JP5666867B2 - セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置 - Google Patents

セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置 Download PDF

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Description

本発明は、セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置に関する。
液晶表示装置は、低電圧・低消費電力で小型化・薄膜化が可能など様々な利点からパーソナルコンピューターや携帯機器のモニター、テレビ用途に広く利用されている。一般に液晶表示装置は液晶セル、光学補償フィルム、及び偏光子から構成される。光学補償フィルムは画像着色を解消したり、視野角を拡大したりするために用いられており、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが使用されている。昨今、液晶テレビの表示性能は格段に向上し、VA(Vertically Aligned)モード、IPS(In−Plane Switching)モード、TNモードが広く普及している一方で市場での販売価格の下落も著しい。このような市場の状況から、光学補償フィルムに対しても高性能化を図りつつも更なるコストダウンがますます求められている。
光学補償フィルムとして多くの場合、セルロースアシレートフィルムが用いられている。フィルムは通常、溶液流延法や溶融押し出し法などによって製造される。溶液流延法でフィルムを製造する場合、通常、無限移行する無端金属支持体上にセルロースアシレートを有機溶媒に溶解させた溶液(以下、ドープとも言う)を流延し、乾燥後に流延膜(ウェブ)を金属支持体から剥ぎ取る。フィルムを安価に製造するためには生産スピードを上げることが好ましいが、生産スピードを上げつつ品質を維持するため、もしくは単純に品質を維持するためには乾燥条件は注意深く決定することが重要となる。
このようなセルロースアシレートフィルムの乾燥条件による、製膜後のフィルムの各種特性への影響やその影響を改善する方法について、例えば以下の特許文献1〜4には特に乾燥の温度条件を検討することが開示されている。
流延直後から剥ぎ取るまでの期間の前半部分の表裏乾燥の平均温度と後半部分の表裏乾燥の平均温度の差を一定の範囲にすることでフィルムのカールを制御する方法が開示されている(特許文献1参照)。
流延後エンドレスベルト上において表面から乾燥させるゾーンと裏面から乾燥させるゾーンを乾燥条件の異なる2つ以上のゾーンに分割することで、フィルムの平面性を改良する乾燥方法が開示されている(特許文献2参照)。
また、溶液流延後、流延膜がゲル化温度に到達する以前の第一乾燥の乾燥風の風速をおさえ、ゲル化温度到達以降は裏面から熱源輻射によって加熱したり、溶液流延後、ウェブ表面へ送風口からの平行風による第一乾燥と裏面を加熱する第二乾燥を行ったりすることで製膜速度を上げてもフィルムの平面性やムラの悪化が抑制される乾燥方法が開示されている(特許文献3および特許文献4参照)。
しかし、セルロースアシレートフィルムはカールや平面性といった形態の他に液晶セルとマッチした光学性能が重要であるが、これらの特許文献1〜4に記載の従来の乾燥方法はフィルムの形態を改善することにのみ着目したものであり、光学性能を制御する乾燥方法について従来は考慮されておらず、光学性能を改善する観点が従来の技術では不足していたのが実情であった。
特開2001−315147号公報 特開2003−103544号公報 特開平11−58425号公報 特開2006−297908号公報
本発明は前記の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、光学性能を改善でき、生産性が高いセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することとである。また、本発明が解決しようとする課題は、光学性能が良好で安価なセルロースアシレートフィルムを提供することにもある。
本発明者らが鋭意検討したところ、流延後のフィルムの乾燥条件、より具体的にはウェブ表面からの乾燥温度と裏面からの乾燥温度の関係を改良することで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、上記課題は、以下の構成の本発明によって解決される。
[1] セルロースアシレートを含むドープを支持体上に流延する工程と、流延後の支持体上の前記ドープを、前記ドープの前記支持体と接していない側の表面における表面乾燥風温度T1(単位:℃)の制御と、前記ドープの裏面乾燥温度T2(単位:℃)の制御によって乾燥ゾーン内で乾燥する工程を含み、前記表面乾燥風温度T1と前記裏面乾燥温度T2が下記式(1)〜式(3)を満たすように制御することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
20℃ ≦ T1 ・・・式(1)
T1 ≦ T2−20℃ ・・・式(2)
T2 ≦ 90℃ ・・・式(3)
[2] 前記表面乾燥風温度T1が下記式(1’)を満たすことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
40℃ ≦ T1 ・・・式(1’)
[3] 前記乾燥工程を、前記ドープを流延した後から、前記ドープの下記式で表される残留溶剤量Rが80%DBとなるまで行うことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法:
R(%DB)={(乾燥途中のフィルム膜厚−完全に乾燥されたフィルムの膜厚)/完全に乾燥されたフィルムの膜厚}×100%
[4] 前記セルロースアシレートが、アシル置換度2.1〜2.95であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[5] 前記セルロースアシレートのアセチル置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとしたとき、前記セルロースアシレートが下記式(4)および(5)を同時に満たすことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
2.1 ≦ X+Y ≦ 2.56 ・・・式(4)
0 ≦ X ≦ 2.1 ・・・式(5)
[6] 乾燥膜厚が30〜60μmとなるように流延することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[7] 流延幅が1900mm以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[8] 同時または逐次共流延によって少なくとも2層以上の前記ドープを前記支持体上に流延することを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[9] 3層以上の前記ドープを前記支持体上に流延し、両表面の層以外のいずれかの層を形成する前記ドープの少なくとも1層に含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S1と、前記支持体と接している表面の層を形成する前記ドープに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S2と、前記支持体と接していない表面の層を形成する前記ドープに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S3が、S1<S2、かつ、S1<S3を満たすことを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[10] 前記裏面乾燥温度T2が下記式(3’)を満たすことを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
55℃ ≦ T2 ・・・式(3’)
[11] [1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[12] 波長548nmにおける、フィルム面内のレターデーションReおよびフィルム厚み方向のレターデーションRthが、それぞれ下記式(6)および式(7)を満たすことを特徴とする[11]に記載のセルロースアシレートフィルム。
20nm ≦ Re ≦ 100nm ・・・式(6)
50nm ≦ Rth ≦ 300nm ・・・式(7)
[13] 波長450〜630nmにおいて、測定波長が大きくなるにつれてReが増大することを特徴とする[11]または[12]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[14] 偏光子と、[11]〜[13]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚含むことを特徴とする偏光板。
[15] [11]〜[13]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは[14]に記載の偏光板を少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
本発明により、光学性能を改善でき、生産性が高いセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することができる。また、本発明により、光学性能が良好で安価なセルロースアシレートフィルムを提供することができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法の一例を説明するための共流延ギーサの断面模式図である。 本発明の液晶表示装置の一例の概略模式図である。 本発明の偏光板の例の断面模式図である。 本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法の一例を説明するための流延装置の断面模式図である。 本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法の一例を説明するための流延装置の断面模式図である。 本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法の一例を説明するための流延装置の断面模式図である。 本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法の一例を説明するための流延装置の断面模式図である。
