以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
<1.本発明に係る光電変換素子>
本発明に係る光電変換素子は、1対の電極間に少なくとも活性層を含む。以下で、本発明に係る光電変換素子の一実施形態を説明する。本実施形態において、活性層は、以下に示す化合物(I)と化合物(II)とを含む。
図1に、本発明に係る一実施形態である光電変換素子100を示す。図1は一般的な有機薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子を表すが、本発明に係る光電変換素子は図1の構造に限られるわけではない。図1の光電変換素子100は、電極120,160と、活性層140とを有する。さらに本実施形態に係る光電変換素子は、図1に示されるように、基板110と、バッファ層130,150と、の少なくとも1つを有してもよい。図1においては、電極120は正孔を捕集する電極(以下、アノードと記載する場合もある)であり、電極160は電子を捕集する電極(以下、カソードと記載する場合もある)である。もちろん、本発明に係る他の実施形態において、アノード120とカソード160とが逆であってもよく、この場合バッファ層130とバッファ層150とが逆であってもよい。以下、これらの各部について説明する。
<1.1 活性層(140)>
本実施形態に係る光電変換素子100の活性層140は、上述のように、以下に示す化合物(I)と化合物(II)とを含む。以下で、化合物(I)及び化合物(II)について詳しく説明する。本実施形態においては、化合物(I)はp型半導体材料であり、化合物(II)はn型半導体材料である。なお、本実施形態において活性層140は、複数種類のp型半導体材料を含んでもよい。同様に、本実施形態において活性層140は、複数種類のn型半導体材料を含んでもよい。
<1.1.1 p型半導体材料である化合物(I)>
本発明に係る光電変換素子の活性層140が含む化合物(I)は、以下の一般式(I)で表される高分子化合物である。
一般式(I)において、X1とX2とはそれぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、水素原子若しくは置換基と結合した窒素原子、又は置換基を有してもよいメチレン基である。X1及びX2はそれぞれ独立して、酸素原子又は置換基を有してもよいメチレン基であることが好ましい。また、化合物(I)は高分子化合物であるため、pは任意の正の整数でありうる。
R1とR2はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい芳香族複素環基、あるいは置換基を有してもよいビニル基である。R1及びR2はアルキル基であることが好ましく、R1とR2とは異なるアルキル基であってもよい。
アルキル基としては、炭素数1〜20であることが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜20であることが好ましく、具体的にはフェニル基等の単環式炭化水素基、フェナントリル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、ペリレニル基等の縮合多環式炭化水素基、ビフェニル基、ターフェニル基等の多環式炭化水素基等が挙げられる。芳香族複素環基としては炭素数2〜20であることが好ましく、具体的にはピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、イミダゾイル基、ピラゾイル基、チエニル基、フリル基、オキサゾール基、チアゾール基、オキサジアゾール基、ピロール基、トリアゾール基、チアジアゾール基などの単環式複素環基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、フラノフリル基、ジベンゾチエニル基、チエノチエニル基、ジベンゾフリル基、フェナントリル基、カルバゾイル基、キノキサリル基、ベンゾキノキサリル基、カルバゾイル基、フェニルカルバゾイル基等の縮合多環式芳香族複素環基、などが挙げられる。
芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、エステル基、カルボキシル基カルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、シアノ基、ニトロ基、フッ化アルキル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、芳香族基等が挙げられる。
X1R1及びX2R2はそれぞれ独立して、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキル基、又は置換基を有してもよいアルキルチオ基であることが好ましい。この場合、アルコキシ基、アルキル基、及びアルキルチオ基の炭素数に特に制限はなく、例えば1以上でもよいが、溶解度などの点でより適した物性を得る観点からは、4以上であることが好ましく、6以上であることがさらに好ましい。また、通常20以下であり、15以下であることが好ましく、12以下であることがさらに好ましい。また、この場合、アルコキシ基、アルキル基、及びアルキルチオ基の炭素鎖は、直鎖でもよいし、分岐鎖であってもよい。
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等が挙げられる。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−オクトキシ基、2−エチルヘキソキシ基、等が挙げられる。アルキルチオ基の具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、i−プロピルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、等が挙げられる。
アルキル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基が有してもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、アリールアミノ基、フッ化アルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、オキシカルボニル基、複素環基などが挙げられる。
Y1とY2とはそれぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、あるいは水素原子若しくは置換基と結合した窒素原子である。Y1及びY2はそれぞれ独立して、酸素原子又は硫黄原子であることが好ましい。
Wは電子吸引基であることが好ましい。Wが電子吸引基であると、化合物(I)のアクセプター性が強くなることにより、化合物(I)のHOMOエネルギー準位が低くなることが期待される。同様の理由により、Zが電子吸引基であることも好ましい。すなわち、WとZとの少なくとも一方が電子吸引基であることが好ましい。Wの具体的な例としては水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ジシアノビニル基、あるいはトリシアノビニル基が挙げられる。Wは、ハロゲン原子又はシアノ基であることが好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
Zの具体的な例としては、置換基を有してもよいカルボニル基、置換基を有してもよいエステル基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい芳香族複素環基、シアノ基、あるいはアミド基が挙げられる。Zは、置換基を有してもよいカルボニル基、又は置換基を有してもよいエステル基であることが好ましい。カルボニル基及びエステル基の炭素数に特に制限はなく、例えば1以上でもよいが、溶解度などの点でより適した物性を得る観点からは、4以上であることが好ましく、6以上であることがさらに好ましい。また、通常20以下であり、15以下であることが好ましく、12以下であることがさらに好ましい。また、この場合、カルボニル基及びエステル基の炭素鎖は、直鎖でもよいし、分岐鎖であってもよい。
カルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、i−プロピルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−へプチルカルボニル基、1−エチルペンチルカルボニル基、等が挙げられる。エステル基としては、例えば、メチルエステル基、エチルエステル基、i−プロピルエステル基、n−プロピルエステル基、n−ブチルエステル基、t−ブチルエステル基、n−ヘキシルエステル基、シクロヘキシルエステル基、n−オクチルエステル基、2−エチルヘキシルエステル基、等が挙げられる。
この化合物(I)は、特に好ましい形態においては、ひとつの繰り返しユニットの中に、電子供与性部位と電子受容性部位とを含むコポリマーである。例えば、X1R1とX2R2との少なくとも一方はアルコキシ基のような電子供与基であることが好ましく、WとZとの少なくとも一方は電子吸引基であることが好ましい。このような化合物においては、従来の有機薄膜太陽電池によく用いられているP3HTのようなホモポリマーに比べて、エネルギーバンドギャップ(Eg)が小さくなることが知られている。化合物(I)のEgは、有する置換基によって少しずつ異なるが、おおむね1.7eV前後である。
波長730nmの光のエネルギーは、およそ1.7eVに相当する。したがって、Egが1.7eVである場合、波長が730nm以下の光を吸収できる可能性がある。P3HTのEgは2.0eV程度と報告されており、これは光の波長に換算すると620nm程度である。したがってP3HTを用いている限りは、波長が620nm以上の光は吸収できないものと考えられる。化合物(I)のようにEgの小さい高分子を用いることにより、P3HTでは利用できない長波長の光を利用することが可能になるものと考えられる。
また、光電変換素子においては、活性層に用いられるp型半導体材料のHOMOエネルギー準位が適当に低い(絶対値の大きいマイナス値である)ことも肝要である。光電変換素子の特性のひとつである開放電圧は、p型半導体のHOMOエネルギー準位とn型半導体のLUMOエネルギー準位との差から決定される。すなわち、p型半導体のHOMOエネルギー準位が不必要に高いと、得られる開放電圧は低くなる。ただし、p型半導体のHOMOエネルギー準位が低すぎると、通常はLUMOエネルギー準位も同時に低くなる。この場合、p型半導体からn型半導体への電子の移動が起こりにくくなるため、短絡電流が低くなる傾向がある。こうした観点から、化合物(I)のHOMOエネルギー準位の好ましい範囲は、真空準位に対して−4.9eVから−5.7eVであり、より好ましくは−4.9eVから−5.4eVである。化合物(I)の好ましい軌道エネルギー準位については、後に詳しく説明する。
HOMOエネルギー準位とLUMOエネルギー準位との算出方法は、理論的に計算値で求める方法と実際に測定する方法が挙げられる。理論的に計算値で求める方法としては、半経験的分子軌道法及び非経験的分子軌道法があげられ、実際に測定する方法としては、紫外可視吸収スペクトル測定法又はサイクリックボルタモグラム測定法等があげられる。その中でも好ましくは、サイクリックボルタモグラム測定法である。本明細書においては、HOMO及びLUMOのエネルギー準位はサイクリックボルタモグラム測定法を用いて測定するものとする。
化合物(I)の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
化合物(I)の置換基は、溶解性、結晶性、製膜性、HOMOエネルギー準位又はLUMOエネルギー準位を制御するために選択することができる。なお、化合物(I)についての合成法、特性などは、Chen,H. et al. Nat.Photonics 2009,3,649、Liang,Y et al. J.Am.Chem.Soc. 2009,131,7792、などの公知文献に記されている。後にも説明するが、これらの記載に従って、様々な化合物(I)を得ることができる。
<1.1.2 n型半導体材料である化合物(II)>
本発明に係る光電変換素子の活性層が含む化合物(II)は、以下の一般式(II)で表されるフラーレン化合物である。
一般式(II)において、qは2以上の整数であり、FLNはフラーレンを表し、C
1及びC
2がそれぞれ結合するフラーレン上の炭素原子は隣接しており、R
3〜R
6はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアミノ基、あるいは置換基を有してもよいアルコキシ基であり、Ar
1は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基である。
本明細書においてフラーレン化合物とは、例えば、置換基を有するフラーレンであるフラーレン誘導体である。一般式(II)において、qは2以上であり、一方、通常10以下、より好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。qが2以上である場合、溶媒への化合物(II)の溶解度が高くなりうる。この場合、素子作製時の製膜性、並びに化合物(II)を含む溶液の保存安定性及び耐久性が向上することが期待される。また、qが2以上である場合、qが0又は1である場合と比べて、LUMOエネルギー準位が高くなることが期待される。この場合開放端電圧が高くなり、光電変換効率が向上することが期待される。
また、qが2以上の場合、化合物(II)には、C1及びC2を含む付加基が付加する位置により、複数の位置異性体が存在しうる。本実施形態において活性層140は、この複数の位置異性体の混合物を含んでもよい。通常はわずかの差ではあるが、それぞれの位置異性体についてLUMOエネルギー準位は異なる。LUMOエネルギー準位が異なる複数種類の化合物(II)を活性層140が含むことにより、化合物(II)間での電荷移動が円滑になりうる。さらには、化合物(I)のようなp型半導体材料から、化合物(II)への電子移動もより円滑に起こりうる。この結果、光電変換効率が向上することが期待され、さらに不純物の混入によってキャリアトラップが生成されることなどによる悪影響が少なくなることが期待される。さらには、p型半導体材料の選択の幅が拡がるものと考えられる。このような効果を向上するためには、活性層140において、それぞれの位置異性体は均一に混じり合っていることが好ましい。
一方、qが10以下であることにより、化合物(II)間の立体障害が小さくなるため、化合物(II)間での電子の移動が起こりやすくなりうる。さらに、LUMOエネルギー準位についても、qが10より大きい場合と比べて低くなるために、電子受容性が向上し、化合物(I)のようなp型半導体材料からの電子移動が起こりやすくなることが期待される。これらの理由により、qが10以下である場合、活性層140の光電変換効率が向上することが期待され、さらに化合物(II)が酸素によって劣化する可能性が低くなって耐久性が良好になることが期待される。
フラーレンFLNに複数の付加基が付加している場合、これらの付加基は全く同一であっても良いし、異なっていてもよい。例えば、それぞれの付加基について、R3〜R6で表される置換基と、Ar1の種類と、Ar1上の置換基の種類と、の少なくとも1つが異なっていてもよい。付加基が付加するフラーレン上の位置、R3〜R6の種類、又はAr1上の置換基の位置により、化合物(II)には様々な異性体が存在しうる。上述のように、活性層140が含む化合物(II)は、単一の異性体で構成されていてもよいし、複数の異性体の混合物であってもよい。上述の理由に加えて、複数の異性体の混合物を用いることは、化合物(II)の合成が容易であること、及び化合物(II)の溶解性が高くなりうるという観点から、好ましい。
本発明に係るフラーレンFLNとは、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンFLNの炭素数は何でもよく、通常は60〜130の偶数である。フラーレンFLNとしては、例えば、C60、C70、C70、C78、C82、C84、C90、C94、C96、及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスターなどが挙げられる。その中でも、C60もしくはC70が好ましく、C60がさらに好ましい。
フラーレンFLNにおいて、フラーレン環上の一部の炭素−炭素結合は切れていてもよい。又、一部の炭素原子が、他の原子に置き換えられていても良い。さらに、金属原子、非金属原子あるいはこれらから構成される原子団が、フラーレンケージ内に内包されていてもよい。また、一般式(II)において、C1及びC2がそれぞれ結合するフラーレン上の炭素原子は隣接している。このような化合物は、合成上入手しやすい。
一般式(II)において、R3〜R6は、それぞれ独立な任意の置換基でありうる。例えばR3〜R6は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアミノ基、あるいは置換基を有してもよいアルコキシ基でありうる。その中でも好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、水酸基、又は置換基を有してもよいアルコキシ基であり、さらに好ましくは水素原子である。R3とR4とがあわせて1つの酸素原子を表してもよい。R5とR6とについても同様である。
R3又はR4と、R5又はR6との間に、C1又はC2を介さない結合が存在する場合もあるが、このような結合は存在しなくてもよい。また、R3〜R6のうちの少なくとも1つと、フラーレンFLN又は芳香族環Ar1を構成する炭素原子との間に、C1又はC2を介さない結合が存在する場合もあるが、このような結合は存在しなくてもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられ、好ましくはフッ素又は塩素である。
アルキル基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、具体例としてはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基など直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
アミノ基としては、炭素数0〜20のものが好ましく、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のアルキルアミノ基や、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾイル基等のアリールアミノ基が挙げられる。
