JP5659999B2 - ビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法 - Google Patents

ビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法 Download PDF

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本発明は、加工用高出力レーザ装置の戻り光対策に用いられる光アイソレータのファラデー回転子用薄膜材料として有用されるビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜に係り、特に、ビスマス置換希土類−鉄ガーネット薄膜表面に発生する放射状、直線状のクラックを抑制したビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法の改良に関するものである。
磁性ガーネット単結晶はファラデー効果を有しており、光アイソレータの中心材料である。近年、この種の磁性ガーネット単結晶としては、液相エピタキシャル成長方法(以下、LPE法と称する)により非磁性ガーネット基板上に育成するビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜が主になってきている。このビスマス置換希土類−鉄ガーネットは、希土類−鉄ガーネット単結晶中の希土類元素の一部をビスマスで置換したもので、膜厚が数百μmの厚膜である。そして、LPE法を採用する理由は、LPE法が量産性に優れ、高品質の膜を低価格で製造できるからである。
ところで、特許文献1では、ガーネット基板に希土類−鉄ガーネット膜(以下、RIG膜またはエピ膜と称する)を育成する場合、RIG膜の表面に同心円状のクラックが発生し易いことを問題とし、その解決方法を示している。
しかし、特許文献1が対象とするガーネット基板やRIG膜は、現代要求されているガーネット基板やRIG膜に較べ、その板厚や膜厚が大きいものである。因みに、特許文献1の実施例では、板厚500μm〜650μmのガーネット基板を用いて、膜厚が450μmのRIG膜を成長させる方法が示されている。現在は、板厚のより薄い基板に膜厚のより薄いRIG膜が選択され、その結果、特許文献1で問題とした同心円状のクラックは発生しないが、放射状、直線状のクラックが発生するという新たな問題が生じている。
特開平11−246296号公報
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、板厚の薄い基板に膜厚の薄いRIG膜が選択された場合、得られるRIG膜表面に発生する放射状、直線状のクラックを抑制したビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法を提供し、合わせて短波長向けのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の製造方法を提供することにある。
すなわち、請求項1に係る発明は、
ビスマス置換希土類−鉄ガーネット成分を溶かしたフラックス液面に、ガーネット基板を接触させてビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を成長させるビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法において、
上記フラックスが酸化系フラックスで構成され、ガーネット基板が化学式Gd 3 (ScGa) 5 12 で示されるGSGG基板で構成されると共に、ビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜が化学式Bi 1.16 Gd 0.54 Nd 1.30 Fe 5 12 で示されるビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜であり、かつ、上記ガーネット基板の板厚をT(μm)、ビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の膜厚をt(μm)としたとき、
膜厚t=100μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが300μm〜350μmであり、
膜厚t=300μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが200μm〜250μmであることを特徴とする。
次に、請求項に係る発明は、
請求項1に記載のビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法において、
膜厚t=100μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが300μmまたは350μmであり
膜厚t=300μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが200μmまたは250μmであることを特徴とする。
本発明に係るビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法によれば、膜厚t=100μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが300μm〜350μm、膜厚t=300μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが200μm〜250μmであるため、従来法と較べて板厚のより薄い基板に膜厚のより薄いRIG膜が選択されているにも拘わらず、育成するビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜表面に発生し易い放射状、直線状のクラックを抑制することが可能となる効果を有する。
板厚T(μm)のガーネット(GSGG)基板1に育成された膜厚t(μm)のビスマス置換希土類−鉄ガーネット(RIG)膜2を示す概略断面図。 参考例1、2、7、実施例3〜6と比較例1〜4から求められた「基板の板厚T(μm)」と「ガーネット膜の膜厚t(μm)」との関係を示すグラフ図。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
従来、RIG膜としての磁性ガーネット単結晶をLPE法により育成する場合、取り扱いの容易さ等の観点から、上述したように板厚500μm以上の厚いガーネット基板が使用されてきた。育成するRIG膜のLPE法を説明すると、はじめにRIG膜の原料を完全に溶融し、その後、その液相温度から過冷却状態に融液の温度を降下させ、その過冷却状態において温度一定若しくは育成中の温度を変えてビスマス置換量を変えるという手法でRIG膜を育成している。
このようなLPE法による単結晶の育成においては、度々クラック等の発生により育成が困難となる現象が生じる。これは、基板と単結晶の格子定数の不一致(ミスマッチ)によると言われており、単結晶を育成する時には基板との間で格子定数が一致するような単結晶および基板の組成を選択するのが一般的である。
