まず、プロジェクションボルトの寸法や形状について説明する。
鉄製のプロジェクションボルト1の形状は、図1(A)に示されている。このボルト1は、雄ねじが形成された軸部2と、この軸部2と一体的に形成され軸部2の直径よりも大径とされた円形の拡径部3と、前記軸部2とは反対側の拡径部中央に配置された円形の溶着用突起4と、前記拡径部3の外周部と前記溶着用突起4の基部5とを前記外周部側が低くなる拡径部傾斜面6で接続することによって形成された塑性変形部7によって形成されている。なお、前記の「外周部側が低くなる」というのは、図1(A)において、外周部側が軸部2の上端側に接近した傾斜方向であることを意味している。そして、符号8は軸部2の外周面に形成された雄ねじであり、ねじ山は谷部と山部を有している。
前記溶着用突起4は、図4に示すように、初期溶融部4Aと主溶融部4Bから構成されている。前記初期溶融部4Aは、溶着用突起4の端面に外周側が低くなる小さなテーパ傾斜角のテーパ部15を設けることによって形成された平たい形状の円錐形状部である。この初期溶融部4Aの中央部に尖った形状の頂部16が形成されている。そして、主溶融部4Bは初期溶融部4Aに連なった状態で形成された円錐台の形状部分である。ボルト1は金型成型やロール加工などが施されるので、拡大して観察すると実際には、上記の頂部16は鋭利に尖った形状ではなく、若干の丸みを帯びた形状となる。
つぎに、塑性変形部7の形状について説明する。
図4に示すように、塑性変形部7は、溶着用突起4(主溶融部4B)と拡径部3との間の扁平な円形の金属材料部であり、その部分だけを抽出して示した断面形状が図4(B)である。拡径部傾斜面6の傾斜角に応じた厚さを有する中央部の円形の部分が、溶融部7Aである。この溶融部7A(基部5の箇所)から外周部に向かって厚さが次第にうすくなる環状の部分が、軟化部7Bである。この軟化部7Bの断面は、図4(B)に示すように、楔型である。
なお、前記拡径部傾斜面6の傾斜角度は、軸部2の軸線が垂直に交わっている仮想平面との間で形成される角度を意味している。溶着用突起4のテーパ部15の傾斜角度も同様である。フランジ状の拡径部3と塑性変形部7と溶着用突起4によってボルト1の頭部が形成されている。前記拡径部傾斜面6が拡径部3の端面である。図1(B)には、拡径部傾斜面6の外周側に設けられた傾斜のない平面部3Aが図示され、これも拡径部3の端面である。
図2は、ボルト1が鋼板部品9に溶接される状態を示す断面図である。可動電極10は、エアシリンダまたは進退出力型の電動モータなど(図示していない)で進退動作をする。その端面中央部に可動電極10の長手方向に受入孔11があけられ、その奥部に永久磁石12が取り付けてある。鋼板部品9は、可動電極10と同軸状態で配置された固定電極13上に載置されている。
作業者または供給ロッドによって、軸部2が可動電極10の受入孔11に挿入され、永久磁石12で吸引されてボルト1が可動電極10に保持される。このときには、可動電極10の端面14が拡径部3の裏面に密着している。図2は、ボルト1を保持した可動電極10が進出してきて、溶着用突起4が鋼板部品9に加圧されている状態を示している。この加圧状態は図3(H)に示されており、頂部16が鋼板部品9の表面にめり込んでいるので、テーパ部15が広い領域にわたって鋼板部品9と密着している。つまり、初期溶融部4Aのテーパ部15の先端部分が鋼板部品9の表面にわずかに食い込んで、溶着用突起4と鋼板部品9の接触面積が増大している。この状態で溶接電流が通電されて、鋼板部品9への溶接がなされる。接触部分が大きくなった密着部分は、符号16Aで示されている。
図1(A)には、実施例の寸法状態などを理解しやすくするために、各部の寸法や傾斜角度が記載されている。この図に示すように、軸部2の直径は5mm、軸部2の長さは24.5mm、拡径部3の直径と厚さはそれぞれ13.5mmと1.0mm、溶着用突起4の基部5すなわち溶着用突起4の付け根部分の直径は7mmである。
さらに、溶着用突起4の端面(テーパ部15)の直径は5.5mm、初期溶融部4Aの高さ(厚さ)は0.79mm、主溶融部4Bの高さ(厚さ)は0.8mm、溶着用突起4の基部5から頂部16までの高さは1.59mm、塑性変形部7の高さ(厚さ)は0.26mm、拡径部傾斜面6の傾斜角度θ1は5度、溶着用突起4のテーパ部15の傾斜角度θ2は9度である。
