以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本願の発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、大気イオンと呼ばれるプラズマ放電により空気中の酸素及び水蒸気を電離して発生させたこれらの正イオンと負イオンとを、においが付着した衣類等の被処理対象物に照射させて脱臭を行うことができることと、イオン濃度を増加させることにより脱臭効果を飛躍的に向上させることができること、および、非常に小さな密閉空間で衣類を加熱し、その状態で高濃度イオンの照射を行うことにより、被処理対象物の付着臭を短時間でほぼ完全に脱臭を行うことができることを見出した。
このようなイオンを発生させるイオン発生装置は既に実用化されている。このイオン発生装置は、空気中に正イオンであるH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンであるO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)を発生させる。この正イオンと負イオンは、水素イオン(H+)または酸素イオン(O2 −)の周囲に複数の水分子が付随した形態、いわゆる、クラスターイオンの形態をなしている。
従来のイオン発生装置を搭載した空気清浄機や空気調和機は、空間の浮遊粒子または浮遊細菌に対する不活性化や殺菌の効果を高めるために、空間にイオンを放出する。空間にイオンを放出することによって、空気の清浄化、すなわち、菌、ウイルス、アレルゲンの除去をすることができる。
ここで、衣類や布類に付着したにおいに対する上記の正イオンと負イオンの効果について説明する。
正イオンとしてH+(H2O)mと負イオンとしてO2 −(H2O)nのイオンは、化学反応して活性種であるH2O2または・OH(OHラジカル)を生成する。H2O2または・OHは極めて強力な活性を示すため、衣類や布類に付着したにおいを除去することができる。ここで、・OHは活性種の一種であり、ラジカルのOHを示している。H+(H2O)mとO2 −(H2O)nからのH2O2または・OHの生成は以下の化学式で表される。
H+(H2O)m+O2 −(H2O)n
→ ・OH+(1/2)O2+(m+n)H2O …(1)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2 −(H2O)n+O2 −(H2O)n’
→ 2・OH+O2+(m+m’+n+n’)H2O …(2)
H+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2 −(H2O)n+O2 −(H2O)n’
→ H2O2+O2+(m+m’+n+n’)H2O …(3)
しかしながら、従来のイオン発生装置を搭載した空気清浄機では、空気中に放出されるイオンが、浮遊細菌を不活性化したり殺菌したりする効果を有する正イオンと負イオンであっても、脱臭効果は得られていなかった。これは、イオン発生装置が発生させるイオンの寿命が短く、また、イオンが分散される空間サイズが大きい(通常6畳以上)ので、衣類やカーテン等に照射される前に大部分のイオンが失活してしまい、空気清浄機や空気調和機から空気中に放出された正イオンと負イオンのうち、衣類やカーテンなどの表面に到達するイオンの量が少なくなってしまうことが原因である。においの元となる物質は衣類や布類に付着しているので、イオンが臭気成分を分解するのに必要な量で衣類や布類に到達しないと、イオンによる脱臭効果が得られない。
したがって、衣類や布類に付着したにおいの除去効果を高めるためには、イオン濃度が高い状態で、かつ、イオンを衣類や布類に直接照射することが必要である。このようにすることにより、イオンの作用が顕著に表れて、正イオンと負イオンが臭気成分に及ぼす化学的作用により、においを除去することが可能となる。このように、正イオンと負イオンによる、衣類や布類に付着したにおいの除去効果を高めるためには、室内の空気の清浄化を行う場合のようにイオンを空間に放出するよりも、むしろ、衣類や布類に正イオンと負イオンとを吹き付ける方が効果的である。
また、被処理対象物を加熱しながら高濃度のイオンを照射することによって、被処理対象物の付着臭を短時間でほぼ完全に脱臭を行うことができる。
以下に、このような考察に基づいて本願の発明者らが行った検証実験について説明する。
