JP5673669B2 - 含硫化合物含量が増加した酵母、そのスクリーニング方法、及び培養方法 - Google Patents
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Description
Sharmaらの仮説とは異なり、本発明者らは、酵母の赤色を指標にすれば、グルタチオンを高含有する酵母がスクリーニング可能であることを見いだし、また、グルタチオンを含有する含硫化合物の細胞内含有量が、セレン酸感受性と、アデニン要求性の付与又はメチオニンを添加した最少培地での培養に起因する赤色呈色の特性との組み合わせにより増加可能であることを見出し、それにより本発明を完成させた。
本発明の別の態様は、前記培地はメチオニンが添加された培地である、上記の酵母を提供することである。
本発明の別の態様は、アデニン要求性の付与により赤色を呈色する、上記の酵母を提供することである。
本発明の別の態様は、アデニン要求性がADE1遺伝子又はADE2遺伝子の改変により付された、上記の酵母を提供することである。
本発明の別の態様は、さらに、ADE4遺伝子またはADE8遺伝子に変異が導入されたことにより、前記培地上で白色を呈するようになった、上記の酵母を提供することである。
本発明の別の態様は、セレン酸感受性がMET25遺伝子の発現を増強する改変により付された、上記の酵母を提供することである。
本発明の別の態様は、含硫化合物がシステイン、γ−グルタミルシステイン、グルタチオン、システニルグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の化合物である上記の酵母を提供することである。
本発明の別の態様は、菌体量を増加させるために細胞内のアデニンが充足する状態で酵母を培養する工程と、細胞内の含硫化合物含量を増加させるために細胞内のアデニンが不足する状態で酵母を培養する工程を含む、上記の酵母の培養方法を提供することである。
本発明の別の態様は、アデニン要求性およびセレン酸感受性を有する酵母に遺伝子改変処理を施す工程、アデニンが不足した時に酵母が赤く発色する培地に改変酵母をスプレッドし、酵母コロニーを形成する工程、及び改変前よりも赤く発色する酵母を選択する工程を含む、細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母のスクリーニング方法を提供することである。
本発明の別の態様は、セレン酸感受性を有する酵母に遺伝子改変処理を行う工程、最小培地にメチオニンを追加した培地に改変酵母をスプレッドし、コロニーを形成する工程、及び改変前よりも赤く発色する酵母を選択する工程を含む、細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母のスクリーニング方法を提供することである。
本発明の別の態様は、前記含硫化合物がシステイン、γ−グルタミルシステイン、グルタチオン、システニルグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の化合物である、上記方法を提供することである。
あってもよい。
ここで、赤色性を評価する培地としては、酵母細胞内のアデニンが不足した時に酵母が赤く発色することができる培地であれば特に制限されない。アデニン含量が25mg/L以下の固体培地を挙げることができ、具体的にはYPD培地(組成:Bacto-yeast extract 1%、Bacto-peptone 2%、Glucose 2%:METHODS IN YEAST GENETICS 2000 Edition p171参照。ISBN 0-87969-588-9)PGC培地(組成:Casamine acid(vitamin free) 0.5%、Bacto-peptone 1%、Glucose 2%。)等を例示することができる。微量成分との影響でより赤く発色しやすいPGC培地の方が好ましい。培地中にカドミウムを添加すれば、より鮮明に赤く発色する為、カドミウムを添加することがより好ましい。培地は、メチオニンを追加することが好ましい。なお、株はコロニーを形成し、コロニーの色で赤色性を評価できるため、液体培地よりも寒天培地を用いることが好ましい。培地上で赤色を呈するようにするための方法は特に制限されないが、アデニン要求性を付与することやメチオニンが添加された最小培地で培養することが例示される。
酵母の形質転換は、プロトプラスト法、KU法、KUR法、エレクトロポレーション法等、通常酵母の形質転換に用いられる方法を採用することができる。上記のようにして染色体に組換えDNAが組み込まれた株は、変異型ADE1遺伝子と染色体上にもともと存在す
るADE1遺伝子との組換えを起こし、野生型ADE1遺伝子と変異型ADE1遺伝子との融合遺伝子2個が組換えDNAの他の部分(ベクター部分及びマーカー遺伝子)を挟んだ状態で染色体に挿入されている。