したがって、拡径部3の直径に対する溶着用突起4の直径の比は、0.52である。また、軸部2の直径に対する拡径部3の直径の比は、2.7である。
図4は、拡径部3、塑性変形部7、溶着用突起4および溶着用突起4を構成する初期溶融部4Aと主溶融部4Bの各部分の体積を示すための区分図である。図1に示した寸法や傾斜角度を有するボルト1の各部体積は、拡径部3が143.14mm3、塑性変形部7が22.17mm3、溶着用突起4が30.92mm3、初期溶融部4Aが6.26mm3、主溶融部4Bが24.66mm3である。そして、塑性変形部7における溶融部7Aが10mm3、軟化部が12.17mm3である。上記数値から明らかなように、塑性変形部7の体積は溶着用突起4の体積よりも小さく設定されている。
そして、初期溶融部4Aの体積に対する主溶融部4Bの体積の比は、3.94である。塑性変形部7の体積に対する溶着用突起4の体積の比は、1.39である。また、溶着用突起4の体積と塑性変形部7の体積の和に対する拡径部3の体積の比は、2.70である。そして、溶着用突起4の体積と塑性変形部7の体積との合計体積は、拡径部3の体積よりも小さく設定されている。
上述の各部寸法から明らかなように、このボルト1はいわゆる小物部品である。このように小物であるから、溶融の進行状態や溶着部分(ナゲット)の大きさなどが溶接品質に大きく影響するのである。
つぎに、このボルト1の溶着現象について説明する。
溶接は前述のように、図2に示す状態で行われる。加圧通電条件は、溶着用突起4だけが溶融するとともに、溶着用突起4の範囲面積に対応する鋼板部品9の部分が溶融するように設定される。ここで、相手方部材である鋼板部品9の板厚は、0.65mmである。そして、可動電極10による加圧力すなわち鋼板部品9に対する溶着用突起4の加圧力は、2200Nであり、溶接電流は11000A、通電時間は12サイクルである。前記通電時間12サイクルは、通電開始時点から所定時間経過後の初期溶融部4Aの溶融開始、それに引き続く主溶融部4Bの溶融終了までの時間であり、この時点では溶融部7Aと鋼板部品9側においても溶融がなされている。なお、1サイクルは1/60秒である。
上述の条件で良好な溶接が可能であるが、各条件の設定範囲は、加圧力は2000〜3000N、溶接電流は9000〜13000A、通電時間は5〜15サイクルとするのが良好である。
上述の溶接条件で進行する溶融過程が、図3に示されている。図3は断面図であるが、見やすくするために断面箇所のハッチング記載は省略してある。図3(A)は、溶着用突起4の頂部16が鋼板部品9に加圧されている状態を示す。この状態では同図(H)に示すように、頂部16が鋼板部品9にわずかにめり込んでいて、テーパ部15と鋼板部品9との密着面積が大きくなっている。この密着部分は、符号16Aで示されている。
上述の加圧状態のところへ通電されると、前記のめり込んでいる箇所、すなわち密着部分16Aから溶融が開始され、図3(B)に示すように、通電初期の段階で前記初期溶融部4Aがその全域にわたって溶融する。溶融箇所は符号17で示されている。この密着部分16Aから開始される溶融は、初期溶融部4Aのテーパ部15にテーパ傾斜角θ2=9度のテーパ角が形成されているので、加圧にともなって直径方向に放射状のほぼ平面的な溶融範囲が円形に拡大してゆく。つまり、傾斜角θ2が9度であるから、わずかな溶融であっても通電面積が急増しそれにともなって電流密度は急減する。そのため、溶融拡大は熱容量の大きなボルト1の軸方向よりも直径方向に進行しやすくなる。なお、溶融部分、溶着部分、溶着箇所および溶融範囲は、溶融箇所と同義語であり、それらにも符号17が用いてある。
このような初期溶融部4Aの全域溶融は、主溶融部4Bの円形断面全体の溶融に移行して、図3(C)に示すように、ボルト1の軸線方向に溶融が進行する。このような溶融進行が完了する時期には、加圧にともなって溶着用突起4の断面積範囲で鋼板部品9においても溶融が進行し、この時期に通電が停止される。その結果、溶融範囲が溶着用突起4の領域に限定された状態となる。この段階では、図3(C)に示すように、拡径部傾斜面6と鋼板部品9の表面9Aとの間にわずかな隙間19が存在しているが、可動電極10の加圧によって通電停止とほぼ同時にこの隙間19は消滅し、図3(D)に示すように、拡径部傾斜面6は鋼板部品9の表面9Aに密着する。