以下、本発明のセルロースアシレートフィルム及びその製造方法、並びに本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また実質的に直交もしくは平行とは、厳密な角度±10°の範囲を意味する。
[セルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレートの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、セルロースアシレートを含むドープを支持体上に流延する工程と、流延後の支持体上の前記ドープを、前記ドープの前記支持体と接していない側の表面における表面乾燥風温度T1(単位:℃)の制御と、前記ドープの裏面乾燥温度T2(単位:℃)の制御によって乾燥ゾーン内で乾燥する工程を含み、前記表面乾燥風温度T1と前記裏面乾燥温度T2が下記式(1)〜式(3)を満たすように制御することを特徴とする。
20℃ ≦ T1 ・・・式(1)
T1 ≦ T2−20℃ ・・・式(2)
T2 ≦ 90℃ ・・・式(3)
以下、本発明の製造方法の好ましい態様について、順に説明する。
<原料>
(セルロースアシレート)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、種々セルロースアシレートを用いることが可能であるが、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(8)を満たすことが好ましい。さらに、下記式(8)〜(10)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(8)〜(10)において、XおよびYは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基またはブチル基の置換度である。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
2.1≦X+Y≦2.95 ・・・式(8)
0≦X≦2.95 ・・・式(9)
0≦Y≦2.56 ・・・式(10)
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.10〜2.95が好ましく、より好ましくは2.10〜2.95であり、特に好ましくは2.10〜2.56である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.10〜2.95であることが好ましく、特に好ましくは2.10〜2.56である。
さらに、本発明の製造方法では、下記式(4)および式(5)を満たすセルロースアシレートを用いることが、光学特性発現性の観点から、より好ましい。
2.1 ≦ X+Y ≦ 2.56 ・・・式(4)
0 ≦ X ≦ 2.1 ・・・式(5)
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿、パルプ綿のどちらから得られたものでもよい。
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
(有機溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。セルロースアシレートの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25質量%が好ましく、より好ましくは、5〜20質量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、可塑剤として、重縮合エステルである可塑剤、レターデーション発現性を有する可塑剤、糖エステル化合物である可塑剤を好ましく用いることができる。前記糖エステル化合物の例には、国際公開を2007/125764号パンフレットの[0042]〜[0065]に記載のグルコース等の糖のOHの一部又は全部の水素原子がアシル基に置換された糖誘導体が含まれ、特開2010−107960号公報の化合物が好ましい。
(有機酸)
本発明のフィルムは、下記一般式(1)で表される有機酸を含むことが好ましい。
一般式(1)
X−L−(R1n
(式中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
前記一般式(1)で表される有機酸において、酸性基である前記X部分により溶液製膜設備(ドープを流涎するときの金属支持体)からの剥離性を改善することができる。
さらに、酸性基である前記X部分が支持体の金属表面に付着し、特定の構造の疎水性基である前記R1部分が支持体の金属表面を酸素等の酸化剤からブロックすることにより、前記R1の範囲から外れる疎水性基を有する有機酸に比べて、金属の腐食を防止することができる。
以下、本発明のフィルムに用いることができる剥離促進剤について説明する。
一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸を表し、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基が好ましく、カルボキシル基、スルフォン酸基がさらに好ましく、カルボキシル基が最も好ましい。なお、Xがアスコルビン酸基を表す場合は、アスコルビン酸の水素原子のうち、5位、6位の位置の水素原子が外れてLと連結していることが好ましい。
本明細書中、酸解離定数としては、化学便覧、丸善株式会社刊に記載の値を採用する。
一般式(1)中、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基(置換基を有してもよい)、アルケニル基(置換基を有してもよい)、アルキニル基(置換基を有してもよい)、アリール基(置換基を有してもよい)、複素環基(置換基を有してもよい)を表す。置換基として、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルフォンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基等が挙げられる。
1はさらに好ましくは、炭素数8〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であり、最も好ましくは炭素数10〜24の直鎖のアルキル基、アルケニル基である。
一般式(1)におけるLは、単結合、あるいは、下記ユニット群から得られる2価以上の連結基または下記ユニット群から選択される2以上のユニットを組み合わせて得られる2価以上の連結基であることが好ましい。
ユニット:−O−、−CO−、−N(−R2)−(前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH=CH−、−CH(OH)−、−CH2−、−SO2−、
一般式(1)におけるLは、単結合、エステル基由来の連結基(−COO−、−OCO−)、またはアミド基由来の連結基(−CO−N(−R2)−、−N(−R2)−CO−)を部分構造として有することが特に好ましい。
また、前記Lは、さらに置換基を有していてもよく、該置換基としては特に制限はなく前記R1が有していてもよい置換基を挙げることができるが、その中でも−OH基が好ましい。
これらの中でも、前記Lはグリセリン由来の基を含む連結基であることがより好ましい。
前記Lとしては、具体的に以下の構造であることが好ましい。但し、以下においてp、q、rはそれぞれ1〜40の整数を表し、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜6であることが特に好ましい。また、qは2〜4であることがより特に好ましい。
−(CH2p−CO−O−(CH2q−O−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OH))−(CH2r−O−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OH))−(CH2r−O−CO−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−CO−。
なお、上記のLの具体例に含まれるR3は、前記一般式(1)における前記R1と同義である。すなわち、−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−という連結基におけるR3は便宜上Lの内部に記載しているだけであり、連結基LはR3を除いた部分を意味する。つまり、この場合Lは3価である。一般式(1)で表すと、X−L−(R12、[但しLは−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−))−(CH2r−O−を表す]と記載でき、すなわちこのときの連結基Lは3価の連結基となっている。
前記Lと前記Xはエステル結合またはアミド結合で結合していることが好ましく、エステル結合で結合していることがより好ましい。また、前記Xにはエステル結合やアミド結合が存在しない方が好ましい。
前記Lと前記R1はエステル結合、エーテル結合またはアミド結合で結合していることが好ましく、エステル結合またはアミド結合で結合していることがより好ましく、エステル結合で結合していることが特に好ましい。また、前記R1にはエステル結合やエーテル結合やアミド結合が存在しない方が好ましい。
以下に前記一般式(1)で表される有機酸の好ましい具体例を以下に挙げる。
《脂肪酸》
ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、ウンデカン酸。
《アルキル硫酸》
ミリスチル硫酸、セチル硫酸、オレイル硫酸。
《アルキルベンゼンスルフォン酸》
ドデシルベンゼンスルフォン酸、ペンタデシルベンゼンスルフォン酸。
《アルキルナフタレンスルフォン酸》
セスキブチルナフタレンスルフォン酸、ジイソブチルナフタレンスルフォン酸。
《ジアルキルスルフォコハク酸》
ジオクチルスルフォコハク酸、ジヘキシルスルフォコハク酸、ジシクロヘキシルコハク酸、ジアミルスルフォコハク酸、ジトリデシルシクロコハク酸。
《多価有機酸の一部誘導体》
