JP5622156B2 - シスプラチン耐性遺伝子診断方法及びシスプラチン治療効果遺伝子診断キット - Google Patents
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Description
本発明は、抗癌剤として使用されているシスプラチンの投与効果を判断する方法及びシスプラチン投与効果判定キットに関する。
シスプラチン(cisplatin、“CDDP”と略称される)は、多くの種類の癌において抗癌剤として広く使用されている化学療法剤の中心的な薬剤である。シスプラチンに起因する副作用は、ほぼ100%の患者に出現する。一方、CDDPの投与効果は、患者によってばらつきがあり、このために、臨床効果がない患者にとっては、重篤な副作用に苦しみ予後不良となることもある。従って、CDDPによる治療効果が投与前に診断できるならば、患者にとって大きなQOL(Quality of life)の向上ともなる。
従来、癌患者の癌細胞がCDDP耐性か又は感受性かをCDDP治療前に診断する技術は、一般化されてなかった。先進医療の中で、癌患者の組織を採取し、当該組織に含まれる癌細胞を培養し、癌細胞がある程度増殖した段階で種々の濃度に調整したCDDPを培養細胞に添加し、その癌細胞がCDDPに対して耐性か又は感受性かを癌細胞の増殖度合いから測定する方法が僅かに実施されているにすぎなかった。しかし、このような癌細胞の培養といった手技を含む診断方法は、多くの患者への利用ができないことから、臨床現場において一般化できるようなものではない。このように、癌患者の癌細胞がCDDP耐性であるか又は感受性であるかの診断方法の確立と臨床診断への応用が強く求められていた。
一方、現在までシスプラチン耐性に関連する遺伝子が幾つか発表(Bordowら、1994(非特許文献1);Gottesmanら、1996(非特許文献2);Loeら、1996(非特許文献3);Jinら、1998(非特許文献4);Perezら、1998(非特許文献5);Hinoshitaら、2000(非特許文献6))されているものの、実際の臨床でシスプラチン投与効果を判定できるような遺伝子は無いのが現状である。
Bordow SB, Haber M, Madafiglio J, Cheung B, Marshall GM, Norris MD. Cancer Res. Oct 1;54(19):5036-5040. 1994
Gottesman MM, Pastan I, Ambudkar SV. Curr Opin Genet Dev. Oct;6(5):610-617. 1996
Loe D. W., Deeley R. G., Cole S. P. Eur. J. Cancer, 32A: 945-957, 1996.
Jin S, Scotto KW. Mol Cell Biol. Jul;18(7):4377-4384. 1998
Perez RP. Eur J Cancer. Sep;34(10):1535-1542. 1998
Hinoshita E, Uchiumi T, Taguchi K, Kinukawa N, Tsuneyoshi M, Maehara Y, Sugimachi K, Kuwano M. Clin Cancer Res. Jun;6(6):2401-2407. 2000
そこで、本発明者らは、上述した実情に鑑み、シスプラチン投与による治療効果の有無を判定することができるシスプラチン投与効果判定方法及びシスプラチン投与効果判定キットを提供することを目的としている。
上述した目的を達成するため、本発明者は、シスプラチンに対する非常に優れた耐性を示す細胞株を使用することでシスプラチン耐性或いは感受性を示す遺伝子群を特定し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)診断対象者から採取した生体由来試料における、AKR1C1(aldo-keto reductase family 1 member C1)遺伝子、AKR1C2(aldo-keto reductase family 1 member C2)遺伝子、AKR1C3(aldo-keto reductase family 1 member C3)遺伝子、AKR1C4(aldo-keto reductase family 1 member C4)遺伝子、AKR1B10(aldo-keto reductase family 1 member B10)遺伝子、ALDH3A1(aldehyde dehydrogenase 3 family memberA1)遺伝子、CA2(carbonic anhydrase II)遺伝子、CRAT(carnitine acetyltransferase)遺伝子、CRIP2(Cysteine-rich protein 2)遺伝子、HTRA3(HtrA serine peptidase 3)遺伝子、MYADM(myeloid-associated differentiation marker)遺伝子及びPPP1R14C(protein phosphatase 1, regulatory subunit 14C)遺伝子からなる遺伝子群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の発現を測定するステップaと、測定の結果として得られた遺伝子の発現量に基づいてシスプラチンの投与効果を判定するステップbとを含むシスプラチン投与効果判定方法。
(2)前記ステップaでは、上記遺伝子のmRNA量を測定することを特徴とする(1)記載のシスプラチン投与効果判定方法。
(3)前記ステップaでは、上記遺伝子の産物であるタンパク質量を測定することを特徴とする(1)記載のシスプラチン投与効果判定方法。
(4)前記生体由来試料は、シスプラチン投与療法を施行する前に採取したものであることを特徴とする(1)記載のシスプラチン投与効果判定方法。
(5)前記生体由来試料は、癌患者由来から採取したものであることを特徴とする(1)記載のシスプラチン投与効果判定方法。
(6)上記生体由来試料は、頭頚部癌患者、食道癌患者又は肺癌患者から採取したものであることを特徴とする(1)記載のシスプラチン投与効果判定方法。
