JP5649163B2 - ブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材を備えたブレーキキャリパ - Google Patents

ブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材を備えたブレーキキャリパ Download PDF

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Description

本発明は、ブレーキキャリパに関し、特に、ブレーキペダルの踏み込み時に、ブレーキパッドの進出力に対して調整的に遅延させかつ逆バイアスをかけるとともに、ブレーキペダルの解放時に、ブレーキパッドを積極的にかつ均一に強制後退させるブレーキキャリパに関する。
従来より、自動車のディスクブレーキ装置に使用されるブレーキキャリパはよく知られている。典型的なディスクブレーキ装置においては、ホイールハブに、ロータが回転するように取り付けられている。1以上のブレーキパッド対(一般に、背面プレート上に載架された摩擦材料として設計される)が、アンカーブラケット又はキャリパによってロータの両側に支持される。キャリパは、ブレーキパッドをロータに対して接触又は非接触に移動させるために、ピストンをロータに対して相対移動させて制動力を加えるように設計されている。ピストンは、キャリパの孔に支持されていて、制動力を発生させる際には、ブレーキパッドをロータに向かって移動させるべく、ブレーキパッドの背面プレートに当接する。ピストンは、該ピストンを通常は引き込んでそれによりブレーキパッドをロータに対して非係合の位置に保持する弾性シールスリーブに接続されている。車両の運転者によってブレーキペダルが踏み込まれた作動時に、油圧により又は機械的に作動力が発生する。油圧システムにおいて、マスターシリンダ内に、又はブレーキシステムのポンプによって、圧力が発生し、この圧力が、加圧作動液をキャリパ内のピストンへと導く。ピストンの端部に作用する作動液の圧力は、弾性シールスリーブがピストンに加える引込み力に打ち勝ってピストンを進出させてブレーキパッドをロータに係合させ、それによって、車輪に対して制動力を付与する。車両の運転者がブレーキペダルを解放すると、弾性シールスリーブによりピストンに加えられる復元力が、ピストンを引込み側に作動させる。ブレーキパッドは、通常、ピストンに対して接続されておらず、ロータの後側で浮いた状態で該ロータに対して非係合の状態にある。このようなブレーキ作動及び引込み動作は、ピストンに代えて、一連のレバー、カム及び/又は楔を使用することにより、油圧を使用することなく実現することもできる。
制動動作中に、車両の4つの全車輪に付与される制動力を調整することは、車両の制動の観点からのみでなく、制動中における車両制御の観点からも重要である。本発明者らは、前輪ブレーキが後輪ブレーキの作動よりも若干早く作動することが、制動中における車両の制御性を最大に維持する上で最も良いことを見出した。残念なことに、大部分の車両ブレーキシステムは、前輪タイヤに付与される制動力の大きさを、後輪タイヤの制動力に比べて大きくするように設計されているが、本発明者らは、マスターシリンダー及びブレーキキャリパは、その構造上、後輪のブレーキ装置を前輪のブレーキ装置に比べて早く作動させるようになっていることを見出した。このような作動では、後輪の制動力がメインとなる状態から前輪の制動力がメインとなる状態との間の過渡期における車両制御が問題となる。さらに、運転者がブレーキペダルを解放したときに、ブレーキパッドの全面が急速にかつ積極的にロータに対して係合解除されることが重要である。さもなくば、燃料効率を低下させかつブレーキパッドの摩耗を加速させる付随的な制動が発生するからである。
したがって、本発明者らは、ブレーキペダルが踏み込まれたときにブレーキパッドの進出のタイミング及びクランプ力を容易にかつ確実に調整することを可能にするとともにブレーキペダルが解放されたときにブレーキパッドをロータから積極的にかつ均一に引き込むことを可能にするブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材を備えたブレーキキャリパが必要であることを見出した。
この目的のために、本発明に係るブレーキキャリパは、キャリパハウジングと、ブレーキロータに対して選択的に係合する制動面を有するブレーキパッドと、上記ブレーキパッドを進出及び後退させて上記ロータに対して摩擦係合又は係合解除させる、ハウジングに取り付けられた油圧ピストンのような少なくとも1つの作動部材と、圧縮量が制限された少なくとも1つの弾性部材を含むブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材とを備える。