図3(D)の密着部分を鋼板部品9の面方向に切断した平面図が、同図(E)である。この切断状態から明らかなように、溶融箇所17すなわち溶着箇所が溶着用突起4の直径とほぼ同じ大きさになっていることが認められる。この溶融箇所17の直径は、7.2mmである。10本のボルト1を溶接した結果、この寸法は、6.9〜8.2mmの範囲に分布しており、溶着範囲は適正であることが認められた。
つぎに、塑性変形部7の変形挙動について説明する。
上述の加圧および溶融の過程においては、次のような塑性変形部7の変形挙動がなされている。この変形挙動は、図3(F)および(G)に示されているが、理解しやすくするために、図(F)における拡径部傾斜面6の傾斜角度を大きく図示してある。なお、溶融箇所17をくわしく観察するために、溶融箇所17の部分を切断した。図(G)は、この切断面を示している。
前記塑性変形部7は、前記拡径部傾斜面6の傾斜角θ1に応じた厚さを有する中央部の円形の溶融部7Aと、前記基部5から外周部に向かって厚さが次第にうすくなる環状の軟化部7Bとによって構成されている。溶着用突起4だけが溶融されても、それに連なる塑性変形部7の溶融部7Aも溶融状態になり、この溶融熱が前記軟化部7Bに伝熱されてこの部分が軟化する。加圧力は継続的に作用しているので、軟化部7Bの金属材料が中央の溶融部分17の方へ流動しながら、傾斜した拡径部3すなわち軟化部7Bの端面6が鋼板部品9の表面9Aに密着してゆく。
上記の軟化部7Bの金属材料は、加圧によって外周側に流動しようとするが、その反力によって矢線7Cのように中央の変形性のある溶融部分17の方へ流動し、前記密着がなされるのである。このとき中央の溶融部分17に対して外周側から金属材料の流動圧が作用するので、溶融部分17はボルト1の軸方向に拡大成長し、それによって鋼板部品9の溶融深さが増大する。そして、軟化部7Bは溶融部7Aに近い厚さの大きな部分の方が外周側に比して高温であるから、肉厚の大きな箇所の変形性が十分に得られ、溶融部分17側への金属材料の流動が良好に確保できる。
上述のような塑性変形部7の溶融と変形挙動であるから、溶着用突起4の領域に限定された部分の溶融が形成され、しかもその溶融深さL2が溶接強度面で十分な値になる。また、軟化部7Bは溶着用突起4や溶融部7Aの溶融熱で加熱されているので、その変形性が良好なものとなり、傾斜した拡径部傾斜面6が鋼板部品9の表面9Aに確実に密着する。
鋼板部品9の板厚は前記のように0.65mmであり、上述のような過程をへて形成された図3(G)に示す溶融深さL2は、約0.37mmである。前述の図6(B)に示したような板厚全域にわたる溶融ではなく、上記約0.37mmは後述の強度テストの結果から見て、適正な溶融深さであると判定できる。そして、鋼板部品9の非溶融厚さL5が約0.28mmであるから、鋼板部品9自体としての剛性も損なわれていないことが認められる。このように非溶融厚さL5が0.28mm存在することは、鋼板部品9自体の強度が後述のテスト結果に反映されているものと判断できる。
また、溶融箇所17の拡径部3側と鋼板部品9側におよぶ全体の厚さL4は約0.6mmであり、拡径部3側への溶け込み深さとして適正であると判断される。
10本のボルト1を溶接した結果、上記L2は0.35〜0.42mmの範囲に分布している。また、上記L4は0.58〜0.63に分布している。これらの分布状況から、良好な溶融深さであると判定できる。
上述のようにして溶着した鋼板部品9を治具などで固定し、軸部2の直径方向にハンマーで叩く曲げ衝撃テストを行った結果、軸部2は屈曲変形をしたが、溶着箇所17の部分は剥離などが発生しないとともに、拡径部傾斜面6と鋼板の表面9Aとの密着状態は維持され、完全な溶着状態が確保されていることが確認された。したがって、十分な溶接強度が確保されていることが認められた。
さらに、鋼板部品9を治具で固定し、軸部2を軸方向に引っ張るテストの結果、図5に示す破断状態となった。このように溶着用突起4側に溶着している鋼板部品9の部分9B(非溶融部)が、剪断状態で鋼板部品9の本体9Cから破断して抜け穴9Dの状態になっていることが認められる。この破断は、上記引っ張り荷重が2000〜2800Nの範囲で発生しており、このようなサイズのボルト1をきわめて薄い厚さ0.65mmの鋼板部品9に溶接した場合の溶接強度として十分であると判定される。
