以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、装置本体10とを有する。
超音波プローブ1は、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層及び音響レンズと、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材などを有する。超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁などの表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移(ドプラ偏移)を受ける。
なお、本実施形態は、複数の圧電振動子が一列で配置された1次元超音波プローブである超音波プローブ1により、被検体Pを2次元でスキャンする場合であっても、1次元超音波プローブの複数の圧電振動子を機械的に揺動する超音波プローブ1や複数の圧電振動子が格子状に2次元で配置された2次元超音波プローブである超音波プローブ1により、被検体Pを3次元でスキャンする場合であっても、適用可能である。
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボールなどを有し、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像などを表示したりする。
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波に基づいて超音波画像を生成する装置である。装置本体10は、図1に示すように、送受信部11と、位相検波回路12と、フレームバッファ13と、Bモード処理部14と、ドプラ処理部15と、歪みデータ処理部16と、画像処理部17と、画像メモリ18と、制御部19と、内部記憶部20とを有する。
送受信部11は、トリガ発生回路、送信遅延回路およびパルサ回路などを有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルサ回路は、所定の繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。なお、PRFは、レート周波数とも呼ばれる。また、送信遅延回路は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの送信遅延時間を、パルサ回路が発生する各レートパルスに対し与える。また、トリガ発生回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。すなわち、送信遅延回路は、各レートパルスに対し与える送信遅延時間を変化させることで、圧電振動子面からの送信方向を任意に調整する。
なお、送受信部11は、後述する制御部19の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧などを瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、または、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
また、送受信部11は、アンプ回路、A/D変換器、受信遅延回路、加算器などを有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行なって反射波データを生成する。アンプ回路は、反射波信号をチャンネルごとに増幅してゲイン補正処理を行なう。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換する。受信遅延回路は、デジタルデータに受信指向性を決定するのに必要な受信遅延時間を与える。加算器は、受信遅延回路により受信遅延時間が与えられたデジタルデータの加算処理を行なう。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。
位相検波回路12は、送受信部11が有する加算器の出力信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-pahse)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。そして、位相検波回路12は、I信号及びQ信号(以下、IQ信号と記載する)を反射波データとして後段のフレームバッファ13に格納する。なお、位相検波回路12は、加算器の出力信号を、RF信号や解析信号に変換した上で、フレームバッファ13に格納することも可能である。以下では、超音波の反射波に基づいて生成された「IQ信号、RF信号、解析信号」をまとめて、「反射波データ」、又は、「受信信号」と記載する。
フレームバッファ13は、位相検波回路12から出力された反射波データを一時的に記憶するバッファである。具体的には、フレームバッファ13は、数フレーム分の反射波データを記憶する。例えば、フレームバッファ13は、FIFO(First-In/First-Out)メモリであり、所定フレーム分の反射波データを記憶し、新たに1フレーム分の反射波データが出力された場合、生成時間が最も古い1フレーム分の反射波データを破棄して、新たに出力された1フレーム分の反射波データを記憶する。
なお、1フレーム分の反射波データとは、1枚の超音波画像を生成するための反射波データのことであり、送受信部11は、複数の走査線(スキャンライン)で形成される走査範囲にて超音波送受信を超音波プローブ1に行なわせることで、位相検波回路12から1フレーム分の反射波データを出力する。
Bモード処理部14は、フレームバッファ13から送受信部11が生成した反射波データを読み出し、読み出した反射波データに対して、対数増幅、包絡線検波処理、対数圧縮などを行なって、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
