JP5592676B2 - 炭素繊維製造用アクリル繊維油剤、炭素繊維製造用アクリル繊維および炭素繊維の製造方法 - Google Patents

炭素繊維製造用アクリル繊維油剤、炭素繊維製造用アクリル繊維および炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、強度の優れた炭素繊維を提供するための炭素繊維製造用アクリル繊維油剤、炭素繊維製造用アクリル繊維および炭素繊維の製造方法に関する。より詳しくは、炭素繊維製造用アクリル繊維(以下、プレカーサーと称することがある)を製造する際に使用することで、優れた強度が得られる炭素繊維製造用アクリル繊維油剤(以下、プレカーサー油剤と称することがある)、該油剤を付与させて製糸した炭素繊維製造用アクリル繊維、および該油剤を用いた炭素繊維の製造方法に関する。
炭素繊維はその優れた機械的特性を利用して、マトリックス樹脂と称されるプラスチックとの複合材料用の補強繊維として、航空宇宙用途、スポーツ用途、一般産業用途等に幅広く利用されている。
炭素繊維を製造する方法としては、まずプレカーサーを製造する(このプレカーサーの製造工程を製糸工程と称することがある)。このプレカーサーを200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換し(この工程を以下、耐炎化工程と称することがある)、続いて300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭素化する(この工程を以下、炭素化工程と称することがある)方法が一般的である(以下、耐炎化工程と炭素化工程をあわせて、焼成工程と称することがある)。このプレカーサーの製造には通常のアクリル繊維と比較しても高倍率に延伸される延伸工程を経る。その際、繊維同士の膠着が起こり易く、均一に高倍率延伸が行われない為に、不均一なプレカーサーとなる。また、ローラー(特に乾燥を行う熱ローラー)に汚れが蓄積し、この蓄積物がプレカーサーにダメージを与えることや、蓄積物がプレカーサー上に脱落してしまうことがある。この様なプレカーサーを焼成して得られる炭素繊維は十分な強度が得られないという問題がある。また、プレカーサーの焼成時には、単繊維同士の融着が発生し、得られた炭素繊維の強度を低下させるという問題がある。
プレカーサーの膠着防止、炭素繊維の融着防止の為、湿潤時および高温環境下で繊維−繊維間摩擦が低く、優れた剥離性を有するシリコーン系油剤をプレカーサーに付与する技術が多数提案されている。これらシリコーン系油剤のなかでも、アミノ変性シリコーン系油剤は、焼成時に架橋反応が促進される為により耐熱性が優れ、炭素繊維の融着防止性に優れ、高品質な炭素繊維が得られやすいという理由で工業的に広く利用されている(特許文献1、2参照)。
一般的に利用されているアミノ変性シリコーン系油剤は、アミノ変性シリコーンオイルを水系エマルジョン化したものである。自己乳化型のアミノ変性シリコーンでない場合は、界面活性剤を用いて水系エマルジョン化が行われる。この水系エマルジョンをプレカーサー繊維に付与するため、付与後に水分を除去する必要があり、乾燥工程を通過させる必要がある。その後、さらに延伸工程で熱延伸が行われ、高倍率に延伸されたプレカーサー繊維が得られる。アミノ変性シリコーンは、その優れた熱架橋性のために、乾燥工程や延伸工程における熱ローラーでも架橋が促進され、ローラー汚れ(以後ガムアップを称することがある)が蓄積し易く、その清掃の為に操業性が低下するという問題が起こり易い。
この様な問題に対して、例えば、特許文献3のようなガムアップを抑制できるとする油剤組成が提案されている。しかし、これらアミノ変性シリコーン系油剤であっても、十分な強度を有する炭素繊維が得られず、さらに油剤エマルジョン溶液の経時安定性が悪く、長時間安定してプレカーサー繊維束に均一付与することが困難であるという問題があった。
特開昭60−181322号公報 特開2001−172879号公報 特開平2−91224号公報
かかる従来の技術背景に鑑み、本発明の目的は、優れた炭素繊維強度を得ることができ、溶液安定性が良好な炭素繊維製造用アクリル繊維油剤、炭素繊維製造用アクリル繊維および炭素繊維の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、十分な強度の炭素繊維が得られないのは、乾燥工程や延伸工程でアミノ変性シリコーンの架橋が進行し、高分子量化して高粘度化し、最終的に固化すなわち皮膜化してしまうためであることをつきとめた。さらに、飽和直鎖型脂肪酸のような結晶性が強く固化しやすい成分を含有することも原因であることをつきとめた。即ち、プレカーサー繊維束がアミノ変性シリコーンの皮膜で固められた状態となったり、単繊維同士が固化しやすい成分によって部分的に固められた状態となることによって、均一な引き揃え性が低下する為に均一延伸が阻害され、更には延伸後の巻取り工程に於いても繊維束の引き揃え性が低下し、高強度の炭素繊維が得られないことをつきとめた。
そして、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーンと分岐鎖脂肪酸を所定の割合で必須に含有する炭素繊維製造用アクリル繊維油剤であれば、優れた溶液安定性を有する上に、プレカーサー繊維束の引き揃え性低下を抑制することができ、均一なプレカーサー繊維束を製造できる為、優れた強度を有する炭素繊維を製造できることを見出した。
