JP5667405B2 - 防塵マスク用プレフィルタ及び防塵マスク - Google Patents

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Description

本発明は、防塵マスクに用いるプレフィルタであって、濾材とその支持体とからなり、特に粉塵の捕集性と通気性が良く、付着した塵や埃が簡単に除去できる塵離れ性が良好なプレフィルタ濾材と、前記プレフィルタ濾材を備えてなるメンテナンス性に優れたプレフィルタに関する。
塵埃が浮遊する作業空間において作業を行う場合、作業者は通常防塵マスク、電動ファン付き呼吸用保護具等を使用している。防塵マスクは、その効果として労働衛生面だけを強調すれば、塵埃が飛散する環境からマスク着用者を防護することを優先させればよいが、防塵マスクを装着することによる息苦しさから、作業能率が低下することは好ましくない。
通常、フィルタの通気(吸気)抵抗が約100Paより大きくなると人間は息苦しさを感じるといわれている。
そこで、塵埃の捕集効率を低下させることなく、通気抵抗の上昇を抑えた防塵マスク用フィルタが開発されている(特許文献1)。
また、防塵マスク本体のフィルタの塵埃堆積量を軽減するため、防塵マスクの上流部に配置するプレフィルタも開発されており、プレフィルタの濾材として、厚みの大きい不織布を用いたものがある。不織布をプレフィルタに用いることで、濾過面積を大きくし、プレフィルタと防塵マスク用フィルタ本体の圧力損失が加わることによる通気性の低下を防ぎ、高い通気性を得ている。
特許第4418906号明細書
しかしながら、防塵マスクのみでは、塵埃が堆積すると息苦しくなり、防塵マスクの交換作業が必要となり、コスト高となる。また、アスベストの除去作業現場のような危険な場所では、通常、作業者は体全体を覆う防護服を着用する。そのため、防塵マスクを交換するには、作業者がアスベストを吸い込まないようにするために、まず防護服に付着したアスベストが飛散しないように注意して防護服を脱衣する。それから防塵マスクに付着したアスベストを集塵機で除去してから廃棄し、新しい防塵マスクをつける。このように防塵マスクの交換には時間を要するため、防塵マスクの交換回数が増えるとその分、除去作業時間が短くなってしまうといった問題がある。
また、前記の防塵マスク用プレフィルタでは通気性に優れる分、プレフィルタとしての粉塵の捕集性が悪いため、本来の目的である防塵マスク本体のフィルタへ到達する粉塵量を低減することが殆どできない。さらに、付着した粉塵は剥離しにくいため、1度目詰まりしたプレフィルタはすぐに廃棄しなければならない。またプレフィルタの脱着も簡便ではなく、本体フィルタとの密閉性も悪いことからメンテナンス性に劣っていた。
そこで本発明は、粉塵の捕集性と通気性、塵離れ性が良好で、且つメンテナンス性に優れた防塵マスク用プレフィルタを提供することを目的とする。
すなわち、第1の発明は、防塵マスク本体に装着されるメインフィルタに対して、吸気の流れの方向における上流側に配置されるプレフィルタであって、前記プレフィルタは、繊維構造体である基体と、前記基体に固定される無機微粒子と、を備えることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタである。
また、第2の発明は、上記第1の発明において、前記無機微粒子はバインダー成分によって前記基体に対して固定されることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタである。
さらに、第3の発明は、上記第2の発明において、前記バインダー成分は、撥水性を有する物質を含むことを特徴とする防塵マスク用プレフィルタである。
第4の発明は、上記第1から第3の発明のいずれか1つにおいて、通気度が40cc/(cm・s)以上600cc/(cm・s)以下であることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタ。
第5の発明は、上記第1から第4の発明のいずれか1つにおいて、前記基体は、一定間隔で通る緯糸に経糸が交絡する畳織り構造の繊維構造体であることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタである。
第6の発明は、上記第5の発明において、前記経糸の密度が100本/inch以上であり、前記緯糸の密度が100本/inch以下であることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタである。
第7の発明は、上記第1から第6の発明のいずれか1つにおいて、前記無機微粒子は、不飽和結合を有するシランモノマー及び/又はシランモノマーの重合体で被覆され、無機微粒子が前記シランモノマー及び/又はシランモノマーの重合体の化学結合を介して前記基体に固定されていることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタ。
第8の発明は、上記第1から第7の発明のいずれか1つにおいて、前記基体に対して、吸気の流れの方向における下流側に配置される補助フィルタ部をさらに備えることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタである。
第9の発明は、上記第1から第8の発明のいずれか1つに記載の防塵マスク用プレフィルタを備えることを特徴とする防塵マスクである。
本発明に係る防塵マスク用プレフィルタによれば、通気性及び塵埃の捕集性に優れ、さらに良好な塵離れ性により、付着した粉塵が容易に剥離するという効果が得られる。従って、例えば、軽い衝撃を加えるだけの除塵処理により付着した塵埃をプレフィルタから容易に除去することができる。これにより、例えば、プレフィルタに塵埃が堆積して通気性が低下しても、除塵処理によって良好な通気性を再び確保することができ、繰返して利用可能なプレフィルタを提供できる。また、良好な塵埃の捕集性によって、防塵マスク本体側のフィルタ本体(メインフィルタ)に塵埃が堆積することが防止され、防塵マスクのフィルタ本体の寿命をより長くすることができる。