ドプラ処理部15は、フレームバッファ13から送受信部11が生成した反射波データ(IQ信号)を読み出し、読み出した反射波データを周波数解析することで、走査範囲内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。具体的には、ドプラ処理部15は、移動体の運動情報として、平均速度、分散値、パワー値などを多点に渡り抽出したドプラデータを生成する。より具体的には、ドプラ処理部15は、血流の動態を示すカラードプラ画像を生成するためのカラードプラデータや、組織の動態を示す組織ドプラ画像を生成するための組織ドプラデータを生成する。
歪みデータ処理部16は、反射波データから、生体組織の硬さを表す歪み(ストレイン値)がカラー表示されるエラストグラフィーを生成するためのデータを生成する。具体的には、歪みデータ処理部16は、被検体Pの体表に当てた状態で超音波プローブ1を操作者が手で軽く押し付けたり離したりすることで変形した生体組織の変位を計算する。より具体的には、歪みデータ処理部16は、変形の前後、あるいは変形の程度の異なる2つ以上の反射波データから同一部位(ウィンドウ幅内)の位置の変位を計算する。そして、歪みデータ処理部16は、変位を深さ方向に微分することで歪みを計算する。具体的には、歪みデータ処理部16は、複数のウィンドウ幅それぞれのストレイン値を計算する。図2は、ウィンドウ幅の一例を説明するための図である。
図2に示すように、1本のスキャンライン上には、深さ方向に沿って、複数のサンプル点が設定される。エラストグラフィーでは、複数のサンプル点が一つのウィンドウ幅として設定され、複数のウィンドウ幅が重複して等間隔で設定される。図2に示す一例では、サンプル点の間隔を「λ/2」とすると、「8×λ」がウィンドウ幅(L)として設定されている。また、図2に示す一例では、深さ方向に沿って、各ウィンドウ幅が「4×λ」分重複した状態で、等間隔で設定されている。このように、ウィンドウ幅は、サンプル点の間隔から、深さ方向の距離に換算して表記することが出来る。なお、図2に示すウィンドウ幅の設定例は、あくまでも、一例であり、ウィンドウ幅を形成するためのサンプル点の数や、ウィンドウ幅の間隔、ウィンドウ幅の重複距離は、任意に設定可能である。
なお、以下では、歪みデータ処理部16が生成するデータを歪みデータと記載する場合がある。第1の実施形態に係る歪みデータ処理部16が行なう処理については、後に詳述する。
画像処理部17は、Bモード処理部14、ドプラ処理部15及び歪みデータ処理部16が生成したデータを用いて表示用の超音波画像を生成したり、生成した超音波画像に対して画像処理を行なったりする処理部である。図1に示す画像処理部17は、画像生成部17a及び画像合成部17bを有する。画像生成部17aは、Bモード処理部14、ドプラ処理部15及び歪みデータ処理部16が生成したデータから超音波画像を生成する。すなわち、画像生成部17aは、Bモード処理部14が生成したBモードデータから反射波の強度を輝度にて表したBモード画像を生成する。また、画像生成部17aは、ドプラ処理部15が生成したドプラデータから移動体情報(血流運動情報や組織運動情報)を表す平均速度画像、分散画像、パワー画像、又は、これらの組み合わせ画像としてのドプラ画像(カラードプラ画や組織ドプラ画像)を生成する。
また、画像生成部17aは、歪みデータ処理部16が生成した歪みデータを用いてエラストグラフィーを生成する。具体的には、画像生成部17aは、Bモード画像上に、各ウィンドウ幅にて計算されたストレイン値の大きさに応じて階調を変化させたストレイン画像を生成し、生成したストレイン画像をBモード画像に重畳させることで、エラストグラフィーを生成する。
ここで、画像生成部17aは、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビなどに代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用画像としての超音波画像を生成する。具体的には、画像生成部17aは、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用画像としての超音波画像を生成する。また、画像生成部17aは、スキャンコンバート以外に種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)などを行なう。
画像合成部17bは、画像生成部17aが生成した各種超音波画像に、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマークなどを合成した合成画像を生成する。
画像メモリ18は、画像生成部17aが生成した超音波画像や、画像合成部17bが生成した合成画像を記憶するメモリである。また、画像メモリ18は、Bモード処理部14やドプラ処理部15、歪みデータ処理部16が生成したデータ(生データ)を記憶することも可能である。
内部記憶部20は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見など)や、診断プロトコルや各種ボディーマークなどの各種データを記憶する。また、内部記憶部20は、必要に応じて、画像メモリ18が記憶する画像の保管などにも使用される。また、内部記憶部20が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部の周辺装置へ転送することができる。
制御部19は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部19は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部20から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、位相検波回路12、Bモード処理部14、ドプラ処理部15、歪みデータ処理部16、画像処理部17の処理を制御する。また、制御部19は、画像メモリ18が記憶する超音波画像及び合成画像や、操作者が各種処理を指定するためのGUIなどをモニタ2にて表示するように制御する。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、エラストグラフィーの生成及び表示を行なう。より具体的には、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、組織ドプラ法を用いて短い時間差での変位を計測する自己相関法によりエラストグラフィーを生成する。