すなわち本発明は、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーンと分岐鎖脂肪酸を必須に含有する炭素繊維製造用アクリル繊維油剤(プレカーサー油剤)であって、前記分岐鎖脂肪酸の含有量が前記変性シリコーンの窒素原子のモル数に対して0.1〜2.5当量である、炭素繊維製造用アクリル繊維油剤である。
前記変性シリコーンにおける窒素原子の含有量は0.1〜3.5重量%であることが好ましい。
また、油剤の不揮発成分全体に占める前記変性シリコーンの重量割合は60〜95重量%であり、かつ前記変性シリコーンと前記分岐鎖脂肪酸の重量比が60/40〜99/1であることが好ましい。
前記分岐鎖脂肪酸は、炭素数が12〜31の飽和分岐鎖脂肪酸であることが好ましい。また、前記変性シリコーンは、アミノ変性シリコーンであることが好ましい。
また、本発明にかかる炭素繊維製造用アクリル繊維油剤は、水中に分散したエマルジョンとなっていることが好ましい。
また、本発明にかかる炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)は、炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に、上記の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤を付着させて製糸したものである。
また、本発明にかかる炭素繊維の製造方法は、炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に上記の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤(プレカーサー油剤)を付着させて、炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)を製造する製糸工程と、その製糸工程で製造された炭素繊維製造用アクリル繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程とを含む製造方法である。
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤は、溶液安定性に優れ、炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に付着させて処理することによって、均一な炭素繊維製造用アクリル繊維を効率よく製造でき、また、炭素繊維製造における耐炎化処理工程および炭素化処理工程などの焼成工程で焼成斑を防止し、炭素繊維の強度を向上させることができる。また、本発明の炭素繊維の製造方法では、この炭素繊維製造用アクリル繊維油剤を付着させるので、高強度の炭素繊維を安定して製造できる。
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤(プレカーサー油剤)は、炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)を製造する工程で、均一なプレカーサー繊維束を製造する為に、延伸工程前にプレカーサーの原料アクリル繊維に付与することを第一の目的とした油剤である。
本発明は、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーンと分岐鎖脂肪酸を所定の割合で必須に含有するプレカーサー油剤であり、このような構成により安定な油剤エマルジョンを得ることができ、さらにプレカーサー繊維束の均一引き揃え性を向上させることができる。また、安定な油剤エマルジョンが得られるばかりでなく、乾燥、延伸工程での油剤ガムアップも抑制できることから、長時間、安定な操業を行うことができる。従って、操業効率がよく、均一なプレカーサー繊維束を焼成工程におくることができる。さらにこの分岐鎖脂肪酸成分は焼成工程でのアミノ変性シリコーンの架橋は阻害しないため、繊維同士の融着を十分抑制することができる。つまり、本発明により、操業効率良く、且つ高強度の炭素繊維を得ることができる。以下に詳細に説明する。
〔窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン〕
本発明のプレカーサー油剤は、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(A)を必須に含有する。窒素原子を含む変性基であれば変性基の種類は特に限定されない。窒素原子を含む変性基としては、アミノ結合やイミノ結合を含有する変性基(即ち、アミノ基)や、アミド結合を含有する変性基(即ち、アミド基)などが挙げられ、アミノ結合とアミド結合など異なる結合が複数存在する変性基でもよい。窒素原子を含む変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、また両方と結合していてもよい。また、分子中にポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等)を有していてもよい。
窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(A)としては、例えば、アミノ変性シリコーンやアミノポリエーテル変性シリコーン、アマイド変性シリコーン、アマイドポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられ、一種類の変性シリコーンを用いてもよいし、複数の変性シリコーンを併用してもよい。また、変性シリコーンにおける窒素原子の含有量は、0.1〜3.5重量%であることが好ましい。窒素原子の含有量が0.1%より低いと、架橋性が劣り、十分な耐熱性が得られない場合がある。また、3.5重量%より高い場合は、変性シリコーンの粘着性が高くなり、ガムアップの原因となってしまう場合がある。
