有するものであり、熱によって溶融する融着成分が鞘部に配されたものである。芯部には、鞘部の融着成分より高い融点を有する成分(繊維形成成分)が配される。そして、融着成分の熱融着作用により、混繊部において、鞘部が溶融した後に残存する芯部と後述のセルロース系繊維糸条Bとが一体化する。なお、得られる織編物の風合いをソフトにする観点から、溶融した後固まった融着成分は、この融着混繊糸を織編物となした後に除去されることが好ましい。
糸条Aを構成する繊維の鞘部に配される成分としては、特に限定されるものでないが、織編物とした後に、効率よく融着成分を除去できる観点から、ポリエステル系樹脂が好ましい。具体的には、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分のうちの少なくとも一成分を共重合したポリエステル系樹脂であることが好ましい。
なかでも、結晶化速度が速く、かつ紡糸時だけでなく融着混繊糸とされた後においても効率よく冷却できる観点から、テレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分からなるポリエステル系樹脂が好ましい。なお、脂肪族ラクトン成分としては、汎用性の観点から、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、ε−カプロラクトンが特に好ましい。
ポリエステル系樹脂が鞘部に配される場合、融着混繊糸を作製する際に効率よく工程を進めることが可能である観点から、樹脂は、融点として130〜200℃であることが、ガラス転移点として20〜80℃であることが、さらに結晶化開始温度として90〜130℃であることがそれぞれ好ましい。
一方、糸条Aを構成する繊維の芯部に配される成分としては、特に制限されないが、後に得られる織編物の寸法安定性及び強度の観点から、ポリエステル系樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが好適に用いられる。これらは1種単独で、もしくは2種以上組み合わされて用いられる。
また、上記繊維において、芯部に配される成分としては、鞘部のみを効率よく溶融させる観点から、鞘部に配される成分より融点が30℃以上高い成分を用いることが好ましい。特に、(織編物の寸法安定性)の観点から、融点が220〜280℃の範囲にある成分を芯成分として用いることがより好ましい。
芯成分および/または鞘成分としてポリエステル系樹脂が用いられる場合、本発明の効果を損なわない範囲で、該ポリエステル系樹脂に他の成分が共重合されていてもよい。共重合成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンギカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、4−ヒドロキシ安息香酸、e−カプロラクトン、りん酸、グリセリン、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチルプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシ)フェニル}プロパンなどが挙げられる。
上記糸条Aを構成する繊維において、芯部および鞘部を構成する成分の質量比は、(芯部):(鞘部)=40:60〜80:20であることが好ましく、50:50〜70:30であることがより好ましい。芯成分の比率が40質量%未満になると、芯成分に由来する繊維の単糸繊度が細くなり、織編物とした場合にハリやコシが低減する場合がある。加えて、後述のアルカリ減量処理後、混繊糸において、セルロース系繊維糸条の含有割合が大幅に増える結果、織編物において明瞭な杢外観が発現し難くなる。一方、芯成分の比率が80質量%を超えると、融着成分が少なくなるため、芯成分に由来する繊維から構成される糸条と、糸条Bとを融着成分を介して一体化させることが困難な場合がある。
糸条Aの形態としては、マルチフィラメント、モノフィラメントいずれの形態であってもよい。また、糸条Aの繊維単糸断面としては、丸、三角、十字などいずれの形状であってもよい。また、糸条Aの単糸繊度としては、織編物にナチュラル感ある杢外観を与える観点から、0.01〜100dtexが好ましく、1.1〜10dtexであることがより好ましい。
