(第1実施形態)
以下、第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態は、エンジンのクランクシャフトの回転方向および回転角度を検出するクランク角検出装置の異常を判定する異常判定装置に具体化している。
図1に示すように、エンジンのクランクシャフトに設けられたシグナルロータ30は、円板形状の部材であり、その外周には多数の突起が所定角度毎に、ここでは10CA(クランク角)毎に離間して設けられている。シグナルロータ30の外周には、シグナルロータ30、すなわちクランクシャフトの基準位置としての欠歯34が設けられている。欠歯34は、連続する2つの突起32が省略されることにより設けられている。そして、シグナルロータ30はクランクシャフトの回転に伴って回転する。
シグナルロータ30側方の近接した位置には、シグナルロータ30、すなわちクランクシャフトの回転方向および回転角度を検出するクランク角検出装置40が配置されている。クランク角検出装置40は、2つのクランクポジションセンサ42,44と、処理回路46とを備えている。これらは、一体化されたユニットとして構成され、エンジンを搭載する車両の組み立ての際には一つの部品として取り扱われる。
2つのクランクポジションセンサ42,44は、シグナルロータ30の回転方向(周方向)に離間して配置されている。具体的には、これらのセンサ42,44は、シグナルロータ30の回転方向において突起32の1.5個分の幅ずらして配置されており、シグナルロータ30の正転時を基準とすると、センサ42,44が遅角側と進角側とにそれぞれ配置されている。突起32が各センサ42,44に対向する位置を通過する際には、各センサ42,44からはそれに対応した略矩形波形の検出信号が出力される。この検出信号は、突起32が対向位置を通過するときに“H”レベルとなり、突起間の谷間が対向位置を通過するときに“L”レベルとなる。そして、センサ42,44の一方の検出信号が“H”レベルである場合には、他方の検出信号は“L”レベルとなる。なお、センサ42,44は、シグナルロータ30の回転方向において突起32の1.5個分の幅ずらして配置された構成に限らず、突起32の0.5個分の幅や2.5個分の幅ずらして配置された構成等を採用することもできる。
処理回路46は、クランクポジションセンサ42,44の検出信号に基づいてシグナルロータ30、すなわちクランクシャフトの回転方向および回転角度を検出する。そして、処理回路46は、クランクシャフトが正転状態である場合と逆転状態である場合とで時間幅の異なるパルス信号を所定クランク角毎に出力する。処理回路46は、こうした処理を行う論理回路として構成されている。また、シグナルロータ30にはクランクシャフトの基準位置としての欠歯34が設けられているため、処理回路46はクランクシャフトの基準位置においてその前後と異なる角度間隔でパルス信号を出力する。
クランク角検出装置40には、信号線52を介して電子制御装置(ECU)50が接続されている。ECU50は、制御プログラムが格納されたROM、その制御プログラムを読み出して実行するCPU、CPUのワークスペースとなるRAM等を含んで構成され、エンジンの運転に関する各種制御を行う。それらの制御の中には、エンジンの燃料噴射に関する噴射制御や、燃料と空気との混合気への点火に関する点火制御が含まれる。
ECU50は、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号の時間間隔に基づいてクランクシャフトの基準位置を検出する。具体的には、ECU50は、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号の立ち下りエッジから次の立ち下がりエッジまでの時間間隔を算出し、今回算出された立ち下がり時間間隔T1と前回算出された立ち下がり時間間隔T0との比(T1/T0)が判定値RCよりも大きい場合、すなわち(T1/T0)>RCである場合にクランクシャフトの基準位置であることを検出する。ここでは、連続する2つの突起32が省略されることにより基準位置としての欠歯34が設けられているため、例えば判定値RCは2.4に設定されている。なお、ECU50は基準位置検出手段を構成する。
次に、クランク角検出装置40の処理回路46が行うパルス信号の生成処理について説明する。
