JP5673367B2 - 糖ペプチド又は糖タンパク質の質量分析用液体マトリックス - Google Patents
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Description
本発明の目的は、糖ペプチド又は糖タンパク質を感度良く分析することができる質量分析用マトリックスを提供することにある。
(1) 3−アミノキノリンイオンとp−クマル酸イオンとを含むイオン液体である、糖ペプチド又は糖タンパク質の質量分析用液体マトリックスであって、
3−アミノキノリンとp−クマル酸とを5:1〜20:1のモル比で混合して調製したものであり、
前記混合されるべきp−クマル酸が99%以上の純度を有するものであり、
リン酸アンモニウムを添加剤として用いる液体マトリックス。
(2) 酸性糖を含む糖ペプチド又は糖タンパク質を測定するために用いられる、(1)に記載の液体マトリックス。
(3) 前記酸性糖がシアル酸である、(2)に記載の液体マトリックス。
本発明により、シアル酸などの酸性糖を含む糖ペプチド及び糖タンパク質の分析において、酸性部位の脱落を抑制することができる。
本発明は、質量分析用マトリックスとしてのイオン液体(すなわち液体マトリックス)である。イオン液体は、室温で液体の状態で存在し、その実態は塩である物質をいう。具体的には、アミンのイオンと酸性基含有物質のイオンとからなるものが挙げられる。本発明における液体マトリックスは、3−アミノキノリンイオンとp−クマル酸イオンとを含むイオン液体(3−AQ/CA)である。
本発明の液体マトリックスは、糖ペプチドの測定に用いられる。本発明においては、糖ペプチドには糖タンパク質も含まれる。本発明の液体マトリックスは、酸性糖を含む糖ペプチドの測定に用いられることが好ましい。酸性糖としては、硫酸基やカルボキシル基などの酸性基を有する糖であればよく、一例としてシアル酸が挙げられる。例えば、従来のマトリックスを用いてシアル酸を含む糖ペプチドを質量分析する場合、シアル酸が脱落することが通常であるが、本発明の液体マトリックスを用いてシアル酸を含む糖ペプチドを質量分析すると、シアル酸の脱落を抑制することができる。シアル酸以外の酸性糖を含む場合も同様である。
液体マトリックスの調製方法としては特に限定されるものではない。具体的な調製方法としては従来からのイオン液体の調製法に準じることができる。
例えば、もっとも簡便な調製法の一つとしては、イオン液体を構成するアミンイオンの由来元となるアミン類(具体的には3−アミノキノリン)と、酸性基含有物質イオンの由来元となる酸物質(具体的にはp−クマル酸)とを混合して反応させる方法が挙げられる。
双方の物質の混合は、常温下で行うことができる。
することができる。S/N比を考慮した場合、7:1〜9:1のモル比で混合することがより好ましい場合がある。
溶媒中どのような濃度で双方の物質を反応させるかについては、当業者が適宜決定すればよい。
一方、反応に用いた溶媒を、マトリックス溶媒としても用いることができる場合は、溶媒を除去しなくともよい。
本発明の液体マトリックスの使用においては、質量分析用プレート上に、液体マトリックスと糖ペプチド又は糖タンパク質とを含む混合溶液の液滴が形成され、溶媒が除去される(蒸発する)ことによって、レーザーが照射されるべき質量分析用スポットが形成される。
プレミックス法は、液体マトリックスと糖ペプチド又は糖タンパク質とを含む混合溶液を予め調製し、その混合溶液を質量分析用プレート上に滴下することによって、混合溶液の液滴を得る方法である。混合溶液は、液体マトリックス溶液と糖ペプチド溶液又は糖タンパク質溶液とを混合することによって得ることができる。それぞれの溶液は、例えば同体積混合することができる。
一方、オンターゲットミックス法は、液体マトリックス溶液と糖ペプチド溶液又は糖タンパク質溶液とを別々に調製し、それぞれを質量分析用プレート上の同じ位置に重ねて滴下することによって、混合溶液の液滴を得る方法である。
実施例においては、実験例1〜3において調製された液体マトリックスを用いた。実験例1では、リン酸アンモニウム不含且つ未精製p−クマル酸(CA)使用の3−AQ/CAを調製し、実験例2では、リン酸アンモニウム含有且つ未精製p−クマル酸(CA)の3−AQ/CAを調製し、実験例3では、リン酸アンモニウム含有且つ精製クマル酸(pCA)使用の3−AQ/pCAを調製した。
3−アミノキノリン(3-AQ) 100nmol/μLを50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に含む3-AQ溶液と、p−クマル酸(CA) 100nmol/μLを50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に含むCA溶液とを混合することによって、3-AQ/CA溶液を調製した。あるいは、3−アミノキノリン(3-AQ) 100nmol/μLを100%メタノ−ル(MeOH)中に含む3-AQ溶液と、p−クマル酸(CA) 100nmol/μLを100%メタノ−ル(MeOH)中に含むCA溶液とを混合後、メタノ−ルを揮発させ、50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に溶解することによって、3-AQ/CA溶液を調製した。
