JP2008309501A - 糖鎖の解析方法 - Google Patents

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彰 岡崎
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雅子 脇谷
Kazuhisa Uchida
和久 内田
Shingo Kakita
信吾 垣田
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Abstract

【課題】一連の糖鎖解析の過程から、蛍光試薬等による糖鎖の標識過程およびクロマトグラフィー等による糖鎖画分の脱塩・精製過程を必要としない、簡便かつ高感度なFc結合糖鎖の解析方法を提供する。
【解決手段】IgGまたはそのFc部分を含む誘導体が含まれる試料をプロテアーゼにより消化し、得られた糖ペプチドの質量分析を行い、糖鎖を検出し、次いで、得られた検出結果に基づいて糖鎖解析を行う、IgGのFc結合糖鎖の分析方法。本分析方法を、疾患が癌またはリューマチである、糖鎖の異常を伴う患者を診断するためのガラクトース含量の測定に用いる。
【選択図】図1

Description

本発明は、IgG Fc結合糖鎖の分析方法に関する。
哺乳類の抗体には、IgM、IgD、IgG、IgA、IgEの5種類のクラスが存在することが明らかとなっているが、ヒトの各種疾患の診断、予防及び治療には血中半減期が長く、各種エフェクター機能を有する等の機能特性からIgGクラスの抗体が主として利用されている(非特許文献1)。ヒトIgGクラスの抗体は、更にIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4種類のサブクラスに分類されている。これらのサブクラスのヒト血清中における存在比は、約18:6:2:1である。IgGクラスの抗体のエフェクター機能である抗体依存性細胞傷害活性(以下、ADCC活性という)や補体依存性細胞障害活性(以下、CDC活性という)については、これまでに多数の研究が行われ、ヒトIgGのサブクラスによってADCC活性およびCDC活性が異なることが報告されている(非特許文献2)。
糖蛋白質の糖鎖は、蛋白質部分との結合様式により、アスパラギンと結合する糖鎖(N−グリコシド結合糖鎖)とセリン、スレオニンなどと結合する糖鎖(O−グリコシル結合糖鎖)の2種類に大別される。N−グリコシド結合糖鎖は、様々な構造を有しているが(非特許文献3)、いずれの場合も以下の構造式(I)に示す基本となる共通のコア構造を有することが知られている。
[化1]
Manα1→6
Manβ1→4GlcNAcβ1→4GlcNAc (I)
Manα1→3
N−グリコシド結合糖鎖中、アスパラギンと結合する末端は還元末端、反対側の末端は非還元末端と呼ばれている。N−グリコシド結合糖鎖には、コア構造の非還元末端にマンノースのみが結合するハイマンノース型、コア構造の非還元末端側にガラクトース−N−アセチルグルコサミン(以下、Gal−GlcNAcという)の枝を並行して1ないしは複数本有し、更にGal−GlcNAcの非還元末端側にシアル酸、バイセクティングのN−アセチルグルコサミンなどの構造を有するコンプレックス型、コア構造の非還元末端側にハイマンノース型とコンプレックス型の両方の枝を持つハイブリッド型などがあることが知られている。
IgGは抗原結合部位を含むFab部分、Fc部分、Fab部分とFc部分をつなぐヒンジ領域の3つの領域に分けられる。ヒトIgGのFc部分にはN−グリコシド結合糖鎖が結合する部位が2箇所存在しており、ヒト血清中のIgGでは通常、この部位にシアル酸やバイセクティングのN−アセチルグルコサミンの付加が少ない2本の枝を持つコンプレックス型糖鎖が結合している。このコンプレックス型糖鎖の非還元末端でのガラクトースの付加および還元末端のN−アセチルグルコサミンへのフコースの付加に関しては多様性があることが知られている(非特許文献4)。
ヒトIgGの糖鎖に関しては、ヒト型CDR移植抗体CAMPATH−1H(ヒトIgG1サブクラス)のFc部分に結合する糖鎖のバイセクティングに位置するN−アセチルグルコサミン(以下、GlcNAcともいう)が抗体のADCC活性に影響することが報告されている(非特許文献5)。また、複数のヒトIgG1サブクラス抗体において、Fc部分に結合する糖鎖の還元末端に通常結合するフコースがないと抗体のADCC活性が上昇することが報告されている(非特許文献6、7、特許文献1)。さらに、抗CD20抗体のヒトIgGのすべてのサブクラスにおいて、Fc部分に結合する糖鎖の非還元末端に通常結合するフコースがないと抗体のADCC活性が上昇することが報告されている(非特許文献8)。これらの報告は、Fc部分に結合する糖鎖の構造がADCC活性を介したヒトIgGのエフェクター機能に極めて重要な影響を及ぼすことを示している。
一方で、ヒト血清IgGの糖鎖は健常者と非健常者で異なることが示唆されている。例えば、リュウマチ患者では健常者に比べて血清IgG糖鎖の非還元末端に付加するガラクトースの量が少ないことが報告されている(非特許文献9、10)。一方、肺がん、胃がん、前立腺がんの患者の血清IgGにおいては、糖鎖の非還元末端に付加するガラクトースの量が健常人よりも多いことが示唆されている(非特許文献11)。このように、ヒトIgGの糖鎖を簡便に解析する方法はヒトの各種疾患の診断に有用であると考えられる。