上記制御部材は、上記作動部材により上記ブレーキパッドに加えられる進出力に抗する調整可能な力であって上記進出を瞬間的に遅延させかつ上記ブレーキパッドと上記ロータとの間のクランプ力を僅かに減少させる力をブレーキパッドに加えることによって、上記進出に対してバイアスをかける。上記制御部材はまた、上記ロータから上記ブレーキパッド積極的にかつ均一に強制後退させ、それによって、付随的な制動を最小化させる。さらに、上記制御部材は、上記ブレーキパッド及び上記ロータの摩耗寿命期間内において、上記ブレーキパッドを上記ロータから一定距離だけ強制後退させる。このことは、自己調整機構により実現される。上記制御部材はまた、上記ブレーキパッド及び上記ロータ間の面外振動を減衰させる。有利には、相対向するブレーキパッドに設けられる別々の制御部材の使用は、両パッドにおいて独立した後退力を作用させることとなり、それによって、両パッドが積極的にかつ均一にロータから後退して係合解除されることを保証する。
上記制御部材は、ねじ端部ような、ブレーキパッドへの取付用処理が施された端部を含むシャフトを有するボルトを含む。上記ねじ端部は、上記ブレーキパッドに接続され、上記シャフトは、上記ハウジングに対して移動可能に取り付けられる。上記制御部材はまた、上記シャフトに対して摩擦係合しつつスライド可能(摺動可能)でかつ上記ねじ端部から離れて配置されるキャリパカラーを更に備える。キャリパハウジングは、上記シャフト及び上記カラーよりも僅かに大径の第1及び第2の孔を有し、これら第1及び第2の孔は、上記ねじ端部及び上記キャリパカラーをそれぞれスライド可能に受け入れる。上記弾性部材は、上記キャリパカラーと、上記第1の孔と上記第2の孔との環状の接続部との間に固定される。上記カラーと上記シャフトとの間の摩擦係合力は、上記弾性部材が完全に圧縮されたときに、上記カラーが、上記弾性部材のバネ力によって上記シャフト上をスライドするのを防止するのに十分な大きさとされている。しかし、上記カラー及び上記シャフト間の摩擦係合力は、上記作動部材により上記ブレーキパッドに作用する進出力に応じて上記カラーが上記シャフト上をスライドするのを防止するには不十分な力とされる。この結果、上記パッドの摩耗が、該摩耗による該パッドの厚みの減少量と同じ量だけ、上記カラーを上記シャフトに沿って徐々にスライドさせることになる。このような構造によれば、上記ブレーキパッドの摩耗に応じて、上記ブレーキキャリパの自己調整が機能し、それによって、上記ブレーキパッドの全寿命期間を通じて、ブレーキストロークを一定に維持することができる。
上記弾性部材のストローク長(圧縮量)は調整可能であり、0.025mm以上略2.0mm以下とすればよく、0.050mm以上略0.30mm以下であることが好ましい。上記弾性部材は、ディスクスプリング、特定タイプの板バネ、弾性シート等を使用することができるが、ベルビル型の皿バネにより形成されることが好ましい。上記弾性部材は、複数の上記皿バネからなるものであってもよい。上記ストローク長は、適切なバネ特性の上記皿バネを積み重ねてその個数を選択することで調整することはできるが、上記バネの当接側面の形状を変化させることでストローク長を調整することが好ましい。上記カラーの両端面は、上記バネの係合用に使用することができ、また、円筒状のカラーは前後反転可能であるので、そのようなカラーは、2つのバネ係合面を潜在的に有していると言える。これらの面のうちの一方は、弾性部材のストローク長を最大化するために平坦状に形成されている一方、他方の面は、弾性部材(ここでは、ベルビル型の皿バネ)のストローク長を短縮化するために、該弾性部材に対して部分的に補完するような形状、つまり面取りされて皿状に凹んだ形状を有する。このような構成によれば、上記シャフト上でカラーの向きを反転させるだけで、上記制御部材にて使用される弾性部材のストローク長を容易に変更することができる。或いは、上記ストローク長は、上記バネが配設される上記環状接続部を、上記バネにに対して部分的に補完するような形状に形成するか、又は、上記バネと上記環状接続部との間にスペーサを組み込むことによって、制御するようにしてもよい。
本発明に係るブレーキキャリパは、自動車のブレーキ装置に組み込むことができる。上記弾性部材のバネ力は、上記作動部材の進出力に対する瞬間的な遅延と該進出力に抗する力(後退力)を生じさせ、その結果、例えば後輪ブレーキ装置と前輪ブレーキ装置との間でブレーキクランプ力の相対的な減少をもたらすように設定することが好ましい。本発明は、制動動作の全体に亘って前輪ブレーキ偏り状態にするために使用することができ、それによって、制動動作中における車両の制御性を最大化することができる。後輪ブレーキ装置のみに本発明のキャリパを適用することで、前輪ブレーキ装置に対して後輪ブレーキ装置のクランプ力の望ましい遅延及び僅かな減少をもたらすことができる。しかし、前輪ブレーキ装置及び後輪ブレーキ装置の双方に、本発明のキャリパを適用することがより好ましい。この場合、弾性部材のバネ特性(例えば、変形量又はバネ力)が、作動部材により加えられる作動力に応じて、前輪ブレーキキャリパと後輪ブレーキキャリパとで異なっていることが好ましい。或いは、本発明によれば、左右の車輪のブレーキタイミングの偏りを実現するようにしてもよい。これは、レーシングカーの運転に適している。
