半導体デバイスの微細化に対応して、プラズマプロセスにおいては、ウェハ面内で均一な処理結果が実現できるプロセス条件(プロセスウインドウ)が年々狭くなってきており、これからのプラズマ処理装置には、より完全なプロセス状態の制御が求められている。これを実現するためには、プラズマの分布やプロセスガスの解離やリアクタ内の表面反応を極めて高精度に制御できる装置が必要になる。
現在、これらのプラズマ処理装置に用いられる代表的なプラズマ源として高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma:以下、ICPと略称する)源がある。ICP源では、まず、高周波誘導アンテナに流れる高周波電流Iがアンテナの周囲に誘導磁場Hを発生させ、この誘導磁場Hが誘導電場Eを形成する。この時、プラズマを発生させたい空間に電子が存在すると、その電子は誘導電場Eによって駆動され、ガス原子(分子)を電離してイオンと電子の対を発生させる。このようにして発生した電子は、元の電子と共に再び誘導電場Eによって駆動され、さらに電離が生じる。最終的に、この電離現象が雪崩的に生じることでプラズマが発生する。プラズマの密度が最も高くなる領域は、プラズマを発生させる空間のうち誘導磁場H(誘導電場E)が最も強い空間、つまり、アンテナに最も近い空間である。また、これらの誘導磁場H(誘導電場E)の強度は、高周波誘導アンテナに流れる電流Iの線路を中心として距離の2乗で減衰するという特性を持つ。したがって、これらの誘導磁場H(誘導電場E)の強度分布、ひいてはプラズマの分布は、アンテナの形状によって制御できる。
以上のようにICP源は、高周波誘導アンテナを流れる高周波電流Iによってプラズマを発生させる。一般に高周波誘導アンテナのターン数(巻き数)を大きくすると、インダクタンスが増大して電流は下がるが、電圧は上がる。ターン数を下げると、逆に電圧は下がるが電流が上がる。ICP源の設計において、どの程度の電流および電圧が好ましいのかは、プラズマの均一性や安定性ならびに発生効率等の観点だけでなく、機械・電気工学的見地からの様々な理由によって決定される。例えば、電流が増大することは、発熱の問題やそれによる電力ロスの問題、整合回路に使用する可変コンデンサの耐電流特性の問題がある。一方、電圧が増大することは、異常放電や、高周波誘導アンテナとプラズマの間の容量結合の影響、可変コンデンサの耐電圧特性の問題等がある。そこで、ICP源の設計者は、整合回路に使用する可変コンデンサ等の電気素子の耐電流特性及び耐電圧特性や、高周波誘導アンテナの冷却や異常放電の問題等を加味しながら、高周波誘導アンテナの形状やターン数を決定する。
このようなICP源は、高周波誘導アンテナの巻き方や形状によってアンテナの作る誘導磁場H(誘導電場E)の強度分布、つまりプラズマの分布を制御できるという利点がある。これに基づき、ICP源では種々の工夫が進められてきた。
この実用例として、ICP源を利用して基板電極上の基板を処理するプラズマ処理装置がある。このプラズマ処理装置に関して、高周波誘導アンテナを、一部または全部が多重渦巻き型のアンテナにて構成し、より均一なプラズマを得るとともに、高周波誘導アンテナ用マッチング回路のマッチング用並列コイルによる電力効率の低下を小さくし、温度上昇を小さくすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、全く同じ複数の高周波誘導アンテナを、一定角度ごとに並列して設置する構造が提案されている。例えば、3系統の高周波誘導アンテナを、120°おきに設置することにより、周方向の均一性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この高周波誘導アンテナは、縦に巻かれたり、あるいは平面に巻かれたり、あるいはドームに沿って巻かれたりしている。特許文献2のように、まったく同じ複数のアンテナ要素を、電気回路内に並列に接続すると、複数のアンテナ要素からなる高周波誘導アンテナのトータルインダクタンスが低減されるという利点もある。
さらに、高周波誘導アンテナを、2つ以上の同一形状のアンテナ要素を電気回路内に並列に接続して構成するとともに、アンテナ要素の中心を被処理物の中心と一致するように同心円状、あるいは放射状に配置し、各アンテナ要素の入力端を、360°を各アンテナ要素の数で割った角度おきに配置し、かつアンテナ要素が径方向と高さ方向に立体的な構造を持つように構成することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
ICP源に対し、電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance;以下ECRと略称する)プラズマ源は、電子による電磁波の共鳴吸収を利用したプラズマ発生装置であり、電磁エネルギーの吸収効率が高く、着火性に優れ、高密度プラズマが得られるという特徴がある。現在、マイクロ波(以下、μ波という)(2.45GHz)やUHF、VHF帯の電磁波を用いたものが考案されている。放電空間への電磁波の放射は、μ波(2.45GHz)では導波管などを用いた無電極放電が、UHF、VHFでは電磁波を放射する電極とプラズマ間の容量結合を用いた平行平板型容量結合放電が使われる場合が多い。
高周波誘導アンテナを用い、ECR現象を利用したプラズマ源もある。これは、ホイスラー波と呼ばれる一種のECR現象に伴う波によってプラズマを生成するものである。ホイスラー波はヘリコン波とも呼ばれ、これを利用したプラズマ源はヘリコンプラズマ源とも呼ばれる。このヘリコンプラズマ源の構成は、例えば、円筒状の真空容器の側面に高周波誘導アンテナを巻きつけ、これに比較的低い周波数、例えば13.56MHzの高周波電力を印加し、さらに磁場を印加する。この時、高周波誘導アンテナは、13.56MHzの一周期のうち半周期では右回りに回転する電子を生成し、残りの半周期では左回りに回転する電子を生成する。この二種類の電子のうち、右回りの電子と磁場の相互作用でECR現象が生じる。ただし、このヘリコンプラズマ源では、ECR現象が生じる時間は高周波の半周期に限られること、また、ECRの発生する場所が分散し電磁波の吸収長が長いために長い円筒状の真空容器が必要となりプラズマの均一性が平坦でなく、長い真空容器に加えてプラズマ特性がステップ状に変化するため適切なプラズマ特性(密度とその分布、電子温度やガスの解離など)に制御し難いこと、等いくつかの問題があり、産業用にはあまり適さない。
既に、ヘリコンプラズマ源特有の縦長の真空容器が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この文献に記載の技術では、高周波誘導アンテナは用いられておらず、プラズマと容量結合するパッチ電極に与える電圧の位相を制御する方法でヘリコン波を発生するように工夫されている。しかも、上述したようなプラズマ分布の制御性の不利な点を補うように、縦長の真空容器に沿ってヘリコン波の波長の関数となる間隔をあけ、二組以上の電極群を設置するように工夫されている。しかしながら、誘導結合アンテナを用いようと、容量結合型のパッチ電極を用いようと、ヘリコン波を用いる場合プラズマの制御性が悪い縦長の真空容器からは逃れられない。このことは、特許文献5に良く反映されている。また、この縦長の真空容器を用いてプラズマの制御性を上げようとすると、非常に複雑な電極と磁場の構成を持つ必要があるという問題もあり、このことも特許文献5に良く反映されている。
右回りの電子を生成するために、回転する電場を作り出す方法は複数ある。簡便な方法としては、上記特許文献5記載のようなパッチアンテナの方法が昔から知られており、パッチ状(円形や四角形の小さな面状)のアンテナを円周上にn個(例えば4個)並べ、放射したい電磁波の周波数を持つ電圧の位相を2π/n(例えば2π/4)ずつずらしながら供給すると、右円偏波した電磁波を放出させることができる。
まず、右回転の電場を積極的に生成する方法について説明する。積極的なアンテナがある場合、アンテナ周辺には近接場(near field:電場と磁場の両方)と遠方場(far field:電磁波)が形成される。どのような場が強く生成されるか弱く生成されるかは、アンテナの設計と用い方によって異なる。電場には近接場として形成される2種類の電場がある。一つはアンテナ自体に沿った電位分布、(即ち、アンテナの一部と他の部分との間の電位差)あるいはアンテナと異なった電位の近傍部分(例えば、接地された真空室、ファラディシールド、或いはプラズマ)との間の電位分布により形成されるものである。これは、本明細書では、単純に電場と称される。他方は、磁場の形成に付随して形成され、後述する磁場と同等のものである。この磁場は、誘導的に形成され、本明細書では誘導電場と称される。プラズマとアンテナを容量結合させると、プラズマへの電力輸送の主過程は電場(近接場、しかしながらこれは誘導電場ではない)になる。また、プラズマとアンテナを誘導結合させると、プラズマへの電力輸送の主過程は磁場(近接場、これは誘導電場である)になる。積極的に容量結合も誘導結合もさせない場合、プラズマへの電力輸送の主過程は遠方場利用になる。以下、電磁波放射、電場、磁場による右回転電場の生成方法について説明する。
(1)電磁波放射(far field:遠方場)
遠方場とは遠方に伝播する電磁波のことである。この方法では、積極的に右円偏波した電磁場をプラズマの生成空間に放出する場合と、積極的に右円偏波させないが電磁波に含まれる右円偏波成分を利用する場合に分かれる。前述のパッチアンテナをn個並べる方法は前者であり、従来のμ波を用いた無電極ECR放電は後者の例である。プラズマとアンテナは近接場が邪魔をしないように積極的には結合させない。単に放射した電磁波をプラズマに入射しているだけである。パッチアンテナまたはダイポールアンテナ(特許文献4参照:ただし、この技術は、積極的に電磁場を右回転させているわけではない)等のアンテナ全般が使えることが知られている。すなわち、この方法では、下記(A)、(B)、(C)がいえる。
(A)アンテナ(電極)には電力を加える。電磁場の放射効率を上げるために、積極的にアンテナの共振、即ち、インピーダンスマッチングを利用することが多い。共振を利用しないと電磁波の放射効率が悪いので実用にはなり難い。放射した電磁波が積極的にプラズマに向うわけではない(基本的に遠方に伝わるので、あちらこちらいろんな所に伝搬する)ので、プラズマに良く吸収されるとはならず、大電力輸送には使い難い。大電力輸送には、電磁波の伝播方向が限られる導波管を用いることが多い。ただし、導波管のサイズは電磁波の波長によって決まるため、μ波以下の周波数では導波管サイズが大きくなりすぎるため、導波管を用いる場合は少ない。
(B)導波管ではなく、電極(アンテナ)を用いる場合には、電極に電力を印加する端子がある。電極を接地する端子は存在しない場合と存在する場合に分かれる。これは、電極(アンテナ)をどのように用いるかで決まる。
(C)アンテナの有無に関わらず、プラズマに放射された電磁場の浸透限界はカットオフ密度nc(m −3 )で決まり、この場合電磁波は表皮深さまでプラズマに浸透する。表皮深さは、200MHzでプラズマの抵抗率を15Ωmとすると138mmであり、シース(数mm以下)より桁で長い。つまり、次に述べる容量結合の場合よりもプラズマ内により深く浸透する。
電磁波の周波数fとカットオフ密度ncの関係を図26に示す。周波数がμ波以下の領域では、カットオフ密度ncは、産業上で用いるプラズマ密度(10 15−17 m −3 )より低いのが一般である。つまり、μ波以下の周波数の電磁波は、通常のプラズマ中を自由に伝播できず、表皮深さまで浸透する。
(2)電場(near field:近接場)
電場を生成するには、近接場(電場)を発生する積極的な電極が必要であり、パッチ電極(例えば、特許文献5参照)や平行平板型電極などが使える。この場合は、電場(電極に発生する電圧)が強く(高く)なければならないので、電極の負荷は高インピーダンスにする必要がある。つまり、ここで使われる電極は、プラズマと容量結合するが、接地された部品とは極力結合しないように作成される。つまり、この電極の一部でも接地したり、コンデンサやコイルを接続して接地させたりする事は通常できない。電場は、近接場なので、電極とプラズマの位置関係を工夫することで、大電力を効率良くプラズマに輸送できるが、容量結合を強くするために、プラズマに対して十分な面積(大きな静電容量)が必要になる。電極とプラズマとの容量結合を利用するので、アンテナ(電磁波放射する電極)だけでなく、電磁波を放射する能力が弱くても単なる電場(近接場)を発生する電極(容量結合型平行平板プラズマ源の電極と同じ)でも使える。
この方法では、以下のことが言える。
(A)電極には電圧を印加する。特に右円偏波を積極的に発生させる場合は、電極には位相制御した電圧を加える。
(B)電極には電圧を印加する端子のみがあり、その他の端子、例えば電極を接地する端子は存在しない。