前記一般式(1)で表される有機酸は、多価有機酸の一部誘導体であることが好ましい。本明細書中、多価有機酸の一部誘導体とは、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価有機酸がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換の酸性基を少なくとも1つ有する化合物のことを言う。なお、本明細書中、脂肪酸とは、脂肪族モノカルボン酸を意味する。すなわち、本明細書中における脂肪酸は、いわゆる高級脂肪族に限定されるものではなく、酢酸やプロピオン酸などの炭素数12以下の低級脂肪酸も含まれる。
前記多価有機酸の一部誘導体は、多価カルボン酸の一部誘導体であることが好ましい。すなわち、前記一般式(1)で表される有機酸は、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することが好ましい。前記多価カルボン酸の一部誘導体に用いられる多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
前記多価有機酸の一部誘導体に用いられる前記多価アルコールとしては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。その中でも、グリセリンが好ましく、前記一般式(1)で表される有機酸はいわゆる有機酸グリセリドであることが好ましい。
前記一般式(1)で表される有機酸としては、有機酸の酸性基Xが、グリセリン由来の基を含む連結基Lを介して、疎水性部R1と結合している有機酸グリセリド(グリセリン脂肪酸有機酸エステル)が好ましい。ここで、本明細書中における有機酸グリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち1個または2個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個または2個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。
その中でも、有機酸モノグリセリドまたは有機酸ジグリセリドがより好ましく、有機酸モノグリセリドがより特に好ましい。本明細書中における有機酸モノグリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち1個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個または2個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。本明細書中における有機酸ジグリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち2個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基1個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。
前記有機酸モノグリセリドの中でも、グリセリンの3個の水酸基のうち1個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個が無置換の水酸基であり、残りの水酸基1個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物であることがより特に好ましい。前記有機酸モノグリセリドの脂肪酸とエステル結合している水酸基は非対称の位置(いわゆるα−モノグリセリドの位置)であることが好ましく、前記有機酸モノグリセリドの多価有機酸とエステル結合している水酸基は同様に非対称の位置(いわゆるα−モノグリセリドの位置)であることが好ましい。すなわち、前記有機酸モノグリセリドの中でも、無置換の水酸基を有し、かつ脂肪酸とエステル結合している水酸基の直結する炭素原子と、多価有機酸とエステル結合している水酸基の直結する炭素原子とが隣り合わない構造の化合物であることが好ましい。
前記有機酸モノグリセリドの中でも、多価カルボン酸のモノグリセリドがより特に好ましい。前記多価カルボン酸のモノグリセリドとは、多価カルボン酸のうち、少なくとも1つが無置換のカルボキシル基を有し、その他のカルボキシル基がモノグリセリドで置換されている有機酸のことを言う。すなわち、グリセリン1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子が結合したカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドが特に好ましい。
前記多価カルボン酸のモノグリセリドに用いられる前記多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
前記多価カルボン酸のモノグリセリドに用いられる前記脂肪酸は限定されないが、炭素数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が好ましく、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等があげられる。
以下に、本発明に使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドについて詳しく説明する。
本発明で使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドは、一般的には、特開平4−218597号公報、特許第3823524号公報等に記載されている方法に従って、多価有機酸の無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得られる。
反応は、通常、無溶媒条件下で行われ、例えば無水コハク酸と炭素数18の脂肪酸モノグリセリドの反応では、温度120℃前後においえて90分程度で反応が完了する。かくして得られた有機酸モノグリセリドは、通常、有機酸、未反応モノグリセリド、ジグリセリド、及びその他オリゴマーを含む混合物となっている。本発明においては、このような混合物のまま使用してもよい。
前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの純度を高めたい場合は、上記のような混合物中のカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドを蒸留等により精製すればよく、また、純度の高いカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドとしては、蒸留モノグリセリドとして市販されているものを使用できる。前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの市販品としては、例えば、理研ビタミン(株)社製ポエムK−37V(グリセリンクエン酸オレイン酸エステル)、花王社製ステップSS(グリセリンステアリン酸/パルミチン酸コハク酸エステル)等があげられる。
本発明のフィルムに含まれる前記一般式(1)で表される有機酸の添加量は、前記セルロースアシレートに対して0.1質量%〜20質量%の割合であり、0.5質量%〜10質量%であることが特に好ましく、0.6質量%〜5質量%であることがより特に好ましく、0.7質量%〜2質量%であることがより特に好ましい。
添加量が0.1%以上であれば偏光子耐久性改良効果および剥離性改良効果が十分となる。また、20質量%以下の添加量であれば、高温高湿経時において有機酸がブリードアウトし難く、偏光板の直交透過率が上昇しにくく、好ましい。
本発明のフィルムに含まれる前記一般式(1)で表される有機酸の濃度は、フィルム100gあたり0.2〜40mmolであることが好ましく、0.5〜5mmolであることがより好ましく、0.6〜4.5mmolであることが特に好ましく、0.8〜4.0mmolであることがより特に好ましい。
<ドープ製造方法>
上記原料を用いて、まずドープを製造する。ドープ製造設備には、溶媒を貯留するための溶媒タンクと、溶媒とセルロースアシレートなどを混合するための溶解タンクと、セルロースアシレートを供給するためのホッパと、添加剤を貯留するための添加剤タンクとが備えられている。さらに、調製されたドープの温度を調整する温調機と、このドープ中の異物を取り除く第1濾過装置と、調製されたドープを濃縮するフラッシュ装置と、第2濾過装置なども備えられている。また、溶媒を回収するための回収装置と、回収された溶媒を再生するための再生装置とが備えられている。なお、このドープ製造設備は、ストックタンクを介してフィルム製造設備と接続されている。
ドープ製造設備を用いて、以下の手順でドープを製造する。まず、バルブを開き、溶媒タンクから溶媒を溶解タンクに送り込む。次に、ホッパからセルロースアシレートを適量溶解タンクに送り込む。また、必要量の添加剤溶液を、バルブの開閉操作により、添加剤タンクから溶解タンクに送り込む。
添加剤を送り込む方法は、上記のように溶液として送り込む方法に限定されない。例えば、添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンクに送り込んでもよいし、添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて溶解タンクに送り込んでもよい。また、添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンクの中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。さらには、多数の添加剤タンクを用いて、各添加剤タンクに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンクに送り込むこともできる。
上記の説明では、ドープを構成する材料を溶解タンクに入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、セルロースアシレート、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、セルロースアシレートを計量しながら溶解タンクに送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンクに予め入れる必要はなく、後の工程でセルロースアシレートと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合することもできる。