しかし、基板と単結晶の格子定数を整合させてもクラックが発生する不具合が多くなり、その対策を検討した。その結果、本発明に至ったもので、概して薄いエピ膜(RIG膜)を育成する場合、基板の板厚を従来と較べてより薄くする必要があることが判明した。
但し、以下に示す実施例の結果から判るように、許容されるRIG膜の膜厚と基板の板厚の組み合わせの範囲内では、クラック発生に関する最適な関係は、膜厚と板厚が逆比例の関係(すなわち、RIG膜の膜厚が薄い場合には基板の板厚は大きい方がクラック発生率は低くなり、RIG膜の膜厚が厚い場合には基板の板厚は小さい方がクラック発生率は低くなる)にあることが判った。
以下の参考例1、2、7、実施例3〜6はそれぞれ100回繰り返しを行ったが、基板の板厚が200μm未満は行っていない。この理由は、基板の板厚が200μm未満になると、ガーネットのインゴットから基板を切り出すときに割れ易く、基板を製作する歩留りが極端に悪くなるからである。
参考例1、2、7、実施例3〜6と比較例1〜4の結果を示す以下の表1および図2のグラフ図から、基板の板厚Tは「200μm ≦ T ≦ 350μm」の範囲とする必要があり、中でも「冷却時のクラック発生率が0〜2%」である実施例3〜が望ましいことが確認される。一般に基板が厚くなる方が取り扱いに容易なため、基板の厚みは300μm程度が最も好ましい。
また、参考例1、2、7、実施例3〜6と比較例1〜4の結果を示す以下の表1および図2のグラフ図から、RIG膜の膜厚tは「100μm ≦ t ≦ 300μm」の範囲とする必要がある。
更に、図2のグラフ図に示された「冷却時のクラック発生率が10%未満」である実施例3〜6と参考例7から、基板の板厚Tが「200μm ≦ T ≦ 350μm」、および、RIG膜の膜厚tが「100μm ≦ t ≦ 300μm」の範囲にあることを前提として、下式(数1)の条件を満たすことが望ましい。
-2T+700(μm) ≦ t ≦ -4T+1500(μm) (数1)
尚、参考例1、2、7、実施例3〜6と比較例1〜4では、フラックスが酸化系フラックスで構成され、ガーネット基板が化学式Gd3(ScGa)512で示される「GSGG基板」により構成され、かつ、RIG膜が化学式Bi1.16Gd0.54Nd1.30Fe512で示されるビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜で構成されている。
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。
[RIG膜の育成]
白金坩堝中に、PbO、Bi23、B23をフラックスとし、RIG成分を溶かし込んだ融液を、電気炉内で820℃に加熱しながら、その融液表面に1インチ径のGSGG基板を接触させ、このGSGG基板を100rpmで回転させて、化学式Bi1.16Gd0.54Nd1.30Fe512で示されるRIG膜を育成する。
GSGG基板1とRIG膜2を図1に示す。
[評価方法]
育成したRIG膜の評価方法は、実体顕微鏡(40〜50倍)で放射状、直線状のクラック発生の有無を確認する。
クラックが一箇所でも見つかればその基板は不良とし、育成方法の合否判定は、全基板に対する不良基板の枚数比で2%以下の場合を合格とし、10%を越えた場合に不合格とした。
参考例1]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が200μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が200μmのGSGG基板上に、膜厚が100μmのRIG膜を育成した参考例1では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は10枚であり、参考例1の育成方法は、上記合格の条件については満たさないが略良好であった。
参考例2]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が250μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が250μmのGSGG基板上に、膜厚が100μmのRIG膜を育成した参考例2では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は10枚であり、参考例2の育成方法は、上記合格の条件については満たさないが略良好であった。
[実施例3]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が300μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が300μmのGSGG基板上に、膜厚が100μmのRIG膜を育成した実施例3では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は1枚であり、実施例3の育成方法は合格であり、参考例1、2に較べて著しく良好であった。
[実施例4]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が350μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が350μmのGSGG基板上に、膜厚が100μmのRIG膜を育成した実施例4では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は0枚であり、実施例4の育成方法は合格であり、参考例1、2に較べて著しく良好であった。
[実施例5]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が200μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が200μmのGSGG基板上に、膜厚が300μmのRIG膜を育成した実施例5では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は1枚であり、実施例5の育成方法は合格であり、参考例1、2に較べて著しく良好であった。
[実施例6]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が250μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が250μmのGSGG基板上に、膜厚が300μmのRIG膜を育成した実施例6では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は2枚であり、実施例6の育成方法は合格であり、参考例1、2に較べて著しく良好であった。
参考例7]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が300μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が300μmのGSGG基板上に、膜厚が300μmのRIG膜を育成した参考例7では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は10枚であり、参考例7の育成方法は、上記合格の条件については満たさないが略良好であった。