図2に示す対応表に従って、処理回路46は、シグナルロータ30、すなわちクランクシャフトの正転状態又は逆転状態を検出する。処理回路46は、一方のセンサの検出信号が変化したタイミングにおける他方のセンサの検出信号の状態に基づいて、クランクシャフトの回転方向を検出している。具体的には、正転時を基準として遅角側のクランクポジションセンサ42が“L”レベルから“H”レベルに変化したときに進角側のクランクポジションセンサ44が“L”レベルである場合と、遅角側のセンサ42が“H”レベルから“L”レベルに変化したときに進角側のセンサ44が“H”レベルである場合に、クランクシャフトが正転方向に回転していることを検出する。また、遅角側のセンサ42が“L”レベルから“H”レベルに変化したときに進角側のセンサ44が“H”レベルである場合と、遅角側のセンサ42が“H”レベルから“L”レベルに変化したときに進角側のセンサ44が“L”レベルである場合に、クランクシャフトが逆転方向に回転していることを検出する。
そして、図3に示すように、処理回路46は、シグナルロータ30、すなわちクランクシャフトの正転状態が検出されている場合において、遅角側のセンサ42の検出信号の立ち下がりエッジを検出すると、そのタイミングで時間幅αの“L”レベルのパルス信号をECU50に向けて出力する。一方、処理回路46は、クランクシャフトの逆転状態が検出されている場合において、遅角側のセンサ42の検出信号の立ち上がりエッジを検出すると、そのタイミングで時間幅αよりも長い時間幅βの“L”レベルのパルス信号を出力する。ここで、シグナルロータ30の突起32は10CA毎に設けられているため、これらのパルス信号は10CA毎に出力される。具体的には、時間幅αは75μsに設定されており、時間幅βは600μsに設定されている。また、処理回路46は、これらの時間幅αのパルス信号および時間幅βのパルス信号を出力している場合以外は、“H”レベルのパルス信号を出力する。なお、パルス信号の時間幅α,βは固定値に限らず、シグナルロータ30の回転が高速になるほど、パルス信号の時間幅α,βが短くなるように設定してもよい。
ECU50は、こうしたパルス信号を入力して、これに基づきシグナルロータ30、すなわちクランクシャフトの回転位置を算出するとともに、クランクシャフトの基準位置の検出に基づいて、クランクシャフトの回転位置として基準位置に対応する所定回転位置を設定する。具体的には、ECU50は、クランク角検出装置40からパルス信号が3回入力される、又はクランクシャフトの基準位置を検出すると以下の処理を実行する。すなわち、クランク角検出装置40からパルス信号が10CA毎に出力されるため、パルス信号が3回入力された時にクランクシャフトの回転位置を30CA進める。また、ECU50は、クランクシャフトの基準位置を検出すると、クランクシャフトの基準位置に対応する回転位置として150CA又は510CAを設定する。このとき、ECU50は、基準位置としての欠歯34の検出状態を表す基準位置判定フラグをONにする。なお、150CAの回転位置であるか510CAの回転位置であるかは、クランクシャフトに連結されて回転されるカムシャフトに設けられたカムポジションセンサからの信号に基づいて判断される。カムポジションセンサからの信号は、クランクシャフトの回転位置が150CAであるときに“L”レベルとなり、510CAであるときに“H”レベルとなるように設定されている。
さらに、ECU50は、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号の時間幅ががβμsecである場合には、クランクシャフトが逆転状態であると検出する一方、時間幅がβμsecでない場合には、クランクシャフトが正転状態であると検出する。そして、ECU50は、このようにしてクランクシャフトが正転状態にあるか、又は逆転状態にあるかを検出し、それぞれの回転状態においてパルス信号の入力により回転位置を進角または遅角させることにより、クランクシャフトの回転位置を算出する。すなわち、逆転状態が検出された場合には、正転状態で算出された回転位置から逆転状態で入力されたパルス信号の数に対応するクランク角だけ回転位置を遅角させることで、逆転後の回転位置を算出する。なお、上記のECU50の処理では、パルス信号の時間幅がβμsecであるか否か判定しているが、これに代えて、パルス信号の時間幅がαμsecであるか否か判定してもよい。なお、ECU50は回転位置算出手段を構成する。
ここで、クランク角検出装置40の異常時に、時間幅α,βのパルス信号が上記所定クランク角毎に連続して出力される故障モードが存在することが、本願発明者らによって確認されている。具体的には、クランク角検出装置40の処理回路46は、図4に示すように上述したパルス信号の生成処理を行っている。処理回路46の正常時には、正転判定および逆転判定の一方のみにおいて出力許可が行われ、正転出力指示および逆転出力指示のうち一方のみが出力される。そして、出力選択において、正転状態および逆転状態に応じて、時間幅αのパルス信号と時間幅βのパルス信号とが選択されて出力される。これに対して、処理回路46の異常時、例えばクランクシャフトの正転中に逆転判定を行う部分において故障が生じた場合には、正転判定および逆転判定の双方において出力許可が行われる。このため、正転出力指示および逆転出力指示の双方が出力され、出力選択において双方の指示が重畳して入力された状態となる。そして、出力選択において、先に入力された一方の指示に基づいてパルス信号が出力され、待機時間が経過した後に他方の指示に基づいてパルス信号が出力される。このとき、パルス信号の時間間隔がクランクシャフトの基準位置を検出するときの条件を満たすこととなり、ECU50によってクランクシャフトの基準位置の検出が誤って行われる。