(C)容量結合した電場は、電子の集団運動(シース)で遮蔽される。この遮蔽の作用は、シースの電場に垂直な静的(DC)な磁場をかけて電子の自由な動きを制限することで減らすことができる。別な表現では、電子の自由な動きを制限すると、プラズマ内での電場の波長が延びるとも言える。
(D)特許文献5の技術では、以下の議論により、プラズマと容量結合する電極を使っていると結論できる。
(D−1)高周波信号として電圧を利用していること。これは高周波のエネルギーが電圧、つまり電場に直接変換されてプラズマに伝送されていることを意味する。このことは、電極がプラズマと容量結合していることを示す。ちなみに、誘導結合を利用する場合、高周波として電流を利用しなければならない。誘導結合は誘導磁場によって行われるが、誘導磁場は電圧ではなく高周波電流によって発生するからである。
(D−2)特許文献5は、電子運動による遮蔽現象があること、及びその遮蔽は静磁場によって解消できることを記述しているが、遮蔽の解消は電極がプラズマと容量結合している場合のみ有効である。プラズマには二種類の遮蔽現象がある。一つは電気容量として動作するシースの電場遮蔽である。他方は、表皮効果による高周波磁場(これには、高周波誘導磁場と同等の高周波誘導電場が含まれる)遮蔽である。静磁場が電子の自由な集団運動を妨害することによって、(電場遮蔽効果を減少させるために、)シースの厚さを増加させることが可能である。これに対して、高周波誘導磁場は高周波磁場によってのみ減少させることができる。なぜなら、静磁場で表皮深さを変えること(高周波磁場による遮蔽効果を減らすこと)は不可能だからである。なぜなら、磁場とは加算と減算が可能な物理量であり、それゆえ、静磁場(つまり時間的に一定値)により高周波誘導磁場(つまり時間変動値)を打ち消すことは不可能である。
(D−3)引用文献5に使われている電極は、アンテナではないと記述している。これは、使われている電極が近接場を主に利用していることにしかならない。すなわち、電場(容量結合)か誘導磁場(誘導結合)のどちらかである。
(D−3−1)引用文献5では、図に電磁波を放射する効率が悪い小面積のパッチ状電極を使うことが示されている。これは、使われている電極が近接場を主に利用していることにしかならず、電場(容量結合)か誘導磁場(誘導結合)のどちらかである。しかし、電場の場合プラズマとの容量結合効率を強くするためには面積(静電容量)が必要になるのに対して、磁場の場合はトランス(誘導結合)を実現するために電流を流す線路をプラズマに平行に細長く引く必要がある。特許文献5では、電極の形より、容量結合しているとしかならない。パッチ状電極を接地させるという記述も図も無い。(D−3−2)で述べるように、このパッチ状電極の大きさは高周波の波長より短く、パッチ状電極に発生する電圧も電流も印加高周波の周波数により変動するものの、瞬間的に見れば電極全体に波長の影響の無い一様な電圧が発生しており、また、一様な電流が流れ込んでいることになる。パッチ電極は近接場として強い電場も弱い誘導磁場も形成しているが、この場合電場がプラズマと強く容量結合する面積を持っているが、パッチ状電極がプラズマと強くトランス結合するだけの線路長を持っていない。
(D−3−2)13.56MHzを使用する例を引いているが、13.56MHzの波長は約22mであり、図のパッチ状電極がこの長い波長に対して共振しているとは考えられない(もし、共振しているならば電極の大きさは波長の1/2とか1/4とかの大きさが必要だし、例えば特許文献4のように積極的に共振する手法を用いなくては、共振など起こらない。また、アンテナではないと記述していることからも、このパッチ状電極は共振していることにはならない)。また、このような巨大な電極を必要とする半導体デバイスを形成させるための所定の処理を行うプラズマ処理装置は無い。これは、使われている電極が近接場を主に利用していることにしかならない。電場か誘導磁場のどちらか。しかし、電場の場合プラズマとの容量結合効率を強くするためには広い面積(大きな静電容量)が必要になるのに対して、磁場の場合はトランス(誘導結合)を実現するために電流を流す線路をプラズマに平行に細長く引く必要がある。電極の形はパッチ状でありプラズマとトランス結合するための電流線路はほとんど無い。つまりこのパッチ状電極は、容量結合しているとしかならない。
(D−3−3)パッチ状電極を接地させるという記述も図も無い。従って、パッチ状電極を流れる電流はプラズマを介してアースに流れ込むことになる。つまり、プラズマがこのパッチ状電極の負荷であり、生成するプラズマのインピーダンスによって電流値が大きく変わる。良く知られているように、誘導結合プラズマでは、基本的に、プラズマと誘導結合する線路の一端に電流を供給し、他端を接地する。これは、線路に流れる電流が主に直接接地(アース)に流れ込み、接地(負荷の低インピーダンス化)による大電流を発生させる。この大電流で誘導磁場を生成して、効率的にプラズマに電力を輸送できるようにしたものである。もちろん、接地端をアースから切り離してそこにコンデンサを挿入することは行われるが、電気回路的な工夫により、大電流を発生するとともに、その大電流で強い誘導磁場を生成して、効率的にプラズマに電力を輸送できるようにしたものであることには変わりは無い。つまり、パッチ状電極を接地させるという記述も図も無いことは、このパッチ状電極がプラズマと主に容量結合していることにしかならない。
上記したように、誘導磁場で作り出した積極的に右回転する誘導電場を用いてECR現象を起こす技術は開発されていない。誘導磁場は電流によって発生するので、電場利用とは全く逆の設計が必要となる。すなわち、誘導磁場の利用では、強い近接場(誘導磁場)を発生する積極的な電極が必要であり、電流が強くなければならないので、電極の負荷は低インピーダンスにする必要がある。つまり、ここで使われる電極は、プラズマと誘導結合(トランス結合)するが、積極的に接地したり、コンデンサやコイルを接続して接地したりすることが必要となる。誘導磁場の利用は、近接場なので、プラズマとの位置関係を工夫することで、大電力を効率良くプラズマに輸送できる。この方法では、プラズマとの誘導結合(トランス結合)を強くするために、十分な線路長(コイル長さ)が必要になる。ここで、アンテナ(電磁波放射する電極)だけでなく、電磁波を放射する能力が弱くても単なる磁場(近接場)を発生する電極(コイル)でも使える。この方法によれば、以下のことがいえる。
(A)電極には、位相制御した電流を加える。
(B)電極には、電流を印加する端子があり、さらに電極から積極的に大電流を接地させて流すための別の端子が存在する。この端子は接地されるか、コンデンサやコイルを通じて接地される。
(C)誘導結合した磁場は、遠方場と同様、表皮効果で遮蔽される。静磁場でこの遮蔽を防ぐことは不可能である。
ICP源では、高周波電流Iが高周波誘導アンテナを周回するうちに、浮遊容量を介してプラズマやアースに流れ込み損失を生じる。これが原因となり、誘導磁場Hが周方向で強弱の分布を持ち、結果として周方向のプラズマの均一性が損なわれる現象が顕著になる場合がある。この現象は、高周波誘導アンテナ周囲の空間の誘電率だけでなく透磁率にも影響を受け、反射波効果や表皮深さ効果などとして現れてくる波長短縮現象である。この現象は、同軸ケーブルのような通常の高周波伝送ケーブルでも発生する一般的現象であるが、高周波誘導アンテナがプラズマと誘導結合していることでその波長短縮効果がより顕著に現れるというものである。また、ICP源だけではなく、ECRプラズマ源や平行平板型容量結合プラズマ源のような一般的なプラズマ源では、高周波を放射するアンテナやその周辺の空間に、アンテナや真空容器内部に向う進行波と返ってくる反射波が重なって定在波が発生する。これは、アンテナ端部やプラズマ、さらに高周波が放射される真空容器内の多くの部分から反射波が帰ってくるためである。この定在波も、波長短縮効果に大きく関与する。これらの状況下では、ICP源の場合、例えRF電源の周波数として波長が約22mと長い13.56MHzを使っていても、高周波誘導アンテナ長が2.5m程度を超えると、アンテナループ内に波長短縮効果を伴う定在波が発生する。したがって、アンテナループ内での電流分布が不均一となって、プラズマ密度分布が不均一になるという問題が発生する。
ICP源において、アンテナに流れる高周波電流Iは、周期的に位相つまり流れる方向が逆転し、これに従って、誘導磁場H(誘導電場E)の向き、つまり電子の駆動方向が逆転するという問題がある。つまり、印加する高周波の半周期毎に、電子は一旦停止し、逆方向に加速されることを繰り返す。このような状態において、高周波のある半周期において電子の雪崩現象による電離が不十分な場合、電子が一旦停止した時点で十分に高い密度のプラズマが得られ難いという問題が生じる。この理由は、電子が減速されて一旦停止する間、プラズマの生成効率が落ちるからである。一般に、ICP源は、ECRプラズマ源や容量結合型平行平板型プラズマ源よりもプラズマの着火性が悪いが、これには上記のような原因による。なお、高周波の半周期毎にプラズマの生成効率が悪くなるのは、位相制御をしていない誘導結合を用いたヘリコンプラズマ源も同じである。
以上述べたように、ICP源では、プラズマの均一性を向上させる工夫が種々見られるが、いずれも工夫を凝らすほど高周波誘導アンテナの構造が複雑になり、産業用装置としては成立し難くなるという問題が発生する。また、従来の技術では、良好なプラズマ均一性を維持しながらプラズマの着火性を飛躍的に向上させることは、意図されておらず、着火性の悪さは解消されていない。
他方、ECRプラズマ源は、波長が短いため装置内に複雑な電場分布を生じやすく、均一なプラズマを得ることが難しいという問題がある。
すなわち、μ波(2.45GHz)の波長は短いため、大口径ECRプラズマ源ではμ波が放電空間内に種々の高次伝播モードで伝播する。これにより、プラズマ放電空間内のいたる所で局所的に電場が集中し、その部分で高密度のプラズマが発生する。また、入射するμ波の高次伝播モードによる電場分布に、プラズマ装置内部から反射して戻ってくるμ波が重なって定在波が発生するため、装置内の電場分布はさらに複雑になり易い。以上の二つの理由により、一般的に大口径にわたって均一なプラズマ特性を得ることは難しい。しかも、一旦このような複雑な電場分布が発生すると、その電場分布を制御してプロセスに良好な電場分布に変化させることは事実上困難である。なぜなら、高次伝播モードが発生しないように、あるいは、装置内から反射して戻ってくる反射波が複雑な電場分布を形成しないように、装置構造の変更が必要となるからである。種々の放電条件に最適な装置構造が、単一装置構造であることはほとんどない。さらに、μ波(2.45GHz)でECR放電を生じさせるためには、875ガウスという強い磁場が必要となり、これを発生させるコイルが消費する電力やヨークを含めた構造が極めて大きくなるという欠点がある。
また、これらの問題のうち磁場強度に関しては、UHF、VHFでは比較的弱い磁場ですむため、問題の大きさは緩和される。しかし、波長の比較的長いUHF、VHFでも定在波の問題は深刻で、放電空間内の電場分布が不均一になり、発生するプラズマ密度分布が平坦でなくなり、プロセス均一性に問題が生じることが分かっている。これに関しては、現在でも理論的実験的な研究が続けられている(例えば、非特許文献1参照)。
以上述べたように、従来のICP源では、均一性の良いプラズマを発生させることは検討されているが、アンテナの構造が複雑にならざるを得ず、また、プラズマの着火性が悪いという問題がある。他方、ECRプラズマ源は、着火性が良いものの、電磁波の高次伝播モードや定在波によるプラズマ均一性が悪いという問題がある。
本発明は、上記問題にかんがみて行われたもので、ICP源を用いたプラズマ処理装置においてECR放電現象を利用可能とするものである。これにより、アンテナ構造を最小限の工夫で最適化してプラズマの均一性を良好にすることと同時に、プラズマの着火性を飛躍的に改善することができる。
すなわち、本発明は、大口径のプラズマ処理装置においても、着火性の良い均一なプラズマ源を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための第1ステップとして、本発明では、試料を収容し得る真空処理室を構成する真空容器と、前記真空処理室に処理ガスを導入するガス導入口と、前記真空処理室内に誘導電場を形成する高周波誘導アンテナと、前記真空処理室内に磁場を形成する磁場形成用コイルと、前記高周波誘導アンテナに高周波電流を供給するプラズマ生成用高周波電源と、前記磁場形成用コイルに電力を供給する電源とを備え、前記高周波誘導アンテナに前記高周波電源から高周波電流を供給し、前記真空処理室内に供給されるガスをプラズマ化して前記試料をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、前記真空処理室は、前記真空容器の上部に気密に固定される誘電体からなる真空処理室蓋を具備し、前記高周波誘導アンテナは、n個(n≧3の整数)の高周波誘導アンテナ要素に分割し、該分割されたそれぞれの高周波誘導アンテナ要素を縦列に並べ、縦列に配置された各高周波誘導アンテナ要素の組を複数組(組数:m≧2の自然数)備え、それぞれの組の各高周波誘導アンテナの高周波誘導アンテナ要素に順次λ(高周波電源の波長)/nずつ遅延させた高周波電流を一定方向に順に遅らせて流して、前記磁場形成用コイルに電力を供給して形成された磁束密度Bの磁力線方向に対して常に右回りの一定方向に回転する回転誘導電場を前記それぞれの組の高周波電流により形成し、前記回転誘導電場の回転周波数と前記磁束密度Bによる電子サイクロトロン周波数を一致させるように構成するとともに、前記それぞれの組の高周波電流により形成された回転誘導電場が加算又は減算された回転誘導電場Eと前記磁束密度Bの間にE×B≠0の関係がプラズマを発生させる空間の少なくとも1箇所で満たされるように、複数組(組数:m≧2の自然数)の前記高周波誘導アンテナと前記磁場形成用コイルとを構成してプラズマを発生させ、このプラズマにより前記試料をプラズマ処理することにより、上記課題は達成される。
