JP5531532B2 - リチウムイオン電池正極活物質の製造方法 - Google Patents
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ところで、今後期待されるハイブリット自動車、電気自動車、無停電装置に搭載される大型電池等の分野では、LiCoO2をそのまま非水系リチウムイオン電池の正極材料に適用する場合、次のような様々な問題点があった。
このような問題点の1つは、LiCoO2はレアメタルであるコバルト(Co)を用いているので、コバルト(Co)を大量かつ安定的に入手するには、資源的及びコスト的に難しいという点である。
また、LiCoO2は高温で酸素を放出するので、異常発熱時や電池が短絡した場合には爆発の危険性があり、したがって、LiCoO2を大型電池に適用するにはリスクが大きいという点もある。
このLiFePO4で代表されるオリビン系正極材料は、鉄(Fe)を利用するものであるから、資源的にはコバルト、マンガンと比較しても豊富に自然界に存在し安価である。そして、オリビン構造は、リンと酸素の共有結合性から、LiCoO2等のコバルト系のように高温時に酸素を放出することもなく、安全性にも優れた材料である。
1つの問題点は、導電性が低い点であるが、この点については、近年における改良、特にLiFePO4とカーボンとの複合化、もしくはLiFePO4の表面のカーボン被覆等により、導電性を改良する試みが数々なされている。
他の一つの問題点は、充放電時におけるリチウムイオンの拡散性が低い点である。例えば、LiCoO2のような層状構造、あるいはLiMnO2のようなスピネル構造の化合物では、充放電時のリチウムの拡散方向が2方向または3方向であるのに対し、LiFePO4のようなオリビン構造の化合物では、リチウムの拡散方向が1方向に限られてしまう。加えて、充放電時の電極反応は、LiFePO4とFePO4との間で変換を繰り返す2相反応であることから、LiFePO4は高速の充放電には不利だとされている。
従来、LiFePO4の合成法としては固相法が用いられてきたが、この固相法では、LiFePO4の原料を化学量論比で混合し、不活性雰囲気中にて焼成することから、焼成条件を上手く選ばないと目的通りの組成のLiFePO4が得られず、また、粒子径の制御が難しく、小粒径化することが難しいという問題点がある。そこで、このLiFePO4粒子を小粒径化する方法として、水熱反応を利用した液相合成法が研究されている。
そこで、水熱反応によりLiFePO4微粒子を生成する方法として、CH3COO−、SO4 2−、Cl−等の有機酸やイオンを、溶媒に同時に含有させて合成する方法や、この水熱反応の際に過剰のLiを添加することにより、単相のLiFePO4微粒子を得る方法が提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献2等参照)。また、反応中間体を機械的に粉砕することにより、小粒径のLiFePO4微粒子を得る方法も提案されている(特許文献3)。
一つはハイブリッド自動車に代表される高速充放電が要求される用途であり、用いられるLiFePO4としては小粒径化が要求されている。
もう一つは無停電装置、太陽電池用蓄電池、家庭用蓄電池等の蓄電用途であり、高速充放電の場合よりも大きな容量が求められ、LiFePO4としては負荷特性を大きく損なわない程度の大きな粒子径を有し、かつ結晶性が高いことが必要となる。
このように、この2つの要求特性を1種類のLiFePO4で満足させることは難しく、そこで、2つの要求特性それぞれに容易に対応することができるLiFePO4正極材料の製造方法、すなわち粒子径を制御することにより、2つの要求特性それぞれに適合するLiFePO4正極材料を製造する方法が望まれている。
この現象は、生成したLiFePO4微粒子が広い粒度分布を有することに起因していると考えられる。すなわち、LiFePO4微粒子が広い粒度分布を有することにより、充放電に寄与しない非晶質の極微小粒子の割合が上昇し、その結果、初期の放電容量が低下し、さらには高速充放電特性も低下することとなる。
本発明の請求項2記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、Li3PO4、またはLi源及びリン酸源と、Fe源とを、水を主成分とする溶媒に溶解し、得られた混合物を、還元性雰囲気下にて、加圧・加熱し、LiFePO4微粒子を生成する方法であって、還元性ガス(GR)と不活性ガス(GI)との体積比(GR:GI)を5:95〜100:0の範囲内で制御することにより、生成する前記LiFePO 4 微粒子の1次粒子径を制御することを特徴とする。
