上記の動力伝達装置では、動力伝達チェーンが破断した場合、これに伴って、ドライブピンが両シーブ間に挟持された状態でプーリの径方向外方に移動してプーリから外れる可能性がある。この際、プーリ外周面とケース内周面との間の隙間が小さいと、ドライブピンが両シーブ間に挟持されたまま、このドライブピンに固定されたリンクの外周面がケースの内周面に接触することがあり、この場合に、プーリの回転が阻害(ロック)される可能性がある。したがって、フェールセーフ機構として、このようなロックを防止する構成があることが好ましい。
この発明の目的は、ドライブピンがプーリの径方向外方に移動してプーリから外れた際に、ケースとプーリとの間で動力伝達チェーンがロックすることが防止された動力伝達装置を提供することにある。
この発明による動力伝達装置は、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなる第1のプーリと、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなる第2のプーリと、これら第1および第2のプーリに掛け渡される動力伝達チェーンと、両プーリおよび動力伝達チェーンを収納するケースとを備え、動力伝達チェーンは、ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を連結する前後に並ぶ複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを有し、第1ピンおよび第2ピンの少なくとも一方が両シーブ間に挟持されるドライブピンとされて、ドライブピンと両シーブとの摩擦力により動力が伝達される動力伝達装置において、動力伝達チェーンの破断に伴って、ドライブピンが両シーブ間に挟持された状態でプーリの径方向外方に移動してプーリから外れる際に、ドライブピンを傾けることによって、ケースとプーリとの間で動力伝達チェーンがロックしないようにするロック防止手段が設けられており、ロック防止手段は、固定シーブおよび可動シーブのいずれか一方のみの外径側端部近傍に設けられた変曲点を有しており、これによって、基準傾斜面およびその外径側端部にあって基準傾斜面とは傾斜角度が異なる外径側端部傾斜面からなる一方のシーブ面と、基準傾斜面だけの他方のシーブ面とが形成され、外径側端部傾斜面が設けられているシーブに対応する方のドライブピンの端部が外径側端部傾斜面から受ける反力の方向とドライブピンの他方の端部が基準傾斜面から受ける反力の方向とが異なることによってドライブピンが傾けられるようになされており、プーリ軸に直交する面に対する外径側端部傾斜面の角度は基準傾斜面の角度より小さいことを特徴とするものである。
動力伝達チェーンでは、無段変速機で使用される際に、第1ピンおよび第2ピンの少なくとも一方がプーリと接触して摩擦力により動力伝達する。この明細書においては、第1ピンおよび第2ピンのうち、プーリと接触して両シーブ間に挟持される方を「ドライブピン」と称す。ドライブピンは、通常は、第1ピンおよび第2ピンのいずれか一方だけとされて、このドライブピンと両シーブとの摩擦力により動力が伝達される。プーリに接触しない方のピンは、インターピースまたはストリップと称されており、この明細書においては、「インターピース」と称す。
動力伝達装置では、動力伝達チェーンが破断した場合、可動シーブがさらに固定シーブに近づくことで、ドライブピンがプーリの径方向外方に移動し、ドライブピンに固定されたリンクの外周面がケースの内周面に接触することで、プーリとケースとの間に動力伝達チェーンの一部が挟まって、プーリの回転が阻害(ロック)される可能性がある。そこで、動力伝達チェーンが破断して、ドライブピンが両シーブ間に挟持された状態でプーリの径方向外方に移動していった際に、ドライブピンが傾くような構成としておくと、ドライブピンが両シーブ間に挟持されなくなり、プーリのロックが防止されることになる。
ロック防止手段(ドライブピンを傾けるための構成)は、プーリに設けられてもよく、動力伝達チェーンに設けられてもよく、ケースに設けられてもよい。ロック防止手段は、いずれか一方のプーリ(例えばセカンダリ・プーリ)側にだけ設けられてもよいが、好ましくは、両方のプーリ(プライマリ・プーリおよびセカンダリ・プーリ)に設けられる。