一般に、糖蛋白質中の糖鎖の分析は、糖蛋白質から糖鎖を遊離し、遊離した糖鎖を分析することにより行われる。糖鎖の遊離方法には、ヒドラジン分解など化学的な方法とPNGaseFなどを使用した、酵素的な方法がある(非特許文献3)。また、多くの場合、検出感度向上のため、遊離した糖鎖の蛍光試薬等による標識が行われる(非特許文献12、特許文献2)。遊離・標識された糖鎖は、多くの場合蛋白質や塩を除くために糖鎖画分の精製を行った後に、クロマトグラフィー、電気泳動、質量分析等の手法で分析される。しかし、蛍光試薬等による糖鎖の標識や蛋白質および塩を除くための精製は作業が煩雑である。また、糖鎖画分の精製回収にはクロマトグラフィーによる分離過程が一般的であるが、この分離過程は微量にしか存在しない糖鎖の損失につながる恐れがある。
一般の糖蛋白質の糖鎖分析における上記のような問題点は、IgGの糖鎖分析にも当てはまる。これらの問題点を解決する方法として、IgGから遊離した糖鎖の蛍光標識を行わずにMALDI−TOF―MSにより分析する方法が知られている(非特許文献13)。しかしこの方法は、塩および蛋白質を除去する脱塩・精製過程を含む。またIgGを還元カルボキシメチル化した後にLysCで消化して糖ペプチドを調製し、得られた糖ペプチドを高速液体クロマトグラフィーで分離後ESI−MSにより分析する方法も報告されている(非特許文献14)。しかし、この方法は、高速液体クロマトグラフィーによる糖ペプチドの精製を必要とし、さらにIgGの還元カルボキシル化という煩雑な過程を含む。質量分析によりFc由来糖ペプチドのIgG結合糖鎖の解析を行う別の方法として、IgGのジスルフィド結合を還元・切断してからトリプシンで処理することによりFc由来糖ペプチドを調製し、さらに逆相液体クロマトグラフィーで糖ペプチド画分を精製して、MALDI−TOF−MSにより分析する方法が知られている(非特許文献15)。しかし、この方法も高速液体クロマトグラフィーによる糖ペプチドの精製を必要とし、さらにIgGのジスルフィド結合の還元・切断という煩雑な過程を含む。また、IgGから糖鎖を分離せずにIgGをそのまま質量分析(ES−IMS)することによりIgGの糖鎖を分析する方法が報告されている(非特許文献16)。この方法では、糖鎖の蛍光標識や糖鎖画分と非糖鎖画分の分離を必要としないが、高速液体クロマトグラフィーによる脱塩の過程を含む。さらにこの方法はガラクトースとフコースの付加の相違を区別することが出来ないなど、分解能が不十分でありIgG糖鎖の詳細な解析には適していない。一方、糖鎖画分のクロマトグラフィーによる精製の過程を一切排除した糖鎖分析法も報告されている(特許文献2)。しかし、この方法は、糖鎖を蛍光標識する過程を含む。このように、糖鎖標識の過程およびクロマトグラフィー等による糖鎖画分の脱塩・精製過程を一切含まない、簡便なIgG結合糖鎖の分析法は知られていない。
IgGのFc部分を含むFc融合蛋白質の中には、Fc部分以外の部分にN−グリコシド結合糖鎖を含むものがある。また骨髄腫患者の抗体の約25%には、Fc部分のみならずFab部分にもN−グリコシド結合糖鎖が結合している(非特許文献17)。このように、Fab部分にもN−グリコシド結合糖鎖が結合しているIgGや、Fc部分以外の部分にもN−グリコシド結合糖鎖が結合しているFc融合蛋白質において、Fc部分結合糖鎖のみを特異的に分析する方法は、IgGを利用した治療薬の開発やヒト血清IgGの糖鎖分析による診断において、重要であると考えられる。Fc部分に結合する糖鎖のみを特異的に分析するための方法として、抗体分子のプロテアーゼ消化により得られるFc由来糖ペプチドを分析する方法が知られている。しかし、上述のように、クロマトグラフィー等による糖鎖画分の脱塩・精製過程を経ずに、IgGのFc由来糖ペプチドを、簡便に分析する方法は知られていない。
モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・アプリケーションズ(Monoclonal Antibodies:Principles and Applications),Wiley−Liss,Inc.,Chapter 1(1995) ケミカル・イムノロジー(Chemical Immunology),65,88(1997) 生物化学実験法23−分子糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989年) バイオケミストリー(Biochemistry),36,130,(1997) グリコバイオロジー(Glycobiology),5,813(1995) J.Biol.Chem.,277,26733−26740(2002) J.Biol.Chem.,278,3466−3473(2003) J.Immunol.Methods,306,151−160(2005) Nature,316,452−457(1985) J.Biochem.,128,621−628(2000) 生物物理化学 2000;44補冊2:14 J.Biochem.,95,197(1984) Glycobiology,10,477−486(2000) Analytical Chemistry,70,2718−2725(1998) J.Pharm.Biomed.Anal.,13,1049−54(1995) Carbohydrate Research,341,410−419(2006) Springer Semin.Immunopathol.,15,259−273(1993) WO2002/031140 特開2005−291958号公報
本発明の目的は、一連の糖鎖解析の過程から、蛍光試薬等による糖鎖の標識過程およびクロマトグラフィー等による糖鎖画分の脱塩・精製過程を必要としない、簡便かつ高感度なFc結合糖鎖の解析方法を提供することにある。

本発明は、以下の(1)〜(19)に関する。