(検証実験)
まず、脱臭効果のイオン濃度依存性を確認するための実験を行なった。
様々なにおいを付着させた試験布について、イオンを照射し、6名のパネラーによる6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。6段階臭気強度表示法は、においの程度を数値化する手法として、においの強さを6段階に分け、0〜5までの数値で表すものであり、悪臭防止法においては規制基準を定めるための基本的基準として用いられている。
表1には、6段階臭気表示法によるにおいの程度の表し方を示す。
検証実験は、次のように行なわれた。まず、ポリエステル布(4cm×4cm)を試験布として、試験布に、臭気強度が3程度になるように、各種のにおいを付着させた。試験布に付着させたにおいは、タバコ臭、化粧臭、餃子臭、アンモニア臭、トリメチルアミン臭、硫化水素臭、イソ吉草酸臭、ノネナール臭であった。
次に、6畳の広さの実験室内において、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)とを含む風を、衣類に照射した。照射されたイオンの濃度は、正イオンと負イオンそれぞれについて5千個/cm3、または、正イオンと負イオンのそれぞれについて500万個/cm3であった。イオンが照射されたのは、5分間であった。
表2には、イオン照射の前と後のそれぞれについて、試験布の臭気強度を示す。
表2に示すように、イオンの濃度が5千個/cm3のときには、イオンを5分間照射しても、付着臭はほとんど除去されていなかった。
一方、イオン濃度を1000倍の500万個/cm3にすると、試験を行ったすべての付着臭について、イオン照射後に臭気強度の低下が認められた。このように、正イオンと負イオンの濃度を高めることによって、5分という短時間でも付着臭の除去効果があることがわかった。また、ポリエステル布以外の他の材質の試験布として、綿、ウール、麻、革で形成された試験布を用いても同様の結果が得られた。
この結果から、衣類等に付着したにおいに対する除去効果を高めるためには、衣類等に照射する正イオンと負イオンの濃度を高めることが有効であることがわかる。
しかしながら、まだ脱臭効果として満足するものでない。これは、試験布の内部に付着する臭気物質にイオンが照射できない、または、到達するイオンの数が少ないためだと思われる。
ここで、発明者らは脱臭効果をさらに高める方法として、イオンの照射とともに加熱を行うことを検討した。
加熱前後の試験布と周囲の気体について、6名のパネラーによる6段階臭気強度表示法による官能評価試験を行なった。
まず、ポリエステル布(4cm×4cm)を試験布として、試験布に、臭気強度が3程度になるように、各種のにおいを付着させた。試験布に付着させたにおいは、タバコ臭、化粧臭、餃子臭、アンモニア臭、トリメチルアミン臭、硫化水素臭、イソ吉草酸臭、ノネナール臭であった。
次に、小サイズ密閉空間(50cm3のSUSチャンバー)内で、試験布に正イオンと負イオンとを含んだ風を照射すると同時に、試験布の加熱を行った。正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)とを含む風を、衣類に照射した。照射されたイオンの濃度は、正イオンと負イオンそれぞれについて500万個/cm3であった。イオンの照射と加熱は、5分間行なわれた。加熱の温度は、60℃であった。また、比較のために、各においを付着させた試験布について、イオンを照射せずに、加熱だけを行った。
イオン照射前後の試験布と密閉空間内のガスについて、それぞれ官能試験(6段階臭気強度表示法)を行った。なお、官能試験は、正イオンと負イオンの照射が終了してから5分間、密閉空間内の状態を保持した後に行った。
表3には、イオンによる付着臭の除去の加熱依存性検証に関する結果を示す。
表3に示すように、付着させたすべてのにおいについて、イオンを照射するとともに加熱した方が、イオンを照射するだけの場合よりも、イオンの照射と加熱後の試験布の臭気強度が低かった。このことから、加熱するとともにイオンを照射することによって、付着臭の除去効果を高められることがわかる。
一方、イオンを照射せずに、加熱のみを行った場合にも、試験布の臭気は、加熱前と比較して低下している。これは、試験布が加熱されることによって、熱により、臭気物質が試験布から脱着したことによると考えられる。しかしながら、イオンを照射しながら加熱した場合と比較すると、臭気強度がかなり高い。
