JP5633399B2 - 塗膜密着性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、海水、大気等の腐食環境に曝される、土木・建築、橋梁、船舶、建設機械、とくに海洋構造物等の各種鋼構造物用素材として好適な、塗装を施されて使用される鋼材に係り、とくに鋼材表面に形成された塗膜の密着性向上、さらには塗膜の寿命延長に関する。
土木・建築、橋梁、船舶、建設機械、とくに海洋構造物等の各種鋼構造物用素材として利用される鋼材は、通常、少なくとも熱間圧延工程を経て、所定の寸法形状の製品とされて、使用されている。熱間圧延工程を施された後の鋼材の表面には、スケールと称される酸化物層が形成されている。このスケールは、鋼材(地鉄)との密着性が低く、熱間圧延し冷却した後に、ローラ矯正やプレス矯正などにより歪が付加されると、容易に剥離したり、クラックを生じて容易に剥離しやすい状態となる。このような状態のスケールが付着した鋼材に、防錆のため塗装を施すと、塗膜の密着性が低く、塗膜が容易に剥離し、塗膜寿命が短いという問題がある。
このような問題に対し、例えば特許文献1には、「塗膜密着性に優れた形鋼の製造方法」が記載されている。特許文献1に記載された技術では、C:0.03〜0.22%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.2〜1.6%、Al:0.003〜0.09%、Mo:0.01〜0.7%を含む鋼片に、粗圧延機、中間圧延機で熱間圧延後、高圧水を、衝突圧力が2.5kg/cm以上で、衝突回数が同じ場所に対して5s以内に2回以上となるように噴射・衝突させてデスケーリングを施してから仕上げ圧延機で、圧延温度700〜1000℃、圧下率15%以下の熱間仕上げ圧延を行い、圧延直後に、形鋼表面に、好ましくは機械的打撃により微細な凹凸を付与して、形鋼の表面粗度を調整し、その直後に、形鋼表面に高圧水を噴射・衝突させてデスケーリングを施し、あるいは施すことなく、0.5〜20℃/sの冷却速度で500℃以下に冷却する。特許文献1に記載された技術では、Siを適正範囲に限定しスケールと地鉄との密着性を向上させるとともに、仕上げ圧延直後に機械的打撃を行って微細な凹凸を形成し、表面に厚みが15μm以下で表面粗度(Rz)が40〜100μmのタイトスケールを形成して、塗膜密着性に優れるとともに、機械的性質、溶接性にも優れた形鋼としている。
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、スケールを残存させたまま、塗装を行うことを前提としており、疵部や端部で膨れが進展するなど、必ずしも十分な塗膜密着性を確保できておらず、所望の塗膜寿命を十分に保持できないという問題があった。
また、特許文献2には、棒鋼に、前処理としてブラスト処理を施し、棒鋼表面の酸化被膜を除去したのち、クローメート被膜を形成するクロメート処理を施したのち、さらに合成樹脂塗膜を形成する「耐食性棒鋼の製造方法」が記載されている。これにより、棒鋼と合成樹脂被膜との密着性(塗膜密着性)が向上し、耐食性が高まるとしている。
しかし、特許文献2に記載された技術では、クロメート処理液を扱うために、Cr6+を含有する処理液の廃液処理などを必要とし、廃液処理設備の建設や、環境への配慮が必要になるといった問題がある。
また、特許文献3には、亜鉛系めっき鋼材に熱間プレスを施して鉄−亜鉛固溶相を含む亜鉛系めっき層およびその上に酸化亜鉛層を備えた熱間プレス品とする工程と、得られた熱間プレス成形品の最表層の酸化亜鉛層の平均膜厚が2μm以下となるように当該酸化亜鉛層の一部または全部を除去する工程を含む熱間プレス成形品の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術では、酸化亜鉛層の一部または全部を除去する工程として、平均粒径が100〜500μmの鋼球をショット弾として使用するショットブラストを施す工程とすることが好ましいとしている。
特開平09−272951号公報 特開2002−220679号公報 特開2004−323897号公報
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、ショットブラスト処理で使用するショット弾が細かく、処理により形成される鋼材表層の凹凸が小さくなるため、薄い被膜(酸化層)の除去には有効であるが、厚い被膜(酸化層)の除去については効果が少ないという問題がある。また、この技術では、鋼材表層に形成される凹凸が小さいため、重防食被覆を施すような場合には、塗膜密着性が十分に向上するまでには至らないという問題がある。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、塗膜密着性に優れた鋼材の製造方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう「鋼材」には、鋼板、鋼帯、厚鋼板、形鋼、棒鋼、鋼管等が含まれる。