ここで、変位を計算する際には、ウィンドウ幅内の積算値が用いられる。そのために、ウィンドウ内でエコー強度の大きい場所があると、その大きい場所の重みが大きくなる。しかしウィンドウ内の中心を変位の位置とするために、位置に誤差が生じる。そのために、均一なストレインを持つ組織でも、エコー強度つまりBモード像の輝度の変化に対応するかのような模様が見えてしまう場合がある。
上記の現象を、以下、自己相関法を例に、図3などを用いて詳細に説明する。図3は、従来のエラストグラフィーにおける課題を説明するための図である。なお、自己相関法では、一般的な組織ドプラ法と同様に、1フレームのエラストグラフィーを生成するために、1本のスキャンラインにて2回以上に渡って超音波の送受信が行なわれる。すなわち、自己相関法では、1フレームのスキャンを行なう際に行なわれた同一スキャンラインにおける2つ以上の受信信号を用いて変位を計算する。以下では、2つのIQ信号を用いて自己相関法により変位が計算される場合について説明する。
図3の(A)は、深さ方向(x)に「x0=5mm」ごとに振幅値が変化する2つのIQ信号(IQ1(x)及びIQ2(x))を示している。図3の(A)に示すグラフでは、縦軸が振幅値(IQ信号の絶対値)であり、横軸が深さ方向(x)となっている。また、図3の(A)に示すグラフでは、IQ1(x)の振幅値を「absIQ1」とし、IQ2(x)の振幅値を「absIQ2」として示している。IQ1(x)を生成するために行なわれた超音波送信と、IQ2(x)を生成するために行なわれた超音波送信との時間差は、小さいため、図3の(A)に示すグラフでは、「absIQ1」と「absIQ2」とが略同じとなっている。なお、図3に示すIQ信号では、超音波送信の基本周波数「f0」が「6.67MHz」である。また、図3では、ウィンドウ幅「L」は、波長を「λ」とすると、「16×λ=3.7mm」となっている。
図3の(A)に示すIQ1(x)及びIQ2(x)は、以下の式(1)で表される。式(1)において、「x」は、深さ方向の距離、「s」は、ストレイン値、「λ」は、超音波の波長、「θ1」及び「θ2」それぞれは、IQ1(x)及びIQ2(x)の初期位相を示す。IQ1(x)及びIQ2(x)の振幅値は、上述したように、同じものとする。また、式(1)では、深さ方向に沿って同一のストレイン値を有する生体組織が存在すると仮定しているために、「s」が「x」に依存しない値となっている。
図3の(B)は、式(1)に示す2つのIQ信号に対して、自己相関法によって変位を計算した結果を示す。図3の(B)では、「s」として、4つの値「0.5%、1.0%、1.5%、2.0%」を与えた場合の結果を示している。
本来は、「x」に比例した直線で変位が深さ方向に沿って変化する結果が得られることが期待される。しかし、実際に自己相関法で計算すると、図3の(B)に示すように、直線にはならずに、振幅値が「0」となる「x」で段差を有する線となってしまう。
図3の(B)に示す結果をストレイン画像として示したものを図3の(C)に示す。図3の(C)では、横方向に4種類のストレイン値「0.5%、1.0%、1.5%、2.0%」それぞれのストレイン画像を示している。なお、図3の(C)では、下方向が深さ方向であり、下に向かって、「x」が大きくなっている。理想的には、同一のストレイン値を有する生体組織ならば、変位から計算されたストレイン値をマッピングしたストレイン画像は、同じ階調になる。しかし、実際には、図3の(C)に示すように、同一のストレイン値を有する生体組織にも関わらず、ストレイン画像は、振幅値が「0」となる「x」付近のストレイン値が大きくなっている。つまり、変位から計算されたストレイン値は、エコーの振幅の影響を受けている。
なお、3つ以上のIQ信号を用いて自己相関法により変位を計算する場合であっても、上記の現象は発生する。また、自己相関法以外の方法を用いて変位を計算する場合であっても、上記の現象は発生する。
このように、従来のエラストグラフィーでは、エコー強度の影響を受けていた。
そこで、自己相関法によりエラストグラフィーを生成する第1の実施形態に係る超音波診断装置は、エコー強度の影響を低減したエラストグラフィーを表示するために、以下、詳細に説明する歪みデータ処理部16の処理を実行する。第1の実施形態に係る歪みデータ処理部16は、自己相関法によって組織ドプラ法と同様な手法を用いて変位を計算し、計算した変位に対して、エコーの振幅による誤差を除去する補正を行なう処理部である。
図4は、第1の実施形態に係る歪みデータ処理部の構成を説明するための図である。図4に示すように、第1の実施形態に係る歪みデータ処理部16は、変位計算部16aと、補正部16bと、歪み計算部16cとを有する。以下、図5を参照して、各部の処理の概要を説明し、その後、数式を用いて、各部の処理を詳細に説明する。図5は、第1の実施形態に係る歪みデータ処理部の概要を説明するための図である。
変位計算部16aは、自己相関法により変位を計算する処理部である。変位計算部16aは、超音波プローブ1の直下に位置する生体組織に変形を加えながら、異なる時間に同一方向に送信した超音波の2つ以上の反射波に基づく受信信号(IQ信号)を用いて変位を計算する。すなわち、変位計算部16aは、1本のスキャンラインにて2回以上に渡って送信された超音波の反射波から生成されたIQ信号を用いて変位を計算する。
具体的には、変位計算部16aは、図5に示すように、超音波送信方向(深さ方向)にて所定間隔で設定された各ウィンドウ幅にある受信信号間(IQ信号間)の自己相関関数を計算する。そして、変位計算部16aは、図5に示すように、計算した自己相関関数を用いて位相差を計算することで、各ウィンドウ幅における変位を計算する。
そして、補正部16bは、図5に示すように、変位補正として、重心位置計算処理と、補間処理とを行なう。すなわち、補正部16bは、自己相関関数を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各受信信号(各IQ信号)の振幅値の積の重心位置を計算し、当該計算した重心位置を変位計算部16aにより計算された変位を与える位置として補正する。更に、補正部16bは、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を、他のウィンドウ幅にて計算された重心位置の変位を用いて補間することで計算する。
