JP5554172B2 - 繊維材の処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、セルロース系繊維又は動物繊維の少なくともいずれか一方を含む原糸や織物、編物等の繊維材に対して染色を行う前に施す繊維材の処理方法に関する。
タオル等をはじめとする各種の布帛は、綿や麻等のセルロース系繊維から製造されることが一般的である。すなわち、例えば、綿を製織して織物を得、次に、この織物に対して所定の処理を施した後、該織物に対して染色を行う。
ここで、所定の処理としては、一般的に、糊抜き、精練及び漂白が実施されている。すなわち、原糸となる経糸(場合によっては、経糸と緯糸の双方)には、強度の向上や毛羽立ちの回避を目的として、澱粉、ワックス、アクリル系糊料、ポリビニルアルコール等の糊剤が製織工程に先んじて塗布される。糊抜きとは、この糊剤を除去する作業である。糊抜きを行うことにより、織物の吸水性を向上させることができる。
糊抜きは、例えば、特許文献1に記載されるように、アミラーゼ酵素を含有する水溶液に織物を浸漬する手法も知られているが、この手法には、澱粉以外の糊剤を除去することが容易ではないという不都合がある。このため、酸化糊抜き剤を含む高温且つ高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に織物を長時間浸漬することが一般的に行われている。
続いて、精練を行う。セルロース系繊維は、セルロース質からなる二次膜の表面が、金属、ペクチン質、ろう質、脂肪質、色素、灰分、ワックス等を含む一次膜で被覆された状態となっているが、この精練により一次膜が除去されて二次膜、すなわち、セルロール質が露呈する。その結果、織物の吸水性が向上する。
精練は、一般的に、特許文献2に記載されるように、界面活性剤を含む高温且つ高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に織物を長時間浸漬することによって実施されている。
次に、セルロース系繊維に含まれている色素成分を分解除去し、染色前に均一な白さとするための漂白が行われる。この際には、通常、塩素系漂白剤が用られるが、特許文献3にて提案されているように、過酸化水素を用いることも知られている。
以上の糊抜き、精練及び漂白が行われた織物に対し、染色が行われる。なお、原糸に対して糊抜き、精練及び漂白を行い、その後に染色を施した後、この原糸を用いて製織を行う場合もある。原糸に対する糊抜き、精練及び漂白も、織物に対する上記の糊抜き、精練及び漂白と同様の作業が営まれる。
特開平2−80673号公報 特開2001−271266号公報 特開平3−287859号公報
上記したように、糊抜き及び精練では、高温の水酸化ナトリウム水溶液を用いての長時間の処理が行われる。周知の通り、水酸化ナトリウム水溶液は強アルカリ性液であり、しかも、高温であるために活性が大きい。このため、セルロース系繊維や動物繊維が劣化する懸念がある。
その上、この場合、糊剤が残留することが多く、このために十分な吸水性を得ることが容易ではないため、染色工程での染料のセルロース系繊維への吸着、換言すれば、染色性が不十分となるという不具合が顕在化している。このような事態が発生すると、染料の染着率が安定しなくなり、色のバラツキの原因となる。この不具合は、連続染色法において反応性染料を使用する際に特に顕著である。
加えて、このような強アルカリ性液をそのまま排出することはできないので、廃液処理が必須となる。しかしながら、強アルカリ性液を中和するためには多量の中和剤が必要であり、このため、高額な処理コストを要している。
また、場合によっては、綿や麻等の天然セルロース系繊維と、羊毛や獣毛繊維(例えば、カシミア等)、絹等の動物繊維との混紡糸が原糸とされることもあるが、このような混紡糸を上記のように強アルカリ性液にて精練すると、動物繊維が著しく傷む。これを回避するべく、この種の混紡糸に対しては、界面活性剤を含む中性液又は弱アルカリ性液を用いての精練が行われている。しかしながら、このような精練では、天然セルロース系繊維に含まれているペクチン質が十分に除去されないので、十分な吸水性ないし染色性を示す原糸又は織物を得ることが容易ではない。
さらに、漂白で使用される塩素系漂白剤は周知のように腐食作用が強く、このために漂白設備を耐食性とする必要があるので設備投資が高騰してしまう。特許文献3にて提案されているように過酸化水素を用いればこの不都合は回避し得るが、この場合、セルロース系繊維に金属が残留していると、この金属が過酸化水素と反応を起こして分子状酸素が発生してしまう。この酸素によってセルロース系繊維がオキシセルロース化され、その結果、セルロース系繊維が脆化するという不具合が生じることが指摘されている。
水酸化ナトリウムを溶解した過酸化水素水を漂白剤として使用することも知られてはいるが、上記した混紡糸の原糸又は織物に対してこの漂白剤を用いると、動物繊維が容易に損傷してしまう。場合によっては、繊維としての形状が保たれていないこともある。
本発明は、上記した種々の問題を解決するためになされたもので、糊抜き、精練、必要に応じてはさらに漂白の実施条件を穏やかなものとしながらも吸水性・染色性に著しく優れ且つ高強度の繊維材を得ることが可能であり、しかも、動物繊維が含まれるときには該動物繊維が損傷することを回避し得る繊維材の処理方法を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明は、セルロース系繊維又は動物繊維の少なくともいずれか一方を含む繊維材に対して染色を行う前に施す繊維材の処理方法において、
アミラーゼ酵素と界面活性剤を含む酸性処理液によって、前記繊維材に付着した糊剤を除去する糊抜きを行うと同時に、前記繊維材に対して精練を行う工程を有し、
前記酸性処理液として、pHが3〜6の範囲内であり、且つプロトンを供与可能な酸を含むものを用い、
前記繊維材に含まれるペクチン質金属をプロトンで攻撃することによってペクチン酸に変化させるとともに、前記ペクチン質金属に含まれていた金属をイオンとして酸性処理液中に溶出させることを特徴とする。
