JP5653822B2 - カーボンナノチューブの製造方法 - Google Patents

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本発明は、プラズマCVD法を用いたカーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
垂直配向したカーボンナノチューブ(CNTと称される)は、構造制御が可能であるために特に電池用途への開発が活発に進められている。そして、このカーボンナノチューブの製造に際しては、熱CVD法を中心とした開発が活発であるが、その一方で、反応温度を低下させることのできるプラズマCVDを適用してカーボンナノチューブを成長させる技術の開発も活発である。
シリコン基板上にチタン、鉄、ニッケルのうちの少なくとも一種とコバルトを堆積させ、次いでプラズマCVD法を用いて、炭素原料ガス(炭化水素ガス)をプラズマ領域に通過させて水素と炭素に分解し、シリコン基板上に堆積する触媒金属を起点としてこの分解された炭素を成長させることでカーボンナノチューブを製造する方法がたとえば特許文献1に開示されている。
この製造方法では、触媒金属の加熱温度を300〜800℃程度に調整する旨の記載があるが、この温度範囲は比較的低温雰囲気から高温雰囲気まで温度レンジが広過ぎ、少なくとも低温雰囲気のみでの製造が可能であるか否かは不明である。
これに対して、本発明者等は、加熱温度をせいぜい450℃かそれ以下の比較的低温雰囲気で安定的に、垂直性が高く、かつ結晶性の高いCNTを得ることのできる製造方法の発案に至っている。
特許2007−70158号公報
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、比較的低温で安定的に、垂直性が高く、かつ結晶性の高いカーボンナノチューブを成長させることのできるカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明によるカーボンナノチューブの製造方法は、基板上にニッケル、コバルト、鉄のいずれか一種もしくは複数の触媒金属とカーボンを提供する第1のステップ、プラズマCVD法を適用して、プラズマで分解されたカーボンを基板に提供し、該プラズマ分解されたカーボンを触媒金属を起点として基板上で成長させてカーボンナノチューブを製造する第2のステップからなるものである。
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、基板上にニッケル、コバルト、鉄のいずれか一種もしくは複数の触媒金属を提供することに加えてカーボンを提供することを特徴とするものであり、触媒金属とカーボンを基板に提供した後にプラズマCVD法を適用してプラズマ分解されたカーボンを基板に提供するものである。
ここで「基板」とは、シリコンやアルミニウム、さらにはアルミニウム合金などを素材とする基材と、この基材上に設けられた、チタンやバナジウム、クロムのいずれか一種、もしくはこれらのいずれか一種を主成分とする合金からなる緩衝層とから構成されるユニットを示称するものである。
本発明者等によれば、基板上にニッケルやコバルト、鉄などの触媒金属とカーボンを提供しておき、そのまま残置しておくことで触媒金属とカーボンからなる金属カーバイド(ニッケルであればニッケルカーバイド)が生成され、この金属カーバイドを起点としてプラズマ分解されたカーボンを成長させることで、比較的低温で安定的に、垂直性が高く、かつ結晶性の高いカーボンナノチューブが得られることが見出されている。
また、基板を構成するチタン素材の緩衝層により、たとえば基材を形成するシリコンと触媒金属が化学反応してその触媒活性が阻害され、カーボンナノチューブの成長阻害に至るといった問題は効果的に解消される。
また、この第1のステップにおける触媒金属やカーボンの基板表面への提供方法は任意であり、溶液散布による方法やアークプラズマ法の適用などが挙げられる。
基板上に触媒金属とカーボンを提供して金属カーバイドが生成されたら、この基板をプラズマ装置内に収容し、プラズマCVD法を用いてプラズマ分解されたカーボンを基板に提供し、プラズマ分解されたカーボンを触媒金属(金属カーバイド)を起点として基板上で成長させることによってカーボンナノチューブが製造される(第2のステップ)。