プーリに設けられる場合、通常、固定シーブおよび可動シーブでは、その外径側端部が対称に形成されているのに対し、この発明による動力伝達装置では、固定シーブの外径側端部と可動シーブの外径側端部とは、非対称に形成される。すなわち、いずれか一方のシーブは、通常、従来と同じ形状とされ、他方のシーブについて、その形状が変更される。両方のシーブが従来のものとは異なる形状とされ、かつ、一方のシーブの外径側端部と他方のシーブの外径側端部とで異なる形状とされていてももちろんよい。一方のシーブの外径側端部と他方のシーブの外径側端部とで異なる形状とするには、いずれか一方に突起を設けるようにしてもよく、いずれか一方に切除部(面取り部)を設けるようにしてもよく、いずれか一方のシーブ面の外径側端部近傍に変曲点を設けるようにしてもよい。
ロック防止手段は、固定シーブおよび可動シーブのいずれか一方のみの外径側端部近傍に設けられた変曲点を有しており、これによって、基準傾斜面およびその外径側端部にあって基準傾斜面とは傾斜角度が異なる外径側端部傾斜面からなる一方のシーブ面と、基準傾斜面だけの他方のシーブ面とが形成され、外径側端部傾斜面が設けられているシーブに対応する方のドライブピンの端部が外径側端部傾斜面から受ける反力の方向と他方の端部が基準傾斜面から受ける反力の方向とが異なることによってドライブピンが傾けられるようになされている(図6に示す第3実施形態)。ドライブピンを傾けるためには、外径側端部傾斜面の傾斜角度は、基準傾斜面の傾斜角度(11°程度)よりも大きくてもよいし、小さくてもよいが、ドライブピンの径方向外方への移動を制限するために、基準傾斜面の傾斜角度よりも小さいことが好ましい。破断した動力伝達チェーンのドライブピンがプーリの径方向外方に移動して、異なる角度の傾斜面間に挟持されると、動力伝達チェーンにモーメントが作用し、これにより、動力伝達チェーンは、プーリから外れて、ロックが回避される。
また、ロック防止手段は、固定シーブおよび可動シーブのそれぞれの外径側端部近傍に設けられた変曲点を有し、変曲点の設置位置が異なるものとされており、変曲点の位置がプーリの径方向内方に設けられているシーブに対応する方のドライブピンの端部が外径側端部傾斜面から受ける反力の方向と他方の端部が基準傾斜面から受ける反力の方向とが異なることによってドライブピンが傾けられるようになされていることがある(図7に示す第4実施形態)。すなわち、上記第3実施形態の従来形状とされているシーブ面にも外径側端部傾斜面が設けられているようにしてもよい。この場合、変曲点を同じ位置に設ける(対称にする)のではなく、変曲点の設置位置が異なるものとされる。外径側端部傾斜面の傾斜角度は、いずれも、基準傾斜面の傾斜角度(11°程度)よりも小さいことが好ましく、これにより、破断した動力伝達チェーンのドライブピンがプーリの径方向外方に移動して、異なる角度の傾斜面間に挟持された際に、さらなる径方向外方への移動が制限されるとともに、動力伝達チェーンにモーメントが作用し、これにより、さらに径方向外方に移動したときには、動力伝達チェーンは、プーリから外れて、ロックが回避される。
また、ロック防止手段は、ドライブピンの軸方向の中心から離れた位置にある1または複数のリンクに対向するようにケース内周面に設けられた突起からなり、突起にこれに対向するリンクが当接し、このリンクが突起から受ける反力によってドライブピンが傾けられるようになされていることがある(図11および図12に示す第6実施形態)。
ドライブピンを傾けるためには、突起は、ドライブピンの軸方向の中心から離れた位置に臨まされる必要がある。突起の配置箇所は、固定シーブと可動シーブとが最も接近した状態の中心付近とならない箇所とされる。すなわち、可動シーブが固定シーブに近づくことで、ドライブピンがプーリの径方向外方に移動していくが、この際、ドライブピンの軸方向の中心位置は、若干移動することから、突起は、このドライブピンの軸方向の中心位置の移動分を考慮して、ドライブピンの端部近くに配置されているリンクに当たるように設置されることが好ましい。
また、ロック防止手段は、ドライブピンの軸方向の中心から離れた位置にある1または複数のロック防止用リンクのケース内周面に対向する部分にケースに向かって延びるように設けられた外方突出部からなり、ロック防止用リンクの外方突出部がこれに対向するケース内周面に当接し、このロック防止用リンクがケース内周面から受ける反力によってドライブピンが傾けられるようになされていることがある(図13および図14に示す第7実施形態)。
外方突出部が設けられるリンクは、ドライブピンの一端部に配置されたリンクだけであってもよく、ドライブピンの一端部に配置されたリンクを含めて複数のリンクに外方突出部が設けられてもよい。複数のリンクに外方突出部が設けられる場合、すべてのロック防止用リンクが同じ形状であってもよく、ドライブピンの一端部に配置されたリンクを基準にして、外方突出部が段階的に小さくなるようにしてもよい。