本発明者らは、上記制御部材において使用される弾性部材の復元力が、ブレーキタイミングの調整に有効であるばかりでなく、付随的な制動に起因するブレーキ摩耗を減少させることで、燃料の1ガロン当たりの有効距離(マイル)が増加することを見出した。また、本発明者らは、上記制御部材に使用される弾性部材の弾性力が、ブレーキパッド及びロータ間の面外振動を減衰させることを見出した。
ロータと組み合わせた本発明のブレーキキャリパを示す平面図である。 図1Aに例示されたキャリパ及びロータを1B−1B線に沿って切断した横断面図である。 図1Bにおける符号2Aが付された円で囲まれた領域の拡大図であって、本発明のブレーキキャリパに組み込まれたブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材が非作動状態にあるときにおける該制御部材の主要要素を示す。 図1Bにおける符号2Bが付された円で囲まれた領域の拡大図であって、ブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材の非作動状態に対応した、ブレーキパッドとロータとが離れた状態を示す。 図1Bにおける符号2Aが付された円で囲まれた領域の拡大図であって、本発明のブレーキキャリパに組み込まれたブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材が作動状態にありかつブレーキパッドが摩耗していない状態における該制御部材の主要要素を示す。 図1Bにおける符号2Bが付された円で囲まれた領域の拡大図であって、ブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材の作動状態に対応した、ブレーキパッドとロータとが係合した状態を示す。 図1Bにおける符号2Aが付された円で囲まれた領域の拡大図であって、本発明のブレーキキャリパに組み込まれたブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材が作動状態にありかつブレーキパッドが摩耗した状態における、該制御部材の主要要素を示すとともに、該制御部材のスプリットカラーがボルトシャフト上をスライドすることにより如何にしてブレーキパッドの摩耗に順応するかを示す。 本発明に係るブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材のボルト、スプリットカラー及びベルビル型皿バネを示す斜視図である。 図5Aに示されるブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材のボルト、スプリットカラー及びベルビル型皿バネを示す部分断面図であって、スプリットカラーの面取りされた側の面がベルビル型皿バネの凸面に係合した状態を示す。 図5Aに示されるブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材のボルト、スプリットカラー及びベルビル型皿バネを示す部分断面図であって、スプリットカラーの平坦面がベルビル型皿バネの凸面に係合した状態を示す。 上記制御部材を備えたブレーキキャリパ(実線)のクランプ力がどのようにして、上記制御部材を備えていないキャリパ(破線)に対して僅かに遅延されかつ減少されるかを、ブレーキパッドピストンの油圧ラインの圧力の関数として示したグラフである。 本発明の例示的実施形態において使用されるベルビル型皿バネの負荷−撓み量特性を示すグラフである。
図1A及び図1Bは、図示を省略するホイールハブ(例えば自動車のホイールハブ)に取り付けられるロータ5に組み合わされた本発明のブレーキキャリパ3を含むブレーキ装置1を示す。本発明のこの例において、ブレーキキャリパ3はハウジング7を備え、このハウジング7内には、2組の相対向する油圧キャリパピストン9a,9b及び9c,9dが、シリンダ(図示せず)内に摺動可能に嵌装された状態で設けられている。相対向するブレーキパッド12a,12bの各々は、背面プレート14aと、この背面プレート14aにパッド材層14cを固定する下層14bとを含む。相対向するブレーキパッド12a,12bは、背面プレート14aを介して、相対向するキャリパピストン9a,9bの端部にそれぞれ固定されている。ブレーキパッド12a,12bの各々は、図1Bに最も良く示されている、ロータ5の互いに反対側に位置する環状係合面18a,18bのうちの1つに対して隣接して係合可能な係合面16を備えている。上記油圧ピストン9a,9b及び9c,9dは、ロータ5に対してブレーキパッド12a,12bを進出及び後退させるための作動部材の一例を示したものである点に留意するべきである。ブレーキパッド12a,12bは、空気作動ピストン、若しくは、カム及びレバーを使用した機械装置により、又は、例えばソレノイドを介して電気的に進退するものであってもよい。本明細書においては、「作動部材」は、このような全ての機構及びそれらと同等の機構を含むものであり、開示された実施例に限定されるものではない。
