以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、温度センサを用いて行う温度調整について説明するが、温調部での温度調整がほぼ目標温度どおりに行われるのであれば、かならずしも温度センサは必要ない。このことは、行き届いた室温管理や液体吐出装置の設置環境によって実現することができ、具体的には工業生産用途など、装置のメンテナンス時を除き反復動作を同一環境下で繰り返す場合に行うことができる。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る液体吐出装置であるインクジェット描画装置の概略構成を示す模式図である。この図1に示す液体吐出装置であるインクジェット描画装置100は、液体としてインクを吐出する液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッド1を1つ備えており、この1つのインクジェットヘッド1でヘッドユニット3が構成されている。インクには様々なものが適用可能であり、例えば、有機パラジウム含有溶液(奥野製薬(株)製、CCP−4230)や金属粒子を含むインクなど、インクジェットヘッド1によって塗布できる物性のものであれば目的に応じて任意に選ぶことができる。本第1実施形態では、ヘッドユニット3に対して基板Bを矢印xy方向に移動させることにより、ヘッドユニット3を基板Bに対して相対的に矢印xy方向に移動させる。なお、ヘッドユニット3を基板Bに対して移動させてもよい。インクジェットヘッド1は、インクが供給される複数(本第1実施形態では、5つ)の液室5a,5b,5c,5d,5e(5)を有している。また、インクジェットヘッド1は、走査方向(図1中矢印y方向)に対して直交する方向(矢印x方向)に並設された複数(本第1実施形態では、15個)のインクiを吐出するノズル7を有している。つまり、ヘッドユニット3は、1つのインクジェットヘッド1を有しているので、複数(5つ)の液室5と、複数(15個)のノズル7を有していることとなる。1つの液室5には、3つのノズル7が対応して接続されている。これら複数のノズル7で矢印x方向に揃ったノズル列8が構成される。なお、各液室5に接続されるノズル7の数はこれに限定するものではなく、1つでもよいし、2つ以上であってもよい。各ノズル7は、不図示の電気熱変換体または圧電素子による吐出エネルギーの付与により、対応する液室5に供給されたインクiをそれぞれ吐出するように構成されている。インク液滴の吐出に用いるノズル7は任意に選択可能であり、使用するノズル7と吐出の周波数によって様々なパターンを基板B上に作製することができる。尚、ここでは電気熱変換体または圧電素子を用いたインクジェットによる液体塗布方法について述べているが、液体を塗布する形態のもの、例えば静電式インクジェットやディスペンサなどのあらゆる方式に適用可能である。
インクジェット描画装置100は、インクを貯留する貯留タンクとしてのインクタンク11と、ヘッドユニット3の複数(5つ)の液室5とを連通する複数の流路(以下、分岐流路という)13と、を備えている。本第1実施形態では、インクジェット描画装置100は、5つの分岐流路13a、13b,13c,13d,13eを備えている。具体的には、分岐流路13aはインクタンク11と液室5aとを連通し、分岐流路13bはインクタンク11と液室5bとを連通し、分岐流路13cはインクタンク11と液室5cとを連通する。また、分岐流路13dはインクタンク11と液室5dとを連通し、分岐流路13eはインクタンク11と液室5eとを連通する。本第1実施形態では、1つの液室5に1つの分岐流路13が接続されているが、これに限定するものではなく、1つの分岐流路13が2つ以上の液室5に対応して接続されていてもよい。なお、各分岐流路13は、管材で形成されている。
また、インクジェット描画装置100は、各分岐流路13a〜13eにそれぞれ設けられた第1の温調部15a,15b,15c,15d,15e(15)を備えている。本第1実施形態では、インクジェット描画装置100は、複数(5つ)の第1の温調部15を備えている。各第1の温調部15は、対応する分岐流路13を流れるインクに対してそれぞれ温熱又は冷熱を付与するものである。つまり、1つの分岐流路13に対して1つの第1の温調部15が設けられている。具体的には、分岐流路13aに第1の温調部15a、分岐流路13bに第1の温調部15b、分岐流路13cに第1の温調部15c、分岐流路13dに第1の温調部15d、分岐流路13eに第1の温調部15eが対応して設けられている。第1の温調部15は、本実施形態ではペルチェ素子であり、状況に応じて温熱及び冷熱の一方を付与することが可能である。各第1の温調部15は、各分岐流路13の壁の外側面に接触して取り付けられており、各分岐流路13の壁を介して各分岐流路13を流れるインクに温熱又は冷熱を付与するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100は、各分岐流路13a〜13eにそれぞれ設けられた第1の温度センサ17a〜17e(17)を備えている。本第1実施形態では、インクジェット描画装置100は、複数(5つ)の第1の温度センサ17を備えている。各第1の温度センサ17は、対応する第1の温調部15により温熱又は冷熱が付与されたインクの温度をそれぞれ検出するものである。つまり、第1の温度センサ17は、1つの分岐流路13に対して1つ設けられている。具体的には、第1の温調部15aに対応して第1の温度センサ17aが分岐流路13aに設けられ、第1の温調部15bに対応して第1の温度センサ17bが分岐流路13bに設けられている。また、第1の温調部15cに対応して第1の温度センサ17cが分岐流路13cに設けられ、第1の温調部15dに対応して第1の温度センサ17dが分岐流路13dに設けられている。また、第1の温調部15eに対応して第1の温度センサ17eが分岐流路13eに設けられている。そして、各第1の温度センサ17は、各分岐流路13の各第1の温調部15が取り付けられた箇所の下流であって、各分岐流路13の壁の外側面に接触して取り付けられている。したがって、各第1の温度センサ17は、各分岐流路13の壁を介して各分岐流路13を流れるインクの温度を検出するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100は、各液室5a〜5eにそれぞれ設けられ、各液室5a〜5eに供給されたインクに対してそれぞれ温熱又は冷熱を付与する第2の温調部19a,19b,19c,19d,19e(19)を備えている。本第1実施形態では、インクジェット描画装置100は、複数(5つ)の第2の温調部19を備えている。つまり、1つの液室5に対して1つの第2の温調部19が設けられている。具体的には、液室5aに第2の温調部19a、液室5bに第2の温調部19b、液室5cに第2の温調部19c、液室5dに第2の温調部19d、液室5eに第2の温調部19eが対応して設けられている。