以下、添付図面を参照して、本発明に係る超音波診断装置について詳細に説明する。
本発明は、超音波画像を取得する際の超音波の音速を変化させた時の位相変化特性を利用して微小構造物、連続面・線、スペックルを判定し、表示画像において、微小構造物や境界を強調し、スペックルを低減するものである。
なお、超音波の音速を所定量ずつステップ刻みで複数変化させて超音波画像を取得するに当たり、最適な超音波音速(最適音速)に対して、複数変化させる超音波音速を以下の実施形態では、仮定音速と呼ぶことにする。
そして、本発明は、この仮定音速を変化させた場合の微小構造物信号、連続面・線信号及びスペックル信号の振幅・位相変化特性が異なることを用いてこれらの微小構造物、連続面・線、スペックルを判定するものである。
具体的にその振幅・位相変化特性とは、後で詳しく説明するが、簡単に言うと、以下のようなものである。
まず、微小構造物の場合、仮定音速が最適音速(実音速)より小さい(遅い)場合にはスキャン方向(超音波プローブの振動子の配列方向)に位相は上に凸(凸型)に変化し、その傾きは仮定音速が最適音速に近い程急峻となり、また、仮定音速が最適音速より大きい(速い)場合にはスキャン方向に位相は下に凸(凹型)に変化し、その傾きは最適音速に近い程急峻となる。また、振幅については、仮定音速が最適音速に近い程大きく、また形状は急峻となる。
連続面・線の場合、仮定音速に依らず位相は一様であり、振幅は最適音速に近い程大きくなる。
スペックルの場合、仮定音速に依って振幅も位相もランダムに変化する。
以下の実施形態では、これらの事実に基づいて微小構造物、連続面・線、スペックルの判定を行う。
図1は、本発明に係る超音波診断装置の一実施形態の概略構成を示すシステム構成図である。
図1に示すように、超音波診断装置1は、超音波を用いて被検者の診断部位について超音波画像を撮影して表示するものであり、超音波プローブ10、送受信部12、走査制御部14、AD変換部16、画像生成部18、形状・性状判定画像生成部20、表示画像生成部22、モニタ24及びモード切替手段26を有して構成されている。
超音波プローブ10は、被検者の体内の診断部位に向けて超音波を送信するとともに体内で反射してきた超音波を受信するものである。本実施形態の超音波プローブ10は、1次元の超音波トランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサを備えており、各超音波トランスデューサは、例えばPZT等の圧電素子の両端に電極を形成した振動子によって構成されている。この電極は信号線によって送受信部12と接続されている。各電極に電圧を印加すると振動子は超音波を発生する。また、振動子は反射してきた超音波を受信すると電気信号を発生し、これが受信信号として出力される。
送受信部12は、超音波プローブ10に超音波送信信号を与え振動子から超音波を発生させ、走査制御部14から与えられた遅延に基づいて送波する。そして、反射した超音波を受信して超音波プローブ10が出力した各素子の受信信号をそのまま(受波フォーカスをかけず)増幅する。
AD変換部16は、送受信部12から超音波受信信号を受け取りAD変換して画像生成部18に引き渡す。画像生成部18はAD変換部16から受け取った受信データを保存する。画像生成部18では、保存された各素子の受信データから、詳しくは後述するが、様々に設定される音速(これを上述したように被検者に送波する実際の音速(実音速)に対して仮定音速という。)に基づく遅延で受波フォーカスされ、各仮定音速に基づくRFデータが生成される。
形状・性状判定画像生成部20は、いろいろな音速(仮定音速)で生成された画像(RFデータ)から微小構造物、スペックル、境界を判定するための画像を生成するものである。
また、表示画像生成部22は、画像生成部18で生成された画像と、形状・性状判定画像生成部20で生成された判定画像による判定結果からモニタ24に表示するための表示画像を生成するものである。モード切替手段26は、モニタ24への画像の表示モードを切り替えるものである。
本実施形態は、受信データから画像を再構築する際、実際の音速に対する仮定音速を様々に変化させた時の位相変化特性を利用して微小構造物、連続面・線、スペックルを判定するものであるが、上記超音波診断装置1の作用を説明する前に、仮定音速を変化させた時の位相変化特性について説明する。
図2〜9に、仮定音速を変化させた時の位相変化特性を表したグラフを示す。