融合遺伝子2個のうち、変異型ADE1遺伝子のみを残すために、2個のADE1遺伝子の組換えにより1コピーのADE1遺伝子を、ベクター部分(マーカー遺伝子を含む)とともに染色体DNAから脱落させる。その際、2つのケースが起こる。1つのケースでは、野生型ADE1遺伝子が染色体DNA上に残され、変異型ADE1遺伝子が切り出される。もう一つのケースでは、反対に変異型ADE1遺伝子が染色体DNA上に残され、野生型ADE1遺伝子が切り出される。いずれの場合もマーカー遺伝子が脱落するので、2回目の組換えが生じたことは、マーカー遺伝子に対応する表現形質によって確認することができる。また、目的とする遺伝子置換株は、PCRによりADE1遺伝子を増幅し、その構造を調べることによって、選択することができる。
以上、ADE1遺伝子を例に説明したが、ADE2遺伝子やその他の遺伝子も同様にして改変することができる。
ADE4遺伝子またはADE8遺伝子の変異もADE1遺伝子、ADE2遺伝子と同様に導入することができる。
できない株を選択することにより、セレン酸感受性株を得ることができる。
sulfhydrylaseをコードするMET25遺伝子の発現を野生株と比べて増強するように改変することが挙げられる。MET25遺伝子の発現を増強する方法としては、細胞内へのプラスミドの導入や、染色体上への導入などによりMET25遺伝子のコピー数を増大させることや、MET25遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターに置換する方法が例示される。
MET25遺伝子の発現量を増強することができる変異型MET4遺伝子としては、215番目のセリンがプロリンに、または、156番目のイソロイシンがセリンに変異したMET4遺伝子が報告されている(大村ら FEBS Letters 387(1996) 179-183、特開平10-33161号公報)。
また、MET25遺伝子の発現量を増大させる変異型MET30遺伝子としては、WD40リピートに変異を導入することにより得られる変異型MET30遺伝子が報告されている。また、特開2004-201677には、569位のセリンをフェニルアラニン等の他のアミノ酸に置換する変異を有する変異型MET30遺伝子が報告されている。
このような変異型遺伝子で染色体上の野生型遺伝子を置換することにより、MET25遺伝子を発現増強させることができ、セレン酸感受性を付与できる。
本発明において含硫化合物とは、化学式内に-SH基を有するものをいい、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、或いはその他の物質であってもよい。タンパク質としては、構成アミノ酸の30%がシステイン残基からなるメタロチオネイン、ペプチドとしてはグルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システニルグリシンなどを、アミノ酸としてはシステインを、その他の物質としてはホモシステインなどを例示することができるが特にこれらに限定されるものでもない。グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システインは、
現在幅広く産業上で利用されているので、対象とする含硫化合物として特に好ましい。
グルタチオン合成酵素活性が低下するような変異としては、例えば、配列番号14のアミノ酸配列の370位のアルギニン残基を終止コドンに変更する変異が挙げられる。
グルタチオン合成酵素活性が低下するような変異の他の例として下記の変異が挙げられる(国際公開03/046155号パンフレット)
(1)配列番号14のアミノ酸配列の47位のスレオニンをイソロイシンに置換する変異。
(2)配列番号14のアミノ酸配列の387位のグリシンをアスパラギン酸に置換する変異。
(3)配列番号14のアミノ酸配列の54位のプロリンをロイシンに置換する変異。
上記変異は、(1)または(2)の単独変異でも、(1)〜(3)の任意の組合せでもよいが、(1)と(3)の組合せ、及び(2)と(3)の組合せが好ましい。
なお、システインはγ−グルタミルシステインを熱処理することによって生成するため、γ−グルタミルシステインを蓄積した酵母を熱処理すればシステインが蓄積した酵母が得られる。
また、含硫化合物として、システニルグリシンを蓄積させる場合には、酵母をECM38活性が増強するように改変することが好ましい(Yeast. 2003 Jul 30;20(10):857-63)。
グルタチオンやγ−グルタミルシステイン等の含硫化合物の細胞内含量が増加した酵母は、ラパマイシン耐性を示す酵母から得ることもできる(WO2006/013736)。
