JP5598157B2 - 耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れたホットプレス用鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
そこで、近年では、特許文献1に開示されているように、鋼板をオーステナイトの単相域に加熱し、その後プレス成型にて冷却を施し焼き入れを行う、いわゆるホットスタンプの技術が開示されており、高強度でありながら自動車用の部材を作りこむことができる。
したがって、ホットプレス後の部材において耐遅れ破壊特性及び衝突安全性(均一伸び)を担保できようなホットプレス用の鋼板及びその製造方法が求められている。
そのような本発明の要旨とするところは、下記のとおりである。
Si+Al≧1.0% ・・・式(1)
50≧Vc90≧25 ・・・式(2)
ただし、SiとAlはそれらの含有量(質量%)であり、Vc90及びVc90の式で用いられるβは、下記の式3及び式4で規定される。式4における元素は、その質量%で表される含有量の数値である。
Vc90=10^(3.69−0.75β) [℃/s] ・・・式(3)
β=2.7C+0.4Si+Mn−0.8Al ・・・式(4)
Si+Al≧1.0% ・・・式(1)
50≧Vc90≧25 ・・・式(2)
ただし、SiとAlはそれらの含有量(質量%)であり、Vc90及びVc90の式で用いられるβ2は、下記の式5及び式6で規定される。式6における元素は、その質量%で表される含有量の数値である。
Vc90=10^(3.69−0.75β2) [℃/s] ・・・式(5)
β2=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+2Mo−0.8Al ・・・式(6)
(4) さらに、質量%で、B:0.001%以下、Ni:1%以下、Cu:3.0%以下から選択された少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
(5) さらに、質量%で、Ca、Mg、Zr、REMから選択された少なくとも1種または2種以上を、それぞれ0.0005%以上、0.05%以下含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
(6) さらに、質量%で、Sn:0.005〜0.1%、Sb:0.005〜0.1%から選択された1種または2種を含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
以下に詳細な説明を述べる。
C:0.1〜0.5%
Cは冷却後のオーステナイトから急冷して出来る組織であるマルテンサイトの強度を確保するために必要な元素である。強度を1000MPa以上確保するためには、0.1%以上添加する必要があるが、添加しすぎると靭性が大きく劣化し衝撃変形時の強度確保が困難であるためその上限を0.5%とした。
Siは固溶強化元素であり、比較的安価に鋼板の強度を上昇させることができ、0.05%以上で効果が認められるが、1%を超えて添加しても効果が飽和し、また。めっき性が大きく劣化するため、その上限を2%とした。
Mnは、焼き入れ性の観点から有用な元素であり、0.1%以上で効果が認められるが、3%を超えて添加してもコストが上昇し、また効果が飽和するため、上限を3%とした。
AlはN固定の観点から添加することができ、また脱酸剤としても有用であり、この場合には、鋼中に0.003%以上含有させることが必要であるが、実施例の表1中、鋼板E、I、L、N及びO(発明鋼)に基づいて、下限を0.4%とする。2%を超えて添加すると上記の観点では効果が飽和し、かつ焼き入れ性の低減につながり強度の確保が困難になるが、実施例の表1中、鋼板R及びY(発明鋼)に基づいて、上限を1.6%とする。
Pは固溶強化元素であり、比較的安価に鋼板の強度を上昇させることができる。ただし、添加量が大きくなると、靭性や耐遅れ破壊特性を劣化させるため上限を0.05%とした。
S:0.03%以下
Sは不可避的に含まれる元素であり、多くなると靭性を劣化させるため低いほど好ましく、0.03%以下にすることで加工性に対する加工性の問題が小さくなるためその範囲を0.03%以下とした。
Nは不可避的に含まれる元素であり、その含有量は低いほうが好ましい。特にN含有量が0.01%を超えると、AlNとして消費されるAlの量が多くAlの添加の効果が小さくなるとともに、AlNによる延性の劣化が目立つようになることから、N含有量の上限を0.01%とした。
Mo:0.01〜1%
Moは焼き入れ性の観点から有用な元素であり、0.01%以上にて効果を発揮する。しかし、1%以上添加すると、焼き入れ性が低くなり、強度が低減し、またコストも高いことから添加する場合の上限を1%とした。
Crも焼き入れ性の観点から有用な元素であり、0.01%以上にて効果を発揮する。しかし、1%以上添加すると、焼き入れ性が低くなり、強度が低減し、またコストも高いことから添加する場合の上限を1%とした。
Ti:0.01〜1%
TiはNとTiNをつくる観点から添加したほうが好ましい。Nは低減しても10ppm程度あるため、Nを固定するためには下限を0.01%とする必要がある。しかし、1%を超える量を入れると、固溶炭素量が減少し、マルテンサイトの強度が低減し、また、靭性が大きく劣化するため添加する場合の上限を1%とした。