なお、杢外観の観点から、糸条Aの単糸繊度が比較的小さい場合(例えば、10dtex未満の場合)はマルチフィラメントを選択することが好ましく、糸条Aの単糸繊度が比較的大きい場合(例えば、20dtex以上の場合)はモノフィラメントを選択することが好ましい。
セルロース系繊維糸条B(以下、単に「糸条B」と称する場合がある。)について説明する。
糸条Aとともに用いられる繊維糸条は、織編物とした場合に適度なドレープ感を発現させる観点から、セルロース系であることが必要である。セルロース系繊維糸条Bとしては、従来公知のものであれば特に制限されず、例えば、レーヨン、リヨセル、綿などが好ましく用いられる。
以上から、本発明における好ましい糸条Aと糸条Bとの組み合わせとしては、糸条Aがポリエステル系であり、糸条Bがセルロース系である。
糸条Aと糸条Bからなる融着混線糸について説明する。
本発明において、混繊糸はいわゆるインターレース混繊糸をいう。インターレース混繊糸中には、その長さ方向に沿って、混繊している部位(以下、「混繊部」と称する場合がある)と、混繊していない部位とが交互に混在する。
本発明では、インターレース混繊糸の特徴を利用することで、織編物にナチュラルな杢外観を付与することが可能となる。つまり、混繊糸において、混繊していない部位は、繊維束に近い形態のまま存在している。そのため、織編物となした後、染色することで、その部位を筋状に視認することができるようになる。
混繊糸において、織編物とした場合にナチュラル感に富む杢外観を発現させる観点から、インターレース混繊部の個数は40〜100個/mであることが好ましく、60〜80個/mであることがより好ましい。混繊部の個数が40個/m未満であると、杢外観が流れ杢となる場合があり、一方、混繊部の個数が100個/mを超えると、杢目が過度に細かくなる場合がある。いずれの場合も織編物の商品価値を低下させてしまうため好ましくない。
混繊部の個数を上記の範囲とするためには、例えば、混繊時の糸速に応じて混繊ノズルのエアー圧を所定範囲に設定する方法などを用いることができる。混繊には市販されている混繊ノズルが用いられ、ノズルの種類により混繊条件を調整することができる。このような条件の一例を挙げると、糸速が300m/分未満の場合は、エアー圧が50〜300kPaであることが好ましく、糸速が300m/分以上である場合は、エアー圧が100〜500kPaであることが好ましい。
上記の混繊糸は、糸条Aと糸条Bとの染色性差を発現させることにより、フィラメント数や単糸繊度によらず、優れた杢効果を発することが可能であるが、必要に応じて、フィラメント数や単糸繊度を適宜調整してもよい。
糸条Aおよび糸条Bを用いることにより混繊糸を得る方法について、その一例を述べる。
まず、糸条Aを作製する。糸条Aは公知の複合紡糸装置を用いて製造することができる。例えば、前述のポリエステルなどの芯部および鞘部を構成する材料を、複合紡糸装置に投入し、引取速度1000〜4500m/分の範囲で複合紡糸した後、所定の倍率に延伸することで、糸条Aを得ることができる。
次いで、糸条Aと糸条Bを同時に公知の装置を用いて混繊し、40〜100個/m、好ましくは60〜80個/mのインターレース混繊部を導入する。このとき、両糸条の繊維素材、混繊時のエアー圧などは前述の通りである。
糸条Aと糸条Bの混繊率(質量比)は、特に限定されるものでないが、優れた杢外観の観点から、(糸条A):(糸条B)=5:95〜50:50であることが好ましく、10:90〜30:70がより好ましい。
そして、得られた混繊糸を熱処理することで、糸条Aを構成する繊維の鞘部に配された融着成分の熱融着作用を発現させる。これにより、該糸条Aを構成する繊維の鞘部が溶融し、残存する芯部と、糸条Bとが、混繊部の少なくとも一部分において融着成分を介して一体化する。
混繊糸の熱処理には、市販の糸加工用ヒーターを用いるのが一般的であり、熱処理条件としては、温度180〜220℃が好ましい。
上記の融着混繊糸により得られた織編物を後述する後加工に付すことにより、ナチュラル感に富む杢外観を発現させることができる。杢外観を発現するためには、製織編工程において混繊糸がガイドなどを通過しても、混繊状態が良好に維持されていることが必要となる。すなわち、混繊糸中の混繊部の開繊が抑制されていることが必要となる。混繊部が開繊してしまうと、織編物の杢外観はピッチの長い流れ杢となってしまう。そこで、本発明では、混繊糸中の混繊部の少なくとも一部分を強固に一体化させておくことで、混繊糸のガイド通過に伴う摩擦から混繊部を守ることができ、混繊部の開繊を大幅に抑制することができるものである。
