JP5564017B2 - 農作業機の走行伝動装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンからの駆動力を入力して変速し、出力する変速駆動力がHST変速線に沿って変速するよう作用する静油圧式の無段変速部、及びエンジンからの駆動力と前記無段変速部からの変速駆動力とを入力して合成し、出力する合成駆動力が前記無段変速部の変速によってHMT変速線に沿って変速するよう作用する遊星伝動部を有する変速伝動機を備え、前記無段変速部が出力する変速駆動力を走行装置に出力するHST伝動を設定するHST設定状態と前記遊星伝動部が出力する合成駆動力を走行装置に出力するHMT伝動を設定するHMT設定状態とに切り換え自在なクラッチ機構を前記変速伝動機に設け、主変速操作具からの主変速指令に基づいて前記無段変速部を構成する油圧ポンプを変速制御するとともに前記クラッチ機構を切換え制御する変速制御手段を備える農作業機の走行伝動装置に関する。
農作業機では、作業列の終端での方向変換を行なう場合など、前後進の切換えを繰り返して行なわれることがある。上記した農作業機の走行伝動装置は、図6に示す如き出力特性を備え、無段変速部の中立状態を挟んでの前進側と後進側への変速操作を行なうことで出力速度がHST変速線に沿って前進側と後進側とに変化し、前後進切換えのための特別な操作を必要としない簡単な変速操作を行なうだけで機体の前後進切換えを行なえるよう構成されたものである。
この種の走行伝動装置として、従来、例えば特許文献1に記載されたものがあった。特許文献1に記載されたものでは、エンジンの出力を前後輪に伝達する伝動系に油圧式無段変速装置、遊星歯車機構及び2つ油圧クラッチを設け、2つの油圧クラッチの接続切換えを行なうことにより、HSTモードの駆動系が構成されて、油圧式無段変速装置のモータ出力軸から出力される駆動力が遊星歯車機構に伝達されずに前後輪に伝達される。また、2つの油圧クラッチの接続切換えを行なうことにより、HMTモードの駆動系が構成されて、油圧式無段変速装置のモータ出力軸から出力される駆動力が遊星歯車機構に伝達されて遊星歯車機構によって油圧式無段変速装置からの駆動力とエンジンからの駆動力を合成され、遊星歯車機構から出力される合成駆動力が前後輪に伝達される。
従来、例えば特許文献2に示されるように、無段変速装置を構成する油圧モータの斜板を制御するアクチュエータを備え、このアクチュエータを切換えスイッチによる指令操作によって操作して、油圧モータを高速と低速の2段に切換えるよう構成されたものがあった。
特開2001−108061号公報 特開2003−202067号公報
上記した農作業機の走行伝動装置において、無段変速部を構成する油圧モータを可変容量形に構成し、油圧モータの斜板角変更操作を行なう副変速アクチュエータを備えるとともに、副変速操作具を操作して副変速指令を発することにより、副変速アクチュエータが制御されて油圧モータを高速側に変速操作するよう構成した場合、移動走行などの際、高速走行できて便利である。ところが、油圧モータが高速側に変速操作するよう副変速操作しても、走行速度が上昇せずに減速することがあった。
すなわち、図6は、変速伝動機が備える出力特性を示すグラフである。縦軸は、変速伝動機が出力する駆動力の回転速度を示す速度線となっている。横軸は、縦軸の回転速度が零「0」の位置を通るものであり、無段変速部を構成する油圧ポンプの斜板位置を示す操作位置線Lとなっている。操作位置線Lの「n」は、無段変速部を中立状態にする斜板中立の操作位置である。操作位置線Lの「a」は、変速制御によって操作される斜板の前進側の最高速位置として設定した設定前進高速位置である。操作位置線Lの「−max」は、変速制御によって操作される斜板の後進側の最高速位置として設定した設定後進高速位置である。
回転速度が零「0」を通る変速線Sは、HST伝動の設定での変速伝動機の出力速度の変化を示すHST変速線Sである。HST変速線Sのうちの斜板位置「n」と「a」の間に対応する変速線部分SFは、前進側での出力速度の変化を示すものであって、前進側でのHST変速線SFである。HST変速線Sのうちの斜板位置「n」と「−max」の間に対応する変速線部分SRは、後進側での出力速度の変化を示すものであって、後進側でのHST変速線SRである。HST変速線Sに連続する変速線Mは、HMT伝動の設定での変速伝動機の出力速度の変化を示すHMT変速線Mである。
油圧ポンプの斜板が設定前進高速位置「a」になることで、HST伝動とHMT伝動との設定の切り換え制御が行なわれるのであり、HMT伝動を設定された伝動状態にある変速伝動機は、無段変速部が後進変速域で高速側に変速操作されて無段変速部の出力速度が増速していくことによって出力速度を増速していく。これに対し、HMT伝動を設定された伝動状態にある変速伝動機は、無段変速部が前進変速域で低速側に変速操作されて無段変速部の出力速度が減速していくことによって出力速度を増速していく。
つまり、変速伝動機がHMT伝動を設定され、かつ無段変速部の前進変速域での変速操作によって出力する合成駆動力を増減させる伝動状態にある場合、油圧モータが増速側に変速操作されると、無段変速部は出力速度を増速するよう変速されることになって変速伝動機としての出力速度が減速することになり、走行速度が増速せずに減速する。
本発明の目的は、上記した変速トラブルの発生を回避しながら、油圧モータによる副変速を行なうことができる農作業機の走行伝動装置を提供することにある。
本第1発明は、エンジンからの駆動力を入力して変速し、出力する変速駆動力がHST変速線に沿って変速するよう作用する静油圧式の無段変速部、及びエンジンからの駆動力と前記無段変速部からの変速駆動力とを入力して合成し、出力する合成駆動力が前記無段変速部の変速によってHMT変速線に沿って変速するよう作用する遊星伝動部を有する変速伝動機を備え、
前記無段変速部が出力する変速駆動力を走行装置に出力するHST伝動を設定するHST設定状態と前記遊星伝動部が出力する合成駆動力を走行装置に出力するHMT伝動を設定するHMT設定状態とに切り換え自在なクラッチ機構を前記変速伝動機に設け、
主変速操作具からの主変速指令に基づいて前記無段変速部を構成する油圧ポンプを変速制御するとともに前記クラッチ機構を切換え制御する変速制御手段を備える農作業機の走行伝動装置において、
前記無段変速部を構成する油圧モータを可変容量形に構成し、
人為操作自在であって副変速指令を発する副変速操作具と、前記油圧モータの斜板角変更操作を行なう副変速アクチュエータとを備え、
前記変速制御手段を、前記副変速指令に基づいて前記油圧モータを高速側に変速するべく前記副変速アクチュエータを制御するよう構成し、
前記変速伝動機が前記HMT伝動を設定され、かつ前記無段変速部の後進変速域での高速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を増速させ、さらに前記無段変速部の後進変速域での低速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を減速させる伝動状態にあると、前記変速制御手段による前記副変速アクチュエータの制御を許容するよう牽制解除し、前記変速伝動機が前記HMT伝動を設定され、かつ前記無段変速部の前進変速域での低速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を増速させ、さらに前記無段変速部の前進変速域での高速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を減速させる伝動状態にあると、前記変速制御手段による前記副変速アクチュエータの制御を停止させるよう牽制作用する牽制制御手段を備えてある。
本第1発明の構成によると、変速伝動機がHMT伝動を設定され、かつ無段変速部の後進変速域での高速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を増速させる伝動状態にあると、牽制制御手段が変速制御手段に対して牽制解除し、副変速操作具を操作して副変速指令を発すると、変速制御手段が副変速アクチュエータを制御して油圧モータを高速側に変速操作する。無段変速部の出力速度の増速によって変速伝動機の出力速度が増速する伝動状態において油圧モータが高速側に変速操作されるものだから、変速伝動機の出力速度が油圧モータの増速に応答して増速する。