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、塗膜密着性に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、熱間圧延後の鋼材の表面に形成された酸化膜を除去するために、従来から用いられていたブラスト処理に工夫を加えることにより、塗膜の密着性が顕著に向上することを見出した。ブラスト処理を、粒径の異なる投射粒子を用いて、2回、しかも、1回目のブラスト処理を、所定範囲内の平均粒径を有する投射粒子を用いて行い、続く2回目のブラスト処理を、該1回目のブラスト処理で使用した投射粒子の1/2以下の平均粒径を有する投射粒子を用いて行うことにより、鋼材の表面性状が適正化され、厚い塗膜を形成する重防食被覆においても、塗膜密着性が顕著に向上するという知見を得た。
上記したように、2回目の投射粒子を、1回目の投射粒子の粒径に比べて細かい所定の粒径を有する投射粒子とする、2段階のブラスト処理を施すことにより、処理後の鋼材の表面は、1回目のブラスト処理により形成された大きな凹部の内面に、微細な凹凸が形成され、さらに、1回目のブラスト処理により形成された凸部の平坦化が進んだ、表面形状を呈するようになる。この表面性状を断面で、1回のみブラスト処理を施された鋼材(従来材)と対比して、図1に示す。このような断面形状(表面性状)を有する鋼材(本発明鋼材)とすることにより、従来のような方法(1回のブラスト処理)で形成された表面性状を有する鋼材(従来材)に比べて、塗膜の密着性が顕著に向上することを知見した。
またさらに、使用する鋼材を、特定な組成に限定したうえで、鋼材表面に、上記したような、2段階のブラスト処理を施すことにより、塗膜寿命の顕著な向上が認められることを知見した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)鋼材表面に、ブラスト処理を施し、塗膜密着性に優れた鋼材とするに当たり、前記鋼材を、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.10〜0.60%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下、N:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼材とし、前記ブラスト処理を、第一のブラスト処理と第二のブラスト処理とを順次施してなる処理とし、前記第一のブラスト処理を、平均粒径が0.40〜1.0 mmの投射粒子を前記鋼材表面に衝突させ、該鋼材表面の表面粗さをRz JIS で40〜100μmとする処理とし、前記第二のブラスト処理を、前記第一のブラスト処理で使用した投射粒子の平均粒径の1/2以下の平均粒径を有する投射粒子を前記第一のブラスト処理を施した前記鋼材表面に衝突させ、該鋼材表面の表面粗さをRz JIS で20〜80μmとする処理と、することを特徴とする鋼材の製造方法。
(2)()において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする鋼材の製造方法。
)(1)または(2)に記載の鋼材の製造方法により製造されてなる鋼材。
)鋼材表面に、ブラスト処理を施されてなる鋼材であって、前記鋼材が、質量%で、 C:0.01〜0.15%、Si:0.10〜0.60%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下、N:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼材であり、前記ブラスト処理が、平均粒径が0.40〜1.0 mmの投射粒子を衝突させる第一のブラスト処理と、該第一のブラスト処理で使用した投射粒子の平均粒径の1/2以下の平均粒径の投射粒子を衝突させる第二のブラスト処理とを順次施す処理であり、鋼材表面の表面粗さがRz JISで20〜80μmであることを特徴とする鋼材。
(5)()において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする鋼材。
本発明によれば、塗膜密着性に優れた鋼材を、安価にしかも容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。本発明によれば、塗膜密着性が向上し、とくに厚鋼板におけるような重防食被覆を施すような場合においても、塗膜寿命の顕著な向上が認められるという効果もある。
本発明鋼材と従来材の断面形状を比較して模式的に示す説明図である。
本発明では、鋼材表面に、第一のブラスト処理と第二のブラスト処理とからなる2段階のブラスト処理を施し、塗膜密着性に優れた鋼材とする。本発明で用いる2段階のブラスト処理では、第二のブラスト処理を、第一のブラスト処理で使用した投射粒子の粒径より小さい粒径を有する投射粒子を用いる処理とする。これにより、鋼材の表面性状を、塗膜密着性向上に有効な、凹凸を有する表面、すなわち大きな凹部の内面に、微細な凹凸が形成され、さらに、大きな凸部の平坦化が進んだ、表面形状を呈する表面とすることができる。