図1B及び図2Aを参照して、ハウジング7は、相対向するブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材20a,20b及び20c,20dを2組含む。これら制御部材20a,20b及び20c,20dの各対は、ピストン9a,9b及び9c,9d並びに制御部材20a,20b及び20c,20dの弾性部材によって、ブレーキパッド12a,12bに加えられる進出力及び後退力により生じる偏心モーメント力を減じるように配設されている。この目的のために、制御部材20a,20b(20c,20d)は、図1Bに示すように、キャリパハウジング7の側部に配設されたピストン対9a,9b(9c,9d)の間において、キャリパハウジング7の中央の垂直軸線に沿って整列されている。さらに、制御部材20a,20b(20c,20d)は、油圧式のキャリパーピストン9a,9b(9c,9d)によってブレーキパッド12a(12b)に加えられる進出力の合力の作用線に対して対称に配置されている。このような制御部材20a,20b及び20c,20dの配置は、その作動中に面外に位置するブレーキパッド12a,12bの係合面16を傾けるような好ましくない偏心モーメント力を減少又は除去する。本発明者らは、1つよりも多い制御部材20a,20b及び20c,20dのこのような配置又は配列により面外の力を除去することができ、そして、この力を除去する配置の少なくとも1つが、ブレーキパッド12a,12bの最大振動変位の領域に対応することを見出した。それ故、制御部材20a,20b及び20c,20dの位置を、同時に面外の力及び望ましくないノイズ発生源の振動を除去するように機能する配置の中から選択することができる。
制御部材20a,20b及び20c,20dのそれぞれは、ボルト22、キャリパカラー30、及び、圧縮量が制限されたバネ部材38を含む。これらの構成要素のそれぞれについて、以下に詳細に述べる。
ボルト22は、図5Aに最も良く示されているように、円筒状のボルトシャフト24を含む。このシャフト24の互いに反対側に位置する両端部は、それぞれ、ねじ端部26及びボルト頭部28を含む。各ボルト22のねじ端部26は、各ブレーキパッド12a,12bのそれぞれの背面プレート14aに設けられたねじ孔に螺合される。キャリパカラー30は、圧入によってボルトシャフト24の周りに摩擦固定されている。本発明のこの例においては、カラー30は、完全な環状ではなくて、ボルトシャフト24にカラー30の摩擦固定を容易化するためのスロット32(図5Aに示される)を含む。カラー30をねじ端部26から強制的にスライドさせたときに、カラー30が摩擦でボルトシャフト24を把持するように、カラー30の内径がボルトシャフト24の外径よりも僅かに小さくなっている。ボルトシャフト24上へのカラー30の圧入は、ボルトシャフト24の端部からカラー30をスライドさせる前に、カラー30の内径を熱膨張により拡径するためにカラー30を加熱することにより実行される場合もあるが、この種の組立て方法は、通常、必要ではなくて、好ましくもない。制御部材20a,20b及び20c,20dを適切に作動させるためには、カラー30及びボルトシャフト24間の摩擦力は、バネ部材38を最大限に圧縮するのに必要な力よりも常に大きくなければならないが、制御部材の自己調整機能(詳細は後述する)を実現するために、ピストン9a,9b及び9c,9dがブレーキパッド12a,12bに加える進出力よりも絶対に大きくてはならない。
ハウジング7は、カラー30よりも直径が僅かに大きいキャリパ引込み孔34と、ボルトシャフト24よりも直径が僅かに大きいボルト挿入孔36とを含み、これにより、カラー30及びボルトシャフト24が、それぞれ、孔34及び孔36内で移動可能に受け入れられる。バネ部材38は、カラー30と、孔34と孔36との接合部を形成する環状棚39との間に固定される。好ましい実施例において、バネ部材38は、一般にベルビル型皿バネと呼ばれる皿状ワッシャであり、その内径はボルトシャフト24の外径よりも僅かに大きく、外径はキャリパー引込み孔34の内径よりも僅かに小さい。その圧縮量は、0.025mm以上略2.0mm以下であり、それよりも大きな範囲も本発明の範囲内に含まれるが、0.050mm以上略1.50mm以下が好ましく、0.10mm以上略0.30mm以下が最も好ましい。上述した全ての圧縮量は、個々の制御部材と関連のあるピストン対9a,9b又は9c,9dの進出を遅らせかつ後退を加速させる。一方、より小さい圧縮量の範囲は、急速なブレーキ応答性(すなわち、ブレーキパッド12a,12bをロータ5に対して係合させるための短いブレーキペダルストローク)と両立することができる。