本第1発明の構成によると、変速伝動機がHMT伝動を設定され、かつ無段変速部の前進変速域での低速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を増速させる伝動状態にあると、牽制制御手段が変速制御手段に対して牽制作用し、副変速操作具を操作して副変速指令を発しても、変速制御手段による油圧モータの高速側への変速操作が行なわれないのであり、無段変速部の出力速度の減速によって変速伝動機の出力速度が増速する伝動状態にあるにもかかわらず油圧モータが高速側に変速されて変速伝動機の出力速度が減速する事態の発生を回避できる。
従って、HST伝動とHMT伝動の設定の切り換えが可能であって、無段変速部の中立状態を挟んでの前進側と後進側への変速操作を行なうだけで操作簡単に機体の前後進切換えを行なうことができ、かつ油圧モータの変速操作による副変速を行なうことができるものでありながら、副変速操作具を操作したにもかかわらず減速走行するトラブルがないよう軽快に変速できる。
本第2発明は、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換え制御を行なう斜板角に対して設定角だけ低速側に位置する前記油圧ポンプの斜板角を基準斜板角として設定する基準斜板角設定手段を備え、
前記変速伝動機が前記HST伝動を設定され、かつ前記油圧ポンプの斜板角が前記基準斜板角より低速側である場合、前記牽制制御手段が牽制解除し、前記変速伝動機が前記HST伝動を設定され、かつ前記油圧ポンプの斜板角が前記基準斜板角より高速側にある場合、前記牽制制御手段が牽制作用するよう構成してある。
HST伝動を設定された状態で油圧モータを高速側に変速する副変速が行なわれ、副変速設定がない場合のHST変速線から外れた副変速設定のHST変速線に沿って出力速度が増速していく場合、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを行なわせるための副変速設定が無いHST変速線とHMT変速線との交点が発生しなくなり、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを行なわせるためのクラッチ機構の円滑な切り換えを行なわせにくくなる。これに対し、本第2発明の構成によると、油圧ポンプの斜板角が基準斜板角を超えると、牽制制御手段が変速制御手段に対する牽制作用の状態となって油圧モータの高速側への変速操作による副変速設定を行なえないのであり、副変速設定が無いHST変速線とHMT変速線との交点を確実に発生させ、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを行なわせるためのクラッチ機構の切り換えを円滑に行わせることができる。
従って、油圧モータの変速操作による副変速を行なうことができるものでありながら、HST伝動の速度レンジからHMT伝動の速度レンジへの変速を行なうのに、クラッチ機構の切り換えが円滑に行なわれて変速ショックが生じにくいよう軽快に行なうことができる。
本第3発明は、前記変速制御手段を、前記牽制制御手段による牽制作用を受ける状態において、前記変速伝動機の前記主変速指令に応じた出力速度を前記副変速指令によって増速するように、前記主変速指令及び前記副変速指令に基づいて前記油圧ポンプを変速制御するよう構成してある。
副変速操作具を操作しても、牽制制御手段が牽制作用して油圧モータによる副変速が行なわれなくて走行速度が増速しないことになれば、副変速操作を行なっているにもかかわらず走行速度が増速しないという違和感を持たれることになる。本第3発明の構成によると、副変速操作具を操作しても、牽制制御手段が牽制作用して油圧モータによる副変速が行なわれない場合、変速制御手段による油圧ポンプの変速制御が行なわれて、変速伝動機の出力速度が主変速指令に応じたものより増速したものになり、走行速度が増速するようにできる。
従って、副変速操作具を操作すれば、油圧モータによる副変速が行なわれない場合であっても油圧ポンプによる副変速が行なわれ、副変速操作を行なったのに走行速度がアップしないという違和感が無い良好な変速を行なわせることができる。
コンバインの全体を示す側面図である。 走行伝動装置を示す概略正面図である。 HMT伝動での変速伝動機を示す縦断正面図である。 HST伝動での変速伝動機を示す縦断正面図である。 HMTクラッチ及びHSTクラッチの操作状態と、伝動切換えのクラッチ機構の操作状態と、変速伝動機の伝動状態との関係を示す説明図である。 変速伝動機が備える出力特性を示すグラフである。 N/Xの値と全効率との関係を示す説明図である。 N/Xの値と無段変速部の小型化との関係を示す説明図である。 変速操作装置を示すブロック図である。 主変速操作具の操作位置を示す平面図である。
以下、図面に基づいて、本発明に係る農作業機の変速伝動装置をコンバインに装備した場合について説明する。
図1に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走するように構成され、かつ乗用型の運転部2が装備された走行機体と、走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り部4と、機体フレーム3の後部側に刈取り部4の後方に配置して設けられた脱穀装置5と、機体フレーム3の後部側に脱穀装置5の横側方に配置して設けられた穀粒タンク6とを備えて構成してあり、稲、麦などの収穫作業を行う。
すなわち、刈取り部4は、機体フレーム3の前部から前方向きに上下揺動自在に延出する刈取り部フレーム4aを備え、この刈取り部フレーム4aが昇降シリンダ7によって揺動操作されることにより、刈取り部4の前端部に設けられた分草具4bが地面近くに下降した下降作業位置と、分草具4bが地面から高く上昇した上昇非作業位置とに昇降する。刈取り部4を下降作業位置に下降させて走行機体を走行させると、刈取り部4は、分草具4bによって刈取対象の植立穀稈を引起し経路に導入し、引起し経路に導入した植立穀稈を引起し装置4cによって引起しながらバリカン型の刈取装置4dによって刈取り、刈取り穀稈を供給装置4eによって脱穀装置5に供給する。脱穀装置5は、供給装置4eからの刈取り穀稈の株元側を脱穀フィードチェーン5aによって挟持して機体後方向きに搬送し、刈取り穀稈の穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理し、脱穀穀粒を穀粒タンク6に送り込む。
運転部2に備えられた運転座席2aの下方にエンジン8を設け、エンジン8が出力する駆動力を、機体フレーム3の前端部に設けたミッションケース11を備えた走行伝動装置10によって左右一対の走行装置1,1に伝達するように構成してある。
図2は、走行伝動装置10の概略構造を示す正面図である。この図に示すように、走行伝動装置10は、エンジン8の出力軸8aからのエンジン駆動力を、伝動ベルト12aが備えられた伝動機構12を介してミッションケース11の上端部の横側に設けられた変速伝動機20に入力し、この変速伝動機20の出力を、ミッションケース11に内装された走行ミッション13に入力して走行ミッション13が備える左右一対の操向クラッチ機構14,14の左側の操向クラッチ機構14から左側の走行装置1の駆動軸1aに伝達し、右側の操向クラッチ機構14から右側の走行装置1の駆動軸1aに伝達する。
走行伝動装置10は、ミッションケース11に内装された刈取りミッション15を備え、変速伝動機20の出力を、刈取りミッション15に入力して刈取り出力軸16から刈取り部4の駆動軸4fに伝達する。
変速伝動機20について説明する。
図3,4に示すように、変速伝動機20は、ミッションケース11の上端側に横側部が連結される変速ケース21を備えた遊星変速部20Aと、変速ケース21のミッションケース11に連結する側とは反対側の横側部にケーシング31が連結された静油圧式の無段変速部30とを備えて構成してある。
変速ケース21は、遊星伝動部40及び伝動機構50を収容する主ケース部21aと、入力軸22及び伝動軸23と無段変速部30の連結部を収容し、かつ変速ケース21とケーシング31のポートブロック34を連結する連結ケース部21bとを備えて構成してある。変速ケース21は、主ケース部21aの出力回転体24が位置する下部側面の横外側に膨出形成された膨出部分21cでミッションケース11に連結される。連結ケース部21bの走行機体上下方向での大きさが主ケース部21aの走行機体上下方向での大きさよりも小になっている。主ケース部21aを、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、ケーシング31を、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、遊星変速部20Aと無段変速部30が機体横方向に並びながら、変速伝動機20全体としての機体横方向幅が小となり、変速伝動機20は、横外側に突出しないように走行機体の左右方向ではコンパクトな状態でミッションケース11の横側部に連結されている。さらに、ケーシング31の下部側面にモータ軸33aのベアリングを支持する膨出部31Bが形成されて、変速伝動機20の更なるコンパクト化が図られている。また、ケーシング31の上面には上向きにオイルフィルタ20Fが配置され、オイルフィルタ20Fの横外側への突出を回避して更なるコンパクトが図られている。