ドライブピンおよびインターピースのうちの一方は、一のリンクの前挿通部に固定されかつ他のリンクの後挿通部に移動可能に嵌め入れられ、同他方は、一のリンクの前挿通部に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンクの後挿通部に固定されていることが好ましい。
チェーンは、例えば、幅方向同位相の複数のリンクで構成されるリンク列を進行方向(前後方向)に3つ並べて1つのリンクユニットとし、この3列のリンク列からなるリンクユニットを進行方向に複数連結して形成されているとともに、各リンク列に含まれるリンク枚数が異なるものとされることがある。
リンクは、例えば、ばね鋼や炭素工具鋼製とされる。リンクの材質は、ばね鋼や炭素工具鋼に限られるものではなく、軸受鋼などの他の鋼でももちろんよい。リンクは、前後挿通部がそれぞれ独立の貫通孔(柱有りリンク)とされていてもよく、前後挿通部が1つの貫通孔(柱無しリンク)とされていてもよい。ドライブピンおよびインターピースの材質としては、軸受鋼などの適宜な鋼が使用される。
なお、この明細書において、リンクの長さ方向の一端側を前、同他端側を後としているが、この前後は便宜的なものであり、リンクの長さ方向が前後方向と常に一致することを意味するものではない。
この動力伝達装置は、自動車等の車両の無段変速機としての使用に好適なものとなる。
このような無段変速機では、各プーリは、円錐状のシーブ面を有する固定シーブと、固定シーブのシーブ面に対向する円錐状のシーブ面を有する可動シーブとからなり、両シーブのシーブ面間にチェーンを挟持し、可動シーブを油圧アクチュエータによって移動させることにより、無段変速機のシーブ面間距離したがってチェーンの巻き掛け半径が変化するものとされる。
この発明の動力伝達装置によると、動力伝達チェーンの破断に伴って、ドライブピンが両シーブ間に挟持された状態でプーリの径方向外方に移動してプーリから外れる際に、ドライブピンを傾けることによって、ケースとプーリとの間でチェーンがロックしないようにするロック防止手段が設けられているので、動力伝達チェーンが破断して、ドライブピンが両シーブ間に挟持された状態でプーリの径方向外方に移動していった際に、ドライブピンが傾いて両シーブ間に挟持されなくなり、プーリのロックが防止される。
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図2の上下をいうものとする。
図1は、この発明による動力伝達装置で使用される動力伝達チェーンの一部を示しており、動力伝達チェーン(1)は、チェーン長さ方向に所定間隔をおいて設けられた前後挿通部(12)(13)を有する複数のリンク(11)(21)と、チェーン幅方向に並ぶリンク(11)(21)同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数のドライブピン(第1ピン)(14)およびインターピース(第2ピン)(15)とを備えている。インターピース(15)は、ドライブピン(14)よりも短くなされ、両者は、インターピース(15)が前側に、ドライブピン(14)が後側に配置された状態で対向させられている。
チェーン(1)は、幅方向同位相の複数のリンクで構成されるリンク列を進行方向(前後方向)に3つ並べて1つのリンクユニットとし、この3列のリンク列からなるリンクユニットを進行方向に複数連結して形成されている。この実施形態では、リンク枚数が9枚のリンク列とリンク枚数が8枚のリンク列2つとが1つのリンクユニットとされている。
この発明の動力伝達チェーン(1)では、リンク(11)(21)については、ショートリンク(11)およびロングリンク(21)の2種類が使用されている。ショートリンク(11)とロングリンク(21)とでは、チェーン(1)の直線領域においてドライブピン(14)とインターピース(15)とが接触している線(断面では点)間の距離(図2に符号Aで示す点とBで示す点との距離)=「ピッチ長」が異なっている。
図2に示すように、ショートリンク(11)(ロングリンク(21)も同じ)の前挿通部(12)は、ドライブピン(14)が移動可能に嵌め合わせられるドライブピン可動部(16)およびインターピース(15)が固定されるインターピース固定部(17)からなり、後挿通部(13)は、ドライブピン(14)が固定されるドライブピン固定部(18)およびインターピース(15)が移動可能に嵌め合わせられるインターピース可動部(19)からなる。