なお、本発明における「繊維材」には、糸、綿(ワタ)、スライバー、織物、編物、不織布等の様々な形状が含まれるものとする。換言すれば、繊維材は、糸や布帛等の特定の形状のものに限定されるものではない。
酸性処理液においては、酸からプロトンが供与される。この酸により、糊剤が加水分解されるとともに、セルロース系繊維や動物繊維に含まれるペクチン質含有金属がペクチン酸に変化する。また、セルロース系繊維に存在する一次膜が除去される。すなわち、糊剤が除去される糊抜きと、金属をはじめとする夾雑物が除去される精練とが同時に営まれる。
しかも、アミラーゼ酵素が添加されているので、この除去が促進される。すなわち、アミラーゼ酵素の存在下にプロトンを用いることによって、繊維材から不純物を除去することが容易となる。
このように、本発明によれば、強アルカリ性である水酸化ナトリウムを用いることなく、不純物を繊維材から容易に除去することができる。従って、繊維材が劣化する懸念が払拭される。しかも、水酸化ナトリウムに比して活性が低い酸を用いるので、設備が腐食することを回避することもできる。
その上、このような過程を経て得られた処理後の繊維材は、長期間にわたって優れた吸水性、保水性を示し、このために染着率が大きい。従って、肌触りの良さと色落ちのし難さが長期間にわたって保たれる。加えて、優れた強度を示す。以上のように諸特性が向上する理由は、アミラーゼ酵素によって繊維材に新たな水酸基が形成されているためであると推察される。
酸性処理液のpHは、上記したように3〜6の範囲内とする。この場合、酸性処理液が弱酸性であるので、酸性処理液を中和するための中和剤の量が著しく低減する。従って、酸性処理液の処理コストを低廉化することができる。
しかも、この場合、酸性処理液が弱酸性であるために繊維材が傷むことを一層有効に回避し得る。
酸性処理液の温度は、常温〜95℃の間に設定することができるが、50〜95℃に設定するときには、該酸性処理液に対する繊維材の浸漬時間を5〜60分とすることが好ましい。
また、常温の酸性処理液を使用する場合には、該酸性処理液に対する繊維材の浸漬時間を1〜12時間とすればよい。
本発明では、以上の糊抜き・精練を行った後、さらに、漂白を実施するようにしてもよい。この場合、漂白は、炭酸ナトリウムを含み且つpHが9〜11に設定された過酸化水素溶液を漂白剤として用いる。上記のようにして糊抜き・精練が施された繊維材からは、特に、金属が除去されているので、過酸化水素を源として分子状酸素が発生することが回避される。従って、例えば、繊維材がセルロース系繊維であるときであっても、分子状酸素によって該セルロース系繊維がオキシセルロース化される懸念が払拭される。このため、繊維が脆化する懸念も払拭される。
また、漂白剤が弱アルカリ性であるため、処理が容易である。しかも、設備の耐腐食性を過度に大きくする必要がない。従って、設備投資が低廉化することも回避される。
以上の糊抜き・精練、及び漂白が施された繊維材は、不純物が除去されているために吸水性が大きい。このため、毛細管現象によって染料を容易に吸い上げ、しかも、該染料を長期間にわたって保持する。
ここで、漂白は、例えば、温度が50〜100℃に設定された前記過酸化水素溶液に繊維材を30〜90分間浸漬することによって実施すればよい。これにより、繊維材を過度に傷めることなく漂白を施すことができる。
以上において、繊維材に動物繊維が含まれる場合、動物繊維の種類は特に限定されるものではない。すなわち、動物繊維は、絹や羊毛であってもよいし、カシミアやアンゴラをはじめとする獣毛であってもよい。
また、上記した処理は、原糸から得られた織物又は編物に対して実施することができる(なお、本発明における「織物」には交織物が含まれ、「編物」には交編物が含まれるものとする)。すなわち、この場合、織物や編物に対して染色を行う、いわゆる後染めが実施される。
又は、原糸(なお、本発明における「原糸」には、混紡糸や交撚糸が含まれるものとする)に対して上記した処理を施すようにしてもよい。この場合には、処理が施された原糸に対して染色が行われた後、該原糸を用いて織物又は編物が作製される。すなわち、この場合、いわゆる先染めが行われる。
本発明によれば、アミラーゼ酵素を含む酸性処理液を用いて繊維材に対する糊抜き・精練を行うようにしているので、繊維材中のセルロース系繊維や動物繊維が傷むことが回避されるとともに、プロトンの作用下に、糊剤や金属等の不純物が容易に除去される。従って、この糊抜き・精練が終了した時点でも、吸水性や保水性に優れる繊維材を得ることができる。
さらに、炭酸ナトリウムを含む弱アルカリ性の過酸化水素溶液を漂白剤として漂白を行うと、吸水性や保水性とともに白色度が向上する。その上、繊維材が傷むことを回避することもできる。
従って、染色が容易であり、しかも、染色後には染料を長期間にわたって保持し得るとともに、快適な肌触りを示す繊維材を得ることができる。
しかも、上記の酸性処理液及び漂白剤は、設備に対する腐食性が小さい上、中和処理等が容易である。従って、設備投資や処理コストの低廉化を図ることもできる。
本発明の実施の形態に係る処理方法に則して処理された試料1、2と、従来技術に係る処理方法に則して処理された比較試料と、処理前の綿糸におけるペクチン残存量、吸水性、白色度、引っ張り強度、金属残存量を示す図表である。 本発明の実施の形態に係る処理方法に則して処理された試料A、Bと、従来技術に係る処理方法に則して処理された試料A、Bと、処理前の試料A、Bにおけるペクチン残存量、金属残存量、吸水性、白色度、染色濃度、引っ張り強度、引き裂き強度を示す図表である。 図3Aは、本発明の実施の形態に係る処理方法に則して処理された試料Cの電子顕微鏡(SEM)写真であり、図3Bは、従来技術に係る処理方法に則して処理された試料CのSEM写真である。 前記試料Cの処理前後での引っ張り強度、伸度、白色度、混紡率、染色性、同色性等を示す図表である。 図5Aは、本発明の実施の形態に係る処理方法に則して処理された試料Dの電子顕微鏡(SEM)写真であり、図5Bは、従来技術に係る処理方法に則して処理された試料CのSEM写真である。 前記試料Dの処理前後での引っ張り強度、白色度、混紡率、染色性、同色性等を示す図表である。 図7Aは、処理前の綿・ウール混紡糸のSEM写真であり、図7Bは、本発明の実施の形態に係る処理方法に則して処理された綿・ウール混紡糸のSEM写真である。 図8Aは、処理前のテンセル・ウール混紡糸のSEM写真であり、図8Bは、本発明の実施の形態に係る処理方法に則して処理されたテンセル・ウール混紡糸のSEM写真である。 図9Aは、処理前の綿・ブラウンカシミヤ混紡糸のSEM写真であり、図9Bは、本発明の実施の形態に係る処理方法に則して処理された綿・ブラウンカシミヤ混紡糸のSEM写真である。
