JP5566681B2 - 光電変換素子用電解質組成物及び光電変換素子 - Google Patents

光電変換素子用電解質組成物及び光電変換素子 Download PDF

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Description

本発明は、光電変換素子用電解質組成物及びこれを用いた光電変換素子に関する。
近年、環境負荷の小さなクリーンエネルギーとして、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池等の光電変換素子の研究開発が盛んに行われている。太陽電池としては、現在、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池等のシリコン系太陽電池や、シリコンの代わりにテルル化カドミウムやセレン化インジウム銅等の化合物半導体を用いた化合物半導体太陽電池などが実用化又は研究開発の対象となっている。しかし、これらの太陽電池を普及させるためには、製造コストが高い、原材料確保が困難である、エネルギーペイバックタイムが長いなどの問題点を克服する必要がある。一方、素子の大面積化や低価格化を指向した有機材料を用いた太陽電池もこれまでに多く提案されているが、変換効率や耐久性が低いという問題があった。
こうした状況の中で、色素によって増感された半導体多孔質体を用いた色素増感型太陽電池が開発されている(例えば、非特許文献1、特許文献1等を参照)。この色素増感型太陽電池として、現在主な研究開発の対象となっているものは、多孔性の酸化チタン薄膜の表面に色素を固定した、いわゆるグレッツェル・セルと呼ばれるものである。グレッツェル・セルは、ルテニウム錯体色素によって分光増感された酸化チタン多孔質薄膜層を作用電極とし、これに、ヨウ素を主体とする電解質層及び対極を積層した色素増感型の光電変換セルである。このグレッツェル・セルの第一の利点は、酸化チタン等の安価な酸化物半導体を用いるため、安価な光電変換素子を提供できる点にあり、第二の利点は、用いられるルテニウム錯体色素が可視光域に幅広く吸収を有していることから、比較的高い変換効率が得られる点にある。また、この方式の色素増感型太陽電池では、最近、12%を超える変換効率も報告され、シリコン系太陽電池と比較しても十分な実用性が確保されつつある。
ここで、色素増感型太陽電池の電解質としては、例えば、プロピレンカーボネート等の低分子量カーボネート類や、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等の低分子量エーテル類や、アセトニトリル、プロピオニトリル等の低分子量ニトリル類等の低分子量で、極性が高く、粘性の低い有機溶媒に、電極活物質としてヨウ素またはヨウ化物イオンを溶解させた電解質が用いられることが多い。ただし、このような低分子量、高極性、低粘性の有機溶媒は、光電変換素子の外部への電解質溶液の漏洩や揮発、電極活物質の溶出等により、長期的な素子の信頼性に問題があった。
このため、最近では、高分子化合物を主体とした高分子ゲル電解質、または、いわゆる有機溶融塩もしくはイオン性液体と称される有機液体を、電解質溶液の溶媒として用いるための検討がなされている。
特に、高分子化合物を主成分とした各種ゲル電解質の検討が盛んに行われている(例えば、特許文献2〜10を参照)。これらのゲル電解質を電解質溶液の溶媒として用いた光電変換素子は、電解質溶液の漏洩や揮発といった問題を解決するだけではなく、素子に柔軟性を付与できること、種々の形状に加工できること等の利点もある。
また、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩を利用した有機溶融塩を主体とした電解質の検討も進められている(例えば、特許文献11〜15を参照)。これらの有機溶融塩を電解質溶液の溶媒として用いた光電変換素子は、不揮発性の有機溶融塩を用いているため、ゲル電解質と同様に、電解質溶液の揮発等の問題は解決される。
米国特許第4927721号明細書 特開平5−120912号公報 特開平9−27352号公報 特開平8−236165号公報 特開2001−210390号公報 特開2002−216845号公報 特開2002−289272号公報 特開2003−68137号公報 特開2003−68138号公報 特開2000−150006号公報 特表平9−507334号公報 特開2000−53662号公報 特開2000−58891号公報 特開2000−90991号公報 特開2001−35253号公報 特許第4245608号公報 国際公開第2005/077859号パンフレット 特開2009−54368号公報 特開2004−348983号公報
B.O’Regan,M.Gratzel著、Nature、353巻、737〜740頁、1991年
しかしながら、特許文献2〜10に記載されているように、電解質溶液の溶媒として高分子ゲル電解質を使用した場合、ゲル電解質の機械的強度を確保するために多量のゲル化剤を導入すると、電解質溶液の粘性が高くなり過ぎるためにイオン伝導性が低下し、逆に、イオン伝導性を向上させるためにゲル化剤を減量すると、ゲル電解質の機械的強度を保つことができない、という本質的な問題を抱えていた。
また、特許文献11〜15に記載されているように、電解質溶液の溶媒として有機溶融塩(イオン性液体)を使用した場合、イオン性液体は粘凋であるために、ゲル電解質ほどではないにせよ、電解質溶液の粘性の増加によるイオン伝導性の低下は避けられない状況であった。
このように、電解質溶液の溶媒として、高分子ゲル電解質やイオン性液体を使用した場合には、電解質溶液の粘性の増加によりイオン伝導性が低下し、これにより、光電変換素子の光電変換効率が著しく低下する、という問題があった。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、光電変換素子用電解質組成物及びこれを用いた光電変換素子において、電解質のイオン伝導性を低下させずに、光電変換素子の外部への電解質溶液の漏洩や揮発、電極活物質の溶出等の問題を解決して、光電変換素子の長期的な信頼性を向上させることを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、高分子ゲル電解質やイオン性液体を使用した場合であっても、イオン伝導性の低下を抑制する方法について鋭意検討を行ったところ、電解質溶液(電解質組成物)にマイエナイト型化合物を添加することにより、イオン伝導性を低下させずに、光電変換素子の外部への電解質溶液の漏洩や揮発、電極活物質の溶出等を防止できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のある観点によれば、ハロゲン化物イオンとポリハロゲン化物イオンとからなるレドックス対と、マイエナイト型化合物と、を含む光電変換素子用電解質組成物が提供される。
ここで、前記光電変換素子用電解質組成物において、前記マイエナイト型化合物は、前記電解質組成物全体に対して0.1質量%以上50質量%以下含まれることが好ましい。マイエナイト型化合物が上記の含有量であることにより、イオン伝導性を向上させることができる。