なお、前述の加圧力、電流値、通電時間などの溶接条件を変えることにより、溶融深さL2、L4、非溶融部L5の各値および拡径部傾斜面6と鋼板部品表面9Aの密着状態にバラツキが発生するが、上記の分布状況であれば曲げ衝撃テストや引っ張りテストなどの溶接強度は十分に確保できる。また、拡径部傾斜面6と鋼板部品表面9Aの密着状態においても、両面6と9Aの密着圧に高低差が発生したり、あるいは目視しても判別できない程度のわずかな隙間が発生したりするが、上記曲げ衝撃テストや引っ張りテストの結果には影響しないことが確認された。
また、溶融部7Aの体積に対する軟化部7Bの体積の比は、1.2である。このように軟化部7Bの体積が大きく設定されているために、軟化部7Bの溶融部7Aに対する熱容量が大きくなり、軟化部7Bは溶融部7Aからの加熱で溶融状態にいたることがなく、軟化促進に適した加熱を受けることになる。溶融部7Aの体積に対する軟化部7Bの比は、1.2〜1.8に設定するのが望ましい。
前記の拡径部3の直径に対する溶着用突起4の直径の比が、0.3未満であると、溶融範囲が過小になり、溶接強度が不十分になる。また、前記の比が0.6を超えると、溶融範囲は十分に確保できるが、拡径部傾斜面6と鋼板部品9の表面9Aとの密着部分における直径方向の寸法が不足し、軸部2の曲げ荷重に対する剛性が確保できなくなる。したがって、上述の比が0.3〜0.6に設定されることにより、十分な溶接強度が確保できる。
上述の比は、0.3〜0.6に設定されるが、好ましくは0.35〜0.55であり、最適値は本実施例における0.52である。
前記の初期溶融部4Aの体積に対する主溶融部4Bの体積の比が、3.5未満であると、初期溶融部4Aの体積が過大となってそれ自体の熱容量が過剰になるとともに溶着用突起4としての体積も過大となるので、溶着用突起4全体の溶融によって鋼板部品9の厚さ方向の溶融量が過剰になって、板厚全体が溶融し、適正な溶接強度が得られない。また、前記の比が6.5を超えると、初期溶融部4Aの体積が過小となってそれ自体の熱容量が不十分となるので、主溶融部4Bを連続的に溶融させることが不可能となり、結果的には鋼板部品9の溶融深さに不足が生じる。したがって、上述の比が3.5〜6.5に設定されることにより、十分な溶接強度が確保できる。
上述の比は、3.5〜6.5に設定されるが、好ましくは3.8〜6.0であり、最適値は本実施例における3.9である。
前記初期溶融部4Aのテーパ部15のテーパ傾斜角θ2が、5度未満であると、わずかな加圧変位であっても溶着部分17の拡大が急速に進行するので、加圧力の制御が困難となる。また、加圧にともなって電流密度の低下が急速に進行するので、ジュール熱の発生が緩慢になり、それによって主溶融部4Bへの溶融移行が円滑に行われない状態になる。また、傾斜角度が14度を超えると、大きな加圧変位であっても溶着部分17の拡大進行が緩慢となるので、やはり加圧力の制御が困難となり、同時に主溶融部4Bへの溶融移行が円滑に行われない状態になる。さらに、傾斜角度が14度を超えて大きくなると、溶着用突起4の体積が大きくなり、溶着用突起4の熱容量が過大になって鋼板部品9の板厚全体が溶融してしまう虞がある。したがって、上述の傾斜角度が5〜14度に設定されることにより、良好な品質のボルト溶接が確保できる。
上述の傾斜角度θ2は、5〜14度に設定されるが、好ましくは7〜12度であり、最適値は本実施例における9度である。
前記塑性変形部7の拡径部傾斜面6の傾斜角度θ1が、3度未満であると、軟化している傾斜部分の金属材料7Aが加圧によって中央の溶融部分17の方へ流動する力成分(図3(F)の矢線7C参照)が小さくなるので、溶融部分17に対する外周側から加圧力が不足し、溶融部分17のボルト軸方向の拡大成長が緩慢になって溶融深さL2が十分に確保できない。同時に、溶着用突起4の体積に対する塑性変形部7の体積が過小になり、両体積の比が適正に求められなくなる。また、前記の傾斜角度θ1が8度を超えると、溶着用突起4の体積に対する塑性変形部7の体積が過大になり、溶着用突起4の溶融熱で塑性変形部7を十分に加熱することが困難になる。同時に、塑性変形部7の方へ溶着用突起4の溶融熱が奪われるので、鋼板部品9の溶融深さL2が不十分になる。したがって、上述の傾斜角度θ1が3〜8度に設定されることにより、良好な品質のボルト溶接が確保できる。