以下、本発明に係る繊維材の処理方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
はじめに、製織によって得られた織物に対して処理を施す第1実施形態につき説明する。
この織物は、原糸が製織されることによって得られたものである。ここで、原糸は、セルロース系繊維又は動物繊維の少なくともいずれか一方を含む。すなわち、セルロース系繊維のみ、又は動物繊維のみが製織されて得られた織物であってもよいし、セルロース系繊維と動物繊維の双方を含む原糸(混紡糸又は交撚糸)が製織されて得られた織物であってもよい。さらには、セルロース系繊維の原糸と、動物繊維の原糸とを用いた交織物であってもよい。
代表的なセルロース系繊維としては、天然植物繊維である綿(木綿)が挙げられる。又は、ラミー、リネン、大麻(ヘンプ)、ジュート、マニラ麻、サイザル麻等の麻であってもよい。
セルロース系繊維は、天然セルロースを所定の溶剤で溶解した後に繊維状に成形して得られた、いわゆる再生繊維であってもよい。この種の再生繊維の具体例としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、テンセル(オーストリア国レンジング社の登録商標)が挙げられる。
一方、動物繊維の代表例としては、絹、羊毛、又は獣毛繊維が挙げられる。具体的な獣毛繊維としては、アルパカ、モヘヤ、アンゴラ、カシミヤ、キャメル、ビュキューナ等を例示することができる。
セルロース系繊維と動物繊維の織物中での割合は、特に限定されるものではなく、100:0〜0:100の間の所望の割合に設定することが可能である。
第1実施形態に係る繊維材の処理方法は、このような繊維に対して糊剤を塗布した後に製織によって得られた織物に対し、糊抜き・精練と、漂白とを行うものである。
具体的には、先ず、アミラーゼ酵素と界面活性剤を含む酸性処理液に織物を浸漬する。これにより、織物に対する糊抜きと精練が同時に営まれる。なお、この工程を実施するための装置には、例えば、連続染色機、液流染色機、コールド・パッド・バッチ式加工機等の従来公知の装置を採用すればよい。
ここで、酸性処理液は、織物(繊維材)に対してプロトン(H)を供与可能な酸を含む。この種の酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、亜燐酸(ホスホン酸)、次亜燐酸(ホスフィン酸)等の無機酸や、クエン酸、蟻酸、酢酸等の有機酸が例示される。後述するように、プロトンによって糊剤(特に、澱粉)が加水分解されるとともに、セルロース系繊維や動物繊維に含まれるペクチン質含有金属がペクチン酸に変化する。
上記した酸の中では、亜燐酸又は次亜燐酸が特に好ましい。これらの酸は腐食性が小さく、このために上記した装置を含む設備が傷み難いからである。このような酸としては、日華化学社製のA−860やネオプロトンMAE(いずれも商品名)が市販されており、容易に入手可能である。
酸性処理液のpHは3〜6であることが好ましく、4〜6であることが一層好ましい。pHが3未満であると、プール等の設備に対する腐食性が大きくなる傾向がある。また、pHが6を超えるとプロトンの量が相対的に少なくなるので、糊剤の加水分解を進行させることが容易でなくなる。酸性処理液のpHを上記した範囲とするためには、A−860を用いるときにはその濃度を0.1〜10g/リットル、ネオプロトンMAEを用いるときにはその濃度を0.5〜20g/リットルとすればよい。なお、有機酸等の緩衝剤を添加することでpHを調節するようにしてもよい。
アミラーゼ酵素は、糊剤(特に、澱粉)を分解する糊抜き剤、及びペクチン質含有金属成分をペクチン酸に分解する際の分解促進剤として機能する。なお、第1実施形態では、酸性処理液に界面活性剤をさらに添加しているので、PVA等の糊剤を分解することも可能となる。
アミラーゼ酵素の具体例としては、α−1,4−グルカン−4−グルカノヒドロラーゼ系のα−アミラーゼが挙げられる。この種のアミラーゼ酵素には、洛東化成社製のPAS600エコ(商品名)等が好適に用いられる。
酸性処理液におけるアミラーゼ酵素の濃度は、PAS600エコであれば、1〜20g/リットルの範囲内が好適である。
また、界面活性剤としては、親油性が良好な非イオン系界面活性剤や、アニオン系界面活性剤が好適である。このような界面活性剤の具体的な市販品としては、日華化学社製のピッチランL−160や、松本油脂社製のマーポンM−40等が例示される。
さらに、酸性処理液にキレート剤を含めるようにしてもよい。酸性処理液における界面活性剤の濃度は、用いる界面活性剤の種類にもよるが、概ね0.5〜5g/リットルであれば十分である。
さらにまた、酸性処理液にオレンジオイル等の精練剤を添加するようにしてもよい。
以上の成分を含む酸性処理液に対し、上記したように織物を浸漬する。これにより、織物に対する糊抜き・精練が進行する。
ここで、浸漬時間が過度に短いと、糊抜き及び精練が十分でなくなる。また、浸漬時間を過度に長くすると処理効率の低下を招く。従って、酸性処理液が常温である場合には浸漬時間を4〜12時間程度とすることが好ましく、50〜95℃である場合には5〜60分程度とすることが好ましい。