よって結果として、アスベストの除去作業のような防塵マスクの交換に時間がかかる作業などでは、上述のような簡単なプレフィルタの除塵処理あるいはプレフィルタ自体の交換のみを行えば、メインフィルタは継続して利用できるため、防塵マスク自体を交換する回数を減らすことができる。従って、本発明に係る防塵マスク用プレフィルタによれば、従来のように防塵マスクの交換作業によってアスベスト除去などの実作業時間が減少してしまうことを防ぐことができる。
第1の実施形態の防塵マスク用プレフィルタの構成を示す模式図である。 第1の実施形態のプレフィルタ用濾材表面の模式図である。 第2の実施形態のプレフィルタ用濾材表面の模式図である。 第3の実施形態のプレフィルタ用濾材表面の模式図である。 第4の実施形態のプレフィルタ用濾材表面の模式図である。 第5の実施形態のプレフィルタ用濾材の平畳み織り構造を示す模式図である。 第5の実施形態のプレフィルタ用濾材の平畳み織り構造を示すSEM写真である。 第6の実施形態の防塵マスク用プレフィルタ構造の模式図である。
以下に、本発明の防塵マスク用プレフィルタについて図を用いて詳述する。
(第1の実施形態)
図1は防塵マスク用プレフィルタ10の構成を示す模式図である。図1(a)は防塵マスク用プレフィルタ10の平面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるa−a矢印位置における、防塵マスク用プレフィルタ10の断面図である。防塵マスク用プレフィルタ10(以下、防塵用マスク用プレフィルタ10を単に「プレフィルタ10」とも呼ぶ。)は、プレフィルタ用濾材100と、プレフィルタ用濾材100を支持するとともにプレフィルタ10を防塵マスク本体に装着するための濾材支持部材10aとを備える。
濾材支持部材10aの内面には、防塵マスクに対して隙間無くプレフィルタ10を装着するためのリブ10bが形成される。リブ10bにより防塵マスクに固定することで、空気の漏れが少なく、且つ取外しが容易であり、作業現場などでプレフィルタの交換が短時間で行える。
濾材支持体10aは、様々な樹脂で形成することができる。樹脂の例としては、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ABS樹脂や、AS樹脂や、EVA樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニル樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリアクリル酸メチル樹脂や、ポリ酢酸ビニル樹脂や、ポリアミド樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリカーボネート樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアセタール樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリスルホン樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、PTFEなどの熱可塑性樹脂や、ポリスチレンエラストマーや、ポリエチレンエラストマーや、ポリプロピレンエラストマーや、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーなどが挙げられる。これらの樹脂のうち、弾力性に優れたエラストマーが特に好ましく用いられる。
なお、図1に示すプレフィルタ10は、防塵マスク用プレフィルタの一例であり、図1に示す形状や構造に限定されない。プレフィルタ10の構成は、防塵マスクの形状や構造に応じて適宜変更することができ、防塵マスク本体のメインフィルタよりも、吸気の流れ方向における上流側にあるフィルタであれば本実施形態のプレフィルタ10を適用することができる。例えば、図1には、円形のプレフィルタ10を示したが、円形の形状に限られない。また、濾材支持部材10aの形状も図1の形状に限られず、プレフィルタ用濾材100を保持し、プレフィルタ10を防塵マスクに隙間無く密着させて装着することができる形状、構造であればよい。
次に、プレフィルタ10のプレフィルタ用濾材100の構成について説明する。図2は、本実施形態に係るプレフィルタ10に用いるプレフィルタ用濾材100の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態のプレフィルタ用濾材100は、基体1と、無機微粒子2とを含む。
基体1は、繊維構造体であればよく、例えば、不織布、織物、編物などが挙げられる。その中で、織物がより好ましい。
この基体1を構成する繊維は、無機微粒子2を固定できればよく、各種樹脂を原料として生成される繊維や、合成繊維や、綿、麻、絹等の天然繊維や炭素繊維などを用いることができる。
基体1を形成する原料の具体例としては、ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、ABS樹脂や、AS樹脂や、EVA樹脂や、ポリメチルペンテン樹脂や、ポリ塩化ビニル樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、ポリアクリル酸メチル樹脂や、ポリ酢酸ビニル樹脂や、ポリアミド樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリカーボネート樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポリアセタール樹脂や、ポリアリレート樹脂や、ポリスルホン樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、ETFE(ethylene tetra fluoroethylene)や、PTFE(polytetrafluoroethylene)などの熱可塑性樹脂や、ポリ乳酸樹脂や、ポリヒドロキシブチレート樹脂や、修飾でんぷん樹脂や、ポリカプロラクト樹脂や、ポリブチレンサクシネート樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂や、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂や、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂や、フェノール樹脂や、ユリア樹脂や、メラミン樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂や、ジアリルフタレート樹脂や、エポキシ樹脂や、エポキシアクリレート樹脂や、ケイ素樹脂や、アクリルウレタン樹脂や、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、シリコーン樹脂や、ポリスチレンエラストマーや、ポリエチレンエラストマーや、ポリプロピレンエラストマーや、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーや、漆などの天然樹脂などから生成される繊維を用いることができる。