図5(a),(b)に示すように、クランク角検出装置40の正常時には、クランクシャフトの正転状態が検出されている場合に、遅角側のセンサ42の検出信号の立ち下がりエッジにおいて、時間幅αの“L”レベルのパルス信号がクランク角検出装置40からECU50に向けて出力される。
これに対して、図5(c)に示すように、クランク角検出装置40の異常時(エンジン回転速度1800rpm)には、クランクシャフトの正転状態が検出されている場合に、クランク角検出装置40からECU50に向けて、遅角側のセンサ42の検出信号の立ち下がりエッジにおいて時間幅αの“L”レベルのパルス信号が出力されたのに続いて、時間幅γの“H”レベルのパルス信号が出力され、これに続いて時間幅βの“L”レベルのパルス信号が出力される。ここで、上述したように、時間幅αは75μsであり、時間幅βは600μsである。そして、時間幅αのパルス信号が出力された後の待機時間である時間幅γは130μsに設定されている。このため、今回算出された立ち下がり時間間隔T1と前回算出された立ち下がり時間間隔T0との比(T1/T0)は、(β+T2)/(α+γ)で表され、(600+T2)/(75+130)となる。この比の値は、T2=0であったとしても2.92となるため、クランクシャフトの基準位置を検出するときの時間間隔の条件である(T1/T0)>RCを満たすこととなり(判定値RC=2.4)、ECU50はクランクシャフトの基準位置を検出することとなる。そして、この基準位置の検出は、遅角側のセンサ42の立ち下がりエッジ毎に繰り返される。
また、図5(d)に示すように、クランク角検出装置40の異常時(エンジン回転速度5400rpm)にも、図5(c)と同様のパルス信号が出力される。なお、図5(d)ではエンジン回転速度が図5(c)よりも高い5400rpmであるため、図5(a)の遅角側のセンサ42におけるパルス信号の幅に対する図5(d)のパルス信号の幅は相対的に広くなっている。このとき、時間幅α,β,γのいずれかのパルス信号の出力中に遅角側のセンサ42の検出信号の立ち下がりエッジが検出されたとしても、これらの時間幅α,β,γのパルス信号の出力が優先される。このため、時間幅βのパルス信号が出力された後の立ち下がりエッジにおいて、クランクシャフトの基準位置を検出するときの時間間隔の条件である(T1/T0)>RCが満たされ、ECU50はクランクシャフトの基準位置を検出することとなる。そして、次の遅角側のセンサ42の立ち下がりエッジが検出されると、再び時間幅αの“L”レベルのパルス信号から順に出力され、この基準位置の検出が繰り返される。
したがって、クランク角検出装置40の異常時に、エンジン回転速度に関わらず、クランクシャフトの基準位置が繰り返し検出されることとなる。これに対して、本実施形態では、クランクシャフトの基準位置が検出される態様に基づいてクランク角検出装置40の異常を判定している。具体的には、ECU50によりクランクシャフトの基準位置が検出される頻度に基づいてクランク角検出装置40の異常を判定している。
図6(a),(b)に示すように、クランク角検出装置40の正常時には、ECU50は、150CA及び510CA(三角形印で示す位置)においてクランクシャフトの基準位置を検出する。これに対して、例えば150CAにおいてクランク角検出装置40に故障が生じると、図6(c)に示すように、ECU50は、所定クランク角毎に、ここでは10CA毎(三角形印で示す位置毎)にクランクシャフトの基準位置を検出する。このため、クランク角検出装置40の異常時には正常時と異なる頻度でクランクシャフトの基準位置が検出される。したがって、クランクシャフトの基準位置の検出される頻度が正常時よりも高いことに基づいて、クランク角検出装置40の異常を判定することができる。
そこで、本実施形態では、図7のフローチャートに示す処理手順により、クランク角検出装置40の異常を判定する。この処理は、ECU50によって、所定のクランク角(30CA)周期をもって繰り返し実行される。なお、所定のクランク角としての30CAの経過は、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号に基づいて判断してもよいし、クランクポジションセンサ42,44の検出信号に基づいて判断してもよい。クランク角検出装置40から出力されるパルス信号に基づいて所定のクランク角の経過を判断する場合には、信号線52と別個に新たな信号線を設ける必要がないといった利点がある。