バネ部材38は、通常時は、図2Aにおいて例示されるように、圧縮されていない状態にある。このような状態では、ブレーキパッド12a,12bは、ロータ5に対して非係合の状態にあり、これら2つの構成要素間には、図2Bにおいて示されるように、小さな後退距離「D」が形成される。車両の運転者が、車両のブレーキペダル(図示せず)を踏み込んだとき、ピストン対9a,9b及び9c,9dに作用する加圧作動液が、バネ部材38を構成するベルビル型皿バネによりピストン対に付与されるバネ力に抗して、該ピストン対を進出させる。ピストン9a,9b及び9c,9dの進出に連れて、ボルトシャフト24(ねじ端部26を介して背面プレート14aに接続されている)は、図2Aの右側の方へ引っ張られる。各制御部材のバネ部材38は、図2Aにて例示される皿状から、図3Aに例示される平坦な形状へと圧縮されて、カラー30と環状棚39との間の距離「D」が圧縮されるに連れて、バネ部材38がピストン9a,9b及び9c,9dの進出に対して抵抗する。
制御部材20a,20b及び20c,20dが車両の後輪に設けられかつ前輪に設けられない場合には、前輪制動が後輪に比べて僅かに速くなる前輪ブレーキ偏り状態になる。後輪ブレーキ偏り状態の車両は、前輪ブレーキ偏り状態の車両に変更されることが有利である。このような前輪ブレーキ偏り状態は、制動動作中における車両の制御性を向上させる。或いは、4つの車輪の全てにおいて制御部材20a,20b及び20c,20dを設けても、前輪ブレーキ偏り状態を達成することは可能である。すなわち、後輪キャリパに使用されるバネ部材38を、前輪キャリパに使用されるバネ部材よりも弱くする。また、左右の車輪ブレーキの偏りを、制御部材20a,20b及び20c,20dを左右のいずれか一方の車輪のみに設けることによって、又は、制御部材20a,20b及び20c,20dを4つの車輪の全てに設けて、右側車輪キャリパに使用されるバネ部材38のバネ力を、左側車輪キャリパに使用されるバネ部材38のバネ力とは異ならせることによって、達成することができる。
制御部材20a,20b及び20c,20dはまた、ピストン対9a,9b及び9c,9dの進出の瞬間的な遅れに加えて、好ましくないノイズ、及び、ブレーキ効率の減少をもたらすブレーキパッド振動を減衰させる。この種の振動は、ロータ5における平坦な環状係合面18a,18bに対するブレーキパッド12a,12bの表面の共鳴振動によって生じる。各々の制御部材20a,20b及び20c,20dのバネ部材38は、ブレーキパッド12a,12bの共鳴振動と関連したエネルギーを吸収することによって、このような好ましくない振動を効果的に減衰する。この種の好ましくない振動の最大振幅の位置は、モーダル解析によって特定することができる。この種の振動の最大振幅は、図1Aにおいて例示した1B-1B線に沿った断面において、ブレーキパッド12a,12bの中央に位置しているので、図1Aに示される切断線1B-1Bを挟んで相対抗するような制御部材20a,20b及び20c,20dの配置は、制御部材20a,20b及び20c,20dのバネ要素38による、好ましくない振動の減衰効果を高める傾向にある。
最後に、本発明者らは、制御部材20a,20b及び20c,20dのバネ部材38による復元力が、ブレーキペダルが解放されたときに、急速にかつ積極的に及び均一にブレーキパッド12a,12bをロータ5から係合解除することにより、付随的な制動損失をより減少させる点で非常に効果的であることを見出した。それによって、エネルギーを節約し、燃料1ガロン当たりに得られる有効距離(マイル)を増加させることができる。表1によって示されるように、ディーゼルを駆動源とする車両において、付随的な制動損失は、1年に215.24ガロンのディーゼル燃料の損失を招く。これは、1ガロンにつき3.00ドルの燃料費用がかかると仮定すると、1年当たり645ドルの損失になる。この損失は、前述した制御部材20a,20b及び20c,20dを車両のブレーキキャリパに組み込むことで、完全ではないにしても取り除くことができる。
Figure 0005649163
5280ft/mi
12in/ft
60s/min
60min/hr
hp=ft×lb×rpm/5252
mpg=(燃料密度×速度)/(bsfc×bhp)
円周=6.28×回転半径
Figure 0005649163
V=平均速度
D=引き摺りトルク
=タイヤの回転半径
BSFC=ブレーキによる燃料消費
ρ=燃料密度
平均速度はトータル引き摺り量を考慮するが、BSFC値が一定と仮定すれば、それは、燃料消費に影響しない。
rpmに対する一定のBSFC値は、計算において考慮しない。
