JP5670737B2 - 膜タンパク質の抽出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、生体サンプルから膜タンパク質を抽出するための線状両親媒性炭水化物ポリマーの使用、膜タンパク質の抽出方法、これらのタンパク質の抽出のためのキット、およびそれらの使用に関する。
タンパク質、中でも特に膜タンパク質の検出または分析は、医薬における重要性を増している。薬学研究において調査されるシステムの大部分は、膜タンパク質を含む。膜タンパク質は、数多くの生物学的機能において特に重要である。したがって、多くの膜タンパク質は、疾患の発症において重要な役割を果たし、その結果、これらの機能を理解することが、薬剤の開発において重要性を増している。したがって、これらのタンパク質の構造特性および機能に関する情報は、メカニズムの理解のための基礎となる。
膜タンパク質、特に膜貫通型タンパク質は、疎水性部位を有するので、膜中に固定され、水への溶解性が低い。タンパク質のin-vitro分析を促進するために、膜タンパク質は通常、界面活性剤を添加して溶解する。しかしながら、界面活性剤を用いた膜タンパク質の単離は、界面活性剤の影響によりタンパク質の天然構造が変性するという深刻な不利点を有する。一般的な界面活性剤は、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などのイオン性質、または、例えばTriton-X 100などの非イオン性質のいずれかである。SDSの使用は、全てのタンパク質、したがって、膜タンパク質の完全な変性をももたらす、すなわち、膜タンパク質の構造的および機能的研究は、可能でないか、または極めて大幅に限定された範囲までのみ可能である。Triton-X 100は、膜タンパク質、特に複数回膜貫通型タンパク質を効果的に抽出することが例外的な場合においてのみ可能であり、結果として、所望の研究は全く実施できない。Triton-X 100などの界面活性剤および他の界面活性剤のさらなる不利点は、これらの試薬が、さらなる分析技術(例えば質量分析)と直接適合しない点にある。
したがって、膜タンパク質を生体サンプルから抽出し、続く分析技術を用いて直接研究することができる方法を提供することを目的とする。
タンパク質安定化およびタンパク質精製で知られた、水不溶性、線状、両親媒性炭水化物ポリマーが意外にも、特に複合生体サンプルからの膜タンパク質の抽出に極めて適していることが見出された。
本発明は、したがって、生体サンプルから膜タンパク質を抽出するための線状両親媒性炭水化物ポリマーの使用に関し、これは、このタイプのポリマーは、水性緩衝系において不溶性であり、抽出の後、(例えば遠心分離、濾過などにより)機械的に除去することが可能であるためである。
好ましい態様において、0.5〜10重量%の線状両親媒性炭水化物ポリマーを含む水溶液を抽出のために用いる。
さらに好ましい態様において、膜タンパク質は、1または2以上の膜貫通回数(transmembrane passage)を有するタンパク質である。
さらに好ましい態様において、生体サンプルは、組織、細胞、細胞培養物、体液、細菌、真菌、ウイルスおよび/または植物である。
本発明はまた、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを少なくとも含む混合物を、任意に機械的作用により、好ましくは未変性の生体サンプルへ添加することを特徴とする、好ましくは未変性の生体サンプルからの、膜タンパク質の抽出方法に関する。炭水化物ポリマーは、混合物において完全にまたは実質的に完全に懸濁し、すなわち、非溶解形態にある。本発明の方法のために、炭水化物ポリマーは好ましくは懸濁した状態にあり、すなわち完全に非溶解である。
好ましい態様において、生体サンプルを予め溶解する。
特に好ましい態様において、生体サンプルの溶解を、界面活性剤、界面活性物質および/またはポア形成剤の添加により行う。
好ましい態様において、機械的作用を、振とうまたは攪拌によって達成する。
さらに好ましい態様において、線状両親媒性炭水化物ポリマーは非荷電である。
好ましい態様において、線状両親媒性炭水化物ポリマーはイヌリンまたはその誘導体からなる。