アルキル基、アルコキシ基、及びアミノ基が有してもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、アリールアミノ基、フッ化アルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、オキシカルボニル基、複素環基などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基、炭素数12〜30のアリールアミノ基、炭素数1〜12のフッ化アルキル基、フッ素原子、炭素数1〜10のオキシカルボニル基、シアノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜16のアリールオキシ基、炭素数2〜16のカルボニル基、炭素数2〜20の芳香族複素環基などが挙げられる。
Ar1は任意の芳香族環であり、例えば、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有してもよい芳香族複素環基でありうる。
芳香族炭化水素基としては任意のものでよく、例えば、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基でありうる。芳香族炭化水素基としては、単環式炭化水素基、縮合多環式炭化水素基、多環式炭化水素基等が挙げられる。具体的には、フェニル基等の単環式炭化水素基、フェナントリル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、ペリレニル基等の縮合多環式炭化水素基、ビフェニル基、ターフェニル基等の多環式炭化水素基等が挙げられる。その中でも好ましくは、フェニル基等の単環式炭化水素基、又はナフチル基やアントリル基等の縮合多環式炭化水素基である。より好ましくは、フェニル基又はナフチル基である。
芳香族複素環基としては任意のものでよく、例えば、炭素数2〜20の芳香族複素環基でありうる。芳香族複素環基としては、単環式複素環基あるいは縮合多環式芳香族複素環基等が挙げられる。具体的には、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、イミダゾイル基、ピラゾイル基、チエニル基、フリル基、オキサゾール基、チアゾール基、オキサジアゾール基、ピロール基、トリアゾール基、チアジアゾール基などの単環式複素環基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、フラノフリル基、ジベンゾチエニル基、チエノチエニル基、ジベンゾフリル基、フェナントリル基、カルバゾイル基、キノキサリル基、ベンゾキノキサリル基、カルバゾイル基、フェニルカルバゾイル基等の縮合多環式芳香族複素環基、などが挙げられる。その中でも、ピラジル基、チエニル基、フリル基、チアゾール基、ピロール基、トリアゾール基、及びチアジアゾール基が単環式複素環基の中では好ましく、ベンゾフリル基、フラノフリル基、ベンゾチエニル基、チエノチエニル基、キノキサリル基、及びベンゾキノキサリル基が縮合多環式芳香族複素環基の中では好ましい。その中でも好ましくは、ピラジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、キノキサリル基、又はベンゾキノキサリル基である。
芳香族環Ar1は、さらに置換基を有してもよい。置換基の数の上限は特に無いが、5以下が好ましく、さらに好ましくは3以下である。置換基を複数有する場合、その種類は同一でも良く、異なっていてもよい。
芳香族環Ar1が有する置換基は任意のものでよいが、例えば、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、エステル基、カルボキシル基カルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、シアノ基、ニトロ基、フッ化アルキル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、芳香族基等が挙げられる。
アルキル基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、具体例としてはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アルケニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはビニル基、スチリル基、ジフェニルビニル基等が挙げられる。アルキニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはメチルエチニル基、フェニルエチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。
アルコキシ基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基など直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、具体例としては、フェノキシ基等が挙げられる。アルキルチオ基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。アリールチオ基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、具体例としては、フェニルチオ基等が挙げられる。
アミノ基としては、炭素数0〜20のものが好ましく、具体例としてはメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のアルキルアミノ基や、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾイル基等のアリールアミノ基が挙げられる。シリル基としては、具体例としてはトリメチルシリル基、ジメチルフェニル基、トリフェニルシリル基などの、置換基としてアルキル基とアリール基との少なくとも一方を有するシリル基が挙げられる。ボリル基としては、アリール基で置換されたジメシチルボリル基などが挙げられる。
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニレニル基、トリフェニレン基、アントリル基、ピレニル基、フルオレニル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオランテニル基、ナフタセニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、クオーターフェニル基等の芳香族炭化水素基、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロール基、オキサゾール基、チアゾール基、オキサジアゾール基、チアジアゾール基、ピラジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、イミダゾイル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、フェニルカルバゾイル、フェノキサチエニル基、キサンテニル基、ベンゾフラニル基、チアントレニル基、インドリジニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、キノキサリニル基等の芳香族複素環基、等が挙げられる。好ましくは、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、アントリル基、ピレニル基、フルオレニル基、アセナフテニル基、フルオランテニル基、ペリレニル基、トリフェニレニル基等の芳香族炭化水素基;ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾイル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、キノキサリニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、フェニルカルバゾイル、キサンテニル基、フェノキサジニル基等の芳香族複素環基である。
芳香族環Ar1が有する置換基としてより好ましくは、ハロゲン原子、炭素数1〜14のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数1〜12のフッ化アルキル基、アルコキシ基、エステル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、カルボキシル基、及び芳香族基である。また、後述するように、本発明のフラーレン化合物のLUMOエネルギー準位を調節するためには、芳香族環Ar1は置換基として電子吸引基を有することが好ましい。電子吸引基としては、特段の制限はないが、ハロゲン原子、フッ化アルキル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、シアノ基等が挙げられる。
また、芳香族環Ar1が有する置換基と、Ar1を構成する炭素原子との間で共有結合を形成することにより、又は、芳香族環Ar1が有する置換基同士の間で共有結合を形成することにより、新たな環を形成しても良い。形成する環は、特段の制限はないが、ベンゼン環、ピラジン環、ピリジン環、チオフェン環、及びフラン環等が挙げられる。その中でも好ましくは、ベンゼン環、又はピラジン環である。
さらに、R3〜R6が有する置換基と、芳香族環Ar1が有する置換基との少なくとも1つが、さらに置換基を有してもよい。さらに有してもよい置換基は任意のものでありうるが、例えばアルキル基、アリール基、アリールアミノ基、アルキル基、フッ化アルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、シアノ基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボニル基、オキシカルボニル基、複素環基などが挙げられる。好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基、炭素数12〜30のアリールアミノ基、炭素数1〜12のフッ化アルキル基、フッ素原子、炭素数1〜10のオキシカルボニル基、シアノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜16のアリールオキシ基、炭素数2〜16のカルボニル基、又は炭素数2〜20の芳香族複素環基である。
フラーレン化合物の具体的構造としては、以下のようなものが挙げられる。
上記の具体例において、nは1以上の整数である。上記の具体例では、同一の付加基が1つ以上フラーレンに付加している場合についてのみ例示した。しかしながら、上記の具体例に示される付加基のうち異なる2つ以上が付加しているフラーレン化合物も、化合物(II)の具体例として挙げられる。また、上記の具体例では、付加基が1以上の同一の置換基をさらに有する場合について例示している。しかしながら、上記の具体例に示される付加基がさらに有する置換基のうち、異なる2つ以上を置換基として有する付加基が付加しているフラーレン化合物も、化合物(II)の具体例として挙げられる。さらに、上記の具体例において、フラーレンはC60であるが、フラーレンがC70等の他のフラーレンである化合物も、化合物(II)の具体例として挙げられる。
化合物(II)が有する物性に特段の制限はないが、高い安定性を有し、加熱により付加基が脱離しにくいことが好ましい。この観点から、化合物(II)が分解する温度は、通常250℃以上であり、好ましくは300℃以上である。分解温度は公知の方法で測定すれば良く、たとえば熱重量測定(TGA)や示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)等が挙げられる。
化合物(II)のガラス転移温度としては、特に限定はないが、100℃以上が好ましく、さらに好ましくは150℃以上である。上限は特に限定はなく、通常350℃以下、好ましくは400℃以下であるが、ガラス転移温度が観測されなくてもよい。本明細書におけるガラス転移温度とは、アモルファス状態の固体において、熱エネルギーにより局所的な分子運動が開始される温度であり、比熱が変化する点として定義される。一般的には、化合物がガラス転移温度を超えて加熱されると、固体構造が変化して結晶化が起こる(この時の温度を結晶化温度(Tc)とする)。さらに温度が上がると一般的には、化合物は融点(Tm)で融解し液体状態に変化する。但し、高温となった場合に化合物が分解したり昇華したりすることにより、このような変化が見られないこともある。
ガラス転移温度が高い場合、光電変換素子の作製工程中の温度範囲において化合物(II)がアモルファス状態に安定に保たれうるために、n型半導体としての機能が安定して保たれうる。ガラス転移温度が高いことは、このために、光電変換素子効率が維持又は向上しうるために、好ましい。
ガラス転移温度は公知の方法で測定すれば良く、たとえばDSC法が挙げられる。DSC法とは、JIS K−0129“熱分析通則”に定義された熱物性の測定法(示差走査熱量測定法)である。ガラス転移温度をより明確に決める為には、一度ガラス転移温度以上となるように加熱したサンプルを急冷し、その後にガラス転移温度を測定することが望ましい。本明細書においてはDSC法を用いるものとするが、たとえば示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)などを用いることもできる。
化合物(II)の分解温度とガラス転移温度とが共に高いことが、光電変換素子を作製する際に加熱できる温度の範囲が広くなり、また太陽電池として使用した際の耐久性も高くなることから、好ましい。化合物(II)は、分解温度300℃以上で且つガラス転移温度100℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは分解温度300℃以上で且つガラス転移温度150℃以上である。
化合物(II)の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギー準位には特段制限はない。置換基の種類を含む付加基の構造によってLUMOエネルギー準位は異なるが、例えばサイクリックボルタモグラム測定法により算出される真空準位に対する値は、通常−3.95eV以上、好ましくは−3.85eV以上、さらに好ましくは−3.80eV以上、特に好ましくは−3.75eV以上である。一方、通常−3.30eV以下、好ましくは−3.40eV以下、より好ましくは−3.50eV以下、特に好ましくは−3.64eV以下である。後に詳しく説明するが、LUMOエネルギー準位がこの範囲にあることにより、光電変換素子100の変換効率が向上しうる。
化合物(II)のように、キノジメタン誘導体が2個以上付加されているフラーレン化合物は、1個だけ付加されているフラーレン化合物と比較して、LUMOエネルギー準位が高くなる傾向がある。したがって、Ar1の種類やその置換基によっては該フラーレン化合物のLUMOの値が高くなりすぎることがある。そのため、特に、Ar1がハロゲン原子、シアノ基、エステル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、フッ化アルキル基等の電子吸引基が付加されている芳香族炭化水素基、あるいは芳香族複素環基であることは、化合物(II)のLUMOエネルギー準位は比較的低くなりうるので、より好ましい。
化合物(II)は、分子内極性を有することが好ましい。分子内極性を有する化合物(II)の例として、芳香族環Ar1は、置換基を有する炭素数6〜20の芳香族炭化水素基あるいは置換基を有してもよい芳香族複素環基でありうる。ここで置換基は、電子吸引基又は電子供与基であることが特に好ましい。分子内極性が存在することは、分子全体として電荷が偏っているか、又は分子内に局所的に電荷の偏りが発生していることに相当する。例えば、化合物(II)は双極子モーメントを有することが好ましい。
化合物(II)が分子内極性を有する場合、以下のような利点が得られうる。すなわち、化合物(II)を含む活性層140と、活性層140に隣接する層(例えば電子取り出し層150又は電極160)との間に静電気的な相互作用が生まれることで、界面における密着性が高まると想定される。また、化合物(II)が分子内極性を有する場合、化合物(II)を溶解するために用いる溶媒の種類がより多くなりうる。したがって、化合物(II)を含む活性層140を塗布法により成膜する場合に、より好ましい製膜条件を発見することが容易になりうる。さらには、分子内極性を有する化合物(II)は、分子内極性を有しない場合には通常ほとんど溶解しないアルコールやケトン等の極性溶媒へも、わずかながら溶解しうる。例えば、電子取り出し層材料を極性溶媒に溶解し、活性層140の上に塗布することにより電子取り出し層150を形成する場合、活性層140に含まれる化合物(II)がわずかに溶解することにより、活性層と電子取り出し層との界面における密着性が向上することが期待される。
さらに、化合物(II)が分子内極性を有することは、精製効率の向上にも繋がる。例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製における精製効率が向上しうるため、高純度の化合物(II)がより容易に得られうる。さらには、芳香族環Ar1及びその置換基を適切に選択することにより、化合物(II)の電子構造や化合物(II)間の分子間相互作用を調整することができる。こうして、光電変換素子100の半導体性能を改善すること、及び結晶性や凝集性を調整することによってより安定した膜を製膜することが可能となる。
また、芳香族環Ar1が、置換基を有する炭素数6〜20の芳香族炭化水素基あるいは置換基を有してもよい芳香族複素環基である場合、ヘテロ原子の位置及び置換基の位置に依存するが、化合物(II)にはより多くの位置異性体が存在しうる。より多くの位置異性体の混合物を半導体材料として用いることは、上述のように好ましい。
[フラーレン化合物の製造方法]
化合物(II)の合成方法としては特に制限はないが、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1993,32,78−80、特表平8−505859号公報、Chemical Review 1999,99,3199−3246のような公知文献に記載の方法を参照して、合成することができる。中でも、例えば以下の反応式で示されるフラーレン(A1)とオルトキノジメタン誘導体(A2)とのディールス・アルダー反応によって、化合物(II)を合成することが好ましい。
オルトキノジメタン誘導体(A2)によって化合物(II)に導入される付加基については、逆ディールス・アルダー反応による脱離が起こりにくいために、熱安定性に優れる。したがって、光電変換素子100の作成中又は作成後に加熱を行う場合、より高温の加熱を行ってもこのような化合物(II)は分解しにくい。この結果、より変換性能及び耐久性が向上した光電変換素子が得られることが期待される。
