JP5413330B2 - 耐遅れ破壊特性に優れたホットプレス用めっき鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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そこで、近年では、特許文献1に開示されているように、鋼板をオーステナイトの単相域に加熱し、その後プレス成型にて冷却を施し焼き入れを行う、いわゆるホットスタンプの技術が開示されており、高強度でありながら自動車用の部材を作りこむことができる。
一方、自動車用の部材に使用する鋼板には、耐食性が必要であることが多く、特許文献3に開示されているようにめっき鋼板を使用することが望ましい。
その本発明の要旨するところは下記のとおりである。
Hmax−Ht≧0.07ppm ・・・(式1)
ここで、Hmax:鋼板がトラップすることができる最大の非拡散性水素量(ppm)、Ht:めっき後の鋼板中にトラップしている非拡散性水素量(ppm)である。
(3)さらに、質量%で、Al:0.005〜1%を含有することを特徴とする(1)又は(2)記載のホットプレス用の鋼板。
(4)さらに、質量%で、Sn:0.005〜0.1%、Sb:0.005〜0.1%のうち1種類以上を含有することを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のホットプレス用の鋼板。
(Hmax−Hb)≧0.03ppm ・・・(式2)
ここで、Hmax:鋼板がトラップすることができる最大の非拡散性水素量(ppm)、Hb:焼鈍前の鋼板中にトラップしている非拡散性水素量(ppm)である。
耐遅れ破壊特性を向上させるためには、水素を応力集中部に拡散させないようにすることが必要となる。そのための手段として、水素のトラップサイトとして、水素との結合エネルギーの高い介在物や析出物が用いられる。外部から侵入してくる水素をトラップすることによってこの効果が得られる。本発明のめっき鋼板においても、めっきのついていない鋼板の端部やめっきがはがれた場合の補償のためにも必要である。
しかし、めっき鋼板の場合には、水素がすでにトラップされていると、水素が鋼板の外に抜けることがないため、新たに入ってきた水素をトラップ出来ず、上記の効果は得られない。
Hmax−Ht≧0.07ppm ・・・(式1)
ここで、Hmax:鋼板がトラップすることができる最大の非拡散性水素量(ppm)、Ht:めっき後の鋼板中にトラップしている非拡散性水素量(ppm)である。
C:0.1〜0.5%
Cは冷却後のオーステナイトから急冷して出来る組織であるマルテンサイトの強度を確保するために必要な元素である。強度を1000MPa以上確保するためには、0.1%以上添加する必要があるが、添加しすぎると靭性が大きく劣化し衝撃変形時の強度確保が困難であるためその上限を0.5%とした。
Siは固溶強化元素であり、比較的安価に鋼板の強度を上昇させることができ、0.05%以上で効果が認められるが、2%を超えて添加しても効果が飽和し、また。めっき性が大きく劣化するため、その上限を2%とした。
Mnは、焼き入れ性の観点から有用な元素であり、0.1%以上で効果が認められるが、3%を超えて添加してもコストが上昇し、また効果が飽和するため、上限を3%とした。
Pは固溶強化元素であり、比較的安価に鋼板の強度を上昇させることができる。ただし、添加量が大きくなると、靭性や耐遅れ破壊特性を劣化させるため上限を0.1%とした。
Sは不可避的に含まれる元素であり、多くなると靭性を劣化させるため低いほど好ましく、0.03%以下にすることで加工性に対する加工性の問題が小さくなるため0.03%以下とするのが好ましい。
Ti:0.005〜1%
TiはNとTiNをつくる観点から添加したほうが好ましい。Nは低減しても10ppm程度あるためNを固定するためには下限を0.005%とする必要がある。また、炭素と炭化物を造り、水素をトラップする効果があるため、Tiを入れるほど耐水素脆化特性が上昇する。しかし、1%を超える量を入れると、固溶炭素量が減少し、マルテンサイトの強度を低減し、また、靭性が大きく劣化するため上限を1%とした。
NbはNbNを作る観点から添加することができ、質量%にてNの約6.6倍添加することが必要であるが、Nは低減しても10ppm程度であるので下限を0.01%とした。また、Nbはホットスタンプ後の組織であるマルテンサイトの旧オーステナイト粒径を微細化し、鋼の靭性を上げることができ、またNbCを造り、水素をトラップして耐水素脆化特性を向上させることができる。しかし1%を超える量を添加すると焼き入れ性が低減し、強度が低減するため、その上限を1%とした。
Vは焼き入れ性の観点からも有用な元素であり、0.01%以上にて効果を発揮する。また、VCを作ることによって水素をトラップし耐水素脆化特性を向上させることができる。しかし、1%を超えて添加すると、焼き入れ性が低くなり、強度が低減し、またコストも高いことから上限を1%とした。