さらに好ましい態様において、線状両親媒性炭水化物ポリマーは線状ポリフルクトース骨格を有する。
さらに好ましい態様において、抽出を4〜37℃の温度において行う。
さらに好ましい態様において、抽出溶液における線状両親媒性炭水化物ポリマーの濃度は、0.5〜10重量%である。
さらに好ましい態様において、抽出後、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを遠心分離、濾過、磁気分離、沈殿またはクロマトグラフ法により除去し、結果、得られた溶液に、抽出したタンパク質が残り、抽出剤(=線状両親媒性炭水化物ポリマー)の干渉影響なしに、さらなる分析にかけることができる。さらに好ましい態様において、本発明の方法において、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを磁粉へのコーティングとして用いる。
本発明はまた、固体としてまたは液体中で、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマー、ならびに界面活性剤、界面活性物質および/またはポア形成剤の群から選択される少なくとも1種の溶解剤を少なくとも含む、本発明の方法により膜タンパク質を抽出するためのキットに関する。
本発明はまた、生体サンプルから膜タンパク質を抽出するための、本発明のキットの使用に関する。
本発明の最重要点は、本発明の方法および本発明のキットが、膜タンパク質、特にマルチパス膜タンパク質の、穏やかで、可能な限りそれらの構造を保持する抽出に適していることである。膜貫通ドメインが膜の疎水性環境から除去された場合、膜からの抽出後、タンパク質の3D構造が不可避的に変わるので、特にマルチパス膜タンパク質の場合、膜からの機能保持抽出物は実質的に不可能であることは当業者に知られている。本発明によるマルチパス膜タンパク質の抽出に関し、用語「未変性(native)」は、したがって、抽出した膜タンパク質は、一般的にそれらの機能を保持して抽出されてはいないが、穏やかに、可能な限りそれらの構造を保持して抽出されることを意味する。例えば、本発明による抽出は、特に、タンパク質の膜貫通ドメインの、質量分析および免疫学的測定を可能にする。従来の方法、例えば、Triton-X100、Nonidet P40または基準として用いられる他の界面活性剤での抽出などを用いて、特に抽出物を精製または添加剤を除去することなく直接さらに分析する場合、タンパク質収率および調査されるタンパク質の機能の保持に関して、同程度の内容は可能ではない。
それらの機能または活性とは無関係の部分を用いて、膜中に固定されるだけの膜タンパク質、例えば、GPIアンカータンパク質などの場合、本発明による「未変性」抽出は、実質的にその構造および活性を保持して、タンパク質を抽出することができることを意味する。例えば、この場合、タンパク質の検出のために、対応する活性測定を行うことができる。
未変性サンプルとは、抽出される膜タンパク質が、実質的に依然として天然コンホメーション、すなわち、それらの本来の機能に必要なコンホメーションであるサンプル、または膜タンパク質が依然として活性を示すサンプルである。
本発明による膜タンパク質の抽出は、当業者に既知の全ての生体サンプルから行うことができる。本発明によれば、生体サンプルとは、生体膜において膜タンパク質が結合した全てのサンプルである。生体サンプルは好ましくは、例えば、生検および組織プレパラートなどの組織、細胞、細胞培養物および/または例えば、血液、尿、髄液(liquor)または唾液などの細胞含有体液、ならびに細菌、植物、および/または真菌などである。膜含有細胞コンパートメントまたは細胞フラグメントからの膜タンパク質もまた、本発明に従って抽出することができる。組織および細胞培養物からのタンパク質の抽出は、特に、特定のタンパク質の検出、例えば、疾患の存在を示すタンパク質の検出などを可能にする。本発明による方法は、したがって、病理的に興味深い組織サンプルのために特に有利でもある。
本発明による方法は、特に膜貫通型タンパク質、極めて特にマルチパス膜タンパク質、すなわち、2つまたは3つ以上の膜貫通路を有するタンパク質、特に例えば、ヘプタヘリカル膜貫通型タンパク質などのマルチヘリカル膜貫通型タンパク質に適している。ヘプタヘリカル膜貫通タンパク質のクラスは、現在、約250種の既知タンパク質を含む。膜貫通型タンパク質は以下のサブクラスに分けることが出来る:
−Class A ロドプシン、ホルモンタンパク質、(ロド)オプシン、嗅覚器官、プロスタノイド、ヌクレオチド類似体、カンナビノイド、血小板活性化因子、ゴナドトロピン放出ホルモン、甲状腺刺激放出ホルモンおよび分泌促進剤、メラトニン、ウイルスタンパク質、リゾスフィンゴ脂質&LPA(EDG)、ロイコトリエンB4受容体、Class A オーファンおよびその他、
−Class B セクレチン、例えば、カルシトニン、コルチコトロピン放出因子、胃抑制ペプチド、グルカゴン、成長ホルモン放出ホルモン、副甲状腺ホルモン、PACAP、セクレチン、血管作動性ポリペプチド、利尿ホルモン、EMR1、ラトロフィリン、脳特異的血管形成阻害物質(BAI)、メトセラ様タンパク質(MTH)、カドヘリンEGF LAG(CELSR)、受容体に結合した極めて大きいG−タンパク質、
−Class C 代謝型グルタミン酸塩/フェロモン、例えば、代謝型グルタミン酸塩、カルシウム感知様、推定フェロモン受容体、GABA−B、オーファンGPRC5、オーファンGPCR6、bride of sevenless proteins(BOSS)、味覚受容体(T1R)、
−Class D 真菌フェロモン、例えば、真菌フェロモンA−因子様(STE2、STE3)、真菌フェロモンB様(BAR、BBR、RCB、PRA)、真菌フェロモンMおよびP因子、Class E cAMP受容体、縮れた/滑らかな(frizzled/smoothened)ファミリー、縮れた、滑らかな、および以下の非GPCRファミリー:Class Z 古細菌/細菌/真菌オプシン。
本発明に従い、用いられる線状両親媒性炭水化物ポリマーは、直鎖状またはわずかに分岐状であってもよい。すなわち、本発明の目的において、1分子当たり1つまたは2つの分岐点を有する、軽度に分岐した炭水化物ポリマーもまた、線状炭水化物ポリマーと考えることができる。
本発明に従い、用いられる線状両親媒性炭水化物ポリマーは、典型的には、完全にまたは少なくとも大部分は水に不溶である。その結果、これらは抽出の後に単純な方法、例えば濾過、遠心分離などにより分離することが可能である。
本発明に従い、好適な線状両親媒性炭水化物ポリマーは、例えばWO 2005/047310から知られている。
これらは好ましくはフルクタンまたはフルクタン誘導体である。
フルクタンは、1個または2個以上のフルクトース分子がスクロース分子に結合している事実により区別される。
フルクトシル基のスクロースへの結合部位に依存して、フルクタンの3つの基本タイプに区別される:
1−ケストース: イヌリンにおいて、フルクトシル基は、β−2,1−結合によりスクロースのフルクトシル基に結合している。最も単純なイヌリンは、1−ケストトリオースまたはイソケトースである。
6−ケストース: フルクトシル基がスクロースのフルクトシル基にβ−2,6−結合により結合している場合、用語6−ケストトリオースまたはケトースが用いられる。このタイプのフルクタンは、場合によって、レバンまたはフレインとしても知られる。
ネオケストース: ネオケストースまたは6G−ケストースにおいて、フルクトシル基は、スクロースのグリコシル基のC6に結合する。
同様に、本発明に従い、用いられるフルクタンまたはフルクタン誘導体は、分子中に様々な結合パターンを有することができ、したがって、2または3以上の基本タイプの混合物を示す。
イヌリンまたはイヌリン誘導体が、本発明に従い、特に好ましく用いられる。イヌリンに関するさらなる情報は、例えばWO 2005/047310の3頁4行〜5頁9行において与えられる。
好適なイヌリンまたはイヌリン誘導体は、3〜500、好ましくは3〜100、特に好ましくは10〜50の重合度を有する。20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30の重合度を有するイヌリン誘導体が特に好ましい。
本発明に従い、用いられる線状両親媒性炭水化物ポリマーは、好ましくは電荷を帯びていない、すなわちこれらは電荷群により誘導体化されていない。
