以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本願の発明者は、空間に放出する活性化ガスとして、一般的に大気イオンと呼ばれる、プラズマ放電により空気中の酸素及び水蒸気を電離して発生させたイオンが、衣類や布類等の対象物に付着しているニオイに対して消臭効果を有していることを発見した。
このようなイオンを発生させるイオン発生装置は既に実用化されている。このイオン発生装置は、空気中に正イオンであるH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンであるO2 −(H2O)n(nは任意の整数)を発生させる。この正イオンと負イオンは、水素イオン(H+)または酸素イオン(O2 −)の周囲に複数の水分子が付随した形態、いわゆる、クラスターイオンの形態をなしている。
従来のイオン発生装置を搭載した空気清浄機や空気調和機は、空間の浮遊粒子または浮遊細菌に対する不活性化や殺菌の効果を高めるために、空間にイオンを放出する。
しかしながら、従来のイオン発生装置を搭載した空気清浄機では、空気中に放出されるイオンが浮遊細菌を不活性化したり殺菌したりする効果を有する正イオンと負イオンであっても、対象物に付着している付着臭の消臭効果は得られていなかった。これは、イオン発生装置が発生させるイオンの寿命が短いので、空気清浄機や空気調和機から空気中に放出された正イオンと負イオンとが衣類や布類などの表面に到達するイオンの量が少なくなってしまうことが原因である。上述のように、ニオイの元となる物質は衣類や布類に付着しているので、イオンが臭気成分を分解するのに必要な量で衣類や布類に到達しないと、イオンによる消臭効果が得られない。
したがって、衣類や布類に付着したニオイの除去効果を高めるためには、イオン濃度が高い状態で、かつ、イオンを衣類や布類に直接照射することが必要である。このようにすることにより、イオンの作用が顕著に表れて、正イオンと負イオンが臭気成分に及ぼす化学的作用により、ニオイを除去することが可能となる。このように、正イオンと負イオンの衣類や布類に付着したニオイの除去効果を高めるためには、室内の空気の清浄化を行う場合のようにイオンを空間に放出するよりも、むしろ、衣類や布類に正イオンと負イオンとを吹き付ける方が効果的である。
ここで、衣類や布類に付着したニオイに対する上記の正イオンと負イオンの効果について説明する。
イオン発生素子にて発生した正イオンH+(H2O)mと負イオンO2 −(H2O)nの両イオンは、化学反応して活性種である・OH(OHラジカル)またはH2O2を生成する。H2O2または・OHは極めて強力な活性を示すため、衣類や布類に付着したニオイを除去することができる。ここで、・OHは活性種のラジカルのOHを示している。H+(H2O)mとO2 −(H2O)nからのH2O2または・OHの生成は以下の化学式で表される。
H+(H2O)m+O2 −(H2O)n
→ ・OH+(1/2)O2+(m+n)H2O …(1)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2 −(H2O)n+O2 −(H2O)n’
→ 2・OH+O2+(m+m’+n+n’)H2O …(2)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2 −(H2O)n+O2 −(H2O)n’
→ H2O2+O2+(m+m’+n+n’)H2O …(3)
本願の発明者は、これらのイオンが消臭効果を有していることを各種の検証により発見した。以下に、本願の発明者が行ったイオンの消臭効果に係る検証実験について説明する。
(検証実験1)
タバコ臭気を付着させた試験布について、6名のパネラー(被験者)による6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。6段階臭気強度表示法は、ニオイの程度を数値化する手法として、ニオイの強さを6段階に分け、0〜5までの数値で表すものであり、悪臭防止法においては規制基準を定めるための基本的基準として用いられている。
まず、試験布(ポリエステル布)にタバコの臭気を付着させた後、試験布に送風を行なった。送風は、イオン発生素子から発生させた正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを試験布に照射する場合と、試験布にイオンを照射しない場合との2つの場合について、それぞれ送風装置を2時間動作させて行った。各条件で送風を行なった試験布の臭気を、6段階臭気強度表示法による官能検査にて比較した。試験布に照射させるイオンの濃度は正イオンと負イオンがそれぞれ10,000個/cm3、イオンを照射する場合の照射時間は2時間であった。
表1は、上記の試験布について、6段階臭気強度表示法による官能検査の結果を示す表である。
表1に示すように、タバコの臭気を付着させた直後には、試験布の臭気強度は4.8であった。この試験布に、イオンを照射せずに送風を2時間行うと、臭気強度が3.9になった。一方、臭気強度4.8の試験布に、イオン濃度10,000個/cm3の正イオンと負イオンを2時間照射しながら送風すると、臭気強度が3.3となった。このように、イオンの作用により臭気強度が大きく低減されていることがわかる。
なお、臭気強度表示の値が1異なると、実際の臭気は10倍異なる。つまり、臭気強度表示が4から3になると、臭気は1/10になる。この結果から、上記の正イオンと負イオンは消臭効果を有していると判断することができる。
上記の正イオンと負イオンの消臭効果を利用して、布生地にタバコ臭気が付着した場合に、上記の正イオンと負イオンを照射することにより、ニオイの臭気強度を低減させることができ、ニオイを抑制することができる。
なお、タバコのニオイだけではなく、上記の正イオンと負イオンの両方の照射により、加齢臭(ノネナール)や、魚臭に代表される調理臭(トリメチルアミン)や、トイレ臭や腐卵臭(硫化水素)に対しても、本願の発明者は同様の試験を実施した。その結果、ニオイ除去効果に多少の差はあるものの、いずれの臭気成分に対しても、上記の正イオンと負イオンが脱臭効果を有することを確認した。
(検証実験2)
化学発光法(ケミカルルミネッセンス)によって試験布に付着させた臭気成分の酸化実験を行なった。
この検証実験の目的は、衣類や布類に付着するニオイに対して、イオンがどのように作用するかを検証することである。
化学発光(ケミカルルミネッセンス)法の原理について説明する。評価ターゲットとする物質(例えば、臭気物質)は、励起状態から基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出する。このとき放出される光の強度を測定することによって、ターゲット物質が励起状態から基底状態に戻る現象を観測する手法がケミカルルミネッセンス法である。放出される光は、例えば、励起状態を形成する手法として紫外光を用いた場合は、蛍光あるいは燐光として観測される。この検証実験2においては、ターゲット物質にイオンを照射して励起状態を形成している。ただし、化学発光は蛍光や燐光と比較して発光強度が極めて弱いため、ケミカルルミネッセンスの発光検出には液冷式の超高感度の光電子増倍管を使用した。したがって、この検証実験2においては、
(布に付着させた物質の酸化の度合い)∝(ケミカルルミネッセンスの発光強度)
の関係となる。
評価試験としては、ポリエステル製の試験布に臭気物質としてリノール酸を塗布し付着させた。試験布にイオンを下記3条件にて照射した。それぞれの条件を3回ずつ実施し、再現性についても確認を行なった。
(1)イオン60万個/cm3+送風
(2)イオン6万個/cm3+送風
(3)送風のみ(イオン発生素子は作動させない)
イオンの照射を行う場合には、12時間照射した。照射時間が長いのは、化学発光の測定精度を高めるためである。なお、イオンの個数としては、正イオンと負イオンそれぞれの個数を示している。
図1は、化学発光法(ケミカルルミネッセンス)による布に付着させた物質の酸化度合いを示す図である。