(1)IgGまたはそのFc部分を含む誘導体が含まれる試料をプロテアーゼにより消化し、得られた糖ペプチドの質量分析を行い、糖鎖を検出し、次いで得られた検出結果に基づいて糖鎖解析を行うことを特徴とする、IgGのFc結合糖鎖の分析方法。
(2)IgGがヒトIgGである、(1)に記載の方法。
(3)IgGがIgG1である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)試料が人の体液から採取された試料である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)体液が血清である、(4)に記載の方法。
(6)プロテアーゼが酸性プロテアーゼである、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)酸性プロテアーゼがペプシンである、(6)に記載の方法。
(8)糖ペプチドのペプチド部分が、Fc結合糖鎖が結合するアスパラギン残基のN末端側13、15、または19アミノ酸残基から該アスパラギン残基のC末端側3アミノ酸残基までのペプチドからなる、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9)糖ペプチドが、Fc結合糖鎖が結合するアスパラギン残基のN末端側13アミノ酸残基から該アスパラギン残基のC末端側3アミノ酸残基までを含む糖ペプチドである、(8)に記載の方法。
(10)糖ペプチドを精製することなく質量分析を行う、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11)糖鎖の標識を行わずに質量分析を行う、(1)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)質量分析をMALDI−TOF−MSにより行う、(1)〜(11)のいずれか1項に記載の方法。
(13)質量分析を行う工程において使用されるマトリックス試薬が、α−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸または2’,4’,6’−トリハイドロキシアセトフェノンである、(12)に記載の方法。
(14)IgGが異なるFc結合糖鎖を有するIgG分子を含むIgGである、(1)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
(15)試料が2以上のIgGまたはそのFc部分を含む誘導体を含む試料である、(1)〜(14)のいずれか1項に記載の方法。
(16)糖鎖解析がガラクトース含量を測定することである、(1)〜(15)のいずれか1項に記載の方法。
(17)糖鎖解析がN−アセチルグルコサミン含量および/またはフコース含量を測定することである、(1)〜(15)のいずれか1項に記載の方法。
(18)糖鎖の異常を伴う疾患を診断するための、(1)〜(17)のいずれか1項に記載の方法。
(19)疾患が癌またはリューマチである、(18)に記載の方法。
本発明は、IgGをプロテアーゼにより消化して得られるFc部分由来の糖ペプチドを分析することによりFc部分に結合する糖鎖を簡便に解析する方法を提供する。本発明の方法では、糖鎖の修飾反応および糖ペプチドの脱塩・精製過程を必要としないため、試料の前処理過程における損失を防ぐことができ、高感度な解析を行うことができる。
哺乳類の抗体はIgM、IgD、IgG、IgA、IgEの5種類のクラスに分類され、IgGはさらにIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4種類のサブクラスに分類されるが、本発明において用いられるIgGはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4のいずれでも良い。また、IgGの各々のサブクラスについて、多型またはアロタイプによるアミノ酸残基の微細な差異が存在するが、本発明におけるIgGは、いずれの多型またはアロタイプでも良い。
IgGは、パパインなどのプロテアーゼで消化することにより、抗原結合活性を持つFab断片と抗原結合活性を持たないFc断片に分けることができるが、本発明においてFab部分とは、IgGの中でFab断片に対応する部分をいい、Fc部分とはFc断片に対応する部分をいう。また、Fab部分とFc部分をつなぐ部分をヒンジという。IgGのFc部分は2本の重鎖からなる。各々の重鎖には、通常N−グリコシド結合糖鎖が結合するアスパラギン残基が1つだけ存在する。したがって、IgGのFc部分には通常2本のN−グリコシド結合糖鎖が存在している。
本発明においてIgGのFc部分を含む誘導体とは、IgGのFc部分を含む誘導体であれば、いかなるものでも良い。当該誘導体としては、例えばIgGのFc部分を含むIgG断片や、IgGのFc部分を含む分子と、酵素やサイトカインなどの蛋白質とを融合させた物質などがあげられる。またIgGの活性改変などを目的として、Fc部分の1個または複数個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に人工的に改変したり、IgGのFc部分に結合する糖鎖を人工的に改変したIgGも、本発明におけるIgGに包含される。
本発明におけるIgGまたはそのFc部分を含む誘導体を含む試料(以下、これらをまとめてIgG含有試料という)としては、生物としては動物、植物、細菌、ウイルスがあげられるが、好ましくは動物があげられる。動物としてはヒト、サル、ラット、マウス等いずれの動物でもよいが、ヒトが好ましい。生物由来の試料としては、例えば、血漿、血清、汗、唾液、尿、膵液、羊水、髄液などがあげられ、好ましくは血漿、血清、尿があげられる。
