[第1の実施の形態]
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る内燃機関について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る内燃機関の概略構成を示す図である。第1実施形態に係る内燃機関においては、マイクロ波などの電磁波を利用して内燃機関の燃焼室内の混合気の点火を行う。
図1に示すように、内燃機関10は、シリンダヘッド11と、シリンダ12と、シリンダ12及びピストン13により形成される燃焼室14と、シリンダヘッド11に設けられた吸気口15を開閉する吸気弁16と、シリンダヘッド11に設けられた排気口17を開閉する排気弁18と、燃料噴射弁19と、を備えている。吸気行程においては、吸気弁16が開きピストン13を下降することで吸気口15から燃焼室14内に吸気ガスが導入される。図1に示す内燃機関10では、燃料噴射弁19が吸気口15に臨む状態で配置されていることで燃料が吸気口15に噴射されるため、燃焼室14内に混合気が導入される。圧縮行程においては、吸気弁16が閉じてピストン13の上昇により混合気が圧縮される。点火装置30は、マイクロ波などの電磁波を燃焼室14内に放射することで、燃焼室14内の混合気の点火を行う。燃焼後のガスは、排気行程において排気弁18が開くことで、排気口17へ排出される。
図1に示すように、点火装置30は、制御装置31と、マイクロ波発生電源32と、マイクロ波伝送路33と、マイクロ波放射器34と、を備えている。
マイクロ波発生電源32は、例えばマグネトロンや進行波増幅管や固体発振素子、及びハイパワーアンプにより構成することができ、マイクロ波などの電磁波を発生させる。なお、マイクロ波発生電源32が、電磁波発生電源の一例に相当する。制御装置31は、マイクロ波発生電源32が発生させるマイクロ波のパルスの高さ及び幅のいずれか1つ以上を制御することで、その出力(電力)を制御する。マイクロ波発生電源32は、燃焼室14内の混合気の点火を行うタイミングでマイクロ波パルスを出力し、この出力されたマイクロ波パルスはマイクロ波伝送路33を伝播する。
マイクロ波伝送路33は、シリンダヘッド11の内部を通ってその端部が燃焼室14に臨んでいる。マイクロ波伝送路33の端部には、マイクロ波発生電源32にて発生しマイクロ波伝送路33を伝播したマイクロ波などの電磁波を放射するマイクロ波放射器34が設けられている。マイクロ波伝送路33は、例えば同軸ケーブルや導波管により構成することができる。このように、マイクロ波放射器34が燃焼室14に臨む状態でシリンダヘッド11に配置されていることで、マイクロ波放射器34から燃焼室14内にマイクロ波などの電磁波が放射される。図1に示す例では、マイクロ波放射器34は燃焼室14の上面の中央部に配置されている場合を示している。なお、マイクロ波放射器34が、電磁波放射器の一例に相当する。
マイクロ波放射器34は、外側導体35と内側導体36とによって構成された同軸構造を有する。外側導体35は筒状の形状を有し、接地されている。内側導体36は柱状の形状を有し、外側導体35の中心軸に沿って外側導体35内に配置されている。外側導体35と内側導体36との間には、空洞部37が形成されている。空洞部37には、固体状の誘電体が配置されていてもよい。外側導体35の開放端が燃焼室14に臨む状態で、マイクロ波放射器34がシリンダヘッド11に配置されている。マイクロ波伝送路33を介してマイクロ波放射器34に供給されたマイクロ波などの電磁波は、外側導体35と内側導体36との間を伝播して、燃焼室14内に放射される。
燃焼室14では、所定の周波数のマイクロ波が所定の共振モードで共振する。マイクロ波発生電源32は、制御装置31の制御に基づいてマイクロ波を発生させる。そのことにより、マイクロ波放射器34から放射されたマイクロ波が、燃焼室14内で共振する。マイクロ波が燃焼室14内で共振している状態では、マイクロ波のエネルギー反射が少なく、マイクロ波のエネルギーのほとんどが燃焼室14内に蓄えられる。