図1に示すように、照射するイオン数が多いほど、発光強度が大きくなっている。縦軸としては、化学発光に伴う光電子増倍管のカウント数としているが、上述の通り、このカウント数は、付着させたリノール酸の酸化度合いを反映している。試験布に照射するイオン濃度と正の相関をもって、ケミカルルミネッセンスの発光強度が増大する。すなわち、イオンの照射により、布に付着した物質(リノール酸)の酸化反応が進行していることを示している。また、イオン発生素子を作動させずに送風のみとした場合においては、12時間経過後もケミカルルミネッセンス発光強度はほとんど変化しておらず、イオンが存在しない場合においては、リノール酸の酸化反応は生じないことがわかった。
以上のように、本願の発明者は、イオンが衣類や布類に付着させた物質を酸化分解することを確認した。
(検証実験3)
次に、イオンの衣類や布類に付着したニオイに対する除去特性のイオン濃度依存性を評価した。
まず、JIS標準布(ポリエステル(商品コード:670110))を試験布として、市販の洗剤で洗濯して、10cm×10cm=100cm2の大きさにカットし、10枚を1まとめとして酢酸10mgを付着させた。試験布1枚当たりには、酢酸1mgを付着した。この試験布を1m3の試験ボックス内に吊るして送風しながら2時間、放置した。試験布は、以下の(1)〜(5)の条件で放置された。(2)〜(5)の条件では、イオン発生素子を駆動し、試験布をイオンに2時間暴露した。その後、試験布をアルミパックに密封して60℃にて30分間放置し、その後に試験布から再放出する酢酸量を測定した。なお酢酸濃度の測定は、株式会社ガステックの検知管NO.81L(この検証実験3においては、0.488μgの識別が可能)を用いて行なった。
(1)イオン発生なし
(2)イオン濃度5,000個/cm3
(3)イオン濃度10,000個/cm3
(4)イオン濃度25,000個/cm3
(5)イオン濃度88,000個/cm3
すなわち、イオン濃度の異なる5条件でのニオイの除去特性を評価する。
図2は、試験布の酢酸再放出量の濃度依存性を示す図(A)と、イオンを照射せずに送風を行なった試験布の酢酸再放出量から、各イオン濃度の雰囲気下で送風を行なったときの試験布の酢酸再放出量を引いて求めた酢酸再放出の減少量の濃度依存性を示す図(B)である。
図2の(A)に示すように、イオンを照射しながら送風された試験布から再放出される酢酸の量は、照射したイオンの濃度が高いほど、少なくなった。この結果から、上記の正イオンと負イオンは、酢酸の再放出を抑えて、酢酸の臭気成分が試験布から脱離してニオイを生じさせることを防ぐことができることがわかった。すなわち、上記正イオンと負イオンは、酢酸の付着臭に対する除去効果を有することがわかった。
また、図2の(B)に示すように、試験布に照射したイオンの濃度と酢酸再放出の減少量が正の相関となっていることから、酢酸付着臭の除去効果がイオンの作用によることがわかる。
図3は、試験布に付着している0.1mgの酢酸を除去するために必要な時間のイオン濃度依存性を示す図である。図3の(A)では、縦軸の所要時間を対数表示して示し、図3の(B)では、図3の(A)に示す結果を、所要時間0〜2.5hourの範囲だけを拡大して示す。
図3の(A)と(B)に示すように、試験布に付着している0.1mgの酢酸を除去するために必要な時間は、イオン濃度が高くなるに従って、短縮される。例えば、イオン濃度が38万個/cm3の場合には、0.017時間、すなわち、約1分間で試験布に付着した0.1mgの酢酸を除去することができることがわかった。
以上の検証実験1〜3の結果から、化学的に相互作用してH2O2やOHラジカルを生じさせる正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)は、衣類や布類等の対象物に付着している臭気成分を酸化分解することによって、対象物のニオイを除去することが確認された。
すなわち、イオン発生素子からは正イオンとしてH+(H2O)mと、負イオンとしてO2 −(H2O)nとが発生する。発生した正イオンと負イオンの相互作用により、・OHが生成される(化学式(1)〜(3))。この・OHが、臭気成分、すなわち、ニオイのもととなる有機化合物のC−C結合、C=C結合及びC=O結合等に作用して、これらの結合を分断することによって、消臭効果が得られる。以下に、代表的なニオイのもととなる物質の・OHによる分解作用を化学式で示す。
酢酸の分解の化学反応式:
CH3COOH+8・OH → 2CO2+6H2O …(4)
アセトアルデヒドの分解の化学反応式:
CH3CHO+10・OH → 2CO2+7H2O …(5)
ここで、イオン濃度について考える。
従来の空気調和機や空気清浄機のように、空気調和対象空間内に存在する粒子(菌やウイルス)を不活化する目的で正イオンとしてH+(H2O)mと、負イオンとしてO2 −(H2O)nとを放出する場合、比較的広い空間内にイオンを発生させることになるので、装置の適用される空気調和対象空間のイオン濃度は2,000個/cm3程度となる。
一方、衣類や布類に付着したニオイを除去する目的で正イオンとしてH+(H2O)mと、負イオンとしてO2 −(H2O)nとを放出するのであれば、空気調和機や空気清浄機を用いて空気調和対象空間にイオンを放出する場合と比較して小さな領域にイオンを照射することとなるので、イオン濃度が高い状況を達成することが可能である。イオン濃度が高くなれば、検証実験3の結果に示すとおり、試験布等の対象物に付着したニオイに対する除去特性が向上する。イオン濃度と付着したニオイに対する除去特性は正の相関を示す。
図3に示すように、イオンを衣類や布類等の対象物に直接、照射する場合においては、イオン濃度を10万個/cm3以上にすることにより、付着したニオイに対する除去特性が大幅に向上する。イオン濃度を10万個/cm3以上の状態として衣類や布類に照射するためには、正イオンと負イオンを発生する発生素子と、衣類や布類との距離を1m以内にすることが望ましい。
(検証実験4)
対象物に付着したタバコのニオイ以外のニオイについて、正負イオンによる脱臭効果を検証するために、人体発生臭について、6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。
この検証実験では、人体から発生するニオイとして、汗臭の代表的物質であるイソ吉草酸に対する正負イオンの効果を検証した。イソ吉草酸を付着させた試験布について、10名のパネラー(被験者)による6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。
まず、試験布(ポリエステル布)にイソ吉草酸を付着させた後、試験布に送風を行なった。
送風は、イオン発生素子から発生させた正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを試験布に照射する場合と、試験布にイオンを照射しない場合との2つの場合について、それぞれ送風装置を4時間動作させて行った。各条件で送風を行なった試験布の臭気を、6段階臭気強度表示法による官能検査にて比較した。試験布に照射させるイオンの濃度は正イオンと負イオンがそれぞれ50,000個/cm3、イオンを照射する場合の照射時間は4時間であった。
表2は、上記の試験布について、6段階臭気強度表示法による官能検査の結果を示す表である。
表2に示すように、汗のニオイであるイソ吉草酸の臭気を付着させた直後には、試験布の臭気強度は4.9であった。この試験布に、イオンを照射せずに送風を4時間行うと、臭気強度が3.8になった。一方、臭気強度4.9の試験布に、イオン濃度50,000個/cm3の正イオンと負イオンを4時間照射しながら送風すると、臭気強度が2.8となった。このように、イオンの作用により臭気強度が大きく低減されていることを確認することができた。
この結果から、上記の正イオンと負イオンは、汗のニオイであるイソ吉草酸に対する消臭効果を有していると判断することができる。
上記の正イオンと負イオンの消臭効果を利用して、布生地にイソ吉草酸のニオイが付着した場合に、上記の正イオンと負イオンを照射することにより、ニオイの臭気強度を低減させることができ、ニオイを抑制することができる。
