JP5568028B2 - 絶縁導線、コイル及び絶縁導線の製造方法 - Google Patents

絶縁導線、コイル及び絶縁導線の製造方法 Download PDF

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絶縁導線及び絶縁導線の製造方法に係り、特に巻線に適する絶縁導線及び絶縁導線の製造方法に関する。
中心導体の周りを絶縁皮膜で被覆する絶縁導線は、その用途に応じて、絶縁皮膜の構成に工夫が行なわれる。
例えば、特許文献1には、絶縁導線として、軟銅線等の導体上に設ける絶縁層を内側絶縁層と中間絶縁層と外側絶縁層の3層構造とし、中間絶縁層にシリカ、アルミナ等の無機化合物粒子を含むポリアミドイミドとする構成が開示されている。外側絶縁層と内側絶縁層は、従来から用いられるポリウレタン、ポリエステルである。中間絶縁層は比較的硬く変形しにくいが内側絶縁層と外側絶縁層は比較的軟弱であるので、電線全体の可撓性が高くなると述べられている。
また、特許文献2には、外表面が粘着熱可塑性の結合層で被覆される導電体として、結合層が熱可塑性ポリマーと熱硬化性樹脂を含む構成が開示されている。熱可塑性ポリマーとして、高いガラス転移温度または高い融解温度を有するものとして、ガラス転移温度が210℃でのポリフェニレンエーテル、熱硬化性樹脂として、架橋度を20%から25%に限定したエポキシ樹脂等が用いられる。これによって、貯蔵弾性率を高めることができると述べられている。
また、特許文献3には、絶縁電線として、導体の外周をポリアミドイミド樹脂で被覆し、その外周をポリアミドイミドよりも伸長性の高いポリイミド樹脂で被覆する構成が開示されている。これにより、絶縁電線を屈曲させても絶縁被膜に亀裂が入ることを抑制できると述べられている。
また、特許文献4には、水中モータに用いる水中用被覆電線において、従来技術では、内層から順次にポリビニルフォルマール系のエナメル層、ポリプレン等の主絶縁層、ポリアミド系重合体の外部保護層からなる三層絶縁構造が用いられていることが述べられている。ここでは、外部保護層として、数平均重合度2000以上3500以下のポリ塩化ビニルを基材とするポリ塩化ビニル組成物を用いることで水封止性が向上することが開示されている。
特開2008−251295号公報 特表2007−510256号公報 特開2007−149562号公報 特公昭63−42803号公報
絶縁導線をコイル等に巻回するときには、曲げが加えられるので、絶縁皮膜が硬すぎると外表面に割れ等が生じる恐れがあり、反対に絶縁皮膜が柔らかすぎると、絶縁導線を巻回するときの巻線体積効率を上げると、隣接する絶縁導線の間で絶縁皮膜がつぶれる恐れが生じる。
本発明の目的は、曲げが加えられるときの外表面の割れを抑制しながら、巻回時の絶縁皮膜のつぶれを抑制できる絶縁導線と、その絶縁導線の製造方法を提供することである。
本発明に係る絶縁導線は、中心導体と、中心導体を被覆し、1つの材質の熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜であって、熱可塑性樹脂の結晶領域と非晶領域との全体の中で結晶領域が占める割合である結晶化度について、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きい絶縁皮膜と、を備えることを特徴とする。
また、本発明に係るコイルは、絶縁導線が巻回されるコイルであって、絶縁導線は、中心導体と、中心導体を被覆し、1つの材質の熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜であって、熱可塑性樹脂の結晶領域と非晶領域との全体の中で結晶領域が占める割合である結晶化度について、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きい絶縁皮膜と、を備えることを特徴とする
また、本発明に係る絶縁導線の製造方法は、1つの材質の熱可塑性樹脂を用い、その熱可塑樹脂を流動状態として中心導体に塗布する工程と、熱可塑性樹脂の結晶領域と非晶領域との全体の中で結晶領域が占める割合である結晶化度について、予め定めた結晶化度以下となる条件の下で、塗布された流動状態の熱可塑性樹脂を皮膜化する工程と、外表面を冷却しながら中心導体を加熱し、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きくする処理工程と、を含むことを特徴とする。