<1.1.3 活性層の構成と構造>
電子供与体(p型半導体)から効率良く電子受容体(n型半導体)へと電子を移動させるためには、p型半導体材料とn型半導体材料との間でのLUMOエネルギー準位の相対関係が重要である。具体的には、p型半導体材料のLUMOエネルギー準位が、n型半導体材料のLUMOエネルギー準位よりも所定のエネルギーだけ高いことが好ましい。言い換えると、p型半導体材料の電子親和力が、n型半導体材料の電子親和力より所定のエネルギーだけ大きいことが好ましい。
n型半導体材料のLUMOエネルギー準位が高すぎると、電子の移動が起こりにくくなるため、光電変換素子100の短絡電流(Jsc)が低くなる傾向がある。一方で光電変換素子100の開放電圧(Voc)はp型半導体材料のHOMOエネルギー準位とn型半導体材料のLUMOエネルギー準位との差で決定される。したがって、n型半導体材料のLUMOが低すぎると、Vocが低くなる傾向がある。すなわち、より高い変換効率を実現するためには、単純にLUMOエネルギー準位が高い、又は低いn型半導体材料を選択すればよいわけではない。
化合物(I)のようなコポリマーにおいては、その置換基を選択することにより、LUMOエネルギー準位を調節することができる。すなわち、コポリマーを構成する2種類のモノマーについて、置換基を変えることにより、様々なエネルギー準位を有する化合物を得ることができる。様々な置換基を有するモノマーを得るためには、例えばエステル化、エーテル化、クロスカップリング等の、周知の技術を用いることができる。
もっとも、好適なp型半導体材料とn型半導体材料との組み合わせは、単純にLUMOエネルギー準位とHOMOエネルギー準位とのみに基づいて決定されるわけではない。例えば、p型半導体材料とn型半導体材料との相互作用により、それぞれの半導体材料の結晶性は変化しうる。すなわち、p型半導体材料とn型半導体材料との組み合わせは、活性層の結晶構造にも影響を与えうる。本発明者は検討の結果、活性層140において化合物(II)と組み合わせる化合物として、高分子化合物(I)が適していることを見出した。
本実施形態に係る光電変換素子100の活性層140は、上述のとおりp型半導体材料である化合物(I)と、n型半導体材料である化合物(II)とを含む。光電変換素子100においては、光が活性層140に吸収され、p型半導体とn型半導体との界面で電荷分離が起こり、発生した正孔と電子とが電極120,160から取り出される。活性層の厚さは特に限定されないが、活性層の厚さは10nm〜1000nmが好ましく、50nm〜250nmがさらに好ましい。活性層の厚さが10nm以上であることで層の均一性が保たれ、短絡を起こしにくくなる。又、活性層の厚さが1000nm以下であることにより、内部抵抗を小さくすることができ、さらに電極間の距離が近くなることにより電荷の拡散を良好にすることができる。
活性層の具体的な構造としては、p型半導体層とn型半導体層とが積層された薄膜積層型、及びp型半導体材料とn型半導体材料とが混合されているバルクヘテロ接合型が挙げられる。薄膜積層型の活性層においては、p型半導体層とn型半導体層との間に、p型半導体材料とn型半導体材料とが混合されている層(i層)を有してもよい。本実施形態に係る光電変換素子100は、中でも、p型半導体材料とn型半導体材料とが混合されているバルクヘテロ接合型の活性層140を有することが好ましい。
バルクヘテロ接合型の活性層には、p型半導体材料とn型半導体材料とが含まれている。活性層内では、p型半導体とn型半導体とが互いに相分離している。活性層が光を吸収すると、これらの相界面で正電荷(正孔)と負電荷(電子)とが分離され、半導体を通って電極へと輸送される。バルクヘテロ接合型の活性層において、その相分離構造は、光吸収過程、励起子の拡散過程、励起子の解離過程(電荷発生過程)、キャリア輸送過程などに対する影響を持つ。したがって、光電変換素子の光電変換効率を高くするためには、活性層におけるp型半導体とn型半導体との間の相分離構造を最適化する必要がある。
活性層の相分離構造を定量的に示すパラメータの1つとして、活性層の表面粗さがある。表面粗さの定義には複数のものが存在するが、実測定から容易に計算できるパラメータとしては、二乗平均粗さ(Rrms)がよく用いられる。Rrmsは、各測定点iにおける試料表面の高さをXi、各測定点iについての試料表面の平均の高さをm、測定点数をnとして次式から計算される。
Rrms=√(Σi(f(xi)-m)2/n)
本明細書においては、10μm四方の領域内の256×256点について試料表面の高さを測定し、上式に従ってRrmsを求める。活性層表面にこの10μm四方の領域を特定の領域に集中しないように10ヶ所設定し、それぞれの領域について求めたRrmsを、本明細書における二乗平均粗さRrmsとする。二乗平均粗さRrmsは、たとえばAFM(原子間力顕微鏡)によって試料表面の高さをマッピングすることにより求めることができる。
p型半導体材料とn型半導体材料との親和性が低く、それぞれが大きなグレイン構造をとる場合、活性層の表面粗さが大きくなる傾向がある。この場合、p型半導体あるいはn型半導体内部で光吸収により発生した励起子が、p型半導体とn型半導体との界面に到達するまでには時間を要する。その結果、励起子が電荷分離をせずに失活する割合が増え、光電変換効率の低下を引き起こす。
一方、p型半導体材料とn型半導体材料との親和性が高い場合には、活性層の表面粗さが小さくなる傾向がある。この場合、光吸収により発生した励起子が電荷分離に至る過程は効率的に進むと考えられる。ところが、p型半導体とn型半導体とのそれぞれが小さなグレイン構造をとる場合、正孔と電子とが電極へと効率的に輸送されないことが考えられる。例えばp型半導体とn型半導体とが完全に交じり合った状態を想定すると、p型半導体とn型半導体との間で発生した正孔と電子のそれぞれについて、電極へと到達するための効率的な輸送経路が形成されているとはいえない。このように、活性層の表面粗さが小さすぎる場合にも、光電変換効率の低下が引き起こされるものと考えられる。
こうした観点から、高い光電変換効率を達成するためには、活性層の表面粗さを一定の範囲内に収めることが望ましい。その範囲は二乗平均粗さ(Rrms)で0.5nm以上かつ5nm以下であり、より好ましくは1nm以上かつ3nm以下である。活性層の表面粗さは例えば、光電変換素子の作製中に活性層を形成した直後に測定してもよいが、本明細書においては、光電変換素子を完成させた後に、電極で覆われていない、すなわち活性層がむき出しになっている部分を用いて測定するものとする。
<1.1.4 活性層の形成方法>
活性層140の形成方法に特に制限はないが、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法等の湿式塗布法等により形成することが好ましい。この場合、半導体材料、すなわち化合物(I)及び化合物(II)が可溶である溶媒を選択し、化合物(I)及び化合物(II)を含む塗布液を作製して、この塗布液を塗布することにより、活性層140が形成される。
溶媒の種類は、半導体材料を均一に溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチルなどのエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類等から選択することができる。
<1.1.5 活性層塗布液への添加剤>
バルクヘテロ接合型の活性層を塗布法によって形成する場合、塗布液に低分子量の化合物を添加することにより、光電変換効率が向上する場合があることが、国際公開第2008/066933号に記載されている。
添加剤により相分離構造が最適化され、光電変換効率が向上するメカニズムとしては、複数の要因が考えられる。本発明者は、添加剤の存在により、p型半導体材料同士あるいはn型半導体材料同士の凝集が抑えられることが、この要因の1つであるものと考えた。すなわち、添加剤がない場合には、活性層塗布液(インク)の溶媒は通常塗布後ただちに揮発する。この際に残留成分として残るp型半導体及びn型半導体は、それぞれ大きな凝集体を形成しうる。このような場合、p型半導体とn型半導体との間の接合面積(界面の面積)が小さくなってしまうため、電荷発生効率は低下しうる。
一方、添加剤を入れたインクを塗布した場合、溶媒が揮発した後もしばらく添加剤が残る。すなわち、p型半導体若しくはn型半導体、又はこれらの双方の周辺に添加剤が存在するため、p型半導体及び/又はn型半導体の凝集が防止されうる。添加剤はインク塗布後、常温常圧下できわめてゆっくりしたスピードで蒸発するものと考えられる。添加剤が蒸発するにつれてp型半導体材料及びn型半導体材料は凝集するものと考えられるが、残っている添加剤が凝集を防止するため、p型半導体材料及びn型半導体材料が形成する凝集体はより小さくなるものと考えられる。この結果活性層内に、p型半導体とn型半導体との接合面積が大きい、より電荷発生効率の高い相分離構造が形成されうる。
上述の作用メカニズムに基づいて本発明者は、添加剤の沸点がその効果に大きな影響を与えるものと考えた。すなわち添加剤は、インクの主溶媒が揮発した後もしばらくの間、活性層に残留することが好ましい。この観点から、添加剤の沸点はインクの主溶媒よりも高いことが好ましい。インクの主溶媒としてよく用いられるクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンの沸点はそれぞれ131℃、181℃であるため、常圧(1000hPa)における添加剤の沸点はこれらよりも十分高いことが好ましい。また、同様の観点から、常温(25℃)において添加剤の蒸気圧はインクの主溶媒の蒸気圧よりも低いことが好ましい。
一方、添加剤の沸点が高すぎると、光電変換素子作製後も活性層から完全に抜けることなく、活性層内部にとどまる添加剤の量が増えることが想定される。このような場合、不純物が増えることにより、移動度の低下、すなわち光電変換効率の低下が引き起こされることが考えられる。したがって添加剤の沸点が高すぎないこともまた好ましい。
上記の観点から、常圧における添加剤の沸点は、200℃以上が好ましく、250℃以上がさらに好ましい。また、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがさらに好ましい。添加剤の沸点が低すぎると、インクの乾燥時に特に化合物(II)の凝集が起こりやすくなり、表面が凹凸になりうる。また、添加剤は常温(25℃)で液体であることが、インク作製を容易にする点で好ましい。添加剤が常温で固体の場合、インク作製時に添加剤を主溶媒に溶解させるのが困難であったり、あるいは溶解できたとしても長い攪拌時間を要したりすることが考えられる。しかしながら添加剤が液体であれば、このような懸念は必要ない。
もっとも、相分離構造を最適化するためには、添加剤の沸点だけではなく、用いるp型半導体材料及びn型半導体材料との添加剤の相性も重要である。すなわち、添加剤はp型半導体材料及びn型半導体材料と相互作用しうるため、例えば添加剤の構造によって、p型半導体材料及びn型半導体材料の結晶性が変化しうる。
例えば、有機薄膜太陽電池用のn型半導体材料としてもっとも一般的なPCBMを用いる場合と、本実施形態に係る化合物(II)を用いる場合とでは、効果的な添加剤の種類が異なることを、本発明者は見出した。例えば、PCBMを用いる場合にはジヨードオクタンのようなヨード基を含む置換アルカンが効果的な添加剤として作用するのに対して、ヨード基を含む置換アルカンは、化合物(II)を用いる場合には必ずしも最良の添加剤ではない。本発明者は、化合物(I)及び化合物(II)を含む活性層を形成する場合には、添加剤のひとつとして、例えばオクタンジチオールのようなチオール基を含む置換アルカンが効果的であることを見出した。
添加剤の例としては、置換基を有するアルカン、置換基を有するナフタレンのような芳香族化合物などが挙げられる。置換基としては、アルデヒド基、オキソ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、チオール基、チオアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アミン基、アミド基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、ハロゲン基、ニトリル基、エポキシ基、芳香族基及びアリールアルキル基などである。置換基は1つでもよいし、複数、例えば2つでもよい。アルカンが有する置換基として好ましくは、チオール基又はヨード基である。また、ナフタレンのような芳香族化合物が有する置換基として好ましくは、ブロモ基又はクロロ基である。添加剤は上述のように沸点が高いことが好ましいため、アルカンの炭素数は6以上が好ましく、8以上がさらに好ましい。また添加剤は上述のように常温で液体であることが好ましいため、アルカンの炭素数は14以下が好ましく、12以下がさらに好ましい。
インク(活性層塗布液)に含まれる添加剤の量は、インク全体に対して0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。また、インク全体に対して10重量%以下が好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。添加剤の量がこの範囲にあることにより、活性層内に残留する添加剤を減らしながら、好ましい相分離構造を得ることができる。
以上のように、化合物(I)と、化合物(II)と、添加剤とを含むインク(塗布液)を塗布すること、すなわち塗布法によって、本実施形態に係る光電変換素子100の活性層140を形成することができる。
<1.2 電極(120,160)>
本実施形態に係る電極120,160は、活性層140が光を吸収することにより生じた正孔又は電子を捕集する機能を有する。したがって、一方の電極120は、正孔の捕集に適した電極であることが好ましく、他方の電極160は、電子の捕集に適した電極であることが好ましい。
一対の電極120,160は、少なくとも一方が透光性であることが好ましく、両方が透光性であってもよい。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを意味する。また、透光性のある電極は、太陽光が70%以上透過することが、透明電極を透過させて活性層140に光を到達させるためには、好ましい。なお、光の透過率は通常の分光光度計で測定可能でき、例えば可視光線(400nm〜760nm)についての平均透過率でありうる。
以下に、電極120,160の材料について具体的な例を挙げる。もっとも、電極120と電極160との少なくとも一方は、複数の材料によって構成されていてもよく、例えば2層以上の積層構造によって構成されていてもよい。また、以下で挙げる材料に対して表面処理を行うことにより、特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。
<1.2.1 正孔の捕集に適した電極(アノード)120>
正孔の捕集に適した電極(アノード)とは一般には、仕事関数がカソードよりも高い値を示す導電性材料で構成された電極である。このようなアノード120は、活性層140で発生した正孔をスムーズに取り出すことができる。
アノード120の材料を挙げると、例えば、酸化ニッケル,酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、インジウム−ジルコニウム酸化物(IZO)、酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物;金、白金、銀、クロム、コバルトなどの金属あるいはその合金が挙げられる。これらの物質は高い仕事関数を有するため、好ましい。またこれらの物質は、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT/PSSで代表されるような導電性高分子材料を積層することができるため、好ましい。例えば、アノード120と活性層140との間に、このような導電性高分子で構成されるバッファ層130を設けることができる。このように導電性高分子を積層する場合、この導電性高分子材料の仕事関数が高いことから、上記のような高い仕事関数を有する材料の代わりに、アルミニウムやマグネシウム等のカソードに適した金属も広く用いることが可能である。
また、導電性高分子材料自体をアノード120の材料として使用することもできる。導電性高分子材料としては、上述のPEDOT/PSSや、ポリピロール及びポリアニリンなどにヨウ素などをドーピングすることによって得られる材料などが挙げられる。
また、アノード120が透明電極である場合には、ITO、酸化亜鉛、酸化錫等の透光性がある導電性金属酸化物をアノード120の材料として用いることが好ましく、特にITOを用いることが好ましい。
アノード120の膜厚は特に制限は無いが、10nm以上10μm以下、好ましくは20nm以上1μm以下、さらに好ましくは、50nm以上500nm以下である。アノード120の膜厚が薄すぎるとシート抵抗が高くなり、厚すぎると光透過率が低下する。アノード120が透明電極である場合、高い光透過率と低いシート抵抗との双方が得られるように、膜厚を選択することが好ましい。アノードのシート抵抗120には、特段の制限はないが、通常1Ω/□以上であり、一方、1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。より大きな電流を取り出す観点から、シート抵抗は小さいことが好ましい。
アノード120の形成方法は、蒸着及びスパッタ等の真空成膜方法、並びに、ナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する方法などがある。ここで前駆体とは、塗布後に変換処理を行うことによりアノード120として適した材料へと変換される化合物のことである。
<1.2.2 電子の捕集に適した電極(カソード)160>
電子の捕集に適した電極(カソード)とは一般には、仕事関数がアノードよりも高い値を示す導電性材料で構成された電極である。このようなカソード160は、活性層140で発生した電子をスムーズに取り出すことができる。
カソード160の材料の例としては、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム及びマグネシウムなどの金属及びその合金;フッ化リチウム、フッ化セシウムなどの無機塩;酸化ニッケル,酸化アルミニウム、酸化リチウム及び酸化セシウムのような金属酸化物などが挙げられる。これらの材料は低い仕事関数を有する材料であるため、カソード160の材料として好ましい。