なお、一般的に、タバコのニオイは衣類の外側に付着するが、イソ吉草酸のニオイは衣類の内側に付着する。
(検証実験5)
対象物に付着したタバコのニオイ以外のニオイについて、正負イオンによる脱臭効果を検証するために、調理臭について、6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。
検証実験5では、衣類の外側に付着するニオイとして、調理臭(焼肉臭、焼魚臭、生魚臭等)の代表的物質であるトリメチルアミンに対する正負イオンの効果を検証した。トリメチルアミンを付着させたポリプロピレン樹脂板について、10名のパネラー(被験者)による6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。
まず、ポリプロピレン樹脂板にトリメチルアミンを付着させた後、樹脂板に送風を行なった。
送風は、イオン発生素子から発生させた正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを樹脂板に照射する場合と、樹脂板にイオンを照射しない場合との2つの場合について、それぞれ送風装置を2時間動作させて行った。各条件で送風を行なった試験布の臭気を、6段階臭気強度表示法による官能検査にて比較した。試験布に照射させるイオンの濃度は正イオンと負イオンがそれぞれ100,000個/cm3、イオンを照射する場合の照射時間は2時間であった。
表3は、上記の試験布について、6段階臭気強度表示法による官能検査の結果を示す表である。
表3に示すように、調理臭のニオイであるトリメチルアミンの臭気を付着させた直後には、試験布の臭気強度は4.0であった。この試験布に、イオンを照射せずに送風を2時間行うと、臭気強度が3.2になった。一方、臭気強度4.0の試験布に、イオン濃度100,000個/cm3の正イオンと負イオンを2時間照射しながら送風すると、臭気強度が2.3となった。このように、イオンの作用により臭気強度が大きく低減されていることを確認することができた。
この結果から、上記の正イオンと負イオンは、調理臭であるトリメチルアミンに対する消臭効果を有していると判断することができる。
なお、本検証実験では、トリメチルアミンを樹脂板に付着して行っているが、正イオンと負イオンの相互作用を利用する手法であるため、ポリエステル布や綿布であっても同様にトリメチルアミン付着臭を除去することができる。
上述のニオイだけではなく、上記の正イオンと負イオンの両方の照射により、加齢臭(ノネナール)や、トイレ臭や腐卵臭(硫化水素)に対しても、本発明者は同様の検証実験を実施した。その結果、ニオイ除去効果に多少の差はあるものの、いずれの臭気成分に対しても、上記の正イオンと負イオンが脱臭効果を有することを確認した。
このような考察に基づいて、以下に本発明の実施形態を説明する。
(第1実施形態)
図4は、この発明の第1実施形態として、付着臭脱臭装置の全体を示す上面図(A)と、正面図(B)と、底面図(C)である。
図4の(A)〜(C)に示すように、付着臭脱臭装置1は主に、本体として筐体110と、筐体110に設けられたイオン発生部としてイオン発生素子130と、筐体110に設けられた送風部として送風ファン120と、イオン送出管112と、支持部111とを備える。筐体110と支持部111とイオン送出管112は、通路壁部材の一例である。図4では、簡単のため、制御部を含む電源部と衣類センサーと設定入力部を図示していない。
筐体110は、底面が開口された箱型状に形成されている。筐体110の内部において上部には、イオン発生素子130と支持部111が取り付けられている。イオン発生素子130は、プラズマ放電現象を用いた電気的手法によって正イオンと負イオンとを発生させる。支持部111は、筐体110の内部に突出するように、筐体110の内部に取り付けられている。筐体110の側面の中央部に形成されている溝は、対象物として衣類を掛けるハンガーの吊り金具を通す溝である。
筐体110の上面には、送風ファン120が取り付けられている。送風ファン120は、筐体110の外部の気体を筐体110の内部に送風する。送風ファン120としては、プロペラファンなど、公知のファンが用いられる。
筐体110の内部において下部には、イオン送出管112が取り付けられている。イオン送出管112は、両端が開口された管状に形成されている。イオン送出管112の一方の端部が筐体110内に配置され、他方の端部が筐体110の下方に配置されるように、イオン送出管112は筐体110に取り付けられている。
図5は、付着臭除去装置が備えるイオン発生素子の全体を示す斜視図(A)と、イオン発生素子の本体の内部を示す斜視図(B)と、図5の(B)に示すイオン発生素子の内部をC−C線の方向から見たときの断面図(C)である。
図5の(A)に示すように、イオン発生素子130は、扁平な略直方体形に形成されている合成樹脂製の本体131に収容されている。イオン発生素子130の本体131には、幅広の一面に略円形の2つの開口132が長手方向に並べて形成されている。イオン発生素子130は、2つの開口132の一方から正イオンを放出し、他方から負イオンを放出する。また、本体131の一側面には、イオン発生素子130が動作するための高電圧が供給される金属製の端子部133が設けられている。イオン発生素子130の概略寸法は7cm×2cm×1cm程度の大きさである。
図5の(B)と(C)に示すように、イオン発生素子130は、本体131内に基板134と、この基板134に設けられた正イオン発生部として正電極135と、負イオン発生部として負電極136及び接地電極137とを備えている。基板134は略矩形の板体であり、絶縁物質で構成されている。正電極135と負電極136は、先端部分が先鋭に尖らせられた丸棒状の電極である。正電極135と負電極136は、基板134に形成された2つの貫通孔134aにそれぞれ通されて、基板134の一面に突出させ、半田または接着剤等を用いて基板134に固定されている。
接地電極137は、基板134より表面積が若干小さい板状の電極であり、基板134に対向するように、基板134から所定間隔を隔てて基板134に固定されている。基板134に対する接地電極137の固定は、接地電極137の四方に延出して設けられた4つの脚部137a(図5の(B)には3つの脚部137aのみ図示している)を略直角に屈曲し、基板134に形成された4つの貫通孔134bに接地電極137の4つの脚部137aをそれぞれ挿通して、半田または接着剤等により脚部137aを固定することで行われる。
接地電極137には、2つの略円形の開口137bが形成されている。接地電極137が基板134に固定された場合、正電極135及び負電極136は接地電極137の開口137bの略中心の位置に固定される。接地電極137の開口137bの縁部137cは、基板134側へ向けて折り曲げてある。正電極135、負電極136及び接地電極137を基板134に固定して本体131に収容した場合には、本体131に形成された2つの開口132と、接地電極137に形成された2つの開口137bとが略同心に配されるようにしてある。
イオン発生素子130の接地電極137は接地電位に接続され、正電極135には正極の高電圧が印加され、負電極136には負極の高電圧が印加される。正電極135及び負電極136にそれぞれ高電圧が印加されると、接地電極137の開口137bの縁部137cが強電界になり、接地電極137からプラズマ放電が発生する。プラズマ放電により空気中の酸素及び水蒸気が電離してイオンが発生する。なお、電極の構造及び印加電圧の最適化により、有害物質とされるオゾンの発生を極力抑えるように制御を行っている。このときに最も安定して発生するイオンは、正イオンのH+(H2O)mと負イオンのO2 −(H2O)nとである。発生するイオンの質量分析などを行って解析した結果、これら以外のイオンの発生はほとんど確認されていない。イオン発生素子130の本体131に形成された2つの開口132のうち、正電極135が設けられた開口132から正イオンH+(H2O)mが放出され、負電極136が設けられた開口132から負イオンO2 −(H2O)nが放出される。