本発明において、スクリーニングに用いる培地は、酵母細胞内のアデニンが不足した時に酵母が赤く発色することができる培地であれば特に制限されない。アデニン含量が25mg/L以下の培地を挙げることができ、具体的にはYPD培地(組成:Bacto-yeast extract 1%、Bacto-peptone 2%、Glucose 2%。METHODS IN YEAST GENETICS 2000 Edition p171参照。ISBN 0-87969-588-9)PGC培地(組成:Casamine acid(vitamin free) 0.5%、Bacto-peptone 1%、Glucose 2%。)等を例示することができる。微量成分との影響でより赤く発色しやすいPGC培地の方が好ましい。培地中にカドミウムを添加すれば、より鮮明に赤く発色する為、カドミウムを添加することがより好ましい。なお、菌株の単離を考えれば液体培地よりも寒天培地を用いることが好ましい。発色度合いを識別するためには、固体
培地上で20〜30℃で約1週間培養することが好ましい。
好ましくは、前記アデニンの「十分な量」は、予め一定量の酵母菌体を得るのに必要なアデニン要求量を実験的に測定し、目的の量の菌体を得るために必要なアデニン量を算出することによって、決定することができる。例えば、100mg/L以上が挙げられる。
アデニン量以外の培地及び培養条件は、通常の酵母培養に用いられる培地及び条件を採用することができる。尚、必要に応じて、用いる酵母の形質にしたがって必要な栄養素を培地に添加する。
好ましくは、目的とする含硫化合物の蓄積量に達したら、培養を終了する。通常は、培養時間は10〜30時間、好ましくは15〜27時間である。
(アデニン要求性酵母の取得)
変異型MET30遺伝子を保有するサッカロミセス・セレビシエ1倍体AJ14819株(MATα型
))とサッカロミセス・セレビシエ1倍体AJ14810株(MATa型)を接合させることにより、サッカロミセス・セレビシエ2倍体株を取得した。AJ14819株はセレン酸感受性株であり、2003年10月1日にブダペスト条約に基づき独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国、305-8566 茨城県つくば市東1丁目1-1つくばセンター 中央第6)にFERM BP-8502の受託番号で寄託されている。AJ14180株は、2002年11月1日にブダペスト条約に基づき、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM BP-8229の受託番号で寄託されている。
同2倍体株を胞子形成させ、4分子解析することにより以下の性質を有する菌株を取得した。
A:MATa型1倍体、変異型MET30遺伝子
B:MATα型1倍体、変異型MET30遺伝子
C:MATa型1倍体、野生型MET30遺伝子
D:MATα型1倍体、野生型MET30遺伝子
National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)(1 Dorozhny proezd., 1 モスクワ 117545, ロシア)にそれぞれVKPM Y-3218、VKPM Y-3219で国際寄託されている。)
(強い赤色発色を指標とした高GSH蓄積変異体のスクリーニング)
次に、常法に基づきADE1遺伝子に変異を有するY-3218株を変異剤MNNGで生存率5〜10%になる条件で処理した後、PGC又はYPDプレートにスプレッドし30℃で約1週間培養した。出現したコロニーの中から、Y-3218株よりもより赤く発色する菌株を選択し、GSH含量をAJ14889株(親株)およびY-3218株と比較した。選択した株、AJ14889株およびY-3218株をそれぞれ5mlのYPD液体培地に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。50mlのYPD液体培地にそれぞれの株の得られた培養物を植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。それぞれの株のGSH含有量を承保に従って測定した結果、AJ14889株に比べY-3218株のGSH含量は高かった(表1)。選択した株(計180株)のうち7株がY-3218株よりGSH含量が高いことがわかった(表1)。
が向上した酵母を単離することが可能であった。
(GSH高含量の白色コロニーの単離)
野生型の酵母は赤色ではなく、白色〜クリーム色である。そこで、発明者らは赤色の発色度合いを指標にスクリーニングした酵母から通常の色のコロニーを形成する株の取得を検討した。まず、実施例2と同様にY-3219株をMNNGで変異処理し、PGC培地またはYPD培地に播いてより赤色の強い株を得た。その結果、実施例2と同様に表3のY-3219-20株が得られた。次に、Y-3219-20株をMNNGで、生存率5〜10%になるように変異処理を行い、PGCプレートにスプレッドし、30℃で約1週間培養した。出現したコロニーの中から、3つの白コロニー(Y-3219-20-52、Y-3219-20-53、Y-3219-20-56)と1つの赤コロニー(Y-3219-20-1)を選抜し、それらのGSH含量を測定し、Y-3219株、Y-3219-20株と比較した。すなわち、得られた株と、Y-3219株及びY-3219-20株を5mLのYPD液体培地に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。次に、50mlのYPD液体培地にそれぞれの株の得られた培養物を植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。それぞれの菌体内のGSH量を常法に従って測定した。結果を表3に示す。