また、前記光電変換素子用電解質組成物において、前記マイエナイト型化合物は、結晶格子中に存在する複数の空隙のうちの少なくとも一部の空隙内に、カチオンと反応できない状態のハロゲン化物イオンまたはポリハロゲン化物イオンを包含していることが好ましい。レドックス対のいずれか一方が、マイエナイト型化合物の空隙内に包含されていることにより、イオン伝導性を向上させることができる。
また、前記光電変換素子用電解質組成物において、前記レドックス対を伝導させる媒体が、ゲル電解質またはイオン性液体であってもよい。媒体としてゲル電解質やイオン性液体を使用した場合であっても、この光電変換素子用電解質組成物によれば、電解質溶液の粘性の増加によるイオン伝導性の低下を抑制することができる。
また、本発明の他の観点によれば、前述した光電変換素子用電解質組成物を用いた電解質層を備える光電変換素子が提供される。
ここで、前記光電変換素子としては、例えば、色素増感型太陽電池等の太陽電池が挙げられる。
本発明によれば、光電変換素子用電解質組成物及びこれを用いた光電変換素子において、電解質溶液の溶媒にゲル電解質やイオン性液体を使用した場合であっても、電解質組成物としてマイエナイト型化合物を用いることにより、電解質のイオン伝導性を低下させずに、光電変換素子の外部への電解質溶液の漏洩や揮発、電極活物質の溶出等の問題を解決することができる。従って、本発明に係る光電変換素子用電解質組成物及びこれを用いた光電変換素子によれば、高い光電変換効率を維持したまま、光電変換素子の長期的な信頼性を向上させることが可能となる。
本発明の一実施形態に係る光電変換素子の全体構成を示す説明図である。 同実施形態に係る光電変換素子の作動原理を模式的に示す説明図である。 同実施形態に係る電解質組成物に含まれるマイエナイト型化合物の結晶構造の一例を示す説明図である。 同実施形態に係る電解質溶液中におけるイオン伝導の一例を示す説明図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(光電変換素子の全体構成)
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の一実施形態に係る光電変換素子の全体構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換素子1の全体構成を示す説明図である。図2は、本実施形態に係る光電変換素子1の作動原理を模式的に示す説明図である。なお、以下では、光電変換素子1として、図1に示したようなグレッツェル・セルを有する色素増感型太陽電池を例に挙げて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る光電変換素子1は、2つの基板2(2A,2B)と、2つの透明電極10(10A,10B)と、光電極3と、対極4と、電解質溶液5と、スペーサ6と、取り出し導線7と、を主に備える。
<基板>
2つの基板2(2A,2B)は、所定の間隔を空けて互いに対向して配置される。この基板2の材質としては、光電変換素子1の外部からの光(太陽光など)の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない透明な材料であれば特に限定はされない。基板2の材質としては、例えば、石英、並ガラス、BK7、鉛ガラス等のガラス基材や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラート、ポリプロピレン、テトラアセチルセルロース、シンジオクタチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ、塩化ビニル等の樹脂基材などが挙げられる。
<透明電極>
本実施形態に係る透明電極10(10A,10B)は、透明導電性の基板であり、2つの基板2のうち、少なくとも、外部からの光が入射する側の基板2Aの表面に設けられている。また、光電変換効率向上の観点から、透明電極10のシート抵抗(表面抵抗)はできるだけ低い方が好ましく、具体的には20Ω/cm(Ω/sq.)以下であることが好ましい。なお、一般に、透明電極10のシート抵抗が高い(概ね10Ω/sq以上)ことから、発生した電流がTCO等の比較的導電性が低い基材中でジュール熱に変換されてしまい、光電変換効率が低くなってしまう現象が生じる場合がある。従って、色素増感型太陽電池等の光電変換素子1の面積を大面積化しようとする場合に支障が生じる。従って、透明電極10の表面に、光電極3から透明電極10Aに到達した励起電子を取り出し導線7まで伝達するための金属配線(集電電極)を設けてもよい。
ただし、2つの基板2のうち、基板2Aと対向した基板2Bの表面に設けられた透明電極10Bについては、必ずしも設ける必要はなく、また、透明電極10Bを設けた場合でも、必ずしも透明である(すなわち、光電変換素子1の外部からの光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない)必要は無い。なお、透明電極10Bは、導電性の基板である必要はある。
また、透明電極10A,10Bは、互いに対向するように、それぞれ、2つの基板2A,2Bに積層されており、例えば、透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conductive Oxide)を用いて膜状に形成される。TCOとしては、例えば、光電変換素子1の外部からの光の可視から近赤外領域に対して光吸収が少ない導電材料なら特に限定されないが、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO(酸化スズ)、FTO(フッ素等がドープされた酸化スズ)、ITO/ATO(アンチモン含有酸化スズ)、ZnO(酸化亜鉛)等の良好な導電性を有する金属酸化物が好適である。
<光電極>
光電極3は、光電変換素子1において、光電変換機能を有する無機金属酸化物半導体膜として使用されるものであり、多孔質の膜状に形成されている。より詳細には、図1に示すように、光電極3は、透明電極10の表面に、複数のTiO等の無機金属酸化物半導体の微粒子31(以下、単に「金属酸化物微粒子31」と称する。)を積層して形成され、この積層された金属酸化物微粒子31の層の中にナノメートルオーダーの細孔を有する多孔質体(ナノポーラスな膜)となっている。この光電極3は、このように、多数の細孔を有する多孔質体となっていることにより、光電極3の表面積を増加させることができ、多量の増感色素33を金属酸化物微粒子31の表面に連結させることができ(図2参照)、これにより、光電変換素子1が高い光電変換効率を有することができる。
ここで、図2に示すように、光電極3においては、金属酸化物微粒子31の表面に、増感色素33を、連結基35を介して連結することにより、無機金属酸化物半導体が増感された光電極3が得られる。なお、ここでいう「連結」とは、無機金属酸化物半導体と増感色素が化学的に結合または物理的に結合(例えば、吸着等により結合)していることを意味する。従って、ここでいう「連結基」には、化学的な官能基のみならず、アンカー基や吸着基も含まれる。