参考例8]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が350μmとして上記育成方法によりRIG膜を100枚育成した。
すなわち、板厚が350μmのGSGG基板上に、膜厚が300μmのRIG膜を育成した参考例8では、RIG膜100枚中、放射状、直線状クラック発生の枚数は10枚であり、参考例8の育成方法は、上記合格の条件については満たさないが略良好であった。
[比較例1]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が180μmとして上記育成方法を試みたところ、基板の板厚が180μmの場合、ガーネットインゴットから切り出すときに割れ易く(加工時のクラック発生有り)、基板を製作する歩留りが極端に悪くなった。
このため、膜厚80μmのRIG膜の育成を行なわなかったことから、比較例1に係る育成方法の評価はできなかった。
[比較例2]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が370μmとして上記育成方法によりRIG膜の育成を試みた。
すなわち、板厚が370μmのGSGG基板上に、膜厚が80μmのRIG膜を育成した比較例2では、RIG膜を10枚育成した段階で、放射状、直線状クラック発生の枚数が8枚となり、極端に歩留まりが悪いため途中でRIG膜の育成を中止した。
[比較例3]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が180μmとして上記育成方法を試みたところ、基板の板厚が180μmでは、ガーネットインゴットから切り出すときに割れ易く(加工時のクラック発生有り)、基板を製作する歩留りが極端に悪くなった。
このため、膜厚320μmのRIG膜の育成を行なわなかったことから、比較例3に係る育成方法の評価はできなかった。
[比較例4]
ガーネット基板がGSGG、基板の板厚が370μmとして上記育成方法によりRIG膜の育成を試みた。
すなわち、板厚が370μmのGSGG基板上に、膜厚が320μmのRIG膜を育成した比較例4では、RIG膜を10枚育成した段階で、放射状、直線状クラック発生の枚数が6枚となり、極端に歩留まりが悪いため途中でRIG膜の育成を中止した。
[評 価]
(1)全ての参考例と実施例では、基板の板厚が200μm以上350μm以下の範囲内で、RIG膜の膜厚が100μm以上300μm以下の範囲内にあり、全基板に対する不良基板の発生率が10%以下と略良好である
これに対し、全ての比較例では、基板の板厚が「200μm以上350μm以下」の範囲外である「180μm、370μm」で、かつ、RIG膜の膜厚も「100μm以上300μm以下」の範囲外である「80μm、320μm」であり、全基板に対する不良基板の発生率が60%以上と劣っている。
(2)また、RIG膜の膜厚が100μmである参考例1、2実施例3、4の育成方法を対比すると、基板の板厚が「300μm、350μm」である実施例3と4が「1%、0%」であるのに対し、基板の板厚が「200μm、250μm」である参考例1と2がそれぞれ「10%」と劣っている。
他方、RIG膜の膜厚が300μmである実施例5、6と参考例7、8の育成方法を対比すると、基板の板厚が「300μm、350μm」である参考例7と8が「8%、10%」であるのに対し、基板の板厚が「200μm、250μm」である実施例5と6が「1%、2%」と優れている。
このことから、許容されるRIG膜の膜厚と基板の板厚の組み合わせの範囲内では、クラック発生に関する最適な関係は、膜厚と板厚が逆比例の関係にあることが確認できる。
(3)更に、図2のグラフ図に示された「冷却時のクラック発生率が10%未満」である実施例3〜6と参考例7から、基板の板厚Tが「200μm ≦ T ≦ 350μm」、および、RIG膜の膜厚tが「100μm ≦ t ≦ 300μm」の範囲にあることを前提として、下式(数1)の条件を満たすことが望ましいことも確認できる。
-2T+700(μm) ≦ t ≦ -4T+1500(μm) (数1)
Figure 0005659999
本発明に係るビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法によれば、従来法と較べて板厚のより薄い基板に膜厚のより薄いRIG膜が選択されているにも拘わらず、育成するビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜表面に発生し易い放射状、直線状のクラックを抑制することができるため、量産性に優れ、例えば、光アイソレータのファラデー回転子用薄膜材料として適用される産業上の利用可能性を有している。
1 GSGG基板
2 RIG膜

Claims (2)

  1. ビスマス置換希土類−鉄ガーネット成分を溶かしたフラックス液面に、ガーネット基板を接触させてビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を成長させるビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法において、
    上記フラックスが酸化系フラックスで構成され、ガーネット基板が化学式Gd 3 (ScGa) 5 12 で示されるGSGG基板で構成されると共に、ビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜が化学式Bi 1.16 Gd 0.54 Nd 1.30 Fe 5 12 で示されるビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜であり、かつ、上記ガーネット基板の板厚をT(μm)、ビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の膜厚をt(μm)としたとき、
    膜厚t=100μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが300μm〜350μmであり、
    膜厚t=300μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが200μm〜250μmであることを特徴とするビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法。
  2. 膜厚t=100μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが300μmまたは350μmであり、
    膜厚t=300μmのビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜を育成するときのガーネット基板の板厚Tが200μmまたは250μmであることを特徴とする請求項1に記載のビスマス置換希土類−鉄ガーネット膜の液相エピタキシャル成長方法。
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