上述の傾斜角度θ1は、3〜8度に設定されるが、好ましくは4〜7度であり、最適値は本実施例における5度である。
拡径部傾斜面6の角度θ1は、テーパ傾斜角θ2よりも小さく設定してある。したがって、本実施例のようにθ2を9度とした場合には、θ1は5度とされている。あるいは、θ2を11度とした場合には、θ1は例えば6.5度に設定される。このように拡径部傾斜面6の傾斜角θ1がテーパ傾斜角θ2よりも小さく設定されているので、塑性変形部7の体積を溶着用突起4のそれよりも小さくすることが行いやすくなるとともに、拡径部傾斜面6が鋼板部品の表面9Aに密着しやすくなる。
テーパ傾斜角θ2は、加圧によって適度の食い込みが鋼板部品表面9Aに対してなされるように設定されている。このように設定されたテーパ傾斜角θ2よりも拡径部傾斜面6の傾斜角θ1を小さく設定するということは、塑性変形部7の体積を溶着用突起4のそれよりも小さくすることを確実に行って後述の軸部2側への熱移動を促進することと、小さな拡径部傾斜面6の傾斜角θ1によって、より一層鋼板部品表面9Aへの密着性を確実化している。
つぎに、溶着用突起の体積について説明する。
溶着用突起4の体積は、鋼板部品9に適度の溶融深さが形成されるのに必要な熱容量が確保できるように設定されている。溶接電流の電流値、通電時間および加圧力は、溶着用突起4の部分だけを溶融するのに必要な値に設定され、この溶融にともなって鋼板部品9に適度の溶融深さが確保されるようになっている。したがって、溶着用突起4の溶融による熱量は、鋼板部品9に適度の溶融深さを形成できる値とされている。溶着用突起4の溶融熱は、鋼板部品9、固定電極13および拡径部3の方などへ流れるので、鋼板部品9を溶融させるに足りる熱量を確保するためには、溶着用突起4の体積を大きく設定しておく必要がある。そのために、軸部2に直交する方向に切断した溶着用突起4の面積に対応する鋼板部品9の部分の体積、すなわち図3(H)の梨地部分の体積Vよりも溶着用突起4の体積が大きく設定されている。梨地部分Vは円形でありその直径は7mmである。溶着用突起4の円形断面の直径にほぼ等しい直径の梨地部分Vとされている。
溶着用突起4の体積は、上記のような鋼板部品9における適度の溶融深さを確保するために、梨地部分の体積Vの1.24倍とされている。前述のように溶着用突起4の体積は30.92mm3、体積Vは25.01mm3であるから、1.24倍となる。このような体積Vに対する溶着用突起4の体積の比は、1.1〜1.4の範囲に設定されるが、好ましくは1.2〜1.3であり、本実施例では1.24である。
上記の比が1.1未満であると、溶着用突起4の体積が体積Vの部分に対して過小になり、溶着用突起4の溶融熱量が不足し、鋼板部品9側に溶融不足が発生しやすくなる。また、1.4を超えると、溶着用突起4の体積が体積Vの部分に対して過大になり、溶着用突起4の溶融熱量が過剰となり、鋼板部品9側に過剰溶融が発生しやすくなり、溶融が板厚全域におよぶ虞がある。
つぎに、溶着用突起の溶融熱の熱流について説明する。
溶着用突起4の溶融熱は、鋼板部品9を経て可動電極13へ流れたり、塑性変形部7を経て拡径部3側へ流れたりする。ところで、この種のボルト溶接では、生産性を上げるために短時間で多数のボルトが連続的に溶接される。そのために、固定電極13側の温度が高温となり、固定電極13側へは溶融熱が逃げにくい状態となる。一方、ボルト1は常温状態のものが受入孔11に差し込まれるので、可動電極10の残留温度が高温であってもボルト1側への熱流を促進することが、鋼板部品9の過剰溶融防止の面から得策である。図2に示すように、ボルト1はその軸部2が受入孔11に差し込まれ、拡径部3の端面が可動電極10の端面14に密着しているので、拡径部3は可動電極10の残留熱で直ちに加熱されるが、受入孔11内に挿入された軸部2に向かう熱流は拡径部3で熱吸収がなされるので、緩慢となる。そして、所定の空隙11Aが存在するので、受入孔11の内面から軸部2への熱伝達はわずかなものとなり、軸部2の低温状態が維持される。