また、カソード160についてもアノード120と同様に、カソード160と活性層140との間に、バッファ層150を設けることができる。例えばバッファ層130としてチタニアのようなn型半導体で導電性を有するものを用いる場合、カソード160の材料として、高い仕事関数を有する材料も用いることができる。電極保護の観点からは、カソード160の材料として好ましくは、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、カルシウム及びインジウムなどの金属、又はこれらの金属を用いた合金である。
カソード160の膜厚は特に制限は無いが、10nm以上10μm以下、好ましくは20nm以上1μm以下、さらに好ましくは、50nm以上500nm以下である。カソード160の膜厚が薄すぎるとシート抵抗が高くなり、厚すぎると光透過率が低下する。カソード160が透明電極である場合、高い光透過率と低いシート抵抗との双方が得られるように、膜厚を選択することが好ましい。カソード160のシート抵抗に特に制限は無いが、1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。下限に制限は無いが、通常は1Ω/□以上である。より大きな電流を取り出す観点から、シート抵抗は小さいことが好ましい。
カソード160の形成方法には、蒸着及びスパッタ等の真空成膜方法、並びに、ナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する方法などがある。
<1.3 バッファ層(130,150)>
本実施例に係る光電変換素子100は、1対の電極120,160、及びその間に配置された活性層140の他に、さらに1以上のバッファ層を有することができる。バッファ層は、正孔取り出し層130と電子取り出し層150とに分類することができる。通常、正孔取り出し層130は活性層140とアノード120との間に配置され、電子取り出し層150は活性層140とカソード160との間に配置される。
<1.3.1 正孔取り出し層(130)>
正孔取り出し層130の材料は、活性層140からアノード120への正孔の取り出し効率を向上させうる材料であれば特に限定されない。具体的には、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミンポリピロール及びポリアニリンなどに、スルフォン酸とヨウ素との少なくとも一方などのドーピング材料をドーピングした導電性ポリマーが挙げられる。その中でも、好ましくは、スルフォン酸をドーピングした導電性ポリマーであり、より好ましくは、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT/PSSである。
また、金、インジウム、銀、パラジウム等の金属等の薄膜も、正孔取り出し層130として使用することができる。金属などの薄膜は、単独で正孔取り出し層130として用いてもよい。また、金属などの薄膜と上記の導電性ポリマーとを組み合わせて、正孔取り出し層130として用いることもできる。
正孔取り出し層の膜厚は特に限定はないが、通常10nm以上、好ましくは30nm以上であり、通常200nm以下である。薄すぎると均一性が十分ではなく短絡を起こしやすい傾向があり、厚すぎると抵抗値が増え、正孔を取り出しにくくなる傾向がある。
<1.3.2 電子取り出し層(150)>
電子取り出し層150の材料は、活性層140からカソード160へ電子の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。電子取り出し層材料には大きくわけて無機化合物と有機化合物とがあるが、電子取り出し層としては、どちらかの材料のみを用いてもよいし、双方の材料を用いてもよい。例えば、無機化合物層と有機化合物層との積層体を、電子取り出し層150として用いてもよい。
電子取り出し層として用いられる無機化合物材料としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属の塩、並びに、酸化チタン(TiOx)や酸化亜鉛(ZnO)のようなn型の酸化物半導体化合物が望ましい。アルカリ金属の塩としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのようなフッ化物塩が望ましい。このような材料が望ましい理由の1つとしては、アルミニウム等のカソードと組み合わせられた際に、カソードの仕事関数を小さくし、太陽電池素子内部に印加される電圧を上げることが考えられる。
アルカリ金属塩を電子取り出し層150の材料として用いる場合、真空蒸着、スパッタ等の真空成膜方法を用いて電子取り出し層150を成膜することが可能である。中でも、抵抗加熱による真空蒸着によって、電子取り出し層150を形成するのが望ましい。真空蒸着を用いることにより、活性層140などの他の層へのダメージを小さくすることができる。この場合の膜厚は、通常0.1nm以上であり、一方、通常50nm以下、好ましくは20nm以下である。電子取り出し層150が薄すぎると、電子の取り出し効率を向上させる効果が十分でなくなり、厚すぎると、電子取り出し層150が直列抵抗成分として作用することにより素子の特性を損なう傾向がある。
酸化チタンTiOxを電子取り出し層150の材料として用いる場合、スパッタ法等の真空成膜方法を用いて電子取り出し層150を成膜することが可能である。しかしながら、塗布法を用いて成膜することがより望ましい。例えば、Adv.Mater.18,572(2006)に記載されているゾルゲル法に従って、酸化チタンで構成される電子取り出し層150を形成できる。膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上であり、通常1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。電子取り出し層150が薄すぎると、電子の取り出し効率を向上させる効果が十分でなくなり、厚すぎると、電子取り出し層150が直列抵抗成分として作用することにより素子の特性を損なう傾向がある。
酸化亜鉛ZnOを電子取り出し層150の材料として用いる場合も、スパッタ法等の真空成膜方法を用いることもできるが、塗布法を用いて電子取り出し層150を成膜することが望ましい。例えば、Sol−Gel Science、C.J.Brinker,G.W.Scherer著、Academic Press(1990)に記載のゾルゲル法に従って、酸化亜鉛で構成される電子取り出し層150を形成できる。膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは5nm以上であり、通常1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。電子取り出し層150が薄すぎると、電子の取り出し効率を向上させる効果が十分でなくなり、厚すぎると、電子取り出し層150が直列抵抗成分として作用することにより素子の特性を損なう傾向がある。
電子取り出し層150として用いられる有機化合物材料としては、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ホスフィンオキシド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、などが挙げられる。また、上記のような有機化合物材料に対して、アルカリ金属又はアルカリ土類金属などの金属をドープしてもよい。
電子取り出し層150に使用される有機化合物のガラス転移温度としては、特に限定はないが、50℃以上が好ましく、さらに好ましくは80℃以上である。上限は特に限定はないが、DSC法によるガラス転移温度が300℃以下に観測されなくてもよい。ガラス転移温度が低すぎる場合、化合物は、印加される電場、流れる電流、曲げや温度変化による応力などの外部ストレスに対して構造が変化しやすい。従って、光電変換素子100の耐久性が低下する可能性がある。また、ガラス転移温度が低すぎる場合、化合物薄膜の結晶化が進みやすい。すなわち、光電変換素子100の使用温度範囲において、化合物がアモルファス状態と結晶状態との間で変化する可能性がある。この場合、電子取り出し層150としての安定性がなくなるため、光電変換素子100の耐久性が低下する可能性がある。
有機化合物を電子取り出し層150として用いる場合、電子取り出し層150の厚さは、通常0.5nm以上、より好ましくは1nm以上であり、通常1μm以下、より好ましくは100nm以下である。電子取り出し層150が薄すぎると、電子の取り出し効率を向上させる効果が十分でなくなり、厚すぎると、電子取り出し層150が直列抵抗成分として作用することにより素子の特性を損なう傾向がある。
複数の材料を用いて電子取り出し層150を形成する場合、電子取り出し層150の全体の厚さは、通常0.1nm以上、より好ましくは0.2nmであり、通常100nm以下、より好ましくは60nm以下である。電子取り出し層150が薄すぎると、電子の取り出し効率を向上させる効果が十分でなくなり、厚すぎると、電子取り出し層150が直列抵抗成分として作用することにより素子の特性を損なう傾向がある。
<1.3.3 バッファ層の形成方法>
バッファ層130,150の形成方法に制限はない。いくつかの材料の成膜方法については上述したが、一般的に、昇華性を有する材料を用いる場合には真空蒸着法等の真空成膜方法等を用いることができる。また、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコートやインクジェット等の湿式塗布法等を用いることができる。
<1.4 基板(110)>
本実施形態に係る光電変換素子100は、通常は支持体となる基板110を有する。すなわち、基板上100に、電極120,160と、活性層140と、バッファ層130,150とが形成される。基板110の材料(基板材料)は本実施形態の効果を著しく損なわない限り任意である。基板材料の好適な例を挙げると、石英、ガラス、サファイア、チタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレン等のポリオレフィン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、エポキシ樹脂等の有機材料;紙、合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート或いはラミネートしたもの等の複合材料等が挙げられる。ガラスとしてはソーダガラスや青板ガラスや無アルカリガラスなどが挙げられる。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。
基板の形状に制限はなく、例えば、板、フィルム、シート等の形状を用いることができる。基板の厚みに制限はない。ただし、通常5μm以上、中でも20μm以上、また、通常20mm以下、中でも10mm以下に形成することが好ましい。基板が薄すぎると光電変換素子の強度が不足する可能性があり、基板が厚すぎるとコストが高くなったり重量が重くなりすぎたりする可能性がある。又、基板がガラスの場合は、薄すぎると機械的強度が低下し、割れやすくなるため、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.1mm以上がよい。また、厚すぎると重量が重くなるため、10mm以下が好ましく、5mm以下がさらに好ましい。
<1.5 光電変換素子100の製造方法>
本実施形態に係る光電変換素子100は、上述したような方法で、基板110上に、電極120、活性層140、及び電極160を順次形成することによって形成することができる。バッファ層130,150を設ける場合には、基板110上に、電極120、バッファ層130、活性層140、バッファ層150、及び電極160を順次形成すればよい。
さらには、基板110上に、少なくとも電極120、活性層140、及び電極160を順次形成することによって得られる積層体に対して、加熱処理(アニール処理)を行うことが好ましい。アニール処理を行うことにより、光電変換素子100の熱安定性や耐久性等が向上することがある。アニール処理によって各層間の密着性が向上しうることが、この理由の1つとして考えられる。加熱温度は、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。また、加熱温度は通常50℃以上、好ましくは80℃以上である。温度が低すぎると、密着性の向上が十分に得られない可能性がある。また、温度が高すぎると例えば活性層140に含まれる化合物が熱分解してしまう可能性がある。なお、アニール処理には複数の温度での加熱が含まれていてもよい。
加熱する時間としては、通常1分以上、好ましくは3分以上、一方、通常3時間以下、好ましくは1時間以下である。アニール処理は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流、及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニール処理は常圧下で行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気中で実施することも好ましい。
[2. 本発明に係る太陽電池]
本発明に係る光電変換素子は、太陽電池素子として使用されることが好ましい。特に、本発明に係る光電変換素子は、太陽電池(又は太陽電池モジュール)における太陽電池素子として使用されることが好ましい。さらに、本発明に係る光電変換素子は、薄膜太陽電池における太陽電池素子として使用されることが好ましい。本発明に係る光電変換素子を含む太陽電池は、任意の方法を用いて作製することができる。例えば周知の技術に従って、本発明に係る光電変換素子の表面を適切な保護材で覆うことにより、太陽電池を作製することができる。
以下に、本発明に係る光電変換素子を含む太陽電池について、その好適な実施形態の一例を説明する。図2は本発明に係る一実施形態としての薄膜太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。図2に示される薄膜太陽電池は、本発明に係る太陽電池の一例に過ぎない。本発明に係る太陽電池が、図2に示されるのとは異なる構成をとりうることは、当業者には明らかであろう。例えば、図2に示される構成要素の一部は存在しなくてもよいし、同種の働きを有する別の要素で置き換えられてもよい。また、さらなる構成要素が、図2に示される太陽電池に対して追加されてもよい。
図2に示すように、本実施形態の薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10とをこの順に備えている。そして、耐候性保護フィルム1が形成された側(図中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシートなど防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及びガスバリアフィルム9の少なくとも一方を用いなくてもよい。
<2.1 耐候性保護フィルム(1)>
耐候性保護フィルム1は天候変化から太陽電池素子6を保護するフィルムである。太陽電池素子6の構成部品のなかには、温度変化、湿度変化、自然光、風雨による侵食などにより劣化するものがある。そこで、耐候性保護フィルム1で太陽電池素子6を覆うことにより、太陽電池素子6等を天候変化などから保護し、発電能力を高く維持するようにしている。
耐候性保護フィルム1は、薄膜太陽電池14の最表層に位置するため、耐候性、耐熱性、透明性、撥水性、耐汚染性及び機械強度などの、薄膜太陽電池14の表面被覆材として好適な性能を備え、しかもそれを屋外暴露において長期間維持する性質を有することが好ましい。
また、耐候性保護フィルム1は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%が特に好ましい。光の透過率を高くすることにより、薄膜太陽電池14の発電効率を高めることができる。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、耐候性保護フィルム1も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、耐候性保護フィルム1の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい、また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に耐候性保護フィルム1が融解・劣化する可能性を低減できる。
耐候性保護フィルム1を構成する材料は、天候変化から太陽電池素子6を保護することができるものであれば任意である。その材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリル系樹脂、各種ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド−イミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、シリコン系樹脂及びポリカーボネート樹脂などが挙げられる。中でもフッ素系樹脂が好ましく、その具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体(PFA)、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体(FEP)、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ3−フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
なお、耐候性保護フィルム1は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、耐候性保護フィルム1は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
耐候性保護フィルム1の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを10μm以上とすることで機械的強度が高まる傾向にあり、200μm以下とすることで柔軟性が高まる傾向にある。
また耐候性保護フィルム1には、他のフィルムとの接着性の改良のために、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を行なってもよい。
耐候性保護フィルム1は、薄膜太陽電池14においてできるだけ外側に設けることが好ましい。薄膜太陽電池14の構成部材のうちより多くのものを保護できるようにするためである。
<2.2 紫外線カットフィルム(2)>
紫外線カットフィルム2は紫外線の透過を防止するフィルムである。薄膜太陽電池14の構成部品のなかには紫外線により劣化するものがある。また、ガスバリアフィルム3,9などは種類によっては紫外線により劣化するものがある。そこで、紫外線カットフィルム2を薄膜太陽電池14の受光部分に設け、紫外線カットフィルム2で太陽電池素子6の受光面6aを覆うことにより、太陽電池素子6及び必要に応じてガスバリアフィルム3,9等を紫外線から保護し、発電能力を高く維持することができるようになっている。