NbはNとNbNをつくる観点から添加することができ、添加する場合は質量%にてNの約6.6倍添加することが必要であるが、Nは低減しても10ppm程度であるので下限を0.01%とした。また、Nbはホットスタンプ後の組織であるマルテンサイトの旧オーステナイト粒径を微細化し、鋼の靭性を上げることができる。しかし1%を超える量を添加すると焼き入れ性が低減し、強度が低減するため、添加する場合の上限を1%とした。
Vは焼き入れ性の観点からも有用な元素であり、0.01%以上にて効果を発揮する。しかし、1%以上添加すると、焼き入れ性が低くなり、強度が低減し、またコストも高いことから添加する場合の上限を1%とした。
Wは焼き入れ性の観点から有用な元素であり、0.005%以上にて効果を発揮する。しかし、1%以上添加すると、焼き入れ性が低くなり、強度が低減し、またコストも高いことから添加する場合の上限を1%とした。
Cuは焼き入れ性に加え人生の観点でも有用な元素である。しかし、3%を超えて添加しても効果は飽和しまたコストを上昇させるばかりでなく鋳片性状の劣化や熱間圧延時のわれや疵発生を生じさせるため、添加する場合の上限を3%とした。
Bも焼き入れ性の観点から有用な元素である。しかし、0.0010を超えて添加してもその効果は飽和し、また鋳造欠陥や熱間圧延時の割れを生じさせるなどの製造性の低下を生じるため、添加する場合の上限を0.0010%とした。
Niは焼き入れ性に加え、耐衝撃特性の改善に繋がる低温人生の観点で有用な元素である。しかし、1%を超えて添加してもその効果は飽和し、またコストを上昇させるため添加する場合の上限を1%とした。
Sn、Sbはめっき性の濡れ性や密着性を向上させるのに有効な元素であり、必要に応じて0.005%〜0.1%添加できる。いずれも、0.0005%未満では効果が認められず、0.1%を超えて添加すると製造時の疵が発生しやすくなったり、また、靭性の低下を引き起こしたりするため、上限を0.1%とした。
残留オーステナイトを存在させるためには、ベイナイト変態中にオーステナイトへCを濃化させる必要がある。そのためにはSiやAlなどのセメンタイト析出抑制元素を添加する必要がある。その効果を得るためには、SiとAlの合計含有量(質量%)は式1を満たす必要がある。
Si+Al≧1.0% ・・・式(1)
そこで、以下の式2を満たすように成分系を制限する必要がある。
ただし、Vc90及びVc90の式で用いられるβ、β2は、下記の式3〜式6で規定される。式4、6における元素は、その質量%で表される含有量の数値である。
Vc90=10^(3.69−0.75β) [℃/s] ・・・式(3)
β=2.7C+0.4Si+Mn−0.8Al ・・・式(4)
又は
Vc90=10^(3.69−0.75β2) [℃/s] ・・・式(5)
β2=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+2Mo−0.8Al ・・・式(6)
Vc90<25の場合にはベイナイト変態が進ます、マルテンサイト及び/またはオートテンパーマルテンサイトになるため残留オーステナイトが残らず、耐遅れ破壊特性や衝突安全性が大幅に劣化する。
一方、Vc90>50の場合には、フェライトやパーライト変態し、強度の大幅な低下し、また、パーライト変態でセメンタイトが析出するため残留オーステナイトも残りにくくなる。したがって、Vc90の下限を25℃/sとし、上限を50℃/sとした。
前述した成分範囲の鋼を鋳造し、得られたスラブを、熱を帯びたまま又は再加熱した後に熱間圧延を行う。再加熱の温度は、生産性を考慮して1000℃から1300℃の範囲とするとよい。熱間圧延は通常の熱延工程、あるいは仕上げ圧延において粗バーを接合し圧延する連続化熱延工程のどちらでも可能である。
熱延後の冷却は、巻き取り温度が500℃以上750℃以下になるようにコントロールしたほうがよい。なぜならば、500℃未満の場合には、熱延板の強度が高くなりその後の冷延が困難になり、一方、750℃以上の場合にはその後の酸洗性が劣化するためである。酸洗は表面のスケールがとれる方法ならどのような条件でも構わない。
ホットスタンプ時の加熱温度は(Ac1+Ac3)/2(℃)以上にしなければならない。
ここで、Ac1、Ac3は以下の式により求めた。(参考文献「鉄鋼材料学」:W.C.Leslie著、幸田成康監訳、丸善p273参照)
Ac1=723−10.7×Mn%−16.9×Ni%+29.1×Si%+16.9×Cr%+6.38×W%
Ac3=910−203×√(C%)―15.2×Ni%+44.7×Si%+104×V%+31.5×Mo%+13.1
×W%−30×Mn%−11×Cr%+20×Cu%+700P%+400×Al%
以上の理由によりホットスタンプ時の加熱温度は(Ac1+Ac3)/2以上とした。
表1に示す成分の鋼を溶製し50kgの鋼塊とし、1250℃の温度に再加熱後、熱延終了温度900℃で圧延後、巻き取りを模擬した炉に600℃で3時間保持した。その後、50%の冷間圧延を行った。以上のように造った鋼板を900℃に加熱し、金型プレスを施し、ホットスタンプを模擬した。ホットスタンプ後の材質として、耐遅れ破壊特性、引張特性及び残留オーステナイトの分率の調査を行った。結果を表2に示す。
また、発明鋼Kについて、ホットスタンプの加熱温度の影響を調べた。その結果を表3に示す。