前記還元性ガスは、二酸化硫黄、一酸化炭素、水素の群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記不活性ガスは、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、アルゴンの群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
さらに、酸化性ガス(GR)と不活性ガス(GI)との体積比(GR:GI)を25:75〜100:0の範囲内で制御する酸化性雰囲気下、または、還元性ガス(GR)と不活性ガス(GI)との体積比(GR:GI)を5:95〜100:0の範囲内で制御する還元性雰囲気下にて、加圧・加熱することにより、生成するLiFePO4微粒子の1次粒子径を自在に制御することができる。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、Li3PO4、またはLi源及びリン酸源と、Fe源とを、水を主成分とする溶媒に溶解し、得られた混合物を、酸化性ガスまたは還元性ガスと、不活性ガスとの混合ガスからなる雰囲気下にて、加圧・加熱し、LiFePO4微粒子を生成する方法である。
ただし、Fe3(PO4)2は酸化され易く、取り扱いが難しいので、Li3PO4とFe(II)等のFe源を原料とすることが好ましい。
LiFePO4の他の合成法として、原料とカーボン源を混合して不活性雰囲気下または還元性雰囲気下にて焼成を行う固相法がある。
この方法での粒子径制御は、主に焼成温度と焼成時間を制御することであるから、低温焼成では、小粒径化が可能であるが結晶性が悪くなり、一方、高温焼成では、結晶性が向上するものの、大粒径化し易くなり、小粒径化が困難となるので、小粒径化と結晶性の向上を両立させることが難しい。
一方、水熱反応は、LiFePO4微粒子の生成過程と焼成過程が分離しているので、生成過程での雰囲気を制御することにより、容易に1次粒子径を制御することが可能である。
そこで、LiFePO4微粒子の生成過程での雰囲気を、酸化性ガスまたは還元性ガスと、不活性ガスとの混合ガスにより制御すれば、LiFePO4微粒子の生成過程で1次粒子径を任意の粒子径に制御することが可能になる。
1.リン酸リチウム(Li3PO4)スラリーの作製
まず、水に、Li源及びリン酸源を投入し、これらLi源及びリン酸源を反応させてリン酸リチウム(Li3PO4)を生成させ、リン酸リチウム(Li3PO4)スラリーとする。
上記のリン酸リチウム(Li3PO4)スラリーに、Fe源及び還元剤を添加し、混合物とする。
Fe源としては、Fe塩が好ましく、例えば、塩化鉄(II)(FeCl2)、硫酸鉄(II)(FeSO4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH3COO)2)及びこれらの水和物の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
その理由は、反応濃度が0.5mol/L未満では、大粒径のLiFePO4が生成し易く、既に述べた理由により負荷特性を悪化させるからであり、一方、反応濃度が1.5mol/Lを超えると、撹拌を十分に行うことができず、したがって、反応が十分に進行せず、未反応物が残ってしまい、その結果、単相のLiFePO4が得られ難くなり、電池材料として使用できないからである。
上記の混合物を、酸化性ガスまたは還元性ガスと、不活性ガスとの混合ガスからなる雰囲気下にて、高温高圧の条件下にて反応(水熱合成)させ、LiFePO4微粒子を含む反応物を得る。
この反応(水熱合成)時の雰囲気は、酸化性ガスまたは還元性ガス(GR)と、不活性ガス(GI)との体積比(GR:GI)を5:95〜100:0の範囲内で制御することが好ましい。
この体積比(GR:GI)を上記の範囲内で制御することで、生成するLiFePO4微粒子の1次粒子径を50nm以上かつ800nm以下の範囲内の任意の大きさに制御可能となる。
また、この酸化性ガスの替わりに、高温時に酸素を放出する過酸化水素水、有機過酸水溶液等を用いることも可能である。