上記したように、酸性処理液には酸が含まれる。この酸からプロトンが供与されると、該プロトンが繊維に付着した糊剤(特に、澱粉)を攻撃する。その結果、糊剤が加水分解を起こす。酸性処理液に含まれるアミラーゼ酵素は、この加水分解を促進する。すなわち、セルロースを形成するβーグルコース分子のグリコシド結合をプロトンとともに攻撃し、その結果、セルロースに新たな水酸基を形成すると推察される。
以上により、織物を形成するセルロース系繊維(ないし動物繊維)に対する糊抜きが進行する。なお、糊剤は、ほとんど全てが除去される。
同時に、セルロース系繊維では、金属、ペクチン質、ろう質、脂肪質、色素、灰分、ワックス等を含む一次膜がプロトンから攻撃される。
ここで、ワックスや脂質の構造式は、下記の反応式(1)の左辺に示すように表される。このようなワックス、脂質がプロトンから攻撃されると、反応式(1)の右辺に示すように、ワックス、脂質がグリセリンと脂肪酸に分解する。
Figure 0005554172
ワックスや脂質の加水分解によって形成されたグリセリン、脂肪酸は、非イオン界面活性剤が添加された温湯によって繊維から容易に除去することが可能である。
加えて、一次膜に含まれている金属は、金属それ自体として存在するものはほとんどなく、例えば、下記の反応式(2)の左辺に模式的に示すように、ペクチン質と結合したペクチン質金属として存在する。なお、反応式(2)では、金属をMとして表しているが、Mの代表的な例としてはFe、Mg、Ca等が挙げられる。
Figure 0005554172
この種のペクチン質金属は、水に対して不溶であるが、プロトンから攻撃されることによって、反応式(2)の右辺に示すように、水に易溶なペクチン酸に変化する。これに伴い、金属がイオンとして酸性処理液中に溶出する。なお、ペクチン酸は、非イオン界面活性剤が添加された温湯によってセルロース系繊維から容易に除去することができる。
また、金属単体として存在していたものも、プロトンの作用下に、イオンとして酸性処理液中に溶出する。
残余の夾雑物も、プロトンの作用下に除去される。分解された夾雑物は、アミラーゼ酵素によってさらに分解速度される。その後、例えば、オレンジオイル等の精練剤によってセルロース系繊維から除去される。
以上のようにして一次膜が除去され、二次膜が露呈する。
なお、動物繊維にも油脂分、脂質、金属等の夾雑物が含まれるが、これらの夾雑物も、上記と同様に酸性処理液に浸漬することによって酸性処理液中に溶出される。
このように、第1実施形態においては、弱酸性の酸性処理液を用いて糊抜き・精練が行われる。従って、セルロース系繊維又は動物繊維を傷める懸念がない。また、高温の水酸化ナトリウム水溶液を使用する場合に比して作業環境も安全であり、しかも、装置や配管等の設備が腐食し難い。
その上、この場合、糊抜き・精練に要する処理時間が、水酸化ナトリウム水溶液を使用するときよりも大幅に短縮される。すなわち、織物に対する糊抜き・精練の処理効率が著しく向上するという利点がある。
加えて、織物に含まれる繊維が天然セルロース系繊維であっても、ペクチン質を十分に除去することができる。
このようにして糊抜き・精練が施された織物に対し、次に、漂白を施す。この漂白に際しては、炭酸ナトリウムを含み且つpH9〜11、好ましくはpH9.5〜10.5に設定された過酸化水素溶液が漂白剤として用いられ、該漂白剤に織物が浸漬される。
すなわち、第1実施形態では、漂白に際して塩素系漂白剤や水酸化ナトリウムを使用しない。このため、漂白設備が腐食することを回避することができるとともに、織物に動物繊維が含まれている場合であっても該動物繊維が損傷することを回避することができる。その上、織物の白色度が高くなる。
なお、漂白剤の温度を高くするほど処理時間を短縮し得るとともに織物の白色度が高くなるが、過度に高温であるとセルロース系繊維ないし動物繊維が傷む懸念がある。従って、漂白剤の温度は、50〜100℃とすることが好ましい。
特に動物繊維を含む織物を漂白する場合、周知の従来技術では、動物繊維が傷むことを回避するべく、漂白剤の温度を80℃以下とすることが通例である。これに対し、第1実施形態では、これよりも高温で処理することが可能であり、このために処理効率が高い。しかも、上記の温度域であっても、セルロース系繊維ないし動物繊維を傷めることなく漂白を行うことができる。
浸漬時間が過度に短いと、漂白が十分でなくなる。また、過度に長いと処理効率が低下する。好ましい浸漬時間、換言すれば、漂白時間は、30〜90分の範囲内である。
過酸化水素は、pH9〜11の弱アルカリ条件下において、下記の反応式(3)に従ってプロトンとパーヒドロキシイオンを生成する。この中のパーヒドロキシイオンが、反応式(4)に示すように色素を捕捉する。この捕捉により、漂白作用が営まれる。
→ H + HOO …(3)
HOO + 色素 → HO + 酸化色素 …(4)
すなわち、織物中の繊維の色素が分解され、白色となる。
上記したように、過酸化水素を漂白剤として使用するのみでは、精練後の織物(繊維)に金属が残留している場合、反応式(5)に示すように、過酸化水素を源として分子状酸素が発生する。織物にセルロース系繊維が含まれていると、反応式(6)に示すように、この酸素によってセルロース系繊維がオキシセルロース化される懸念がある。この場合、繊維が脆化する。
2H → 2HO + O …(5)
+ セルロース → オキシセルロース …(6)
しかしながら、第1実施形態では、上記の糊抜き・精練時に、繊維に含まれる金属をプロトンによってイオン化して溶出することで除去している。すなわち、繊維には金属がほとんど残留していない。このため、分子状酸素が発生することが有効に回避される。従って、セルロース系繊維が含まれている場合であってもオキシセルロースが生成し難いので、該セルロース系繊維が脆化することを回避することができる。
しかも、分子状酸素、すなわち、気体が発生することが回避されるので、漂白剤中に泡が発生することが回避される。このため、いわゆるスカム付着が生じることを回避することもできる。