これらの窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(A)の中でも、架橋性に優れ、焼成工程でより耐熱性が優れる理由から、アミノ変性シリコーンやアミノポリエーテル変性シリコーンが好ましい。更に経時安定性にも優れるという観点からアミノ変性シリコーンが特に好ましい。
〔アミノ変性シリコーン〕
変性シリコーン(A)がアミノ変性シリコーンである場合、そのアミノ変性シリコーンの構造は特に限定されるものではない。即ち、変性基であるアミノ基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、また両方と結合していてもよい。また、そのアミノ基は、モノアミン型であってもポリアミン型であってもよく、1分子中に両者が併存していてもよい。
アミノ変性シリコーンにおけるアミノ基(NH)の含有量(以下、「アミノ重量%」という)は、0.1〜4.0重量%が好ましく、0.3〜1.5重量%がより好ましく、0.4〜0.8%が更に好ましい。アミノ重量%が0.1重量%より低いと、架橋性が劣り、十分な耐熱性が得られない場合がある。また、4.0重量%より高い場合は、アミノ変性シリコーンの粘着性が高くなり、ガムアップの原因となってしまう場合がある。
アミノ変性シリコーンの25℃における粘度については、特に限定はないが、低粘度過ぎると油剤の飛散や、焼成工程での耐熱性不足による熱揮散が原因で、繊維の融着を防止できないことが問題となることがある。また逆に高粘度すぎると、粘着性に起因するガムアップが問題となることがある。これらの問題を防止する観点から、アミノ変性シリコーンの25℃での粘度は、100〜15,000mm/sが好ましく、500〜10,000mm/sがさらに好ましく、1,000〜5,000mm/sが特に好ましい。
〔分岐鎖脂肪酸〕
本発明のプレカーサー油剤は、分岐鎖脂肪酸(B)を必須に含有するものである。分岐鎖脂肪酸とは、カルボキシル基を有する化合物で、カルボキシル基を除く原子団が、少なくとも1つ以上の分岐をもつ炭化水素基である化合物をいう。分岐鎖脂肪酸(B)を含有することにより、安定な油剤エマルジョンを得ることができ、さらに窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(A)の窒素原子との相互作用によって変性シリコーンの架橋を抑制できる。例えば、アミノ変性シリコーンであれば、アミノ基を分岐鎖脂肪酸(B)によって中和することによって、アミノ基の反応性を低下させ、変性シリコーンの架橋を抑制でき、皮膜化を抑制することができる。その為、繊維束の引き揃え性を向上させることができる。直鎖型の脂肪酸では、安定な油剤エマルジョンを得る事が困難となる。また、直鎖型の脂肪酸の中でも特に飽和直鎖型の脂肪酸は結晶性が高く固化しやすいものが多い。この様な飽和直鎖型の脂肪酸を用いた場合、繊維束の引き揃え性を向上させることが困難となる。
分岐鎖脂肪酸(B)は、炭素数が12〜31の飽和分岐鎖脂肪酸が好ましい。炭素数が12未満の場合、乾燥工程や延伸工程でプレカーサー繊維が受ける温度領域で揮発してしまうおそれがあり、十分な架橋抑制効果が得られず、繊維束の引き揃え性を向上させる効果が十分でない場合がある。
一方、炭素数が31超の場合、十分安定な油剤エマルジョンが得られにくい場合がある。また、焼成工程の初期段階で分岐鎖脂肪酸の揮発し難いため、焼成工程での変性シリコーンの架橋を阻害し、十分な耐熱性が得られない場合がある。
また、不飽和アルキル型の分岐鎖脂肪酸では、不飽和結合部分の重合が起こりやすく、ガムアップが起こり易くなる場合がある。
炭素数12〜31の飽和分岐鎖脂肪酸としては、例えば、炭素数12のイソドデカン酸(イソラウリン酸)、炭素数13のイソトリデカン酸(イソトリデシル酸)、炭素数14のイソテトラデカン酸(イソミリスチン酸)、炭素数15のイソペンタデカン酸(イソペンタデシル酸)、炭素数16のイソヘキサデカン酸(イソパルミチン酸)、炭素数17のイソヘプタデカン酸(イソマルガリン酸)、炭素数18のイソオクタデカン酸(イソステアリン酸)、炭素数19のイソナノデカン酸(イソナノデシル酸)、炭素数20のイソイコサ酸(イソアラキン酸)、炭素数21のイソヘンイコサ酸、炭素数22のイソドコサ酸、炭素数23のイソトリコサ酸、炭素数24のイソテトラコサ酸、炭素数25のイソペンタコサ酸、炭素数26のイソペンタコサ酸、炭素数27のイソヘプタコサ酸、炭素数28のイソオクタコサ酸、炭素数29のイソノナコサ酸、炭素数30のイソトリアコンタ酸、炭素数31のイソヘントリアコンタ酸などが挙げられる。
これらの飽和分岐鎖脂肪酸の中でも、上述した適度な熱揮発性と良好な乳化安定性の観点から、炭素数14〜22のものが好ましく、炭素数15〜20のものがより好ましく、炭素数16〜19のものが更に好ましい。
[変性シリコーン(A)と分岐鎖脂肪酸(B)の含有割合]
分岐鎖脂肪酸(B)の含有量としては、前述の変性シリコーン(A)の窒素原子のモル数に対して、0.1〜2.5当量である。0.1当量未満であると、変性シリコーン(A)の架橋抑制の効果がなく、繊維束の引き揃え性向上の効果が得られない。また、2.5当量より多くなると架橋抑制効果が大きすぎ、焼成工程での架橋反応が遅れてしまい、焼成工程で十分な融着防止効果が得られない。また、2.5当量より多くなると変性シリコーンの乳化も困難となる。架橋抑制の有効な効果範囲と乳化安定性を考慮する観点から、分岐鎖脂肪酸(B)の含有量は、0.25〜2.0当量が好ましく、0.5〜1.5当量がさらに好ましい。