このようなイオン発生素子130を作動させた場合は、イオン発生電極(針型電極)である正電極135と負電極136とからイオンが生成するが、正イオンと負イオンを効果的に衣類や布類に照射させるために、気流の流れを発生させる送風手段を組み合わせることが効果的となる。
上述の通り、イオン発生素子で発生したH+(H2O)mとO2 −(H2O)nのイオンは、化学反応して活性種である・OH(OHラジカル)またはH2O2を生成する。上述の検証実験1〜5に示すように、H2O2または・OHは、極めて強力な活性を示すため、衣類や布類に付着したニオイを除去することができる。そのため、正イオンと負イオンの両方を発生させて照射させる。負イオン単独の放出の場合、相互作用が発生しないので、化学反応して活性種であるH2O2または・OH(OHラジカル)が生成しない。そのため、付着したニオイに対する除去特性は非常に小さいものとなる。
なお、以上の説明においては、イオン発生素子130の正電極135と負電極136とも針型電極構造としているが、正イオン及び負イオンを独立して発生させるものであれば、それぞれの電極はプレート型電極であっても、その他の形状であってもかまわない。
また、付着臭脱臭装置1に配置されるイオン発生素子130の数を増やすことによって、衣類の表面に放出される正イオンと負イオンの数を増やすことができる。
図6は、イオン発生素子を駆動する回路を示す図である。
図6に示すように、イオン発生素子130を駆動する回路は、商用交流電源に接続された電源回路138を有する。電源回路138は、マイクロコンピュータによって構成されている。図5に示される端子部133は、図6の端子部133に相当する。
イオン発生素子130の消費電力は0.1W程度と非常に小さい。イオン発生素子130の電源供給方法としては、電池方式を採用することができるので、配線を省くことができる。電池方式を採用する場合には、一般的な電池(一次電池、二次電池)を効果的に用いることができる。
図7は、第1実施形態の付着臭脱臭装置に係る制御関連の構成を示すブロック図である。
図7に示すように、第1実施形態の付着臭脱臭装置は、制御関連の構成としては、制御部180と、検知部として衣類センサー150と、設定部として設定入力部160と、運転スイッチ170と、送風ファン120と、電源回路138とを備える。
衣類センサー150は、付着臭脱臭装置1(図4)が衣類に取り付けられたことを検知して、制御部180に信号を送信する。衣類センサー150は、例えば、マイクロスイッチや圧力検知手段によって構成されている。
設定入力部160は、イオン発生素子130(図4)と送風ファン120の駆動状態を設定するための設定部である。使用者は、衣類の種類や、衣類に付着している臭気の強さによって、付着臭脱臭装置の運転時間を変えることが要求される場合には、設定入力部160を通して、自動停止までの運転時間や放電印加電圧、印加周波数などを調節することができる。小型のロータリスイッチやディップスイッチを設定入力部160に用いることができる。また、あらかじめ設定したいくつかの運転モードを制御部180に記憶しておき、いずれかの運転モードを選択できるようなスイッチを設けてもよい。使用者が設定入力部160を通してイオン発生素子130と送風ファン120の駆動状態を設定すると、設定入力部160は、制御部180に信号を送信する。
運転スイッチ170は、付着臭脱臭装置1の運転と運転停止とを使用者が切り替えるためのスイッチである。使用者が運転スイッチ170を通して付着臭脱臭装置の運転と運転停止とを切り替えると、運転スイッチ170は、制御部180に信号を送信する。
制御部180は、衣類センサー150、設定入力部160、運転スイッチ170から受信した信号に基づいて、送風ファン120と、イオン発生素子の電源回路138とに制御信号を送信して駆動を制御する。
以上のように構成された付着臭脱臭装置1の動作について説明する。
図8は、ハンガーに掛けられた衣類に装着された、第1実施形態の付着臭脱臭装置を示す正面図である。
図8に示すように、付着物脱臭装置1を用いて、対象物として衣類10を脱臭するときには、衣類10をハンガー200に掛けて、ハンガー200に掛けられた衣類10の上から、衣類10の上部を覆うように、付着臭脱臭装置1を装着する。ハンガー200の肩の部分と、筐体110においてハンガー200の肩に対向する部分とが平行になる。
付着臭脱臭装置1の筐体110の内部には、支持部111が配置されている。支持部111は、筐体110の内部に突出するように配置されているので、筐体110の内壁と衣類10との間に支持部111が挟まれて、筐体110の内壁と衣類10との間に所定の間隔が形成される。このようにして、筐体110の内壁面と衣類10との間には、空間が形成される。この空間が、イオンを含む気流を流通させる通路となる。
イオン送出管112の先端部分は、例えば、衣類10の首周り等から衣類10の内側に挿入されることが好ましい。イオン送出管112も、イオンを含む気流を流通させる通路となる。
図9は、この発明の第1実施形態の付着臭脱臭装置の制御処理を順に示すフローチャートである。以下の各行程において、所定の判断の主体は制御部180(図7)である。
図9に示すように、ステップS1では、使用者によって運転スイッチ170がONにされると、制御部180は、運転スイッチ170から信号を受信して、運転スイッチ170からの入力を検知する。
ステップS2では、衣類センサー150は、付着臭脱臭装置1が衣類10に装着されたかどうかを検知する。衣類センサー150によって、付着臭脱臭装置1が衣類10に装着されたことが検知された場合には、ステップS3に進む。衣類センサー150によって、付着臭脱臭装置1が衣類10に装着されたことが検知されない場合には、ステップS5に進んで、付着臭脱臭装置1の運転を停止する。
付着臭脱臭装置1では、衣類10や布類等の対象物に付着したニオイを除去するために、送風ファン120とイオン発生素子130とを作動させて、衣類10の表面にイオンを照射する。したがって、付着臭脱臭装置1を用いて脱臭するときには、送風ファン120とイオン発生素子130とを駆動させるための電力を消費することになる。そのため、できる限り低消費電力で送風ファン120とイオン発生素子130を駆動させることが望ましい。
例えば、送風ファン120としてプロペラファンを使用する場合には、イオン発生素子130で発生する正イオンと負イオンとを衣類10の外部表面と内部表面に送出することができる。衣類10の表面に付着したニオイに対しては、イオン濃度が5,000個/cm3以上あれば脱臭効果が得られるが、プロペラファンの配置条件を最適化することにより、正イオンと負イオンとを効率よく1,000,000個/cm3相当の高濃度条件にて放出させることが可能である。しかし、この場合には、プロペラファンの電力が大きいため、商用電源を用いることが必要になる。
そこで、送風ファン120とイオン発生素子130に通電されて作動している時間を簡便な手法により、できる限り少なくすることが好ましい。第1実施形態の付着臭脱臭装置1では、筐体110に、イオン発生素子130の駆動手段である電源回路138のスイッチとして、衣類センサー150を設けている。衣類センサー150が衣類10や布類に接触したときに、電源回路138を作動させ、イオン発生素子130の針型電極よりイオンを発生させる。
衣類10の上から付着臭脱臭装置1を取り付けると、衣類10と付着臭脱臭装置1とが接触する。したがって、筐体110と衣類10との接点に圧力検知手段を設けて、圧力検知手段が所定の圧力を検知した場合に、付着臭脱臭装置1が衣類10に装着されたと判断して、イオン発生素子130と送風ファン120を駆動させることによって、消費電力を抑制することができる。