第2の温調部19は、本実施形態ではペルチェ素子であり、状況に応じて温熱及び冷熱の一方を付与することが可能である。各第2の温調部19は、各液室5の外壁面に接触して取り付けられており、各液室5の壁を介して各液室5に供給されたインクに温熱又は冷熱を付与するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100は、各液室5a〜5eにそれぞれ設けられた第2の温度センサ21a〜21e(21)を備えている。本第1実施形態では、インクジェット描画装置100は、複数(5つ)の第2の温度センサ21を備えている。各第2の温度センサ21は、対応する各第2の温調部19により温熱又は冷熱が付与されたインクの温度をそれぞれ検出するものである。第2の温度センサ21は、1つの液室5に対して1つ設けられている。具体的には、第2の温調部19aに対応して第2の温度センサ21aが液室5aに設けられ、第2の温調部19bに対応して第2の温度センサ21bが液室5bに設けられ、第2の温調部19cに対応して第2の温度センサ21cが液室5cに設けられている。また、第2の温調部19dに対応して第2の温度センサ21dが液室5dに設けられ、第2の温調部19eに対応して第2の温度センサ21eが液室5eに設けられている。そして、各第2の温度センサ21は、各液室5の外壁面に接触して取り付けられている。したがって、各第2の温度センサ21は、各液室5の壁を介して各液室5内のインクの温度を検出するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100は、各第1の温調部15及び各第2の温調部19を制御する制御部として、第1の制御部23と、第2の制御部25とを備えている。第1の制御部23は、測温部23aと、温度コントロール部23bと、を有する。測温部23aは、各第1の温度センサ17に接続され、各第1の温度センサ17から出力される温度検出結果を示す検出信号(電圧)を入力し、温度コントロール部23bにて認識可能なデータ信号に変換して出力する。温度コントロール部23bは、各第1の温度センサ17により検出された温度を示すデータ信号を測温部23aから入力し、各第1の温調部15を制御する。すなわち、温度コントロール部23bには、各第1の温度センサ17に対応する5つの第1の目標温度が設定されている。そして、温度コントロール部23bは、各第1の温度センサ17により検出される温度が各第1の目標温度となるように各第1の温調部15を制御する。したがって、第1の制御部23は、各第1の温調部15により各分岐流路13を流れるインクの温度を最適に調整することができる。本実施形態では、第1の温調部15がペルチェ素子であるので、温度コントロール部23bは、ペルチェ素子に供給する電流を制御する。
同様に、第2の制御部25は、測温部25aと、温度コントロール部25bと、を有する。測温部25aは、各第2の温度センサ21に接続され、各第2の温度センサ21から出力される温度検出結果を示す検出信号(電圧)を入力し、温度コントロール部25bにて認識可能なデータ信号に変換して出力する。温度コントロール部25bは、各第2の温度センサ21により検出された温度を示すデータ信号を測温部25aから入力し、各第2の温調部19を制御する。すなわち、温度コントロール部25bには、各第2の温度センサ21に対応する5つの第2の目標温度が設定されている。そして、温度コントロール部25bは、各第2の温度センサ21により検出される温度が各第2の目標温度となるように各第2の温調部19を制御する。したがって、第2の制御部25は、各第2の温調部19により各液室5のインクの温度を最適に調整することができる。本実施形態では、第2の温調部19がペルチェ素子であるので、温度コントロール部25bは、ペルチェ素子に供給する電流を制御する。
以上の構成により、まず、第1の温調部15及び第2の温調部19を非動作状態として各ノズル7よりインクiを吐出した場合について説明する。図2は、図1の複数のノズルのうち5つのノズル7からインクiを吐出した場合について図示している。つまり、各液室5a〜5eに対応する3つのノズル7のうち、2つのノズル7(不図示の電気熱変換体または圧電素子)を非動作状態とし、1つのノズル7(不図示の電気熱変換体または圧電素子)を動作状態とする。なお、どのノズル7を動作状態とし、どのノズル7を非動作状態とするかは、任意に設定可能である。図2(a)に示すように、ノズル列方向に5つのインクiが吐出されると、基板B上には、走査方向と直交する方向(矢印x方向)に5つのドットdが形成される。これらドットdは、例えば不図示の電極間に形成される導電性パターンである。そして、インクジェットヘッド1を走査方向(矢印y方向)に基板Bに対して相対的に走査すると、矢印y方向に順次別のドットdが形成される。図2(b)には、1列の矢印x方向のドットd1〜d5が図示されているが、ノズル列端部のノズル7からノズル列中央部に向かうに連れ、ドットdの乾燥速度(乾燥時間)が遅くなる。つまり、ノズル列端部のノズル7から吐出されたインクiにより形成されたドットd1,d5の乾燥速度が最も速く、ノズル列中央部のノズル7から吐出されたインクiにより形成されたドットd3の乾燥速度が最も遅い。なお、ドットd1,d5とドットd3との中間のドットd2,d4の乾燥速度は、それらの中間である。ここで、ノズル列端部のノズル7とは、ノズル列8のうちの端部のノズル7であり、本第1実施形態では、ノズル列8のうち液室5a,5eに対応するノズル7である。また、ノズル列中央部のノズル7とは、ノズル列Aのうちの中央部のノズル7であり、本第1実施形態では、ノズル列8のうち液室5cに対応するノズル7である。
以下、ドットdの乾燥時間に対する乾燥形状について具体的に説明すると、インクジェット法によりドットdを描画した場合、乾燥後には、図3に示すように、ドット中央が窪んだ形状か、ドット中央が膨らんだ形状となる。なお、図3(a)において、膜形状の規定は、膜中心部の膜厚hbを膜端部の膜厚htで除した値を膜厚比と定義した。図3(b)の形状においては、端部の膜厚htとなる位置を、ドット中心から半径方向に半径の3/4の位置と定義した。膜厚比が1のとき、ドット形状は平坦である。膜厚比が1より小さい場合は、図3(a)のようにドット中央が窪んだ形状、1より大きい場合は、図3(b)のように中央が盛り上がった形状となる。なお、形成するドットdの膜厚比は、作製する配線パターンに応じて決まるものである。
また、非温調動作でノズル列8から基板Bにインクiを吐出し、形成された各ドットdの膜厚比を図4(a)に示す。また、乾燥時間(つまり、乾燥速度)と膜厚比との関係を図4(b)に示す。図4(b)に示すように、ドットdの乾燥時間が長くなるほど、膜厚比が大きくなる傾向にある。そして、図4(a)に示すように、ノズル列端部のノズル7から吐出されたインクiにより形成されるドットdの膜厚比が最も小さく、図4(b)の関係から、最も乾燥時間が短い(つまり最も乾燥速度が速い)ことがわかる。そして、図4(a)に示すように、ノズル列中央部のノズル7に向うに連れ、膜厚比が大きくなり、図4(b)の関係から、乾燥時間が徐々に長くなる(つまり乾燥速度が徐々に遅くなる)ことがわかる。
