JP5532532B2 - 低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液及びその製造方法 - Google Patents
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工業的な重合方法としては、特許文献4の方法のように何れの方法で行うか不明確なものもあるが、懸濁重合と乳化重合に大別される。重合から直接得られる低分子量PTFEは、工程の簡便化、分子量分布の狭小化、低遊離フッ素イオン濃度の点で好ましい。
乳化重合により得られる低分子量PTFE粉末粒子の特徴としては、懸濁重合により得られるものより、比表面積が5〜15m2/gと大きく、粒子が柔らかいため、例えば、塗膜表面の質感を向上させる等、表面を改質する効果が高い。また、吸油量も多くなり、マトリックス材料に安定した分散体が得られる。さらに、乳化重合により得られる低分子量PTFE粉末粒子は、上述した凝析工程の条件により、見掛密度及び粒子径の調整が可能であるという点で好ましい。
このことより、これらの含フッ素界面活性剤を添加せずに重合を行うPTFEの製造方法が求められていた。
以下に本発明を詳細に説明する。
このように含フッ素界面活性剤を系中に添加しないTFEの重合では、水溶性過酸化物に由来の親水性末端基を有するポリマー鎖が重合初期に生成し、これが乳化作用を持つため、水性媒体中で乳化粒子が形成されると考えられる。しかしながら、重合度の増加、ならびに水性媒体中のポリマー固形分濃度の増加にしたがい、親水性末端基を有するポリマー鎖の乳化作用が著しく低下するため、不安定化した乳化粒子が凝集すると考えられる。
さらに、含フッ素界面活性剤を用いた一般的な乳化重合法によって得られる水性分散液と同様の後処理工程を経て、低分子量PTFE粉末を得ることができ、これを各種添加剤として多岐に用いることができる。
(1)連鎖移動剤と水溶性過酸化物とTFEとが反応することにより、水溶性過酸化物由来の親水性末端基を有し乳化作用を持つポリマー鎖が生長するが、該ポリマー鎖の生長過程において、連鎖移動剤とポリマー鎖間の連鎖移動により該ポリマー鎖の生長末端が失活するので短鎖のTFE重合体が生成し、重合度の増加に伴う乳化作用の低下が起こらないこと、
(2)上記連鎖移動剤として使用する上述の化合物は連鎖移動能が高いため、上述の短鎖TFE重合体の重合度は低く、より高い乳化効果を示すこと、
(3)重合初期以降も水溶性過酸化物の分解が続くため、上述の親水性末端基を有する短鎖TFE重合体の生成は持続されること、
によりTFE重合体が乳化粒子として安定的に分散している水性分散液として得られることが推測される。
本明細書において、低分子量PTFEとは、380℃における溶融粘度が上記範囲内にあるTFE重合体を意味する。
すなわち、本発明は、このような低分子量PTFEを乳化重合によって得ることができる重合方法である。
上記変性PTFEは、TFEと共重合し得る変性モノマーとTFEの共重合から得られる重合体を意味する。
CF2=CF−ORf (I)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
本発明の製造方法は、上述のように、従来のTFEの乳化重合に比べ、含フッ素界面活性剤を重合開始時や重合中に配合しない点で、コストが低いことに加え、得られる低分子量PTFEについて含フッ素界面活性剤に起因する問題点がない。
上記含フッ素界面活性剤としては、実用的には、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数7〜12の炭化水素と、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸、スルホン酸基等の親水基とからなるものが挙げられ、工業的には、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロオクタン酸スルホニウム塩等が挙げられる。
上記炭素数1〜3の炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、上記炭素数1〜3のハロゲン化炭化水素としては、例えば、クロロメタン、クロロエタン等が挙げられる。上記連鎖移動剤は、エタン又はプロパンであることが好ましい。
上記添加量が20モル%を超えると、380℃における溶融粘度が100Pa・s以下となり、高温揮発分が多く、例えば、マトリックスへの分散工程における温度が300℃を超えるような用途には不向きとなり、用途が限定されることもある。
本発明では、上述したように、過硫酸塩、水溶性有機化酸化物のいずれの系を重合開始剤に用いても開始剤に由来する末端は親水性基となるため、含フッ素界面活性剤の不存在下であってもエマルションの安定性が良好なものとなる。
上記重合温度は、5〜100℃であることが好ましく、50〜90℃であることがさらに好ましい。
上記重合圧力は、0.1〜3.0MPaであることが好ましい。
上記重合は、上記モノマーとして、TFEに加え、上述のように変性モノマーを添加するものであってもよい。
上記乳化重合における攪拌速度は、気−液界面に凝集粒子が生成しないことを観察することにより重合スケールやその他の重合条件に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。
上記平均一次粒子径は、低分子量PTFE濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成し、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線をもとに決定したものである。