第1実施形態においては、突起部20が、燃焼室14に臨むピストン頂面13aに設けられている。この突起部20は、突起部20の近傍において燃焼室14内の電界強度を局所的に高める機能を有する。すなわち、マイクロ波放射器34から放射されたマイクロ波は燃焼室14内を満たすが、突起部20の近傍では、燃焼室14内のマイクロ波の平均電界の数十倍から数百倍程度の高電界を得ることができる。その結果、突起部20の近傍にてプラズマ放電が発生するため、燃焼室14内の混合気の点火を行うことができる。マクスウェルの式により、電気力線は金属表面に垂直に入射する。よって、曲率の小さな金属端では電界強度が高くなり、曲率が小さくなるほど電界強度が高くなる。第1実施形態に係る突起部20は、その作用を構造化したものである。なお、DC放電などのアシストを用いて、燃焼室14内の混合気の点火を行ってもよい。図1に示す例では、一例として、1つの突起部20がピストン頂面13aの中央部に配置されている。すなわち、突起部20は、マイクロ波放射器34に対向する位置に設けられている。
次に、燃焼室14内において、広範囲で放電が可能な構成例について説明する。ただし、以下に説明するマイクロ波の周波数、及び燃焼室14の寸法については一例であり、本発明はこの例に限定されない。
燃焼室14内におけるマイクロ波の共振周波数は、燃焼室14の形状、大きさ、導電率、及び共振器のQ値などに依存する。燃焼室14の形状を円柱形状とし、円柱状の燃焼室14の直径Φを90mmとし、燃焼室14の高さHを変化させた場合の共振モードを調べた。その結果を図2に示す。図2は、マイクロ波の反射率の周波数特性を示すグラフである。横軸は周波数GHzを示し、縦軸はマイクロ波の反射率を示す。なお、高さHは、ピストン頂面13aからシリンダヘッド11までの距離に相当する。反射率は、燃焼室14内へのマイクロ波の入射エネルギーの指標を表し、反射率のレベルが低いほど燃焼室14内へのマイクロ波の入射エネルギーが大きいことを表す。図2において、矢印Aで示す周波数が、高さHが20mmの場合における共振周波数である。高さHが20mmの場合には、2GHz帯、5GHz帯、及び8GHz帯などに、共振モードが存在する。また、高さHが90mmの場合には、2GHz〜10GHzの間の共振モードの数は、高さHが20mmの場合よりも増加する。そして、高さHによって共振周波数が変化しない共振モードと、高さHによって共振周波数が変化する共振モードと、が存在する。なお、高さHによって共振周波数が変化しないモードは、TMmnモードとして知られている。例えば、高さHによって共振周波数が変化しない共振モードが、2GHz帯(約2.5GHz)と5GHz帯(約5.8GHz)とに存在する。
燃焼室14内には、共振モードに応じた電界分布が形成される。図3を参照して、燃焼室14の高さHに依存しない共振モードにおける電界分布について説明する。図3は、燃焼室内における電界分布を示す図である。一例として、燃焼室14の高さHを20mmとした。例えば1W供給時において周波数が約2.5GHzの共振モードにおいては、図3(a)に示す電界分布が形成される。なお、図3(a)に示す例においては、マイクロ波放射器34の内側導体36を、燃焼室14内に2mm突出させた。また、1W供給時において周波数が約5.8GHzの共振モードにおいては、図3(b)に示す電界分布が形成される。また、図3(c)に、燃焼室14の矢印B−B間における電界分布のグラフを示す。図3(c)において、横軸は位置を示し、縦軸は電界強度を示す。周波数が約2.5GHzの共振モードの電界分布は、図3(a)、(c)に示すように、燃焼室14の径方向において中央部が最も高く、周囲部(径方向の外側)へ向かうほど低くなっている。一方、周波数が約5.8GHzの共振モードの電界分布は、図3(b)、(c)に示すように、燃焼室14の径方向において中央部が最も高く、周囲部(径方向の外側)へ向かって徐々に低くなって、ある位置で最も低くなる。さらに、電界分布は、周囲部へ向かって徐々に高くなり、ある位置でピークとなって、その位置から周辺部へ向かうほど低くなっている。このように、電界分布はマイクロ波放射器34を中心軸として軸対称に形成されている。
マイクロ波放射器34は、燃焼室14内において電界強度が高くなる位置に配置されていることが好ましい。突起部20は、燃焼室14内における電界強度が高くなり、また、高電界が広い範囲に形成される位置に配置されていることが好ましい。例えば、図3(a)、(b)に示すように、燃焼室14の径方向の中央部で電界強度が最も高くなるため、燃焼室14の径方向における中央部に、マイクロ波放射器34と突起部20とが配置されていることが好ましい。
ここで、図4及び図5を参照して、燃焼室14内でマイクロ波放射器34の位置を変えたときの電界分布について説明する。図4は、燃焼室内における電界分布を示す図である。図5は、燃焼室内における電界分布を示すグラフ、及び、反射率と共振周波数とを示すグラフである。一例として、円柱状の燃焼室14の直径Φを90mmとし、高さHを20mmとした。周波数が約2.5GHzのマイクロ波をマイクロ波放射器34から放射させた。