また本発明におけるIgG含有試料としては、トランスジェニック動物や培養細胞などを用いて、組換え蛋白質技術によって製造された試料であってもよい。
本発明においてIgGとしては、IgG分子を含むものであれば異なるFc結合糖鎖を有するIgG分子を含んでいてもよい。本発明において例えば3種類のFc結合糖鎖を有するIgG分子を含むIgGがある場合、一度に3種類のIgG分子それぞれについて、Fc結合糖鎖の分析を行うことができる。
本発明において糖鎖とは、1つ以上の単位糖(単糖および/またはその誘導体)から構成される物質をいう。2つ以上の単位糖から構成される場合は、各々の単位糖は通常グリコシド結合により結合している。アミノ基などと反応し得る糖鎖の末端を還元末端、還元末端でない糖鎖の末端を非還元末端と呼ぶ。ここでN−アセチルノイラミン酸など、負電荷を持つ単位糖を含む糖鎖を酸性糖鎖、負電荷を持つ単位糖を含まない糖鎖を中性糖鎖というが、本発明における糖鎖は中性糖鎖と酸性糖鎖の両方を含む。
また本発明においてIgG含有試料には2以上のIgGまたはそのFc部分を含む誘導体を含んでいてもよい。例えば、IgG含有試料中に異なるFab部分を有するIgGが2以上あってもよく、異なるタイプのIgGが2以上含まれていてもよい。
本発明においてペプチドとは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合により結合したものをいう。アミノ酸(HNCHRCOOH、Rはアミノ酸の側鎖)がペプチドに組み込まれた時、−NH−CHRCO−部分をアミノ酸残基という。特に、遊離のα−アミノ基を持つアミノ酸残基をN末端アミノ酸残基、遊離のα−カルボキシル基を持つアミノ酸残基をC末端アミノ酸残基という。ここで、M個のアミノ酸が分枝することなくペプチド結合したペプチドにおいて、N末端アミノ酸残基からi番目のアミノ酸残基をAとする(iは1以上M以下の自然数)。この時、アミノ酸残基Ai−k(kはi−1以下の自然数)を「アミノ酸残基AのN末端側k残基目のアミノ酸残基」、アミノ酸残基Ai+k(kはM−i以下の自然数)を「アミノ酸残基AのC末端側k残基目のアミノ酸残基」という。
本発明において糖ペプチドとは、ペプチドに糖鎖が共有結合したものをいう。糖ペプチドにおける糖鎖とペプチドの結合様式としては、ペプチドのアスパラギン残基の側鎖に糖鎖の還元末端が結合する場合(N−グリコシド結合糖鎖)、ペプチドのセリン残基またはスレオニン残基の側鎖に糖鎖の還元末端が結合する場合(O−グリコシル結合糖鎖)、などがあげられる。ペプチドの場合と同様に、糖ペプチドにおいても、遊離のα−アミノ基を持つアミノ酸残基をN末端アミノ酸残基、遊離のα−カルボキシル基を持つアミノ酸残基をC末端アミノ酸残基という。
本発明においてFc結合糖鎖とは、IgG分子のFc部分に結合している糖鎖をいうが、糖鎖の結合様式としてはN−グリコシド結合糖鎖であってもO−グリコシド結合であってもよいが、N−グリコシド結合糖鎖が好ましい。
本発明におけるFc部分由来の糖ペプチドは、N−グリコシド結合糖鎖の場合は、好ましくはFc結合糖鎖が結合するアスパラギン残基のN末端側13、15、または19アミノ酸残基目から該アスパラギン残基のC末端側3アミノ酸残基目までのペプチドからなる糖ペプチドであり、さらに好ましくは該アスパラギン残基のN末端側19アミノ酸残基目から該アスパラギン残基のC末端側3アミノ酸残基目までのペプチドからなる糖ペプチドである。具体的には、ペプチド部分のアミノ酸配列が配列番号1〜3のいずれかで示される糖ペプチドがあげられる。
本発明において使用されるプロテアーゼとしては、IgG分子からFc部分由来の糖ペプチドを調製することができるものであればいずれのプロテアーゼでも良いが、プロテアーゼの形態としては、粉末、溶液等いかなる形態であってもよい。例えばアガロースビーズのような固相に固定化されたプロテアーゼ等があげられる。
また本発明において使用されるプロテアーゼとしては、分析の際の障害となり得る非糖ペプチドの生成を最小限に抑えつつ、Fc部分由来の糖ペプチドを効率的に調製するプロテアーゼが好ましい。酸性プロテアーゼとは、ペプチド結合を切断する触媒活性が酸性pHで最大になるプロテアーゼをいうが、酸性pH条件下でIgGのプロテアーゼ消化を行うと、Fc結合糖鎖の近傍が優先的に消化され、Fab部分などそれ以外の部分は容易に消化されないため、本発明においては酸性プロテアーゼが好ましく用いられる。酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、HIVプロテアーゼ、レニン、カテプシンE、カテプシンD、カテプシンE、プロテアーゼAなどがあげられるが、好ましくはペプシンがあげられる。
本発明におけるIgG分子のプロテアーゼ消化のpHは、Fc部分由来の糖ペプチドが生成する限りどのようなpHであっても良いが、好ましくはpH1〜6、より好ましくはpH2〜5、特に好ましくはpH3〜4である。プロテアーゼ消化の反応時間は、Fc部分由来の糖ペプチドが生成する限りどのような反応時間であっても良いが、好ましくは10秒間〜24時間、より好ましくは1分間〜4時間、さらに好ましくは5分間〜1時間である。プロテアーゼ消化の温度は、Fc部分由来の糖ペプチドが生成する限りどのような温度であっても良いが、好ましくは4℃〜37℃、より好ましくは15℃〜37℃、さらに好ましくは25℃〜37℃である。
本発明において質量分析とは、レーザー照射などによりイオン化した試料を、質量数/電荷数(m/z)に従って分離し、各イオンの相対強度を測定する分析方法をいう。