遊星変速部20Aは、変速ケース21の上端側に回転自在に支持された機体横向きの入力軸22と、変速ケース21の下端側に入力軸22と平行又はほぼ平行に回転自在に支持された伝動軸23及び回転軸型の出力回転体24と、伝動軸23に支持された遊星伝動部40と、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた伝動機構50とを備えている。
入力軸22は、無段変速部30のポンプ軸32aに対して同軸芯状に並ぶよう配置されている。入力軸22は、変速ケース21から横外側に突出している側で伝動機構12を介してエンジン8の出力軸8aに連結するように構成され、エンジン8に連結される側とは反対側でジョイント22aを介して無段変速部30のポンプ軸32aに一体回転自在に連結されており、伝動機構12を介してエンジン駆動力を入力し、エンジン駆動力によって駆動されて無段変速部30の油圧ポンプ32を駆動する。
出力回転体24は、無段変速部30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に無段変速部30のモータ軸33aと同軸芯状に並ぶように配置されている。出力回転体24は、変速ケース21から横外側に突出している側で走行ミッション13の入力部に連動するよう構成されており、遊星伝動部40及び無段変速部30からの駆動力を走行ミッション13を介して左右一対の走行装置1,1に出力する。
無段変速部30は、ケーシング31の上端側にポンプ軸32aが回転自在に支持されている油圧ポンプ32と、ケーシング31の下端側にモータ軸33aが回転自在に支持されている油圧モータ33とを備えて構成してある。油圧ポンプ32は、可変容量形のアキシャルプランジャポンプによって構成し、油圧モータ33は、可変容量形のアキシャルプランジャモータによって構成してある。油圧モータ33は、油圧ポンプ32によって吐出され、ポートブロック34の内部に形成された油路を介して供給される圧油によって駆動される。無段変速部30には、ポンプ軸32aの端部に装備されたチャージポンプ90によって補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、ポンプ軸32aに一体回転自在に取り付けられたロータ90a、及びケーシング31に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
したがって、無段変速部30は、油圧ポンプ32が備える斜板32bの角度変更操作が行なわれることにより、前進伝動状態と後進伝動状態と中立状態とに切り換わる。無段変速部30は、前進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を前進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、後進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を後進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、前進伝動状態と後進伝動状態のいずれにおいても、エンジン駆動力を無段階に変速して出力する。無段変速部30は、中立状態に切換え操作されると、モータ軸33aからの出力を停止する。
遊星伝動部40は、無段変速部30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に、モータ軸33aと出力回転体24の間に位置する状態で配置されている。遊星伝動部40は、伝動軸23に支持されるサンギヤ42と、サンギヤ42に噛合う複数個の遊星ギヤ43と、各遊星ギヤ43に噛合うリングギヤ44と、複数個の遊星ギヤ43を回転自在に支持するキャリヤ41とを備えている。キャリヤ41は、遊星ギヤ43を延出端部で回転自在に支持するアーム部41aと、複数本のアーム部41aの基端側が連結している筒軸部41bとを備え、筒軸部41bで伝動軸23にベアリングを介して回転自在に支持されている。
伝動軸23とモータ軸33aとは、ジョイント23aを介して一体回転自在に連結し、伝動軸23とサンギヤ42とは、スプライン構造を介して一体回転自在に連結しており、サンギヤ42は、モータ軸33aに対して一体回転自在に連動している。
リングギヤ44と出力回転体24とは、伝動軸23に対してこれの軸芯方向に並んで相対回転自在に外嵌した環状の遊星側連動体26及び環状の出力側連動体27によって一体回転自在に連動している。すなわち、遊星側連動体26は、遊星側連動体26の外周部から放射状にかつ一体回転自在に延出する複数本の係合アーム部26aを備えている。複数本の係合アーム部26aは、リングギヤ44の複数箇所に係合しており、遊星側連動体26は、リングギヤ44に対して一体回転自在に連動している。出力側連動体27は、遊星側連動体26に対して係合爪27aによって一体回転自在に係合し、出力回転体24に対してスプライン構造によって一体回転自在に係合しており、遊星側連動体26と出力回転体24とを一体回転自在に連結している。遊星側連動体26は、伝動軸23にベアリングを介して相対回転自在に支持されている。出力側連動体27は、変速ケース21にベアリングを介して回転自在に支持されている。
伝動機構50は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合う状態で入力軸22にニードルベアリングを介して相対回転自在に支持された伝動ギヤ52と、伝動ギヤ52と入力軸22に亘って設けたHMTクラッチ55とを備えて構成してある。
HMTクラッチ55は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持されたクラッチ体56と、クラッチ体56の一端側と伝動ギヤ52の横側部とに亘って設けたクラッチ本体57とを備えて構成してある。クラッチ体56は、クラッチ体56の端部に内嵌された油圧ピストン58によって摺動操作される。クラッチ本体57は、クラッチ体56に設けた噛合い爪と伝動ギヤ52に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
HMTクラッチ55は、クラッチ本体57が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52を一体回転自在に連動させるように入り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41と入力軸22とを連動させるようHMT伝動を設定した状態になる。
HMTクラッチ55は、クラッチ本体57が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52の連動を絶つように切り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41と入力軸22の連動を絶つようHMT伝動の設定を解除した状態になる。
したがって、遊星伝動部40は、HMTクラッチ55がHMT伝動を設定した状態に切換え操作されることにより、入力軸22のエンジン連結側と無段変速部連結側との間に位置する部位から入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力する。遊星伝動部40は、HMTクラッチ55がHMT伝動の設定を解除した状態に切換え操作されることにより、キャリヤ41の入力軸22に対する連動が絶たれた状態になる。
遊星伝動部40のサンギヤ42と遊星側連動体26とに亘り、伝動軸23に外嵌されたクラッチ体61を備えたHSTクラッチ60を設けてある。
クラッチ体61は、クラッチ体61の内周側に形成してある油室に圧油が供給されることにより、入り付勢ばね62に抗してサンギヤ42に向けて摺動操作されて切り位置に切り換わり、油室から圧油が排出されることにより、入り付勢ばね62によって遊星側連動体26に向けて摺動操作されて入り位置に切り換わる。クラッチ体61は、入り位置に切り換わると、クラッチ体61に設けてあるクラッチ爪61aと遊星側連動体26に設けてあるクラッチ爪とが係合して、遊星側連動体26に対して一体回転自在に連結する。クラッチ体61は、サンギヤ42に対して係合爪61bによって一体回転自在に係合した状態を維持しながら摺動操作され、サンギヤ42に対する係合状態を維持しながら入り位置になる。クラッチ体61は、切り位置に切り換わると、クラッチ爪61aによる遊星側連動体26に対する係合を解除する。