なお、ペクチン酸は、炭酸ナトリウムと反応し、下記の反応式(7)に従ってペクチン酸ナトリウムに変化する。
Figure 0005554172
以上の過程を経る第1実施形態によれば、糊剤及び夾雑物(一次膜等)が除去されるとともに、白色度が高い織物を得ることができる。しかも、弱酸性又は弱アルカリ性の液を用いるので、設備に対する負担が著しく軽減する。このため、設備の耐腐食性を過度に大きくする必要がないので、設備投資が低廉化する。さらに、漂白剤が弱アルカリ性であるため、処理が容易である。
加えて、弱酸性の液や弱アルカリ性の液は、容易に中和することができる。従って、廃液処理が容易となるという利点がある。
上記した処理が施された織物に対して、次に、染色が行われる。すなわち、いわゆる後染めである。染色装置としては、例えば、連続染色機、液流染色機、コールド・パッド・バッチ方式染色機を用いればよい。
また、染料としては、例えば、反応性染料を用いればよい。特に、織物にセルロース系繊維及び動物繊維の双方が含まれる場合には、反応性染料を用いることで織物を均一に染色することが可能となる。
上記のような処理が施された織物中の繊維は、吸水性が極めて大きい。糊剤や夾雑物、漂白剤のほとんどが除去されているために毛細管現象が迅速に進行するからである。しかも、この繊維は、著しく大きな保水性を示す。このため、織物が容易に染色される上に染料を強く保持する。換言すれば、この織物は、優れた染着率を示す。
セルロース系繊維及び動物繊維の双方を含む織物を染色する際、通常、2種の染料群が使用される。しかも、染色に長時間を要する。これに対し、第1実施形態においては、繊維が優れた吸水性及び保水性を示すようになるとともに、染料に対する親和力が大きくなるので、セルロース系繊維のみを含む織物と同様の染色手法を採用した場合であっても、均一に染色させることが可能である。すなわち、均染性が良好となる。
このようにして染色された織物では、肌触りの良さと色落ちのし難さとが長期間にわたって保たれる。繊維の傷みが極めて少なく、また、染料が強く保持されるからである。従って、快適な使用感が長期間継続する。この理由は、繊維に新たな水酸基が形成されているためであると推察される。
しかも、保水性が持続しているので、織物が、例えば、タオルである場合、身体を濡らした水分を短時間で拭き取ることができる。
なお、第1実施形態は、織物を例示して説明したが、編物であってもよい。この編物に交編物が含まれることは勿論である。この場合、液流染色機を用いればよい。
さらに、不織布であってもよいし、綿(ワタ)やスライバーであってもよい。綿(ワタ)やスライバーの場合には、マイヤー染色機を用いればよい。
次に、原糸に対して処理を施す第2実施形態につき説明する。
原糸は、織物又は編物とされる前の糸であり、綿(木綿)、麻又は再生繊維等のセルロース系繊維のみであってもよいし、羊毛、獣毛又は絹等の獣毛繊維のみであってもよい。勿論、セルロース系繊維と動物繊維の双方を含む混紡糸、又は交撚糸であってもよい。
この原糸に対し、第1実施形態に準拠して糊抜き・精練を行い、その後、漂白を行う。この場合においては、糊剤及び夾雑物(一次膜等)が除去されるとともに、白色度が高い原糸を得ることができる。その他、第1実施形態と同様の効果が得られる。
上記した処理が施された原糸に対して、製織等に先んじて染色が行われる。すなわち、いわゆる先染めである。この場合の染色装置としては、例えば、チーズ染色機、ビーム染色機等を用いればよい。また、染料としては、例えば、反応性染料を用いればよい。
上記のような処理が施された原糸においても、糊剤や夾雑物、漂白剤のほとんどが除去されているために毛細管現象が迅速に進行する。このため、優れた吸水性を示す。しかも、保水性にも優れるので、容易に染色されるとともに染料を強く保持する。すなわち、この原糸も優れた染着率を示す。
次に、この原糸を用いて製織が行われる。この場合には、織物が得られる。なお、上記の糊抜き・精練及び漂白が個別に施されたセルロース系繊維からなる原糸と、動物繊維からなる原糸とで交織物を得るようにしてもよいことは勿論である。
又は、編物を作製するようにしてもよい。勿論、上記の糊抜き・精練及び漂白が個別に施されたセルロース系繊維からなる原糸と、動物繊維からなる原糸とで交編物を得ることも可能である。
このようにして得られた織物ないし編物においても、繊維の傷みが極めて少なく、また、染料が強く保持されることによって、肌触りの良さと色落ちのし難さとが長期間にわたって保たれる。従って、快適な使用感が長期間継続する。
しかも、保水性が持続しているので、織物ないし編物が、例えば、タオルである場合、身体を濡らした水分を短時間で拭き取ることができる。
なお、染色装置は、上記のものの他、ウインス型染色機、ドラム型染色機、スラッシャー型染色機、かせ型染色機等を用いるようにしてもよい。
水に対し、プロトンを供与する酸であるネオプロトンMAEを5g/リットル、アミラーゼ酵素剤であるPAS600エコを5g/リットル、非イオン性界面活性剤であるピッチランL−160を2g/リットルの割合で添加し、酸性処理液を調製した。この酸性処理液のpHを測定したところ、5.5であった。
次に、日阪製作所社製のチーズ染色機を用い、浴比1:10、50℃とした前記酸性処理液に対して20番手の綿糸を30分間浸漬した。その後、80℃の熱水で湯洗を行い、熱風乾燥機にて1時間乾燥した。以下、この時点の綿糸を試料1と表記する。この試料1に触れたところ、柔らかい手触りであることが確認された。
上記とは別に、水に対し、35%過酸化水素を10g/リットル、炭酸ナトリウムを8g/リットル、過酸化水素の安定剤であるネオレートPH−150(日華化学社製)を2g/リットル、ピッチランL−160を1g/リットル、キレート剤であるネオクリスタル150(日華化学社製)を1g/リットル添加し、pHが9.5〜10.5である漂白剤を調製した。
次に、前記チーズ染色機を用い、浴比1:10、95℃とした前記漂白剤に対して前記試料1を60分間浸漬した。その後、80℃の熱水で湯洗を行い、さらに、40℃の温水で湯洗を行った後、熱風乾燥機にて1時間乾燥した。以下、この時点の綿糸を試料2と表記する。