このような乾燥速度差に対し、乾燥の遅い部分をより早く乾燥させ、乾燥の遅い部分との乾燥速度差を小さくすることが考えられる。そのためにノズル列中央部のノズル7より吐出されるインクiの温度を、ノズル列端部のノズル7より吐出されるインクiの温度より高くすることによって乾燥速度差を低減する手法が考えられる。図4(c)は、複数のノズル7のうちある1つのノズル7から吐出されるインクiの温度に対する、乾燥時間と膜厚比とを示した図であり、この図4(c)から、所定の膜厚比にする際に、インクの温度をどの値に設定すればよいかを決定することができる。
そこで、本第1実施形態では、所定の膜厚比を得るのに必要な各ノズル7から吐出されるインクiの最適な温度を予め実験により求め、第2の制御部25に設定する液室5の第2の目標温度の値を決定する。具体的には、各第2の目標温度は、ノズル列端部のノズル7に対応する液室5a,5eからノズル列中央部のノズル7に対応する液室5cに向かうに連れ、液室内のインクの温度が高くなる値に設定される。つまり、図5(a)に示すように、液室5a,5eに対応する第2の目標温度の値Taに対して、その隣の液室5b,5dに対応する第2の目標温度の値Tbが高く設定されている。更に、液室5b,5dに対応する第2の目標温度の値Tbに対して、その隣の液室5cに対応する第2の目標温度の値Tcが高く設定される。したがって、中央部の液室5cに対応する第2の目標温度の値Tcが最も高く設定される。
ところで、各液室5に滞留しているインクの滞留時間は例えば数秒と短く、第2の温調部19だけでは、ノズル7から吐出するインクiに十分な温調を施すことは難しいため、本第1実施形態では、液室5に供給するインクに予熱を付与するようにしている。つまり、各第1の目標温度は、複数の分岐流路13a〜13eのうち対応する分岐流路13を流れるインクに予熱を付与する値に設定されている。
このように、各第1の温調部15により各分岐流路13を流れるインクに予熱を付与することで、各液室5には、予熱が付与されたインクが供給されることとなる。各液室5に供給されたインクは、各第2の温調部19によって温度が調整されるが、各第1の温調部15によって予熱が付与されているので、各第2の温調部19におけるインクの温度の調整量は少なくて済む。つまり、各第2の温調部19によりインクに付与する熱量が小さくて済む。したがって、各液室5に供給されたインクを第2の目標温度に短時間で調整することができ、液室5にインクが滞留する時間が短くても、第2の目標温度のインクiをノズル7から吐出することができる。したがって、ノズル列端部からノズル列中央部に向かうに連れ、ノズル7から吐出されるインクの温度を高くすることができ、各ノズル7により吐出された基板上の各ドットdの乾燥速度(乾燥時間)を均一な状態に近づけることができる。よって、各ドットdの乾燥によって形成される各膜の形状を均一な状態に近づけることができる。
また、分岐流路13及びヘッドユニット3の液室5の双方においてインクが温度調整されるので、温調対象となるインク量が多く熱容量が大きくなる。そのため、吐出条件の変化やインクリフレッシュ動作によるインク消費量変化の影響を受けにくい。また、インクジェットヘッド1自体による熱交換が起こらないため、インクの吐出量の変化や吐出周波数の変動によらず安定したインク温度を保つことが可能である。
本第1実施形態では、各第1の目標温度は、ノズル列端部のノズル7に対応する分岐流路13a,13eからノズル列中央部のノズル7に対応する分岐流路13cに向かうに連れ、分岐流路13を流れるインクの温度が高くなる値に設定されている。具体的には、図5(b)に示すように、分岐流路13a,13eに対応する第1の目標温度の値taに対して、その隣の分岐流路13b,13dに対応する第1の目標温度の値tbが高く設定されている。更に、分岐流路13b,13dに対応する第1の目標温度の値tbに対して、その隣の分岐流路13cに対応する第1の目標温度の値tcが高く設定される。したがって、中央部の分岐流路13cに対応する第1の目標温度の値tcが最も高く設定される。つまり、各第1の目標温度の値がta<tb<tcとなるように、温度勾配を付与している。したがって、液室5a,5eに対して液室5b,5dに供給されるインクの温度が高く、液室5b,5dに対して液室5cに供給されるインクの温度が高い。このように、各液室5に供給するインクに温度勾配を付与することで、各液室5において各第2の温調部19でインクに付与する熱量を小さくすることができ、各ノズル7より吐出させるインクを短時間で第2の目標温度に調整することができる。したがって、基板Bに形成される各膜の形状をより均一な状態に近づけることができる。
また、各第2の温調部19間の出力に分布を持たせても、第2の温調部19だけではインク温度が平均化し、所望の温度差が生じないことがあるが、本第1実施形態では、各第1の温調部15でインクに温度差を生じさせている。つまり、具体的には、液室5同士が接触しているので、隣接する第2の温調部19同士又は隣接する液室5同士が熱的に隔離されていない。この場合、隣接する第2の温調部19同士が熱的に隔離されていないので、各液室5にてインクに付与される熱量がほぼ平均化してしまうのに対し、分岐流路13同士は接触していないので、熱的に隔離されている。したがって、本第1実施形態のように、第1の温調部15により各分岐流路13を流れるインクに予熱を付与することは、隣接する第2の温調部19同士又は隣接する液室5同士が熱的に隔離されていない場合に特に有効である。例えば、ノズル列中央部のノズル7に対応する液室5cのインクに付与される熱量によって変動する温度と、ノズル列端部のノズル7に対応する液室5a(5e)のインクに付与される熱量によって変動する温度との差をΔTとする。また、液室5cに連通する分岐流路13cを流れるインクに付与される熱量によって変動する温度と、液室5a(5e)に連通する分岐流路13a(13e)を流れるインクに付与される熱量によって変動する温度との温度差をΔτとする。Δτ>ΔTと設定することにより、供給されるインクが十分な温度差を持ち、各ノズル7から吐出されるインクにおいて所望の温度分布を得ることができる。
しかも、本第1実施形態では、各第1の目標温度は、それぞれ複数の第2の目標温度のうち対応する第2の目標温度と同一の値に設定されている。つまり、ノズル列端部に対応するノズルに通じる液室5a,5eに連通する分岐流路13a,13eに対応する第1の目標温度の値taは、液室5a,5eに対応する第2の目標温度の値Taと同じ値に設定される。同様に、液室5a,5eの隣の液室5b,5dに連通する分岐流路13b,13dに対応する第1の目標温度の値tbは、液室5b,5dに対応する第2の目標温度の値Tbと同じ値に設定される。更に、液室5b,5dの隣の液室5cに連通する分岐流路13cに対応する第1の目標温度の値tcは、液室5cに対応する第2の目標温度の値Tcと同じ値に設定される。