ステップS3では、制御部180は、送風ファン120を駆動するように制御する。送風ファン120が駆動されると、図8中に矢印で示すように気体が流れる。すなわち、送風ファン120によって送出される気体は、筐体110の内壁面と衣類10の表面との間に形成される通路を通って、筐体110の下部に向かって流れる。筐体110の下端まで流れた気体の一部は、筐体110の外部に流出し、その後、衣類10の表面に沿って流れる。また、筐体110の下端まで流れた気体の残りの一部は、イオン送出管112の内部を流れる。イオン送出管112の内部を流れる気体は、イオン送出管112の下端まで流れると、イオン送出管112の外部に流出し、その後、衣類10の内側の表面に沿って流れる。このようにして、衣類10の外側と内側の両方に、正負イオンを同時に送出することができる。このように、送風ファン120によって送出される空気は、イオン発生素子130から放出された正イオンと負イオンを巻き込んで、付着臭脱臭装置1の筐体110と衣類10との隙間から衣類10の表面に沿って流出する。
次に、ステップS4では、制御部180は、イオン発生素子130を駆動するように電源回路138を制御する。イオン発生素子130が駆動されると、送風ファン120によって送出される気体とともに、正イオンと負イオンが、図8中に矢印で示す方向に流れる。
気体とともに、通路を通って衣類10の表面に沿って流れる正イオンと負イオンは、衣類10の表面で互いに衝突して相互作用し、H2O2やOHラジカルを生成することによって、臭気物質を分解して除去する。このようにして、衣類10の付着臭が脱臭される。
イオン発生素子130と送風ファン120は、所定の時間、駆動され、ステップS5では、制御部180は付着臭脱臭装置1の運転を停止する。イオン発生素子130と送風ファン120の駆動時間は、予め定められた所定の時間であってもよいし、使用者が設定入力部160を通して設定した時間であってもよい。
このように、第1実施形態の付着臭脱臭装置1は、衣類10を吊るして保管するために従来から広く用いられているハンガー200に取り付けられ、ガス状物質である正イオンと負イオンを放出する。筐体110と支持部111と衣類10の表面によって形成される通路内に正負イオンを流通させることによって、衣類10の外側の表面に付着したニオイを脱臭することができる。また、イオン送出管112内に正負イオンを流通させて衣類10の内側に正負イオンを供給することによって、衣類10の内側に付着したニオイを脱臭することができる。このようにして、衣類10に付着した外側のニオイと内側のニオイを効果的に除去することができる。
スーツやコートといった衣類については、使用後に保管する手法として、従来よりハンガー(衣紋掛け)が広く用いられている。第1実施形態の付着臭脱臭装置1は、従来から広く用いられている市販のハンガーに容易に取り付けることができ、使い勝手がよく、新たな操作方法等は必要ない。付着臭脱臭装置1を市販のハンガーに取り付けることによって、衣類10に付着した外側と内側の両方のニオイを、ガス状物質である正イオンと負イオンの放出により、効果的に除去することができる。
衣類10に付着臭脱臭装置1を装着することで、衣類10を保管する保管庫内において、複数の衣類どうしが重なり合っていても、隣り合った衣類どうしの間に正イオンと負イオンが通る通路を作り、衣類10の外側の表面にイオンを照射することができる。
また、イオン送出管112から正負のイオンが衣類10の内部に送出されるので、衣類10の内側のニオイも除去される。特に、人体から発生する汗のニオイ、体臭のニオイ、便のニオイ等は衣類10の内側に付着するので、イオン送出管112によって衣類10の内側にも正負のイオンを送出することによって、衣類10の内側に付着するこれらのニオイを除去することができる。
上述のように、衣類10に付着したニオイは、衣類10に照射された正イオンと負イオンとが化学反応してH2O2やOHラジカルを生成することによって、分解されて除去される。そのため、イオンによるニオイの除去効果が最も大きくなるのは、正イオンと負イオンとが同量ずつ衣類10に照射される場合である。
イオンを多く発生させるためには、イオン発生素子130への印加電圧を高くしたり、イオン発生素子130へ印加している電圧の波形を変える、すなわち、周波数を高くしたり、放電回数を多くしたりする手法を用いることができる。
一方、衣類10の表面が帯電している場合には、イオン発生素子130から多量に放出されたイオンのうち、衣類10の表面の帯電によって、一部が除電、すなわち衣類10の表面帯電との中和失活に用いられる。そして、除電に用いられなかったイオンと、その反対の極性のイオンの相互作用により、衣類10に付着したニオイを除去することができる。
従来の正イオンと負イオンを発生させる空気調和機や空気清浄機においては、一方のイオン(例えば正イオンとする)を発生する針型電極が複数本配列された領域と、他方のイオン(例えば負イオンとする)を発生する針型電極の領域からは、同量のイオンを発生させることが多かった。これは、同量の正イオンと負イオンを比較的広い空間に放出すると、空間内での正イオンと負イオンが同量となり、ウイルスや菌やアレルゲン成分を除去・不活化する効果が得られるためである。
しかし、衣類10にイオンを照射して、衣類10の表面に付着したニオイを除去する目的でイオンを衣類10の表面に供給する場合には、同量の正イオンと負イオンとを供給しても、はじめの衣類10の表面の帯電状態により、正イオンと負イオンのバランスが崩れることがある。その結果、正イオンと負イオンとの相互作用の度合が低下し、衣類10に付着したニオイを充分に除去できない場合がある。
たとえば、衣類10の表面が負に帯電している場合(化学繊維の場合)、正イオンと負イオンを同量として照射しても、正イオンは負イオンと比較して中和失活してしまう割合が多くなる。このままでは、衣類10の表面においては、負イオンの濃度に対して、正イオンの濃度が少なくなるため、正イオンと負イオンの相互作用の度合が低下し、付着したニオイの除去特性が低下してしまうことがある。
そこで、衣類10の表面が負に帯電している場合には、あらかじめ、衣類10の表面での中和失活を想定して、正イオンの濃度を高めて放出させることが好ましい。このようにすることにより、中和失活によって正イオンは減少するが、残った正イオンと負イオンの相互作用により、衣類10や布類表面に付着したニオイを効果的に酸化分解により除去することができる。
衣類10の表面が正に帯電している場合には、逆に、負イオンを多く発生させるようにイオン発生素子130の駆動を制御することが好ましい。
図10は、第1実施形態の付着臭脱臭装置のイオン発生素子を駆動させる回路の別の例を示す図である。
図10に示すように、イオン発生素子130を駆動する回路は、図6に示す回路と異なる点としては、衣類センサー150と運転スイッチ170が直接、接続されている。この回路は、イオン発生素子130を駆動させる、最も簡単な回路である。図10に示す回路のその他の構成は図6に示す回路の構成と同様である。
以上のように、付着臭脱臭装置1は、筐体110と、イオン発生素子130と、送風ファン120と、支持部111とイオン送出管112とを備える。イオン発生素子130は、筐体110内に設けられ、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを発生させる。送風ファン120は、筐体110内に設けられ、イオン発生素子130から発生した正イオンと負イオンとを気体とともに送出する。筐体110と支持部111とイオン送出管112は、付着臭が除去されるべき衣類10に筐体110を接近させたときに、イオン発生素子130から発生した正イオンと負イオンとともに、送風ファン120によって送出された気体を衣類10の表面に沿って流通させる通路を形成する。
付着臭が除去されるべき衣類10に付着臭脱臭装置1の筐体110を接近させると、付着臭脱臭装置1の筐体110と支持部111とイオン送出管112によって、気体が衣類10の表面に沿って流通するための通路が形成される。
イオン発生素子130と送風ファン120が駆動されると、正イオンと負イオンが気体とともに、付着臭脱臭装置1の筐体110と支持部111とイオン送出管112によって形成された通路内に送出される。