各ドライブピン(14)は、インターピース(15)に比べて前後方向の幅が広くなされており、インターピース(15)の上下縁部には、各ドライブピン(14)側にのびる突出縁部(15a)(15b)が設けられている。
チェーン幅方向に並ぶリンク(11)(21)を連結するに際しては、一のリンク(11)(21)の前挿通部(12)と他のリンク(11)(21)の後挿通部(13)とが対応するようにリンク(11)(21)同士が重ねられ、ドライブピン(14)が一のリンク(11)(21)の後挿通部(13)に固定されかつ他のリンク(11)(21)の前挿通部(12)に移動可能に嵌め合わせられ、インターピース(15)が一のリンク(11)(21)の後挿通部(13)に移動可能に嵌め合わせられかつ他のリンク(11)(21)の前挿通部(12)に固定される。そして、このドライブピン(14)とインターピース(15)とが相対的に転がり接触移動することにより、リンク(11)(21)同士の長さ方向(前後方向)の屈曲が可能とされる。
リンク(11)(21)のドライブピン固定部(18)とインターピース可動部(19)との境界部分には、インターピース可動部(19)の上下の凹円弧状案内部(19a)(19b)にそれぞれ連なりドライブピン固定部(18)に固定されているドライブピン(14)を保持する上下の凸円弧状保持部(18a)(18b)が設けられている。同様に、インターピース固定部(17)とドライブピン可動部(16)との境界部分には、ドライブピン可動部(16)の上下の凹円弧状案内部(16a)(16b)にそれぞれ連なりインターピース固定部(17)に固定されているインターピース(15)を保持する上下の凸円弧状保持部(17a)(17b)が設けられている。
ドライブピン(14)を基準としたドライブピン(14)とインターピース(15)との接触位置の軌跡は、円のインボリュートとされており、この実施形態では、ドライブピン(14)の転がり接触面(14a)が、断面において半径Rb、中心Mの基礎円を持つインボリュート曲線とされ、インターピース(15)の転がり接触面(15c)が平坦面(断面形状が直線)とされている。これにより、各リンク(11)(21)がチェーン(1)の直線領域から曲線領域へまたは曲線領域から直線領域へと移行する際、前挿通部(12)においては、ドライブピン(14)が固定状態のインターピース(15)に対してその転がり接触面(14a)がインターピース(15)の転がり接触面(15c)に転がり接触(若干のすべり接触を含む)しながらドライブピン可動部(16)内を移動し、後挿通部(13)においては、インターピース(15)がインターピース可動部(19)内を固定状態のドライブピン(14)に対してその転がり接触面(15c)がドライブピン(14)の転がり接触面(14a)に転がり接触(若干のすべり接触を含む)しながら移動する。
この動力伝達チェーン(1)は、必要な数のドライブピン(14)およびインターピース(15)を組立て治具上に垂直状に保持した後、リンク(11)を1つずつあるいは数枚まとめて圧入していくことにより製造される。この圧入は、ドライブピン(14)およびインターピース(15)の上下縁部とドライブピン固定部(18)およびインターピース固定部(17)の上下縁部との間において行われており、その圧入代は0.005mm〜0.1mmとされている。こうして、組み立てられたチェーン(1)には張力が付与(予張)される。
図3は、この発明による動力伝達装置の第1実施形態を示すもので、動力伝達装置は、円錐面状シーブ面(2c)(2d)をそれぞれ有する固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)からなる第1のプーリ(2)と、円錐面状シーブ面をそれぞれ有する固定シーブおよび可動シーブからなる第2のプーリと、これら第1および第2のプーリ(2)に掛け渡される動力伝達チェーン(1)と、両プーリ(2)および動力伝達チェーン(1)を収納するケース(4)と、ケース(4)とプーリ(2)との間で動力伝達チェーン(1)がロックしないようにするロック防止手段(5)とを備えている。
動力伝達装置では、プーリ軸(2e)を有するプーリ(2)の固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)の各円錐状シーブ面(2c)(2d)にインターピース(15)の端面が接触しない状態で、ドライブピン(14)の端面がプーリ(2)の円錐状シーブ面(2c)(2d)に接触し、この接触による摩擦力により動力が伝達される。
第2のプーリは、図示省略しているが、第1のプーリ(2)の固定シーブ(2a)と可動シーブ(2b)とが左右逆にされたもの(図15参照)となっている。
