JP5552374B2 - 分岐部を有する編地の編成方法およびその編地 - Google Patents

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Description

本発明は、編幅の途中で編地を左右に分岐させる分岐部を有する編地において、分岐部の見栄えを改良した編地の編成方法およびその編地に関する。
編幅の途中で左右に分岐させた編地には、Vネックのベストやセーターなどがある。例えばVネックベストの前身頃の編成を行なう場合、まず1つの給糸口を使用して衿首の分岐部が形成される編目コースまでの全幅部の編成を行なう。そして分岐部から左肩部と右肩部に左右に分岐させて編成を行い、衿首を形成する。一方の肩部の編成には、全幅部の編成で使用した給糸口をそのまま使用して編成を行い、他方の肩部の編成にはそれまで使用してきた給糸口に換えて他の給糸口を使用する。このVネックベストの場合、着用時には分岐部に横方向の張力がかかる。そして分岐部の編糸にその編糸の伸度を越えるような大きな張力となった場合には、その編糸は分岐部で切れる虞があり、本願出願人は増し目ループの交差を用いた分岐部の強化についての提案を行っている。(特許文献1)。
特許第3967922号公報
本発明の目的は、上記特許文献1の改良であって、分岐部に適度な強度を有しながら交差部が目立たない分岐部の編成方法とその編地を提供することを目的とする。
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、編地を分岐部で左右に分岐して編成する際に、分岐部の境界を挟んで位置する少なくとも左右一対の編目を交差させて交差部を形成した分岐部を有する編地の編成方法において、分岐部領域内の表側に編目を編成し、分岐部領域内の裏側の空針で増目を行う際に、該増目した編目と、該増目した編目に対峙する表側の編目が繋がり、該増目した編目には新たな編目を編成し、分岐部の境界を挟んで表側に位置する左右の編目は交差せず、裏側に位置する左右の編目は交差による交差部を形成することを特徴とする。
また本発明で、前記分岐部領域内の裏側の空針での増目は、割増やし編成で形成した増目であることを特徴とする。
また本発明で、前記分岐部の領域内の裏側の空針での増目は、空針に捻れ目となる掛け目を設けて形成される増目であることを特徴とする。
さらに本発明は、横編機を用いて編成され、編幅の途中で左右に分岐される分岐部を有する編地において、分岐部領域内の表側に交差しない編目を備え、分岐部領域内の裏側では増目を行い、該増目した編目と、該増目した編目に対峙する表側の編目が繋がり、該増目した編目には新たな編目が形成され、分岐部の境界を挟んで裏側に位置する左右の編目を交差させていることを特徴とする分岐部を有する編地である。
本発明では、分岐部領域内の裏側で増目を形成し、増目に繋がる新たな編目に対し、分岐部の境界を挟んで裏側でのみ交差させることで、分岐部領域内の表側の編目に交差が及ばず、表側の編成した編目が交差しない状態のままで見栄えが良い。また、表側の編目に隠れた状態で行う分岐部の境界を挟んだ裏側での交差により、用いる編糸の本数が増加して強度も上がる。
また、前記分岐部の領域内の裏側の空針での増目は、割増やした増目である。新たな編目を形成する行程で割増やし編成が可能であり、新たな編目の形成と増目が同時に出来るので効率の良い編成となる。さらに、表側に並ぶ編目を繋げて同条件で編成するため、同じ目面にすることができて見栄えも良い。
また、前記分岐部の領域内の裏側の空針での増目は、空針に捻れ目となる掛け目を設けて形成される増目であり、割増やし編成の機能を持ち合わせていない編機での編成を可能とする。
また、本発明による編地は、分岐部領域内を表側と裏側で構成し、表側は交差することなく、分岐部周辺の編地と同じ条件で編成されて外観が綺麗に仕上がり、裏側では分岐部の境界を挟んで左右の編目が交差し、分岐部が強化された編地となる。
本発明の実施例であるVネックベスト10の前身頃1を示す図である。 本発明の実施例1である前身頃1の分岐部2の編成図である。 本発明の実施例2である前身頃1の分岐部2の編成図である。 本発明の実施例2である前身頃1の分岐部2に続く部分の編成図である。 本発明の実施可能な他の適応箇所を示すスクエアネックベスト40の前身頃41を示す図である。
以下、本発明の実施例として、分岐部2の説明を行う。編成に使用する横編機は、前後一対の針床を備えた2枚ベッド横編機であり、後針床が前針床に対してラッキング可能で、針床の上方に複数の給糸口を有するものである。編成図は、説明の便宜上、針数を実際の編成よりも少なくしている。
図1は、Vネックベスト10の前身頃1を示す図である。本実施例で編成されるベストの前身頃1はすべて天竺で編成する。図で示すように矢印Wの方向に向かって分岐部2まで編成される全幅部4と、分岐部2から左右に分岐して編成される右肩部6と左肩部7とから成る。全幅部4および右肩部6は給糸口8を使用して編成し、左肩部7は給糸口9を使用して編成する。破線X−Xは分岐部2の境界を示す。
図2は、実施例1としての図1で示す分岐部2の編成図である。編成図では、図中左側の数字は編成ステップ(S)を示し、左右方向の矢印は編成方向を、上下方向の矢印は目移し方向を示し、FBは前針床を、BBは後針床を示す。大文字のA〜PはFBの編針を、小文字のa〜pはBBの編針を示す。また、丸印はその編成ステップで形成される新たな編目または目移しされる編目を、V印はタックまたは掛け目を、二重丸印は重ね目を示す。尚、その編成ステップでの編成に関係せず、編針に係止されたままの編目については図示を省略する。また、図1と同様にX−X線は分岐部2の境界を示す。また、FB側を表側、BB側を裏側と表現する場合もある。上記内容は、後述する実施例2としての図3、図4にも適用する。
図2で示す編成ステップS1〜S9について説明する。S1は、前身頃1の全幅部4の編成を示し、給糸口8はキャリッジ(不図示)により右方向に移動され、FBの編針A〜Pで編目を形成する。