ホットスタンプ処理により得られた鋼の一部に冷間で打ち抜き加工を施した。打ち抜きの条件は、ポンチ10mmφ、ダイス0.5mmφ、クリアランスは15.6%、打ち抜き速度は20mm/minである。なお、打ち抜き速度やクリアランスを変化させても評価結果は大きくは変わらない。
その後、耐遅れ破壊特性を確認するため、以下の加速試験を行った。水素チャージを行い、1時間毎に打ち抜き部の打ち抜き端部を観測し、割れを確認したサンプルについては試験を終了した。この試験は最長で48時間とした。このように時間を制限したのは、それ以上試験を行っても、水素のトラップサイトが水素で埋め尽くされており、鋼中の水素量の変化が小さいためである。
鋼板の引張り特性は、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、評価した。伸びについては、均一伸びをu−EL、局部伸びをl−EL、全伸びをt−ELで表す。
残留オーステナイトの分率は、X線回折により求めた。
図1にVc90と強度−均一伸びバランスの関係を示す。Vc90が25以上50以下の場合に優れた強度−均一伸びバランスとなることが分かる。
図2に水素チャージ試験における割れ発生時間に及ぼすVc90の影響を示す。Vc90が50以下の場合に耐遅れ破壊特性が大きく向上していることが分かる。
この残留オーステナイトが、水素チャージ試験においてはトラップサイトとして働き、耐水素脆化特性を高め、また、引張試験時においては、歪誘起マルテンサイト変態による加工硬化率の向上に寄与したものと推定される。図3より、残留オーステナイト分率が優れるのは、耐水素脆化特性及び引張特性が優れることがわかる。
図5には本発明鋼及び比較鋼の強度−均一伸びバランスを示す。炭素量を変化させることによって強度を調整しているが、どの強度レベルにおいても本発明鋼の均一伸びは優れていることが分かる。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.1〜0.5%、Si:0.05〜2%、Mn:0.1〜3%、Al:0.003〜2%を含有し、P:0.05%以下、S:0.03%以下、N:0.01%以下に制限し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、かつ、下記の式1及び式2を満たすことを特徴とする耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
Si+Al≧1.0% ・・・式(1)
50≧Vc90≧25 ・・・式(2)
ただし、SiとAlはそれらの含有量(質量%)であり、Vc90及びVc90の式で用いられるβは、下記の式3及び式4で規定される。式4における元素は、その質量%で表される含有量の数値である。
Vc90=10^(3.69−0.75β) [℃/s] ・・・式(3)
β=2.7C+0.4Si+Mn−0.8Al ・・・式(4) - 質量%で、C:0.1〜0.5%、Si:0.05〜2%、Mn:0.1〜3%、Al:0.4〜1.6%、及び、Mo:0.01〜1.0%とCr:0.01〜1.0%の1種または2種を含有し、P:0.05%以下、S:0.03%以下、N:0.01%以下に制限し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、かつ、元素の含有量(質量%)を用いた下記の式1及び式2を満たすことを特徴とする耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
Si+Al≧1.0% ・・・式(1)
50≧Vc90≧25 ・・・式(2)
ただし、SiとAlはそれらの含有量(質量%)であり、Vc90及びVc90の式で用いられるβ2は、下記の式5及び式6で規定される。式6における元素は、その質量%で表される含有量の数値である。
Vc90=10^(3.69−0.75β2) [℃/s] ・・・式(5)
β2=2.7C+0.4Si+Mn+0.45Ni+0.8Cr+2Mo−0.8Al ・・・式(6) - さらに、質量%で、Ti、Nb、V、Wから選択された少なくとも1種または2種以上を、それぞれ0.01〜1%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
- さらに、質量%で、B:0.001%以下、Ni:1%以下、Cu:3.0%以下から選択された少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
- さらに、質量%で、Ca、Mg、Zr、REMから選択された少なくとも1種または2種以上を、それぞれ0.0005%以上、0.05%以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
- さらに、質量%で、Sn:0.005〜0.1%、Sb:0.005〜0.1%から選択された1種または2種を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレス用の鋼板。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の鋼板を(Ac1+Ac3)/2以上の温度に加熱し、金型で急冷し、ミクロ組織において残留オーステナイトを5%以上含むようにすることを特徴とする耐遅れ破壊特性及び衝突安全性に優れるホットプレスで造られる製品の製造方法。
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