第一のブラスト処理は、鋼材表面に、平均粒径が0.40〜1.0 mmの投射粒子を衝突させる処理とすることが好ましい。投射粒子の平均粒径が0.40mm未満では、投射粒子の粒径が小さすぎて、表層のスケールを効率的に除去できず、さらに所望の表面粗さを安定して確保できない。一方、投射粒子の平均粒径が1.0mmを超えて大きくなると、鋼材表面の凹凸が著しくなり、塗膜密着性が低下するとともに、塗膜が薄い場合、特に塗膜欠陥の発生が顕著となりやすい。このようなことから、第一のブラスト処理で使用する投射粒子の平均粒径を0.40〜1.0 mmの範囲に限定した。なお、より好ましくは0.7〜0.9mmである。
ここで、投射粒子の平均粒径は、JIS Z 8801に規定される試験用ふるいを用いて測定した値を用いるものとする。すなわち、目開きの大きいふるいが上段になるように重ね、最上段のふるいに、測定する粉末を投入し機械振動を与える。そして、各々のふるい上に残った粉末の重量を量り、粒径の重量分率を算出する。そして、重量が50%となる粒径D50を平均粒径とした。
なお、本発明のブラスト処理で使用する投射粒子は、とくに限定する必要はなく、常用のものがいずれも使用可能であるが、その形状は、より球形に近いものとすることが好ましく、またその硬さは、対象鋼材より硬いものとすることが好ましい。例えば、カットワイヤ、スチールグリッド、スチールショット、スラグ、アルミナ、ケイ砂、ガラスビーズ等が例示できる。
スチール素材としてはJIS Z 0311に規定される「ブラスト処理用金属系研削材」を用いることが好ましい。したがって、使用する投射粒子としては、粒子形状と硬さの点からスチールショットとすることが最も好ましい。
そして、上記した第一のブラスト処理により、鋼材表面の表面粗さをRz JISで40〜100μmとすることが好ましい。このような表面粗さとすることにより、塗膜液を塗布した際に、塗膜液の垂れを防止し、所望の厚い塗装被覆を行うことができる。なお、ここでは、表面粗さは、JIS B 0601−2001の規定に準拠して測定された、十点平均粗さRz JISを用いて表示するものとする。
第一のブラスト処理により形成される鋼材表面の表面粗さが、Rz JISで40μm未満では、第一の処理で形成される凹凸が小さすぎて、引続いて施される第二のブラスト処理により得られる、凹部内面に形成される微細な凹凸形成による、塗膜密着性向上効果が十分に得られなくなる。一方、100μmを超えて粗くなると、凹凸が大きくなりすぎて塗膜密着性が低下し、所望の塗膜密着性を確保できなくなる。このため、第一のブラスト処理後の鋼材表面の表面粗さは、Rz JISで40〜100μmの範囲に限定した。なお、より好ましくはRz JISで50〜80μmである。
なお、第一のブラスト処理では、投射(ショット)条件はとくに限定する必要はない。上記した範囲内の粒径(平均)を有する投射粒子を、鋼材表面が上記した表面粗さとなるように、適宜、投射(ショット)条件を調整して、鋼材表面に衝突させることが好ましい。
また、第二のブラスト処理では、第一のブラスト処理で使用した投射粒子の粒径の1/2以下と、小さい平均粒径を有する投射粒子を用いることが好ましい。使用する投射粒子を、第一のブラスト処理で使用した投射粒子の粒径の1/2より大きな粒径の粒子とすると、大きな凹部内面に所望の微細な凹凸を十分に形成された表面性状とすることが困難となり、所望の塗膜アンカー効果を得ることが難しくなる。また、第一のブラスト処理で形成された大きな凸部の平滑化を達成することが難しくなり、所望の塗膜アンカー効果を得ることが困難となり、所望の塗膜密着性の向上、所望の塗膜寿命の延長を期待できなくなる。このようなことから、第二のブラスト処理で使用する投射粒子の平均粒径は、第一のブラスト処理で使用した投射粒子の粒径の1/2以下に限定した。
なお、より好ましくは1/3以下である。
なお、第二のブラスト処理では、使用する投射粒子の粒径を規定する以外は、投射(ショット)条件を特に限定する必要はない。所要の表面粗さが得られるように適宜条件を調整することが好ましい。
また、本発明では第二のブラスト処理により、鋼材表面の表面粗さを、Rz JISで20〜80μmとすることが好ましい。このような表面性状とすることにより、微細な凹凸による塗膜のアンカー効果が顕著となり、塗膜密着性が顕著に向上する。鋼材表面の表面粗さが、Rz JISで20μm未満では、塗膜密着性が著しく低下する。一方、鋼材表面の表面粗さが80μmを超えて大きくなると、凹部の内面に、微細な凹凸が十分に形成されないため、塗膜密着性向上効果が少ない。このため、第二のブラスト処理による、鋼材表面の表面粗さはRz JISで20〜80μmの範囲に限定した。なお、より好ましくはRz JISで30〜60μmである。