溶解タンクには、その外面を包み込むジャケットと、モータにより回転する第1攪拌機とが備えられている。ただし、溶解タンクには、モータにより回転する第2攪拌機が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌機は、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機は、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機であることが好ましい。溶解タンクは、ジャケットの内部に伝熱媒体を流すことで温度調整されている。その温度範囲は−10〜55℃であることが好ましい。第1攪拌機および第2攪拌機を適宜選択して使用することにより、セルロースアシレートが溶媒中で膨潤した膨潤液を得る。
膨潤液を、ポンプにより加熱装置に送り込む。加熱装置は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液中の固形分を溶解させてドープを得ることができる。以下、この方法を加熱溶解法と称する。膨潤液の温度は、50〜120℃であることが好ましい。ただし、膨潤液を−100〜−30℃の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。このような加熱溶解法および冷却溶解法を適宜選択して行うことで、セルロースアシレートを溶媒に充分溶解させることができる。ドープを温調機により略室温とした後に、第1濾過装置により濾過してドープ中に含まれる不純物を取り除く。第1濾過装置に使用される濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/時以上であることが好ましい。濾過後のドープは、バルブを介してストックタンクに送り込まれ、ここで貯留される。
上記のように、膨潤液を調製してからドープを作製する方法は、セルロースアシレートの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなるので、製造コストの点で問題となるおそれがある。したがって、このような方法によりドープを製造する場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを調製してから、濃縮工程を行うことで目的の濃度のドープを調整することが好ましい。この場合には、第1濾過装置で濾過されたドープを、バルブを介してフラッシュ装置に送り、このフラッシュ装置内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させるようにする。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器により凝縮されて液体となり回収装置により回収される。回収された溶媒は、再生装置によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
また、濃縮されたドープは、ポンプによりフラッシュ装置から抜き出される。このとき、ドープに発生した気泡を抜くために、泡抜き処理を行うことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の種々の方法を適用することができる。例えば、超音波照射法が挙げられる。続いて、ドープは、第2濾過装置に送り込んで、濾過することで異物を除去する。濾過する際のドープの温度は、0〜200℃であることが好ましい。濾過したドープは、ストックタンクに送られて貯蔵される。ストックタンクには、モータにより回転する攪拌機が取り付けられており、攪拌機を回転することで、ドープを常時攪拌している。
以上の方法により、ドープを製造することができる。このとき、ドープ中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは、15〜30質量%以下であり、特に好ましくは、17〜25質量%以下の範囲とすることである。また、可塑剤を代表とする添加剤の濃度は、ドープ中の固形分全体を100質量%とした場合に、1〜20質量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、セルロースアシレートフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法および添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されているが、これらの記載も本発明に適用できる。
<溶液製膜方法>
上述の方法により製造したドープを用いてフィルムを製造する方法について説明する。図4はフィルム流延製膜設備を示す概略図である。ただし、以下、本発明を図4〜図7に沿って説明することがあるが、本発明は、図4に示す形態に限定されるものではない。
(流延)
本発明の製造方法は、セルロースアシレートを含むドープを支持体上に流延する工程を含む。
フィルム流延製膜設備の一例を示した図4の設備には、流延ダイ21と、回転ローラに掛け渡された流延バンド、流延直後に乾燥風をあてる初期乾燥装置22、好ましくは複数の乾燥装置23が設けてある。なお、乾燥装置23については、別の図面を用いて後述する。そして、その下流には(図示せず)、テンター式乾燥機と耳切装置と乾燥室と冷却室、および巻取室などが配置されていることが好ましい。テンター式乾燥機は乾燥室の後に更に設置されていてもよい。
流延ダイ21の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものや、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものも、この流延ダイ21の材質として用いることができる。なお、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ21を作製することが好ましい。これにより、流延ダイ21の内部をドープが一様に流れ、後述する流延膜にスジなどが生じるのを防止することができる。
流延ダイ21の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ21のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ21のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ21の内部における剪断速度が1〜5000(1/秒)となるように調整されていることが好ましい。
流延ダイ21の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1.1〜2.0倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ21に温調機を取り付けることが好ましく、流延ダイ21にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。ここで、本発明の製造方法では、流延幅が1900mm以上であることが好ましく、場合により2100mm以上であってもよい。
また、本発明の製造方法では、乾燥膜厚が30〜60μmとなるように流延することが好ましい。そのため、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ21の幅方向に所定の間隔で設けて、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ21に備えられていることがより好ましい。このヒートボルトは、予め設定されるプログラムにより、ポンプの送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。なお、ポンプは、高精度ギアポンプを用いることが好ましい。
このとき、厚み計のプロファイルに基づく調整プログラムによって、フィードバック制御を行ってもよい。この厚み計としては、例えば、赤外線厚み計などが挙げられるが、特に限定されるものではない。流延エッジ部除く製品フィルムの幅方向の任意の2点の厚み差は、1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。なお、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
流延ダイ21のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができるとともに、低気孔率であり、脆くなく耐腐食性に優れ、かつ流延ダイ21と密着性がよい一方で、ドープとの密着性が悪いものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al23、TiN、Cr23などが挙げられるが、なかでも、WCであることが好ましい。このWCコーティングは、溶射法で行うことができる。
流延ダイ21のスリット端には、流出するドープが局所的に乾燥固化することを防止するために、溶媒供給装置(図示せず)を取り付けることが好ましい。また、ドープを可溶化する溶媒を流延ビードの両端部やダイスリット端部、および外気が形成する三相接触線の周辺部に供給することが好ましい。この溶媒としては、例えば、ジクロロメタン86.5質量部、アセトン13質量部、n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒が好適に用いられる。このとき、端部の片側にそれぞれ0.1〜1.0ml/分で供給すると、流延膜中への異物混合を防止することができるので好ましい。なお、この液を供給するポンプとして、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