燃焼室14の径方向の中心100からマイクロ波放射器34を径方向にずらして、燃焼室14内の電界分布を調べた。ここで、燃焼室14の中心100からマイクロ波放射器34の内側導体36の中心軸までの距離を、オフセットとする。図4(a)に、オフセットが0mmの場合における電界分布を示す。図4(b)に、オフセットが2.5mmの場合における電界分布を示す。図4(c)に、オフセットが5.0mmの場合における電界分布を示す。図4(d)に、オフセットが10mmの場合における電界分布を示す。図4(e)に、オフセットが15mmの場合における電界分布を示す。図4(f)に、オフセットが30mmの場合における電界分布を示す。また、図5(a)に、燃焼室14の矢印B−B間における電界分布のグラフを示す。図5(a)において、横軸は位置を示し、縦軸は電界強度を示す。図5(a)には、各オフセットに対する電界分布のグラフが示されている。また、図5(b)に、オフセットに対する反射率及び共振周波数のグラフを示す。図5(b)において、横軸はオフセットを示し、縦軸は反射率及び共振周波数を示す。
図4(a)〜(d)に示すように、オフセットが0〜10mmの場合には、燃焼室14内の中心100付近の電界強度が高くなっている。一方、オフセットが15mmの場合には、図4(e)に示すように、オフセットが0〜10mmの場合と比べて、中心100付近の電界強度は低くなる。さらに、オフセットが30mmの場合には、図4(f)に示すように、中心100付近の電界強度はさらに低くなる。
図5(a)に示すように、オフセットが大きくなるほど電界強度は低くなるが、オフセットが0〜10mmの場合には、中心100付近の電界強度は8000V/m以上となる。一方、オフセットが15mmの場合には、中心100付近の電界強度は約7500V/mとなる。さらに、オフセットが30mmの場合には、中心100付近の電界強度は6000V/m未満となり、電界強度がさらに低くなる。
また、図5(b)のグラフに示すように、オフセットが0〜10mmの場合には、反射率が0.1以下となり、燃焼室14内へのマイクロ波の入射エネルギーが大きくなっている。一方、オフセットが15mmの場合には、反射率が0.2を超えて、燃焼室14内へのマイクロ波の入射エネルギーが小さくなっている。さらに、オフセットが30mmの場合には、反射率が約0.7となり、燃焼室14内へのマイクロ波の入射エネルギーがさらに小さくなっている。
以上のように、マイクロ波放射器34が中心100から離れるほど、燃焼室14内に形成される電界強度は低くなるが、オフセットが0〜10mmの場合には、中心100付近において8000V/m以上の電界強度が得られる。従って、中心100からマイクロ波放射器34までの距離(オフセット)は、0〜10mmであることが好ましい。換言すると、燃焼室14の径方向の中心100から10mm以内の範囲に、マイクロ波放射器34を設置することが好ましい。さらに換言すると、燃焼室14の径方向の中央部には、中心100から10mm以内の範囲が含まれていてもよい。このように、中心100から10mm以内の範囲内にマイクロ波放射器34を設置することにより、燃焼室14の径方向の中央部において高い電界強度を形成することが可能となる。
次に、図6及び図7を参照して、ピストン頂面13aに突起部20を設けた場合の電界分布について説明する。図6は、燃焼室内における電界分布を示す図である。図7は、燃焼室内における電界分布を示すグラフである。図7に示すグラフは、燃焼室14の矢印C−C間における電界分布のグラフである。一例として、円柱状の燃焼室14の直径Φを90mmとし、高さHを20mmとした。また、突起部20の形状を円柱形状とし、突起部20の高さを7.5mmとした。また、マイクロ波放射器34の外側導体35の内径を15mmとした。そして、突起部20の直径を変えて、各直径における電界分布を調べた。図6に示す各電界分布は、1W供給時において周波数が約2.5GHzの共振モードにおいて形成された電界分布である。
図6(a)に示す電界分布は、突起部20の直径が15mmのときに形成される電界分布である。図6(b)に示す電界分布は、突起部20の直径が30mmのときに形成される電界分布である。図6(c)に示す電界分布は、突起部20の直径が60mmのときに形成される電界分布である。図6(a)〜(c)及び図7に示すように、電界分布は、突起部20が配置された中央部において最も高くなり、周囲部(径方向の外側)へ向かうほど低くなっている。また、突起部20の直径を変えることにより、最大電界強度の高さと高電界域の広さとが変わる。突起部20の直径が小さいほど、最大電界強度が高くなる。一方、突起部20の直径が大きいほど最大電界強度は低くなるが、燃焼室14の径方向に向かってより広範囲に高電界が形成される。