本発明に従い、用いられる線状両親媒性炭水化物ポリマーは、好ましくは疎水性の、特にC3〜C18のアルキル鎖によって、モノ−またはポリ誘導体化された線状炭水化物ポリマーである。本明細書において、炭水化物ポリマーは特に好ましくはイヌリンからなる。
本発明に従い、好ましいイヌリン誘導体は、式Iの化合物である:
G(O−CO−NH−R−[F(O−CO−NH−R
式中、
Gは、1個または2個以上のヒドロキシル基が、それぞれ独立して、式(O−CO−NH−R)の基により誘導体化されてもよい、末端グリコシル基を表し、
は、非電荷基、特に直鎖状または分岐状、飽和または不飽和の、1〜25個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
aは1〜4の数であり、
Fは、1個または2個以上のヒドロキシル基が、それぞれ独立して、式(O−CO−NH−R)の基により誘導体化されてもよい、フルクトシル基であり、
は、非電荷基、特に直鎖状または分岐状、飽和または不飽和の、1〜25個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
bは、鎖中のフルクトシル基に関しては1〜3の数であり、末端フルクトシル基に関しては1〜4の数であり、
nは3〜500、好ましくは3〜100、特に好ましくは10〜50の数、特に20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30である。nは特に好ましくは24である。
グリコシルまたはフルクトシル単位当たりの平均誘導体化度は、0.02〜3、好ましくは0.05〜1、特に好ましくは0.05〜0.5である。
好ましい態様において、基Rおよび/またはRは、それぞれ独立して、1〜25個の炭素原子、好ましくは3〜22個の炭素原子、特に好ましくは3〜18個の炭素原子を有するアルキル、アルケニルまたはアルキニル基であり、例えばn−オクチル、n−デシルまたはn−オクタデシルである。
本発明の目的のため、線状両親媒性炭水化物ポリマーの用語は、線状両親媒性炭水化物ポリマーの単一タイプまたは異なる線状両親媒性炭水化物ポリマーの混合物を意味する。
特に好ましい態様において、本発明に従って用いられる線状両親媒性炭水化物ポリマーは、疎水的に誘導体化された、直鎖ポリフルクトース単位からなる約5kDの分子量を有する非電荷分子からなる線状両親媒性炭水化物ポリマーである、Nvoyポリマーであって、これはNovexin (Cambridge, GB)から市販されている。
本発明は、生体サンプルから膜タンパク質を抽出するための方法に関し、ここで、少なくとも1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを、任意の機械的作用により、生体サンプルに添加し、続けてサンプルを分離する。
本明細書において、生体サンプルに添加する少なくとも1種の線状両親媒性炭水化物ポリマーは、典型的には固形ではないが、代わりに、少なくとも1種の線状両親媒性炭水化物ポリマーが存在する、水溶液の形態である。本明細書において、線状両親媒性炭水化物ポリマーは、典型的には、スラリー形態の、懸濁液中で存在する。1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを少なくとも含む水性懸濁液は、本発明に従って、抽出溶液としても知られる。
用いられる水溶液は、典型的には水または水性緩衝系である。本発明に従って用いられる水溶液が、20容積パーセントまでの1種または2種以上の水混和性溶媒を含む、水または水性緩衝系であることも同様に可能である。
好ましい態様において、水性緩衝系が用いられる。この緩衝系は、4.5〜9.0、好ましくは6.5〜8.0の範囲のpHを有すべきである。溶液のpHは特に好ましくはpH7.0〜7.5である。
好ましい緩衝液は、生理的状態を作り出す、すなわちタンパク質を変性させない、全ての緩衝系である。PIPES、HEPES、リン酸緩衝液およびトリスベース緩衝液が例示される。
線状両親媒性炭水化物ポリマーは、典型的に水溶液において、0.5〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、特に好ましくは1〜3重量%の濃度で存在する。