図3は、第1のプーリ(2)の可動シーブ(2b)が固定シーブ(2a)に対して接近した状態を示しており、第1のプーリ(2)における巻き掛け径が大きいものとなっている。第2のプーリでは、その可動シーブが第1のプーリ(2)の可動シーブ(2b)とは逆向きに移動し、第1のプーリ(2)の巻き掛け径が大きくなると、第2のプーリの巻き掛け径が小さくなり、第1のプーリ(2)の巻き掛け径が小さくなると、第2のプーリの巻き掛け径が大きくなる。この結果、第1のプーリ(プライマリ・プーリ)(2)の巻き掛け径が最小で、第2のプーリ(セカンダリ・プーリ)の巻き掛け径が最大であるU/D(アンダードライブ)状態が得られ、また、プライマリ・プーリ(2)の巻き掛け径が最大で、セカンダリ・プーリの巻き掛け径が最小のO/D(オーバードライブ)状態が得られる。
U/DおよびO/D状態では、動力伝達チェーン(1)の外周面がケース(4)の内周面に接近しており、動力伝達チェーン(1)が破断した場合、これに伴って、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方(図の上方)に移動してプーリ(2)から外れる可能性がある。この際、プーリ(2)外周面とケース(4)内周面との間の隙間が小さいと、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することがあり、この場合に、プーリ(2)の回転が阻害(ロック)される可能性がある。
ロック防止手段(5)は、ドライブピン(14)を傾けることによって、このロックを防止するもので、その第1実施形態は、図3および図4に示すように、固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)のいずれか一方のみ(図示した例では可動シーブ(2b))の外径側端部に設けられた突起(31)からなる。
突起(31)は、可動シーブ(2b)の外周面に固定されて同面から径方向外方に延びる基部(31a)と、基部(31a)の径方向外方端部から固定シーブ(2a)に向かって延びる突出部(31b)とからなる断面逆L字状の環状に形成されており、その突出部(31b)が、動力伝達チェーン(1)の径方向外方からドライブピン(14)の端部を臨むようになされている。突起(31)は、通常時は、ドライブピン(14)とは接触しないようになされており、可動シーブ(2b)が固定シーブ(2a)に接近して、ドライブピン(14)が径方向外方(プーリ(2)から外れる方向)に移動した際には、このドライブピン(14)の径方向外方への移動を制限するようになっている。そして、動力伝達チェーン(1)が破断した場合、ドライブピン(14)の端部が突起(31)に当たることで、突起(31)から受ける反力によって動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、ドライブピン(14)が傾けられ、これにより、図4に示すように、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
上記の動力伝達チェーン(1)では、ドライブピンの上下移動の繰り返しにより、多角形振動が生じ、これが騒音の要因となるが、ドライブピン(14)とインターピース(15)とが相対的に転がり接触移動しかつドライブピン(14)を基準としたドライブピン(14)とインターピース(15)との接触位置の軌跡が円のインボリュートとされていることにより、ドライブピンおよびインターピースの接触面がともに円弧面である場合などと比べて、振動を小さくすることができ、騒音を低減することができる。そして、CVTで使用された場合、ドライブピン(14)とインターピース(15)とは、上述のように、各可動部(16)(19)に案内されて転がり接触移動するので、プーリ(2)のシーブ面(2c)(2d)に対してドライブピン(14)はほとんど回転しないことになり、摩擦損失が低減し、高い動力伝達率が確保される。そして、動力伝達チェーン(1)が破断した場合の安全性がロック防止手段(5)によって高められているので、安全性もより向上したものとなる。
ロック防止手段(5)は、ドライブピン(14)を傾けることでロックを防止するものであれば、上記の突起(31)からなるものに限定されるものではない。以下に、他の実施形態を示す。