また、図2には、金属酸化物微粒子31の表面に増感色素33が1つだけ連結された状態が示されているが、図2は単に模式的に示したものであり、光電変換素子1の電気的出力の向上という観点から、金属酸化物微粒子31の表面に連結される増感色素33の数は可能な限り多く、多数の増感色素33が金属酸化物微粒子31の表面のできる限り広い範囲を被覆している状態となることが好ましい。ただし、被覆される増感色素33の数が多くなる場合には、近接する増感色素33同士の相互作用により、励起電子が失括してしまい、電気エネルギーとして取り出せない場合があるため、このような場合には、適当な距離をもって増感色素33が被覆できるように、デオキシコール酸などの共吸着物質を用いればよい。
また、光電極3は、1次粒子の数平均粒径で20nm〜100nm程度の大きさを有する金属酸化物微粒子31が複数層積層された構成を有している。この光電極3の膜厚は、数μmのオーダー(好ましくは、10μm以下)であることが好ましい。光電極3の膜厚が数μmのオーダーよりも薄いと、光電極3を透過する光が多くなり、増感色素33の光励起が不十分となり、有効な光電変換効率が得られないおそれがある。一方、光電極3の膜厚が数μmのオーダーよりも厚いと、光電極3の表面(電解質溶液7に接している側の表面)と導電面(光電極3と透明電極10との界面)との距離が長くなるために、発生した励起電子が導電面に有効に伝達されにくくなるため、良好な変換効率が得られにくくなるおそれがある。
次に、本実施形態に係る光電極3に使用可能な金属酸化物微粒子31及び増感色素33について詳細に説明する。
<金属酸化物微粒子>
一般に、無機金属酸化物半導体は、一部の波長域の光について光電変換機能を有しているが、金属酸化物微粒子31の表面に増感色素33を連結することにより、可視光から近赤外光までの領域の光に対する光電変換が可能となる。このような金属酸化物微粒子31として使用できる化合物としては、増感色素33を連結することで光電変換機能が増感されるものであれば特に制限はされないが、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ランタノイド、酸化イットリウム、酸化バナジウム等が挙げられる。ここで、金属酸化物微粒子31の表面が増感色素33によって増感されるためには、無機金属酸化物の伝導帯が増感色素33の光励起準位から電子を受け取りやすい位置に存在していることが好ましい。このような観点から、金属酸化物微粒子31として使用する化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ等が特に好ましい。さらに、価格や環境衛生等の観点から、酸化チタンがさらに好ましい。なお、本実施形態では、金属酸化物微粒子31として、上述した無機金属酸化物のうちの一種を単独で用いてもよく、あるいは、複数種を組み合わせて用いてもよい。
<増感色素>
増感色素33としては、金属酸化物微粒子31が光電変換機能を有していない領域(例えば、可視から近赤外の領域)の光に対して光電変換機能を有しているものであれば特に限定はされないが、例えば、アゾ系色素、キナクリドン系色素、ジケトピロロピロール系色素、スクワリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、クロロフィル系色素、ルテニウム錯体系色素、インジゴ系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、及びこれらの誘導体などを用いることができる。
また、増感色素33は、光励起された色素の励起電子を無機金属酸化物の伝導帯に迅速に伝達できるように、その構造中に、連結基35として、金属酸化物微粒子31の表面に連結することが可能な官能基を有していることが好ましい。このような官能基としては、金属酸化物微粒子31の表面に増感色素33を連結し、色素の励起電子を無機金属酸化物の伝導帯に迅速に伝達する機能を有する置換基であれば特に制限はされないが、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ヒドロキサム酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基などが挙げられる。
<対極>
対極4は、光電変換素子1の正極として機能するものであり、2つの透明電極10A,10Bのうち、光電極3が設けられた透明電極10Aと対向する透明電極10Bの表面に、光電極3と対向するように設けられており、膜状に形成される。すなわち、2つの透明電極10とスペーサ6とにより囲まれた領域内には、対極4が、透明電極10Bの表面に、光電極3と対向するように設けられている。この対極4の表面(光電極3と対向する側)には、導電性を有する金属触媒層が設けられている。対極4の金属触媒層に用いられる導電性の材料としては、例えば、金属(白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、金属酸化物(ITO(インジウムスズ酸化物)、酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛等)、導電性炭素材料または導電性有機材料などが挙げられる。なお、対極4の膜厚は、特に限定されないが、例えば、5nm〜10μmであることが好ましい。
なお、光電極3が設けられている側の透明電極10A及び対極4には、取り出し導線7が接続されており、透明電極10Aからの取り出し導線7と対極4からの取り出し導線7とが光電変換素子1の外部で接続されることにより、電流回路を形成することができる。
また、透明電極10Aと対極4とは、スペーサ6により所定間隔離隔させられている。このスペーサ6は、透明電極10A及び対極4の外縁部に沿って設けられており、透明電極10Aと対極4との間の空間を封止する役割を有している。このスペーサ6としては、密封性および耐蝕性の高い樹脂を使用することが好ましく、例えば、フィルム状に成形した熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、アイオノマー樹脂、ガラスフリット等を使用することができる。アイオノマー樹脂としては、例えば、三井デュポン・ポリケミカル製のハイラミン(商品名)等が挙げられる。
<電解質溶液>
さらに、透明電極10Aと対極4との間の空間には、スペーサ6により電解質溶液5が封入されている。電解質溶液5は、本実施形態に係る電解質組成物に対応するもので、例えば、電解質、媒体、及び添加物を含み、さらに、詳しくは後述するように、マイエナイト型化合物を含んでいる。