基体1の表面の繊維に固定される無機微粒子2によって、基体1の表面の繊維にナノオーダーの微細な凹凸を形成する。このような基体表面の繊維の微細な凹凸形状により、プレフィルタ濾材100の繊維と塵との接触面積が小さくなり、塵離れ性が向上する。塵離れ性が向上することで、プレフィルタ10に塵が付着しても、プレフィルタ10に対して、はたくなどの衝撃を加える除塵処理をすることで、付着した塵が簡単に取れ、プレフィルタの繰り返しの使用が可能となる。
基体1の表面の無機微粒子2としては、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物などの無機酸化物を用いることができる。無機微粒子2は、非晶性あるいは結晶性のどちらでも良い。非金属酸化物としては、酸化珪素が挙げられる。また、金属酸化物としては酸化マグネシウム、酸化バリウム、過酸化バリウム、ギブサイト、ベーマイト、ダイスポア、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、過酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、水酸化鉄、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化コバルト、酸化ニオブ、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化プラセオジムなどが挙げられる。また、金属複合酸化物としては、酸化チタンバリウム、酸化コバルトアルミニウム、酸化ジルコニウム鉛、酸化ニオブ鉛、TiO−WO、AlO−SiO、WO−ZrO、WO−SnO、CeO−ZrO、In−Sn、Sb−Sn、Sb−Zn、In−Sn−Znなどが挙げられる。これらの無機微粒子は単体で用いても2種以上混合して用いても良い。
本実施形態において、含有される無機微粒子2の粒子径としては、平均の粒子径が500nm以下とすることが好ましい。500nmより大きい場合では、基体1に対する無機微粒子2の密着性が低下して、500nm以下である場合よりも無機微粒子2が繊維表面から剥がれやすくなるため、メンテナンスの手間やコストが多くかかってしまう。また、その使用環境や使用経時などにより、無機微粒子2の剥離が発生する場合があることから、無機微粒子2同士の密着強度を考慮すると、無機微粒子2の平均粒子径は10nmから300nm以下であることが特に好ましい。当該範囲であれば、無機微粒子2同士や基体1との密着強度が十分得られる。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径をいう。
無機微粒子2は基体1に対して、たとえば、物理吸着や電気的吸着などの既知の固定方法によって固定することができる。
以上の構成を備えるプレフィルタ10は、捕集性がより高い方が好ましいが、プレフィルタ10は防塵マスク本体側のメインフィルタの補助的なフィルタとして設けられるものであるため、必ずしも全ての塵埃を捕集する必要はない。むしろ、プレフィルタにおいて全ての塵埃を捕集しようとすれば、プレフィルタの多数の隙間を小さくしなければならず、プレフィルタの通気性が著しく低下して息苦しくなるため好ましくない。
以上のようなプレフィルタに要求される特性から、本実施形態のプレフィルタ濾材100は、JIS L 1098(フラジール形法)により測定される通気度が、40cc/cm2・s以上600cc/cm2・s以下であることが好ましい。通気度が40cc/cm2・sより小さい場合には、通気性が低く装着者が息苦しく感じるため好ましくない。通気度が600cc/cm2・sより大きい場合には、プレフィルタの隙間の開口面積が大きくなってしまい、塵埃の捕集性が低下し、プレフィルタとして要求される捕集性を維持することが難しいため好ましくない。
次に、本実施形態のプレフィルタ用濾材100の製造方法を説明する。まず、無機微粒子2をメタノールやエタノール、MEK(methyl ethyl ketone)、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に混合し、分散させる。ここで、分散を促進させる為に、必要に応じて界面活性剤や、塩酸、硫酸などの鉱酸や、酢酸、クエン酸などのカルボン酸などを加えるようにしてもよい。続いて、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて無機微粒子2を分散媒中で解砕・分散させ、無機微粒子2を含むスラリーを作製する。
続いて、無機微粒子2が分散したスラリーを固定する基体1の表面に塗布する。無機微粒子2が分散したスラリーの塗布方法の具体例としては、一般に行われているスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャストコート法、バーコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法を用いればよく、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
次に、必要に応じて、加熱乾燥などで分散媒を除去した後、物理吸着や電気的吸着などの既知の固定方法により無機微粒子2を基体1に固定する。
以上の方法によって、無機微粒子2が基体1に固定されたプレフィルタ用濾材100を形成することができる。