また、この還元性ガスの替わりに、亜硫酸水等を用いることも可能である。
なお、混合物をオートクレーブ内に収容した後に、このオートクレーブ内を真空置換せず、このオートクレーブ内が大気下の状態で還元性ガスを導入した場合には、大気中の酸素が多少残る可能性がある。この場合、還元性ガスの導入量を調整することで、オートクレーブ内の雰囲気を調整する必要がある。
上記のLiFePO4微粒子を含む反応物を、デカンテーション、遠心分離、フィルター濾過等により、LiFePO4微粒子とLi含有廃液(未反応のLiを含む溶液)とに分離する。
分離されたLiFePO4微粒子は、乾燥器等を用いて40℃以上にて3時間以上乾燥する。
以上により、1次粒子径を任意に制御した粒度分布の狭いLiFePO4微粒子を効率良く得ることができる。
上記の製造方法により作製されたリチウムイオン電池用正極活物質であり、反応(水熱合成)時の雰囲気の酸化性ガスまたは還元性ガス(GR)と、不活性ガス(GI)との体積比(GR:GI)を、5:95〜100:0の範囲内で制御することにより、1次粒子径が任意に制御されたLiFePO4微粒子が得られる。
ただし、1次粒子径が50nm未満では、充放電に寄与しない結晶性の低い粒子の存在割合が増加するために、全体の容量低下を招き、結果として負荷特性が悪化し、一方、800nmを超えると、微粒子内における電子及びリチウムイオンの移動距離が長くなり過ぎてしまい、負荷特性の大幅な低下を招き、蓄電用途にも耐え得なくなってしまうので、好ましくない。
上記のリチウムイオン電池用正極活物質を、リチウムイオン電池、特にリチウムイオン2次電池の正電極の正極活物質として用いるためには、LiFePO4微粒子の表面を炭素により被覆する必要がある。
表面に炭素被覆を施さないと、既に述べたLiFePO4の問題点である導電性が改善されず、電池特性として良好な結果が得られないからである。
500℃未満の低い温度では、カーボン源の分解が不十分かつ導電性のカーボン膜の生成が不十分となり、電池内での抵抗要因となり、電池特性に悪影響を及ぼす。一方、1000℃を超える高い温度では、LiFePO4微粒子の粒成長が進行して粗大化してしまい、LiFePO4粒子の問題点であるLi拡散速度に起因する高速充放電特性が著しく悪化する。
このように、上記のリチウムイオン電池用正極活物質であるLiFePO4微粒子を炭素により被覆することで、リチウムイオン電池、特にリチウムイオン2次電池の正電極の正極活物質として好適となる。
このリチウムイオン電池は、その正電極が、1次粒子径が任意に制御されたLiFePO4微粒子の表面を導電性のカーボン膜で被覆した炭素被覆LiFePO4微粒子を用いて形成されたものであるから、初期の放電容量が向上しており、高速充放電特性も優れている。
純水1Lに3molの塩化リチウム(LiCl)と、1molのリン酸(H3PO4)を加えて攪拌し、リン酸リチウム(Li3PO4)スラリーを得た。
次いで、このスラリーに1molの塩化鉄(II)(FeCl2)を添加し、さらに水を加えて総量2Lの原料液とした。なお、この原料液の反応濃度をLiFePO4に換算すると0.5mol/Lとなった。
得られたケーキ状のLiFePO4を固形分換算で150gに対し、ポリエチレングリコール5g、純水150gを加えて5mm径のジルコニアビーズをメディアとしたボールミルにて12時間粉砕・分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
参考例1に準じて作製した計14点の原料液それぞれをオートクレーブ各々に投入し、これらをダイヤフラムポンプを用いて真空引きした後、各オートクレーブ内に、酸化性ガスまたは還元性ガス(GR)と不活性ガス(GI)とを、表1の組成及び混合比(体積比GR:GI)で導入し、180℃にて6時間加熱反応させ、その後、濾過し、固液分離して、実施例1〜11及び参考例2〜4それぞれの固形物を作製した。
なお、混合比(体積比)は、真空引き時の圧力から導入ガスの分圧比とした。
次いで、これらの固形物を用いて、参考例1に準じて実施例1〜11及び参考例2〜4それぞれのリチウムイオン電池用正極活物質を作製した。
参考例1に準じて作製した原料液をオートクレーブに投入し、ダイヤフラムポンプを用いて真空引きした後、オートクレーブ内にN2ガスを導入し、180℃にて6時間加熱反応させ、その後、濾過し、固液分離して、比較例1の固形物を作製した。