そして、歪み計算部16cは、図5に示すように、各ウィンドウ幅の補間された変位及び中心位置から傾きを計算することで、歪み(ストレイン値)を計算する。
以下では、第1の実施形態に係る歪みデータ処理部16が2つのIQ信号を用いて上記の処理を行なう場合について、数式を用いて詳細に説明する。なお、第1の実施形態に係る歪みデータ処理部16は、3つ以上のIQ信号を用いて上記の処理を行なうことも可能である。
まず、式(1)に示す2つのIQ信号(IQ1(x)及びIQ2(x))を一般化して、以下の式(2)とする。なお、式(2)に示す「A1(x)」及び「A2(x)」それぞれは、IQ1(x)及びIQ2(x)それぞれの振幅値である。また、式(2)に示す「φ1(x)」及び「φ2(x)」それぞれは、IQ1(x)及びIQ2(x)それぞれの位相である。
ここで、「x」は、上述したように、深さ方向の距離を表わす。また、IQ1(x)とIQ2(x)との時間差を「T」とする。ここで、「T」は、同一地点におけるIQ1(x)とIQ2(x)との変位が半波長(-λ/2〜λ/2)の範囲にあることが保証されるような十分に短い時間(例えば、0.2msec〜1msecの範囲)とする。
理想的な条件では、以下の式(3)に示すような等式が成立する。
ここで、「s(x)」は、位置「x」におけるストレイン値である。また、上述したように、「λ」は、超音波の波長、「θ1」及び「θ2」それぞれは、IQ1(x)及びIQ2(x)の初期位相を示す。以下では、式(3)に示す理想的な条件で処理が行なわれるが、実際の計算方法を明確化するために式(2)のようにIQ1(x)及びIQ2(x)を記述する。式(1)を用いると、自己相関関数「ac(x)」は、以下の式(4)で計算することが出来る。
ここで、式(4)に示す「アスタリスク:*」は、共役複素数を表し、「L」は、上述したようにウィンドウ幅を表す。
式(4)における複素数「ac(x)」のアークタンジェント(偏角)、すなわち、「angle{ac(x)}」がIQ1(x)とIQ2(x)との位相差となり、変位「D(x)」は、以下の式(5)により計算される。
すなわち、変位計算部16aは、式(4)及び式(5)を用いて、各ウィンドウ幅の変位を計算する。
なお、式(4)は、式(3)に示す理想的な条件では、以下の式(6)となる。
ここで、式(5)に示すように、変位を計算するために必要となるのは、自己相関関数の位相差「angle{ac(x)}」であるが、式(6)で明らかなように、振幅値及び変位の双方が「i」によって変化するので、変位は、振幅値の重みの影響を受ける。つまり、変位は、振幅値の大きい位置の位相に引っ張られる。従来では、式(4)及び式(5)により算出された変位をウィンドウ幅の中央位置に与えていた。変位をウィンドウ幅の中央位置に与えることが、従来のエラストグラフィーで、均一なストレインを持つ生体組織でも、エコー強度の変化に対応するかのような模様が見えてしまう原因となっていた。
そこで、上述したように、補正部16bの補正処理が行なわれる。まず、補正部16bは、式(4)及び式(5)により算出された変位を与える位置を、以下の式(7)で算出される位置とする。すなわち、補正部16bは、変位を与える位置を、振幅値「A1(x)」及び「A2(x)」の積の重心位置「xc(x)」とする。
図6は、第1の実施形態における補正処理を説明するための図である。すなわち、補正部16bは、図6の(A)に示すように、ウィンドウ幅の中心位置「x」に対して与えられていた変位「D(x)」を、式(7)で算出された重心位置「xc」に与えると補正する。
ここで、歪み計算部16cは、各ウィンドウ幅で計算された重心位置を用いて変位の傾きを計算することで、ストレイン値を算出することが出来る。しかし、第1の実施形態では、ストレイン値の算出処理を容易にするために、変位の補間処理を行なう。
中心位置「x」は、等間隔にサンプリングされる位置となるが、「xc(x)」は、重心位置であるため、等間隔でなくなる。等間隔である方が、以降の処理が容易となるので、補正部16bは、位置と変位を表わす座標「{xc(x),D(x)}」の点を補間により「{x,Dc(x)}」という等間隔の中心位置「x」で表わされた座標に変換する。
かかる処理は、数値解析ソフトウェアであるMATLAB(登録商標)を用いると、以下の式(8)で表される。式(8)に示す「interp1」は、座標列「{xc,D}」に対して、X座標の値が「xc」の代わりに「x」であった場合に、Y座標の値「Dc」を「D」を補間することにより求める関数である。すなわち、補正部16bは、他のウィンドウ幅にて計算された重心位置の変位を用いて、式(8)から、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を補間処理により算出する。
式(8)に示すように、補正部16bは、重心位置「xc」に与えた変位「D(x)」を、他のウィンドウ幅にて計算した重心位置「xc」に与えた変位「D(x)」を用いて、補間変位「Dc(x)」を計算する。そして、補正部16bは、図6の(B)に示すように、計算した補間変位「Dc(x)」をウィンドウ幅の中心位置「x」に対して与える。
このように、補正部16bは、式(7)及び式(8)を用いて補正処理を行なう。
そして、歪み計算部16cは、補正部16bにより計算された「Dc(x)」を用いて、以下の式(9)により歪み、すなわち、ストレイン値「S(x)」を計算する。
なお、歪み計算部16cは、各中心位置にて、「Dc(x)」の傾きを最小2乗法によって求めることで、ストレイン値「S(x)」を計算しても良い。
以上の処理の後、画像生成部17aは、歪み計算部16cが計算した歪み(ストレイン値)を用いてエラストグラフィーを生成する。具体的には、画像生成部17aは、Bモード処理部14が生成したBモードデータと、歪み計算部16cが計算したストレイン値を用いてエラストグラフィーを生成する。そして、制御部19の制御により、エラストグラフィーがモニタ2にて表示される。