まず、カムシャフトに設けられたカムポジションセンサからの信号においてエッジが検出されていないか否か判定される(S11)。すなわち、カムポジションセンサは、クランクシャフトが所定回転位置にある時に信号のエッジを出力するため、クランクシャフトの回転位置がその所定回転位置にないか否か判定される。ここで、クランク角検出装置40が異常である場合も、カムポジションセンサからの信号に基づいてクランク角の所定期間を正確に計測することができる。
上記判定において、カムポジションセンサからの信号においてエッジが検出されていないと判定された場合には(S11:YES)、クランクシャフトの基準位置の検出状態を表す基準位置判定フラグがONとなっているか否か判定される(S12)。すなわち、シグナルロータ30(クランクシャフト)の基準位置としての欠歯34が検出されているか否か判定される。クランク角検出装置40の正常時には、150CA及び510CAにおいて基準位置が検出され、異常時には所定クランク角(10CA)毎に基準位置が検出される。
上記判定において、クランクシャフトの基準位置の検出状態を表す基準位置判定フラグがONとなっていると判定された場合には(S12:YES)、基準位置カウンタが加算される(S13)。ここで、クランク角検出装置40の正常時には、150CA及び510CAにおいて基準位置カウンタが加算される一方、異常時には所定クランク角(10CA)毎に基準位置カウンタが加算される。なお、カムシャフトに設けられたカムポジションセンサからの信号においてエッジが検出されていると判定されて(S11:NO)、基準位置カウンタがクリアされてから(S16)、基準位置が検出された回数が基準位置カウンタに加算されることとなる。
一方、クランクシャフトの基準位置の検出状態を表す基準位置判定フラグがONとなっていないと判定された場合には(S12:NO)、本処理は一旦終了される。すなわち、クランクシャフトの基準位置が検出されていないため、基準位置カウンタが加算されることなく一旦終了される。
こうして基準位置カウンタが加算された後(S13)、基準位置カウンタが所定数以上であるか否か判定される(S14)。すなわち、クランク角検出装置40の正常時には、カムポジションセンサからの信号においてエッジが出力されて基準位置カウンタがクリアされるまでに、150CA又は510CAにおいて基準位置カウンタが加算されるのに対して、異常時には所定クランク角(10CA)毎に基準位置カウンタ加算されるため、この基準位置カウンタの値によりクランク角検出装置40の異常を判定することができる。ここで、上記所定数は、基準位置の検出される頻度が正常時とは異なる、具体的には基準位置の検出される頻度が正常時よりも高いことを判定することのできる値に設定されている。
上記判定において、基準位置カウンタが所定数以上であると判定された場合には(S14:YES)、クランク角検出装置40が異常であると判定されて(S15)、本処理は終了される。
一方、基準位置カウンタが所定数以上でないと判定された場合には(S14:NO)、本処理は一旦終了される。以後、本処理は、所定のクランク角(30CA)周期毎に再び実行される(S11)。
なお、S11〜16の処理が異常判定手段としての処理に相当する。
以上詳述した本実施形態は以下の利点を有する。
クランク角検出装置40は、シグナルロータ30、すなわちクランクシャフトが正転状態である場合と逆転状態である場合とで異なる時間幅α,βのパルス信号を10CA毎に出力するため、1本の信号線52によってクランクシャフトの回転方向および回転角度を出力することができる。また、クランク角検出装置40は、クランクシャフトの基準位置であるシグナルロータ30の欠歯34において、その前後と異なる角度間隔でパルス信号を出力するため、基準位置が通過する際にはパルス信号の時間間隔が変化する。そして、ECU50は、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号の時間間隔に基づいて、即ちこのようなパルス信号の時間間隔の変化に基づいてクランクシャフトの基準位置を検出する。
ここで、クランク角検出装置40の異常時には、クランクシャフトの正転状態と逆転状態とに応じて出力される異なる時間幅α,βのパルス信号が、正常時とは異なる態様で出力されることがある。具体的には、クランク角検出装置40の異常時に、異なる時間幅α,βのパルス信号が所定クランク角毎に連続して出力される故障モードが存在することが、本願発明者らによって確認されている。
このとき、異なる時間幅α,βのパルス信号が出力される態様によっては、その時のパルス信号の時間間隔がクランクシャフトの基準位置を検出するときの条件を満たすこととなり、ECU50によって基準位置の検出が行われることがある。クランクシャフトの基準位置の検出は、基準位置以外では通常起こり得ないため、ECU50は、基準位置が検出される態様に基づいてクランク角検出装置40の異常を正確に判定することができる。