本発明においては、IgG含有試料をプロテアーゼにより消化し、得られた糖ペプチドを精製することなく質量分析を行い、糖鎖を検出し、次いで得られた検出結果に基づいて糖鎖解析を行うことにより、Fc結合糖鎖の分析を行うことができる。すなわち、Fc部分由来糖ペプチド以外のIgG分子由来のペプチドやFab断片等が含まれる試料であっても、質量分析によりFc部分由来糖ペプチドを検出してFc結合糖鎖を分析することができる。また、試料が微量のリン酸緩衝液、Tris緩衝液、グアニジンを含む場合であってもFc部分由来糖ペプチドを検出することができる。
本発明において使用される質量分析の方法は当該分野において周知である(丹羽、最新のマススペクトロメトリー、化学同人(1995))。
本発明における質量分析には、エレクトロスプレー(ESI)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法を始めとした任意のイオン化手法を使用することができる。また質量分析には、飛行時間型(TOF)、四重極型、磁場型など、任意の質量分離方式を使用することができるが、TOFを用いた方法が好ましく用いられる。
本発明においてMALDI−TOF−MSとは、Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time−of−Flight Mass Spectrometerの略語である。MALDIとは、田中らによって見いだされ、Hillenkampらによって開発された質量分析の技法である(Karas M.,Hillenkamp,F.,Anal.Chem.1988,60,2299−2301)。この方法では、試料とマトリックス溶液を混合した後、混合溶液をプレート上で乾固し、結晶状態にする。パルスレーザー照射により、大きなエネルギーがマトリックス上に与えられ、(M+H)、(M+Na)などの試料由来イオンとマトリックス由来イオンとが脱離する。
MALDI−TOF−MSは、MALDIを利用して飛行時間を元に質量を測定するものである。イオンが一定の加速電圧Vで加速される場合、イオンの質量をm、イオンの速度をv、イオンの電荷数をz、電気素量をe、イオンの飛行時間をtとしたとき、イオンのm/zは、m/z=2eVt/Lで表すことができる。MALDI−TOF−MS測定には、島津製作所のKratosのKOMPACT MALDI II/IIIやブルカーダルトニクス社のREFLEXTMIIIなどの質量分析計を使用することができる。
本発明の質量分析において使用されるマトリックス試薬としては、質量分析に使用できるものであればいずれも使用できるが、好ましくは、2,5−ジヒドロキシベンゾイックアシッド、α−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸、2’,4’,6’−トリハイドロキシアセトフェノン、シナピン酸、trans−3−インドール−アクリル酸、1,5−ジアミノ−ナフタレン、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸、9−ニトロ−アントラセン、2−ピコリン酸、3−ヒドロキシ−ピコリン酸、ニコチン酸、アントラニル酸、5−クロロ−サリチル酸、2’−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、ジスラノール、および3−アミノ−キノリンがあげられ、より好ましくはα−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸または2’,4’,6’−トリハイドロキシアセトフェノンがあげられる。
本発明において質量分析に供される試料の質量分析計への導入法としては、IgG含有試料のプロテアーゼ消化液を含む容器から、例えばシリンジ、ピペット、または自動サンプリング装置等の手段を介して質量分析計に導入してもよいし、MALDI用384マイクロプレート等の質量分析用のプレート上でプロテアーゼ消化を行って直接導入してもよい。
本発明における糖鎖の解析には、糖鎖を同定することが含まれる。糖鎖の同定とは、解析対象試料に含まれる1つまたは複数の糖鎖成分を特定することである。例えば糖蛋白質の糖鎖分析においては、糖蛋白質に結合する糖鎖を特定することをいい、糖蛋白質に結合する糖鎖が複数ある場合は、それら複数の糖鎖を特定することをいう。糖蛋白質の糖鎖を同定する方法としては、糖蛋白質から糖ペプチドを分離し、得られた糖ペプチドの質量分析を行い、次いで得られた検出結果に基づいて糖鎖解析を行い、糖鎖を同定する方法があげられる。
また本発明における糖鎖解析は、糖鎖を定量することが含まれる。本発明において糖鎖の定量とは、例えば分析の対象となる試料に含まれる2以上の糖鎖の量比(モル比)を求めることを包含する。具体的にはIgGまたはそのFcを含む誘導体に結合する2以上の糖鎖の量比を求めることをいう。
本発明における糖鎖の検出とは、例えば質量分析においては、観測される質量スペクトルにおいてシグナルとして認識されるピークを見出すことをいう。認識されたピークが特定の目的分子に対応する場合は、その目的分子のピークが検出されたことになる。質量分析で検出されたFc部分由来の糖ペプチドのピークの大きさの比を計算することにより、IgGまたはそのFcを含む誘導体に結合する糖鎖の定量を行うことができる。ピークの大きさは、例えば、ピークのある質量範囲の面積またはピーク全部の面積を指標として測定してもよいし、ピークの高さを指標として測定してもよい。
本発明により、IgGまたはそのFcを含む誘導体のFc結合糖鎖を分析することができる。本発明により分析できる糖鎖は、IgGまたはそのFcを含む誘導体のFc結合糖鎖であればいかなる糖鎖であっても良い。また本発明により当該糖鎖中のガラクトース含量や、N−アセチルグルコサミン含量、フコース含量等も測定することができる。