上記課題を解決するための第2ステップは、上記右回りに回転する電子に、さらに磁束密度Bの磁場Hを印加し、電子にLarmor運動(Motion)を起こさせることである。Larmor運動は、E×Bドリフトに基づく右回転の運動であり、この運動が起こるためには、上記誘導電場Eと磁束密度Bとの間に、E×B≠0の関係が必要である。この磁場Hの印加方向は、この磁場Hの磁力線方向に対して、前記誘導電場Eの回転方向が右回りになる方向である。これらを満たす時、誘導電場Eによる右回転の回転方向とLarmor運動の回転方向が一致する。さらにこの磁場Hの磁束密度Bの変化は、その変動周波数f B が、Larmor運動の回転周波数(電子サイクロトロン周波数ωc)との間に、2πf B <<ωcの関係を満たす必要がある。この磁場Hの印加に加え、その磁束密度の電子サイクロトロン周波数ωcと回転する誘導電場Eの回転周波数fを、2πf=ωcとなるように一致させて電子サイクロトロン共鳴現象を発生させることにより、上記課題は達成される。
上記課題を解決するために、本発明では、試料を収容しうる真空処理室を構成する円筒状の真空容器と、該真空処理室に処理ガスを導入するガス導入口と、前記真空処理室の外に設けた高周波誘導アンテナと、前記真空処理室内に磁場を形成する磁場コイルと、前記高周波誘導アンテナに高周波電流を供給するプラズマ生成用高周波電源と、前記磁場コイルに電力を供給する磁場コイル用電源とを備え、前記高周波誘導アンテナに前記高周波電源から高周波電流を供給し、真空処理室内に供給されるガスをプラズマ化して被処理試料をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、前記高周波誘導アンテナをn(n≧2の整数)個の高周波誘導アンテナ要素に分割し、分割されたそれぞれの高周波誘導アンテナ要素を真空容器と同心円状の円周上に縦列に並べ、縦列に配置された各高周波誘導アンテナ要素に順次λ(高周波電源の波長)/nずつ遅延させた高周波電流を給電するとともに、前記磁場コイルに電力を供給して磁場を形成し、プラズマを発生させ、試料をプラズマ処理することにより、上記課題は達成される。
次に、本発明では、上記試料を収容しうる真空処理室を構成する円筒状の真空容器と、該真空処理室に処理ガスを導入するガス導入口と、前記真空処理室の外に設けた高周波誘導アンテナと、前記真空処理室内に磁場を形成する磁場コイルと、前記高周波誘導アンテナに高周波電流を供給するプラズマ生成用高周波電源と、前記磁場コイルに電力を供給する磁場コイル用電源とを備え、前記高周波誘導アンテナをn(n≧2の整数)個の高周波誘導アンテナ要素に分割し、分割されたそれぞれの高周波誘導アンテナ要素を真空容器と同心円状の円周上に縦列に並べ、縦列に配置された各高周波誘導アンテナ要素に順次λ(高周波電源の波長)/nずつ遅延させた高周波電流を給電するとともに、前記高周波誘導アンテナに前記高周波電源から高周波電流を供給し、真空処理室内に供給されるガスをプラズマ化して被処理試料をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、前記アンテナにより生成される誘導電場Eと前記磁場Bの間に、E×B≠0の関係を満たすように、前記高周波誘導アンテナと前記磁場を構成することによって、上記課題は達成される。
さらに、本発明では、上記試料を収容しうる真空処理室を構成する円筒状の真空容器と、該真空処理室に処理ガスを導入するガス導入口と、前記真空処理室の外に設けた高周波誘導アンテナと、前記真空処理室内に磁場を形成する磁場コイルと、前記高周波誘導アンテナに高周波電流を供給するプラズマ生成用高周波電源と、前記磁場コイルに電力を供給する磁場コイル用電源とを備え、前記高周波誘導アンテナをn(n≧2の整数)個の高周波誘導アンテナ要素に分割し、分割されたそれぞれの高周波誘導アンテナ要素を真空容器と同心円状の円周上に縦列に並べ、縦列に配置された各高周波誘導アンテナ要素に順次λ(高周波電源の波長)/nずつ遅延させた高周波電流を給電するとともに、前記高周波誘導アンテナに前記高周波電源から高周波電流を供給し、真空処理室内に供給されるガスをプラズマ化して被処理試料をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、回転する誘導電場Eの回転周波数fと磁場Bによる電子サイクロトロン周波数ωcを2πf=ωcとなるように一致させる。これにより、電子に、電子サイクロトロン共鳴による高周波電力を吸収させることによって、上記課題は達成される。
次に、本発明では、上記試料を収容しうる真空処理室を構成する円筒状の真空容器と、該真空処理室に処理ガスを導入するガス導入口と、前記真空処理室の外に設けた高周波誘導アンテナと、前記真空処理室内に磁場を形成する磁場コイルと、前記高周波誘導アンテナに高周波電流を供給するプラズマ生成用高周波電源と、前記磁場コイルに電力を供給する磁場コイル用電源とを備え、前前記高周波誘導アンテナをn(n≧3の整数)個の高周波誘導アンテナ要素に分割し、分割されたそれぞれの高周波誘導アンテナ要素を真空容器と同心円状の円周上に縦列に並べ、縦列に配置された各高周波誘導アンテナ要素に順次λ(高周波電源の波長)/nずつ遅延させた高周波電流を給電するとともに、記高周波誘導アンテナに前記高周波電源から高周波電流を供給し、真空処理室内に供給されるガスをプラズマ化して被処理試料をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、前記アンテナにより生成される誘導電場Eの回転方向が、前記磁場コイルが形成する磁場Hの磁力線に対して右回転するように、前記高周波誘導アンテナと前記磁場を構成することによって、上記課題は達成される。
さらに、本発明は、プラズマ生成装置を、真空処理室と、該真空処理室外に設けられ高周波が流れる複数の高周波誘導アンテナを有し、該複数の高周波誘導アンテナが真空処理室中に形成する誘導電場分布が、有限の値を持つ磁場中で、常に右回りの一定方向に回転するように構成した。
本発明は、プラズマ処理装置を、真空処理室と、該真空処理室外に設けられ高周波が流れる複数の高周波誘導アンテナを有し、該複数の高周波誘導アンテナが軸対称に配置され、かつ、磁場分布が軸対称の分布であると同時に、前記複数の高周波誘導アンテナの軸と前記磁場分布の軸が一致し、真空処理室中に形成される誘導電場分布が常に右回りの一定方向に回転するように構成した。
本発明は、上記プラズマ生成装置において、前記常に右回りの一定方向に回転する前記誘導電場分布の回転方向が、前記磁場の磁力線の方向に対して常に右回りの一定方向の右回転であるように構成した。
本発明は、上記プラズマ処理装置において、前記複数の高周波誘導アンテナにより形成される誘導電場Eと前記磁束密度Bの間にE×B≠0の関係が満たされるように、複数の高周波誘導アンテナと磁場形成用コイルとを構成した。
本発明は、上記プラズマ生成装置において、前記複数の高周波誘導アンテナにより形成される前記回転する誘導電場Eの回転周波数fと前記磁束密度Bによる電子サイクロトロン周波数ωcを2πf=ωcとなるように一致させるように構成した。
さらに、本発明では、上記プラズマ処理装置において、磁場Hは静磁場であっても良いし、変動磁場であっても良いが、変動磁場の場合、その変動周波数f B が、Larmor運動の回転周波数(電子サイクロトロン周波数ωc)との間に、2πf B <<ωcの関係を満たすことによって、上記課題は達成される。
本発明にかかるプラズマ処理装置は、半導体デバイスの製造の分野にのみその使用が限定されるものではなく、液晶ディスプレイの製造や、各種材料の成膜、表面処理等のプラズマ処理の各分野に適用することが可能である。ここでは、半導体デバイス製造用のプラズマエッチング装置を例にとって、実施例を示すことにする。
図1を用いて、本発明が適用されるプラズマ処理装置の構成の概要を説明する。高周波誘導結合(ICP)型プラズマ処理装置は、内部を真空に維持された真空処理室1を有する円筒状の真空容器11と、高周波によって生じた電場を真空処理室内に導入する絶縁材からなる真空処理室の蓋12と、真空処理室1内を真空に維持する例えば真空ポンプに結合された真空排気手段13と、被処理体(半導体ウェハ)Wが載置される電極(試料台)14と、被処理体である半導体ウェハWを外部と真空処理室内との間で搬送するゲートバルブ21を備えた搬送システム2と、処理ガスを導入するガス導入口3と、半導体ウェハWにバイアス電圧を供給するバイアス用高周波電源41と、バイアス用整合器42と、プラズマ生成用高周波電源51と、プラズマ生成用整合器52と、複数の遅延手段6−2、6−3(図示せず)、6−4と、真空処理室1の周辺部上に配置され、高周波誘導アンテナ7を構成する複数に分割され円周上に縦列配置された高周波誘導アンテナ要素7−1(図示せず)、7−2、7−3(図示せず)、7−4と、磁場を印加するための上磁場コイル81と下磁場コイル82を構成する電磁石と、磁場の分布を制御する磁性体で作られたヨーク83と、前記高周波誘導アンテナ要素7−1(図示せず)、7−2、7−3(図示せず)、7−4がプラズマと容量結合するのを制御するファラデーシールド9と、前記電磁石に電力を供給する図示を省略した磁場コイル用電源を有して構成される。
真空容器11は、例えば、表面をアルマイト処理したアルミニウム製かステンレス製の真空容器であり、電気的に接地されている。また、表面処理としてアルマイトだけではなく、他の耐プラズマ性の高い物質(例えばイットリア:Y2O3)を使うこともできる。真空処理室1には、真空排気手段13、および被処理物である半導体ウェハWを搬入出するためのゲートバルブ21を有する搬送システム2を備える。真空処理室1中には、半導体ウェハWを円筒状真空容器11と同心円状に載置するための電極14が円筒状真空容器11と同心円状に設置される。搬送システム2により、真空処理室中に搬入されたウェハWは、電極14上に運ばれ、電極14上に保持される。電極14には、プラズマ処理中に半導体ウェハWに入射するイオンのエネルギーを制御する目的で、バイアス用整合器42を介して、バイアス用高周波電源41が接続される。エッチング処理用のガスが、ガス導入口3より、真空処理室1内に導入される。
一方、半導体ウェハWと対向する位置には、高周波誘導アンテナ要素7−1(図示せず)、7−2、7−3(図示せず)、7−4が、平板状の石英やアルミナセラミック等の絶縁材からなる真空容器蓋12を介して大気側に設置される。高周波誘導アンテナ要素…、7−2、…、7−4は、その中心が半導体ウェハWの中心と一致するように同心円上に配置される。高周波誘導アンテナ要素…、7−2、…、7−4は、図1には明示されていないが、複数の同一形状を持つアンテナ要素からなる。複数のアンテナ要素の給電端Aはプラズマ生成用整合器52を介してプラズマ生成用高周波電源51に接続され、接地端Bは接地電位に、いずれも全く同じように接続される。
高周波誘導アンテナ要素…、7−2、…、7−4とプラズマ生成用整合器52との間には、各高周波誘導アンテナ要素…、7−2、…、7−4に流れる電流の位相を遅延させる遅延手段6−2、6−3(図示せず)、6−4が設けられる。
真空容器蓋12には、図示を省略した冷却用の冷媒流路が設けられ、この冷媒流路に、水、フロリナート、空気、窒素などの流体を流すことによって冷却される。アンテナ、真空容器11、ウェハ搭載台14も冷却および温度調節の対象となる。