なお、投射粒子の投射条件としては、第一のブラスト処理および第二のブラスト処理においても、所望の表面粗さの確保、生産性の向上という観点から、投射密度:80〜200kg/m、投射速度:60〜100 m/s、投射距離:300〜1000 mmの範囲とすることが好ましい。
投射密度が80 kg/m未満では、脱スケール性が低下する。一方、200 kg/mを超えて多くなると、所望の鋼材表面粗さを達成できなくなる。
また、投射速度が60 m/s未満では、投射速度が遅すぎて所望の表面粗さを安定して確保できない。一方、100 m/sを超えて速くなると、鋼板表面への歪の蓄積が大きく、表面が硬化して加工が困難となる。
また、投射距離が300mm未満では、部分的にしかショット(投射粒子)が強く当たらないため、表層の硬さ分布が不均一となる。一方、1000 mmを超えて長くなると、ショット(投射粒子)を効率よく行えず、スケール除去に長時間を要することとなる。
そして、本発明では、上記したブラスト処理を、特定組成の鋼材に施すことが、塗膜寿命の延長という観点、さらには耐食性向上の観点から好ましい。
上記したブラスト処理を施す鋼材は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.10〜0.60%、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下、N:0.01%以下を含み、あるいはさらに、Cu:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼材とすることが望ましい。
つぎに、使用する鋼材の好ましい組成範囲限定の理由について説明する。以下、とくに断わらない限り、質量%は、単に%で記す。
C:0.01〜0.15%
Cは、鋼材の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために、0.01%以上、含有することが好ましい。一方、0.15%を超える含有は、鋼材を硬質化し、溶接性を低下させる。このため、Cは0.01〜0.15%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02〜0.10%である。
Si:0.10〜0.60%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するためには、0.10%以上含有することが好ましい。Siは、加熱時の酸化に際し、地鉄とスケール界面にファイアライトを生成し、スケールと地鉄との密着性を増加させる作用を有するが、0.60%を超える多量の含有は、地鉄とスケールとの界面厚さが増大しすぎて、ローラ矯正、プレス矯正時に、スケールの割れ、剥離が顕著となる。このため、Siは0.10〜0.60%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.20〜0.40%である。
Mn:0.2〜1.8%
Mnは、固溶して鋼材の強度を増加させるとともに、靭性を向上させる作用を有する元素である。また、MnはSと結合しMnSを形成し、鋼材表面および鋼中でのSの悪影響を抑制する作用を有する。このような効果を得るためには、Mnは0.2%以上の含有を必要とする。一方、1.8%を超える含有は、溶接性を低下させ、機械加工性を低下させる。このため、Mnは0.2〜1.8%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.4〜1.5%である。
P:0.03%以下
Pは、鋼材の強度を増加させる作用を有するが、粒界に偏析し、二次加工脆性の原因となり、鋼材の加工性を低下させる。このため、加工性向上の観点からはできるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は精錬コストを高騰させる。このため、0.005%程度以上とすることが望ましい。また、このような加工性の低下は0.03%を超える含有で顕著となる。このため、Pは0.03%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02%以下である。
S:0.02%以下
Sは、地鉄とスケールとの界面にFeSを形成して、スケールの密着性を低下させる元素であり、できるだけ低減することが望ましい。0.02%を超える多量の含有は、スケールの密着性を顕著に低下させる。このため、Sは0.02%以下に限定することが好ましい。
Al:0.10%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒を微細化する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが好ましいが、0.10%を超える含有は、酸化物系介在物が増加し、鋼材の清浄度が低下する。このため、Alは0.10%以下に限定することが好ましい。
N:0.01%以下