本発明の最も単純な態様において、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを少なくとも含む水性懸濁液を生体サンプルに添加する。前記方法は、好ましくは機械的作用、例えば振とうまたは攪拌により行われる。このようにして、膜タンパク質の抽出を加速し、抽出タンパク質の収率を改善する。
本発明による方法のさらなる態様において、生体サンプルを先ず溶解することができ、すなわち、本発明の方法に用いる前に、基本的な細胞構造を破壊する。この前処理は、当業者に既知の全ての手段、例えば手動の均質化または機械的振とうにより行うことができる。
特に、生体サンプルの溶解は、当業者に既知の界面活性剤、界面活性物質および/またはポア形成剤の添加によって行うこともできる。事前のサンプルの溶解は、得られる膜タンパク質の収率の観点において、抽出結果をさらに改善する。したがって、溶解の間、膜タンパク質は膜に残存するが、膜または膜フラグメントは、単純な方法で他の細胞構成物から分離することができる。溶解は好ましくは、ジギトニンを用いて行う。
溶解は抽出と同時に行うこともできるが、その結果、より複雑なタンパク質混合物が得られる。
本発明の方法において用いるための、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを少なくとも含む水性懸濁液は、追加の添加剤および補助剤を含んでもよい。対応する添加剤および補助剤は当業者に既知であり、例えば、界面活性剤、界面活性物質、ポア形成剤、生物学的または生理学的緩衝系、安定化剤、無機塩および/または阻害剤(例えば、プロテアーゼ阻害剤)を含む。
本発明の方法は、0℃より高い温度、典型的には0〜95℃において行うことができる。特に高いタンパク質収率が達成され、活性または構造の保持が二次的である場合は、抽出を高い温度(37℃より高い)において行うことができる。このタイプの抽出は、特にウエスタンブロット分析のために好適に用いることができる。本発明による抽出は、好ましくは0〜37℃、特に好ましくは0〜8℃、特には0〜4℃において行われる。好ましい温度において、比較的短時間における、改善された抽出およびタンパク質のタンパク質活性の保持が認められる。特に比較的敏感な膜タンパク質の穏やかな抽出のために、この目的のために必要である、より長い抽出時間を考慮して、本発明の方法を前記温度範囲内の比較的低温で行うことが望ましい。
典型的な抽出時間は、30分〜16時間である。活性タンパク質を抽出する場合、抽出溶液のpHは、好ましくは約pH7.4であるべきであり、さもなければ、2〜10のpH値を有する抽出溶液を用いることもできる。
本発明に従って抽出したタンパク質は、例えば、質量分析研究(例えばMaldi、EsiおよびSeldi)のために、直接用いることもでき、あるいは、当業者に既知の全ての他のタイプのタンパク質分析を用いて、例えば電気泳動法(例えばゲル電気泳動法、特に二次元ゲル電気泳動法)、免疫化学的検出方法(例えば、ウェスタンブロット分析、ELISA、RIA)、タンパク質アレイ(例えば、平面およびビーズベースシステム)、および全てのクロマトグラフィー分離方法、特に、バイオクロマトグラフィー分離方法(IEX、SEC、HIC、親和性クロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィー)により調査することもでき、または活性アッセイにおいて用いることができる。特に、ブルーネイティブゲル電気泳動法(blue native gel electrophoresis)、プラズモン共鳴分光法などの膜タンパク質複合体のための分析技術およびタンパク質複合体の分析のための他の技術が、本発明に従って抽出したタンパク質の分析に適している。
本発明の方法は、サンプルの細胞基礎構造を保持、すなわち膜タンパク質の構造を可能な限り保持する、生体サンプルからの膜タンパク質の抽出に適している。このようにして、従来方法を用いては単離が困難であるか全く不可能である、膜タンパク質複合体全体を単離することも可能である。一般的に、得られた膜タンパク質は、好適な抗体を用いて検出することができる。
線状両親媒性炭水化物ポリマーを抽出後に除去する場合、遠心分離、濾過、磁気分離、沈殿、クロマトグラフィーまたは当業者に既知のさらなる物理的な分離方法がこの目的に適している。