なお、CAは、純度表示「>98%」(シグマ−アルドリッチ)のものを用いた(実際に純度を測定した結果、純度は96%であった)。
3-AQ溶液とCA溶液との混合比は、例えば1:1、3:1、又は9:1 (v/v)であった。
3−アミノキノリン(3-AQ) 100nmol/μL及びリン酸アンモニウム 2mMを50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に含む3-AQ溶液と、p−クマル酸(CA) 100nmol/μL及びリン酸アンモニウム 2mMを50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に含むCA溶液とを混合することによって、3-AQ/CA溶液(リン酸アンモニウム含有)を調製した。あるいは、3−アミノキノリン(3-AQ) 100nmol/μLを100%メタノ−ル(MeOH)中に含む3-AQ溶液と、p−クマル酸(CA) 100nmol/μLを100%メタノ−ル(MeOH)中に含むCA溶液とを混合後、メタノ−ルを揮発させ、リン酸アンモニウム 2mMを含む50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に溶解することによって、3-AQ/CA溶液(リン酸アンモニウム含有)を調製した。
3-AQ溶液とCA溶液との混合比は、例えば5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、12:1、15:1、又は20:1 (v/v)であった。
3−アミノキノリン(3-AQ) 100nmol/μL及びリン酸アンモニウム 2mMを50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に含む3-AQ溶液と、精製p−クマル酸(pCA) 100nmol/μL及びリン酸アンモニウム 2mMを50(v/v)%アセトニトリル(ACN)水溶液中に含むpCA溶液とを混合することによって、3-AQ/pCA溶液(リン酸アンモニウム含有、精製CA使用)を調製した。
なお、pCAは、株式会社同仁化学研究所又は株式会社ナード研究所によって精製されたものを用いた(純度は99%以上、例えば99.8%以上であった)。
3-AQ溶液とpCA溶液との混合比は、例えば9:1(v/v)であった。
(3−AQ/CHCA)
10 mg のα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)(再結晶、LaserBio labs)を、20mMリン酸アンモニウムを含有するアセトニトリル50(v/v)%水溶液600μLに溶解させ、CHCA溶液を得た。20mgの3−アミノキノリン(3-AQ)(≧99.0%、Fluka)をCHCA溶液150μLに溶解させ、さらに10倍希釈することによって、3-AQ/CHCA溶液を得た。
DHBB(n-butylamine/DHB)、CHCAB (Fluka, 67336)(n-butylamine/CHCA)、G2CHCA(1,1,3,3-tetramethyl guanidine(TMG)/CHCA)、G3CA(TMG/ p-coumaric acid)、GCA、(TMG/ p-coumaric acid)、IMTBA/DHB(N-isopropyl-N-methyl-tertbutylamine/
DHB)、及びDIEA/DHB(N,N-diisopropylethylamine/DHB)については、市販のものを用いるか、上記3−AQ/CHCA、3−AQ/CA又は3−AQ/pCAの調製法に準じるか、或いは次の文献:Mank, M.; Stahl, B.; Boehm, G. Anal. Chem. 2004, 76, 2938-2950.(DHBB及びCHCABの場合)、Laremore, T. N.; Murugesan, S.; Park, T.-J.; Avci, F. Y.; Zagorevski, D. V.; Linhardt, R. J. Anal. Chem. 2006, 78, 1774-1779.(G2CHCAの場合)、Fukuyama, Y.; Nakaya, S.; Yamazaki, Y.; Tanaka, K. Anal. Chem. 2008, 80, 2171-2179.(G3CA及びGCAの場合)、及びCrank, J. A.; Armstrong, D. W. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2009, 20, 1790-1800.(IMTBA/DHB及びDIEA/DHBの場合)を参考にすることにより、適宜液体マトリックス溶液を調製した。