したがって、HSTクラッチ60は、クラッチ体61が入り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26を一体回転自在に連動させることで、モータ軸33aを出力回転体24に一体回転自在に連動させて、無段変速部30による出力の出力回転体24からの出力を可能にするようHST伝動を設定した状態になる。HSTクラッチ60は、HST伝動を設定した場合、サンギヤ42と伝動軸23が一体回転自在に連動し、リングギヤ44と遊星側連動体26が一体回転自在に連動していることにより、遊星ギヤ43の自転が発生しないように、サンギヤ42とキャリヤ41とリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転することを可能にする。
HSTクラッチ60は、遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24とを連動状態に維持しながら、遊星伝動部40のサンギヤ42と出力回転体24とを連動入り状態と連動切り状態に切換える。
HSTクラッチ60は、クラッチ体61が切り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26の連動を絶ち、モータ軸33aの出力回転体24に対する連動を絶つように、かつ遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24が一体回転自在に連動する状態を現出して、遊星伝動部40の合成駆動力の出力回転体24からの出力を可能にするようにHST伝動の設定を解除した状態になる。
したがって、遊星伝動部40は、HMTクラッチ55がHST伝動を設定した状態に切換え操作され、HSTクラッチ60がHST伝動の設定を解除し状態に切換え操作されることにより、エンジンから入力軸22に伝達された駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力し、無段変速部30のモータ軸33aから出力される変速駆動力を伝動軸23を介してサンギヤ42に入力し、エンジンからの駆動力と無段変速部30からの変速駆動力とを合成して合成駆動力を発生させ、発生させた合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に出力する。
つまり、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60を備えて、変速伝動機20をHMT伝動とHST伝動とに切換えて設定する伝動設定のクラッチ機構70を構成してある。
図5は、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の操作状態と、伝動設定のクラッチ機構70の操作状態と、変速伝動機20の伝動状態との関係を示す説明図である。図5に示す「切」は、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の切り状態を示し、「入」は、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の入り状態を示す。この図に示すように、HMTクラッチ55が切り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が入り状態に切換え操作されると、伝動設定のクラッチ機構70は、HST伝動設定状態になり、変速伝動機20にHST伝動を設定する。HMTクラッチ55が入り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が切り状態に切換え操作されると、伝動設定のクラッチ機構70は、HMT伝動設定状態になり、変速伝動機20にHMT伝動を設定する。
図3は、HMT伝動での変速伝動機20を示す縦断正面図である。この図に示すように、変速伝動機20は、HMTクラッチ55が入り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が切り状態に切換え操作されると、入力軸22の駆動力(エンジン8からの駆動力)を伝動機構50を介して遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、無段変速部30が入力軸22から入力した駆動力を変速してモータ軸33aから出力する変速駆動力を遊星伝動部40のサンギヤ42に入力し、遊星伝動部40が入力軸22から入力するエンジン8からの駆動力と無段変速部30から入力する変速駆動力とを遊星伝動部40によって合成して合成駆動力を発生させ、遊星伝動部40がリングギヤ44から出力する合成駆動力を、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24の端部に伝達して出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
図4は、HST伝動での変速伝動機20を示す縦断正面図である。この図に示すように、変速伝動機20は、HMTクラッチ55が切り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が入り状態に切換え操作されると、無段変速部30が入力軸22から入力した駆動力を変速してモータ軸33aから出力する変速駆動力を、伝動軸23、HSTクラッチ60、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24の端部に伝達し、出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
伝動設定のクラッチ機構70は、HST伝動を設定した場合、入力軸22から遊星伝動部40のキャリヤ41への伝動が絶たれた状態にあり、サンギヤ42が伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあり、リングギヤ44が遊星側連動体26、クラッチ体61、サンギヤ42及び伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあることから、遊星伝動部40のサンギヤ42、キャリヤ41及びリングギヤ44をモータ軸33aと一体回転させることになり、変速伝動機20は、HST伝動において、遊星ギヤ43の自転を発生させず、すなわちサンギヤ42と遊星ギヤ43の相対回転及び遊星ギヤ43とリングギヤ44の相対回転を発生させずに、無段変速部30のモータ軸33aの出力を出力回転体24に伝達する。
図6は、変速伝動機20が備える出力特性を示すグラフ(速度線図)である。このグラフの縦軸は、出力回転体24の回転速度を示す速度線となっている。このグラフの横軸は、縦軸の回転速度が零「0」の位置を通るものであり、かつ無段変速部30における油圧ポンプ32の斜板位置を示す操作位置線Lとなっている。操作位置線Lの「n」は、無段変速部30を中立状態にする斜板32bの中立位置である。操作位置線Lの「a」は、無負荷駆動でのHST伝動とHMT伝動の設定の切換えを行なうための斜板32bの前進側の最高速位置として設定した設定前進高速位置である。操作位置線Lの「+max」は、無段変速部30の実前進最高速位置であって、無段変速部30を前進高速側の操作限界まで変速操作した場合、油圧ポンプ32の斜板32bに実際に発生する斜板角位置である。設定前進高速位置「a」は、モータ軸33aの回転を遊星端子に増減せずに入力する簡単な構成において、HST伝動とHMT伝動が切り換わる点での速度連続性を保つ為に、実前進最高速位置「+max」の手前の位置に設定してある。操作位置線Lの「−max」は、変速制御によって操作される斜板32bの後進側の最高速位置として設定した設定後進高速位置である。設定後進高速位置「−max」は、無段変速部30を後進高速側の操作限界まで変速操作した場合、油圧ポンプ32の斜板32bに実際に発生する斜板角位置と同じ位置に設定してある。
図6に示す変速線Sは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態において変速伝動機20がHST伝動で変速された場合の出力回転体24の回転速度の変化を示すHST変速線(以下、HST変速線Sと略称する。)であり、変速線Mは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態において変速伝動機20がHMT伝動で変速された場合の出力回転体24の回転速度の変化を示すHMT変速線(以下、HMT変速線Mと略称する。)である。