S2では、左方向に編針P〜編針Fで編目を形成する。図1では、Vネックのスタート部を分岐部2と示しているが、具体的にその構成を成している編目を係止する編針P〜編針Fが分岐部領域25となる。この時、編針K〜編針Fで割増やし編成を行い、分岐部領域25の表側となるFBの編針K〜編針Fで新たな編目22を形成する。それと同時に、元々編針K〜編針Fで係止していた編目が目移しされて、分岐部領域25の裏側となるBBの編針k〜編針fで係止される。その結果、BBの編針k〜編針fに増目が形成される。当然ながら、分岐部領域25の表側となる各編目22は、対峙する裏側となる各増目21とは繋がっている。
S3では、右方向にFBの編針Eに係止する編目にタックを行い、続けてBBの編針f〜編針kで編目23を編成する。S4では、左方向に編針Lに係止する編目にタックを行い、続けてFBの編針K〜編針Fで編目24を形成する。S3とS4では、分岐部領域25に対して袋編成を行うことで編成を容易にする。BBの編目21は、割増やし編成によって一つの編目が割られて増目が形成され、その増目のループは小さいので、上記袋編成によりループを大きくでき、その後の編成を容易にする効果は大きい。他に、S4に替えてS3の逆方向であるBBの編針k〜編針fでの編成や、S3とS4の往路と復路で1コース全体の編目が形成されるように、一目置きに編成するスムース編みを行っても良い。また、タックは見栄えに関するものなので、省略してもよい。
S5では、右方向にBBの編針f〜編針hで編目を形成する。S6では、左方向にBBの編針h〜編針fとFBの編針E〜編針Aに編目を形成する。S5とS6では、公知の分離編みを行っている。3x3や4x4など交差を行う編目数が増える程、使用する効果が高く、編成が容易となる。なお、編糸や編目の条件により、分離編みが無くても編成できるのは勿論である。
S7とS8では、分岐部の境界を挟んで裏側に位置する左右の編目のみが、交差部として増目に繋がる編目の交差を行う。S7では、BBの編針i〜編針kに係止する編目をFBの編針F〜編針Hに目移しする。S8では、BBの編針f〜編針hに係止する編目をFBの編針I〜編針Kに目移しする。いずれの編目も編針が3本分の移動となっており、交差部では3X3の交差が行われる。S9では、分岐部の境界を挟んで裏側に位置する左右の編目が交差してFBの編針F〜編針Kに係止する表側の編目24と重なる。分岐部に左右方向に離れる力が加わった際には、裏側の3X3の交差部分で力が分散され、糸切れなどが起こり難い。本実施例では、裏側で交差した編目が表側の編目に重なる状態を示したが、必ずしも重なる必要はなく、4枚ベッドや目移し専用のジャックを備えている横編機などでは、交差を行って裏側の編針に係止し、前後の編針に対し筒状に編目を係止した状態のままで、続けて右肩部6と左肩部7のVネックに筒状の編成を行っても良い。
図3は、実施例2としての図1で示す分岐部2の編成図である。図4は、図3の分岐部2に続く部分の編成図である。以下、図3、図4で示す編成ステップS1〜S21について説明する。S1は、前身頃1の全幅部4の編成を示し、給糸口8はキャリッジ(不図示)により右方向に移動され、FBの編針A〜Pで編目を形成する。
S2では、左方向に編針P〜編針Lで編目を形成する。S3では、右方向にBBの編針kに掛け目の形成を行う。続いてS4では、左方向に編針Kで新たな編目を形成する。このS2〜S4の給糸口の動きにより、S3で形成した掛け目は捻れ目となり、分岐部領域35の表側の編目と対峙する後側の捻れ目が繋がっている。この後、S5〜S14に対し、S3とS4で行った編成と同様に、BBの編針に掛け目と対峙するFBの編針に係止する編目に新たな編目を形成することを1針ずつ編針F,fに向けて進めていく。このFBの編針K〜編針F間が分岐部領域35となる。
S15では、FBの編針Eに係止する編目にタックを行い、続けて分岐部領域35の裏側となるBBの編針f〜編針jで編目31を形成する。S16では、左方向にFBの編針Kに係止する編目にタックを行い、続けて分岐部領域35の表側となるFBの編針J〜編針Fで編目32を形成する。実施例1と同様にS15とS16では、前後編地に対して袋編成を行うことで、後述する交差部で交差を実施する際に、裏側の編目に引っ張られた時の伸び代を与える。また、タックで、捻れ目により増目された編目30が分岐部領域35外の編地と確実に繋がり、編目も安定する。
S17では、右方向にBBの編針i〜編針kで編目33を形成する。S18では、左方向にBBの編針h〜編針fで編目34を、FBの編針E〜編針Aに編目を形成する。S17とS18でも、分離編みを行っている。S19とS20では、分岐部の境界を挟んで位置する裏側の編目を交差させて交差部を形成する。S19では、BBの編針i〜編針kに係止する編目をFBの編針F〜編針Hに目移しする。S20では、BBの編針f〜編針hに係止する編目をFBの編針I〜編針Kに目移しする。つまり、交差部では3X3の交差が行われる。S21では、交差した編目が、FBの編針F〜編針Kに係止する各編目と重なっている。実施例1と同様に、分岐部2の形成はこの交差で終わるが、この重ね目の形成は行っても行わなくてもどちらでも良い。分岐部2の後のVネックの繋がりに合うようにすれば良い。
図5は、他に実施可能な適応箇所を示すスクエアネックベスト40の前身頃41を示す図である。分岐部42近傍までは、図1のVネックの分岐部2までと同じ編成であるが、このスクエアネックの場合は紙面右側の分岐部42で分岐したあと、伏目部43を紙面左に向けて伏目処理を行う。この分岐部42では伏目処理を行うため、横方向の張力が加わり、分岐部42が割れて広がってしまう虞があるが、本発明を適応すれば、分岐部42の編目の見栄えも綺麗で編目も割れてこない。更に、スクエアネックベスト40の下部にデザインの一部などでスリット44が必要な際にも、分岐部45に本発明を適応できる。広い開口部に繋がる分岐部42やスリット44に繋がる分岐部45のいずれの場合も、表側は周りの編目と同じ状態で綺麗に見え、裏側の編目交差で強度も確保することができる。本発明の主旨に逸脱しない範囲において、見栄えが良く適度な強度を有する分岐部として実施が可能である。
本実施例における分岐部領域内の裏側での増目の交差は、3X3の交差を示しているが、交差の方法はこれに限らない。さらに、交差をさせるための目移しの順番は、右側と左側でどちらを先行しても良い。表側の編目に隠れる為、見栄え上の問題が解消され、分離編みなどの関係で編み易い順番にすれば良い。
1,41 前身頃
2,42,45 分岐部
6 右肩部
7 左肩部
8,9 給糸口
10 Vネックベスト
22,23,31,32,33 編目