図2は、可動電極10が進出して溶着用突起4の頂部16が鋼板部品9の表面に接触した段階であり、可動電極10の端面14は拡径部3の軸部側の端面に密着している。この密着状態で加圧が開始され、0.3秒間の加圧後に溶接電流が通電される。この溶接条件は、前述のように加圧力は2200N、溶接電流は11000A、通電時間は12サイクルである。上記0.3秒間の加圧がなされているときに可動電極10の残留熱によって拡径部3が加熱されるが、軸部2までは0.3秒という短時間であるからほとんど加熱されない状態となっている。また、軸部2は受入孔11内に空隙11Aをおいて挿入されているので、この空隙11Aが断熱層になって昇温の度合いはわずかである。
この0.3秒間の加圧終了後に上記条件で溶接電流が通電される。この通電によって溶着用突起4や鋼板部品9が溶着用突起4の面積相当箇所において溶融し、図3(E)に示す中央部の溶着がなされる。この溶着における溶融熱は塑性変形部7を経由して拡径部3に伝えられるが、拡径部3は可動電極10の残留熱ですでに加熱されているので、溶融熱は主として体積の小さい塑性変形部7と拡径部3を経由して、温度が低くて体積の大きな軸部2の方へ伝熱される。したがって、低温状態の軸部2に溶融熱が蓄熱される現象がえられて、鋼板部品9の過剰溶融が防止される。
換言すると、熱容量が大きくて低温の軸部2が、一種の冷やし金の役割を果たすように、塑性変形部7の小体積が機能しているのである。つまり、塑性変形部7の役割は、拡径部傾斜面6を確実に鋼板部品の表面9Aに密着させたり、溶着部分17の厚さを確保したりすることであり、他方、溶融部7Aや軟化部7Bの一部は溶着部分17に包含されるが、塑性変形部7の体積を小さく設定しているので、塑性変形部7における蓄熱熱量はわずかな量となる。したがって、溶融熱の主な熱流は可動電極の端面14で予熱されている拡径部3を経由して、低温の軸部2に到達することとなる。
上記加圧時間は0.3秒であるが、種々な条件を考慮して、0.2〜0.8秒とすることができる。
上述のように、昇温が緩慢であるとともに熱容量の大きな軸部2の方へ迅速に溶融熱を流すために、塑性変形部7の体積を溶着用突起4の体積よりも小さくしてある。こうすることにより、溶融熱は熱容量の小さい塑性変形部7や予熱されている拡径部3において滞留することなく迅速に低温の軸部2へ伝熱され、鋼板部品9におよんでいる溶融熱を効率的に軸部2へ流すこととなる。このような熱流によって、鋼板部品9における過剰溶融が抑制され、板厚全域にわたる異常溶融が防止される。
なお、拡径部3の体積を小さくして軸部2への熱移動を促進することも考えられるが、拡径部3自体は拡径部傾斜面6が鋼板部品9に密着して溶接強度、特に曲げ衝撃力に対する強度を維持するために、所定の厚さを付与する必要がある。したがって、拡径部3の体積の少量化は困難なこととなる。また、拡径部3の端面を可動電極の端面14が加圧するので、拡径部3自体に所定の強度を持たせる必要があり、このような理由からも拡径部3の体積の少量化が困難になる。
上記空隙11Aについて説明すると、軸部2のねじ山の直径が5mmであり、受入孔11の内径が5.3mmである。したがって、軸部2が偏心していなければ、全周にわたって0.15mmの空隙が確保され、この部分が断熱層の役割を果たしている。もし、軸部2が偏心していて受入孔11の内面に接触していても、空隙11Aの断熱層としての機能はわずかに低減するだけで、実質的には問題にならない値である。
以上に説明した実施例の作用効果を列記すると、つぎのとおりである。
前記溶着用突起4が鋼板部品9に加圧されると、初期溶融部4Aのテーパ部15の先端部分が鋼板部品9の表面にわずかに食い込んで、溶着用突起4と鋼板部品9の接触面積16Aが増大する。このような状態で溶接電流が通電されると、前記の増大した接触面積全域の温度上昇がなされ、その後、所定温度に達すると溶融が開始される。このように大きな接触面積部分16Aが溶融を開始するので、確実な溶融開始が確保できる。そして、広い面積部分が溶融開始をするので、未溶融域への溶融拡大が確実になされ、通電初期の段階で初期溶融部4Aがその全域にわたって溶融する。
この溶融は、初期溶融部4Aにテーパ傾斜角θ2の小さなテーパ部15が形成されているので、加圧にともなって直径方向に放射状のほぼ平面的な溶融範囲17が円形に拡大してゆく。このような初期溶融部4Aの全域溶融は、主溶融部4Bの円形断面全体の溶融に移行してボルト1の軸線方向に溶融が進行する。このような溶融進行が完了する時期には、溶着用突起4の面積範囲で鋼板部品9においても溶融が進行している。この時期に通電が停止されることにより、溶融範囲17が溶着用突起4の領域に限定された状態となる。そして、前記加圧によって溶着用突起4の外周側の端面、すなわち拡径部傾斜面6が鋼板部品9の表面に密着する。