Y-3219-20-56株は、2008年12月23日、ブダペスト条約に基づきRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)(1 Dorozhny proezd., 1 モスクワ 117545, ロシア)にVKPM Y-3256で国際寄託されている。
(アデニン不充足による高GSH蓄積)
アデニン充足度合いとGSH含量との関係について検討した。Y-3256株を500ml容坂口フラスコ中の50mlのYPD培地(D-glucose 20g/L、Bact Peptone 20g/L、Yeast Extract 10g/L)で30℃、120rpmで24時間振とう培養し、得られた培養物を、500ml容坂口フラスコ中の異なる濃度のアデニン(最終アデニン濃度0mg/L、10mg/Lまたは20 mg/L)を加えた50mlのYPD培地に、初期吸光度660nm=0.1になるように植菌し、30℃、120rpmで振とう培養した。その結果、GSH量経時変化は表4の通りであった。
Y-3256株をJar Fermentorで培養し、GSH含量の経時変化を評価した。YPD寒天培地より菌株細胞を拾い、50mlのYPD培地を含む750ml容三角フラスコ3つに植菌し、30℃、250rpmで20時間振とう培養した。得られたシード培養液(120ml)を3L容Jar-Fermentor中の1.2Lのメイン培地(YPD培地)に植菌し、30℃、攪拌速度1,100rpmで培養した。この時の通気量は1/1vvmに設定し、pHはアンモニア水により6.0に制御した。培養0hr〜24hrの間は1.5ml/hrの速度で、24hr以降は1.8ml/hrの速度で流加培地を連続フィードした。なお、このとき使用した流加培地の組成は、1LあたりGlucose600g、Bacto-yeast extract 10g、corn
extract 10g、Bacto-peptone 10g、(NH4)2SO4 0.274g、KH2PO4 0.11g、KCl 0.732g、MgSO4 0.466g、CuSO40.0012g、ZnSO4 0.014g、MnSO4 0.00334g、NaMoO40.00012g、KCl 0.002g、H3BO30.00004g、CoSO4 0.0001g、CaCl2 0.28g、FeSO4 0.2g、Biotine 0.05mg、riboflavin 0.2mg、thiamine 0.5mgである。
この時のY-3256株のGSH含量変化は図1の通りであった。
(2倍体株の取得及び培地組成の検討)
常法に基づき、Y-3219-20-53株の自己2倍体化を試みた。実験の条件は以下のとおりである。Y-3219-20-53株を常法により、生存率5〜10%になるような条件で変異剤MNNGで処理し、YPD寒天培地に100〜200個のコロニーが出現するようにスプレッドした。30℃で5日間培養後、アデニンを添加したSD寒天培地及びYPD寒天培地にレプリカした。YPD寒天培地では生育可能であるが、アデニンを添加したSD寒天培地では生育できない菌株を選抜した。アデニン以外の栄養要求性を調べ、栄養要求性が異なるY-3219-20-53-aux1株及びY-3219-20-53-aux2株を取得した。Y-3219-20-53-aux1株をアデニンを添加したSD寒天培地に縦方向の直線になるようにストリークし、Y-3219-20-53-aux2株を同じアデニンを添加したSD寒天培地に横方向の直線になるようにストリークした。但し、この時縦方向の直線と横方向の直線が1点で交差するように行った。このアデニンを添加したSD寒天培地を30℃で20日間培養し、交差点に出現するコロニーを選択した。この様にしてアデニン要求性の2倍体株であるD1-3株を取得した。本菌株は、2008年12月23日、ブダペスト条約に基づきRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)(1 Dorozhny proezd., 1 モスクワ 117545, ロシア)にVKPM Y-3309で国際寄託されている。なお、D1-3株をアデニンを添加したSD寒天培地にストリークし、30℃で2日間培養したところ、コロニーが出現したことから、D1-3株はアデニン以外の栄養要求性が付与されていないことが確認できた。