図6に示すように、HMTクラッチ55が切り状態に切換え制御され、HSTクラッチ60が入り状態に切換え制御されてHST伝動が設定され、HST伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を中立位置「n」から設定前進高速位置「a」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が零「0」からHST変速線Sの前進域SFに沿って前進側に無段階に増速していき、無段変速部30が設定前進高速位置「a」に至ると、出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」になる。
無段変速部30が設定前進高速位置「a」に至ると、HMTクラッチ55が切り状態から入り状態に切換え制御され、HSTクラッチ60が入り状態から切り状態に切換え制御されてHST伝動に替えてHMT伝動が設定され、HMT伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を設定前進高速位置「a」から中立位置「n」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」からHMT変速線Mの低速域MLに沿って無段階に増速していき、無段変速部30が中立位置「n」に至ると、出力回転体24の回転速度が第2の前進中間速度「V2」になる。HMT伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が第2の前進中間速度「V2」からHMT変速線Mの高速域MHに沿って無段階に増速していき、無段変速部30が設定後進高速位置「−max」に至ると、出力回転体24の回転速度が前進最高速度「V3」になる。
HST伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が零「0」からHST変速線Sの後進域SRに沿って後進側に無段階に増速していき、無段変速部30が設定後進高速位置「−max」に至ると、出力回転体24の回転速度が後進最高速度「VR」になる。
HMT変速線Mの高速域MHに対応する変速状態で出力される駆動力が移動走行に適切な回転速度の駆動力になるように、かつHMT変速線Mの低速域MLに対応する変速状態で出力される駆動力が作業走行に適切な回転速度の駆動力になるように、さらに油圧ポンプ32の吐出容量が極力小である無段変速部30を採用しながらエンジン8から入力する駆動力を変速に伴うロスを極力少なくして変速後の駆動力として得ることができるように、HMT変速線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bを次の如く設定してある。
図6に示す変速線延長線MEは、HMT変速線Mを操作位置線Lに向けて延長したものであり、操作位置線Lでの位置「P」は、変速線延長線MEと操作位置線Lとが交差する交差位置である。無段変速部30の油圧ポンプ32の斜板32bを実際に傾斜操作できる前進側の最大傾斜位置としての実前進最高速位置「+max」を超えて交差位置「P」まで傾斜操作できると仮定し、交差位置「P」まで傾斜操作した場合の斜板32bが備えることとなる仮想傾斜角の値を「N」とし、実前進最高速速位置「+max」に変速操作した無段変速部30の油圧ポンプ32に実際に発生する実最大斜板角の値を「X」とすると、NがXの2倍(N/X=2.0)となるに相当する傾斜角に、HMT変速線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bを設定してある。N/X=2.0の設定は、油圧ポンプ32の吐出容量の設定、遊星伝動部40及び遊星伝動部40以外の機械伝動部におけるギヤ伝動比の設定による。
HMT変速線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bは、前進最高速度「V3」での出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」での出力回転体24の回転速度の2倍以上となる傾斜角に設定してある。
N/X=2.0の設定は、次に説明する根拠に基づくものである。
無段変速部30の出力回転が零で出力回転数がV2の時、全動力が無段変速部30を通らずに出力される。出力回転が零になる仮想斜板角の位置(P)では、出力回転数V2の時の動力が無段変速部30を通じて駆動側に戻され出力が零になる。すなわち、無段変速部30を通さない機械伝達力が無段変速部30の動力(以下、HST動力と呼称する。)と釣り合う。実際には、仮想斜板角の位置(P)は仮想的な位置なので、無段変速部30の実前進最高速位置「+max」での実最大傾斜角X=1を考えると、HST動力は、回転数が1/Nなので、無段変速部30を通さない機械伝達動力の1/N倍になる。
仮に機械効率を、機械伝達動力でKM、無段変速部30を通す動力でKHとすると、出力動力は一定機械動力±HST動力となり、変速伝動機20が発揮する全効率は、
無段変速部30が中立位置「n」であると、(1+0×1/N)/(1/KM+0×1/N/KH)=KM と計算され、
無段変速部30が設定後進高速位置「−max」であると、(1+1/N)/(1/KM+1/N/KH)=KM・KH(N+1)/(KM+KH・N) と計算され、
無段変速部30が実前進最高速位置「+max」であると、(1−1/N)/(1/KM−1/N・KH)=KM(N−1)/(N−KM・KH) と計算され、計算上はNが大きいほど高効率化できる。
図7は、N/Xの値を変化させた場合の全効率と変速位置との関係を示す説明図である。ここでは、KM=0.95、KH=0.7とし、N/X=1.0、N/X=2.0、N/X=3.0と変化させて上記した如く概算した全効率を示している。
図7に示す横軸は、変速位置を示すものであり、HST伝動での前進側及びHMT伝動において無段変速部30を任意の変速位置に変速された場合における出力回転速度の設定後進高速位置「−max」に変速された場合における出力回転速度の割合を横軸の変速位置としている。すなわち、HST伝動での前進側及びHMT伝動において無段変速部30を任意の変速位置に変速された場合に出力される駆動力の回転速度=Vnとすると、Vn/V3を横軸の変速位置としている。図7に示す縦線Dは、N/X=2.0の時にHST伝動の最高速を示す線で、Vn/V3=0.33(0.2と0.4の間)を示すものである。図7に示す縦線Eは、N/X=2.0の時にHMT伝動で、油圧ポンプ32の斜板中立での速度を示す線で、Vn/V3=0.67(0.6と0.8の間)を示すものである。したがって、無段変速部30の設定前進高速位置「a」は、横軸での0.2と0.4の間の位置となり、無段変速部30の中立位置「n」は、横軸での0.6と0.8の間の位置となる。
図7に示す効率線Kは、無段変速部30が備える全効率を示すものである。図7に示す効率線K1は、N/X=1.0として概算した全効率を示すものであり、効率線K2は、N/X=2.0として概算した全効率を示すものであり、効率線K3は、N/X=3.0として概算した全効率を示すものである。
縦線Dと縦線Eとの間では、全効率が良いのはN/X=1.0の場合であるが、高速側は出力も大きいので、ロス動力としては大きくなり、小さな効率差も無視できなくなる。ロス率と出力動力を掛けたロス動力を検討すると、N/X=1.8程度が極小値となる。ロス動力としての最適値はN/X=1.8を挟んでN/Xが小さい側に広いが、無段変速部30の小型化は、N/X=2.0が最適値となる。このバランスを取って、N/X=1.5〜2.5程度とすれば、高速域での高効率化を実現しつつ、無段変速部30の小型化も38%程度にできて両立される。この時のHMT伝動での遊星伝動部40の出力回転も10000rpmを超えない現実的な領域で設計できる。変速伝動機20ユニットとして独立させる場合、駆動源からの回転数程度に減速した方が、出力部のシールなどによるトルクロスの影響を小さくできるので、2.5〜3の減速を、遊星伝動部40で行なうが、これも現実的に構成しやすくなる。上記した如くシンプルな伝動設定のクラッチ機構70を採用して、高効率と無段変速部30の小型化を図るには、N/X=1.5〜2.5の設定が好都合である。
図8は、N/Xの値と無段変速部30の小型化との関係を示す説明図である。図8の横軸は、N/Xの値を示す。図8に示す線Fは、HST動力(1/N)の全動力(1+1/N)に対する割合「W」を示す。この割合「W」が大になるほど、油圧ポンプ32の吐出容量が大となる大型の無段変速部30が必要になる。