図7は、補正処理の結果を説明するための図である。従来では、図3の(A)に示すように、変位が深さ方向に沿って、振幅値が「0」となる「x」で段差を有する線となっていた。しかし、補正部16bの補正処理が行なわれることで、図7の(A)に示すように、変位は、深さ方向に沿って「x」に比例した直線として得られる。また、従来では、図3の(C)に示すストレイン画像のように、同一のストレイン値を有する生体組織であっても、均一の階調とはならなかった。しかし、補正部16bの補正処理が行なわれることで、図7の(B)に示すように、同一のストレイン値を有する生体組織のストレイン画像は、同一階調で表現されるようになる。
以上、まとめると、変位計算部16aは、フレームバッファ13から2つのIQ信号を読み出して、式(4)により自己相関関数を計算し、式(5)により変位計算を行なう。そして、補正部16bは、式(7)により重心位置を計算し、式(8)により補間変位の計算を行なう。そして、歪み計算部16cは、式(9)により、歪み(ストレイン値)を計算する。
なお、第1の実施形態は、補正部16bが式(7)を用いて重心位置を計算し、歪み計算部16cが重心位置と変位とを用いて歪みを計算する場合であっても良い。かかる場合でも、図7の(B)に示すように、同一のストレイン値を有する生体組織のストレイン画像は、同一階調で表現されるようになる。
次に、図8を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置の歪み計算処理について説明する。図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の歪み計算処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下に示す歪み計算処理は、1フレーム分のスキャンが行なわれるごとに、同一フレーム内の受信信号を用いて繰り返し実行される。
図8に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、フレームバッファ13にIQ信号が格納されたか否かを判定する(ステップS101)。具体的には、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、1フレーム分のスキャンにより収集されたIQ信号が格納されたか否かを判定する。ここで、IQ信号が格納されていない場合(ステップS101否定)、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、待機状態となる。
一方、IQ信号が格納された場合(ステップS101肯定)、変位計算部16aは、自己相関関数を計算し(ステップS102)、変位を計算する(ステップS103)。すなわち、変位計算部16aは、各スキャンラインの各ウィンドウ幅の変位を計算する。例えば、変位計算部16aは、同一のスキャンラインにて2回超音波送信が行なわれることで生成された2つのIQ信号を用いて、式(4)により自己相関関数を計算し、式(5)により変位を計算する。
そして、補正部16bは、自己相関関数を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各IQ信号の振幅値の積の重心位置を計算し(ステップS104)、中心位置の変位を補間により計算する(ステップS105)。例えば、補正部16bは、式(7)により各ウィンドウ幅の重心位置を計算する。そして、補正部16bは、式(8)により各ウィンドウ幅の補間変位を計算する。
そして、歪み計算部16cは、各ウィンドウ幅の中心位置と補間変異とから傾きを計算することで、各ウィンドウ幅の歪み(ストレイン値)を計算し(ステップS106)、処理を終了する。すなわち、歪み計算部16cは、式(9)を用いて歪み(ストレイン値)を計算する。なお、歪み計算処理の後に、画像生成部17aは、エラストグラフィーを生成し、制御部19の制御により、モニタ2は、エラストグラフィーを表示する。
上述してきたように、第1の実施形態では、変位計算部16aは、超音波プローブ1の直下に位置する生体組織に変形を加えながら、異なる時間に同一方向に送信した超音波の2つ以上の反射波に基づく受信信号を用いて、超音波送信方向にて所定間隔で設定された各ウィンドウ幅にある受信信号間の自己相関関数を計算し、当該計算した自己相関関数を用いて位相差を計算することで、前記各ウィンドウ幅における変位を計算する。そして、補正部16bは、自己相関関数を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各受信信号の振幅値の積の重心位置を計算し、当該計算した重心位置を変位計算部16aにより計算された変位を与える位置として補正する。更に、補正部16bは、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を、他のウィンドウ幅にて計算された重心位置の変位を用いて補間することで計算する。
そして、歪み計算部16cは、各ウィンドウ幅の補間された変位及び中心位置から傾きを計算することで、歪み(ストレイン値)を計算する。そして、画像生成部17aは、歪み計算部16cが計算した歪みを用いてエラストグラフィーを生成する。
従って、第1の実施形態では、計算した変位を与える位置を補正し、更に、中心位置の補間変位を計算することで、エコーの振幅による誤差を除去することが出来る。その結果、第1の実施形態では、自己相関法を適用する場合に、エコー強度の影響を低減したエラストグラフィーを表示することが可能となる。また、第1の実施形態では、等間隔の中心位置における補間変位を計算するので、ストレイン値を計算する際の処理に要する負荷を軽減することが出来る。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、複合自己相関法を用いて変位を計算し、計算した変位に対するエコーの振幅による誤差を除去する方法について説明する。
複合自己相関法でも、超音波プローブ1の直下に位置する生体組織に変形を加えながら、異なる時間に同一方向に送信した超音波の2つ以上の反射波に基づく受信信号が用いられる。ただし、複合自己相関法では、一般的には、2フレーム間の同一スキャンライン上の同一位置の受信信号が用いられる。例えば、複合自己相関法では、解析信号が用いられる。なお、複合自己相関法では、自己相関法と同様に、1フレームでの同一スキャンライン上の複数の受信信号を用いても良い。