紫外線カットフィルム2に要求される紫外線の透過抑制能力の程度は、紫外線(例えば、波長300nm)の透過率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下が特に好ましい。紫外線の透過を抑えることにより、薄膜太陽電池14の劣化を防ぐことができる。
また、紫外線カットフィルム2は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上が特に好ましい。透過率が高いことにより、より多くの太陽光を電気へと変換することができる。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、紫外線カットフィルム2も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、紫外線カットフィルム2の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下が特に好ましい。融点を100℃以上とすることにより、薄膜太陽電池14の使用時に紫外線カットフィルム2が融解するのを防ぐことができる。
また、紫外線カットフィルム2は、柔軟性が高く、隣接するフィルムとの接着性が良好であり、水蒸気や酸素をカットしうるものが好ましい。紫外線カットフィルム2を構成する材料は、紫外線の強度を弱めることができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系及びエステル系の樹脂に紫外線吸収剤を配合して成膜したフィルムなどが挙げられる。
また、紫外線吸収剤を樹脂中に分散又は溶解させたものの層(以下、適宜「紫外線吸収層」という)を基材フィルム上に形成したフィルムを用いても良い。紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系及びシアノアクリレート系のものを用いることができる。中でもベンゾフェノン系及びベンゾトリアゾール系が好ましい。この例としては、ベンゾフェノン系及びベンゾトリアゾール系の種々の芳香族系有機化合物などが挙げられる。なお、紫外線吸収剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記したように、紫外線吸収フィルムとしては紫外線吸収層を基材フィルム上に形成したフィルムを用いることもできる。このようなフィルムは、例えば、紫外線吸収剤を含む塗布液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させることで作製できる。基材フィルムの材質は特に限定されないが、耐熱性、柔軟性のバランスが良好なフィルムが得られる点で、例えばポリエステルが挙げられる。
塗布は任意の方法で行うことができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法及びカーテンコート法などが挙げられる。また、これらの方法は1種を単独で行なってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行うこともできる。
塗布液に用いる溶剤は、紫外線吸収剤を均一に溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。例えば液状の樹脂を溶剤として用いることができ、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系及びポリスチレン系などの各種合成樹脂などが挙げられる。また、例えば、ゼラチン及びセルロース誘導体などの天然高分子、水並びに水とエタノール等のアルコール混合溶液なども溶剤として用いることができる。さらに、溶剤として有機溶剤を使用してもよい。有機溶剤を使用すれば、色素や樹脂を溶解又は分散させることが可能となり、塗工性を向上させることが可能となる。なお、溶剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
塗布液にはさらに界面活性剤も含有させてもよい。界面活性剤の使用により、紫外線吸収色素の樹脂への分散性が向上する。これにより、紫外線吸収層において、微小な泡によるヌケ、異物などの付着による凹み、乾燥工程でのハジキなどの発生が抑制される。界面活性剤としては、公知の界面活性剤(カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤)を用いることができる。中でも、シリコン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が好ましい。なお、界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なお、塗布液を基材フィルムに塗布した後の乾燥は、例えば、熱風乾燥及び赤外線ヒーターによる乾燥など、公知の乾燥方法が採用できる。中でも、乾燥速度が速い熱風乾燥が好適である。紫外線カットフィルム2の具体的な商品の例を挙げると、カットエース(MKVプラスティック株式会社)などが挙げられる。なお、紫外線カットフィルム2は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。また、紫外線カットフィルム2は単層フィルムにより形成されていても良いが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
紫外線カットフィルム2の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを5μm以上とすることで紫外線の吸収が高まりかつ機械的強度が高まる傾向にあり、200μm以下とすることで可視光の透過率を増加させかつ柔軟性が増す傾向にある。
紫外線カットフィルム2は、太陽電池素子6の受光面6aの少なくとも一部を覆う位置に設ければよいが、好ましくは太陽電池素子6の受光面6aの全てを覆う位置に設ける。ただし、太陽電池素子6の受光面6aを覆う位置以外の位置にも紫外線カットフィルム2が設けられていてもよい。
<2.3 ガスバリアフィルム(3)>
ガスバリアフィルム3は水及び酸素の透過を防止するフィルムである。太陽電池素子6は湿気及び酸素に弱い傾向があり、特に、ZnO:Al等の透明電極や、太陽電池素子の活性層が水分及び酸素により劣化することがある。そこで、ガスバリアフィルム3で太陽電池素子6を被覆することにより、太陽電池素子6を水及び酸素から保護し、発電能力を高く維持することができる。
ガスバリアフィルム3に要求される防湿能力の程度は、例えば、単位面積(1m2)の1日あたりの水蒸気透過率が、1×10−1g/m2/day以下であることが好ましく、1×10−2g/m2/day以下であることがより好ましく、1×10−3g/m2/day以下であることが更に好ましく、1×10−4g/m2/day以下であることが中でも好ましく、1×10−5g/m2/day以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6g/m2/day以下であることが特に好ましい。水蒸気が透過しなければしないほど、水分と反応することによる太陽電池素子6の劣化、特に活性層及び電極の劣化が抑えられるので、発電効率が上がると共に寿命が延びる。
ガスバリアフィルム3に要求される酸素透過性の程度は、例えば、単位面積(1m2)の1日あたりの酸素透過率が、1×10−1cc/m2/day/atm以下であることが好ましく、1×10−2cc/m2/day/atm以下であることがより好ましく、1×10−3cc/m2/day/atm以下であることが更に好ましく、1×10−4cc/m2/day/atm以下であることが中でも好ましく、1×10−5cc/m2/day/atm以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6cc/m2/day/atm以下であることが特に好ましい。酸素が透過しなければしないほど、酸素と反応することによる太陽電池素子6の劣化、特に活性層及び電極の劣化が抑えられるので、発電効率が上がると共に寿命が延びる。
従来はこのように高い防湿及び酸素遮断能力を有するガスバリアフィルム3の実装が困難であったため、有機太陽電池素子のように優れた太陽電池素子を備えた太陽電池を実現することが困難であったが、このようなガスバリアフィルム3を適用することにより、有機太陽電池素子の優れた性質を活かした薄膜太陽電池14を実現することが容易となる。
また、ガスバリアフィルム3は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、好ましくは70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、とりわけ好ましくは90%以上が特に好ましく、95%以上が中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、ガスバリアフィルム3も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ガスバリアフィルム3の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を100℃以上とすることで薄膜太陽電池14の使用時にガスバリアフィルム3が融解・劣化する可能性を低減できる。
ガスバリアフィルム3の具体的な構成は、太陽電池素子6を水から保護できる限り任意である。ただし、ガスバリアフィルム3を透過しうる水蒸気や酸素の量を少なくできるフィルムほど製造コストが高くなるため、これらの点を総合的に勘案して適切なものを使用することが好ましい。
以下、ガスバリアフィルム3の構成について、例を挙げて説明する。ガスバリアフィルム3の構成として好ましいものは2例が挙げられる。一つ目の例は、プラスチックフィルム基材に無機バリア層を配置したフィルムである。この際、無機バリア層は、プラスチックフィルム基材の片面のみに形成してもよいし、プラスチックフィルム基材の両面に形成してもよい。両面に形成するときは、両面に形成する無機バリア層の数が、それぞれ一致していていもよく、異なっていてもよい。
二つ目の例は、プラスチックフィルム基材に、無機バリア層とポリマー層とが互いに隣接して配置された2層からなるユニット層が形成されたフィルムである。この際、無機バリア層とポリマー層とが互いに隣接して配置された2層からなるユニット層を1単位として、1単位のユニット層を、プラスチックフィルム基材上に形成してもよい(無機バリア層1層とポリマー層1層とを合わせて1単位のユニット層と呼ぶ)また、2単位以上のユニット層をプラスチックフィルム基材上に形成してもよく、例えば2〜5単位のユニット層を積層してもよい。
ユニット層は、プラスチックフィルム基材の片面のみに形成してもよいし、プラスチックフィルム基材の両面に形成してもよい。両面に形成するときは、両面に形成する無機バリア層及びポリマー層の数が、それぞれ一致していていもよく、異なっていてもよい。また、プラスチックフィルム基材上にユニット層を形成する場合、無機バリア層を形成してからその上にポリマー層を形成してもよいし、ポリマー層を形成してから無機バリア層を形成してもよい。
(プラスチックフィルム基材)
ガスバリアフィルム3に使用されるプラスチックフィルム基材は、上記の無機バリア層及びポリマー層を保持しうるフィルムであれば特に制限はなく、ガスバリアフィルム3の使用目的等から適宜選択することができる。
プラスチックフィルム基材の材料の例を挙げると、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂及びアクリロイル化合物が挙げられる。また、スピロビインダン及びスピロビクロマンを含む縮合ポリマーを用いるのも好ましい。ポリエステル樹脂の中でも、二軸延伸を施したポリエチレンテレフタレート(PET)及び同じく二軸延伸したポリエチレンナフタレート(PEN)は、熱的寸度安定性に優れるため、プラスチックフィルム基材として好ましく用いられる。なおプラスチックフィルム基材の材料は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
プラスチックフィルム基材の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、好ましくは20μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
プラスチックフィルム基材は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上がその中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
プラスチックフィルム基材には、無機バリア層との密着性向上のため、アンカーコート剤の層(アンカーコート層)を形成してもよい。通常、アンカーコート層はアンカーコート剤を塗布して形成される。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂及びイソシアネート含有樹脂並びにこれらの共重合体などが挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の1種類以上と、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂及びイソシアネート基含有樹脂の1種類以上とを組み合わせたものが好ましい。なお、アンカーコート剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
アンカーコート層の厚さは、通常0.005μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、通常5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。この範囲の上限値以下の厚さであれば滑り性が良好であり、アンカーコート層自体の内部応力によるプラスチックフィルム基材からの剥離もほとんどない。また、この範囲の下限値以上の厚さであれば、均一な厚さを保つことができ好ましい。
また、プラスチックフィルム基材へのアンカーコート剤の塗布性、接着性を改良するため、アンカーコート剤の塗布前に、プラスチックフィルム基材に通常の化学処理、放電処理などの表面処理を施してもよい。
(無機バリア層)
無機バリア層は通常は金属酸化物、窒化物又は酸化窒化物により形成される層である。なお、無機バリア層を形成する金属酸化物、窒化物及び酸化窒化物は、1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。金属酸化物としては、例えば、Si、Al、Mg、In、Ni、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce及びTa等の酸化物、窒化物並びに酸化窒化物などが挙げられる。中でも、高いバリア性と高透明性とを両立させるために、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含むことが好ましく、特に水分の透過性、光線透過性の観点から、酸化ケイ素を含むことが好ましい。
各々の金属原子と酸素原子との比率も任意であるが、無機バリア層の透明度を向上させ着色を防ぐためには、酸素原子の比率が酸化物の化学量論的な比率から極端に少なくないことが好ましい。一方、無機バリア層の緻密性を向上させバリア性を高くするためには、酸素原子を少なくすることが好ましい。この観点から、例えば金属酸化物としてSiOxを用いる場合には前記xの値は1.5〜1.8が特に好ましい。また、例えば金属酸化物としてAlOxを用いる場合には前記xの値は1.0〜1.4が特に好ましい。
また、2種以上の金属酸化物より無機バリア層を構成する場合、金属酸化物としては酸化アルミニウム及び酸化ケイ素を含むことが好ましい。中でも無機バリア層が酸化アルミニウム及び酸化ケイ素からなる場合、無機バリア層中のアルミニウムとケイ素との比率は任意に設定することができる。しかしながら、高いバリア性と高い透明性とを両立するためには、Si/Alの比率は、通常1/9以上が好ましく、2/8以上がより好ましい。また、通常9/1以下が好ましく、2/8以下がより好ましい。
無機バリア層の厚みを厚くするとバリア性が高まる傾向にあるが、曲げた際にクラックを生じにくくし割れを防ぐためには、厚みを薄くすることが好ましい。そこで無機バリア層の適正な厚みとしては、通常5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。また、通常1000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
無機バリア層の成膜方法に制限は無いが、一般的にスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法及びプラズマCVD法などで行うことができる。例えばスパッタリング法では1種類又は複数の金属ターゲットと酸素ガスを原料とし、プラズマを用いた反応性スパッタ方式で形成することができる。
(ポリマー層)
ポリマー層にはいずれのポリマーでも使用することができ、例えば真空チャンバー内で成膜できるものも用いることができる。なお、ポリマー層を構成するポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
前記ポリマー層を形成するためには、多種多様な化合物を用いることができる。ここでは例として、以下の(i)〜(vii)のようなモノマーを用いてポリマー層を形成する場合について説明する。なお、モノマーは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
(i)例えば、ヘキサメチルジシロキサン等のシロキサンが挙げられる。ヘキサメチルジシロキサンを用いる場合のポリマー層の形成方法の例を挙げると、RF電極を用いた平行平板型のプラズマ装置にヘキサメチルジシロキサンを蒸気として導入し、プラズマ中で重合反応を起こさせ、プラスチックフィルム基材上に堆積させることでポリマー層をポリシロキサン薄膜として形成できる。
(ii)例えば、ジパラキシリレン等のパラキシリレンが挙げられる。ジパラキシリレンを用いる場合のポリマー層の形成方法の例を挙げると、まず高真空中でジパラキシリレンの蒸気を650℃〜700℃で加熱することで熱分解させて熱ラジカルを発生させる。そして、そのラジカルモノマー蒸気をチャンバー内に導いて、プラスチックフィルム基材へ吸着させると同時にラジカル重合反応を進行させてポリパラキシリレンを堆積させることでポリマー層を形成できる。