上記構成により、絶縁導線は、熱可塑性樹脂の絶縁被膜を含み、絶縁皮膜は、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きい。結晶化度が小さいほど伸び率が大きく、結晶化度が大きいほど圧縮率が小さい。したがって、曲げ加工のときは、外表面側の結晶化度が小さいので、よく伸びて外表面における割れを抑制でき、巻回するときの加圧においては中心導体側の結晶化度が大きい領域で圧縮に耐えて、皮膜つぶれを抑制できる。
また、絶縁導線において、絶縁皮膜は、1つの材質の熱可塑性樹脂で構成されるので、複数の絶縁層を積層する必要がない。
また、絶縁導線の製造方法は、中心導体に流動状態の熱可塑性樹脂を塗布し、予め定めた結晶化度以下となる条件の下で熱可塑性樹脂を皮膜化し、次に、外表面を冷却しながら中心導体を加熱して、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きくする。このように、1つの材質の熱可塑性樹脂を中心導体に塗布し、中心導体を適当に加熱する簡単な方法で、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きい絶縁皮膜を含む絶縁導線を得ることができる。
本発明に係る実施の形態の絶縁導線の断面図である。 本発明に係る実施の形態の絶縁導線の製造方法における手順を説明する図である。 結晶化度と伸びとの関係を説明する図である。 結晶化度と、加圧下の皮膜厚との関係を説明する図である。 本発明に係る実施の形態の絶縁導線の特性を説明する図である。
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、絶縁導線として、回転電機の巻線に用いられるものを説明するが、曲げ加工と、圧縮が加えられることがある用途であれば、回転電機以外の用途で用いられる絶縁導線であってもよい。例えば、ボビンに巻回するときに用いられる絶縁導線であってもよい。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、回転電機の巻線に用いられる絶縁導線10の断面図である。絶縁導線10は、軟銅線で構成される中心導体12と、中心導体12を被覆し、熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜20を備える。絶縁皮膜20の中心導体側の皮膜領域22と、外表面側の皮膜領域24とでは、熱可塑性樹脂の結晶化度が異なり、前者の結晶化度が後者の結晶化度よりも大きい。
熱可塑性樹脂には、結晶性樹脂と非晶性樹脂とがあり、結晶性樹脂にのみ、結晶と呼ばれる規則構造を伴ってポリマー鎖が配列配向した領域が存在する。一方で、非晶性樹脂には、そのような規則的な構造はなく、糸くずが絡み合ったように無配向でランダムな状態となっている。
結晶化度とは、熱可塑性樹脂の固体における結晶領域と非晶領域との全体の中で、結晶領域の占める質量の割合のことである。つまり、結晶化度=(結晶領域の質量)/{(結晶領域の質量)+(非晶領域の質量)である。
熱可塑性樹脂において、結晶性樹脂であっても、結晶化度が1=100%になることはない。これは、合成樹脂の結晶は長いポリマー鎖が折り畳まれた構造を持ち溜め、折れ曲がっているポリマー鎖の部分は必然的に非晶領域となるためである。
最も結晶化度が大きい樹脂の1つとして知られるポリアセタール樹脂(POM)でも結晶化度は、0.8=80%程度である。他の樹脂で、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の場合は、0.35〜0.45=35%から45%程度の結晶化度である。このように、熱可塑性樹脂の材質が異なると、結晶化度が異なってくる。
熱可塑性樹脂が結晶化する過程で考慮する温度は、融点とガラス転移温度である。融点を下回ると、結晶性樹脂では結晶化が進行し、ガラス転移温度を下回るとポリマー鎖が自由に動くことができなくなるため、結晶化ができなくなる。例えば、融点からガラス転移温度まで、熱可塑性樹脂の温度が降下する速度が異なると、結晶化が進行できる時間的余裕がことなるため、結晶化度が異なってくる。温度降下速度がゆっくりになるほど、結晶化度が大きくなる。このように、1つの材質の熱可塑性樹脂でも、温度降下速度によって結晶化度が異なってくる。