上述のように、初期溶融部4Aの全面的な溶融が主溶融部4Bの円形断面全体の溶融と化してボルト1の軸線方向に進行するものであるから、それにともなって鋼板部品9側に生じる溶融は溶着用突起4の領域に限定されたものとなる。このように限定された溶融であるから、鋼板部品9側の溶融深さL2が大きくなり溶接強度が向上する。同時に、溶着用突起4の外周側の拡径部傾斜面6が鋼板部品の表面9Aに密着するので、中央部における十分な溶接強度と前記密着が複合して、ボルト1の傾きのない高い溶接強度が確保できる。したがって、曲げ荷重が作用したりしても、容易に溶着部が剥離するようなことがない。さらに、溶着用突起4だけを溶融させる通電条件であるから、溶着用突起4の体積に適合した電流値や通電時間などの通電条件を設定すればよく、通電条件を設定する因子が単純化されて通電制御が行いやすくなり、溶接品質が安定する。同時に、電力消費が少なくなって経済的である。
すなわち、中央部における溶融深さL2の大きな溶着状態が狭い領域において形成され、この溶着部分17から離隔した拡径部3の周縁部分までの端面領域が鋼板部品に密着している。したがって、溶接強度は中央部において確保され、曲げ荷重に対しては前記密着と中央部の溶着によって高い剛性が得られる。
前記塑性変形部7は、前記拡径部傾斜面6の傾斜角θ1に応じた厚さを有する中央部の円形の溶融部7Aと、前記基部5から外周部に向かって厚さが次第にうすくなる環状の軟化部7Bとによって構成されている。溶着用突起4だけが溶融されてもそれに連なる塑性変形部7の溶融部7Aも溶融状態になり、この溶融熱が前記軟化部7Bに伝熱されてこの部分が軟化する。加圧力は継続的に作用しているので、軟化部7Bの金属材料が中央の溶融部分の方へ流動しながら、拡径部傾斜面6、すなわち軟化部7Aの端面が鋼板部品の表面9Aに密着してゆく。
上記の軟化部7Aの金属材料は、加圧によって外周側に流動しようとするが、その反力によって中央の変形性のある溶融部分の方へ流動し、前記密着がなされるのである。このとき中央の溶融部分に対して外周側から金属材料の流動圧が作用するので、溶融部分はボルトの軸方向に拡大成長し、それによって鋼板部品9の溶融深さL2が増大する。そして、軟化部7Bは溶融部7Aに近い厚さの大きな部分の方が外周側に比して高温であるから、肉厚の大きな箇所の変形性が十分に得られ、溶融部7A側への金属材料の流動が良好に確保できる。このような金属材料の流動現象は、軟化部7Bの体積が溶融部7Aの体積よりも大きく設定されていることによって、良好になされている。つまり、軟化部7Bの溶融部7Aに対する熱容量が大きくなり、軟化部7Bは溶融部7Aからの加熱で溶融状態にいたることがなく、軟化促進に適した加熱を受けることになる。最終的には、溶融部7Aや軟化部7Bの一部は、溶着箇所17に包含された状態となる。
上述のような塑性変形部7の溶融と変形挙動であるから、溶着用突起4の領域に限定された部分の溶融が形成され、しかもその溶融深さL2が溶接強度面で十分な値になる。また、軟化部7Bは溶着用突起4や溶融部7Aの溶融熱で加熱されているので、その変形性が良好なものとなり、拡径部傾斜面6が鋼板部品の表面9Aに確実に密着する。
特に重要な作用効果について説明する。
前記塑性変形部7の体積が溶着用突起4の体積よりも小さく設定されているので、溶着用突起4から鋼板部品9に及ぶ溶融が鋼板部品9の厚さ方向において所定の溶融深さに達すると、その後は直ちに溶融熱を前記軸部側に伝達することができる。すなわち、溶着用突起4や鋼板部品9における溶融熱は鋼板部品9が載置されている固定電極13側にも伝熱されるが、他方、塑性変形部7から拡径部3を経て軸部2の方へ伝達される。この軸部2側への熱伝達の途上で塑性変形部7を経由するのであるが、塑性変形部7の体積が溶着用突起4の体積よりも小さく設定されているので、塑性変形部7の熱容量が小さくなり、塑性変形部7を通過する熱流が迅速に拡径部3ないしは軸部2に対してなされる。