なお、本発明においては、混繊糸中の混繊部の少なくとも一部分を一体化させることが必要であるが、混繊の弱い部分については、必ずしも一体化させる必要はない。
公知技術によれば、上述のように混繊部の開繊を抑制するためには、混繊糸の張力を調整したり、繊維を絡ませるための空気流の量を増やす、空気流によって長い時間繊維を絡ませたりするなどの手段により混繊部を強化する方法も考えられる。しかし、このような方法のみで混繊部を一体化させる場合には、コストアップに繋がったり、得られる織編物の風合いが低下したりするという問題が生じる。そこで、本発明では、融着成分を使用して混繊部を一体化させることが必要なのである。
融着混繊糸において、融着成分により一体化した混繊部の融着強度について以下に述べる。本発明では、混繊部の融着強度の大小を、「混繊糸を一定速度で伸長させたとき、混繊がどの程度解けるか」により判断する。インターレース混繊糸を素早く引き伸ばすと、混繊部の融着強度により混繊が解けるため、本発明ではこの点を利用して混繊部の融着強度を判断するものである。
具体的には、引張り速度20cm/分で試料(長さ:20cm)を、オートグラフ(島津製作所社製)を用いて定速伸長し、試料の元の長さに対して5%伸長したときの開繊状態を観察する。伸長後の糸条における好ましい開繊状態は、(i)5cmを超えて連続して開繊している部位がなく、かつ(ii)連続して3〜5cm開繊している部位の数が1mあたり5箇所以下である状態である。伸長後の糸条が、この(i)と(ii)の2要件のいずれかを満足しないときは、織編物としたときに、杢外観が流れ杢となる傾向にある。
上記の融着混繊糸を公知の方法を用いて、予備的な織編物を得る。本発明においては、得られた予備的な織編物をアルカリ減量するが、減量に先立ち特定条件下で乾熱処理工程に付することが好ましい。この理由は、以下の通りである。すなわち、上述のようにして得られた予備的な織編物は、この先アルカリ減量処理工程や染色工程等に代表される多くの工程に付されるため、予め寸法安定性を与えておくのがよい場合がある。つまり、寸法安定性を与えておくことで、加工途中の織編物の性量が制御しやすくなり、最終製品として得られる織編物の諸特性も向上することになるからである。また、予備的な織編物を乾熱処理することで、混繊糸内で融着成分の再融着が起こり、結果として織編物中に融着成分が均一に分布するようになる。これにより、後のアルカリ減量を斑なく進めることができるようになり、織編物の品位、物性を向上させる点で有利となる。
上記の乾熱処理の条件は、織編物の組織や厚みにより適宜選択できるが、処理温度は160℃〜210℃であることが好ましく、さらに好ましくは170℃〜190℃である。上記処理温度が160℃未満であると、織編物の組織や厚みによっては、寸法安定性が安定しない場合がある。一方、処理温度が210℃を超える場合には、織編物の表面が黄変したり、構成糸条が乾熱によりダメージを受けたりすることに起因して、最終製品として得られる織編物の強力が低下する場合がある。
乾熱処理における処理時間は、10〜210秒であることが好ましく、30〜120秒であることがより好ましい。処理時間が10秒未満である場合には、処理時間が短いため十分な乾熱効果(熱セット効果)が得られない場合があるため、最終製品として得られる織編物は寸法安定性に劣る場合がある。一方、処理時間が210秒を越えると処理時間が長いため、生地表面に黄変が起こったり生地が硬くなったりし、織編物の品位が低下する場合がある。
本発明では、上記予備的な織編物を、アルカリ剤とアルカリ減量促進剤を併用したアルカリ減量処理工程に付することで、最終製品としての織編物を得ることができる。アルカリ減量処理を施すことにより、織編物に含まれる、繊維同士をつなぐ融着成分(糸条Aを構成する繊維から溶け出し、後に固まった成分)を除去することができ、質感や風合いを好ましいものとすることができる。加えて、織編物にポリエステル繊維が使用されている場合には、アルカリ減量処理することで、ポリエステル繊維の表面を減量し、その単糸繊度を細くすることができ、ソフト感のある風合いが発現するという利点がある。