線状両親媒性炭水化物ポリマーを、固定化型、すなわち表面のコーティングまたは好ましくは粒子として、本発明の方法において用いることにできる。特に、ここで線状両親媒性炭水化物ポリマーでコーティングされた磁粉が好ましい。例えば、これらは、5〜100mmの粒径を有する磁鉄鉱または磁赤鉄鉱粒子であってもよい。炭水化物ポリマーコーティングは共有結合的にまたは非共有結合的に粒子へ適用されてもよい。例えば、粒子を先ず、例えばシリカまたは有機ポリマーの接着コートでコーティングし、そしてそこへ線状両親媒性炭水化物ポリマーを適用する。
本発明は同様に、少なくとも1種の線状両親媒性炭水化物ポリマーおよび溶解剤を含む、上述の本発明の方法により膜タンパク質を抽出するためのキットに関する。キットは、
− 固形の、
− 水、水混和性有機溶媒(例えばエタノール)または水性緩衝系中の高度に濃縮したスラリーの形態の、
− または上述の通り本発明の方法の実行下で、水性懸濁液の形態の、
線状両親媒性炭水化物ポリマーを典型的に含む。
一般的に、キットはまた、抽出のために適量において炭水化物ポリマーが懸濁することができる、好適な緩衝液を追加で含む。さらなる任意の構成物は、例えば、プロテアーゼ阻害剤または洗浄緩衝液である。好ましい溶解剤は既に述べた。ジギトニンが特に好ましく用いられる。
本発明のキットは、使用者が単純な方法において生体サンプルから膜タンパク質を抽出することを可能にする。
本発明は、同様に、生体サンプルから、膜タンパク質、特に複数回膜貫通型タンパク質を抽出するための、本発明のキットの使用に関する。
これ以上の言及がなくても、当業者は上記の記載を最も広い範囲で利用することが可能であるとみなされる。したがって、好ましい態様および例は、単に説明のための開示であり、いかなる意味においても決して限定するものではないとみなすべきである。
本明細書中に記載する全ての出願、特許および刊行物、特に対応出願である2007年5月12日に出願されたDE 10 2007 060599.6の全ての開示内容は、参照によって本願明細書中に組み込まれる。

HEK 293細胞からの本発明による膜タンパク質の抽出

洗浄緩衝液: 1X PBS

プロテアーゼ阻害剤カクテルセットIII:
Calbiochem. Art. No.: 539134

抽出緩衝液I: 10 mM PIPES pH 6.8
0.02重量%のジギトニン
300 mM スクロース
15 mM NaCl
0.5 mM EDTA
抽出緩衝液Iは、細胞質タンパク質を前もって抽出するために、任意に用いることができる。

抽出緩衝液II: 10 mM PIPES pH 7.4
300 mM スクロース
15 mM NaCl
0.5 mM EDTA
炭水化物ポリマーの調製 (NVoyポリマー(Novexin, GB))
・500μlのポリマー(エタノール中の懸濁液)をエッペンドルフ型カップに移す。
・5000gで3分間、遠心分離にかける。
・上澄みを捨て、ポリマーを1000μlの抽出緩衝液IIで洗浄する。
・5000gで3分間、遠心分離にかけ、上澄みを捨てる。
・2度繰り返す。
・最後に、およそ1:1スラリー(50%のポリマー/50%の緩衝液)を調製する。
・抽出のために、そこから、抽出緩衝液II中2%溶液(容積%)を調製する。
接着細胞の場合の手順:
・例えばHEK 293細胞を含む、T75 ボトル(約90%覆われる)
・培地を捨てる
・10mlのPBS(4℃)で2度洗浄し、洗浄緩衝液を捨てる(0〜37℃)
・+10μlのプロテアーゼ阻害剤カクテル(任意)
・ボトル当たり1000μlの2.0%(容積%)のポリマー溶液を添加し、注意深く分配する。
・30分間4℃(10〜60分および0℃〜37℃)で放置する
・細胞を削り取り、16,000gで15分間4℃において遠心分離にかける
細胞内コンパートメントに加え、ポリマーも遠心分離により分離し、サンプルから除去する。
⇒タンパク質フラクションとして、上澄みをさらなる分析(例えば、直接的な質量分析調査、および膜タンパク質複合体の分析技術(例えばブルーネイティブゲル電気泳動)ならびに全ての未変性酵素的および免疫学的分析方法)に添加することができる。
例えば、懸濁細胞、単離組織細胞または均質化組織と共に、この方法を同様に行うこともできる。