気体とともに通路内を流通する正イオンと負イオンは、付着臭が除去されるべき衣類10の表面に沿って流通する。すなわち、正イオンと負イオンは、衣類10の表面をなぞるような経路を通るように照射される。このようにすることにより、正イオンと負イオンとが効果的に衣類10の表面に照射される。
衣類10の表面では、正イオンと負イオンとが衣類10に付着している臭気成分と接触して反応し、活性物質としての過酸化水素(H2O2)または水酸基ラジカル(・OH)となり、臭気成分を分解する。臭気成分が分解されることによって、衣類10に付着しているニオイが脱臭される。
正負イオンは、互いに接触して相互作用することによって過酸化水素やOHラジカルとなり、臭気物質を分解する。しかし、正負イオンは、衣類10の表面に到達する前に衣類10の周囲の空間で互いに接触すると、そこで相互作用して過酸化水素やOHラジカルになってしまい、衣類10の表面に到達する前に中和失活してしまう。正負イオンが衣類10の表面に到達する前に中和失活してしまうと、衣類10の周囲の空間の脱臭をすることはできても、衣類10に付着しているニオイを脱臭することができない。
上記の正負のイオンが衣類10の表面で相互作用して臭気物質を分解するためには、例えば、衣類10の周囲の空間のイオン濃度を高めることによって、中和失活せずに衣類10の表面に到達する正負のイオンの量を増やすことが考えられる。衣類10の周囲の空間におけるイオン濃度を高めるためには、イオン発生素子130が発生するイオンの量を増やす必要がある。しかしながら、イオン発生素子130によって発生させられる上記の正負のイオンの量には限界がある。
一方、付着臭が除去されるべき衣類10の表面に正負のイオンを供給すれば、イオン発生素子130によって発生させられる上記の正負のイオンの数に限界があっても、衣類10の表面で正負のイオンを相互作用させることができる。衣類10の表面で正負のイオンが相互作用することによって、衣類10の表面で活性物質としての過酸化水素(H2O2)または水酸基ラジカル(・OH)が生成されて、衣類10の表面に付着している臭気物質を分解することができる。
正イオンと負イオンとが衣類10の表面に沿って流通する通路を、筐体110と支持部111とイオン送出管112とが形成することによって、衣類10の表面に正イオンと負イオンとを供給することができる。衣類10の表面に正イオンと負イオンとを供給するので、正イオンと負イオンは、衣類10の表面において、衣類10に付着している臭気成分と反応する。筐体110と支持部111とイオン送出管112と送風ファン120とを備えて、衣類10の表面に正イオンと負イオンとを供給することによって、衣類10の表面に到達する前に中和失活する正イオンと負イオンを少なくして、イオン濃度を高い濃度に保つことができる。
このようにすることにより、衣類10に付着しているニオイを容易に除去することが可能な付着臭脱臭装置1を提供することができる。
また、付着臭脱臭装置1においては、イオン発生素子130は、正イオンを発生させる正電極135と、負イオンを発生させる負電極136とを含む。
このようにすることにより、例えば、正電極135と負電極136に別々に電圧を印加して、正イオンの発生量と負イオンの発生量とをそれぞれ調節することができる。
また、付着臭脱臭装置1は、筐体110と支持部111とイオン送出管112が通路を形成したことを検知する衣類センサー150を備える。イオン発生素子130は、筐体110と支持部111とイオン送出管112が通路を形成したことを衣類センサー150が検知したときにイオンを発生させるように構成されている。
このようにすることにより、付着臭脱臭装置1の無駄な動作を抑制することができる。
また、付着臭脱臭装置1は、イオン発生素子130と送風ファン120の駆動状態を使用者が設定するための設定部入力部160を備える。
このようにすることにより、衣類10の種類や臭気の強さなどに応じて、使用者が付着臭脱臭装置1の駆動状態を設定することができるので、必要かつ充分に衣類10の脱臭を行なうことができる。
(第2実施形態)
図11は、この発明の第2実施形態として、付着臭脱臭装置の全体を示す上面図(A)と、正面図(B)と、底面図(C)とを示す図である。
図11に示すように、第2実施形態の付着臭脱臭装置2が第1実施形態の付着臭脱臭装置1(図4)と異なる点としては、筐体110の内部に、通路壁部材としてガイド113を備える。ガイド113は、板状に形成されており、筐体110の内部を仕切って、正イオンと負イオンとを含む気流の流れを所定の方向に誘導する。付着臭脱臭装置2はガイド113を備えることにより、例えば、重点的にイオンを多くしたい位置に気流を導いて、効率的に脱臭効果を得ることができる。
第2実施形態の付着臭脱臭装置2のその他の構成と効果は、第1実施形態の付着臭脱臭装置1と同様である。
(第3実施形態)
図12は、この発明の第3実施形態として、付着臭脱臭装置の全体を示す上面図(A)と、正面図(B)と、底面図(C)とを示す図である。
図12に示すように、第3実施形態の付着臭脱臭装置3が第1実施形態の付着臭脱臭装置1(図4)と異なる点としては、正イオンと負イオンとを別個に生成するイオン発生素子130(図4、図5)の代わりに、放電電極を1本だけ備える小型のイオン発生素子140を複数備える。イオン発生素子140は、筐体110の内部の適切に選択された位置に複数、配置されている。イオン発生素子140は、放電電極を1本だけ備えるので、小型化することができる。
図13は、図12の(A)に示す付着臭脱臭装置をXIIIA−XIIIA線の方向から見たときの状態を示す図(A)と、図12の(A)に示す付着臭脱臭装置をXIIIB−XIIIB線の方向から見たときの状態を示す図(B)と、イオン発生素子の内部の状態を示す図(C)である。
図13に示すように、それぞれのイオン発生素子140は、電極支持部144に保持される1本の放電電極145を備える。放電電極145の周囲には、放電電極145を囲むように、誘導電極147が配置されている。イオン発生素子140においては、1本の放電電極145に高圧の交流が印加されることによって、正イオンと負イオンとが交互に放出される。
なお、放電電極145の構造は、針電極には限られない。針の代わりにブラシのような繊毛を設けた構造や、絶縁体や誘電体に形成された印刷電極を用いた構造であってもよい。
また、図13の(B)に示すように、衣類の内側にイオンを送出するイオン送出管112の端部にも、イオン発生素子140が配置されている。
図14は、第3実施形態の付着臭脱臭装置のイオン発生素子を駆動する回路を示す図である。
図14に示すように、複数のイオン発生素子の放電電極145が並列に設置される回路構成となっている。商用電源に接続される電源回路138と制御部の構成は、第1実施形態の付着臭脱臭装置と同様である。
図15は、ハンガーに掛けられた衣類に装着された、第3実施形態の付着臭脱臭装置を示す正面図である。
図15に示すように、第3実施形態の付着臭脱臭装置3は、第1実施形態の付着臭脱臭装置1(図4)と同様に、衣類10と筐体110との間には支持部111が挟まれて、筐体110の内壁面と衣類10の外側表面との間に、正負イオンを含む気体が衣類10の表面に沿って流通する通路が形成される。また、イオン送出管112が衣類10の内側に差し込まれて、イオン送出管112から流出する気体が衣類10の内側表面に沿って流通する通路が形成される。
送風ファン120とイオン発生素子140が駆動されると、正イオンと負イオンとが衣類10の外側表面と内側表面とに同時に供給される。
イオン送出管112の内部に配置されているイオン発生素子140は、筐体110の内部に配置されているイオン発生素子140よりも放電電極を大きくしたり、放電電圧を高めたりして、放出されるイオンの数を補うことができる。
このように、第3実施形態の付着臭脱臭装置3では、衣類10の外側のニオイを除去するためのイオン発生素子140と、衣類10の内側のニオイを除去するためのイオン発生素子140とが別個に形成されて、独立に制御されてもよい。このようにすることにより、それぞれのイオン発生素子140に別々に電圧を印加して、それぞれのイオン発生素子140のイオン発生量を調節することができる。