各グラフは、それぞれ仮定音速を大体1400[m/s]から1620[m/s]まで40[m/s]あるいは20[m/s]刻みで変化させたときの位相変化特性を、横軸をスキャン方向(X位置)、縦軸を位相として表示したものである。
図2は、仮定音速1400[m/s]〜1500[m/s]における微小構造物信号の仮定音速に依る位相変化特性を示すグラフであり、図3は、仮定音速1500[m/s]〜1620[m/s]における微小構造物信号の仮定音速に依る位相変化特性を示すグラフである。
仮定音速1400[m/s]〜1500[m/s]の図2の場合には、X位置100〜120付近において、仮定音速1500[m/s]のグラフは正の傾きを有し、その他の、仮定音速が1500[m/s]より小の(すなわち仮定音速がより遅い)グラフはいずれも右下がりで、仮定音速が1500[m/s]に近い程その傾きが急峻であり、仮定音速が1500[m/s]より遅くなるにつれて傾きが緩やかになっている。
また、仮定音速1500[m/s]〜1620[m/s]の図3の場合には、X位置100〜120付近において、いずれも右上がりのグラフとなっている。そして、仮定音速が1500[m/s]のときが最も傾きが大きく、仮定音速が1500[m/s]より大きくなる程傾きが緩やかになっている。
図2及び図3のこのようなグラフの形状は、X位置100〜120付近に微小構造物が存在していることを示すものであると考えられる。
図4は、仮定音速1400[m/s]〜1480[m/s]における面信号の仮定音速に依る位相変化特性を示すグラフであり、図5は、仮定音速1540[m/s]〜1620[m/s]における面信号の仮定音速に依る位相変化特性を示すグラフである。
図4及び図5からわかるように、いずれもX位置100〜130及び150〜180付近において、仮定音速を変えても位相があまり変化していない。これはその部分に面(連続面)が存在することを示すものであると考えられる。
図6は、仮定音速1400[m/s]〜1480[m/s]におけるスペックルの仮定音速に依る位相変化特性を示すグラフであり、図7は、仮定音速1540[m/s]〜1620[m/s]におけるスペックルの仮定音速に依る位相変化特性を示すグラフである。図6及び図7に示すように、スペックルの場合は仮定音速を変えると位相はランダムに変化する。
また、図8は、仮定音速1400[m/s]〜1500[m/s]における微小構造物の仮定音速に依る振幅変化特性を示すグラフであり、図9は、仮定音速1500[m/s]〜1620[m/s]における微小構造物信号の仮定音速に依る振幅変化特性を示すグラフである。
図8及び図9からわかるように、微小構造物の振幅の変化を示すグラフは、いずれもX位置110付近に頂上(最大値)を有する山型(上に凸)のグラフで、仮定音速1500[m/s]のとき振幅値が最大で、仮定音速が1500[m/s]に近づく程最大振幅値が大きくなるとともに、形状も急峻となっている。
次に、仮定音速を変化させたときの微小構造物の位相変化が図2、図3にグラフで示したような特性を有する理由を説明する。
図10において、点A(0,z0 )から音速V0で反射した超音波を、超音波プローブ10における位置Xの素子(振動子)で、反射後の時刻tにおいて観測したとする。すると、この時刻tは次の(1)式のように算出される。
t=sqrt(z0 2 +X2)/V0 ・・・(1)
なお、式(1)においてsqrt( )は( )内の値の平方根をとることを意味する。
また、図10において、点A’(x,z)から音速Vで反射した超音波を、同じく超音波プローブ10における位置Xの素子(振動子)で、反射後の時刻tにおいて観測したとする。上と同様にこの時刻tは、次の式(2)で表される。
t=sqrt{z2 +(X−x)2}/V ・・・(2)
それぞれ式(1)と式(2)で与えられる曲線が(X,t)平面において接するときの点A’の軌跡は次の式(3)で与えられる。
z2=x2×{V2/(V0 2−V2)}+z0 2V2/V0 2 ・・・(3)
点A’は、最適音速(実音速)に対して仮定音速Vとして位相を整合して加算した場合に信号が強くなる位置を示している。
式(3)より点A’(x,z)の軌跡は、V>V0のときは、原点を中心とした楕円となり、V<V0のときは、原点を中心とした双曲線となる。なお、Bモード画像においてはz軸の下方向を上としているので、V>V0の場合の原点を中心とした楕円の軌跡を凹型、V<V0の場合の原点を中心とした双曲線の軌跡を凸型とする。