(iii)例えば、二種のモノマーを交互に繰り返し付加重合させることができるモノマーが挙げられる。これにより得られるポリマーは重付加ポリマーである。重付加ポリマーとしては、例えば、ポリウレタン(ジイソシアナート/グリコール)、ポリ尿素(ジイソシアナート/ジアミン)、ポリチオ尿素(ジチオイソシアナート/ジアミン)、ポリチオエーテルウレタン(ビスエチレンウレタン/ジチオール)、ポリイミン(ビスエポキシ/第一アミン)、ポリペプチドアミド(ビスアゾラクトン/ジアミン)及びポリアミド(ジオレフィン/ジアミド)などが挙げられる。
(iv)例えば、アクリレートモノマーが挙げられる。アクリレートモノマーには、単官能、2官能及び多官能のアクリレートモノマーがあるが、いずれを用いてもよい。ただし、適切な蒸発速度、硬化度、硬化速度等を得るために、前記のアクリレートモノマーを2種以上組み合わせて併用することが好ましい。また、単官能アクリレートモノマーとしては、例えば、脂肪族アクリレートモノマー、脂環式アクリレートモノマー、エーテル系アクリレートモノマー、環状エーテル系アクリレートモノマー、芳香族系アクリレートモノマー、水酸基含有アクリレートモノマー及びカルボキシ基含有アクリレートモノマー等があるが、いずれも用いることができる。
(v)例えば、エポキシ系及びオキセタン系等の、光カチオン硬化ポリマーが得られるモノマーが挙げられる。エポキシ系モノマーとしては、例えば、脂環式エポキシ系モノマー、2官能性モノマー及び多官能性オリゴマーなどが挙げられる。また、オキセタン系モノマーとしては、例えば、単官能オキセタン、2官能オキセタン及びシルセスキオキサン構造を有するオキセタン等が挙げられる。
(vi)例えば、酢酸ビニルが挙げられる。モノマーとして酢酸ビニルを用いると、その重合体をケン化することでポリビニルアルコールが得られ、このポリビニルアルコールをポリマーとして使用できる。
(vii)例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸及び無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらは、エチレンとの共重合体を構成させ、該共重合体をポリマーとして使用できる。さらに、これらの混合物、グリシジルエーテル化合物を混合した混合物、及びエポキシ化合物との混合物もポリマーとして用いることができる。
前記のモノマーを重合してポリマーを生成させる際、モノマーの重合方法に制限は無い。ただし、通常は、モノマーを含む組成物を塗布又は蒸着して成膜した後で重合を行うようにする。重合方法の例を挙げると、熱重合開始剤を用いたときはヒーター等による接触加熱;赤外線及びマイクロ波等の放射加熱;などにより重合を開始させる。また、光重合開始剤を用いたときは活性エネルギー線を照射して重合を開始させる。
活性エネルギー線を照射する場合には様々な光源を使用することができ、例えば、水銀アークランプ、キセノンアークランプ、蛍光ランプ、炭素アークランプ、タングステンーハロゲン輻射ランプ及び日光による照射光などを用いることができる。また、電子線照射や大気圧プラズマ処理を行うこともできる。
ポリマー層の形成方法は、例えば、塗布法及び真空成膜法等が挙げられる。塗布法でポリマー層を形成する場合、例えば、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、カーテンフローコート、スプレーコート及びバーコート等の方法を用いることができる。また、ポリマー層形成用の塗布液をミスト状で塗布するようにしてもよい。この場合の液滴の平均粒径は適切な範囲に調整すればよく、例えば重合性モノマーを含有する塗布液をミスト状でプラスチックフィルム基材上に成膜して形成する場合には、液滴の平均粒径は5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。液滴の平均粒径を小さくすることにより、均一なポリマー層を形成することができる。他方、真空成膜法でポリマー層を形成する場合、例えば、蒸着及びプラズマCVD等の成膜方法が挙げられる。
ポリマー層の厚みについては特に限定はないが、通常10nm以上が好ましい。また、通常5000nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、1000nm以下が特に好ましい。ポリマー層の厚みを10nm以上とすることで、厚みの均一性が得やすくなり無機バリア層の構造欠陥を効率よくポリマー層で埋めることができ、バリア性が向上する傾向にある。また、ポリマー層の厚みを5000nm以下とすることで、曲げ等の外力によりポリマー層自身がクラックを発生しにくくなるためバリア性が向上しうる。
中でも好適なガスバリアフィルム3としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等の基材フィルムにSiOxを真空蒸着したフィルムなどが挙げられる。なお、ガスバリアフィルム3は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。また、ガスバリアフィルム3は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
ガスバリアフィルム3の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを5μm以上とすることでガスバリア性が高まる傾向にあり、200μm以下とすることで柔軟性が高まり、また可視光の透過率が向上する傾向にある。
ガスバリアフィルム3は、太陽電池素子6を被覆して湿気及び酸素から保護できればその形成位置に制限は無いが、太陽電池素子6の正面(受光面6a側の面。図2では下側の面)及び背面(受光面6aとは反対側の面。図2では上側の面)を覆うことが好ましい。薄膜太陽電池14においてはその正面及び背面が他の面よりも大面積に形成されることが多いためである。本実施形態ではガスバリアフィルム3が太陽電池素子6の正面を覆い、後述するガスバリアフィルム9が太陽電池素子6の背面を覆うようになっている。
なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシートなど防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及びガスバリアフィルム9のうちの少なくとも1つを用いなくてもよい。
<2.4 ゲッター材フィルム(4)>
ゲッター材フィルム4は水分及び酸素のうちの少なくとも1つを吸収するフィルムである。太陽電池素子6の構成部品のなかには前記のように水分で劣化するものがあり、また、酸素によって劣化するものもある。そこで、ゲッター材フィルム4で太陽電池素子6を覆うことにより、太陽電池素子6等を水分及び酸素のうちの少なくとも1つから保護し、発電能力を高く維持するようにしている。
ここで、ゲッター材フィルム4は前記のようなガスバリアフィルム3とは異なり、水分の透過を妨げるものではなく、水分を吸収するものである。水分を吸収するフィルムを用いることにより、ガスバリアフィルム3等で太陽電池素子6を被覆した場合に、ガスバリアフィルム3,9に挟まれる空間に僅かに浸入する水分をゲッター材フィルム4が捕捉して水分による太陽電池素子6への影響を排除できる。
ゲッター材フィルム4の水分吸収能力の程度は、通常0.1mg/cm2以上が好ましく、0.5mg/cm2以上がより好ましく、1mg/cm2以上がさらに好ましい。この数値が高いほど水分吸収能力が高く太陽電池素子6の劣化を抑制しうる。また、上限に制限は無いが、通常10mg/cm2以下である。
また、ゲッター材フィルム4が酸素を吸収することにより、ガスバリアフィルム3,9等で太陽電池素子6を被覆した場合に、ガスバリアフィルム3,9に挟まれる空間に僅かに浸入する酸素をゲッター材フィルム4が捕捉し、酸素による太陽電池素子6への影響を排除できる。
さらに、ゲッター材フィルム4は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上がその中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せされることが多いため、ゲッター材フィルム4も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ゲッター材フィルム4の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上でがさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時にゲッター材フィルム4が融解・劣化する可能性を低減できる。
ゲッター材フィルム4を構成する材料は、水分及び酸素のうちの少なくとも1つを吸収することができるものであれば任意である。その材料としては、例えば、水分を吸収する物質として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、シリカゲル、ゼオライト系化合物、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム及び硫酸ニッケル等の硫酸塩、並びにアルミニウム金属錯体及びアルミニウムオキシドオクチレート等の有機金属化合物などが挙げられる。
具体的には、アルカリ土類金属としては、Ca、Sr及びBaなどが挙げられる。アルカリ土類金属の酸化物としては、CaO、SrO及びBaO等が挙げられる。その他にZr−Al−BaO及びアルミニウム金属錯体等も挙げられる。具体的な商品名を挙げると、例えば、OleDry(双葉電子社製)等が挙げられる。
酸素を吸収する物質としては、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、モレキュラーシーブ、酸化マグネシウム及び酸化鉄等が挙げられる。またFe、Mn及びZn並びにこれら金属の硫酸塩、塩化物塩及び硝酸塩等の無機塩も挙げられる。
なお、ゲッター材フィルム4は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。また、ゲッター材フィルム4は単層フィルムにより形成されていても良いが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
ゲッター材フィルム4の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
ゲッター材フィルム4は、ガスバリアフィルム3,9に挟まれる空間内であればその形成位置に制限は無いが、太陽電池素子6の正面(受光面6a側の面。図2では下側の面)及び背面(受光面6aとは反対側の面。図2では上側の面)を覆うことが好ましい。薄膜太陽電池14においてはその正面及び背面が他の面よりも大面積に形成されることが多いため、これらの面を介して水分及び酸素が浸入する傾向があるからである。この観点から、ゲッター材フィルム4はガスバリアフィルム3と太陽電池素子6との間に設けることが好ましい。本実施形態ではゲッター材フィルム4が太陽電池素子6の正面を覆い、後述するゲッター材フィルム8が太陽電池素子6の背面を覆い、ゲッター材フィルム4,8がそれぞれ太陽電池素子6とガスバリアフィルム3,9との間に位置するようになっている。
なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシートなど防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及びガスバリアフィルム9のうちの少なくとも1つを用いなくてもよい。
ゲッター材フィルム4は吸水剤又は乾燥剤の種類に応じて任意の方法で形成することができるが、例えば、吸水剤又は乾燥剤を分散したフィルムを粘着剤で添付する方法、吸水剤又は乾燥剤の溶液をスピンコート法、インクジェット法、ディスペンサー法等で塗布する方法などを用いることができる。また真空蒸着法、スパッタリング法などの成膜法を使用してもよい。
吸水剤又は乾燥剤のためのフィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂及びポリカーボネート系樹脂等を用いることができる。中でも、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂及びポリカーボネート系樹脂のフィルムが好ましい。なお、前記樹脂は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
<2.5 封止材(5)>
封止材5は、太陽電池素子6を補強するフィルムである。太陽電池素子6は薄いため通常は強度が弱く、ひいては薄膜太陽電池の強度が弱くなる傾向があるが、封止材5により強度を高く維持することが可能である。また、封止材5は、薄膜太陽電池14の強度保持の観点から強度が高いことが好ましい。具体的強度については、封止材5以外の耐候性保護フィルム1又はバックシート10の強度とも関係することになり一概には規定しにくいが、薄膜太陽電池14全体が良好な曲げ加工性を有し、折り曲げ部分の剥離を生じないような強度を有するのが好ましい。
また、封止材5は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上がその中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、封止材5も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、封止材5の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に封止材5が融解・劣化する可能性を低減できる。
封止材5の厚みは特に規定されないが、通常100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましい。また、通常700μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで薄膜太陽電池14全体の強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた可視光の透過率が向上する傾向にある。
封止材5を構成する材料としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂組成物をフィルムにしたもの(EVAフィルム)などを用いることができる。耐候性の向上のため、通常は、EVAフィルムには架橋剤を配合して架橋構造を構成させる。この架橋剤としては、一般に、100℃以上でラジカルを発生する有機過酸化物が用いられる。このような有機過酸化物としては、例えば、2,5−ジメチルヘキサン;2,5−ジハイドロペルオキシド;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン;3−ジ−t−ブチルペルオキシド等を用いることができる。封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得るためには、これらの有機過酸化物の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、通常1重量部以上が好ましい。なお、架橋剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
このEVA樹脂組成物には、接着力向上の目的で、シランカップリング剤を含有させてもよい。この目的に供されるシランカップリング剤としては、例えば、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン;ビニルトリクロロシラン;ビニルトリエトキシシラン;ビニル−トリス−(β−メトキシエトキシ)シラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;β−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得るためには、これらのシランカップリング剤の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下が好ましく、2重量部以下がより好ましく、通常0.1重量部以上が好ましい。なお、シランカップリング剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
更に、EVA樹脂のゲル分率を向上させ、耐久性を向上するために、EVA樹脂組成物に架橋助剤を含有させてもよい。この目的に供される架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート等の3官能の架橋助剤、及びアリルイソシアネート等の単官能の架橋助剤、等が挙げられる。
封止材5として用いるためにより好適な耐久性、耐候性、透明性、及び強度を得るためには、これらの架橋助剤の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。また、通常1重量部以上が好ましい。なお、架橋助剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
更に、EVA樹脂の安定性を向上する目的で、EVA樹脂組成物に、例えばハイドロキノン;ハイドロキノンモノメチルエーテル;p−ベンゾキノン;メチルハイドロキノンなどを含有させてもよい。封止材5として用いるためにより好適な安定性、耐候性、透明性、及び強度を得るためには、これらの配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下が好ましい。
しかし、EVA樹脂の架橋処理には1〜2時間程度の比較的長時間を要するため、薄膜太陽電池14の生産速度及び生産効率を低下させる原因となる場合がある。また、長期間使用の際には、EVA樹脂組成物の分解ガス(酢酸ガス)又はEVA樹脂自体が有する酢酸ビニル基が、太陽電池素子6に悪影響を与えて発電効率を低下させる場合がある。そこで、封止材5としては、EVAフィルムの他に、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体からなる共重合体のフィルムを用いることもできる。この共重合体としては、例えば、下記成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物が挙げられる。
・成分1:プロピレン系重合体が、通常0重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましい。また、通常70重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましい。
・成分2:軟質プロピレン系共重合体が、30重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましい。また、通常100重量部以下が好ましく、90重量部以下がより好ましい。