なお、本発明においては、必ずしも繊維同士をつなぐ融着成分の全てを除去する必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて当該融着成分の一部が残っていてもよい。織編物に当該融着成分が残り過ぎていると織編物の風合いが硬いものとなるが、当該融着成分が適度に残されていると、シャリ感、清涼感などむしろ好ましい風合いを発する場合がある。当該融着成分の除去量としては、全融着成分に対し50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。なお、当該融着成分の除去量は、織編物断面を顕微鏡で観察することにより求める。
アルカリ剤に加えて、アルカリ減量促進剤を併用する理由を以下に述べる。レーヨン繊維やキュプラ繊維等のように、アルカリに対して強力低下を引き起こしやすい繊維を併用する場合、アルカリ剤だけを用いて織編物中の上記融着成分を効率よく除去できる条件にてアルカリ減量を行うと、得られた織編物において、構成糸の糸切れなどにより、穴が開いたり品位や物性に問題が生じたりする場合がある。
そこで、本発明では、アルカリ減量処理時にアルカリ減量促進剤を併用する。そうすることで、減量速度を上げることができ、結果、目的とする減量効果を得るために必要なアルカリ濃度を低減させ、かつアルカリ減量処理時間も大きく短縮することができる。そのため、アルカリに対して弱いセルロース系繊維糸条Bの強力低下を抑制することができ、品位や物性の安定した織編物を得ることができる。
アルカリ減量処理に用いられるアルカリ剤としては特に限定されないが、取り扱い性や安価である観点から、水酸化ナトリウムが好ましい。また、アルカリ減量促進剤は、特に限定されず、第4アンモニウム塩を主体とするものや、窒素化合物を主成分とするものなどが挙げられる。
本発明において、アルカリ減量処理工程におけるアルカリ濃度は20%〜150%o.w.eであることが好ましく、さらに好ましくは、30%〜150%o.w.eである。アルカリ濃度が20%o.w.e未満であると、融着成分の除去が十分でない場合がある。一方、アルカリ濃度が150%o.w.eを超えると、減量効果が大きいため、目的とする融着成分の除去以上に、本来減量する必要がない成分にまで減量が及ぶことや、セルロース系繊維糸条Bがアルカリ減量処理によりダメージを受けることにより、強力低下を引き起こす場合がある。
アルカリ減量促進剤の濃度は、1〜10g/Lであることが好ましく、3〜7g/Lであることがより好ましい。1g/L未満であると、本発明において推奨される減量処理時間(15〜100分)では融着成分を十分に除去できない場合がある。この場合、減量時間が長くすれば、融着成分を十分に除去できるが、織編物がアルカリ剤に長くさらされる結果、セルロース系繊維糸条Bにおいて強力低下が起こる場合がある。一方、10g/Lを超えると、本発明において推奨される減量処理時間では減量が必要以上に進みすぎる場合がある。この場合、減量時間を短くすれば減量の進行を抑えることができるが、短時間では均一かつ安定してアルカリ減量処理を施すことができない場合がある。
アルカリ減量処理の浴比は、質量比で、(織編物):(アルカリ減量処理水)=1:5〜1:100であることが好ましく、1:5〜1:30であることがより好ましい。浴比が1:5未満の場合には、アルカリ減量処理水が少ないために、減量斑を起こす場合がある。一方、浴比が1:100を超える場合は、減量効果としては十分であるが、コストアップとなる場合がある。
アルカリ減量処理温度は、70〜120℃であることが好ましく、90〜105℃であることがより好ましい。アルカリ減量処理温度が70℃未満であると、減量速度が遅くなり、本発明において推奨される減量処理時間では融着成分を十分に除去できない場合がある。この場合、減量時間が長くすれば、融着成分を十分に除去できるが、織編物がアルカリ剤に長くさらされる結果、セルロース系繊維糸条Bの強度低下を引き起こす場合がある。一方、120℃を超えると、減量速度は速くなるが処理時間が短すぎて、減量が不均一になる場合がある。