図1に示すように、絶縁皮膜の中で結晶化度が異なる構造とする参考実施例を、ガラス転移温度が異なる2つの材質の熱可塑性樹脂を積層することで得ることができる。上記の例で説明すると、POMの方がPEEKよりも結晶化度が大きいので、中心導体12の側の皮膜領域22にPOMを用い、外表面側の皮膜領域24にPEEKを用いるものとすれば、図1の構造を得ることができる。勿論、この組合せ以外であっても、中心導体12の側の皮膜領域22に結晶化度の大きい材質の熱可塑性樹脂を用い、外表面側の皮膜領域24に結晶化度の小さい材質の熱可塑性を用いるものとしてもよい。
異なる材質の熱可塑性樹脂の積層構造をとらなくても、1つの材質の熱可塑性樹脂を用いて、ガラス転移温度以上に加熱し、中心導体12の側の皮膜領域22の温度降下速度よりも、外表面側の皮膜領域24の温度降下速度の方を速くすることで、図1の構造を得ることができる。
図2は、1つの材質の熱可塑性樹脂を用い、図1の構造の絶縁導線10を製造する手順を示す図である。最初に中心導体12を準備する(中心導体準備工程)。次に、中心導体に流動状態の熱可塑性樹脂を塗布する(塗布工程)。流動状態とするには、融点以上に加熱することでもよいが、適当な媒体に熱可塑性樹脂を溶解させたものとしてもよい。塗布方法としては、浸漬法、コーティング法を用いることができる。
次に、予め定めた結晶化度以下となる条件の下で、熱可塑性樹脂を皮膜化する(皮膜化工程)。融点以上に加熱した熱可塑性樹脂を塗布した場合には、融点以下の適当な温度に下げる。例えば、室温に下げる。媒体に溶解させた熱可塑性樹脂を塗布した場合には、溶媒を蒸散させて、熱可塑性樹脂の皮膜とする。図2(a)には、皮膜化された熱可塑性樹脂26が示されている。この段階では、皮膜化した熱可塑性樹脂26は、均一な結晶化度を有している。
次に、外表面を冷却しながら中心導体12を加熱する(周辺冷却中心加熱工程)。その様子が図2(b)に示される。ここでは、冷却部30を用いて、外表面側を温度T1とし、中心導体12に通電してその温度をT2とした状態が示されている。冷却部30としては、電気絶縁性冷媒を用いてもよく、ファンを用いて空冷としてもよい。中心導体12に通電することに代えて、中心導体12を適当なヒータで加熱するものとしてもよい。中心導体12の温度T2は、冷却部30の温度T1よりも高い温度で、用いている熱可塑性樹脂のガラス転移温度を超える温度に設定される。
このように中心導体12の温度T2についてガラス転移温度を超える温度に設定し、冷却部30の温度T2をT1よりも低い温度とすると、皮膜化された熱可塑性樹脂27の中で冷却速度の差が生じる。すなわち、皮膜化された熱可塑性樹脂27の外表面側の皮膜領域では、冷却部30によって冷却されるので冷却速度が速く、皮膜化された熱可塑性樹脂27の中心導体12の側の皮膜領域は冷却部30から離れているので、冷却速度が遅い。
中心導体12の側の皮膜領域では冷却速度が遅いので、ガラス転移温度に温度が降下するまでの時間的余裕が比較的に長くなるので、結晶化する時間的余裕が比較的に長い。これに対し、外表面側の皮膜領域では冷却速度が速いので、ガラス転移温度に温度が降下するまでの時間的余裕が比較的に短く、結晶化する時間的余裕が比較的に短い。この差によって、中心導体12の側の皮膜領域の結晶化度が比較的に大きくなり、外表面側の皮膜領域の結晶化度が比較的に小さくなる。ここで、比較的に、とは、中心導体12の側と、外表面側との間における比較である。
適当な処理時間の後で、冷却部30を外し、中心導体12の加熱を止める(周辺冷却中心加熱停止工程)。図2(c)は、その後の絶縁導線10の様子を示す図である。図2(c)は図1と同じ内容の図で、絶縁皮膜20において、中心導体12の側に結晶化度の大きい皮膜領域22が形成され、外表面側に結晶化度の小さい皮膜領域24が形成される。