油剤の不揮発成分全体に占める前記変性シリコーン(A)の重量割合は、60〜95重量%であることが好ましく、65〜90重量%であることがより好ましく、70〜85重量%であることがさらに好ましい。油剤不揮発成分全体に占める変性シリコーン(A)の重量割合が60重量%未満の場合、焼成工程での融着防止効果が劣り高強度の炭素繊維が得られ難い場合がある。また、油剤不揮発成分全体に占める変性シリコーン(A)の重量割合が95重量%超の場合、水系乳化が困難となり、安定な溶液が得られ難い場合がある。なお、本発明において不揮発成分とは、油剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分を意味する。
また、変性シリコーン(A)と分岐鎖脂肪酸(B)との重量比(A/B)は、60/40〜99/1であることが好ましく、70/30〜97/3であることがより好ましく、80/20〜95/5であることがさらに好ましい。変性シリコーン(A)と分岐鎖脂肪酸(B)との重量比(A/B)が99/1超の場合、乾燥工程で十分な架橋抑制効果が得られず、ガムアップの抑制や繊維束の引き揃え性向上の効果が得られ難い場合がある。また、変性シリコーン(A)と分岐鎖脂肪酸(B)との重量比(A/B)が60/40未満の場合、水系乳化が困難となり、安定な溶液が得られ難い場合がある。
〔プレカーサー油剤〕
本発明のプレカーサー油剤は、上記で説明した必須成分を上記で説明した比率で含有するものである。また、本発明のプレカーサー油剤は水系乳化できることが好ましく、そのために界面活性剤を含有していることが好ましい。界面活性剤は非イオン性界面活性剤でもよく、アニオン性界面活性剤でもよく、カチオン性界面活性剤でもよく、両性界面活性剤でもよい。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテル;ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第一級アルキルエーテル;ポリオキシエチレン1−ヘキシルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−オクチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−ヘキシルオクチルエーテル、ポリオキシエチレン1−ペンチルへプチルエーテル、ポリオキシエチレン1−へプチルペンチルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第二級アルキルエーテル;ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルケニルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニル、ポリオキシエチレンジベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンジミリスチレート、ポリオキシエチレンジステアレート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレート等のソルビタンエステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンひまし油エーテル等のポリオキシアルキレンひまし油エーテル;ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル等のポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端アルキルエーテル化物;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端ショ糖エーテル化物;等を挙げることができる。
これら非イオン性界面活性剤の中でも、シリコーン化合物の水系乳化力に特に優れるという理由で、ポリオキシアルキレン分岐第一級アルキルエーテル、ポリオキシアルキレン分岐第二級アルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体の末端アルキルエーテル化物が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム塩、パルミチン酸カリウム塩、オレイン酸トリエタノールアミン塩等の脂肪酸塩;ヒドロキシ酢酸カリウム塩、乳酸カリウム塩等のヒドロキシル基含有カルボン酸塩;ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム塩等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩;トリメリット酸カリウム、ピロメリット酸カリウム等のカルボキシル基多置換芳香族化合物の塩;ドデシルベンゼンスルホン酸(ナトリウム塩)等のアルキルベンゼンスルホン酸(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルスルホン酸(カリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸(塩);ステアロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ラウロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ミリストイルメチルタウリンN(ナトリウム)、パルミトイルメチルタウリン(ナトリウム)等の高級脂肪酸アミドスルホン酸(塩);ラウロイルサルコシン酸(ナトリウム)等のN−アシルサルコシン酸(塩);オクチルホスホネート(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸(塩); フェニルホスホネート(カリウム塩)等の芳香族ホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルホスホネートモノ2−エチルヘキシルエステル(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸アルキル燐酸エステル(塩);アミノエチルホスホン酸(ジエタノールアミン塩)等の含窒素アルキルホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルサルフェート(ナトリウム塩)等のアルキル硫酸エステル(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルサルフェート(ナトリウム塩)等のポリオキシアルキレン硫酸エステル(塩);ラウリルホスフェート(カリウム塩)、セチルホスフェート(カリウム塩)、ステアリルホスフェート(ジエタノールアミン塩)等のアルキル燐酸エステル(塩);ポリオキシエチレンラウリルエーテルホスフェート(カリウム塩)、ポリオキシエチレンオレイルエーテルホスフェート(トリエタノールアミン塩)等のポリオキシアルキレンアルキル(アルケニル)エーテル燐酸エステル(塩);ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルホスフェート(カリウム塩)、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルホスフェート(カリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル(塩);ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウムモノナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ジナトリウム等の長鎖N−アシルグルタミン酸塩;等を挙げることができる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等の第4級アンモニウム塩;(ポリオキシエチレン)ラウリルアミノエーテル乳酸塩、ステアリルアミノエーテル乳酸塩、(ポリオキシエチレン)ラウリルアミノエーテルトリメチルホスフェート塩等の(ポリオキシアルキレン)アルキルアミノエーテル塩等;を挙げることができる。
両性界面活性剤としては、例えば、2−ウンデシル−N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)−2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤;2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等のベタイン系両性界面活性剤;N−ラウリルグリシン、N−ラウリルβ−アラニン、N−ステアリルβ−アラニン等のアミノ酸型両性界面活性剤等を挙げることができる。
これらの界面活性剤のなかでも、イオン性を持つ界面活性剤は乳化後の経時変化が起こる場合があり、またシリコーンの架橋性にも影響を与える場合がある。その為、経時安定性に優れ、シリコーン架橋性への影響も少なく、更にはシリコーンの乳化力にも優れるという理由から、非イオン性界面活性剤が好ましい。
本発明のプレカーサー油剤において、油剤の不揮発分全体に占める界面活性剤の重量割合は、乳化剤として使用したときのエマルジョンの乳化安定性と油剤の耐熱性維持の観点から、5〜35重量%であり、10〜30重量%がより好ましく、さらに15〜25重量%が好ましい。不揮発分全体に占める界面活性剤の重量割合が5重量%未満となると、良好な乳化安定性が得られにくく、また、35重量%を超えると、油剤の耐熱性が不足し、焼成工程における融着防止性が得られにくい。
本発明のプレカーサー油剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記変性シリコーン(A)以外のシリコーン成分を含有してもよい。具体的には、ジメチルシリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーン(ポリエーテル変性シリコーン)、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、メタクリレート変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン等が挙げられる。
また、本発明のプレカーサー油剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記の分岐鎖脂肪酸以外の脂肪酸または低級アルキルカルボン酸を含有してもよい。