本発明の分析方法により、糖鎖の異常を伴う疾患を診断することができる。例えば、リュウマチ患者では健常者に比べて血清IgG糖鎖の非還元末端に付加するガラクトースの量が少ないことが報告されている一方(Nature,316,452−457(1985)、J.Biochem.,128,621−628(2000))、肺がん、胃がん、前立腺がんの患者の血清IgGにおいては、糖鎖の非還元末端に付加するガラクトースの量が健常人よりも多いことが示唆されているため(生物物理化学 2000;44補冊2:14)、本発明のIgGのFc結合糖鎖中のガラクトース含量を測定する方法により、これらの疾患を診断することができる。
ヒトIgGのN−アセチルグルコサミン含量やフコース含量が抗体のADCC活性に影響することが知られているため(グリコバイオロジー(Glycobiology),5,813(1995)、J.Biol.Chem.,277,26733−26740(2002)、J.Biol.Chem.,278,3466−3473(2003)、J.Immunol.Methods,306,151−160(2005)、WO2002/031140)、本発明のFc結合糖鎖中のN−アセチルグルコサミン含量やフコース含量を測定する方法により、ADCC活性を測定することができる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の内容はこれに限定されるものではない。
組み換えヒトIgG1のFc結合糖鎖の解析
抗ケモカイン受容体4(CCR4)キメラ抗体KM2760[R.Niwa et al.,Cancer Res.64,2127−2133(2004)]を生産するラットミエローマYB2/0細胞培養上清をウルトラフリー0.5−10K(ミリポア社製)を用いて緩衝液A(10mM酢酸−トリエタノールアミン、pH5.0)に置換した。緩衝液Aを用いて濃度を2.0mg/mLにした当該溶液5μLに5μLの12mMギ酸を加えることにより、pHを3.8にした。この溶液10μLに5μLの0.27mg/mLペプシン溶液(シグマ社製のペプシンを水に溶かしたもの)を加えて混合し、37℃で1時間温置した。この反応液15μLに5μLの30mMトリエタノールアミンを加えて反応液を中性pHにすることにより、ペプシン消化反応を停止した。
MALDI−TOF−MS用のプレートに0.5μLの薄膜溶液(α−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸をアセトンに濃度20mg/mLとなるように溶かしたもの)を滴下して薄膜を作製した。前記のペプシン消化液と後述するマトリックス溶液とを混合して、薄膜の上に載せた。マトリックス溶液は0.1%トリフルオロ酢酸とアセトニトリルを2:1(vol/vol)で混合した溶媒に、α−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸を濃度20mg/mLとなるように懸濁し、遠心分離した上清を用いた。プレートをMALDI−TOF―MS装置(REFLEXTMIII、ブルカーダルトニクス社製)に装着し、測定を行った。測定時のレーザー照射エネルギーは25keVに設定し、ポジティブモード/リフレクターモードで測定を行った。得られた質量スペクトルにおいて、ペプチド部分が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる、Fc部分由来の糖ペプチドが検出された。
検出された糖鎖構造とそれに対応する略号を図1に示す。例えば、G(0)F(0)とは、以下の構造式IIで示される糖鎖構造を示している。
[化2]
GlcNAcβ1→2Manα1→6
Manβ1→4GlcNAcβ1→4GlcNAc(II)
GlcNAcβ1→2Manα1→3
ペプチド部分が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるFc部分由来の糖ペプチドが検出された結果を図2に示す。図2の矢印で示した複数のピークは、異なる糖鎖構造に由来する糖ペプチドを示している。
図2で示された糖ペプチドピークの面積の比を計算することにより、抗CCR4キメラ抗体KM2760のFc結合糖鎖の量比を定量した。その結果を表1に示す。

(表1)本発明の方法および従来の方法により得られたKM2760の糖鎖量比
また図2には特に示していないが、配列番号4で示されるのアミノ酸配列からなるペプチドにG(0)F(0)糖鎖およびG(1)F(0)糖鎖が結合したFc部分由来の糖ペプチドや、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるペプチドにG(0)F(0)糖鎖およびG(1)F(0)糖鎖が結合したFc部分由来糖ペプチドのピークも検出された。
組み換えヒトIgG2、IgG3、IgG4のFc結合糖鎖の解析
ヒトIgG2、IgG3,IgG4型の抗CD20キメラ抗体[R.Niwa et al.,J.Immunol.Methods.306,151−160(2005)]を生産するチャイニーズハムスター卵巣組織由来細胞(CHO細胞)の各培養上清中の各抗体のFc結合糖鎖を分析した。分析の方法は実施例1と同様にして行った。得られた質量スペクトルを図3に示す。ヒトIgG2とヒトIgG3のスペクトルでは、ペプチド部分が配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる糖ペプチドが検出された。ヒトIgG4のスペクトルでは、ペプチド部分が配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する糖ペプチドが検出された。
図3で示された糖ペプチドピークの面積の比を計算することにより、Fc結合糖鎖を定量した。その結果を表2に示す。表2に示したように、本発明の方法によりヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4の各Fc結合糖鎖の同定と定量を行うことができた。

(表2)ヒトIgG2,ヒトIgG3、ヒトIgG4の糖鎖量比
ヒト血清から精製したIgGのFc結合糖鎖の解析
市販のヒト血清(シグマ社、カタログ番号S7023、ロット番号034K8937)を緩衝液B(15mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5)に対して透析した。緩衝液Bで平衡化した陰イオン交換レジン(DEAE Sepharose FF、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を担体とするカラムに透析したヒト血清を通液することによりIgGを主成分として含む透過液を回収し、実施例1と同様の方法で分析した。得られた質量スペクトルを図4に示す。ペプチド部分が配列番号1、2、または3のそれぞれ示されるアミノ酸配列からなるFc部分由来の糖ペプチドが検出された。また図4に示したように、配列番号1で示されるアミノ酸配列(ヒトIgG1の配列に相当)からなるペプチドにG(0)F(1)、G(1)F(0)、G(1)F(1)、G(0)F(1)GN(1)、G(2)F(1)、またはG(1)F(1)GN(1)糖鎖が結合したFc部分由来の糖ペプチド、配列番号2で示されるアミノ酸配列(ヒトIgG2またはヒトIgG3に相当)からなるペプチドにG(0)F(1)、G(1)F(1)、G(2)F(1)、またはG(1)F(1)GN(1)糖鎖が結合したFc部分由来の糖ペプチド、配列番号3で示されるアミノ酸配列(ヒトIgG4に相当)からなるペプチドにG(0)F(1)またはG(1)F(1)糖鎖が結合したFc部分由来の糖ペプチドのピークが検出された。
健常人およびリウマチ患者の血清IgG1のFc結合糖鎖の解析
35人分の健常人の血清または24人分のリウマチ患者の血清(ProMedDx社製)から以下のようにしてIgGを精製した。緩衝液C(0.2M ホウ酸、0.15M 塩化ナトリウム、pH7.5)で平衡化したプロテインA(Mab Select、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を担体とするカラムに、血清を通液し、カラムを緩衝液Cで洗浄した。プロテインAに結合したヒトIgGを緩衝液D(0.1M クエン酸、pH3.5)で溶出した。このIgGのFc結合糖鎖を実施例3と同様の方法で分析した。得られた質量分析スペクトルにおいて、ペプチド部分が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるヒトIgG1のFc部分由来の糖ペプチドのピークを検出した。検出されたヒトIgG1のFc部分由来の糖ペプチドの面積をもとにして、以下の式1によりヒトIgG1のFc結合糖鎖1本あたりに結合するガラクトースの数(No_Gal)を計算した。

[式1]
No_Gal
=[G1F0+G1F1+G1F0GN1+G1F1GN1
+2x{G2F0+G2F1+G2F0GN1+G2F1GN1}] /100

ただし、式1において、
G1F0:G(1)F(0)ピークの面積/Total x 100
G2F0:G(2)F(0)ピークの面積/Total x 100
G1F1:G(1)F(1)ピークの面積/Total x 100
G2F1:G(2)F(1)ピークの面積/Total x 100
G1F0GN1:G(1)F(0)GN(1)ピークの面積/Total x 100
G2F0GN1:G(2)F(0)GN(1)ピークの面積/Total x 100
G1F1GN1:G(1)F(1)GN(1)ピークの面積/Total x 100
G2F1GN1:G(2)F(1)GN(1)ピークの面積/Total x 100
Total:質量分析スペクトルにおいて検出されたヒトIgG1由来のFc部分由来の糖ペプチドピークの面積の合計
をそれぞれ示す。
図5に、各検体のNo_Galを示した。健常人35人分およびリウマチ患者24人分のNo_Galの平均値と標準偏差(カッコ内)は、それぞれ、0.89(0.12)および0.67(0.13)であり、No_Galの平均値は健常人に比べてリウマチ患者の方が低かった。健常人とリウマチ患者のNo_Galの平均値の差が有意であるかどうかを調べるためにt検定を行った結果、P値は10−8となり、両者の差は有意であることが確認された。
ヒトIgG1のFcとサイトカインを融合した組換えタンパク質のFc結合糖鎖の解析
ヒトIgG1のFcとヒト腫瘍壊死因子受容体のリガンド結合部分を融合した組み換え蛋白質(エンブレルTM、アムジェン社製)のFc結合糖鎖の分析を以下のようにして行った。エンブレルの緩衝液をウルトラフリー0.5−10K(ミリポア社製)を用いて緩衝液E(10mMリン酸カリウム溶液、pH4.8)に置換し、蛋白質濃度を2.0mg/mLに調整した。この溶液5μLに5μLの10mMギ酸―トリエタノールアミン溶液を加えてpHを3.8にした。この溶液10μLに5μLの0.27mg/mLペプシン溶液(シグマ社製のペプシンを水に溶かしたもの)を加えて混合し、37℃で1時間温置した。この反応液15μLに5μLの30mMのトリエタノールアミンを加えて反応液を中性pHにすることにより、ペプシン消化反応を停止した。