比較のため、8g/リットルの炭酸ナトリウム、2g/リットルのネオレートPH−150に代替して6g/リットルの水酸化ナトリウム、2g/リットルのネオレートPLC−1(日華化学社製)を添加して漂白剤のpHを11、温度を100℃としたことを除いては上記と同様にして、20番手の綿糸に対して漂白を施した。以下、この綿糸を比較試料と表記する。
以上の試料1、2及び比較試料につき、ペクチン残存量、吸水性、白色度、引っ張り強度、金属残存量を測定した。なお、ペクチン残存量の測定方法は以下の通りである。すなわち、先ず、浴比1:40、温度30℃である0.2g/リットルのルテニウムレッド水溶液に各試料を浸漬しながら10分間、80rpmで往復振とうする。これにより各試料を染色した。
次に、染色された各試料を軽く水洗した後、浴比1:80、温度50℃の湯浴に浸漬して30分間、100rpmで振とうした。さらに、各試料を風乾した後、波長540nmの可視光を照射し、その反射率を分光光度計(日立製作所社製のU−4000型自記分光光度計)にて測定した。得られた反射率Rから、下記の式(8)に示されるクベルカームンクの式に代入して算出される染着量K/Sを、ペクチン残存量とした。このK/Sの値が小さいほど、ペクチン残存量が少ないことを意味する。
K/S=(1−R)/2R …(8)
また、吸水性は、JIS L 1907に規定されるバイレック法によって測定した。
白色度は、JIS L 1916に準拠し、ミノルタ測色機CM−3700dを用いるとともに光源をD65として測定した。
引っ張り強度は、JIS L 1095に従って測定した。使用機器としては、島津製作所社製の定速緊張型オートグラフを用いた。
金属残存量は、マイクロウエーブ社製の分解機MARS5を用い、各試料を硝酸にて分解した後、オプティマ社製の5300DVにてICP分析を行うことで測定した。
結果を、処理前の綿糸(以下、原綿糸と表記する)と併せて図1に示す。この図1から、上記した糊抜き・精練が施された試料1、及び、さらに漂白が施された試料2が、比較試料や原綿糸に比してペクチンや金属の残存量が著しく少なく、且つ吸水性、白色度に優れ、引っ張り強度が大きいものであることが明らかである。この理由は、綿糸に対して有効な糊抜き・精練が施され、セルロースに新たな水酸基が形成されたためであると推察される。
経糸が40単糸(120本/インチ)であり、緯糸が40単糸(60本/インチ)である綿100%平織物を試料とした。以下においては、この試料を「試料A」と表記する。
この試料Aに対し、山東鉄工社製ショートステージブリーチング機によって糊抜き・精練及び漂白を連続的に行った。なお、糊抜き・精練は、5g/リットルのPAS600、5g/リットルのネオプロトンMAE、5g/リットルのピッチランL−160を水に添加することでpHが4.5〜5.5に設定され、且つ温度が90℃の酸性処理液を用い、試料Aを5分間浸漬することで行った。
また、漂白に際しては、水に対し、35%の過酸化水素を20g/リットル、炭酸ナトリウム15g/リットル、ピッチランL−160を4g/リットル、過酸化水素の安定剤であるネオレートPLC8800(日華化学社製)を1g/リットル、キレート剤であるネオクリスタル150(日華化学社製)を1g/リットル添加して調製され、pHが9.5〜10.5である温度30℃の漂白剤を使用し、この漂白剤に、糊抜き・精練が施された試料Aを2分間浸漬した後、飽和水蒸気を充満させた反応塔に3分間曝露した。この操作を2回行った。
以上のようにして糊抜き・精練及び漂白が施された試料Aを、さらに、90℃の湯水で2分間洗浄した後、シリンダ乾燥機で乾燥した。
これとは別に、経糸が40双糸(135本/インチ)であり、緯糸が40双糸(80本/インチ)である綿100%平織物からなる試料Bを用意し、該試料Bに対して上記と同一の操作を行って糊抜き・精練、漂白及び乾燥を施した。
比較のため、糊抜き・精練及び漂白が施されていない別個の試料A、Bを用意し、山東鉄工社製ショートステージブリーチング機によって糊抜き・精練及び漂白を連続的に行った。すなわち、先ず、水酸化ナトリウムを60g/リットル、35%の過酸化水素を15g/リットル、ピッチランL−160を1g/リットル、キレート剤であるネオクリスタルHNC−100(日華化学社製)を1g/リットル、酸化糊抜き剤であるラクトーゲンLS(洛東化成社製)を2g/リットル含み、pHが12〜13且つ温度が30℃である水溶液に試料A又は試料Bを3分間浸漬した後、飽和蒸気を充満させた反応塔に3分間曝露することで、糊抜き・精練を行った。
そして、次に、この水溶液と同一の水溶液を漂白剤とし、該漂白剤に試料A又は試料Bを3分間浸漬した後、飽和蒸気を充満させた反応塔に3分間曝露することで漂白を行った。さらに、試料A又は試料Bを90℃の湯水で2分間洗浄した後、シリンダ乾燥機で乾燥した。
さらなる比較のため、試料A又は試料Bに対し、山東鉄工社製ショートステージブリーチング機によって糊抜き・精練を行った。この場合、5g/リットルのPAS600、1g/リットルのピッチランL−160、ネオクリスタルHNC−100(日華化学社製)を1g/リットル添加して調製され、pHが6.8である水溶液を用いた。すなわち、この水溶液には、プロトンを供与する酸が添加されていない。
この水溶液に試料A又は試料Bを3分間浸漬した。その後、試料A又は試料Bを前記水溶液から取り出し、さらに、飽和水蒸気を充満させた100℃の反応塔に3分間曝露した。
そして、次に、試料A又は試料Bを90℃の湯水で2分間洗浄した後、シリンダ乾燥機で乾燥した。
以上の処理が施された試料A、Bにつき、ペクチン残存量、白色度、金属量、吸水性、染色濃度、引っ張り強度、引き裂き強度を測定した。ここで、ぺクチン残存量の測定には、シュウ酸アンモニア抽出(カルバゾール比色法)を採用した。
すなわち、各試料から4gを採取して得られた採取片を細かく裁断した後、裁断物を、90℃とした160mlのシュウ酸アンモニアに3時間浸漬することで抽出処理を行った。その後、濾過と熱水洗浄を行い、濾液が約50mlになるまで加熱濃縮した。