Nは、固溶して鋼材の強度を増加させるが、多量の含有は溶接性を低下させる。溶接性の観点からはNは、できるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は精錬コストを高騰させるため、0.001%程度以上とすることが好ましい。一方、0.01%を超えて多量に含有すると、鋼材が硬質化し、靭性が低下するとともに、溶接性が低下する。このため、Nは0.01%以下に限定することが好ましい。
上記した成分が基本の成分であるが、基本の組成に加えてさらに、Cu:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。
Cu、Ni、Mo、Wはいずれも、耐食性向上、塗膜寿命延長に有効に寄与する元素であり、必要に応じて、1種または2種以上を選択して含有できる。このような効果は、Cu:0.01%以上、Ni:0.1%以上、Mo:0.05%以上、W:0.01%以上の、それぞれの含有で認められるが、Cu:0.5%、Ni:2.0%、Mo:0.5%、W:0.5%を、それぞれ超える含有は、鋼が硬質化し靭性が低下して、製造性が低下するとともに、鋼材価格の高騰を招く。このため、含有する場合にはそれぞれ、Cu:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
なお、不可避的不純物としては、O:0.005%以下、Mg:0.005%以下、REM:0.005%以下、B:0.005%以下、Ca:0.005%以下がそれぞれ許容される。
上記した組成を有する鋼材の製造方法は、通常公知の方法がいずれも適用可能であり、とくに限定されない。
例えば鋼材が、厚鋼板の場合には、上記した組成の溶鋼を、転炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の常用の方法でスラブ等の鋼素材としたのち、鋼素材を加熱し、厚板圧延(熱間圧延)を施し、冷却、あるいはさらに矯正等を施して所望の寸法形状の厚鋼板とする。なお、厚板圧延では、通常の圧延に加えて、制御圧延、制御冷却等を適用して所望の強度、靭性等の特性を付与することもできる。
また、鋼材が、形鋼の場合には、上記した組成の溶鋼を、転炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の常用の方法でブルーム等の鋼素材としたのち、鋼素材を加熱し、形鋼圧延(熱間圧延)を施し、冷却、あるいはさらに矯正等を施して所望の寸法形状の、H形鋼、鋼矢板等の形鋼とする。形鋼圧延は、通常の圧延方法がいずれも適用可能である。また、鋼材が棒鋼である場合も同様で、通常の棒鋼圧延を適用して所望の寸法形状の棒鋼とすることができる。
以下、実施例に基づいて、さらに本発明について詳細に説明する。
表1に示す組成の鋼材(U型鋼矢板:有効幅600mm×有効高さ180mm×厚さ13.4mm)を素材とした。素材として、上記した組成を有する鋼素材(ブルーム)を加熱し、通常の形鋼圧延(熱間圧延)により上記した寸法のU型鋼矢板に圧延されたものを用いた。素材表面には酸化スケールが付着している。
素材(鋼材)から試験材(長さ:150mm)を採取し、該試験材に、ブラスト処理、塗装前処理、塗装処理を、順次施し、塗装鋼材(塗装試験材)とした。
なお、ブラスト処理では、素材を予熱(50〜60℃)したのち、ブラスト処理を行った。ブラスト処理では、試験材(素材)の片面に、表2に示す平均粒径の投射粒子を用い、第一のブラスト処理と、それに続く、第二のブラスト処理とを、順次施した。なお、同一条件のブラスト処理を3個の試験材について施し、結果はそれらの算術平均で示した。なお、従来例として、ブラスト処理を1回のみとした例も実施した。
投射粒子の平均粒径は、JIS Z 8801に規定の試験用ふるいを用い、上記した方法でD50を算出して求めた。また、投射粒子には、JIS Z 0311に規定される高炭素鋳鋼ショットを用いた。
ブラスト処理後、試験材(素材)表面の表面粗さを測定した。表面粗さの測定は、JIS B 0601−2001の規定に準拠して、触針式表面粗さ計を用い、試験材の圧延方向(長手方向)に沿って測定し、十点平均粗さRz JISで表示した。
また、塗装前処理は、ブラスト処理済みの試験材(素材)表面(片面)に、板温:100℃でクロメート処理液(商品名:関西ペイント(株)製コスマー100)をスプレー塗布し、板温:100℃で焼き付ける処理とした。また一部の試験材では、ブラスト処理済みの試験材(素材)表面に、ノンクロメート処理液(商品名:日本ペイント(株)製サーフコートCM 1706)をスプレー塗布し、板温:110℃で焼き付ける処理とした。
また、塗装処理は、前処理済みの試験材(素材)表面(片面)に、ポリウレタン塗装を施す処理とし、塗装厚さ:2.5mmとした。ポリウレタン塗装は、二液反応型ポリウレタン(商品名:第一工業製薬(株)製パーマガード137)を用い、試験材(素材)に無溶剤スプレー塗布する処理とした。なお、塗装面は片面とし、他の面は無塗装面となる。