つまり、第1の温調部15により分岐流路13を流れるインクに予熱を付与しても、雰囲気によりインクの温度は変化し、各液室5に到達したインクは、変動していることがある。各液室5に到達したインクが各第2の温調部19により温度調整されるが、その際には、インクの温度変動分だけインクの温度を調整すればよいので、インクの温度をより短時間で第2の目標温度に近づけることができる。したがって、基板Bに形成される各膜の形状をより均一な状態に近づけることができる。
なお、ヘッドユニット3において使用するノズル7の位置、数、または雰囲気の温湿度や風速、基板温度や表面物性などにより乾燥パラメータは変動する。これに対して、各分岐流路13に対応する各第1の温調部15及び各液室5に対応する各第2の温調部19の出力を調整することにより、乾燥条件を最適に設定することができる。例えば図1において、液室5d,5eに対応するノズル7を使用しない場合、ノズル列中央部のノズル7は、液室5bに対応するノズル7となり、ノズル列端部のノズル7は、液室5a,5cに対応するノズル7となる。この場合には、液室5bに対応する第2の目標温度の値が液室5a,5cに対応する第2の目標温度の値よりも高くなるように設定される。つまり、ノズル列8のうち動作状態とするノズル7を対象として各温調部15,19を制御するものである。使用しない液室(ノズル)がある場合には、対応する各温調部15,19は非動作状態である。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る液体吐出装置であるインクジェット描画装置について説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る液体吐出装置であるインクジェット描画装置の概略構成を示す模式図である。
この図6に示す液体吐出装置であるインクジェット描画装置100Aは、液体としてインクを吐出する液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッド1Aを1つ備えており、この1つのインクジェットヘッド1Aでヘッドユニット3Aが構成されている。このインクジェット描画装置100Aに用いられる液体としてのインクは、上記第1実施形態と同様である。インクジェットヘッド1Aは、インクが供給される複数(本第2実施形態では、3つ)の液室5a,5b,5c(5A)を有している。また、インクジェットヘッド1Aは、走査方向(図6中矢印y方向)に対して直交する方向(矢印x方向)に並設された複数(本第2実施形態では、18個)のインクiを吐出するノズル7を有している。つまり、ヘッドユニット3Aは、1つのインクジェットヘッド1Aを有しているので、複数(3つ)の液室5Aと、複数(18個)のノズル7を有していることとなる。1つの液室5Aには、6つのノズル7が対応して接続されている。これら複数のノズル7で矢印x方向に揃ったノズル列8Aが構成される。なお、各液室5Aに接続されるノズル7の数はこれに限定するものではなく、1つでもよいし、2つ以上であってもよい。各ノズル7は、不図示の電気熱変換体または圧電素子による吐出エネルギーの付与により、対応する液室5Aに供給されたインクiをそれぞれ吐出するように構成されている。インク液滴の吐出に用いるノズル7は任意に選択可能であり、使用するノズル7と吐出の周波数によって様々なパターンを基板B上に作製することができる。
このインクジェット描画装置100Aは、インクを貯留する貯留タンクとしてのインクタンク11と、ヘッドユニット3Aの複数(3つ)の液室5a〜5cとを連通する1つの流路13Aと、を備えている。本第2実施形態では、ヘッドユニット3Aのインクジェットヘッド1Aは、複数(3つ)の液室5Aに接続される共通液室6を有しており、流路13Aは、インクタンク11と共通液室6とを連通するよう配置されている。なお、流路13Aは、管材で形成されている。
また、インクジェット描画装置100Aは、流路13Aに設けられ、流路13Aを流れるインクに対して温熱又は冷熱を付与する1つの第1の温調部15Aを備えている。第1の温調部15Aは、本実施形態ではペルチェ素子であり、状況に応じて温熱及び冷熱の一方を付与することが可能である。第1の温調部15Aは、流路13Aの壁の外側面に接触して取り付けられており、流路13Aの壁を介して流路13Aを流れるインクに温熱又は冷熱を付与するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Aは、流路13Aに設けられ、第1の温調部15Aにより温熱又は冷熱が付与されたインクの温度を検出する1つの第1の温度センサ17Aを備えている。そして、第1の温度センサ17Aは、流路13Aの第1の温調部15Aが取り付けられた箇所の下流であって、流路13Aの壁の外側面に接触して取り付けられている。したがって、第1の温度センサ17Aは、流路13Aの壁を介して流路13Aを流れるインクの温度を検出するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Aは、各液室5a〜5cにそれぞれ設けられ、各液室5a〜5cに供給されたインクに対してそれぞれ温熱又は冷熱を付与する第2の温調部19a,19b,19c(19A)を備えている。本第2実施形態では、インクジェット描画装置100Aは、複数(3つ)の第2の温調部19Aを備えている。つまり、1つの液室5Aに対して1つの第2の温調部19Aが設けられている。具体的には、液室5aに第2の温調部19a、液室5bに第2の温調部19b、液室5cに第2の温調部19cが対応して設けられている。第2の温調部19Aは、本実施形態ではペルチェ素子であり、状況に応じて温熱及び冷熱の一方を付与することが可能である。各第2の温調部19Aは、各液室5Aの外壁面に接触して取り付けられており、各液室5Aの壁を介して各液室5Aに供給されたインクに温熱又は冷熱を付与するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Aは、各液室5a〜5cにそれぞれ設けられた第2の温度センサ21a〜21c(21A)を備えている。本第2実施形態では、インクジェット描画装置100Aは、複数(3つ)の第2の温度センサ21Aを備えている。各第2の温度センサ21Aは、対応する第2の温調部19Aにより温熱又は冷熱が付与されたインクの温度をそれぞれ検出するものである。第2の温度センサ21Aは、1つの液室5Aに対して1つ設けられている。具体的には、第2の温調部19aに対応して第2の温度センサ21aが液室5aに設けられ、第2の温調部19bに対応して第2の温度センサ21bが液室5bに設けられ、第2の温調部19cに対応して第2の温度センサ21cが液室5cに設けられている。