(600μm μFocus MALDI plateTM (Hudson Surface Technology, Inc. USA)用)
1mgの2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)(再結晶、LaserBio labs)をアセトニトリル50(v/v)%水溶液1mLに溶解させた。このようにして得られたDHB溶液は、測定に用いられた際、予めGP1溶液と混合し、その後、混合溶液を600μm μFocus MALDI plateTM上に滴下した(pre-mix法)。
10 mgの2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)をアセトニトリル50(v/v)%水溶液1mLに溶解させた。このようにして得られたDHB溶液は、測定に用いられた際、GP1溶液と混合されることなく、GP1溶液とは別々にsample plate 2.8mm ring×384 wellTM上の同じウェルに滴下された。両溶液は、プレート上(ウェル内)で互いに混合されることにより混合溶液となった(on-target mix法)。
参考例1の液体マトリックス溶液及び参考例2の固体マトリックス(DHB)溶液を用いて、トランスフェリンから単離された糖ペプチドGP1(モノアイソトピック質量:3680.5)の質量分析を行った。図1に、GP1の構造を模式的に示す。
参考例1で得られた液体マトリックス溶液及び参考例2で得られたDHB溶液のそれぞれと、上記GP1溶液とを、1:1(v/v)で混合し、混合溶液を得た(pre-mix法)。
上記混合溶液を、MALDI濃縮プレート(μFocus MALDI plate TM 600μm (Hudson Surface Technology, Inc. USA))上のそれぞれのウェル(well)に1μLずつ滴下した。
AXIMA Resonance(Shimadzu/Kratos, UK)のhigh massモード、ポジティブ(positive)及びネガティブ(negative)モードで計測を行った。
実験例1で調製された液体マトリックス(3-AQ/CA(リン酸アンモニウム不含))溶液を用いて、トランスフェリンから単離された糖ペプチドGP1(図1、モノアイソトピック質量:3680.5)の質量分析を行った。
実験例1で得られた3-AQ/CA溶液(3-AQとCAとの比が1:1、3;1、及び9:1であるもの)それぞれと、上記GP1溶液とを、1:1(v/v)で混合し、混合溶液を得た(pre-mix法)。
上記混合溶液を、MALDI濃縮プレート(μFocus MALDI plate TM 600μm (Hudson Surface Technology, Inc. USA))上のそれぞれのウェル(well)に1μLずつ滴下した。
AXIMA Resonance(Shimadzu/Kratos, UK)のhigh massモード、ポジティブ(positive)及びネガティブ(negative)モードで計測を行った。
実験例2で調製された液体マトリックス(3-AQ/CA(リン酸アンモニウム含有))溶液を用いて、実施例1と同様の操作を行うことによって、トランスフェリンから単離された糖ペプチドGP1(図1、モノアイソトピック質量:3680.5)の質量分析を行った。
なお、本実施例において得られた3-AQ/CA溶液とGP1溶液との混合溶液中のリン酸アンモニウム濃度は、1mMであった。
実験例3で調製された本発明の液体マトリックス3−AQ/pCA(リン酸アンモニウム含有、精製CA使用)溶液を用いて、実施例2と同様の操作を行うことによって、トランスフェリンから単離された糖ペプチドGP1(図1、モノアイソトピック質量:3680.5)の質量分析を行った。
表に示されるように、本発明の液体マトリックスは、その調製の際に精製したCAを使用することで、ポジティブ及びネガティブの両モードにおいて、従来のマトリックスより高感度の糖ペプチド検出を可能にしたことが確認された。
図4及び図5が示すように、本実施例においても、実施例1及び2と同様、本発明の液体マトリックスによるシアロ糖鎖(Sia)脱離抑制効果が確認された。
Claims (3)
- 3−アミノキノリンイオンとp−クマル酸イオンとを含むイオン液体である、糖ペプチド又は糖タンパク質の質量分析用液体マトリックスであって、
3−アミノキノリンとp−クマル酸とを5:1〜20:1のモル比で混合して調製したものであり、
前記混合されるべきp−クマル酸が99%以上の純度を有するものであり、
リン酸アンモニウムを添加剤として用いる液体マトリックス。 - 酸性糖を含む糖ペプチド又は糖タンパク質を測定するために用いられる、請求項1に記載の液体マトリックス。
- 前記酸性糖がシアル酸である、請求項2に記載の液体マトリックス。
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