クランク角検出装置40の正常時には、クランクシャフトの基準位置が所定の頻度、具体的には150CA及び510CAにおいて検出される。このため、基準位置の検出される頻度が正常時と異なる場合には、クランク角検出装置40が異常である可能性が高い。
そこで、ECU50は、クランクシャフトの基準位置が検出される頻度に基づいてクランク角検出装置40の異常を判定するといった構成を採用しているため、クランク角検出装置40の異常を正確に判定することができる。
具体的には、ECU50は、カムポジションセンサの信号においてエッジが検出されてから次にエッジが検出されまでの期間内に、クランクシャフトの基準位置が所定回数以上検出されることにより、クランク角検出装置40の異常を判定するといった構成を採用している。したがって、簡易な構成により、クランク角検出装置40の異常を正確に判定することができる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、第1実施形態と同様の前提構成において、ECU50により算出されるクランクシャフトの回転位置が所定回転位置である態様に基づいて、クランク角検出装置40の異常を判定する。具体的には、クランクシャフトの回転位置が150CA又は510CAである状態が継続することにより、クランク角検出装置40の異常を判定する。
図8(a),(b)に示すように、クランク角検出装置40の正常時には、ECU50は、クランク角検出装置40からパルス信号が3回入力される、又はクランクシャフトの基準位置を検出すると(三角形印で示す位置)、図8(d)に示すようにクランクシャフトの回転位置を30CA進める。また、ECU50は、150CA又は510CAにおいてクランクシャフトの基準位置を検出すると、図8(e)に示すように、判定カウンタを加算する。そして、ECU50は、クランクシャフトが初期化回転位置、ここでは0CAであることを検出すると、判定カウンタをクリアして0にする。
これに対して、例えば150CAにおいてクランク角検出装置40に故障が生じると、図8(c)に示すように、ECU50は、所定クランク角(10CA)毎にクランクシャフトの基準位置を検出する(三角形印で示す位置)。そして、ECU50は、クランクシャフトの基準位置を検出すると、クランクシャフトの基準位置に対応した回転位置として150CA又は510CAを設定する。150CAの回転位置であるか510CAの回転位置であるかは、クランクシャフトに連結されて回転されるカムシャフトに設けられたカムポジションセンサからの信号に基づいて判断される。
また、ECU50は、クランクシャフトの基準位置を検出すると、図8(g)に示すように、判定カウンタを加算する。ここで、クランクシャフトの回転位置は、150CA又は510CAに繰り返し設定されているため、ECU50は、クランクシャフトが初期化回転位置(0CA)であることを検出せず、判定カウンタを加算し続ける。したがって、判定カウンタが所定数以上となること、すなわちクランクシャフトの回転位置が150CA又は510CAである状態が継続することに基づいて、クランク角検出装置40の異常を判定することができる。換言すれば、クランクシャフトの回転位置が150CA又は510CAである状態から変化しないことに基づいて、クランク角検出装置40の異常を判定することができる。
そこで、本実施形態では、図9のフローチャートに示す処理手順により、クランク角検出装置40の異常を判定する。この処理は、ECU50によって、所定のクランク角(30CA)周期毎、又はクランクシャフトの基準位置が検出される毎に繰り返し実行される。なお、所定のクランク角としての30CAの経過は、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号に基づいて判断してもよいし、クランクポジションセンサ42,44の信号に基づいて判断してもよい。クランク角検出装置40から出力されるパルス信号に基づいて所定のクランク角の経過を判断する場合には、信号線52と別個に新たな信号線を設ける必要がないといった利点がある。
まず、クランクシャフトの回転位置が初期化回転位置でないか否か判定される(S21)。すなわち、クランクシャフトの回転位置がエンジンの1サイクルの区切りとなる初期化回転位置、ここでは0CAでないか否か判定される。