流延ダイ21の下方には、回転ローラ24、24’に掛け渡された流延バンドが設けられている。回転ローラ24、24’は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンドは無端で走行する。流延バンドは、その移動速度、すなわち流延速度が10〜200m/分で移動できるものであることが好ましく、20m/分以上で移動できるものであることがより好ましく、40m/分以上で移動できるものであることが特に好ましい。本発明の製造方法では、このように高速に搬送した場合でも十分に支持体上のドープを乾燥することができ、所望の光学特性を発現させたフィルムを生産性よく製造することができる。また、流延バンドの表面温度を所定の値にするために、回転ローラ24、24’に伝熱媒体循環装置が取り付けられていることが好ましい。流延バンドは、その表面温度が−20〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いられている回転ローラ24、24’内には伝熱媒体流路(図示せず)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ24、24’の温度を所定の値に保持されるものとなっている。
流延バンドの幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましく、その長さは20〜200mであり、厚みは0.5〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンドは、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンドの全体の厚みムラは、0.5%以下のものを用いることが好ましい。
流延ダイ21や流延バンドなどは流延室に収められていることが好ましい。流延室には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)とが設けられていることが好ましい。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が流延室の外部に設けられていることが好ましい。流延ダイから流延バンドにかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバが配されていることが好ましい。
(乾燥)
次に、本発明の製造方法の特徴的部分であるドープの乾燥工程について説明する。
本発明の製造方法では、流延後の支持体上の前記ドープを、前記ドープの前記支持体と接していない側の表面における表面乾燥風温度T1(単位:℃)の制御と、前記ドープの裏面乾燥温度T2(単位:℃)の制御によって乾燥ゾーン内で乾燥する工程を含み、前記表面乾燥風温度T1と前記裏面乾燥温度T2が下記式(1)〜式(3)を満たすように制御する。
20℃ ≦ T1 ・・・式(1)
T1 ≦ T2−20℃ ・・・式(2)
T2 ≦ 90℃ ・・・式(3)
具体的には、無端で走行する支持体の上にポリマーと溶媒とを含んだドープを流延して流延膜を形成してから、流延膜を支持体より剥ぎ取って溶媒を含んだフィルムとした後、フィルムを乾燥するセルロースアシレートの製造方法において、支持体の上に流延膜が形成された後に、流延膜を表面から乾燥させる乾燥と、支持体の非流延膜側の裏面に配置した加熱装置の乾燥温度を該表面からの乾燥温度より20℃以上高温となるように調整しながら支持体を裏面から加熱して流延膜を乾燥させる乾燥が行われることが好ましい。
ここで、前記支持体の熱伝導度が高い場合は、前記ドープ裏面乾燥温度T2は、支持体裏面温度と扱ってもよい。
また、前記表面乾燥風温度T1は、ドープ表面に接している空気の温度を意味し、意図的に表面乾燥風温度T1の空気(熱風)をドープ表面へ送風しても、何ら空気を意図的に動かさずに(送風せずに)ドープ表面近傍の温度を表面乾燥風温度T1に制御してもよい。その中でも、効率的に乾燥する観点から、意図的に表面乾燥風温度T1の空気(熱風)をドープ表面へ送風することが好ましい。
本発明の製造方法では、前記表面乾燥風温度T1が下記式(1’)を満たすことがより好ましい。
40℃ ≦ T1 ・・・式(1’)
さらに、前記表面乾燥風温度T1は、40〜50℃であることが特に好ましい。
本発明の製造方法では、前記表面乾燥風温度T1と前記裏面乾燥温度T2が下記式(2’)を満たすことがより好ましい。
T1 ≦ T2−40℃ ・・・式(2’)
すなわち、裏面乾燥温度T2は表面乾燥風温度T1に対して40℃以上高温であることが特に好ましい。
本発明の製造方法では、前記裏面乾燥温度T2が下記式(3’)を満たすことがより好ましい。
55℃ ≦ T2 ・・・式(3’)
さらに、前記裏面乾燥温度T2は、65〜85℃であることが特に好ましい。
図4に、流延バンド周辺の概略図を示す。流延バンドに沿うようにして複数の乾燥装置23が並べて設けられている。乾燥装置23の詳細を図5に示す。流延バンドの流延膜側(表面)と非流延膜側(裏面)には、それぞれ、乾燥風を吹きつけるスリットノズル27(表面側)と27'(裏面側)、及び、排気手段28(表面側)と28'(裏面側)が設けられていることが好ましい。スリットノズル27、27'は風速分布が均一になるようチャンバーボックスに取り付けられた構造が好ましい。また、各乾燥装置23には、好ましくはそれぞれ2個ずつのサポートローラ26が取り付けてあることが好ましい。これらの乾燥装置全体は30に示す断熱壁で覆われ、内部の温度を一定に保てる構造であることが好ましい。
上述のとおり、本発明の製造方法では前記表面乾燥風温度T1は、ドープ表面に接している空気の温度を意味し、本発明は積極的に前記表面乾燥風温度T1の乾燥風をドープ表面に送風する態様に限定されない。その中でも、本発明の製造方法では、前記表面乾燥風温度T1の乾燥風を図4における流延バンドの表面側にスリットノズル(表面側)27から、所定の乾燥温度に調整した乾燥風を流延膜の表面に対して吹き付けて、流延膜の乾燥を促進させる乾燥工程が行なわれることが好ましい。
本発明の製造方法では、流延後の前記ドープの裏面からも乾燥を行う。上記のとおり、ドープの裏面の温度を制御する方法としては、支持体の熱伝導度が高いときは、支持体裏面への加温による乾燥を行うことが好ましい。前記支持体裏面の加熱による乾燥方法としては特に制限はないが、例えば、熱風、温水または輻射により流延バンド上の流延膜に熱量供給を行うことができ、その中でも乾燥風を支持体裏側に向けて送風することが好ましい。
また、流延膜が形成された直後は、支持体の上方に配置した複数の乾燥装置と、支持体を介して乾燥装置と対向する位置に配置した複数の加熱装置とから乾燥風を用いて流延膜を乾燥させることが好ましい。前記ドープの支持体と接していない側の表面への表面乾燥風の風向については特に制限はなく、支持体の走行する方向に平行な風であっても、二次元ノズルを用いた支持体上のドープに対して垂直方向の風であってもよい。その中でも、支持体上のドープに対して垂直方向の風であることが好ましい。
このとき、支持体の走行する方向に沿って乾燥ゾーンを分割し、乾燥温度を変えながら流延膜を乾燥させることも好ましい。前記乾燥ゾーンの分割方法に特に制限はないが、例えば本発明では3つの乾燥ゾーンに区切る態様を好ましい一例として挙げることができる。図4では、スリットノズル(裏面側)27'からは乾燥風が流延バンドに吹き付けられ、流延バンド上のフィルムへの熱量供給、溶剤除去が促進される。なお、本発明での加熱ゾーンとは、複数設置した送風装置及び加熱装置において、個々の装置が関与する乾燥領域を意味する。なお、本発明での加熱ゾーンとは、複数設置した乾燥装置(例えば、送風装置や加熱装置)において、個々の乾燥装置が関与する乾燥領域を意味する。本発明で用いる図4の製造装置では、流延ダイ側から順に流延バンドが剥ぎ取られるまでの領域を、初期表裏乾燥ゾーン1(符号31)、初期表裏乾燥ゾーン2(符号32)、初期表裏乾燥ゾーン3(符号33)、後期乾燥ゾーン3(符号34)、後期乾燥ゾーン2(符号35)、後期乾燥ゾーン1(符号36)と呼ぶ。
スリットノズル27、27'から吹き付けられる乾燥風の温度(乾燥温度、すなわち各加熱ゾーンの温度)は、温調装置29、29'によって、所定の温度範囲を満たすように調整される。本実施形態では、表面の乾燥風の温度に対して裏面の乾燥風の温度が20℃以上高温となるように乾燥温度を制御する。この乾燥工程は、流延膜の前半部分において行われることが好ましく、更には流延膜(ウェブとも言い、流延したドープが完全に乾燥してフィルム化する前の状態のことを言う)中の残留溶媒量で80%DB以前に行われることが好ましい。本実施形態では、各加熱ゾーンに温度計(図示せず)を設置して測定する。上記の温度計は特に限定されず、公知のものを使用することができる。
乾燥装置23としてスリット風吹きつけ方式の例を示したが、乾燥方式は平行流方式(図6)、対向流方式(図7)などがあり、これらを組み合わせた構成としてもよい。
本発明の製造方法では、前記乾燥工程を、前記ドープを流延した後から、前記ドープの下記式で表される残留溶剤量Rが80%DBとなるまで行うことが好ましい。
R(%DB)={(乾燥途中のフィルム膜厚−完全に乾燥されたフィルムの膜厚)/完全に乾燥されたフィルムの膜厚}×100%
なお、ここでいう完全に乾燥されたフィルムとは、上記式によって再度残留用材料Rを計算したときに、0.1%DB以下となるフィルムのことを言う。
ここで、より具体的に説明すると、流延膜の残留溶媒量とは、流延膜中の全溶媒の残留溶媒量である。通常、この残留溶媒量は乾量基準(質量基準)で測定することがあり、サンプリング時におけるフィルム重量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値で計算される。ただし、乾量基準とは、ドープを完全に乾燥して固化したときの重量を100%とした際の溶媒の含有量とする。しかしながら、本発明の製造方法では、製膜時には、流延膜の一部をサンプルとして採取して前記ドープの裏表からの乾燥工程を特定のタイミングで終了させることが好ましいため、通常の質量基準での測定値ではなく、上記の方法により膜厚基準で残留溶媒量を求める。なお、本発明で採用する上記の方法により求めた流延膜の残留溶媒量は、通常の乾量基準の残留溶媒量とほぼ同程度の値となる。
本発明の製造方法では、上記のとおり、流延膜の残留溶媒量が多い乾燥前半部分で、該乾燥工程を行うことが更に好ましい。このような前記ドープの表裏からの乾燥工程は、例えば図4のようなバンド流延装置を用いる場合、前半乾燥部で完了させること、すなわち、初期表裏乾燥ゾーン1(符号31)、初期表裏乾燥ゾーン2(符号32)および初期表裏乾燥ゾーン3(符号33)を順に通過した段階で残留溶剤量Rが80%DBとなるまで乾燥させることが好ましい。