次いで、この固形物を用いて、参考例1に準じて比較例1のリチウムイオン電池用正極活物質を作製した。
実施例1〜11、参考例1〜4及び比較例1各々の正極活物質について、平均1次粒子径及び比表面積を下記の方法にて測定した。
(1)平均1次粒子径
電界効果型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により5万倍の電界効果型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)像を撮影し、このFE−SEM像の数視野から無作為に微粒子を100点選び、画像解析式粒度分布測定ソフト MacVIEW(マウンテック社製)で解析し、粒子径の平均値を平均1次粒子径とした。
比表面積計 BelsorpII(日本ベル社製)を用いて正極活物質の比表面積(m2/g)を測定した。
実施例1〜11、参考例1〜4及び比較例1各々の正極活物質の特性を表1に示す。
実施例1〜11、参考例1〜4及び比較例1各々の正極活物質について、以下の処理を行い、実施例1〜11、参考例1〜4及び比較例1各々のリチウムイオン2次電池を作製した。
まず、正極活物質を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を5質量部、及び溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を混合した。
次いで、3本ロールミルを用いてこれらを混練し、正極活物質ペーストを作製した。
次いで、この正極を2cm2の円板状に打ち抜き、減圧乾燥後、乾燥アルゴン雰囲気下にてステンレススチール製の2016型コイン型セルを用いてリチウムイオン2次電池を作製した。
ここでは、負極に金属リチウムを、セパレーターに多孔質ポリプロピレン膜を、電解液に1モルのLiPF6を炭酸エチレン(EC)と炭酸エチルメチル(EMC)とを1:1にて混合した溶液に混合した混合物を、用いた。
実施例1〜11、参考例1〜4及び比較例1各々のリチウムイオン2次電池を用いて、電池充放電試験を行った。
ここでは、カットオフ電圧を2.0V〜4.0Vとし、初期放電容量の測定は、0.1Cで充電を行い、0.1Cで放電した。その他の放電容量の測定は、0.2Cで充電し、1C、2C、3C、5Cの各々における放電容量を測定した。
また、3Cにおける放電容量と0.1Cにおける放電容量との比(%)を放電維持率(3C/0.1C維持率)とした。
実施例1〜11、参考例1〜4及び比較例1各々の放電容量及び放電維持率(3C/0.1C維持率)を表1に示す。
Claims (5)
- Li3PO4、またはLi源及びリン酸源と、Fe源とを、水を主成分とする溶媒に溶解し、得られた混合物を、酸化性雰囲気下にて、加圧・加熱し、LiFePO4微粒子を生成する方法であって、
酸化性ガス(GR)と不活性ガス(GI)との体積比(GR:GI)を25:75〜100:0の範囲内で制御することにより、生成する前記LiFePO4微粒子の1次粒子径を制御することを特徴とするリチウムイオン電池正極活物質の製造方法。 - Li3PO4、またはLi源及びリン酸源と、Fe源とを、水を主成分とする溶媒に溶解し、得られた混合物を、還元性雰囲気下にて、加圧・加熱し、LiFePO4微粒子を生成する方法であって、
還元性ガス(GR)と不活性ガス(GI)との体積比(GR:GI)を5:95〜100:0の範囲内で制御することにより、生成する前記LiFePO4微粒子の1次粒子径を制御することを特徴とするリチウムイオン電池正極活物質の製造方法。 - 前記酸化性ガスは、酸素、オゾン、二酸化塩素の群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池正極活物質の製造方法。
- 前記還元性ガスは、二酸化硫黄、一酸化炭素、水素の群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項2記載のリチウムイオン電池正極活物質の製造方法。
- 前記不活性ガスは、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、アルゴンの群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載のリチウムイオン電池正極活物質の製造方法。
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