図2を用いて、本発明にかかるプラズマ処理装置の第1の実施例を説明する。この実施例では、図1の上から見た図2(A)に示すように、高周波誘導アンテナ7を1つの円周上でn=4(n≧2の整数)個の高周波誘導アンテナ要素7−1〜7−4に分割する。それぞれの高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4の給電端Aまたは接地端Bは、時計回転方向に360°/4(360°/n)ずつ離れて配置され、それぞれの高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4にプラズマ生成用高周波電源51からプラズマ生成用整合器52を介し、給電点53から各給電端Aを介して高周波電流を供給する。この実施例では、各高周波誘導アンテナ要素7−1〜7−4は、それぞれ同一円周上の右回りに給電端A側から約λ/4(λ/n)離れて接地端B側が配置される。各高周波誘導アンテナ要素7−1〜7−4の長さはλ/4(λ/n)である必要は無いが、発生している定在波のλ/4(λ/n)以下であることが望ましい。また、アンテナの構成によっては、各高周波誘導アンテナ要素の長さは、λ/2以下であればよい。給電点53と高周波誘導アンテナ要素7−2、7−3、7−4の給電端A間には、それぞれλ/4遅延回路6−2、λ/2遅延回路6−3、3λ/4遅延回路6−4が挿入される。これにより、各誘導アンテナ要素7−1〜7−4に流れる電流I1、I2、I3、I4は、図2(B)に示すように順にλ/4(λ/n)ずつ位相が遅れることになる。電流I1で駆動された、プラズマ中の電子は、電流I2で続いて駆動される。また、電流I3で駆動されたプラズマ中の電子は、電流I4で続いて駆動される。
図3を用いて、図2に示した高周波誘導アンテナを用いた場合のプラズマ中の電子の駆動形態を説明する。図3において、高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4の給電端Aと接地端Bの構成は図2と同じである。また、各誘導アンテナ要素に流れる電流I
1−I
4の方向は、全て給電端Aから接地端Bに向かうと表記している。各高周波誘導アンテナ要素に流れる電流は、図2と同じように、I
1−I
4の位相がそれぞれ90°ずれている。位相を90°ずらしているのは、高周波電流の1周期(360°)を4つの高周波誘導アンテナ要素に割り振るためで、360°/4=90°の関係を持っている。ここでいう、電流Iおよび誘導電場Eは誘導磁場Hを用いて、下記(1)式および(2)式で示されるマックスウェルの方程式で関係付けられる。下記(1)式および(2)式で、E、HとIは、高周波誘導アンテナとプラズマの全ての電界(電場)および磁界(磁場)および電流のベクトルであり、μは透磁率、εは誘電率である。
図3(A)の右側には、電流の位相関係を示している。ここに示したある時間(t=t1)における誘導電場Eの、高周波誘導アンテナに囲まれた領域における向きを、図3(A)の左側に点線と矢印で示している。この向きから分かるように、誘導電場Eの分布はアンテナが配置される平面、すなわち、アンテナの作り出す平面において線対称になる。この図3(A)より電流の位相がさらに90°進んだとき(t=t2)の誘導電場Eの向きを図3(B)に示す。誘導電場Eの向きは90°時計回りに回転している。この図3より、本発明における高周波誘導アンテナは、時間とともに右回転、すなわち時計方向に回転する誘導電場Eを作り出すことが分かる。この右回転する誘導電場Eの中に電子が存在する場合、電子も誘導電場Eに駆動されて右回転する。この場合、電子の回転周期は、高周波電流の周波数に一致する。ただし、工学的工夫により、高周波電流の周波数と異なる回転周期を持つ誘導電場Eを作ることは可能であり、この時、電子は高周波電流の周波数ではなく誘導電場Eの回転周期と同じ周期で回転する。このように、通常のICP源と同じように、本発明でも誘導電場Eで電子が駆動される。しかし、高周波誘導アンテナの電流Iの位相とは関係なく一定方向(この図では右回り)に電子を駆動すること、またこの回転が停止する瞬間がないことが、本発明の通常のICP源やヘリコンプラズマ源と異なる点である。
ここで、本発明の高周波誘導アンテナがプラズマ中にどのような誘導電場Eを生成させるかについて説明する。ここでは誘導電場Eで説明するが、(1)式が示すように、誘導電場Eと誘導磁場Hは互いに変換可能な物理量であり、等価である。まず、図4は従来のICP源が作り出す誘導電場Eの分布を模式的に表している。従来のICP源では、アンテナが一周しており円を描いていようと、アンテナが分割されていようと、アンテナには同相の電流が流れるため、アンテナが作り出す誘導電場Eは周方向で同一になる。つまり、図4に示したように、アンテナ直下に誘導電場Eの最大値が現れ、アンテナの中心とアンテナ周囲に対して減衰するドーナツ状の電場分布を作る。この分布はX−Y平面において中心点Oに対する点対称である。理論上、アンテナの中心点Oにおける誘導電場EはE=0である。このドーナツ状の電場分布が、電流の向き(半周期)に従い右に回ったり左に回ったりする。誘導電場Eの回転方向が反転するのは、電流がゼロになるときであり、誘導電場Eは一旦全領域でE=0になる。このような誘導電場Eは、既に誘導磁場Hとして測定されており、確認されている(例えば、非特許文献2参照)。
次に、本発明のアンテナが作る誘導電場Eを説明する。まず、図3(A)と同じ電流状態を考える。つまり、I4に正のピーク電流が流れ、I2に逆向きのピーク電流が流れる。これに対し、I1とI3は小さいという状況である。この場合、誘導電場Eの最大値は、I4が流れるアンテナ要素7−4とI2が流れるアンテナ要素7−2の下に現れる。また、電流がほとんど流れないアンテナ要素7−1と7−3の下には強い誘導電場Eは現れない。これを模式的に示したのが、図5である。ここでは、X−Y平面のX軸上に二つのピークが現れる様子を示した。図5に明らかなように、本発明の誘導電場Eは、アンテナ周上に二つの大きなピークを持ち、かつX−Y平面において軸対称(この図の場合Y軸対称)である。そして、Y軸上にはなだらかなピークを持つ分布が現れる。このなだらかな分布のピーク高さは低く、その位置は中心座標Oに現れる。つまり、アンテナの中心点Oにおける誘導電場はE=0ではない。このように、本発明による図2の構成では、従来のICP源やヘリコンプラズマ源とは全く異なる誘導電場Eを作り出すし、しかも、それが高周波誘導アンテナの電流Iの位相とは関係なく一定方向(この図では右回り)に回転する。また、図3より明らかなように、全ての高周波誘導アンテナ要素に流れる電流Iが同時にI=0になる瞬間は無い。したがって回転する誘導電場EがE=0となる瞬間は存在しないことも本発明の特徴である。
本発明では、このように局所的なピークを持つ誘導電場分布を生成するが、このことは発生させるプラズマの均一性を悪化させることにはならない。まず、図5のX軸上の誘導電場分布は、アンテナが発生する誘導磁場分布によって決まる。つまり、同じ電流が流れる場合、図4のX軸上の誘導電場分布と図5のX軸上の誘導電場の分布は、中心点Oを中心とした二つのピークを持つ対称な形の誘導電場という意味で等しい。さらに本発明の誘導電場は、アンテナに流れる高周波電流と同じ周波数で回転するので、高周波電流の一周期で平均すれば、X−Y平面において中心点Oに対する点対称な誘導電場分布を発生することになる。つまり、本発明では、全く異なる誘導電場分布を作り出すが、従来のICP源の持つ良い特徴、つまり、アンテナの構造で誘導電場分布が決まることと、点対称で周方向に均一なプラズマを発生させることができるという特徴をそのまま保持している。
ここで、図1に示した上下の磁場コイル81、82とヨーク83を用いることにより、この誘導電場Eの回転面に対して垂直な磁場成分を持つ磁場Hを印加することができる。本発明では、この磁場Hが満たすべき条件は二つある。一つ目は、前記の回転する誘導電場Eの回転方向が、磁場Hの磁力線の方向に対して常に右回転となるような磁場Hを印加することである。例えば、図2の構成では、これまで説明してきたように、誘導電場Eは紙面に対して時計回りの方向、つまり右回転する。この場合、磁力線の向きには、紙面の表から裏面に向かう方向の成分が必要である。これにより誘導電場Eの回転方向と電子のLarmor運動の回転方向が一致する。また、この一つ目の条件は、誘導電場Eの回転方向と電子のLarmor運動の回転方向が一致するような磁場Hを印加するという表現もできる。
残りの条件は、誘導電場Eに対して、E×B≠0となる
磁束密度Bの磁場
Hを印加することである。ただし、このE×B≠0という条件は、プラズマを発生させたい空間のどこかでは必要であるが、プラズマを発生させたい全ての空間において必要なわけではない。磁場を印加する方法は種々あるが、局所的に複雑な構造を持つ磁場を用いない限り、この“E×B≠0”という条件は前述の一つ目の条件に含まれる。この“E×B≠0”という条件により、電子は磁力線を中心(Guiding Center)とするLarmor運動と呼ばれる回転運動を行う。このLarmor運動は、前述した回転誘導電場による回転運動ではなく、電子サイクロトロン運動と呼ばれているものである。その回転周波数は電子サイクロトロン周波数ωcと呼ばれ、下記(3)式で表される。下記(3)式で、qは電子の素電荷、Bは
磁束密度、meは電子の質量である。この電子サイクロトロン運動の特徴は、その周波数が
磁束密度のみにより定まることである。
ここで、回転する誘導電場Eの回転周波数fをこのサイクロトロン周波数ωcに、2πf=ωcとなるように一致させると、電子サイクロトロン共鳴が生じ、高周波誘導アンテナに流れる高周波電力は、共鳴的に電子に吸収され、高密度プラズマを発生させることができる。ただし、“誘導電場Eの回転周波数fをこのサイクロトロン周波数ωcに一致させる”という条件は、プラズマを発生させたい空間のどこかでは必要であるが、プラズマを発生させたい全ての空間において必要なわけではない。このECRの発生条件は、前述したように下記(4)式で表され
る。
また、ここで印加する磁場Bは静磁場であっても良いし、変動磁場であっても良い。ただし、変動磁場の場合、その変動周波数f B が、Larmor運動の回転周波数(電子サイクロトロン周波数ωc)との間に、2πf B <<ωcの関係を満たさなければならない。この関係が意味することは、電子サイクロトロン運動をする電子の一周期から見れば、変動磁場の変化は十分小さく、静磁場とみなせるということである。
以上により、電子サイクロトロン(ECR)加熱というプラズマ加熱方法を利用し、電子のプラズマ生成能力を飛躍的にあげることができる。ただし、産業上の応用において、所望するプラズマ特性を得ることを考えると、アンテナ構造を最適化して誘導電場Eの強さとその分布を制御するとともに、上記磁場Hの強度分布を可変制御することにより、必要なところに必要なだけ上記磁場Hや周波数の条件を満たす空間を形成し、プラズマ生成とその拡散を制御することが望ましい。図1は、このことを考慮した一実施例である。
また、本発明で述べたICP源においてECR放電を可能にする方法は、用いる高周波の周波数や磁場強度に依存せず、常に、これまで述べてきた条件を満たせば利用可能である。もちろん、工学的な応用に関しては、発生させるプラズマの容器をどのような大きさにするか等の現実的な制限により、用いることのできる周波数や磁場強度には制限が発生する。例えば、次式で示す
電子のLarmor運動の半径rLが、プラズマを閉じ込める容器より大きい場合、電子は周回運動することなく容器壁に衝突するので、ECR現象は起こらない。(5)式で、νは、図3に示した電場の平面に水平な方向の電子の速度である。
この場合、当然、用いる高周波の周波数を高くし、ECR現象が発生するように磁場強度も高くする必要がある。しかしながら、この周波数と磁場強度の選択は、目的に応じて自由に選択するべきであり、本発明が示した原理自体は何も損なわれるものではない。
ここで、本発明が示したICP源においてECR放電を可能にする原理の必要十分条件をまとめると、以下の4点になる。1点目は、プラズマを生成する空間に印加する磁場Hの磁力線の方向に対して常に右回転する誘導電場Eの分布を形成することである。2点目は、この磁場Hの磁束密度Bとその磁力線の方向に対して右回転する誘導電場Eの分布に対して、E×B≠0を満たす磁場Hを印加することである。3点目は、回転する誘導電場Eの回転周波数fと磁場Hによる電子サイクロトロン周波数ωcを一致させることである。4点目は、電子サイクロトロン運動をする電子の一周期から見れば、磁場Hの変化は十分小さく、静磁場とみなせるということである。以上の4点を満たす実施例が図1であるが、図1の実施例を変形しても前記必要十分条件を満たすならば、いかなる変形を行ってもICP源においてECR放電は可能になる。つまり、図1の装置構成を如何に変形させようとも、前記必要十分条件を満たせば本発明の一実施例となることに注意しなければならない。その変形は単に工学的な設計の問題であり、本発明が示す物理的な原理を変更するものではない。以下に、図1の変形例についてまとめる。
図1においては、真空容器蓋12が平板状の絶縁材からなり、その上に高周波誘導アンテナ7が構成されている。この構成が意味するのは、プラズマを生成したい空間、つまり真空容器蓋12と被処理体Wに挟まれた空間に、磁場Hの磁力線の方向に対して常に右回転する誘導電場Eの分布を形成できることである。前記必要十分条件の1点目の内容である。したがって、真空容器蓋12が平板状の絶縁体であることも、高周波誘導アンテナ7が真空容器蓋12の上に構成されていることも、本発明にとっては必須の構成ではない。例えば、真空容器蓋12は、台形の回転体状や中空の半球状すなわちドーム状あるいは有底円筒状の形状であってもかまわない。また、高周波誘導アンテナは真空容器蓋に対してどのような位置にあってもかまわない。本発明が示す原理からすれば、真空容器蓋12の形状と真空容器蓋に対するアンテナ位置は、前記必要十分条件を満たす構成ならば、全て本発明の一実施例である。