これらの装置を使用し、前記式(2)を満たすように表面乾燥風温度T1に対して裏面乾燥温度T2を20℃以上高温とすることで、流延膜に対して十分かつ発泡やカールが発生する限界値よりも下限の熱量を供給することができるので、平面性を悪化させずに、光学発現性能を低下させずに乾燥速度を向上させて流延膜は乾燥される。
流延バンドの表面側に乾燥装置を設けて乾燥風を吹き付けることにより流延膜を乾燥させる際には、その乾燥領域(乾燥ゾーンとも言う)を少なくとも3つに区画し、区画ごとに乾燥条件を変更することが好ましい。このとき、各区画に供給する乾燥風の温度は、40〜100℃の範囲内で略一定となるように調整されることが好ましい。
流延バンドの裏面側に設ける加熱装置は、その乾燥領域を少なくとも3つに区画し、区画ごとに乾燥条件を変更することが好ましい。本発明の製造方法では、各区画の乾燥温度(それぞれ流延ダイ側から順に初期表裏乾燥ゾーン1(符号31)の裏面乾燥温度T1−1、初期表裏乾燥ゾーン2(符号32)の裏面乾燥温度T1−2、初期表裏乾燥ゾーン3(符号33)の裏面乾燥温度T1−3とする)は、少なくとも1つのゾーンにおいて、対応する各区間における表面乾燥風温度(それぞれ流延ダイ側から順に初期表裏乾燥ゾーン1(符号31)の表面乾燥風温度T2−1、初期表裏乾燥ゾーン2(符号32)の表面乾燥風温度T2−2、初期表裏乾燥ゾーン3(符号33)の表面乾燥風温度T2−3とする)よりも20℃以上高温に設定する。すなわち、本発明の製造方法は、乾燥ゾーンの少なくとも1つのゾーンにおいて前記式(1)〜(3)の条件を満たす。
一般に支持体上に溶液製膜されたフィルムは、その乾燥過程において溶剤が膜表面から蒸発するため、残留溶媒量は支持体側に比べ膜表面側で小さくなり、フィルムの特性が膜厚方向で異なる。
それに対し、本発明の製造方法では、溶液製膜中にドープ表面への乾燥風の送風に加えて、本発明の条件を満たすように支持体の裏面を加熱することで、フィルム膜厚方向の乾燥速度を均一にすることができ、完成したフィルムの特性を膜厚方向に均一にすることができる。たとえばポリマーの密度分布、配向度分布、添加剤の存在量分布、配向度分布などを膜厚方向に均一にすることができる。結果として、本発明の製造方法で得られたフィルムはフィルムの弾性率、光学異方性なども膜厚方向に均一になり、フィルムの膜厚方向のレターデーションRthの減少を抑制することができる。すなわち、従来の製造方法で得られたフィルムよりもRthの光学発現性を高めることができる。
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延、または逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせてもよい。本発明の製造方法では、同時または逐次共流延によって少なくとも2層以上の前記ドープを前記支持体上に流延することが好ましい。さらに、3層以上の前記ドープを前記支持体上に流延することがより好ましい。同時積層共流延を行う際には、図1に示したようなフィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型流延ダイを用いてもよい。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側(支持体と接していない側の表面)の層の厚さと支持体側(支持体と接している側の表面)の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。さらに本発明の製造方法では、両表面の層以外のいずれかの層を形成する前記ドープの少なくとも1層に含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S1と、前記支持体と接している表面の層を形成する前記ドープに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S2と、前記支持体と接していない表面の層を形成する前記ドープに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S3が、S1<S2、かつ、S1<S3を満たすことが好ましい。このような構成とすることで、光学特性の発現が高いフィルムを、支持体からの剥ぎ取りやすくなり、好ましい。さらに、両表面の層を形成しているドープが同じ組成であることも、製造コスト上好ましい。また、両表面の層を形成しているドープには、後述するセルロースアシレートフィルムの添加剤のうち、マット剤を含むことが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
(剥離)
乾燥装置23で乾燥されたフィルムは剥ぎ取り点において流延バンドから剥ぎ取られ、任意の下流工程へと送られる。剥ぎ取りの際にはフィルムを剥ぎ取り用のローラ(以下、剥取ローラと称する)で支持し、流延膜が流延バンドから剥がれる剥取位置を一定に保持することが好ましい。剥取ローラは駆動手段を備え、周方向に回転する駆動ローラであってもよい。なお、剥ぎ取りは流延バンドを支える回転ローラ上の流延バンドで実施することが好ましい。流延バンドは循環して剥取位置から流延位置に戻ると再び新たなドープが流延される。
本発明の製造方法では、前記乾燥工程により、剥離(剥ぎ取りとも言う)時の残留溶媒量が低くとも、良好な光学特性を発現したフィルムを得ることができる。製造コストの観点からは、剥離時の残留溶媒量が低い状態で支持体から流延膜を剥離できることが好ましい。
本発明の製造方法では、前記乾燥工程の後、好ましくは前記ドープの前記式で表される膜厚基準の残留溶剤量Rが80%DBとなった後において、さらに乾燥を続けてもよく、膜厚基準の残留溶剤量Rをさらに低下させてから流延膜を剥離してもよい。例えば、図4のようなバンド流延装置を用いる場合、後半乾燥部(例えば、後半乾燥部を3つの区画に分ける場合は、後期乾燥ゾーン3(符号34)、後期乾燥ゾーン2(符号35)、後期乾燥ゾーン1(符号36)の各乾燥ゾーン)でさらに乾燥を行ってもよい。また、流延バンドから流延膜を剥ぎ取る直前では、流延バンドの裏面側での乾燥温度を40〜100℃の範囲内で略一定とすることが好ましい。これにより、流延バンドから剥ぎ取る直前において流延膜を十分に乾燥させることができるので、乾燥不十分による剥げ残りを発生させることなく流延膜を流延バンドから剥ぎ取ることができる。なお、後半乾燥部26および27における乾燥方法については特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。また、後半乾燥部では特に支持体裏面からの乾燥は本発明の製造方法において必須ではないが、場合により、支持体裏面からも乾燥してもよい。
本発明の製造方法では、剥離時の残留溶媒量は50%DB以下であることが好ましく、20〜45%DBであることがより好ましく、25〜40%DBであることが特に好ましく、25〜35%DBであることが最も好ましい。
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
<表面処理>
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法においては、少なくとも一方の面を表面処理することが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする。
<性能・測定法>
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
(レターデーション)
また、本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の数式(21)及び数式(22)よりRthを算出することもできる。
数式(21)
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。
数式(21)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの膜厚を表す。
数式(22)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
また、本明細書では、Re(450)、Re(550)、Re(630)、Rth(450)、Rth(550)、Rth(630)の値は以下のようにして求めた。測定装置により3以上の異なる波長(例としてλ=479.2、546.3、632.8、745.3nm)を用いて測定し、それぞれの波長からRe、Rthを算出するものとする。これらの値をコーシーの式(第3項まで、Re=A+B/λ2+C/λ4)にて近似して値A、B、Cを求める。以上より波長λにおけるRe、Rthをプロットし直し、そこから波長450、550、630nmでのReおよびRth値であるRe(450)、Re(550)、Re(630)、Rth(450)、Rth(550)、Rth(630)を求めることができる。
本発明のフィルムは、波長548nmにおける、フィルム面内のレターデーションReおよびフィルム厚み方向のレターデーションRthが、それぞれ下記式(6)および式(7)を満たすことが好ましい。
20nm ≦ Re ≦ 100nm ・・・式(6)
50nm ≦ Rth ≦ 300nm ・・・式(7)
さらに、本発明のフィルムはReとRthがそれぞれ下記式(6’)および式(7’)を満たすことがより好ましい。
30nm ≦ Re ≦ 80nm ・・・式(6’)
70nm ≦ Rth ≦ 250nm ・・・式(7’)
さらに、本発明のフィルムはReとRthがそれぞれ下記式(6’’)および式(7’’)を満たすことが特に好ましい。
40nm ≦ Re ≦ 60nm ・・・式(6’’)
100nm ≦ Rth ≦ 200nm ・・・式(7’’)
本発明のフィルムは、波長450〜630nmにおいて、測定波長が大きくなるにつれてReが増大することが、液晶表示装置に組み込んだときの視野角補償の観点から、好ましい。すなわち、本発明のフィルムは、実質的に位相差が逆波長分散性を示すことが好ましい。ただし、本発明のフィルムは、順波長分散であっても、フラット分散であってもよく、特に逆波長分散のフィルムに限定されるものではない。
(膜厚)
本発明のフィルムは膜厚が30〜100μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましく、40〜60μmであることがさらに好ましい。30μm以上とすることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、60μm以下とすることが、偏光板の肉薄化の観点から好ましい。