ここで、解析信号について、以下、数式を用いて説明する。時間「t」のIQ信号「IQ(t)」を、振幅値「A(t)」及び位相「φ(t)」を用いて式(10)により定義すると、RF信号「rf(t)」は、以下の式(11)により定義される。また、解析信号「RF(t)」は、以下の式(12)により定義される。ここで、式(11)の「f0」は、上述したように、基本周波数である。
複合自己相関法では、2つの解析信号に対して相互相関法を用いて相互相関係数がピークとなる位置が得られる「ずれ量」を計算する。しかし、計算された「ずれ量」は、サンプル点単位である。そこで、複合自己相関法では、変位の計算精度を向上させるために、相互相関関数で位相差を調べ、ずれ量に位相差を足し合わせることで、1サンプル以下の変位まで計算する。ただし、複合自己相関法でも、第1の実施形態で説明したように、エコー強度の影響を受けることが知られている。
そこで、第2の実施形態に係る歪みデータ処理部16は、エコー強度の影響を低減するために、図9に示すように構成される。すなわち、第2の実施形態に係る歪みデータ処理部16は、ずれ量計算部16dと、第1の補正部16eと、変位計算部16fと、第2の補正部16gと、歪み計算部16hとを有する。以下、図10を参照して、各部の処理の概要を説明し、その後、数式を用いて、各部の処理を詳細に説明する。図10は、第2の実施形態に係る歪みデータ処理部の概要を説明するための図である。
ずれ量計算部16dは、超音波プローブ1の直下に位置する生体組織に変形を加えながら、異なる時間に同一方向に送信した超音波の2つ以上の反射波に基づく受信信号(解析信号)を用いてずれ量を計算する。具体的には、ずれ量計算部16dは、図10に示すように、超音波送信方向にて所定間隔で設定された各ウィンドウ幅にある受信信号間(解析信号間)の相互相関係数がピークを取るずれ量を計算する。
そして、第1の補正部16eは、図10に示すように、ずれ量計算部16dがずれ量の取得時に用いた相互相関係数を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各受信信号(各解析信号)の振幅値の積の重心位置である第1の重心位置をずれ量を補正した補正ずれ量として計算する。
そして、変位計算部16fは、補正ずれ量によりずらした受信信号間(解析信号間)の相互相関関数の位相差から微小変位を計算する。そして、変位計算部16fは、算出した微小変位に補正ずれ量を加算することで、図10に示すように、各ウィンドウ幅における変位を計算する。
そして、第2の補正部16gは、図10に示すように、第2の重心位置計算処理及び補間処理を行なうことで、変位補正を行なう。具体的には、第2の補正部16gは、微小変位を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各受信信号(各解析信号)の振幅値の積の重心位置である第2の重心位置を計算する。そして、第2の補正部16gは、計算した第2の重心位置を変位計算部16fにより計算された変位を与える位置として補正する。そして、補正部16gは、更に、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を、他のウィンドウ幅にて計算された第2の重心位置の変位を用いて補間することで計算する。
そして、歪み計算部16hは、図10に示すように、各ウィンドウ幅の補間された変位及び中心位置から傾きを計算することで、歪み(ストレイン値)を計算する。
以下では、第2の実施形態に係る歪みデータ処理部16が2つの解析信号を用いて上記の処理を行なう場合について、数式を用いて詳細に説明する。なお、第2の実施形態に係る歪みデータ処理部16は、3つ以上の解析信号を用いて上記の処理を行なうことも可能である。また、第2の実施形態に係る歪みデータ処理部16は、IQ信号やRF信号を用いる場合であっても適用可能である。
ここで、以下では、2つの解析信号を、「RF1(x)」及び「RF2(x)」と定義する。ここでは、「RF」という記号を用いているがRF信号ではなく解析信号である。通常、「RF1(x)」と「RF2(x)」との間には、16msec〜50msecといった1フレームの時間差があるので、自己相関法のように同一地点での変位が半波長以内に収まる保証がない。
相互相関法では、1サンプル点単位で相互相関係数を計算し、相互相関係数が最大となる変位を求める。ただし、相互相関法で計算される変位は、サンプル点間の距離精度しかないので、複合自己相関法では、相互相関法で計算された変位(上記の「ずれ量」に対応する)での相互相関関数の位相差を利用してサンプル点間の距離以下の精度を有する変位を求める。
まず、ずれ量計算部16dは、以下の式(13)を用いて、解析信号間の相互相関係数「C(x,ξ)」を計算する。
そして、ずれ量計算部16dは、式(13)から、位置「x」において、相互相関係数がピークとなる1サンプル単位の変位(単位:m)を「ξ(x)」として計算する。
ここで、従来の複合自己相関法では、ずれ量計算部16dが計算した「ξ(x)」を、以下の式(14)に代入することで相互相関関数「R(x)」を計算していた。
そして、従来の複合自己相関法では、相互相関関数「R(x)」の位相差「angle{R(x)}」に「λ/2π」を乗算することで微小変位を計算していた。そして、従来の複合自己相関法では、微小変位にずれ量計算部16dが計算した「ξ(x)」を加算することで変位「D(x)」を計算していた。すなわち、従来の複合自己相関法では、以下の式(15)により変位「D(x)」を計算していた。
しかし、式(13)及び式(14)には、式(12)で定義される解析信号を参照しても明らかなように、振幅値の重みが掛かっている。
そこで、第2の実施形態では、第1の補正部16eは、振幅値の重みを除去するために「ξ(x)」を以下の式(16)を代入することで、第1の重心位置である補正ずれ量「ξc(x)」を計算する。式(16)により計算される補正ずれ量は、「RF1(x)」の振幅値「A1(x)」と、「RF2(x)」の振幅値「A2(x)」との重心となる。