次に、加熱濃縮物に対して酸性エタノール溶液100mlを添加し、数時間放置した。この放置液を濾過して得られた残渣を酸性エタノールで洗浄し、さらに、残渣及びろ紙を100mlの熱水に投入して可溶分を溶解した。この溶解液を濾過した後、濾液の体積を測定した。
次に、0.5mlの前記溶解液を3mlの濃硫酸に添加して得た混合液を、沸騰浴に容器ごと10分間浸漬することで加熱した。その後、混合液を冷却し、0.05%のカルバゾールーエタノール溶液を0.25ml加えて試験液を得た。この試験液を90分間放置した後、波長520nmで吸光度を測定した。
ここで、検量線はD−ガラクツロン酸溶液で作成した。この検量線から、抽出液のペクチン含量をD−ガラクツロン酸換算で算出した。
その他の白色度、金属量、吸水性、染色濃度、引っ張り強度については上記と同様にして測定し、引き裂き強度についてはJIS L 1096に準じて測定した。
さらに、濃度が20g/リットルであるスミフィックススプラブルーE−XF(住友ケムテック社製のセルロース繊維用反応染料)を生地に均一に塗布した後、パッドドライヤを用い且つ絞り率75%として絞りを行い、次に、パッドスチーマを用いて発色、洗浄及び乾燥を行うことで染色を施した。染め上がりの均染性を、12人の検査官が目視にて評価した。
結果を、未処理の試料A、Bと併せて図2に示す。なお、図2においては、便宜上、上記した第1実施形態に則した糊抜き・精練及び漂白を施した場合を実施例2、従来技術に則した糊抜き・精練及び漂白を施した場合を比較例2−1、プロトンを供与する酸を添加せずに糊抜き・精練を施した場合を比較例2−2と表記している。
この図2から、実施例2に係る試料A、Bが、比較例2−1及び比較例2−2に係る試料A、Bに比してペクチンや金属の残存量が著しく少なく、且つ吸水性、白色度及び均染性に優れ、しかも、引っ張り強度、引き裂き強度が大きいものであることが明らかである。
綿が75%、シルクが25%である綿・シルク混紡糸からなる40番手の双糸を試料とした。以下、この試料を「試料C」と表記する。
この試料Cを、チーズ染色機において、5g/リットルのPAS600、5g/リットルのネオプロトンMAE、2g/リットルのピッチランL−160を含むpH5.3、温度80℃の水溶液からなる酸性処理液に40分間浸漬し、糊抜き・精練を行った。なお、浴比は1:10とした。
次に、同一のチーズ染色機を用い、糊抜き・精練が施された試料Cに対して漂白を行った。この場合、漂白剤としては、35%の過酸化水素を10g/リットル、炭酸ナトリウムを8g/リットル、過酸化水素の安定剤であるネオレートPLC1を2g/リットル、ピッチランL−160を2g/リットル、ネオクリスタル150を1g/リットル含み、pHが10.25である温度90℃の水溶液を用いた。なお、浴比は1:10とした。
この漂白剤に前記試料Cを60分間浸漬した後、80℃の熱湯での洗浄、40℃の温湯での洗浄を行い、さらに、熱風乾燥機で1時間乾燥した。これを実施例3とする。
比較のため、糊抜き・精練及び漂白が施されていない別個の試料Cを用意し、糊抜き・精練及び漂白を連続的に行った。すなわち、先ず、水酸化ナトリウムを2g/リットル、35%の過酸化水素を10g/リットル、ピッチランL−160を2g/リットル、ネオクリスタル150(日華化学社製)を1g/リットル、ネオレートPLC1を2g/リットル含み、pHが12.5、温度が90℃である水溶液に試料Cを60分間浸漬した。なお、浴比は1:10とした。
浸漬後、80℃の熱湯での洗浄、40℃の温湯での洗浄を行い、さらに、熱風乾燥機で乾燥した。これを比較例3とする。
これら実施例3、比較例3に係る試料CのSEM写真を図3A、図3Bにそれぞれ示す。これら図3A、図3Bを対比して諒解されるように、比較例3の試料Cではシルクが損傷しているのに対し、実施例3の試料Cではシルクの表面が平坦性を維持していること、すなわち、損傷していないことが認められる。
また、糊抜き、精練及び漂白を施す前の試料C、及び実施例3の試料Cにつき白色度を求めたところ、それぞれ、66.65、87.32であった。このことから、上記したように糊抜き、精練及び漂白を実施することによって白色度が大きく向上することが分かる。
次に、実施例3、比較例3に係る試料Cに対して染色を施した。染色液としては、いずれも住友ケムテック社製のセルロース繊維用反応染料であるスミフィックスHFイエロー3Rを1.57%、スミフィックスHFスカーレット2GOを34%、スミフィックスHFブルーBGを1.05%溶解し、且つ無水ボウショウを60g/リットル添加した水溶液を用いた。
この染色液に試料Cを浸漬して加熱を開始し、液温が60℃に到達してから20分後に炭酸ナトリウムを5g/リットルの割合で添加した。その後、40分間放置した。
染色後、90℃の熱湯を用いてソーピング洗浄を40分間行い、さらに、熱風乾燥機にて乾燥した。
さらに、上記に準拠して引っ張り強度を求めるとともに、伸度、白色度、混紡率、染色性を求めた。結果を、図4に併せて示す。この図4から、実施例3に係る試料Cでは、糊抜き、精練及び漂白後、さらには染色後においてもシルクの割合が略一定であるのに対し、比較例3に係る試料Cでは、漂白によってシルクの割合が低減していることが分かる。このことから、比較例3ではシルクが溶解してその割合が低減しているのに対し、実施例3ではシルクが溶解することが抑制されていることが明らかである。
また、同色性を目視にて評価したところ、実施例3では良好であったが、比較例3では、いわゆるチラツキが認められた。
綿が80%、カシミヤが20%である綿・カシミヤ混紡糸からなる30番手の双糸を試料とした。以下、この試料を「試料D」と表記する。
この試料Cを、チーズ染色機において、5g/リットルのPAS600、5g/リットルのネオプロトンMAE、2g/リットルのピッチランL−160を含むpH5.3、温度80℃の水溶液からなる酸性処理液に40分間浸漬し、糊抜き・精練を行った。なお、浴比は1:10とした。