また、アデニン非要求性の対象区として、AJ14889株とAJ14890株を接合させることによ
り2倍体Dip株を取得した。
D1-3株及びDip株を、5mlのYPD液体培地を入れた試験管に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。得られた培養物を、表5に示す組成の各培地50mlに植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。各菌体内のGSH含量を測定した。その結果は表6に示すとおりである。
(アデニン要求性のγ−グルタミルシステイン高含有酵母の育種及びγ−グルタミルシステイン含量向上効果の評価)
実施例3にて取得したY-3256株のグルタチオン合成酵素をコードするGSH2遺伝子を破壊することによりγ−グルタミルシステインを蓄積する1倍体株を取得した。GSH2遺伝子破壊カセットを構築するために、プライマー17〜22を用い、S. cerevisiae(野生株)のゲノムDNAおよびプラスミドpFA6a-KanMX6(Chiara et al., Yeast 2000, 16:1089-1097)を鋳型にしてPCRを行った(図2)。詳細な条件は以下のとおりである。
また、GSH2のORFから約300bp下流の領域をX2180-1BのゲノムDNAを鋳型に、GSH2-down-Fプライマー(配列番号19)およびGSH2-down-Rプライマー(配列番号20)を用いて増幅しGSH2下流フラグメントを得た。GSH2下流フラグメントは、GSH2-down-FプライマーおよびGSH2-down-Rプライマーの配列に基づき、その一方の末端側にBpiI制限部位を有し、もう一方の末端側にフュージョンPCR用のcon2部位を有する。
KanMX遺伝子をpFA6a-KanMX6プラスミドを鋳型に、マーカーFプライマー(配列番号21
)とマーカーRプライマー(配列番号22)を用いてPCR増幅した。このPCRで増幅されたKanMX遺伝子は、マーカーFプライマーおよびマーカーRプライマーの配列に基づき、その一方の末端側にcon1部位を有し、もう一方の末端側にcon2部位を有する。
これらのPCRの条件は次のとおりである。DNAポリメラーゼの混合物(Pfu:Taq=1:10;Fermentas, Lithuaniaより入手可能)をそれぞれの反応に用いた。PCRは94℃30秒、50℃30秒、68℃3分のサイクルを30回繰り返した。
次に、GSH2上流-KanMXフラグメントとGSH2下流フラグメントを鋳型に用い、GSH2-up-FプライマーとGSH2-down-Rプライマーを用いてフュージョンPCRを行った。GSH2上流-KanMXフラグメントとGSH2下流フラグメントはいずれも末端にcon2部位を有するため、GSH2上流-KanMXフラグメントとGSH2下流フラグメントが連結され、GSH2破壊カセットが得られる。このフュージョンPCRは前記と同様のDNAポリメラーゼの混合物を用いた。PCRは、94℃30秒、61℃30秒、68℃5.3分のサイクルを5回、次いで94℃30秒、50℃30秒、68℃5.3分のサイクルを25回繰り返した。
(1) GSH2-up-F, CCGAAGACCTTCGTTTGGTGTTATGGT (配列番号17)
(2) GSH2-up-R, GAGAGGGGGGGGGTGGGGGGAAGGTGGATAGTGTGCC (配列番号18)
(3) GSH2-down-F, CCTCCTCCCCCCGCCCACGGCAGGATTCGGATGTTTG (配列番号19)
(4) GSH2-down-R, CGAAGACTCAGTACGAGCATTACGCAA (配列番号20)
(5) Marker-F, 5’-CCCCACCCCCCCCCTCTCTACCGTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATACTGGATGGCGGCGTTAG-3’ (配列番号21)
(6) Marker-R, 5’-GTGGGCGGGGGGAGGAGGTACCGTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATGTTTAGCTTGCCTCGTCC-3’ (配列番号22)
同菌株を500ml容坂口フラスコ中の50mlのYPD培地(D-glucose 20g/L、Bact Peptone 20g/L、Yeast Extract 10g/L)に植菌し、30℃、120rpmで24時間振とう培養後、得られた培養物を、異なる濃度のアデニン(最終アデニン濃度0mg/L、10mg/L、20mg/L)を添加した500ml容坂口フラスコ中のYPD培地50mlに初期吸光度660nm=0.1になるように植菌し、30℃、120rpmで振とう培養した。γ−グルタミルシステイン濃度を常法に従い測定した。表7にγ−グルタミルシステインの経時変化を示す。γ−グルタミルシステイン濃度はアデニン要求性の付与により高められ得ることがわかった。