例えば図6(a)及び図7に示すように、突起部20の直径が15mmの場合には、最大電界強度は15000V/mを超えて最も高くなるが、高電界が形成される領域は最も狭い。また、図6(b)及び図7に示すように、突起部20の直径が30mmの場合には、最大電界強度は約13000V/mとなり、突起部20の直径が15mmの場合と比べて最大電界強度は低くなる。一方で、高電界が形成される領域は、突起部20の直径が15mmの場合と比べて、燃焼室14の径方向に向かって広くなる。また、図6(c)及び図7に示すように、突起部20の直径が60mmの場合には、最大電界強度は約10000V/mとなり、突起部20の直径が15mm及び30mmの場合と比べて最大電界強度は低くなる。一方で、高電界が形成される領域は、突起部20の直径が15mm及び30mmの場合と比べて、燃焼室14の径方向に向かって広くなる。また、図7に示すように、突起部20を設けない場合には、最大電界強度は約8000V/mとなる。
図6(a)〜(c)及び図7に示すように、突起部20の直径を大きくするほど、より広い範囲に高電界を形成することが可能となる。例えば、マイクロ波放射器34の外側導体35の内径よりも、突起部20の直径を大きくすることにより、より広範囲に高電界を形成することが可能となる。そのことにより、少ない供給電力によって雰囲気の絶縁破壊電圧を超えて、広範囲でプラズマ放電を行うことが可能となる。その結果、火炎伝達が促進され、希薄燃焼を実現することが可能となる。
なお、マイクロ波の反射率のレベルが低くなり、かつ、最大電界強度が高くなるように、突起部20の突出の長さを調整することが好ましい。また、図6(a)〜(c)にそれぞれ示す突起部20を組み合わせて、ピストン頂面13aに設けてもよい。
次に、図8を参照して、本発明の第1実施形態に係る内燃機関の他の構成例について説明する。図8は、内燃機関の他の構成例を示す図である。上述した突起部20の代わりに、ピストン頂面13aに凹部21が形成されていてもよい。図8に示す例では、凹部21は、マイクロ波放射器34に対向する位置に形成されている。この凹部21は、凹部21の曲率が小さくなる部分において燃焼室14内の電界強度を局所的に高める機能を有する。上述したように、曲率の小さな金属端では電界強度が高くなり、曲率が小さくなるほど電界強度が高くなる。凹部21は、この作用を構造化したものである。凹部21は、燃焼室14内における電界強度が高くなり、また、高電界が広い範囲に形成される位置に形成されることが好ましい。例えば、図3(a)、(b)に示すように、燃焼室14の径方向における中央部で電界強度が最も高くなるため、燃焼室14の径方向における中央部に、凹部21が形成されることが好ましい。
ピストン頂面13aに凹部21を形成した場合の電界分布について説明する。一例として、円柱状の燃焼室14の直径Φを90mmとし、高さHを20mmとした。また、凹部21の形状を円柱形状とし、深さ(ピストン頂面13aから凹部21の底面までの距離)を6mmとした。そして、凹部21の直径を変えて、各直径における電界分布を調べた。図8に示す各電界分布は、1Wの供給時において周波数が約2.5GHzの共振モードにおいて形成された電界分布である。
図8(a)に示す電界分布は、凹部21の直径が15mmのときに形成される電界分布である。図8(b)に示す電界分布は、凹部21の直径が30mmのときに形成される電界分布である。図8(a)、(b)に示すように、電界分布は、凹部21の端部において最も高くなり、周囲部(径方向の外側)へ向かうほど低くなっている。
また、凹部21の端部において電界強度が高くなるため、凹部21の直径を大きくするほど、燃焼室14の中心部から離れた位置に高電界域が形成されることになる。すなわち、凹部21の直径を大きくするほど、より広い範囲に高電界を形成することが可能となる。例えば、マイクロ波放射器34の外側導体35の内径よりも、凹部21の直径を大きくすることにより、より広範囲に高電界を形成することが可能となる。そのことにより、少ない供給電力によって広範囲でプラズマ放電を行うことが可能となり、その結果、火炎伝達が促進され、希薄燃焼を実現することが可能となる。