そして、各第2の温度センサ21Aは、各液室5Aの外壁面に接触して取り付けられている。したがって、各第2の温度センサ21Aは、各液室5Aの壁を介して各液室5A内のインクの温度を検出するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Aは、第1の温調部15A及び各第2の温調部19Aを制御する制御部として、第1の制御部23Aと、第2の制御部25Aとを備えている。第1の制御部23Aは、測温部23aと、温度コントロール部23bと、を有する。測温部23aは、第1の温度センサ17Aに接続され、第1の温度センサ17Aから出力される温度検出結果を示す検出信号(電圧)を入力し、温度コントロール部23bにて認識可能なデータ信号に変換して出力する。温度コントロール部23bは、第1の温度センサ17Aにより検出された温度を示すデータ信号を測温部23aから入力し、第1の温調部15Aを制御する。すなわち、温度コントロール部23bには、第1の温度センサ17Aに対応する1つの第1の目標温度が設定されている。そして、温度コントロール部23bは、第1の温度センサ17Aにより検出される温度が第1の目標温度となるように第1の温調部15Aを制御する。したがって、第1の制御部23Aは、第1の温調部15Aにより流路13Aを流れるインクの温度を最適に調整することができる。本実施形態では、第1の温調部15Aがペルチェ素子であるので、温度コントロール部23bは、ペルチェ素子に供給する電流を制御する。
同様に、第2の制御部25Aは、測温部25aと、温度コントロール部25bと、を有する。測温部25aは、各第2の温度センサ21Aに接続され、各第2の温度センサ21Aから出力される温度検出結果を示す検出信号(電圧)を入力し、温度コントロール部25bにて認識可能なデータ信号に変換して出力する。温度コントロール部25bは、各第2の温度センサ21Aにより検出された温度を示すデータ信号を測温部25aから入力し、各第2の温調部19Aを制御する。すなわち、温度コントロール部25bには、各第2の温度センサ21Aに対応する3つの第2の目標温度が設定されている。そして、温度コントロール部25bは、各第2の温度センサ21Aにより検出される温度が各第2の目標温度となるように各第2の温調部19Aを制御する。したがって、第2の制御部25Aは、各第2の温調部19Aにより各液室5Aのインクの温度を最適に調整することができる。本実施形態では、各第2の温調部19Aがペルチェ素子であるので、温度コントロール部25bは、ペルチェ素子に供給する電流を制御する。
本第2実施形態では、所定の膜厚比を得るのに必要な各ノズル7から吐出されるインクの最適な温度を予め実験により求め、第2の制御部25Aに設定する各液室5Aの各第2の目標温度の値を決定する。具体的には、各第2の目標温度は、ノズル列端部のノズル7に対応する液室5a,5cからノズル列中央部のノズル7に対応する液室5bに向かうに連れ、液室内のインクの温度が高くなる値に設定される。ここで、ノズル列端部のノズル7とは、ノズル列8Aのうちの端部のノズル7であり、本第2実施形態では、ノズル列8Aのうち液室5a,5cに対応するノズル7である。また、ノズル列中央部のノズル7とは、ノズル列8Aのうちの中央部のノズル7であり、本第2実施形態では、ノズル列8Aのうち液室5bに対応するノズル7である。そして、各液室5a,5b,5cに対応する6つのノズル7のうち1つのノズル7(不図示の電気熱変換体または圧電素子)は動作状態であり、残りの5つのノズル7(不図示の電気熱変換体または圧電素子)は非動作状態である。なお、どのノズル7を動作状態とし、どのノズル7を非動作状態とするかは、任意に設定可能である。
ところで、各液室5Aに滞留しているインクの滞留時間は例えば数秒と短く、各第2の温調部19Aだけでは、ノズル7から吐出するインクに十分な温調を施すことは難しいため、本第2実施形態では、液室5Aに供給するインクに予熱を付与するようにしている。つまり、第1の目標温度は、流路13Aを流れるインクに予熱を付与する値に設定されている。
このように、第1の温調部15Aにより流路13Aを流れるインクに予熱を付与することで、各液室5Aには、共通液室6を通じて予熱が付与されたインクが供給されることとなる。各液室5Aに供給されたインクは、各第2の温調部19Aによって温度が調整されるが、第1の温調部15Aによって予熱が付与されているので、各第2の温調部19Aにおけるインクの温度の調整量は少なくて済む。つまり、各第2の温調部19Aによりインクに付与する熱量が小さくて済む。したがって、各液室5Aに供給されたインクをそれぞれの第2の目標温度に短時間で調整することができ、各液室5Aにインクが滞留する時間が短くても、第2の目標温度のインクをノズル7から吐出することができる。したがって、ノズル列端部からノズル列中央部に向かうに連れ、ノズル7から吐出されるインクの温度を高くすることができ、各ノズル7により吐出された基板上の各ドットの乾燥速度(乾燥時間)を均一な状態に近づけることができる。よって、各ドットの乾燥によって形成される各膜の形状を均一な状態に近づけることができる。
また、分岐流路13A及びヘッドユニット3Aの液室5Aの双方においてインクが温度調整されるので、温調対象となるインク量が多く熱容量が大きくなる。そのため、吐出条件の変化やインクリフレッシュ動作によるインク消費量変化の影響を受けにくい。また、インクジェットヘッド1A自体による熱交換が起こらないため、インクの吐出量の変化や吐出周波数の変動によらず安定したインク温度を保つことが可能である。
更に、本第2実施形態では、第1の目標温度は、複数の第2の目標温度の値のうち最小値と最大値との間の値、例えば最小値に設定されている。これにより、各液室5Aには、第2の目標温度の最小値に近づけられた温度に予熱が付与されたインクが供給されることとなり、各第2の温調部19Aでは、各インクの温度を微調整するだけでよい。したがって、各液室5Aにインクが滞留する時間が短くても、各第2の温調部19Aにより各液室5Aのインクに温度差を与えることができ、乾燥速度(乾燥時間)を均一な状態に近づけることができる。
以上、本第2実施形態では、上記第1実施形態よりも温調制御が粗くなるが、第1の温調部15Aを1つで構成することができるので、上記第1実施形態よりも構造を簡素化でき、部品点数が少ないので、コストダウンを図ることができる。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る液体吐出装置であるインクジェット描画装置について説明する。図7は、本発明の第3実施形態に係る液体吐出装置であるインクジェット描画装置の概略構成を示す模式図である。