アルカリ減量処理時間は、15〜100分であることが好ましく、30〜60分であることがより好ましい。アルカリ減量処理時間が15分未満であると、処理時間が短すぎて減量が不均一になる場合がある。一方、100分を超えると、アルカリ剤によりセルロース系繊維糸条Bへのダメージが大きくなり、強力低下が起こる場合がある。
本発明の製造方法によれば、特定の条件で予備的な織編物をアルカリ減量処理することで、アルカリに対し強度低下の著しいセルロース系繊維糸条Bの強力低下を抑えつつ、繊維同士をつなぐ融着成分を効率よく除去できる。従って、最終的に得られる織編物において、品位、物性の他、風合い、質感等の向上が期待できるようになる。
セルロース系繊維糸条Bの強力低下の指標として、下記の式にて算出される強力保持率を採用するとよい。本発明では、セルロース系繊維糸条Bの強力保持率が30%以上であることが好ましく、50%以上がさらに好ましい。
(強力保持率)(%)=(アルカリ減量処理後の糸条の強力/アルカリ減量処理前の糸条の強力)×100
なお、アルカリ減量処理前の糸条の強力およびアルカリ減量処理後の糸条の強力は、JIS L 1013に定義される引張強さに従って測定された値である。
アルカリ減量処理した本発明の織編物を染色することにより、織編物に杢外観を発現させることができる。染色の際に用いられる染料は、特に制限されず、公知慣用のものを任意に選択することができる。染料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
染色においては、明瞭な杢外観を得ることを目的として、混繊糸を構成する各糸条を別種類の染料で色目が異なるように染料する;一方の糸条のみを染色し他方は染色しないように染色する;という手段を採用してもよい。例えば、混繊糸が、ポリエステル系樹脂を主成分とする芯鞘型繊維糸条Aと、セルロース系繊維糸条Bとの組み合わせから構成されている場合においては、糸条Aを染める染料として分散染料を用い、糸条Bを染める染料として反応染料を用い、両染料の色目を異なるものとすることにより、織編物に明瞭な杢外観を発現させることができる。染色後は、必要に応じて織編物をファイナルセットしてもよい。
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(実施例1)
結晶性ポリエステル系樹脂(日本エステル社製)(極限粘度:0.78、融点:181℃、ガラス転移点:48℃)(1,4ブタンジオールを50mol%共重合)と、PET(日本エステル社製)(極限粘度:0.61、融点:256℃)を準備した。なお、融点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC−2型」)を用いて、昇温速度20℃/分で測定した値である。
上記の結晶性ポリエステル系樹脂とPETを、質量比で、(結晶性ポリエステル系樹脂):(PET)=1:1の割合で複合紡糸装置に投入し、温度270℃で同時に紡糸、延伸することにより、鞘部に結晶性ポリエステル系樹脂を、芯部にPETを配する繊維からなる芯鞘型繊維糸条Aを得た。得られた糸条の繊度は、28dtex/12fであった。
次いで、糸条Bとしてのレーヨンフィラメント糸条(サイボー社製)(繊度:84dtex/30f)と、上記の糸条Aとを、インターレース混繊装置(石川製作所製、商品名「STPワインダー」)を用いて、糸速100m/分、エアー圧150kPaでインターレース混繊した。その後、熱ヒーターを用いて温度200℃で熱処理することで、糸条Aを構成する繊維の鞘部を溶融させ融着混繊糸を得た。この混繊糸では、糸条Aを構成する繊維の鞘部に配されたポリエステル系樹脂が融着成分となり、混繊部が一体化されていた。また、得られた融着混繊糸のインターレース混繊部は、60個/mであった。さらに、この融着混繊糸において、引張速度20cm/分で5%定速伸長させたときの、連続して3〜5cm開繊している部位の数は、2個/mであり、5cmを超えて連続して開繊している部位は認められなかった。すなわち、混繊部の融着強度は良好であった。
次に、丸編機(福原精機社製、商品名「LPJ−H33」)を用いて、針密度を28ゲージとし、上記で得られた融着混繊糸を製編し、スムース組織の編物を得た。そして、得られた編物を、ピンテンターにて乾熱処理(温度:190℃、時間:60秒)した後に、40%o.w.eのアルカリ剤(水酸化ナトリウム)、2g/Lのアルカリ減量促進剤(窒素化合物、一方社製、商品名「DYK−1125」)を用いて、浴比1:50、温度98℃で60分間アルカリ減量処理を施した。次いで、2%omfの反応染料(三井BASF社製、商品名「Basilen F Black F−B」)、30g/Lの無水硫酸ナトリウム、10g/Lのソーダ灰を用いて得られた編物を染色した。