次に、図9を参照して、周波数が5GHz帯(約5.8GHz)の共振モードの場合について説明する。図9は、内燃機関の他の構成例を示す図である。図3(c)に示すように、周波数が約5.8GHzの共振モードの電界分布は、燃焼室14の径方向の中央部が最も高くなる。また、中央部から離れた位置にも、電界分布がピークを形成する。このように、周波数が約5.8GHzの共振モードにおいては、複数の位置で電界強度が相対的に高くなる。
そこで、図9に示すように、燃焼室14の径方向における中央部に、突起部20を配置する。さらに、図3(c)に示す電界分布に対応させて、中央部から離れた位置であって電界分布がピークを形成する位置に、突起部20aを配置する。電界分布はマイクロ波放射器34を中心軸として軸対称に形成されるため、突起部20の両側にそれぞれ突起部20aを配置する。このように、電界強度が相対的に高くなる位置に、突起部20、20aを配置する。
ピストン頂面13aに突起部20、20aを配置した場合の電界分布について説明する。一例として、円柱状の燃焼室14の直径Φを90mmとし、高さHを20mmとした。また、突起部20、20aの形状を円柱形状とした。突起部20の直径を15mmとし、突起部20、20aの高さを7.5mmとした。また、マイクロ波放射器34の外側導体35の内径を15mmとした。図9に示すように、電界分布は、突起部20、20aが配置された箇所において最も高くなり、突起部20、20aの周囲へ向かうほど低くなっている。突起部20が配置された箇所の電界強度が高くなり、また、突起部20の両側に配置された突起部20aにおいても電界強度が高くなるため、燃焼室14内の広い範囲に高電界を形成することが可能となる。そのことにより、少ない供給電力によって広範囲でプラズマ放電を行うことが可能となり、その結果、火炎伝達が促進され、希薄燃焼を実現することが可能となる。
図9に示す例において、突起部20、20aの代わりに、ピストン頂面13aに凹部21を設けてもよい。また、突起部と凹部とを組み合わせて、ピストン頂面13aに設けてもよい。例えば、燃焼室14の径方向における中央部に突起部20を配置し、突起部20aが設けられた位置に、突起部20aの代わりに凹部を設けてもよい。または、燃焼室14の径方向における中央部に凹部21を設けてもよい。このように、突起部と凹部とを組み合わせた場合においても、突起部又は凹部が設けられた箇所の電界強度が高くなるため、燃焼室14内の広い範囲に高電界を形成することが可能となる。
なお、2つの突起部20aを配置せずに、燃焼室14の径方向における中央部のみに突起部20を配置してもよい。この場合であっても、突起部20によって電界強度を高めて、燃焼室14内の広い範囲に高電界を形成することができる。また、2つの突起部20aのうちのいずれか一方が、ピストン頂面13aに設けられていてもよい。
次に、図10を参照して、本発明の第1実施形態に係る内燃機関の他の構成例について説明する。図10は、内燃機関の他の構成例を示す図である。燃焼室14の別の構成例として、燃焼室14の高さが、中央部から端部にかけて徐々に低くなっていてもよい。例えば、シリンダヘッド11の燃焼室14に臨む面を斜めに形成することにより、燃焼室14の高さを、中央部から端部にかけて徐々に低くする。一例として、燃焼室14の直径Φを90mmとし、燃焼室14の中央部の高さを20mmとし、燃焼室14の端部の高さを4mmとした。例えば、1W供給時において周波数が約2.5GHzの共振モードにおける電界分布を調べた。この場合も、燃焼室14内に形成される電界分布は、燃焼室14の径方向において中央部が最も高く、周囲部(径方向の外側)へ向かうほど低くなっている。従って、図6(a)〜(c)にそれぞれ示す突起部20をピストン頂面13aの中央部に設けることにより、突起部20が配置された位置の電界強度を高めることが可能となる。そして、突起部20の直径を大きくするほど、広範囲に高電界を形成することが可能となる。そのことにより、少ない供給電力によって広範囲でプラズマ放電を行うことが可能となり、その結果、火炎伝達が促進され、希薄燃焼を実現することが可能となる。また、突起部20の代わりに、図8(a)、(b)に示す凹部21をピストン頂面13aに形成した場合も、突起部20と同じ効果を奏することが可能である。また、周波数が約5.8GHzの共振モードのように、複数の位置で電界強度が相対的に高くなる場合には、電界強度が相対的に高くなる各位置に突起部又は凹部を設けてもよい。
[第2の実施の形態]