実施例1と同様の方法により、ペプシン消化したエンブレルのMALDI−TOF−MSによる分析を行った。得られた質量スペクトルにおいて、ペプチド部分が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる、Fc部分由来の糖ペプチドが検出された。これらの糖ペプチドピークの面積の比を計算することにより、エンブレルのFc結合糖鎖の量比を定量した。その結果を表3に示す。表3に示したように、本発明の方法により、Fc以外の部分にもN型糖鎖が結合しているFc融合蛋白質のFc結合糖鎖を解析することができた。

(表3)エンブレルのFc結合糖鎖量比
本発明により、IgGまたはそのFc部分を含む誘導体のFc結合糖鎖の分析方法が提供される。本発明の方法は、簡便かつ高感度でIgGのFc結合糖鎖を分析することができ、血清IgGの糖鎖分析による疾患の診断やIgGを利用した医薬の開発において有用である。
図1は、代表的なヒトIgGのFc結合糖鎖の模式図と対応する略号を示している。 図2は、ペプシンで消化した抗CCR4キメラ抗体KM2760のMALDI−TOF−MSスペクトルである。Fc部分由来の糖ペプチドのピークを矢印で示し、対応する糖鎖の略号を示した。 図3は、ペプシンで消化したヒトIgG2抗体(下段)、ヒトIgG3抗体(中段)、ヒトIgG4抗体(上段)のMALDI−TOF−MSスペクトルである。Fc部分由来の糖ペプチドのピークを矢印で示し、対応する糖鎖の略号を示した。 図4は、ヒト血清から精製したIgGのペプシン消化物のMALDI−TOF−MSスペクトルである。いくつかのFc部分由来の糖ペプチドピークを矢印で示した。○はペプチド部分が配列番号1で示されるアミノ酸配列、△はペプチド部分が配列番号2で示されるアミノ酸配列、□はペプチド部分が配列番号3で示されるアミノ酸配列であるFc部分由来の糖ペプチドのピークである。 図5は、35人分の健常人の血清IgG1および24人分のリウマチ患者の血清IgG1の糖鎖を分析した結果を示す。横軸は各検体を、縦軸(No_Gal)はヒトIgG1のFc結合糖鎖1本あたりに結合するガラクトースの数を表す。

Claims (19)

  1. IgGまたはそのFc部分を含む誘導体が含まれる試料をプロテアーゼにより消化し、得られた糖ペプチドの質量分析を行い、糖鎖を検出し、次いで得られた検出結果に基づいて糖鎖解析を行うことを特徴とする、IgGのFc結合糖鎖の分析方法。
  2. IgGがヒトIgGである、請求項1に記載の方法。
  3. IgGがIgG1である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 試料が人の体液から採取された試料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 体液が血清である、請求項4に記載の方法。
  6. プロテアーゼが酸性プロテアーゼである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 酸性プロテアーゼがペプシンである、請求項6に記載の方法。
  8. 糖ペプチドのペプチド部分が、Fc結合糖鎖が結合するアスパラギン残基のN末端側13、15、または19アミノ酸残基から該アスパラギン残基のC末端側3アミノ酸残基までのペプチドからなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 糖ペプチドが、Fc結合糖鎖が結合するアスパラギン残基のN末端側13アミノ酸残基から該アスパラギン残基のC末端側3アミノ酸残基までを含む糖ペプチドである、請求項8に記載の方法。
  10. 糖ペプチドを精製することなく質量分析を行う、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 糖鎖の標識を行わずに質量分析を行う、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 質量分析をMALDI−TOF−MSにより行う、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 質量分析を行う工程において使用されるマトリックス試薬が、α−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸または2’,4’,6’−トリハイドロキシアセトフェノンである、請求項12に記載の方法。
  14. IgGが異なるFc結合糖鎖を有するIgG分子を含むIgGである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 試料が2以上のIgGまたはそのFc部分を含む誘導体を含む試料である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
  16. 糖鎖解析がガラクトース含量を測定することである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 糖鎖解析がN−アセチルグルコサミン含量および/またはフコース含量を測定することである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
  18. 糖鎖の異常を伴う疾患を診断するための、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
  19. 疾患が癌またはリューマチである、請求項18に記載の方法。
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