得られた編物は、糸条Bのみが染色され、明瞭な杢外観が発現していた。また、アルカリ減量処理により、融着成分のポリエステル系樹脂が除去されているとともに、PET表面の一部が減量されていた。そのため、ソフト感に非常に富むものであった。加えて、アルカリ減量処理によるレーヨン糸条の強力保持率は50%であり、レーヨン糸条の強力も維持されていた。
(実施例2)
インターレース混繊時のエアー圧を150kPaから30kPaに変更した以外は実施例1と同様にした。混繊糸中に、混繊部は35個/m形成されていた。この混繊糸を用いて編物を作製したところ、実用に耐えうるものではあったが、編地の杢外観が若干流れ杢となった。
(実施例3)
混繊時の糸速を100m/分から30m/分に変更した以外は、実施例1と同様にした。混繊糸中に混繊部は105個/m形成されていた。この混繊糸を用いて編物を作製したところ、実用に耐えうるものではあったが、若干杢目が細かくなった。
(実施例4および5)
アルカリ剤の濃度を40%o.w.eに代えて15%o.w.eとした以外は実施例1と同様に行い、実施例4とした。また、アルカリ剤の濃度を40%o.w.eに代えて160%o.w.eとした以外は実施例1と同様に行い、実施例5とした。両編物とも、杢外観は良好であったものの、実施例4では、融着成分が十分に除去できなかったため(融着成分除去量:36%)、得られた編物は、やや風合いの硬いものであった。一方、実施例5では、減量が進みすぎた結果、レーヨン糸条の強力保持率が27%となり、強度低下が認められた。
(実施例6および7)
アルカリ減量促進剤の濃度を2g/Lに代えて0.8g/Lとした以外は実施例1と同様に行い、実施例6とした。また、アルカリ減量促進剤の濃度を2g/Lに代えて10g/Lとした以外は実施例1と同様に行い、実施例7とした。両編物とも、杢外観は良好であったものの、実施例6では、融着成分が十分に除去できなかったため(融着成分除去量:43%)、得られた編物は、やや風合いの硬いものであった。一方、実施例7では、融着成分のみならず編物を構成する繊維自身にも減量が及びすぎた結果、レーヨン糸条は勿論、織編物にもやや強度低下が認められた。
(比較例1)
アルカリ減量処理時に、アルカリ減量促進剤を用いずにアルカリ剤のみを用い、減量時間を120分間とした以外は、実施例1と同様にした。糸条Aの鞘部の減量率は60%であったが、レーヨンの強力保持率は、21%となり、実用に耐えうるものではなかった。
(比較例2)
糸条Aを作製する際の熱ヒーター使用時の温度を200℃から170℃に変えた以外は、実施例1と同様にした。糸条Aの鞘部に配されたポリエステル系樹脂が十分に溶融せず、混繊糸において混繊部を一体化させることができなかった。この混繊糸を製編工程に付したところ、ガイド通過時に受ける摩擦により、混繊糸のいたるところで開繊が見られた。また、染色加工を経て得られた編地の杢外観も、ピッチの長い流れ杢となり、実用に耐えうるものではなかった。
(比較例3)
結晶性ポリエステル系樹脂のみを用いて通常の紡糸手段を採用する以外、実施例1における糸条Aと同様の手法により糸条を作製し、以降は、実施例1と同様に行い、編物を得た。得られた編物は、結晶性ポリエステル系樹脂が除去され、レーヨン糸条のみから構成されるものであったため、杢外観は認められなかった。

Claims (1)

  1. 織編物の製造方法であって、繊維形成成分が芯部に配されるとともに前記繊維形成成分よりも低融点である融着成分が鞘部に配された繊維からなる芯鞘型繊維糸条Aと、セルロース系繊維糸条Bとを混繊することで混繊部を導入した後に、該混繊部の少なくとも一部分を前記融着成分の熱融着作用により一体化させることで融着混繊糸を得、しかる後に、この融着混繊糸を用いて予備的な織編物を製造し、この予備的な織編物にアルカリ剤とアルカリ減量促進剤とを併用したアルカリ減量処理を施して融着成分の少なくとも一部を除去することを特徴とする織編物の製造方法。
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