本発明のプレカーサー油剤はさらに上記した成分以外にも、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系、キノン系等の酸化防止剤;高級アルコール・高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルの燐酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤、アミン塩型カチオン系界面活性剤等の制電剤;高級アルコールのアルキルエステル、高級アルコールエーテル、ワックス類等の平滑剤;抗菌剤;防腐剤;防錆剤;および吸湿剤等を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。
プレカーサー油剤は、不揮発分のみからなる上述の成分で構成されていてもよいが、繊維への均一な付着性および作業環境の安全性の面からは、乳化剤として界面活性剤を含み、水に乳化または分散させて、水中に分散したエマルジョンとなっている状態が好ましい。
本発明のプレカーサー油剤が水を含む場合、プレカーサー油剤全体に占める水の重量割合、不揮発分の重量割合については、特に限定はなく、たとえば、本発明のプレカーサー油剤を輸送する際の輸送コストや、エマルジョン粘度に因るところの取扱い性等を考慮して適宜決定すればよい。プレカーサー油剤全体に占める水の重量割合は、好ましくは0.1〜99.9重量%、さらに好ましくは10〜99.5重量%、特に好ましくは50〜99重量%である。プレカーサー油剤全体に占める不揮発分の重量割合(濃度)は、好ましくは0.01〜99.9重量%、さらに好ましくは0.5〜90重量%、特に好ましくは1〜50重量%である。
本発明のプレカーサー油剤は、上記で説明した成分を混合することによって製造することができる。特に、プレカーサー油剤が水中で乳化または分散させた状態の組成物である場合、上記で説明した成分を乳化・分散させる方法については特に限定されず、公知の手法が採用できる。このような方法としては、たとえば、プレカーサー油剤を構成する各成分を攪拌下の温水中に投入して乳化分散する方法や、プレカーサー油剤を構成する各成分を混合し、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法等が挙げられる。
また、本発明のプレカーサー油剤を用いて、プレカーサーおよび炭素繊維を製造することができる。本発明のプレカーサー油剤を用いたプレカーサーおよび炭素繊維の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、以下の製造方法を挙げることができる。
〔プレカーサーおよび炭素繊維の製造方法〕
本発明の炭素繊維の製造方法は、製糸工程と耐炎化処理工程と炭素化処理工程とを含む。本発明のプレカーサーは、この製糸工程で得られるものである。
製糸工程は、炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)の原料アクリル繊維に上記炭素繊維製造用アクリル繊維油剤(プレカーサー油剤)を付着させてプレカーサーを製造する工程であり、付着処理工程と延伸工程とを含む。
付着処理工程は、プレカーサーの原料アクリル繊維を紡糸した後、プレカーサー油剤を付着させる工程である。つまり、付着処理工程でプレカーサーの原料アクリル繊維にプレカーサー油剤を付着させる。またこのプレカーサーの原料アクリル繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。延伸工程は高温水蒸気をもちいた湿熱延伸法でもよいし、熱ローラーをもちいた乾熱延伸法でもよい。
プレカーサーは、少なくとも95モル%以上のアクリロニトリルと、5モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維から構成される。耐炎化促進成分としては、アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。プレカーサーの単繊維繊度については、特に限定はないが、性能と製造コストのバランスから、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、プレカーサーの繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能と製造コストのバランスから、好ましくは1,000〜96,000本である。
プレカーサー油剤は、製糸工程のどの段階でプレカーサーの原料アクリル繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。延伸工程前の段階であればどの段階でも、例えば紡糸直後に付着させてもよい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよく、例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化工程の直前に再度付着させてもよい。その付着方法に関しては、プレカーサー油剤が不揮発分のみからなる場合は、ストレートオイルとしてローラー等を使用して付着してもよいし、プレカーサー油剤が水や有機溶剤等の溶媒中に乳化または分散させたエマルジョンの場合は、浸漬法、スプレー法等で付着してもよい。