(7)AKR1C1(aldo-keto reductase family 1 member C1)遺伝子、AKR1C2(aldo-keto reductase family 1 member C2)遺伝子、AKR1C3(aldo-keto reductase family 1 member C3)遺伝子、AKR1C4(aldo-keto reductase family 1 member C4)遺伝子、AKR1B10(aldo-keto reductase family 1 member B10)遺伝子、ALDH3A1(aldehyde dehydrogenase 3 family memberA1)遺伝子、CA2(carbonic anhydrase II)遺伝子、CRAT(carnitine acetyltransferase)遺伝子、CRIP2(Cysteine-rich protein 2)遺伝子、HTRA3(HtrA serine peptidase 3)遺伝子、MYADM(myeloid-associated differentiation marker)遺伝子及びPPP1R14C(protein phosphatase 1, regulatory subunit 14C)遺伝子からなる遺伝子群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の発現を測定するための手段を含む、シスプラチン投与効果判定キット。
(8)上記手段は、上記遺伝子のmRNA又は当該mRNAに由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであることを特徴とする(7)記載のシスプラチン投与効果判定キット。
(9)上記ポリヌクレオチドは、支持体に固定されたものであることを特徴とする(8)記載のシスプラチン投与効果判定キット。
(10)上記手段は、上記遺伝子の産物であるタンパク質に対して特異的に結合する抗体であることを特徴とする(7)記載のシスプラチン投与効果判定キット。
本発明によれば、シスプラチンの投与による奏効の有無を非常に優れた確度で判定することができる。したがって、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法及びシスプラチン投与効果判定キットは、対象となる患者に対してシスプラチン投与を含む治療を適用するか否かの判定を行うことができる。
以下、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法及び/又はシスプラチン投与効果判定キットを詳細に説明する。
本シスプラチン投与効果判定方法は、診断対象者から採取した生体由来試料における、AKR1C1(aldo-keto reductase family 1 member C1)遺伝子、AKR1C2(aldo-keto reductase family 1 member C2)遺伝子、AKR1C3(aldo-keto reductase family 1 member C3)遺伝子、AKR1C4(aldo-keto reductase family 1 member C4)遺伝子、AKR1B10(aldo-keto reductase family 1 member B10)遺伝子、ALDH3A1(aldehyde dehydrogenase 3 family memberA1)遺伝子、CA2(carbonic anhydrase II)遺伝子、CRAT(carnitine acetyltransferase)遺伝子、CRIP2(Cysteine-rich protein 2)遺伝子、HTRA3(HtrA serine peptidase 3)遺伝子、MYADM(myeloid-associated differentiation marker)遺伝子及びPPP1R14C(protein phosphatase 1, regulatory subunit 14C)遺伝子からなる遺伝子群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の発現を測定するステップaと、測定の結果として得られた遺伝子の発現量に基づいてシスプラチンの投与効果を判定するステップbとを含んでいる。
AKR1C1遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号1に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。AKR1C2遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号3に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。AKR1C3遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号5に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。AKR1C4遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号7に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号8に示す。AKR1B10遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号9に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号10に示す。ALDH3A1遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号11に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号12に示す。CA2遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号13に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号14に示す。CRAT遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号15に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号16に示す。