上記判定において、クランクシャフトの回転位置が初期化回転位置でないと判定された場合には(S21:YES)、クランクシャフトの回転位置が所定回転位置であるか否か判定される(S22)。すなわち、クランクシャフトの回転位置が、基準位置としての欠歯34が検出される時の回転位置である150CA又は510CAであるか否か判定される。ここで、クランク角検出装置40の正常時には、本処理の実行毎にクランクシャフトの回転位置が30CAずつ進められており、異常時にはクランクシャフトの回転位置が150CA又は510CAで継続されている。
上記判定において、クランクシャフトの回転位置が所定回転位置であると判定された場合には(S22:YES)、判定カウンタが加算される(S23)。ここで、クランク角検出装置40の正常時には、150CA及び510CAにおいて判定カウンタが加算される一方、異常時には所定クランク角(10CA)毎に判定カウンタが加算される。なお、クランクシャフトの回転位置が初期化回転位置であると判定されて(S21:NO)、判定カウンタがクリアされてから(S26)、クランクシャフトの回転位置が所定回転位置(150CA又は510CA)となった回数が判定カウンタに加算される。
一方、クランクシャフトの回転位置が所定回転位置でないと判定された場合には(S22:NO)、本処理は一旦終了される。すなわち、クランクシャフトの回転位置が、基準位置としての欠歯34が検出される時の回転位置である150CA又は510CAではないため、判定カウンタが加算されることなく一旦終了される。
こうして判定カウンタが加算された後(S23)、判定カウンタが所定数以上であるか否か判定される(S24)。すなわち、クランク角検出装置40の正常時には、クランクシャフトの回転位置が初期化回転位置であると判定されて判定カウンタがクリアされるまでに、150CA及び510CAにおいて判定カウンタが加算されるのに対して、異常時には所定クランク角(10CA)毎に判定カウンタが加算されるため、この判定カウンタの値によりクランク角検出装置40の異常を判定することができる。したがって、上記所定数は、クランクシャフトの回転位置が150CA又は510CAである状態が継続している、換言すればクランクシャフトの回転位置が150CA又は510CAである状態から変化していないことを判定することのできる値に設定されている。ここでは、クランク角検出装置の正常時には判定カウンタは0〜2までの値を取るため、所定数として異常時にのみ取り得る値である6が設定されている。
上記判定において、判定カウンタが所定数以上であると判定された場合には(S24:YES)、クランク角検出装置40が異常であると判定されて(S25)、本処理は終了される。
一方、判定カウンタが所定数以上でないと判定された場合には(S24:NO)、本処理は一旦終了される。以後、本処理は、所定のクランク角(30CA)周期毎、又はクランクシャフトの基準位置が検出される毎に再び実行される(S21)。
なお、S21〜26の処理が異常判定手段としての処理に相当する。
以上詳述した本実施形態は以下の利点を有する。なお、第1実施形態と異なる利点のみを記載する。
ECU50は、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号に基づいてクランクシャフトの回転位置を算出するため、クランクシャフトの回転に伴ってクランクシャフトの回転位置が更新される。また、ECU50は、クランクシャフトの基準位置の検出に基づいてクランクシャフトの回転位置として所定回転位置を設定するため、クランクシャフトの基準位置が通過する時に基準位置に応じた所定回転位置である150CA又は510CAに更新される。
ここで、クランク角検出装置40の異常時には、ECU50によってクランクシャフトの基準位置の検出が誤って行われ、クランクシャフトの回転位置として150CA又は510CAが設定されることがある。このため、クランクシャフトの回転位置が150CA又は510CAから変化しないような場合には、クランク角検出装置40の異常に起因してクランクシャフトの基準位置の検出が行われている可能性が高い。そこで、ECU50は、クランクシャフトの回転位置が所定回転位置である態様に基づいて、クランク角検出装置40の異常を判定するといった構成を採用しているため、クランク角検出装置40の異常を正確に判定することができる。
具体的には、ECU50は、クランクシャフトの回転位置が初期化回転位置であることが検出されてから次に初期化回転位置であることが検出されまでの期間内に、クランクシャフトの回転位置が所定回転位置となった回数が所定数以上である場合に、クランク角検出装置40の異常を判定するといった構成を採用している。したがって、簡易な構成により、クランク角検出装置40の異常を正確に判定することができる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、第1実施形態と同様の前提構成において、ECU50により所定の割込み処理の行われる頻度に基づいて、クランク角検出装置40の異常を判定する。具体的には、ECU50によって所定の割込み処理が実行される時間間隔が所定の判定時間よりも短いことにより、クランク角検出装置40の異常を判定する。