所定の変速範囲に亘る駆動力を遊星伝動部40による出力によって得る場合、無段変速部30による出力によって得る場合よりも無段変速部30の小型化が可能になるのであり、図8に示す線Gは、N/Xの値と、無段変速部30を小型化できる度合との関係を示す。
すなわち、仮に、HST伝動とHMT伝動が切り換わる点を実最大傾斜位置「+max」とすると、HMT伝動での最高速度(前進最高速度「V3」)はHST伝動での最高速度に対し、相似形で計算して(N+1)/(N−1)=Zとなる。Zは、N/X=1.5とすると5.0となり、N/X=2.0とすると3.0となり、N/X=2.5とすると2.3となり、N/X=3.0とすると2.0となる。図8の縦軸で示す値は、1/Zの値である。
Zの値が大になるほど、HMT伝動によって得ることができる変速範囲がより広くなり、HST伝動による変速範囲をより小に済ませることができて、無段変速部30のより小型化を図ることができるが、油圧ポンプ32の吐出容量をあまり小にするとリリーフ回路が開き作動するなどの駆動トラブルが発生する。したがって、線Fと線Gとの交差を現出するN/X=2.0を採用することにより、HMT伝動による前進最高速度「V3」や第2の前進中間速度「V2」を移動や作業に必要な速度にしながら、かつ無段変速部30の小型化を図りながら、無段変速部30の駆動トラブルの発生を回避した変速伝動が可能な変速伝動機20を得ることができる。
図9は、変速伝動機20を変速操作する変速操作装置71を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置71は、無段変速部30の主変速操作部30a及び副変速操作部30b、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の操作部55a,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された主変速操作具77、副変速操作具85、エンジン回転数センサ74、斜板角センサ75、出力回転数センサ76a及び出力回転数センサ76bとを備えている。
主変速操作部30aは、無段変速部30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう主変速アクチュエータ32cを操作することにより、油圧ポンプ32を変速操作する。副変速操作部30bは、無段変速部30における油圧モータ33の斜板33bの角度変更操作を行なう副変速アクチュエータ33cを操作することにより、油圧モータ33を変速操作する。主変速アクチュエータ32c及び副変速アクチュエータ33cは、油圧シリンダによって構成し、主変速操作部30a及び副変速操作部30bは、油圧シリンダの操作弁によって構成してある。HMTクラッチ55の操作部55aは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン58に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン58を操作してクラッチ体56を摺動操作することにより、HMTクラッチ55を切り換え操作する。HSTクラッチ60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作してHSTクラッチ60を切り換え操作する。
図10は、主変速操作具77の操作位置を示す平面図である。図9,10に示すように、主変速操作具77は、運転部2に走行機体前後方向に揺動操作自在に設けた変速レバーによって構成してあり、中立位置「77N」、中立位置「77N」から機体前方側に延びる前進操作域「77F」、及び中立位置「77N」から機体後方側に延びる後進操作域「77R」で揺動操作するようになっている。変速操作具77は、変速操作具77の操作位置を検出する変速検出センサ73を介して制御装置72に連係されている。変速検出センサ73は、変速操作具77に回転操作軸が連動された回転ポテンショメータによって構成してあり、変速操作具77は、揺動操作されることにより、変速検出センサ73を作動させて、変速検出センサ73から主変速指令を電気信号で制御装置72に出力する。
副変速操作具85は、運転部2に走行機体前後方向に揺動操作自在に設けた変速レバーによって構成してあり、低速位置「L」と高速位置「H」に揺動操作するようになっている。副変速操作具85は、副変速操作具85の操作位置を検出する操作位置検出スイッチ86を介して制御装置72に連係されている。副変速操作具85は、低速位置「L」に操作されることにより、操作位置検出スイッチ86をオフ側に作動させて、操作位置検出スイッチ86から低速の副変速指令を電気信号で制御装置72に出力する。副変速操作具85は、高速位置「H」に操作されることにより、操作位置検出スイッチ86をオン側に作動させて、操作位置検出スイッチ86から高速の副変速指令を電気信号で制御装置72に出力する。
エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。斜板角センサ75は、無段変速部30の油圧ポンプ32の斜板角を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数センサ76aは、出力回転体24の回転数を変速伝動機20の出力回転数として検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。出力回転数センサ76bは、モータ軸33aの回転数を無段変速部30の出力回転数として検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78、牽制制御手段81、変速斜板角設定手段80及び基準斜板角設定手段82を備えている。
変速斜板角設定手段80は、制御装置72に設けられた記憶部によって構成されている。図6に示すように、変速斜板角設定手段80は、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換え制御を行なわせるための斜板角を予め設定変速斜板角「c」として設定して入力されている。設定変速斜板角「c」としては、設定前進高速位置「a」を設定している。
基準斜板角設定手段82は、制御装置72の記憶部によって構成されている。図6に示すように、基準斜板角設定手段82は、設定変速斜板角「c」に対して設定角「d」だけ低速側に位置する油圧ポンプ32の斜板角を基準斜板角「e」として予め設定して入力されている。
変速制御手段78は、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果と、主変速操作具77からの主変速指令と、副変速操作具85からの副変速指令と、斜板角センサ75による検出情報と、出力回転数センサ76a及び出力回転数センサ76bによる検出情報とに基づいて油圧ポンプ32及び油圧モータ33を変速制御し、かつクラッチ機構70のHSTクラッチ60及びHMTクラッチ55を切換え制御する。
変速制御手段78は、斜板角センサ75による検出斜板角と変速斜板角設定手段80による設定変速斜板角「c」とを比較し、検出斜板角と設定変速斜板角「c」とが等しいか否かを判断することで、斜板角センサ75が設定変速斜板角「c」に等しい斜板角を検出したか否かを判断する。変速制御手段78は、斜板角センサ75が設定変速斜板角「c」に等しい斜板角を検出したと判断した場合、クラッチ機構70のHSTクラッチ60を切り状態に切換え制御し、HMTクラッチ55を入り状態に切換え制御して、HST伝動からHMT伝動への設定の切換えを行なう。
変速制御手段78は、副変速操作具85から低速の副変速指令を入力した場合、変速伝動機20の出力回転体24による出力速度が主変速操作具77からの主変速指令に対応した出力速度になるように、すなわち変速伝動機20の出力回転体24による出力速度が主変速操作具77の操作に伴ってHST変速線S及びHMT変速線Mに沿って変化するように、主変速操作具77からの主変速指令及び副変速操作具85による低速の副変速指令に基づいて油圧ポンプ32を変速操作する。
変速制御手段78は、副変速操作具85から高速の副変速指令を入力した場合、変速伝動機20の出力回転体24による出力速度が主変速操作具77からの主変速指令に対応した出力速度より増速した出力速度になるように、主変速操作具77からの主変速指令及び副変速操作具85による高速の副変速指令に基づいて油圧ポンプ32を変速操作する。
牽制制御手段81は、斜板角センサ75による検出情報、変速制御手段78によるHST伝動及びHMT伝動の設定情報、基準斜板角設定手段82による設定情報、及び変速斜板角設定手段80による設定情報に基づいて変速伝動機20の伝動状態を検出し、この検出結果に基づいて変速制御手段78に対する牽制作用の状態と牽制解除の状態とに切り換わる。