浪費燃料は、タイヤ直径に比例する。
図4は、制御部材20a,20b及び20c,20dの自己調整機能を示す。前述のように、カラー30及びボルトシャフト24間の摩擦係合は、カラー30がボルトシャフト24に沿って滑ることなく、バネ部材38を完全に圧縮できるように設定される。しかし、ブレーキパッド12a,12bが、係合面16をロータ5の環状係合面18a,18bに対して摩擦係合させるためにより大きなピストンストロークを必要とする程度まで摩耗したときには、各ピストン対9a,9b及び9c,9dによりボルトシャフトに加えられる進出力に応じてカラー30がシャフト24上でスライドする。このとき、カラー30は、図3Bのピストンに例示されるように係合面16をロータ5に対して係合させるために、バネ部材38を平坦状に変化させるのに必要な位置(図4に示す位置)までスライドする。
図5A〜図5Cは、制御部材20a,20b及び20c,20dのカラー30が、ベルビル型皿バネ38のストローク長を調整するために如何に都合よく使用されるかを例示している。略円筒形状のカラー30は、ボルト22のシャフト24に組み込むときに前後反転可能である。したがって、カラー30がボルト22のシャフト24に対して圧入されたときに、互いに反対側に位置する2つの面40,42のいずれの面もベルビル型皿バネ38との係合のために使用することができる。本発明のこの例において、これらの面のうちの一方の面40は、バネ38のストローク長さを短縮するために、ベルビル型皿バネ38に対して部分的に補完するような形状、つまり面取りされて皿状に凹んだ形状を有する一方、他方の面42は、ベルビル型皿バネ38のストローク長を最大化するために、平坦状に形成されている。このような構造によれば、本発明が適用されるブレーキキャリパのタイプに応じて、制御部材20a,20b及び20c,20dのベルビル型皿バネ38のストローク長を、容易に減少又は増大させることができる。勿論、弾性部材としての複数のベルビル型皿バネ38を積み重ねて使用し、その数を増やしたり減らしたりすることで、ストローク長を調整することも可能である。しかし、このようなストローク長の調整方法では、本発明の如く短いストローク長(すなわち0.025mm以上略1.50mm以下のストローク)が好適である場合において、微調整を行うことができない。これに対し、1つのベルビル型皿バネ38のみが使用される、制御部材20a,20b及び20c,20dの本実施形態において、カラー30のバネ係合面の形状を選択することにより、非常に小さくて正確な調整が可能となる。
バネ38の圧縮ストロークは、ブレーキパッドの進出を瞬間的に遅延させる。このことは、図6のグラフに示されており、このグラフは、制御部材20a,20b及び20c,20dを有するブレーキキャリパのクランプ力(実線)が、本発明の制御部材を有さないブレーキキャリパのクランク力(破線)に対して僅かに遅延しかつ減少することを示している。ブレーキパッド12a,12b及びロータ5間に最初に発生するクランプ力は、液圧ラインの圧力(ライン圧)が100psi(距離Sで示される)となるまで0であることに留意すべきである。これは、この100psiがバネ38のストロークに打ち勝つために使用されるからである。また、バネ38がピストン9a,9b及び9c,9dの進出力に抗する力(ブレーキパッドとロータとの係合解除力)を付与することにより、実線で示されるクランプ力が、制御部材20a,20b及び20c,20dを有さないキャリパに発生するクランプ力に対して僅かに低下していることに留意すべきである。上述の如く、本発明の制御部材を組み込んだブレーキキャリパにおけるクランプ力の僅かな減少は、車両の異なるブレーキ装置の相対的なタイミングを、異なる車輪対(すなわち、後輪と前輪、又は、右側車輪と左側車輪)に設けられたブレーキ装置間にて、好ましいタイミングの偏りが生じるように調整可能である点で有利である。クランプ力の瞬間的な遅延及び減少の相対的な量は、ピストンの相対的な進出力だけでなく、制御部材20a,20b及び20c,20dに使用されたバネ部材38の相対的なストローク量及びバネ力に依存している。
ピストンストロークの瞬間的な遅延量及び力の減少量、及び、ブレーキパッド12a,12bのロータ5からの「スナップバック」の力は、バネ部材38のストローク長及びバネ力特性に依存するとともに、該特性によって調整可能である。図7は、本発明のこの例において使用されるベルビル型皿バネのバネ力が、その圧縮量に応じてどのように変化するかを示したグラフである。図7は、バネ38の2つの重要な特徴を示している。第1に、このバネ38は、比較的「固い」バネであり、圧縮量0.001インチ当たり略4.7ポンドの力を必要とする。このように高い力でかつ圧縮量が小さいことで、制御部材20a,20b及び20c,20dを、ブレーキペダルの望ましいショートストローク化について妥協することなく、高性能のブレーキシステムと組合せて使用することができる。