Moは焼き入れ性の観点から有用な元素であり、0.01%以上にて効果を発揮する。また、Moを添加することによって炭化物をつくる。この炭化物は水素をトラップするため耐水素脆化特性が向上する。しかし、1%を超えて添加すると、焼き入れ性が低くなり、強度が低減し、またコストも高いことから上限を1%とした。
Wは焼き入れ性の観点から有用な元素であり、0.005%以上にて効果を発揮する。また、Moを添加することによって炭化物をつくる。この炭化物は水素をトラップするため耐水素脆化特性が向上する。しかし、1%を超えて添加すると、焼き入れ性が低くなり、強度が低減し、またコストも高いことから上限を1%とした。
Cuは焼き入れ性に加え靭性の観点でも有用な元素であり、0.01%以上にて効果を発揮する。また、Cuが析出し、周辺に整合ひずみをつくり、水素がトラップされるため耐水素脆化特性が向上する。ただし3%を超えて添加しても効果は飽和しまたコストを上昇させるばかりでなく鋳片性状の劣化や熱間圧延時のわれや疵発生を生じさせるためその上限を3%とした。
これらの元素は酸素と結び付き、酸化物を形成する。これらの酸化物は水素を急増することができるため、耐水素脆化特性を向上させる。この効果を得るためには0.005%以上の添加が必要である。しかし、Zr:0.1%、La:0.1%、Ce:0.1%、Y:0.5%、Mg:1%を超える量を添加するとその効果が飽和し、また、コストが上昇するためその上限をそれぞれZr:0.1%、La:0.1%、Ce:0.1%、Y:0.5%、Mg:1%とした。
Bも焼き入れ性の観点から有用な元素であり必要に応じて添加される。Bを0.0003%以上添加するとその効果が得られる。しかし。0.0010%を超えて添加してもその効果は飽和し、また鋳造欠陥や熱間圧延時の割れを生じさせるなどの製造性の低下を生じるため、上限を0.0010%とした。
Niは焼き入れ性に加え、耐衝撃特性の改善に繋がる低温人生の観点で有用な元素であり、必要に応じて添加される。Niは0.01%以上の添加でその効果を発揮する。しかし、5%を超えて添加してもその効果は飽和し、またコストを上昇させるため上限を5%とした。
AlはN固定の観点から必要に応じて添加することができ、また脱酸剤としても有用である。添加する場合には、鋼中に0.005%以上含有させることが必要であるが、1%を超えて添加すると上記の観点では効果が飽和し、かつ焼き入れ性の低減につながり強度の確保が困難になるため上限を1%とした。
Sn、Sbはめっき性の濡れ性や密着性を向上させるのに有効な元素であり、必要に応じて0.005%〜0.1%添加できる。いずれも、0.005%未満では効果が認められず、0.1%を超えて添加すると製造時の疵が発生しやすくなったり、また、靭性の低下を引き起こしたりするため、上限を0.1%とした。
母材鋼板の任意の場所から抽出レプリカ試料を作成し、これを前記の透過電子顕微鏡(TEM)を用いて倍率は5000〜20000倍で少なくとも5000μm2以上の面積にわたって観察し、対象となる複合介在物の個数を測定し、単位面積当たりの個数に換算する。この時、介在物と析出物の同定にはTEMに付属のエネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析とTEMによる電子線回折像の結晶構造解析によって行われる。このような同定を測定する全ての複合介在物に対して行うことが煩雑な場合、簡易的に次に手順による。まず、対象となるサイズの個数を形状、サイズ別に上記の要領にて測定し、これらのうち、形状、サイズの異なる全てに対し、各々10個以上に対し上記の要領にて同定を行い、酸化物と介在物の割合を算出する。
本発明では、鋼板中の水素量の制御及び組織制御のため焼鈍の条件を以下のようにしている。
焼鈍後にめっきを施すために、めっき浴の温度以上の温度である650℃以上に加熱する。しかし、(Ac1+Ac3)/2+(Ac3−Ac1)/4を超えた温度以上では水素量が多量となる。これは、当該温度以上になると急激に水素の溶解度が高いオーステナイトが急激に増加するためであると考えられる。このため、(Ac1+Ac3)/2+(Ac3−Ac1)/4以下の温度での焼鈍とした。
Ac3=910−203×√C−15.2Ni+44.7Si+104V
+31.5Mo+13.1W
Ac1=723−10.7Mn−16.9Ni+29.1Si+16.9Cr
+290As+6.38W
(Hmax−Hb)≧0.03ppm ・・・(式2)
ここで、Hmax:鋼板がトラップすることができる最大の非拡散性水素量(ppm)、Hb:焼鈍前の鋼板中にトラップしている非拡散性水素量(ppm)である。
熱間圧延は通常の熱延工程、あるいは仕上げ圧延においてスラブを接合し圧延する連続化熱延工程のどちらでも可能である。前述した成分範囲の鋼を鋳造し、得られたスラブを、熱を帯びたまま又は再加熱した後に熱間圧延を行う。再加熱の温度は、生産性を考慮して1000℃から1300℃の範囲とするとよい。