次に、図11及び図12を参照して、本発明の第2実施形態に係る内燃機関について説明する。図11は、本発明の第2実施形態に係る内燃機関の概略構成を示す図である。図12は、本発明の第2実施形態に係る内燃機関の点火装置の概略構成を示す図である。第2実施形態に係る内燃機関10Aは、第1実施形態に係る内燃機関10と同様に、シリンダヘッド11と、シリンダ12と、シリンダ12及びピストン13により形成される燃焼室14と、シリンダヘッド11に設けられた吸気口15とを開閉する吸気弁16と、シリンダヘッド11に設けられた排気口17を開閉する排気弁18と、燃料噴射弁19と、を備えている。第2実施形態に係る内燃機関10Aには、第1実施形態に係る点火装置30に代えて、点火装置40が設けられている。本実施形態に係る点火装置40は、燃焼室14を臨む一端側に狭い間隙を設けて、強いマイクロ波電界を誘起して放電を形成することで、燃焼室14内の圧縮混合気の点火を行う。なお、突起部20及び凹部21のうち少なくとも一方が、ピストン頂面13aに設けられていてもよい。
点火装置40は、制御装置31と、マイクロ波発生電源32と、マイクロ波伝送路33と、マイクロ波放射器50と、を備えている。第2実施形態に係る点火装置40は、第1実施形態に係るマイクロ波放射器34に代えて、マイクロ波放射器50を備えている。なお、マイクロ波放射器50が、電磁波放射器の一例に相当する。
次に、マイクロ波放射器50について説明する。図12に示すように、マイクロ波放射器50は、外側導体35と内側導体36とによって構成された同軸構造を有する。外側導体35は筒状の形状を有し、接地されている。内側導体36は柱状の形状を有し、外側導体35の中心軸に沿って外側導体35内に配置されている。外側導体35と内側導体36とは、一定の間隔Lを隔てて配置されている。内側導体36は、マイクロ波放射器50の先端部50aにおいて外側導体35よりも外側に突出して設けられている。先端部50aの反対側において、マイクロ波伝送路33が内側導体36に接続されている。マイクロ波発生電源32により発生させたマイクロ波などの電磁波が、マイクロ波伝送路33を介してマイクロ波放射器50に供給される。外側導体35と内側導体36との間には、空洞部37が形成されている。空洞部37には、固体状の誘電体が設置されていてもよい。マイクロ波放射器50の先端部50a(終端部)が内燃機関10の燃焼室14に臨む状態で、マイクロ波放射器50がシリンダヘッド11に配置される。これにより、内側導体36は、外側導体35よりも燃焼室14内に向けて突出することになる。マイクロ波伝送路33を介してマイクロ波放射器50に供給されたマイクロ波などの電磁波は、外側導体35と内側導体36との間を伝播し、その一部が燃焼室14内に放射される。そして、燃焼室14を臨む一端側に狭い間隙を設けて、強いマイクロ波電界を誘起して放電を形成する。
また、外側導体35と内側導体36とは、マイクロ波発生電源32の出力インピーダンスと整合を図るために必要な間隔Lを隔てて配置されている。外側導体35と内側導体36との間(空洞部37)に配置される誘電体の誘電率に依存するが、外側導体35と内側導体36との間の間隔Lは、一例として数mm程度(例えば3mm〜10mm程度)となっている。
また、マイクロ波放射器50の先端部50a(終端部)には、空洞部37に連通する間隙38が形成されている。一例として、先端部50aのほぼ中央に間隙38が形成されている。内側導体36は、間隙38を通って外側導体35よりも外側に突出して設けられていることになる。一例として、先端部50aが、内側導体36と外側導体35とを接続する接続部に相当し、間隙38は先端部50aに形成されている。すなわち、内側導体36と外側導体35とは、先端部50a(終端部)で接続されており、先端部50a(接続部)に間隙38が形成されている。内側導体36と外側導体35とを先端部50aで接続すると、外側導体35と内側導体36との間を伝播してきたマイクロ波などの電磁波は、燃焼室14内に放射されず、先端部50aにおいて外側導体35の内側に反射されこととなる。そのような状態の中で、小さな間隙38を設けることが、本実施形態に係るマイクロ波放射器50の主たる構成である。間隙38を設けることにより、内側導体36と外側導体35との間を伝播するマイクロ波は、その一部が燃焼室14内に放射されるが、そのほとんどが先端部50aで反射される状況に変わりはない。マイクロ波放射器50の外側にマイクロ波が放射されない系に小さな間隙38を設けると、間隙38でのマイクロ波のエネルギー密度が高まり、高電界部が形成される。その電界はマイクロ波の電力の増加によって増加することになるが、その電界が雰囲気の絶縁破壊電界を超えると、プラズマ放電が生じる。本実施形態では、供給されたマイクロ波が燃焼室14内に放射されることがほとんどないため、より小さな電力でプラズマ放電を誘起することが可能となる。本実施形態では、間隙38の一部又はすべての幅Dは、マイクロ波のエネルギー密度を高めて、マイクロ波によるプラズマ放電の発生が可能な幅となっている。間隙38の幅Dは、一例として0.1mm〜1mm程度であることが好ましい。