また、本発明のフィルムは、単層構造であっても、2層以上のセルロースアシレート層を有する積層体であってもよい。本発明のフィルムが2層以上のセルロースアシレート層を有する積層体である場合は、各セルロースアシレート層に含まれるセルロースアシレートの種類、添加剤、各層の膜厚好ましい態様は、上述の本発明の製造方法における共流延に用いたドープにおける好ましい態様と同様である。
ただし、本発明のフィルムが単層構造である場合は、特に本発明のフィルムは前記有機酸を添加剤として含むことが、支持体からの剥離性や偏光板保存性の観点から好ましい。
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、特にフィルム幅は限定されるものではないが、フィルム幅が700mm以上であることが好ましく、1900mm以上であることがより好ましい。また、場合により2100mm以上としてもよい。一方、本発明のフィルムは、フィルム幅が3000mm以下であることが好ましく、2700mm以下であることがより好ましく、2500mm以下であることが特に好ましい。
<機能層>
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていてもよい。
さらに、前記セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層としては、帯電防止層,硬化樹脂層,反射防止層,易接着層,防眩層および光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m2含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m2含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m2含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m2含有することが好ましい。セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に光学補償フィルム、偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、通常は、液晶層に2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用することができる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載や、適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用することができる。特開2005−104148号公報の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
また、本発明により、光学特性に優れるセルロースアシレートフィルムを得ることができる。前記セルロースアシレートフィルムは、偏光板保護フィルムや写真感光材料のベースフィルムとして用いることができるとともに、テレビ用途の液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用することができる。特に、偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。なお、偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成してもよい。
また、本発明により、液晶表示装置、特にVAモードの液晶表示装置、の視野角の拡大及び視野角に依存したカラーシフトの軽減に寄与するセルロースアシレートフィルム及び偏光板を安価に提供することができる。
[偏光板]
また、本発明は、本発明のフィルムを少なくとも一枚用いることを特徴とする偏光板にも関する。
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも片面に本発明のフィルムを有することが好ましい。本発明のフィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
[液晶表示装置]
本発明は、本発明のフィルムまたは本発明の偏光板を有する液晶表示装置にも関する。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく、公知の構成を採用できる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
<ドープの製造>
[ドープ溶液A1の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液(以下ドープ溶液)を調製した。
・セルロースアセテート(置換度2.44) 100.0質量部
・例示化合物−1 20.0質量部
・ポエムK−37V(理研ビタミン(株)製) 1.0質量部
・メチレンクロライド 365.0質量部
・メタノール 55.0質量部
固形分濃度は22.4質量%、セルロースアセテート濃度は18.5質量%であった。
[ドープ溶液B1の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、ドープ溶液を調製した。
・セルロースアセテート(置換度2.44) 100.0質量部
・例示化合物−1 20.0質量部
・メチレンクロライド 366.0質量部
・メタノール 55.0質量部
固形分濃度は22.2質量%、セルロースアセテート濃度は18.5質量%であった。
[ドープ溶液C1の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、ドープ溶液を調製した。
・セルロースアシレート(セルロースアセテートプロピオネート(アセチル置換度1.8、プロピオニル置換度0.7) 100.0質量部
・例示化合物−5 34.2質量部
・チヌビン109(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ) 1.8質量部
・チヌビン171(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ) 0.8質量部
・メチレンクロライド 411.0質量部
・エタノール 83.0質量部
固形分濃度は21.7質量%、セルロースアセテートプロピオネート濃度は15.9質量%であった。
[ドープ溶液D1の調製]
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、ドープ溶液を調製した。
・セルロースアセテート(置換度2.81) 100.0質量部
・例示化合物−1 10.0質量部
・メチレンクロライド 388.0質量部
・メタノール 58.0質量部
固形分濃度は19.8質量%、セルロースアセテート濃度は18.0質量%であった。
下記表1に示すようにドープ溶液A1、B1、D1からそれぞれセルロースアセテート、添加剤および添加量を変更した以外は同様にしてそれぞれのドープ溶液を調製した。なおいずれの場合においても変更元となったドープ溶液に対してはセルロースアセテート濃度および溶剤の組成が同じになるように溶剤の量は適宜、調整した。


なおそれぞれに用いた例示化合物は以下に示す。
ポエムK−37V(上記にて説明した有機酸、商品名、理研ビタミン(株)社製)
例示化合物−1
テレフタル酸/コハク酸/プロピレンクリコール/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=27.5/22.5/25/25)。MW=730。
例示化合物−2
テレフタル酸/フタル酸/コハク酸/プロピレンクリコール/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=22.5/2.5/25/37.5/12.5)MW=790。
なお、例示化合物−1、2はいずれもレターデーション発現剤でもあり、例示化合物−1は末端がアセチル基で封止されているのに対して例示化合物−2の末端は封止されておらずOH基のままである。
(マット剤分散液MD1の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、撹拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。
・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
・メチレンクロリド 76.1質量部
・メタノール 11.4質量部
・ドープ溶液D1 12.6質量部
[ドープ溶液D1Mの調製]
ドープ溶液、マット剤分散液をそれぞれ以下に示した割合で混合し、調製した。
・ドープ溶液D1 100.0質量部
・マット剤分散物溶液MD1 7.1質量部
(マット剤分散液MD2の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、撹拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。
・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
・メチレンクロリド 76.1質量部
・メタノール 11.4質量部
・ドープ溶液D2 12.6質量部
[ドープ溶液D2Mの調製]
ドープ溶液、マット剤分散液をそれぞれ以下に示した割合で混合し、調製した。
・ドープ溶液D2 100.0質量部
・マット剤分散物溶液MD2 7.1質量部
<製膜>
(流延・乾燥)
上述のドープ溶液A1、A1−2〜A1−6、B1、B1−2〜B1−4、C1、D1MおよびD2Mのうち、表2に記載のドープを各実施例および比較例で用いて、バンド流延機を用いて流延した。流延開始直後の初期乾燥はいずれも40℃で10m/sの乾燥風を当てた。初期表裏乾燥ゾーン1〜3における初期表裏乾燥は表面乾燥および裏面乾燥ともに、二次元ノズルからバンド(支持体)に垂直方向からの乾燥風の送風により行い、各乾燥風の風速は各々10m/sで、温度は下記表2に示す条件で流延した。このとき、図4のバンド流延機の前半部分において初期表裏乾燥ゾーン3を通過した時点での残留溶媒量が80%DBとなるように制御しながら乾燥を行った。その後、後期乾燥ゾーン1〜3において、さらに乾燥し、得られたウェブをバンド(支持体)から剥離した。その後、140℃の条件でテンターを用いて延伸倍率0〜8%で横延伸した後に、クリップを外して130℃で20分間乾燥させ、その後更に173℃の条件で更に延伸して延伸セルロースアシレートフィルム試料を作製した。なお延伸倍率が0%のものはいずれにおいても延伸しなかったものであり、延伸倍率が20%以上のものは初期にテンターで8%延伸した後に合計延伸倍率が下記表2に示した値になるように、後段の173℃の延伸倍率を調整した。