(擬似的なアデニン要求性条件を作り出す培地での評価)
常法に従い、AJ14889株を変異剤MNNGで生存率が約10%になる条件で処理した後、表8に記載の成分および150mg/Lのメチオニンを含むmin-met(+)-biotin(-)プレートに、1プレートあたりのコロニー数が350個以下になるようにスプレッドした。30℃で8〜10日間培養した後、30枚のプレートに出現したコロニーの中から、薄いピンク色から赤色に発色しているコロニーを106株ピックアップした。
次に、AJ14889株(親株)及び選抜した菌株を各々YPD培地に植菌し菌体内のGSH含量を測定した。具体的には、YPD培地で培養した選抜した菌株とAJ14889株をそれぞれ、5mlのYPD液体培地を入れた試験管に植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間培養した。そして、750ml容の三角フラスコに50mlのYPD培地を入れたメイン培地に前培養液を、600nmでの吸光度が0.1になるように植菌し、30℃、250rpmの振とう数で24時間及び48時間培養した。その結果、選択された106株中8株は、24hr時又は48hr時にAJ14889株よりもGSH含量が上回っていた(表9)。選択した108株中8株がGSH含量が向上した菌株であったことから、本方法は非常に効率的なスクリーニング方法であることが示された。
Claims (10)
- MET25遺伝子の発現を増強する改変によりセレン酸感受性を有し、ADE1遺伝子又はADE2遺伝子の改変によりアデニン要求性を示し、かつメチオニンが添加された培地上で培養されたときに該培地上で赤色を呈する、細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母。
- さらに、ADE4遺伝子またはADE8遺伝子に変異が導入されたことにより、前記培地上で白色を呈するようになった、請求項1に記載の酵母。
- 含硫化合物がシステイン、γ−グルタミルシステイン、グルタチオン、システニルグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の化合物である請求項1または2に記載の酵母。
- 菌体量を増加させるために細胞内のアデニンが充足する状態で酵母を培養する工程と、細胞内の含硫化合物含量を増加させるために細胞内のアデニンが不足する状態で酵母を培養する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酵母の培養方法。
- アデニン要求性およびセレン酸感受性を有する酵母に遺伝子改変処理を施す工程、アデニン含量が25mg/L以下の培地に改変酵母をスプレッドし酵母コロニーを形成する工程、及び改変前よりも赤く発色する酵母コロニーを選択する工程を含む、細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母のスクリーニング方法。
- セレン酸感受性を有する酵母に遺伝子改変処理を行う工程、最小培地にメチオニンを追加した培地に改変酵母をスプレッドし酵母コロニーを形成する工程、及び改変前よりも赤く発色する酵母コロニーを選択する工程を含む、細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母のスクリーニング方法。
- 含硫化合物がシステイン、γ−グルタミルシステイン、グルタチオン、システニルグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の化合物である、請求項5または6に記載のスクリーニング方法。
- アデニン要求性およびセレン酸感受性を有する酵母に遺伝子改変処理を施す工程、アデニ
ン含量が25mg/L以下の培地に改変酵母をスプレッドし酵母コロニーを形成する工程、及び改変前よりも赤く発色する酵母コロニーを選択する工程を含む、細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母の製造方法。 - セレン酸感受性を有する酵母に遺伝子改変処理を行う工程、最小培地にメチオニンを追加した培地に改変酵母をスプレッドし酵母コロニーを形成する工程、及び改変前よりも赤く発色する酵母コロニーを選択する工程を含む、細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母の製造方法。
- 含硫化合物がシステイン、γ−グルタミルシステイン、グルタチオン、システニルグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の化合物である、請求項8または9に記載の細胞内の含硫化合物含量が増加した酵母の製造方法。
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