次に、同一のチーズ染色機を用い、糊抜き・精練が施された試料Dに対して漂白を行った。この場合、漂白剤としては、35%の過酸化水素を15g/リットル、炭酸ナトリウムを1g/リットル、無水ピロリン酸ナトリウムを10g/リットル、ネオレートPLC1を2g/リットル、ネオクリスタル150を1g/リットル含み、pHが9.5である温度90℃の水溶液を用いた。なお、浴比は1:10とした。
この漂白剤に前記試料Dを60分間浸漬した後、80℃の熱湯での洗浄、40℃の温湯での洗浄を行い、さらに、熱風乾燥機で1時間乾燥した。これを実施例4とする。
比較のため、糊抜き・精練及び漂白が施されていない別個の試料Dを用意し、糊抜き・精練及び漂白を連続的に行った。すなわち、先ず、35%の過酸化水素を15g/リットル、炭酸ナトリウムを1g/リットル、無水ピロリン酸ナトリウムを10g/リットル、ネオクリスタル150を1g/リットル、ネオレートPLC1を2g/リットル含み、pHが9.7、温度が90℃である水溶液に試料Cを60分間浸漬した。なお、浴比は1:10とした。
次に、80℃の熱湯での洗浄、40℃の温湯での洗浄を行い、さらに、熱風乾燥機で乾燥した。これを比較例4とする。
これら実施例4、比較例4に係る試料CのSEM写真を図5A、図5Bにそれぞれ示す。これら図5A、図5Bを対比し、比較例4の試料Dではシルクが損傷しているのに対し、実施例4の試料Dではシルクがほとんど損傷していないことが分かる。
また、これら実施例4、比較例4に係る試料Dにつき白色度を求めたところ、それぞれ、84.22、80.1であった。すなわち、実施例4の方が白色度が大きくなった。
さらに、実施例4、比較例4に係る試料Dに対して染色を施した。染色液としては、いずれも住友ケムテック社製のセルロース繊維用反応染料であるスミフィックスHFイエロー3Rを1.7%、スミフィックスHFレッドGを0.3%、スミフィックスHFブルーBGを1.0%溶解し、且つ無水ボウショウを60g/リットル添加した水溶液を用いた。
この染色液に試料Dを浸漬して加熱を開始し、液温が60℃に到達してから20分後に炭酸ナトリウムを8g/リットルの割合で添加した。その後、60分間放置した。
染色後、90℃の熱湯を用いて洗浄を2回行い、さらに、40℃の温湯にて洗浄を行った後、熱風乾燥機にて乾燥した。
上記した染色前後での実施例4、比較例4に係る試料Dの引っ張り強度、混紡率、染色性及び同色性を求めた。結果を図6に併せて示す。この図6から、実施例4に係る試料Dにおいて、糊抜き、精練及び漂白の前後、さらには染色の前後でカシミヤの割合が略一定に維持されているのに対し、比較例4に係る試料Dでは、漂白及び染色によってシルクの割合が低減していること、換言すれば、カシミヤが溶解していることが諒解される。
また、同色性を目視にて評価したところ、実施例4では良好であったが、比較例4ではチラツキが認められた。
綿が80%、防縮ウールが20%である綿・ウール混紡糸からなる20番手の双糸、テンセルが70%、防縮ウールが30%であるテンセル・ウール混紡糸からなる40番手の双糸、綿が50%、ブラウンカシミヤが50%である綿・ブラウンカシミヤ混紡糸からなる30番手の双糸の各々を試料とし、上記の実施例4に準拠して糊抜き、精練及び漂白の各処理を施した。処理を施す前の各試料のSEM写真と、処理を施した後の各試料のSEM写真を図7〜図9にそれぞれ示す。なお、図7A、図8A、図9Aが処理前、図7B、図8B、図9Bが処理後である。
図7Aと図7B、図8Aと図8B、図9Aと図9Bを対比し、上記の各処理が施された試料中の動物繊維が平坦性を保っていること、すなわち、ほとんど損傷していないことが明らかである。

Claims (8)

  1. セルロース系繊維又は動物繊維の少なくともいずれか一方を含む繊維材に対して染色を行う前に施す繊維材の処理方法において、
    アミラーゼ酵素と界面活性剤を含む酸性処理液によって、前記繊維材に付着した糊剤を除去する糊抜きを行うと同時に、前記繊維材に対して精練を行う工程を有し、
    前記酸性処理液として、pHが3〜6の範囲内であり、且つプロトンを供与可能な酸を含むものを用い、
    前記繊維材に含まれるペクチン質金属をプロトンで攻撃することによってペクチン酸に変化させるとともに、前記ペクチン質金属に含まれていた金属をイオンとして酸性処理液中に溶出させることを特徴とする繊維材の処理方法。
  2. 請求項1記載の処理方法において、前記酸性処理液の温度を50〜95℃に設定するとともに、該酸性処理液に前記繊維材を5〜60分間浸漬することを特徴とする繊維材の処理方法。
  3. 請求項1記載の処理方法において、前記酸性処理液の温度を常温に設定するとともに、該酸性処理液に前記繊維材を1〜12時間浸漬することを特徴とする繊維材の処理方法。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載の処理方法において、さらに、糊抜き及び精練が終了した前記繊維材に対し、炭酸ナトリウムを含み且つpHが9〜11に設定された過酸化水素溶液によって漂白を施す工程を有することを特徴とする繊維材の処理方法。
  5. 請求項記載の処理方法において、前記過酸化水素溶液の温度を50〜100℃に設定するとともに、該過酸化水素溶液に前記繊維材を30〜90分間浸漬することを特徴とする繊維材の処理方法。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の処理方法において、前記動物繊維として絹、羊毛又は獣毛を含む繊維材を使用することを特徴とする繊維材の処理方法。
  7. 請求項1〜のいずれか1項に記載の処理方法において、織物又は編物に対して糊抜き及び精練を施すことを特徴とする繊維材の処理方法。
  8. 請求項1〜のいずれか1項に記載の処理方法において、原糸に対して糊抜き及び精練を施すことを特徴とする繊維材の処理方法。
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