本実施形態においては、マイクロ波放射器50の先端部50a側において、外側導体35及び内側導体36のうち少なくとも一方に、他方に対向する突起部が設けられており、突起部と他方との間で間隙38が形成されている。図12に示す例では、外側導体35の先端部50a側に、内側導体36に対向する突起部35aが設けられており、その突起部35aと内側導体36との間に間隙38が形成されている。
以上のように、間隙38の幅Dを、外側導体35と内側導体36との間の間隔Lよりも短くすることにより、マイクロ波などの高周波の供給に伴って間隙38に高い電界が生じやすくなる。一例として、間隙38の幅Dを0.1mm〜1mm程度にすることにより、間隙38に高い電界が形成されて絶縁破壊が生じ、その結果、マイクロ波によるプラズマ放電が間隙38にて発生する。間隙38によって発生したプラズマ放電によって、燃焼室14内の混合気の点火を行うことが可能となる。このように間隙38によってプラズマ放電を発生させることができるため、従来技術と比べて大きな電力を供給しなくてもプラズマ放電を発生させることが可能となる。また、DC放電によるアシストが不要となり、又は、DC放電の低電力化が可能となる。そのため、本実施形態に係るマイクロ波放射器50によると、従来技術よりも低電力でプラズマ放電を発生させて、燃焼室14内の混合気の点火を行うことが可能となる。従来技術においては、内側導体と外側導体とはその間隔を変えることなく、内側導体が外側導体に対して外側に突出している。そのような構造では、内側導体と外側導体との間を伝播するマイクロ波は、先端部(終端部)で反射されるのはその一部であり、多くは燃焼室内に放射される。このような従来技術に係る構成では、本実施形態に係るマイクロ波放射器50と比較して、先端部での電界はより低くならざるを得ない。そのため、従来技術においては、放電(点火)時にDC放電によるアシストが必要になったり、より大きな電力が必要になったりする。また、内側導体36が外側導体35よりも燃焼室14内に向けて突出して設けられているため、燃焼室14内において、マイクロ波の反射率を低下させることが可能となる。そのことにより、燃焼室14内において広範囲に高電界を形成することが可能となるため、少ない供給電力によって広範囲でプラズマ放電を行うことが可能となり、その結果、火炎伝達が促進され、希薄燃焼を実現することが可能となる。
次に、図13を参照して、第2実施形態に係るマイクロ波放射器の他の構成例について説明する。図13は、マイクロ波放射器の他の構成例を示す断面図である。図13に示すマイクロ波放射器50のように、マイクロ波放射器50の先端部50aにおいて、先端部50aの中心から離れた位置に間隙38が形成されていてもよい。一例として、外側導体35の先端部50a側に、内側導体36に対向する突起部35aが設けられており、その突起部35aと内側導体36との間に間隙38が形成されている。この場合においても、間隙38に高い電界が形成されて、マイクロ波によるプラズマ放電を間隙38にて発生させることが可能となる。また、内側導体36が外側導体35よりも燃焼室14内に向けて突出して設けられているため、燃焼室14内において広範囲に高電界を形成することが可能となる。
次に、図14を参照して、第2実施形態に係るマイクロ波放射器の他の構成例について説明する。図14は、マイクロ波放射器の他の構成例を示す断面図である。図14に示すように、マイクロ波放射器50の先端部50a側において、空洞部37に連通する間隙38がマイクロ波放射器50の側面に形成されている。一例として、先端部50a(終端部)が、内側導体36と外側導体35とを接続する接続部に相当し、間隙38は、外側導体35の側面に形成されている。すなわち、内側導体36と外側導体35とは、先端部50a(終端部)で接続されており、外側導体35に間隙38が形成されている。内側導体36と外側導体35とを先端部50aで接続すると、外側導体35と内側導体36との間を伝播してきたマイクロ波などの電磁波は、燃焼室14内に放射されず、先端部50aにおいて外側導体35の内側に反射されることになる。