例えば、普段からタバコを吸う頻度が高い場合や、そのようなタバコ等のニオイが付着する環境にいる状況が多い場合、衣類10の外側にはニオイ付着量が多いので、衣類10の外側へのイオン放出量を高めることが効果的である。
一方、特に梅雨や夏季に、長時間着用した衣類10については、人体内部から発せられる体臭に起因するニオイの付着量が多いので、衣類10の内側へのイオン放出量を高めることが効果的である。
第3実施形態の付着臭脱臭装置3のその他の構成と効果は、第1実施形態の付着臭脱臭装置1と同様である。
(第4実施形態)
図16は、この発明の第4実施形態として、付着臭脱臭装置の全体を示す上面図(A)と正面図(B)である。
図16に示すように、第4実施形態の付着臭脱臭装置4が第3実施形態の付着臭脱臭装置3と異なる点としては、イオン送出管114は、フレキシブルな蛇腹構造のアルミニウム管等によって構成されている。筐体110の下端には、複数のイオン発生素子140が適切に選択された位置に並べて配置されている。イオン送出管114の先端の内部にも、イオン発生素子140が配置されている。使用者は、イオン送出管114を曲げて、イオン送出管114の端部を、付着臭を除去したい位置に近づけることができる。すなわち、イオン送出管114の先端に配置されているイオン発生部140を、付着臭を除去したい位置に近づけることができる。
図17は、ハンガーに掛けられた衣類に装着された、第4実施形態の付着臭脱臭装置を示す正面図である。
図17に示すように、使用者はイオン送出管114を曲げて、イオン送出管114の先端を、例えば衣類10の脇部に向けて設置することができる。このようにすることにより、ニオイの強い部分を重点的に脱臭することができる。
衣類10の内側に正負のイオンを送出するイオン送出管114を備えることによって、衣類10の内側のニオイ、すなわち、人体から発生するニオイについても除去効果を有する。特に、人体から発生するニオイとしては、腋部からのニオイ放出がもっとも強いので、腋部に確実にイオンを照射できる構成とすることにより、衣類の内側に付着したニオイを除去することができる。
第4実施形態の付着臭脱臭装置4のその他の構成と効果は、第3実施形態の付着臭脱臭装置3と同様である。
(第5実施形態)
図18は、この発明の第5実施形態として、付着臭脱臭装置をカーテンに取り付けたときの状態を示す上面図(A)と正面図(B)である。
図18に示すように、第5実施形態の付着臭脱臭装置5は、カーテンボックスとして使用され、対象物としてカーテン20に付着したニオイを脱臭する。付着臭脱臭装置5は、本体としてカーテンボックス本体510と、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを発生させるイオン発生部としてイオン発生素子530と、送風部として送風ファン520とを備える。
イオン発生素子530と送風ファン520は、カーテンボックス本体510内の上部に配置されている。送風ファン520は、カーテンボックス本体510の外部から内部に送風することが可能であるようにカーテンボックス本体510に取り付けられている。イオン発生素子530は、カーテンボックス本体510の内部に正イオンと負イオンを放出することができるように、カーテンボックス本体510に取り付けられている。電源回路、制御部は図示を省略しているが、第1実施形態の付着臭脱臭装置1(図4)と同様である。
カーテンボックス本体510の大きさは、この実施の形態では、L400cm×D15cm×H10cm程度で、送風ファン520は、約50cm間隔で配置されている。カーテンボックス本体510には下部に開口が形成されており、カーテン20の上部を覆うようにしてカーテン20に取り付けられる。
カーテンボックス本体510がカーテン20に取り付けられると、カーテンボックス本体510の壁511とカーテン20との間に空間が形成される。この空間が、正負イオンを含む気体を流通させる通路になる。壁511は通路壁部材の一例である。
送風ファン520とイオン発生素子530が駆動されると、正イオンと負イオンとを含む気体が、カーテンボックス本体510内の上部から、下方に向かって送出される。イオン発生素子530から送出された正イオンと負イオンを含む気体は、真下のカーテン20に衝突し、その衝突抵抗によって左右に拡散する。このとき、正イオンと負イオンは、カーテン20の表面に沿って流れる。図中の矢印は、正負のイオンを含む気体が流れる方向を示す。
カーテン20の表面では、正イオンと負イオンとが相互作用して、カーテン20の表面に付着している臭気成分を分解して、脱臭する。
以上のように、第5実施形態の付着臭脱臭装置5は、カーテンボックス本体510と、イオン発生素子530と、送風ファン520と、壁511とを備える。イオン発生素子530は、カーテンボックス本体510内に設けられ、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを発生させる。送風ファン520は、カーテンボックス本体510内に設けられ、イオン発生素子530から発生した正イオンと負イオンとを気体とともに送出する。壁511は、付着臭が除去されるべきカーテン20にカーテンボックス本体510を接近させたときに、イオン発生素子530から発生した正イオンと負イオンとともに、送風ファン520によって送出された気体をカーテン20の表面に沿って流通させる通路を形成する。
付着臭が除去されるべきカーテン20に付着臭脱臭装置5のカーテンボックス本体510を接近させると、付着臭脱臭装置5の壁511によって、気体がカーテン20の表面に沿って流通するための通路が形成される。
イオン発生素子530と送風ファン520が駆動されると、正イオンと負イオンが気体とともに、付着臭脱臭装置5の壁511によって形成された通路内に送出される。
気体とともに通路内を流通する正イオンと負イオンは、付着臭が除去されるべきカーテン20の表面に沿って流通する。すなわち、正イオンと負イオンは、カーテン20の表面をなぞるような経路を通るように照射される。このようにすることにより、正イオンと負イオンとが効果的にカーテン20の表面に照射される。
カーテン20の表面では、正イオンと負イオンとがカーテン20に付着している臭気成分と接触して反応し、活性物質としての過酸化水素(H2O2)または水酸基ラジカル(・OH)となり、臭気成分を分解する。臭気成分が分解されることによって、カーテン20に付着しているニオイが脱臭される。
正負イオンは、互いに接触して相互作用することによって過酸化水素やOHラジカルとなり、臭気物質を分解する。しかし、正負イオンは、カーテン20の表面に到達する前にカーテン20の周囲の空間で互いに接触すると、そこで相互作用して過酸化水素やOHラジカルになってしまい、カーテン20の表面に到達する前に中和失活してしまう。正負イオンがカーテン20の表面に到達する前に中和失活してしまうと、カーテン20の周囲の空間の脱臭をすることはできても、カーテン20に付着しているニオイを脱臭することができない。
上記の正負のイオンがカーテン20の表面で相互作用して臭気物質を分解するためには、例えば、カーテン20の周囲の空間のイオン濃度を高めることによって、中和失活せずにカーテン20の表面に到達する正負のイオンの量を増やすことが考えられる。カーテン20の周囲の空間におけるイオン濃度を高めるためには、イオン発生素子530が発生するイオンの量を増やす必要がある。しかしながら、イオン発生素子530によって発生させられる上記の正負のイオンの量には限界がある。
一方、付着臭が除去されるべきカーテン20の表面に正負のイオンを供給すれば、イオン発生素子530によって発生させられる上記の正負のイオンの数に限界があっても、カーテン20の表面で正負のイオンを相互作用させることができる。カーテン20の表面で正負のイオンが相互作用することによって、カーテン20の表面で活性物質としての過酸化水素(H2O2)または水酸基ラジカル(・OH)が生成されて、カーテン20の表面に付着している臭気物質を分解することができる。