ロック防止手段(5)の第2実施形態は、図5に示すように、固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)のいずれか一方のみ(図示した例では可動シーブ(2b))の外径側端部に設けられた切除部(32)からなる。切除部(32)は、固定シーブ(2a)の外径側端部に面取り部を設けずに、可動シーブ(2b)の外径側端部に曲面状の面取り部を設けることで形成されたもので、この実施形態では、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方に移動した際に、切除部(32)が設けられている可動シーブ(2b)側においてドライブピン(14)の一方の端部(図の右端部)が先にプーリ(2)から外れやすくなっている。
したがって、動力伝達チェーン(1)が破断した場合、ドライブピン(14)の一方の端部が先に外れることによって、動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、ドライブピン(14)が傾けられ、これにより、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
ロック防止手段(5)の第3実施形態は、図6に示すように、固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)のいずれか一方のみ(図示した例では固定シーブ(2a))のシーブ面(2c)の外径側端部近傍に設けられた変曲点(33)およびその径方向外方に連なる外径側端部傾斜面(2f)からなる。すなわち、この実施形態では、可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)は、従来と同じものとされ、これに対し、固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)には、外径側端部傾斜面(2f)が付加されている。外径側端部傾斜面(2f)の傾斜角度は、これ以外のシーブ面(2c)の傾斜角度(プーリ軸(2e)に直交する面に対して例えば11°)に比べて小さい(プーリ軸(2e)に直交する面に近づく)ものとされている。これにより、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方に移動した際に、固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の外径側端部傾斜面(2f)からドライブピン(14)の端面に作用する力の方向と可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)の外径側端部からドライブピン(14)の端面に作用する力の方向とが異なるものとなっている。したがって、動力伝達チェーン(1)が破断してドライブピン(14)が固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の外径側端部傾斜面(2f)と可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)の外径側端部との間に挟持された状態となった場合、動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、ドライブピン(14)が傾けられ、これにより、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
なお、固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の外径側端部傾斜面(2f)の傾斜角度が小さくなされていることで、可動シーブ(2b)が固定シーブ(2a)に接近して、ドライブピン(14)が径方向外方(プーリ(2)から外れる方向)に移動した際、ドライブピン(14)のさらなる径方向外方への移動を制限するようになっている。
上記第3実施形態において、変曲点(33)は固定シーブ(2a)にだけ設けられているが、位置は異なるものとして、変曲点(34)(35)を固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)の両方に設けるようにしてもよい。このようになされたロック防止手段(5)の第4実施形態は、図7に示すように、固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の外径側端部近傍に設けられた変曲点(34)およびその径方向外方に連なる外径側端部傾斜面(2f)と、可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)の外径側端部近傍に設けられた変曲点(35)およびその径方向外方に連なる外径側端部傾斜面(2g)とからなり、変曲点(34)(35)の位置が距離Dだけ異なる(固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の変曲点(34)が可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)の変曲点(35)よりも距離Dだけ径方向内方に位置している)ものとされている。