また、密閉空間内のガスについては、イオンを照射しながら加熱も行った場合には、臭気強度は問題の無い低レベルであった。一方、イオンを照射せずに加熱だけを行った場合には、付着させたすべての種類のにおいについて、臭気強度は5であった。
以上の結果から、臭気物質が付着している試験布を加熱することによって、臭気物質は試験布から脱着し、試験布を脱臭することができることがわかった。しかしながら、臭気物質が付着している試験布を加熱すると、試験布から臭気物質が脱着し、周囲の空間に分散して、周囲の空間に臭気物質がばら撒かれることになる。また、臭気物質が付着している試験布の加熱処理を密閉空間で行う場合には、一旦、周囲の空間に分散した臭気物質が、試験布に再付着することがある。そのため、試験布の周囲の空間も脱臭しなければならなくなる。
一方、正イオンと負イオンとを照射しながら試験布を加熱した場合には、イオンの照射と加熱処理の後には、試験布の臭気強度も、密閉空間内の気体の臭気強度も、問題ないレベルであった。
この検証実験においては、試験空間が非常に小さい密閉空間であるために、密閉空間全体が高イオン濃度である500万個/cm3の濃度を維持されている。また、試験布の内部に付着していて、イオンが照射されない、または、イオンが照射されにくい臭気物質も、加熱されることによって試験布から脱着して空間に放出される。このようにして、非常に高い効率で、臭気物質をイオンにより分解できたと考えられる。
以上の検証実験の結果を踏まえて、本発明者らは、アイロンにイオン照射装置を適切に搭載すれば、加熱の効果とイオンの効果で、衣類の付着臭を室内空間に発散させずに効率的に除去することが可能であるという知見を得た。
このような知見に基づいて、以下に本発明の実施形態を説明する。
(第1実施形態)
図1は、この発明の第1実施形態として、アイロンの全体を模式的に示す正面図(A)と、底面図(B)である。
図1に示すように、アイロン1は、本体10と、本体10の一つの面に配置される加熱処理部としてベース200と、ベース200を加熱するヒーター300と、イオン照射部としてイオン照射装置100と、ヒーター300とイオン照射装置100の制御を行う制御装置400と、使用者が本体10を保持するための取手11と、図示しない電源(充電池等)を備える。ヒーター300と、イオン照射装置100と、制御装置400は、本体10の内部に配置されている。取手11は、本体10から突出するように配置されている。イオンの発生に必要な消費電力は非常に小さいので、通常のアイロン掛け時間を想定すると、アイロン1の電源は電池でまかなわれることが可能である。この実施の形態においては、アイロン1は、図中に矢印で示す移動方向Pに移動させられる。
ベース200は板状に形成されている。板状のベース200は、一方の面がヒーター300に接触するようにして本体10に取り付けられている。ベース200の他方の面は、被処理対象物としての衣類2に接触する。ベース200において、衣類2に接触する面が加熱面201である。
イオン照射装置100は、本体10の一方端部に配置されている。イオン照射装置100には、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)との正負イオンをアイロン1の外部に放出するためのイオン放出口112が形成されている。イオン放出口112は、開放されている。
イオン放出口112を形成する外周部111とベース200の加熱面201は、ほぼ同一の平面上に並べて配置されている。アイロン1の移動方向Pに交差する方向において、イオン放出口112の内径Wiは、ベース200の幅Wbよりも大きく形成されている。
アイロン1のベース200とヒーター300とを制御する制御装置400については、従来の電気アイロンと同様の構成であり、衣類2の皺をのばしたり、衣類2に折り目を付けたりする等の一般的なアイロンとしての機能を有するものであればよい。
図2は、イオン照射装置の構成を模式的に示す図である。
図2に示すように、イオン照射装置100は、箱型の筐体110の内部に、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)とを発生させるイオン発生部としてイオン発生素子130と、送風部120とを含む。送風部120としては、例えば、プロペラファンやクロスフローファンといったファンを用いることができる。また、イオン風を発生させるイオン風発生素子を、イオン発生部を兼ねる送風部として用いてもよい。