しかしながら、産業上の利用においては、真空容器蓋の形状と真空容器蓋に対するアンテナ位置は重要な意味がある。なぜならば、被処理体Wの面内において均一な加工が必要とされるからである。つまり、被処理体Wの上で処理に用いるイオンやラジカル等のプラズマを構成するガス種の成分が均一な分布を形成しなければならない。
プラズマは、高エネルギー電子によりプロセスガスが解離・励起・電離されることで発生する。この時発生するラジカルやイオンには、強い電子エネルギー依存性があり、ラジカルとイオンでは発生量だけでなく、それらの発生分布が異なる。これにより、ラジカルとイオンを全く同じ分布で生成することは、事実上無理である。また、発生したラジカルやイオンは拡散により広がるが、それらの拡散係数はラジカルやイオンの種類により異なる。特に、イオンの拡散係数は中性のラジカルの拡散係数より桁で大きいのが普通である。つまり、拡散を利用して被処理体Wの上でラジカルとイオンを同時に均一な分布にすることも、事実上無理である。また、プロセスガスが分子の場合や多種のガスを混ぜてプラズマを発生させる場合、ラジカルやイオンは複数種類発生するので、全てのラジカルとイオンの分布を均一にすることはさらに不可能である。しかし、均一な処理をするために重要なのは、プラズマが適用されるプロセスがどのようなガス種によって進行するかである。例えば、反応が特定のラジカル主体で進行するならば、そのラジカルの分布を均一にすることが重要である。反対に、イオンによるスパッタリングが主体で反応が進行するならば、そのイオンの分布を均一にすることが重要である。さらにラジカルとイオンが競合して反応が進む場合もある。これらの種々のプロセスに対応するためには、プラズマの発生分布とその拡散を制御し、より望ましい均一性で各プロセスを進行させることが要求される。
このような要求に対しては、本発明では2種類の対応策がある。この理由は、本発明では、プラズマを生成する電子のエネルギーを決めるのがE×B、簡単に言えば誘導電場Eと、磁場Hの磁束密度Bで決まるからである。一つ目の対応策は誘導電場Eに関連しており、プロセス毎に、絶縁体からなる真空容器蓋12の形状とこれに対するアンテナ位置の最適化することである。前述したように、本発明では通常のICP源と同様、アンテナの構成でプラズマの発生分布が決まる。アンテナ近傍に最も強い誘導電場Eが形成されるからである。また、真空容器蓋と被処理体および真空容器が作る空間の広がりによって発生したラジカルやイオンの分布を制御できる。これは、二つ目の対応策である磁場Hと深い関係があるが、ここでは説明を判りやすくするため、磁場を考えない状態で説明する。
図13には、4種類の絶縁体からなる真空容器蓋12の形状とアンテナ位置に対して、被処理体Wの上での分布がどのような形になるかを模式的に示した。説明を簡単にするため、この分布はイオンの分布とする。図13(A)には、絶縁体からなる真空容器蓋12が平板状である場合を示した。高周波誘導アンテナ要素7は絶縁体である真空容器蓋12の上にあり、アンテナ直下にイオン(プラズマ)の生成空間Pが出現する。この時発生したイオンは、真空容器蓋12と真空容器11が囲む空間に拡散して広がる。定性的に記述すると、このときの拡散方向は主に下向きになる。このような拡散により、被処理体Wの上にM型のイオン分布が形成されたと仮定する。ここで、アンテナの間隔dを図13(B)に示すd’のように小さくしたとする。このアンテナ位置の変更によって、イオンの拡散はより被処理体Wの中心方向に向う。したがって、被処理体Wの上のイオン分布をより中央高にできる。また、図示していないが、アンテナ間隔をより広げれば、イオンのM型分布はより強調される方向に変化する。つまり、アンテナの構造の変更は、イオンの分布制御に非常に有用である。しかしながら、アンテナ構造の変更だけでは、ここで考えているイオン以外のイオンやラジカルも同じような分布変化をする。なぜならば、アンテナに対するプラズマ発生領域の広がりに変化は少なく、また、絶縁体からなる真空容器蓋12と真空容器11が形成している空間が同じ形をしているからである。
このような分布制御は、絶縁体からなる真空容器蓋12の形状を変更することで可能である。図13(C)(D)(E)には、それぞれ中空の半球形つまりドーム状の真空容器蓋、回転する台形状の内側に空間を有する(台形の回転体状)真空容器蓋そして有底円筒形の真空容器蓋に変更したときのイオンの分布を模式的に示している。これにより理解できることは、図13(A)から(C)(D)(E)へと絶縁体からなる真空容器蓋12の形状の変化に伴い、より中央に向うイオンの拡散が増えることである。したがって、図13(A)から(C)(D)(E)と変更するに従い、被処理体Wの上のイオン分布はより中央高になる。
ここで、図13(B)と(D)では、被処理体W上のイオン分布は同じ形になるように書いてある。このことは、実際の装置の構造を適切に設計することにより実現可能である。しかしながら、図13(A)から(B)への変更と、図13(A)から(D)への変更には決定的な違いがある。これは、絶縁体からなる真空容器蓋12と真空容器11が作る空間の体積とその表面積が違うことである。
まず、イオンは空間で消滅する確率は非常に低く、その消滅は主として壁表面での電荷放出である。空間で消滅するためには、例えば、二個の電子と同時に衝突する(3体衝突)という非常に稀な反応が必要だからである。また、イオンの壁への衝突は、電子と等量でなくてはならない(プラズマの準中性条件)という制限がある。しかし、ラジカルは中性の励起種であり、単体の電子や他の分子等と衝突して容易にその活性エネルギーを失う。逆の場合もありうる。また、ラジカルも壁に衝突してその励起エネルギーを失うが、その流入はプラズマの準中性条件とは無関係で、単に壁への拡散量で決まる。もちろん、前述したようにイオンとラジカルの拡散係数は大きく異なる。つまり、絶縁体からなる真空容器蓋12と真空容器11が作る空間の体積とその表面積を変えることにより、イオンに対するラジカルの生成領域・拡散・消滅の程度をより大きく変えることができる。以上より、図13(A)から(B)への変更と比べると、図13(A)から(D)への変更は、イオンとラジカルの分布をよりダイナミックに制御できることが判る。
二つ目の対応策は、磁場Hに関連しており、絶縁体からなる真空容器蓋12の形状とこれに対する磁場分布を可変制御することで、プラズマの発生と拡散を最適化することである。図1に示した実施例では、上下磁場コイル81、82に流す電流とヨーク83の形状で磁場の強度とその分布を制御する。この時、例えば、図17に示すような磁場を発生させることができる。この磁場の特徴は、磁力線の向きが下方向になっていることである。この磁力線の向きと、図3に示した電場方向より、図3に示した電場の回転方向と電子のLarmor運動は磁力線方向に対して同じ右回転になる。つまり、この磁場は、前記必要十分条件の一つ目と二つ目を満たした一例である。
この磁力線に垂直な平面に等磁場面が形成される。等磁場面は無数にあるが、図17にその一例を示した。ここで、前記一定方向に回転する誘導電場分布の回転周期を100MHzとすると、(3)式より、約35.7ガウス等磁場面がECR放電を起こす磁場強度面である。これをECR面と呼ぶ。この例では、ECR面は下に凸の形をしているが、平面状でも、上に凸状でもかまわない。本発明では、プラズマ生成部にECR面を作ることは必須であるが、ECR面の形状は任意である。このECR面は、上下磁場コイル81、82に流す直流電流を可変することで上下に移動させることが可能であり、また、その面形状もより下に凸状にもできるし、平面状にも、上に凸状にもできる。
次に、ECR面と真空容器蓋形状のバリエーションを組み合わせるとどのような効果が発生するかについて、図18を用いて説明する。図18(A)は図13(A)と全く同じで、磁場が無いときのプラズマの生成領域(チェック模様の領域)とその拡散方向を模式的に示したものである。この図13(A)に対してECR面を形成したときの一例を図18(B)に示す。ここで、まず重要なことは、(1)ECRによるプラズマ生成領域は、ECR面に沿って存在するということである。これだけでも、磁場が無いときとECR面を形成したときを比べると、プラズマ中のイオンとラジカルの発生領域が異なることが定性的に理解できる。次に、(2)放電の強さは、磁場が無いときは誘導電場Eの大きさに従って強くなるが、ECR放電ではE×Bの大きさに従って強くなることである。さらに、(3)ECRにおいて電子は共鳴的に電場のエネルギーを吸収するので、同じ誘導電場Eであっても、磁場が無いときと比べてECRでは放電の強さが圧倒的に強いことである。これら(2)(3)も、磁場が無いときとECR面を形成したときを比べると、プラズマ中のイオンとラジカルの発生領域が異なることを原理的に示している。もちろん、図1に示した実施例では、上下磁場コイル81、82に流す直流電流とヨーク83の形状を変更することにより、ECR面の面形状とECR面の真空容器蓋に対する上下位置を大きく変えることができるので、磁場が無いときとECR面を形成したときを比べると、プラズマ中のイオンとラジカルの発生領域を大幅に変更することが可能になる。
また、ECR面を形成することは、磁場が無いときと比べると拡散の状態も異なる。つまり、プラズマ中のイオンと電子は、荷電粒子なので、磁場に沿って拡散しやすく、磁場に垂直には拡散しにくいという特性を持つ。電子はLarmor運動により磁力線に巻きついた状態で磁力線に沿って拡散する上に、イオンはプラズマの準中性条件からの要請により、電子と同じ方向に拡散するからである。しかしながら、ラジカルは中性粒子なので、その拡散に磁場の影響は無い。つまり、ECR面を形成することは、イオンやラジカルの発生領域を変えるだけでなく、イオンやラジカルの拡散による分布形状にも影響を与えることが判る。つまり、磁場はプラズマ生成分布と拡散を制御する非常に有用な手段である。図18(C)(D)(E)は、図13(C)(D)(E)に対応した図で、絶縁体からなる真空容器蓋12の形状をそれぞれ中空の半球形つまりドーム状の真空容器蓋、台形の回転体の内側に空間を有する(台形の回転体状)真空容器蓋そして有底円筒形の真空容器蓋に変更したときのプラズマの生成領域を模式的に示している。もちろん、各真空容器蓋の作る空間と表面積の大きさが異なるので、図13を用いて説明した拡散と消滅の違いはここでも原理的に同じである。
図18でいえることがもう一つある。これは、本発明では、特許文献5に代表されるようなヘリコン波を使うとき特有の縦長の真空容器を必要としないことである。本発明では、図18(B)に示すように横長の真空容器でも、図18(E)に示す縦長の真空容器でも、自由に選択できる。これが可能になるのは、ヘリコン波を励起する場合には伝播してゆくヘリコン波が伝播途中で十分吸収されるように吸収長を長く取らなければならない(真空容器を長くする)のに対し、本特許ではECR面で電場のエネルギーが吸収されるため長い吸収長が不要だからである。本発明では、誘導電場のエネルギーを吸収する空間は、ECR面(等磁場面と電子の回転面)を形成できるだけの大きさで十分である。なぜなら、ECR面はある方向に伝播する波ではなく、単なる共鳴面だからである。これが、ヘリコン波を用いる場合とECR面を用いる場合の決定的な差であり、本発明がヘリコンプラズマ源に比べて十分な実用性を持つ理由である。
以上述べたように、本発明は、(1)アンテナ構造、(2)絶縁体からなる真空容器蓋12の構造、そして(3)磁場という、プラズマの生成と拡散・消滅を調整するための仕掛けを3種類持っている。このような特徴は、従来のICP源やECRプラズマ源、平行平板型等のプラズマ源では容易には得られなかった特長である。特に、磁場はアンテナ構造や絶縁体からなる真空容器蓋12の形状などの装置構造を決めた後でも、上下磁場コイル81、82に流す直流電流を可変することで、プラズマの発生領域やその拡散をよりダイナミックに制御できるという特徴を持つ。
図14を用いて真空処理質蓋の形状の第2の例を説明する。図14において、真空処理室蓋12の形状以外は図1のプラズマ処理装置の構造と略同様であり、同じ箇所には同じ符号を付してあり、これらの説明は省略する。図1の真空処理室蓋12は平板状(円盤状)の絶縁材で構成されたが、この例では、絶縁体からなる真空処理室蓋12は、中空の半球状すなわちドーム状に形成され、図示のように円筒形の真空容器11の頂部に気密に固定されて真空処理室1を構成する。この構成により、図18(C)に示すように、ECR面にプラズマ生成領域が形成される。