この図7に示す液体吐出装置であるインクジェット描画装置100Bは、液体としてインクを吐出する液体吐出ヘッドとしての3つのインクジェットヘッド1B,1C,1Dを備えている。各インクジェットヘッド1B,1C,1Dは、上記第2実施形態のインクジェットヘッド1Aと同様の構成である。本第3実施形態では、これら3つのインクジェットヘッド1B,1C,1Dでヘッドユニット3Bが構成されている。このインクジェット描画装置100Bに用いられる液体としてのインクは、上記第1実施形態と同様である。インクジェットヘッド1Bは、3つの液室5a,5b,5cを有し、インクジェットヘッド1Cは、3つの液室5d,5e,5fを有し、インクジェットヘッド1Dは、3つの液室5g,5h,5i(5B)を有している。また、各インクジェットヘッド1B,1C,1Dは、走査方向に対して直交する方向に並設された複数(本第3実施形態では、18個)のインクを吐出するノズル7を有している。つまり、ヘッドユニット3Bは、3つのインクジェットヘッド1B,1C,1Dを有しているので、複数(9つ)の液室5Bと、複数(54個)のノズル7を有していることとなる。1つの液室5Bには、6つのノズル7が対応して接続されている。これら複数のノズル7で走査方向と直交する方向に揃ったノズル列8Bが構成される。なお、各液室5Bに接続されるノズル7の数はこれに限定するものではなく、1つでもよいし、2つ以上であってもよい。各ノズル7は、不図示の電気熱変換体または圧電素子による吐出エネルギーの付与により、対応する液室5Bに供給されたインクをそれぞれ吐出するように構成されている。インク液滴の吐出に用いるノズル7は任意に選択可能であり、使用するノズル7と吐出の周波数によって様々なパターンを基板上に作製することができる。
インクジェット描画装置100Bは、インクを貯留する貯留タンクとしてのインクタンク11と、ヘッドユニット3Bの複数(9つ)の液室5Bとを連通する複数(3つ)の分岐流路13a,13b,13c(13B)と、を備えている。本第3実施形態では、3つの液室5Bに1つの分岐流路13Bが接続されているが、これに限定するものではなく、1つの分岐流路13Bが1つの液室5Bに対応して接続されていてもよい。なお、各分岐流路13Bは、管材で形成されている。
また、インクジェット描画装置100Bは、各分岐流路13a〜13cにそれぞれ設けられた第1の温調部15a,15b,15c(15B)を備えている。本第3実施形態では、インクジェット描画装置100Bは、複数(3つ)の第1の温調部15Bを備えている。各第1の温調部15Bは、対応する分岐流路13Bを流れるインクに対してそれぞれ温熱又は冷熱を付与するものである。つまり、1つの分岐流路13Bに対して1つの第1の温調部15Bが設けられている。具体的には、分岐流路13aに第1の温調部15a、分岐流路13bに第1の温調部15b、分岐流路13cに第1の温調部15cが対応して設けられている。第1の温調部15Bは、本実施形態ではペルチェ素子であり、状況に応じて温熱及び冷熱の一方を付与することが可能である。各第1の温調部15Bは、各分岐流路13Bの壁の外側面に接触して取り付けられており、各分岐流路13Bの壁を介して各分岐流路13Bを流れるインクに温熱又は冷熱を付与するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Bは、各分岐流路13a〜13cにそれぞれ設けられた第1の温度センサ17a〜17c(17B)を備えている。本第3実施形態では、インクジェット描画装置100Bは、複数(3つ)の第1の温度センサ17Bを備えている。各第1の温度センサ17Bは、対応する第1の温調部15Bにより温熱又は冷熱が付与されたインクの温度をそれぞれ検出するものである。第1の温度センサ17Bは、1つの分岐流路13Bに対して1つ設けられている。具体的には、第1の温調部15aに対応して第1の温度センサ17aが分岐流路13aに設けられ、第1の温調部15bに対応して第1の温度センサ17bが分岐流路13bに設けられている。また、第1の温調部15cに対応して第1の温度センサ17cが分岐流路13cに設けられている。そして、各第1の温度センサ17Bは、各分岐流路13Bの各第1の温調部15Bが取り付けられた箇所の下流であって、各分岐流路13Bの壁の外側面に接触して取り付けられている。したがって、各第1の温度センサ17Bは、各分岐流路13Bの壁を介して各分岐流路13Bを流れるインクの温度を検出するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Bは、各液室5a〜5iにそれぞれ設けられ、各液室5Bに供給されたインクに対してそれぞれ温熱又は冷熱を付与する第2の温調部19a〜19i(19B)を備えている。本第3実施形態では、インクジェット描画装置100Bは、複数(9つ)の第2の温調部19Bを備えている。つまり、1つの液室5Bに対して1つの第2の温調部19Bが設けられている。具体的には、液室5aに第2の温調部19a、液室5bに第2の温調部19b、液室5cに第2の温調部19c、液室5dに第2の温調部19d、液室5eに第2の温調部19eが対応して設けられている。また、液室5fに第2の温調部19f、液室5gに第2の温調部19g、液室5hに第2の温調部19h、液室5iに第2の温調部19iが対応して設けられている。第2の温調部19Bは、本実施形態ではペルチェ素子であり、状況に応じて温熱及び冷熱の一方を付与することが可能である。各第2の温調部19Bは、各液室5Bの外壁面に接触して取り付けられており、各液室5Bの壁を介して各液室5Bに供給されたインクに温熱又は冷熱を付与するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Bは、各液室5a〜5iにそれぞれ設けられた第2の温度センサ21a〜21i(21B)を備えている。本第3実施形態では、インクジェット描画装置100Bは、複数(9つ)の第2の温度センサ21Bを備えている。各第2の温度センサ21Bは、対応する第2の温調部19Bにより温熱又は冷熱が付与されたインクの温度をそれぞれ検出するものである。第2の温度センサ21Bは、1つの液室5Bに対して1つ設けられている。具体的には、第2の温調部19aに対応して第2の温度センサ21aが液室5aに設けられ、第2の温調部19bに対応して第2の温度センサ21bが液室5bに設けられ、第2の温調部19cに対応して第2の温度センサ21cが液室5cに設けられている。また、第2の温調部19dに対応して第2の温度センサ21dが液室5dに設けられ、第2の温調部19eに対応して第2の温度センサ21eが液室5eに設けられている。また、第2の温調部19fに対応して第2の温度センサ21fが液室5fに設けられ、第2の温調部19gに対応して第2の温度センサ21gが液室5gに設けられている。また、第2の温調部19hに対応して第2の温度センサ21hが液室5hに設けられ、第2の温調部19iに対応して第2の温度センサ21iが液室5iに設けられている。そして、各第2の温度センサ21Bは、各液室5Bの外壁面に接触して取り付けられている。したがって、各第2の温度センサ21Bは、各液室5Bの壁を介して各液室5B内のインクの温度を検出するよう構成されている。