イオン照射装置100の筐体110には、イオン発生素子130で発生した正負イオンをイオン照射装置100の外部に放出するためのイオン放出口112が形成されている。
イオン発生素子130は、プラズマ放電現象を用いた電気的手法によって正イオンと負イオンとを発生させる。
図3は、アイロンが備えるイオン発生素子の全体を示す斜視図(A)と、イオン発生素子の本体の内部を示す斜視図(B)と、図3の(B)に示すイオン発生素子の内部をC−C線の方向から見たときの断面図(C)である。
図3の(A)に示すように、イオン発生素子130は、扁平な略直方体形に形成されている合成樹脂製の筐体131に収容されている。イオン発生素子130の筐体131には、幅広の一面に略円形の2つの開口132が長手方向に並べて形成されている。イオン発生素子130は、2つの開口132の一方から正イオンを放出し、他方から負イオンを発生させる。また、筐体131の一側面には、イオン発生素子130が動作するための高電圧が供給される金属製の端子部133が設けられている。イオン発生素子130の概略寸法は7cm×2cm×1cm程度の大きさである。
図3の(B)と(C)に示すように、イオン発生素子130は、筐体131内に基板134と、この基板134に設けられた正イオン発生部として正電極135と、負イオン発生部として負電極136及び接地電極137とを備えている。基板134は略矩形の板体であり、絶縁物質で構成されている。正電極135と負電極136は、先端部分が先鋭に尖らせられた丸棒状の電極である。正電極135と負電極136は、基板134に形成された2つの貫通孔134aにそれぞれ通されて、基板134の一面に突出させ、半田または接着剤等を用いて基板134に固定されている。
接地電極137は、基板134より表面積が若干小さい板状の電極であり、基板134に対向するように、基板134から所定間隔を隔てて基板134に固定されている。基板134に対する接地電極137の固定は、接地電極137の四方に延出して設けられた4つの脚部137a(図3の(B)には3つの脚部137aのみ図示している)を略直角に屈曲し、基板134に形成された4つの貫通孔134bに接地電極137の4つの脚部137aをそれぞれ挿通して、半田または接着剤等により脚部137aを固定することで行われる。
接地電極137には、2つの略円形の開口137bが形成されている。接地電極137が基板134に固定された場合、正電極135及び負電極136は接地電極137の開口137bの略中心の位置に固定される。接地電極137の開口137bの縁部137cは、基板134側へ向けて折り曲げられている。正電極135、負電極136及び接地電極137を基板134に固定して筐体131に収容した場合には、筐体131に形成された2つの開口132と、接地電極137に形成された2つの開口137bとが略同心に配されるようにしてある。
イオン発生素子130の接地電極137は接地電位に接続され、正電極135には正極の高電圧が印加され、負電極136には負極の高電圧が印加される。正電極135及び負電極136にそれぞれ高電圧が印加されると、接地電極137の開口137bの縁部137cが強電界になり、接地電極137からプラズマ放電が発生する。プラズマ放電により空気中の酸素及び水蒸気が電離してイオンが発生する。なお、電極の構造及び印加電圧の最適化により、有害物質とされるオゾンの発生を極力抑えるように制御を行っている。このときに最も安定して発生するイオンは、正イオンのH+(H2O)mと負イオンのO2 −(H2O)nとである。発生するイオンの質量分析などを行って解析した結果、これら以外のイオンの発生はほとんど確認されていない。イオン発生素子130の筐体131に形成された2つの開口132のうち、正電極135が設けられた開口132から正イオンH+(H2O)mが放出され、負電極136が設けられた開口132から負イオンO2 −(H2O)nが放出される。
上述の通り、イオン発生素子130で発生したH+(H2O)mとO2 −(H2O)nのイオンは、化学反応して活性種であるH2O2または・OH(OHラジカル)を生成する。H2O2または・OHは、極めて強力な活性を示すため、衣類や布類に付着したにおいを除去することができる。そのため、正イオンと負イオンの両方を発生させて照射させる。