なお、成分1及び成分2の合計量は100重量部である。上記のように、成分1及び成分2が好ましい範囲にあると、封止材5のシートへの成形性が良好であるとともに、得られる封止材5の耐熱性、透明性及び柔軟性が良好となり、薄膜太陽電池14に好適である。
上記の成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物は、メルトフローレート(ASTM D 1238、230度、荷重2.16g)が、通常0.0001g/10分以上であることが好ましい。また、通常1000g/10分以下が好ましく、900g/10分以下がより好ましく、800g/10分以下がさらに好ましい。メルトフローレートがこの範囲にあると、シートへの成形がより容易となる。
成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物の融点は、通常100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。また通常140℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましい。融点がこの範囲にあると、シートへの成形がより容易となる。
また成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物の密度は、0.98g/cm3以下が好ましく、0.95g/cm3以下がより好ましく、0.94g/cm3以下がさらに好ましい。密度がこの範囲にあることにより、例えば機械的強度を含めた封止材5の物性を、より適したものにすることができる。
この封止材5においては、上記成分1及び成分2に、プラスチックなどに対する接着促進剤としてカップリング剤を配合することが可能である。カップリング剤は、シラン系、チタネート系及びクロム系の各カップリング剤が好ましく用いられ、特にシラン系のカップリング剤(シランカップリング剤)が好適に用いられる。
上記シランカップリング剤としては公知のものが使用でき、特に制限はないが、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシーエトキシシラン)、γ−グリシドキシプロピルートリピルトリーメトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なお、カップリング剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対する、上記シランカップリング剤の含有量は通常0.1重量部以上が好ましく、また、通常5重量部以下が好ましく、3重量部以下含むことがより好ましい。含有量をこの範囲とすることにより、封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得ることができる。
また、上記カップリング剤は、有機過酸化物を用いて、当該熱可塑性樹脂組成物にグラフト反応させてもよい。この場合、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対して、上記カップリング剤を0.1〜5重量部含むことが好ましい。シラングラフト化された熱可塑性樹脂組成物を用いても、ガラス、プラスチックに対して、シランカップリング剤ブレンドと同等以上の接着性が得られる。
有機過酸化物を用いる場合、有機過酸化物は、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対して、通常0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましい。また、通常5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましい。含有量をこの範囲とすることにより、封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得ることができる。
また、封止材5としてエチレン・α−オレフィン共重合体からなる共重合体を用いることもできる。この共重合体としては、下記に示す成分A及び成分Bからなる封止材用樹脂組成物と基材とを積層してなる、ホットタック性が5〜25℃のラミネートフィルムが例示される。
・成分A:エチレン系樹脂。
・成分B:以下の(a)〜(d)の性状を有するエチレンとα−オレフィンとの共重合体。
(a)密度が0.86〜0.935g/cm3。
(b)メルトフローレート(MFR)が1〜50g/10分。
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つであり;該ピーク温度が100℃以下である。
(d)温度上昇溶離分別(TREF)による積分溶出量が、90℃のとき90%以上である。
成分Aと成分Bとの配合割合(成分A/成分B)は、重量比で、通常50/50以上が好ましく、55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、通常99/1以下が好ましく、90/10以下がより好ましく、85/15以下がさらに好ましい。成分Bの配合量を多くすることで透明性やヒートシール性が高まる傾向にあり、成分Bの配合量を少なくすることでフィルムの作業性が高まる傾向にある。
成分Aと成分Bを配合して生成される封止材用樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、通常2g/10分以上が好ましく、3g/10分以上がより好ましく、通常50g/10分以下が好ましく、40g/10分以下がより好ましい。なおMFRの測定と評価は、JIS K7210(190℃、2.16kg荷重)に準拠する方法によって実施することができる。メルトフローレートがこの範囲にあることにより、樹脂組成物の成形をより容易にすることができる。
封止材用樹脂組成物の融点は、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、また、通常300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に融解・劣化する可能性を低減できる。
封止材用樹脂組成物の密度は、0.80g/cm3以上が好ましく、0.85g/cm3以上がより好ましく、また、0.98g/cm3以下が好ましく、0.95g/cm3以下がより好ましく、0.94g/cm3以下がさらに好ましい。密度がこの範囲にあることにより、例えば耐熱性及び機械的強度を含めた封止材5の物性を、より適したものにすることができる。なお、密度の測定と評価は、JIS K7112に準拠する方法によって実施することができる。
さらに、エチレン・α−オレフィン共重合体を用いた封止材5において、前記プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体を用いた場合と同様に、カップリング剤を用いることが可能である。
上述した封止材5は、材料由来の分解ガスを発生することがないため、太陽電池素子6への悪影響がなく、良好な耐熱性、機械強度、柔軟性(太陽電池封止性)及び透明性を有する。また、材料の架橋工程を必要としないため、シート成形時及び薄膜太陽電池100の製造時間が大きく短縮できるとともに、使用後の薄膜太陽電池14のリサイクルも容易となる。
なお、封止材5は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。また、封止材5は単層フィルムにより形成されていても良いが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
封止材5の厚みは、通常2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、通常500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた光線透過率が高まる傾向にある。
封止材5を設ける位置に制限は無いが、通常は太陽電池素子6を挟み込むように設ける。太陽電池素子6を確実に保護するためである。本実施形態では、太陽電池素子6の正面及び背面にそれぞれ封止材5及び封止材7を設けるようにしている。
<2.6 太陽電池素子(6)>
太陽電池素子6としては、本発明に係る光電変換素子を用いることができる。
(太陽電池素子同士の接続)
太陽電池素子6は、薄膜太陽電池14の1個あたり1個だけを設けてもよいが、通常は2個以上の太陽電池素子6を設ける。具体的な太陽電池素子6の個数は任意に設定することができる。太陽電池素子6を複数設ける場合、太陽電池素子6はアレイ状に並べて設けられることが多い。複数の太陽電池素子を用いる場合、本発明に係る光電変換素子と、他の任意の光電変換素子を併用することもできる。
太陽電池素子6を複数設ける場合、通常は、太陽電池素子6同士は電気的に接続され、接続された一群の太陽電池素子6から生じた電気を端子(図示せず)から取り出すようになっている。この際、電圧を高めるため、通常は太陽電池素子は直列に接続される。もっとも、太陽電池素子の接続方法は任意であり、並列に接続されてもよい。
このように太陽電池素子6同士を接続する場合には、太陽電池素子6間の距離は小さいことが好ましく、ひいては、太陽電池素子6と太陽電池素子6との間の隙間は狭いことが好ましい。太陽電池素子6の受光面積を広くして受光量を増加させ、薄膜太陽電池14の発電量を増加させるためである。
<2.7 封止材(7)>
封止材7は、上述した封止材5と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他は封止材5と同様のものを同様に用いることができる。また、太陽電池素子6の受光面6a側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、封止材7としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。
<2.8 ゲッター材フィルム(8)>
ゲッター材フィルム8は、上述したゲッター材フィルム4と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他はゲッター材フィルム4と同様のものを同様に必要に応じて用いることができる。また、太陽電池素子6の受光面6a側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、ゲッター材フィルム8としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。また、ゲッター材フィルム8として、使用する水分吸収剤若しくは酸素吸収剤をゲッター材フィルム4よりも多く含有するフィルムを用いることも可能となる。このような吸収剤としては、水分吸収剤としてCaO、BaO、Zr−Al−BaOが挙げられる。また、酸素吸収剤として活性炭、モレキュラーシーブなどが挙げられる。
<2.9 ガスバリアフィルム(9)>
ガスバリアフィルム9は、上述したガスバリアフィルム3と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他はガスバリアフィルム3と同様のものを同様に必要に応じて用いることができる。また、太陽電池素子6の受光面6a側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、ガスバリアフィルム9としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。
<2.10 バックシート(10)>
バックシート10は、上述した耐候性保護フィルム1と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他は耐候性保護フィルム1と同様のものを同様に用いることができる。また、このバックシート10が水及び酸素を透過させ難いものであれば、バックシート10をガスバリア層として機能させることも可能である。
また、太陽電池素子6の受光面6a側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、バックシート10としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。例えば、バックシート10として、以下に説明するもの(i)〜(iv)を用いることが特に好ましい。
(i)バックシート10としては、強度に優れ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性に優れた各種の樹脂のフィルム又はシートを使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルースチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂並びにセルロース系樹脂、その他等の各種の樹脂のシートを使用することができる。
これらの樹脂のシートの中でも、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のシートを使用することが好ましい。なお、これらは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(ii)バックシート10としては、金属薄膜を用いることもできる。例えば、腐蝕防止処理を施したアルミニウム金属箔又はステンレス製薄膜などが挙げられる。なお、金属薄膜の材料として、1種の金属のみを用いてもよく、2種以上の金属を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
(iii)バックシート10としては、例えばアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着した防水性の高いシートを用いても良い。フッ素系樹脂としては、例えば、一弗化エチレン(商品名:テドラー,デュポン社製)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンとプロピレンとのコポリマー、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びフッ化ビニル系樹脂(PVF)等が挙げられる。なお、1種のフッ素系樹脂をバックシート10に用いてもよく、2種以上のフッ素系樹脂を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
(iv)バックシート10としては、例えば、基材フィルムの片面あるは両面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、更に、上記の無機酸化物の蒸着膜を設けた基材フィルムの両面に、耐熱性のポリプロピレン系樹脂フィルムを積層したものを用いてもよい。なお、通常は、基材フィルムにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層する場合には、ラミネート用接着剤で張り合わせることで積層する。無機酸化物の蒸着膜を設けることで、水分、酸素等の浸入を防止する防湿性に優れたバックシート10を実現することができる。
(基材フィルム)
基材フィルムとしては、基本的には、無機酸化物の蒸着膜等との密接着性に優れ、強度に優れ、耐候性、耐熱性、耐水性及び耐光性に優れた各種の樹脂のフィルムを使用することができる。
例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルースチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、並びにその他の各種の樹脂のフィルムを使用することができる。中でも、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のフィルムを使用することが好ましい。
上記のような各種の樹脂のフィルムのなかでも、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びフッ化ビニル系樹脂(PVF)等のフッ素系樹脂のフィルムを使用することがより好ましい。更に、このフッ素系樹脂のフィルムの中でも、特に、ポリフッ化ビニル系樹脂(PVF)、テトラフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー(ETFE)、又はテトラフルオロエチレンとプロピレンとのコポリマーを含むフッ素系樹脂のフィルムが、強度等の観点から特に好ましい。なお、基材フィルムには1種のフッ素系樹脂を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、上記のような各種の樹脂のフィルムのなかでも、シクロペンタジエン及びその誘導体、シクロヘキサジエン及びその誘導体等の環状ポリオレフィン系樹脂のフィルムを使用することもより好ましい。
基材フィルムの膜厚としては、通常12μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、また、通常300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。膜厚を厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
(無機酸化物の蒸着膜)
無機酸化物の蒸着膜としては、金属の酸化物を蒸着した薄膜であれば、任意のものを使用可能である。例えば、ケイ素(Si)又はアルミニウム(Al)の酸化物の蒸着膜を使用することができる。この際、酸化ケイ素としては例えばSiOx(x=1.0〜2.0)を用いることができ、酸化アルミニウムとしては例えばAlOx(x=0.5〜1.5)を用いることができる。なお、蒸着膜には1種類の無機酸化物が蒸着されていてもよいし、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で併用されていてもよい。
無機酸化物の蒸着膜の膜厚としては、通常50Å以上が好ましく、100Å以上がより好ましい。また、通常4000Å以下が好ましく、1000Å以下がより好ましい。膜厚を厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
蒸着膜の作製方法としては、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法及び光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を用いることができる。具体的には例えば、有機ケイ素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとしてアルゴンガス及びヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いることにより、基材フィルムの一方の面に酸化ケイ素等の無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