また、インクジェット描画装置100Bは、上記第1実施形態の第1の制御部23と同様の構成の第1の制御部23Bと、上記第1実施形態の第2の制御部25と同様の構成の第2の制御部25Bとを備えている。なお、第1の制御部23Bの測温部23aは、第1の温度センサ17a〜17cの検出結果を入力し、温度コントロール部23bは、検出結果が第1の目標温度となるように第1の温調部15a〜15cを制御する。同様に、第2の制御部25Bの測温部25aは、第2の温度センサ21a〜21iの検出結果を入力し、温度コントロール部25bは、検出結果が第2の目標温度となるように第2の温調部19a〜19iを制御する。
本第3実施形態では、所定の膜厚比を得るのに必要な各ノズル7から吐出されるインクの最適な温度を予め実験により求め、第2の制御部25Bに設定する各液室5Bの各第2の目標温度の値を決定する。具体的には、各第2の目標温度は、ノズル列端部のノズル7に対応する液室5a,5iからノズル列中央部のノズル7に対応する液室5eに向かうに連れ、液室内のインクの温度が高くなる値に設定される。ここで、ノズル列端部のノズル7とは、ノズル列8Bのうちの端部のノズル7であり、本第3実施形態では、ノズル列8Bのうち液室5a,5iに対応するノズル7である。また、ノズル列中央部のノズル7とは、ノズル列8Bのうちの中央部のノズル7であり、本第3実施形態では、ノズル列8Bのうち液室5eに対応するノズル7である。そして、各液室5a〜5iに対応する6つのノズル7のうち1つのノズル7(不図示の電気熱変換体または圧電素子)は動作状態であり、残りの5つのノズル7(不図示の電気熱変換体または圧電素子)は非動作状態である。なお、どのノズル7を動作状態とし、どのノズル7を非動作状態とするかは、任意に設定可能である。
ところで、各液室5Bに滞留しているインクの滞留時間は例えば数秒と短く、第2の温調部19Bだけでは、ノズル7から吐出するインクに十分な温調を施すことは難しいため、本第3実施形態では、各液室5Bに供給するインクに予熱を付与するようにしている。つまり、各第1の目標温度は、複数の分岐流路13a〜13cのうち対応する分岐流路13Bを流れるインクに予熱を付与する値に設定されている。
このように、各第1の温調部15Bにより各分岐流路13Bを流れるインクに予熱を付与することで、各液室5Bには、予熱が付与されたインクが供給されることとなる。各液室5Bに供給されたインクは、各第2の温調部19Bによって温度が調整されるが、各第1の温調部15Bによって予熱が付与されているので、各第2の温調部19Bにおけるインクの温度の調整量は少なくて済む。つまり、各第2の温調部19Bによりインクに付与する熱量が小さくて済む。したがって、各液室5Bに供給されたインクを第2の目標温度に短時間で調整することができ、液室5Bにインクが滞留する時間が短くても、第2の目標温度のインクをノズル7から吐出することができる。したがって、ノズル列端部からノズル列中央部に向かうに連れ、ノズル7から吐出されるインクの温度を高くすることができ、各ノズル7により吐出された基板上の各ドットの乾燥速度(乾燥時間)を均一な状態に近づけることができる。よって、各ドットの乾燥によって形成される各膜の形状を均一な状態に近づけることができる。
また、分岐流路13B及びヘッドユニット3Bの液室5Bの双方においてインクが温度調整されるので、温調対象となるインク量が多く熱容量が大きくなる。そのため、吐出条件の変化やインクリフレッシュ動作によるインク消費量変化の影響を受けにくい。また、インクジェットヘッド1B,1C,1D自体による熱交換が起こらないため、インクの吐出量の変化や吐出周波数の変動によらず安定したインク温度を保つことが可能である。
また、本第3実施形態では、各第1の目標温度は、ノズル列端部のノズル7に対応する分岐流路13a,13cからノズル列中央部のノズル7に対応する分岐流路13bに向かうに連れ、分岐流路13Bを流れるインクの温度が高くなる値に設定されている。具体的には、分岐流路13a,13cに対応する第1の目標温度の値に対して、その隣の分岐流路13cに対応する第1の目標温度の値が高く設定されている。これにより、各液室5Bにおいて各第2の温調部19Bでインクに付与する熱量を小さくすることができ、各ノズル7より吐出させるインクを短時間で第2の目標温度に調整することができる。したがって、基板に形成される各膜の形状をより均一な状態に近づけることができる。
なお、本第3実施形態では、各インクジェットヘッド1B,1C,1Dが上記第2実施形態のインクジェットヘッド1Aと同様の構成の場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、各インクジェットヘッド1B,1C,1Dが上記第1実施形態のインクジェットヘッド1と同様の構成の場合についても適用可能である。
また、上記第1〜第3実施形態では、第1の温調部及び第2の温調部がペルチェ素子である場合について説明したが、加熱または冷却、あるいはその両方が可能なものであれば、その種類を限定する趣旨のものではない。
[実施例1]
本実施例1におけるインクジェットヘッド1を含むインクジェット描画装置100は、図8に示すような、本第1実施形態のインクジェット描画装置に対応するものであり、図示を簡略化している。本実施例1では、ガラス基板上にドットパターンを成膜した。インクジェットヘッド1は、圧電式のものを用い、有機パラジウム含有溶液(奥野製薬(株)製、CCP−4230)をガラス基板上に描画した。そして、図9(a)に示すように、ドット径が60μm、走査方向のドット間ピッチDyが200μm、走査方向と直交する方向のドット間ピッチDxが150μmとなるように走査方向に200ドット、走査方向と直交する方向に30ドットの描画を行った。
分岐流路13a,13b,13c(13)は、液室5a,5b,5c(5)に接続されていて、分岐流路13を流れるインクは、第1の温調部15a,15b,15c(15)であるペルチェ素子により温調される。各分岐流路13のインクの温度は、第1の温度センサ17a,17b,17c(17)により検出される。液室5内のインクは、第2の温調部19a,19b,19c(19)であるペルチェ素子によって温調され、他の液室のインクと混合することはない。各液室5内のインクの温度は、第2の温度センサ21a,21b,21c(21)により検出される。
本実施例1では、第1の温調部15a,15cの出力をインク温度が第1の目標温度の値として30℃に設定し、第1の温調部15bの出力をインク温度が第1の目標温度の値として45℃に設定した。また、第2の温調部19a,19cの出力をインク温度が第2の目標温度の値として30℃に設定し、第2の温調部19bの出力をインク温度が第2の目標温度の値として45℃に設定した。つまり、インクジェットヘッドのノズル列方向における中心位置のインク温度を、ノズル列方向における端部の温度より15℃高く設定した。