そして、変位計算部16fは、第1の補正部16eが式(16)を用いて計算した「ξc(x)」を、式(14)及び式(15)に代入することで、変位を計算する。すなわち、変位計算部16fは、以下に示す式(17)及び式(18)により変位を計算する。なお、式(17)では、式(14)の「R(x)」と区別するために、相互相関関数を「R2(x)」として示している。また、式(18)では、式(15)の「D(x)」と区別するために、変位を「D2(x)」として示している。
ただし、補正ずれ量「ξc(x)」に相当するサンプル点がない時は、相互相関関数を計算することが出来ないので、第1の補正部16eは、補正ずれ量「ξc(x)」を一番近いサンプル点の値に丸め込みを行う。例えば、第1の補正部16eは、以下の式(19)に示すように、四捨五入の値を計算する関数「round」を用いて、補正ずれ量「ξc(x)」を最寄りのサンプル点に補正された「ξ’c(x)」を計算する。例えば、「ξc(x)」が「4.3」であった場合、第1の補正部16eは、式(19)を用いて、「ξ’c(x)」を「4」として計算する。
そして、変位計算部16fは、「ξc(x)」の代わりに「ξ’c(x)」を式(17)及び式(18)を代入することで、変位を計算する。なお、「ξ’c(x)」により計算された変位に含まれる誤差は、以下の補正処理により除去される。
ここで、式(18)に示す位相差「angle{R2(x)}」には、第1の実施形態(自己相関法)で説明したように、振幅値による誤差が含まれている。そこで、第2の補正部16gは、以下に示す式(20)により、第2の重心位置「xc2(x)」を計算する。すなわち、第2の補正部16gは、変位計算部16fが計算した変位を与える位置として、第2の重心位置を計算する。これにより、変位計算部16fが計算した変位「D2(x)」を与える位置が、ウィンドウ幅の中心位置「x (x)」から第2の重心位置「xc2(x)」に補正される。
ここで、歪み計算部16hは、各ウィンドウ幅で計算された第2の重心位置を用いて変位の傾きを計算することで、ストレイン値を算出することが出来る。しかし、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、ストレイン値の算出処理を容易にするために、変位の補間処理を行なう。
すなわち、第2の補正部16gは、MATLAB(登録商標)の関数「interp1」により、位置と変位を表わす座標「{xc2(x),D2(x)}」の点を補間により「{x, Dc(x)}」という等間隔の中心位置「x」で表わされた座標に変換する。すなわち、第2の補正部16gは、他のウィンドウ幅にて計算された第2の重心位置の変位を用いて、式(21)から、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を補間処理により算出する。
式(21)に示す「interp1」は、式(8)に示す「interp1」と同様に、座標列「{xc2,D2}」に対して、X座標の値が「xc2」の代わりに「x」であった場合に、Y座標の値「Dc」を「D2」を補間することにより求める関数である。
そして、歪み計算部16hは、第2の補正部16gにより計算された「Dc(x)」を用いて、以下の式(22)により歪み、すなわち、ストレイン値「S(x)」を計算する。
なお、歪み計算部16cは、各中心位置にて、「Dc(x)」の傾きを最小2乗法によって求めることで、ストレイン値「S(x)」を計算しても良い。
以上の処理の後、画像生成部17aは、歪み計算部16cが計算した歪み(ストレイン値)を用いてエラストグラフィーを生成する。具体的には、画像生成部17aは、Bモード処理部14が生成したBモードデータと、歪み計算部16cが計算したストレイン値を用いてエラストグラフィーを生成する。そして、制御部19の制御により、エラストグラフィーがモニタ2にて表示される。
以上、まとめると、ずれ量計算部16dは、フレームバッファ13から2つの解析信号を読み出して、式(13)により「ずれ量」を計算する。第1の補正部16eは、式(16)を用いて、補正ずれ量(第1の重心位置)を計算する。また、第1の補正部16eは、補正ずれ量がサンプル点にないときは、式(19)を用いて補正ずれ量の近似値を計算する。そして、第1の補正部16eは、補正ずれ量、又は、補正ずれ量の近似値と、式(17)及び式(18)を用いて、変位を計算する。そして、第2の補正部16gは、式(20)により第2の重心位置を計算し、式(21)により補間変位の計算を行なう。そして、歪み計算部16cは、式(22)により、歪み(ストレイン値)を計算する。
次に、図11を用いて、第2の実施形態に係る超音波診断装置の歪み計算処理について説明する。図11は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の歪み計算処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下に示す歪み計算処理は、1フレーム分のスキャンが行なわれるごとに、フレーム間の受信信号を用いて繰り返し実行される。
図11に示すように、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、フレームバッファ13に解析信号が格納されたか否かを判定する(ステップS201)。具体的には、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、1フレーム分のスキャンにより収集された解析信号が格納されたか否かを判定する。ここで、解析信号が格納されていない場合(ステップS201否定)、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、待機状態となる。
一方、解析信号が格納された場合(ステップS201肯定)、ずれ量計算部16dは、相互相関係数がピークをとるずれ量を計算する(ステップS202)。すなわち、ずれ量計算部16dは、各スキャンラインの各ウィンドウ幅のずれ量を計算する。例えば、変位計算部16aは、隣接するフレーム間の同一のスキャンラインにて生成された2つの解析信号を用いて、式(13)により自己相関係数を計算することで、各ウィンドウ幅のずれ量を計算する。