このように、イオン発生素子130を駆動すると、正電極135と負電極136においてイオンが生成される。アイロン1(図1)のイオン照射装置100(図2)は、気流の流れを発生させる送風部120(図2)を備えることによって、効果的に、正イオンと負イオンとをイオン発生素子130から離れた位置にある衣類やカーテンに照射することができる。
図1から図3を用いて、アイロンの動作と脱臭の過程について説明する。
アイロン1が衣類2の上に置かれると、ベース200の加熱面201が衣類2に接触する。
使用者がスイッチを入れるなどしてアイロン1が駆動開始されると、制御装置400は、ヒーター300と、イオン照射装置100のイオン発生素子130と送風部120に制御信号を送信して、これらの部材の駆動を開始させる。
ヒーター300が駆動されると、ベース200が加熱される。ベース200の加熱面201に接触している衣類2は、加熱され、また、ベース200でプレスされて圧力を加えられて、皺をのばされたり、折り目を付けられたりする加熱処理(加熱プレス)をされる。
イオン発生素子130と送風部120が駆動されると、イオン発生素子130で正イオンと負イオンとが発生し、これらのイオンを含む空気がイオン放出口112からイオン照射装置100の外部に送出される。
イオン放出口112は、ベース200において衣類2と接触する加熱面201とほぼ同一の平面内に形成されている。ベース200の加熱面201が衣類2と接触しているときには、イオン発生素子130で発生した正イオンと負イオンは、イオン放出口112から衣類2に向けて放出される。
図4は、第1実施形態のアイロンを用いて、臭気物質が付着している衣類を加熱処理するときの脱臭の過程を模式的に示す図である。
図4の(A)に示すように、衣類2は、アイロン台4の上に載せられている。アイロン1を用いてアイロン掛けをする前には、衣類2の繊維21には、臭気物質3が吸着している。
図4の(B)に示すように、使用者が取手11を保持して、アイロン1を衣類2の上に載せると、加熱面201が衣類2に接触する。加熱面201に接触した衣類2は、加熱される。衣類2が加熱されると、衣類2の繊維21に吸着している臭気物質3は、衣類2から離れやすくなる。しかし、衣類2はアイロン台4とアイロン1のベース200との間に挟まれてプレスされているので、臭気物質3は、衣類2から離れて分散しない。臭気物質3は、繊維21と繊維21との間のわずかな空間に滞留したままで、室内に漏れない。使用者は、アイロン1を移動方向Pの方向に動かす。
図4の(C)に示すように、アイロン1が移動方向Pに動かされて、衣類2において加熱処理されていた部分から加熱面201が離れると、衣類2において加熱処理された部分には、次に、イオン放出口112が対向する。
イオン放出口112は開放された開口部であるので、衣類2の繊維21と繊維21との間のわずかな空間内に滞留していた臭気物質3は、アイロン台4とアイロン1の圧力から解放されて、衣類2の表面近傍に染み出す。
衣類2の表面に染み出した臭気物質3には、衣類2の内部の繊維21に吸着している臭気物質3よりも、イオン放出口112から送出される正イオンと負イオンとが照射されやすい。
また、イオン放出口112の周囲の外周部111が衣類2に接触しているので、衣類2の表面に染み出した臭気物質3は、イオン照射装置100の筐体110の内部と衣類2との間に閉じ込められて、分散しない。そのため、臭気物質3は室内に漏れ出ない。
また、イオン放出口112から放出される正イオンと負イオンも、筐体110の内部と衣類2との間に閉じ込められて、分散せず、濃度が保たれる。このようにして、正イオンと負イオンの濃度を保ったままで、臭気物質3と相互作用させることができる。
図4の(D)に示すように、さらにアイロン1を移動方向Pの方向に移動させることによって、加熱処理された部分にイオンを照射し、衣類2を脱臭していく。
このようにして、臭気物質3が室内に漏れ出ることを防ぎながら、高効率に臭気物質3を正イオンと負イオンとで変質または分解して、脱臭することができる。
アイロン1の使用時のベース200の温度と加熱プレス時間は衣類2の耐熱性に依存するので、衣類2と衣類2に付着している臭気物質3毎に適切な条件で使用する。通常、衣類2に付着する臭気物質3は、人間の体温のような比較的低い温度でも気化し空気中に浮遊することから、臭気物質3を衣類2から脱着させるのに必要な温度は、加熱プレスに必要なアイロン1の使用温度より充分に低いと考えられる。