以上説明した、本実施形態のプレフィルタ濾材100を用いたプレフィルタ10によれば、基体1の表面に付着させた無機微粒子2によって、プレフィルタ濾材100の表面に微細な凹凸が形成され、塵のプレフィルタ濾材100に対する塵離れ性を向上させることができる。また、本実施形態のプレフィルタ10によれば、塵離れ性を向上しつつ、塵の捕集性及び通気性を向上することができる。
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態について説明する。図3は、本実施形態に係るプレフィルタ用濾材100の拡大断面図である。本実施形態に係るプレフィルタ用濾材100は、基体1と、無機微粒子2と、撥水性を有するバインダー5とを含んで構成される。粉塵の飛散を防止するために水が散布されている加湿環境下など、湿度の高い環境下でも、撥水性を有するバインダー5により、プレフィルタの塵離れ性を確保することが可能である。また、バインダー5によって、基体1の表面に無機微粒子2を強固に固定することも可能となる。
撥水性を有するバインダー5としては、例えば、ステアリン酸アクリレートや、反応性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、反応性シリコーンオリゴマー、例えば、松下電器産業株式会社製フレッセラDが用いられる。
さらに、撥水性を有する化合物としては、フッ素系化合物を用いることができる。撥水性を有するフッ素系化合物としては、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体、例えば、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロノリル)エチルアクリレートや、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレートや、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートや、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートや、3−パーフルオロデシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどが用いられる。
さらに、撥水性を有する化合物としては、フッ素系化合物として、その他のフッ素化合物、例えば、2−パーフルオロオクチルエタノールや、2−パーフルオロデシルエタノールや、2−パフルオロアルキルエタノールや、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)や、パーフルオロアルキルアイオダイドや、パーフルオロオクチルエチレンや、2−パーフルオロオクチルエチルホスホニックアシッドなどが用いられる。
さらに、撥水性を有する化合物としては、フッ素系化合物として、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF11(CHSi(OCHや、CF(CF15(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCH、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCHや、CF(CF(CHSiCH(OCや、CF(CF(CHSi(OCHや、CF(CF(CHSi(OCや、CH(CF(CHSi(OCや、CF(CFCONH(CHSi(OCHや、CF(CFCONH(CHSiCH(OCHや、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー、例えば、KP−801M(信越化学工業株式会社製)や、X−24−7890(信越化学工業株式会社製)や、パーフルオロブテルビニルエーテルおよびその重合体などが用いられる。
次に、本実施形態のプレフィルタ濾材100の製造方法を説明する。本実施形態に係るプレフィルタ濾材100を製造する場合には、第1の実施形態において説明した製造方法において、無機微粒子2をメタノールやエタノール、MEK(methyl ethyl ketone)、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に混合する際に、撥水性を有するバインダー5を加えて分散すればよい。その他の製造方法は、第1の実施形態と同様である。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態のプレフィルタ濾材100は、無機微粒子2がシランモノマー3(あるいは、シランモノマーの重合体)によって、基体1に固定される点を特徴とするものである。図4は、第3の実施形態に係るプレフィルタ用濾材100の拡大断面図である。無機微粒子2の表面にはシランモノマー3が不飽和結合部または反応性官能基を外側に向けて配向して結合している。各無機微粒子2は、互いのシランモノマー3が脱水縮合反応した化学結合4(共有結合)により、互いに結合している。また、基体1と無機微粒子2とは、無機微粒子2表面のシランモノマー3が、基体1表面との間で化学結合4を形成することで、結合し固定されている。
本実施形態のプレフィルタ用濾材100の基体1を構成する繊維としては、シランモノマー3による化学結合4が可能な材料であれば特に限定されるものではなく、実施形態1と同様に、各種樹脂や、合成繊維や、綿、麻、絹等の天然繊維や炭素繊維などが挙げられる。基体1に用いることができる樹脂の具体例としては、第1の実施形態において挙げた樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
本実施形態で用いられるシランモノマー3の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
本実施形態のプレフィルタ用濾材100によれば、プレフィルタ濾材100の表面に微細な凹凸を形成するための無機微粒子2が、シランモノマー3による化学結合によって強固に固定されることができる。従って、無機微粒子2のプレフィルタ用濾材100からの脱離を長期間確実に防止することができるため、塵離れ性効果を長期間維持できる。