外径側端部傾斜面(2f)(2g)の傾斜角度は、いずれも、これ以外のシーブ面(2c)(2d)の傾斜角度(プーリ軸(2e)に直交する面に対して例えば11°)に比べて小さい(プーリ軸(2e)に直交する面に近づく)ものとされている。これにより、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方に移動して、ドライブピン(14)の一方の端面が固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の外径側端部傾斜面(2f)に接触した際、ドライブピン(14)の他方の端面は可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)の外径側端部傾斜面(2g)には接触していないので、ドライブピン(14)の端面に作用する力の方向が異なるものとなっている。したがって、動力伝達チェーン(1)が破断してドライブピン(14)が固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の外径側端部傾斜面(2f)と可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)の外径側端部との間に挟持された状態となった場合、動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、ドライブピン(14)が傾けられ、これにより、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
この第4実施形態のものでは、固定シーブ(2a)のシーブ面(2c)の外径側端部傾斜面(2f)および可動シーブ(2b)のシーブ面(2d)の外径側端部傾斜面(2g)の傾斜角度がいずれも小さくなされていることで、可動シーブ(2b)が固定シーブ(2a)に接近して、ドライブピン(14)が径方向外方(プーリ(2)から外れる方向)に移動した際のドライブピン(14)のさらなる径方向外方への移動を制限する作用が第3実施形態のものに比べて大きいものとなっている。
上記の第1から第4までの実施形態では、プーリ(2)にロック手段(5)のための構成が付加されたものであるが、ロック手段(5)は、以下に示すように、ケース(4)側に設けることもでき、動力伝達チェーン(1)側に設けることもできる。
ロック防止手段(5)の第5実施形態は、図8および図9に示すように、ケース(4)内周面に設けられた傾斜面(36)からなる。傾斜面(36)は、プーリ軸(2e)に平行な面に対して傾斜しているもので、図示したように、ケース(4)全体が傾斜していてもよく、ケース(4)の外周面は従来と同じで、内周面だけが傾斜していてもよい。ケース(4)の傾斜面(36)の傾斜角度は、例えば5°以上でかつ45°以下とされる。
ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方に移動してプーリ(2)から外れる際には、図8に示すように、ドライブピン(14)はプーリ軸(2e)にほぼ平行となっているので、ケース(4)内周面に左下がりの傾斜面(36)があることで、動力伝達チェーン(1)の左端部(左端部に配置されているリンク(11)がまずこの傾斜面(36)に当たることになり、これにより、ケース(4)の傾斜面(36)から受ける反力によって動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、動力伝達チェーン(1)(ドライブピン(14))が傾けられ、これにより、図9に示すように、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