なお、図11に、式(1)と式(2)で与えられる曲線が(X,t)平面において接している様子を示す。図11(a)はV<V0の場合であり、実線Jは点Aからの反射波を、破線H1は図10のようにz軸より右側にある場合の点A’からの反射波を表している。また、破線H2は図示は省略するが、図10のz軸より左側にある点からの反射波を表している。いまV<V0の場合であるので、同じXの位置に対しては点A’からの反射波の方が時刻tが大きいため、破線H1(H2)が実線Jより上側に表れている。
また、図11(b)は、V=V0の場合であり、図11(c)はV>V0の場合である。VがV0に近づく場合には破線Hは実線Jに近づき、V=V0の場合には、破線Hは実線Jと一致する。図11(c)の場合は、図11(a)とは逆で破線が実線よりも下側に表れる。
これらの図から、上記破線が上記実線に接するような点A’(x,z)の軌跡は上で述べたような傾向を有することが直感的に理解できる。
なお、ここで説明したモデルにおいては、観測された反射波を単純に線としたが、実際にはt方向に幅を持った波形である事や、X方向に強度差がある事なども考慮する必要がある。また、本モデルでは簡単のために、点Aと点A’からの反射を同時としたが、実際には、それぞれの点に超音波を送波してから反射する迄の時間も考慮する必要がある。
次に、図1の装置構成における画像生成部18の作用を図12のフローチャートに沿って説明する。
画像生成部18は、仮定音速を変化させていろいろな音速で得られたデータから画像を生成するものである。
まず図12のステップS100において、いろいろ変化させる仮定音速の初期値を設定する。この値は特に限定されるものではなく、適宜決めればよい。例えば、前述した図2等の例のように、1400[m/s]のように決めればよい。
そして設定された初期値により、走査制御部14によって制御された送受信部12から超音波プローブ10に信号が送られ、その仮定音速初期値によるデータが取得され画像生成部18に送られる。
次にステップS110において、仮定音速を所定量1ステップ変更し、変更された仮定音速による超音波データが取得される。この1ステップの所定量は、特に限定されず、例えば図2等の例のように40[m/s]でもよいし、10[m/s]でも、20[m/s]でもよく、所定量だけ仮定音速を変化させていく。
次にステップS120において、得られた各仮定音速によるデータを位相を整合して加算し、RF(Radio Frequency)データを生成する。このRFデータは、振幅情報と位相情報の両方を含むものである。このようにすべての仮定音速での画像でRFデータを作成する。
そしてステップS130において、画像生成が終了したか否か判断し、まだ終了していない場合にはステップS110に戻り、また仮定音速を1ステップ変更し画像生成を続行する。画像生成の終了は、すべての仮定音速についての処理が終了したか否かで判断する。それは例えば、仮定音速を何ステップ変更したら終了するかを予め決めておき、その回数をカウントして判断するようにすればよい。
次に、形状・性状判定画像生成部20の作用を説明する。
図13は、形状・性状判定画像生成部20における微小構造物の判定のための判定画像を生成する処理を示すフローチャートである。
まず図13のステップS200において、最適音速の値を設定する。この最適音速値の設定方法は、特に限定されるものではなく、例えば、画像生成部18で得られた画像のコントラストやシャープネス、空間周波数から判定する周知の方法(例えば、特開平8−317926号公報参照)でもよいし、ユーザが指定するようにしてもよい。
次にステップS210において、仮定音速の初期値を設定する。ただ、これはすでに画像生成部18における処理で得られているデータを用いればよい。次にステップS220において判定画像の各画素の値を0として初期化する。次にステップS230において仮定音速を1ステップ変更し、その音速でのデータを取得するが、これも画像生成部18における処理で得られているデータを使用すればよい。
次にステップS240において、その仮定音速でのデータから位相スキャン方向の2次微分値を算出する。スキャン方向とは、超音波プローブ10の振動子(素子)の配列方向と一致している。