次に、本実施形態のプレフィルタ用濾材100の製造方法を説明する。まず、シランモノマー3が表面に化学結合している無機微粒子2をメタノールやエタノール、MEK(methyl ethyl ketone)、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に混合し、分散させる。ここで、分散を促進させる為に、必要に応じて界面活性剤や、塩酸、硫酸などの鉱酸や、酢酸、クエン酸などのカルボン酸などを加えるようにしてもよい。続いて、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて無機微粒子2を分散媒中で解砕・分散させ、無機微粒子2を含むスラリーを作製する。
なお、無機微粒子2と不飽和結合部または反応性官能基を有するシランモノマー3との共有結合は通常の方法により形成させることができ、例えば、分散液にシランモノマー3を加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子2の表面にシランモノマー3を脱水縮合反応により共有結合させてシランモノマー3からなる薄膜を形成する方法や、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー3を加えた後、或いは、シランモノマー3を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー3を無機微粒子2の表面に脱水縮合反応により共有結合させ、次いで、粉砕・解砕して再分散する方法が挙げられる。
ここで、還流下、または、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー3を加えた後、或いは、シランモノマー3を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー3を無機微粒子2の表面に脱水縮合反応による共有結合させる場合、シランモノマー3の量は、無機微粒子2の平均粒子径にもよるが、無機微粒子2の質量に対して0.01質量%から40.0質量%であれば無機微粒子2同士、および無機微粒子2の群と基体1との結合強度は実用上問題ない。また、結合に預からない余剰のシランモノマー3があっても良い。
続いて、以上のようにして得られた無機微粒子2が分散したスラリーを、無機微粒子2を固定する基体1の表面に塗布する。具体的な無機微粒子2が分散したスラリーの塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャストコート法、バーコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法を用いればよく、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
次に、必要に応じて、加熱乾燥などで分散媒を除去した後、基体1と、無機微粒子2とを化学結合する。具体的には、無機微粒子2の表面のシランモノマー3間で化学結合4を形成させることにより無機微粒子2同士を結合させるとともに、結合した無機微粒子2を、シランモノマー3と基体1表面との間の化学結合4を形成させることにより、基体1上に固定させる。
本実施形態においては、基体1とシランモノマー3とを化学結合させる方法として、グラフト重合による結合方法を用いることが好ましい。
本実施形態のプレフィルタ用濾材100におけるグラフト重合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられ、形状や形態に応じて適宜選択して用いられる。なお、パーオキサイド触媒による処理、熱や光エネルギーによる処理、および放射線による処理によって、無機微粒子2表面とシランモノマー3間の化学結合を形成させることができる。
なお、シランモノマー3のグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるために、予め、基体1の表面を、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理などの親水化処理をしてもよい。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係るプレフィルタ用濾材100を説明する。図5は本実施形態のプレフィルタ用濾材100の拡大断面図である。本実施形態のプレフィルタ用濾材100は、湿度の高い環境下などでの使用に対応するために、第3の実施形態のプレフィルタ用濾材100を構成する、基体1と、無機微粒子2と、無機微粒子2を基体1に固定するシランモノマー3とに加え、さらに実施形態2において説明した撥水性を有するバインダー5を含むものである。撥水性を有するバインダー5を添加することで、湿度の高い環境下でも塵離れ性を確保できるとともに、シランモノマー3による結合とバインダー5による結合の2種類の結合によって、無機微粒子2を基体1の表面により強固に固定することが可能となる。
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。本実施形態に係るプレフィルタ用濾材100は、基体1が畳織り構造の繊維構造体である点を特徴とする。図6は、本実施形態に係るプレフィルタ用濾材100の織り構造である畳織り構造を模式的に表した図で、6は経糸、7は緯糸を示している。図7は、本実施形態の平畳織り構造のプレフィルタ用濾材のSEM写真であり、(a)は平面視での写真、(b)は図7(a)におけるA−A位置での断面の写真である。
ここで畳織り構造は、一定の間隔を有して通る緯糸7に対して、隣り合う経糸同士が密接して緯糸に交絡して編みこまれる構造である。そして、畳織り構造では、フィルタ正面から投影した際に、経糸が密着しているため見た目には開口がないが、断面方向から観察した場合には、経糸と緯糸の交点部において、立体的に交錯する部分に隙間(図7参照)が存在し、この隙間を介して通気が可能となっている。畳織りの具体的な織り方としては、平畳織り、綾畳織り、逆綾畳織りなどが挙げられ、それぞれ緯糸に対する経糸の交わり方が異なるが、いずれの織り方の場合も経糸と緯糸の交点において形成される隙間を介して通気される点は共通である。