CRIP2遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号17に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号18に示す。HTRA3遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号19に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号20に示す。MYADM遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号21に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号22に示す。PPP1R14C遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号23に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号24に示す。
ここで、判定対象者としては、特に限定されず、各種癌に罹患した患者、各種癌を疑われた者及び健常者のいずれであっても良い。また、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法は、判定対象者に対して直接何らかの処置を施すものではなく、診断対象者から採取した生体由来試料を用いて実施する。
本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法において生体由来試料とは、判定対象者における遺伝子発現解析が可能であれば特に限定されないが、例えば、組織、細胞、体液、尿及びその他生体試料由来の蛋白質抽出液を挙げることができる。ここで体液とは、血液、リンパ液、組織液(組織間液、細胞間液、間質液)、体腔液、漿膜腔液、胸水、腹水、心嚢液、脳脊髄液(髄液)、関節液(滑液)、眼房水(房水)、消化液、膵液、腸液、精液及び羊水を含む意味である。また、生体由来試料は、組織、細胞、体液、尿及びその他生体試料由来の蛋白質抽出液のいずれか一種でも複数種でもよい。
組織としては、癌罹患患者の治療目的で行われた手術の際に得られた組織の一部、癌を疑われた診断対象者から生検等によって採取された組織の一部、癌罹患患者で原発性か転移性かを鑑別する目的で生検等によって採取された組織の一部を含む意味である。
また、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法において細胞としては、上記各組織から単離した細胞を使用することができる。また、体液としては、上記血液から分離した血漿又は血清、尿、リンパ液、脳脊髄液或いは腹水を使用することができる。本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法においてその他の生体由来試料としては、喀痰などから単離した細胞又は蛋白質抽出液を用いることができる。
具体的に、判定対象者から採取した生体由来試料における、上述した遺伝子群から選ばれる少なくとも1以上の遺伝子の発現を測定するには、例えば、測定対象の遺伝子に対するmRNA量を測定する又は測定対象の遺伝子の産物であるタンパク質量を測定すればよい。
測定対象の遺伝子に対するmRNA量を測定する方法としては、公知の遺伝子の発現の検出方法を用いることができる。例えば、測定対象の遺伝子のmRNA量を検出するために、ノーザンブロッティング法、リアルタイム-PCR法、RT-PCR法、ハイブリダイゼーション法及びDNAアレイ法などが挙げられる。また、測定対象の遺伝子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いることができる。当該プローブを用いて測定対象の遺伝子のmRNA量を検出するには、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、プローブを作製する際に当該プローブに適宜蛍光標識等の標識を付与しておき、これを判定対象者から採取した生体由来試料から単離したmRNA(又はmRNAから合成したcDNA)とハイブリダイズする。その後、ハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光強度を測定することにより、測定対象の遺伝子のmRNA量を検出することができる。なお、プローブとしては、ガラスビーズやガラス基板等の支持体に固定化して使用することもできる。すなわち、測定対象の遺伝子(複数でもよい)について作製したプローブを支持体上に固定化したマイクロアレイ又はDNAチップの形で用いることもできる。支持体としては、ポリヌクレオチドを固定できるものであれば特に限定されるものではなく、どのような形状や材質であっても良い。支持体として一般的には、例えば、ガラス板、シリコンウエハ、樹脂等の無機材料、また天然高分子材料としてニトロセルロースや合成高分子材料としてナイロン等を挙げることができる。
固定するポリヌクレオチドは、合成オリゴヌクレオチドであっても良い。また、合成オリゴヌクレオチドの配列上に蛍光標識が可能な核酸誘導体を導入することも可能である。また、支持体上で目的のオリゴヌクレオチドを合成できる、いわゆるアフィメトリックス型のDNAチップ技術を用いることもできる。更に、支持体が3次元構造をした、いわゆる3D-Gene型の柱状の面にスポットして固定化することも可能である。
なお、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、42℃で、1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理によってもハイブリダイズを維持することを意味する。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
上述した遺伝子に由来するmRNAやcDNAを定量的に検出するためのプローブ及びプライマーセットとしては特に限定されないが、例えば後述する実施例における表1に示したプローブ及びプライマーセットを使用することができる。