図15を用いて真空処理質蓋の形状の第3の例を説明する。図15において、真空処理室蓋12の形状以外は図1のプラズマ処理装置の構造と略同様であり、同じ箇所には同じ符号を付してあり、これらの説明は省略する。この例では、絶縁体からなる真空処理室蓋12は、中空の円錐の頂部を削除し平坦な天井を形成し内側に空間を有する形状に形成され、図示のように円筒形の真空容器11の頂部に気密に固定されて真空処理室1を構成する。この明細書においては、この真空容器蓋12の形状を台形の回転体と呼ぶ。この構成により、図18(D)に示すように、ECR面にプラズマ生成領域Pが形成される。
図16を用いて真空処理質蓋の形状の第4の例を説明する。図16において、真空処理室蓋12の形状以外は図1のプラズマ処理装置の構造と略同様であり、同じ箇所には同じ符号を付してあり、これらの説明は省略する。この例では、絶縁体からなる真空処理室蓋12は、底を有する円筒として内側に空間を有する形状に形成され、図示のように底が上となるように円筒形の真空容器11の頂部に気密に固定されて真空処理室1を構成する。この明細書においては、この真空容器蓋12の形状を有底円筒形と呼ぶ。この構成により、図18(E)に示すように、ECR面にプラズマ生成領域Pが形成される。
これらの例では、いずれもその機能は図1に示した実施例と同じである。異なる点は、それぞれのプラズマ源が生成するプラズマのイオンやラジカルの分布制御の範囲(生成領域と拡散・消滅の程度)が異なることである。これらのプラズマ源の選択は、本発明をどのようなプロセスに適用するかで選択するべきである。
以下、高周波誘導アンテナの形状と配置について説明する。図1(図2)では、4分割された高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4が、一つの円周上に配置されている。この“一つの円周上”という構成も、前記必要十分条件の1点目の内容を実現するための必須構成ではない。例えば、大小二つの円周を考え、平板状絶縁体12の内周と外周、あるいは上下や斜めにも4分割された高周波誘導アンテナが配置されたとしても、前記必要十分条件の1点目の内容を実現できる。つまり、前記必要十分条件の1点目の内容を実現できるならば、円周の数やそれらの配置は自由に構成できる。平板状真空容器蓋12の場合と同じように、絶縁体からなる真空容器蓋12が、台形の回転体状や中空の半球体すなわちドーム状や有底円筒形の場合でも、高周波誘導アンテナをその内周外周に配置することも、上下や斜めに配置することも可能である。
図1(図2)では、円を4分割した円弧状の高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4が、一つの円周上に配置されている。この“4分割”という構成も、前記必要十分条件の1点目の内容を実現するための必須構成ではない。高周波誘導アンテナの分割数は、n≧2を満たす整数nを考えればよい。n本の円弧状アンテナ(高周波誘導アンテナ要素)を用いて一つの円周の高周波誘導アンテナ7を構成することもできる。さらに、図1では、高周波に流れる電流の位相制御により、磁力線方向に対して右回転する誘導電場Eを形成する方法を示したが、これは、n≧3では確実に形成できる。n=2の場合は特殊であり、例えば、2個の半円状のアンテナを用いて一つの円周を形成し、それぞれに(360°)/(2個のアンテナ)=(180°)の位相差をつけて電流を流すことを意味する。この場合、単に電流を流すだけでは、誘導電場Eは右回転も左回転もすることができ、前記必要十分条件の1点目の内容を満たさないように見える。しかしながら、本発明の必要十分条件を満たす磁場を印加すると、電子はLarmor運動により自発的に右回転を行うため、結果として誘導電場Eも右回転する。したがって、本発明における高周波誘導アンテナの分割数は、前記のとおり、n≧2を満たす整数nを考えればよい。このことは、図11で詳細に説明している。
図1(図2)では、円を4分割した円弧状の高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4が、一つの円周上に配置されている。この“円周上の配置”も、前記必要十分条件の1点目の内容を実現するための必須構成ではない。例えば、直線状の4本の高周波誘導アンテナ要素を用いて矩形に配置しても、前記必要十分条件の1点目の内容を実現できる。当然、n≧2を満たすn本の直線状の高周波誘導アンテナ要素を用いてn角形(n=2の場合は、ある程度距離を離して対向させればよい)の高周波誘導アンテナ7を構成することもできる。
図1(図2)では、円を4分割した円弧状の高周波誘導アンテナ要素7−1,7−2、7−3、7−4の給電端Aと接地端Bが、一つの円周上にABABABABと点対称になるように配置されている。この“給電端と接地端が点対称になるように配置すること”も、前記必要十分条件の1点目の内容を実現するための必須構成ではない。給電端Aと接地端Bは、自由に配置できる。図2と対応するこの実施例を図6に示す。図6では、一例として、高周波誘導アンテナ要素7−1の給電端Aと接地端Bの位置を反転させ、高周波電流I1の向きを反転させたものである。しかしながら、この場合では、高周波誘導アンテナ要素7−1に流れる高周波電流I1の位相を図2に示した位相から反転させる(例えば、3λ/2遅延させる)ことにより、図5に示した回転する誘導電場Eを作り出すことができる。このことから判るのは、給電端Aと接地端Bの位置を反転させることは、位相を反転:つまりλ/2遅延させることと等しいことである。
これを利用すると、図2の構成はさらに簡略化でき、これを図7に示す。図7の構成は、図2においてI1とI3、I2とI4がそれぞれλ/2遅延、つまり反転していることを利用したもので、I1とI3、I2とI4にそれぞれ同相の電流を流すが、I3とI4の給電端Aと接地端Bを反転させた構成である。しかもI1とI3、I2とI4の間にλ/4遅延6−2を入れているので、図2と同じ回転する誘導電場E(図5に示したもの)を形成できる。以上のように、高周波誘導アンテナの構成と位相制御を組み合わせると、多くのバリエーションを作ることができる。しかし、これらのバリエーションは工学的設計に過ぎず、前記必要十分条件の一点目の内容を満たすように構成した場合、全て本発明の一実施例となる。
図1では、電源出力部にある整合器と高周波誘導アンテナ要素7−1〜7−4の間に位相遅延回路が設けられている。この“整合器と高周波誘導アンテナ要素7−1〜7−4の間に位相遅延回路が設けられていること”も、前記必要十分条件の1点目の内容を実現するための必須構成ではない。前記必要十分条件の1点目の内容を満たすためには、高周波誘導アンテナに、図5に示した回転する誘導電場Eを形成するように電流を流すことだけである。ここで、図2と同じように図5に示した回転する誘導電場Eを形成するが、異なる構成の実施例を図8に示す。図8の構成は、高周波誘導アンテナ要素7−1〜7−4と同じ数の高周波電源51−1〜51−4により、高周波誘導アンテナ要素7−1〜7−4に電流を流すものだが、一つの発信器54の出力に、遅延手段なしおよびλ/4遅延手段6−2およびλ/2遅延手段6−3ならびに3λ/4遅延手段6−4をそれぞれ介して高周波電源51−1〜51−4、整合器52−1〜52−4を接続し、それぞれ必要な位相遅延を行うというものである。このように高周波電源51を増やすことで、整合回路53が増えるが、高周波電源単体の電力量を小さくでき、高周波電源の信頼性を上げることが可能になる。また、各アンテナに供給する電力を微調整することにより、周方向のプラズマの均一性を制御することができる。
このような電源構成と高周波誘導アンテナ構成のバリエーションはこれ一つに限らない。例えば、図2と図8に示した構成を応用すると、図2と同じように図5に示した回転する誘導電場Eを形成するが、さらに異なる構成を作ることができる。この一実施例を図9に示す。図9の実施例は、発信器54に接続された高周波電源51−1とλ/2遅延手段6−3を介して接続された高周波電源51−2の二台の高周波電源から互いにλ/2遅延した高周波を給電点53−1、53−2に出力し、これらの出力と高周波誘導アンテナ要素7−2、7−4の間でさらにλ/4遅延手段6−2を介して必要な遅延を行うものである。
次の実施例は、図9と図7の実施例を組み合わせたもので、これを図10に示す。図10では、図9と同じ発信器54に接続された二台の高周波電源51−1、51−2を用いるが、その位相は発信器54の出力部で一方の高周波電源51−2側にλ/4遅延手段6−2を挿入して位相をλ/4ずらすとともに、高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2は給電端Aと接地端Bを図9と同様に設定し、高周波誘導アンテナ要素7−3、7−4は給電端Aと接地端Bを図7と同様に高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2と逆方向に(反転させて)設定したものである。この出力の位相の基準をI1の位相とすると、I1とI3は同相の電流となるが、I3の向き(給電端Aと接地端B)が図2と比べて反転しているため、I1とI3が形成する誘導電場Eは図2と同じになる。また、I2とI4はI1と比べて位相がλ/4遅れており、I2とI4も同相の電流となるが、I4の向き(給電端Aと接地端B)が図2と比べて反転しているため、I2とI4が形成する誘導電場Eは図2と同じになる。結果として、図10に示した実施例は、図2とは構成が異なるが、図2と同じ誘導電場Eを形成する。
すなわち、この実施例は、試料を収容し得る真空処理室を構成する真空容器と、前記真空処理室に処理ガスを導入するガス導入口と、前記真空処理室外に設けられた高周波誘導アンテナと、前記真空処理室内に磁場を形成する磁場形成用コイルと、前記高周波誘導アンテナに高周波電流を供給するプラズマ生成用高周波電源と、前記磁場形成用コイルに直流電力を供給する電源とを備え、前記高周波誘導アンテナに前記高周波電源から高周波電流を供給し、真空処理室内に供給されるガスをプラズマ化して試料をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、特に、前記高周波誘導アンテナをs(sは正の偶数)個の高周波誘導アンテナ要素に分割し、分割されたそれぞれの高周波誘導アンテナ要素を円周上に縦列に並べ、縦列に配置された前記高周波誘導アンテナ要素に、s/2個の各高周波電源よりあらかじめλ(高周波電源の波長)/sずつ遅延させた高周波電流を、1番目の高周波誘導アンテナ要素からs/2番目までの高周波誘導アンテナ要素まで順次高周波誘導アンテナ要素に供給し、さらに、s/2+1番目の高周波誘導アンテナ要素からs番目までの高周波誘導アンテナ要素までは順次その高周波誘導アンテナ要素が対向する1番目からs/2番目までの高周波誘導アンテナ要素と同じ位相の高周波電流を供給するが、前記高周波誘導アンテナ要素を流れる電流の向きが逆になるように該高周波誘導アンテナ要素を構成し、一定方向に回転する電場を形成して試料をプラズマ処理するように構成することにより、前記磁場形成用コイルに直流電力を供給して形成した磁場の磁力線方向に対して右回りに順に遅らせて流し、特定方向に回転する電場を形成してプラズマを発生させて試料をプラズマ処理するように構成したものである。
以上より、図2、図6、図7、図8、図9、図10は全て構成が異なっているが、図5に示したように、磁力線方向に対して右回転する同じ誘導電場分布Eを形成する。全て、前述の必要十分条件の1点目の内容を満たすバリエーションである。
前述したように、高周波誘導アンテナの分割数nがn=2の場合、前述の必要十分条件の2点目の内容を満たす磁場Bを印加することにより、高周波誘導アンテナが形成する誘導電場Eは磁力線の方向に対して右回転する。この実施例では、二つの高周波誘導アンテナ要素には、λ/2位相がずれた高周波を給電する。この実施例の基本構成を図11に示す。図11の構成では、アンテナ要素7−1の給電端Aと接地端Bとアンテナ要素7−2の給電端Aと接地端BとがABABと周方向に点対称で並ぶように構成されるとともに、発信器54の二つの出力は、一方が高周波電源51−1および整合器52−1を介して、高周波誘導アンテナ要素7−1の給電端Aの給電点53−1に接続され、他方がλ/2遅延手段6−3と高周波電源51−2および整合器52−2を介して、高周波誘導アンテナ要素7−2の給電端Aの給電点53−2に接続されている。
したがって、図11に書いたように、各高周波誘導アンテナ要素の電流の方向はI1とI 2 に矢印で示した方向である。ところが、各高周波誘導アンテナの要素7−1と7−2には、位相が逆転した(λ/2位相がずれた)電流が流れるため、結果として、各高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2に流れる高周波電流は図面に対して、位相の半周期毎に、上向きまたは下向きのどちらかになる。したがって、図11の形成する誘導電場Eは、図5と同じ二つのピークをもつことになる。ただこれだけでは、誘導電場Eに駆動された電子は、右回転も左回転も可能になる。しかし、これに前記必要十分条件を満たす磁場B(紙面の表面から裏面へ向かう磁力線の磁場)を印加すると、右回りの電子はECR現象により共鳴的に高周波のエネルギーを受け取って高効率に雪崩的電離を起こすが、左回りの電子は共鳴的に高周波のエネルギーを受け取れないので電離効率は悪いものとなる。結果として、プラズマの発生は右回りの電子によって主体的に行われるようになり、効率よく高周波のエネルギーを受け取って高速度まで加速された電子が残ることになる。この時、プラズマの中を流れる電流成分は低速の左回りの電子と、高速の右回りの電子が主な成分になるが、当然、高速に達した右回りの電子による電流が支配的になり、(1)式および(2)式から判るように誘導電場Eは右に回る。このことは、μ波やUHF、VHFを用いた従来のECRプラズマ源において、特に電場を特定方向に回転させなくてもECR放電が生じることと同じである。