基体1をこのような畳織り構造にすることで、塵埃と空気の混合系がプレフィルタ用濾材100に衝突したとき、その混合系は前記隙間に流入しようとする。しかし、混合系流体の慣性により塵埃は経糸(あるいは緯糸)に衝突して付着し、プレフィルタ用濾材100の前面で捕集されるため捕集効率を高く維持できる。一方で、その際に空気は前記隙間に流入してプレフィルタ濾材100を通過するため、良好な通気性は確保される。
本実施形態の畳織りのプレフィルタ濾材100は、経糸密度が100本/inch以上、且つ緯糸密度が100本/inch以下であることが好ましい。さらに、緯糸密度においては40本/inch以下のものがより好ましい。前記の経糸密度を確保するためには、経糸の径は250μm以下のものが好ましい。
また、緯糸の径は400μm以下のものが好ましいが、緯糸の径は緯糸密度によって限定される。つまり、緯糸の径を400μm以下とした場合に前記好ましい緯糸密度を確保できない場合には、前記好ましい緯糸密度を優先し、前記好ましい緯糸密度を確保できるような緯糸径とすることが好ましい。
また、隙間の数は経糸と緯糸の本数によって決まるため、経糸密度が100本/inch未満になると、前記隙間の数が極端に減少し、ダストが経時的にプレフィルタ濾材100に堆積した場合の通気抵抗の上昇が起こりやすくなる。また、緯糸密度が100本/inchより大きいと細孔(隙間の)数は増加するが、経糸と緯糸の交差によって立体的に形成される隙間の面積が小さくなるため、結果として織物としての単位面積当りに存在する隙間面積の割合は小さくなり、極端に通気性が低下する。
本実施形態に係るプレフィルタ濾材100によれば、プレフィルタとして要求される適切な分量の塵埃を確実に捕集することができるとともに、装着者が息苦しくならない程度の良好な通気性を維持することができるという、2つの特性を両立することができるという効果が得られる。
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。本実施形態のプレフィルタ10は、プレフィルタ濾材100の内側(装着者側)にプレフィルタ用濾材100を通過した塵埃をさらに捕集する補助フィルタ11を備えることを特徴とする。図8は本実施形態のプレフィルタ10を模式的に表した図である。本実施形態に係る補助フィルタは、繊維構造体やパンチング加工されたシートや樹脂板などで形成される部材であり、プレフィルタ濾材100に対して吸気の流れ方向における下流側に配置される。
プレフィルタ10を使用する環境に応じて、補助フィルタ11に対して、永久帯電処理されたものや、帯電しやすいフッ素系の薄膜を形成したものとしてもよい。補助フィルタ11が永久帯電処理されたり、摩擦帯電しやすくなることで、プレフィルタ濾材100を通過した塵埃が補助フィルタ11に付着しやすくなる。そうすると、プレフィルタ10全体での捕集効率を高め、防塵マスク本体のメインフィルタへの粉塵堆積量を減らすことができる。これによって、防塵マスク本体をより長寿命化できる。
本実施形態で用いられる補助フィルタ11に用いられる材料としては、特に限定されるものではなく、ポリエチレンや、ポリプロピレンや、ポリエチレンや、ポリ塩化ビニル樹脂や、ポリ塩化ビニリデン樹脂や、PTFEや、PVDFや、PVFや、FEPなどの帯電しやすい樹脂からなるシート、プレート、不織布、織物、編物、メッシュなどであり、シートやプレートにはパンチング加工により貫通孔が形成されてある。また、使用する樹脂が帯電しにくい場合では、その表面に摩擦帯電しやすい非結晶質のフッ素系樹脂、例えば、サイトップ(登録商標、旭硝子株式会社製)や、テフロン(登録商標)AF(デュポン株式会社製)や、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)などにより、薄膜を形成すればよい。
本実施形態の補助フィルタ11を備えるプレフィルタ10によれば、プレフィルタ濾材100を通過した塵埃を、吸気の流れの方向における下流側に配置される補助フィルタ11によって捕集することが可能になり、確実に塵埃を補修することができる。また、使用環境に合わせて帯電処理などを施した補助フィルタ11を用いれば、より捕集効率の高いプレフィルタ10を提供することができる。
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
プレフィルタ濾材としては、(1)平畳織物1(株式会社NBCメッシュテック製、NBP29231)、(2)不織布1(旭化成せんい株式会社製、エルタス)、(3)平織物(株式会社NBCメッシュテック製、T-No.305T)、(4)朱子織物(株式会社NBCメッシュテック製、NBS16045-6)、(5)不織布2(旭化成せんい株式会社製、エルタス目付15g)、(6)平畳織物2(株式会社NBCメッシュテック製試作品、NBP90120)、(7)平畳織物3(株式会社NBCメッシュテック製試作品、NBP120120)(8)平畳織物4(株式会社NBCメッシュテック製試作品、NBP9080)を用いた。
実施例1から4の無機微粒子が固定されたプレフィルタ濾材の製造にあたっては、エレクトロカーテン型電子線照射装置(岩崎電気株式会社製、CB250/15/180L)を用い、電子線グラフト重合により実施した。
(実施例1)
市販の酸化ジルコニウム微粒子(日本電工株式会社製、PCS)をメタノールに対して10.0質量%、シランモノマーとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を酸化ジルコニウム微粒子に対して5.0質量%加えてpHを5.0に塩酸で調整した後、ビーズミルにより平均粒子径18nmに粉砕分散した。その後、凍結乾燥機により固液分離して120℃で加熱してシランモノマーを酸化ジルコニウム微粒子の表面に脱水縮合反応により化学結合させて薄膜を形成した。得られたシランモノマー被覆酸化ジルコニウム微粒子をメタノールに10.0質量%分散してビーズミルにより平均粒子径18nmに再度粉砕分散した後、メタノールを加えて固形分を1.0質量%に調整した。