ここで、電解質としては、I/I 系、Br/Br 系などのレドックス対(酸化還元対)等を使用できるが、具体例としては、Iとヨウ化物(LiI、NaI、KI、CsI、MgI、CaI、CuI、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等)との混合物、Brと臭化物(LiBr等)との混合物、有機溶融塩化合物などを後述する媒体に溶解させたものを用いることができるが、この限りではない。また、ここでいう有機溶融塩化合物とは、有機カチオンと無機または有機アニオンからなるイオン対化合物であって、融点が室温以下であるものを指す。
有機溶融塩化合物を構成する有機カチオンの具体例としては、芳香族系カチオン類として、例えば、N−メチル−N’−エチルイミダゾリウムカチオン、N−メチル−N’−n−プロピルイミダゾリウムカチオン、N−メチル−N’−n−ヘキシルイミダゾリウムカチオン等のN−アルキル−N’−アルキルイミダゾリウムカチオン類や、N−ヘキシルピリジニウムカチオン、N−ブチルピリジニウムカチオン等のN−アルキルピリジニウムカチオン類などが挙げられる。また、脂肪族カチオン類として、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムカチオン等の脂肪族系カチオン類、N,N−メチルピロリジニウム等の環状脂肪族カチオン類などが挙げられる。
一方、有機溶融塩化合物を構成する無機または有機アニオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、六フッ化リンイオン、四フッ化ホウ素イオン、三フッ化メタンスルホン酸塩、過塩素酸イオン、次塩素酸イオン、塩素酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン等の無機アニオン類や、ビス(トリフロロメチルスルホニル)イミド等のアミド系アニオン類もしくはイミド系アニオン類などが挙げられる。
なお、有機溶融塩化合物としては、この他にも、Inorganic Chemistry、35巻、1168〜1178頁、1996年に記載のものなど、公知の化合物を用いることができる。
以上例示したヨウ化物、臭化物等は、単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。このうち特に、Iとヨウ化物の組み合わせ(例えば、IとLiI)、ピリジニウムヨーダイド、またはイミダゾリウムヨーダイド等を混合した電解質が好ましく用いられるが、これらに限定されることはない。
また、電解質溶液5の濃度は、媒体中にIが0.01〜0.5Mであり、ヨウ化物と臭化物のいずれか一方または双方等(複数種の場合はそれらの混合物)が0.1〜15M以下であることが好ましい。
電解質溶液5に用いられる媒体としては、良好なイオン伝導性を発現できる化合物であることが好ましい。このような媒体のうち液体状のものとしては、例えば、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物や、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類や、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類や、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物や、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物や、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物や、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン極性物質や、水などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、または複数種を組み合わせて用いてもよい。また、固体状(ゲル状を含む)の媒体を用いる目的で、液体状媒体にポリマーを含ませることもできる。この場合、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーを上記液体状媒体中に添加したり、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを上記液体状媒体中で重合させたりして、媒体を固体状にすることができる。また、電解質溶液5に用いられる媒体として、室温で液体となる有機・無機イオン対(「イオン性液体」とも称される。)を用いてもよい。電解質溶液5に用いる媒体としてイオン性液体を用いることで、電解質溶液5の蒸発を抑制できるので、光電変換素子1の耐久性をより高めることができる。
なお、電解質溶液5としては、この他に、CuI、CuSCN(これらの化合物は液体状媒体を必要としないp型半導体であり電解質として作用する。)等やNature、395巻、583〜585頁(1998年10月8日)記載の2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレンのような正孔輸送材料などを用いてもよい。
また、電解質溶液5中には、光電変換素子1の耐久性や電気的出力を向上させることを目的として、各種添加物を加えてもよい。例えば、耐久性向上を目的としてヨウ化マグネシウム等の無機塩類を添加してもよいし、電気的出力向上を目的としてt−ブチルピリジン、2−ピコリン、2,6−ルチジン等のアミン類や、デオキシコール酸等のステロイド類や、グルコース、グルコサミン、グルクロン酸等の単糖類およびそれらの糖アルコール類や、マルトース等の二糖類や、ラフィノース等の直鎖状オリゴ糖類や、シクロデキストリン等の環状オリゴ糖類や、ラクトオリゴ糖等の加水分解オリゴ糖類などを添加してもよい。
なお、電解質溶液5が封入されている層(以下、「電解質層」と称する。)の厚みは、特に限定されないが、対極4と色素が吸着した光電極3とが直接接触しないような最小の厚みとすることが好ましい。具体的には、電解質層の厚みは、0.1〜100μm程度であることが好ましい。
また、本実施形態に係る電解質溶液5に含有されているマイエナイト化合物の詳細については後述する。
(光電変換素子の作動原理)
次に、図2(必要に応じて図1)を参照しながら、前述した光電変換素子1の作動原理について詳細に説明する。
金属酸化物微粒子31と、その表面に連結基35を介して連結された増感色素33とを含む光電極3においては、図1及び図2に示すように、基板2Aを透過してセル内に入射した光(太陽光)は、金属酸化物微粒子31の表面に連結された増感色素33に吸収される。光を吸収した増感色素33は、電子的な基底状態から、MLCT(Metal to Ligand Charge Transfer)遷移により励起状態となり、増感色素33は、光励起された励起電子を放出し、この励起電子は、連結基35を介して金属酸化物(例えば、TiO)の伝導帯に注入される。その結果、増感色素33は酸化されて酸化状態となる。このとき、増感色素の励起電子の金属酸化物への効率的な注入のためには、増感色素33のエネルギー準位が、金属酸化物(半導体)の伝導帯のエネルギー準位よりも低いことが重要である。