第1実施形態においては、イオン照射装置100のイオン放出口112の内径Wiは、ベース200の幅Wbよりも大きくするほうが好ましい。イオン照射装置100のイオン放出口112の内径Wiが、ベース200の幅Wbより狭い場合には、ベース200により加熱されて衣類2から脱着した臭気物質3が、正イオンと負イオンによって分解されずに室内に発散されることがあるためである。
また、アイロン1の移動方向Pは、衣類2の特定の部分に、まずベース200の加熱面201が接触し、次にイオン照射装置100のイオン放出口112が対向するようにスライドする方向であることが好ましい。イオン放出口112から放出される正イオンと負イオンは、イオン発生素子130から遠ざかるにつれて失活していくので、衣類2の内部まで正イオンと負イオンとが到達しないことがある。正イオンと負イオンとが衣類2の内部まで到達しない場合には、衣類2の特定の部分に、先にイオン放出口112が対向し、次にベース200の加熱面201が接触するようにアイロン1がスライドされると、ベース200により加熱されて衣類2から脱着した臭気物質3が、正イオンと負イオンによって分解されずに室内に発散されることがあるためである。
このように、アイロン1では、周囲の人間に不快な思いをさせる衣類2に付着したにおい、すなわち、タバコ臭、汗臭、加齢臭、化粧臭、食べ物臭等を、室内に漏らすことなく短時間で効果的に除去することができる。
また、アイロン1は、スチームを発生させることが可能な蒸気発生装置を備えるスチームアイロンであってもよい。この場合には、発生されたスチームによって、正イオンと負イオンによる脱臭効果が著しく増大すると考えられる。すなわち、正イオンと負イオンの照射と加熱と湿度とを付与することによって、脱臭と消臭効果を発揮するための基本的な反応が促進されると考えられる。
このことから、クリーニング業界等における大規模な洗浄、乾燥、仕上げの工程においても同様に効果が出ることが容易に想定される。また、衣類に吸着した臭気物質を加熱によって脱着し、衣類から離脱した臭気物質をさらに正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)によって分解することが可能であることを明らかにしたので、同様の発想によっていわゆる「洗浄」によらない脱臭が可能である。
以上のように、アイロン1は、衣類2に接触して衣類2を加熱処理するための加熱面201を有するベース200と、衣類2においてベース200によって加熱処理された部分に、正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)との正負イオンを照射するためのイオン照射装置100とを備える。
正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)は、相互作用して水酸基ラジカル(・OH)を生成する。水酸基ラジカル(・OH)は、においを発生させる臭気物質3のC−C結合、C=C結合及びC=O結合や硫化物のH−S結合等に作用して、臭気物質3を分解する。
そこで、衣類2に正イオンとしてH+(H2O)m(mは任意の自然数)と負イオンとしてO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)とを照射することによって、衣類2に付着している臭気物質3を変質または分解して、脱臭することができる。
また、ベース200の加熱面201が衣類2に接触して、衣類2のアイロン掛け(熱プレス)が行なわれることによって、衣類2に付着している臭気物質3が衣類2から脱着して衣類2の表面に染み出してくる。
このように、衣類2が加熱処理されて臭気物質3が表面に染み出してきたところに、イオン照射装置100によって衣類2に照射される正負イオンを照射することによって、正イオンと負イオンと臭気物質3との反応確率を高めて、衣類2を効率よく脱臭することができる。
また、このように、イオン照射装置100から正負イオンを衣類2に照射して、臭気物質3を分解して脱臭するので、従来の脱臭シートや防臭シートのように、臭気物質3や分解された臭気物質3を吸着して次第に脱臭効果が低下することがない。
このようにすることにより、長期的に脱臭効果を得ることができて、効果的に衣類2を脱臭することが可能なアイロン1を提供することができる。