また、本発明の製造方法では、第1のステップにおける基板上の触媒金属に対するカーボンの質量比率が、0.2〜0.8の範囲に調整されているのが好ましい。
Raman散乱スペクトルにおいて、グラフェン面内のsp2結合の伸縮振動に由来するG-band(1590cm-1付近)のピーク強度に対して、グラフェンの欠陥部に由来するD-band(1350cm-1付近)のピーク強度の比(D/G比)の高低により、D/G比が低くなるにつれて結晶性が良くなるという相関があることは知られるところである。
そこで、本発明者等は触媒金属としてニッケルを用いて、基板上の触媒金属に対するカーボンの質量比率(C/Ni比)をカーボンなしのゼロ〜双方が同質量である比率1までの間で種々変化させた際のD/G比を求めた結果、0.2と0.8付近で変曲点を有し、0.2〜0.8でD/G比がほぼフラットかつ最小となり、0.2未満および0.8より大きな領域でD/G比が高くなる傾向があることを特定した。
この特定結果に基づき、C/Ni比が0.2〜0.8の範囲となるように双方の提供量を調整することで極めて結晶性の高いCNTを成長させることができる。
以上の説明から理解できるように、本発明のカーボンナノチューブの製造方法によれば、基板上に触媒金属とカーボンを提供した後にプラズマCVD法を適用してプラズマ分解されたカーボンを基板に提供することで、比較的低温で安定的に、垂直性および直線性が高く、かつ結晶性の高いカーボンナノチューブを成長させることができる。
本発明の製造方法で用いられるプラズマCVD装置を説明した模式図である。 (a)、(b)は順に本発明の製造方法の第1のステップを説明した図であって、(a)は基板上に触媒金属とカーボンが提供された状態を説明する図であり、(b)は基板上で触媒金属とカーボンから金属カーバイドが生成されている状態を説明する図である。 図1で示すプラズマCVD装置内において、基板上にプラズマ分解されたカーボンが提供され、カーボンが触媒金属(金属カーバイド)を起点として基板上で成長してカーボンナノチューブが生成されている状態を説明する図である。 Raman散乱スペクトルにおけるG-band(1590cm-1付近)とD-band(1350cm-1付近)双方のピーク強度とその比(D/G比)を示した図である。 基板の緩衝層を形成するTiと金属カーバイドを形成するNiとCの質量比を変化させた際のRaman散乱スペクトルにおけるG-band(1590cm-1付近)とD-band(1350cm-1付近)双方のピーク強度とその比(D/G比)を示した図である。 図5で示す4種類の金属カーバイドと比較例の金属触媒における、触媒金属に対するカーボンの質量比率(C/Ni比)とD/G比の相関グラフである。 図5、6で示す4種類の金属カーバイドと比較例の金属触媒における成長したカーボンナノチューブを示すFESEM写真図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の製造方法で用いられるプラズマCVD装置を説明した模式図であり、図2a、図2bは順に本発明の製造方法の第1のステップを説明した図であって、図2aは基板上に触媒金属とカーボンが提供された状態を説明する図であり、図2bは基板上で触媒金属とカーボンから金属カーバイドが生成されている状態を説明する図である。さらに、図3は図1で示すプラズマCVD装置内において、基板上にプラズマ分解されたカーボンが提供され、カーボンが触媒金属(金属カーバイド)を起点として基板上で成長してカーボンナノチューブが生成されている状態を説明する図である。
図1で示すプラズマCVD装置10は、チャンバ2と、チャンバ2に連通しながらこの上方に配設されるプラズマ発生部1と、プラズマ発生部1に交流電圧を印加する電源4と、プラズマ発生部1に連通して炭素原料ガスであるメタンガスと他のガスからなる混合ガスを導入する(X1方向)導入管1bと、チャンバ2内から吸引ポンプに通じる排気管2aと、載置台上で基板Wの温度を100〜450℃程度の比較的低温雰囲気で加熱可能なヒータ3とから大略構成されている。
プラズマ発生部1に交流電圧を印加する電源4は、周波数が400kHz〜2.45GHzの範囲、出力が0.1kW〜50kWの範囲で出力プラズマが調整自在となっている。