金属酸化物の伝導帯に注入された励起電子は、他の金属酸化物微粒子31を伝わって、透明電極10Aに到達し、さらに、取り出し導線7を経由して対極4まで導かれる。一方、励起電子を放出して電子が不足する状態(酸化状態)となった増感色素33は、レドックス対のうちの還元体(例えば、I)の電解質51(Red)から電子を受け取り、基底状態の色素に戻る。増感色素33に電子を供給して酸化体(例えば、I )となった電解質51(Ox)は、対極4へ拡散し、対極4から電子を受け取り、還元体の電解質51(Red)に戻る。なお、電解質51(Ox)が電子を受け取る形態としては、電解質51(Ox)の対極4へ拡散する形態だけでなく、例えば、ホッピング伝導等により、他の電解質51(Red)から電子を受け取る形態であってもよい。
(本実施形態に係る電解質層の特徴的構成)
次に、本実施形態に係る電解質溶液5が封入されている電解質層の構成について詳細に説明する。本実施形態に係る電解質層は、電解質組成物として、少なくとも、レドックス対(例えば、I/I 系、Br/Br 系など)と、マイエナイト型化合物とを含有する。
<マイエナイト型化合物の特徴>
本実施形態において、マイエナイト型化合物とは、立方晶系の結晶構造を有するセメント鉱物であるマイエナイト及びマイエナイトと類似した結晶構造を有する化合物を意味する。具体的には、本実施形態におけるマイエナイト型化合物の代表的な組成は、12CaO・7Al(以下、「C12A7」と表す。)、または、12SrO・7Al等で表され、Ca2+、Al3+及びO2−の結合により、かご(ケージ)状の結晶構造を形成している。より詳細には、このマイエナイト型化合物の結晶は、その結晶格子中に、直径0.4nm〜0.6nm程度の微小な空隙を単位格子当たり12個有しており、例えば、C12A7結晶は、その空隙内に単位格子当たり2個のO2−を包含している(取り込んでいる)。すなわち、C12A7結晶は、[Ca24Al28644+・2O2−と表記され得る構造を有している。また、C12A7結晶中のO2−は、カチオンと結合できない状態で空隙内に緩く束縛されており、フリー酸素と呼ばれている(例えば、H.B.Bartl and T.Scheller, Neuses Jarhrb.Minerai,Monatsh.(1970年),547を参照)。
また、上記のフリー酸素が、フッ素または塩素で置換された、実質的に[Ca24Al28644+・4F、または[Ca24Al28644+・4Clと表記される結晶も知られている(例えば、P.P.Williams, Acta Crystallogr.,Sec.B,29,1550(1973年)や、H.Pollmann, F.Kammerer, J.Goske, J.Neubauer, Friedrich−Alexander−Univ.Erlangen−Nurnberg,Germany,ICDD Grant−in−Aid,(1994年)等を参照)。
このような構造を有するマイエナイト型化合物は、従来からセメントの材料として使用されてきたが、近年、その物理・化学的な特徴から、結晶格子中に存在するフリー酸素を電子と置換することにより、導電性を持たせられることが知られている。また、このような電子を空隙内に取り込んでいるマイエナイト型化合物は、エレクトライドとも呼ばれている。エレクトライドは、C12A7の単結晶を、アルカリ金属蒸気を用いて還元処理すると、空隙中のフリー酸素が電子で置き換えられ、高導電性を有する単結晶の導電性マイエナイト型化合物を作製できることが知られている(例えば、特許文献16及び17を参照)。そのため、マイエナイト型化合物をプラズマディスプレイの電子放出層に使用することが提案されている(例えば、特許文献18を参照)。また、Liイオンバッテリーの負極活物質としてマイエナイト型化合物を使用することも提案されている(例えば、特許文献19を参照)。
<マイエナイト型化合物の光電変換素子用電解質組成物への適用の検討>
そこで、本発明者らは、前述したようなマイエナイト型化合物を光電変換素子用電解質組成物へ適用可能か否かについて検討した。その結果、色素増感型太陽電池等の光電変換素子においては、特許文献18に記載されたプラズマディスプレイや、特許文献19に記載されたLiイオンバッテリーとは、本質的に、導電性を発現する機構が全く異なっているため、特許文献18や特許文献19に記載された技術を単純には適用できないことが判明した。
すなわち、本願発明では、ハロゲン化物イオン(IやBr等)とポリハロゲン化物イオン(I やBr 等)とからなるレドックス対を含有する電解質組成物に、マイエナイト型化合物を添加することにより、これまでには無い優れた効果が得られることが判明した。
(マイエナイト型化合物の電解質組成物への添加効果)
以下、図3及び図4を参照しながら、マイエナイト型化合物を光電変換素子用電解質組成物へ適用した場合の効果について説明する。図3は、本実施形態に係る電解質組成物に含まれるマイエナイト型化合物の結晶構造の一例を示す説明図である。図4は、本実施形態に係る電解質溶液中におけるイオン伝導の一例を示す説明図である。
前述したように、色素増感型太陽電池等の光電変換素子用の電解質においては、通常は、媒体(溶媒)として、揮発性の有機溶媒等が用いられており、この場合、電解質溶液の揮発や素子の外部への漏洩等の問題があった。これに対して、媒体として、ゲル電解液やイオン性液体を使用すれば、上記電解質溶液の揮発や漏洩を抑制することができるが、電解質溶液の粘性の増加により、イオン伝導性が低下してしまい、光電変換素子の光電変換効率や寿命等の性能が劣化してしまう、という問題があった。このように、電解質溶液の揮発や素子の外部への漏洩等の問題とイオン伝導性の低下の問題とはトレードオフの関係にあり、これまでは、双方を解決する手段は存在しなかった。
これに対し、光電変換素子用の電解質組成物にマイエナイト型の化合物を添加することにより、トレードオフの関係にあった電解質溶液の揮発や素子の外部への漏洩等の問題とイオン伝導性の低下の問題を同時に解決することができる。
<本実施形態に係るマイエナイト化合物の構造>
本実施形態において、光電変換素子用の電解質組成物に添加するときのマイエナイト型化合物の形態については、結晶格子内にO2−を包含するC12A7等の結晶の形態、O2−が電子に置換されたC12A7エレクトライド等の形態、O2−がハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンに置換された形態のいずれでもよく、特に限定はされない。
ただし、本実施形態におけるように、ハロゲン化物イオンとポリハロゲン化物イオンとからなるレドックス対を含有する電解質組成物にマイエナイト型化合物を添加した場合、マイエナイト型化合物の周囲にハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンが存在すると、図3に示すように、これらのイオンが、マイエナイト型化合物の結晶格子中の空隙に、取り込まれる。なお、マイエナイト型化合物の結晶格子中の空隙に取り込まれて包含されたハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンは、カチオンと結合できない状態となっている。