そのような状態の中で、小さな間隙38を設けることが、本実施形態に係るマイクロ波放射器50の主たる構成である。間隙38を設けることにより、内側導体36と外側導体35との間を伝播するマイクロ波は、その一部が燃焼室14内に放射されるが、そのほとんどが先端部50aで反射される状況に変わりはない。マイクロ波放射器50の外側にマイクロ波が放射されない系に小さな間隙38を設けると、間隙38でのマイクロ波のエネルギー密度が高まり、高電界部が形成される。上述したように、電界が雰囲気の絶縁破壊電界を超えると、プラズマ放電が生じる。本実施形態では、供給されたマイクロ波が燃焼室14内に放射されることがほとんどないため、より小さな電力で放電を誘起することが可能となる。
図14に示す例では、内側導体36の先端部50a側に、外側導体35に対向する突起部36aが設けられており、その突起部36aと外側導体35との間に間隙38が形成されている。例えば、マイクロ波放射器50の側面には、周方向に沿って部分的に軸方向の幅が異なる間隙が形成されており、その間隙において軸方向の幅が幅Dとなっている箇所が、上述の間隙38に相当する。このように、幅Dを有する複数の間隙38が、マイクロ波放射器50の側面において周方向に沿って互いに所定距離を隔てた箇所に形成されていてもよい。すなわち、周方向に沿って部分的に幅Dを有する間隙38が形成されていてもよい。このように、間隙38がマイクロ波放射器50の側面に形成されている場合も、間隙38に高い電界が形成されて、その結果、マイクロ波によるプラズマ放電を間隙38にて発生させることが可能となる。また、内側導体36が外側導体35よりも燃焼室14内に向けて突出して設けられているため、燃焼室14内において広範囲に高電界を形成することが可能となる。
次に、図15を参照して、第2実施形態に係るマイクロ波放射器50を用いた場合の電界分布について説明する。図15は、本発明の第2実施形態に係るマイクロ波放射器によって形成される電界分布を示す図である。一例として、円柱状の燃焼室14の直径Φを90mmとし、高さHを20mmとした。また、外側導体35から突出させている内側導体36の部分の長さを、2mmとした。図15に示す電界分布は、1W供給時において周波数が約2.5GHzの共振モードにおいて形成された電界分布である。
図15(a)に、第2実施形態に係るマイクロ波放射器50によって形成された電界分布を示す。図15(b)に、比較例に係るマイクロ波放射器60によって形成された電界分布を示す。比較例に係るマイクロ波放射器60においては、内側導体36は外側導体35から突出せずに、外側導体35内に配置されている。
第2実施形態に係るマイクロ波放射器50によると、燃焼室14内におけるマイクロ波の反射率は0.10となった。一方、比較例に係るマイクロ波放射器60によると、燃焼室14内におけるマイクロ波の反射率は0.74となった。
また、図15(a)、(b)に示すように、電界分布は、マイクロ波放射器50、60が配置された中央部において最も高くなり、周囲部(径方向の外側)へ向かうほど低くなっている。しかしながら、第2実施形態に係るマイクロ波放射器50によると、比較例に係るマイクロ波放射器60よりも広範囲に高電界を形成することが可能となる。比較例に係るマイクロ波放射器60では、マイクロ波放射器60の近傍のみに高電界が形成されるが、第2実施形態に係るマイクロ波放射器50によると、マイクロ波放射器50から離れた領域にも高電界域が形成される。このように、第2実施形態に係るマイクロ波放射器50によると、内側導体36が外側導体35よりも燃焼室14内に向けて突出して設けられているため、マイクロ波放射器50から燃焼室14へのマイクロ波の供給効率が向上することになる。燃焼室14内においてマイクロ波の反射率を低下させることが可能となる。そのことにより、燃焼室14内において広範囲に高電界を形成することが可能となるため、少ない供給電力によって広範囲でプラズマ放電が可能となり、その結果、火炎伝達が促進され、希薄燃焼を実現することが可能となる。
なお、第1実施形態に係る内燃機関10に、第2実施形態に係る点火装置40を設けてもよい。すなわち、ピストン頂面13aに突起部20又は凹部21を設け、さらに、第2実施形態に係るマイクロ波放射器50によってプラズマ放電を行ってもよい。この場合においても、少ない供給電力によって広範囲でプラズマ放電を行うことが可能となり、その結果、火炎伝達が促進され、希薄燃焼を実現することが可能となる。