また、チャンバ2は、0.1〜300Torrの圧力環境に耐え得る真空チャンバである。
基板Wは、シリコン、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、カーボンのいずれかの単一素材か、これらを主成分とする複数素材の合金などから形成された基材W1と、基材W1上で堆積するチタンやバナジウム、クロムのいずれか一種、もしくはこれらのいずれか一種を主成分とする合金や酸化物、窒化物、炭化物からなる緩衝層W2から構成されている。この緩衝層W2により、カーボンナノチューブの成長起点となる触媒金属の活性が低下するのが効果的に抑止され、もってカーボンナノチューブの成長促進を図ることが可能となる。ここで、緩衝層W2は1nm〜500nm程度の厚み範囲で層状に形成できる。
まず、図2aで示すように、シリコン素材の基材W1とその上のチタン素材の緩衝層W2からなる基板W上に、ニッケルやコバルト、鉄のいずれか一種の触媒金属MとカーボンC(カーボン原子もしくはそのクラスター)を提供しておき、そのまま残置しておくことで、図2bで示すように、触媒金属MとカーボンCが相互に引き寄せられ、触媒金属MとカーボンCからなる金属カーバイドCB(ニッケルであればニッケルカーバイド)が生成される(第1のステップ)。
基板W上で金属カーバイドCBが生成されたら、この基板WをプラズマCVD装置10内に載置する。
次いで、電源4を通電してプラズマ発生部1内をプラズマ雰囲気とした状態で、導入管1bより炭素原料ガスであるメタンガスと、エッチングガスである水素ガスと、発光スペクトル取得用のアルゴンガスからなる混合ガスを導入する(X1方向)。
導入された混合ガスは、プラズマ発生部1(プラズマ発生領域)を通過し、マイクロスリット1aを通過して(X2方向)、チャンバ2内に導入される。
このプラズマ発生部1を通過する過程で、メタンガスは炭素と水素、水素イオンなどに分解されてチャンバ2内に導入され、分解された原料炭素が基板W上に提供される。なお、導入されたアルゴンガス等はチャンバ2に設けられた排気管2aを介し吸引ポンプで吸引排気される。
基板Wへの原料炭素の提供により、図3で示すごとく金属カーバイドCBを起点として基板W上でカーボンナノチューブCNTを成長させることができる。
従来の製造方法と異なり、図3で示すようにカーボンナノチューブCNTの成長起点が金属カーバイドCBであることから、100℃〜450℃程度の比較的低温で安定的に、垂直性が高く、かつ結晶性の高いカーボンナノチューブを成長させることができる(第2のステップ)。
[金属カーバイドを形成する触媒金属に対するカーボンの質量比率(C/Ni比)の最適範囲を規定するための実験と、本発明の製造方法で製造されたカーボンナノチューブを観察した結果]
本発明者等は既述する本発明の製造方法を適用してカーボンナノチューブを製造してその成長態様を観察するとともに、金属カーバイドを形成する触媒金属に対するカーボンの質量比率(C/Ni比)の最適範囲を規定するための実験をおこなった。
ここで、本実験結果の説明に先んじて、D/G比とCNTの結晶性に関する相関を説明する。図4は、Raman散乱スペクトルにおけるG-band(1590cm-1付近)とD-band(1350cm-1付近)双方のピーク強度とその比(D/G比)を示した図であり、後述する本実験における実施例2と比較例を取り上げてそれらのD/G比を示したものである。なお、実施例2と比較例は、緩衝層をなすTiと触媒金属であるNiとこれと金属カーバイドを形成するカーボンCの質量比率が相違しており、比較例は従来の製造方法によるものであることから金属カーバイドを形成するカーボンCが存在していない。
Raman散乱スペクトルにおいては、グラフェン面内のsp2結合の伸縮振動に由来するG-band(1590cm-1付近)のピーク強度に対して、グラフェンの欠陥部に由来するD-band(1350cm-1付近)のピーク強度の比(D/G比)の高低を求めることにより、D/G比が低くなるにつれて結晶性が良くなるという相関がある。そして、実施例2のD/G比は1.13、比較例のD/G比は2.96となり、比較例に比して実施例2のCNTの結晶性は格段に高くなっていることが分かる。以下、本実験における実施例と比較例の各CNTの製造方法を概説するとともに図5〜7を参照して実験結果と観察結果を説明する。