本実施形態では、このように、マイエナイト型化合物の結晶格子中の空隙にハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンが包含されることが、イオン伝導性の向上に寄与しているものと考えられる。すなわち、マイエナイト型化合物の空隙に包含されたイオンは、カチオンと結合できない状態で緩く束縛されているが、電子を放出しやすい状態にある。また、本実施形態では、この電子を放出しやすい状態にあるハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンが包含されたマイエナイト型化合物が、電解質溶液内に分散されている。すると、電解質溶液の粘性が高く、ハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンの状態では拡散しにくい状態であっても、電解質溶液内に広く分散されているマイエナイト化合物に包含されているハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンと、電子の授受を行い、イオン交換反応により、容易に電荷を移動させることができるものと推測される。以下、この点について、図4を参照しながら、さらに詳細に説明する。
<イオン伝導性の向上効果の発現機構>
図4に示すように、色素増感型太陽電池等の光電変換素子の電解質溶液5中には、還元体の電解質51(Red)としてのヨウ化物イオン(I)と、酸化体の電解質51(Ox)としての3ヨウ化物イオン(I )とからなるレドックス対(酸化還元対)が存在している。この場合に、増感色素33が、光エネルギー(hν)を吸収して電子を放出し、半導体の酸化チタン(TiO)がその電子を受け取って光電極3へと引き渡す。そして、増感色素33に残留したホール(h+)は、還元体の電解質51(Red)としてのIによって還元される。このとき、Iは、酸化体のI へ酸化される。酸化されたI は、対極4の近傍まで電解質溶液5中を拡散するなどして、対極4から再び電子を受け取ることにより還元され、還元体のIに戻る。
このような原理の下では、ヨウ化物イオン(I)の拡散がいかに速く起こるかどうかが、イオン伝導性の向上、ひいては変換効率の向上のために極めて重要である。ここで、電解質であるIの一般的な拡散の支配要素は物理拡散である。そのため、媒体(溶剤)の揮発等を抑制しようとして、溶剤の沸点や蒸気圧を上げようとして、例えば、ゲル電解質やイオン性液体を媒体として使用すると、電解質溶液5の粘度が高くなるので、拡散速度は低くなり、イオン伝導性が低下する。その結果、光電変換素子の変換効率や寿命等の性能が低下する。
一方、電解質溶液5中におけるヨウ化物イオンの濃度が高くなると、直接のイオンの移動を伴わない、イオン交換反応による電荷移動も可能となる。そこで、本実施形態では、マイエナイト型化合物53を電解質溶液5に添加することにより、ヨウ化物イオンとマイエナイト型化合物との間に錯体化や吸着などの相互作用が生じる。すると、電解質溶液5内において、局所的にヨウ化物イオンの濃度が増大し、図4の太矢印に示すように、イオン交換反応による電荷移動(いわゆるホッピング伝導)が増大され、これにより、ヨウ化物イオンの見かけの拡散速度が向上し、その結果、イオン伝導性が向上し、光電変換素子の変換効率や寿命等の性能が向上したものと考えられる。
従って、本実施形態に係る電解質組成物によれば、電解質溶液の揮発等を抑制するとともに、イオン伝導性の低下による変換効率等の性能劣化も未然に防ぐことができる。
<マイエナイト型化合物の含有量>
以上説明したように、本実施形態に係る電解質組成物(電解質溶液)においては、電解質溶液内におけるヨウ化物イオンの濃度を局所的に増加させて、イオン交換反応による電荷の移動を促進することが重要である。このような観点から、本実施形態に係る電解質組成物には、マイエナイト型化合物を、電解質組成物全体に対して0.1質量%以上50質量%以下含有させることが好ましい。マイエナイト化合物の含有量が0.1質量%以上で、イオン交換反応による電荷の移動を効果的に促進することができる。一方、マイエナイト化合物の含有量が過剰であると、マイエナイト型化合物中に拘束されている(取り込まれている)ハロゲン化物イオンと、自由に振舞える(電子を供給してカチオンと結合できる)ハロゲン化物イオンのバランスが崩れるため、光電変換素子の特性が低下し、また、電解質組成物中のマイエナイト型化合物が成分の大部分を占めてしまい、電解質組成物の流動性が著しく低下するため、光電変換素子に電解質組成物を注入したり、塗布したりすることが困難になる。このため、50質量%以下とすることが好ましい。
(光電変換素子の製造方法について)
以上、本発明の一実施形態に係る光電変換素子1の構成について詳細に説明した。続いて、前述した構成を有する本実施形態に係る光電変換素子1の製造方法について詳細に説明する。
<正極の作製>
まず、前述した基板2(ガラス基板や透明樹脂基板等)の表面に、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO(酸化スズ)、FTO(フッ素等がドープされた酸化スズ)、ITO/ATO(アンチモン含有酸化スズ)、ZnO(酸化亜鉛)等のTCOをスパッタリング法等により塗布し、透明電極10を形成する。
以上のようにして透明電極10を形成した後に、この透明電極10の表面の有効面積(光電変換が可能な領域の面積)全体に、金属(白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、金属酸化物(ITO(インジウムスズ酸化物)、酸化スズ(フッ素等がドープされた物を含む)、酸化亜鉛等)、導電性炭素材料または導電性有機材料などをスパッタリング法等の公知の方法により処理し、対極4を形成する。
以上のようにして、正極を作製することができる。
<負極の作製>
次に、負極については、まず、正極の場合と同様にして、基板2の表面に、透明電極10を形成する。
次に、TiO等の金属酸化物微粒子31(好ましくは、ナノメートルオーダーの粒径を有するもの)、及び、これを結着させるためのバインダ樹脂を、水または適当な有機溶剤中に分散させたペースト組成物を調製する。次いで、調製したペースト組成物を、透明電極10の表面に有効面積(光電変換が可能な領域の面積)全体に塗布する。上記ペースト組成物の塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、ディスペンサーによる塗布、スピンコーティング、スキージを用いた塗布、ディップコーティング、吹き付けによる塗布、ダイコーティング、インクジェット印刷等が挙げられる。次に、塗布したペースト組成物を溶剤が消失する温度(80℃〜200℃程度)にて乾燥後、バインダ樹脂が消失し、且つ、金属酸化物微粒子が焼結する温度(400℃〜600℃程度)にて焼成し、金属酸化物半導体膜を形成する。