次に、ステップS250において、所定サイズのカーネルで上記2次微分値を積分し、積分値を算出する。カーネルのサイズは、特に限定はされず、解像度に応じて、9×4や16×8等のものが用いられる。
そして、ステップS260において、仮定音速と最適音速を比較し、仮定音速の方が最適音速より大きい場合には、ステップS280に進み、その積分値をそのまま判定画像に加算する。また、ステップS260において、仮定音速の方が最適音速より小さい場合には、次のステップS270において積分値の符号を反転してから、ステップS280において反転した積分値を判定画像に加算する。
そして、ステップS290において、すべての仮定音速についての処理が終了して判定画像の生成が終了したか否か判断し、まだ終了していない場合には、ステップS230に戻り次の仮定音速についてのデータの処理を行う。
このようにして、全ての仮定音速について2次微分値を積分した値を当初0に初期設定されていた判定画像に足し合わせて行くことにより判定画像が作成される。微小構造物の場合は、仮定音速が最適音速よりも速いときは2次微分値は正となり、仮定音速が最適音速よりも遅いときは2次微分値は負となるので、各仮定音速による2次微分値を所定のカーネルで積分すると微小構造物のところだけ信号が強くでる。従って、これらを加算して生成された判定画像は微小構造物のところだけ信号が強く出た画像となっており、これにより微小構造物であることが判定される。
図2〜9に示されるように、カーネル内でのスキャン方向位相2次微分値がスペックルの場合はランダムであり、連続面の場合は0、微小構造物の場合は、仮定音速が最適音速より大ならば正、仮定音速が最適音速より小ならば負の値を持つため、積分することにより微小構造物のみ値が大きくなる。
なお、上述した例では、仮定音速は複数いろいろに変化させたが、一種類のみの仮定音速の利用でもよい。
また、上の例では、仮定音速が最適音速より小の(遅い)場合、負の値となるので、符号を反転させていたが、符号を反転せずに、すなわち最適音速と仮定音速とを比較せずに、絶対値をとるようにしてもよい。
また、最適音速を設定せずに、所定値以上遅い、又は所定値以上速い仮定音速を利用するようにしてもよい。
さらに、最適音速付近では特徴的な位相変化を示す領域が小さくなり、仮定音速が最適音速より速いか遅いかの判断も不正確となる場合もある。そこで、最適音速を明示的に設定せずに、単に所定以上遅い仮定音速、または所定以上速い仮定音速のみを利用するようにしてもよい。また、上述したように最適音速付近では特徴的な位相変化を示す領域が小さくなるので、最適音速に近い程、積分に用いるカーネルのサイズを小さくするようにしてもよい。
上記図13に示したフローチャートにおいては、仮定音速が最適音速より速い場合には2次微分値が正で、スキャン方向の位相変化が凹型となり、仮定音速が最適音速より遅い場合には2次微分値が負で、スキャン方向の位相変化が凸型となることを考慮して、2次微分値が負の場合にはその符号を反転していたが、仮定音速が変化した場合の位相変化特性をより活用するために、例えば以下のような方法で得られる値を判定画像に加算するようにしてもよい。
図14に、微小構造物の判定において2次微分値の差分値を足し合わせる方法を示す。
図14において、上段は、仮定音速(1)、仮定音速(2−1)及び(2−2)のいずれも最適音速より速い場合であり、下段は、仮定音速(1)、仮定音速(2−1)及び(2−2)のいずれも最適音速より遅い場合である。
また特に図14の上段が示すように、仮定音速が最適音速より速い場合には、その音速が仮定音速(1)、(2−1)、(2−2)の順に遅くなるほど、スキャン方向の位相変化の形状は下に凸で急峻となり、その1次微分値のグラフの傾きも右上がりで急峻となり、その2次微分値の数値も正でより大きくなる。
また図14の下段が示すように、仮定音速が最適音速より遅い場合には、その音速が仮定音速(1)、(2−1)、(2−2)の順に速くなるほど、スキャン方向の位相変化の形状は上に凸で急峻となり、その1次微分値のグラフの傾きも右下がりで急峻となり、その2次微分値の数値も負でより小さく(絶対値が大きく)なる。
そして、ある仮定音速(1)が最適音速より速い場合、仮定音速(1)より遅く最適音速より速い仮定音速(2)(図14の仮定音速(2−1)あるいは(2−2))での位相スキャン方向2次微分値から仮定音速(1)の値を引いた値は正となる(図14の一番右側の図参照)。そこで、上記条件を満たす全ての仮定音速(2)について、仮定音速(1)との差分値を算出する。次に、それぞれの仮定音速(2)の差分値につき、所定サイズのカーネルでの積分値を算出する。