Claims (4)

  1. 少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、編地を分岐部で左右に分岐して編成する際に、分岐部の境界を挟んで位置する少なくとも左右一対の編目を交差させて交差部を形成した分岐部を有する編地の編成方法において、
    分岐部領域内の表側に編目を編成し、分岐部領域内の裏側の空針で増目を行う際に、該増目した編目と、該増目した編目に対峙する表側の編目が繋がり、該増目した編目には新たな編目を編成し、分岐部の境界を挟んで表側に位置する左右の編目は交差せず、裏側に位置する左右の編目は交差による交差部を形成することを特徴とする分岐部を有する編地の編成方法。
  2. 前記分岐部領域内の裏側の空針での増目は、割増やし編成で形成した増目であることを特徴とする請求項1記載の分岐部を有する編地の編成方法。
  3. 前記分岐部の領域内の裏側の空針での増目は、空針に捻れ目となる掛け目を設けて形成される増目であることを特徴とする請求項1記載の分岐部を有する編地の編成方法。
  4. 横編機を用いて編成され、編幅の途中で左右に分岐される分岐部を有する編地において、
    分岐部領域内の表側に交差しない編目を備え、分岐部領域内の裏側では増目を行い、該増目した編目と、該増目した編目に対峙する表側の編目が繋がり、該増目した編目には新たな編目が形成され、分岐部の境界を挟んで裏側に位置する左右の編目を交差させていることを特徴とする分岐部を有する編地。




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