さらに、得られた金属酸化物半導体膜を基板2及び透明電極10ごと、増感色素33を溶解させた溶液(例えば、ルテニウム錯体系色素のエタノール溶液)中に数時間浸漬させることにより、金属酸化物微粒子31の表面と増感色素33の連結基35との親和性を利用して、金属酸化物微粒子31の表面に増感色素33を結合させる。最後に、溶剤が消失する温度(40℃〜100℃程度)にて増感色素33が結合した金属酸化物半導体膜を乾燥させ、光電極3を形成する。なお、増感色素33を金属酸化物微粒子31の表面に結合させる方法は、上記の方法には限られない。
増感色素を溶解させた溶液(以下、「色素溶液」と称する。)の調製に使用される溶媒としては、例えば、エタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒や、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒や、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒や、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒や、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒や、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒や、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等の炭酸エステル系溶媒や、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒や、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、Nメチルピロリドンや、水などの各種溶媒を用いることができるが、これらには限られない。色素溶液の濃度は、特に制限されないが、0.01〜10mmol/L程度とすればよい。
<正極と負極の接合>
以上のようにして作製した正極と負極とを対面させ、それぞれの基板2の周縁部にスペーサ6(例えば、三井デュポン・ポリケミカル製のハイミラン(商品名)等のアイオノマー樹脂)を配置し、120℃程度の温度で正極と負極とを熱融着させる。
<電解質溶液の調製及びセルへの注入>
次いで、電解質溶液5を電解液の注入口から注入し、セル全体に行き渡らせ、光電変換素子1を得ることができる。ここで、電解質溶液5としては、例えば、LiIとIとを溶解したアセトニトリル電解質溶液とすることができる。また、この電解質溶液5には、マイエナイト型化合物を添加する。マイエナイト型化合物の添加方法は、特に限定されないが、マイエナイト型化合物を、電解質溶液5中になるべく均一に分散させることが好ましい。
また、電解質溶液5に添加するマイエナイト型化合物の種類についても特に限定はされず、結晶格子内にO2−を包含するC12A7等の結晶の形態でもよく、O2−が電子に置換されたC12A7エレクトライド等の形態でもよく、O2−がハロゲン化物イオンやポリハロゲン化物イオンに置換されたものであってもよい。なお、マイエナイト型化合物の合成方法の例については、後述する実施例において具体的に説明する。
なお、光電変換素子1は、必要に応じて、複数の光電変換素子1を連結させるなどして組み合わせてもよい。例えば、複数の光電変換素子1を直列に組み合わせることによって、全体としての起電圧を高くすることができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上述した実施形態では、光電変換機能を有し、表面に増感色素が連結されて増感される無機半導体微粒子として、金属酸化物微粒子31を例に挙げて説明したが、本発明に係る無機半導体微粒子としては、金属酸化物微粒子31には限られず、例えば、金属酸化物ではない無機半導体微粒子であってもよい。このような金属酸化物ではない無機半導体微粒子として使用できる化合物の例としては、シリコン、ゲルマニウム、III族−V族系半導体、金属カルコゲニド等が挙げられる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
本実施例では、マイエナイト型化合物を添加した電解質組成物を用いた色素増感型太陽電池の光電変換効率及び寿命特性を評価した。
(色素増感型太陽電池セルの製造方法)
まず、色素増感型太陽電池セルの製造方法について説明する。
<透明電極>
透明電極として、フッ素ドープ型酸化スズ層(透明電極層)付きのFTOガラス基板(旭ガラス社製、タイプU−TCO)を使用した。
<対極>
対極として、フッ素ドープ型酸化スズ層付きのFTOガラス基板(旭ガラス社製、タイプU−TCO)の導電層上に、スパッタリング法により厚み150nmの白金層(白金電極層)を積層したものを使用した。
<光電極用ペースト組成物の調製及び酸化チタン光電極の作製>
次に、酸化チタン光電極を作製した。具体的には、まず、チタニウムテトラ−n−プロポキシド2ml、酢酸4ml、イオン交換水1ml、ポリビニルピロリン0.8g、及び2−プロパノール40mlを混合して混合溶液を調製し、この混合溶液をFTOガラス基板上にスピンコートし、室温で乾燥後、空気中、450℃で1時間焼成した。焼成して得られた電極上に再度、同一の混合溶液を用いてスピンコートし、空気中、450℃で1時間焼成した。
次いで、酸化チタン(日本アエロジル社製P−25)3g、アセチルアセトン0.2g、界面活性剤(和光純薬製ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)0.3gを水5.5g、エタノール1.0gと共にビーズミル処理により12時間分散処理を施した。得られた分散液にポリエチレングリコール(#20,000)1.2gを加えてペースト組成物を作製した。このペースト組成物を、上記で得た集電線付電極上に膜厚15μmになるようにスクリーン印刷にて製膜し、150℃で乾燥後、空気中、500℃で1時間焼成することにより、酸化チタン光電極を得た。セルの有効面積は、0.25cmであった。
<増感色素の吸着>
次に、前述したようにして得られた酸化チタン電極に、以下のようにして増感色素を吸着させた。光電変換用増感色素N719(Solaronix社製)をエタノール(濃度0.6mmol/L)に溶解させて色素溶液を調製し、この色素溶液に、上記酸化チタン電極を浸漬させた後に、室温で24時間放置した。着色した酸化チタン電極の表面をエタノールで洗浄した後、4−t−ブチルピリジンの2mol%アルコール溶液に30分間浸漬させ、室温で乾燥させて、増感色素の吸着した酸化チタン多孔質膜を有する光電極を得た。
<電解質溶液の調製>
次に、標準電解質溶液として、下記処方の電解質溶液を調製した。電解質を溶解させる溶媒としては、揮発性の溶媒として、3−メトキシプロピオニトリル(3MPN)、イオン性液体として、N−メチル−N’−ヘキシルイミダゾリウムヨウ化物塩(HMII)、ゲル電解質溶液として、ポリフッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体(PVDF−HFP)を3MPNに15質量%溶解したものをそれぞれ用いた。
LiI : 0.1M