冷却部30の温度T1と、中心導体12の温度T1との温度差、および、T1の時間変化とT2の時間変化を制御することで、絶縁皮膜20の中心導体12の側から外表面側に向かう結晶化度の変化を制御することができる。例えば、T1とT2とをそれぞれ一定値二保持することで、絶縁皮膜20の中心導体12の側から外表面側に向かう結晶化度の変化を連続的なものとできる。T2とT1の間の温度差を時間的に階段的に変化させることで、絶縁皮膜20の中心導体12の側から外表面側に向かう結晶化度の変化を階段的なものとできる。図1と図2(c)は、階段的に結晶化度を異ならせた場合を示す図である。
図3と図4は、熱可塑性樹脂の特性と結晶化度との関係を説明する図である。図3は、横軸に規格化された結晶化度、縦軸に引張破断伸びの規格化された値をとり、引張破断試験を行なったときの破断時の伸びが結晶化度によってどのように変化するかを示す図である。図3に示されるように、結晶化度が小さいほど、引張破断伸びが大きい。図4は、横軸に規格化された結晶化度、縦軸に加圧下皮膜厚の規格化された値をとり、一定の加圧条件の下で加圧試験を行なったときの皮膜厚さが結晶化度によってどのように変化するかを示す図である。図4に示されるように、結晶化度が大きいほど、皮膜厚さの変化が小さくなる。
図5は、上記構成の絶縁導線10の特性を、他の構造と比較して、模式的に説明する図である。特性としては、絶縁導線10を曲げたときの外表面の割れの有無、隣接する絶縁導線10を互いに加圧したときのつぶれの有無を示してある。比較例としては、中心導体12を被覆する絶縁皮膜を比較的に硬質なものとした場合、中心導体12を被覆する絶縁皮膜を比較的に軟質なものとした場合を選んである。比較的に硬質、比較的に軟質とは、比較例の間に関するものである。
図5に示されるように、曲げ特性については、硬質皮膜比較例では、曲げの曲率が最小の外表面において割れが発生するが、軟質皮膜比較例では割れの発生が生じない。絶縁導線10においては、外表面側の皮膜領域24が図3で説明したように引張破断伸びが大きいので、外表面の割れを生じない。
また、加圧特性については、硬質皮膜比較例では、隣接する絶縁導線の間で絶縁皮膜のつぶれが生じないが、軟質皮膜比較例では、つぶれが生じる。絶縁導線10においては、中心導体12の側の皮膜領域22が図4で説明したように加圧下皮膜厚の減少がほとんどないので、つぶれが生じない。
このように、絶縁導線10において、曲げ加工のときは、外表面側の皮膜領域24の結晶化度が小さいので、よく伸びて外表面における割れを抑制でき、巻回時の加圧下では、中心導体12の側の結晶化度が大きい皮膜領域22で圧縮に耐えて、皮膜つぶれを抑制できる。
本発明に係る絶縁導線は、コイル巻線に利用できる。
10 絶縁導線、12 中心導体、20 絶縁皮膜、22 中心導体側の皮膜領域、24 外表面側の皮膜領域、26,27 皮膜化された熱可塑性樹脂、30 冷却部。

Claims (3)

  1. 中心導体と、
    中心導体を被覆し、1つの材質の熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜であって、熱可塑性樹脂の結晶領域と非晶領域との全体の中で結晶領域が占める割合である結晶化度について、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きい絶縁皮膜と、
    を備えることを特徴とする絶縁導線。
  2. 絶縁導線が巻回されるコイルであって、
    絶縁導線は、
    中心導体と、
    中心導体を被覆し、1つの材質の熱可塑性樹脂で構成される絶縁皮膜であって、熱可塑性樹脂の結晶領域と非晶領域との全体の中で結晶領域が占める割合である結晶化度について、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きい絶縁皮膜と、
    を備えることを特徴とするコイル。
  3. 1つの材質の熱可塑性樹脂を用い、その熱可塑樹脂を流動状態として中心導体に塗布する工程と、
    熱可塑性樹脂の結晶領域と非晶領域との全体の中で結晶領域が占める割合である結晶化度について、予め定めた結晶化度以下となる条件の下で、塗布された流動状態の熱可塑性樹脂を皮膜化する工程と、
    外表面を冷却しながら中心導体を加熱し、中心導体側の皮膜領域の結晶化度が外表面側の皮膜領域の結晶化度よりも大きくする処理工程と、
    を含むことを特徴とする絶縁導線の製造方法。
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