また、ポリエステル繊維からなるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1をコロナ放電処理した後、上記シランモノマーが結合した酸化ジルコニウム微粒子分散メタノール溶液に1分間浸漬した。次に、余剰の酸化ジルコニウム微粒子分散メタノール溶液をプレフィルタ濾材からエアーブローして除去し、120℃、1分間乾燥した後、酸化ジルコニウム微粒子分散メタノール溶液を塗布した(1)のプレフィルタ濾材に電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射することで、前記濾材表面に、シランモノマーで被覆された酸化ジルコニウム微粒子からなる薄膜を結合させて形成した。
(実施例2)
実施例1におけるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1の代わりに、プレフィルタ濾材(2)不織布1を用いた以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(実施例3)
実施例1におけるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1の代わりに、プレフィルタ濾材(3)平織物を用いた以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(実施例4)
実施例1における酸化ジルコニウム微粒子分散メタノール溶液の固形分中に、撥水性を有するバインダーとしてフッ素系化合物であるDynasylan(登録商標)F 8263(エボニック デグサ ジャパン株式会社製)を25質量%含むように溶液を調製した以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(実施例5)
実施例1におけるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1の代わりに、プレフィルタ濾材(4)の朱子織物を用いた以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(実施例6)
実施例1におけるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1の代わりに、プレフィルタ濾材(5)の不織布2を用いた以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(実施例7)
プレフィルタを、実施例4のプレフィルタ濾材と、濾材の吸気の流れ方向における下流側に配置した補助フィルタで構成した。補助フィルタは多孔質のPETフィルム(東レ株式会社製ルミラーT60)を用い、孔径を直径2mm、開口率を32%とした。この補助フィルタをコロナ放電処理した後、サイトップ(登録商標)(旭硝子株式会社製CTL-102AE)に1分間浸漬した。次に、余剰の液をエアーブローして除去し、120℃、1分間乾燥したものを実施例7の補助フィルタとして用いた。
(比較例1)
実施例1におけるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1の代わりに、プレフィルタ濾材(6)の平畳織物2を用いた以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(比較例2)
実施例1におけるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1の代わりに、プレフィルタ濾材(7)の平畳織物3を用いた以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(比較例3)
実施例1におけるプレフィルタ濾材(1)の平畳織物1の代わりに、プレフィルタ濾材(8)の平畳織物4を用いた以外は実施例1と同様の手順でサンプルを作製した。
(比較例4)
興研株式会社製プレフィルタ(目付け140g/m2、線径50μm、厚さ5mmの不織布)を用いた。
(比較例5)
防塵マスク本体として呼吸追随型ブロワーマスク(興研株式会社製、BL-700H)を用い、プレフィルタは取り付けていない。
以上の実施例及び比較例について、以下の評価試験を行った。
(塵付着性(塵離れ性)の評価)
10×10cmの大きさの実施例1〜6と比較例1〜4のプレフィルタ濾材に、JISZ8901に準拠した塵混合ダスト(コットンリンタ、関東ローム、ケイ砂を含む)を、温度50℃で相対湿度80%の恒温恒湿槽内で万遍なくふりかけた後、余剰の塵を軽い衝撃を加えて取り除き(除塵処理)、塵の付着前と除塵処理後の重量を測定することで、塵付着性(塵離れ性)を評価した。結果を表1に示す。
(通気度)
JIS L 1098(フラジール形法)により各実施例、比較例のプレフィルタ濾材の通気度を測定した。結果を表2に示す。
(捕集性評価)
直径8cmの大きさの実施例1〜6と比較例1〜4のプレフィルタ濾材をサンプルとし、流量20L/minで粉塵濃度500mg/m3のJIS1-10種フライアッシュ(体積平均径4μm)を、鉛直方向に10分間衝突させた。その際のサンプルのプレフィルタ濾材による粉塵の捕集効率を捕集効率測定装置(柴田科学株式会社製、AP-632F型)にて測定した。捕集効率は試験体の上流側粉塵濃度と下流側粉塵濃度から下記のように定義される。
捕集効率=(上流側粉塵濃度−下流側粉塵濃度)/上流側粉塵濃度
結果を表2に示す。
(圧力損失(通気抵抗)測定評価)
前記捕集効率測定装置(柴田科学株式会社製、AP-632F型)にて前記捕集性評価を行った際に当該装置によりサンプルの圧力損失(通気抵抗)の測定も同時に行った。具体的には、前記捕集性試験の終了時におけるフライアッシュ(粉塵)が付着した状態での各実施例・比較例のサンプルの通気抵抗(圧力損失)と、それらのサンプルに付着したフライアッシュを軽い衝撃を加えて取り除いた(除塵処理)後のサンプルについての通気抵抗(圧力損失)を測定した。測定結果を表2に示す。
(フィールド試験)
アスベスト除去作業は、アスベストの飛散防止のため、液体の飛散防止剤を噴霧して作業を行っており、防塵マスクは加湿された環境下で使用されている。このような実際の防塵マスクの使用環境において、サンプルをプレフィルタとして用いた防塵マスクを装着し、プレフィルタの粉塵の捕集量及び装着者の呼吸のし易さを評価するフィールド試験を行った。