また、試料100〜101のみ1930mm幅で流延した(延伸耳切後の最終製品幅は1980mm)。その他は1450mm幅で流延した(最終製品幅は1490mm)。いずれもカールおよび平面性は本発明の方が良好であり、幅を広げた試料もカールや平面性の品質には本発明試料101の方が比較例試料100に対して優れていた。各試料における各層の膜厚を下記表2に示す。
<剥ぎ取り時の残留溶剤量の測定>
各々のサンプルについて、支持体から剥ぎ取る際の残留溶剤量を前述した方法で求めた。それぞれの結果は下記表2にまとめて示した。
<フィルムのレターデーション>
前述の方法により自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測器(株)製)を用いて波長548nmにおいて3次元複屈折測定を行い、面内方向のレターデーションReおよび、膜厚方向のレターデーションRthを求めた。また測定波長を440nm〜650nmの間で変えてReを測定し、各々の波長分散特性を測定波長が増大するに伴い、Reが増加する場合を“逆”分散、Reが減少する場合を“順”分散、Reが一定の場合を“フラット”分散として、結果を下記表2にそれぞれ示した。
上記表2より比較例の試料100、102に対して各々本発明の試料101、103〜107に対して剥ぎ取り時の残留溶媒量が低減するにも関わらず光学発現性が高いことが分かった。また、同様のことが比較例108、110、112に対して各々本発明109、111、113に対しても言えることが分かった。加えて光学発現性範囲の異なる比較例114、116に対しても各々本発明115、117は剥ぎ取り時の残留溶媒量が低減するにも関わらず光学発現性が高いことが分かった。また比較例118に対する本発明の試料120からは積層フィルム形態において剥ぎ取り時の残留溶媒量が低減するにも関わらず光学発現性が高いことが分かり、また、比較例119に対する本発明の試料120からは積層フィルム形態において搬送速度が速いにも関わらず光学発現性が高いことが分かった。比較例121に対する本発明の試料122〜124からも積層フィルム形態においても同様の効果を有することが分かった。また、セルロースアシレートプロピオネートを用いた場合も、比較例125に対する本発明の試料126からはセルロースアセテートフィルムにこの効果は限定されないことが分かった。
[偏光板試料の作製]
上記で作製した本発明のセルロースアシレートフィルム試料104と試料111の表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各本発明のセルロースアシレートフィルム試料と、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD80UL(富士フイルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各本発明のセルロースアシレートフィルム試料が第1の光学異方性層とTD80ULが偏光子の保護フィルムとなっている偏光板をそれぞれ得た。この際、各セルロースアシレートフィルムのMD方向およびTD80ULの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。
[液晶表示装置の作製]
前記偏光板を、試料104と試料111がVA液晶セル側となるようにVA液晶セル側に各々の偏光板の吸収軸が直交するように貼り付けて液晶表示装置をそれぞれ作成した。VA液晶セルはVAモードの液晶TV(LC37−GE2、シャープ(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥して用いた。
[液晶表示装置の評価]
(パネルの色味視野角評価)
上記のようにして作成したVAモードの液晶表示装置104と111について、各々について測定機(EZ−Contrast XL88、ELDIM社製)を用いて、暗室内で黒表示および白表示の輝度および色度を測定し、黒表示におけるカラーシフトを算出した。
(極角方向の黒カラーシフト)
黒表示において、液晶セルの法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向(方位角45度)に視角を倒した場合の色度の変化Δxθ、Δyθは、極角0〜80度の間で、常に下記数式(X)および(Y)を満たすことが好ましい。
数式(X): 0≦Δxθ≦0.1
数式(Y): 0≦Δyθ≦0.1
[式中、Δxθ=xθ−xθ0、Δyθ=yθ−yθ0であり、(xθ0、yθ0)は黒表示における液晶セル法線方向で測定した色度、(xθ、yθ)は黒表示における液晶セル法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向に極角θ度まで視角を倒した方向で測定した色度]
結果を以下の基準で評価した。
○:極角0〜80度の間で常にΔxθおよびΔyθがともに0.02以下である。
△:極角0〜80度の間で常にΔxθおよびΔyθがともに0.05以下である。
×:極角0〜80度の間で常にΔxθおよびΔyθがともに0.1より大である。
本発明の試料104を貼り付けた液晶表示装置はカラーシフトが○であったのに対して、本発明の試料111を貼り付けた液晶表示装置は△であり、レターデーションが逆波長分散を示す本発明の試料104が優れていることが分かった。
1 表層用ドープ
2 コア層用ドープ
3 共流延ギーサ
4 流延用支持体
11、12 偏光子
13 液晶セル
14 第1の光学異方性層(本発明のセルロースアシレートフィルム)
15 第2の光学異方性層
16、17 外側保護フィルム
21 流延ダイ
22 初期乾燥装置
23 乾燥装置
24、24’ 回転ローラ
25 剥取ローラ
26 サポートローラ
27 スリットノズル(表面側)
27’ スリットノズル(裏面側)
28 排気手段(表面側)
28’ 排気手段(裏面側)
29 温調装置(表面側)
29’ 温調装置(裏面側)
30 断熱壁
31 初期表裏乾燥ゾーン1
32 初期表裏乾燥ゾーン2
33 初期表裏乾燥ゾーン3
34 後期乾燥ゾーン3
35 後期乾燥ゾーン2
36 後期乾燥ゾーン1

Claims (10)

  1. セルロースアシレートを含むドープを支持体上に流延する工程と、
    流延後の支持体上の前記ドープを、前記ドープの前記支持体と接していない側の表面における表面乾燥風温度T1(単位:℃)の制御と、前記ドープの裏面乾燥温度T2(単位:℃)の制御によって乾燥ゾーン内で乾燥する工程を含み、
    前記表面乾燥風温度T1と前記裏面乾燥温度T2が下記式(1)〜式(3)を満たすように制御することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
    20℃ ≦ T1 ・・・式(1)
    T1 ≦ T2−20℃ ・・・式(2)
    T2 ≦ 90℃ ・・・式(3)
  2. 前記表面乾燥風温度T1が下記式(1’)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
    40℃ ≦ T1 ・・・式(1’)
  3. 前記乾燥工程を、前記ドープを流延した後から、前記ドープの下記式で表される残留溶剤量Rが80%DBとなるまで行うことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法:
    R(%DB)={(乾燥途中のフィルム膜厚−完全に乾燥されたフィルムの膜厚)/完全に乾燥されたフィルムの膜厚}×100%
  4. 前記セルロースアシレートが、アシル置換度2.1〜2.95であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  5. 前記セルロースアシレートのアセチル置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとしたとき、前記セルロースアシレートが下記式(4)および(5)を同時に満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
    2.1 ≦ X+Y ≦ 2.56 ・・・式(4)
    0 ≦ X ≦ 2.1 ・・・式(5)
  6. 乾燥膜厚が30〜60μmとなるように流延することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  7. 流延幅が1900mm以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  8. 同時または逐次共流延によって少なくとも2層以上の前記ドープを前記支持体上に流延することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  9. 3層以上の前記ドープを前記支持体上に流延し、
    両表面の層以外のいずれかの層を形成する前記ドープの少なくとも1層に含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S1と、前記支持体と接している表面の層を形成する前記ドープに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S2と、前記支持体と接していない表面の層を形成する前記ドープに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度S3が、S1<S2、かつ、S1<S3を満たすことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  10. 前記裏面乾燥温度T2が下記式(3’)を満たすことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
    55℃ ≦ T2 ・・・式(3’)
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