この特徴によれば、制御部材20a,20b及び20c,20dを、単一のベルビル型皿バネ38を用いてコンパクトに形成することができ、このことは、ブレーキキャリパ3において限られたスペースを有効利用可能な点で重要である。第2に、バネ38の力/変位特性の実質的な線形性により、ブレーキシステムのマスターシリンダによって発生するライン圧に対する、制御部材により修正されたクランプ力曲線(図6参照)が、修正されていないクランプ力曲線と実質的に同じである。したがって、制御部材20a,20b及び20c,20dにより修正されたブレーキ装置と、修正されていないブレーキ装置との間で、車両の運転者が経験するブレーキペダルの「感覚」の差異は、殆ど感じ取ことはできない。
本発明を、特定の好ましい実施形態を参照しながら詳細に説明したが、本発明の精神を逸脱しない範囲において、変更や修正が可能であることを理解するべきである。

Claims (12)

  1. ブレーキロータ(5)を挟んで互いに対向配置された固定の対向側部を有するキャリパハウジング(7)と、
    上記キャリパハウジング(7)の上記各対向側部に、進出及び後退可能に取り付けられ、上記ブレーキロータ(5)の側面に選択的に係合する制動面(16)を有する少なくとも1つのブレーキパッド(12a,12b)と、
    上記各ブレーキパッド(12a,12b)を進出させかつ上記ロータ(5)に対して摩擦係合及び係合解除させる少なくとも1つの作動部材(9a,9b)と、
    上記作動部材とは別個に設けられているとともに上記ブレーキパッドに接続され、少なくとも1つの弾性部材(38)を含む、上記各ブレーキパッドを制御するための少なくとも1つのブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材(20a,20b)とを備え、
    上記制御部材(20a,20b)の上記弾性部材(38)は、上記各ブレーキパッド(12a,12b)の進出を独立に遅延させかつバイアスをかけるとともに、上記ブレーキパッドを上記ブレーキロータから離れるよう強制後退させるように構成され
    上記制御部材は、上記キャリパハウジングと上記ブレーキパッドとの間で延びていて、該制御部材の端部が上記ブレーキパッドに接続されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  2. 請求項1記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記弾性部材(38)の圧縮量が、0.025mm以上1.50mm以下に制限されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  3. 請求項1記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記制御部材(20a,20b)は、上記ブレーキパッド(12a,12b)及び上記ロータ(5)の摩耗寿命期間内において、上記ブレーキパッド(12a,12b)を上記ロータ(5)から一定距離だけ強制後退させるように構成されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  4. 請求項1記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記制御部材(20a,20b)は、上記作動部材により上記ブレーキパッド(12a,12b)に加えられる進出力に抗する調整可能な力であって上記進出を瞬間的に遅延させかつ上記ブレーキパッド(12a,12b)と上記ロータ(5)との間のクランプ力を減少させる力を、該ブレーキパッド(12a,12b)に加えるように構成されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  5. 請求項1記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記制御部材(20a,20b)は、上記作動部材により当該制御部材に対応するブレーキパッド(12a,12b)に加えられる進出力の合力の作用線に関連して配置されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  6. 請求項5記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記制御部材(20a,20b)は、上記作動部材による当該制御部材に対応するブレーキパッド(12a,12b)の進出時に、該ブレーキパッド(12a,12b)の制動面(16)が上記ロータ(5)に対して均一に係合するように、該ブレーキパッド(12a,12b)に加えられるモーメント力に打ち勝つようなパターンで配置されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  7. 請求項1記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記ブレーキキャリパは、自動車の複数の車輪にそれぞれ組み込まれるものであり、