(実施例について)
純度99.9999%、厚みが0.3mmで平面の縦横が10mm×10mmのシリコン基材上にチタンからなる緩衝層を形成して基板を形成し、カーボンナノチューブの成長触媒にニッケルを用い、このターゲットブロック上にグラファイトカーボン板をTi:Ni:Cの質量比率が45:45:10(実施例1)、40:40:20(実施例2)、35:35:30(実施例3)、33:33:33(実施例4)の各比率で配置後、60MHzRF電源を用いたスパッタリングによって触媒金属とカーボンを散布した。
ここで、放電条件はアルゴン5Pa中で槽内圧力を10−5Torr、放電電力を250W、放電時間を1分とし、基板温度を室温に調整した。そして、金属触媒とカーボンが散布された基板を図1で示すプラズマCVD装置内にセットし、カーボンソースにメタン、エッチングガスに水素、放電促進ガスにヘリウムを用い(いずれも大陽日酸(株)製で純度G1)、それぞれ50sccm、50sccm、5000sccmのフローレートとして槽内圧力を1atm、プラズマ用マイクロ波(2.45GHz)で入力200W、基板平均温度420℃、成長時間5分の諸条件でCNTをそれぞれ成長させた。各実施例1〜4のD/G比を図5に、成長したカーボンナノチューブのFESEM写真図(電界放射型透過電子顕微鏡写真図)を図7(の左4つの写真図)にそれぞれ示している。
(比較例について)
上記実施例と同様の条件下でCNT成長を試みたが、比較例はその製造過程で触媒金属とカーボンを基板上に散布しないことから、Ti:Ni:Cの質量比率を50:50:0で(比較例)とした。比較例のD/G比を同様に図5に示し、成長したカーボンナノチューブのFESEM写真図を図7(の右端の写真図)に示している。
まず、図7で示す実施例1〜4および比較例の各FESEM写真図より、比較例に比して実施例1〜4の各CNTの垂直性が高いことが確認でき、中でも、実施例1〜3の各CNTは屈曲が少なく、垂直性が極めて高いことが実証されている。これら実施例1〜4の各CNTに比べて、比較例のCNTは屈曲が多く、垂直性が低いことが写真図から明らかである。
また、実施例1〜4および比較例の各D/G比に関し、それぞれの触媒金属に対するカーボンの質量比率(C/Ni比)との関係で各D/G比をプロットし、グラフ化したものを図6に示している。
同図において、比較例(C/Ni比=0)のD/G比は2.96、実施例4(C/Ni比=1)のD/G比は2.92に対して、実施例1〜3のD/G比は1.1〜1.3程度となり、各プロットを同図のようにグラフ化すると、C/Ni比が0.2付近と0.8付近で大きな変曲点を有することが特定される。
この実験結果に基づき、垂直性と直線性に加えて結晶性の極めて良好なCNTの製造に当たり、触媒金属に対するカーボンの質量比率を0.2〜0.8の範囲に調整するのがよいと結論付けることができる。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
1…プラズマ発生部、1a…マイクロスリット、1b…導入管、2…チャンバ、3…ヒータ、4…電源、10…プラズマCVD装置、W…基板、W1…基材、W2…緩衝層、M…触媒金属、C…カーボン、CB…金属カーバイド、CNT…カーボンナノチューブ

Claims (2)

  1. 基材と、該基材上に設けられた、チタン、バナジウム、クロムのいずれか一種、もしくはこれらのいずれか一種を主成分とする合金からなる緩衝層と、から構成される基板上にニッケル、コバルト、鉄のいずれか一種もしくは複数の触媒金属とカーボンを提供して金属カーバイドを生成する第1のステップ、
    プラズマCVD法を適用して、プラズマ分解されたカーボンを基板に提供し、該プラズマ分解されたカーボンを前記金属カーバイドを起点とし、前記基板の温度を100〜450℃の範囲として該基板上で成長させてカーボンナノチューブを製造する第2のステップからなるカーボンナノチューブの製造方法。
  2. 第1のステップにおける基板上の触媒金属に対するカーボンの質量比率が、0.2〜0.8の範囲に調整されている請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
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