この図11に対して、図6(あるいは、図7、図10)の効果を入れると、図12のように、簡単な構成でECR現象を起こすことができる。図12では、位相を反転させた高周波を供給せず、それぞれの高周波誘導アンテナ要素に同相の高周波を供給するが、それぞれの高周波誘導アンテナ要素の給電端Aと接地端Bを同じにすることで電流の向きが反転するため、図11と同じ効果を得ることができる。ただし、高周波誘導アンテナの分割数nがn=2の場合、二つの高周波誘導アンテナ要素に流れる電流が同時にゼロになる場合が存在するため、例外的に誘導電場EがE=0となる瞬間が存在する。高周波誘導アンテナの分割数nがn≧3の場合、それぞれの場合に応じた図3と同じ図を作成すれば明らかなように、常に二つ以上の高周波誘導アンテナ要素に電流が流れるため、誘導電場EがE=0となる瞬間は存在しない。
互いに等間隔にアンテナの中心から放射状に配置された少なくとも3本の直線状導体からなり、該直線状導体の各々は一端が接地され、他端がRF高周波電源に接続されることが示されている(例えば、特許文献6参照)。この特許文献6図3(C)(E)には、(a)アンテナは真空中に導入されており、(b)また、アンテナは直線状導体から構成されており、(c)さらに、該直線状導体が絶縁被覆されており、(d)磁場を印加する構成が開示されている。これらの構成は、本発明の図12であるn=2の構成と良く似ている。特許文献6の構成の目的は、真空中に導入したアンテナに大電力を安定に投入して高密度のプラズマを生成し、磁場によりその拡散を制御して均一な分布を得るということである。しかしこの構成は、本特許と比べると致命的な欠陥がある。この基本原因は、真空中にアンテナが導入されていることである。この文献で述べられているとおり、真空中に導体アンテナを導入すると異常放電などにより安定したプラズマを生成することが困難である。このことは、非特許文献3にも記された事実である。このために特許文献6の発明では、アンテナを安定してプラズマから絶縁被覆するために直線状導体としている。ところが、このアンテナはプラズマと誘導結合するばかりではなく、容量結合もする。つまり、アンテナ導体とプラズマは、絶縁被覆の静電容量によって繋がっており、絶縁被覆のプラズマ側表面には高周波電圧によるセルフバイアス電圧が発生し、絶縁被覆表面は常にプラズマのイオンによってスパッタされる。これにより、問題が発生する。まず、絶縁被覆がスパッタされることにより、プラズマ処理をする半導体ウェハは、絶縁被覆の原料物質に汚染される、あるいは、絶縁被覆がスパッタによって異物となり半導体ウェハの上に乗り、正常なプラズマ処理ができなくなる。次の問題は、絶縁被覆が時間経過に従って薄くなり、絶縁被覆部の静電容量の増加とともにアンテナ導体とプラズマ間の容量結合が強くなっていくことである。これにより、まず、容量結合により生成されるプラズマの特性が時間とともに変化し、一定の特性のプラズマが発生できなくなる。つまりプラズマ特性の経時変化が発生する。さらに、絶縁被服が薄くなって容量結合が強くなると、より高いセルフバイアス電圧が発生し、絶縁被覆は加速度的に消耗し、異物発生や汚染も加速的に増加する。最終的には、もっとも弱い絶縁被覆部が破れ、アンテナ導体が直接プラズマと接触し、異常放電を起こしてプラズマ処理を続けられなくなる。当然、アンテナの寿命は有限である。つまり、特許文献6の発明の構成は、産業用には適さない。使い始めは良くても、使っているうちに特性がどんどん劣化して使えなくなる上に、アンテナは消耗品として交換する必要があり時間もコストもかかる装置となってしまう。これに対して、本特許の構成は絶縁体蓋12の大気側にあり、その寿命は半永久的で、消耗品として交換する時間もコストもかからない。さらに、図1に示したように、アンテナとプラズマの間にはファラデーシールドがあり、アンテナとプラズマ間の容量結合を遮断できる。従って、絶縁体蓋12がイオンでスパッタされて半導体ウェハの汚染や異物発生は無い上に、絶縁体蓋12がスパッタで薄くなって使えなくなることも無い。さらに本発明と特許文献6の発明との違いは、特許文献6の発明は回転する誘導電場を作り出すことも、この回転誘導電場と磁場によってECRを起こすことも、両方とも意図されていないことである。
図1においては、磁場の構成要件として、二つの電磁石である上磁場コイル81と下磁場コイル82およびヨーク83を示している。しかし、本発明にとって必須であることは、前記必要十分条件を満たす磁場を実現することだけであり、ヨーク83も、二個の電磁石も必須の構成ではない。例えば、上磁場コイル81(あるいは下磁場コイル82)だけであっても、前記必要十分条件を満たせばよい。磁場の発生手段としては、電磁石でも固定磁石も良く、さらに、電磁石と固定磁石の組み合わせでも良い。
図1においては、ファラデーシールド9を示している。このファラデーシールドは本来高周波を放射するアンテナとプラズマの間の容量結合を抑制する機能があるため、容量結合型のECRプラズマ源では用いることはできない(例えば特許文献5)。本発明では、通常のICP源と同様、ファラデーシールドを用いることができる。しかし、本発明にとって“ファラデーシールド”は必須の構成ではない。前記必要十分条件とは関係ないからである。ただし、通常のICP源と同様、産業での利用上、ファラデーシールドは有用性がある。ファラデーシールドは、アンテナから放射される誘導磁場H(すなわち、誘導電場E)にはほとんど影響を与えず、アンテナとプラズマの容量結合を遮断する働きがあるからである。この遮断をより完全にするためには、ファラデーシールドは接地されるべきである。通常、ICP源では、上記容量結合を遮断するとプラズマの着火性が更に悪くなる。しかし、本発明では、誘導結合で生じた誘導電場Eによる高効率なECR加熱を利用するため、上記容量結合を完全に遮断しても良好な着火性が得られる。しかし、種々の理由により、このファラデーシールドに電気回路を接続し、ファラデーシールドに発生する高周波電圧を0Vもしくは0V以上に制御することも可能である。
図1には、これまで述べた構成要素以外にも、ガス導入口3、ゲートバルブ21、ウェハバイアス(バイアス電源41および整合器42)を示しているが、これらも、前記必要十分条件とは関係いため、本発明にとっては必須の構成ではない。ガス導入口は、プラズマを生成するためには必要であるが、その位置は真空容器11の壁面にあっても良いし、ウェハWを搭載する電極14にあっても良い。また、ガスの噴出し方も、面状に噴出しても良いし、点状に噴出しても良い。ゲートバルブ21は、産業上の利用において、ウェハを搬送することを目的にその構成を示してあるだけである。さらに、産業上のプラズマ処理装置の利用において、必ずしもウェハバイアス(バイアス電源41および整合器42)は必要とされておらず、本発明の産業上の利用に当たって、必須のものではない。
本発明では、高周波誘導アンテナによって形成された誘導電場Eは、磁場の磁力線の方向に対して右回転する。回転面の形状は高周波誘導アンテナの構造によって決まり、円形や楕円形などになる。したがって、回転の中心軸は必ず存在する。産業上の応用において、このような中心軸が存在するのは他にも、磁場B、被処理体(円形のウェハや矩形のガラス基盤など)、真空容器、ガス噴出し口、被処理体を搭載する電極や真空排気口などがある。本発明にとって、これらの中心軸が一致する必要は全くなく、必須の構成要件ではない。前記必要十分条件とは関係ないからである。しかしながら、被処理体表面の処理の均一性(エッチングレートやデポレート、あるいは、形状など)が問題となる場合、これらの中心軸は一致することが望ましい。
以上のように、本発明によれば、常に処理室内に電流を駆動する高周波誘導磁場が形成されているため、プラズマの着火性能をあげ、高密度のプラズマが得られる。また、本発明によれば、高周波誘導アンテナの長さを制御することができ、どのような大口径化の要求にも対応することができ、また、周方向のプラズマ均一性を上げることができる。
実施例1から実施例7の高周波誘導アンテナの構造は、前記第2〜第4の真空容器蓋12の形状のいずれにも適用することができる。
以下、本発明の他の発明の態様を説明する。以下の発明の態様は、複数個の高周波誘導アンテナ要素からなる高周波誘導アンテナの組を複数組設ける態様である。ここで、回転する誘導電場Eを形成する複数の高周波誘導アンテナ素子からなるアンテナの組数をmと置く。本発明の場合、mは自然数であれば構築可能である。つまり、二つの円周を考えるだけでなく、三つ以上の円周上に、それぞれ分割されたアンテナを配置することも可能である。図1、2、6〜12、14〜16は、全てm=1の場合である。mを幾つにするのかは、目的に応じて選択するべきである。産業上の応用において、どの程度の面積を持つプラズマが必要になるのか、どの程度の面積を持つ被処理体を処理するのか、あるいは、プラズマの均一性はどの程度必要なのか、によってmの数を決めるべきである。mが1の場合と2以上の場合では決定的な違いがある。後で説明するように、mが2の場合はmが1の場合と比べて、アンテナの各組に流す電流の大きさを制御して、プラズマの生成分布を制御できるというチューニングノブが一つ増えるからである。mが3以上の場合は煩雑になるだけなので、ここではm=2の場合について説明する。
図19を用いて、第8の実施例を説明する。図19は、図2または図8の構成(m=1)をm=2(複数組)に拡張した場合を示している。高周波電源、整合器、電流の遅延回路や給電線などを書き込むと図が煩雑になるので、ここでは各高周波誘導アンテナ要素に対する給電端A(矢印)と接地端Bのみを用いる。図19は、図2または図8の各高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4の内側にペアとなるアンテナ要素7’−1、7’−2、7’−3、7’−4を設置している。以後、高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4を外側アンテナ7、高周波誘導アンテナ要素7’−1、7’−2、7’−3,7’−4を内側アンテナ7’と呼ぶ。均一性の高いプラズマを発生させるには、これらの外側アンテナ7と内側アンテナ7’は、同心円となるように構成する。また、この構成では、例えば、高周波誘導アンテナ要素7−1とこれ対応するアンテナ要素7’−1の給電端Aと接地端Bの周方向における位相角は一致している。この場合、図19右に示したように、I1、I1’として同相の電流を流し、I2、I2’、I3、I3’、I4、I4’をそれぞれλ/4ずつ位相をずらして供給する。この場合、電流I1とI1’が作る誘導電場(誘導磁場)の和は最も高くなり、アンテナからプラズマへの電力の輸送効率は最大になる。プラズマの生成は、内側アンテナ7’の内部(円状になる)は主に内側アンテナ7’が、外側アンテナ7の周辺(円環状になる)は主に外側アンテナ7が担うことになる。したがって、プラズマの分布制御は、電流の絶対値|I1|(=|I2|=|I3|=|I4|)と|I1’|(=|I2’|=|I3’|=|I4’|)の比率を変えることで実現できる。これは、m=1の場合では得られなかったチューニングノブである。電流比|I1’|/|I1|は、0(|I1’|=0、|I1|は有限の値をとる)から無限大(|I1’|は有限の値をとる, |I1|=0)まで自由に設定できる。
本発明では、一つの高周波誘導アンテナ組は、例えば図2で説明したように高周波誘導アンテナの組の中で電流の位相が制御されていなければならない。このことは、図19の外側アンテナ7(高周波誘導アンテナ要素7−1、7−2、7−3、7−4)でも、内側アンテナ7’(高周波誘導アンテナ要素7’−1、7’−2、7’−3、7’−4)でも成り立つ必要がある。また、図19で説明した例では、外側アンテナ7と内側アンテナ7’の電流の位相差は0°に制御されている。しかしながら、図19の構成で、内側アンテナと外側アンテナの位相差は、必ずしも0°に制御されている必要は無い。電場(磁場)は、加算と減算が可能な物理量であり、外側アンテナの作り出す誘導電場と内側アンテナの作り出す誘導電場は、必ず、ある場所では互いに強めあい、また別の場所では互いに弱めあう。図19において位相差が0°であることは、互いに弱めあう電場が最小になり、互いに強めあう電場が最大になるだけである。だから、アンテナからプラズマへの電力の輸送効率は最大になる。0°以外では、0°の場合と比べ、互いに弱めあう電場が増え、互いに強めあう電場が減るだけである。プラズマの分布制御という観点では、互いに弱めあう電場を最小にし、互いに強めあう電場を最大にする必然性は無い。説明を分かりやすくするために、図19では内側アンテナと外側アンテナの電流の位相差は0°としたが、0°以外にも設定できる。