(ポリプロピレン系樹脂フィルム)
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体、又はプロピレンと他のモノマー(例えばα−オレフィン等)との共重合体を使用することができる。また、ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチック重合体を用いることもできる。バックシート10として用いるためにより適した耐候性及び強度を得るためには、ポリプロピレン系樹脂の融点は通常164℃〜170℃が好ましく、比重は通常0.90〜0.91が好ましく、分子量は通常10万〜20万が好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、その結晶性により性質が大きく支配されるが、アイソタクチックの高いポリマーは、引っ張り強さ、衝撃強度に優れ、耐熱性、耐屈曲疲労強度を良好であり、かつ、加工性は極めて良好なものである。
(接着剤)
基材フィルムにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層する場合には、通常はラミネート用接着剤を用いる。これにより、基材フィルムとポリプロピレン系樹脂フィルムとはラミネート用接着剤層を介して積層されることになる。
ラミネート用接着剤層を構成する接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、アミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤及びシリコン系接着剤等が挙げられる。なお、1種の接着剤を用いてもよく、2種以上の接着剤を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型及び分散型等のうちのいずれの形態でもよい。また、その形状は、フィルム・シート状、粉末状及び固形状等のいずれの形態でもよい。さらに、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、又は熱圧型等のうちのいずれの形態でもよい。
例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法及びその他等のコート法、並びに印刷法等の、任意の方法を用いて、上記の接着剤をフィルムにコーティングすることができる。バックシート10として用いるためにより適した強度及び接着力を得るためには、接着剤のコーティング量が、乾燥状態で0.1g/m2〜10g/m2であることが好ましい。
<2.11 薄膜太陽電池の寸法>
本実施形態の薄膜太陽電池14は、通常、膜状の薄い部材である。このように膜状の部材として薄膜太陽電池14を形成することにより、薄膜太陽電池14を建材、自動車、インテリア等に容易に設置できるようになっている。薄膜太陽電池14は、軽く、割れにくく、従って安全性の高い太陽電池が得られる。また、薄膜太陽電池14は曲面にも設置可能であるため、更に多くの用途に使用しうる。本実施形態の薄膜太陽電池14は薄くて軽いため輸送や保管など流通面でも好ましい。更に、膜状であるためロール・トゥ・ロール式の製造が可能であり大幅なコストカットが可能である。
薄膜太陽電池14の具体的な寸法に制限は無いが、その厚みは、機械的強度を増す観点から、通常300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、700μm以上がさらに好ましい。また、柔軟性を増す観点から、通常3000μm以下が好ましく、2000μm以下がより好ましく、1500μm以下がさらに好ましい。
<2.12 薄膜太陽電池の製造方法>
本実施形態の薄膜太陽電池14の製造方法に制限は無い。一例として、耐候性保護フィルム1とバックシート10との間に、1個又は2個以上の太陽電池素子6を直列又は並列接続したものを、紫外線カットフィルム2、ガスバリアフィルム3,9、ゲッター材フィルム4,8及び封止材5,7と共に、一般的な真空ラミネート装置でラミネートすることで製造できる。
この際、ラミネートを十分なものとして密着性を増す観点から、加熱温度は通常130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましい。また、太陽電池素子6を含む薄膜太陽電池14の各部の劣化を防ぐ観点から、通常180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。また、ラミネートを十分なものとして密着性を増す観点から、加熱時間は通常10分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。また、太陽電池素子6を含む薄膜太陽電池14の各部の劣化を防ぐ観点から、加熱時間は通常100分以下が好ましく、90分以下がより好ましい。圧力は通常0.001MPa以上が好ましく、0.01MPa以上がより好ましい。また、通常0.2MPa以下が好ましく、0.1MPa以下がより好ましい。圧力をこの範囲とすることで封止を確実に行うことができる。また、端部から封止材5,7がはみ出すこと、及び過加圧による膜厚低減を抑え、寸法安定性を確保しうる。
<2.13 薄膜太陽電池の用途>
上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、図3に模式的に示すように、薄膜太陽電池14を備える太陽電池モジュール13を用意し、これを使用場所に設置して用いればよい。ここで薄膜太陽電池14は、何らかの基材12上に配置されてもよい。具体例を挙げると、基材12として建材用板材を使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池14を設けることにより、太陽電池モジュール13として太陽電池パネルを作製することができる。この太陽電池パネルは、建物の外壁等に設置することができる。もっとも、本発明における太陽電池モジュールが基材12を備える必要はない。シート状である薄膜太陽電池14そのものを、太陽電池モジュールとして用いることもできる。
基材12は太陽電池素子6を支持する支持部材である。基材12を形成する材料としては、例えば、ガラス、サファイア及びチタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート及びポリノルボルネン等の有機材料;紙及び合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン及びアルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたもの等の複合材料;などが挙げられる。
なお、基材12としては、1種の材料を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、これら有機材料又は紙材料に炭素繊維を含ませ、機械的強度を補強させても良い。基材の形状はどのようなものでもよく、剛体であってもよいし、例えばシートのように柔軟性を有してもよい。
本発明に係る薄膜太陽電池を適用する分野の例としては、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池及び玩具用太陽電池などが挙げられる。具体例として以下のようなものを挙げることができる。
(I.建築用途)
(I−1 ハウス屋根材)
基材として屋根用板材等を使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池を設けて太陽電池モジュールである太陽電池パネルを作製し、この太陽電池パネルをハウスの屋根の上に設置すればよい。また、基材として瓦を直接用いることもできる。本発明に係る太陽電池が柔軟性を有するという特性を生かし、瓦の曲線に密着させることができるので好適である。
(I−2 屋上)
ビルの屋上に薄膜太陽電池を取り付けることもできる。基材上に薄膜太陽電池を設けた太陽電池モジュールを用意し、これをビルの屋上に設置することもできる。この時基材とともに防水シートを併用し、防水性を付与することが好ましい。さらに、本発明に係る薄膜太陽電池が柔軟性を有するという特性を生かし、平面ではない屋根、例えば折半屋根に密着させることもできる。この場合も防水シートを併用するのが好ましい。
(I−3 トップライト)
エントランスや吹き抜け部分に外装として本発明に係る薄膜太陽電池を用いることもできる。何らかのデザイン処理を施されたエントランス等は曲線が用いられている場合が多く、そのような場合において本発明に係る薄膜太陽電池の柔軟性が生かされる。またエントランス等にはシースルー部材が用いられる場合がある。このような場合、環境対策が重要視される時代において、有機太陽電池の緑色系の色合いによって意匠的な美観も得られるので好適である。
(I−4 壁)
基材として建材用板材を使用した場合、この板材の表面に薄膜太陽電池を設けて太陽電池モジュールとして太陽電池パネルを作製し、この太陽電池パネルを建物の外壁等に設置して使用すればよい。また、カーテンウオールに設置することもできる。その他、スパンドレル及び方立等への取り付けも可能である。この場合、基材の形状に制限はないが、通常は板材を使用する。また、基材の材料及び寸法等は、その使用環境に応じて任意に設定すればよい。このような基材の例を挙げると、アルポリック(登録商標;三菱樹脂製)などが挙げられる。
(I−5 窓)
本発明に係る薄膜太陽電池は、シースルーの窓に使用することもできる。環境対策が重要視される時代において、有機太陽電池の緑色系の色合いによって意匠的な美観も得られるので好適である。
(I−6 その他)
本発明に係る薄膜太陽電池は、建築の外装として、ひさし、ルーバー、手摺等にも使用できる。このような場合においても、本発明に係る薄膜太陽電池の柔軟性が、これらの用途にとって好適である。
(II 内装)
本発明に係る薄膜太陽電池はブラインドのスラットに取り付けることもできる。本発明に係る薄膜太陽電池は軽量であり、柔軟性に富むことから、このような用途で用いること可能となる。また、有機太陽電池素子がシースルーであるという特性のために、本発明に係る薄膜太陽電池は内装用の窓としても使用することができる。
(III 野菜工場)
蛍光灯などの照明光を活用する植物工場の設置件数は増えているが、照明に掛かる電気代や光源の交換費用などによって栽培コストを引き下げにくいというのが現状である。そこで本発明に係る薄膜太陽電池を野菜工場に設置し、LED又は蛍光灯と組み合わせた照明システムを構築することができる。このとき蛍光灯よりも寿命が長いLEDと本発明に係る太陽電池を組み合わせた照明システムを用いることで、照明に要するコストを現状に比べて30%程度減らせることができるので好適である。また、野菜等を一定温度で輸送するリーファー・コンテナ(reefer container)の屋根及び側壁などに本発明に係る太陽電池を用いることもできる。
(IV 道路資材・土木)
本発明に係る薄膜太陽電池は、駐車場の外壁、高速道路の遮音壁及び浄水場の外壁等にも用いることができる。
(V 自動車)
本発明に係る薄膜太陽電池は、自動車のボンネット、ルーフ、トランクリッド、ドア、フロントフェンダー、リアフェンダー、ピラー、バンパー及びバックミラーなどの表面に用いることができる。得られた電力は走行用モータ、モータ駆動用バッテリー、電装品及び電装品用バッテリーのいずれにも供給することができる。太陽電池パネルにおける発電状況と、走行用モータ、モータ駆動用バッテリー、電装品及び電装品用バッテリーにおける電力使用状況とを考慮して、電力供給源を薄膜太陽電池とするか、その他の電池又は発電機とするか、これらの双方とするかを選択する制御手段を、さらに設置してもよい。こうして、得られた電力を適正かつ効率的に使用することができる。
本発明に係る薄膜太陽電池を自動車に用いる場合、基材12の形状に制限はないが、通常は板材を使用する。また、基材12の材料及び寸法等は、その使用環境に応じて任意に設定すればよい。このような基材12の例を挙げると、アルポリック(登録商標;三菱樹脂製)などが挙げられる。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
[実施例1]
<活性層塗布液S0の作製>
p型半導体材料であるPBDTTT−CH(下式に示す)と、n型半導体材料であるC60(QM)2とを重量比が1:1となるように混合し、混合物が0.8重量%の濃度となるように窒素雰囲気中でクロロベンゼンに溶解させた。ついでこの溶液に、活性層塗布液全体に対して1.3重量%の割合となるように1,8−オクタンジチオールを添加し、ホットスターラーを用いて60℃の温度にて3時間攪拌混合した。攪拌混合後の溶液を1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過することにより、活性層塗布液S0を得た。
<光電変換素子の作製>
インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜がパターニングされたガラス基板を、界面活性剤による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、120℃で大気中5分間加熱乾燥した。最後に、基板に対して紫外線オゾン洗浄を行った。この基板上に、正孔取り出し層としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)水性分散液(エイチ・シー・スタルク社製「CLEVIOSTM PVP AI4083」)をスピンコートにより塗布し、塗布後の基板を120℃のホットプレート上で10分間、大気中で加熱した。正孔取り出し層の膜厚は約30nmであった。
正孔取り出し層を成膜した基板を、窒素雰囲気下195℃で3分間加熱処理し、冷却後に上述のように作製した活性層塗布液S0を100rpmの速度にてスピンコートすることにより、約90nmの厚みの活性層を形成した。その後、1層目の電子取り出し層として6nmの膜厚のBCPを、2層目の電子取り出し層として0.2nmの膜厚のフッ化リチウムを、更に電極層として80nmの膜厚のアルミニウムを、抵抗加熱型真空蒸着法により順次成膜させた。こうして、5mm角の光電変換素子を作製した。
<光電変換素子の評価>
上記で作製した光電変換素子に4mm角のメタルマスクを付け、照射光源としてエアマス(AM)1.5G、放射照度100mW/cm2のソーラシミュレータを用い、ソースメーター(ケイスレー社製,2400型)により、ITO電極とアルミニウム電極との間における電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1に示す。
[比較例1]
<活性層塗布液S1の作製>
p型半導体材料であるレジオレギュラーポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT、Rieke Metals社製)とn型半導体材料であるC60(QM)2とを、重量比が1:0.85となるように混合し、この混合物が2.1重量%の濃度となるように窒素雰囲気中でo−ジクロロベンゼンに溶解させた。その後、この溶液をホットスターラーを用いて45℃の温度にて3時間攪拌混合した。攪拌混合後の溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過することにより、活性層塗布液S1を得た。
<光電変換素子の作製>
まず上述の実施例と同様に、ITOがパターニングされたガラス基板を洗浄し、ガラス基板上に正孔取り出し層を成膜した。正孔取り出し層を成膜した基板を、窒素雰囲気下185℃で3分間加熱処理し、冷却後に活性層塗布液S1を350rpmの速度にてスピンコートすることにより、約200nmの厚みの活性層を形成させた。その後、活性層塗布液S1を塗布した基板に対して窒素雰囲気中150℃で10分間アニーリング処理を行った。活性層上に上述の実施例と同様に電子取り出し層及び電極を成膜することにより、5mm角の光電変換素子を作製した。作製した光電変換素子について、実施例1と同様に電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1に示す。
[比較例2]
<活性層塗布液S2の作製>
p型半導体材料であるPBDTTT−CHと、n型半導体材料であるC60(PCBM)とを重量比1:1.5の割合で混合し、混合物が0.8重量%の濃度となるように窒素雰囲気中でクロロベンゼンに溶解させた。ついでこの溶液に、活性層塗布液全体に対して2.4重量%の割合となるように1,8−ジヨードオクタンを添加し、ホットスターラーを用いて60℃の温度にて3時間攪拌混合した。攪拌混合後の溶液を1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過することにより、活性層塗布液S2を得た。
<光電変換素子の作製・評価>
活性層塗布液S0の代わりに活性層塗布液S2を用いたことを除いては、上述の実施例と同様の方法で光電変換素子を作製し、作製した光電変換素子の電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1に示す。
[比較例3]
<活性層塗布液S3の作製>
p型半導体材料であるPBDTTT−CHとn型半導体材料であるC60(PCBM)とを、重量比が1:1.5となるように混合し、混合物が0.8重量%の濃度となるように窒素雰囲気中でクロロベンゼンに溶解させた。ついでこの溶液に、活性層塗布液全体に対して1.3重量%の割合となるように1,8−オクタンジチオールを添加し、ホットスターラーを用いて60℃の温度にて3時間攪拌混合した。攪拌混合後の溶液を1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過することにより、活性層塗布液S3を得た。
<光電変換素子の作製・評価>
活性層塗布液S0の代わりに活性層塗布液S3を用いたことを除いては、上述の実施例と同様の方法で光電変換素子を作製し、作製した光電変換素子の電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1に示す。
表1に示すように、比較例1のようにn型半導体材料としてC60(QM)2を用いる場合、開放電圧(Voc)は高いものの、低い短絡電流密度(Jsc)のために、光電変換効率(PCE)が伸びない。一方で、比較例2,3のようにn型半導体材料としてPCBMを用いる場合には、開放電圧が低いために光電変換効率が伸びない。これらに対して、n型半導体材料としてC60(QM)2を用いる場合に、p型半導体材料としてPBDTTT−CHを組み合わせる本実施例では、高い開放電圧と高い短絡電流密度を同時に達成し、結果として5%以上の光電変換効率が得られる。