仮定音速(1)が最適音速より遅い場合は、仮定音速(1)より速く最適音速より遅いすべての仮定音速(2)での2次微分値を仮定音速(1)の値から引いた値をカーネルで積分する。
このようないろいろな仮定音速での2次微分値の差分値は、スペックルの場合にはランダムになり、連続面の場合は0となるため、微小構造物の場合のみ大きくなり、上記のように得られる判定画像から高SNの画像が得られることとなる。ここで最適音速付近では、位相凹凸変化のスキャン方向幅が小さくなるため、利用しなくても良いし、幅を限定して利用してもよい。
差分値は全て正の値になるので、その分SNが良くなる。また、絶対値を加算した上でさらに差分値を足していくことで検出能が向上する。これは、絶対値を加算するのは、位相変化特性が上に凸か、下に凸かという特性を考慮しているのに対して、差分値を足していくことは、それぞれ凸になっている中でも仮定音速が異なるとその凸形状乃至傾きが異なるという形状の情報が含まれることになるからである。
スペックルの場合の2次微分値はランダムであるが大きな値を取り得て、微小構造物の場合の2次微分値は傾向を持つ分、小さな値となる。このことから、スペックルの積分値が大きくなり得ることがわかる。そこで、符号のみの積分値としても良い。
上に示した例では、微小構造物に特徴的なスキャン方向位相凹凸変化及び仮定音速を変化させた時の位相変化を判定する方法としてスキャン方向2次微分値が連続的に正負の値をとることを利用したが、この他に、2次微分値の分散や傾き等、一様性を数値化する方法も可能である。
また、予め最適音速と仮定音速のずれに応じた凹凸形状フィルタを用意しておき、位相又は波形画像に対して相互相関をとって抽出する方法でもよい。
また、図8、図9に示すような振幅変化特性も合わせて利用することで、より高SNの画像を得ることができる。最適音速に近づくほど、凸形状が急峻になる振幅変化特性の利用方法として、位相と同様の方法を用いることができる。すなわち、ある仮定音速(1)が最適音速より速い場合、仮定音速(1)より遅く最適音速以上の仮定音速(2)での振幅スキャン方向2次微分値を仮定音速(1)から引いた値は正となるので、本条件を満たす全ての仮定音速(2)について仮定音速(1)との差分値を算出し、所定サイズのカーネルで積分値を算出する。仮定音速(1)が最適音速より遅い場合は、仮定音速(1)より速く最適音速以下のすべての仮定音速(2)での2次微分値を仮定音速(1)の値から引いた値をカーネルで積分する。
スペックルの仮定音速に依る振幅変化はランダムであり、また連続面の場合には凸形状とはならないため、微小構造物のみ値が大きくなり、加算された判定画像は、より高SNとなる。
振幅値が大きくなる特性の利用方法として、各仮定音速の振幅の差をとり、積分する方法が挙げられる。位相利用の場合と同様に、符号のみ積分するようにしても良い。
また、各仮定音速の振幅やスキャン方向2次微分値の比や差が閾値以上の場合や、各仮定音速の所定サイズのカーネル内で振幅が閾値以上の面積の比や差が閾値以上の場合に、微小構造物と判定しても良い。
図15に、振幅画像と上で得た判定画像において微小構造物とスペックル標準偏差との比をSN比として比較した結果の例を示す。
図15において、横軸が超音波プローブの振動子配列方向である素子方向(スキャン方向)の画素数を表し、縦軸がSN比を表している。横軸の画素数が多いほどその横方向の分解能が高い。図15において、D1、D2は判定画像、A1、A2は振幅画像である。
振幅画像の場合、スキャン方向の分解能に依らず一定のSN比を示しているのに対し、判定画像はスキャン方向の分解能を増すほど、SN比が高くなり振幅画像の1.5倍程度になることがわかる。これは、例えば形状・性状判定画像生成部20においてスキャン方向に位相情報の分解能が素子間隔以上のデータを利用するように、スキャン方向に高分解能な位相情報を利用することで、微小構造物に特徴的な位相凹凸変化とスペックルのランダムな位相変化とをより正確に区別でき、振幅値より高いSN比が得られることを示している。
また、前述した例においては、単一フレームから判定画像を生成していたが、複数フレームを利用するようにしてもよい。
図16に、複数フレーム平均後の振幅画像と判定画像のSN比を比較したものを示す。