: 0.05M
4−t−ブチルピリジン : 0.5M
1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド : 0.6M
<マイエナイト型化合物の合成方法及び添加方法>
また、標準電解質溶液に添加するマイエナイト型化合物は、以下のようにして合成した。
1)マイエナイト型化合物の合成方法
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを、酸化物換算のモル比で12:7となるように調合して、大気雰囲気下、1300℃で6時間保持した後、室温まで冷却した。得られた焼結物を粉砕及び分級して平均粒子径が0.5〜50μmの粉末を得た。得られた粉末は白色の絶縁体であり、X線回折によるとマイエナイト型の構造を有するC12A7化合物(以下、「試料MA」とする。)であった。
2)導電性マイエナイト型化合物の合成方法
1)で得られたマイエナイト型化合物の100質量部に対して0.4質量部の炭素粉末(平均粒子径:10μm)を混合した混合粉末を、200kgf/cmの圧力でプレス成型して直径3cm、高さ3cmの成型体(試料A)とした。試料A中のCa、SrおよびAlの合計原子数に対する炭素原子数の比は1.9%であった。この試料Aを蓋付きカーボン容器に入れ、酸素濃度0.6体積%の窒素ガス雰囲気の窒素フロー炉中で、1300℃まで昇温させて2時間保持する熱処理を施した。熱処理後の成型体(試料B)は濃緑色で、X線回折測定よりマイエナイト型化合物と同定された。この試料Bの電子密度は1.5×1020/cmで、1S/cm超の電気伝導率を有することがわかった。以上により、導電性マイエナイト型化合物(以下、「試料MB」とする。)が得られたことが確認された。
3)ヨウ素吸着マイエナイト型化合物の合成
先に合成したマイエナイト型化合物(試料MA)0.5gを石英管内に充填し、電気炉で加熱して試料MAを700℃に加熱した後、石英管内に0.002mol/lのヨウ素水溶液と窒素ガスとを導入した。試料MAの反応前後におけるX線回折パターンを比較すると、反応後の試料の回折パターンは反応前の試料の回折パターンよりも低角度側にシフトしており、結晶の単位格子が大きくなっていることを示しているため、得られた反応後の試料(以下、「試料MC」とする。)では、ヨウ素が結晶構造中に取り込まれていると確認した。
前述したようにして得られた試料MA、MB、MCをそれぞれ0.1〜50質量%ずつ別途の標準電解質溶液に添加して十分に分散させることにより、試料MA、試料MB及び試料MCがそれぞれ添加された電解質溶液を調製した。
<光電変換セルの組み立て>
次に、上述したようにして作製した光電極及び対極を用いて、図1に示したような光電変換セル(色素増感型太陽電池)の試験サンプルを組み立てた。すなわち、上記のようにして作製した光電極と、上記のようにして作製した対極とを、樹脂フィルム製スペーサ(三井・デュポンポリケミカル社製「ハイミラン」フィルム(50μm厚))を挟んで固定し、熱圧着により封止した。次に、予め空けておいた電解液注入口より、上記電解質溶液を注入して電解質溶液層を形成した。電解液注入口を上記と同様にして熱圧着により封止した。ガラス基板には、それぞれ変換効率測定用の導線を接続した。
(変換効率の測定方法)
以上のようにして作製した各実施例及び比較例における光電変換セルについて、以下の方法により変換効率を測定した。すなわち、ORIEL社製ソーラーシュミレータ(#8116)をエアマスフィルタと組み合わせ、光量計で100mW/cmの光量に調整して測定用光源とし、光電変換セルの試験サンプルに光照射をしながら、KEITHLEY MODEL2400ソースメーターを使用してI‐Vカーブ特性を測定した。変換効率η(%)は、I‐Vカーブ特性測定から得られたVoc(開放電圧値)、Isc(短絡電流値)、ff(フィルファクター値)を用いて、下記変換効率式(1)により算出した。得られた変換効率の値を表1に示した。
Figure 0005566681
(寿命特性(加速試験)の評価方法)
同様に、作製した各実施例及び比較例における光電変換セルを85℃、湿度85%の恒温恒湿槽に200時間放置した後に、再び、前述した方法で変換効率を測定し、初期の変換効率に対する恒温恒湿槽に放置後の変換効率の初期特性の保持率(=(恒温恒湿槽に放置後の変換効率)/(初期の変換効率)×100)を求めた。得られた初期特性の保持率を表1に示した。
Figure 0005566681
その結果、表1に示すように、実施例1〜9のマイエナイト型化合物を含有した電解質溶液を用いて作製した光電変換セルは、いずれも優れた光電変換効率及び寿命特性を有していることが分かる。
一方、溶媒(媒体)として揮発性のアセトニトリルを使用した比較例1及び比較例2では、光電変換効率は優れていたが、電解質溶液の揮発により、寿命特性は非常に劣っていた。
また、溶媒(媒体)として高沸点溶媒である3MPNを使用した場合には、実施例1と比較例3とを比較するとわかるように、マイエナイト型化合物を含有している実施例3は、マイエナイト型化合物を含有していない比較例3と比較して、変換効率の向上が確認された。
また、溶媒(媒体)としてHMIIやゲル電解質を使用した場合には、実施例2と比較例4との比較や、実施例3と比較例5との比較からわかるように、マイエナイト型化合物を含有していないと、変換効率が非常に低いが、寿命特性には優れていることがわかる。一方、電解質溶液にマイエナイト型化合物を添加することにより、優れた寿命特性を維持したまま、変換効率を大きく向上させることができた。
以上のように、色素増感型太陽電池等の光電変換素子の電解質溶液中にマイエナイト型化合物を添加することで、光電変換効率の向上、特に、電解質溶液の揮発等を防止して、優れた寿命特性を維持したまま、さらなる光電変換効率の向上を図ることが可能となる。
1 光電変換素子
2 基板
3 光電極
4 対極
5 電解質溶液
6 スペーサ
7 取り出し導線
10 透明電極
31 金属酸化物微粒子
33 増感色素
51 電解質

Claims (4)

  1. ハロゲン化物イオンとポリハロゲン化物イオンとからなるレドックス対と、マイエナイト型化合物と、を含み、
    前記マイエナイト型化合物は、結晶格子中に存在する複数の空隙のうちの少なくとも一部の空隙内に、カチオンと結合できない状態のハロゲン化物イオンまたはポリハロゲン化物イオンを包含しており、
    前記レドックス対を伝導させる媒体が、ゲル電解質またはイオン性液体であることを特徴とする、光電変換素子用電解質組成物。
  2. 前記マイエナイト型化合物は、前記電解質組成物全体に対して0.1質量%以上50質量%以下含まれることを特徴とする、請求項1に記載の光電変換素子用電解質組成物。
  3. 請求項1または2に記載の光電変換素子用電解質組成物を用いた電解質層を備える、光電変換素子。
  4. 前記光電変換素子は、色素増感型太陽電池であることを特徴とする、請求項に記載の光電変換素子。
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