一方、測定対象の遺伝子の産物であるタンパク質量を測定する方法としては、公知のタンパク質検出方法を用いることができる。具体的には、測定対象のタンパク質に対する抗体を使用した各種の方法を適用することができる。
なお、測定対象のタンパク質を抗原とし、当該抗原に結合する限り、前記抗体としては特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。
ここで、モノクローナル抗体を作製する際には、上述した遺伝子の産物を抗原として使用することができ、また、上述した遺伝子の産物の断片を発現する細胞を抗原として使用することができる。なお、これらタンパク質若しくは当該タンパク質の断片は、例えば、Molecuar Cloning: A Laboratory Manual第2版第1−3巻 Sambrook, J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York 1989年に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得することができる。また、これらタンパク質若しくは当該タンパク質の断片を発現する細胞も、Molecuar Cloning: A Laboratory Manual第2版第1−3巻 Sambrook, J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York 1989年に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得することができる。
得られたモノクローナル抗体は、測定対象のタンパク質の定量用に、エンザイム−リンクイムノソルベントアッセイ(ELISA)、酵素イムノドットアッセイ、ラジオイムノアッセイ、凝集に基づいたアッセイ、あるいは他のよく知られているイムノアッセイ法で検査試薬として用いることができる。また、モノクローナル抗体は標識化されることが好ましい。標識化を行う際、標識化合物としては例えば当分野で公知の酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質、染色物質などを使用することができる。
支持体としては、例えば、タンパク質を固定化できるものであれば良い。一般的には、ガラス板、シリコンウエハ、樹脂等の無機材料又は天然高分子材料のニトロセルロースや合成高分子材料のナイロンやポリスチレン等が挙げられる。
ところで、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法においては、上述した遺伝子群から選択された1つの遺伝子を測定対象としても良いが、上述した遺伝子群から選択された複数の遺伝子を測定対象としてもよい。具体的には、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法においては、上述した遺伝子群に含まれる12個の遺伝子の全てを測定対象としても良いし、上述した遺伝子群に含まれる2〜11個の遺伝子を適宜組み合わせて測定対象としても良い。
以上のようにして、診断対象者から採取した生体由来試料における、表1に示す遺伝子群から選ばれる測定対象の遺伝子の発現量を測定した後、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法では、当該発現量に基づいてシスプラチン投与による効果の有無又は効果の程度を判定する。
具体的には、上述したいずれかの方法により測定対象の遺伝子の発現量を測定した後、当該遺伝子の発現量を評価する。発現量の評価は、測定対象の遺伝子毎に基準値を設定し、この基準値との比較によって行っても良い。基準値としては、構成的に発現する遺伝子の発現量に対する相対値を設定することができる。また、測定対象の遺伝子の発現量は、今回行ったように免疫組織化学染色(IHC)スコアにて評価し、擬陽性と擬陰性を評価できる値を基準値として評価しても良い。
本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法及び判定キットによれば、非常に優れた感度及び/又は優れた特異度で判定対象者について、シスプラチン投与による効果の有無又は効果の程度を判断することができる。ここで、感度とは、シスプラチン投与に奏効する患者群における陽性率を意味する。特異度とは、シスプラチン投与に奏効しない患者群における陰性率を意味する。
特に、本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法において、測定対象の遺伝子の種類を増やすこと(例えば、6種類以上の遺伝子)によって、より優れた感度及び/又はより優れた特異度で診断することができる。
本発明に係るシスプラチン投与効果判定方法によれば、抗癌剤・化学療法開始前の癌患者から採取した生体由来試料を用いた遺伝子発現解析(mRNAレベル或いはタンパク質レベル)により、シスプラチン投与による効果をより客観的、特異的に判定することができることから、投与効果を期待できない患者に対する過度の負担となるようなシスプラチンの投与を防止することができ、当該患者にとって有効な治療方針にとって有用な知見を提供することができる。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
<耐性株の樹立>
先ず、本実施例ではシスプラチン耐性株を樹立した。具体的には、和歌山医科大学医学部歯科口腔外科講座から提供された口腔扁平上皮癌由来細胞株(H-1株及びSa-3株)に対して、シスプラチン(以下、CDDPと称する場合もある)濃度を0.1μg/mlの低濃度から段階的にCDDPを持続的に接触させることによって、シスプラチンに対して耐性を有する細胞株を樹立した。H-1株から樹立したシスプラチン耐性株をH-1R株と命名し、Sa-3株から樹立したシスプラチン耐性株をSa-3R株と命名した。
先ず、本実施例ではシスプラチン耐性株を樹立した。具体的には、和歌山医科大学医学部歯科口腔外科講座から提供された口腔扁平上皮癌由来細胞株(H-1株及びSa-3株)に対して、シスプラチン(以下、CDDPと称する場合もある)濃度を0.1μg/mlの低濃度から段階的にCDDPを持続的に接触させることによって、シスプラチンに対して耐性を有する細胞株を樹立した。H-1株から樹立したシスプラチン耐性株をH-1R株と命名し、Sa-3株から樹立したシスプラチン耐性株をSa-3R株と命名した。