Claims (12)

  1. 生体サンプルから膜タンパク質を抽出するための、直鎖状のポリフルクトース骨格を有する、少なくとも1種の線状両親媒性炭水化物ポリマーの使用。
  2. 0.5〜10重量%の少なくとも1種の線状両親媒性炭水化物ポリマーを含む水性懸濁液を抽出のために用いることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
  3. 生体サンプルが、組織、細胞、細胞培養物、体液、細菌、真菌、ウイルスおよび/または植物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
  4. 生体サンプルから膜タンパク質を抽出するための方法であって、直鎖状のポリフルクトース骨格を有する、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを少なくとも含む混合物を生体サンプルに添加することを特徴とする、前記方法。
  5. 1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを少なくとも含む混合物の添加の前に、生体サンプルを溶解することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  6. 存在する1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーが非荷電であることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
  7. 存在する1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーが、イヌリンまたは式Iの化合物:
    G(O−CO−NH−R −[F(O−CO−NH−R
    式中、
    Gは、1個または2個以上のヒドロキシル基が、それぞれ独立して、式(O−CO−NH−R )の基により誘導体化されてもよい、末端グリコシル基を表し、
    は、直鎖状または分岐状、飽和または不飽和の、1〜25個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
    aは、1〜4の数であり、
    Fは、1個または2個以上のヒドロキシル基が、それぞれ独立して、式(O−CO−NH−R )の基により誘導体化されてもよい、フルクトシル基であり、
    は、直鎖状または分岐状、飽和または不飽和の、1〜25個の炭素原子を有する炭化水素基であり、
    bは、鎖中のフルクトシル基に関しては1〜3の数であり、末端フルクトシル基に関しては1〜4の数であり、
    nは、3〜500である、
    からなることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 抽出が4〜37℃の温度において行われることを特徴とする、請求項4〜のいずれか一項に記載の方法。
  9. 懸濁液または混合物における線状両親媒性炭水化物ポリマーの濃度が、0.5〜10重量%であることを特徴とする、請求項4〜のいずれか一項に記載の方法。
  10. 抽出後に、遠心分離、濾過、磁気分離、沈殿またはクロマトグラフ法により、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーを除去することを特徴とする、請求項4〜のいずれか一項に記載の方法。
  11. 1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマーが、磁粉に適用されることを特徴とする、請求項4〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 生体サンプルから膜タンパク質を抽出するための、直鎖状のポリフルクトース骨格を有する、1種または2種以上の線状両親媒性炭水化物ポリマー、ならびに界面活性剤、界面活性物質および/またはポア形成剤の群から選択される少なくとも1種の溶解剤を少なくとも含むキットの使用。
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