牽制制御手段81は、変速伝動機20がHST伝動を設定され、かつ無段変速部30の後進変速域での高速側への変速操作によって出力する合成駆動力を増速させ、さらに無段変速部30の後進変速域での低速側への変速操作によって出力する合成駆動力を減速させる後進の伝動状態にあると検出した場合、変速制御手段78に対する牽制解除の状態に切り換わり、変速制御手段78による副変速アクチュエータ33cの高速側への制御を許容する。
牽制制御手段81は、変速伝動機20がHST伝動を設定され、かつ無段変速部30の前進変速域のうちの中立位置「n」と基準斜板角「e」との間での高速側への変速操作によって出力する合成駆動力を増速させ、さらに無段変速部30の前進変速域のうちの中立位置「n」と基準斜板角「e」との間での低速側への変速操作によって出力する合成駆動力を減速させる第1前進の伝動状態にあると検出した場合、変速制御手段78に対する牽制解除の状態に切り換わり、変速制御手段78による副変速アクチュエータ33cの高速側への制御を許容する。
牽制制御手段81は、変速伝動機20がHST伝動を設定され、かつ無段変速部30の前進変速域のうちの基準斜板角「e」と設定変速斜板角「c」との間での高速側への変速操作によって出力する合成駆動力を増速させ、さらに無段変速部30の前進変速域のうちの基準斜板角「e」と設定変速斜板角「c」との間での低速側への変速操作によって出力する合成駆動力を減速させる第2前進の伝動状態にあると検出した場合、変速制御手段78に対する牽制作用の状態に切り換わり、変速制御手段78による副変速アクチュエータ33cの高速側への制御を牽制する。
牽制制御手段81は、変速伝動機20がHMT伝動を設定され、かつ無段変速部30の前進変速域での高速側への変速操作によって出力する合成駆動力を減速させ、さらに無段変速部30の前進変速域での低速側への変速操作によって出力する合成駆動力を増速させる第3前進の伝動状態にあると検出した場合、変速制御手段78に対する牽制作用の状態に切り換わり、変速制御手段78による副変速アクチュエータ33cの高速側への制御を牽制する。
牽制制御手段81は、変速伝動機20がHMT伝動を設定され、かつ無段変速部30の後進変速域での高速側への変速操作によって出力する合成駆動力を増速させ、さらに無段変速部30の後進変速域での低速側への変速操作によって出力する合成駆動力を減速させる第4前進の伝動状態にあると検出した場合、変速制御手段78に対する牽制解除の状態に切り換わり、変速制御手段78による副変速アクチュエータ33cの高速側への制御を許容する。
つまり、牽制制御手段81は、無段変速部30の出力が遊星伝動部40の出力とが同じ回転方向となる場合、油圧モータ33による副変速を機能させる。HMT伝動の速度レンジが複数段備える場合にあっては、牽制制御手段81及び変速制御手段78を次の如く機能するよう構成する。すなわち、副変速操作具85を低速位置「L」から高速位置「H」に切り換えた後、主変速操作具77で増速する過程で、低速段側のHMT伝動の速度レンジ(n段目)から高速段側のHMT伝動の速度レンジ(n+1段目)に切り換える場合、切り換える斜板位置を副変速高速段のn段目とn+1段目の速度線が交わる点の近傍とする。上述の速度線が交わる点よりも深く傾転させたポンプ斜板位置で、副変速を切り換える場合は、モータ斜板を傾転させず、モータによる増速分だけポンプ斜板を傾転させる。牽制制御手段81は、無段変速部30の出力が遊星伝動部40の出力とが逆の回転方向となる場合、油圧モータ33による副変速を行なわず、油圧ポンプ32による副変速を機能させる。ポンプ斜板を傾転させた結果、無段変速部30の斜板中立を越える場合は、ポンプ斜板中立近傍でモータ副変速を切り換える。
変速制御手段78は、牽制制御手段81による牽制作用を受ける状態において副変速操作具85による高速の副変速指令を受けた場合、変速伝動機20の主変速指令に応じた出力速度を副変速指令によって増速するように、主変速指令及び高速の副変速指令に基づいて油圧ポンプ32を高速側に変速制御する。すなわち、図6に矢印「イ」で示すように、変速制御手段78は、油圧ポンプ32の斜板32bが主変速指令に対応する斜板角位置「f」より高速側に設定角度だけ変位した斜板角位置「a」に傾動するように油圧ポンプ32を高速側に副変速制御する。あるいは、図6に矢印「ロ」で示すように、変速制御手段78は、油圧ポンプ32の斜板32bが主変速指令に対応する斜板角位置「g」より低速側に設定角度だけ変位した斜板角位置「h」に傾動するように油圧ポンプ32を低速側に副変速制御する。これら場合の設定角度としては、高速側の副変速指令に基づいて油圧モータ33を高速側に副変速制御することによって変速伝動機20の出力が増速する増速分と同じまたはほぼ同じ増速分の増速を変速伝動機20の出力に発生させるに相当する斜板角を設定してある。
従って、エンジン8を一定の回転速度での駆動力を出力するようアクセルセットしておいて、主変速操作具77を後進操作域[77R]、中立位置「77N」及び前進操作域「77F」にわたって操作することにより、副変速操作具85を低速位置「L」と高速位置「H」に切り換え操作することにより、変速制御手段78が変速伝動機20をHST伝動とHMT伝動とに切り換えて設定する制御及び油圧ポンプ32及び油圧モータ33の変速制御を行ない、走行機体を前進側と後進側に切り換えて走行させるとともに前進側及び後進側において変速走行させたり、停止させたりできる。
すなわち、主変速操作具77を中立位置[77N]、後進操作域「77R」及び前進操作域「77F」の低速域部「77FL」に操作した場合、主変速操作具77からの主変速指令及び変速斜板角設定手段80による設定情報に基づく変速制御手段78のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の切り換え制御により、変速伝動機20がHST伝動に設定される。主変速操作具77を前進操作域「77F」の中速域部「77FM」及び高速域部「77FH」に操作した場合、主変速操作具77からの主変速指令及び変速斜板角設定手段80による設定情報に基づく変速制御手段78のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の切り換え制御により、変速伝動機20がHMT伝動に設定される。
主変速操作具77を中立位置「77N」に操作すると、変速制御手段78が主変速操作具77からの主変速指令に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを中立位置「n」に操作し、無段変速部30が中立状態になって変速伝動機20が出力を停止する。
副変速操作具85を低速位置「L」に操作した状態で、主変速操作具77を前進操作域「77F」の低速域部[77FL]で操作すると、変速制御手段78が主変速操作具77からの主変速指令、副変速操作具85からの低速の副変速指令及び出力回転数センサ76aによる検出情報に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを中立位置「n」より前進側で傾動操作し、変速伝動機20が出力する駆動力がHST変速線Sの前進域SFに沿って変速する。
副変速操作具85を低速位置「L」に操作した状態で、主変速操作具77を前進操作域「77F」の中速域部[77FM]及び高速域部「77FH」で操作すると、変速制御手段78が主変速操作具77からの主変速指令、副変速操作具85からの低速の副変速指令及び出力回転数センサ76aによる検出情報に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを前進側と後進側とにわたって傾動操作し、変速伝動機20が出力する駆動力がHMT変速線Mの低速域ML及び高速域MHに沿って変速する。
主変速操作具77を前進操作域[77F]の低速域部「77FL」で操作する際、副変速操作具85を高速位置「H」に操作してあると、変速制御手段78が油圧ポンプ32を中立位置「n」と基準斜板角「e」の間で変速操作する場合、牽制制御手段81が牽制解除の状態になって変速制御手段78が油圧モータ33を高速側に副変速操作し、変速伝動機20が出力する駆動力は、副変速のHST変速線SAの前進域SAFに沿って変速する。
主変速操作具77を前進操作域[77F]の低速域部「77FL」で操作する際、副変速操作具85を高速位置「H」に操作してあっても、変速制御手段78が油圧ポンプ32を中立位置「n」と基準斜板角「e」の間で変速操作する場合、牽制制御手段81が牽制作用の状態に切り換っており、変速制御手段78は、油圧モータ33の高速側への副変速制御を行なわない。この場合、変速制御手段78は、図6に矢印「イ」で示す如き油圧ポンプ32の高速側への変速制御を行ない、変速伝動機20が出力する駆動力が、HST変速線Sの前進域SFに沿って変速し、副変速操作具85を低速位置「L」に操作してある場合の主変速操作具77の操作位置に対応する速度より高速の駆動力になる。