ついで、得られた該塗装試験材について、初期密着性試験、接着性試験、耐剥離性試験を実施し、塗膜の密着性を評価した。試験方法は次の通りとした。
(1)初期密着性試験
初期密着性試験として、剥離強度試験を実施した。得られた塗装試験材の塗膜表面に、剛体棒(鉄製ピン:10mmφ)を接着し、塗膜に対して垂直に引張り荷重を負荷し、塗膜が剥離するときの荷重を求め、剥離強度(N/mm)を算出し、塗膜の初期密着性を評価した。
(2)接着性試験
接着性試験として、温度勾配試験を実施した。得られた塗装試験材から両面サンプル片を採取し、該両面サンプル片を、片面(塗装面)が80℃の溶液に接し、他の面(無塗装面)が70℃の溶液に接するように、60日間、溶液に浸漬したのち、塗膜表面に、剛体棒(鉄製ピン:10mmφ)を接着し、塗膜に対して垂直に引張り荷重を負荷し、塗膜が剥離するときの荷重を求め、剥離強度(N/mm)を算出し、塗膜の接着性を評価した。
(3)耐剥離性試験
耐剥離性試験として、陰極剥離試験を実施した。得られた塗装試験材からサンプル片を採取し、地金に達するまでの5mmφの初期穴を形成して、液温:60℃の3%NaCl溶液中で、負荷電圧:−1.5V(対SCE)として、60日間浸漬したのち、最大5点の剥離幅(mm)を測定し、その算術平均値を、その塗装試験材の剥離距離とし、塗膜の耐剥離性を評価した。
得られた結果を、表3に示す。
Figure 0005633399
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本発明例は、剥離強度が高く、塗膜の初期密着性に優れるうえ、温度差のある溶液中に浸漬されたのちにも、高い剥離強度を有し、塗膜の接着性に優れ、かつ塗膜の耐剥離性にも優れた鋼材となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、塗膜の初期密着性が低いか、温度差のある溶液中に浸漬されたのちに、剥離強度が低下し、塗膜の接着性が低下しているか、あるいは、塗膜の耐剥離性が低下している。

Claims (5)

  1. 鋼材表面に、ブラスト処理を施し、鋼材とするに当たり、
    前記鋼材を、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:0.10〜0.60%、
    Mn:0.2〜1.8%、 P:0.03%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.10%以下、
    N:0.01%以下
    を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼材とし、
    前記ブラスト処理を、第一のブラスト処理と第二のブラスト処理とを順次施してなる処理とし、
    前記第一のブラスト処理を、平均粒径が0.40〜1.0 mmの投射粒子を前記鋼材表面に衝突させ、該鋼材表面の表面粗さをRz JIS で40〜100μmとする処理とし、
    前記第二のブラスト処理を、前記第一のブラスト処理で使用した投射粒子の平均粒径の1/2以下の平均粒径を有する投射粒子を前記第一のブラスト処理を施した前記鋼材表面に衝突させ、該鋼材表面の表面粗さをRz JIS で20〜80μmとする処理と、することを特徴とする鋼材の製造方法。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項に記載の鋼材の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の鋼材の製造方法により製造されてなる鋼材。
  4. 鋼材表面に、ブラスト処理を施されてなる鋼材であって、
    前記鋼材が、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:0.10〜0.60%、
    Mn:0.2〜1.8%、 P:0.03%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.10%以下、
    N:0.01%以下
    を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼材であり、
    前記ブラスト処理が、平均粒径が0.40〜1.0 mmの投射粒子を衝突させる第一のブラスト処理と、該第一のブラスト処理で使用した投射粒子の平均粒径の1/2以下の平均粒径の投射粒子を衝突させる第二のブラスト処理とを順次施す処理であり、鋼材表面の表面粗さがRz JISで20〜80μmであることを特徴とする鋼材。
  5. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:2.0%以下、Mo:0.5%以下、W:0.5%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項に記載の鋼材。
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