付着処理工程において、プレカーサー油剤の付与率は、繊維−繊維間の膠着防止効果や融着防止効果を得ることと、炭素化処理工程において油剤のタール化物によって炭素繊維の品質低下を防止することとのバランスからは、プレカーサーの重量に対して好ましくは0.1〜2重量%であり、さらに好ましくは0.3〜1.5重量%である。プレカーサー油剤の付与率が0.1重量%未満であると、単繊維間の膠着、融着を十分に防止できず、得られる炭素繊維の強度が低下することがある。一方、プレカーサー油剤の付与率が2重量%超であると、プレカーサー油剤が単繊維間を必要以上に覆うため、耐炎化処理工程において繊維への酸素の供給が妨げられ、得られる炭素繊維の強度が低下することがある。なお、ここでいうプレカーサー油剤の付与率とは、プレカーサー重量に対するプレカーサー油剤の付着した不揮発分重量の百分率で定義される。
耐炎化処理工程は、プレカーサー油剤が付着したプレカーサーを200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する工程である。酸化性雰囲気とは、通常、空気雰囲気であればよい。酸化性雰囲気の温度は好ましくは230〜280℃である。耐炎化処理工程では、付着処理後のアクリル繊維に対して、延伸比0.90〜1.10(好ましくは0.95〜1.05)の張力をかけながら、20〜100分間(好ましくは30〜60分間)にわたって熱処理が行われる。この耐炎化処理では、分子内環化および環への酸素付加を経て、耐炎化構造を持つ耐炎化繊維が製造される。
炭素化処理工程は、耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる工程である。炭素化処理工程では、まず、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中、300℃から800℃まで温度勾配を有する焼成炉で、耐炎化繊維に対して、延伸比0.95〜1.15の張力をかけながら、数分間熱処理して、予備炭素化処理工程(第一炭素化処理工程)を行うのが好ましい。その後、より炭素化を進行させ、且つグラファイト化を進行させるために、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中で、第一炭素化処理工程に対して延伸比0.95〜1.05の張力をかけながら、数分間熱処理して、第二炭素化処理工程を行い、耐炎化繊維が炭素化される。第二炭素化処理工程における熱処理温度の制御については、温度勾配をかけながら、最高温度を1000℃以上(好ましくは1000〜2000℃)とすることがよい。この最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性(引張強度、弾性率等)に応じて適宜選択して決定される。
本発明の炭素繊維の製造方法では、弾性率がさらに高い炭素繊維が所望される場合は、炭素化処理工程に引き続いて、黒鉛化処理工程を行うこともできる。黒鉛化処理工程は、通常、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中、炭素化処理工程で得られた繊維に対して張力をかけながら、2000〜3000℃の温度で行われる。
このようにして得られた炭素繊維には、目的に応じて、複合材料とした時のマトリックス樹脂との接着強度を高めるための表面処理を行うことができる。表面処理方法としては、気相または液相処理を採用でき、生産性の観点からは、酸、アルカリなどの電解液による液相処理が好ましい。さらに、炭素繊維の加工性、取り扱い性を向上させるために、マトリックス樹脂に対して相溶性の優れる各種サイジング剤を付与することもできる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)は特に限定しない限り、「重量%」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
<油剤の付与率>
油剤付与後のプレカーサーを水酸化カリウム/ナトリウムブチラートでアルカリ溶融した後、水に溶解して塩酸でpH1に調整した。これを亜硫酸ナトリウムとモリブデン酸アンモニウムを加えて発色させ、ケイモリブデンブルーの比色定量(波長815mμ)を行い、ケイ素の含有量を求めた。ここで求めたケイ素含有量と予め同法で求めた油剤中のケイ素含有量の値を用いて、プレカーサー油剤の付与率を算出した。
<溶液安定性>
不揮発分濃度が3.0重量%である各油剤エマルジョンを50℃に調節された恒温槽で保管し、溶液の外観を目視で確認し、下記の評価基準で溶液安定性を判定した。
◎ :60日間分離無し
○ :30日間分離無し、60日以内には分離
△ :7日間分離無し、30日以内に分離
× :7日間以内に分離
××:乳化当日に分離、または乳化できない
<プレカーサー繊維束の均一引き揃え性>
プレカーサー製糸工程中の、延伸工程の入り口、出口、延伸工程後の巻取り時、解舒時、および耐炎化工程での耐炎化炉の入り口、出口において、繊維束の引き揃い度合いを観察し、総合して下記の評価基準で目視判定した。
◎:均一な太さの繊維束で、単繊維のバラケも全く見られない
○:均一な太さの繊維束で、単繊維のバラケもほぼ見られない
△:繊維束の太さ斑がややみられるが、単繊維のバラケはほぼ見られない
×:繊維束の太さ斑、単繊維のバラケが見られ、単糸切れも見られる
<耐ガムアップ性>
プレカーサー50kgに油剤を付与した後の乾燥ローラーの汚染度合い(ガムアップ)を下記の評価基準で判定した。
◎ :ガムアップによるローラー汚染が無く、製糸操業性問題無し
○ :ガムアップによるローラー汚染が少なく、製糸操業性問題無し
△ :ガムアップによるローラー汚染がややあるが、製糸操業性問題無し
× :ガムアップによるローラー汚染があり、やや製糸操業性に劣る