ここで、ECU50は、信号線を介してクランクポジションセンサ42,44のいずれかの信号を入力し、その信号が1つ入力されると、そのパルス信号の立ち下がりエッジから時間計測を開始し、次に入力されるパルス信号の立ち下がりエッジまでの時間間隔を計測する。そして、ECU50は、計測された立ち下がりエッジの時間間隔に基づいて、シグナルロータ30、すなわちクランクシャフトの回転速度を算出する。
第2実施形態と同様にして、図8(a),(b)に示すように、クランク角検出装置40の正常時には、ECU50は、クランク角検出装置40からパルス信号が3回入力される、又はクランクシャフトの基準位置を検出すると(三角形印で示す位置)、図8(d)に示すようにクランクシャフトの回転位置を30CA進める。
これに対して、例えば150CAにおいてクランク角検出装置40に故障が生じると、図8(c)に示すように、ECU50は、所定クランク角(10CA)毎にクランクシャフトの基準位置を検出する(三角形印で示す位置)。このため、所定のクランク角(30CA)周期毎、又はクランクシャフトの基準位置が検出される毎に、所定の割込み処理を実行する場合、クランク角検出装置40の異常時には正常時よりも高い頻度で所定の割込み処理が行われる。したがって、所定の割込み処理が実行される頻度が正常時よりも高いことに基づいて、クランク角検出装置40の異常を判定することができる。
そこで、本実施形態では、図10のフローチャートに示す処理手順により、クランク角検出装置40の異常を判定する。本処理は、ECU50によって、所定のクランク角(30CA)周期毎、又はクランクシャフトの基準位置が検出される毎に、所定の割込み処理として繰り返し実行される。ここでは、所定のクランク角としての30CAの経過は、クランクポジションセンサ42,44のいずれかの信号に基づいて判断される。このため、クランク角検出装置40の処理回路46が故障している場合であっても、これらのセンサ42,44が正常である場合には30CAの経過を正確に計測することができる。
まず、前回の処理からの経過時間τ1が計測される(S31)。すなわち、所定の割込み処理としての本処理が実行される時間間隔がタイマ等により計測される。
こうして前回の処理からの経過時間τ1が計測された後(S31)、クランク角検出装置の正常時における前回の処理からの経過時間τ2が算出される(S32)。ここで、クランク角検出装置40が正常である場合の経過時間τ2は、割込み処理としての本処理が実行されるクランク角周期である30CAと、クランクシャフトの回転速度とに基づいて算出することができる。具体的には、クランクシャフトの回転速度から単位時間あたりのクランク角の変化量を算出し、この単位時間あたりのクランク角の変化量によって所定のクランク角周期である30CAを割ることにより、経過時間τ2を算出することができる。
こうしてクランク角検出装置の正常時における前回の処理からの経過時間τ2が算出された後(S32)、経過時間の偏差Δτが所定時間以上であるか否か判定される(S33)。すなわち、これらの経過時間τ1,τ2の偏差が所定時間以上である場合、すなわち割込み処理としての本処理が実行される頻度が正常時よりも高い場合には、クランク角検出装置40が異常であることに起因してクランクシャフトの基準位置が誤って検出されている可能性が高い。このため、これらの経過時間τ1,τ2の偏差が所定時間以上であること、すなわち割込み処理としての本処理が実行される時間間隔(経過時間τ1)が所定の判定時間よりも短いことにより、クランク角検出装置40の異常を判定することができる。
上記判定において、経過時間の偏差Δτが所定時間以上であると判定された場合には(S33:YES)、クランク角検出装置40が異常であると判定されて(S34)、本処理は終了される。
一方、経過時間の偏差Δτが所定時間以上でないと判定された場合には(S33:NO)、本処理は一旦終了される。以後、本処理は、所定のクランク角(30CA)周期毎、又はクランクシャフトの基準位置が検出される毎に再び実行される(S31)。
なお、S31〜34の処理が割込み処理手段および異常判定手段としての処理に相当する。
以上詳述した本実施形態は以下の利点を有する。なお、第1実施形態と異なる利点のみを記載する。
ECU50は、所定のクランク角(30CA)周期毎、又はクランクシャフトの基準位置の検出に基づいて所定の割込み処理としての異常判定処理を実行する。そして、クランク角検出装置40の正常時には、所定のクランク角(30CA)、又はクランクシャフトの基準位置が所定の頻度で検出されるため、同様にして異常判定処理が所定の頻度で実行される。