また、アイロン1においては、イオン照射装置100は、正負イオンを発生させるためのイオン発生素子130と、イオン発生素子130において発生した正負イオンを衣類2においてベース200によって加熱処理された部分に放出するためのイオン放出口112とを含む。
このようにすることにより、正負イオンをより効果的に、衣類2においてベース200によって加熱処理された部分に放出することができる。
この発明に従ったアイロン1においては、イオン照射装置100は、イオン発生素子130で発生した正負イオンをイオン発生素子130からイオン放出口112に送出するための送風部120を含む。
正負イオンの濃度は、正負イオンが発生するイオン発生素子130の近傍において最も高い。イオン発生素子130の近傍においては、正負イオンの濃度が高いので、正負イオンは互いに衝突しやすい。正負イオンが衣類2に到達する前に互いに衝突すると、中和して失活してしまうことがある。そこで、送風部120が正負イオンをイオン発生素子130からイオン放出口112に送出することによって、イオン発生素子130で発生した正イオンと負イオンとが失活してしまう前に、気流とともに、衣類2に到達させることができる。
また、アイロン1においては、イオン放出口112は、加熱面201とほぼ同一の平面内に配置され、かつ、加熱面201の少なくとも一部に連接するように配置されている。
イオン放出口112が加熱面201とほぼ同一の平面内に配置されていることによって、加熱面201が衣類2に接触すると、イオン放出口112も衣類2に接触する。イオン放出口112が衣類2に接触することによって、イオンを確実に衣類2に照射することができる。
また、イオン放出口112が加熱面201の少なくとも一部に連接するように配置されているので、加熱面201で加熱された衣類2には、加熱直後にイオン放出口112からイオンが照射される。
このようにすることにより、加熱面201に接触した衣類2から脱着した臭気物質3は、衣類2から離れて分散する前に、正イオンと負イオンとの相互作用によって分解され、脱臭されやすくなる。
また、アイロン1においては、加熱面201とイオン放出口112とが第1の方向に隣接して配置されており、第1の方向に交差する第2の方向に沿ったイオン放出口112の内径Wiは、第2の方向に沿った加熱面201の幅Wbよりも大きい。
このようにすることにより、例えば、アイロン1の移動方向に対して、加熱面201が前方側に、イオン放出口112が後方側になるようにしながら、アイロン1を第1の方向に沿って移動させると、加熱面201が接触した部分には、確実にイオン放出口112が対向する。
このようにすることにより、加熱面201に接触して加熱処理された衣類2にイオン放出口112から放出される正負イオンが照射されやすくなる。
(第2実施形態)
図5は、この発明の第2実施形態として、アイロンの全体を模式的に示す正面図である。
図5に示すように、第2実施形態のアイロン1bは、第1実施形態のアイロン1と異なる点としては、着脱式イオン照射装置100bは、着脱式イオン照射装置100bがアイロン1bの本体10に着脱可能に構成されている。
図6は、第2実施形態のアイロンが備えるイオン照射装置の構成を模式的に示す図である。
図6に示すように、着脱式イオン照射装置100bは、第1実施形態のアイロン1が備えるイオン照射装置100と異なる点としては、着脱手段140を有する。
着脱手段140は、着脱式イオン照射装置100bがベース200の外周後方部に隣接し、かつ、着脱式イオン照射装置100bのイオン放出口112がベース200の加熱面201と同一の高さになるように装着できるよう補助する機能を有する。例えば、磁気を利用するマグネット式、大気圧を利用する吸着盤式、機械的な締結を利用するバンド式、金具式等が有効である。イオン発生素子130の利用を前提として、アイロン1bに電源兼用装着用ソケットを設ける場合は、より確かな装着が可能になる。
以上のように、アイロン1bにおいては、着脱式イオン照射装置100bは、アイロン1bに対して着脱可能である。
このようにすることにより、着脱式イオン照射装置100bをアイロン1bから取り外して、従来のアイロン1bとして用いることができる。また、着脱式イオン照射装置100bの手入れが簡単になる。
第2実施形態のアイロン1bのその他の構成と効果は、第1実施形態のアイロン1と同様である。
1,1b:アイロン、100:イオン照射装置、2:衣類、100b:着脱式イオン照射装置、112:イオン放出口、120:送風部、130:イオン発生素子、200:ベース、201:加熱面。