図20を用いて第9の実施例を説明する。図20は、外側アンテナと内側アンテナの電流の位相差を45°に設定した一実施例である。この場合、高周波誘導アンテナ要素の個数(アンテナの分割数)はn=4なので、45°とは2π/mn(radian)である。図20では、内側アンテナ7’と外側アンテナ7の作り出す電場が最も強くなるように、内側アンテナと外側アンテナを周方向に45°ずらして設置してある。これは、例えば、外側アンテナの高周波誘導アンテナ要素7−1の給電端Aと、内側アンテナの高周波誘導アンテナ要素7’−1の給電端Aが周方向に45°回転していることを意味する。このような構成の場合、各高周波誘導アンテナ要素に流すべき電流の位相差は、図20右に書いたように、45°(λ/mn)になる。
図20の構成は、図19の構成と比べると利点がある。このために、まず図19の構成の不利な点を説明する。図2でも同じであるが、図19の外側アンテナ7が作り出す誘導電場が滑らかに回転する条件は、一つの高周波誘導アンテナ要素、例えば7−1の長さlが、l≦λ/nを満たすことである(外側アンテナがl≦λ/nを満たす場合、内側アンテナは必ずl≦λ/nを満たすので、ここでは外側アンテナだけで説明する)。ここで、l<<λ/nの場合、アンテナ要素7−1の給電端Aを流れる高周波電流I1Aと接地端Bを流れる高周波電流I1Bは等しいと考えることができ、I1A=I1Bである。しかし、lがλ/nの長さに近づくと、定在波(波長λ)によって高周波誘導アンテナ要素の中に電流分布が発生する。この様子を図27(A)に示す。給電端Aから見たI1方向のインピーダンスは、アンテナ要素7−1が持つある有限のインピーダンスをとるのに対して、接地端Bから見たI1方向のインピーダンスはほぼ0Ωになる。このため、定在波の影響が顕著に出た場合は、図27(A)に示すように通常I1A<I1Bとなる。当然、給電端Aの直下の電場強度、つまりプラズマの密度は、接地端Bの直下のプラズマ密度より低くなる。つまり、外側アンテナの周方向にプラズマ分布が生じる。このプラズマ分布が最も大きく変化するところは、アンテナ要素とアンテナ要素の継ぎ目、例えば、図19のアンテナ要素7−1の接地端Bとアンテナ要素7−2の給電端Aの間である。
この周方向のプラズマ分布をより均一にする方法は二つある。一つは、図20に示したように、接地端Bを直接接地するのではなく、コンデンサCを介して接地することである。コンデンサCの値を適切に設計することにより、I1A=I1Bを実現できる。この様子を図27(B)に示す。アンテナ要素7−1が持つインダクタンスをLと置くと、I1A=I1Bとなるのは、コンデンサC(容量C)とLの間に1/ωC=ωL/2の関係が成り立つときである。図27(B)に示すように、この時、電流I1の分布はアンテナ要素7−1の中心で最大値をとり、また、電圧V1の分布はアンテナ要素7−1の中心で0Vとなる。このことは、非特許文献4および非特許文献3に詳しく記載されている。
もう一つの方法は、外側アンテナ給電端Aと接地端Bの周方向の位置に対して、内側アンテナの給電端Aと接地端Bの周方向の位置をずらす、つまり位相角をつけることである。図20ではこの位相角は45°である。このような構成にすることで、プラズマの濃淡をチャンバ内に分散し、プラズマの拡散による均一性向上を図ることができる。図20の構成は、この二つの要件を同時に満たす一実施例である。
図21を用いて第10の実施例を説明する。図20で説明したような、定在波の影響でアンテナの周方向にプラズマ分布ができる場合、このプラズマ分布をより均一にする別のアンテナ構成がある。これは、アンテナ要素を重ねることであり、図21にこの一実施例を示す。図21では、高周波誘導アンテナ要素7−1は、その半分が高周波誘導アンテナ要素7−4と重なっており、また残り半分が高周波誘導アンテナ要素7−2と重なっている。高周波誘導アンテナ要素が重なった部分では、二つの高周波誘導アンテナ要素に流れる電流によって生じる誘導電場が加算される。つまり、高周波誘導アンテナ要素7−1の半分は電流I1とI4による誘導電場が形成され、残り半分は電流I1とI2による誘導電場が形成される。したがって、この構成により周方向の誘導電場をより滑らかにした状態で、回転電場を形成できる。この構成を全てのアンテナ要素に対して行ったのが、図21である。
以上、図20と図21を用いて、外側アンテナ7と内側アンテナ7’を用いてより滑らかな回転電場を形成する方法を説明した。ここで説明した、(1)外側アンテナと内側アンテナの周方向の取り付け位相角を設定する方法と、(2)接地端Bをコンデンサを介して接地する方法と、(3)アンテナ要素を重ねる方法は、別の図で説明したが、これらの方法を同時に実施することが可能である。
図22を用いて第11の実施例を説明する。高周波誘導アンテナ要素の長さlが、l<<λ/n、つまり、I1A=I1Bの場合、最も簡単なm=2となる構成の一実施例を図22に示す。この構成は、図12で説明した構成をそれぞれ内側アンテナ7’と外側アンテナ7に用いたものである。この場合、高周波誘導アンテナ要素に流れる電流I1、I1’、I2、I2’は、全て同相の電流とすることができる。したがって、内側アンテナの給電点Aと外側アンテナの給電点Aに、一台の電源から電流を供給することができる。この場合、内側アンテナと外側アンテナに供給する電流量を調整する電流調整器55を図に示した位置に挿入することが望ましい。もちろん、内側アンテナ7’と外側アンテナ7に別々の電源から電流を供給してもかまわない。
平板状真空容器蓋12の場合と同じように、絶縁体からなる真空容器蓋12が、台形の回転体状や中空の半球体すなわちドーム状や有底円筒形の場合でも、高周波誘導アンテナをその内周外周に配置することも、上下や斜めに配置することも可能である。図13で説明したように、真空容器蓋12に対するアンテナの位置は、プラズマの生成分布と拡散分布を制御する上で非常に重要である。同じ意味で、内側アンテナと外側アンテナを真空容器蓋12に対してどのように配置するかは重要である。
図23に真空容器蓋12に対する内側アンテナ7’と外側アンテナ7の配置のバリエーションを示す。図23(A)は、平板状真空容器蓋12の上に内側アンテナ7’と外側アンテナ7を設置した例である。図13(A)と比べると、より中心に集中したプラズマ分布を作り出すことができる。もちろん、内側アンテナ7’または外側アンテナ7の一方の電流を0Aとすれば、図23(A)と図13(A)は等価の構成である。平板状真空容器蓋12は、一つの面(上面)を持っているだけなので、このような構成になる。図23(B)は、ドーム状真空容器蓋12に対する内側アンテナ7’と外側アンテナ7の配置のバリエーションである。ドームの曲面上に外側アンテナと内側アンテナを配置し、プラズマの分布制御性を高めた構成である。図23(A)と同じく、内側アンテナ7’または外側アンテナ7の一方の電流を0Aとすれば、図23(B)と図13(B)は等価の構成である。
図23(C)(D)は、台形の回転体状真空容器蓋12に対する内側アンテナ7’と外側アンテナ7の配置のバリエーションである。この台形の回転体状真空容器蓋12は、傾斜した側面とフラットな上面を持つので、図23(C)(D)のようなバリエーションが可能になる。図23(C)は、側面に外側アンテナ7、上面に内側アンテナ7’を配置している。図23(D)は、傾斜した側面に内側アンテナ7’と外側アンテナ7を配置している。図23(C)(D)ともに、内側アンテナ7’または外側アンテナ7の一方の電流を0Aとすれば、図13(D)と等価な構成になる。また、図23(C)より図23(D)のほうが、より中心部のプラズマ分布を制御できる。図示していないが、両アンテナを全て上面に配置することも可能である。
図23(E)(F)(G)は、有底円筒形真空容器蓋12に対する内側アンテナ7’と外側アンテナ7の配置のバリエーションである。この有底円筒形真空容器蓋12は、垂直な側面と広いフラットな上面を持つので、図23(E)(F)(G)のようなバリエーションが可能になる。図23(E)は、側面に内側アンテナ7’と外側アンテナ7を配置している。図23(F)は、側面に外側アンテナ7、上面に内側アンテナ7’を配置している。図23(E)(F)ともに、内側アンテナ7’または外側アンテナ7の一方の電流を0Aとすれば、図13(E)と等価な構成になる。
図23(G)は、上面に外側アンテナ7と内側アンテナ7’を配置している。図23(G)は、内側アンテナ7’または外側アンテナ7の一方の電流を0Aとすれば、図13(A)と同じ構成になるように見える。しかし、図13(A)は側壁が導体の真空容器(接地されている)なのに対して、図23(G)では側壁が絶縁体からなる真空容器蓋12(電気的に浮いている)なので、発生する誘導電場の分布が異なり、同じではない。以上のような真空容器蓋12の形とそれに対する高周波誘導アンテナの組数と配置は、それらが発生するプラズマをどのようなプロセスに適用するかで決めるべきである。
図2、図13、図18および図23で説明したことを再度要約する。本発明では、アンテナの分割数n、真空容器蓋12の形、高周波誘導アンテナの組数m、真空容器蓋12に対するアンテナの配置という多数のプラズマ分布制御機能を持つ。しかし、これらは従来のICP源でも、装置構成として実現可能なことである。プラズマ分布制御に関し、本発明で最も重要なことは、これらの装置構成上柔軟なプラズマ制御性に、さらに、ECR面という電気的に外部から制御可能なチューニングノブを導入したことである。ICP源において回転誘導電場を作り出し、ECR放電を可能にするということは、プラズマ着火性に優れ、また、より低ガス圧力でプラズマ生成が可能になるというだけでなく、外部制御可能なECR面という優れたプラズマ制御性を付与することを意味する。これだけの柔軟性のあるプラズマ制御性を持つプラズマ源は、従来に例の無いことである。
図24を用いて、本発明の第12の実施例を説明する。この実施例は、図19に示した高周波誘導アンテナ素子7−1〜7−4、7’−1〜7’−4を、直線状とし、それぞれの組の外側アンテナ7、内側アンテナ7’を矩形状とした実施例である。図24に、アンテナ分割数n=4、アンテナ組数m=2の場合の高周波誘導アンテナの構成を示す。外側アンテナ7は、直線状に配置され分割された高周波誘導アンテナ素子7−1〜7−4が配置され、アンテナ分割数が4なので、四角形(矩形)を構成する。内側アンテナ7’も同様に構成される。これは、図19に示したアンテナ構成を、矩形にしたと考えてよい。しかし、四角形にしたことで、四角形の誘導電場が回転することになる。これは、図3で円形とした電場の形が四角形になると理解してよい。ただし、完璧に四角形の電場分布というのは存在しない。なぜなら、電場は常に微分可能な曲面で形成されるからである。しかし、図24の構成は、内側アンテナの作り出す誘導電場分布が持つ四角形からの崩れを、外側電極が補正するという効果を持つ。図24では、内側アンテナと外側アンテナの電流の位相差は0°としたが、図19と同様に、0°以外にも設定できる。
図25を用いて、本発明の第13の実施例を説明する。この実施例は、図24よりも、誘導電場をより四角形のままで回転させるように構成した高周波誘導アンテナの構成に関する実施例である。この構成は、図20で説明した考え方を、n角形に拡張したものであり、各アンテナ要素に流す電流の位相も、図20と同じになる。すなわち、高周波誘導アンテナ素子7−1〜7−4からなる外側(第1の)アンテナ7と、高周波誘導アンテナ素子7’−1〜7’−4からなる内側(第2の)アンテナ7’とを45°ずらして配置することによって、右回転誘導電場を形成するものである。第1のアンテナ7は、直線状の高周波誘導アンテナ素子7−1〜7−4を矩形に配置している。それぞれの高周波誘導アンテナ素子7−1〜7−4には、給電端Aからλ/4位相のずれた電流が供給され、接地端Bが接地されている。同様に、第2のアンテナ7’は、直線状の高周波誘導アンテナ素子7’−1〜7’−4を矩形に配置している。それぞれの高周波誘導アンテナ素子7’−1〜7’−4には、給電端Aからλ/4位相のずれた電流が供給され、接地端Bが接地されている。対応する高周波誘導アンテナ素子7−1、7’−1には、λ/8位相のずれた電流が供給され、他の高周波誘導アンテナ素子7−2、7’−2、素子7−3、7’−3、素子7−4、7’−4にも同様にλ/8位相のずれた電流が供給される。第1のアンテナ7と第2のアンテナ7’は、上下に重ねられ、かつ45°ずらして配置される。これによれば、隣接する各高周波誘導アンテナ素子には、それぞれλ/8位相のずれた電流I1、I1’、I2、I2’、I3、I3’、I4、I4’が流れ、図24よりもより四角形に近い形で右回転誘導電場を形成することができる。