××:ガムアップによるローラー汚染が著しく、製糸時に単糸取られ、捲き付きあり
<融着防止性>
炭素繊維から無作為に20カ所を選び、そこから長さ10mmの短繊維を切り出し、その融着状態を観察し、下記の評価基準で判定した。
◎:融着無し
○:ほぼ融着無し
△:融着少ない
×:融着多い
<炭素繊維強度>
JIS−R−7601に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じ測定し、測定回数10回の平均値を炭素繊維強度(GPa)とした。
<成分の説明>
変性シリコーン(A)成分として、下記のシリコーン組成物S−1及びS−2を用いた。また、酸成分として、下記の表1記載の、分岐鎖脂肪酸(B)、直鎖脂肪酸、低級アルキルカルボン酸を用いた。
シリコーン組成物 S−1:ジアミン型アミノ変性シリコーン(25℃粘度:1,300mm/s、アミノ重量%:0.8重量%、窒素原子の含有量:0.7重量%)
シリコーン組成物 S−2:モノアミン型アミノ変性シリコーン(25℃粘度:1,700mm/s、アミノ重量%:0.4重量%、窒素原子の含有量:0.35重量%)
Figure 0005592676
〔実施例1〕
シリコーン組成物S−1に、変性側鎖のアミノ基の窒素原子のモル数に対して0.5当量のイソステアリン酸を添加し、炭素数12〜14、ポリオキシアルキレンの繰り返し単位が5〜12のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを乳化剤として用いて水系乳化し、油剤不揮発成分全体に占めるシリコーン組成物の重量割合が70重量%、イソステアリン酸の重量割合が5重量%(従って、シリコーン組成物とイソステアリン酸の重量比率は93.3:6.7となる)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの重量割合が25重量%となる油剤エマルジョン(プレカーサー油剤)を得た。なお、油剤不揮発分濃度は3.0重量%とした。
この油剤エマルジョンをプレカーサー(単繊維繊度0.8dtex,24,000フィラメント)に付与率1.0%となるように付着し、100〜140℃で乾燥して水分を除去した。この油剤付着後のプレカーサーを250℃の耐炎化炉にて60分間耐炎化処理し次いで窒素雰囲気下300〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換した。各特性値の評価結果を表2に示す。
〔実施例2〜6、比較例1〜6〕
実施例1において、表2、3に示す油剤不揮発成分組成になるように油剤エマルションを調製した以外は実施例1と同様にして、油剤付着後のプレカーサーおよび炭素繊維を得た。各特性値の評価結果を表2、3に示す。
Figure 0005592676
Figure 0005592676
表2、3から明らかなように、比較例と比較して実施例ではいずれもプレカーサー繊維束の引き揃え性が良好であり、また融着防止性にも優れるため、良好な強度の炭素繊維を得ることができた。更に実施例においては耐ガムアップ性が優れる為、製糸操業性にも優れる結果が得られた。

Claims (7)

  1. 窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーンと分岐鎖脂肪酸を必須に含有する炭素繊維製造用アクリル繊維油剤であって、
    前記分岐鎖脂肪酸が、炭素数が12〜31の飽和分岐鎖脂肪酸であり、
    前記分岐鎖脂肪酸の含有量が前記変性シリコーンの窒素原子のモル数に対して0.1〜2.5当量である、炭素繊維製造用アクリル繊維油剤。
  2. 前記変性シリコーンにおける窒素原子の含有量が0.1〜3.5重量%である、請求項1に記載の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤。
  3. 油剤の不揮発成分全体に占める前記変性シリコーンの重量割合が60〜95重量%であり、かつ前記変性シリコーンと前記分岐鎖脂肪酸の重量比が60/40〜99/1である、請求項1または2に記載の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤。
  4. 前記変性シリコーンが、アミノ変性シリコーンである、請求項1〜のいずれかに記載の炭素繊維製造用アクリル繊維用油剤。
  5. 水中に分散したエマルジョンとなっている、請求項1〜のいずれかに記載の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤。
  6. 炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に、請求項1〜のいずれかに記載の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤を付着させて製糸した、炭素繊維製造用アクリル繊維。
  7. 炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に請求項1〜のいずれかに記載の炭素繊維製造用アクリル繊維油剤を付着させて、炭素繊維製造用アクリル繊維を製造する製糸工程と、その製糸工程で製造された炭素繊維製造用アクリル繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程とを含む、炭素繊維の製造方法。
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