図16において、Dは判定画像、Aは振幅画像である。図16は、使用フレーム数±16枚(計32枚)での平均後のSN比を、フレーム間隔を変えるために間引いて走査した結果であり、横軸のフレーム間隔が広いほど間引き数が大きいことを示している。
図16のグラフよりフレーム間隔が広いと判定画像と振幅画像のSN比は同程度だが、狭いと差が大きくなり、1.3倍程度になることがわかる。つまり、微小構造物信号に対するスペックルの変化が振幅変化よりも大きいという特性があり、この特性から高いフレームレートの複数フレームを利用することで、振幅画像より高SNな判定画像が得られることを示している。
最近のソフトウエアベースの超音波装置は受信信号をデジタルデータとして持ち、例えば形状・性状判定画像生成部20において、同じ送信(1回の送信)から得られた受信データを利用して、種々の仮定音速で画像生成することが可能となってきている。また、アナログベースでも高性能な回路構成により同様のことが可能となってきている。
本実施形態における装置構成は、次の2点の理由から有用である。まず1点目は、種々の仮定音速でのRFデータをフレーム間ずれ無しに得られるため、特に微小構造物信号のグラフ(図2、3参照)に示される微妙な特徴の利用に悪影響を及ぼすことがないこと。また2点目は、上述した高フレームレートな条件下での複数フレーム利用が可能となることである。
複数フレーム利用方法として、単に複数フレームの判定画像の平均をとったり、複数フレームでの同位置カーネルでの積分値を判定画像に加算する方法以外に、積分値の複数フレームでの分散や変化の幅、傾きなど微小構造物信号とスペックルの変化の違いを評価するための種々の方法が考えられる。
ここでは、微小構造物の位相変化特性をスキャン方向の凹凸変化で表現しているが、同じ位置における仮定音速に依る位相変化としても表現でき、判定方法もどちらの特性を利用してもよい。
図17は、形状・性状判定画像生成部20におけるスペックルの判定のための判定画像を生成する処理を示すフローチャートである。
まずステップS300において、仮定音速の初期値を設定し、次のステップS310で判定画像を初期化する。次のステップS320において、仮定音速を1ステップ変更する。この辺は図13の最初のステップと同じである。
次にステップS330において、同一画素における1ステップ前の仮定音速の位相との差分の絶対値を算出する。
そして、ステップS340において、算出した値を判定画像に加算して行く。この操作を全ての仮定音速について行い、ステップS350で、判定画像生成が終了したと判断されたら処理を終了する。
これは、同一画素において隣り合う仮定音速の同一ピクセルにおける位相との差分値をとり、その絶対値を足し合わせて行くと、位相変化が小さい程それが小さくなるが、スペックルの場合には、それが各仮定音速間で同一ピクセル間で位相がランダムに変化するので、絶対値全部足し合わせると大きな値になってしまうので、それでスペックルを判定することができる。また、連続的な面の場合には、それがずっと一様に同じ値で続いているため、その差分をとると小さな値となる。
図2、3及び図4、5と図6、7とを比較するとわかる様に、微小構造物や連続面信号に比べ、スペックルの仮定音速を変化させた時の位相変化はランダムで大きい。従って、図17のフローチャートによる処理で得られる判定画像には微小構造物の中心や連続面は値が小さく、スペックルは値が大きく描出される。そこで、図13のフローチャートによる処理で得られる判定画像との差分をとれば連続面のみを抽出することができる。これにより、連続面を判定することができる。
また、位相の代わりにスキャン方向微分値としても同様の結果を得ることができる。
また、差分絶対値に限らず、分散や最大値と最小値の差、傾きなど一様性を評価可能な量であればいずれでもよい。
また、微小構造物判定の場合と同様に、微小構造物中心の信号や連続面信号に対するスペックルの仮定音速に依る位相一様性の変化は、振幅変化よりも大きい特性があり、高フ
レームレートな複数フレームを利用することにより、本特性を活かして振幅画像より高SNの判定画像を得ることができる。
図18は、表示画像生成部22における処理内容を示すフローチャートである。