この場合の、インクジェットヘッド走査方向と直交する方向の着弾ドットの形状均一性を検証するために、以下の(1)〜(4)の場合について走査方向に直交する方向のドット形状を評価した。
(1)インク温調を行わずに描画した場合
(2)インクジェットヘッド1でのみインク温調を行った場合
(3)分岐流路13でのみインク温調を行った場合
(4)インクジェットヘッド1と分岐流路13との両方でインク温調を行った場合
乾燥後のドット形状は、表面の凹凸状態によって評価した。具体的には、ドット中心部の反射光強度をドット端部の反射光強度で除した値を膜厚比と定義しその数値を比較した。その結果は次表に示す通りであった。
なお、本実施例1における目標とする膜厚比は0.80程度である。表1から明らかなように、インク温調を行わない場合には膜厚比のばらつきが0.40と大きい。これに対し、インク温調を行うと膜厚比のばらつきが小さくなることがわかる。インクジェットヘッド1と分岐流路13の両方を、ヘッドのノズル列方向における中心位置のインク温度を端部のインク温度に対して15℃高く設定した場合には、膜厚比のばらつきは50%低減し0.20となる。
ただし分岐流路13では温調を行わず、インクジェットヘッド1のみでノズル列方向における中心位置のインク温度を端部のインク温度に対して15℃高く設定した場合には、膜厚比のばらつきは0.36と10%の改善に留まった。同様に分岐流路13のみでノズル列方向における中心位置のインク温度を端部のインク温度に対して15℃高く設定した場合には、膜厚比のばらつきは0.35となり12.5%の改善に留まった。
このことから、インクジェットヘッド1のノズル列方向における中心位置のインク温度を端部のインク温度より高くすることによって、乾燥後の膜形状の均一性が高められることが実証された。この効果はインクジェットヘッド1もしくは分岐流路13単体での温度制御でなく、インクジェットヘッド1と分岐流路13の双方において温度制御を行うことでより高く発揮される。
以上の内容より、インクジェットによるドット描画において描画ドットの走査方向と直交する方向のドット形状均一性を高める方法として、本実施例1に対応する第1実施形態のインクジェット描画装置100の有効性が確認された。
なお、本実施例1では、目標とする膜厚比を0.80としたが、膜厚比の目標値は目的とする素子の機能や膜形成後のプロセスによって異なり、その際には、第1の目標温度、第2の目標温度を適するように設定すればよい。膜厚比の目標値を別の値に設定する場合、第1の目標温度及び第2の目標温度の値を変更し、乾燥速度を制御する他、インクの組成や雰囲気の温湿度、基板温度の調整によって制御することが可能である。
[実施例2]
本実施例2におけるインクジェットヘッドを含むインクジェット描画装置は、図6に示す本第2実施形態のインクジェット描画装置100Aに対応するものである。本実施例2では、ガラス基板上にドットパターンを成膜した。
インクジェットヘッド1Aは、圧電式のものを用い、有機パラジウム含有溶液(奥野製薬(株)製、CCP−4230)をガラス基板上に描画した。そして、図9(b)に示すように、ドット径が60μm、走査方向のドット間ピッチDyが200μm、走査方向と直交する方向のドット間ピッチDxが300μmとなるように走査方向に200ドット、走査方向と直交する方向に15ドットの描画を行った。
本実施例2においては、流路13Aの第1の温調部15Aの出力を、インク温度が第1の目標温度の値として30℃に設定した。また、第2の温調部19a,19cの出力をインク温度が第2の目標温度の値として30℃に設定し、第2の温調部19bの出力をインク温度が第2の目標温度の値として45℃に設定した。つまり、インクジェットヘッドのノズル列方向における中心位置のインク温度を、ノズル列方向における端部の温度より15℃高く設定した。
この場合の、インクジェットヘッド走査方向と直交する方向の着弾ドットの形状均一性を検証するために、以下の(1)〜(4)の場合について走査方向に直交する方向のドット形状を評価した。
(1)インク温調を行わずに描画した場合
(2)インクジェットヘッド1Aでのみインク温調を行った場合
(3)流路13Aでのみインク温調を行った場合
(4)インクジェットヘッド1と流路13Aとの両方でインク温調を行った場合
乾燥後のドット形状は、表面の凹凸状態によって評価した。具体的には、ドット中心部の反射光強度をドット端部の反射光強度で除した値を膜厚比と定義しその数値を比較した。その結果は次表に示す通りであった。
なお、本実施例2における目標とする膜厚比は0.80程度である。表2から明らかなように、インク温調を行わない場合には膜厚比のばらつきが0.32と大きい。これに対しインク温調を行うと膜厚比のばらつきが小さくなることがわかる。インクジェットヘッド1Aをヘッドのノズル列方向における中心位置のインク温度を端部のインク温度に対して15℃高く設定し、流路13Aの温度を30℃に設定した場合には、膜厚比のばらつきは約22%低減し0.25となる。
ただし流路13Aでは温調を行わず、ヘッド1Aのみでノズル列方向における中心位置のインク温度を端部のインク温度に対して15℃高く設定した場合には、膜厚比のばらつきは0.30と6%の改善に留まった。また、流路13Aのみを30℃に温調し、インクジェットヘッド1Aにおいては何ら温調を行わなかった場合には、膜厚比のばらつきは0.32と改善効果がないことがわかった。
実施例1に比べて全体的に膜厚比のばらつきが小さいのは、実施例1で描画したドットパターンより疎なパターンを描画したためである。隣接ドットからの溶媒蒸発の影響を受けにくく、乾燥速度のばらつきが小さくなっているものと考えられる。反面、膜厚比のばらつき改善幅が実施例1に比べて小さいのは、流路13Aを単一としたためインクジェットヘッド1A内でインク温度が平均化し、実際に吐出されたインク滴の間に15℃の温度差が生じていなかったためであると考えられる。
このことから、インクジェットヘッド1Aのノズル列方向における中心位置のインク温度を端部のインク温度より高くすることによって乾燥後の膜形状の均一性が高められることが実証された。この効果はインクジェットヘッド1Aもしくは流路13A単体での温度制御でなく、インクジェットヘッド1Aと流路13Aの双方において温度制御を行うことでより高く発揮される。
以上の内容より、インクジェットによるドット描画において描画ドットの走査方向と直交する方向のドット形状均一性を高める方法として、本実施例2に対応する第2実施形態のインクジェット描画装置100Aの有効性が確認された。
なお、本実施例2では、目標とする膜厚比を0.80としたが、膜厚比の目標値は目的とする素子の機能や膜形成後のプロセスによって異なり、その際には、第1の目標温度、第2の目標温度を適するように設定すればよい。膜厚比の目標値を別の値に設定する場合、第1の目標温度及び第2の目標温度の値を変更し、乾燥速度を制御する他、インクの組成や雰囲気の温湿度、基板温度の調整によって制御することが可能である。