とくに、反復継続的に行われる溶接によって、固定電極13や可動電極10の温度は高温化しているのであるが、電極に保持されるボルト1は常温状態であり、しかもボルト1の軸部2の昇温が拡径部3よりも大幅に緩慢であるから、前記溶融熱をいち早く軸部2へ伝達することが、鋼板部品9の過剰溶融を防止する点で得策である。このような観点から、塑性変形部7の体積を溶着用突起4の体積よりも小さくなるように設定し、塑性変形部7における熱滞留を最小化して熱流を迅速化し、低温である軸部2側への熱流を促進している。すなわち、低温状態の熱容量の大きな軸部2に溶融熱を蓄熱させることによって、溶融熱を効果的に軸部2へ伝熱し、鋼板部品9の過剰溶融が回避されているのである。拡径部3は可動電極10の端面14で加圧されるので、可動電極10の残留熱により短時間のうちに加熱されるが、軸部2は受入孔11内に空隙11Aをおいて挿入されているので、通電前における軸部2の温度は拡径部3よりも低く維持されている。このような低温状態の軸部2が蓄熱部材として活用されている。
上記のように溶着用突起4および鋼板部品9における溶融熱が早期の内に軸部2の方へ伝熱されるので、鋼板部品9における溶融域が板厚全体に及ぶようなことがなく、例えば、溶融深さL2が板厚の1/2〜2/3となり、残余の部分は溶融していない板材となる。このような溶融域状態のボルト1について前述のような曲げ衝撃テストや引っ張りテストを行った結果、良好な溶接強度がえられた。これは、溶融深さL2がこのような領域であると、溶融しなかった鋼板部分が鋼板自体の強度を維持するとともに、溶融部分と非溶融部分の境界面積が広くなって溶融部分と非溶融部分との接合強度が十分に確保できるためであると考えられる。
さらに、前記拡径部傾斜面6の傾斜角θ1がテーパ傾斜角θ2よりも小さく設定されているので、塑性変形部7の体積を溶着用突起4のそれよりも小さくすることが行いやすくなるとともに、拡径部傾斜面6が鋼板部品9の表面に密着しやすくなる。上述のように、軟化部7Bの金属材料は、加圧によって外周側に流動しようとするが、その反力によって中央の変形性のある溶融部分の方へ流動し、前記密着がなされるのであるが、拡径部傾斜面6の傾斜角θ1がテーパ傾斜角θ2よりも小さく設定されているので、軟化部7Bの金属材料が溶融部7A側に流動すると、直ちに拡径部傾斜面6が鋼板部品の表面9Aに密着する。したがって、密着不足といった現象が皆無となる。
前記テーパ傾斜角θ2は、加圧によって適度の食い込みが鋼板部品表面9Aに対してなされるように設定されている。このように設定されたテーパ傾斜角θ2よりも拡径部傾斜面6の傾斜角θ1を小さく設定するということは、塑性変形部7の体積を溶着用突起4のそれよりも小さくすることを確実に行って軸部2側への熱移動を促進することと、小さな拡径部傾斜面6の傾斜角θ1によって、より一層鋼板部品表面9Aへの密着性を確実化している。換言すると、もしも拡径部傾斜面6の傾斜角θ1がテーパ傾斜角θ2よりも大きければ、塑性変形部7の体積を溶着用突起4のそれよりも小さくすることが不可能となる虞があり、また、拡径部傾斜面6が鋼板部品表面9Aに密着しにくくなる、という問題が発生する。さらに、もしも拡径部傾斜面6の傾斜角θ1がテーパ傾斜角θ2よりも大きければ、塑性変形部7の体積を小さくすることが行いにくくなるので、塑性変形部7に溶融熱が滞留しやすくなる。このため、軸部2に向かう熱流が塑性変形部7において阻害され、軸部2を蓄熱部材として十分に活用できないこととなる。
前記軟化部7Bの体積が前記溶融部7Aの体積よりも大きく設定されている。
軟化部7Bは溶融部7Aに近い厚さの大きな部分の方が外周側に比して高温であるから、肉厚の大きな箇所の変形性が十分に得られ、溶融部7A側への金属材料の流動が良好に確保できる。このような金属材料の流動現象は、軟化部7Bの体積が溶融部7Aの体積よりも大きく設定されていることによって、良好になされている。つまり、軟化部7Bの溶融部7Aに対する熱容量が大きくなり、軟化部7Bは溶融部7Aからの加熱で溶融状態にいたることがなく、軟化促進に適した加熱を受けることになる。
前記拡径部傾斜面6の外周側に傾斜のない平面部3Aが設けられている。このような平面部3Aも鋼板部品9の表面9Aに密着して、前述のような作用効果を発揮する。
溶接方法の実施例における作用効果は、プロジェクションボルトの実施例における作用効果と同じである。