まず、図18のステップS400において、最適音速における振幅画像を取得する。すなわち、画像生成部18で生成された複数の仮定音速でのRFデータを取得して、そこから振幅画像を生成する。RFデータから表示画像を生成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば各RFデータに対して一般的な包絡線検波を用いてもよいし、RFデータが振幅情報と位相情報とに分かれていたら、その振幅をとればよいし、あるいはRFデータがIQの形に分けられていたら、Iの二乗とQの二乗との和の平方根をとればよいし、そのデータ形式に応じた方法を用いればよい。
次に、ステップS410において、形状・性状判定画像生成部20から微小構造物、連続面、スペックルの判定画像を取得する。そして、次のステップS420において、判定画像に基づいて振幅画像の微小構造物、連続面を強調したり、スペックルを抑制したりする。
次に、ステップS430において、その結果を対数圧縮し、ゲイン/DR(ダイナミックレンジ)/STC(深さ重み付け)/グレーマップ調整し、さらにスキャンコンバートして表示画像を生成する。
なお、表示画像の表示モードは、このように振幅画像と判定画像を並べて表示するモードやその他の表示モードがあり、モード切替手段26によって切り替えられる。
モード切替手段26は、表示画像を、判定結果が反映された画像と、振幅画像とを色を変えて重ねて表示してもよいし、あるいはこれらを並べて表示したり、さらには単独で表示したり、または複数表示したりしてもよい。また、モード切替手段26は、判定結果によって振幅画像の輝度、色を変調して、単独でまたは複数を表示するようにしてもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、振幅が同程度で、また形状が似通っている場合、従来技術では区別しきれない微小構造物や連続面及びスペックルを区別することができ、その結果、従来技術よりも高SNに微小構造物抽出、組織境界や針などの抽出及びスペックルの低減を行うことができる。
以上説明した実施形態においては、超音波プローブの振動子の配列が1次元の場合について説明したが、もちろん本発明は2次元の場合にも適用可能である。2次元の場合、位相整合加算が振動子の2次元的な位置に基づいて行われるため、仮定音速に依って、微小構造物信号は傾きが変化する2次元の位相凹凸曲面を示し、連続面信号は2次元的に一様な位相の曲面を示し、連続線信号は線に沿う方向には一様な位相、線と直交する方向には位相凹凸変化を示し、さらにスペックルは2次元的にランダムな位相変化を示す。例えば、2次元のスキャン方向それぞれの位相2次微分値を積分する事によって1次元の場合より、SN良く微小構造物を抽出する事ができる。
また、上述した実施形態では、超音波の送受信周波数が1種類のRFデータを利用する場合のみを挙げたが、基本波と高調波など、複数の異なる周波数のRFデータを利用する場合も本発明に含まれる。例えば、微小構造物信号は周波数が異なっても同様なスキャン方向の位相凹凸変化を示すが、スペックルは干渉の結果のため、周波数が異なるとスキャン方向の位相変化の仕方が異なるため、周波数が異なる判定画像を足し合わせることにより高SNの画像を得ることができる。
また上で説明した実施形態では、超音波画像を取得する際の超音波の音速を変化させた時の位相変化特性を利用して微小構造物、連続面・線、スペックルを判定するようにしていたが、さらに、スキャン方向(超音波プローブの振動子の配列方向)の位相変化のフレーム方向の変化を用いることにより微小構造物の形状を判定することができる。この微小構造物の形状を判定する例について、以下説明することとする。
上述したように仮定音速が最適音速と異なる場合にスキャン方向(横方向、超音波プローブの振動子の配列方向)の位相の凹凸変化が見られるが、さらにその位相の凹凸変化のフレーム方向(縦方向、超音波プローブが移動する方向)における変化のしかたから微小構造物の形状を判定することが可能となる。
図19及び図20は、この微小構造物の形状を判定する原理を示す概念図である。
図19(a)は、図19(b)に示すような丸い石灰化30に対して超音波プローブ10を矢印方向に移動させながら測定した結果を示すグラフである。図19(a)のグラフにおいて横軸はフレーム方向、縦軸は信号値である。なお図19(b)(図20(b)も同様)では図の紙面に垂直な方向に超音波プローブ10の振動子が配列されており、ここでフレーム方向とは、図19(b)の矢印のように対象を測定しながら超音波プローブ10を移動させる方向である。図19(a)において、グラフE1はフレーム方向における振幅値の変化を示す。またグラフF1は、全ての仮定音速について2次微分値を積分した値を足し合わせて得られた判定画像の値(すなわち位相の凹凸形状を数値化した値、以下単に判定画像値とも言う)のフレーム方向の変化を示す。