図8および図9において、断面直線状とされているケース(4)の傾斜面(36)は、図10(第5実施形態の変形例)に示すように、傾斜しておりかつ凹円弧状の傾斜面(37)とされてもよい。この場合でも、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方に移動してプーリ(2)から外れる際には、ドライブピン(14)はプーリ軸(2e)にほぼ平行となっているので、ケース(4)内周面に左下がりの円弧状傾斜面(37)があることで、動力伝達チェーン(1)の左端部(左端部に配置されているリンク(11)がまずこの傾斜面(37)に当たることになり、これにより、ケース(4)の傾斜面(37)から受ける反力によって動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、動力伝達チェーン(1)(ドライブピン(14))が傾けられ、これにより、図示省略するが、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
ロック防止手段(5)の第6実施形態は、図11および図12に示すように、ケース(4)内周面に設けられた突起(38)からなる。この突起(38)は、ドライブピン(14)の端部に配置されたリンク(11)に対向するように設けられている。突起(38)の形状は、例えば、図に示すように断面方形とされ、周方向に所定の長さ(円弧状に)設けられる。ここで、ドライブピン(14)の位置は、可動シーブ(2b)の位置によって変化し、可動シーブ(2b)が固定シーブ(2a)に近づくに連れて(図の左方に移動するに連れて)、ドライブピン(14)は、左方かつ径方向外方に移動し、図11に示す状態の手前が通常時における最も左方に寄った位置となっている。これに対応して、突起(38)は、図11に示す状態にあるドライブピン(14)の右端部(右端部に配置されているリンク(11))に臨まされている。
したがって、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方に移動してプーリ(2)から外れる際に、突起(38)にこれに対向するリンク(11)が当接し、このリンク(11)がケース(4)の突起(38)から受ける反力によって動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、動力伝達チェーン(1)(ドライブピン(14))が傾けられ、これにより、図12に示すように、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定されたリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
ロック防止手段(5)の第7実施形態は、動力伝達チェーン(1)に設けられたもので、図13に示すように、ドライブピン(14)の端部に配置されたロック防止用リンク(39)のケース(4)内周面に対向する部分にケース(4)に向かって延びるように設けられた外方突出部(40)からなる。外方突出部(40)を有するロック防止用リンク(39)は、図2に示したリンク(11)を基準にして、前後挿通部(12)(13)およびこれより下の部分は図2のものと同じで、前後挿通部(12)(13)より上の部分が大きくされることで形成されている。ケース(4)の内周面は、断面直線状で傾斜していない面とされる。
したがって、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持された状態でプーリ(2)の径方向外方に移動してプーリ(2)から外れる際に、外方突出部(40)を有するロック防止用リンク(39)がケース(4)の内周面に当接し、このロック防止用リンク(39)がケース(4)の内周面から受ける反力によって動力伝達チェーン(1)にモーメントが作用して、動力伝達チェーン(1)(ドライブピン(14))が傾けられ、これにより、破断した動力伝達チェーン(1)が傾くことになり、ドライブピン(14)が両シーブ(2a)(2b)間に挟持されたまま、このドライブピン(14)に固定された他のリンク(11)の外周面がケース(4)の内周面に接触することが防止され、ロックが回避される。
なお、外方突出部(40)が設けられるロック防止用リンク(39)は、ドライブピン(14)の一端部に配置されたリンク(39)だけであってもよく、図14(第7実施形態の変形例)に示すように、ドライブピン(14)の一端部に配置されたロック防止用リンク(39)の軸方向内方に配置された1または複数のロック防止用リンク(41)に外方突出部(42)が設けられているようにしてもよい。複数のロック防止用リンク(39)(41)に外方突出部(40)(42)が設けられる場合、すべてのロック防止用リンク(39)(40)が同じ形状であってもよく、ドライブピン(14)の一端部に配置されたロック防止用リンク(39)を基準にして、その軸方向内方に配置されたロック防止用リンク(41)の外方突出部(42)が段階的に小さくなるようにしてもよい。