    異なるブレーキキャリパの上記制御部材における上記弾性部材(38)のバネ力及び圧縮量の一方又は双方が、該ブレーキキャリパの上記ブレーキパッド(12a,12b)の作動時に、上記進出の異なる遅延と、上記ブレーキパッドと上記ロータとの間のクランプ力の異なる減少とをもたらすように設定されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  8. 請求項1記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記制御部材(20a,20b)は、当該制御部材に対応するブレーキパッド(12a,12b)に接続されたシャフト(24)を更に含むことを特徴とするブレーキキャリパ。
  9. 請求項8記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記制御部材(20a,20b)は、上記シャフト(24)に対して摩擦係合しつつスライド可能なキャリパカラー(30)を更に含み、
    上記キャリパハウジング(7)の上記各対向側部は、上記少なくとも1つの制御部材を受け入れて収容する、上記キャリパカラー(30)よりも大径の少なくとも1つの孔(34)をそれぞれ有していることを特徴とするブレーキキャリパ。
  10. 請求項9記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記弾性部材は、上記キャリパカラー(30)と上記孔(34)の端面(39)との間に配置された少なくとも1つのベルビル型の皿バネ(38)を含み、
    上記キャリパカラー(30)の第1係合面(40)が、上記皿バネ(38)の圧縮量を減少させるように、上記皿バネ(38)の非圧縮状態で該皿バネに対して少なくとも部分的に補完する形状をなし、
    上記キャリパカラー(30)は、上記皿バネ(38)に異なる圧縮量を与えるための、上記第1係合面(40)とは異なる形状の第2係合面(42)を含むことを特徴とするブレーキキャリパ。
  11. ブレーキロータ(5)を挟んで互いに対向配置された対向側部を有するキャリパハウジング(7)と、
    上記キャリパハウジング(7)の上記各対向側部に、進出及び後退可能に取り付けられ、上記ブレーキロータ(5)の側面に選択的に係合する制動面(16)を有する少なくとも1つのブレーキパッド(12a,12b)と、
    上記各ブレーキパッド(12a,12b)を進出させかつ上記ロータ(5)に対して摩擦係合及び係合解除させる少なくとも1つの作動部材(9a,9b)と、
    上記キャリパハウジング(7)にそれぞれ配設され、それぞれが少なくとも1つの弾性部材(38)を含む複数のブレーキパッド進出タイミング及び後退制御部材(20a,20b)とを備え、
    上記各制御部材(20a,20b)の上記弾性部材(38)は、上記ブレーキパッド(12a,12b)の進出を瞬間的に遅延させかつ上記ブレーキパッド(12a,12b)と上記ロータ(5)との間のクランプ力を減少させるため、かつ、上記ブレーキパッド(12a,12b)を後退させて該ブレーキパッドと上記ロータ(5)との係合を解除するために、上記作動部材により上記ブレーキパッド(12a,12b)に加えられる進出力に抗する調整可能な力を該ブレーキパッド(12a,12b)に加えるものであり、
    上記各制御部材(20a,20b)は、上記ブレーキパッドに接続されていて、上記ブレーキパッド(12a,12b)及び上記ロータ(5)の摩耗寿命期間内において、上記ブレーキパッド(12a,12b)を上記ロータ(5)から一定距離だけ後退させるように構成され
    更に上記制御部材は、上記キャリパハウジングと上記ブレーキパッドとの間で延びていて、該制御部材の端部が上記ブレーキパッドに接続されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
  12. 請求項11記載のブレーキキャリパにおいて、
    上記各制御部材(20a,20b)は、上記作動部材による当該制御部材に対応するブレーキパッド(12a,12b)の進出時に、該ブレーキパッド(12a,12b)の制動面(16)が上記ロータ(5)に対して均一に係合するように、該ブレーキパッド(12a,12b)に加えられるモーメント力に打ち勝つようなパターンで配置されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
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