ここで、クランク角検出装置40の異常時には、ECU50によってクランクシャフトの基準位置の検出が誤って行われ、所定の割込み処理としての異常判定処理が実行されることがある。このため、割込み処理の実行される頻度が正常時と異なる場合には、クランク角検出装置40が異常である可能性が高い。そこで、ECUは、割込み処理の行われる頻度に基づいてクランク角検出装置40の異常を判定するといった構成を採用しているため、クランク角検出装置40の異常を正確に判定することができる。
具体的には、ECU50は、前回の処理からの経過時間τ1と正常時の経過時間τ2との偏差が所定時間以上であること、すなわち割込み処理としての異常判定処理が実行される時間間隔(経過時間τ1)が所定の判定時間よりも短いことにより、クランク角検出装置40の異常を判定することができる。
上記各実施形態に限定されず、例えば次のように実施することもできる。
第2実施形態では、クランクシャフトの回転位置が初期化回転位置であることが検出されてから次に初期化回転位置であることが検出されまでの期間内に、クランクシャフトの回転位置が所定回転位置となった回数が所定数以上である場合に、クランク角検出装置40の異常を判定するようにした。しかしながら、ECU50により所定回転角(30CA)毎に算出されるクランクシャフトの回転位置が連続して所定回転位置であることにより、クランク角検出装置40の異常を判定するといった構成を採用してもよい。この場合には、クランク角検出装置40の異常を迅速に判定することができる。
第3実施形態では、所定の割込み処理としての異常判定処理が実行される時間間隔(経過時間τ1)が所定の判定時間よりも短いことにより、クランク角検出装置40の異常を判定した。そして、具体的には、前回の処理からの経過時間τ1と正常時の経過時間τ2との偏差が所定時間以上であることにより、クランク角検出装置40の異常を判定したが、前回の処理からの経過時間τ1と正常時の経過時間τ2との比が所定値以下であることにより、クランク角検出装置40の異常を判定してもよい。また、割込み処理の行われるクランク角間隔が、正常時のクランク角間隔と異なることにより、クランク角検出装置40の異常を判定することもできる。
第1および第2実施形態では、30CA毎にクランクシャフトの基準位置やクランクシャフトの所定回転位置の検出態様を判定したが、クランク角検出装置40から出力されるパルス信号の立ち下がりエッジ毎に、又は立ち上がりエッジ毎にこれらを判定することもできる。その場合には、クランクシャフトの基準位置やクランクシャフトの所定回転位置が1回おきに検出されることにより、クランク角検出装置40の異常を判定することもできる。
第1および第2実施形態では、所定期間内にクランクシャフトの基準位置やクランクシャフトの所定回転位置が検出される回数が所定数以上であることによりクランク角検出装置の異常を判定したが、これらの検出が行われる期間を算出してそれが正常時の期間と異なることによりクランク角検出装置の異常を判定してもよい。また、その期間としては、クランクシャフトの回転角度に限らず、カムシャフトの回転角度や、時間を採用することもできる。
上記の各実施形態では、今回算出された立ち下がり時間間隔T1と前回算出された立ち下がり時間間隔T0との比(T1/T0)が判定値RCよりも大きい場合、すなわち(T1/T0)>RCである場合にクランクシャフトの基準位置を検出するようにしたが、今回の時間間隔T1と前回の時間間隔T0との差(T1−T0)が判定値RC2よりも大きい場合、すなわち(T1−T0)>RC2である場合にクランクシャフトの基準位置を検出することもできる。この場合も、上記の故障モードにおいて、クランク角検出装置40の異常が誤って検出されることがある。
上記の各実施形態では、遅角側のセンサ42の検出信号の立ち下がりエッジにおいて時間幅αの“L”レベルのパルス信号が出力されたのに続いて、時間幅γの“H”レベルのパルス信号が出力され、これに続いて時間幅βの“L”レベルのパルス信号が出力される故障モードを例にして説明した。しかしながら、クランク角検出装置40の故障モードはこれに限定されず、時間幅αのパルス信号と時間幅βのパルス信号とが逆の順序で出力される故障モードも存在する。この場合も、一連のパルス信号が複数出力されることにより、パルス信号の時間間隔がクランクシャフトの基準位置を検出するときの条件を満たすこととなるため、基準位置が検出される態様に基づいてクランク角検出装置40の異常を正確に判定することができる。また、時間幅α,βのパルス信号と時間幅γのパルス信号とで“H”レベルと“L”レベルとを入れ替えた構成を採用することもできる。
上記の各実施形態では、シグナルロータ30の外周にクランクシャフトの基準位置としての欠歯34が設けられ、欠歯34は連続する2つの突起32が省略されることにより設けられていたが、クランクシャフトの基準位置として2つ以上の突起32が接続された連続歯を設けることもできる。