また同様に、図20(a)は、図20(b)に示すような細長い石灰化32に対して超音波プローブ10を矢印方向に移動させながら測定した結果を示すグラフである。図20(a)のグラフにおいて横軸はフレーム方向、縦軸は信号値である。図20(a)において、グラフE2はフレーム方向における振幅値の変化を示す。またグラフF2は、全ての仮定音速について2次微分値を積分した値を足し合わせて得られた判定画像の値のフレーム方向の変化を示す。
図19(a)のグラフと図20(a)のグラフを比較すると、フレーム方向の振幅値の変化を示すグラフE1及びE2は、ともにそれぞれ石灰化30及び32に対応する範囲で振幅値が同じように大きくなってグラフの形状が上にまるく膨らんでいる。一方、フレーム方向における判定画像の値の変化を示すグラフF1及びF2について見ると、やはり共に上に膨らんでいるが、細長い石灰化32に対応するグラフF2の方が尖った形となっている。
従って、全ての仮定音速について2次微分値を積分した値を足し合わせて得られた判定画像の値(すなわち位相の凹凸形状を数値化した値)のフレーム方向の変化を示すグラフF1、F2を見ることによって石灰化30、32(すなわち微小構造物)の形状(ここでは、丸いか細長いか)を判別することができる。
そこでこのような原理に基づいて微小構造物の形状を判定する方法を図21のフローチャートに沿って説明する。
まず図21のステップS500において、微小構造物の判定を行う。これは上で説明した実施形態のように微小構造物の判定を行うための判定画像を生成して判定する方法で行うことができる。なお、微小構造物の判定方法はこれに限定されるものではなく、位相凹凸の判定画像の値の大きさから行っても良いし、ユーザが指定するようにしても良い。
次に、ステップS510において、微小構造物の形状判定に用いるために、上で微小構造物の判定に用いたフレームの前後数十フレームにつき、微小構造物の位置における位相凹凸の判定画像の値を求める。ここで、微小構造物の形状判定に用いる判定画像のフレーム数は、予め設定された規定値でも良いし、ユーザが指定した値でも良い。またあるいは、上記判定画像の値または振幅値が所定の値以上となるフレームを用いても良いし、判定画像値または振幅値が最大値の所定比以上となるフレームを用いるようにしても良い。
次に、ステップS520において、各フレームの位相凹凸の判定画像値の分散が所定の閾値以下となる微小構造物を形状整、所定の閾値以上となる微小構造物を形状不整と判定する。なお、この判定画像を生成してそのフレーム方向の位相変化から微小構造物の形状を判定する処理は形状・性状判定画像生成部20(図1参照)において行われる。
なお、上記微小構造物の形状判定は、判定画像値の分散の代わりに最大値と最小値の差を用いて行っても良いし、判定画像値の代わりに判定画像値と振幅値との比や判定画像値と振幅値との差を用いても良い。またあるいは、判定画像値や振幅値の代わりに、注目画素における値とその周りの画素の平均値との差と周りの画素の分散値との比K、すなわち、K=([注目画素における値]−[周りの画素の平均値])/(周りの画素の分散値)を用いても良い。
このように微小構造物の判定及び微小構造物の形状判定の際に利用する振幅値または判定画像値は、注目画素における値のみでなく、所定範囲の平均値や最大値でも良い。また、微小構造物の判定及び微小構造物の形状判定は、複数種類の仮定音速に基づいて行っても良い。すなわち、複数種類の仮定音速の平均値や、複数仮定音速間の位相凹凸の傾き差を含めるようにしても良い。
また、スキャン方向が1次元でなく2次元であっても良い。この場合には、1次元の場合のスキャン方向とフレーム方向に相当する2方向を相互に入れ替えて判定処理を行うようにする。
このように従来超音波の振幅から微小構造物の形状を判定することは困難であったが、本発明においては、以上説明したように位相情報を利用することで微小な形状の違いを判定することが可能となる。また、微細石灰化の形状判定結果より、病変の良性悪性を鑑別するための参考情報を得ることができる。
以上、本発明の超音波診断方法及び装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。