正イオンと負イオンとがカーテン20の表面に沿って流通する通路を壁115が形成することによって、カーテン20の表面に正イオンと負イオンとを供給することができる。カーテン20の表面に正イオンと負イオンとを供給するので、正イオンと負イオンは、カーテン20の表面において、カーテン20に付着している臭気成分と反応する。壁511と送風ファン520とを備えて、カーテン20の表面に正イオンと負イオンとを供給することによって、カーテン20の表面に到達する前に中和失活してしまう正イオンと負イオンを少なくして、イオン濃度を高い濃度に保つことができる。
このようにすることにより、カーテン20に付着しているニオイを容易に除去することが可能な付着臭脱臭装置5を提供することができる。
(第6実施形態)
図19は、この発明の第6実施形態として、付着臭脱臭装置を壁面に取り付けたときの状態を斜め上方から見たときの斜視図(A)と、正面図(B)と、底面図(C)と、(B)に示す付着臭脱臭装置をD−D線の方向から見たときの概略断面図(D)である。図20は、第6実施形態の付着臭脱臭装置を壁面に取り付けたときの状態を示す斜視図である。
図19と図20に示すように、第6実施形態の付着臭脱臭装置6は、壁照明器具として使用され、対象物として壁面30に付着したニオイを脱臭する。付着臭脱臭装置6は、本体として照明ボックス本体610と、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを発生させるイオン発生部としてイオン発生素子630と、送風部として送風ファン620と、照明器具650と、反射板640とを備える。
イオン発生素子630と送風ファン620は、照明ボックス本体610内の下部に配置されている。送風ファン620は、照明ボックス本体610の外部から内部に送風することが可能であるように照明ボックス本体610に取り付けられている。イオン発生素子630は、照明ボックス本体610の内部に正イオンと負イオンを放出することができるように、照明ボックス本体610に取り付けられている。電源回路、制御部は図示を省略しているが、第1実施形態の付着臭脱臭装置1(図4)と同様である。
照明ボックス本体610の大きさは、この実施の形態では、L400cm×D15cm×H10cm程度で、送風ファン620は、約50cm間隔で配置されている。照明ボックス本体610には上部に開口が形成されている。照明ボックス本体610は、一つの側面が壁面30に接するようにして壁面30上に取り付けられる。
照明ボックス本体610が壁面30に取り付けられると、照明ボックス本体610の壁611と反射板640とが、正負イオンを含む気体を壁面30の表面に沿って流通させる通路になる。壁611と反射板640は、通路壁部材の一例である。
送風ファン620とイオン発生素子630が駆動されると、正イオンと負イオンとを含む気体が、照明ボックス本体610内の下部から、上方に向かって送出される。イオン発生素子630から送出された正イオンと負イオンを含む気体は、真上の反射板640に衝突し、反射板640と壁611との隙間から、上方に向かって吹き出す。また、正イオンと負イオンを含む気体は、反射板640との衝突抵抗によって左右に拡散する。照明ボックス本体610の外部に吹き出した正イオンと負イオンは、壁面30の表面に沿って流れる。図中の矢印は、正負のイオンを含む気体が流れる方向を示す。
壁面30の表面では、正イオンと負イオンとが相互作用して、壁面30の表面に付着している臭気成分を分解して、脱臭する。
以上のように、第6実施形態の付着臭脱臭装置6は、照明ボックス本体610と、イオン発生素子630と、送風ファン620と、壁611と反射板640とを備える。イオン発生素子630は、照明ボックス本体610内に設けられ、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の整数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の整数)とを発生させる。送風ファン620は、照明ボックス本体610内に設けられ、イオン発生素子630から発生した正イオンと負イオンとを気体とともに送出する。壁611と反射板640とは、付着臭が除去されるべき壁面30に照明ボックス本体610を接近させたときに、イオン発生素子630から発生した正イオンと負イオンとともに、送風ファン620によって送出された気体を壁面30の表面に沿って流通させる通路を形成する。
付着臭が除去されるべき壁面30に付着臭脱臭装置6の照明ボックス本体610を接近させると、付着臭脱臭装置6の壁611と反射板640によって、気体が壁面30の表面に沿って流通するための通路が形成される。
イオン発生素子630と送風ファン620が駆動されると、正イオンと負イオンが気体とともに、付着臭脱臭装置6の壁611と反射板640によって形成された通路内に送出される。
気体とともに通路内を流通する正イオンと負イオンは、付着臭が除去されるべき壁面30の表面に沿って流通する。すなわち、正イオンと負イオンは、壁面30の表面をなぞるような経路を通るように照射される。このようにすることにより、正イオンと負イオンとが効果的に壁面30の表面に照射される。
壁面30の表面では、正イオンと負イオンとが壁面30に付着している臭気成分と接触して反応し、活性物質としての過酸化水素(H2O2)または水酸基ラジカル(・OH)となり、臭気成分を分解する。臭気成分が分解されることによって、壁面30に付着しているニオイが脱臭される。
正負イオンは、互いに接触して相互作用することによって過酸化水素やOHラジカルとなり、臭気物質を分解する。しかし、正負イオンは、壁面30の表面に到達する前に壁面30の周囲の空間で互いに接触すると、そこで相互作用して過酸化水素やOHラジカルになってしまい、壁面30の表面に到達する前に中和失活してしまう。正負イオンが壁面30の表面に到達する前に中和失活してしまうと、壁面30の周囲の空間の脱臭をすることはできても、壁面30に付着しているニオイを脱臭することができない。
上記の正負のイオンが壁面30の表面で相互作用して臭気物質を分解するためには、例えば、壁面30の周囲の空間のイオン濃度を高めることによって、中和失活せずに壁面30の表面に到達する正負のイオンの量を増やすことが考えられる。壁面30の周囲の空間におけるイオン濃度を高めるためには、イオン発生素子630が発生するイオンの量を増やす必要がある。しかしながら、イオン発生素子630によって発生させられる上記の正負のイオンの量には限界がある。
一方、付着臭が除去されるべき壁面30の表面に正負のイオンを供給すれば、イオン発生素子630によって発生させられる上記の正負のイオンの数に限界があっても、壁面30の表面で正負のイオンを相互作用させることができる。壁面30の表面で正負のイオンが相互作用することによって、壁面30の表面で活性物質としての過酸化水素(H2O2)または水酸基ラジカル(・OH)が生成されて、壁面30の表面に付着している臭気物質を分解することができる。
壁611と反射板640が正イオンと負イオンとが壁面30の表面に沿って流通する通路を形成することによって、壁面30の表面に正イオンと負イオンとを供給することができる。壁面30の表面に正イオンと負イオンとを供給するので、正イオンと負イオンは、壁面30の表面において、壁面30に付着している臭気成分と反応する。壁611と反射板640と送風ファン620とを備えて、壁面30の表面に正イオンと負イオンとを供給することによって、壁面30の表面に到達する前に中和失活してしまう正イオンと負イオンを少なくして、イオン濃度を高い濃度に保つことができる。
このようにすることにより、壁面30に付着しているニオイを容易に除去することが可能な付着臭脱臭装置6を提供することができる。
1,2,3,4,5,6:付着臭脱臭装置、110:筐体、111:支持部、112,114:イオン送出管、113:ガイド、120:送風ファン、130,140:イオン発生素子、135:正電極、136:負電極、150:衣類センサー、160:設定入力部、510:カーテンボックス本体、610:照明ボックス本体。