フィールド試験では、直径8cmの大きさの、シランモノマーで被覆された酸化ジルコニウム微粒子の薄膜が形成された実施例1、4のプレフィルタ濾材およびプレフィルタ濾材と補助フィルタの組み合わせの実施例7を試験体とした。プレフィルタ濾材および補助フィルタを支持する濾材支持部材としては、材料にポリエステル系熱可塑性エラストマーを用い、実施例1と4では図7の形状の支持体を、実施例7では図8の形状の支持体を用い、プレフィルタを作成した。
前記プレフィルタを、防塵マスク本体としての呼吸追随型ブロワーマスク(興研株式会社製、BL-700H)に取り付けた(実施例1、4および7)ものと、防塵マスク本体のみ(比較例5)を用いて70分間のアスベスト除去作業を行った。70分間の作業後の防塵マスク本体側の本体フィルタ(メインフィルタ)の捕集量とプレフィルタ濾材のアスベストを含む粉塵の捕集量を測定した。また、マスクにアスベストを含む粉塵が堆積した時(70分の作業終了直前)の呼吸のし易さを評価した。結果を表3に示す。


表1に示す結果から、無機微粒子がない比較例4よりもシランモノマーで被覆された酸化ジルコニウム微粒子の薄膜が形成された実施例1から6は除塵処理後の粉塵の付着量が小さく、塵離れ性に優れていることがわかる。よって本発明に係る実施例であれば、プレフィルタの再利用が可能である。
表2に示す結果から、比較例4よりも、シランモノマーで被覆された酸化ジルコニウム微粒子の薄膜が形成された実施例1から6の方が捕集効率は高く、塵埃の捕集性に優れている。
また、実施例1から6は、比較例1から3よりも捕集効率が高く、かつ、塵の堆積時の圧力損失が低く、プレフィルタに粉塵が堆積した後も通気性が確保されていることがわかる。
さらに、畳織り構造の実施例1と4は、粉塵の堆積後の圧力損失がより低く、粉塵堆積後の通気性がより優れる。また実施例1と4は実施例3よりも粉塵の捕集効率が高い。よって畳織り構造の実施例1及び4は、良好な捕集性と通気性を両立できる。
表3に示す結果から、プレフィルタの無い比較例5では、本体フィルタに粉塵が堆積するが、プレフィルタを設けた実施例1、4、7ではプレフィルタで粉塵を捕集する。さらに、作業者の除去作業や歩くといった行為による振動が除塵処理と同等の効果を示し、プレフィルタで捕集した粉塵は振動によって容易に剥離して堆積しにくい。このため、プレフィルタでの捕集(堆積)量は小さく、長時間使用しても作業者は呼吸もしやすい。なお、表3において、実施例1、4及び7のマスク本体側の本体フィルタとプレフィルタの粉塵の堆積量の合計が比較例5の堆積量よりも少ないのは、上述のように、除去作業中の作業者の動作による振動によって、プレフィルタに堆積した粉塵が剥離したためである。
また、加湿された環境下では、フッ素系撥水剤により撥水性が付与された実施例4、7の方が、実施例1よりもプレフィルタ濾材捕集(堆積)量が少ないことから、塵離れ性が優れていることがわかる。
また、エレクトレット処理した補助フィルタを追加した実施例7の方が、実施例4よりも本体フィルタ捕集量が少ないことを確認できた。また、実施例4と実施例7は、プレフィルタを設置しない比較例5と比較すると本体フィルタへの粉塵到達量をそれぞれ77%と79%カットでき、粉塵にアスベストを多く含む場合は、本体フィルタの寿命が4倍に延びることを確認できた。
以上の結果が示すように、本発明により、捕集性と通気性、塵離れ性に優れたプレフィルタを得られることがわかる。
つまり、プレフィルタの設置によって、防塵マスクのフィルタ本体の長寿命化が可能となる。また、プレフィルタに粉塵が堆積した場合も、プレフィルタに軽い衝撃を与えるだけの除塵作業を行うか、プレフィルタを交換することにより、継続して防塵マスク本体の使用が可能である。従って、従来時間と手間がかかっていた防塵マスクの交換回数を減らすことが可能であり、作業時間を増やすことができる。
100:プレフィルタ用濾材
1:基体
2:無機微粒子
3:シランモノマー
4:化学結合
5:バインダー
6:経糸
7:緯糸
8:濾材支持体
9:濾材
10:プレフィルタ
11:補助フィルタ

Claims (8)

  1. 防塵マスク本体に装着されるメインフィルタに対して、吸気の流れの方向における上流側に配置されるプレフィルタであって、
    前記プレフィルタは、一定間隔で通る緯糸に経糸が交絡する畳織り構造の繊維構造体である基体と、前記基体に固定される無機微粒子と、を備えることを特徴とする防塵マスク用プレフィルタ。
  2. 前記無機微粒子はバインダー成分によって前記基体に対して固定されることを特徴とする請求項1に記載の防塵マスク用プレフィルタ。
  3. 前記バインダー成分は、撥水性を有する物質を含むことを特徴とする請求項2に記載の防塵マスク用プレフィルタ。
  4. 通気度が40cc/(cm・s)以上600cc/(cm・s)以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の防塵マスク用プレフィルタ。
  5. 前記経糸の密度が100本/inch以上であり、前記緯糸の密度が100本/inch以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の防塵マスク用プレフィルタ。
  6. 前記無機微粒子は、不飽和結合を有するシランモノマー及び/又はシランモノマーの重合体で被覆され、前記無機微粒子が前記シランモノマー及び/又はシランモノマーの重合体の化学結合を介して前記基体に固定されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の防塵マスク用プレフィルタ。
  7. 前記基体に対して、吸気の流れの方向における下流側に配置される補助フィルタ部をさらに備えることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の防塵マスク用プレフィルタ。
  8. 請求項1からのいずれか1つに記載の防塵マスク用プレフィルタを備えることを特徴とする防塵マスク。
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