その後の熱間圧延条件である圧延終了温度は生産性や板厚精度、又異方性改善の観点からAr3変態点以上とすることが望ましい。
酸洗は表面のスケールがとれる方法ならどのような条件でも構わない。但し、前述のように、酸洗時に多量の水素が鋼中に侵入するため、焼鈍までの時間を十分確保する必要がある。
表1に示す成分の鋼を溶製し50kgの鋼塊とし、1250℃の温度に再加熱後、表2に示す条件で熱延、酸洗、冷間圧延を施した。酸洗終了から焼鈍までの時間は表3、4に示すとおりである。その後、表3、4に示す条件にて焼鈍―アルミめっきを行った。
また、鋼板母材より抽出レプリカ試料を作成し、酸化物と析出物の粒径、個数を測定し、単位面積当たりの個数に換算した.これを表3、4に表記する。
ホットスタンプ処理により得られた鋼の一部に冷間で打ち抜き加工を施した。打ち抜きの条件は、ポンチ10mmφ、ダイス0.5mmφ、クリアランスは15.6%、打ち抜き速度は20mm/minである。なお、打ち抜き速度やクリアランスを変化させても評価結果は大きくは変わらない。
まず、水素を導入するために、表面の一部のめっきを剥がし、その後5min以内に水素チャージを行った。
5min以内と時間を制限したのは、めっきを剥がしたことによって表面から水素の侵入や脱水素を防ぐためである。5min以内に実施不可能な場合には、液体窒素中に保管し、水素の拡散を抑制した。
また、上記のようにめっきの一部を剥がしたのは、なんらかの原因で入る可能性がある表面に疵や、めっきが施されていない端部を模擬したものである。このような部分は、腐食が進み水素が侵入しやすく、それを水素チャージにて模擬したのである。
加速試験の結果は表3、4の通りである。
また、各鋼種について、100時間水素チャージを行い、非拡散性水素量の最大値Hmaxを決定した。ちなみに、100時間以上水素チャージを行っても非拡散性水素量が増えないことを確認している。
(Hmax−Hb)の値、炉内露点及び焼鈍温度が本発明範囲にある場合において、(Hmax−Ht)の値に及ぼす炉内水素量の影響を図3に示す。炉内水素量が10%以下の場合には、侵入量が少ないことが分かる。
(Hmax−Hb)の値、炉内露点及び炉内水素濃度が本発明範囲にある場合において、(Hmax−Ht)の値に及ぼす焼鈍の最高加熱温度の影響を図4に示す。最高加熱温度が(Ac1+Ac3)/2+(Ac3−Ac1)/4以下の場合には、侵入量が少ないことが分かる。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.1〜0.5%、Si:0.05〜2%、Mn:0.1〜3%、
さらに、Ti:0.005〜1%、Nb:0.01〜1%、V:0.01〜1%、Mo:0.01〜1%、W:0.005〜1%、Cu:0.01〜3%、Zr:0.005〜0.1%、Y:0.005〜0.5%、Mg:0.005〜1%、La:0.005〜0.1%、Ce:0.005〜0.1%のうち1種類以上を含有し、鋼板表面にアルミニウム又は亜鉛を主体とするめっきが施され、鋼板中の水素量が下記の(式1)を満たすことを特徴とするホットプレス用の鋼板。
Hmax−Ht≧0.07ppm ・・・(式1)
ここで、Hmax:鋼板がトラップすることができる最大の非拡散性水素量(ppm)、Ht:めっき後の鋼板中にトラップしている非拡散性水素量(ppm)である。 - さらに、質量%で、B:0.0003〜0.0010%、Ni:0.01〜5%のうち1種類以上をさらに含有することを特徴とする請求項1記載のホットプレス用の鋼板。
- さらに、質量%で、Al:0.005〜1%を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のホットプレス用の鋼板。
- さらに、質量%で、Sn:0.005〜0.1%、Sb:0.005〜0.1%のうち1種類以上を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のホットプレス用の鋼板。
- 鋼板を焼鈍及びめっきするに際し、焼鈍炉に入れる前の鋼板の非拡散性水素量が下記の(式2)を満たし、焼鈍炉中の水素濃度が10%以下及び露点が0℃以下で、650℃以上、{(Ac1+Ac3)/2+(Ac3−Ac1)/4}以下の温度にて鋼板を焼鈍した後に、鋼板表面にアルミニウム又は亜鉛を主体とするめっきを施すことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のホットプレス用の鋼板の製造方法。
(Hmax−Hb)≧0.03ppm ・・・(式2)
ここで、Hmax:鋼板がトラップすることができる最大の非拡散性水素量(ppm)、Hb:焼鈍前の鋼板中にトラップしている非拡散性水素量(ppm)である。
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