主変速操作具77を前進操作域「77F」の低速域部「77FL」での操作位置に位置させた状態で、副変速操作具85を低速位置「L」から高速位置「H」に切り換え操作した場合、油圧ポンプ32の斜板32bが中立位置「n」と基準斜板角「e」の間の斜板角位置に位置しておれば、牽制制御手段81が牽制解除の状態になっており、変速制御手段78が油圧モータ33を高速側に副変速制御し、変速伝動機20が出力する駆動力が副変速のHST変速線SAの前進域SAFの線上に乗った速度の駆動力になる。
主変速操作具77を前進操作域[77F]の中速域部「77FM」で操作する際、副変速操作具85を高速位置「H」に操作してあっても、牽制制御手段81が牽制作用の状態に切り換っており、変速制御手段78は、油圧モータ33の高速側への副変速制御を行なわない。この場合、変速制御手段78は、たとえば図6に矢印「ロ」で示す如き油圧ポンプ32の高速側への副変速制御を行ない、変速伝動機20が出力する駆動力が、HMT変速線Mの低速域MLに沿って変速し、副変速操作具85を低速位置「L」に操作してある場合の主変速操作具77の操作位置に対応する速度より高速の駆動力になる。
主変速操作具77を前進操作域「77F」の中速域部「77FM」での操作位置に位置させた場合、副変速操作具85を低速位置「L」から高速位置「H」に切り換え操作しても、牽制制御手段81が牽制作用の状態になっており、変速制御手段78が油圧モータ33の高速側への副変速制御を行なわない。この場合、変速制御手段78は、たとえば図6の矢印「ロ」で示す如き油圧ポンプ32の高速側への副変速制御を行ない、変速伝動機20が出力する駆動力が、HMT変速線Mの低速域MLに沿って変速し、副変速操作具85を低速位置「L」に操作してある場合の主変速操作具77の操作位置に対応する速度より高速の駆動力になる。
主変速操作具77を前進操作域[77F]の高速域部「77FH」で操作する際、副変速操作具85を高速位置「H」に操作してあると、牽制制御手段81が牽制解除の状態になって変速制御手段78が油圧モータ33を高速側に副変速操作し、変速伝動機20が出力する駆動力は、副変速のHMT変速線MAに沿って変速する。
主変速操作具77を前進操作域「77F」の高速域部「77FH」での操作位置に位置させた状態で、副変速操作具85を低速位置「L」から高速位置「H」に切り換え操作した場合、牽制制御手段81が牽制解除の状態になっており、変速制御手段78が油圧モータ33を高速側に副変速制御し、変速伝動機20が出力する駆動力が副変速のHMT変速線MAの線上に乗った速度の駆動力になる。
副変速操作具85を低速位置「L」に操作した状態で、主変速操作具77を後進操作域「77R」で操作すると、変速制御手段78が主変速操作具77からの主変速指令、副変速操作具85からの低速の副変速指令及び出力回転数センサ76aによる検出情報に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを中立位置「n」より後進側で傾動操作し、変速伝動機20が出力する駆動力がHST変速線Sの後進域SRに沿って変速する。
主変速操作具77を後進操作域[77R]で操作する際、副変速操作具85を高速位置「H」に操作してあると、牽制制御手段81が牽制解除の状態になって変速制御手段78が油圧モータ33を高速側に副変速操作し、変速伝動機20が出力する駆動力は、副変速のHST変速線SAの後進域SARに沿って変速する。
主変速操作具77を後進操作域「77R」での操作位置に位置させた状態で、副変速操作具85を低速位置「L」から高速位置「H」に切り換え操作した場合、牽制制御手段81が牽制解除の状態になっており、変速制御手段78が油圧モータ33を高速側に副変速制御し、変速伝動機20が出力する駆動力が副変速のHST変速線SAの後進域SARの線上に乗った速度の駆動力になる。
変速制御手段78は、図6に示す変速域Aでは、油圧ポンプ32の変速制御だけで制御目標速度を現出できる場合、高速の副変速指令があっても、油圧ポンプ32の変速制御だけで済ませ、油圧モータ33の副変速制御による増速制御を行なわない。
〔別実施例〕
(1)上記した実施例では、HMT伝動の速度レンジを一段だけ備えるよう構成した例を示したが、HMT伝動の速度レンジを2段以上備えるよう構成して実施してもよい。
(2)上記した実施例では、咬み合い形式のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60によってクラッチ機構70を構成した例を示したが、摩擦式のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60によってクラッチ機構70を構成して実施してもよい。
本発明は、コンバインの他、田植機、運搬車など各種の農作業機に利用できる。
1 走行装置
8 エンジン
20 変速伝動機
30 無段変速部
32 油圧ポンプ
33 油圧モータ
40 遊星伝動部
70 クラッチ機構
75 斜板角センサ
77 主変速操作具
78 変速制御手段
81 牽制制御手段
82 基準斜板角設定手段
c 設定変速斜板角
e 基準斜板角
S HST変速線

Claims (3)

  1. エンジンからの駆動力を入力して変速し、出力する変速駆動力がHST変速線に沿って変速するよう作用する静油圧式の無段変速部、及びエンジンからの駆動力と前記無段変速部からの変速駆動力とを入力して合成し、出力する合成駆動力が前記無段変速部の変速によってHMT変速線に沿って変速するよう作用する遊星伝動部を有する変速伝動機を備え、
    前記無段変速部が出力する変速駆動力を走行装置に出力するHST伝動を設定するHST設定状態と前記遊星伝動部が出力する合成駆動力を走行装置に出力するHMT伝動を設定するHMT設定状態とに切り換え自在なクラッチ機構を前記変速伝動機に設け、
    主変速操作具からの主変速指令に基づいて前記無段変速部を構成する油圧ポンプを変速制御するとともに前記クラッチ機構を切換え制御する変速制御手段を備える農作業機の走行伝動装置であって、
    前記無段変速部を構成する油圧モータを可変容量形に構成し、
    人為操作自在であって副変速指令を発する副変速操作具と、前記油圧モータの斜板角変更操作を行なう副変速アクチュエータとを備え、
    前記変速制御手段を、前記副変速指令に基づいて前記油圧モータを高速側に変速するべく前記副変速アクチュエータを制御するよう構成し、
    前記変速伝動機が前記HMT伝動を設定され、かつ前記無段変速部の後進変速域での高速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を増速させ、さらに前記無段変速部の後進変速域での低速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を減速させる伝動状態にあると、前記変速制御手段による前記副変速アクチュエータの制御を許容するよう牽制解除し、前記変速伝動機が前記HMT伝動を設定され、かつ前記無段変速部の前進変速域での低速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を増速させ、さらに前記無段変速部の前進変速域での高速側への変速操作によって走行装置に出力する合成駆動力を減速させる伝動状態にあると、前記変速制御手段による前記副変速アクチュエータの制御を停止させるよう牽制作用する牽制制御手段を備えてある農作業機の走行伝動装置。
  2. HST伝動からHMT伝動への設定の切り換え制御を行なう斜板角に対して設定角だけ低速側に位置する前記油圧ポンプの斜板角を基準斜板角として設定する基準斜板角設定手段を備え、
    前記変速伝動機が前記HST伝動を設定され、かつ前記油圧ポンプの斜板角が前記基準斜板角より低速側である場合、前記牽制制御手段が牽制解除し、前記変速伝動機が前記HST伝動を設定され、かつ前記油圧ポンプの斜板角が前記基準斜板角より高速側にある場合、前記牽制制御手段が牽制作用するよう構成してある請求項1記載の農作業機の走行伝動装置。
  3. 前記変速制御手段を、前記牽制制御手段による牽制作用を受ける状態において、前記変速伝動機の前記主変速指令に応じた出力速度を前記副変速指令によって増速するように、前記主変速指令及び前記副変速指令に基づいて前記油圧ポンプを変速制御するよう構成してある請求項1又は2記載の農作業機の走行伝動装置。
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