また、中咽頭扁平上皮癌由来細胞株(KB株)に対しても同様にCDDP処理を行い、シスプラチン耐性株を樹立した。KB株から樹立したシスプラチン耐性株をKBR株と命名した。
これらシスプラチン耐性株(H-1R株、Sa-3株及びKBR株)について、シスプラチンに対して感受性を示す各親株に対する相対的な耐性度を検討した。具体的には、各耐性株及び各親株をそれぞれ、CDDPで処理し(CDDPの濃度を0.05〜10μg/mlとした)、その後、MTTアッセイを行った。そして、各耐性株及び各親株について50%生存(死滅)濃度(IC50)を求めた。H-1株とH-1R株の相対的な耐性度は約10倍、Sa-3株とSa-3R株の相対的な耐性度は約7.5倍、KB株とKBR株の相対的な耐性度は8.6倍であった。これらの3種類の細胞株は凍結解凍を行っても、さらに、1月間CDDP無添加培養を行っても耐性は変わらなかった。
<マイクロアレイ解析>
ヒト全遺伝子型DNAチップ(3D-Gene;Human Oligo chip 25K)を用いてCDDP耐性関連発現増強遺伝子群の解析を実施し、12遺伝子群を特定した。すなわち、上述した3種類のヒト口腔扁平上皮癌由来のCDDP耐性細胞を培養後、それぞれの細胞から、定法により、RNAを抽出・精製して純度及び分解されていないことを検証した。精製したRNA(1μg)を出発材料として、first strand cDNA合成をReverse Transcription Master Mixを用いて行い、次いで、second strand cDNA合成をSecond Strand Master Mix を用いて合成した。これらの合成したcDNAをcDNA Filter cartridgeを使用して精製した。次に、精製したcDNA(1μg)からIVT Master Mix(In Vitro Transcription Master Mix)を使用して、aRNAを合成し、aRNA Filter Cartrigeで精製した。更に、aRNAの純度を検定した後、Cy3及びCy5の蛍光標識を用いて標識化を行い、最終的に標識サンプルをフラグメント化して、DNAチップ(3D-Gene Human Oligo chip 25K)でハイブリダイゼーションを行った。なお、画像解析と数値化は、定法に従って実施した。
ヒト全遺伝子型DNAチップ(3D-Gene;Human Oligo chip 25K)を用いてCDDP耐性関連発現増強遺伝子群の解析を実施し、12遺伝子群を特定した。すなわち、上述した3種類のヒト口腔扁平上皮癌由来のCDDP耐性細胞を培養後、それぞれの細胞から、定法により、RNAを抽出・精製して純度及び分解されていないことを検証した。精製したRNA(1μg)を出発材料として、first strand cDNA合成をReverse Transcription Master Mixを用いて行い、次いで、second strand cDNA合成をSecond Strand Master Mix を用いて合成した。これらの合成したcDNAをcDNA Filter cartridgeを使用して精製した。次に、精製したcDNA(1μg)からIVT Master Mix(In Vitro Transcription Master Mix)を使用して、aRNAを合成し、aRNA Filter Cartrigeで精製した。更に、aRNAの純度を検定した後、Cy3及びCy5の蛍光標識を用いて標識化を行い、最終的に標識サンプルをフラグメント化して、DNAチップ(3D-Gene Human Oligo chip 25K)でハイブリダイゼーションを行った。なお、画像解析と数値化は、定法に従って実施した。
上記のヒト全遺伝子型DNAチップ(25000クローン)を用いての解析結果から、12種類のCDDP耐性関連発現増強遺伝子群:AKR1C1(aldo-keto reductase family 1 member C1)遺伝子、AKR1C2(aldo-keto reductase family 1 member C2)遺伝子、AKR1C3(aldo-keto reductase family 1 member C3)遺伝子、AKR1C4(aldo-keto reductase family 1 member C4)遺伝子、AKR1B10(aldo-keto reductase family 1 member B10)遺伝子、ALDH3A1(aldehyde dehydrogenase 3 family memberA1)遺伝子、CA2(carbonic anhydrase II)遺伝子、CRAT(carnitine acetyltransferase)遺伝子、CRIP2(Cysteine-rich protein 2)遺伝子、HTRA3(HtrA serine peptidase 3)遺伝子、MYADM(myeloid-associated differentiation marker)遺伝子及びPPP1R14C(protein phosphatase 1, regulatory subunit 14C)遺伝子を特定した。
<リアルタイム-PCR解析>
上記12種類のCDDP耐性関連発現増強遺伝子群についてリアルタイム-PCR法で詳細に検討を加えた。CDDP耐性関連遺伝子群に関するプライマー設計は、ロッシュ社から提供されている設計ソフトを用いて各種遺伝子の塩基配列から最適化を行い、プライマーを合成した。次に、各種CDDP耐性細胞からRNAを抽出・精製した後、定法に従ってcDNAを合成した。上記cDNAを鋳型として上記の特異的プライマーを用いてリアルタイム-PCRをロッシュ社製のLight Cycler 1.5装置で実施した。
上記12種類のCDDP耐性関連発現増強遺伝子群についてリアルタイム-PCR法で詳細に検討を加えた。CDDP耐性関連遺伝子群に関するプライマー設計は、ロッシュ社から提供されている設計ソフトを用いて各種遺伝子の塩基配列から最適化を行い、プライマーを合成した。次に、各種CDDP耐性細胞からRNAを抽出・精製した後、定法に従ってcDNAを合成した。上記cDNAを鋳型として上記の特異的プライマーを用いてリアルタイム-PCRをロッシュ社製のLight Cycler 1.5装置で実施した。