そして、第1の補正部16eは、ずれ量の取得時に用いた相互相関係数を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各解析信号の振幅値の積の重心位置である第1の重心位置(補正ずれ量)を計算する。例えば、第1の補正部16eは、式(16)により各ウィンドウ幅の第1の重心位置(補正ずれ量)を計算する(ステップS203)。なお、第1の補正部16eは、補正ずれ量に相当するサンプル点がない時は、式(19)により補正ずれ量の近似値を計算する。
その後、変位計算部16fは、各ウィンドウ幅の変位を計算する(ステップS204)。すなわち、変位計算部16fは、補正ずれ量(又は、補正ずれ量の近似値)によりずらした受信信号間(解析信号間)の相互相関関数を計算する(式(17))。そして、変位計算部16fは、相互相関関数の位相差から微小変位を計算し、算出した微小変位に補正ずれ量(又は、補正ずれ量の近似値)を加算することで、各ウィンドウ幅における変位を計算する(式(18))。これにより、変位計算部16fは、各スキャンラインの各ウィンドウ幅の変位を計算する。
続いて、第2の補正部16gは、微小変位を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各解析信号の振幅値の積の重心位置である第2の重心位置を計算する(ステップS205)。例えば、第2の補正部16gは、式(20)により第2の重心位置を計算する。そして、第2の補正部16gは、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を補間により計算する(ステップS206)。すなわち、第2の補正部16gは、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を、他のウィンドウ幅にて計算された第2の重心位置の変位を用いて補間することで計算する。例えば、第2の補正部16gは、式(21)を用いて第2の重心位置を計算する。
そして、歪み計算部16hは、各ウィンドウ幅の中心位置と補間変異とから傾きを計算することで、各ウィンドウ幅の歪み(ストレイン値)を計算し(ステップS207)、処理を終了する。すなわち、歪み計算部16hは、式(22)を用いて歪み(ストレイン値)を計算する。なお、歪み計算処理の後に、画像生成部17aは、エラストグラフィーを生成し、制御部19の制御により、モニタ2は、エラストグラフィーを表示する。
上述してきたように、第2の実施形態では、ずれ量計算部16dは、超音波プローブ1の直下に位置する生体組織に変形を加えながら、異なる時間に同一方向に送信した超音波の2つ以上の反射波に基づく受信信号を用いて、超音波送信方向にて所定間隔で設定された各ウィンドウ幅にある受信信号間の相互相関係数がピークを取るずれ量を計算する。そして、第1の補正部16eは、ずれ量計算部16dがずれ量の取得時に用いた相互相関係数を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各受信信号の振幅値の積の重心位置である第1の重心位置をずれ量を補正した補正ずれ量として計算する。変位計算部16fは、補正ずれ量によりずらした受信信号間の相互相関関数の位相差から微小変位を計算し、当該算出した微小変位に補正ずれ量を加算することで、各ウィンドウ幅における変位を計算する。
そして、第2の補正部16gは、微小変位を計算した時と略同一のウィンドウ幅にて各受信信号の振幅値の積の重心位置である第2の重心位置を計算し、当該計算した第2の重心位置を変位計算部16fにより計算された変位を与える位置として補正する。更に、第2の補正部16gは、更に、各ウィンドウ幅の中心位置の変位を、他のウィンドウ幅にて計算された第2の重心位置の変位を用いて補間することで計算する。そして、歪み計算部16hは、各ウィンドウ幅の補間された変位及び中心位置から傾きを計算することで、歪みを計算する。そして、画像生成部17aは、歪み計算部16cが計算した歪みを用いてエラストグラフィーを生成する。
従って、第2の実施形態では、補正ずれ量を計算することで、計算したずれ量のエコーの振幅による誤差を除去することが出来る。また、第2の実施形態では、計算した変位を与える位置を第2の重心位置に補正し、更に、中心位置の補間変位を計算することで、エコーの振幅による誤差を除去することが出来る。その結果、第2の実施形態では、複合自己相関法を適用する場合に、エコー強度の影響を低減したエラストグラフィーを表示することが可能となる。また、第2の実施形態では、等間隔の中心位置における補間変位を計算するので、ストレイン値を計算する際の処理に要する負荷を軽減することが出来る。
なお、第2の実施形態は、第2の補正部16gが第2の重心位置を計算し、歪み計算部16hが第2の重心位置と変位とを用いて歪みを計算する場合でも適用可能である。かかる場合でも、エコーの振幅による誤差を除去することが出来、複合自己相関法を適用する場合に、エコー強度の影響を低減したエラストグラフィーを表示することが可能となる。
なお、上記では、超音波診断装置内で自己相関法や複合自己相関法を用いたエラストグラフィーの生成処理が行なわれる場合について説明した。しかし、上記の第1の実施形態、又は、第2の実施形態は、超音波診断装置とは独立に設置された画像処理装置内で、エコーの振幅による誤差を除去したデータを生成する場合であっても適用可能である。具体的には、第1の実施形態に係る歪みデータ処理部16や第2の実施形態に係る歪みデータ処理部16の機能を有する画像処理装置が、受信信号を受信した上で、ストレイン値を計算する場合であっても良い。かかる場合、超音波診断装置は、画像処理装置により計算されたストレイン値を用いて、エラストグラフィーを生成及び表示する。
また、上記の画像処理装置は、歪みデータ処理部16とともに、Bモード処理部14及び画像生成部17aを有する場合であっても良い。かかる場合は、画像処理装置内で、ストレイン値の計算とともに、エラストグラフィーの生成及び表示を実行する。
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
以上、説明したとおり、第1の実施形態及び第2の実施形態によれば、エコー強度の影響を低減したエラストグラフィーを表示することが可能となる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。