上記含有量は、生産性を鑑みると好ましい下限が8質量%、より好ましい下限が10質量%である。
本明細書において、低分子量PTFEの固形分濃度は、測定対象を150℃で3時間乾燥した時の加熱残分の質量(Zg)の該測定対象の質量(Xg)に対する割合として求めたものである。
本発明の低分子量PTFEは、水性分散液、粉末(マイクロパウダー)、何れの形状であってもよい。
上記溶融粘度は、好ましくは5×104Pa・s以下である。
本明細書において、「実質的に含まない」とは、それらを原料として用いておらず、ポリマー固形分量の1ppmに相当する量以下であることを意味する。
上記範囲内の固形分濃度を有する水性分散液は、上述の乳化重合を行った後に濃縮を行うことにより得ることができる。
比表面積が大きいと、粒子がやわらかく、例えば、塗膜表面の質感を向上させる等、表面を改質する効果が高い。また、吸油量も多くなり、マトリックス材料に安定した分散体が得られる。従って、上記低分子量PTFEの比表面積は、好ましくは9〜15m2/gである。7m2/g未満であれば、マトリックス材料への微分散に劣る。
・比表面積が7〜15m2/gであって、PFOA、PFOS及びそれらの塩を実質的に含まない低分子量PTFE粉末
もまた、本発明の範疇に属するものである。
このような低分子量PTFE水性分散液や低分子量PTFE粉末は、本発明の低分子量PTFE水性分散液の製造方法を実施することにより容易に得ることができる。
なお、本発明の低分子量PTFE水性分散液は、非イオン界面活性剤を実質的に含まない点で、従来のPFOAやPFOSを含有する水性分散液を非イオン界面活性剤で安定化した後に、陰イオン交換体と接触させてPFOAやPFOSを除去することによって得られる水性分散液とは区分けされるものである。
上記添加剤の用途としては特に限定されず、成形材料、インク、化粧料、塗料、グリース、トナーを改質する添加剤として好適に使用することができる。
上記成形材料としては、例えば、ポリオキシベンゾイルポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
本発明の低分子量PTFEは、化粧料の添加剤として、ファンデーション等の化粧品の滑り性向上等の目的に用いることができる。
このような低分子量PTFEを含有するエンジニアプラスチック等の成形材料、塗料、化粧料、グリース又はトナーもまた、本発明の一つである。更に、上記低分子量PTFE粉末を含有するエンジニアプラスチック等の成形材料、塗料、化粧料、グリース又はトナーもまた、本発明の一つである。
ステンレス製アンカー型撹拌翼と温度調節用ジャケットとを備えた内容積6Lのステンレス製オートクレーブに、脱イオン水3.2L及びフッ素系乳化剤としてパーフルオロオクタン酸アンモニウム〔APFO〕3.2gを仕込み、密閉した。窒素ガスの圧入、脱気を複数回繰り返すことにより、系内の酸素を除去した後、連鎖移動剤として0.8gのエタンをテトラフルオロエチレン〔TFE〕で圧入し、槽内圧力を0.10MPaとした。500rpmでの撹拌下において槽内を昇温し、槽内温度が85℃に達したら、再度TFEを圧入し、槽内圧力を0.80MPaに調整した。
APFO及びエタンを系中に添加せず、脱イオン水20mlに過硫酸アンモニウム〔APS〕850mgを溶解させた水溶液を重合開始剤として添加し、反応中の撹拌数を700rpmに制御する以外は、比較例1と同様にして重合反応を行った。TFEの消費量が355gの時点で撹拌を停止した。重合後の反応容器内の気−液界面には粒子径が1000μm以上のポリマー粒子が浮遊していたので、これを回収した。
得られた湿潤状態の粉末を水洗した上で濾別し、160℃の熱風循環式乾燥機にて18時間乾燥させることにより、TFE重合体の粉末を得た。乾燥後の得られた粉末得量は349gであった。
APFOを系中に添加せず、重合開始剤及び連鎖移動剤を表1に示した量とし、反応中の撹拌数を700rpmに制御する以外は、比較例1と同様にして低分子量PTFEの水性分散液を得た。得られた水性分散液において、気−液界面上に重合体粒子は殆ど発生していなかった。
上記水性分散液に比較例1と同様の凝析、洗浄、乾燥工程を行い、目的とする低分子量PTFEの粉末を得た。
反応中の撹拌数を600rpmに制御する以外は、実施例1と同様にして低分子量PTFEの水性分散液を得た。得られた水性分散液において、気−液界面上に重合体粒子は殆ど発生していなかった。
上記水性分散液に実施例1と同様の凝析、洗浄、乾燥工程を行い、目的とする低分子量PTFEの粉末を得た。
反応中の撹拌数を500rpmに制御する以外は、実施例1と同様にして低分子量PTFEの水性分散液を得た。得られた水性分散液において、気−液界面上に重合体粒子は殆ど発生していなかった。上記水性分散液に実施例1と同様の凝析、洗浄、乾燥工程を行い、目的とする低分子量PTFEの粉末を得た。
水性分散液(Xg)を150℃にて3時間加熱した加熱残分(Zg)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定した。
ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成し、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線をもとに決定した。
JIS K 6891に準拠して測定した。
レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子社製)を用い、カスケードは使用せず、圧力0.1MPa、測定時間3秒で粒度分布を測定し、得られた粒度分布積算の50%に対応する値に等しいとした。
ASTM D 1238に準拠し、フローテスター(島津製作所製)及び2φ−8Lのダイを用い、予め測定温度(340℃又は380℃)で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定を行った。
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の示差走査熱量測定機RDC220(DSC)を用い、事前に標準サンプルとして、インジウム、鉛を用いて温度校正した上で、低分子量PTFE粉末約3mgをアルミ製パン(クリンプ容器)に入れ、200ml/分のエアー気流下で、250〜380℃の温度領域を10℃/分で昇温させて行い、上記領域における融解熱量の極小点を融点とした。
BET法により、表面分析計(商品名:MONOSORB、QUANTA CHLROME社製)を用いて測定した。尚、キャリアガスとして、窒素30%、ヘリウム70%の混合ガスを用い、冷却は液体窒素を用いて行った。
Claims (19)
- 含フッ素界面活性剤を添加することなく、連鎖移動剤存在下において、重合開始剤を含有する水性媒体中でテトラフルオロエチレン〔TFE〕又はTFEと共重合可能なモノマーとTFEの乳化重合を行う低分子量ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕の水性分散液を製造する方法であって、
前記連鎖移動剤は、メタン、エタン及びプロパンよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、
前記重合開始剤は水溶性過酸化物であり、
前記低分子量PTFEは、前記TFEと共重合可能なモノマーに由来する単量体単位が、全単量体単位の1質量%以下である
ことを特徴とする低分子量PTFE水性分散液の製造方法。 - 連鎖移動剤は、エタン又はプロパンである請求項1に記載の低分子量PTFE水性分散液の製造方法。
- 重合開始剤は、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム及びジコハク酸パーオキサイドより選択される少なくとも1種の化合物である請求項1又は2に記載の低分子量PTFE水性分散液の製造方法。
- 重合上がりの固形分濃度が10%以上である低分子量PTFE水性分散液を得る請求項1、2又は3に記載の低分子量PTFE水性分散液の製造方法。
- 低分子量PTFEは、融点が324〜333℃である請求項1、2、3又は4に記載の低分子量PTFE水性分散液の製造方法。
- 請求項1、2、3、4又は5に記載の低分子量PTFE水性分散液の製造方法から得られる
ことを特徴とする低分子量PTFE水性分散液。 - 平均一次粒子径50〜300nmの低分子量PTFE粒子を含む請求項6に記載の低分子量PTFE水性分散液。
- 請求項6又は7記載の低分子量PTFE水性分散液を濃縮することにより得られ、固形分濃度が20〜80質量%であること
を特徴とする低分子量PTFE水性分散液。 - 低分子量ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕の水性分散液であって、
パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕及びその塩並びにパーフルオロスルホン酸〔PFOS〕及びその塩がポリマー固形分量の1ppmに相当する量以下であり、
前記低分子量PTFEは、テトラフルオロエチレンと共重合可能なモノマーに由来する単量体単位が、全単量体単位の1質量%以下である
ことを特徴とする低分子量PTFE水性分散液。 - 低分子量PTFEは、融点が324〜333℃である請求項9に記載の低分子量PTFE水性分散液。
- 請求項6に記載の低分子量PTFE水性分散液を凝析することによって得られる
ことを特徴とする低分子量PTFE粉末。 - 比表面積が7〜15m2/gである請求項11に記載の低分子量PTFE粉末。
- 低分子量ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕の粉末であって、
比表面積が7〜15m2/gであって、パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕及びその塩並びにパーフルオロスルホン酸〔PFOS〕及びその塩がポリマー固形分量の1ppmに相当する量以下であり、
前記低分子量PTFEは、テトラフルオロエチレンと共重合可能なモノマーに由来する単量体単位が、全単量体単位の1質量%以下である
ことを特徴とする低分子量PTFE粉末。 - 低分子量PTFEは、融点が324〜333℃である請求項13に記載の低分子量PTFE粉末。
- 請求項11、12、13又は14に記載の低分子量PTFE粉末を含有することを特徴とする塗料。
- 請求項11、12、13又は14に記載の低分子量PTFE粉末を含有することを特徴とするエンジニアリングプラスチック。
- 請求項11、12、13又は14に記載の低分子量PTFE粉末を含有することを特徴とする化粧料。
- 請求項11、12、13又は14に記載の低分子量PTFE粉末を含有することを特徴とするグリース。
- 請求項11、12、13又は14に記載の低分子量PTFE粉末から得られることを特徴とするトナー。
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