リアルタイム-PCRの反応組成は、まず、逆転写反応系で、5xTranscriptor RT緩衝液、Protector RNase inhibitor、Deoxynucleotide Mix、Reverse Transcriptase及びOligo(dT) primerにtotal RNA(200 ng/ml)を加えて55℃30分反応させた。次に、リアルタイム-PCR反応系において、Master Mix、forwardプライマー、reverse プライマー、及びプローブとDNAを加え、PCRを行った(表1)。反応条件は、95℃、5分の後、95℃、10秒、60℃、25秒を45サイクル実施し、最後に、50℃、30秒で反応を終了した。
上記12種類のCDDP耐性関連発現増強遺伝子群についてマイクロアレイ解析の結果及びリアルタイム-PCRの結果を図1〜12に示した。図1〜12に示すように、CDDP耐性関連発現増強遺伝子群の12遺伝子に関しては、リアルタイム-PCRによる測定結果は、DNAアレイでの解析結果と相関していた。
なお、図1は、AKR1C1遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるAKR1C1遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図2は、AKR1C2遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるAKR1C2遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図3は、AKR1C3遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるAKR1C3遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図4は、AKR1C4遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるAKR1C4遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図5は、AKR1B10遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるAKR1B10遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図6は、ALDH3A1遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるALDH3A1遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図7は、CA2遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるCA2遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図8は、CRAT遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるCRAT遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図9は、CRIP2遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるCRIP2遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図10は、HTRA3遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるHTRA3遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図11は、MYADM遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるMYADM遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。図12は、PPP1R14C遺伝子についての解析結果であり、左はアレイ解析の結果、右はCDDP耐性細胞におけるPPP1R14C遺伝子の発現レベルをリアルタイム-PCRで測定した結果を示している。
以上の図1〜12に示すように、上記12種類のCDDP耐性関連発現増強遺伝子群に含まれる各遺伝子の発現レベルを測定することによって、CDDP耐性細胞であるか否かを判別できることが明らかとなった。
Claims (6)
- 口腔癌患者から採取した癌細胞における、AKR1C2(aldo-keto reductase family 1 member C2)遺伝子の発現を測定するステップaと、
測定の結果として得られたAKR1C2遺伝子の発現量を基準値と比較して当該発現量が大であれば、上記癌細胞がシスプラチン耐性であると判断するステップbと、
を含む口腔癌患者に対するシスプラチンの投与効果を判定するためのデータ取得方法。 - 上記ステップbでは、ステップaで測定したAKR1C2遺伝子の発現量が、シスプラチン感受性の癌細胞において測定したAKR1C2遺伝子の発現量と比較して5.5倍以上高い場合、ステップaで採取した癌細胞がシスプラチン耐性であると判断することを特徴とする請求項1記載のデータ取得方法。
- 上記ステップaでは、AKR1C2遺伝子の発現量をアレイ解析又はリアルタイムPCR法解析にて測定することを特徴とする請求項1記載のデータ取得方法。
- AKR1C2(aldo-keto reductase family 1 member C2)遺伝子の発現を測定するための手段を含む、口腔癌患者に対するシスプラチン投与効果判定キット。
- 上記手段が、AKR1C2遺伝子のmRNA又は当該mRNAに由来するcDNAに対して特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであることを特徴とする請求項4記載の口腔癌患者に対するシスプラチン投与効果判定キット。
- 上記ポリヌクレオチドは、支持体に固定されたものであることを特徴とする請求項5記載の口腔癌患者に対するシスプラチン投与効果判定キット。
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